ロッキン神経痛 Presents 第七回 本物川小説大賞 大賞は不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」に決定!

 

 

 平成29年11月中旬からクリスマスイブにかけて開催されました第七回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本、特別賞として有智子賞一本、あいこ賞一本、ゴム子賞一本が以下のように決定しましたので報告いたします。

 

大賞 不死身バンシィ 「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」

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受賞者のコメント

 
えー、現在の心境を包み隠さず申し上げますと、「ついにやったぜ」という達成感と「本当に僕でいいのか」という困惑がごちゃ混ぜになっていて、一言にまとめると「マジで?」って感じです。本物川大賞もこれで七度目で、第一回から参加している身としては感無量です。思い返せばあの第一回本物川大賞は良くも悪くも本当にハチャメチャで「ゴリラ放し飼い動物園」みたいな様相を呈していました。しかしそこから回を重ねる毎に平均レベルが上っていき、常連参加者から商業デビュー者まで出て、その結果プロの方がプロを投げ込んでくるほどのイベントに成長しました。ゴリラは未だに放し飼いのままですが。そういうプロとベテランゴリラがハイクオリティ作品をどんどこぶん投げてくる場所で大賞を取れたのは本当に嬉しいし、ここまで続けていて良かったと心の底から思います。ありがとうございました!

 

 大賞を受賞した不死身バンシィさんには、副賞としてeryuさん画の表紙イラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。(検閲済) こちらは本大賞とはなんら関係のないなんらかのイラストです。かっこいいですね。

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金賞 偽教授 「針一筋」

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 金賞を受賞した偽教授さんには、副賞としてソーヤさんのイラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。(検閲済) ↓ こちらは本賞とは特に関係ありませんがなんらかのイラストです。かっこいいですね!

 

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銀賞 左安倍虎 「井陘落日賦」

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銀賞 ロッキン神経痛 「このイカれた世界の片隅に」

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有智子賞 こむらさき 「日呂朱音と怪奇な日常」

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あいこ賞 秋永真琴 「森島章子は人を撮らない」

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ゴム子賞 田中非凡 「君は太陽

 

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 というわけで、2017年を締めくくる伝統と格式の素人KUSO創作甲子園、第七回本物川小説大賞、モノホン大賞史上最高レベルの大激戦を制したのは、不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログとなります。

 

 

全作品講評

 

 みなさん、あけましておめでとうございます。素人黒歴史KUSO創作甲子園の看板をかかげて始めた本物川小説大賞も七回目を数えまして、本物川小説大賞からプロ作家が排出されたりプロ作家が平然と参加してきたりと、ここにきて様相が変わってまいりました。まあ素人の看板は下げることになりそうですが、KUSO創作甲子園という本来のコンセプトは見失わないように、今後も矜持を持ってやってまいりたい所存でございます。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回はまたメンバーを入れ替えまして、謎のしいたけさんと、謎のバリ4さんにご協力いただいております。謎のしいたけさん、謎のバリ4さん、よろしくお願いします。

 謎のしいたけです。よろしくお願いします。

 謎のバリ4です。よろしくお願いします。

 謎のしいたけさんはnn文庫新人賞てきななにかを受賞したプロのラノベ作家てきななにか、謎のバリ4さんもnnインディーズコンテストで受賞して電書デビューを果たした作家さん、議長を務めますわたくし、謎の概念もn番線にアレが来るてきな本などを出している商業作家の端くれということで、肩書きだけ見るとかつてない豪華メンバーになってますね。

 ラノベ、ミステリー、文芸系と、それぞれの作風や趣味も大きく異なる三人による合議で進めてまいりますので、選考においてもある程度の公平性は担保できるものと思います。

 それでは、ひとまずエントリー作品を順番にご紹介していきましょう。

 

@otaku 「烙印」

 一番槍はご新規さんですね。「人工的な天才」というちょっとSFてきな設定の話です。設定に面白味はあるのですが、特に人工的な天才という設定が必要となるような物語上の要請はないように思いました。オチになる事件も「人工的な天才」が存在するゆえのものではなく、普遍的にいつの時代でもありそうな人間の感情なので、現代の大学組織を舞台にしても同じテーマ性の物語は書けそうです。せっかくの設定なので、その設定に固有の物語を取り回すことを意識してほしい。

 約五千字の短編。近未来の短寿命な半人工天才の日常を切り取ったお話。物語は会話主体に比較的淡々と進んである事件が起きた所で終わっています。余韻を残すラストは意図した演出だとは思いますが字数にまだゆとりもありますしそこからもう一転がし欲しかったです。物語の導入としては好きな雰囲気です。

 知能指数を向上させる手術に適正があるか否かで天才と凡人にわけられ、生後三日にして将来的な地位が明確にわけられてしまうという設定のディストピア系SF。内容としてはよくまとまっているものの、あらすじから想定される範囲であるため驚きは少なく、正直なところあまり印象に残らなかったです。イメージしたものをしっかりと書ける技量はお持ちのようですから、既存作品から着想を得て書くのならそこに新たな切り口を加えて、自分ならではの物語を作りあげてください。

 

うさぎやすぽん 「クリームソーダ理論と革命」

 二番手はなんと!(なななんと!!) スニーカー大賞特別賞受賞のうさぎやすぽん先生! ということで、いきなりプロ作家の登場です。死にたがりビバップ好評発売中! みんな買おうね。こんなところでKUSOの投げ合いに参加している場合なんでしょうか? 文字数に対する物語の収まり具合がとても良く、書き慣れているなという感じで、そのへんのバランス感覚はさすがプロ。ある種の成長譚なので、物語の要請として語り部 / 主人公の男の子が終盤まで独りよがりなタイプであるのは必然なんですけれども、ちょっと鼻につきすぎるところがあって、もうちょっと「鼻にはつくんだけれど共感してしまう。応援したくなる」くらいの調整ができると、もっと気持ちよく読めるのかなぁとかは思いました。

  文字通り物理学の天才少年の恋を書いた爽やかな短編。書きたいことが書きたいサイズ感できちんと書けている印象で、うさぎやすぽんさんの実力が伺えます。終わり方も個人的には好きですが、ヒロインが主人公に惹かれる動機にもう少し裏付けというかエピソードがあるとさらにスッキリした読後感が出たかも知れません。困った時の「○○理論」と「✖️✖️粒子」みたいなやり方はSF好きにはニヤリとさせられます。

 クリームソーダから爆弾を作る、というトンデモ科学理論からはじまるラブストーリー。『ぼくはヤクルトのカップで世界を変えることを決意した』という書きだしとそこから展開される主人公の饒舌な語りがとても魅力的で、序盤から物語に引きこまれます。作品全体に漂うシニカルでユーモラスな雰囲気と、中盤から後半にかけて展開されるヒロインとの甘酸っぱいドラマは個人的に好みでした。ラストもクリームソーダさながらに爽やかで読後感がよかったです。ただ「これクリームソーダ爆弾じゃなくても同じような作品を書けるよね?」という印象がぬぐえず、着想は面白いだけにストーリーに活かしきれていないのが残念でした。

 厳しいw 

 読ませる作品を書くというのはプロとしては最低限越えるべきラインで、目標のハードルは「やっぱプロは違うな……」と羨望のまなざしを浴びる、くらいのところにあります。その水準でみるとやや物足りない印象でした。

 まあ、闇の評議会、わりと平然とプロは逆差別する傾向がありますからね。すぽんくん懲りずにまた遊びにきてね!

 

ものほし晴 「木曜日に待ってる」

 ご新規参加のものほし晴さん。ものほし晴さんとは別人なので全然関係ないんですけどcomicoで藤のよう先生の 「せんせいのお人形」 が好評連載中です! みんな読もうね! すぽんくんに引き続き、いったいどうしたことでしょうか。KUSO創作甲子園の概念が乱れます。さて、内容としては最後にどんでん返しするプロットなのですが、アイデアや見せ方に特に斬新なところはなく、まあそれぐらいは思いつくよねって感じで意外性はそこまででもないです。でも、この物語のダイナミズムのエッセンスはそんなところに焦点があるわけではなく、自分を殺した相手のことを「すべて許した。今となっては愚カワイイ。好き」になる、そこの心理なんですね。どんでん返しなんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのです。小説の完成度という点ではまだまだ粗は見えますが、自分が物語で描きたいこと、描くべきことにピントが合っている感じで、ストーリーテラーとしてのポテンシャルを感じます。

 叙述トリックの手法は色々ありますが、特に読者の印象に残るのは「やられた!」という感覚が生じた時だと考えます。その為には結末に至るまでに真相を匂わせるヒントの仕込みが有効です。「実はこうだよ」という最後のオチに繋がるヒントの伏線が沢山で大胆であればある程、オチを突き付けられた時の「やられた!」感が増すのですが、それは当然中途バレのリスクと背中合わせで、作者の腕の見せ所です。アイデアや挑戦は良いと思うので、次回同系統の作品にチャレンジする際は、如何にフェアな情報開示をしながら読者を騙すかみたいな面も意識してみてはどうでしょうか。

 『クラスメイトのキッタさんが私(主人公)を殺した』という黒板のイタズラ書きを発見するところからはじまるホラー調のミステリ。『木曜日に待ってる』というタイトルと全体に漂う雰囲気は好みなのですが、物語の軸となる仕掛けがあまりにも安直で、正直なところ冒頭だけで七割から八割くらいの読者がオチを読めてしまうのでは。仕掛けが読まれやすいことを逆に利用して、それをミスリードにしてもう一ひねり。意外なラストでアッと驚かせる……くらいまで考えられると小説として面白くなると思います。

 はい、偉い人には分からんのです。次いきましょう。

 

偽教授 「クロスステッチメトロノーム

 本物川さんの永遠のライバル【要出典】偽教授さんの参戦です。今度は創作にフィールドを移しての再戦ということで、感慨深いものがありますね。本作は小説というよりはプロットに多少肉付けしてもう走らせちゃったみたいなボリューム感。そのぶん疾走感があってグイグイ読めるし、粗さはあるもののところどころでオッと思うような表現も見られて、作者の根本的な筆力の高さが伺えます。それだけに、本気で取り組めばもっと面白くなるのではないかなという欲は出てしまいますね。

 思い切りのいいループもの。この「思い切り」は結構重要で、各所の思い切りの良さが気持ちよく、スルスル読み進めることができます。描写の量や設定の深さ浅さ全体的にお話の設計において良いバランス感覚だと思います。トリックが特殊な小道具頼みなところがやや残念に思いますが、作品のサイズを考えると妥当な線だと思いますし、やや強引な結末も個人的にハッピーエンド好きなのでアリです。調べたら小道具に使われてる弾丸は本当にほぼ無音で勉強になりました。

 クリスマスイブに何者かによって殺された主人公。しかしなぜか前日にループし、パソコンの画面に現れた謎めいた存在から『犯人を見つけて殺せ』と指令を与えられる。ただし巻き戻るたびに五感のうちひとつが削られていくペナルティがつく。失敗するたびに身体的ハンデを抱えてしまう主人公は、はたして死のループを抜けだすことができるのか?あらすじはめちゃくちゃ面白そう。ただ実際の内容はそんなでもない感じでした。セカイ系っぽいヒロインとの関係性や設定面の説明が不十分なためとっつきにくく、タイムリープや巻き戻るたびにハンデがつくとか、そういったギミックが展開にあまり活かされていないのが原因かと思います。思いついたからなんとなく書いて終わりというのではなく、タイムリープものの面白さを研究したうえで、ドラマをどう展開したら面白くなるかを考えつつ書いてみてください。

風祭繍 「畑の呼び声」

 いろいろと説明を差し置いていきなり話し始めるというのはわたしもよく使う手法なんですが、んーと、ちょっと設定を飲み込むのが難しかったというか、不親切かなという印象です。説明をしてないというよりは、説明されればされるほど謎が深まるばかりというか。もうすこしそのへんのバランス調整が必要かなと思います。

 小話の短編集。主題のお話はいいアイデアだとは思います。その他のお話はタイトルがオチだし元ネタを知らない層にはなんのことか分からないので、そこはもうそういうものと割り切ってらっしゃるのだとは思いますが大胆だなと感じます。台風の時の「畑の様子」はハウス栽培の作物や添え木で植わっている作物、また落実する性質の作物で生計を立てている農家さんに取っては死活問題ですし、「田んぼの様子」は持ち回りの水利責任者であったり、隣り合った田が他人の田んぼだった場合に畝が切れると流れ込んだ水で他人の作物をダメにする恐れがある為、見に行かざるを得ない立場の事もあるようです。魔術・錬金術工房の設定は必要だったんでしょうか。

 小説というよりプロットもしくはアイディアの断片に近い内容です。ラヴクラフト系の怪奇小説が好きそうなことは伝わるものの、そのうわべだけをなぞって満足しているような印象を受けました。全体的に及び腰というか、作品の中であえて茶化すことで「いや、本気でやってるんじゃないんですよ」的な逃げ道を用意しているようにも見受けられます。「畑が呼んでいる……」という着想そのものは魅力的なので、厨二病的な恥を捨てて全力で創作に打ちこんでみてください。

 

偽教授 「針一筋」

 今回のモノホン大賞にめっちゃ数をブチ込んできてる偽教授さんですが、その中ではやっぱりこれが一番かな。時代ものだし、それに合わせて文体もかなり堅めなんですけれども、不思議とスルスルと読める。一文が短くて、簡潔で硬質な文を重ねていくスタイルはわたしとは真逆で、そこもまた個人的にはアツい。やや淡白な感じもするラストも、全体の雰囲気とはマッチしていてむしろアリです。ほぼ文句のつけどころはないのですが、せっかく文字数に余裕があるのでもうちょっと書いてほしかった。

 文体の好みはあると思いますが唸るしかない見事な作品。きちんと規定の字数の中で類い稀な天才の物語を書き、主人公が天才であるが故の結末は冷たいようでどこか優しく、なんとも言えない余韻が残ります。個人的に欲を言えば、字数にゆとりもあることですし、後半クライマックスには敵の忍との知恵比べ技比べのバトルなどがあっても良かったかなと感じましたか、作者さんの出したい雰囲気とは相反するのかもしれません。個人的には白戸三平さんの短編集に収録されてそうな、商業レベルの掌編だと思います。

 天賦の才を持つ忍び。その武器はただの針でしかなかった。規格外の腕前を持ちながらも、それがあまりにも特殊な技能であるがゆえに、結局のところ己はなにも成しえないのではないか、という不安と葛藤を抱える主人公。時代小説風の文体で語られる物語は導入こそ古めかしい印象を与えるものの、その中には現代に通じる普遍的なテーマが内包されており、最後に提示される『救い』の美しさにハッとさせられました。どこに出しても恥ずかしくない完成度で、この出来映えであれば思わず唸る読者も多いことでしょう。個人的には大賞候補の一角です。

 

今村弘樹 「適当」

 本気でやってください。こっちは本気でやっています。

 ご本人も「適当」と書いてらっしゃるのですが、その通りだなと感じました。

 残念ながら心血を注いで書いている作品には思えませんでした。どうせ参加するなら本気でやったほうが得るものは多いですよ。

 

ヒロマル 「ぱかぱかさんが通る 〜マジシャン探偵 清水一角〜」

  モノホン大賞常連で、先日BWインディーズコンテストで受賞して電書デビューを果たしたヒロマルさんです。この調子でモノホン大賞からじゃかじゃか作家デビューしろ! ものほし晴さんのところでも少し触れたんですが、わたしは物語における仕掛けやトリックというのはオマケみたいなものだと思っていて、それを使っていかにキャラクターを描くか、というのが物語の本質だと思っているのですが(異論は認める)、その点で言うと本作は仕掛けのほうにばかり目がいってしまっているようなバランスの悪さを感じます。ミステリー小説というのはクイズではないので、問いがあり、答えがあればそれで成立するというものではありません。それを解き明かすまでの過程で語り部と探偵役とで絡みがあったり、衝突や差異があったり、人間的な成長や関係性の変化があったりといった部分こそが本質なので、そこがちょっとおざなりかなという印象を受けました。

 あー。

 ん? どうしたんですか謎のバリ3さん。

 いえ。えっと、実にスタンダードな学園ミステリ。ただそれだけに、どこかで見たような、ミステリのために書いたミステリのような印象は否めません。主役二人の関係性にもう少し焦点を当てるか、あるいは主人公が作中で何か変わる、成長するなどが盛り込めると、もっと血の通った印象深いお話にできると感じます。

  手品を題材にしつつお得意のオカルト要素も盛りこみ、学園ミステリとして手堅くまとめられています。自身の持ち味をフル動員しているため水準こそ満たしているものの、短編スタイルに慣れていないのか若干ごちゃっとした印象です。そのほかにもキャラクターが薄味であったり、トンデモなトリックもパワー不足というように、改善すべき点もまた浮き彫りになったかもしれません。どちらかというとトリック偏重型、逆にいえばキャラクターや人間ドラマに意識が向いていないようなので、今後はそういったところも研究して自分の武器を増やしてください。

 あー、はい。

 主人公にあまり役割が与えられてませんよね。探偵が登場して以降はわりとノリノリで勝手にやってくれるので、わたしだったら彼はもうすこしノリ気でないキャラにして、主人公に「探偵役を事件にコミットさせる」という役割を振るかなぁ。「同好の志に多少のアドバイスをするのはやぶさかではない」みたいな提案は、むしろ彼女のほうからさせる。理論派の探偵と、その探偵からも時に屁理屈で一本取るじゃじゃ馬気質、というのはバディものとしてもバランスが良くなると思います。

 なるほど。

 一見つれない態度を取りながらも、手品仲間ができるのはまんざらでもないみたいなデレが出てくると探偵のキャラももっと立つかも。

 

大澤めぐみ 「清潔なしろい骨」

 やや変則的ですが、基本型は「いつか王子様が」ですね。ただ不遇に耐えていたら、ある日王子様が現れて救われるというシンデレラストーリー。話の筋じたいで奇をてらわなくても、道具立てをちょっとズラすだけで新しい物語はできるわけです。

 世にも奇妙な物語的な展開の独特な雰囲気のお話。淡々と冷たく進むどこか無機的な主人公のお話の中で、死後の遺体の腐敗から生じる温もりがやけに生々しくピントが合ってとても印象に残ったのですが、実はこのシーンは主人公がここからまた無機的な存在になって行くターニングポイントで、お話の構造の設計にセンスを感じます。出来事だけを捉えると酷い目にしかあってない主人公ですが、結末がハッピーエンドに感じられる持って行きかたも巧みだと思いました。

 ネオメフィストポストゼロ年代めぐみ。薄幸の少女の耐えがたい日常が淡々と綴られたあと、一転して凄惨な事件が起こり、救いようのない結末がハッピーエンドとして語られる。作者の得意技でもある『ゲージをためて超必で仕留める』形式の短編で、名のあるプロでもなかなかこのレベルは書けないであろう水準。あえて重箱の隅をつつくなら序盤の展開がやはり冗長気味なので、後半のカタルシスが損なわれない程度に圧縮できるとより完成度があがると思います。本来であれば大賞に推すべき作品ではありますが、主催者みずから受賞となると茶番感がひどいので個人的にはナシです。殿堂入りという枠でも用意して大澤家の神棚にあげとけ。

 

 こむらさき 「Unbreakable~獣の呪いと不死の魔法使い~」

 もう好き。最初のセリフで勝ち確、ただし丸パクり! みたいな超絶卑怯な掴みかたなんですが、所詮は素人KUSO創作大賞なのでこういうのでいいのだ。自分が好きなもの、書きたいものだけを書いているっていう感じで、そのぶんピントの合っていない背景であるとか世界観、設定なんかはふわっとしているんですけれども、そんな粗もぜんぶ吹き飛ばす作者の「俺はこういうのが好きなんだよぉお!!!!」が最高です。今後も、粗を潰すよりは熱量で突き抜けていってほしい作者です。

 細かい技術的なことを言えば世界設定、例えば文明レベルがやや不明瞭な点(社会体制的には中世っぽいけど一般家庭に本が普及してる?)や、用語の使い方が一部独特で(「使い魔」が美少女妖精なのは最初に説明が欲しい)引っかかる点がないではないですが、作者さんが楽しんで書いているのが伝わって来て、その辺は突き抜けてこちらも楽しく読めました。自分の書くキャラクターが好き、そのキャラが巻き起こすシチュエーションが好きって言うのは書き手としては単純に強いな、と感じます。キャラクターを書く、ストーリーを書くは出来ているので、あとは想定した世界設定の掘り下げや自然な状況説明の技術に厚みが出るとすぐワンランクもツーランクもレベルアップする潜在能力を感じました。

 美女と野獣テイストの恋愛ファンタジー。最近だと『魔法使いの嫁』あたりが雰囲気的に近いかと思います。ファンタジーを書くうえで必要な表現力、恋愛ものを書くうえで必要なキャラクターの魅力と関係性の妙、エンタメ小説を書くうえで必要な構成力と、求められている要素をすべて満たしているため、作品の完成度が非常に高いです。とくに後半のどんでん返しが効果的に機能しており、短編ながら読み終わったあとに長編さながらのカタルシスが得られます。正直なところ普通にお金を取れるレベルなので、今後もこういった作品を書いていただけることを期待しています。惜しむらくはオリジナリティに乏しいこと。王道は王道で需要があるのでこのままでもいいのですが、既存の作品と明確に差別化できるような要素があったほうが好みです。たとえば世界観をアラビア風にしてみるとか、単純にそういったガワの部分を変えるだけでもよいので、なにかしらのスパイスを混ぜてみると新鮮な読み味になるかもしれません。

 

偽教授 「 No-Life-No-Smoking」

 ショートショートくらいの規模。たぶん本来的な文体がわりと堅いんだと思うのですが、堅い文体で頓狂なことを書くことで奇妙なおかしみが成立していて良いと思います。すごく笑ったりすごく面白いってやつじゃないんですけど、フフッと笑っちゃうくらいの英国式ジョークみたいなそういう趣。

 世界史における軍事力が力士だったら、という設定で一点突破した掌編。内容としては歴史の教科書のように淡々と相撲による覇権争いの説明が続くので抑揚に欠けるように思います。例えばこの作品がプロローグで、イラク戦争夏場所に参加する一力士の話になるとか、世界大戦の一番を仕切った行司の述懐が始まるとか、一歩先の展開も見て見たかったと思います。

 相撲SF。なぜかカクヨムはスモウネタが多い。架空歴史物めいた要素もあり、オチも風刺が効いていてよかったです。ただ如何せん小品というか、掌編くらいのスケールなのでインパクトに欠けます。ちょっと思いついたから書いてみたという感じなので、ここから物語をふくらませても面白いかもしれません。

 

アリクイ 「EMけんきゅうじょにようこそ!」

 そうそう、こういうのでいいんだよモノホン大賞ってのは。すぽんくんはこれでも読んで正気に戻ってください。ここは肥溜めの底よ。お前それがやりたかっただけやろ! 感が溢れる本作、やりたかったことはやりきったと思うので、きっと本人も悔いはないでしょう。おもしろかったです。

 さる計画によって生まれた天才モンキーたちの覇権争いの物語。クライマックスの必殺技の名前に全てが集約されてる印象です。本賞の性質を考えると、本来これくらいの軽いノリで書かれたお話がもっと並んでもいいかな? という気がします。面白かったです。

 星新一ショートショートめいたシニカルなユーモアと、読者の苦笑いを誘うクソみたいなオチ(褒めてます)の塩梅が絶妙で、これぞ本物川小説というべき内容。真面目に審査するような場ではなかなか評価されにくいとは思いますが、素人創作と割り切ってしまえばこれが正解。実際のところ短編としてよくまとまっています。このタイプの作品は「ワロスwww」くらいの反応が最大の賛辞になるでしょう。というわけでワロスwww

 

くさかべかさく 「あなたの心に直接」

 えっと、なんでしょうか。分かりませんでした。

 イデアは悪くないと思いますが、読ませ方はもう少し整理した方がいいんじゃないかと感じました。笑いのツボは人それぞれなので勿論これが面白い方もいるとは思いますが、バカらしい掛け合いの勢いイコール笑いではない、というのが僕の感覚です。ボケとツッコミがテンポよく連続する、そのこと自体は正だとしても、その内容とテンションが一様ならば緩急のないガナリのようになってしまいます。上げて落とす、ふと冷静になる、全く関係ない話を一度ぶち込むなど、現実の芸人の方々は複雑化のために実に計算された手続きを踏んでらっしゃいます。その上辺だけを真似しても思ったような効果が出ない場合もあるので、もう一度少し冷淡な目で自作を推敲なさってみてはいかがでしょうか。

  はじめて小説を書いた人なのでしょうか。実験的なことをやって終わり、というのではなく、きちんと物語に昇華したものを仕上げてください。身内であれば唐突な一発ギャグでも笑って許してくれるのかもしれませんが、面識のない相手にいきなりカマすとただのコミュ障になってしまいます。出版経験のない参加者がレベルの高い作品を投げてくる中、プロの肩書きを背負っている人間がド底辺のクオリティをぶちこんでくるというのは、なかなかツラいものがあります。

 

偽教授 「デウスエクス少女マキナちゃん」

 偽教授さんの他の作品に比べるとちょっとイマイチでした。着想のユニークネスと、それをでっち上げてしまう基本的な筆力、進捗力は大きな武器ですが、あとは腰を据えてもうひとツイスト入れる根気でしょうか。着想→進捗→ブン投げまでがシームレスに一直線すぎるので、もうひと頑張りお願いします。

 所謂メタ的な展開ですが、小説やシナリオを書く人向けに調整された作品。「デウスエクスマキナ」という用語自体はその語感から割と色んな作品の色んな用語として使われているのを見受けますが、本作ほど原義に忠実は使われ方は初めて見ました。「メアリー・スー」は物書きでもトレッキーでもない一般の方には知名度が少し低いでしょうが、本賞の性格を考えるとアリだと思います。作中作の途絶した小説の内、冒頭のさらっと書いたっぽい時代劇風小説のクオリティが他の二編に比べ頭一つ高く、作者さんの本来のフィールドを垣間見ました。

 エタった小説を供養するための作品というか没のリサイクルというか。表現したいことはなんとなく伝わるものの、作者本人にしか面白さが伝わらなさそうなネタばかりで読んでいてけっこうキツかったです。針一筋がよかっただけに残念。

 

田中非凡 「君は太陽

 好みはいろいろとあるでしょうが、本人が書きたいものをちゃんと書けているという印象を受けます。そういう意味ではすでに完成されているので、あまり言うべきこともないですね。筆力、構成力ともに非常に技量の高い作者です。あとは本人のスタンス次第ですが、ちょっと一般向けを意識するとバッとバズったりするんじゃないでしょうか。

 生き物を殺すことに魅了された中学生とその中学生に魅了された中学生の倒錯した愛の物語。思春期の、生命や死を徒らに強く意識してしまう気持ちが瑞々しく書かれており、事象としては異常な状況が書かれていても、登場人物視点からは自然なこととして読めるように描写されていて技術の高さを感じます。結末は好みが分かれるかも知れませんが、この結末のために書かれたお話だと思うので今の形以外はありえないでしょう。

 狂気の中に美しさを見いだしていくような百合小説。テーマは残酷な少女性、といったところでしょうか。個人的にはまったく共感できなかったものの、作者自身がイメージした物語をしっかりと書きあげられていますし、好きな人はとことん好きだろうな、というのも伝わります。ただもうちょっと緩急をつけるというか、女の子たちのほのぼのとした一面を描いてから、カウンターのようにゾッとする展開にもっていけると、より効果的に作品の魅力を演出できるのではないかと思います。最初から最後まで狂っていると次第に慣れてしまうので、油断しているときに猫の死体とかぶつけてきてほしいところ。

 

豆崎豆太 「うちのゴリラ知りませんか?」

 とにかく冒頭の掴みが強くて良いです。この作者の普段の作風を知っていると、このいい感じの抜け感にはすこし面食らうのではないでしょうか。とりあえずゴリラを出してみる、という創作メソッドがプラスの方向に作用した事例でしょう。今回の事例を受けて、適度な抜け感で次以降の創作にも生かしてもらえたらなと思います。ゴリラを出せば良いということではありませんので、エッセンスを拾ってください。

 最愛のゴリラに掛かった殺人容疑を晴らす為に奮闘する女子高生が主人公のライトなミステリ。ネタに走った出オチ小説と見せかけて事件の捜査自体の描写などはしっかりとした手順と妥当性で書かれていて、その地に足の着いた部分と、「親ゴリラ」「ゴリラテレパシー」などの突飛な用語やクライマックスのフィクションならではの熱い展開との振れ幅が、独特な魅力となっています。レビューにも書かれていましたが、主人公の、作者さんのゴリラ愛は読む側にも伝播し、読み終えた時にゴリラのローラが大好きになっていました。

 さも現代日本では一般的にゴリラを飼育していますよ、という雰囲気で語られるため、うっかりすると納得してしまいそうになりますが、どう考えてもおかしいです。そのうえ大まじめに推理がはじまるので、もしかすると地方によってはゴリラを飼育している学校があるのかな? と思いますが、やはりどう考えてもおかしいのであります。ラストになるとゴリラが普通に喋りはじめるので、まあそういうこともあるのかなという気分になってきて、些細なことはあまり気にならなくなってきます。美咲~!!! じゃねえよ!!!!! 誰かツッコミ入れろや!!!無駄にゴリラのうんちくが散りばめられているのもポイント高いですね。

 

@otaku虚数解の殺人」

 楽屋オチってやつ。うーん、ちょっとあんまり、面白くなかったかな。本作で一番の注目点はタイトルでしょう。虚数解の殺人っタイトルでモルグ街の殺人をモチーフにするというのは使い捨てにするには惜しい着想だと思います。

 小説への取り組み方や書きたい内容は人それぞれで、悪ふざけの方向性も千差万別あっていいのですが、個人的にはこのお話の方向性にはイマイチ馴染めませんでした。最後のメタネタでは落ちてないと思います。

 本格ミステリなのかな? と期待してしまうタイトルですが、冒頭から楽屋ネタで面食らいます。内容もチャットの文面を抜き出しただけの代物で、たいしたオチもなく終わってしまいます。審査する側としては「この作品にはなにかあるのかな」と探しながら読むわけで、とくになんもなかったりすると、単純にがっかりします。読み終わったあと数秒で忘れてしまうようなものを書いて満足してはいけません。どうせ参加するなら、なにか爪痕を残してやろうと考えましょう。

 

平山卓 「ステルス魔法少女ミキ」

 どうやら、これが人生初小説っぽい感じの作者さんなんですが、意外と悪くないです。文体じたいは好き。たぶんまだ気恥ずかしさがあってKUSO創作というのをエクスキューズにしてしまっているところがあるように思うのですが、KUSO創作は生き様だ舐めるんじゃねぇ。一度本気で思い切って本当に自分が書きたい小説を書いてみましょう。ひとつの作品を書ききれるだけのポテンシャルは充分にあると思いました。

 他の小説賞に参加されてる方や、所謂一般文芸的な作風で書いてる方には理解されづらいとは思うのですが、これくらいの奔放で荒削りな作品が「本物川小説賞らしい」という感覚があります。主人公の内観で突っ走るスタイルはどこか見慣れた親近感があります。ただやはり魔法少女というパワーある題材を活かしきれてないように見える点は少し残念なのと、テンション高めの女子中学生の内観なのに難しめの熟語がまあまあ出てくる点はやや気になりました。しかし全体にコミカルな空気感の醸成には成功してると思うので、次回作では読ませることを意識してもう少し時間を掛けて推敲するような書き方にもチャレンジして欲しいです。

 ちょっと変わった能力を持つ魔法少女もの。主人公の語り口が可愛い。本物川大賞の参加作品の中では珍しくラノベテイストで、事件そのものはしょうもないのですが、全体的にほほえましいお話で好印象。なんというかキャラクターの魅力的な描き方を『わかっている』感じで、もしかするとそれなりに書いている人なのかな? と当初は思ったのですが、プロフィールとか見るかぎりではそうでもなさそうな感じですね。素のポテンシャルが高いのかも。クソ創作よりも真っ当なラノベを書いたほうが伸びそうではあります。

 

語彙 「メソポタミアすごい。」

 そうだね×1

 メソポタミアのすごさは伝わりました。

 有名なコピペの改変ですね。次からは小説も書いてみましょう。

 

風祭繍 「Repl(a)y for…」

 畑の呼び声と同じで、まず読者との前提の共有がうまくいってないかなという感じで、正直よく分かりませんでした。

 会話形式と非人間の何かの独白?で構成されたお話なのですが、もう一つ何がやりたいのか伝わって来ません。全体に説明不足じゃないでしょうか。勿論全てを説明しつくす必要はなく、読者の想像に委ねる面があってもいいのですが、分からな過ぎては不親切ですし、不親切な相手の話に笑うほど読者は見ず知らずの作者さんに親切ではありません。

  日記はチラシの裏に書きましょう。それっぽいタイトルをつけて、小説を書いた気にならないでください。

 

ゴム子「女神と色男の狂想曲」

 いつも締め切り直前にRTAで駆け込んでくるゴム子さん、今回はちゃんと締め切りに余裕をもって仕上げてきてくれました。偉いですね。さて、もともと締め切り直前に駆け込んでくるせいで粗が目立つけれども、根本的な筆力は高いのだろうなぁとは思っていたのですが、実際その通りだったみたいです。今回のはかなり良いです。余裕のある進捗と推敲だいじ。話の筋じたいには目新しさは見られませんが、とにかく演奏シーンの筆力、文圧は圧巻です。時間に余裕を持ちさえすれば長編を書ききれる実力はすでに備わっていると思いますので、ぜひとも一度、計画的な執筆を。

 主人公に感情移入しやすいかどうかは読者さんの倫理観に左右される面があるかと思いますがその後の演奏や音楽の描写は貞操観念にうるさい人にも読んで欲しいです。残念ながら僕は音楽関係には疎いですが、それでも読中の心象には主人公によって奏でられるチェロの様子がありありと浮かびました。チェロの精の登場は物語の根幹を成す部分なのでその由来や設定にもう少し取材に基づいた裏付けがあると、物語が更に格調高くなると思います。アイルランドのリャナンシーを想起したのは私だけではないでしょう。主人公とヒロインの劇中の関係性の中で、主人公がきちんと変わってる、という部分も評価したいところ。面白かったです。

 チェロ奏者と楽器に宿った女神が織りなす恋愛ファンタジー。ラブコメ的な要素もありつつ、官能的な描写もありつつで、全体としてみるとややアダルティな内容。シナリオ単位で抜き出すとこれといって目新しい要素はないのですが、演奏パートがとにかくエロティックで、作品全体に独特の雰囲気を与えています。根幹のテーマが『セックスよりもきもちいいこと=演奏』なので、物語の描き方としてはこれで正解だと思います。ただラブコメパートが演奏パートに力負けしています。ライトな雰囲気を出して間口を広げようという狙いもわかりますが、この作品にかぎっては最初から全力でアダルティな方向に振り切ったほうが、持ち味を活かせたのではないかと。

 

ロッキン神経痛 「このイカれた世界の片隅に」

 いえ~いカクヨムコン大賞受賞おめでとう! ロッキン神経痛はモノホン大賞が育てた! 「限界集落オブ・ザ・デッド」絶賛発売中みんな読めよな!! そんなロッキン神経痛が、自分の好きなものをこれでもかとギュウギュウに詰め込んだっていう感じのスーパーハイカロリーな本作、徹底的に足し算の創作で、一般的に推奨されるようなメソッドではないのですが、それでいて破綻させずにラストシーンまで一気に走り抜けるそのギリギリのバランス感覚がすごい。最後の最後で「ここからやっと始まるんだ」みたいな含みのあるラストは個人的に大好きなのでもう最高でした。

 終末に向かいつつある世界の中でダラダラと日常を過ごしたいと願いつつもタガの外れてしまった世界で起きる事件に次々と巻き込まれる高校生二人の物語。冒頭、主人公のモノローグからなる世界観の説明は言葉選びの的確さもあってリアルで、一気に作品世界に引き込まれる感覚があります。そこからの荒唐無稽な出来事の数々という落として上げるお話の構造が、独特なトリップ感を生んでいて、作者さんの試みは成功していると思います。こうしたお話構造全体で意図した演出が意図しただろう効果を上げている作品は評価したいです。

 さすがにプロデビューを果たしただけあり、文章力は群を抜いています。冒頭を読んだだけでセンスがあるのがわかりますし、そのうえでほどよく肩の力も抜けているため、語り口に嫌みがありません。(この二つを両立するのは意外と難しいです)ただ内容としては書きたい場面をつぎはぎにした印象で、全体的に粗さが目立ちます。終末世界で日常系をやるというのがコンセプトで、難しい内容に挑戦していることも承知しているのですけど、ただ勢いに任せて書くのではなく、もうちょっと構成にも意識を向けてください。連続するエピソードに一貫性がないため、読了後の感想が「なんかすごいな」だけで終わってしまいます。すでにそういったハードルは越えている以上、目標とすべきは力任せに殴ることではなく、己の武器を極限まで磨きあげることです。インパクト勝負を続けているだけでは、いずれ淘汰されてしまいます。出版業界というイカれた世界の片隅にいるだけで満足せず、より大きなステージに立つためになにが必要なのかを考えてみましょう。

 

ボンゴレ☆ビガンゴ 「私が将来の夢を見つけるまでの些細な出来事の顛末と親友ができた話」

 うーん、ちょっと毎回ビガンゴ先生には辛辣になってしまいがちなの、好みの問題なのかもしれませんけど、なんていうか、思いついたアイデアをそのままお出ししてきてしまう傾向がありますよね。そこで一度踏みとどまって、もうすこしツイストの余地がないかって煮詰めてほしさがあります。あと、あまり素早いコール&レスポンスの流れの中で力を発揮するタイプではなさそうなので、あまり周囲に惑わされず自分の創作をしたほうがよいかもしれません。後半よりも、むしろ前半のなんてことのない丁寧な描写のほうが好きです。

 後半のトリッキーな展開に目を奪われがちですが、前半から中盤に文章や台詞がしっかり書けていてまともに小説してるからこそ、トリッキーが光っているように感じました。作者さんの書きたい内容が読者の読みたい内容とリンクした時、大きな力を発揮する作風かと思います。読んで行く先で期待を裏切って欲しい気持ちはありますが、多くの読者が期待する裏切り方までを裏切ってしまうと、作品へ込めた力の割に評価の手ごたえが付いてこないような状況もあるかも知れません。地力は見て取れますのでもう少し読者に向き合う勇気が加われば、色々噛み合って上手く回り出す面もあると思います。

 冒頭からスルスルと読めて「お?」と思うものの、最後のオチがいつものビガンコくんで肩すかしを食らいました。コンスタントに書き続けているだけあって文章力は着実に身についているのですが、同時に深く考えて書いていないことも伝わってきていろんな意味で惜しいです。この作品にかぎっていうと「ゴリラでなくても似たような話を書ける」の一言で終わります。流行にのって書くこと自体は悪くないのですが、そうであるのならゴリラである必然性を用意してください。そろそろステップアップしましょう。

 

語彙 「ナイチンゲール 1914型」

 わりと文体に個性があるというか、この簡潔な一文の積み重ねで素早く物語をドライブさせていくのはあまり見ない気がします。自分の個性を分析して武器に高められれば強いかも。作品としては、ちょっと規模も小さいし、もうちょっとかなって感じ。単純に、もう少し長いものを書いてみましょう。

 世にも奇妙な物語的な、戦場の医療アンドロイドのお話。二次大戦の西部戦線の雰囲気に医療アンドロイドを持ち込むのは面白い試みだとは思います。文章も設定も書きたいだろう内容を表現に昇華できているとは思いますが、オチがちょっと弱いかな、という気はしました。

  兵士の回想録の中で語られる、天使のようなアンドロイド。ところが視点が切り替わり、アンドロイド側の独白になると……というブラックSF。アイディア自体は目新しいものではないのですが、とにかく演出が巧いですね。一言で評すならスタイリッシュ。わずか2569文字の短編とは思えない満足度でした。

 

ユリ子 「茜より紅く」

 いきなり不可解な状況を提示して読者を引き込んでいく手腕とか、思春期に特有のねじくれた心理の描写など、非常に高い技量の断片が伺えるのですが、作品全体の完成度ではもう一歩かなという印象。とても好きな作風なので、ぜひ一度、腰を据えてある程度の長さの物語に取り組んでもらえたらなと思います。

 思春期特有の生命や死についての倒錯した興味関心をストレートに書いた作品。ただ、それがストレートに過ぎてもう一捻り欲しいかなという印象です。変わった幽霊のアイデアは面白いですが、人が死ぬそのこと自体をオチとしてインパクトを出すなら文章や展開にもう一工夫あって欲しいところです。

 幽霊ネタを絡めた学園ミステリ。伝統的ともいえる内容。こういう雰囲気の作品が好き、というのは伝わってきますし、イメージしたものを書くこともできているとは思いますが、独創性や新鮮さには欠ける印象です。これは単に物語の展開や軸となるギミックの良し悪しだけの話ではなく、キャラクターの台詞回しであるとか、地の文の描写においても言えることです。目指している作品の完成度をより高めるためには、キャラクターの息づかいであるとか、情景の臨場感が出てくるような描写を研究してみるといいかもしれません。拝読した印象としては、設定の独創性や驚きのあるトリックを考えていくより、表現力や台詞回しを磨いて、今ある持ち味を尖らせていったほうがよくなりそうです。

 

ポージィ 「微レ存」

 やりやがったなてめぇ! という気持ちでいっぱいです。うんやんのスピンオフみたいな作品。前半の流麗な文体が流麗であればあるほどオチのひどさが際立つ作品。そのぶん「ですます調」と「である調」の混在みたいな、文体の統一感でところどころ引っかかりを感じるところはありました。生成りでない文体を選択した場合は普段よりも推敲を慎重にしたほうがいいかもしれません。

 勿体ない! 終盤までの神話っぽいお話好きでした。アスタリスクで嫌な予感はしたんですが。勿体ない……!

 無駄に文章力の高いクソSF。荘厳な世界観からのクソみたいなオチ。読者に苦笑いさせるためだけにひねりだしたであろうことから、ある意味において本物川大賞の理念を体現する作品でもあるかと思います。ただちょっと力技すぎるというか、一発芸による単発攻撃なので、多段ヒットを狙ってくる海千山千のクソ創作マイスターたちに比べるとコンボ数で負けています。

 

田中非凡 「少女主義者」

 ウーン、同じ作者の「君は太陽」に比べるとちょっとイマイチ。描きたいテーマ性みたいなのが垣間見えないこともないのですが、物語としてはちょっと弱いですね。あと、細かいところですが三人称記述とはいえ視点を交替しながら進むので、「男③」において唐突に「玲美」という固有名詞が出てくると驚きます。距離感がバグるというか、男と玲美が既知の間柄であるような印象になってしまう。わたしが見落としているのでなければ男は彼女の名前を知らないはずなので、男のほうに視点が寄り添っている章では男が知らない情報はたとえ三人称記述であっても避けたほうが自然かな。

 えーと……これで終わりでしょうか。物語の冒頭部分としては良く書けていると思いますが、これで終わりなら尻切れトンボと言わざるを得ないです。

  既存作品のうわべをなぞっている感じで、ディティールが浅いですね。ガチのロリコンはもっとヤバいのでフィクションなのにリアルに負けている。いや、そういうテーマの作品じゃないとは思いますけど。

 

ユリ子 「Voodoo murder」

  なにかどこかに仕掛けがありそうな構成だったので何度か読み返してみたのですけれど、正直よく分かりませんでした。これまでいくつか読ませて頂いていて、筆者の中で書きたいモチーフやテーマはある程度固まっているのかなという印象。そして、それを書き上げる筆力はすでに十分に持っていると思います。ぜひ、中編~長編の規模にも取り組んでみてもらいたいです。

 シュールな歌のPVみたいな表現、と捉えたらいいのかな。個人的には起承転結のあるストーリーを読みたかったです。文章や表現はしっかりしていて読み応えがありました。

 ウーン、執拗に語るだけの文章力は充分ですが、斬新な切り口みたいなのには欠けますね。悪趣味なだけなのをインパクトだとか、オリジナリティ、リアリティみたいに勘違いするとあまり良くないです。

 

偽教授 「後宮絵師 」

 かなりゴージャスな文体と世界観で、作風てきにはライトに寄せたものよりもこれぐらいのもののほうがむしろ伸び伸びと書けているのかなという印象。偽教授さんは今回、かなりいろんな方向性で数を出してきてくれていて、どういうことができるのかっていう見本市みたいな感じなんですが、そういう観点で見ると、この後宮絵師、ないし針一筋みたいな方向性できちっと腰を据えた創作を見てみたいかなって思います。ステロタイプになりがちな非凡なキャラクターにも生々しさみたいなのがちゃんとあって、血を通わせるのが上手いですね。

 歴史ものを書く文体というかスタイルが確立されている感があります。架空の帝、架空の後宮だろうとは思いますが、官吏の役職の名前を始め状況説明にぽんぽん出てくる当時の用語の数々が歴史書を読んでいるような説得力を醸し出しています。その知識の厚みには敬意を表したいです。「天才」というテーマを扱うにあたりギラギラした俺様的なキャラクターでなく、どこかのんびりとした浮世離れした天才を選択しそれをきちんと書ききる実力には確かな研鑽の積み重なりを感じます。個人的に読点が多く感じたので、読点だけもう少し吟味して減らして貰えると更に読みやすかったです。

 現代ものだとそんなでもないのに、時代小説系の作品になるとやたら強い偽教授さん。絵画という一芸のみで認められ、天下人と対等の立場で語り合うに至る遊女。傍観者である宦官がなぜ最後に涙を流すのか、その理由をあえて語らないことで作品に深みを与えています。ていうかマジでそっち系の賞に出してみたらええねん。わりと書き手が不足しているのでおすすめですよ。

 

田中非凡 「ゴゴゴリラ」

 わりとワンアイデアでそのまま書ききってしまったという印象でツイスト不足の感じはありますが、ワンアイデアで20000文字完走できる体力は素晴らしいです。書くことじたいは得意なようなので、書きはじめるまでの工程に力を注ぐと良いものができそうですね。

 不条理な世界でゴリラと主人公の交流とその顛末を描いたお話。設定を一旦飲み込めば、筆力に下支えされた「僕」と「ゴリラ」との距離の縮まりが丁寧に書かれていて、気付けばゴリラに愛情を抱く「僕」に感情移入しています。悲しい結末なのはお話の要請上やむを得ない面もあると思いますが、似たような着想ならより難易度の高いハッピーエンドにもチャレンジして欲しいです。

 ゴリラが流行ってるみたいだからなんか書いてみよう……という発想のもと、手癖だけで書いたような短編。コメディなのかシリアスなのか、そのあたりのバランスがよくないためにどう読むべきかわからないうえに、やたらと長いのでけっこうしんどかったです。こういった作品でグロ描写が出てくると普通に引きますし、安直な感じがして苦手です。

 

ポージィ「天才と凡才」

 またやりやがったなこの野郎! またしてもまたしてもうんやんのスピンオフ!! KUSO小説とはそういうことではない……そういうことではないのだ……。記述のしかたが章によって一人称だったり三人称だったりでちょっと統一感がないかな。もちろん、章を切り替えているので問題ないといえば問題ないのですが、あまり文字数があるものでもないので、細かく切り替えるよりはあるていど統一感のある叙述で進めたほうがいい気がします。

 一見すると天才と凡才の非対称な友情物語に見えて、内実では逆転があり実は対等か逆向きに非対称であるというお話。二人の関係性を説明しただけで終わってしまっている印象で、ここからもう一転がしして欲しいです。

 ほぼ私小説。現代における天才の立場と凡才の立場をうまく風刺していて、短編としてのまとまりがあります。オチは内輪ネタすぎてアレでした。

 

偽教授「邪剣」

 キャプションにある通り、あるワンシーンだけを抜き出した習作ですね。ちょっと、他の作品に比べると句読点の打ちかたなどで読みにくかったかな。習作にしても推敲はしたほうがより得られるものが多いと思います。

 巌流島の決闘を武蔵視点で書いた短編。この時代の武蔵が次々と現れる挑戦者に対し奇策を重ねて倒していたことは様々なメディアで指摘されているので有名だとは思いますが、実は佐々木小次郎側も奇剣を用いる怪剣士だった、というアプローチは斬新で面白いです。読点が少し多く感じたので、音読してみて不要な点を整理してはいかがでしょうか。

  これはなんとか針一筋の中に混ぜて一本にしたほうが、より高まったんじゃないでしょうか。数を出すよりは精査してほしいです。

 

木賀触太「昼休みの幽霊」

 事件があって、それを解決するという基本的なミステリーのフォーマットなんですが、ものすごい勢いで要件こなしていくので見知らぬノベルゲーのRTA動画でも見ているようで、正直ポカーンとしてしまいます。ヒロマルさんのところでも言いましたが、ミステリーだからといって謎と解決を用意すればいいわけではなく、その過程でキャラクターを描いてもらいたいわけで、まだちょっと物語にまでは高まっていないかなという印象。これは一般にプロットとか呼ばれるようなものだと思います。単純に、もうちょっと文字数を費やしてみましょう。

 この字数できちんとミステリに挑戦したその意気は買います。ただ動機とトリックが今一つ。お話を書き、完結させるという字書きに取って一番大事な力はすでにあるので、アイデアの推敲、取材、短い文章で的確に言いたいことを言う説明力を意識して書き続けてもらいたいです。

 オーソドックスな学園ミステリ。ただ内容としては薄味でした。一番の問題は事件発覚から解決までが早すぎて、ダイジェスト感があることでしょう。ミステリの魅力は単にトリックや犯人当てを楽しむだけではなく、捜査の過程で容疑者や周囲の状況が二転三転と変化したり、キャラクターの心理を掘り下げることでドラマを生みだすことも含まれます。本物川大賞の二万文字はミステリを書く場合かなり短めの制限です。なのにこの作品は5288文字しかありません。内容を考えればもっと肉付けできたはずです。ドラマを展開させましょう。

 

語彙 「終末は君と二人で図書館で」

 ん~、やりたいことは分からないのではないのですが、まだ「こういう設定を思いつきました」という着想段階で、小説にはなっていないと思います。設定ではなく物語を見せていきましょう。

 世にも奇妙な物語がCMに入る時のアイキャッチのような掌編。書きたい内容は書きたいサイズで書けているようには見受けますが、その書きたい内容にパワー不足を感じます。逆にこの内容で読ませるなら、更に描写やキャラクター、状況の作り込みに工夫した方がより多くの読者に受け入れられやすいと思います。

 一場面だけを切り取ったような掌編。雰囲気はわりと好きなんだけど、断片的すぎるのでもうちょっと物語を膨らませてみては? と思いました。この短さであれば、よほど強烈なビジョンを見せてくれないと印象に残りづらいです。

 

バチカ 「光と影の兄弟」

 冒頭の戦闘シーンの描き方は上手いと思います。ただ、2話で急にいろんなことの説明がバーッと続くので、そこで折角掴んだ読者の心が若干離れちゃうかも。あまり説明的にならないように、なにかしら場面に動きを出しながら必要な情報を紛れ込ませて提示していけると良いかもしれません。

 血の繋がらない兄弟の活躍を描いたラノベらしいラノベ。ステータス振りとしてストーリーの魅力よりはキャラクター重視のお話かと思うので主役二人の描写……見た目の特徴や性格や癖など……をもう少し掘り下げると強みが増すんじゃないでしょうか。作者さんが楽しんで書いている感じが伝わって来て気持ちよく読めました。

 魔物を倒しつつ事件を解決していくタイプの小説で、世界観やキャラクターの描き方が丁寧でよかったです。こういうものが書きたい!という意思が伝わってくるのも好印象。しかし文章面に難があり、ぎこちない一人称や臨場感に欠けるバトルシーンなど、表現したい物語に筆力が追いついていないような印象を受けました。具体的に指摘するとキリがないのですが……例をあげると『あれ、それ、これ』『あの、その』と多用しすぎでわかりづらいです。とくに『あいつ』と書いた直後に『奴』と書いてしまうと、それが同じものを指しているのか、あるいは別のものを指しているのかと、いちいち考えてしまいます。細かいところではありますが、そういったところを改善するだけでも物語のテンポがよくなり、読んだあとの印象も変わってくるかと思います。

 

大澤めぐみ 「賢い犬ジェイク・シュナイダー」

 ジェイク頑張れ。ジェイク、頑張れ。

 良くある感動動物ものかと思いきや斜め前にジャンプする変わった読後感の作品。ゴールデンレトリバー寄りの雑種という設定が巧妙で、「ジェイク」の様々な目撃情報がまざまざと脳裏に再生されます。ジェイクはいずれ地球を飛び出し、時間すら超越して神話の世界すらニヒルな笑みで通り過ぎて行くのだろうな、とこちらの想像の翼をも拡がります。

 鬼スケの中で二作も書いてくる主催者の意地。ただ『清潔なしろい骨』と比べるとだいぶ力を抜いているようで、思いついたアイディアはさらっと仕上げたような感じ。ジェイクの活躍がどんどんエスカレートしていく様子はカモメのジョナサン的で面白いのですが、ラストはいまいち突き抜けられなかった印象。パリダカールラリー走破→グレートレースに参戦だとあまり変化が感じられないので、いっそ宇宙船で火星を目指すとか、それくらいぶっとんだ方向にジェイクを走らせたほうがクソ創作らしかったかもしれません。めぐみ頑張れ。めぐみ、頑張れ。

 

梧桐 彰「てっけん!」

 ご新規さんですね。女子空手部が舞台の日常もの。わりと文字数があるんですけどスルスルと読んでいたら読み終わっていて、読み終わってから「あっ、そんなに文字数あったんだ」っていう感じでした。掛け合いが軽快でとても読みやすい。内容としてはキャプションにあるとおり、本当になにも巻き起こさないので、あ、終わったなみたいな肩透かし感はあります。日常ものというジャンルがあることはわたしも承知してはいるのですが、せっかくなので日常の背後でもう少し規模の大きな出来事も動いてたりするともっと好みです。

 少し足りない空手部員と主将の会話主体に進むお話。会話のセリフやユーモアのセンスが卓越していて、その軽妙さは素直に上手いと思います。日常系だからと諦めてしまわずに彼女たちを主人公とした起伏のあるストーリーも読んで見たかったです。

  空手女子のほのぼの部活もの。真面目に空手をやるというよりは「クマを倒せ!」的なおバカ系のノリで、きらら系四コマの雰囲気に近いかも。基本的に会話劇がメインで、テンポよく進むため読みやすかったです。そこそこ楽しんで読めたものの爆発力はなく、後半になるとギャグも単調になってくるのでもうちょっと工夫が欲しかったです。空手を題材にしているわりに扱いが軽めというか、他の格闘技でも代入できそうなレベルだったのも個人的には大きなマイナス。四コマ漫画なら可愛いイラストの付加価値でカバーできるのですが、小説だとディティール面の浅さはけっこう気になります。特定のものを題材にするなら愛がビンビンに感じられるような作品にしてほしいところ。

 

語彙 「恋人脳」

 うーん、これもまだ着想っていう感じかな。客観的な視点からの記述だけなので、ふ~んってなってしまってあまり没入感がないです。同じネタでも見せ方を工夫すれば小説になるでしょう。

 哲学の分野で度々取り沙汰される「水槽の脳」を題材にした取り返しのつかない嫌がらせのお話。皮肉や残酷さを読み取ればいいのかも知れませんが、淡々とした描写はなんとなくそういったものも想起されづらく、あまり感想の残らない読後感でした。

 これまた一場面だけを切り取ったような掌編。同一の世界観のオムニバスにしたうえで投げてきていたら評価も変わってきたかな、と思います。形式というのは大事。

 

ナハト 「罠にバナナは使わない 」

 話の大筋としては(ハッピーエンドまで含めて)ナチュラルボーンキラーなんですけれど、ミッキーとマロリーはそのようになる必然性みたいなのがそこそこあったのに比べると、彼女たちは特になにもなく軽ーいノリでやっていて、そこがかえって現代的な感じでわたしはよかったです。モチーフになっているバナナがちゃんと回収されるのも、構成として◎。たぶん地力がけっこうあるので中編~長編を書いてみましょう。

 思春期特有の生命と死に対する異常な関心を百合テイストで仕上げたどこかポップな印象のお話。女子高生が大した理由もなく人を殺すお話は良く見かけますが、ブービートラップピタゴラスイッチ的に虐殺する、という点は新しいと感じます。折角なら全部とは言わないまでももう少しその具体的な手順について触れて欲しかったです。

 不幸な偶然の積み重ねを利用した、ピタゴラスイッチ的な暗殺計画。天才であるわたしは見事に全校生徒を殺害したはずだったが、実は一人だけ生き残っていて……という筋書きは独創的で面白かったです。キャラクターもいい具合に狂っていますし、バナナアレルギーの伏線も上手に回収しています。短編としてのまとまりもよく熟れた印象の作品。

 

藤原埼玉 「桃色遊戯ツイスター」

 キョン!AVを撮るわよ! に代表されるエロ同人誌1P導入てきな入りは話が早いですね。書きたかったものを書いたのだろうという感じなので、よろしいのではないでしょうか。

 古き良きエロゲのワンシーンのような作品。個人的には、女性読者視点を潔く切り捨ててエロに全振りした侠気は嫌いではないです。ただやはり需要としてはニッチなジャンルになってしまいますし、一線を超えない主人公の弱腰ぶりも評価の分かれるところでしょう。僕が同じシチュに陥ったら自己処理はトイレでします。

 その情報必要ですか?

 え?

 スケベなおっさんの妄想が炸裂!! 実用的なエロというよりは思わず笑ってしまう感じですね。作者のアホな欲望がビンビンに伝わってきてよかったです。ところどころ残念なセンス(褒めてます)も感じられるので、今後ものびのびと妄想を育んでいってほしいところ。ただし事案だけは発生させないように。しかし女の子に股間を握られて「ふぐりぃぃいっ!!」て叫ぶのほんとバカだな。バカだなあ……。

 

dekai3 「本物山小説大賞殺人事件」

 天地天命に誓って、てんどんは三回まで。これぞKUSO創作という感じでもう大好き。ツッコミ不在でひたすらにボケ倒すてんどん芸。終盤になってようやく語り部が冷静になってきて「ゴリラが多すぎる」とか、控えめなツッコミをしはじめるんですけど時すでに遅し、そしてあえなく規定文字数に到達といったフィニッシュ。なにがすごいって、このテンションを20000字もひたすら維持できるその体力ですよ。書くのって読むのに比べれば圧倒的に体力が必要なので、作者と読者で体力勝負して作者が勝つっていうのは、もうそれだけでもすごいことなのです。

 楽屋ネタからの叙述トリック。不思議な世界観でお話としてはユニークですが、未完というか、プロローグ部分だけを読んだような読後感です。字数制限ギリギリだから仕方ないと言えば仕方ないのですが、やはり起承転結があるお話を期待してしまうので食い足りない感じがします。沢山出てきたゴリラの種類にはゴリラに対する情熱を感じました。

 タイトルの時点で出オチ。お、内輪ネタで笑わせにきてんな? 闇の評議会はそんなに甘くはねえぞ? でもクソすぎて笑った。サブリミナルゴリラというべきか、主人公がモノローグで回想を語る中、ガヤで延々と様々なタイプのゴリラが受賞コメントを述べているため、そっちが気になってまったく話に集中できません。読者の心理をうまくコントロールした手法は見事の一言です。このサブリミナルゴリラだけで大賞級の貫禄があるものの、ラストでなにもなく終わってしまったのがとにかく惜しい。期待値が高かっただけにせめてもう一発くらいパワーのあるクソネタをぶつけてほしかったです。やはり手数が少ないと、歴戦のクソ創作マイスターにはなかなか勝てません。とくに今回はハイレベルなコンテストになっているため、メインのクソネタのほかに隠し球のクソネタが用意できていたら、大賞に推していたと思います。

 

畑の蝸牛 「才能は、使ってこその才能です!」

 えっと、未完でしょうか。ちょっとあっちにいったりこっちにいったりで、まだ話が動き出してもいないという感じで、2万字までの規模ではないかなという印象を受けます。2万字という制限はわりと寄り道をしている余裕はないので一点突破でズドンといきましょう。

 全編一人称で進んで行くお話。笑いのツボや面白いと思うことの方向性は人それぞれなので他の方の捉え方はまた違うと思いますが、個人的には正直全体的に少しくどく感じました。どこがか、と言えば出鼻で「教室がうるさいから放課後応接室にいる主人公」って部分で「うーん?」ってなってしまい、一度そうなるとそこから先は主人公の悪ふざけ思考→セルフツッコミの流れのほとんどをくどく感じました。相性の問題だとは思うのでこの講評はあまり気になさらず、他の方の意見を重視してください。

 他人の才能が見える、という才能をもつ高校生の話。設定の着想こそひねりが効いていて悪くないのですが、残念ながら内容の半分は駄文です。饒舌な語り口でライトノベル的な雰囲気を出そうという意図は伝わるものの、無理をしているのか空回り気味。総じて駄々滑りしています。そのうえ『正直にぶっちゃけて』というように意味が重複している文章があったり、物語の展開がごちゃついていたりと全体的に雑です。クソ創作とはいえ推敲はしましょう。

 

アリクイ 「聖夜なんてクソ喰らえ!」

 ひどいですね(褒め言葉でない)。わりと本文のテンションが高めなのですが、そこに読者を引き込みきれずに本文と読者の温度差というか、距離が開いてしまっているというか、ポカーンとしてしまいます。あとがきのあたりで苦笑いを通り越して頭を抱えました。まったくひどいKUSO創作だと思いますが、まあなんにせよ進捗することじたいは尊いのではないでしょうか。

 ちょっと間抜けた悪の科学者がヒーロー戦隊を敵に回したり味方に付けたりしながら、クリスマスを台無しにしようと奮闘するお話。軽妙な語り口でスルスル読めました。ツッコミどころはないではないですが、物語の力がそれを上回って最後まで読ませてくれます。だからこそ逆に最後の最後がいわゆる「くぅ〜つかコピペ」なのが若干残念です。作者さんの照れ隠しかな? より多くの方にネタとしてきちんと伝わることを祈るばかりです。

 悪の組織視点のヒーローもの。天才科学者の主人公がクリスマスをぶちこわしにする怪人を製作する、という設定そのものはありがちなんですが……まさか『大量のうんこをひねりだす怪人』を作って町を汚染しようとするとは思いませんでした。知能レベルが恐ろしく低い(褒めてます。リアルに想像するとこれほど悪質な嫌がらせがあるかよという謎の納得もあり、まさにクソ創作と呼ぶにふさわしい内容でした。クソだけに。いい歳こいた大人がこんなものを書いてくるというのがもう地獄というか、お仕事でストレスを抱えてるのかな? とか心配になってきます。ほとんど寝てないかお酒が入っているときに読んだらゲラゲラ笑えそうです。

 

綿貫むじな 「兄と僕のことについて」

 第一回からずっと参加してくれている作者さん。文章はかなりこなれてきていて、成長が見えます。継続は力なり。ただ、今回はお話としてちょっと地味ですね。お前の無自覚な邪悪を暴き出す! みたいなところはエモくてアツかったのですが、そこがピークになってしまっていて、それ以降最後まで結局カタルシスがなく、バランスとして頭が重くて尻すぼみなので、あまり良くない。たぶん、語り部がただ出来事に遭遇するだけの観測者になってしまっていて、なんら主体的な行動を起こしていないからではないでしょうか。出来事を受けて、語り部になにかの決断と行動をさせ、人間の変化や成長を描くと高まると思います。

 良くある才凡兄弟の話かと思いきや一捻り半してあって面白く怖く読めました。シーンの切り取りが上手いな、と思わせる描写が幾つかあったのですが、平凡な弟が天才選手の兄の甲子園での活躍を電器店に沢山並ぶテレビで観るシーンは特に印象に残りました。表現したい登場人物の対比を、言葉や台詞でなくシチュエーションで上手に表現できるのは強みだと思います。因果応報で主人公が酷い目に合うお話なのに、どこか淡々としたカラッとした文体が陰惨な感じを軽くしていて読みやすかったです。

 スポーツをやればなんでも活躍できる天才の兄と、凡人であるがゆえに比較され続けた弟。しかし交通事故によって兄が挫折したことで、二人の関係は大きく変わることになる。内容としては兄と弟(天才と凡人)の確執によって発生した復讐劇といったところ。中盤で明かされる弟の隠れた『才能』はなかなか皮肉が効いていてよかったと思います。ただ構成面に少々難があるというか、殴られて意識を失う→場面が変わるという演出を多用したせいで展開が単調になっていたり、物語のラストに仕掛けが用意されていないため、中盤以降になると変化が乏しく淡泊な終わり方になってしまっています。綿貫さんの作品は風景の描写や心の動きについてはよく意識されているものの、シナリオ面がおろそかになりがちです。読者を飽きさせないようなドラマ作りであったり、この作品を読んでよかったと思わせるようなカタルシスの作り方を研究してみてください。

 

いかろす 「何が彼女らに起こったか?」

 いきなり不可解な状況からバーン! とはじまって、つぎつぎと極端でゴージャスな属性のキャラがバーン! バーン! と出てきますが、こうまで飽和すると「そういうもんか」とすんなり受け入れてしまいます。完全に足し算の創作法で、比較的うまくいっている事例じゃないでしょうか。オチの抜け感も、まあこれくらいの規模ならこういう感じかなという納得もあり、嫌いではないです。同じ創作メソッドで長編いけそうですね。

 学園ミステリらしい学園ミステリ、と言ったらいいんでしょうか。ただこれは作者さんも分かってるとは思いますが学園ミステリの型枠をなぞり過ぎかな、とは思います。折角一本お話を書くのだからもっといかろすさんならではの味というか、ほかの学園ミステリに埋もれない何かを説得力ある形で盛り込めるようになると、グッと入賞などに近づきやすくなるんじゃないかと思います。

  書こうとしている内容こそなんとなく伝わるものの、全体的にとっちらかっているため、かなり読みにくかったです。文章そのものを抜きだした場合は問題がないので、説明すべき情報を提示する順番が整理しきれていないのだと思います。作者には全体像がわかっていても、読者はそうではありません。頭の中にあるイメージをどういう順番で、どう表現したらわかりやすく伝わるのかを、考えつつ書いてみてください。ミステリはとくに難しいジャンルですから、他の書きやすいジャンルで慣らして経験値を貯めてから、再挑戦してみるのもいいかもしれません。

 

アイオイ アクト 「W・ダブル」

 三角関係なんですけれども、ある情報を意図的にシールしたまま進行していきます。それゆえ、読む人によって解釈がわかれるだろうという、そういう仕掛けの作品。20000字という制限の中で作中作を盛り込むのはちょっとギチギチかなという感じはします。作中作のところでスピードダウンしてしまう感じがあるし、具体的に描くことで具体的に描かれてしまうという弱点もあるので、作中作のウェイトを絞ってでも本編のほうを厚くしたほうが読み心地はよかったかも。

 某特撮変身ヒーローがストーリー上大事なポジションで扱われていて、それの作品は僕も大好きなので親近感を覚えました。お話には実験的な試みがされていて、作者さんの着想の柔らかさには感心します。あまり具体的すぎると年代が特定できてしまい、物語自体が古く感じるデメリットはありますが、そこは折り込み済みなのでしょう。読む側からすると作中人物のビジュアルを想像しにくいのは読み進めて行く上で作品世界への没入に不便かなと感じました。また作中の演劇シーンが丸々収録されているのは少し冗長かも知れません。僕は元演劇部で、演劇部ネタは好意的に受け止めたいのですが、世の中には「演劇」というジャンル自体に対して受容体を沢山もつ方とそうでない方といます。舞台上の演劇シーンはさらっと触れるか大事なシーンのダイジェストとかの方が、より多くの人に取って読みやすくなるかも知れないな、と感じました。ただ、何となくありふれた杓子定規なお話を書くのではなく、何か新しいものを、今までにない読書体験を、と挑戦的に探って行く姿勢はキャリアを問わず我々物書きに共通して大切なことだと考えるので、その在り方は今後とも大事にしてほしいと思います。

 演劇部を舞台にした青春小説。脚本家の主人公、演出家のヒロイン、監督の先輩……の三角関係と演目の内容がシンクロし、切なくも甘酸っぱいラストに繋がっていきます。この空気感はいいですね。書きたいものをイメージしたように書けていて、確かな実力がうかがえます。オリジナリティやインパクトという面では若干の弱さがあるものの、そっち方面を伸ばしていくよりは地に足ついた作品を書き続けてほしいところ。こういう作風の場合、キャラの可愛さ(今作はやや個性に乏しいです)であるとか、読者の記憶に突き刺さるような心情描写を磨いていくと、さらに強くなると思います。

 

 ボンゴレ☆ビガンゴ 「【短編】蝉の声」

 ビガンゴくんも最後の一行で全てをひっくり返す技をとうとう覚えたか、という感じなんですが、なんていうかこう、そっち方向に発揮したかという感じで非常に神妙な顔になりますね。意図した効果は発揮していると思いますので、成功か失敗で言うと成功なんでしょうけれど、読後感はわりと最悪です。おそらく、作者が意図した通りに。

 ストーリーラインの練り方が優れていると感じました。特に最後のセリフでさくっと心を刺す感じは意地悪であり、巧みでもあります。似たモチーフのお話に比して、主人公視点のモノローグ形式が非常に活きており、またその主人公の辿る事件の顛末のシチュエーションが特異でありながら自然に展開されて行って、作者さんの設計の上手さを感じました。全編に通奏低音のように流れる物哀しい空気感は好きです。

 ……え? これをビガンコくんが書いたの? マジで? というのが率直な感想。ちゃんと考えて書けやお前! と別の作品で講評をつけたのに実はちゃんと考えた作品も出していた事実が判明してわりと困っています。終盤で判明する真相は意外性があり、そのうえ作品のテーマが同時に提示されるため納得度が高いです。ラストの台詞も切れ味があっていいですね。闇オブ闇という感じ。ていうかほんとにこれビガンコくんが書いたの? ぱおーん!とか言いながら? なにそれこわい。

 

こむらさき 「日呂朱音と怪奇な日常」

 あ~、いいですね! 好き! この作者さんにしては珍しい現代が舞台の怪奇もの。やはり文に現代的なセンスがあるタイプなので異世界ものよりは現代ベースのほうがしっくりハマる気がします。今までの作品の中では一番好き。オリジナリティには乏しいですが、そのぶん煩雑な説明などを回避して簡潔に済ませれるし、キャラクター造形も話の運びも一定の水準は超えていて、これはひとつなにかの壁を突破した感じがあります。基本の型に沿って物語を完結させる力は充分に備わっているので、あとは自分なりの個性をもっと強く出していけるとさらによくなるんじゃないでしょうか。今回の話でも多少片りんはありますけど、こむらさきさんは人間の暗部を描くのが本当に上手いので、つまり、胃壁がキュンシリーズとのハイブリッドですよ(ろくろを回す)。連載にも耐える設定なので、アレならこのまま続きを書いていってしまうのもいいんじゃないでしょうか。

 学園ミステリの導入から始まり怪奇ロマンな感じに着地するお話。怪異に対していわゆるチートな能力で圧倒するのではなく、三つの手掛かりがないと倒せない、というのはいいアイデアですね。オバケが出た→倒したという一本道じゃなくて物語に起伏やバリエーションが作れるし、例えばそこにヒロインなど他の人物を絡めて仕事をさせられる。またストレートに見た目がカッコいい主役を登場させているのも有効に働いていると思います。一つだけ、主人公が日常から怪異に踏み込む時、話の信じ方がスムーズ過ぎる気がするので一つ小さな怪異の証拠を挟むと日常から非日常への場面転換がシーンの一つとして活きるかなと思いました。

 冒頭で違和感なく設定が説明されているうえに、物語に引き込むことにも成功しています。こういうスタートが切れる作品はある程度の完成度が保証されるので、安心して読み進めることができました。とはいえ一定のまとまりこそあるものの、どことなく既視感を覚える読み味で期待していたほどの面白さではなかったです。これはこれで需要があるとは思いますが、クセのあるスパイスを混ぜたほうがより完成度の高い作品になるかもしれまん。地力はあると思いますので、今後は個性を磨いてみてはいかがでしょうか。

 

葛城 秋「K/冬の屍体」

 んー、ミステリーっぽいフォーマットではあるんですけれど、謎解きの要素はあまりないですね。強いて言うならフォーカスはワイダニットに合っているとは思うのですが、動機も極端ではあるものの「そうきたか」と思わされるような目新しさがあるわけでもなく、まだちょっとバラけている印象。現代風のガジェットを盛り込みつつ陰惨な事件をミステリーして青春小説として着地させる、という試みは本質的に水と油を混ぜようとしているわけで難易度は高いです。難易度が高いことに挑むなら覚悟を決めて腰を据えてやるしかないし、手に余るならもう少し手をつけられる題材からやっていったほうがいいかも。

 異常連続殺人の顛末をコンパクトにまとめたお話。字数に対してプロットが窮屈だったかな、という印象。殺人は件数を絞って、真相への伏線や犯人の異常さを丁寧に書いた方が一つ上のクオリティを目指せたのではないでしょうか。異常な犯人の書き方は色々な手法がありますが、安易なヒャハハ系に走らずに異常な人間の描写をもう一工夫すると更に印象深いお話になると思います。

 行方不明になったK。彼と関係のあった少女たちは次々と惨殺され、その身体にはKの肉体の一部が埋め込まれている。そして新たに容疑者として浮上するX……。最初のほうはかなり面白そうな雰囲気だったのですが、物語が進むにつれてシナリオが粗くなり、同時に文章も荒れていきます。後半になるとファンタジー設定まで飛びだすので、冒頭の期待値からすると消化不良感が残りました。やはりラストがよくないと評価も上がりづらいです。とはいえ全体的な質感であるとか、読者に興味を引かせるような導入はよかったので、伸びしろはまだまだありそうな印象。数をこなして完成度を上げていってください。

 

 姫百合しふぉん 「ブラックダイアモンド」

 安定のいつものしふぉんくん。ゴージャスで耽美な文体のちからは相変わらずで、非常に筆力の高い作者です。もうちょっと一般ウケも狙ってみては? みたいなことはずっと言っているのですが粛々と進捗し続けているのでたぶん言ってもダメなんでしょう。このままどこまでも突き進んでほしいと思います。

 文章を書く能力が高いのは一目見て分かりましたが、この技法は好みの分かれるところかと思います。食べる量の好みに似て、これくらいガツンとした文面が読み応えがあると感じる方もいれば、ちょっと胃に持たれるなぁと感じる方もいるのでは。それから比喩表現に少し力か入り過ぎかな、と感じたのですが、僕は一話目で主人公がソナタを弾いているのか、音楽を聴きながら絵を描いているのか本気で混乱しました。勿論これは僕の読解力に寄るところもありますが、読んで貰ってこその小説という面もあるので、読み易さを意識して文章や比喩の演出をもう一工夫すると、読み手の敷居は下がり、読み手の幅がグッと広がるかと思います。

 ザ・耽美。詩的であり官能的であり、文字の洪水のような語り口。そこから紡ぎ出される、身を焦がすような愛と憎悪。文体としてはかなりくどいものの、目指そうとしている作品に適した表現手法なのでこれはこれで正解だと思います。とはいえ最後まで同じリズムで進むため、やや単調になっています。だーっと長い文章が続いたあと、短い台詞をぽんと置いて止めるとか、なにかしらの変化がつけられるとなおよいのではないかと思いました。演奏もずっと音が続かせるわけではなく、『無音』の瞬間をアクセントとして使ったりします。そんなふうに行の余白をうまく利用してみると、面白い効果が得られるかもしれません。

 

不動 「先達」

 時代ものですね。歴史に詳しくないし、予備知識なく漫然と読んだので史実に忠実なのかどうなのかとかは分からないんですが、たぶん史実通りなのかな? なので、そんなに派手なことが起こるわけではないんですけど、ちゃんとキャラクターの成長も描いていて、面白かった~! っていう感じじゃないんですけど、読んで良かったなって思うような、そんな佳作です。中盤以降、現代風の言い回しが出てくるのは、わたしみたいな層には読みやすくて良いのですが、小童なみの感想、とかそういうのはどうなんだろう? バランス感覚が重要かも。

 今回講評をさせて頂くにあたり「学園ミステリとは」「天才とは」「笑える話とは」を考えさせられるお話は幾つがありましたが、「ラノベとは」を考えさせられた本格歴史小説にパラメータをほぼ全振りしたお話。所々に現代風の表現も散見されますが、ガチ過ぎて敷居が高いのは否めません。ただ、「俺の生き様を見よ」と言わんばかりの作風は、男気しか感じず、嫌いではないです。変に学園ハーレムとかにぶれずにこのまま突き進んで欲しいです。あ、でも逆に歴史美少女ハーレムものとかを書いて見たら持ち味と需要が噛み合ったりするかも知れないです。

 時代小説風の書きだしではじまったかと思いきや、次第に雲行きがあやしくなり、気がついたらラノベ風に文体が変わっている歴史絵巻。たぶん書いている途中で時代小説風の文体がしんどくなったのか面倒になったのか、とにかく最後までこらえられなかった作者の心情がビンビンに伝わってきます。内容自体はわりと好みだったので、ラノベ調の文体でないと速度が出ないなら改稿してそっちに統一するか、あるいは時代小説風とラノベ風の文体が入れ替わる前提で(そういった演出が活きてくるような)仕掛けを作ってみると面白いかもしれません。

 

warst 「木梨雄介はオカルトを信じない」

 ミステリーの皮を被せたラブコメ。トリックなんて飾りです! ってつねづねわたしが言っているのはこういうことですよヒロマルくん。人が死なない、いわゆるコージーミステリーで、解き明かされる謎じたいは「ああ~、そういうのあるある~」って拍子抜けしてしまうようなチープさなんですが、そこは主題ではないので、むしろ「ああ~、そういうのあるある~」であるほうが良いわけです。一話完結じゃなくて、複数話を使って徐々にもどかしい関係性を進展させていってほしいですね。

 ちょっとしたオカルティックな謎とその解明に絡めた実は割とストレートなラブコメ。主人公の合理主義者の朴念仁視点で物語は進んで行きますが、そんな彼に読者がヤキモキするという構造は視点人物の体たらくだけにより濃くヤキモキを感じることができます。個人的にはヒロインの描写にもう少し力を入れて、読者がよりヒロインを好きになれるとヤキモキの濃さも結末の痛快さも際立つかな、と感じました。

 オカルトを否定するためにオカルト研究部に所属している、というヒネくれた主人公の日常系ミステリ。ガチの怪奇現象もしくは事件解明系ではなく、実際にありそうなちょっとした不思議を解決していくタイプの作品。謎の規模や仕掛けは概ねスケールが小さめで、高校生の男女がわいわい探偵ごっこをしているような感じでニヤニヤできます。とくに相手役の女の子が魅力的で、かなりあざとい感じで主人公に好き好きアピールをしてきます。乾ききったおじさんの心と股間に響きました(最低の感想) Warstさんは女の子というか可愛い生きものを書くのが巧いので、今後もこんな感じでほんわかするような物語を書いていくとよいのではないでしょうか。

 

ひどく背徳的ななにか 「弑するニンフォマニア

 堅めの文体ですが読みやすく、文じたいがかなり上手いです。極端な属性を与えられているにも関わらず、人物にも生々しさがあって、ここも上手い。津村は悪の教典の蓮見を連想させる真性のサイコパスで、こういうキャラは安っぽさが垣間見えると一気に台無しなので扱いが難しいんですが、成功していると言えるでしょう。単純に、紙幅の都合でダイジェスト感があるので、中編~長編として再構成してみてもいいと思います。

 倒錯したヒロインと倒錯した同級生が犯す殺人の物語。主人公に変わった身体的特徴を持たせるのは勇気ある決断だと思いますが、この作品ではそれは成功していると思います。個人的にはどの人物にも感情移入し辛く、お話全体としても後味の悪さを感じましたが、そのあたりは作者さんの計算通りかと思います。文章も人物造形も上手なので、もう少し明るいモチーフの作品も読んでみたいです。

 男に触られただけで性的興奮を覚えてしまう女子高生。彼女はクラスメイトのサイコパスレイプ野郎に父親殺しの計画をもちかける。ニンフォマニアのわたしとゲスの極みボーイのおれの一人称が交互に入れ替わり、強姦、自殺、虐待、近親相姦と、闇系のイベントをこれでもかと見せつけつつ、意外性のあるラストを迎えます。このタイプの小説はいわゆるファッション感というか、『俺こういうの好きなんだぜえ狂ってるやろ、お?』みたいなドヤ顔と思慮の浅さが見え隠れして辟易することが多いのですが、この作品は地に足ついた闇系でよかったと思います。ただラストで描かれるサイコパス津村の動機であるとか、娘に暴行を働く父親のキャラクターはややベタな印象を受けました。読者を本気でゾッとさせる異質感というか、こいつマジでヤバいな……と感じさせるくらいの狂気を描ければなおよかったと思います。

 

海野ハル 「【新】わくわく☆ドリームランド R-15」

 手間の掛かったKUSO創作ですね。すべての漢字とカタカナに振られているルビ、唐突にブチ込まれるアスキーアート、登場キャラがすべてゲスな上に人間関係もドロドロという、もう本当にひどいKUSO創作です。この場合、KUSO創作とは褒め言葉です。最後まで苦笑いのまま駆け抜けました。なによりもこのテンションを最後までやりきった体力が素晴らしい。よくできました、偉いね~。

 一見するとネタに走ったおふざけ小説ですが、その実ミステリの作法をきちんと踏まえたおふざけ小説。作中の推理が進む中で容疑者が二転三転する展開のテンポの良さは気持ちよかったですし、作者さんのお話の設計の確かさが見て取れます。小説に書かされているのではなく、書きたい小説を計画通りきちんと書けている、パフォーマンスに再現性のある実力を感じました。

  あ、そうそう。再現性というのはプロを目指すなら重要な要素ですね。ノリでやっているように見せかけて、実はちゃんとプロトコルがある。

 児童文学風の文体で猟奇ミステリを書く、というクソみたいな発想で書かれた短編。ロケットスタートは切れたかなという感じはあるものの、後半はややごちゃっとしてしまった感じ。インパクトを重視する場合、シナリオはもうちょいシンプルにしたほうが面白くなったかも。評判をみるにクソめんどくさいルビ振りをやっただけの効果は得られたようですが、本物川大賞の上位に来そうな作品と比べるとスピード感で負けています。こういうものを計算で書いていると、思い切りよくぶっこまれるナチュラルクソ小説に勝てません。

 海野先生は根本的に生真面目だからね。

 テクニカルであるぶん、オミットされてしまうスピード感をどうカバーしていくか。それが今後の課題だと思います。 

 

5Aさん 「粗チン童貞と変態処女だけが世界を救う術を知る。」

 ひどいタイトルですね。しかし、非常にラノベてきなアプローチで、ラノベてきに上手に仕上がっていて、なんていうか意外に悪くないんですよ。文も詰まるところはないし、小まめにクスクス笑えるし、なんだかんだで最後まで一気に読んじゃったしで、たぶん普通に上手いのだと思います。でも、なにしろ話が話なので素直に褒めづらくて苦笑いするしかないみたいな。KUSO創作のお手本のようなKUSO創作でした。

 今回の並み居る実力派の作品の中で、「俺のラノベ」のど真ん中に投球している数少ない作品と感じました。エロ要素、バカバカし目の設定、そして秒速で出てくるメインヒロイン。個人的な物差しですが実にラノベらしいラノベとして書けていると思います。実はこれって結構重要なんじゃないかと僕は思っていて。テーマやお題に対して裏を搔こう裏を搔こうとする人もいますが発注に対して正しい出力ができる、と言うのは商業を意識するなら必要な能力だと考えるからです。勿論それだけじゃなく、正しい発注内容で出力した上でプラスアルファは必要ですが。下ネタ寄りですが変にやらしくなくて爽やかに読めたのは作者さんの持ち味だと思うので、今後もこの方向性を大切に頑張ってください。

 ザ・クソラノベ。クラスメイトの美少女に「ちんこみせろ」と強要される主人公。実は主人公のちんこは約束されし勝利のちんこ『えくすカリバー』であり、世界を滅ぼす存在である悪魔を倒すために伝説のちんこパワーを覚醒させなくてならなかったのだ……というクソみたいな内容。ただ悔しいことにあまりにもくだらなさすぎて笑ってしまうというか、語り口の軽妙さであったり、主人公どころかその母親までナチュラルに狂っていたりで、ただ「クソラノベを書いてみたよわあい」だけでは終わらない芯の通ったキマりかたをしています。正月になって病院が閉まる前に念のため頭の検査をしてみることをおすすめしますが、これはこれで本物川大賞らしい作品といえるでしょう。おじさんは好きだよ、こういうの。

 
左安倍虎 「井陘落日賦 」

 左安倍虎さんの得意な中国の歴史ものですね。安定して上手い作者です。こういうものとして読んだ場合、もう完成されているので特に言うべきことはないので、あとは本人の意向として、どこを主戦場にしていくのかとか、そういう話になってくると思います。ラノベ領域に食い込んでいこうとするなら調整が必要でしょうけれど、広義の文筆業はむしろ「安定して上手い」が求められる領域のほうが広いと思うので、うまく入り口を見つけてマッチングさえ上手くいけば、このままでも商業のお仕事ができそうです。

 ラノベの軍師・策士は上から目線のすごい知略を説明してる口調で、ひどく安易な伏兵や設置型の罠の説明をしたりするイメージがありますが、この作品の軍略家達の戦いは鎬を削る「人の心」の読み合いであり、お話を読み終えた後に一つ賢くなったような得したような読後感があります。作中キャラクターも実在の武人をモデルにしつつアレンジが施されていて、結末も血みどろの合戦の時代のお話の割には驚くほど優しく牧歌的で、作者さんの人柄が滲んでいるように感じます。個人的にはタイトルやあらすじ……勿論お話の内容に対し的確なタイトルやあらすじなのですが……で損をしてるかなと言う気が。難しい漢字の羅列になるのは仕方ないにしてももう少し敷居が低い感じにできたらな、みたいな。こう言う良くできたお話を今の若い方たちにもっと読んで貰いたいので、その辺りを一工夫すると急にPVが回り出したりしないかな。面白かったしサイズの中で良く書けているいいお話を読ませて頂きました。

 かの有名な『背水の陣』の、裏話的なエピソードを描いた短編。持ち前の知識を存分に発揮した本格派の時代小説でありながら、キャラクターの台詞回しにケレン味があり、万人に通じる面白さを備えています。なんでこんな格調高い作品がクソ創作コンテストに……という困惑すら抱く出来で、明らかにハイレベルであることは伝わるものの、こちらの勉強不足ゆえに評価しきれない側面もあり、審査する側としては心苦しいところ。やはりこの手の歴史絵巻のほうが持ち味が活かせると思うので、なんかそっち系の賞(よく知らない)にチャレンジしてみてもいいのではないでしょうか。

 
クロロニー 「人の嫌い方」

 この人もご新規さんですが、上手いですね。そして、新規の上手い勢がのきなみこの手の暗い話を書いてくるので、なにか共通の傾向でもあるのではないかといった別の興味が立ち上がってきます。主人公の体質は普通なら無関係の事件に主人公がコミットしていく理由付けなどに使われそうですが、これは逆で主人公の性質ゆえに成立した事件になってますし、「人を嫌う」というのが一種の成長として描かれているあたりもツイストがきいていて良いですね。これも中編~長編の規模で読みたいかな。

 連鎖する悪意が引き起こす不気味な出来事とそれが原因の殺人のお話。冷静に考えるとツッコミ所はあるはずなのに、文章や読ませ方の巧みさで「実際にありそうだな」と思わせる作者さんの技量には唸ります。個人的に僕自身が作中で「悪意」を扱うのが苦手で、そこが上手なのは羨ましいです。作中の出来事を通じて主人公に変化が起きた上での痛烈なラストにプロット段階のセンスの良さを感じます。後味悪い題材を扱いながら小気味良い文章と展開のテンポで気持ち良く読めました。

 人の死に引き寄せられる兄と、表情を失った妹。登校拒否、妊娠、赤子の遺棄、惨殺死体と、けっこう容赦のない展開。ダークな雰囲気をうまく表現していますし、全体的な完成度は高かったと思います。妹の話とクラスメイトの話が最後に交わるのですが、その繋ぎ方がけっこう強引な感じ。物語として破綻している、というレベルではないので文庫本一冊程度であれば気にならないかもしれませんが、短編の場合はクッションとなるエピソードがないため違和感が出てしまいます。二万字程度の分量であれば、どちらかのエピソードに絞ったほうがスマートだったかも。

 
有智子 「北斎の梯子」

 すっごい好き。なんだけど、わたしのこの評価は初見の人にはあまり共有されないかな? 種明かしをすると、実はこれ有智子ちゃんが書いてるメディエーターってシリーズの外伝に相当してるんですね。森博嗣とか上遠野浩平とかがよくやる、別シリーズと見せかけておいて実はクロスオーバーでした~ってやつなんです。実は加部谷でした~とか、実は練無くんでした~とか、実は睦子おばさんでした~とか。で、そういうのを抜きにしてコレ単品で考えると、ちょっとオチが唐突なのかなぁって感じはします。でもメディエーター読んでる前提だとほんとアレなので読もうね。

 冒頭から情感たっぷりにモノローグが綴られ、失踪した天才画家という謎を軸にした物語に引き込まれます。しかし肝心の真相が明かされる場面になって、唐突にファンタジー設定が出てくるので面食らってしまいました。これは本当にもったいなかったです。プロット単位で抜き出すと意外性もあって悪くないシナリオなのですが、如何せん料理の仕方を間違えた印象。この内容であれば、序盤から「ファンタジー的な要素もあるよ」ということを匂わせるべきです。たとえば主人公が『人には見えないものが見える』力をもっている設定を入れてみるとか、幽霊や怪異を交えた短いエピソードを加えてみるとか、結末にいたるまでの準備を前もって仕込んでおきましょう。そうすればぐっと読者に親切な設計になり、目指そうとした作品により近づくはずです。

 ああ、そう。なんの前提もないとそういう評価になるよね。メディエーターを先に読んでると「境界」という語が出てきた時点で「あっ! あ~~っ!!」ってなるんですけど、初見の人に対してはまったく機能しないので、これ単体で評価すると辛くならざるを得ない。

 最後まで読んで「そうかぁー、そっちかぁー」と真夜中に声を上げてしまいました。まず特筆したいのは作者さん自身の感覚の鋭敏さと、それを的確に言語化できる能力の高さ。それが文章に生き生きとした色彩で描かれていて、なんでもない地の文に感動する自分に気付いて敗北感があります。作中の「天才」の造形や描写も見事で、恐らくですがモデルにした実際の芸術家の方の数人分のエピソードで構成したのかな?とお見受けしました。「それなら誰にでも書けるじゃん」と思ったあなたは是非実施してください。確かな取材に基づいた人物造形を元に描かれたキャラクターの存在感や言動に血が通った感じは、頭で考えただけのそれとはやはり芯の通り方が違って見えます。そのやり方の編集というか匙加減がこの作者さんはとても上手い。だから、だから個人的には最後が。素敵なんですけど、最後の主人公と天才の対話とか分かるんですけど、個人的には最後まで人間ドラマで読ませて欲しかったと感じました。読書量と取材力、そして瑞々しい柔らかな感覚を合わせ持つ作者さんに素直に嫉妬する良作です。

 

Enju 「輝け!光線ガール!」

 前回の大賞では「コナード魔法具店にようこそ」で銀賞をとったEnjuさん。今回も短く、ライトで、スルスル読める、の三拍子が揃ったチャーミングな規模の物語です。序盤の掴みは最高ですが、中盤以降ひたすら肩透かしの連続なので、もうちょっと変化球もほしかったかな。何気にビームにもちゃんと理由付けがあったりして、このへんのアレをコレしてみたいな設定をうまくかみ合わせるのは上手っぽいので、さらに複雑なプロットにもチャレンジしてみてほしいです。

 お話を書く時には作品ごとに無意識にであれ意識的にであれリアルとエンタメのプライオリティのバランス調整が施されるものだと思うのですが、かなり思い切りエンタメ側にハンドルを切った作品。文章よりも映像……短編アニメなんかになると真価が発揮される作品かなと思いました。変に意外な展開を目指さずに、熱い王道クライマックスでも良かった気がします。後半繰り返し肩透かしされるのは一抹の寂しさがありました。

 胸からビームを撃てる女の子が地球を救うためにがんばる、ほのぼの日常もの。アイディアだけ抜き出すと高確率でスベりそうな雰囲気ですが、読んでみるとけっこう面白かったです。これは単純に作者にユーモアのセンスがあるからでしょう。ただ自分のセンスをうまくコントロールしきれていないというか、計算で笑わせるには今一歩足りていない印象も受けました。この辺りは書き慣れてくれば、自然と技量が上がってくるのではないかと思います。光るものがありそうなので、今後とも深く考えすぎず変なノリを突き詰めてみては。

 
@neora30 「異世界転生実況者」

 ん~、ロケットスタートは素晴らしかったのですが、話を膨らませる前から話をどう畳むのかに気を取られて体力が続かなかったような印象。物語というのは自分で100コントロールするよりも自走させつつギリギリ制動は保つくらいがドライブ感あって最高なので、まずは膨らませられるだけ膨らませてみましょう。

 着眼点はいいと思うんですが、アイデアを作品に昇華するに当たる手続きが充分に出来てないように感じます。米、ルー、牛肉じゃがいもニンジン玉ねぎがどんないい素材でも、生煮えで出されては美味しく頂けないように、アイデアという素材の味が最大限に活きるお話の構成を考えるのが我々物書きの腕の見せ所です。いい素材のパワーで押し切る方も中にはいますが、それは素材自体によっぽどのポテンシャルがないと使えないやり方なので、次回は設定やアイデアの魅せ方、活かし方を意識して書いてみてはどうでしょうか。

 アイディアは面白いのですが、それだけで終わっている印象。SF的な設定についてもどこかで見たような感じ(スピリットサークルあたり?)なので、オチも含めややパンチに欠けます。ユーチューバー的な実況形式を交えてなんかやろう、という心意気はよかったと思います。もう一回か二回お話を転がしてみるか、ラストに斬新な切り口を用意できていれば評価は変わったかもしれません。

 
ラブテスター 「空が帰って来た日」

 冒頭の世界滅亡のシーンは、この筆者が得意とするゴージャスな文体と合致していて非常に良いのですが、残念ながらそこが物語全体のピークになってしまっていて、それ以降、そこを超えるカタルシスがないように思いました。バランスが超絶竜頭蛇尾になってしまっている印象。描写において、花火のシーンが世界滅亡のシーンを超えている必要があるでしょう。また、「花火をあげる」→「空が帰ってくる」は即座にイコールで結ばれるものではなく、そのように考え得るロジックの提示が必要で、それが物語によって十分に成されていないように感じます。「花火をあげる」というミッションに対し、語り部が完全にただの観測者でこれといってコミットしておらず、また過程に障害もなにもないのも印象が薄い原因でしょうか。同じ設定で、行動に制約の多い少年少女を主人公に、空を取り戻すために花火をあげようとする物語だったら、冒険活劇に仕上げることもできたでしょう。

 終末に向かう閉塞した世界で、たった一人子供みたいな理屈の発明品を作る教授とその教え子の主人公のお話。このお話好きなんですけど、タイトルは違う方が良かったかも知れません。このタイトルなら、最後は暗雲を切り裂いて抜けるような青空がパッと広がって欲しかったし、多くの方がどこかでそう期待しながら読み進めるんじゃないでしょうか。想像の中の空が実際の空より美しい、という演出だとは思うのですが、小説という媒体を選んだ時点で劇中の風景は全て読者の想像の賜物になるわけで、素直に青空回復エンドか、花火に焦点を当てたタイトルかで良かったかも知れません。冒頭の神話のような終末描写は言葉選びが巧みでカッコ良かったし、全体に小説の作法にしっかり則っていて読みやすかったです。

 閉塞的な地下世界で生きる少年と、若者に希望を与えたいと願う老人の話。物語全体が一本の筋のようになっていて、すべてはラストの情景に向かって収束していく作りになっています。世界観もよく練られており「こういう設定であるのならこういうふうになるはずだ」というような描写が随所にみられ、物語に臨場感を出すために工夫しようという意識がうかがえました。とくによかったのは物語の鍵となるガジェットの選択でしょう。空への憧れ、閉塞感の打破、未来の希望、という作品テーマをうまく象徴していたと思います。あえて重箱の隅をつつくなら、冒頭の説明はなくてもよかったのではないでしょうか。読者に「ここはこういう世界なんだよ」と最初に提示しておくのは親切ではあるものの、この作品にかぎっては予備知識なしでぽんと放りだしたほうが効果的だった気がします。

 
@scoriac-pleci-tempitor 「バベルの天使」

 んーと、単純に短編のボリュームで収まる話ではないかなという印象。長編のプロットを見せられたような感じです。20000字はアレもコレもやるのには短すぎる制限なので、ちょっと詰め込み過ぎかな。文章を書く力じたいは高そうなので、もうちょっと一点突破型のプロットを組んで、そのぶん丁寧に描写を掘り下げると良いのではないかと思います。

 荒廃した近未来の現実と過去の現実、そして主人公の心象風景の鏡像である所の幻覚がおりなす不思議な雰囲気のお話。なんとなく読んでいて「沙耶の唄」を思い出しました。オチの真相に対するミスリードをもう少し工夫すると更に結末にインパクトが出たかもなと思います。文章自体は安定していて読みやすかったです。

 終末世界を舞台にした学園ミステリ。周囲が汚染され、幻覚作用のある薬を打たなければ死んでしまう環境の中にいてなお、平和だったころに犯した罪に縛られ続けている主人公の姿は哀愁を誘います。シナリオ単位でみると目新しさこそないものの、フォールアウト的な世界観でそれをやったことで不思議な読後感を生んでいます。薬の影響で現実と幻覚の境目が曖昧になっているのがとくによかったです。ただこの雰囲気であれば、物語の鍵となる天使が実在するのか、あるいは主人公が作り出した幻なのか、というところは最後まで語らないほうが情緒はあったと思います。

 

秋永真琴 「森島章子は人を撮らない」

 秋永さんは商業のほうでは主に少女向けを書いておられるのですが、webではもうすこし一般文芸寄りの作風ですね。別の短編「フォトジェニック」ともクロスオーバーしていて、そういうところもニヤっとします。もうわたしは秋永さんの文が好きすぎて小説として妥当に評価できない自信があるんですが、それくらい文じたいの居心地がよくてなんだかボーッと読んでいたくなるんですね。単純な文章力では間違いなくトップレベルでしょう。ただモノホン大賞においては文章の地力よりも、奇想天外な奇襲奇策不意討ち騙し討ちが評価される傾向にあるので、その点では厳しいかな。わりと「短編小説かくあるべし」みたいなフォーミュラにはまっている感じもあって、たぶん染みついた癖のようなものでしょうね、妙にお行儀がよいし、テーマ性もキャラクターの口から台詞として語られてしまっているので、すこしストレート過ぎる気もする。もっとはっちゃけたものも読んでみたいです。

 小説を書くに当たり大事なものは、という議論は掃いて捨てるほどあるわけですが取り分け「目」、世間や人や歴史や、ゼムクリップ一個でも、それらを見る「目」の感覚を蔑ろにする向きはないかと思います。このお話の主役の写真家少女からはその確かな目を持ち、鋭敏な感覚で持ってその見た事物を二次元に焼き付ける天才なわけですが、その才に小説家志望の主人公が嫉妬して打ちのめされるという物語の構造は、我々物書きには実感として真に迫る感覚があります。これは想像ですが、作者さんはこのお話に近い経験を実際になさっているのではないでしょうか。主役の二人をちょっと年の差のある女性二人にしたのも変に恋愛要素をねじ込まなかったのも正解で、すっきりした後味の清涼飲料水のように読み切ることができました。このお話好きです。

 冒頭だけで「ああ、この人はプロだな」とわかる文章力。うだつのあがらない女流小説家がアマチュアカメラマンの女子大生と出会い、若い才能に感化されて前向きに頑張ろうとする、てな感じの内容。若干の百合テイストを交えつつも、表現者として成長できない歯がゆさであるとか、若い才能に追い抜かれていく不安であるとか、プロとして生きるがゆえの苦悩や葛藤が情感たっぷりに描かれています。森島さんのキャラクターが『人当たりがよさそうなわりにけっこうズバズバ言ってくる』女の子なのが同時代性があってよかったです。最近の若い子はほんまこんな感じ。怖い。そのほか、コヅカくんの写真が代わり映えしないところに『表現者として停滞してしまう恐怖』が隠喩されていたりと、細部にいたるまで計算されています。ただ『一定の実力を備えたプロが磨きあげた武器を使って斬りつけてきた』というか、このレベルの人ならこれくらいの水準は当然のように越えてくるだろうなという感じで、思いのほか驚きは大きくありませんでした。今回はこれはこれで楽しませていただきましたが、個人的にはもっとチャレンジブルな作品も書いてほしいです。秋永先生のクソ創作が読みたいよお。大澤めぐみ農場を使って核実験しましょう、核実験。

 

不死身バンシィ 「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」

 最高でした……。もうなんかね、源次郎よかったな、ハナコよかったな、ってなってマジで若干泣きました。わたしももう闇の評議会やって長いですけど、KUSO創作で本当に涙ぐんだのコレがはじめてですよ。タイトルがコミック枠っぽい雰囲気で油断していたところで不意打ちで泣かされると評価にバリバリ加点がつきますね。完全に使い捨てのネタだろうと思ってた源次郎が最後まで持ってくなんて思わないじゃないですか。そんなんでこっこが取り出せるか! っていうのが、本当に封じ込めた魂の奥底からのぼってくる感じで謎に感動的なんですよ。とても良かったです。

 「シネマ競馬」をファンタジー異世界でやる、というアイデアの勝利。実況と解説の二人の軽妙な掛け合いも面白く、特に実況の名調子には作者さんのセンスが光ります。登場キャラクターもどれも突き抜けて個性的で、おふざけネタ小説かと思いきや全ての伏線を回収しての意外な大団円に感動している自分に気付き、リアルで「くっそwwwこんなのでwww」といい意味で思わされてしまいました。こんな瞬間に立ち会えるとは、この仕事をやっていて本当に良かった!

  一言でいえば異世界モンスター競馬実況。モンスターたちが入り乱れてレースを行うという内容は、ファンタジー好きにも広く受け入れられそうですが、本物川大賞の理念であるクソ創作としての完成度も高かったです。ユニコーンケンタウロス、ドラゴン、アースワーム、そして田崎源次郎。クソ創作に慣れたマイスターであれば、ただのおっさんである源治郎が物語の鍵になることは容易に予想できるはずですが……レースの終盤、思いもよらない展開で源次郎は活躍します。予想していたのに、横っ面を思いっきり殴られる感覚。これはなかなか味わえるものではありません。そのうえ源次郎を中心としたドラマは感動的ですらあり、まごうことなくクソ創作であるにもかかわらず、読者の涙を誘います。正直なところ「負けた……」と思いました。それくらい完成度が高かったです。文句なしの大賞候補。

 
大村あたる 「魔女泣かせの魔法」

 第二回本物川小説大賞受賞者。以前から「ユニークで偏執的な愛のかたち」みたいなのを一貫してテーマにしているっぽさがあって、今回のもそのユニークさがあるにはあったんですけれど、正直、それ単品で勝負できるほどの独創性があるというわけではないので、もう少しプラスアルファの加点がほしい。複雑なプロットや大仕掛けなどよりも、細やかな描写に光るところのある作者さんなのですが、今回は単純にあまり時間を掛けられなかったのかなという印象。

 突如不条理に幽霊になってしまった「僕」と変わり者のオカ研の女先輩のお話。ラノベっぽい一捻りラブコメの体で進んでオチがいきなり重かったので、どこでフラグ立て間違えたかな?と思ってしまいました。この感じで進むなら、個人的には甘酸っぱいハッピーエンドでほっこりしたかったです。シチュエーション造形的に脱出ゲームみたいなアプローチでも面白かったかも知れませんね。

 幽霊になった後輩と、黒魔術にハマっている霊感少女『魔女先輩』の話。冒頭から中盤まではファンタジー要素ありの学園ミステリなのかな? と思いながら読んでいたのですが、後半になると物語が急展開し、バッドエンド的なラストが綴られます。しかし唐突感が否めないというか、中盤までの雰囲気と結末がまったくマッチしておらず、別の作品をつなぎ合わせたような印象でした。明るいテイストから一転、バッドエンド……という展開で意外性をもたせたかったのかもしれませんが、よほど丁寧にやらないと読者を裏切るだけで終わってしまいます。

 

myz 「エメラルドギロチン」

 異世界ファンタジーベースなんですけれど、お話の展開のしていきかたはなんとなくミステリーのフォーマットに則っている感じ。それでいて、最後に明かされる真相がそこまで驚くようなものでもないのは、諸々の前提の共有が読者とうまくいっていないからでしょうか。魔法のある世界でミステリーをやるなら、なにができてなにができないなどの諸々のルールの提示をして、まず読者に「不可解だ」と思わせる必要があると思います。

 変わった殺害方法の職業殺し屋魔法使いのお話。主役たる魔法使いがとてもユニークな造形なので、このキャラクターの活躍をもっと見たかったと感じました。具体的には傭兵団か巡視官かどちらかと一当てワンアクションあって欲しかったかな。個性的でありなおかつ魅力的なキャラクターを想起できるのは大切な能力なので、自らの書いたキャラクターに自信を持ってもっと堂々と推して書いていいと思いますよ。

 魔法が存在する世界が舞台のミステリ。たとえるなら異世界必殺仕事人みたいな。硬派かつ堅実な文体で、序盤から終盤にかけての雰囲気はかなりよかったです。ただ肝心のラストに肩すかし感があり、悪い意味で予想を裏切られたような印象です。物語の軸となるトリックを補強する設定が、ネタばらしと同時に出てくるのがいけなかったのだと思います。この展開であれば『この世界には結界が存在する』『魔法のパワーを決めるのは想像力』の二つは前半で入念に語っておかないと読者は置いてけぼりになってしまいます。エピソードの中で伏線となる情報を提示するイメージで、構成を見直してみましょう。それだけで完成度は劇的に上がると思います。

 

 

 大賞選考

 

 さて、じゃあ大賞の選考に移りましょう。いつもどおり、闇の評議員三名がそれぞれ三つの作品を推薦して、そこから先はなんとなく合議で決めていく感じです。

 では、まずわたしから。「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」「君は太陽」「このイカれた世界の片隅に」の三つを推薦します。

 いろいろ迷いましたが「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」「針一筋」「井陘落日賦」で。

 俺は「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」「針一筋」「清潔なしろい骨」。

 オッ!

 これは……。

 大賞は文句なしで「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」に決まりなんじゃないでしょうか!

 まあ、アレ出されたらもうね。

 パワーがあり、設計も巧みで、何より単純に面白かったです。正しく本物川小説大賞らしい作品と言える気がします。

 決して小説書きとしての地力で他のプロ勢に匹敵するってわけではないんですけれど、自分の武器を最大限に活かせる設定、構成、文体を選択してきていて「今あるものでどうにかしよう」の理想形だと思います。

 斬新な切り口のファンタジー、クソ創作、ラノベ(コメディ)、すべての要素を満たしたうえで完成度も高い。ポテンシャル的には冗談抜きで俺ラノ受賞すらあり得る。

 読者の誘導も上手で、如何にも「思いつきのネタ小説ですよ」みたいなノリでスタートしてレースが進むに連れて伏線が張られゴール間際でそれが怒涛のように回収されるという痛快さにはヤラレタ! という感じでした。

 じゃあ第七回本物川小説大賞、大賞は不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」ということで! おめでとうございます!!

 おめでとう!

 ぱちぱちぱちぱち!!!

 次点は針になるのかな。

 そうですね。二票獲得は針一筋だけかな。じゃあ金賞は針一筋で決まりですね。

 天才に対する執着というか羨望や美学みたいなのが感じられて、テーマをよく描いていた。偽教授さんは現代物だとアレなのに時代小説系になると急に凄くなる。落差がすごい、あとは根気だけ。

 針一筋は逆に、文章書きとしての地力だけで押し込まれた感じありますよね。不死身さんとは対照的w

 コンパクトな分量の中に丁度いい配分で描写とストーリー展開が納まっていて、「天才」の描写の角度もありきたりより一つ上の切り口で、その満たされ方がまた一味にくい演出で、上手いなぁ!という感じでした。

 なにげに後宮絵師も好き。

 後宮絵師もよかったよね。このふたつが抜きんでていて、他はわりと苦笑いなのもあったので、もうこの路線で邁進するのが正解なのでは? とは思いました。

 良かったですね。あの女絵師の浮世離れ感。世話役の役人がただ泣いて終わるラスト。偽教授さんの作者としての知識や表現の貯蓄に厚みを感じました。

 偽教授さんは語りすぎないところに情緒があっていい。逆にクロノステッチだとそういうところが不親切で弱点になってる。

 さて、ここからが難しいんですけど。

 ですねw

  あと銀賞二本を選出しないといけなくて、得票一票は「君は太陽」「このイカれた世界の片隅に」「井陘落日賦」「清潔なしろい骨」かな。

 単純に俺は幻獣と針に並ぶ出来なのがしろい骨しかなかったから選んだ。次点は「空が帰ってきた日」と「Unbreakable~獣の呪いと不死の魔法使い~」と「蝉の声」かな。ビガンゴくんは最後まで選ぼうか迷ったけどしろい骨が邪魔をした。

 実はわたしも次点に針がいて、でもちょっと短いかな? というところで、評点シートで同点の「君は太陽」が抜けてきた。

 「森島章子は人を撮らない」もよかったんですけど。

 プロはマイナス査定からスタートするので、想定される完成度を超えてこないと選ばない。

 文章の地力は間違いなくトップレベルなんですけど、ちょっと喋り過ぎているかなって感じがしました。丁寧すぎるというか、ストレートすぎるみたいな。わたしは小説は伝えるものっていうよりも問うものだと思っていて、そういう意味ではちょっとくらい不親切でもいいんですよね。ポンと読者を放り出すような勇気があってもいいと思う。もちろん、秋永さんの水準なので求めてしまうことで素人が気安く手を出していい領域の話ではないですけど。

 クリームソーダは結構好きなんだけど、プロだからって理由でめっちゃディスってるみたいになる。

 まあ、まだ若いっぽいので、すぽんくんはこれからいろいろなことでヘコみながら逞しく育っていってほしいですね。まだまだ伸びしろに期待。あとはわたしの評点シートだと日呂朱音と怪奇な日常が僅差で次点にいる。

 あれもシリーズものの第一話としては良く書けてましたね。主人公の怪異への順応ぶりだけ気になりましたけど。

 たしかに、オリジナリティはまだいまひとつなんだけど、まずは型どおりのものを書けるってのが最初の一歩なので。しいたけさんは初見だからそうでもないと思うんですけど、こむらさきはもともと創作勢ってわけでもなくて、完全なモノホン大賞育ちなんですよね。わたしは最初から全部見てるので「とうとうここまで書けるようになったか」みたいな感慨もあります。

君は太陽」はなんというか登場人物も小説自体もその……昔の自分を見ているようで……なんかあるじゃないですかこういう時期。ないです?ニッチあるある?

 今回思ったんですけど「清潔なしろい骨」「君は太陽」「K /冬の屍体」「弑するニンフォマニア」「人の嫌い方」「木曜日に待ってる」「茜より朱く」「蝉の声」あたりの、ちょっとダークな作風。はっきりいって激戦区なので、かなり強く個性を主張していかないと、頭ひとつ抜けるのは難しいです。

 わかるー。

 そうなんですよ。倒錯した愛とその先の死は、創作畑ではいつか来た道でー。

 で、そのへんのカテゴリーから一本抜くなら「君は太陽」かなって感じだったんですけど、どっちみちその路線でいくならまだまだそれだけでは戦えませんよというのはありますね。さらなるツイストは必要だと思います。

 陰惨さやグロはインパクトありそうでないから独自の切り口がないと弱い。ビガンゴくんはいい線いってた。足りないのは情緒。

 「蝉」はストーリーテリングが上手でしたね。場面の移りかわりが読んでて楽しかった。

 で、そろそろ本当に銀賞二本を選ばないと。えっと、じゃあ「君は太陽」「このイカれた世界の片隅に」「井陘落日賦」「清潔なしろい骨」から各々一本を選んでもらって、せーの! で言う感じで。

 おk。

 了解です。

 じゃあ、せーの! 「このイカれた世界の片隅に」!

 「井陘落日賦」

 「井陘落日賦」

 おお~! というわけで、銀賞一本は「井陘落日賦」で決まりですね!! おめでとうございます!!

 ぱちぱちぱちぱち!!!

  議長、どんだけロッキン好きなの。

 えーだってわたしは本当にアレはギリギリで成立してる天才的なバランス感覚だと信じてるの。破綻してるっていう人もいるだろうってのは分かるけど、わたしはアレを評価したいの。

 ロッキンさんその辺の匙加減独特ですよね。

 ロッキンは天然の強さみたいなのがあって、型も基礎もなくてめちゃくちゃなのに、読める水準には仕上がっているっていう、それが不思議なんですよ。

 そうそう。自然体でさらっとセオリーにない動きをする。で、最後まで読めちゃう。なんなんでしょうww

 議長は粗さに優しいよね。

 粗を潰すよりは魅力を伸ばす方針。

 俺は粗さをカバーするために弱点を補強せよ、というスタンスなので評価軸が真逆。

 まあ、そのほうが公平な感じがしていいじゃないですか。あ、でもあと一枠だから自動的に銀賞二本目はロッキンで決まりだよ! やったね!

 あ、そうなるのか。

 議長の依怙贔屓の大勝利だ!

 ひどすぎる。

君は太陽」にも奨励賞とかあげたいなぁ。

君は太陽」は同じ方向性でいいと思うけど、さらに頭ふたつ抜けて次は大賞を狙いにきてほしいってことで、また次回がんばってね! 待ってるよ~~!! 

 じゃあそんなわけで! 第七回 本物川小説大賞 大賞は不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」でした~~!! 闇の評議会これにて撤収! 解散!!

 おつかれさまでした~。

 おつかれさま~。

 

 あ、そうだ!(唐突) 今回の評議員は全員なにかしらの課金方法があるので、ロハで頑張ってくれた闇の評議員になにかおひねりしたいって人は遠慮せずにジャカジャカ課金していってね!!

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