第十回本物川小説大賞 大賞は 阿瀬みち さんの『あし』に決定!

 


 

 令和元年6月18日から8月11日にかけて開催されました第十回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本、特別賞として眼鏡男子賞、謎の酔っぱらい賞、長髪イケメン賞、ソーヤ賞、あいこ賞、きみたり賞、が以下のように決定しましたので報告いたします。

 

 

 

大賞 阿瀬みち 『あし』

 

 

 

受賞者のコメント

青天の霹靂です。まさか大賞とは思ってもみませんでした。嬉しいです。やったー! 闇の評議員のみなさん、また、読んでくださった参加者のみなさんに感謝申し上げます。作品を読み合い感想を言い合うことで、楽しい時間を過ごすことが出来ました。プライスレスでプレシャスなワンステージ上の生活をありがとうございます!!!

 

 

 大賞を受賞した阿瀬みちさんには、副賞としてeryuさんによる表紙イラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。(検閲済)

 

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金賞 及び 長髪イケメン賞 鍋島小骨 『カラヴィンカの祝福』

 

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銀賞 花咲潤ノ助 『ティッシュの花』 

 

 

銀賞 及び きみたり賞 五三六P・二四三・渡 『ネクロオーガン』 

 

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眼鏡男子賞 灰咲千尋 『熱帯夜』

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謎の酔っぱらい賞 ささやか 『素晴らしき結婚』

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ソーヤ賞 イトリトーコ 『クジラの心臓』

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あいこ賞 げえる 『襲来日和』


 

 特別賞を受賞されたみなさまには、そのうち誰かから素敵なイラストが届くと思いますので、気長にお待ちください。(検閲済)

 

 

 というわけで、令和最初の夏を迎えた伝統と格式のKUSO創作甲子園、第十回本物川小説大賞を制したのは、阿瀬みち さんの『あし』でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名による、全参加作品への講評と大賞選考過程のログです。

 

 

全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。今日も痛切に祈ってますか? 伝統と格式のって第二回くらいからずっと言ってる本物川小説大賞なんですけれども、今回でなんと第十回ですよ、第十回。これはそろそろ伝統と格式のっていうのもあながち嘘ではなくなってきましたね。この調子で、二十回、三十回を目指してまったりやっていきましょう。

 さて、大賞選考のための闇の評議員ですが、またメンバーを刷新して、今回は、謎の眼鏡オタクさんと、謎の酔っぱらいさんに協力してもらってます。

 謎の眼鏡オタクです。よろしくお願いします。

 謎の酔っぱらいです。よろしくお願いします。

 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めてまいります。どうぞ、よろしくお願いします。

 謎の眼鏡オタクさんも、謎の酔っぱらいさんも、どちらも本職は漫画家さんということで、今回は評議員三名のうち二名が漫画家という、ちょっと変わった布陣になっています。物語を作るという点では共通するところもあるとはいえ、小説と漫画ではやはり色々と違いますからね。そのあたりで、講評にどう差が出てくるのかなども、なかなか興味深いんじゃないでしょうか。

 それぞれ独自に講評をつけた三人の評議員の合議で大賞を決定し、その過程もすべて公開しますので、ある程度の中立性と妥当性は担保できるものと思います。

 それでは、ひとまずエントリー作品を順番にご紹介していきましょう。

 

 

1. 大澤めぐみ 『シヴの眼、リネアの剣』

 今回は一番槍をとれました。大澤めぐみさんです。シェリガル狼という架空の獣を主人公にしたファンタジー。長編小説の導入部分といった感じでこれ単体で短編小説として成立しているかどうかは微妙なのですが、とにかく関係性を書きたかったということなのでしょう。補完関係にある相互崇拝依存いいよね。まあなんにせよ、進捗は正義です。

 場面だけ思い浮かべると第一話のような、序章かのような出会いの物語。しかし状況は絶望的で、救いがあるとは言い難い。シヴとリネアが恐怖や絶望では引き裂けないもので繋がった瞬間が煌めく作品でした。記号的なファンタジー世界というにはディテールが細かい作品なので、賢く誇り高い母マーシエルが語る「魔王さま」や「勇者」といった記号は少し浮くかも……記号はキャラクターの立場がわかりやすいので、親切でもあるんですが……。

 調和のとれたお話。文章の確かさ巧みさは言及するに及ばないのですが、著者の守備範囲の広さに眩暈がします。合体することで無敵になる百合、素敵ですね。蒸気帝国側の事情も知りたくなるし、この世界の描写がもっと見たくなります。シヴの視界で。

 

 

2. 春哉 『天使の墓標』

 わたしは個人的にこういうのを「死シリーズ」って呼んでるんですけど、鬱々としててポエティックで死が近いやつ。なんかみんな好きですよね。あまりにも多いので、わたしは基本的に死シリーズには評価が辛くなりがちなんですが、これは文と物語の雰囲気が一致しているのでそこまで鼻にはつかなかったです。全体的なまとまりはよく、基礎力は高そう。ただやっぱり、ちょっと文がゴージャス過ぎるかな。もうちょっと抑えてもいいかも。羊たちの沈黙の冒頭を想起させる天才の描写は、ありがちだけど上手にできていると思います。エンタメ小説としてのオチがなにかしらあると個人的には加点だけど、これ系はあんまり綺麗にまとめてもチープになってしまうのでこういうものかもしれません。もっと別な題材で書くとどうなるのか気になります。

 キャラクターが愛せるかどうかがポイントになるお話ですね。ビジュアルはばっちしなんですが、キャラクターの内面作りが気になりました。終始、繊細で美しい表現で説明されてしまっており、キャラクターへの感情移入の余地が少なくなってしまった印象です。繊細で美しいふたりの繊細で美しい関係さえあればいい! ということであれば、読み手を選ぶかもしれませんが、これでいいのかもしれません。これは個人的な好みですが、美しい表現でキャラクターを評するのは、ここぞ! というときくらいの塩梅がいいですね。

 要素、たくさん盛り込みたいですよね。これは自覚があると思うのですが、描写が過剰で、重文複文のオンパレード=読者に負荷をかける。負荷をかけるならば、その分カタルシスや快感で報いなければなりません。言葉が多いだけならよいのですが、そこにノイズ(微妙な誤用など)が交じってくると、文章自体の風格が下がってしまう。惜しいと思います。若い著者であればこれから語彙が増えるので、ゴージャスかつ正確な小説を目指していただきたいし、若くないと自覚する著者であれば、描写をそぎ落として読者の負荷を軽くし、描写と会話だけでメッセージを伝えられる作品に挑戦していただきたいと思います。構成面では、入院している栞を見舞う(結末よりも後の)シーンが序盤に挟まれている効果はあるのだろうか。栞のヴァイオリニストとしての経歴を最後に明かすなら、上記のシーンに伏線をしのばせてあるとかっこいいかもしれません。キャンパス→キャンバス、カンバス等(canvas)/猫かぶり→灰かぶり 等、簡単な誤字も注意してください。いろいろ申し上げてしまったのですが、物語を満たす雰囲気はかなり好みでした。最後、栞が卓斗に甘えるようになった様子は微笑ましく、未来を感じさせます。

 

 

3. 木船田ヒロマル 『転生者狩り 〜対物ライフルJK りんか〜』

 ヒロマルさんは完全に常連さんですね。わたしはヒロマルさんのは普段から読み慣れているんですけれど、今回は意識的に文体を変えてきているっぽくて、これはうまくできていたと思います。読みやすかった。お話の筋はちょっと散らかっちゃったかも。型としてはオーソドックスな行きて帰りし物語なんだけど、書き込みが浅いので本来はどんでん返しとして機能すべきところが空振りしている印象。異世界転生ものに乗っかるなら乗っかるで、もっと典型的な異世界転生もののフォーマットに従ったほうが色々と書き飛ばせるかも。

 少女が巧みに武器を操るビジュアルっていいですね!ハードボイルドJK。異世界転生のセオリーがわかっている人向けのお話のようでした。私の好みのキャラクターの美味しさ(キャラ萌えだとか、関係性だとか)成分が薄めですこし入りにくかったのですが、テーマと読後感は好きです。

 巧みだなぁと思いました。かっこいい文章。わたしは洋楽詳しくなくて、作中で主人公がきいている曲がどんなものかわからないのですが、お洒落な感じを受け取ったので成功している。魔弾の射手との撃ち合いのシーン、過不足ない描写でイメージしやすく、緊迫感もあってよかったです。いい話っぽいラストがちょっと物足りない気もしたのですが、他人事だった命≒血潮が、主人公の体内を巡り始めたというながれは好きだなと思いました。

 

 

4. こむらさき 『黒き獣は空を飛ぶ』

 どんでん返しはあるにはあるんですけれど、どんでん返しがあるところまで含めてわりとストレートな印象。まあこれも難しいんですけど、やっぱありがちなどんでん返しだとあまりびっくりしませんよね。あとは解釈を丸投げにしちゃうと読者はわりとスンと受け取ってしまうので、驚いてほしいところはわりと作者のほうで「ここ! 驚くところですよ!」って、なんらかのガイドはしてあげたほうがいいです。これも塩梅なので難しいんですけど、やっているうちにバランス感覚が身についてくると思いますので、引き続きやっていきましょう。文章はすごく巧くなってて、とても読みやすかったんですけれど、完全に女性向けのチューニングになってしまっているので、そこはちょっと間口が狭いかな? 

 サビ猫を飼っていたのでうれしい! 連載の第一話のような印象のお話。主人公と鴉たちが倒すべき敵、救済アイテムと鴉と主人公の関係、各パーツの繋がりが若干弱い気もしますが、話の流れはまとまっているなあと思います。そこらへんの設定を粗末なこととすっ飛ばすなら、尖らせるのはキャラクター萌えでしょうか……。作品の中でキャラクターの印象になにか変化がつくともっと嬉しいかもしれません。乙女を狙い撃ちするなら鴉の彼とか……。キャラクターに魅力を感じる時って、素晴らしさを説明された時ではなくて、思いもよらない瞬間を見つけた時かも、なんてわたしは思ったりしています。

 サビ猫はかわいいですよね。銀髪の美形に愛される猫というと、「綿の国星」を思い出します(あれは相手も猫だけど) やさしい語り口の文章は著者の魅力だと思うのですが、描写が冗長になるきらいがあって、もっと言葉を整理するとリズムよく読めるように思います。たとえば「耳が割れそうなほど大きい陶器の花瓶が割れるみたいな音」は、「耳をつんざく破裂音(破砕音)」でいいのでは…などと。鴉に出会う前のメイの日常が幸福でなかったとしている部分が、個人的には惜しいです。ハッピーエンドにするならば、メイを死期が近い老猫の設定にする(もしそういう想定だったらすみません)と、猫又になるくだりもスムーズに受け入れられそうです。あと、鴉を助けるために家を出るとき、なんとかして黒い羽根も持っていってほしかった……。

 

 

5. げえる 『襲来日和』

 面白かったです。好き。ものすごい雑なんだけど、その雑さがチャーミングで勢いとノリでなんか許せちゃう感じ。粗のないパーペキな小説もいいんですけど、粗があってもなんか許せちゃうみたいなのもそれはそれで親しみが感じられていいですよね。かなり短めなんですけど、このコンパクトさでガールミーツガールから世界を救うところまでやっちゃうスピード感が良い。強いて言うなら、主要キャラがふたりしかいないので、ふたりの性格は正反対くらいに設定したほうがメリハリがついたと思います。この調子で、次はもうちょっと長いのにも挑戦してみましょう。

 わ〜! 始まりから終わりまでのユルユル感がよかったです。するするっと読めてしまいました。ペールトーンでゆめかわふうな絵を描きたくなります。キャラクターが親しみやすくて良きですね……。仲良しを演出しよう! のシーンが好きです。ぬっこ……。好きな雰囲気だと、ほかには特に何も言えないですね……。

 脳内でヘタウマな絵柄のマンガのように読めました(ほめてる)。文体も好きです。ゆるい二人の関係性をゆるくたのしく可愛く綴ってあって、面白かったです。欲を言えば、読者サービスを意識するとしたら、ぬっこのビジュアルと教室内での立ち位置が見えてくるとよりよかった気がします。二人のキャラのギャップが少ないところが惜しい、きがします。

 

 

6. 白里りこ 『竜と騎士と女神の物語』

 起があって承があって転があって結があるって感じで、物語としては型通りに成立しているんですけれど、かなりミニマルな印象。もうちょっと各エピソードに厚みがあったほうが説得力はあがるかな。主人公の主体的な決断が、考えたうえでの行動というよりも、どうなるか分からんけどえーいやってしまえーって、目をつぶって飛ぶみたいなタイプのものなので、そこらへんがちょっと引っかかる。主人公の成長がひとつのキーなので、やっぱりそこはエイヤと思い切るだけじゃなくて、なにか考えたうえでの決断であってほしいかも。

 テーマが良いなあと思いました! 全体を通して思ったのは、主人公を成長させるときは読者も一緒に歩かせて欲しいなぁ……ということでした。主人公の抱えている問題と、体験から得た結論の想像以上の大きさに、「共感できる、わかる」というよりも「提供された」と感じたのが正直なところです。教訓めいた物語に感じてしまったのですね。全く別の姿になって本当の自分について考えたり(「私(?)」という表現が良かったです!)、考えて何かを選んで進む、という道筋は良いと思うので、そこをもうちょっと、一般論てきなものではなく、そのテーマを選んだ白里さんならではの部分まで掘り下げてみるのはどうでしょうか。その上で体験と主人公が最終的に得たもののバランスが取れたら、教訓めいた物語の印象から「いいもの読んだ……」という印象になるかもしれません。

 穴がなくて、教訓がきっちり盛り込まれてる、ちゃんとしたお話でした……という感想になってしまうということは、面白さ的にはちょっと物足りなかったということになるのかもしれないです。でも、着地点とまとめかたはよくて、信頼感のある文章も好感がもてました。女神と竜の間で板挟みになった時、竜側についた根拠が弱かったのは惜しい。最後は、タピオカなしの「ミルクティー」の方がいいように思いました。

 

 

7. ろじ 『純白の魔王』

 妙な体言止めがあって、意図的なものかもしれないんですけれど、たぶんあまり効果的でないので普通に書き下したほうがいいでしょう。現状では物語というよりは、物語の冒頭部分。設定を開陳したところで終わっていて、まだなにも物語が展開していないので、これをひとつの短編小説として評価するのはちょっと厳しいところがあります。次は設定を並べるのではなく、物語を転がすということを意識してみましょう。これをそのまま書き進めてみるのでもいいと思います。オチだけ決めてそこに向けて落とし込んでいくのが最初は楽です。

 せっかくの眼鏡男子が赤ちゃんになってしまったじゃないか!!!? 眼鏡賞を撃ち抜こうとおもったのですか? それとも甘党に差し出したケーキを「あ、お前んじゃなかったわ」と取り上げたかったのですか……? それとも眼鏡は全くの偶然か……。以降は偶然じゃない場合の話になるんですけれども、誰かを喜ばそうと思って要素を入れていこうというのはその誰かに刺さる可能性を高めるので良い方法だと思います。その場合に限らずですが、闇雲に、何がウケるかわからないけどどこかでウケて欲しい! は博打です。自分はこれが熱いと思う! ここでウケてほしい! くらい照準が合わせられるといいかなと思います。

 限られた紙幅での異世界転生お疲れ様でした。異世界転生って、主人公の認識と共に異世界のことが次第に見えてくる構成のものだと思い込んでいたのですが、神視点の異世界転生ってあるんだな、それって読みにくそう…と思いつつ、ぐいぐい読まさった(北海道弁)のは不思議な筆力だと思います。主格の格助詞を省略した描き方は好みが分かれると思うのですが、リズム感はアップしますよね。なんだろう、これ…講談なのかもしれない。主人公にはあまり感情移入できないのですけれど、この自覚のなさで異魔界を統べていけるのか心配です。頑張れ……。

 

 

8. ヘンリー大原 『日常の朝』

 行頭下げなどが不揃いなので、そこは揃えたほうがよいですね。お話じたいは面白いんですけれど、見せ方は洗練の余地がありそう。パンデミックものでウイルスが拡散していく過程そのものを主役に据えるのは、短編規模ではあまり相性がよくないかも。この程度の文字数でコロコロと視点人物が変わると、読者はどこに軸足を置いて読んでいいのか困惑してしまうので、短編規模なら徹頭徹尾、千景の視点から描いたほうがまとまりがよかったと思います。視点を個人に限定することで得られる情報が制限されてしまうので、もっと切迫した感じも出そう。全体的に淡々としていて、小説を読んでいるというより記録を見ているという感覚になるのは、事態を判り易く上から俯瞰してしまっているからでしょう。上から見下ろしていると、どうしても記録的になりやすい。ジオラマを作ったら、あとはひとりの人物に入り込んで、その人物からはなにが見えるか、なにが知れるのか、視点人物の知識と思考力で、得られた情報からどの程度まで演繹できるのか、などをしっかりシミュレーションしてください。

 なんだろう、一部ト書きのような語り口ですね……。やや入り込みにくい地の文でした。ただ、その独特のテンポがセリフに臨場感を作り出しているところがあって、セリフはかなり好きです! 喋っているのがそのまま文字になったようなのが好きなんです。スピーディな展開にも合っていたと思います。短編で消化するのはもったいないネタかもしれませんね。情報がプロットのごとく流れ込んできてしまい、医療サスペンスの楽しみが薄いかもしれません。

 キャラクター同士の機微などを廃したミニマルなパンデミック小説。後半の薀蓄部分を描きたかったのではないかという気がしてならないのですが、この読み味にテンポ感と専門知識、「心臓がえらい」という中部地方っぽい言い回し……もしかして、ヘンリーさんは町井登志夫先生では……?(違っていたら忘れてください……)

 

 

9. 伊予夏樹 『曼殊沙華の杜』

 エリーゼという西洋風な名前の主人公なのに、曼殊沙華という仏教由来の用語が出てくるし、魔法制史を研究している大学院生だったりと、なにか独特の設定があるのだろうなぁとは思うのですが、最後まで読んでみてもそういった特殊設定が活きるところがなく、現代ベースの怪異譚などでも成立しそうなお話だったので、特殊設定がたんに読者に無駄な負荷をかけるだけになってしまっている気がします。せっかく独特な世界を構築したのなら、その世界である必然性のある物語を紡いだほうがポイントが高い。今のところ、世界と物語が完全に分離してしまっていて、縒りあわされていない感じ。世界をまず作って、その上にポンと物語を乗せた構造になってしまっている。

 構成は理解できます。叙情的な、エモの予感もします。それでも読後の印象がぼんやりとしてしまったのは、キャラクターの魅力や、関係性の美味しさがもっと欲しかったからでしょうか。魅力的(だとされる)な相手との出会い、それを欲する主人公の欲望と、それができない理由、それでも手を取ってしまった主人公の心の動きと、相手の裏切り、永遠の別れ。良い流れがあると思うので、物語をひっくり返す「接触」という条件の色っぽさを生かすためにも、それぞれの要素をしっかり味わいたいです。さらりと書かれてしまうだけではもったいない……。主人公の心が大きく動いた、泣いた理由をもっと丁寧に扱ってあげると、印象に残る読後感になったかもしれません。

 幻想的で美しい情景が目に浮かびました。夢の中のお話ですが、現実世界では毒物である曼珠沙華を口にしたことで、元の世界に戻れなくなるフラグが立ったのかな……とか、まさに彼岸の花。黄泉の国のザクロのようなアイテムでしょうか。杜ができたときの神話的なエピソードもよかったです。「~ある」を多用した大仰な語り口は、好みが分かれるところかもしれません。主人公が魔法を学んでいるというのはまったくストーリーに生きてこなかったですね(普段書かれている作品世界のスピンオフだからかな?)

 

 

10. 村井篤浩 『カルピス属性付与店の夏』 

 カルピスってなんか無条件にノスタルジーだよね! みたいな小さな発想からムクムクと膨らませたっぽい不思議な手触りの物語で、わりと好きです。属性付与について説明らしい説明がないのが良い。あまり山や谷のない平板な話運びになっているけれど、これはノスタルジーを想起させるための意図的なものでしょう。そして、その企みはおそらく成功しています。エンタメ小説を目指すのであれば、もっと言えることもあるけれど、本人がやりたかったことをきっちりやりたかったように仕上げられていそうな感触があるので、これはこれでいいっぽい。

 不思議お店ものが好きで、そこで働くことになる主人公はフリーターが良い! これは完全に個人的な趣味ですが、スッと入り込めて、最後までストレスなく読みました。わたしはカルピスに対してさわやかでスポーティなイメージを持っているので、読後感がさわやかなものを想像しながらわくわく読んでいて、各キャラクターの好感度が高かったのもあってか、ラスト、ご、御無体な〜〜! カルピスという要素を一度置いて考えてみたほうがいいのかな……いや、やっぱりこの作品はカルピスがノスタルジーの象徴であることが前提なのでしょう。

 わくわくしながら読めました。好きな作品です。青春をカルピスと読み替えている……っていったらつまらなくなってしまうけれど、一般的日本人はたいてい、カルピスに対する抒情を身の内に持っていますよね。それをうまく利用できていていいなと思いました。お盆休みに海外でも行ってきたのかなという三澤さんと、コンテナの中で白く変わり果てた和田さんのひそやかな対比もいいです。ところで、カルピス:水=1:1はだいぶん濃いですね!(わたしの実家は母がケチだったので1:6くらいでした)

 

 

11. kn 『アレ』

 雰囲気はうまいですね。とてもホラーてきな文体。アレについても何の説明もないままに放り出す感じも、ホラーなのでこういう感じでいいっぽい。最後のどんでん返しは決まってなくはないのだけれど、もうちょっと親切にしたほうがいいかもしれないですね。今のままだとポン付けすぎて「結局どういうことなの?」となるので(ホラーなのでもちろんそれもアリなのだけど)もうちょっと洗練の余地はある気がする。単純に、文字数をもうちょっと費やしてもいいかもしれない。

 読後感は夢オチに近かったですね。「アレに助けられたことがある」と回想が始まるので、アレの不気味さが半減し、なんとも言い難いかな……。友達が即死、でも存在しなかった。横山(アレ)に助けられた。でも存在しなかった。楽しかった経験、大切な存在を失うことは切ないはずですが、存在を失う前にいちど「目の前で失った」経験を挟んでしまったためにどう思っていいのか迷子になってしまったかも。即死した親友なんていなかったんや……! と言ってしまえば、良かったね〜とも言える気がしませんか? 考えようによっては、それがある意味「助けられた」事として、即死した友達もその彼氏も存在したが、アレがすべて無かったことにした。みたいな話にも取れるけれど、主人公は暗い中学時代を送ったとのことなので、それをどう感じていいのかわからないかもしれません。プラス印象の出来事やホラー印象の出来事を整理して、どんな印象の物語に思われたいか、印象の匙加減を意識してみるといいかもしれません。

 面白かったです。終盤のひねりはホラーというか怪談の常套手段っぽいのですが、ふつうに「ぎゃっ」となりました。美代子の口調があきらかにおかしい(時代がかっている)のは伏線なんですよね。アレ……。

 

 

12. 抜十茶晶煌 『キラキラリア』

 飽くまで一般論なのですが、短いスパンで視点人物をコロコロと入れ替えるのは読者がグラグラしちゃうので、あまりおすすめできません。構造的に「この話はいったいなんなのだろう?」という疑問で牽引していくのに、最後に説明役の幽霊がポンと出てきて説明して終わりというのも、あまり工夫がなくてよろしくない。要素がすべて分断されてしまっていて、幽霊というワイルドカードを持ち出すことでそのリンクを鳥瞰している状態なので、楽をしちゃってる感じ。もう少し登場人物同士に接点を作るなどして、鳥瞰てきな視点を持ち出さずにこの微妙なリンクを悟らせようとチャレンジしてみて下さい。縛りプレイですね。縛りを増やせば増やすほど、必然的に分量は膨らんでいきます。

 ひっかかりを作って、何かがありそう、繋がりそうという期待を作るのはいいのですが、作るならばスッキリ回収してほしいです。どんな長さの物語でも、期待、報酬、期待、報酬この繰り返しでようやく読み進めていけるので、期待、期待、期待と続くと報酬が得られない事にストレスを感じてしまいます。このお話の核となりそうな会話やツッコミに、報酬、ようは面白さですが、それがあるのかというと、感じられませんでした。少年たちの議題が身近なものなのは良いのですが、誰しもが考えそうだし、図書館で耳にしたとしても何ィ!? とツッコむほどでもない……。女子高生のツッコミも苦しいかも。少年たちの会話にすべてが支えられているので、そこがうまくないとほかの要素も機能しなくなるのですね。読んでいるこちらに非日常が感じられないのに、登場キャラクターたちは非日常を感じているらしい。何も不思議な事は起こっていないのに、突如幽霊がその出来事を幻想的にまとめてしまう。そんな印象で、終始モヤモヤしてしまいました。

 計算なのか天然なのかわからないのですが、たぶん天然? 脳内を自動筆記しているような脱線していく文章は不思議でした。巧拙を超えた不思議さ。小学生男子たちが頭悪いのは当然なのでいいのですが、それを見ているJKも同レベルなのはちょっと共感を得にくいかもしれない。

 

 

13. やぎまる。 『かつて、この国には正義と云う物があった』

 最高ですね。タイムラインのホットなトピックにすぐ反応してゴリゴリと小説にしてしまうフットワークの軽さはめっちゃ好きです。しかも、ただの大喜利で終わることなく、ちゃんと固有の価値を提示できているのが良いですね。元は本当にどうしようもないようなKUSOネタなのに、それを上手に調理してとても質の高いSFに仕上げていて、地力の高さが伺えます。無駄のないソリッドな文体もテーマや雰囲気にばっちり合致していてアド。KUSOネタだけじゃなくて、マジで書いたものも読んでみたいですね。あと些細なことなのですが、物と書くと物質的な物をイメージしやすいので「正義と云うもの」と、ひらいてしまったほうがニュアンスが良い気がします。

 元ネタ? のことは詳しくわかりませんが、それでもスルスル読めました。二周目に冒頭に何が起こっていたのかを理解できたのも面白かったです。この世界での正しさがない世界というものがどういうものか、説明だけでなく実際のところを体感できるのがいいですね。

 冒頭の謎のくだりが、最後にそういうことでしたかと収まるのが心地よかったです。中盤は、謎めいたマスターに見守られながら理屈をこねつつ謎の作業を延々続ける村上春樹的な雰囲気が、好きな人は好きなのかな。でも若干語り口が冗長に(意図的なものかもしれないけれど)感じました。この作品は、京アニの事件前に書かれたものなんだなぁとぼんやり思いました。

 

 

14. 長水マシ 『赤い夕陽と画用紙、澄のスイスと神田の中指』

 するすると読めたので、文章はうまいのだと思います。描こうとしているものに共感はできるけれど、わりとテーマ性をダイレクトに登場人物の台詞で語らせてしまっているので、ストレートな印象はあります。テーマはそのまま語っちゃうよりも、最後の一手は読者自身に見つけさせるように設計したほうがスンと届きます。せっかくの小説ですから、語りだけでなく、物語の可能性にもっとチャレンジしてみましょう。

 素晴らしいです!!!! 眼鏡キャラクターの出し方が素晴らしい!!!!! 芝居でさりげなく表現する。これ。これです。はい。眼鏡をかけているなら必ずある瞬間。それをさりげなく入れてくれるのが嬉しいですね……。ぼんやりした視界。眼鏡の使い方をわかってる……。良い……。対して、ふたりの関係性は難しいですね…。ビジュアルは甘美なんですが……ふたりとも素直でしっかりしてて揺れないのですね。個人的な萌えの好みで言えば澄の行動に対する神田の「揺れ」の瞬間も見たかったかな……。でも、その揺れなさのおかげでラストのセリフが煌めいたのでこのままでいいのかもしれないですね。あれこそが彼の揺れの象徴でありました。

 きれいな文章、おしゃれな短編です。が、登場人物が自分や自分の台詞に酔っているように見えてしまうと、良いおしゃれさが半減してしまう。最後の神田の台詞がもっといいものにできないだろうか。そうすると全編がびしっとキマるとおもうのです。

 

 

15. 海野しぃる 『バーニングお婆ちゃん火村ハク(96)』

 プロメアですね。原因究明に向かわずに、原因なんか分からなくても治療できるならそれでよいという主人公のスタンスに、一般的でない特異さと職業人としてのリアリティを感じます。タイトルが強火なんですけど、意外と火村ハクさんにそこまで存在感がないのでどうなのかなという感じはする。設定的にプロメアなだけで空気感はまったくの別物。文体も比較的落ち着いていて勢いで圧すタイプの物語でもないので、もうちょっと地に足ついたタイトルでもよかった気はする。説明的でない設定の明かしていきかたなど、小説としての手つきはこなれていて、全体的なまとまり感はよいです。

 人体発火……バーニング……いったい何メアなんだ……。たまたまモチーフが被ったのか、借り物なのかはわからないのですが、公開されたばかりの、ある程度話題になった映画とかと極端にモチーフが被っている場合、読み手にはそれがちらついてしまうと思います。元ネタを知っていたらさらに面白い! といったつくりのものでもないと思うので、どう捉えたらいいのか、楽しむ以前に、ノイズが入ってしまいました。全くの偶然だったのであれば、すみません。

 語り口がコミカルでよいです。設定を会話のなかで消化してあるので、心地よく世界観に入っていけました。これができるとできないとでは大違い……プロとアマの違いと言ってもいいと思っています。火を出す新人類……ってプロメアなんですか。観てなくて語れない(観たい)のですが、その設定だけでも短編をまとめられそうなのに、さらなる展開でスケールアップして終わるのが好みでした。

 

 

16. 偽教授 『凍嵐の獄野』

 もはや常連さんですね。本物川さんの永遠のライバル(要出典)偽教授さん。とにかく異常に文章がうまく、また毎回、ものすごいところからネタを引っ張ってくる引き出しの豊富さが武器です。これも読み物としてはめちゃくちゃ面白かったんですけれど、小説というフォーマットへのコンバートという点ではもっと改善の余地はあるのではないかなという感じですね。例えばなにかの講演とかでこの話を聞かされたらめっちゃ得した気分にはなると思うんですけれど、やはり小説は小説なので、小説らしさというものがありますので。やはり、一番没入感を妨げているのは、地の文の語りが自由に現代と行き来するからでしょうか。ホーリーランドの「ちなみに筆者は~」とかに近い。ちょいちょい筆者が出てきちゃう。飽くまで過去の記録を読んでいるだけなのだ、ということを度々意識させられるので、そのつどスッと我に返ってしまうところがある。もちろん、過去の記録なのだから当たり前なんですけれど、物語というのはやはり没入させてナンボなので、読者が我に返ってしまうのは避けたほうがいいのではないかと思います。全体的に、鳥瞰てきな視点で見下ろしているイメージでFPSではない。まあでも、司馬遼太郎とかは完全にこのタイプの書き手なので、このまま激烈文章を極める方向性もあるとは思います。

 もうすでに文庫本で出版されているような歴史小説を読んでいる気持ちで、私に言えることは何もないですね……。面白かったです!

 蝦夷地の最果てに派遣された津軽藩士たちの受難。普段手を出すジャンルではないのですが、するする入ってくる文章でさすがだなと思いました。ドライな文体で、説明が多いのに読みやすいのは筆力をお持ちだからだと思います。ちょっと読み足りなかった。この土地この時代を生きた人間たちの話をもっと読みたいですね。群像劇にして3~5倍に量を増やして、北海道新聞文学賞に乗り込んでいただきたい感じです。

 

 

17. 山本アヒコ 『Imitation or Substitute』

 BEATLESSの世界観に乗っかった、アナログハックなんちゃらってやつらしいです。世界観の奥行がすごいけれど、ここは間借りしてる部分なのかな。評者に知識がないのでよく分からないんですけど、そこは塩梅で減算して評価します。どんでん返しのタイプとしてはオーソドックスだけど、そこに思い至らせないためのミスリードレッドヘリングが上手で、わりとちゃんと騙されました。話の引きにもうすこしエモを足せるとよかったかな。やはり主人公はララなので、最後は両親の話し合いで終わるより、それを受けてのララのその後をすこし描いたほうがエモいと思います。単純に、ちょっとしたエピローグを書き足すだけでも読後感が大きく変わるかも。

 丁寧に少女ふたりの関係を作ってくれましたが、ララとウララの関係の着地点を読者に任せる形になっているので、この物語はここがいいんだよ! という美味しいところがフヤフヤしてしまった印象がありました。ラスト、事件が起こる前の両親たちの会話に切り替わり「いずれ忘れる」ことを暗示させて切なさを演出しているのか、仲の良かった少女が無残な姿になってしまったことで「忘れることができない」ものになってしまったという裏を読ませたかったのか、そもそも、他の子どもより内気なララは成長過程でウララのような存在を忘れてしまうような女の子なのか? など、もしかするとララの持つ物語は終わっていないのではないでしょうか……。作中でハッキリとその後のララがどうなるかを書きたくなければ、自分が(読者も)グッとくるその後の展開をまずは設定だけでも用意しておいて、それに想像が及ぶような準備がしてあるといいかもしれません。

 シェアドワールドとのことなので、設定については評価に加えず拝読しました。主役が五歳児であることで主人公の気持ちに寄り添った表現がしにくく、割とかっちりした三人称になっていますよね。それが原因なのか、百合姉妹もののしっとり感が出ず、エモさ不足が惜しいです。ウララが人間ではないことは序盤から読めてしまうのですが、物語の盛り上がりどころを意識して書かれているのはよかったです。義体に対する情け容赦ない描写もかっこいいです。欲を言えば、ラストシーンでカメラをララに戻してほしかった。

 

 

18. 芦花公園 『読め』

 2ちゃん怪談板詰め合わせみたいな小噺集に大枠をつけた、いわゆる額縁物語の形式ですね。本文中で言及されているように四つの作品のリンクはちょっと緩いので、カッチリとしたホラーミステリーというほどの仕上がりではないんですけれど、構成はとても良いと思います。ホラーなのですべてに説明がつく必要はない、というより過度に説明がつくと陳腐化するので、そこそこ含みを残して終わるのも正解っぽい。欲を言えば、やっぱり額縁の部分にもうちょっと厚みがあるとよかったですね。文字数上限いっぱいまで使っちゃってよかったかも。

 怖かったーーーそれぞれの怖い話もおもしろかった! 読み応えがすごいですね! それぞれの怖い話の雰囲気がガラッと変わるので飽きません。あまり読みながら推理したりしないので、情報をまとめるパートが親切でした。由美子さんまじこわかった。各章の締めに読んでくださいねぇ〜〜って入るのがカクヨムの形式にも合ってる気がして、楽しかったです。洋食屋さんのミックスグリル定食みたいな感じで、入りやすく、沢山盛ってあって、あまりホラーに触れてこなかった私でもワクワク読みました。

 由美子さんの怪談→主人公の現実→と繰り返される構成が、読み進めるほど怖くなっていくだろうという期待が膨らんでよかったです。⑤で全編解説が挟まれるんですが、ここで解釈の余地を残した方がもっと怖いのにな……と思いつつ、読者の理解度を平均化するうえでは必要とも思える。個人的には「ある少女の告白」の少女・松が印象的な存在で、彼女が現代の誰かがつながっていたら充実度があがる気がします。由美子さんが松と因縁があったとか。字数制限内で満足感のあるホラーを作られていて、信頼のおける作者さんだと思いました。ほかの作品も読ませていただきます。

 

 

19. シュローダー 『フリードリヒの恋人』

 特大サイズのパフェみたいにサブカルフレーバーをギチギチに詰め込んだ青春もの。さすがにここまで特盛りでこられると、ちょっと胃もたれしますね。いろいろと詰め込みたくなる気持ちは分かるんですけれど、引用も過ぎると、どこかで聞いたようなかっこいい言い回しのパッチワークみたいになってしまうので、芯がどっしりとしません。カッチョイイ借り物の言葉を並べるよりも、かっこわるい自分自身の本物の言葉を連ねたほうが、意外と相手にスンと届いたりするものですよ。ちょっと読者を置いていきがちなので、ちゃんと並走できているかもしっかりと意識しましょう。しばらくクーリング期間を置いてから読み直すと自分でも見えてきやすいと思います。

「雰囲気に合っているから」「イメージだから」と思っても、著作権の観点から言って、歌詞の全文引用は良くありませんね……。それと、実在の映画や音楽を引用したり、タイトルだけでも登場させるとき、基本的に読んでいる人は「それを知らない」ことを前提にされるといいと思います。思っている以上に、借り物の雰囲気というのは伝わらないのです。

 青春ものとして楽しく読めました。でも、二度読んで初めて、美沙希が死ぬ前に千葉と図書室で言葉を交わしていた期間のことを千葉が忘れて(封印して)いたことを理解しました。ここは伏線が欲しいような気がします。この二人は最後の最後、それぞれ自分の言葉で送りあえたのでしょうか。どこからどこまでが歌詞の引用かわからないので、そうだったらいいなと思います。あと千葉君(名前、繁じゃないとだめかなぁ……)とは付き合いたくないな……七瀬はいい子ですね。

 

 

20. ボンゴレ☆ビガンゴ 『カエルの王子様』

 すっかり常連のビガンゴくん。今回はうまいですね。求める水準を高めに設定して講評するのでそのつもりで聞いてください。序盤の「その光景は切なく美しく、どこか尊いものに思われた」は、読者に想起させるべき感情であって、地の文にそう書かれてしまうと「え? 誰が思ったの?」となってしまいます。三人称の場合、地の文は中立的客体であるので、見たり聞いたりはするんですけど、なにかを思ったりしないんですね。「思った」を書きたい場合は、任意の登場人物にそう思わせるか、別の表現を通じて自ずから読者にそう思わせないといけないわけです。この判定は多分に感覚的なものなのではっきりとした正解があるわけではないし、そもそも高度な話をしているのであまり気にし過ぎることはありませんが、忘れたころに自分で読んでみると引っかかる感覚が分かるかもしれません。自分なりに意識してみましょう。

 雨とカエルと瀕死の少女。モチーフが良かったです! これは絵にしてみたい。グロテスクとキスのセットが美しいですね。潰れたカエルは身近で、想像しやすく、実際に見つけても見るのを避けようとしてしまうものであるので、そこに与えられるキスという愛情表現にぐっと来ます。構造は一般的なカエルの王子様(たたきつけないほう)と同じですが、少女たちが瀕死であることによって独特な空気感になっています。ですので、自分にできる事だからという使命感だけでなく、瀕死の少女たちに対する愛情というか、慈しみが感じられたらもっと素敵になるかも……。と感じました。眼鏡男子という描写はないけれど、眼鏡賞候補です。

 序盤で、作者のナレーションのように見えるくだりが入っていて引っ掛かりました。物語を通して伝えるべきアンサーを最初に提示してしまっているように思いました。内容に関しての私見ですが、主人公は自分に与えられた力(蛙にされた魔法少女を死ぬ直前or死後人間に戻す)を信念をもって発揮し続けるんですが、それって彼女たちにとっては半端ない身体的苦痛を与えたり親族に悲しみをもたらしたりして相当有難迷惑なんじゃないかと心配になりました。カエルの王子様に感謝している魔法少女は出てこない……そこが狙いだったら、狂った主人公という点で成功しています。

 

 

21. 双葉屋ほいる 『しごけ!耐えろ!偉人対抗イキ我慢選手権』

 ロケットスタート点は百点満点。いちおう最後にももうひとつツイストを入れてオチをつけてはいるんだけど、そこまで「やられた!」っていうほどではなかったかな。シンデレラ曲線てきな話をすると、最初がボンと盛り上がって、あとはダレる前になんとか駆け抜けたって感じの先行逃げ切り展開。最後にもうひとつドカンとできてたら評価がさらに数段上がっていました。宮沢賢治ニュートンに比べてオリジナルのキャラが薄くて負けちゃっている感があって、それぞれにトレーナーてきな神がつくのもあまり必然性がない気もしました。せっかくオリキャラを足すならそれが伏線として利くようなラストの展開があるとよかったですね。

 なんて言ったら良いのか……(神妙な顔) 笑ってくれと言わんばかりのタイトルなので、笑うものか〜〜! と思っていましたが笑ってしまったのでわたしの負けですね。サッと読んでサッと笑える、到達したい場所には到達した。そんな作品かなと思います。登場する偉人みんな、「自分の趣味ではないからこんなことでイクことはない!」という態度だったけれど「ツボを突かれてしまった!」という、攻めの描写が主なので、イキ我慢の、我慢部分が薄かったかな……や、べつに濃ければイイ! ってわけでもないと思うんですけれど。何言ってるかよくわかんなくなってきました。

 各所からの絶賛の嵐を目にしてから拝読したので色眼鏡がかかってしまったかもしれないのですが、きっちりと調べ物をした上でのエンターテインメントに徹する姿勢に脱帽です。やるならこのくらいやらねば。今後、宮沢賢治に対する見方が変わってしまいそうです。

 

 

22. 刀を先に抜いたのは 君の方 『あかず』

 病症が悪化しているようですね……。たまに正気に戻っている部分があるので真性なのかファッションなのかいまいち区別がつかないのですが、ファッションだと仮定して講評するなら、意味が分からないなりにたまに意味が分かって「フフッ……」って笑っちゃう部分はないことはないんですけど、さすがにこの分量をそれだけで支持して牽引していくのは難しいので、笑いよりも腹立ちのほうが大きいですね。この文体に拘っていくなら、それはそれとして、もうひとつ「読んで得した」って思えるような要素を足していきましょう。今のところ、読むと腹が立ちます。

 なんというか、音の流れとかを意識したら同じことを書いていたとしても詩っぽくなりそう……と思ったりしました。

 わたしはこの感じ好きなんです。つい著者のほかの作品も気になって遡って読んでしまいました。過去作の方がエモい部分が多かったかな。こういうの、漫画ではできない(漫画でやると恐ろしく手間がかかる上に成果が少ない)からうらやましいです。ファンになってしまったかもしれない。ただし、読んだのちに得るものや残るものはない。

 

 

23. ももも 『ウンコ研究室』

 ガチでウンコ研究室の話でした。読み物としては面白いんですけど、これが短編小説か? というと、またちょっと違う感じ。舞台とエピソードはいいので、あとここに物語が一本の縦軸として通ると、もっと小説っぽくになると思います。雑多なエピソードを集めてもなかなか物語にはならないので、まず主軸を用意し、そこにエピソード群を貼り付けていく感じで作ってみましょう。パーツはいいので、次は全体を設計する感じで。

 こういった知識ものの場合、情報や出来事を描くだけではなく、読み物としての「引き」が必要になってくるのかもな、と思いました。それは文体の妙だったり、出来事に対峙する登場人物の面白さだったりするのではないかな、と思います。たとえば漫画の「もやしもん」なんかだと、かわいくデザインされた菌たちや人間関係のアレコレで読者にページを進めさせて、たまに大量のテキストで情報を伝え、全体の情報量にメリハリがついていたりします。本作はするすると読めるので、登場人物をキャラ立てするだけでも、もっとエンタメとして読みやすくなるのではないでしょうか。

 読みやすくぶれのない文章で、ウンコに詳しくなれました。小説というか連作エッセイ(フィクションだけど)という感じ。着地点もゆるぎないので、いっそ間のエピソードを増やしていただいて1冊分読みたい。または(マッド系助教授の登場で「動物のお医者さん」を思い出したせいか)漫画で読みたいなと思いました。コミカライズさせてもらいたいかも。でも絵面的にNGかな。取材もつらそうだな。くさいもんな……。

 

 

24. 藤原埼玉 『薄恋慕鬼』

 雰囲気の演出はとてもうまいですね。文体と世界観がマッチしている。ときどき描写が疎かになって「うん?」ってなるところはあるので、エモと情景描写をバランスよく回していけるようになるともっとよくなるかなぁ。現段階で完全に完成しているとは言えないけれど、方向性は間違ってなさそうなので、このまま継続していけば良くなっていくと思います。今後の成長が楽しみな書き手さん。

 描きたいシチュエーションがハッキリ定まっていて良かったです! キャラ萌えシチュ萌えで刺さる人がいるんじゃないでしょうか。鬼に変ずる場面では変化や描写そのものが少々平坦かなと思いましたが、それがキャラクターの性格というならそうなのかもしれません。わたしの好みを言うと、もっと「鬼」らしい狂気というか精神の壊れ方をしてもいいかなと思うんですが。

 切なくてきれいな百合作品。ところどころ、大事なシーンなのに描写がちょっとだけ足りなくて、「これは檻の柵に顔が引っ掛かっている状態でキスしてるのかな……?」と、イメージに努力を要する部分があったのは惜しかったです。

 

 

25. 鍋島小骨 『カラヴィンカの祝福』

 もう言わなくても本人も分かっているとは思うのですが、今回も文字数上限に苦しんでそうな印象でしたね。短編で消費してしまうには勿体ないほどに作り込まれた世界観。荘厳な文体も世界観にマッチしていて無理がなく、総合的なレベルがとても高い。諸々の要素が最後にすべて綺麗に噛み合う構成も、ちゃんとプロットを練って書いている感じで良いです。これは完全に中編以上の規模で描くべき内容なので、鍋島さんはもうモモモ大賞じゃなくて、ちゃんと長編を書き上げて名のある公募に出ていきましょう。面白かったです。

 重厚……! 面白かったです……! すごいなぁ~。キャラクターの性格も好ましくて、寄り添うラストが暖かくて、素敵でした!

 この文字数でこれだけ豊かな貴種流離譚を見せていただけるのか、と興奮して読みました。目の前にひろがる景色が美しかったです。ドライな一人称と語り口はとても好みなのですが、話もさくさく進むのでダイジェスト版のように感じられるかもしれません。長編に膨らませてたっぷり読みたい気持ちもありますが、長編を読んだくらいの満足感がありました。

 

 

26. バチカ 『RAPE FREAKER ~シボガ伝説~』

 うーん、たぶん女だけが人類と認識されていて男は化物扱いになっているっていうのが基幹の設定だと思うんですけど、その情報がキャッチコピーで普通に提示されちゃっているので、本文を読んでいて「あれ? ひょっとしてここは本来驚くところなのかな?」ってなっちゃいました。どの情報を読者に対してシールして、なにをどういう風にミスリードして、どうどんでん返しを仕掛けるのか、みたいなところが、まだ作者の中で整理しきれてないかも。綺麗にキマればそこそこびっくりしそうな気がします。

 ホラー……なのかな。SFかなと思ったのですが……。個人的にあまり楽しめる名称や設定ではなかったのですが、根底にどす黒いものがあるわけではなく、暖かいものを据えようとしている雰囲気があったので、ちょっとだけ安心して読めました。主人公の語り口がかかわいいですね。化け物とあっさり切り捨てられる「嬰児」の耳の価値に、かつては違った意味があったのかもしれないなあ……そうだったら救いがあるなあ、なんて思ったりしました。

 前説の設定書きでネタバレしてしまっているのがもったいないように思いました。記号的なフェティシズムをまとう少女たちが崩壊後の世界で戦う相手は、クリーチャー化した男性。語り口が可愛らしくてテンポも良くて、読み味が好みです。女性としては、女性である無力さを覚える物語でしたが、男性が読んだらどう思うのだろう。また、好みの問題かもしれませんが、ジョーの口調はそんなにお嬢様っぽくなくても十分いいのになぁ、と思います。

 

 

27. 修一 『月明かりの下で』

 短編小説というよりはプロットみたいな印象なので、各エピソードを膨らませたほうがいいですね。情景描写も薄くて、海が「海」だけで表現されていたりするので、砂浜なのか、堤防なのか、港てきなところなのか、ライトアップされた橋や工場が見えるような都会の海なのか、ろくに明かりもない暗い片田舎の海なのか、そのへんの映像があまり頭に浮かんできません。単純に、もうちょっと文字数を増やしてみましょうか。文章の手つきじたいは読みやすくてとてもいいです。

 描きたいシーンやビジュアルは伝わってきます。あなたが好き! の気持ちにちょっとついていけなかったので、キャラクターの感情の根拠が作中で見つけられるといいのかな、と思いました。0から恋に落ちる描写って難しいですよね……。

 正統派のガールミーツガールなのですが、ディテールに欠けているので読み足りなかったです。一目ぼれであれば、最初の出会いのシーンをもっとたっぷりと演出してほしい。また終盤で夜乃と学校で再会するのですが、クラスメイトというわけではないのですよね? 教室に向かう途中のどこかで見かけたのだろうか。あるいは、転校生として教室にいたのだろうか。主人公の心境の変化とともに母親との関係性にもなんらかの変化を描けたら、より面白くなると思います。

 

 

28. 枯堂 『うたえバイロイト

 美しい聖歌を歌いながら、その実、内面は怒りに満ちている、みたいなシチェーション単位での良さはあるんですけれど、まだ物語を展開しきれていない感じがします。ものすごくミクロなひとりの人物の内面にギュッとフォーカスしていくのと、物語を派手に大きく取り回すのを両立して下さい。ちょっとこじんまりとし過ぎている感じは否めない。ある程度以上に書けちゃう人はお上手にまとまりがちなので、意識的にはっちゃけちゃったほうがいいです。

 舞台設定に雰囲気があり、とてもきれいに演出されていると思うのですが、読み手に何を感じさせたいのか、というところが掴みにくかったです。主人公の感情の高まりに比べて、先輩との関係が少し薄い気がしていて、私と先輩の物語とするならば、もう一つ、歌の練習ではない、個人的な二人きりのエピソードが欲しかったかもしれません。

 主人公が始終不機嫌でハラハラするのですが、クライマックスに向けてもりあがり、すべてが浄化されるような印象の構成がよかったです。集団ヒステリーに近いような視野の狭さのなかで生きる部活少女たちが、醜いのに美しい。すこし昔のコバルト文庫のような、センシティブな文体が合っています。

 

 

29. 阿瀬みち 『あし』

 めちゃくちゃ良かったです。まず根本的に文が巧い。これもある意味では才能と宿命の物語で、ビガンゴくんのカエルの王子様とテーマてきには共通する部分もあるかもしれませんね。才能って、自分で選べるわけじゃないから、ある意味では人生を縛る宿命みたいな側面もあって「才能あっていいですよね~」で済む話じゃない。そこにさらに「女装の才能」というヘンテコなものをはめ込むことで、普遍的なドラマに仕上げています。つぎつぎと色々な展開があるので、するすると読ませますし、ホラーにもホモにも振れたと思うけれど、そういう分かり易いところに落とし込まずに成立させているところがいいです。文芸路線とWEB小説のバランスがちゃんと取れているなという印象。わたしはこれ、頭ふたつくらい抜けた高評価です。

 前半はいったいどこへ行ってしまうんだ……と思っていたんですが、中盤以降完全にやられてしまいました。ああああ~~~好きです。読後感がモヤ……とするのも、かえって印象に残りました。このネタで展開に強引さが無くて、他人事に思えない登場人物たちの描写に、ただただ感服いたしました。

 すごく面白かったです。芥川賞作品で目にするような純文学! 自撮り投稿者に対するSNSの反応やメイクの描写がリアルなこと、心情に添えられる情景描写の的確さが、とぼけた一人称と相まって素晴らしいなと思います。主人公が「めちゃくちゃ嫌だし、しんどいけど、やっぱやめられない」ことをさらりと「才能」だと返す直樹。こういうの書けるの格好いいです。

 

 

30. 今村広樹 『GE』

 えっと、なんでしょうか。分かりませんでした。アンチ小説みたいなことをやりたいんですかね? たぶん力量が伴っていないので、まずは普通に一本、普通な小説を書き上げてみたほうがいいですよ。素朴に悪意を向ければ嫌悪を返されるのはあたりまえのことです。

 キャラクターの掛け合いやちょっとしたワンシーンが描きたかったのかなあ。書き手自身、この作品が「物語」ではないのをわかっているという事を言いたいのでしょうか、メタ的に「物語を読みたいのなら探せ」と突き放されたのはショックでした……。

「イントロダクションがやりたかった」とおっしゃっているのですが、数回読んで、そのやりたいことがわからなくて申し訳ありません。蘊蓄をお洒落にかっこよく書くことができる作者さんだと思います。読み手を試すのではなく、読者と作品を共有することを意識して書いてみていただきたいです。そうしたらきっと、読者からの好意も感じられるようになるはずです。

 

 

31. 成井露丸 『サマータイム・ザ・スイムウェア!』

 正直、途中から察しはついていたので驚きはしなかったのですが、本当にただダベっているだけで一万字を書ききる体力はなかなかのものだと思います。うーん、主人公がなにかを主体的に決断し行動することで成長(変化)するという成長譚の要件は満たしているっぽいんですけれど、なんでしょうね? 一人称が急に変化してしまうのは、あまり必然性が感じられなくて逆に気になりました。「僕」というペルソナが剥がれて素の「私」が出てきたってことなのかもしれませんが、僕のまま通してもよかったのでは。

 まんがにできないやつだ! すごく良かったです! 着替えのシーン以降の「流れ変わったな」感がとても好きです。成長譚は物語を牽引する支柱で、こっちを向いて咲いている花は密やかな青春の一幕という印象の作品でした。

 水沢君シリーズの一編なのですね。忘れ物の水着を前に、延々変態性について述べ合うだけで最後まで身に着けないんじゃないか、そうだとしても落ちはちゃんとつけてほしいぞ……と思いながら読んでいたら、そういうことだったんですね。最終的に変態イケメンの水沢君が得しているのが面白い。コントのように楽しめました。

 

 

32. 有楽町15 『探偵と嘘つき』

 並行世界を舞台にした特殊設定ミステリーっぽいのですが、舞台設定の説明が不十分なように感じます。特殊設定ミステリーの場合「なにができてなにができないのか。どのような条件下でなにを成し遂げればいいのか」といった諸条件を不足なく提示しなければならないのですが、勝利条件もろもろがあまり明確でないままかっこいい台詞だけが飛び交うので、読者がついていけません。ちゃんと一覧表とかをつくって、どこまでにどの情報を開示しないといけないのかを整理してからリライトしたほうがいいでしょう。全体のボリュームも、もうすこし大きなものになるでしょう。

 独特な空気感ですね。序盤、突然小麦粉を吸いだすノリに引き込まれたのですが、終盤になるにつれ、どんどん話がわからなくなってしまいました。探偵モノらしい流れ自体はシンプルだったと思いますが、世界設定の情報が込み入っていて、読んでいて「あれ、ここでは何の話をしていたのだっけ……」と遡って読み直すことも多く、とても読むのに苦労しました。オチがどうしてもわからない……。

 設定のファンタジー度(むずかしめ)と、ドラマの構造(かんたんめ)が噛み合っていないような気がしました。物語を理解するうえで必要な設定が語られ切れていないためか、頑張って補完しながら読み進める感じでした。絵柄のかっこいい劇場版アニメのような雰囲気はよいなぁと思います。

 

 

33. @dekai3 『ア・リトルマーメイド』

 にこにこしながら読める肩のちからが抜けた感じは好き。軽いノリから始まって、定番の「このオッサン実は~」とかがありつつ宇宙まで飛び出して最終的にはやっぱり家が一番ねみたいなところに着地する、意外と堅いつくり。弾けているようでいて予定調和なところはあるので、もっと本気で弾けてもいいのでは? てきな気にはなりました。面白かったです。

 やけに親しみやすい情景から始まり、あれよあれよと思いもしない方向に転がってどうなるのか全く予想がつかないのですが、なぜでしょう、リトルマーメイドでした。おじさんたちがわちゃわちゃして誰かを救い、日常に帰っていくコメディってなんだか和みですよね……。

 わりと読むのに苦心してしまいました。次々出てくる新キャラと、地の文で説明される新設定に翻弄され……ハゥフルさんの言っていることはたしかによくわからず、このままお話は拡散してしまうのかと思ったら、塁ちゃんの頑張りで皆無事に戻れて安心しました。終盤で「ここまで壮大な冒険をしてきたのは自分が美少女になる為だったのに、それをあっさり諦めるというのです」というくだりで「ほんとだよ!」って突っ込んでしまった。

 

 

34. 狐 『スタッフド・パスト』

 ワンシーンとしては悪くないんですけれど、これをひとつの小説として評価するのはちょっと厳しいですね。やっぱりもうちょっと展開とボリュームがほしい。この世界観を描きたかったということのようなので、やりたいことはちゃんとやれているのではないでしょうか。次はもうちょっと大きな規模のものにチャレンジしてみましょう。

 やろうとしている雰囲気は分かる気がします。が、それぞれの章で少し物足りない印象でした。大スペクタクルにしましょうという話ではなくて、単純にキャラクターが弱いということかもしれません。旧文明に触れた二人の反応に個性を感じなかったので、キャラに背景(過去ですね)を用意して、それを根拠にした行動をとってもらうなど、それぞれの「らしさ」を見せてもらえるといい雰囲気になる気がします。

 賑やかな文体で描写もお上手です。マンガで読みたいなと思いました。読み切りが連載第一話になるシリーズものの趣。逆に、絵がないとやや物足りない&連載第一話のように感じるのは、キャラクターの作り込みがたりないということかとも思います。さらに、終末後世界の冒険モノとしてはオーソドックスなように思うので、なにか他にないオリジナルの設定や仕掛けがひとつあるとうれしい。それと、個人的にはめずらしく、野盗を殺してふっとばすシーンで心が痛みました。殺さなくても……? と。

 

 

35. 一田和樹 『成績優秀、スポーツ万能、無敵の美少女の妹がオレのうんこしか食べないんだが』

 本物川小説大賞の応募作はかならず三名の闇の評議員が読んだうえで講評をつけますという人の善意によって支えられた仕組みを悪意でハックする荒手のテロ行為でしょうか。今回の応募作の中では断トツで読むのが嫌でしたね。そういう意味では確実に読者になにかを残しているとは思いますが、残してどうするのか、みたいなところはもうちょっとなんかあってもよかったんじゃないかなぁとは感じます。

 わたしはなにより登場人物の感情を追ってしまうので、うんこは屁じゃないんです。ちがう、うんこなんて屁でもないんです。終盤泣きました。お風呂シーンは圧巻です。ずっとカタカタ鳴って破裂しそうだったものが破裂する瞬間に弱いんですよ。こわれちゃって、元に戻らない。もうこわれたまま進むしかない。こういうの弱いんですよ……。

……素晴らしいのではないでしょうか。多くの心に強く残る作品が誕生してしまいました。すごかった。スカトロ耐性は具えている自信はあったのですがキツかった、でも上手いのでつい読み進めてしまう。主人公が終始まともな感覚を持ってくれているのでついていけました。生まれてくる弟か妹も幸せに暮らせますように。ところで昨日、葉山のマーロウでチョコレートプリンを買ってきました。おやつにするつもりだったのですが。

 

 

36. くわばらやすなり 『ゴキブリは燃えているか』

 ゴキブリと戦って勝つ話です。それ以上でもそれ以下でもないので、まあ習作としては意味はあるんじゃないでしょうかって感じ。なんであれ、書いて完結させるのは大事だからね。次はもうちょっと展開のある物語にチャレンジしてみましょう。

 好きな雰囲気で、キャラクターの造形も好きです。バーナーで死なない虫という異常さに、どんな物語が展開されるのかなあと期待していたのですが、普通に普通な事をして勝利してしまいました。普通な事は悪い事ではないんです。特殊な設定を作ってしまうと不要な期待をさせてしまいますから、バーナーには早々にガス欠してもらい、火で死なないという設定を省いてしまってもいいかも。店員 vs 害虫だけだとシンプルすぎるので、一例ですが「もともと店員同士は理解しあえない仲だった、でも共闘しなければならなくなった」など、普通な事に他の普通な事を組み合わせて「彼女たちにとって普通じゃない」出来事にしてみるという方法もあります。基本的にキャラクターの関係性が物語の中で変化すると、物語を読んだ~という気分になりやすいです。

 面白かったんです。過不足のない描写とテンポで、焼いても死なないGとの戦いが楽しげに仕上がっている。ただ最後はあっさりしすぎて物足りなかったです。Gのためにしつらえた「餌」が妙に美味しそうで、これ人間みたいなモノが釣れないかしら…とさらなる展開を期待してしまったのが、食い足りなさの理由でした。

 

 

37. アリクイ 『N+1』

 チンパンチから比べれば大きな成長です。小説っぽい。えらい! ただ、最後の部分を視点を変えてネタばらしするのは易きに流れましたねって感じがするので、視点変更を使わず、彼女の心理描写は不可能であるという縛りを導入したうえで、実は両片想いでしたってオチにもっていこうとしてみましょう。ほら、それだけで簡単には終わらせられなくて、彼女の気持ちを主人公に(あるいは読者に)悟らせるためには、さらにいくつかのエピソードが必要になるでしょう? 縛りを導入すると物語って拡がるんですよ。

 描かれていることは切ない青春の1コマで、よい素材だなあと思いました。そして、素材の味がする……といった印象のお話。読み手が二人の「真実」を知ったところで話は終わってしまいますが、私は物語のどこかで登場人物の心が動いてほしい、そして変化してほしいと思ってしまうので、「もう少しで手が届くところにいるのに手が伸ばせない二人」の先を見せてほしいと思ってしまいました……。

 読んでいる間B'zの「恋心」が脳内を巡っておりました。両片思いというんでしょうか、いつか二人の想いが交わる瞬間が来るといいねという応援する気持ちで読み終わりました。上原さんが次に好きになりそうな相手をリサーチしておく主人公は微笑ましい。最初、ヒロインは単純に相談相手として彼を呼び出しているようなのですが、どのあたりからどうして好きになったのかが知りたかったです。

 

 

38. 木本雅彦 『むかしむかしのイロ物語』

 結論から言うとイマイチでしたね。キャプションで「どんな昔話でも途中から下ネタを織り交ぜた展開にできる」と言いつつ、ほぼ冒頭から下ネタになっているあたり、コンセプチュアルな部分をまだ煮詰め切れていない印象を受けます。エクスペリメンタルな試みはこのコンセプトの強度がなによりなので、もうすこし理論的な武装を固めたほうがよさそう。今のままでは「とりあえず手を動かしてみた」以上の意味があまりないので、コンセプトを見つめ直すことと、あとはもうひとつ外側の枠を設定することで、ひとまとまりの物語としてなんらかの決着をつけることも可能なのではないかと思いました。現状はまだ半製品って感じ。

 う~ん。なんでしょう。あらすじの口上で期待させるのですが、そんなに特異なことをしているという事もないと思うのですね。それこそ童謡を下ネタの替え歌にして歌っているような感じで。物語の感触としては、昔見たサラリーマン向け漫画雑誌のうしろのほうにある下ネタ4コマを思い出しました。

 ラクに、小手先で書いていらっしゃる感じがわかります。楽しく書かれた小説は、読むのも楽しいものです。どちらの掌編も、下ネタで終わらずいい話になっていて救われました。浦島太郎のほうが好きです。

 

 

39. ぶいち 『穴』

 うーん、結局は怪奇現象は部屋に由来するものだったのかな? 主人公のパーソナリティについて色々とディティールが書き込まれているわりに、怪奇現象そのものは完全に外部からやってきた独立したものだとすると、意外と物語の骨子にはそのへんが必要でない。本人の性格的が怪奇現象に結び付いていないので、それならもっとプレーンなキャラクターのほうがすっきりしたと思います。序盤の不穏な空気をだんだん盛り上げていく手つきの巧みさに比べると、最後は無理にオチをつけようとして陳腐になった印象。

 創作物に触れて「怖い」と思う時って「自分のすぐ近くにもありそう」とか「今まさに寝る前のこの瞬間にありそうでトイレに行けない」とかそういう身近さを感じた時だと思っていて、その身近さでにじり寄ってくる怖さを描こうとしている感じが良かったです。ですので、ラストに「ありえなさそう」なものが登場したことで、一気に怖くなくなってしまいました。ところで、私はホラー小説を読まないので、セオリーがわからないのですが「大小さまざまな歯が整列している」などの具体的な描写ってホラー小説では有効なんでしょうか? ホラー漫画とかだとよくありそうですけど、それは一目で「生理的にムリ」な形状を見てゾッとするためで、文字で説明されて想像して……とワンクッション置かれると怖さの勢いを失ってしまう気がするのですが……。

 一人称小説の話主が、次第に狂っていくお話は怖いですね。仕事帰りに晩酌用にさつま揚げとうずらフライを買ってにこにこしているなんて、すごく共感してしまう。多少神経質で怖がりだけれど何も悪いことはしていない主人公が、正体不明の怖いものに苛まれていき、最後はえらい目に。読みやすい文章で、内容が入ってきやすいです。

 

 

40. 神崎ひなた 『バリ屋のいない連絡橋』

 バリ屋という語の不可解さで牽引していくので、バリ屋の意味が分かるところはなんか面白いです。とはいえ、そのバリ屋という独特な職業性がとくに物語の必然にはなってない気がしました。ガジェット単位での面白味はあるのだけど近視眼てきなところがまだあるので、ちょっと引いた目線で物語の大枠を考えてから書き込んでいくと整うかも。絵を描くのと同じで、最初に全体のスケッチをざっとしてから細部から書き込んでいったほうが、全体のバランスが良くなります。

 読後感がよいと良いですね! せっかくバリ屋さんなので、主人公を助けるキーはバリ屋関連であってほしい……。少なくとも設定の必然性は出ます。老人が(結果的に)命と引き換えに誰かのために動く。読み手の感情を引き出す要素としてとても良いと思います。が、そこまで心が動かされなかったのは、主人公が「それをしそうな人」だったからではないかなあと思うのです。優しい人が優しい行いをするのはほのぼのします。そういう作品も良いですよね。でもきっとここで必要なのは「主人公の行動に読み手も心動かされること」だと思うので、ほのぼのでは薄い……。悪人にしろと言うんではなくて、一例ですがちょっとツンデレとか……。二人の関係にはお金が発生していますから、多少人付き合いが下手なキャラクターでも一緒にいられますしね。

 かつて読んだ小説で、中世ヨーロッパ的世界観に登場する男性の顔が「へのへのもへじ」であるという描写があり、これはアリなのか?と考え込んだことがあります。「バリ屋」はそこまでの引っ掛かりは覚えませんでしたが、「日本語かつダジャレの職業名か……」とすこしだけ戸惑いました。戦争、政変の後に土木事業に人生をささげた貴族という設定、カッコいいですね。老主人公が、バリ屋の彼女のために何をしてあげたのか。内容はぼかしてあるようなのですが、私はそこまで読みたかったです。

 

 

41. 五三六P・二四三・渡 『ネクロオーガン』

 かなり巧い書き手さんです。中華風オカルトサイバーパンクというごちゃっとした世界観は見事に描き切っています。文体はソリッドでハードボイルドなのにきっちりエモいのがえらいですね。この時点で8割以上は勝ち。プラス、二万字未満でかなり大きく物語を取り回していて華やかでいいです。思考実験系楽しいよね。最後の最後にダッとしたダイジェスト感はあるものの、オチも個人的には結構好きなタイプ。普通に長編に構成し直しても耐えられるレベルのプロットだと思うので、これは長編にしちゃいましょう。逆に言うと、バッと斬りつける短編としてのソリッドさみたいなのはあまりないので、短編小説賞てきには評価が難しいところではあるんですけど。

 かっこよかったです!! 痺れました。キャラクター、ビジュアルがかなり完成されていますよね。スッと入り込むことができて、90年代の沖浦啓之作画でイメージしまくりました……。自分の中に街がある、彼女はその街に落ちた落雷だ。ってそんなかっこいい表現あります……? あと冒頭もめっちゃかっこよくないですか? ああいうの、期待を上げちゃうのでそのあともかっこよくないとうまく機能しないと思うんですけど、全部通して読んでもかっこよく決まっている気がします。

 猥雑な世界の描写と濃密なアクションは好みで、いろいろありつつ読後感も良く、お気に入りの作品です。朱亞の、師匠への一目ぼれの表現がとてもいいです(その後の解説的なくだりはなくてもよかったくらい)。もう一息文章に精緻さが加わると、世界観とうまくハマると思いました。一回推敲して、完成度をしっかりと上げていただきたいです。

 

 

42. 深恵 遊子 『電子の海の月』

 文じたいはかなり巧いですね。リズムがよくてスルスルと読めて気持ちがいい。下手をすると大仰に響きかねないゴージャスさをちゃんといなしていて、根本的な技量の高さが伺えます。なのであとは書く技術じゃなくて書く内容で、これはもう好みの問題だとは思うのですが、わたしはあまり主人公とヒーローに感情移入できませんでした。え、ふつうにキモくね? みたいになっちゃう。現代的なガジェットを取り込んで新しい物語を作ろうとする姿勢はいいのですが、そのわりに結末がわりと保守的な印象も。もうちょっと踏み込んで考えてみてもいいのではないかって気はしました。

 ううううん……。要素を扱う手つきが少々雑に思えました。扱う要素を書き手が普段からどう捉えていて、それらがどう物語を成していくのか、というところが引っかかったのだと思います。重い設定が多いので、もう少し慎重になってほしいかも、と思いました。「男」と「女」について絶対的な隔たりを感じる描写が多いなか、この関係は破綻するとか円満には終わらないとか思う男の子が「後悔させない」ってどういうことなんでしょう……? そう思ってもなお後悔させないという決意なんですかね……? 決意に至る根拠も薄い気がしたので円満に終わらせる覚悟がないのかあるのかわからなかったです……。

 前半。主人公が意地っ張り系で友人の話をろくに聞かず、のべつまくなし怒っているのが、ちょっと乗りにくいな。文章――モノローグをのぞいた地の文は上手だけれど、キャラクターの描き方に癖があって、読者に好かれるべき人間が好かれないんじゃないかなぁ……と読み進めていったんですが、ヒロインの秘密が明かされた以降にその印象は反転するので、結局はうまく乗せられたのかもしれません。クラゲを表現するさまざまな言葉がメタファに使われていて、雰囲気が出ています。お話の構成は◎。

 

 

43. 不死身バンシィ 『異世界神の存在証明』

 異世界転生して世界を救って元の世界に戻ってきてからのお話。物語類型てきには「異世界からの訪問者」になると思うんですけど、訪問者が同伴出勤っていうのがちょっと珍しい(まったく前例のない斬新さだとは思わないけど)。欲望のままにスケベを描いているわりにはあまり嫌味がなく楽しく読めたので、そのへんの塩梅はとてもうまいと思う。最終話の手前に一番の盛り上がりがきてしまって、最終話が「うん? なんかよく分かんないな……」みたいな感じで終わってしまったので、読後感だけスッキリしません。あんまり含ませ過ぎずにもうちょっとストレートに説明してしまってもよかったかも。

 異世界に出立するお話が多かった中、帰還後の物語は目立ちました。序盤の展開が良くて、とても入りやすかったです。情報開示だけで物語が進むので、そうなのか、そうなのか、と頷くばかりで、感動的なやりとりであっても感情移入がしにくい気がしました。 

 異世界から現実世界に戻ってきた英雄と女神もの。日常シーンがとても楽しかったです。表情は読み取れないけれどコチラの世界で奔放に振舞うリーザは可愛いし、ミズハと一緒にいたいという気持ちもぶれていなくてわかりやすい。対してミズハの行動から心情が読み取りにくいように思います。リーザと思い合っていることはわかるのですが。読み返してみて、なるほど……いずれ彼は魔王としてウィンブルムに再臨するということなのかな……と(ちがったらすみません)。その設定、さりげなくカッコよく入れられたら素敵です。 

 

 

44. あさって 『夢の灯台

 序盤で読者の興味の引くのがとても上手です。身に降りかかった不思議な現象が、主人公の精神的成長に伴って消え去るというのはジュブナイルの定番の型ですね。新奇性はあまりありませんが、手堅く上手。まあでもせっかくのモモモ大賞なので、手堅くいくよりもはっちゃけてほしいって気はしちゃいます。

 東村山下車ニュージーランドまで徒歩三十分。冒頭からの夢の描写で掴まれました。とくに混乱することなくラストまで導いてもらえます。主人公のなかでの折り合いのつけかたをこんなふうに見せてもらえるなんて。とても面白かったです。

 特殊能力もののコメディ? あれ? ホラー?? えーっと……と、ミスリードに乗って読み進めました。主人公が内的世界で救われ、現実と向き合えたラストはよかったです。成長や変化がが自分の中だけでバイト仲間の陣内さんとのやり取りはスピーディーで面白かった。 

 

 

 45.  @M-- 『他人の排泄しているところが見たくて堪らない僕』

 うんこですね。マジでうんこしてるのを見て終わってしまったので、もうちょっとなにか展開があったほうが小説らしくなると思います。

  出来事以上にストーリーがないと厳しいとは思うのですが、けっこう好きです。念願叶った主人公の感動を知りたかったなあと思います。それまでの描写はわりと細かかったのに、終盤になるにつれ淡白になってしまった印象でした。ラストふつうのBLになってしまいましたが、ここまできたらうんこにはじまりうんこに終わって欲しかった気もします。

 丁寧に書かれた排泄系ポルノ、美形の眼鏡青年もちゃんと出てきます。主人公と眼鏡の礼儀正しいやり取りがちょっとおかしくて微笑んでしまいました。茶化したうんこものでなくて、スカトロ系の官能小説ってこんな感じなのでしょうか。読んだことないけれど。

 

 

46. 犬怪寅日子 『水母の骨』

 文は上手で、すごく心地よかったんですけれど、正直お話のほうはちょっとよく分かりませんでした。もちろん、これ系はあんまり説明し過ぎても興ざめなので、分かんないんだけど分かんないなりになんか喉ごしはいい、みたいなラインを狙っていくべきだから、余計に難しいんですけど。うーん、でももうちょっとエンタメに寄ったほうが親切かな。わたしが読み込めてないだけの可能性はあります。自分の中で整合的な解釈はちゃんとあるのでしょうか? それを書く書かないは別として、自分の中では整合的な解釈はちゃんとあったほうがいいですね。自分でもよく分かんないままに「そこは読者が好きなように解釈すればいいよね」みたいに突き放しちゃうと、読者としてもわりと「よく分かんないな」って感触になりがちです。

 雰囲気が好きな人は好きなのかもしれない……。二人だけの閉じた世界って、良い雰囲気が描き出されがちですが、この作品はそんなに良い雰囲気ではないんですよね。珍しい気がします。エンタメ!かと言われると微妙なところかと思うのですけれども、心にモヤモヤとちょっとした不快感が残っていて、そういうのもアリかも……みたいな気持ちになりました。

 面白かった。これはすごく好きです。重苦しいのに透明感がある、気温を感じる文章。不思議物体ものが好きなこともあります(中国の田舎の方の人が、ぶよぶよしたなにかをその辺で発見してとりあえず食べてみる系のニュースがとても好きです)。無垢すぎる瑞葉をそばに置いてやっているつもりが、実は依存していたキクナ……女の子同士はこういうことをできるのがいいですね。高山羽根子さんっぽさを感じました。私から改善点を申し上げるところはありません。

 

 

47. 加湿器 『JK侍必殺剣 - 妖剣うらみ胴の巻』

 完全に歴史小説な文体でトンチキな世界観を描くのはなかなか面白い試み。だけど、まだあんまり弾けきっていないかな。もっとハチャメチャな秘密兵器とか必殺剣とかでド派手にやっちゃってもいいかも。意外とリアリティレベルがしっかりしていて、良く言えば地に足がついてるってことなんですけど、悪く言うとこじんまりとまとまってしまっているので、和風パンクてきなトンチキ世界観でやる必然性が薄いです。特殊設定一切なしの、そのまま時代小説てきな舞台設定でもほぼ同じ話ができてしまいそうですよね。せっかくなので、もっとトンチキにしちゃいましょう。

 オーソドックスな時代アクションの雰囲気の中で、本来ならあるはずのないアイテムが登場します。たとえばこれが漫画やアニメ、挿絵付きだったら、その世界らしいデザインに凝ったビジュアルが提示されて、ひと目で時代ファンタジーだとわかるんですが、文章だけとなるとどう想像したらよいものか……と思いました。実在のバイクや装甲車を想像するわけにもいかないので……。歩行重機や、バイクと女子剣生のビジュアルはたしかに良くなるかもと思うんですけれども、この場では書き手の想像するかっこよさはあまり伝わっていないかもしれません。あんまり適切な例ではないですが『人型の巨大ロボット』と言わずに『汎用人型決戦兵器』と言ってみるような、ネーミングのかっこよさで持っていければまた違うかも。気になったのはそのくらいで、基本的にはわかりやくすて良かったです!

 行頭1字落とし、感嘆符の後全角アキ、台詞の最後の句点はトル――をお願いします。(他の作品でも同じ指摘をしたいものはたくさんあったのですが、タテ読みするときの可読性が上がると思います) 男性っぽい時代小説文体の活劇、達者だなと思いました。幼馴染のキャラクターたちに加わる忠松の存在感もいい。好きで書いているのが伝わってきます。ただ個人的には、作者の作品では、時代小説文体でないものの方が読みやすくて好みです。

 

 

48. 三谷 朱花 『きのう、みんな失恋した』

 最近は昔ほど、クラスの子みんなが同じテレビ番組を見ているということはなさそうなので、いっそひと昔前に時代を設定したほうが馴染むんじゃないかなって思ったんですけど、リサーチにtwitterが必須なんですね。今でもそういうモンスターコンテンツってあるんでしょうか? わたしのアンテナが低いだけかな? テレビ番組の催眠術のせいで、みんなが一斉に失恋する。なんか分かりやすくてありがちなわりに、意外となかったような絶妙なシチェーション設定ですね。わりとスンとすんなり着地してしまったんですけど、もっといろんなキャラクターやエピソードを足せば引っ張れそうだし、ドタバタなスラップスティックにもできそうです。ちゃんと手綱をとって物語を書き切る力はあるようなので、次はもうちょっとボリュームアップを狙ってみましょう。

 かわいい~~~!!!かわいいので、好きです。オマケにて、番組を見ちゃう主人公も良いですね。しかしそこはオマケではなくてやっぱり最終話だと思ったので、その一つ前でバツッと完がつくのはちょっと不思議な感じでした。

 優しい気持ちになれるよいジュブナイルでした。恋に対して「真剣かどうか」という基準は線引きが難しいのでしょうけれど、お話のうえでは気にならない。幼馴染の男子女子が、受験期に気持ちがすれ違っちゃう感じ、もうノスタルジーですね。「夢見る夢子ちゃん」と口にする高校生男子は……清い。小中学生に読んでほしい。

 

 

49. おなかヒヱル 『君いろ想い』

 なにか仕掛けがあるんでしょうか? ちょっとちょっと違和感を抱かせるような記述はあるんですけれど、特に作中においては謎解きがされていないように思いました。特別な意図がない限りは、思わせぶりなだけの記述は避けたほうが無難でしょう。わたしが読み解けてないだけかもしれません。

 う~~ん。どう受け取って良いものか……。セリフが『』なところとか、全部が夢……妄想……みたいな雰囲気でもあり、純粋に告白までのデートを切り取ろうとしたようであり……。最後真面目に言ってるのかも判断つかず……。すみませんなんとも言えないです。

  むちゃくちゃ読みやすいのですが、ヒロシくんのキャラクターが無色で(ノンケっぽく)、ラブストーリーとしてのめりこむことは出来ませんでした。街に人影がいないことに気づくあたりからホラーになるのかと思ったら、二人ともあんまり気にせず花火を見てクライマックス! 終わり方は潔いのですが、ヒロシくんがライトくんを好きなようにはどうも思えない。終始「あそこ」ベースでものを考えている主人公はコミカルで興味深かった。自転車二人乗りのシーンも爽やかでよかったです。あと台詞が全て二重カギカッコなのはどうしてだろう。

 

 

50. 瓜生聖(noisy) 『異世界転生したらチートマックスでハーレム生活(転生したとは言ってない)』

 楽屋オチは甘え。面白い会話文を書くのはめちゃくちゃうまいので、変にオチをつけようとしなくても地力で勝負しちゃって大丈夫ですよ。主人公と女神のかけあいが面白いだけで短編小説としてどうかというとわりと厳しいのですが、「かけあいが面白い」というのがめちゃくちゃ応用の効くスキルなので強いです。これができちゃうと、実質物語なんかただのトッピングになるというか、トッピングだけでいけるからあとはお米があればいいみたいな、なにを言ってるのかよく分からなくなってきた。

 異世界に出立しなかったパターン! でも力は手に入れている。現代で。すっ飛ばし方はそれいいんすか? と思いましたが、そんなのは粗末な事と置いておいて、誰かを助けるのに(世直しするのに)自分の一部分を失うのは良いなあ~と思いました。

 ACに活動を支援してもらえそうな主人公。たのしく読みました。口調が素になる女神もかわいいです。これからもコンビで世直ししてください。主人公42歳は…もうすこし若くてもいいのではないかなぁというくらい。さっくり読めて気持ちよかったです。 

 

 

51. 花咲 潤ノ助 『ティッシュの花』

 小説として講評しなさいという話になると、技術的な面や作法的な面で言うべきことは山ほどあるのですが、今回、最も感情を揺さぶられた作品は間違いなくこれでした。小説において最も重要なのは「本当のことを書く」というところにあると、わたしは思っていて、そういう意味ではこれは完全にエッセンスを掴んでいると思います。「本当のことを書く」に比べれば、小説作法てきな部分や技術的なTIPSなどは些細なものではあるのですが、やっぱり形式は整えたほうがさらに広くリーチするとは思いますので、一般的な「小説を書く技術」を高めたうえで、もう一度チャレンジしてみてもいいんじゃないでしょうか。真摯に自分自身を掘る、深いところまで潜水する、という最も重要な部分はバッチリです。面白かったです。

 日記のような形式はとても好きです。するすると読めて、様々なずっしりとした気持ちを感じることができました。誰もが同じ状況になり得そうで、そんな状況一歩手前の人も多い気がします。誰かの人生を覗くことは、人生をシミュレートできる機会でもあると思うので、自分が書かなければならないと感じた物語をどんどん書いていってほしいなあと思いました。必要とする誰かがいるかもしれませんので……。

 がんばれ、がんばれ! と思いながらスクロールしていました。おじさんがただ食事をする実況動画に近い味わいがありますね。「苦役列車」のように文学ではないけれど、とても実直で適度におじさんくさい文章が、泣ける……デパートのゲームコーナーで遊ぶ子供たちの描写が輝いているな思っていたら、あとの夢のシーンにも出てきてじわっときました。イザワ君のエピソードの入り方もよかった。それにしても妻の存在って、おじさんにとってこんなに薄いものなのでしょうか。末娘は癒し!

 

 

52. いさき 『バーン・アウト』

 主人公のパーソナリティなり抱えている悩みなりというのが意外とステロタイプで特異なものではないので、ここはもうステロタイプを借りてざっくりと圧縮してしまっても大丈夫だと思います。ストーリーの類型としても「ある日、少女が落ちてきて」てきなパターンでそこまで新奇性はないので、あとは岬のキャラと尽との掛け合いでどこまで魅せていけるかだと思います。そういう意味でも、主人公のモノローグはもっと圧縮してふたりのエピソードを積み重ねたほうがよかったのでは。ちょっと今のままだとスンと着地しすぎなので、同じところに着地するにしてもエピソードに厚みがあったほうが良いと思います。

 ラスト彼女が与えてくれるものがデカいな! と感じました。支え、支えられ、の構図を目指すのは良いと思うのですけれども、かなりこう、かっぱえびせんで鯛が釣れた感じがします。お互い一目ぼれだった! レベルのラストなんじゃないかな……。出来事によってそうなった、という感じがあまりしませんでした。とはいえ主人公全肯定彼女というのは一定数需要のあるモチーフだったりするので、意識的にそういう方向性で突き進むのもありかもしれませんね。

 変わったことが何一つない、大学生の物語。栃木から上京して八王子の中堅私大に入ってはみたものの、属するコミュニティもなく、過去に抱える大きな闇があるわけでもなく――という、ほんとうに普通のモラトリアムのひとたちの普通な話で、実際こういうかんじに過ごしている大学生がいるよなぁと想像できます。おおかたの大学生って空っぽですよね。文章のクセもとくになくて過不足なく、うまいなと思うくだりも出てくるんですけれど、せっかく読むのなら、主人公の心がおおきく動くシーンが読みたいなぁ、と思いました。

 

 

53. 千石京二 『夏祭り、帰ってきた君と』

 悪くはないんですけど、やっぱまだワンシーンに留まっている感じですね。もうちょっと周辺を整えないとなかなか心の深いところまではリーチしてきません。あの世に関する禅問答みたいな部分はちょっとおかしみがなくもなかったんですけど、うーん、まあでも、まだありがちかな。もうちょっと厚みをつけていかないと、インスタントに人の死を扱ってる感じで、あんまり印象はよくない。わたしは天邪鬼なので、人が死ぬ系はもう基本、絶対に共感してやらんぞみたいな気持ちになっちゃうので、それさえも突破するような力強さが必要になりそう。

 冒頭からかわいらしい二人だったので何が起こるのか楽しみに読みました。お別れシーンなど「当然ここは切ない!」という状況ほど、切なさハードルが上がってしまって、全体的に眺めてみるとお別れよりもお別れ前が切なさMAX。死んじゃったけど奇跡的に体がもらえて、急いでしたかったことをしようとする女の子のことを思うと切なかったです。

 もともと千石さんの文章は好きなのですが、この短編も切なくてとても良かったです。時間だけが流れている感じがあるけれど、それを観測する自分はいない――死後の無の世界の説明に説得力があるせいで、原理は結局わからないのだけれど、死者が実体を伴って復活する不思議もなんとなく納得できてしまいます。幼馴染の空気感がうまく描けていると思います。雄二と里奈、たった一度きりですけれど、お互いの初めてになれてよかったですね。

 

 

54. 米占ゆう 『地球に学ぶ! 危険宇宙生命体「レプティリアン」対策。』

 この人も名前の読み方わかんないですね。ひょっとするとねばりさんでしょうか? 一般にレプティリアンというと爬虫類型ってことになっていると思うので、ミスリードってことかもしれないけれど、マニアックすぎて知らない人に対しては機能しないし、知っている人にはちょっとアンフェアかもしれない。ここはオリジナルの造語でもよかったのでは? ぶっちゃけ、正体はかなり早い段階で目星がついていたので、あまり驚きはなかったのですが、それはそうとして文じたいが面白いです。ちょうどいい軽薄さで、わははって読んでなにも残らないみたいな。重いパンチもいいんですけど、こういうライトなものはそれはそれで需要があると思います。もうちょっと予想外のオチがついてきたら、さらに加点がついていました。

 ワープ航法に絶景なし。良いですね……掴まれました。その後の展開はなんとなく想像の範囲内かも、という印象でした。気になったのは「猫なで声」かなあ……。その人物が使うことのできる言葉なのかという意味でですね。うちゅう語が日本語に翻訳されたときに「猫なで声」があてられたとも考えられますが。

 実家で飼っている猫(11歳)は、ちゅーるをあげたら最初夢中で食べていたんですけど直後全部吐いてしまったのですが、とはいえちゅーるって本当にすごいもののようですね。全猫を夢中にさせる。おおむね楽しくテンポよく読ませていただきましたが、ラストでオリエの宇宙船?内にいたレプティリアン(白いモフモフ)は、地球から連れ帰ったものなんでしょうか。そのあと操縦席のとこにいたのは、船外から侵入したモノ? ディテールがもう少しあったらすっきり読み終われました。ときどき挟まれるアンドロメダ星ことわざ面白かったです。

 

 

55. いかろす 『お姉ちゃんはいつも優しい』

 日常系かと思いきや、ガションッ! と変形して羽根が生えてブオーッ! と離陸して大気圏突破しちゃったみたいなやつ。この感覚、なんか覚えがあるな~と思ったら「とけあうふたり」の人か。う~ん、前回も「さすがにびっくりします」みたいなことを書いた気がするんですけど、たぶんもうこれはこれでこういう芸風なんでしょうね。なんかこのままでもいいような気がしてきた。唐突に変調してからのスピード感は意図的なものでしょうけれど、情報が欠落しがちなので、スピード感を維持しつつ必要な情報はきっちり提示していけるようになるとさらに良くなるでしょう。

 びっくりしたー!退魔モノだったとは!退魔モノのアニメ第七話あたりで、怪異側に感情移入させるエピソードが入った、という印象のお話。甘やかす事にも怪異自身のための理由があって、そういう意味では偽りだったのかも…。という所まで考えてあるのって良いな~!と思います。ネタばらしてきなセリフが多いので、もっと整理できるかもしれません。

 長閑なおねロリ小説からの……ホラーのほうに転ぶのかなと思ったら、退魔アクション方面に展開して驚きました。陰陽師兄弟がかわいくてそっちも楽しめました。眼鏡の弟いいですね、好きです。この兄弟を主役にしたシリーズものの一篇という感じ。姉を助けるために頑張る少女が小学生くらいということなのですけれど、小学一年と六年とではだいぶん印象が違うので、何歳くらいか示してくれるくだりがあるとイメージしやすかったです。

 

 

56. ささやか 『素晴らしき結婚』

 文体が強いですね。タフで簡潔なのに軽やかでリズミカルでほいほいと読ませます。絶妙の軽薄さと洒脱さ。それにちゃんと現代的で古臭さを感じさせず、それでいて時代さえも超克しうるような普遍も兼ね備えていて、なんだろう。十年後に読んでも面白いだろうなって感じがします。頭ふたつ抜けた高評価。

 純粋にどうしたらこういうが書けるのか気になってしまいます! 冷静に酩酊している。酩酊させてもらっているのかな。紫プランを否定しきらないような世界を見せてくれて、結婚と恋愛と社会と人間を考えさせられます。扱い方もまたバランスが良いな……と感じました。ラストも好きです。

水子は鸚鵡した」「耳を皿して」など、まちがい寸前のオリジナル言い回しを力強く使いつづけながらながら突き進む婚活ストーリー。ギャグも滑る前に飛んで行ってしまうスピード感がくせになる。狂気と共に高いセンスを感じます。長編も読んでみたいです。結婚が決まってからよりも、婚活をしていた時の方が水子が輝いていたのが暗示的。あと、節を区切る小見出しが、〇〇●とか☆☆☆とか毎回ちがって、気味が悪くて気になります。信州出身者にどんな恨みがあるのかも。

 

 

57. 久留米真尋 『おむすびスタッパー』

 なんでしょうか? よく分かりませんでした。さすがに情景がまったく頭に浮かばないので、もうちょっと描写とかをしたほうがいいです。

 描きたいシーンは描けたという事なのでしょうか。それ以外を読み取るのは難しかったです。

 まず些末なことを申し上げると、表記ルールにのっとった方が読みやすくなると思います。(行頭下げ、三点リーダ、感嘆符の後全角アキ) 内容的には、あっちこっちやりたいことをつまみ食いした印象……結末から考えるとそれでいいのかもしれないのですが、読者サービスという点では、「読んでよかった」小説に仕上がってはいないように思います。きっともっと上手になれます。

 

 

58. 御調草子 『備忘録』

 なんてことのない話なんですけど、圧倒的に巧いですね。すごい。文体と語り部の性質が完全にマッチしていて、地の文だけで実直なパーソナリティが透けて見えて、好感を抱きます。こういうつらつらとした小説の場合、そんなに綺麗にオチがつくってことはあまりないし、だいたい綺麗にオチをつけちゃうと逆に人工的な匂いが鼻について白けるものなんですけれど、これは白眉。しんみりと終わるのかなぁって思ってたら、パッと気持ちが上向く感じで、よかったです。ああ、こういうまとめかたもあるのだなぁと勉強になりました。オシャレですね。ものすごく力のある作者さんっぽいので、ぜひ中編~長編規模の物語にも挑戦してみてほしいです。

 ああ~。ラストが本当に良いですね。すーっと入り込めました。備忘録。作中でそのノートはまだ使われていないんですけれど、お盆というイベントとふんわり重なり合う。遠くの大切な人を想うこと。幸いと言っていいのか私には経験がないけれど、年々歳を重ねるごとにこういった物語が響くようになるのは、いつか来るかもしれないその日のためなのかなあと思ったりします。きっと寄り添ってくれるはずです。

 落ち着いた大人の小説。安心して読める文章。ちょうどお盆の時期に読めたのがよかったです。作中に登場はしないけれど、亡き妻もたしかに主要キャラクターの一人として活きていると感じました。穏やかな気分で読み終わるのだろうと思ったのですが、ラストの仕掛けでうるっときました。締め方は期待通り。良いものを読ませていただきました。

 

 

59. ものほし晴 『芦葉聡一郎のガラクタ』

 お話の流れは非常に良いのですが、さすがに駆け足すぎる印象。分かり易いストーリー展開でおかしみを提供するのではなく、要所要所の描写の厚みで作品の良し悪しが決まってしまうタイプのプロットなので、全体にもっと書き込んだほうがいいですね。現状だとザッとしたスケッチという感じ。芦葉先生を描くことに注力してしまって、主人公が視点だけの空の箱みたいになってしまっているので、高校を辞めるに至った経緯とか、今の心理状態、焦燥感や諦念なども書き込むと、ラストで未来に向かってひらけていくような読後感が生まれる気がします。

  わたし……じゃないものほし晴さんの作品だ。うー。数日たって読み返すと、そんなに焦らなくても……と思います。いつか漫画にするのではないかな。本物川大賞に参加すると漫画のストックもできちゃう! やったー! でもまずはこれをちゃんとリライトしてみたい気がしてます。

 冒頭から上手だなぁと思いました。老紳士萌えはあまりしない方なんですが、先生素敵ですねぇ……。士業に長く就いて常識も十分あるだろう先生も、愛妻の闘病のためなら怪しい民間療法に手を出してしまう。主人公は学校を辞めた理由などには特に言及していないんですが、それでいいなと思いました。ちょっとだけ気になるとしたら、主人公の普段のバイト先が何屋さんなのかな~くらい。第四話、主人公の感情が昂ぶる→先生のカッコいい台詞。ハイライトの作り方もよかったです。

 

 

60. ロッキン神経痛 『箱庭カプリチオ』

 面白くてグイグイ読ませるんですけど、全体として見るとやっぱ散らかっているなぁっていう印象はあります。カプリッチオっていうことなので意図的なものなのでしょうけれど、短期的には転調につぐ転調で読者の目を回らせつつ、読後に全体を俯瞰して見ると調和があるみたいなのが最高に理想的だと思います。序盤の繰り返されるお葬式という謎の状況が、ただのシュールギャグで終わってなくて、ちゃんと「定期的に清められていたからおばあちゃんは大丈夫だった」みたいに回収されるところはいい。こういう感じでぜんぶがハマると最高に気持ち良さそう。事象の根本の原因が最後にポンと登場するのは説得力が薄いので、やっぱり序盤から示唆されていたほうが納得感が向上すると思う。たとえばテレビのニュースとかで少女につながるような手がかりが提示されているとか。ロッキン神経痛さんはもう一周目は試走と割り切って速で書いてしまって、二周目で仕上げにいくようにすると生産高があがる気がします。

 面白かった……! 面白かったです。先をぐいぐい読ませるってこういうことか……! 各所に惹きつけるポイントが用意されていて親切でした。リセット終了後、リセット頼りに世紀末していた人たちはいったいどうなってしまうんだ……。ヒェ……。

 無理めな設定、状況を力業で読ませてしまう筆力に脱帽です。「こうなんだよ!」と提示されたものを「そうなんだね! 了解」と納得してもっともっとと読んでしまう。そんな技術を前にすると「設定に無理がある」なんて言い訳のように思えてしまいます。カラッとした文章に、ユーモアとペーソス、バイオレンスなんでもあり。ラストシーン、背後には死体の山が築かれているんですけれども、とても優しい気持ちでばあちゃんたちを見送りました。最後はリセットは起こらないんですよね。化学の先生は気の毒だなぁ。

 

 

61. 芹沢政信 『チャンコクラブ』

 為三。

 絶対小説(講談社文芸第三出版部より書籍化予定!)……? どんな小説なんだ……。うっ……彼女は死んでも治らない(八月八日発売)……? いったいどんな小説なんだ……!? 気になる……!!

 梅雨明けにぴったりのゴキゲンな作品でした。いま限定で面白い作品というのも、ウェブならではの趣があっていいものですね。「絶対小説」刊行を楽しみにしております。講談社文三! 名門! おっさんの肛門から生えたメグちゃん先生がうつろな表情でラッパを吹くとこ大好きです。

 

 

62. イトリトーコ 『クジラの心臓』

 わたしはこれ、今回の横合いから突っ込んでくるトラック枠だと思うんですけど、すごいですね。めちゃくちゃ好き。めっちゃ綺麗で幻想的なのに地に足がついててファンタジーというよりもSFで、SFってだいたい土臭くて芋っぽいものなんですけど、これは蒸留して上澄みだけをすくってサラサラの透明にしましたって感じで、でもSFではあるみたいな。すごい。たぶん、すごいんだと思います。人間、自分の理解を超えたものに対して妥当な評価を下すことはできないので、なんかすごいなってことしか分からないんですけど、わたしはすごく好きです。最初から最後まで抽象的でぼんわりとしてるんですけど、それがウィアのぼんやりとした意識状態とリンクしちゃってるので、ラッキーパンチかもしれないけど、意図的にやってるのならかなり高度です。もっと長いのも読んでみたいです。

 本当に良かった……描かれている想いも、言葉も、音の流れも大好きです。大好きしか言うことがない……。どうしたらいいですか……鳥肌が……。彩度の低めなうすいブルーのざらりとした紙に印刷して小冊子にして眠る前に読みたい作品です。

 読んだ私の脳内ではハルノ宵子先生の絵柄でショートフィルムになりました。淡々と語られる世界の様子は物語としては珍しいものではないのですけれど、濃密で修辞にみちた文章が音楽のようで。人類に許された時間をはるかに超えるラブストーリー、素敵でした。どこにも泳ぎつけずに浜辺に打ち上げられたクジラは、地球を棄てて宇宙に漕ぎ出した船の《クジラ》の運命を暗示しているのでしょうか。人の愚かさと強さが両方描かれている。二人の終わりかたがすごく良かったです。

 

 

63. 武州の念者 『奇絵画』

 山月記っぽい感じの怪奇譚。かなりかっちりとした文体で、普通に売っている本を読んでいるみたいな感触。全然引っ掛かりもなく楽しく読めたので、文はかなり巧いんじゃないかなと思いました。筋じたいはこの手のお話としてはありがちというか、ひょっとすると太平広記あたりにちゃんとなにか元ネタがあるのかな? って思うんですけど、奇抜な話でもないのに面白く読めたあたり、うん、単純に文が巧いんでしょうね。これはこれでもう完全に完成されているので、基本的には言うことないんですが、あとは本人がWEBへの適応とかPVとか☆とかを気にしているかどうかに依るでしょう。たんに「俺は耽美な美少年が書きたいんじゃうおお~!」なら100点あげちゃう。

 びっくりするほど読みやすかったです……!この雰囲気に飲まれてしまいたい、と思いました。読み返したときに、「そういえばめっちゃ絵がうまいお爺さんいたな……!?」となりましたけど、まあそんなの野暮でしょう……。

 山月記を髣髴させる怪談というか、おとぎ話。冒頭のルビたくさんエリアを潜り抜けるのにちょっとパワーが要りました。妖獣にされてしまった青年たちのバックグラウンドを描くとまさに山月記になってしまうので、奇妙な話としてはこれでいいのだとおもいます。最後の節に出てくる日本人だけ、口調が不自然に砕けていて文章から意識が離れそうになりました。普段からこの文体で創作されている作者さんなのかな……と思って過去作をのぞいてみたのですが、今作と同モチーフの作品がありますね。セルフリメイクに山月記テイストを加えた形でしょうか。

 

 

64. 秋永真琴 『八月某日、磯山あき』

 うーん、意識高い系? だとか、創作の駄サイクルとかに一石を投じるという問題意識は伺えるのですけど、ただ石を投げただけで終わってしまってませんか? みたいなことはちょっと思っちゃう。まあでも、このなにも起こらなさこそが地獄でありホラーみたいなところはあるし、めちゃくちゃもやもやしたので、もやもやさせるのが目的なら完全に目論見どおりって感じですね。余談ですけど、そういう地に足のついてないナチュラル見下し意識高い系がひどい目に遭う小説だと、本谷有希子さんの「静かに、ねぇ、静かに」が面白かったです。ツイッターリアリティは頑張りが見えるんですけど、やっぱどうしても正気の人が真似してるっぽさは出てしまいますね(あまり忠実にやっても縦書き小説だと散らかった印象になっちゃいますしね)(句読点エラーなどは分かる)

 ヒェ……。ヒィッ! って言いながら読みました。最後まであきちゃんは何も変わらないまま終わるんですけど、なんというか、あきちゃんがそのままだったらあきちゃん自身は幸せなんですよね。頭のどこかではわかっている自分のダメさに蓋をして、てきとーにいいねくれたりする人だけと付き合う。周りにいる人たちはどんどん変わっていくだろうけれど、あきちゃんが気付きさえしなければ、わりと健やかにやっていける。あきちゃんの「痛さ」がわかりやすく表現されていて、つい、こうはなりたくない……こんな人間じゃない……。と思ってしまいますが、私もきっといろんな場面であきちゃん的な幸せの部分を持っている。それが完全に悪いものなのかはまだわかりませんが、忘れちゃいけないな、と思いました。うう、お姉ちゃんの愛……。 

 地獄! つい講評を書く前にレビューを読んでしまったんですが、読んだ人たちが落ち込んでるじゃないですか……自称小説家系クリエイターへの怨嗟と嫉妬と憐憫と愛が生み出した地獄短編! これバズらないかな。慶大卒系の女性ライターの目に届いてほしいです。小説としての充実はないのですが、読み物として、読者の間でこのイヤ~な感じを共有できるという体験はいいです。女芸人のネタを見ているような。この主人公を痛い目に遭わせて改心させるというのも今っぽくないので、この、地獄が続く感じのエンドでいいのだと思います。

 

 

65. 三和わらび 『この想いをいつか君に伝える』

 キャプションに本人の談があるんですけれど、実にその通りで、短編としてはどこにフォーカスして読めばいいのかが分かりにくくてぼんわりとしていますね。序盤がとくに「これはなんの話なのか」ということが明示されないままにつらつらとしたエピソードが続いてしまうので、ちょっと退屈。短編小説の規模だと、だいたいできる話はひとつだけなので、ひとつに絞ってそこに向けてエピソードを積み上げていったほうがいいです。唐突に登場する陽菜もあまり必然性がなく、構成的に浮いてしまっているので、徹頭徹尾、智也視点で進めていったほうがスッキリしたと思います。登場人物もちょっと多いですね。短編として仕上げるのであれば、必要のないエピソードをバッサリと切る勇気も必要。

 高校生のもだもだキュンですね……! 誰かが笑いあうカゲでは誰かが泣いているのだ……。ハッピーなエンディングと切ないエンディングが並んでいるので、読後感がモヤモヤとし、ある意味で高校生の恋愛事情っぽく感じられる気がします。長編向きのネタかなとも思いますが……。他力本願からの脱却、主人公の成長を意識していたのが良かったです。気になるのはエピソードの取捨選択でしょうか。もっと良くなりそうなお話です。

 幼なじみの気ままでかわいい少女は文芸部へ、フツメンの主人公は新聞部へ。高校生活の始まりの高揚感を丹念に描こうとしたお話。恋愛アドベンチャーゲームの冒頭のように、たくさんのキャラクターが出てきます。文芸部と新聞部が旧校舎の同じ部室を使っていて、一緒に郊外取材……盛り上がる設定を使いこなせていないのがもったいない。周囲の友人たちも、主人公とヒロインをくっつけるための動きしかしていないので、ストーリーに起伏がない。当初の計画通り、1年間ののお話にのばし、アキを狙う恋敵を登場させるとか、陽菜をもっと動かすとか、くっつくまでの波乱の展開を期待します。カクヨム甲子園に応募されてるということは若い著者さんですよね。がんばってくださいね!

 

 

66. Veilchen 『マクシミリアンの涙』

 わりとファンタジーの人という印象が強かったんですけれども、こういう普通っぽい現代ものを書いてもやっぱり巧いですね。敢えて欠点をあげるとするならば、やっぱり主人公がただ出来事を観測する視点としての役割しか与えられていなくて、ちょっと弱い。完全にマクシミリアンが主役になってしまっている。青春ものはやっぱりなにかしらの主人公の成長を感じさせたほうが納得感が高まるので、たとえばですけど、最後にマクシミリアンに声をかけにいく、ただそれだけの行動ですら主人公にとっては大きな勇気と決断が必要になる行動なのだ、となるようなパーソナリティに最初に設定しておくと、話の筋そのままでもなにかしらの決断と行動、成長を感じさせることができて、マクシミリアンの物語から若菜の物語になるかもしれません。

 うう……きらきらしてる……。二人がとても可愛らしくて、ちょっとだけ交差した二人の人生の一点が煌めきました。主人公はきっと何年たっても覚えているんだろうなあ。好きな作品です。

 等身大の青春もの。女子校の空気感を楽しめました。女の子が女の子に憧れる気持ちがストレートで素直で、好感が持てました。友達じゃないからこういう風に好きになれるのでしょうね。最後、彼女が舞台をやりきったあと流した涙を主人公はひときわ絶賛するけれど、失恋して泣いているときも格好いいと割と絶賛していて、その差はなんなんだろう。自分の傍で泣いているときよりも、スポットライトの下で仲間と涙を流す彼女を美しいと思うのなら、主人公は結局はファンどまりなのだなぁ、と、少しさびしく思ったりもしました。マクシミリアンが素敵な子なのはとても伝わってくるのですが、その光をあびるだけの主人公が、最後何か報いがあってほしいと思うのは無粋でしょうか。せめて名前を呼んでもらえるとか……。

 

 

67. こやま ことり 『ストーカー系執事は今日も黒猫伯爵様しか見ていない』

 序盤、あまりのゴージャスさの連発に圧されてしまっていまいち入り込めなかったのですが、終盤の「お前のすべては僕のものなのだから」でぜんぶ持っていかれました。逆転サヨナラホームランって感じ。この歪で崇高な関係性は最高ですね。尊い……。台詞まわしがちょっと説明的すぎたり、敵役のキーファが三下てきなアホなのであまり燃えなかったりと、欠点として指摘できるところはあるのですが、そのへんを考慮しても十分に魅力的な作品でした。精霊の物騒なビジュアルもいいですね。

 わ~~~~~! 良かったです! こういった貴族モノ? 小説はたぶんはじめて読んだと思います。終盤になるにつれどんどん関係性が明らかになっていって、それがガッシリキャラ同士を繋いでいて、それがとても良かった。メインのキャラが立っているので何か要素を足したらシリーズ化もできそう。

 タイトルどおりのお話でした。長髪/超美形/眼鏡/超有能/超毒舌/主人を超溺愛! 全部乗せ執事! BL主従萌えのかたにはうれしいお話だと思います。文章も設定もゴージャスでサービス精神を感じます。この世界には女は飾り程度にしかいらないのですね。前半、5人でずっと立ち話したままかなりの量の情報がもたらされるんですが、移動するなり、周囲の情景描写なども交えてあげると、読むのが楽になりそうです。

 

 

68. ラブテスター 『鬼の棲む杜』

 かっこいい全裸中年男性小説。序盤からわりとガッチリとした文体なので、全裸で彷徨ったりしてても意外とコミカルな印象にはならないのは欠点なのか狙ってやっているのか分かりません。文章は異常に巧いですね。普通だったら空回りしてしまいそうなゴージャスな修辞もちゃんと馴染んでいて無理がないです。ところどころですます調と言い切り文が混在していて据わりの悪さは感じるので、声に出しながら推敲すると良いでしょう。全体的に立ち上がりが遅く、堅い文体も相まって一見の読者の興味を牽引するのが難しそうとか、いろいろと粗はありますが、それを十分に補えるだけの妙な魅力があります。「これはこういう話ですよ」というのは早めに読者に対してある程度示されたほうがいいですし、一番最初の節は「その日の朝のわたしは~」と、過去を振り返るていの記述になっているので(つまりこの時点で語り部はすべての出来事を体験し終わっていて、この後に起こることを知っているので)せっかくならここでザッとでも「これはこういう話です」と語らせてしまってもいいかもしれない。

 語り口がとても面白かったです。序盤~中盤テンポの良い音の流れがあり、昭和の雰囲気がして好みです。興奮して説明してくれるおじさんの表情が目に浮かびます。しかし終盤かなり変わりますね。鬼になったという表現なのだと思ったのですが、読み返したら鬼になる前から変わっている気がするので、どうだろう……。本性が暴かれ始めてると解釈していいのか……かといってバツっと変わってもおかしいだろうと思うので、むずかしい技だなあと思います。童子さんとのシーンの雰囲気がとても良かった……。

 これは私はだいすきです。うまいなぁ。中年男性のとぼけた語りの(上)も好きだったんですけれど、突如怪異の世界に投げ込まれ、その後のめまぐるしい展開と派手なアクションは圧巻でした。童子との邂逅――恋で劇的な変化を遂げるシコ男さん。飯村さんの仇を討つシコ男さん。もう「えーっ。」って言わない。最後は美丈夫の身体を得たけれど、頭部はちょっと防御力低めのおっさんのままなのですよね。でもとてもカッコいい。

 

 

69. 灰咲千尋 『熱帯夜』

 キャプションにスケッチとあるとおり、ワンシーンの素描という感じで短編小説として評価するのは厳しめなんですが、この素描の手つきは非常に良いですね。長編小説を書けるだけの力はすでにありそう。文が巧いというよりは、世界を見る目がいいという感じ。このままある程度以上のボリュームまで書き続ければ、なんらかの文芸になりうると思います。つらつらと書いていても量によってテーマが自ずから立ち上がってくるという現象はあるので、とりあえず十万字くらい書いちゃいましょう(カジュアル)

 ふふっ「眼鏡仕草」だなんて言ってしまっていいのかしら? わたくし半端な眼鏡描写では響かな……はい。眼鏡賞おめでとうございます!!!!!!! 完璧。完璧です。ビジュアル、キャラクター、雰囲気、眼鏡の活用法、素晴らしかったです。描かせて下さい。お願いします……。二人の関係もとてもよいです……。ど真ん中に刺さってしまうと好き以外の感情を無くしてしまいます。

 田舎に帰省した大学生の主人公が、地元で幼なじみの眼鏡男子と数カ月ぶりに再会した夜。品よくまとまった、うっすらBLでした。普通にありそうなシーンが、自然に描かれていて、このお話好きです。眼鏡と缶飲料につく結露が情景に湿度を足しているようで、いい仕事をしている。眼鏡がないと同じ風景も見られない/祐也の好きだという風景は自分には見られない。というジレンマも過剰でなくうまく書かれているなと思います。眼鏡はよいものですけれど、人と人の間を隔てるものでもありますよね。コンタクトレンズに出せない風情。眼鏡っていいものですねぇ。

 

 

70. 東風 『虚無であるか』

 物語の冒頭で示されている謎や、大仰な傍点によって徐々に明かされる設定などに比べて、結末で示される真相がわりとこじんまりとしているので、肩すかし感が出てしまいます。冒頭で示される謎は謎のままに、別のところで物語に決着をつけているのは意図的なものだとは思いますが、傍点が期待を煽って読者に思考や推理を促す設計になってしまっているので、同じ結末に導くにしても、もうちょっとさらっと扱ったほうがストンと収まったかも。あと、細かいことですが、カギカッコを閉じるときは句点は置かないのが一般的です。

 うぉ~~~~~~~こういうの弱いです!!! 押し付けない愛。たとえ孫が一切自分のもとへ来なくなったとしても、「来てくれ」なんて言わないだろうおじいちゃん。「ないように見えても、きっとある」この言葉で物語がまあるく包まれているのが最高に良いなあと思いました。こういう物語の推理パート(?)では、何年前、何歳の時、などの数字を出しちゃうと読み手に脳を使わせて雰囲気を削いでしまう気がするので、自分の中で年表が出来ていれば、もっとふんわりさせてみても大丈夫じゃないかなぁ……と思います。後半傍点がやや過剰かもしれません。 

 星を観測し続けるおじいちゃんと、その孫娘。成長していく毎に語り口が大人びてくるのは可愛らしくたのしかったです。16歳になるまでの2年間で一気に大人になったな。無愛想で不器用なおじいちゃんですけれど、亡くなった後に明かされる秘密……がなくても、十分孫への愛情が感じ取れていたので、主人公と一緒に感動することがそれほどできなかったのです。思春期になってから、もっと強く衝突させておいた方がよかったのかなぁ。でもそういうシーンを読みたいということではない……。 

 

 

71. チクチクネズミ 『人形だったものたちの遊び場』

 序盤に「私個人としては、この小学校に特別な愛校心は持ち合わせていない」という致命的な誤字がありますね。舞台が小学校だと認識していたので、ところどころで混乱しました。過去と現在を行き来するときの重ね合わせみたいな手法は映像的で、オシャレでいいと思います。散発的なエピソードがそれぞれに独立していて、あまりより合わさっていない印象なので、はじまりから終わりまでを貫く一本の筋に絡みながら収束していく感じにできると、もっと完成度が上がります。あと単純に、わりと「うん?」と、引っかかってしまう記述が見られるので、声に出して読みながら推敲してみるといいです。

 優等生二人が廃校に侵入、自分の中の子供を取り戻す。良いモチーフだなあと思いました。所々、文法的な問題で読む目が止まるところがあったので、まだまだ直せるかもと思います。

 途中までは小学校だと思って読んでいた(低学年とか、1年生の机が小さいとかもあったので)のですが、3話目から中学校の話に……?(もしかしたら小中一貫だった…わけではないか……)と混乱しつつ。いち読者としては、小学校の話でよかった気がします。現在のシーンと回想シーンを同じ文章でつなげていくやりかたは、うまく行っていると思います。優等生であることで辛酸をなめたり思うように過ごせなかった主人公が、卒業式で起こす最後の反乱として君島の卒業証書を隠したのがどうしてなのか、ピンと来ていません。もっとスケールの大きいことだったり、廃校になるまで気づかれなかったら勝ち、みたいな賭けをしていたり……さらにいい演出ができるのではないかと思いました。

 

 

72. 双葉ちの 『月夜にドロップ』

 冒頭の節、主語はないので三人称てきに描かれていたようなのですが、自由間接話法てきに人物への密着度の高いカメラで描写されていたので、わたしは最初、勘違いして一人称てきに読んでいて、次の節からすこし混乱しました。三人称で書くなら三人称で書いていると明示できるような記述がさりげなく含まれていたほうが親切かも。あと、入試という語だけでは中学入試、高校入試、大学入試といくつかの可能性があり得るので、主人公のパーソナリティが確定しません。そのへんの情報は早めに明示されたほうが読者も据わりが良いので、ここは「高校入試」と書いてしまったほうが親切だったでしょう。序盤のスローな立ち上がりに比して、後半が駆け足ぎみでギミックの説明もザッとしてしまったのは、たんに時間的な問題でしょうね。モチーフとしてのドロップであるとか、不思議な現象とその謎解きとか、もっと綺麗にハマればスカッとするだろうな~っていう要素が多いだけに、ちょっと物足りない仕上がり。計画的な執筆、大事です。

 おああ〜〜!! 好みのタイプのキャラクターが登場すると転げ回ってしまいます。良い父……良い眼鏡……。幼馴染の日常の雰囲気も大好き。このお話で印象的なのは、誰もが何かを失っているところで、あっち側の存在を知ったあとだと、印象が変わって来るのですね。向こうには、あるかもしれない。そして、向こうには、ないかもしれない。それぞれの今後の幸福を願わずにはいられないお話でした。

 羊頭狗肉というしかありませんね……序盤が頭でっかちで、起5:承転結5みたいなバランスになってしまいました。序盤のお父さんとのやりとりとかいらなかっただろう。でも貧乏性なので残してしまった。素材を調理しきれませんでした。計画的な執筆大事ですね、仰る通りです。知っている街なのに、時間帯や湿度温度なんかで、初めてきた場所のように感じることがありませんか。そのイメージと、だいすきな青い鳥文庫の「クレヨン王国から来たおよめさん」からヒントを得た設定でした。自作なので解説しました。

 

 

73. 綿貫むじな 『聖餐』

 進退窮まって、さてどうしようか? となったところから物語が展開していくべきなのに、そこで物語が畳まれてしまったので、なんのためになにを読まされたのだろう? という気分になってしまいます。最後まで主人公の目的意識が見えないことも、あまり乗り切れない原因ではないでしょうか。この手の職業的に事件にコミットしている系の主人公からは、なにかを奪うことによって、ただの依頼ではなく自らの意志で動くことになるよう動機付けをするのがセオリーです。人物配置てきに言えば「ケイト=グリーンを救うため」みたいな感じで主人公に動機付けをするのが定石でしょうか。あまり精悍なタイプの主人公ではないので、恐怖しながら、怯えながらも、自分を奮い立たせて行動するような物語にすると、もっと格好がつくかも。

 悪事を暴こうかなー? やめようかなー? で終わる珍しい探偵もの。探偵であることで解決への期待をかなり高めてしまっているなあ、と思います。食べてはいけないものを食べることに魅力を感じて、例えそこで食人が行われていようとも、もうその魅力に抗えない人間の業を描きたいのか、解決することを前提に探偵ものとしての形をとりたかったのか、いずれにせよ狙いが弱めかもしれません。

 近未来の感じがないのは、現代に普通にあるものしか出てこないからでしょうか。ちょっと世界の作り込みが浅いような気がします。出てくる料理やお菓子が普遍的すぎたり、「下敷きのように薄いPC」とか……この世界に「下敷き」がまだあるのかな、みたいな細かいところで世界が緩む感じがします。統制された菜食を「菜っ葉を食べる」と表現しているのも、ちょっと可愛らしく思えてしまう。平易な言葉で書かれているのはいいことだと思うのですが、オリジナルのタームを絡めるなどしながらメリハリのある描き方をすると、よくなると思います。内容としては、ショートショートでも済む話かなという印象です。

 

 

74. Enju 『吹き抜ける風の都』

 聖剣伝説LOMみたいな絵柄が似合いそうなほんわかファンタジーで、雰囲気づくりは上手だと思います。「フリード君」と、なにやら親しげな三人称視点で記述されていたはずなのに、途中で唐突に「俺」と地の文でフリード君が言い始めたりと、なんか叙述が定まってないな~と思いながら読んでいたら、伏線だったのですね。プロットに破綻はないです。シルフが登場するシーンでは、ちゃんと「はい、みなさん驚いてくださいね!」てきな演出はあったほうが親切かもしれないけれど、これくらいサラッと流しちゃったほうがオシャレかもしれないし、難しいところ。これくらいライトな読み味でもいいんだけれど、単純に全体をもっとボリュームアップしたほうが読みごたえがあるとは思います。

 子供のころのわくわく感を思い出させるファンタジー……! 語り口の印象からでしょうか。出来事に動きがあって私の育ってきたファンタジーってこれ!! という気持ちになりました。冒険の一幕なのかな、と思ったら冒険の終わりも来てしまうのですね。ゲームのエンディングを迎えるような寂しさがありました。

 読みやすさのためには、表記ルールを意識していただくこと。児童向け作品のような語りが何のためなのか考えながら読んでいましたが、なるほど……観察者(ナレーター)がいたのですね。この構成を読者に楽しんでもらうならは、他の部分では謎を残さない方がいいように思います。シルフがどこにどのように囚われていたのか、街がコントロールしている風とそうでない風で、なんでそんなに影響に差が出るのか……作者のなかではつじつまが合っているのかもしれないのですが、読者にきちんと伝わるよう、エピソードのなかで印象付けてほしいと思いました。前日談がナレーションで終わってしまっているのも物足りない。読みながら「? 何か読み飛ばしたかな……」と思う部分が多かったです。

 

 

75. 既読 『男に恋するぼくと夏祭りにまつわるいくつかの恋とその顛末』

 男ふたり女ふたりの四人で、できる限りの関係性をバチバチに詰め込みましたって感じの恋愛小説。人気とりのためのふわっとした安易なホモじゃなくて、ちゃんと接地させて真剣に考えている感じが伝わってきて、いいです。現代的にアップデートしようという問題意識も感じられます。プロットの破綻はないので、あとは単純に分量の問題ですね。借りるところはざっくり雛形を借りちゃうなど、少ない文字数で無理なく情報を詰め込むための工夫は随所にあるのですが、それでもやっぱり、さすがに15000文字程度で四人の視点をリレーしてこのエンディングまで導くのは、ちょっと無理がありますし、そもそも短いスパンで次々と視点が変わってしまうのは、あまり望ましくありません。視点人物が変わるたび、読者はある種のチューニングが必要になるので、チューニングを合わせている間にまた人物が変わってしまう。この種の人物への感情移入が一番重要になるタイプの話では、特に望ましくありません。ひとつの短編小説ではなく、四人それぞれを主人公にした短編×4くらいにボリュームアップすれば、もっと納得感が高まるでしょう。2万字以下に収めるのなら、アツシとまこのパートはざっくりカットしちゃうくらいの思い切りが必要かもしれない。

 終盤まで、あ~~~~好き~~~~! と思って読んでいたんですけれども、ラスト、どうなんでしょうか!?!?!?! んんんん? あゆみさん、結婚だけはしてみたいと言うのは「結婚式だけは」してみたい、なのでしょうか……。やばいですよ。この二人の結婚生活。もし主人公が今後も女性を身体的に一切受け付けないタイプなら、お互い性的な欲求や恋はよそで済ますわけなので、世間的には不倫確定。あゆみさんの想いは親友というポジションで一度は安定していたのに、結婚願望があると知ったうえで結婚を申し込んでしまうなんて……。結婚して一緒に暮らして(たぶんそうなるでしょう)家族を作ってそのうえでお互い不倫するかもしれなくて、友達のまんまでいられると二人は思ってるのかな……。子供がいたら「子供を育てるためのユニット」みたいになれるかもしれないけれど、そこまで考えてるのかな……。きみたち酔ってるよ! 一回家帰って、明日冷静に考えな? ね? そしたら文句言わないからさ。

 とても読みやすく、それぞれ失恋はするけれども丸く収まる……おさまってるのかな? 10代の不器用さが瑞々しい連作でした。個人的に好きなのは、「自分のハンカチ持ってんなら、鼻水はそっちで拭いてよ!」ってところです。なんとなくここで体液が出てきたので、その後の親友関係がすんなり入ってきた気がします。三話と四話、視点が変わることでシーンの見え方が変わってくるなら連続して出す意味があるのかと思うのですが、とくに驚くようなことはなかったので、蛇足感がありました。まこちゃんのモノローグは可愛らしいのですが。神社の参道でちょっとした奇跡がおこってよかった。あのシーンがなかったら、ストーリーを退屈に感じたと思います。

 

 

76. 水無月 あめ 『あなたにあげる』

 なんてことのないお話なんですが、いいですね。心配したり気を揉んだりするのも仕方ないけれど、それはそれとして過保護になりすぎずに、ひとりの人間として放っておくのも大事だし、やっぱ人を心配するってある側面ではその人を侮っているみたいなところもあるよね~みたいなことを思いました。こういう「こうである」とすんなり言い切れないようなものを描き出すためにこそ小説というのはあるわけで、そういう意味では目のいい作者さんなのでしょう。文章も読みやすいし、ひでちゃんもかわいげがあっていいです。序盤、立て続けに「わたし」「母」「老婆」「その息子(推定)」と、じゃかじゃか登場人物が出てしまうので、一気に情報を呑み込むのがちょっとしんどいかも。もうちょっと余裕をもって順に提示できたほうがすんなりいくかな。

 良かった~~~~~! そしてひでちゃんが元気で良かった~。するすると読めて、主人公もひでちゃんもやわらかいひとで、癒しすら感じました。この人のためにやっている、と思っていたものが、この人と一緒にいると心地よいのだ。という友人関係になっていく。いいなあ。

 ついつい荷物が多くなってしまう主人公好きです。読んでいて気分がいいお話でした。ひでちゃんとの会話がかみ合わないというのもおおらかでリアルでいい。老人は話したいことを話しますよね。それと、主人公とひでちゃんだけの交流の話じゃなくて、母親を登場させたことはよかったように思います。働き者の、未来のひでちゃん的存在の母。舞台は広島あたりなのかな? 旅先のお土産センスがいいことや、更新され続けるくたびれた地図なんかのアイテムがシーンに彩りを加えている。応援したい作者さんだと思いました。

 

 

77. @Pz5 『重力井戸の底で』

 SFの皮を被っていますが、テーマてきには未来的ではなく、わりとオーソドックスというか、ちょっと懐古趣味てきなきらいが感じられるほどです。古い翻訳もののSFだとよくあるんですけれど、日本だとあまりカトリックてきな価値観は支配的でないので、ちょっとピンとこないところはありますね。登場人物のすべてが物語上での役割を明確に与えられているので、キャラ先行ではなく構図から人物を配置して設計している感じ。小説を書くためのアプローチとしてはむしろ玄人じみているのですが、それはそれとして、各キャラが作者が与えた役割を超えて自走しだすと、執筆ももっとスリリングになりますよ。最後は爆発オチに近いので、思弁的な叙述が売りの作風ですから、もうちょっと踏ん張って深いところまで思索を及ばせてほしいなって気はしました。

 とっつきにくいかな……と思っていたのもつかの間、ぐいぐい読みました。会話の緊張感がビシビシと伝わってくるようで、硬質な雰囲気がぴったりです。主人公の好感度は最後の最後までかな~~~り低かったんですけれど、ラストには「まぁ……死ぬほどではなかったんでないか……」くらいには思いました。

 言葉の上でしか救いのない話だなぁと思ってしまいました。地球人と月移住勢力との対立(投石してくるの怖い)はSFアニメのようで面白いのですが、主人公と友人は月からの攻撃の犠牲となる一般市民でしかなくて、作者がいうようにストーリーがないというか、キャラが世界に及ぼす影響がない……それがその世界の現実かも知れないのですけれど、物足りないなぁと思いました。ジョー・クールが何のネタなのかわからなかった(スヌーピーなのでしょうか?)のですが、犬はもっとうまく使える気もしました。ドライで格好いい文章を書かれるかただなと思います。もっと長いものも読ませていただきたいです。 

 

 

78. 2121 『二ヶ月の恋をする』

 SFなのかな。カイコガの少女という設定におかしみはあるのですが、あまり説明してしまうと余計に色々なことが気になってしまうので、そこはむしろもっとファンタジーに寄せて「そういうもの」って感じで乗り切ってしまったほうがよかったように思いました。倫理的な問題とかなにも解決してないですからね。

 おおお……。よい雰囲気でした。美しい恋物語のようです。カイコガに関わる人間みんなつらくて胃のあたりがぐぐぐ……。観用少女という漫画が好きなんですが、人ならざる、しかし美しい少女の形をしたものを愛でる、という作品には妙な魔力がありますね。決して交わりたいわけではないけれど、ぬいぐるみを愛するような感情でもない。そういった創作は一見美しいものの、一皮むけば欲望でいっぱいの何かがあふれ出しそう。その点でこの主人公は「恋」をしているし、求められれば応えようとまでは思っていたわけで、精神的には一線を越えているんですが、やっぱりそれは自然な気がするんです。そんな気持ち一切ない! とか言われる方が疑わしい。ドレスや結婚指輪まで用意したのが良いなあと思いました。正氏とそう変わらない、カイコガに呪われた人物になり果てたことで、ある種の気持ち悪さのようなものが限界を超えて、逆に緩和された気がします。

 カイコガ少女の艶めかしさを執拗に描いていて、その無垢な魅力は伝わってきます。キサキと主人公に生殖をさせなかったのできれいな感じに終わっているのですが(ウェディングドレスを着せて埋葬はどうなのかなぁ……うーん)、その分、カイコガに狂ってしまった人たち、家族をカイコガに奪われたメイさんの心情などを厚めに書いていただくとバランスがよかったかも、と思いました。そしてなんで羽化のシーンを端折ってしまったのだろう(繭が厚くなったと思ったら直後に額にキスをされているので「ん???」となりました)。煮られずに寿命をまっとうしたカイコガの、一番の見せ場だったのではと思うのですが(ところでカイコガの成虫、ポケモンみたいで可愛いんですね)

 

 

79. 神崎赤珊瑚 『世界の終わりの日』

 オタクはとにかく世界を終わらせがち。奇妙な設定やエコーのキャラなど、面白くなりそうな要素はバチバチなんですけれども、これを8000字でやってしまうのはさすがに駆け足な印象。とくに最初の災厄は説明不足で、どういう状況を想定すればいいのかよく分からなくて頭に情景がまったく浮かばなかったので、もうちょっと丁寧に進めたほうがよかったと思います。ひとつ目の災厄が終わって以降は「あ~、そういう感じね?」という了解が多少はできたので、ある程度は書き飛ばしてもいいと思いますけれど。最後も、しっかりハマッてはいるんですけれど、もっと字数を費やしたほうがしっとりとした読後感に持っていけたと思います。今回は文字数不足ですね。

 テレビアニメシリーズの第一話と最終話を見たという印象でした! 潔くて好きです。オチも二人がどうなったかは描かれない感じで良いですね。胡乱なものたちは喋らなくていい気がします。ここからは私の好みですが、エコーちゃんと主人公は第一話から最終話まで(もちろんアニメで言うワンクール十二話構成で。すっ飛ばしたぶんも)共に戦っていてほしいかな……と思いました。なんだろう、もう気持ちがバトルアニメなので、ここまで一緒にやってきた! 一蓮托生だ! みたいな熱さが欲しい気がします。

 楽しく読みました。タイムリミットが提示されて、人々もそれをまあ受け入れてしまって、みるみる荒廃していく世界。エコーが愛らしいので、ラストシーンでは心中の切なさも感じつつ、エコーと一緒に世界を救って消えるのを選んだ気持ちがわかるなぁ、となりました。「別の機会に聞いた話。」でエピソードが挟まれるかたち、いいクッションになっていていいなと思いますし、短編にするためにこういう構成にしたのかなと。この長さだからこそ読みやすかったように思います。

 

 

80. 八幡西県研究室 『研究レポート「月の魔物とレモンの実 ~白い幾何学的物体の習性~」』

 ちょっと分かんなかったですね。誰のなんの話だったんでしょうか?  いまどこで誰がなにをしているというのが掴みにくいので、もうちょっと丁寧に説明とか情景描写とかがあったほうがいいと思います。

 たぶん退魔もので、バディものなのだと思うのですが、なかなか不思議な空気感でした。主人公、物を盗むのに全く良心の呵責がないのでしょうか。誰が何をしたか、誰が何を言ったか、ひとつひとつ描写してもらえると、描きたい世界が相手に伝わるかな、と思います。

 このお話についてきちんと把握できるのだろうかと不安になりながら読んでいたのですが、最後まで読んでみたら、バディものとして面白かったように思います。全体的に説明が足りなくて不安になったのだとわかりました。推敲のうえ、正しい日本語で綴ってもらえると全体の見え方が違ってくるはず。挿話も暗示的な雰囲気はいいのですが、もっとわかりやすくしていただけると読者に優しい。あらすじに書かれた部分は本文冒頭に入れてしまってよかったのではと思います。字数もオーバーしないので……。

 

 

大賞選考

 はい、以上で応募作すべての講評が終わりました。最終的に応募総数は80作品となりました。らのちゃんパワーが爆裂した第八回の122作品に比べるとこじんまりとしてしまいましたが、まあこれくらいの規模のほうが現実的ですね。100を超えると本気で死が近い。

 さて、それでは次に大賞の選定にうつりたいと思います。いつも通り、まずは闇の評議員の三名からそれぞれが大賞に推す作品をみっつ選んでもらって、そこから先はなんとなく合議で決めていきます。

 まず、わたしの推しなんですが、今回は ささやかさんの『素晴らしき結婚』 阿瀬みちさんの 『あし』 鍋島小骨さんの 『カラヴィンカの祝福』 のみっつでいこうと思います。

 謎の眼鏡オタクの推しは、阿瀬みちさんの『あし』 五三六P・二四三・渡さんの『ネクロオーガン』 花咲 潤ノ助さんの『ティッシュの花』のみっつです。

 謎の酔っぱらいは、鍋島小骨さん『カラヴィンカの祝福』 犬怪寅日子さん『水母の骨』 花咲潤ノ助さんの 『ティッシュの花』です。

 われましたねー。

 作品としてめちゃくちゃ完成しているのと、自分がグッとくるものがけっこうバラバラで、迷いましたねえ。

 『あし』もよかった……。

 『あし』と『ティッシュの花』と『カラヴィンカの祝福』が2票ずつかな? じゃあ、この中から大賞は選んじゃいましょう。

 わたしが迷ったものとしては『カラヴィンカの祝福』があるので、潜在的に『あし』と『カラヴィンカの祝福』の支持はあついかもしれません。

 『あし』と『カラヴィンカの祝福』で決戦投票しますか。

 はーい。

 はい~。

 せーの、『あし』!

 『カラヴィンカ』!

 『あし』です!

 お!

 お~。

 ということで、第十回本物川小説大賞、大賞は阿瀬みちさんの『あし』に決まりました! おめでとうございます!!

 おめでとうございます!!!

 おめでとうございます!!!

 わたしは『素晴らしき結婚』と『あし』は、自分の中では確定で決まっていて、あまり悩みませんでした。この二本は飛び抜けて好きです。ただ面白いって水準を超えて、文芸とか文学の領域にまで達しているなという感じで、それでいてちゃんとweb小説としての面白さも兼ね備えていて、現代的なテーマ性もあって、総合的な仕上がりが非常に良かったですね。

 『あし』は刺さる人が多そうで、かつ味があり、刺さらない人でも何かは残しそうな、非常にレンジが広い気がしました。そういう意味で『ティッシュの花』も良かったのですが、エンタメ性を考慮するとすこーし足りない感じはしたかもしれない。『カラヴィンカ』は世界が完成していましたねぇ。

 前半読んだ中では『あし』すごく好きだったので納得です。『カラヴィンカ』は読んでいて唯一感涙しました。『ティッシュの花』は、今書かれて良かったなと思える作品でした。『水母の骨』は、好みど真ん中。

 『カラヴィンカの祝福』は『ネクロオーガン』と最後まで枠を争ったのですが、まとまり感で今回は『カラヴィンカの祝福』にしました。『ネクロオーガン』もよかったですね。

 キョンシーよかったですね。

 『ネクロオーガン』は完全に私の趣味と合致していて、とにかく「かっこよさ」が強い!!!

 漫画とか映像になるとより強そうですよね。わたしはなんとなく「現代枠」「ファンタジー枠」みたいな感じで、まんべんなく三本推したいなぁって意識があるんですけど。『カラヴィンカの祝福』と『ネクロオーガン』は同枠で完全にガチンコ勝負でしたね。甲乙つけがたい。『ティッシュの花』も、すごい良かったんですけど「現代枠」って括りで争うと、やはり小説としての完成度で『あし』に軍配があがる。

 文章の巧さでわたしは『カラヴィンカの祝福』でした。モモモ賞は、毎回SFって多めなんでしょうか。

 SFは比較的多い印象ですね。今回だとイトリトーコさんの『クジラの心臓』は印象的でした。

 幻想的で、しっかりラブストーリーでよかった。

 すごくよかった……本当に寝る前に読みたい作品。

 『クジラの心臓』は素晴らしかったんですけれど、大賞というのはやはりひとつのマイルストーンというか、みなさんこれを目指してくださいねっていう意味合いが発生しちゃうじゃないですか? これを目指してほしいかというとそんなことはなくて、もう個性が光り過ぎている。あまりにもオンリーワンです。これを真似しようという試みはすごく不毛な努力になりそう。そういうところで、大賞に推すにはちょっと腰が引けちゃったかな。

 そうですね……『クジラの心臓』の良さは詩的な意味合いで、小説となるとテーマやエンタメ性を重視してしまいます。百人に読んでもらったときにわりと人を選ぶ気がしますので。

 イトリトーコさんはnoteも面白そうなので追っていきたいと思ってます。

 あとは『備忘録』『ティッシュの花』『八月某日、磯山あき』あたりも好きだったんですけど、あまりにも現代ものに偏るのも、わたしの趣味が素直に前に出過ぎかなぁっていうのと、やっぱり、同じくらいで悩むとエンタメ小説として総合的にまとまっているものを推したくなります。

 構成でいったら『備忘録』ほんとうにキレイでよかったなぁ。一番読んでてワクワクしたのはやっぱり『カラヴィンカの祝福』かな……。『水母の骨』は、推してるの私だけって感じですね。

 『水母の骨』は、すごく奇妙な感覚があって、モヤ……とした感じとややぶっとんでる感じがちょっと不快な気もするんだけど、嫌ではない……。漫画で言うと阿部共実作品の中のシュール鬱ネタみたいな雰囲気で……(伝わるのか……?)

 ちょっとふわふわしてて、わたしには難しかったんです。もうちょっと説明してくれたほうがいいかなって感じはしたんですけれど、アレ系は説明しすぎてもダメだし、塩梅が難しいですね。まあでも、そういうのもあるのが闇の評議員が三人いる意味ですので。

 据わりの悪い謎は残ってますものね。でもホラーにいかなくてよかったなぁ。

 『素晴らしき結婚』を推してるのもわたしだけですしね。わたしはこれ、勝手に決めていいならもう大賞なんですけど。大好き。

 素晴らしき結婚は、スゴいんですけど、スベる前に飛んでってるとは書いたんですが、あちこちスベってるように私には見えたんです。すごいんだけど。阿部共実さん、読んだことないので読んでみます!

 『素晴らしき結婚』楽しかったし、ラストの地に足がついた感じがよかったんですけど、私にはそこまで刺さってなくて、だからといって改善策があるものでもなかったなあという印象でしたかね……。

 あとはじゃあ、流れてきには『カラヴィンカの祝福』が金賞で『ティッシュの花』が銀賞一本は確定かな? あともう一本、銀賞が出ます。残りは『ネクロオーガン』『水母の骨』『素晴らしき結婚』が一票ずつですね。 完全に割れてるから決戦投票しても決まらないし、わたしは『ネクロオーガン』に乗りかえようかな。わたしてきには最後までカラヴィンカと枠を競ってた、実質4位なので。

 わたしもいいと思います『ネクロオーガン』

 『ネクロオーガン』推し続けたいです!

 では銀賞、残り一本は『ネクロオーガン』で! これで大賞、金賞、銀賞二本は確定です!

 パチパチパチ

 ワー! おめでとうございます!

 あとはなんだろ? なにか総評てきなものがあれば。

 全部読んで印象に残った事を言うと、うんこ慣れしました。

 うんこはやはり毎回多いんでしょうか。『ウンコ研究室』好きだったな。

 モモモ大賞はKUSO創作甲子園と銘打っているのですが、やはりKUSOとかついてると、言語にストレートにひっぱられてしまう人は多いみたいですね。人間の思考は語によって規定されているということです。

 なるほど。

 序盤はまじでうんこちんちんうんこちんちんでしたね。なんだったんでしょうか。ちゃんと中盤から持ち直してよかったです。

 茶化したものじゃなくて、みんなわりと真面目に描いていて、どれも要素要素で良いと思ったんだけど、褒めすぎると、うんこものが増えすぎたりして困らないかな……とか心配してしまう。 

 光るところはあるけど、そうじゃねぇんだよっていう。

 ほかには、普通にさわやか青春もの、結構多いんだなと思いました。夏休みだからでしょうか。お盆とか花火とか。終盤の作品はみんな完成度が高くなっていくのだな、と思ったんですが、その点『あし』は早めに出ているのにとてもうまくてよかった。

 青春ものだと『きのう、みんな失恋した』がすごいかわいかったんですよね……気持ちを外から操作されるっていうギミックがよかった。

 モチーフにクラゲも多くなかったですか? そうでもない?

 クラゲすごくおおかった気がする。4本? もっとありましたっけね?

 なんか、青春のモラトリアムてきなイメージに重ねやすいんでしょうか? うんことクラゲが二大勢力。で、今回はいつも多い死シリーズが少なかったかな。強いて言うなら一田和樹先生の『成績優秀、スポーツ万能、無敵の美少女の妹がオレのうんこしか食べないんだが』は死が近かったけど。うんこかつ死が近い。完全に崩壊しててもなんとなく日常は進んでしまうみたいなリアリティ怖かったですね。死のほうがまだ幻想。

 『成績優秀、スポーツ万能、無敵の美少女の妹がオレのうんこしか食べないんだが』好きすぎて……。

 あれ、今思い返すと心にかなり残っているんですよね……。数年後も思い返すかもしれません『成績優秀、スポーツ万能、無敵の美少女の妹がオレのうんこしか食べないんだが』

 うんこちんちん、基本的にアホさをゲラゲラ笑う系が多いので、あんなすごい勢いでうんこを迫られるのなかなかないですよ。笑い事じゃない。お前は本当にうんこに向き合っているのか!  みたいな。

 それにたいしてもうひとつのうんこ系は、しずかにうんこと向き合ってましたよね。

 『ウンコ研究室』淡々としてましたね。

 あのウンコはすきでした。『他人の排泄しているところが見たくて堪らない僕』のほうは、なんだか真摯でしたね。ウンコの話ばっかりしてるね。

 まあでも、うんこ、なかなかイラストはつかないですよね。あ、そういえば講評でもうポロリしちゃってるんですけど、灰咲千尋さんの『熱帯夜』 眼鏡男子賞ですね! おめでとうございます!

 おめでとうございます! パンダ公園!

 狙えば強いという事ですよ! おめでとうございます!

 ストーリー展開はこぢんまりとしちゃってるんですけど、とにかく描画の繊細さと解像度がすごいですよね。世界を見る目がいい。ぜひ長編にもチャレンジしてもらいたいです。

 普段どんな作品を書いてらっしゃるんだろうって気になりましたね。

 他の作品ないんですね。ベテランの方なのかと思った……。

 あと、続々と特別賞のお知らせも届いてまして、まずはソーヤ賞『クジラの心臓』 有智子賞『カラヴィンカの祝福』 あいこ賞『襲来日和』 あと、きみたり賞もなんか出ます。

 おめでとうございます!

 楽しみだ~~!!! わたしも『熱帯夜』への想いは絵に全投入いたしますので!

 謎の酔っ払い賞はどうします?

 はい、謎の酔っぱらい賞は、いちばん酔っぱらっている人を書かれていた『素晴らしき結婚』にさしあげます! 酩酊ぶりが飛びぬけていました。

 やったー! おめでとうございます!

 おめでとうございます!!

 じゃあ、大賞の選考はこんなもんなんですけど、あとなにか、闇の評議員から告知とかあればして頂いても大丈夫ですよ。効果は微々たるものだと思いますが、おひねり程度は期待できるかもしれないので。

 

 

告知

 

 あっ! いけない! 告知告知! ただいまpixiv主催で「WEBマンガ総選挙」というイベントが催されているのですが……。読者の投票で推し漫画の頂点を決めるというものでして『せんせいのお人形』という作品がノミネートされております。サイト上で試し読みもできますので、ちょっといいな……と思っていただけましたら投票お願いいたします……! 投票期間は8/27日まで!

 

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 ちなみにこちらで最終話まで読むことができます!↓↓

 

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 でも、遠からず合本版が出るので、そっちを買っていただいた方がいいと私は思います!

 

 彼女は死んでも治らない』(光文社文庫)講評発売中です! こういうの初動が大事らしいので、今すぐ買ってね! じゃんじゃん買ってね! 百冊買ってタワーを建てるとサイン本とサイン色紙が貰えるよ!!(無茶)↓↓

 

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 というわけで! 第十回本物川小説大賞! 陰湿な夏の大激戦を制したのは阿瀬みちさんの『あし』でした! おめでとうございます! それではこれにて、闇の評議会解散! 撤収~!!!!

 撤収!!!

 ありがとうございました!

 

 

kakuyomu.jp

 

 

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