第十一回本物川小説大賞 大賞は ナツメ さんの『これはフィクションです』に決定!

 

 

 令和2年12月1日から12月20日にかけて開催されました第十一回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞1本、金賞1本、銀賞2本、が以下のように決定しましたので報告いたします。

 

 

 

大賞 ナツメ 『これはフィクションです』

 

 

 

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受賞者のコメント

 

はじめまして。バズり散らかしました。やったー!
RTしてくださった皆さん、評議員の皆さん、なにより絶対向いてないと思った「バズ」狙いに挑戦するきっかけをくださった大澤先生、ありがとうございます。
これは「みさき」や「ほねがらみ」のバズを追いかけたものですが、ホラーや怖い話を愛するものとして、この作品が多くの人に楽しんでもらえたことを本当に嬉しく思います。読者人口が多いことがわかったのでぜひ皆さんも怖い話を書いてください。
とにもかくにもありがとうございました! 楽しかったです!

 

 

 大賞を受賞したナツメさんには、副賞としてeryuさんによる描き下ろしイラストが贈呈されます。

 

 

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金賞 こむらさき 『母へ』

 

 

 

銀賞 p 『マナちゃんのお味噌汁』

 

 

 

銀賞 @kimiterary 『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』

 

 

 

 

 というわけで、2020年を締めくくるKUSO創作の祭典、第十一回本物川小説大賞を制したのは、ナツメ さんの『これはフィクションです』でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議員3名による、全参加作品への講評と大賞選考過程のログです。

 

 

 

全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。伝統と格式の本物川小説大賞も今回でとうとう第十一回となりました。今回からは本物川小説大賞もシーズン2ということで、バトルフィールドツイッターに変更しての開催となっています。この地形効果が作品や講評、大賞選考にどう影響するのか? といった部分も、今回の見所のひとつになるのではないでしょうか。

 さて、大賞選考のための闇の評議員ですが、またメンバーを刷新して、今回は謎のうさぎさんと、謎のねこさんに協力して頂いています。

 謎のうさぎです。よろしくお願いします。

 ねこです。よろしくお願いします。

 議長は恒例、わたくし謎の概念が務めさせていただきます。どうぞ、よろしくお願いいたします。わたしとねこさんは一般文芸、ないしライト文芸寄りの生息域ですが、うさぎさんは血で血を洗うどこかのweb小説サイトのランキングで、ほにゃ千万PVとか叩き出して1位を獲得し書籍化したガチガチ叩き上げのラノベ作家なので、作品を見るときの目もかなり違うでしょう。客観視には視点の数こそが大事なので、なかなか面白い布陣なのではないでしょうか。

 それではさっそく、エントリー作品を順番にご紹介していきましょう。

 

 

1.ねおらー31 『異世界に行っても何者にも成れずにいる話』

 今回の一番槍はねおらー31さんです。最初から最後までタイトルそのままの話なので、山とか谷がない感じになっちゃってますね。とはいえ、今回は文字数がタイトなので、物語に緩急をつけるにしても1回くらいしかできないでしょう。つまり、A→B、の変化が基本形です。このA→Bの振り幅をなるべく大きく、180度反転するようにしてあげると、もっと物語っぽくなると思います。「異世界転生した先でも何者にもなれない」というのが主題なのですが、そこをオチにするのであれば、物語の起点は「なにかを成そうと意気揚々と転生してくるところ」であるべきだし、起点にするのであれば、例えば「怖いけれども勇気を出して一歩踏み出す」など、主人公になんらかの変化をさせたほうが良いです。現状だと「Aです」で終わっちゃってる感じ。次は主人公の変化を意識して書いてみましょう。 

 知ったかしないで他人の説明はちゃんと聞きましょう、という話でした。創作物から得た知識を頼りに異世界で無双したいけど、異世界異世界で完結しており、現実世界で活躍できなかった異邦人が新規参入できる余地など無く、異世界人のお情けで暮らすしかない姿には悲哀を感じますね。ただ、それだけで終わってしまっているので、読んだ側が感心するようなストーリーはありませんでした。ストーリーが無いのに、この手の異世界系を読んでいる奴は無知蒙昧の雑魚、という説教臭さだけは前面に出ているため、その点も非常に残念です。お説教マウントするなら、相応のストーリーは欲しかったですね。あと、この設定だと「転生」ではなく「転移」では?

 異世界に行っても最初の一歩が踏み出せないために何も成長できない人の話。読み終わって「たしかにそうだよなあ」というそこはかとない共感と、三十路を超えてくるとこの新しい一歩を踏み出す勇気というのがどんどん出しにくくなっていくみたいな実感も合わさって、なんだかメランコリックな気分になる作品でした。そういうわけで個人的にはこれはこれでいいんじゃないのという感想ですが、客観的には本気でなんにも起こらないので、何かひとつ事件的なものはほしいところかと思われます。やはりこう、物語を読むからには主人公なり何なりが最後には何かひとつくらい成長か変化していてほしいというのが人情かと。この人が一歩を踏み出せるきっかけって何かなあという興味は引けていると思うので、その解答を作中で提示できると、とてもよいお話になりそうだと思いました。

 

 

2.蟹 『』

 よく分かりません。たぶん小説ではないと思います。

 そうですね。

 評議員の心理としては、作者がコストをかけていない作品に時間をかけてしっかり講評を書くのは苦痛が大きいので、こういう作品に対する講評はごく短くなりがちです。悪しからず。

 

 

3.こむらさき 『ウォンバットの冒険』

 表紙や背景画像の設定、フォントなど、かわいらしく彩ろうという意欲が見えて良いのですが、かわいいフォントは長時間読んでいると、やっぱり疲れますね。アイキャッチには良いかもしれませんが、やはり一定量以上の文章は慣れ親しんだ明朝が読みやすいです。本文もわははと読める感じで良いのですが、やっぱりもうひと捻りあったほうがうれしいかな。最後の背表紙がおしりになってるのはかわいくて好きです。

 自分のお尻を活用したいと考えるウォンバットが、ヘンゼルとグレーテルの物語に介入する話です。挿絵に加えて全体的に絵本調で構成されており、年齢を問わず楽しめる内容だったかと思います。ウォンバットはお尻が固い、うんちが四角い、というパワーある最初の一文が終盤できちんと伏線として回収されていた点も印象が良かったです。自覚無く人助けしたという展開も、説教臭さや押しつけがましさが無く読者に優しいですね。一方、致命的な弱点もあり、そもそも一般的に知られているヘンゼルとグレーテルは自力で助かっているため、ウォンバットを介入させた意味が薄いという点です。これが悲劇で終わる物語をハッピーエンドに導くという構図なら、話も盛り上がるのですが、今回の話では違いました。ウォンバットメアリー・スー(原作には存在しない理想化された二次創作キャラ)化を恐れるあまり、物語そのものが脆弱になってしまった点は否めません。

 ヘンゼルとグレーテルを下敷きにしつつ、ウォンバットというオリジナルキャラの視点で物語を描く、古典作品の視点をずらす面白さをコンセプトにした作品かと思われます。おそらくウォンバットというのは作者自身の投影であり、作中でのふるまいもSNS上で築かれたキャラクター性に立脚しているものと思われますが、それゆえに作者のことが好きな人たちは共感しやすく、逆に作者のことを知らない人にとっては理解しづらい作品になっているようです。今回のテーマは「バズ」ですが、その裏側には「広く読まれる作品ってどんなものだろう?」という問いにみんなで向き合ってみようという意識があります。そうした意味で、この作品はひとつの方法の提示であると同時に、大きな課題を感じさせるものだと思います。

 

 

4.双葉屋ほいる 『耳なしパンいち』

 オチがよく分かりませんでした。サンドイッチの幽霊、というのはフックが効いてて良いですね。今回はバズを狙う以上、必然的に対象読者は普段のF/F関係の外側の赤の他人になるわけで、読者にとっては双葉屋さんのパーソナリティーなどは知ったことではないわけですから「過去作?」などの楽屋ネタは引っ込めておいたほうが良いでしょう。間口を広くし、射程を長くすることを意識してください。

  食パンでいたかったサンドイッチの悪霊を除霊する話でした。展開がコミカルで良いですね。サンドイッチの悪霊と言うのも斬新です。ただ、それを使いこなせていたかは疑問が残る内容でした。物語的にサンドイッチであることが大きく関係しているわけでもなく、また「パンいち」が「パンツ一丁」に掛かっている部分はただの下ネタ親父ギャグであるため、雑な印象が強くなっています。その雑さが勢いに繋がっているならまだしも、「過去作の傾向からして」というメタ発言まで飛び出し、それが初見読者には物語を楽しむブレーキとなってしまいました。残念ながら私は双葉屋ほいるさんの他の作品を知りませんし、今回の企画は身内の枠から飛び出せる作品を書くことが目的なので、自分から射程範囲を狭めてしまうことは悪手でしかありません。ご友人の枠内では、「過去作の傾向からして」というメタ発言が通じるかもしれませんが、私には身内の枠内でしか戦えないという諦めのようにも感じました。もっと自分の可能性を信じましょう。

 まあ下ネタなんですが、ゆるい語り口の会話劇で進行していくため、くすりと笑えてさらりと読めるよい小品に仕上がっていると思います。惜しい点として、作中でも言及されていますがやはり「パンいち」という名前に「なんで急に? 耳なし芳一関係なくない?」という唐突感があり、なんだかよく飲み込めないのと、その引っかかる部分がオチに直結してしまっているので、読み終えたあとに消化不良感が残ってしまうところがあります。また細かい話ですが、作中で作者の作品傾向に関するメタな言及がありますが、こういう点も仲間内以外の人に拡散してもらうためには足を引っ張る要素になるかと思われ、今回のテーマ的には課題だなあと感じました。

 

 

5.稲荷紺 『マンドラゴラ農家のお気持ち表明』

 ツイッターでバズりがちなお気持ち四枚スクショツイートをエミュった小説。1枚目の最終行で「祖父母は、マンドラゴラ農家です」と、ズッコケさせる間合いの取りかたが良いですね。欲を言えば、その手前に不自然な空白があいてしまっているので、自然な流れでその一文が1枚目の最終行にくるように文字組や本文を調整できるとアド。なかなか本題が見えてこない感じも、逆にお気持ち四枚スクショっぽくて、むしろ完成度が高いのか? と思いました。

 作物を荒らされた農家がツイッターで事件を摘発するという体で書かれたファンタジー作品でした。着眼点はとても良かったと思います。この手の摘発文であったりお気持ち表明はツイッターの性質やユーザー層と噛み合っているため、よくバズっています。それをトレースして自作の宣伝に活かすのは悪くない手かと。ただ、1ページ目の最後でネタバレしてからは設定の羅列に終わってしまっているので、読み進める毎に興味が薄れていきました。RTしてもらうためには最後まで読んでもらい、なおかつRTして広めたいと思ってもらうことが大切なので、ここをもう一工夫できていればもっと伸びたはずです。大多数の読者が興味を持つのは設定よりもドラマです。マンドラゴラの設定に拘るよりも、畑荒らしの害悪さをメインに物語を展開した方が創作与太話としては好ましいでしょう。たとえば、単に引っこ抜いて死んだ畑荒らしもいれば、きちんと対策して作物を持ち去っていく畑荒らしもいる、という物語にすれば、話題になった某国人の窃盗グループ問題ともリンクするため、より強い共感を読者に持ってもらえたはずです。お気持ち構文を利用して終わりではなく、読者心理にも目を向けましょう。

 開始当初に投稿された作品の中では頭ひとつ抜けてRT数を獲得した作品です。マンドラゴラというファンタジックなアイテムに現実的な農家の姿を重ね合わせることでミスマッチの面白さを狙った作品で、狙い通りの面白さが出せていてすごいなあと思いました。ツイッタでよくあるお気持ち表明のテンプレから始まり、多額の保険金をかけているにも関わらず耳が遠いのでマンドラゴラの声を聴いてもびくともしない老夫婦の描写まで、「若いころどうしてたんだよ!」というツッコミ待ちも含めて快調な展開でした。しかし惜しむらくはオチに苦慮したのか、「マンドラゴラ合戦」はちょっと無理やり感があり情景もイメージしづらく、作品の完成度をひとつ落としてしまっているかなと感じました。オチってむずかしいですよね……。

 

 

6.木船田ヒロマル 『ダム』

 小さい頃「確かに行ったのに、その後行こうとしても、どうしてもどこだか分からない場所」ってありませんか? というキャプションは、多くの人の共感を得やすそうだし、興味を引きやすいと思うので、入り口はたいへん良いと思います。敢えての横書きも、2chの怪談スレっぽさがあって、この手のネタとは相性が良さそうです。でも、せっかく間口を広くとったのに、川であるとかTLなどのメタネタに絡めてしまったせいで奥行が損なわれてしまっているように感じられました。どうせなら、もっと一般にも通じる都市伝説っぽい雰囲気にまとめてしまったほうが射程も長かったでしょう。

 ノスタルジックさを感じる都市伝説風の話でしたが、正直、あまりピンと来ませんでした。物語を溢れないようにするダムというファンタジー要素に対して、実際に起こったことが一時的な神隠しでは首を傾げるだけです。主人公が物語ダムに拘る理由や物語を書き続ける動機も薄く、取って付けたような印象を受けました。得体の知れないおっさんとの交流を思い出して人生の一部を捧げたいと思うでしょうか? 私には理解できませんでした。

 物語が流れ着くダムというノスタルジックなモチーフを描いた作品で、みんなの作品をたくさん集めて関係ないところで炎上する本物川小説大賞とも重なる美しい作品だと思いました。ただ、モチーフの美しさに対してエピソードは弱いところがあるように感じます。迷い込んだ白昼夢の中でおっさんと話すだけで終わってしまっており、もう少しなにか強烈な、たとえばダムに落ちて物語に溺れるとか、強い体験がほしいところかなと。そうしたエピソードを組み込むためには文字数的にもスピード感からしても情報の圧縮が必要なので、おっさんの「ここはな、意味のダムや」から一行目をスタートするくらいの思い切りが必要かと思われます。短い作品は短いだけに逆にいろんな試行錯誤の余地があって楽しいですね。

 

 

7.尾八原ジュージ 『先輩に聞いた、意味不明のツイートがバズる話』

 なんだかどこかで見たことがあるような、既視感のある話ではあるのですが、読者に拡散を促す仕掛けとしてはオーソドックスながらも悪くないと思います。『うわはみかはら』という語感が、意味不明ながら、なんらかのイメージが喚起される絶妙な塩梅で、とても良いです。

 SNSをテーマにしたホラー小説でした。『うわはみかはらを見た』というツイートをしてバズった者は、その後に行方不明になるという展開です。バズった以上はRTしたアカウントが存在するので、先輩や主人公が疑問を抱き調べる以前に考察する者たちが続出するのではないでしょうか? 彼らも皆消えているというなら事件の規模が大き過ぎるため、新たなフォークロアの誕生の瞬間だ! なんて言っている場合ではないかと。現実と地続きの物語を書くのならば、もっともらしさに拘るべきです。

 企画の理解度が高く、とてもよく考えられた作品だと思います。「うわはみかはら」という謎のワードをつぶやき、大量にRTされるとアカウントの主が失踪するという道具立ては、その設定の胡乱さも含めて昔の「洒落怖」を彷彿とさせて、懐かしい気持ちになりました。これを読んだ現実のユーザーが「うわはみかはら」とツイートしてみたくなるギミックも含めて、面白い作品です。惜しい点を挙げるとすると、「うわはみかはら」というワードは「蛇ヶ原(うわばみがはら)」という意味内容を容易にイメージさせますが、蛇のモチーフが作中ではあまり活かされておらず、最後に語り手が言及しちゃうのも悪手かなあと思います。贅沢をいえばここは何か作中で謎を提示し、その謎がこの名前とつながっていて失踪者はそれを解き明かしたようなんだが……というところまで引っ張って、「理解できるとこわい」要素まで組み込めるとすごい作品になるなあと、勝手に想像を膨らませながら書いていたら講評が長くなってしまいました。

 

 

8.ユリ子 『Barbie, Barbie』

 冒頭が三人称っぽく始まっているのに、途中から普通に「私」が喋り出すので、最初すこし混乱しました。「私」が「くるみ・二十二歳」を別のキャラクターとして突き放して見ている、ということなのかもしれませんが、もうちょっと綺麗に繋いだほうが親切かも。全体に文章が端正で、小説そのものは慣れてる感じ。多くの人が共感を覚えるタイプの主人公ではないのでバズとの相性は悪そうですが、一昔前のケータイ小説てきなフレーバーもあり需要はありそうなので、対象層にリーチすれば更に伸びそうな気配もあります。最後の一文がソリッドで良いですね。

 風俗嬢が客から延々と娘の話を聞かされる話でした。おそらく客の娘は故人なのでしょうか? それとも生き別れでしょうか? なんらかの理由で会えない娘の面影を追い続ける客が、風俗嬢を自分の娘と同じように着飾ろうとするのは確かに気持ち悪いですね。風俗嬢が最後に決別を決意するのも納得です。ただ、読んでいる側としては風俗嬢の変な客に絡まれた愚痴を聞かされているだけのような感覚だったので、読んで得したなと思えるものは何もありませんでした。私個人の感想を抜きにしても、バズという結果を得るパワーは足りないかと。

 端正な文章で読みやすく、思考の流れも自然で、非常に高い技術力をもった作者の作品と感じました。主人公の語りを通じて「パパ」のディテールが少しずつ浮かび上がっていく、と同時に主人公の中でどうでもよかったはずの「パパ」が意味を帯びていき、最後の嘔吐へとつながっていく。こんな展開をいちツイートに詰め込めるのかと、舌を巻くほどの見事な構成力です。作品としての完成度は上述の通り非常に高いのですが、ツイッタでバズるかという観点では相性の悪い作品です。上述のような内容は落ち着いてよく読まないと読み取ることができないですし、インターネッツにいるとき人は三行以上の文章を読むことができないのです。つまり、インターネッツの海でぷかぷかしている読み手を、物語の浜辺に三行でどう引き上げるかというのが、今回のテーマでもあるわけです。良い部分も悪い部分も含めて、今回のテーマを象徴する作品だと思います。

 

 

9.ももも 『フォロワーに凸られた話』

 実話風小説。2chのスレっぽい突き放した書きぶりですが、最近のツイッターだともっとエモーションを乗せたお気持ち寄りの文体のほうがトレンドっぽい気がします。とはいえ、ああいうのは実話だという建前があるからバズったりもするものですが、本物川小説大賞というタグがついている以上は実話ではなく実話風小説でしかないので、実話であるというブーストは効きません。すこし嘘くさくても、もっと小説らしい物語てきな動きがあったほうが良いかも。

 ファンに身元バレして凸られたゲーム実況者の話です。以上です。物語的な動きは一切なく、ストーカー化した元ファンとの対決もありません。身元バレすると凸られるから気を付けろよ、で終わっています。そうですね。インターネットは怖いから迂闊に個人情報を出すのは控えましょう。はい。

 実話風の恐怖体験談です。「バズ」というテーマにおいて、フォロワー四桁越え、実況動画の再生数数十万のアカウントを消す話というのは、読者の興味を引くうえでよい道具立てと思います。しかしながらあくまで小説であるという前提なので、それこそ名前を出してノンフィクションにでも仕立てないと説得力がイマイチなのはいたし方ないところ。作中で語られる内容も、ノンフィクションであればそういうこともあるのかなあというものですが、フィクションとしては恐怖が物足りず、どっちつかずな内容になってしまっています。バズと作品の完成度とを両立する難しさの中で、その間に落ちてしまった感がある作品でした。

 

 

10.常盤しのぶ 『筋肉将棋の歴史』

 最初から最後まで筋肉将棋という架空スポーツの説明に終始していて、物語がないですね。せっかくなので、筋肉将棋にまつわるなんらかのエピソードのフォーカスしたほうがもっと小説らしくはなると思いますが、文字数てきに厳しいかな? 本文中、筋肉将棋という表記と筋肉相撲という表記が混在しているのですが、筋肉相撲については特に説明がないように思いました。誤字でしょうか?

 筋肉将棋という架空のゲームの歴史を書いた作品です。元ネタはチェスボクシングでしょうか? 嘘をもっとらしく書こうとするチャレンジ精神は評価しますが、設定の羅列だけに終わると読んでいるがわは作業としか思えません。正直に言えば、楽しくないです。設定は物語あってこそのものなので、設定だけで勝負するなら、もっと工夫が必要かと。筋肉だけで押し通そうとするのは潔さを感じるよりも、読者を侮っているとしか思えませんでした。

 将棋クラスタの間では「筋肉を鍛えると将棋がつよくなる」という噂がまことしやかにささやかれているので、その話かなと思ったらちがいました。うそ歴史ものとしてはよくある話かなと思いましたが、初めから終わりまで一貫して「筋肉将棋」がどういうものなのか読者にはわからないようになっているところが特徴的だなあと思います。その遊び方も「道具を必要としない」と語られており、実になぞです。読んでいる間はこれが個人的に面白いポイントだったのですが、残念なことに最後まで完全になぞのままで終わってしまっており、面白がっていいところなのかどうかすら不明になってしまいました。やはり最後に実際の遊び方を解説し、その遊び方でもってオチをつけるのがあるべき形であったように思われます。オチをつけるって本当にむずかしいですよねえ。

 

 

11.神澤直子

 えっと、そこは柱といってタイトルを入れるところなのですが、たぶん著者名が入ってしまっていますね。あと、画像が1Pめと2Pめが入れ違いになってしまっているようです。おっちょこちょいさんですね。投稿前の確認、だいじ。本文は、うーん、子供としか書かれてないので年齢などが分かりませんが、バズの人形で遊んでいる、から一気にジェンダーの話に飛ぶのはいくらなんでも性急過ぎでは?

 女の子が男の子のおもちゃで遊んでもいいじゃないか、という話です。たしかに、仰る通りですね。異存はありません。以上です。

 講評というのはなるべく作者の工夫や作品に込められた想いみたいなものをくみ上げて味わったうえで評価したいものですよね。そういう意味でこの作品はとても難しい作品でした。まず、作中でお子さんが遊んでいる「バズ・ライトイヤーの人形」。これは明らかなひっかけです。「バズ」ってそのバズちゃうわというツッコミを喜々として待ち受ける作者の顔が目に浮かぶようです。ここを突っ込んで満足してはいけません。よく読んでみれば、これは性別違和の話。まさにツイッタでバズりやすいテーマではないですか。ということはこの作品には、実はツイッタで日々交わされる男女論に関する鋭い風刺が組み込まれているのかもしれない。そう考えて三回読み直したところで、私は気づきました。やっぱこれ、バズとバズ掛けてるだけだわ。

 

 

12.灰崎千尋 『女ともだち』

 奇襲、奇策、絡め手ばかりが続いた後なので、普通に上手な小説がきて安心しました。時事的にホットなトピックをテーマにしつつも小説として地に足がついていて、とても好感が持てます。今回の「バズったもの勝ち」ルールでなければ、わたしは頭ひとつ抜けた高評価。この手の「古くからの友人があっち側にいってしまう」という経験は、わたしもずっと創作の芯に据えているテーマのひとつで、うまくやればさらに多くの人の共感を呼ぶこともできるように思います。喧嘩するでもなく、言い返すでもなく、友達でい続けるためにミュートだけして、適切な距離感を保つ、というのも、とても現代的な感性で、わたしは良いと思いました。文もうまく、テーマ選定もよく、小説としての読後感も悪くないので、バズるかどうかは本当にあと少しの部分なのでしょうね。それが具体的になんなのかはわたしにも分かりません。運かも。

 友人のツイッターでの振る舞いに付いていけなくなった人の話です。いますね、インターネットの情報に感化される人。彼らは一体、誰と戦っているのでしょうか。インターネットの中だけで喚ているならともかく、実生活にまで浸食してくるとなると、いくら大切な友人とはいえ距離を置きたくなる気持ちは凄く理解できます。主人公の性格的に面と向かって注意するわけでもなく、ツイッターをミュートするだけというのもリアルで共感できました。本当の友人なら時には喧嘩してでも素行を諫めるべきなのでしょうが、そこまで踏み込むほどではない、それが互いの良い距離感なのだ、という諦観にも似た寒々しくも大人の選択だったのかな、と。解像度も話の運び方も上手く、引っかかる部分はありませんでした。ただ、話全体としてはそこまで興味を引くものはなく、踏み込みが足りないのも事実です。そっと分かれるよりも、友人が問題を起こして決定的な決別に至る、という内容の方が読者的には分かりやすかっただろうと思いました。創作はリアルであることよりも過剰である方が正しい時もあるので、作品を作る際には留意してみてください。

 ツイッタでよくバズる男女論の裏側で、「アップデートされた新しい価値観」を親しい友人から突きつけられる、既存の価値観の中で幸せを感じている人の内面のお話。女性の尊厳を守ろうとする言葉が、かえって身近な女性を傷つけてしまう側面を持っているという矛盾を、特に何の事件も起こらない日常の風景の中で浮き彫りにしています。同じような感覚を抱いている人の共感を狙うということで、狙いがはっきりしており、今回のテーマをよく消化していると思います。政治課題に限らず、「どういう人にどういう感情を伝えたいか」をはっきりさせ、自分のスタンスや作風に共感してくれる読者とつながることの重要さを再確認させられる作品でした。

 

 

13.武州の念者 『桃太郎inサメ映画 デビルシャークネード編』

 サメ映画好きはサメ映画がどマイナーな趣味だということを自覚しましょう。サメ映画知識が前提にないとどこで笑えばいいんだかよく分からないというのは、ちょっとバズ狙いとは相性が悪いように思います。文体は完全にニンスレフォロワーなのですが、それももう完全に使い古されてしまっているので、それだけではなかなか人の興味を引くことは難しいでしょう。更に高めて、自分だけのオリジナルなトンチキ文体を身に着けることを目標にしても良いかも。

 桃太郎がサメと戦う話でした。やりたいことは分かるのですが、オマージュというよりもパクリの域を出ていません。既存のサメ映画と桃太郎を合体させただけでは、原作ファンも喜ばない内容だと思います。映画を知らない人ならなおさらです。私は雑で退屈だと感じました。サメ映画は極一部が面白いだけで基本的につまらないものですが、そこまでリスペクトした結果でしょうか?

 ツイッタでよくバズる(?)サメ映画をモチーフにした作品です。サメ映画、マジで『ジョーズ』しか見たことないのでまったくわからないのですが、サメ映画ファンには通じる何かがあるのかもしれません。とはいえバズというのはこのコアなファンと何も知らん人との間にある溝を飛び越えたときに起こるというところにロマンがあるもの。何も知らん人にも通じる面白さを、もう一歩踏み込んで追及してほしかったように思われます。

 

 

14.惟風 『おでんを作ろう』

「おでんはいかがですか」と「お電話いかがですか」でダブルミーニングになっているんですね! こういう言葉遊びてきな仕掛けは大好きです。でも、その言葉遊びがあまりにもさり気なく処理されているせいで「3秒で読者の気を引きな!」てきなルールが支配するツイッターとの相性はちょっと悪そうです。通常の小説であれば、これくらいのさり気なさのほうがかっこいいですが、ツイッターに最適化するのであれば、もうちょっと親切めというか、前面に押し出したチューニングでも良かったかも。ストーリーテリングで自然に「あ、おでんとお電話が掛かってるのか」と大多数の人が気付くくらいが理想で、経験的には作者が「親切すぎるかな?」と感じる程度でちょうど良いようです。

 おでんを通して母との思い出を回想する話です。とても好きな作品でした。おでん、意外と手が掛かるんですよね。自分で作らないとわからない面倒さがあります。某芸能人がおでんを簡単な料理だと言って炎上したのも記憶に新しいですね。主人公が実際におでんを作っていく中で、喧嘩別れした母親にも自分への愛情があったのだと気が付いていく描写は、非常に美しく自然と心に沁みました。最終的に仲直りしようと自分から電話を手に取ったのも心温まる話です。大人ですね。おでんとお電話が掛かっているのも親父ギャグではありますが、この物語の良いアクセントになっていました。完成度が高く、個人的に凄く好みな作品なのですが、全体的に地味だったのも事実です。ちょうど寒い季節なので、おでんの画像も一緒に添えておけば目を引いたかな? 難しいですね……。

 師走に入って急に冷え込んできた中で、「たまにはおでんでもいかがですか?」とばかりに差し出されたこの作品。作り方もよく知らないけど、おでんくらい自分にも作れるだろう、やってみるかという気持ちが季節がらもあってよく理解できます。そうして、侮っていたけど意外と手間がかかるもんだなあおでんってのはというありがちな展開に突入するのですが、この作品ではありがちなところが逆に強み。読者から「あるある」を少しずつ吸い上げていき、最後に母に電話をかける主人公。この瞬間に積み上げた「あるある」が共感となって、作品全体が「あなたの物語」になるという心憎い演出でした。面白いアイデアをきれいに仕上げた良作だと思います。

 

 

15.宮塚恵壱

 キャプションが文字化けしてたり、いろいろとハッシュタグがついてたりするのはなんなのでしょうか? しっかり意図を持って効果をコントロールしようとしているのならいいのですが「いろいろやっとけばどれか当たるやろ」みたいな意識でやっているのであれば、逆効果のほうが強いのではないかと思います。内容的にはツイでバズりがちなお気持ち告発スクショ芸のエミュということだと思いますが、ああいうのは実話だからバズるのであって、特になんの仕掛けもなく露骨にフィクションの告発文を書いても仕方がないと思います。あと、1行目から画数の多い漢字が多くてウッとなりますね。

 探偵に頼んで魔法学校の不正を暴く話です。これだけ書くと面白そうなのですが、実際には淡々と過去の出来事が羅列されているだけで、読んでいると目が滑りました。物語の魔法設定も大して意味があるとは思えず退屈さを増す原因だったと思います。残念ながら、賢い内容を書こうとして滑っている、というのが私の感想の全てです。

 ちょっと前に話題になった入試不正問題を下敷きに、セイラム学園といういかにも不穏な名前の学校を告発する内容。モチーフが面白く、うまいアイデアを見つけたなあと期待して読みました。ただ、結末としてはちょっと肩透かしで、ごく普通の告発文で終わってしまっています。ここはせっかくセイラムなのですから、学園内でひそかに魔女狩りが行われていたり、あるいは邪神降誕の儀式が行われていたりして、最後は「窓に! 窓に!」で終わるのが筋ではないかと。アイデアに加えて小説としての面白さが両立されると、よい作品になりそうだと思います。

 

 

16.鈴野まこ 『アイドル、煙草、ストロングゼロ

 バズを狙いにいくのに、あまり一般的でない界隈のテクニカルタームを連発するのはどうなのでしょうか? 普通に意味がよく分からなかったのですが、わたしは評議員なので投稿された作品を読む義務があり、いろいろとググりながら読んだのですけれども、たぶん通りすがりのツイッターの人はそこまでの労力を割いてくれないと思います。ひょっとすると、対象のクラスタに刺さりさえすれば一般層は無視してもバズの必要数を稼げるという見込みなのかもしれませんが、自分からわざわざ射程を短くするのは、一般的に言えば悪手の類ではないかと思います。

 アイドルオタクが自分の推しの行く末を案じる話です。オタク二人の会話が軽快でリアリティがありますね。私はアイドルに興味がないのでよくわかりませんが、推しが花開くことなく引退するというのはストロングゼロでも飲まないとやってられない気分なのかもしれません。とはいえ、だから何だ、というのが率直な感想です。創作上のアイドルの行く末なんて全く興味が沸かず、しかもそれをオタク二人が上から目線で語っているだけなので、面白くもなんともありません。読者はずっと蚊帳の外です。知らない人が知らないことを延々と語っている、これは快よりも不快に近い感情を呼び起こすものです。小説も同様です。

 アイドルオタクの女性?二人の会話劇。事務所の新グループ結成発表と同時に、自分たちの推しの引退を知るというシチュエーションのようです。限られた文字数でありながら不自然さを感じさせずに、会話している二人の人物と推しのアイドルの特徴を無理なく伝えることができており、高い文章力を感じます。苦しい点として、サメ映画も知らなければアイドルも知らないという自分の知見の狭さに恥じ入るばかりですが、まず状況を理解するのに読み返す必要がありました。今回のバズというテーマにおいては、素材とその処理に難があるようです。

 

 

17.2121 『バズりたい』

 いわゆる釣りですね。参加要件でタグ付けは必須なので、ツイの時点で釣りなのがモロバレですから、これでバズるのはさすがに厳しいのではないでしょうか。わたしは評議員なので釣りだと分かったうえで最後まで読んだわけですけど、そしたら最後に「釣りでした~」とネタバラシをされたので、普通にちょっとイラッとしてしまいました。小賢しいわい。

 1万RT達成できたら単位をもらえると教授に約束してもらった大学生の話です。基本的には花子と太郎の淡い恋愛模様が主体ですね。花子を好きな太郎、太郎を好きな花子、太郎に1万RTの件にかこつけた告白をされた花子がまんざらでもない気持ちになって終わりです。これだけなら大学生の恋愛ドラマとして評価できるのですが、最後に作者本人が何故かこの物語はフィクションですよ、という不必要な注釈をします。結局、何がしたかったのでしょうか? 創作だとわからない人への配慮なのかもしれませんが、明らかに創作だと丸わかりの作りであり、創作コンテストのタグまで入っているので、完全に蛇足です。

 いわゆるRT乞食をモチーフにした作品。全体で4ツイート分にも及ぶ、今回の出品作としては大作の部類に入る分量ですが、いかんせん内容が薄い! 卒業のためには1万RTを何としても稼がねばならない女子大生という状況設定は面白いので、そこはなにか突拍子もないことをやらかしてほしかったところです。せっかく小説なんだから! 小説なら庭に塩撒いても怒られません。逸脱するならでっかく逸脱していきましょう。

 

 

18.平山卓 『あたま山 NewGeneration』

 一文めからフックがあって読者の興味をぐいっと引いてこれるので、ショートショートのセオリーてきには非常に良いです。頭の池に身を投げるってどういうことだよ? みたいな部分も童話っぽくていいですね。琥珀と書いてアンバーはそこまでセンスが悪くもないので、オチにするならもっと思い切ったヘンテコな名前にして「名前は採用されなかった」でスパンと終わっちゃうくらいのほうがソリッドな印象になるかも。それよりなにより、バズを狙いにいくのにキャプションもなにもなしで無言で画像を貼るのはよろしくないです。ちゃんと面白いので、入り口を整えてあげればもっと読まれますよ!

 頭から桜の木が生えた男が、周囲に振り回される話です。面白いですね。物語は一貫して不条理かつナンセンス極まりないのですが、不思議と主人公の気持ちに共感できる内容でもあるため、するすると読むことができました。頭の桜を引っこ抜いたら池ができて、そこに主人公が飛び込むというのは、なかなかできる発想ではないと思います。センスが凄いですね。ただ、最後の最後、男は中二病だったから名付け親になれなかったという落ち、急にありきたりで面白味が無い話になったのが残念でした。良い落ちが思いつかなかったのなら、池に飛び込んで死んだ、で終わりでも良かったと思います。物語の最後でバズがテーマだったことを思い出し、ツイッター層と中二病を結び付けたような浅はかな雑さは残念としか言いようがありません。

 もう冒頭からサクランボ食ったら頭に桜の木が生えた男の話ということで「やべえ作品来たな」と期待が限界まで振り切れたのですが、自らの頭の池に身を投げて自殺を図ったところで力が尽きてしまったようです。小説を書いていると、ぶっとんだイメージが浮かんでこいつはイケるぜと書き始めたら思ったより急激に失速しちゃうこと、よくありますよね。モチーフ自体はとてもとても好きなので、小さくまとめようとせず、きっちり振り切ってほしい。今後の作品に期待です。

 

 

19.@s_kyoha

 小説というより詩とか童謡のような雰囲気ですね。ダークとメルヘンは相性が良く定番なので、対象層にリーチできれば好きな人は好きなんじゃないかなぁと思います。改行や繰り返しも視覚効果として必要なのは分かりますし、ちゃんと意図した通りに機能させて雰囲気を演出できているので、それはそれで上級テクニックなのですが、やはり1ツイ4枚までで完結しているのと2連投になるのとでは、かなり伸び率が変わるので、可能であれば1ツイにまとめてしまったほうが伸びやすいかと思います。一般論ですが、書けたら書いたものを5割くらい削ってしまったほうが、だいたい良いものになりますしね。

 ダークな童話でした。読む者を選ぶだけでなく、メインにはなりえない内容なので、今回のテーマには合いませんね。これでバズを狙うのは難しいです。ただ個人的には好きな雰囲気なので、この感性自体は今後も大切にしてほしいです。

 オオカミに食べられる少女の話と、嘘で復讐される嘘つきのお話。ツイッタでバズる小説といえば、童話風の世界観にちょっと怖い結末。いわゆる「本当は怖いグリム童話」みたいな感じですね。ただ、このジャンルは先駆者も多く、期待度がバチバチに上がりきっている領域でもあります。サメがうようよしているレッドオーシャンで抜きんでるには、ちょっとパワーが足りなかったように思われます。嘘つきが嘘で復讐されるお話はいかにも童話としてありそうな感じでよくできていたので、前後編に分けずこちらに注力して細部を詰めるとよかったかも。

 

 

20.鈴野まこ 『とあるシンメ担の会話』

 んーと、だいたい一作目と同じ感想になります。タイトルの時点で「シンメ担」と、一般人にはなんのことだか分からない単語が含まれているので、なかなか広く興味を引くことは難しいのではないかと思います。まあ、聞き慣れない単語をゴリッとタイトルに持ってきて興味を引く手法もあるにはあるのですが(いまパッと思いつくのは『独白するユニバーサル横メルカトル』とか『アナザーホリック ランドルト環エアロゾル』など)かなりの高等テクニックなので初心者は避けたほうが無難。なるべくたくさんの人に対して開かれた物語を意識してください。

 アイドルオタク二人が揉める話でした。一方が裏でアイドルの一人にアンチ活動していることに対して、もう一方が全てまるっとお見通しなんだよ!(ギャギャーン!)と糾弾するのが見どころでした。もう一つの作品よりはドラマがある話でしたが、やはり特殊界隈のやり取りであるため、興味ない読者には苦痛な部分が多々ありますね。苦痛でした。

 同じアイドルグループに所属するアイドルを推しているオタク二人の会話劇。推しと付き合っている「匂わせ」をしているファンがいて、アイドルの自宅公開番組でその「匂わせ」が嘘であったとバレてざまぁ! という会話をしていたはずが、実は会話をしている二人のうち片方が裏垢でもう片方の悪口を言っていて、それもとっくにバレてました! ざまぁ! NDK!? というお話。二重にざまぁを重ねてくる構成は凝っていて技術的に面白い試みですが、やはり難度が高く、文字数的に無理が出ているように思われます。あとは個人的な好みの問題ですが、ざまぁはやっぱり後味が悪いですね……。RTしたいとはちょっと思えない内容でした。

 

 

21.こやまことり 『どこかで見たような悪役令嬢テンプレ小説』

 悪役令嬢ものテンプレと聞いていたのに、のっけから【①まずは婚約破棄されましょう】と書いてあって、え? そうなの? となりました。あまりそちら方面の情報に明るくないので、わたしにもよく分からないんですけど、そうなんですかね? テンプレ小説と銘打っているだけあって小説としての新奇性はありませんし、おそらく、この形式でいったほうがただ小説を書くよりも伸びるだろう、という明確な意志のもと、敢えてこの形式を選択されたのだとは思いますが、まあ今回は結果がすべての修羅ルールなので、あまり伸びなかったようですし、もうちょっとなんらかの練り込みが必要だったのではないでしょうか。

 悪役令嬢もののテンプレを解説する会話劇でした。私も小説家になろうで活動していたので、悪役令嬢のテンプレについては知っています。リプ欄でも指摘されていたように、これはどっちかというと婚約破棄ジャンルのテンプレですね。悪役令嬢の亜種、という位置でしょうか。大本の悪役令嬢はゲーム世界の悪役キャラに転生した主人公が、シナリオ通りに悪役として裁かれることを回避するため、独自に試行錯誤するのが見どころのジャンルです。また、架空のTRPGに対するテンプレサンプルにしてフリーシナリオ、という宣伝の仕方ですが、そもそもジャンル亜種では良さが伝わりにくいかと。指摘に対して長々と釈明している時点で、ご自分でも何かおかしいと思ったはずです。悪役令嬢の良さを伝えたいなら、奇を衒わずきちんと物語として見せるべきだったかと思います。仰る通り技術不足ですね。

 悪役令嬢ものというのが流行っているとは話に聞いておりましたけれども、実際に読んだことがありませんでしたので、これはきっと悪役令嬢テンプレに見せかけて何か別のものになる仕掛けがほどこされているに違いない注意しようと思いながら読んでいたのですが、結局「なるほど悪役令嬢ものというのはこういう感じなんですね」と感心して読み終えました。テンプレ解説としては一枚の画像にひとつシチュエーションの展開例が割り当てられており、読みやすく、理解しやすいよう工夫されています。慣用句などの表現がちょっと怪しいところがあるので、見直してみるといいと思います。

 

 

22.ぶいち 『毛玉』

 要はグレムリンですね。話の筋としては非常に分かりやすい怪談なので、もっと圧縮して1ツイに収められたのではないかと思います。2連投以上になるのと1ツイで収まるのとでは、伸び率に大きな差が出てくるので、同じ内容でも削れるところは徹底的に削って1ツイに収めたほうがよかったでしょう。ツイ小説に最適化するなら、大胆にゴリッと削ってしまって大丈夫です。また、1Pめで読者を牽引できるようなフックを提示できていないところもちょっと弱いですね。毎ページ、なんらかの出来事が起こるようにしましょう。

 謎の毛玉をペットとして買ったら、それに食べられてしまった話です。ペットとして広く販売されているのに、その危険性が周知されていないのはおかしな話だな、と思いました。ペットを飼う際には自分でもきちんと調べること、という警鐘にはなりますね。主人公は食べられてしまいましたが、毛玉に食べられるのは本望だったようで悲壮感はありません。毛玉と意識が融合したようにも解釈できるため、作者意図としてはハッピーエンドなのでしょう。とはいえ、モフモフな毛玉が好きな人も、普通は食べられたいとまでは思わないですから、共感しにくい作品です。また不思議ペットの飼い方を誤ると大きな災いになるという物語も特に珍しくはありません。むしろ定番です。この物語自体の独自性は何も感じられませんでした。勢いだけで書いたな、というのが感想の全てです。

 毛玉というかわいい架空動物の話です。かわいいですね。かじり木というアイテムが不穏さを演出してくれます。そして順調に主人公は疲れて眠ってしまい、案の定脱走した毛玉はついに主人公を捕食する……という流れまではもう予定調和と言っていいくらいですが、最後の展開が奇妙で、主人公は食われているのに痛みもなく、意識もなくなりません。おおなんか変になってきたなと思ったら、期待したほどは変にならず、主人公は毛玉と一体化して破壊活動にいそしむようになったようです。そこはもっと地球まで食い尽くしふわふわの毛惑星になるとかまで行ってほしかったです。せっかくかわいいので。小説を書いていると途中で「あれっ、これありきたりじゃない?」と思うことはよくあるのですが、そこから中途半端に曲げるくらいなら思い切りよく短くまとめて終わるか、振り切るならきっちり振り切るのがよいのではないかと思います。

 

 

23.辰井圭斗 『web小説に疲れて筆を折ろうかなと思っている話』

 うーん、稀にこういう系の愚痴がバズることもあるんですけど、負のエネルギーが炸裂するときってKドカワとかの分かりやすい悪の枢軸を断罪するときに発生するものなので、曖昧に「なんか違うんだよな~」みたいな話ではなかなか難しいと思います。実話ですらそうなのですから、創作となればなおのことでしょう。RTを稼ぎにいくなら人の「共有したい」という正の感情に働きかけるほうが正道だし、この方向性はちょっと根本的に相性が悪いかと思います。

 タイトルのままの愚痴ですね。後半の祖父の介護等はフィクションらしいです。マイナス方向の共感型バズを狙ったのでしょうか? それにしては取り留めが無さ過ぎるので、共感する間もなく読むのが苦痛になってしまいました。この手の愚痴はそこら中に溢れています。改めて興味や共感を持ってくれる人は少ないでしょう。あまり共感してもらえない話かもしれないが~←仰る通りだと思います。

 バズとはちょっと違いますが、Web小説を書いている人にとってPV数が増えないという問題は身につまされるところがあると思います。ただ、本作の主人公の悩みはそこではなく、すでに一日数万PVを獲得しているようで、それだけあったら書籍化して次のステージに進んでもよさそうですが、なぜか次は数十万PV、数百万PVが欲しくなるようで、ちょっとこの辺の心理は理解しにくいところがあります。実際今回の評議員には累計で数百万PVを獲得している作家が参加しているので、そのあたりの気持ちを聞いてみたいものです。そういうわけで、作品としてはちょっと悩みのポイントが特殊で共感を得づらくなってしまっているかなと思いました。

 

 

24.辰井圭斗 『祖父の話』

 苦しみながら生きながらえるくらいなら早く死んだほうがいいのでは? という提起は、うまくやれば侃々諤々のホットなトピックにもなり得ると思うのですが、話じたいは「そう思いました」で終わっていて、自己完結していて提起にはなっていないので、レスポンスしにくいなぁというのが実感です。「そうだね」って感じだと読者も反応しないので、上手に問いかけるような構造になっていれば、ひょっとするとレスポンスがあったかも。

 祖父の介護に疲れた人の話です。なるほど、前作の続きですね。前作の愚痴を補強する物語になっています。連作にした意図はわかるのですが、弱っている人間を演出してRTを狙いにいく作戦はあまり好きになれません。趣味が悪いです。小説コンテストなのに作品で勝負することを放棄して何の意味があるのでしょうか?

 自伝的小説というのでしょうか、祖父の死について語る主人公のお話です。大好きだった祖父が肺がんになり、その苦しむ姿を見るのが忍びなく、いっそ早く死んでしまったほうがいいのではないかと思ってしまう。そう思ってしまった自分が許せず、葬式でも泣くことができなかったという感情の流れは理解できるものの、文字数の限界もあり、こうした大きな感情に共感させるには背景が薄いように思われます。また、今回のテーマが「バズ」であるということを考えると、人の死を利用してバズを狙っているようにも見えて、不快感が出てしまいます。 

 

 

25.神崎直子 『高校生男女がクリスマスに特に意味のないことをする話』 

 文庫ページメーカーにはちゃんと著者名とタイトルを記入するところがあるので、書式を守ったほうが見栄えは良いかと思います。また、内容的には3ツイを費やすほどのものではないので、もっとギュッと圧縮したほうが良いでしょう。1Pめが完全に説明だけで終わってしまっていますので、ここは言い回しを工夫して2行程度に圧縮して、1Pめでもう話が転がり出すようにして下さい。

 幼馴染の男女がよくわからないやり取りをする話でした。男の方はクリスマスに全裸で走り回ろうとし、女の方は好意があるためか、それを見に行こうとする。だけど、男が完全な全裸でちんこ丸出しにすると知り困惑する。そして全裸ダッシュを実行した男が女に告白すると、女は拒否する。でも、手を繋いで帰る。ここだけ抜き出すとナンセンスギャグ寄りのラブコメなのかと思いきや、そもそも日本語が怪しく、二人の登場人物の思考も突飛であるため、話を理解するのが困難でした。書き終わったらすぐに投稿するのではなく、何回も読み返してください。

 高校からの帰りの電車、腐れ縁の男女がクリスマスに交際相手がいないことを互いに嘆くシチュエーション、うんいいですね、爆発してほしいですねと思いながら読み進めると男が突然「クリスマスの夜、裸で走ろうかって思うんだ」と意味のわからないことを言い出します。なんだか面白くなってきたぜと思っていると、女が「私もそれ、見に行ったらダメかな?」とまた意味のわからんことを言い出し、ちょっといい雰囲気になっていきます。ゆるせないねえ! で、クリスマスに実際パンツ一丁で走るんですが、わりと普通に走り終えて「オレら付き合わない?」とまで言い出し、女のほうも断っておきながら帰りには手をつないでいるという始末。ゆるせないねえ! とはいえフィクションはあくまでフィクション。これをRTして「ゆるせないですよね?」とみんなに語り掛けるほどの怒りは生まれなかったので、バズには至らないようです。実際に裸で走る男子高校生と手を繋いで帰る女子高生の動画があればバズったかもしれません。

 

 

26.アリクイ 『女神の憂鬱』

 金の斧と銀の斧の女神が「池に落ちてきたものを綺麗にして返す」というプロトコルを愚直にこなしている、というシチェーションコメディだと思うのですが、泉の女神が訊くのは「金の斧か、銀の斧か」であって「綺麗な坊ちゃんにして返す」だと、手順が間違えていると思います。そこは金の坊ちゃんと銀の坊ちゃんであるべきでは? 話の筋としてはぐちゃぐちゃが加速してのストロングゼロオチなので、ちょっと考えが浅いですね。もっとしっかり考えましょう。

  ルールを守ってくれない人たちに湖の女神が頭を抱える話でした。謎の勢いはありましたが、話自体が野暮ったくて笑いどころがわからないので、読む作業を強いられている気持ちでした。そういう意味では作中の女神と同じ心境を味わえたかもしれません。頭を抱えました。

 泉に落ちたのが坊ちゃんだとぼっちゃーん、婆さんだとばっちゃーん。これを笑えるかどうかが分かれ目になるな、と思いにっこり笑顔を作ろうとしましたが多少引きつってしまいました。もう少し強く笑えるポイントが欲しかったですね。また、金の斧と銀の斧だと婆さんがいきなり手を引っ張って帰ろうとするのが成り立たないので、普通の坊ちゃんと綺麗な坊ちゃんを並べているわけですが、ちょっと読者の混乱を招くポイントかなと思いました。きれいなジャイアンも、まずはきれいなジャイアンを出して「これですか?」って聞くわけですからね。そこは本物を持って帰られないように女神様も対策済みなのかもしれません。松屋の食券制みたいなものですね。

 

 

27.@sen_wired 『新ロードキル戦記 カスタム』

 狩猟に関する法律の抜け穴てきな話。一般にあまり知られていない豆知識てきな部分に着目するのは悪くないと思います。でも、まず「法律上そういったことが可能である」聞いても真似してみようとは思わないし、話の結論てきにも「真似するべきではない」みたいな感じなので、有用な情報としてシェアしよう! みたいなポジティブな感情にはなかなか結び付きませんし、もっとリアリティがあったら逆に「けしからん!」てきな炎上系のRTも稼げたかもしれませんが、高価な狩猟道具も必要ないって言われても、カンガルーバンパーつきのランクルってめちゃくちゃ高価じゃないですか? なので、たぶん創作話なんだろうな~という感じで、そっち方面にも着火しにくそうだしで、どっちつかずになっちゃった感がありますね。

 車を使って狩猟するロードキルについて解説する話でした。法律の抜け穴を使った狩猟方法ですね。色々と思うところはありますが、こういうことをやっている人もいるんだなと勉強にはなりました。ありがとうございます。以上です。

 動物を殺す話ですね。鹿を故意にロードキルするために車を改造し、鹿を殺すのに最適な装備を整えていくという内容。こういうのが好きな人は好きなのだと思いますし、それ自体は否定するものではないのですが、個人的にこれをRTするかというとしないですね。共感を集めてバズるのは難しいテーマだと思います。とはいえ小説なので、逆に怒りを集めてバズるのも難しく、この内容でバズるためには小説に加えて実際にロードキルした鹿の横でにっこり微笑む写真をアップするのが必要かなと思いました。

 

 

28.蒼天隼輝 『君に捧ぐ敗北宣言』

 答え合わせを聞いてもよく分かりませんでした。クソデカ感情の話ということですが、両者の関係性や積み重ねが見えないまま、いきなりクソデカ感情だけをぶつけられてもウッとなってしまいますね。すべてが終わったあとの手紙という形式はツイ小説との相性は良さそうなんですけど、さすがに説明不足かも。あと些細なことですが、茶系のバックに茶系の文字はちょっと読みづらいですね。

 ポエミーな吸血鬼の遺書です。雰囲気は嫌いではありませんが、徹底して具体的な事象を書くことを避けているため、読者が自ら物語を読み解く必要があります。読者は興味のある物語なら頭も時間も使いますが、知らない人のよくわからない作品を頑張って読み解きたいと考えることは稀でしょう。私は審査委員なので最後まで読みましたが、普通の人は一行目で投げると思います。

 不死であるはずの吸血鬼が敗北を認め、死を前に宿敵に送る手紙といった内容の作品。ネトフリの『ドラキュラ伯爵』を彷彿とさせる耽美的な雰囲気がよく描き出されていると思います。ただ惜しむらくは雰囲気だけで終わってしまっており、独自のお話が存在していない。せめて一点、「なぜ吸血鬼は敗北したのか?」だけでも端的な形で提示できれば、作品としての完成度がぐんと上がったように思います。

 

 

29.弐号 『バズと宗教』

 えっと「バズがテーマ」っていうのをそういう風に解釈したんでしょうか? バズというお題で小説を書けという話ではないです。バズを狙っていきましょうという小説大賞です。

 直近の話題になった物語の全てを、とある宗教団体が作っているという噂が流れた話です。何を言いたいかがよくわかりませんでした。流行の全てを宗教の一言で片づける人たち、よく目にしますよね。それが言いたかったのでしょうか? それとも、そういう人たちを冷笑する話だったのでしょうか? いずれにしても、よくわからないのに説教臭さだけは感じて不快でした。

 バズる物語はだいたいひとつの宗教団体が作っているという噂がある、という導入は面白いと思いました。そこからどう物語を展開していくのかの部分で失速してしまい、噂は単なる噂で、友人はネットロアに入れ込んでしまった変な人に終わってしまっているのは残念。「バズる作品なんて、元からみんな宗教じゃん」というセリフには真実を突いているところがあると思いますので、なぜそう思えるのかをもっとはっきり言語化し、それを物語に落とし込むことができれば、強い作品になりそうです。

 

 

30.偽教授 『無題』

 なんか分からないけどすごそう。なんか分からないけど。試みは理解できるし、実際にこれで二通りの解釈が可能な文ができているならすごいな~と思うのですが、残念ながらわたしの偏差値が足りないので読めませんでした。たぶんツイッターの大部分の人も読めなかったんじゃないでしょうか。広く一般にウケなきゃいけないので、偏差値調整、大事です。

 何がしたかったのでしょうか? 文章、成立していないですよね?

 笑いました。ぱっと見ではすごくて、実際読んでみると途中でめちゃくちゃになっていて成立していない。でもツイッタにいる人はそこまで読んでないんですよね。ぱっと見ですごそうだから「すごい!」って言って拡散する。そういう風刺が込められているんだと勝手に解釈しました。

 

 

31.水瀬はるかな 『無題のメモ』

 バズれば官軍、死して屍拾うものなし。見ろよ、これが第九回本物川小説大賞覇者の末路だよ。タグづけをして参加要件を満たしつつ、それを上手に偽装するキャプションについてはちょっと感心しましたが、それ以外はシンプルにムカつきました。

 そうなんですね。

 ツイッタでよく見る「ご報告のご報告をさせていただきます」構文ですね。悪名高き本物川小説大賞であれば何か信じられないようなことが起こっても不思議ではありませんしね。本当、今回は何が起こるんでしょう。できればいい方向のハプニングであってほしいですね。

 

 

32.宮塚恵壱  『太歳』

 本題は太歳のほうなので、そうなると冒頭のペットとの死別のくだりが丸々必要ないのでは? と思いました。逆に肝心の太歳の話は、ここからなにか始まりそうな雰囲気だけ出して終わってしまうので、ここはさっさと太歳の話を始めて、自分の身体に異変が出てきたところから、さらに話を展開させたほうが良かったかと思います。

 肉塊の化け物をペットにした主人公が、誘惑に負けてそれを食べてしまう話です。食べた結果、自分も同存在になっていくというのは定番ですね。不気味な雰囲気は出せていましたが、特に目新しさは感じませんでした。序盤で語った主人公のペットについての心情が後半に活かされておらず、無駄に読まされたという徒労感があります。構成が甘いですね。物語に関係のない不必要な話は止めましょう。読者の時間も集中力も有限です。真面目に最後まで読んでくれる前提で書かないでください。

 ちょっと話がとっちらかっていますが、太歳というのは少し前にバズった中国のおもしろ生物ですね。で、主人公が拾うのは太歳に似た生き物ですが、そいつには目がいっぱいついていて、なぜか主人公はこいつを食ってみたくなり、食います。肉は大変美味だったのですが、なぜか翌日になると自分の手の甲に、拾った生き物みたいな目が見えてくる。ここまではホラー小説の滑り出しとして上々の雰囲気です。ただ残念なことに、物語はここで終わりです。尻切れ気味に終わる作品は多くの場合、文字数を無駄にしてしまっている感があります。本作においては、最初のペットとの死別の話が後半とうまくつながっていないので不要で、もう少しホラーを掘り下げ、「なんか不気味」で終わらずインパクトある恐怖を描けると、RTしたくなるなあと思いました。

 

 

33.鍋島小骨 『日常』

 冒頭、2chの書き込みっぽい感じの過去形の文体で始まるのですが、後半に進むにつれていつもの手癖にかえってしまったのか、普通に現在進行形の小説にシームレスに変化してしまっています。変化させるならせめて段落を分けるべきですが、この場合はいっそ冒頭はバッサリと切って『殺したやつが翌朝「おはよう」って出社してきた』から現在進行形な感じで進めてしまったほうが、まとまりが良かったかも。ついでに1ツイ画像4枚に収めてしまうと、ツイッター地形効果てきにはアドです。死んでも出社しなきゃいけない社畜の悲哀みたいなところに上手に接続すると、ただの不条理ホラーに終わらず、さらに共感を呼べたかも。

 主人公に殺された人間が何故か生き返って日常を継続する話です。不条理系の話ですね。主人公も最終的には殺されてゾンビ?のような存在となり、それでも日常を何も変わることなく続けていきます。綺麗にまとまってはいるものの、心に刺さるものはありませんでした。バズ、というテーマのコンテストの中では不適格かと思います。この作品を面白いと感じた私でさえ、だから他の誰かに読んでもらいたいとは思えませんでした。とはいえ技量は確かなので、このコンテストがどういう意図で開催されたかを改めて考えてみてください。その先に大きな飛躍があることを願います。

 よくできた作品です。小説としてきちんと構成されていて、読む人のことをちゃんと考えてるなあと思います。当たり前のように思えるかもしれませんが、アウトプットとしてちゃんとそれを成立させるのはなかなか難しいものです。内容的にはわかりやすくて、殺したはずの同僚がなぜか出勤してくる。どうも死んでいるのに出勤しているらしい。どうなってるんだと混乱するうちに主人公も殺されてしまって、結局同僚と同じように死んだ後も仕事に戻る。不条理系だけどなんとなく納得できるところが上手ですね。欠点としては、やはりちょっと長かったかもしれません。2ツイートフルに使っているので、読むのにも気合がいるし、RTするのはさらにハードルが高い。あとは読後感がもう少しさわやかになってほしいなあと思いました。

 

 

34.こむらさき 『母へ』

 しっかりとターゲット層を見据えて意図的にバズを狙いにいっている非常に強かな小説なのですが、しっかりとした質感と強度によって支えられているので、その他の軽薄なバズ狙いのネタ勢とは完全に一線を画しています。そんでもって、この話は非常に重要なのでネタ勢は耳をかっぽじってよく聞いてもらいたいのですが、こむらさきさんのこの小説の価値は、別に真実性によって担保されているわけではないのです。「RTされると単位が貰えます!」とか「本物川小説大賞でこんなことがありました……」なんてネタは、それが真実であるからこそ野次馬根性てき価値が発生するのであって、虚構であることが判明した時点でまったくの無なのですが、この小説が提示する価値、すなわち「住民票の閲覧制限は両親にも適用できる」という具体的TIPSであるだとか、あるいは「自己肯定感が極端に低い個人が回復していく過程」「自己肯定感が極端に低いめんどくさい個人と向き合うときにパートナーに求められる根気強い態度」などは、この小説が完全なフィクションであったとしても、まったく毀損されるものではありません。なので「特殊な個人的経験を切り売りしているからバズったのだ」くらいの解像度でこの小説を把握してしまうと、いろいろと取りこぼしてしまうと思います。素の文章力にはまだまだ成長の余地はあるので、引き続きやっていきましょう! 最高のネタを最高の文章力で書けば最強にバズれるはず!!

 毒親から逃げる話でした。逃げる、といってもマイナス方面の話ではなく、新しい人生と向き合うための選択です。友人、伴侶、そして子ども、自身の一部となった大切な人たちを守るため、法的にも両親と決別する決意には、共感を抱きつつも胸が痛くなりました。子は親を選ぶことはできません。同じ痛みを抱えている人は多いはずです。そんな人にとって、この前向きな決別の話は人生の一助になるかと思います。小説コンテストなので、本来ならこういう形態の話は減点対象ですが、それを補って余りある、文章力と構成力、そしてメッセージ性には目を見張るものがありました。

 開始から数日が経ってRT数を急速に追い上げてきた作品です。けっこう前ですが、菊池真理子さんの『酔うと化け物になる父がつらい』という漫画がツイッタでバズったことがあります。アルコール依存症の父との思い出をつづる漫画でしたが、こうしたつらい体験を描く作品がバズることには、同じような境遇にある人への気づきや癒しとなる点で、独特の価値があるのかもしれないなあと思います。とはいえ個人的には、フィクションの面白さでもって本作を上回ってバズる作品の出現を期待したいところです。

 

 

35.@kimiterary 『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』

 個人的にはめちゃくちゃ好きな作品なのですが、とにかく一見さんお断り! な雰囲気をプンプンさせ過ぎです! もっと丁寧に玄関を整えて、入りやすいポップな店構えを心がけてください! ウッとなるような文圧の長文キャプションはまあいいとして(わたしは許すが?)(いや、もちろんそこからもっとポップなほうが当然良いんだけど)せめてタイトルくらいはつけましょう。作品を紹介しようにも「きみたりさんのやつ」とかしか言いようがないので、おすすめするほうもおすすめしにくいです。作品としては、ツイ小説以外でこれを出されると「プロットですね」となる感じなんですが、ツイ小説であればこれぐらいの低解像度でビュンとかっ飛ばすほうが正解でしょう。かっ飛ばすところはかっ飛ばしつつ、ごく短い具体的なエピソードで「主人公はこういうやつ」を上手に示しているのがめちゃくちゃテクニカルで良いです。

 異世界召喚された友人の冒険をテレビを通して伝記にする話でした。凄く好きな話ですね。捻くれた主人公と、そんな主人公とも上手く付き合える友人のキャラ立てが絶妙で、異世界転移後の展開もすんなりと受け入れることができました。冒険そのものが詳しく書かれることはないのですが、世界を隔てても決して切れることのない二人の絆の前にはダラダラと描写する方が野暮なのかもしれません。読後感も最高です。とても爽やかで感動的ですね。かといって押し付けるようなものではなく、テレビを通して見てきた友人を信じているからこそ、今日確実に使命を果たして帰ってくると確信し、十年分の答え合わせができることを楽しみに待つ主人公の在り方が美しかったです。これ、もっと伸びても良かったと思うんですが、作品説明が最悪ですね。無駄に長いだけで、まったく読みたいと思えなかったです。その点だけが残念でした。作品は好きです。

 変わったシチュエーションの作品です。主人公は現実世界にいて、その友人が異世界に行って世界を救う。主人公は世界を救う友人の姿をテレビ(?)で見ながら、その伝記を書くことを任されたというもの。小説というより詩のような抒情的な雰囲気があり、コンパクトさが要求される今回の条件によく適応しています。主人公のスタンスが常にやや攻撃的なので、RTされるにはちょっと足かせになったかもしれません。

 

 

36.おなかヒエル 『B1F』

 今回のお題は「バズれ!」なので、基本的には「とにかくライトに、ポップに!」という路線が正道なのですが、キャプションでいきなり「ブッツァーティへのオマージュです」と言われると「ほーん、知らんな。ほなまあええか」となっちゃいそうです。で、わたしはブッツァーティ未履修なのでゼロ前提で講評を書きます。わけも分からないままどんどん下の階に移されていく、という展開は読者の興味を上手に牽引できています。文も引っ掛かりがなく、ちょいちょい笑えながらも不安感が高まっていく感じなど、根本的な筆力の高さが伺えます。が、最後まで読んでも「なんかよく分からなかったな」てきな消化不良な感じだったので、これだと「バズれ!」との相性はあまりよくないですね。もうちょっと「なるほど」となるような結末のほうがいいかも。

 謎の病におかされた主人公が病室をたらい回しにされる話です。文章力が高くソリッドな質感も好みでした。ですが、話の楽しみ方がわかりづらいですね。今回のコンテストのテーマはバズです。わかりづらい物語は大半の読者にリジェクトされるだけなので好ましくありません。ブッツァーティのオマージュ、ということですが、大半の読者はブッツァーティを読んだことがありません。読んだ人にしてもブッツァーティのオマージュなら読まないといけないな、とは思わないでしょう。いるとしてもブッツァーティ作品を好きな読者の極一部です。最初から狭いところを狙うと、結果として誰にも刺さらず終わることになります。人に読んでもらうことを求めるなら注意してください。

 カフカっぽい不条理系の作品。病名を知らされないまま入院させられ、「こういうことはよくあるんですよ」と言われてなし崩しに納得させられつつ、日が経つにつれどんどん下の階に移されていく主人公。小さな不条理がエスカレートして大きな不安につながっていく構造がうまく形成されています。一方で、最終的に提示される不安の正体がちょっと期待よりも現実感を帯びてしまったなあという感じがします。こういう方向で落とすなら、主人公は過去を振り返って後悔するよりも、退院したらあれをしてこれをして……と、自分のはまり込んだ病状から抜け出せない様子を見せたほうがより不条理さと奇妙な納得感のアンビバレントが表現できたように思います。いやあ本当にオチってむずかしいですねえ。

 

 

37.佐倉島こみかん 『いちゃラブ地雷』

 最初にキャプションで「腐女子版『饅頭怖い』」と宣言されているので、オチは分かり切っているわけですから「やられた~」感はないんですけど、かといって『饅頭怖い』であることを隠してこのオチでも「なんや『饅頭怖い』やんけ」となりそうなので、これはまあ意外性というよりは、予想のつく安心感重視のつくりなのでしょう。腐女子ノリ全開のテクニカルタームも平然と出てくるので、苦手な人は苦手だろうから、最初から対象層が限られてくるなぁとは思います。平然と「カピバラ子」とか「しゅきぴ坂本」という名称が出てくる時点で「ああ、お互いをハンドルで呼び合う本名を知らない間柄なんだな」という推定はできるので「もちろんハンドルネームである」などの部分はカットできますね。それぞれの容姿なども話の主題にはそこまで必要ないので、もっと圧縮できます。がんばれば1ツイに収まったのではないでしょうか。基本的には大抵、削れば削るほどよくなるので、ガシガシ削ってみると良いですよ。

 まさしく腐女子版『饅頭怖い』という話でした。が、やりたいことに対して話が無駄に長過ぎますね。事あるごとに説明が入り、またそれが何の興味も持てない内容なので苦痛でした。テンポ良く読めたのなら、もっと印象が変わったかもしれません。書きたいことを全て詰め込むのではなく、何を伝えたら作品のテーマを理解してもらえるかを逆算して構成を練ってみましょう。この規模の物語で登場人物の容姿を説明している余裕なんてありません。話のテンポが悪いと大半の読者は最後まで読んでくれませんよ。

 上下二段のレイアウトを2ツイート分使ってボリューム多めな作品ですが、軽快な語り口でストレスなく読めました。カメラが一人ひとり順番に移り変わっていくような構成で話の流れがわかりやすく、しゅきぴ坂本の関西弁キャラで強引ながらもテンポよく話が展開されるのもよい工夫だと思いました。オチに大きな驚きはないものの話としてきれいにまとまっており、読後感もほんわかして好印象です。惜しかった点としてはやはりオチの落差が弱いので、例えば集まったメンバーが界隈では有名な絶対自カプしか描かない神絵師たちというようなキャラ付けがあると、狙いがより際立つのではないかと思いました。

 

 

38.双葉屋ほいる 『一級河川・本物川』

 今回はバズを狙いにいかないといけないので、本物川さんのことを一切知らない人たちに物語を届けてください。本物川さんを知っている人はインターネット上にそれほどいません。

 だからなんで、バズというテーマで身内ネタに走るのでしょうか? レギュレーション読んでないのですか?

 完全な内輪ネタですね。小説として読まれることをあんまり想定していないと思います。本物川さんが何か言ってくれるでしょう。

 

 

39.あきかん 『韜晦』

 なんですか?

 時間の無駄ですね。

 これも内輪ネタですね。特に言うべきことはないように思います。

 

 

40.水瀬はるかな 『バズりたいからといって何を書いてもいいわけではない』

 バズれば官軍、死して屍拾うものなし。見ろよ、これが第九回本物川小説大賞覇者の末路だよ。そもそも一作目がバズってないので話として成立していません。バズる見込みで既に書いちゃってたんでしょうか? 死体蹴りは他のふたりにお任せします。

 意図するところはわかるのですが、それを達成するためには前作がきちんとバズっている必要があるのではないでしょうか? 前作がバズってない状況でこれを出されても糞ダセえだけですよ? 糞ダサいです。

 自作小説にさらにメタなフィクションを加えた小説です。文章は整っていてストレスなく読むことができます。ただ、作品としての意図するところが読者を楽しませるというよりも自作を下敷きにして何かうまいことを言うというところにシフトしてしまっているように思えて、読む側としては置いてけぼり感がありました。

 

 

41.神崎ひなた 『ぼくがもやしを洗う理由』

 わたしはめちゃくちゃ知能指数が低いので、わりと素直に笑っちゃったんですが、どうやら下ネタとツイバズは言うほど相性良くないようですよ? 素直に「ちんぽにゃ!」とか呟いてたほうがウケます。なつかしのテキストサイトてきなクソデカフォント芸などは、使いようによっては、ひょっとすると現代でもまだ通用するかも。

 バズってないから安心してください。

 もやしを丁寧に洗ってたらもやしの精霊が出てきて無限にもやしを与えてくれるようになる話、と書くとなかなか面白そうですよね。ちょっとバズりそうな気もします。ツイッタ民ってもやし好きだし。でもこの作品はつらいところがあります。まずもやしの精霊のキャラが痛い点。フォント芸が痛い点。突如挿入される下ネタが痛い点。メタネタが痛い点。これらはすべて狙って痛い感じにしているものと思われますが、それなのにただ痛いばかりで笑えない。これがつらい。有名な2ちゃんコピペの「俺くん」もひたすら痛いネタですが、あれをこの長さでやられるとひたすらつらいばかりで笑いが出てこない。もやしか痛さか、どっちかに絞ったほうがよかったと思います。

 

 

42.芹沢政信 『妖精を飼う話』

 書いているのが小説家なので当たり前なのですが、文章がわりとしっかりと小説してしまっていて、ツイ小説の速度域だともったりとした印象になってしまっています。経験的に、ツイ小説においては風情とか情緒的な部分は削ぎ落したソリッドな文体のほうが合う感じがしますね。ツッコミ不在のままシームレスに兄妹が狂気に陥っている部分も、表現がさり気なさ過ぎてツイ小説との相性は悪そう。偏差値を下げて、もうちょっと丁寧に「ここで驚いてね!」とガイドしてあげたほうが親切だと思います。ツイッターという特殊な場への適応にまだまだ課題がありますね。

 兄妹が妖精を育てる話です。ほのぼのとした展開かと思いきや、妖精に宝石を食べさせるために母親の宝石を盗んだり、妹が身売りしたりと次第にダークな部分が濃くなっていきます。最終的に他の妖精を餌にすることを決め、また作中では明言されていませんが、いずれは人間を餌にするだろうことも暗示していました。起承転結がはっきりとしており、質感のブレもなく、完成度の高い作品だったかと思います。一方で妖精の正体が曖昧なまま進むので、兄妹の歪さには気持ち悪さを感じるものの、妖精の存在意義や恐怖があまり感じられませんでした。妖精でなくても成り立つ物語であるため、タイトルから本文を読み進めた時の肩透かし感は否めません。

 架空のペット「妖精」を飼うことにした兄妹のお話。妖精は最初芋虫みたいな形態で、たくさん「素敵なもの」を食べさせることで羽化するようです。そうして兄妹は「素敵なもの」を手に入れるために、倫理観や価値観を崩壊させていく……という流れが短い文字数の中で無理なく展開されていて、非常に高い構成力が感じられる作品です。あえて惜しかった点を挙げるなら、オチでややパワーが弱まってしまった気がするので、盗んできた妖精の幼虫も食べさせたうえで、さなぎになった妖精が何か異常な兆候を示し、ここから何が出てくるんだろう? という感じに恐怖の焦点を絞ったほうがきれいにオチるんじゃないかと思いました。オチって本当に(

 

 

43.タアアタ 『本物の川に飛び込んで』

 ツイッターの人の大多数はあなた個人には興味がないので、その前提で、知らない人でも楽しめるような面白い物語を書いてください。

 おい大澤、なんとかしろ。

 これはかなり込み入った内輪ネタというか事情のあるネタで、おいそれと軽率にコメントが出せない感じがします。言うまでもないことですが、自殺や自傷をほのめかしてRTを要求するのはやめてくださいね。

 

 

44.悠井すみれ 『何かと私の真似をしてくるあの子に夫を寝取られていたらしい話』

 最初、ネコチャン画像でRTを稼ごうってか? それにしては猫画像も普通すぎてバズるってほどじゃなくない? って思っていたら、時間差で続きが投稿されました。レギュレーションで時間差投稿は禁止していなかったので、これはこちらの手抜かりで仕方がないのですが、投稿された小説はマジで順次講評をつけていたので、ちょっと困りました。そうでなくても、1ツイめは完全に前フリで、2ツイめでようやく話が動くという形式なので、1ツイめにはこれといって興味を引けるような部分がありませんから、あまり時間があきすぎてもたんに不利だったのでは? とも思います。ツリーを遡るのも手間なので、理想としてはタイムラインにふたつ並んだほうが分かりやすいですよね。2ツイめの小説は完全にわたしが好きなやつですが、短い中に2回ツイストが入ることになるので、2回目のツイストがちょっと厳しい。もっとグッと主人公のほうに読者の心情を引きつけてからキメられると、もっといいですね。1ツイでいくにはボリュームオーバー感があります。

 二つで一つの話です。最初はエア旅日記、次がそのエア旅日記が自分の模倣だと気が付く主人公の話。模倣したのは主人公の友人で、主人公に倒錯した愛情を抱いています。主人公の旦那と肉体関係を持ったのも、主人公そのものになりたいから、という徹底ぶりです。正直、気持ち悪いですね。驚くべきは主人公も友人の行動を善しと認めている点です。全く理解できない考え方でした。物語としては意外性もあり面白いのですが、誰かと共有したいという類の内容ではありません。バズ企画とは根本的に相容れない内容です。二つの話を時間差で行ったのも致命的かと。最初のツイートがバズらない限り、一つの話を二つに分けるのは悪手でしかありません。また、話の性質に反して、ギミックとなる一話目の写真が、あまりにも平凡というか日常の延長線上にある光景だったのが興覚めでした。近所のおばちゃんが宝塚を演じてもお笑い劇にしかなりません。宝塚俳優が宝塚を演じるからこそ価値があるのです。総じて試みが上滑っているな、という評価でした。

 ごく親しい友人が何でも自分の真似をする、そうしてその様子をSNSにアップするというホラー風の小説。猫の写真とグリューワインを添えたツイートが先になっていて、ほのぼのとした内容のツイートを読んだあとに小説を読むと、実はあのツイートは他人の家に侵入して撮られたものだった、という仕掛けで、アイデアとしてはかなり面白いと思いました。ただ、小説のほうはひねりすぎというか、この文字量に詰め込むにはもっと焦点を絞ったほうがいいかなと思います。

 

 

45.弐号 『或る天使のお気持ち表明』

 わりと普通に読むだけで苦痛なので、こういう露悪趣味てきなのはバズとの相性は悪いのではないかと思います。ネガティブな感情の発露よりは、なにかしら人のポジティブな感情に働きかけたほうが「シェアしよう」って意識に繋がって、RT数が伸びたりするようですよ。

 アイドルのアンチを天使が裁く話です。人一人を自殺にまで追い込んだのに、その中の一人だけを殺すって温くないですか? 物語上の都合でしょうが、物語だからこそ全員殺しても良いと思いますよ。スカッとする物語を書きたいなら中途半端は駄目です。私は逆にモヤっとしました。

 ざまぁ系ですね。ほんと苦手なんですよ、ざまぁ系。SNSでアイドルを誹謗中傷していた女性に五寸釘とハンマーを持った女が襲い掛かるお話で、オチは予想外のものではありましたが、むしろここに落とすよりは話にもう一転、展開がほしかった。ただ女一人を残酷に殺すだけの話になってしまっています。

 

 

46.木船田ヒロマル 『ウソ発見器』

 シチェーションコメディてきなやつですね。「フフッ」で終わるんですけど、読後感もほんとそのまま「フフッ」って感じです。ぼちぼち伸びているので、根本的に間違えているということはないと思うのですが、ツイ小説にしては導入がちょっと長すぎるかな。トリビアルな部分は引っ込めて、さっさとウソ発見器を始めてしまったほうがツイ小説の速度域に適合できそうです。あと、女の子のほうが無個性なモブなので、もうちょっとキャラが立ってるといい感じにラブコメっぽく仕上がったかも。

 ウソ発見器を通して女の子に揶揄われる話でした。女の子に弄ばれる主人公が微笑ましいものの、これを読んで私のグラフが大きく振れることはありませんでした。序盤のウソ発見器に対する説明パートが長いですね。ウソ発見器の仕組みを知らない人は少ないと思うので、あえて言葉を尽くす必要は無いと思います。知らなかったとしても、グラフが触れたら心が乱れているのは感覚的にわかるかと。いずれにせよ端折っていい部分ですね。説明を端折って女の子とのやり取りをもっと掘り下げた方が面白かったでしょう。

  おもしろいですね。こういうのでいいんだよ。細かく講評するより実物読んでみてくださいという感じですが、「ウソ発見器をいかにごまかすか?」というネタフリがうまいですね。読者を引き込むことに成功していると思います。そうして、オチが非常にきれいにオチています。ここまでうーんうーんと数々のオチを読んできて混沌とした頭がさわやかに晴れ渡るのを感じました。こういうのでいいんだよ。

 

 

47.おなかヒヱル 『宇宙空手決死拳』

 今回はバズコンなので、内輪ネタ、楽屋オチは禁じ手くらいに考えてもらったほうがいいですね。キャプションが私信なのもマイナス評価です。ちゃんと多くの人に読まれるように整備しましょう。導入が上手で「オッ?」と目を引いたぶん、結局内輪ネタだったときのガッカリ感がより大きいです。

 SFかと期待して読んでいたら、ただの身内ネタでした。今回のテーマはバズです。身内ネタをしても評価には繋がりません。

 途中まではやわらかい雰囲気のSFを感じさせる内容で期待して読みましたが、本物川が出てきたところで憂鬱な気持ちになり、忍者が出てきたところでため息が出ました。きっと私はこれからこの本物川小説大賞が終わるまでの間に、もっと病み疲れていくでしょう。みなさん、どうか見守っていてください。この講評を書き終えられるように。

 

 

48.草食った 『インスタントフレンド』

 すごくよくできたお手本のようなショートショートです。短い中でもちゃんと展開があり「うん?」と引っかかった部分が、オチで綺麗に解消されるつくり。たんなるどんでん返しでなく、皮肉が効いているところもさらにアド。お見事! 個人的には百点満点です! 今回のルールがRT数を競うというものでなければ、自信を持って大賞の推していました。講評を書いている現時点ではそこまで伸びていないのですが、じわ伸びが期待できるクオリティなので、最終リザルト次第ですね。

 インスタントに友人を作れる世界の話です。拙い部分もありましたが、割と好きな話でした。食べるわけでもないのに賞味期限と言ったり、最後は潰れて終わったのに何故か生きている時のように物事を認識していたり、ここらへんは首を傾げました。最後の部分は死んだインスタント視点ではなく、残された者視点でも成立したかと思います。叙述トリックを仕掛けることに意識が先行するあまり、実際の整合性を疎かにしたな、という印象でした。とはいえ、正統派の叙述トリック作品であり、視点変更があまりにもスムーズだったので、読み終えてオチを理解した時は素直に感心しました。叙述トリック作品は他にもありましたが、私はこの作品が頭一つ抜けていたと思います。拙いながらも意図したことがしっかりできていた作品でした。

 かなりの良作です。まず「インスタントでつくれる友達」という、ドラえもんの道具にでも出てきそうな、童心をくすぐる設定が心憎いです。もうこれを聞いただけで大切な思い出と悲しいお別れまで想像できてしまいます。本作でもそういうストレートな友情ものを期待して読み進めていったのですが、最後に予想を裏切るオチがありました。インスタントでつくられた友達は「僕」のほうで、本当の人間は「生まれたばかりのきみ」のほうだったんですね。いや、正直ぜんぜん気づかなかったんですが、見事な叙述トリックでした。読み返してみると気づきそうなポイントはいくつもあるんですが、おおもとの設定が見事なのでそっちに気が行って、まさか叙述トリックが仕込まれているとは思いもしなかったわけで、そのあたりのコントロールもうまいなあと思います。ここまでの作品の中では、個人的に大賞に推せる作品です。

 

 

49.尾八原ジュージ 『ブーーーン』

 本題が始まるのがちょっと遅くて、1Pめが完全にただの導入になってしまっているので、構成をもうちょっと考えたほうがよかったかも。ツイ小説は冒頭から読者の興味を引けたほうがいいですし、二段オチなので、主人公が姉を盗撮していることはシールするよりさっさと明かしたほうが読者の興味を引けそうだから、一行目で「姉の浴室に盗撮用のカメラを仕掛けた際、天井裏にスマホを置き忘れてしまったらしい」から入り、さっさと「姉にバレずにスマホを回収しなければならない」という状況に主人公を追い込んだほうがスリリングだったかもしれません。

 主人公が姉を盗撮していた話でした。ブーーーン、の正体は主人公が浴室に盗撮カメラを仕掛ける時に落としたスマホですね。マナーモード時のバイブレーションが虫の羽のように聞こえていた、というオチでした。キャプションで期待を煽ってくれた割には拍子抜けする回答だったな、というのが正直な感想です。読んで嬉しくない内容でした。ただ、ラストで実は姉も弟を盗撮していた、というオチは、近親愛系が好きな人には好まれるかもしれません。話の面白さやギミックよりも、このシチュエーションの方に価値があると思います。イメージを直接伝えられる漫画ならバズったかもしれませんね。ただ小説では難しいです。人に読まれることを意識するなら、小説という媒体の可能性と限界の見極めは重要です。

 スマホのブーンというバイブレーション音が虫の羽音に聞こえるという着想から展開していく作品。着想はなかなか面白く、ホラーにすればかなり気味悪くできそうです。ただ、本作は盗撮という仕掛けがスマホの音というモチーフとうまく接合できておらず、方向性が定まらずに終わってしまった印象です。もう少しじっくりモチーフを生かす仕掛けについて考えてみると、作品の質がぐっと上がると思います。

 

 

50.ハイザワ 『無限列車』

 だからバズをテーマにした小説じゃなくて、バズる小説を書く企画ですってば。とはいえ、いきなり「俺はバズ・ライトイヤーだ。敵ではない」から始まる勢いは嫌いではないので、勢いを維持したまま走り抜けられれば、それはそれで高評価だったかも。やりたいこととかテーマ性が渋滞している感じがするので、もうちょっとシンプルにソリッドにまとめたほうが良かったと思います。

 バズ・ライトイヤーのフィギュアに転生した人の話でした。なかなか読ませる文章だったのですが、全体を通してバズ・ライトイヤーのフィギュアに転生した意味が感じられませんでした。主人公のアンチであるハヤシが実はウッディだったというまとめかたも唐突過ぎてわけがわかりません。もっと関係性の積み重ねが必要だったかと思います。

 バズりたすぎてバズ・ライトイヤーになっちゃったという作品。そり、そりすぎてソリになった、というやつですね。一瞬の間はなばなしく持ち上げられるけれど、すぐに栄華のときは終わってしまうというバズのむなしさと、トイ・ストーリーの「おもちゃはいつか飽きられてしまう」という悲しさを重ね合わせたところが、この作品の妙味だと思います。ただ、問題はお話の中でツイッタでのバズとたかひろくんのおもちゃとしてのバズはやはり全然重なっていません。やっぱり難しかったですね。短くまとめようとすると厳しい設定だと思います。やりたいことは伝わってくるし、個人的には好感触の作品です。

 

 

51.稲荷紺 『かつて天才ではなかった僕へ』

 なんかアレですね。率直に言うと、こむらさきさんの『母へ』がバズった影響で、雑念が入っちゃった感じがしますね。自分語りがバズっているから「せや! 自分語りや!」と自分語りを始めてしまう軽薄なフットワークはツイではまあ、間違いではないんでしょうけれども、具体性を欠いたぼんわりとした話が続くので、正直に言うとあまり響かなかったです。バズった自分語りとバズらなかった自分語り、一体どこに違いがあるのか、分析してみるのも悪くはないかも。まあでもそうそう使える手段でもないからダダ滑りはダダ滑りとして、あまり気にせず次々と小説を書いてたほうがいいですね。

 身体にハンディキャップを負っている人が、自分の生き方について考える話でした。具体的な部分は濁されて書かれていましたが、内容的にはなんらかのハンディキャップを負われている人だと思います。フィクションではなく実際の話、ということでいいのでしょうか? 私は作者さんのことを知らないので、フィクションかノンフィクションか明記してもらえないと判断がつきません。ノンフィクションの体で書かれているフィクション作品も多いので。どちらにしても話の取り留めが無く、特に知見や共感を得られる内容ではありませんでした。具体的に何をしたのか、今現在何をしているのか、最終的にどこを目指しているのか、そういう情報がぼかされたまま可能性の話をされても首を傾げるだけです。いったいぜんたい、何の可能性なのでしょうか? 文脈的には創作なのかな? 抽象的な話は共感を得にくいです。ハンディキャップの有無は関係ありません。

 タイトル通り、過去の自分もしくは自分自身へと語りかける内容の小説です。自分への語りかけなので、事情をよく知らない読者は置いてけぼりにされてしまいます。重要な部分はぼかされ、よくわからないまま話は進み、最終的にわからないまま話が終わってしまっています。自分語りがダメというわけではなく、自分を語るなら、相手にわかるように語ろうというのが、やはり出発点なのではないでしょうか。

 

 

52.藤原埼玉 『忘れられない人』

 画像4枚も使うほどのネタでもないので、2枚でまとめても良かったんじゃないでしょうか。2Pめと3Pめが実質的な無なので、ソリッドな2段オチのほうが、まだしも伸びたと思います。

 わざわざ大西ライオンさんについて調べましたがよくわかりませんでした。何が目的だったのですか? 徒労感だけしかありません。

 一発ネタですね。まじめなポエムのふりをして、最後の一行で落とす。残念ながら私は大西ライオンさんについてよく知らないし、これでちゃんとオチているのか、うまく判定ができません。ほかの二人が「これが大賞」と言ったらうなずいてしまうかもしれません。

 

 

53.ラーさん 『優しい人』

 どこから小説か、みたいな話はよくあるんですけど、わたしはこれ、小説だと思います。ソリッドで良いです。とはいえ、このそっけなさでバズるのはなかなか難しそうなので、キャプションや背景画像など、周辺をもっと整えたほうが良いでしょう。

 おめでとう。

 キャッチコピーでバズを狙う手もあるなあと、目の付け所に関心しました。写真とかにうまく埋め込んでツイートするとバズるかもしれません。こうなってくるともう小説というより広告の技術に近いですね。

 

 

54.瑠璃 『BORDER LINE』

 こちらもネガティブな思考の発露なので、バズとは相性が悪かろうなぁと思います。生きづらさや世知辛さで共感を集めようにも、語り部がちょっと特殊なタイプなので、広く一般からは共感を得られそうにありません。叩きRT狙いということかもしれませんが、その場合はポエミーな要素が邪魔になりますね。ツイッターの人はあまり文字が読めないので、叩きRT稼ぎをするなら、それはそれで主張はシンプルに。

 生きろ、の一言が欲しかったのかもしれませんね。

 ツイッタでは批判されるタイプの内容だと思います。合法的に入手した薬であってもオーバードーズというのは一般的には倫理的に問題のある行為とされるものです。個人的にはこの作者の言う「好奇心」に大いに共感するし、また生きづらさから一時の避難所を得る行為を強烈に非難すべきとも思われません。ただ客観的には、人はこの小説に自己欺瞞と自己陶酔と人の迷惑を省みない身勝手さを見るでしょう。何が言いたいかというと、ODするときはきちんと用量を調べて、人に迷惑をかけずに、自分のことは自分で処理できるようにやりましょうということです。ODで注目を集めようなどというのはもってのほかです。

 

 

55.和泉眞弓 『買ってよかった二〇二〇』

 現代に転生した平安貴族が、雅な言葉づかいで現代の縮毛矯正グッズをレビューするというトンチキ具合が楽しい小説です。でも、やっぱりこの長さを平安貴族口調で走りきるのはそこそこ辛いのか、ちょいちょいわりと普通な文章になっちゃってるところが惜しい。「パナソニックナノケア」などの最新のカタカナと「ねじけたり」「わろき髪」などの平安言葉が、もっと高い密度で連発してたら、トンチキ具合がさらに加速して楽しそうです。レビューする商品がシャープだったら、シャープさんはツイッターでフットワークが軽いので、公式に拾われて数字が爆裂してたかもしれませんね。

 平安女子が現代に転生しても逃れられなかった縮れ毛という原罪と戦う話でした。面白かったです。淡々としていながら笑えるところが多く、読んでいて楽しかったです。ナノケアは全チリチリ民の救世主なのですね。この小説を読んで救われる紳士淑女がいることを願うばかりです。少し気になったのですが、パナソニックの回し者じゃないですよね?

 面白かったです。天然パーマで平安貴族の娘に生まれたらつらかっただろうなあというのは日本文学好きなら誰もが一度は思うところですが、それを現代転生ネタにしつつ「現代の価値観ならこの髪も美しい!」といった安易な展開につなげず必死に縮毛を繰り返す主人公の強い願いに圧倒されます。残念ながら私自身は軽くブローしただけで天使の輪が見えてくる直毛なので、ナノケアを買いたいとは思いませんでしたが。良作。

 

 

56.腰くじい太 『変なおじさん』

 どうやら下ネタとバズはそんなに相性良くないみたいですよ?(n回目) 授業中に勃起してしまうと困る、というのはまあ良いので(良くないが?)そこからどういう話になるのかな? と思ったら、特にどういう話になるわけでもなく、なんか唐突によく分からない親父ギャグみたいなのをぶつけられて終わりました。なんだったんでしょうか?

 申し訳ないですが、読んでいて加齢臭が凄かったです。こうはなるまい、という知見は得られました。

 居眠りして起きると勃起してるというのは男性にとっていかんともしがたい生理現象ですが、私はとてもまじめな生徒だったので学校で居眠りしたことが一度も、本当に一度もないんですね。なので、この作品にもちょっと共感が薄かったですね。まあ、なんというかそういう話です。

 

 

57.灰崎千尋 『人喰い鬼のはなし』

 序盤から中盤まで読み進めさせる牽引力はよかったのに、終盤でなんか「うん?」となってしまいました。鬼さん、普通に話せば分かるやつだし、言うほど狂ってもなくね? という感じだったので、たとえば、ありきたりですけど「少年にかつての自分の姿を重ねたのだ」みたいな描写があったほうが説得力が増したかも。

 望まず人食い鬼となった青年の話でした。いや、結局は嗜好的な話だったので、望んだ結果なのかな? 母親が自殺する原因を担ったせいで壊れた、という解釈もできますね。いずれにしても、特に可哀そうとは思えませんでした。物語が淡々とし過ぎているからかもしれません。最後は少年のために命を捧げたのですが、その展開も非常に淡々としており、よくわからないまま終わったな、という感想です。よくわかりませんでした。

 人の肉を食ってしまったがゆえに鬼になった男の話。人を食ったら鬼になる、というのは怪異譚の常道ですが、自ら死を選ぶ鬼というお話は珍しいかもしれません。ただ、本作では鬼があまりにも恬淡としており、冷静で客観的なことが物語の悲劇性を殺してしまっているように思われます。人を食ってでも、母を食ってでもしがみついた命であるからには、人を食うたびになおさらどんどん重くなってゆくものではないでしょうか。文章は整っていて読みやすいので、題材をもっと深く掘り下げていくと、よい作品になると思います。

 

 

58.秋永真琴 『十二月のある日のこと』

 バズコンに愚直に小説のちからのみで殴りかかるその心意気やよし!! オチのギミックは、ある程度以上の読書家であればなにかしらの先行事例が思い浮かびそうなやつで、そんなに凝ったものではないんですけれど、ツイの人たちはあんまり本を読んでないので(暴論)ありきたりかな? と思っても、臆せず使っていってもいいっぽい。小説としてのおかしみは別の部分でキッチリ提供していて、オチは言わば、話を畳むための「どっとはらい」みたいなものなので、こんなものでいいのでしょう。根本的に存在が異なる主体の思考回路の特殊さ、みたいなのが短い中でもきっちりと表現されていて、良いです。講評時点では、純然たる小説のちからで伸ばしたRT数としては最高記録になってます。勝てば官軍!

 不死者の主人公がコロナ禍真っただ中の人間社会をのんびり生きる話でした。それだけです。特に大きなイベントはありません。一応、主人公が最後に今日あったことを書き記しているので、序盤に繋がるループ構造になっています。ここだけ抽出すると退屈な話なのですが、シチュエーションが魅力的でした。誰もがコロナで大変な思いをしている時に、感染の恐怖もなく、のんびりとカフェで執筆作業をする不死者、憧れる設定かと思います。口にすると品性下劣ではあるものの、こういう薄暗い妄想をした人は多いのではないでしょうか? コロナ警察おじさんを軽くあしらう場面もスカっとポイントが高いですね。好きな人は好きな内容かと思います。私は好きじゃないです。

 コロナウィルス社会下でアンデッドの男が日記を書こうと思いいたる物語。このモチーフの設定がとても斬新で面白いと思いました。おそらくはいろんな戦争も、英雄の活躍も目にしてきたはずの不死者が、そういうものを見ても記録に残そうとは思わなかったのに、コロナウィルスに適応しようとする日常を何か面白いと感じて、初めて日記を書き始める。そういう「ズレているけど、私たちの中にも少しだけある感覚」をうまく捉えていると思います。良作。

 

 

59.水無月あめ 『ふたりしずむ』

 文章は端正で読みやすく、しっかりとした小説を書く地力のある方だと思いますが、ツイ小説というフィールドに適合するのはもうちょっと工夫が必要かなぁと思います。まず、やはり文字数が不足しているので、主人公の内面にしっかりと引き込むことができておらず、読者が置いてけぼりになってしまっていそう。そのわりに、情緒的な描写に限られた文字数の大部分を割いてしまっているので、結果的にぼんわりとした掴みどころのない印象になってしまっています。ツイ小説に適合するなら、ギュッと圧縮しつつ具体的な描写をしていくテクニックが必要。でも、このモチーフなら、もっと文字数を使ってしっかりとした短編に仕上げたほうが良いでしょう。

 不老不死の少女に対する思いが書かれた話でした。とても綺麗な話ではあるものの、目が滑りますね。序盤の女性的な容姿になりたいという主人公の気持ちは、後の展開にほとんど活かされておらず、不要だったかと思います。イサリとの関係性も取っ散らかっており、読んでいて前のめりになるほどの牽引力はありませんでした。綺麗な物語ではあるものの、まとめ切れていないな、というのが最終的な感想です。

 不死になった美しい乙女と美しい姿になりたいと願う男とが、同じときに死ぬ約束を交わすという、美しいモチーフの作品です。文体も古風ではありますが過度に装飾的でなく整っており、面白く読むことができました。作品としては、おそらく文字量の制限によるところかと思いますが、事実の上面を滑るようなところがあります。二人の内面や、その内面が形成される要因となるものごとにほとんど踏み込まないので、共感は得にくい構成です。挿入される歌も、その背景やそこに込められる二人の想いがほとんど描かれていないために、効果を発揮しきれていないようです。一万字くらいは確保して短編に仕上げるべき内容かと思われます。

 

 

60.あきかん 『0』

 なんですか?

 無。

 何も書かれていません。

 

 

61.一田和樹 『閲覧注意のビデオの主役がオレの弟だった件』

 やだな~、読みたくないな~って、すごく後回しにしてたんですけど、いやでも評議員だしな~、読まなきゃな~、あ~やだな~って思いながら仕方なく読んで、やっぱり嫌でした。まあでも、今回はおそらく文字数の都合でディティールは大幅にカットされていたので、一田さんにしてはライトなほうです。人の人相を喩えるのにスッとロベスピエールが出てくるあたりはいいですね。

 弟が男性型セクサロイドと行為する動画がポルノハブに流出した話でした。気持ち悪い話ですね。ポルノハブに流したのは結局誰だったのでしょうか? 母親がロボット工学の権威という設定が最後に出てきましたが、セクサロイドの開発者の一人なのですか? それとも全く関係ない人なのですか? 色々と疑問はあるものの、気持ち悪い話だったことだけが印象に残りました。二度は読みたくないですね。

 弟が出演してるAVをエロ動画サイトで見つける話。弟は童貞の柔道部員でロベスピエールに似てるということなんですが、ロベスピエールってそんな童貞の柔道部員みたいな顔だったっけ? と思って検索したら、どうもAFP通信の記事で2013年に3D画像で復元されたほうがそれっぽい感じでした。こっちのことなんですかね。肖像画だとわりと男前に描かれてたり童顔な雰囲気だったり、『ナポレオン 獅子の時代』で描かれた丸メガネの怪人の印象が強いのもありますし、ちょっとイメージと齟齬がありました。で、どうしてそんな微妙な人物を持ってきたかというと、最後のオチで我が家がベルサイユ宮殿と呼ばれている、とつながるわけなんですね。うーん、無理して引っ張り出すようなオチかなあ。ちょっと出だしから疑問になってしまって、素直に読めなかった部分があります。

 

 

62.かねどー 『ジョブスのいない12月』

 ツイッターをやっている人ならなんとなく知ってそうな、ツイッターミームを盛り込んだ近未来小説。ツイッター以外では読めなさそうだしウケなさそうだから、ツイッター小説だなぁという感じがして、これはこれで好きです。お金配りおじさん本位主義経済は面白いアイデア。ブリーフ判事はひと昔前のブームなので、今どれくらいの知名度があるのかなぁ? どうせなら、もっと今ホットな時事にフォーカスすれば、さらにひと伸びあったかも。

 ツイッターミームを多用したディストピアっぽい話でした。ぽい、というのは、何を書きたいのかが私にはよくわからなかったからです。とはいえ、作者的にはそれが狙いなのでしょう。荒唐無稽でわけがわからない作品を楽しめる人向けの内容です。私は楽しめませんでした。

 ツイッタという窓から見た世界、といったかんじの作品です。我々はそれぞれだいぶ異なる世界を見ているんだよなあと思いつつ、なおさらバズというのは大変むずかしいものだと痛感させられます。

 

 

63.姫路りしゅう 『ソーシャルカンバセーションサービス』

 1Pめを導入で消費してしまっているので掴みが弱いですね。文字数の大半を費やしているSCSの設定も「ツイッターがそのまま現実になった」で共有可能なので、もっと圧縮できると思います。そのへんはギュッと圧縮して「ツイッターがそのまま現実になったが故の独特なエピソード」のほうに文字数を割き具体的に重ねたほうが、おかしみを提供できたでしょう。広げた風呂敷のわりにこぢんまりとしてしまった印象。

 現実世界がツイッターのようになったSF世界の話です。発想自体は面白いのですが、身近な人とのコミュニケーション機会を完全に排除すると、利便性よりも不便さの方が明らかに上回ると思いました。これが自分の所属する環境そのものも自由に選べる設定ならわかるのですが、そこらへんは既存のままのようで、根暗キャラは根暗キャラと馬鹿にされ居場所が無い状態です。本人が認識できなくても、外部からは認識できる設定なわけで、一方的に笑い者になっていることを想像したら辛くないかな? と疑問に思いました。作中、この疑問を意識せずに済むほどの面白さは見つかりませんでした。

 ツイッタがそのまま現実世界にトレースされたような近未来を描くSF小説。リアルのコミュニケーションそのものがフォロー/フォロワー関係のみの情報交換に浸食されていくディストピア、というアイデアは面白く、期待感が膨らみます。なんですが、鍵アカウントに注目しちゃうのはちょっと些末なところに焦点を当てすぎた感じ。たぶんこのオチありきのネタなんだと思いますが、惜しいことにオチがそこまですごく面白いというものでもないので、設定の壮大さに対して話の広がりがものすごく早い段階で頭打ちになってしまっています。

 

 

64.292ki 『毒』

 自分が明確に、ただ他者を傷つけようと思って言葉を発していることを自覚して、愕然とする。これは広く共感を得られそうなところで、着目点は悪くないと思います。ただ、抽象的な独白だけではなかなかギュンと読者を引き寄せてくるところまではいけないので、できれば具体的、かつ多くの人が共感できそうな、いわゆる「あるあるネタ」があるともっと良かったかなぁ。あとやっぱり、ネガティブな感情の発露よりは、ポジティブな気分になるもののほうがRTは稼げるようです。

 止めようと思っても他者に悪意を持ってしまう人の話でした。嗜虐心が強いのでしょうね。自分の毒のせいで他人に殺されるかもしれないと危惧し、実際にそうなってしまったわけですから、よっぽどのものだったのでしょう。心のどこかで他人を傷つけることを望んでしまう、までなら少しは共感できたのですが、途中からは完全にこの主人公が特別嫌な奴だという話に変わってしまっていて、共感はどこかに飛んでいきました。後に残ったのは殺されるほど嫌な奴だったんだな、という感想だけでした。

 気づけば、人にかける言葉の中に「傷つけばいいのに」という気持ちを込めてしまっている。こうした経験がある人はけっこう多いのではないでしょうか。共感を得られるポイントだと思います。バズの種です。が、この作品ではちょっと変な方向に種が育ってしまいました。やはり人が聞きたいと思うのは、その自分の毒とどうやって向き合うか、自分の心に回りきって無意識に人に向けられるまでになってしまった毒をどう浄化していくかであって、死の瞬間まで毒づく主人公の呪詛ではないんじゃないかなあと。

 

 

65.sen_wind 『病床にて』

 キャプションと内容があまり関係ないので、うん? となりました。こういう夢を見たんだけど、これって予知夢かな? ってことですかね。ちょっとポイッと投げ出されちゃったような感じで、どういう読後感を持てばいいのか戸惑うので、ある程度自覚的に、読者の読後感をコントロールしようという意識を持ったほうが良いかと思います。基本的にはさわやかな気分とか、なにか開けていくような、ポジティブな気持ちにさせるものが伸びるようです。

 死に至る病との向き合い方の話です。時折、同情を悪くとらえる人が見られて、その気持ちもわかるのですが、私にはただ斜に構えているだけにしか思えません。そもそも人は共感の生き物です。私のお墓の前で泣かないでください程度の話はわかります。同情されることに対して憎悪に近い怒りまで感じるのは拗らせているだけにしか見えません。私を憐れむな、ではなく、私は精一杯生きた、なら共感できたと思います。

 最近、死んだあとのことについてよく考えるので、個人的にタイムリーな作品でした。この主人公が最後に思うのは「私を憐れむな」ということのようです。しかし、どうでしょうね。人によると思いますが、自分ならもっと死についていろいろ考えるなあと思いました。他人が自分をどう見るかよりも、目前に迫る死のほうがずっと重要な問題じゃないですかね? そんな解釈違いもあって、ちょっと本作はnot for meでした。

 

 

66.腰くじい太 『父に会ってきた話』

 えっと、分かりませんでした。いきなりm-floが出てくるのはちょっと面白かったです。

 既存の価値観に縛られたくないって話でしょうか? でも、そういう人ほど上っ面だけで中身は平凡ですよね。縦列駐車が苦手というオチは少しだけ微笑ましかったです。少しだけです。

 なんでしょう、実話風小説でしょうか。何か表現したいものがあったのか、それとも特に何もないのか。特に何もなくても、小説を書いていいと思います。でもそこから何かを受け取れる人はわずかでしょう。もし何か表現したいことがあったとしたら、どうやったらそれが人に伝わるかを、まずはじっくり考えてみるとよいと思います。

 

 

67.あぶてん 『お気持ちラップバトル Darkness Division』

 ラップバトルだって言ってるのに呼称が論客ではおかしくないですか? そこはラッパーでしょう。しかも、一向にラップしませんね。ラップしてくださいよ。この設定なら、そこが一番重要じゃないですか? 世界観とか設定もガバガバなのに、内容も設定の説明に終始していて物語がないので、その世界観に乗っかった、その世界観である必然性のある物語を描いてください。具体的な人物に関する、具体的なエピソードという意味です。

 問題解決手段にラップバトルが加わった世界の話です。が、設定だけで、ラップバトルの必要性どころか、実際の描写すらもありません。思いつきだけで書いた話ですね。フェミ VS アンチフェミに焦点を当てる意味も特に無かったかと思います。何のために書いた話だったのでしょうか。

 論争の代わりにラップバトルをするようになった世界の話、ということなのですが作中でラップバトルが展開されることは一度もなく、そんならラップバトルじゃなくてもいいじゃねーかとのツッコミを入れざるを得ない作品です。どういうことなんですかね? なんでラップバトルにしようと思ったの? タイトルにもなってるのに……ゴジラ対メカゴジラってタイトルでゴジラ出てこなかったらクレームですよ?

 

 

67.ももも 『グラウンド・ゼロにおける、ある男の記録』

 現状では導入とエンディングだけがあって、中身がなにもない歪な構造になってしまっているので、削るところは削って、書いていない部分を描いてください。冒頭の自己紹介部分は不要なので全カットで良いと思います。そのうえで、なるべく早く5Pめに到達し、そこから話を展開させてください。仔細に書いてみれば、自分でも書いているキャラに愛着がわいて、本気で「どうにかできないだろうか」と考えるものです。そこまでいけば、爆発オチ以外のなにかも思いつくかもしれません。

 未知の感染病によるパンデミックが発生した世界の話です。設定倒れですね。壮大な設定に対して、あまりに話が局地的かつ、なんのドラマ性もありません。これがリアルなんだ!と思っているのかもしれませんが、そもそも本当にリアルなのでしょうか? 何のために書かれた作品なのか理解できませんでした。

 ものすごく面白い導入から爆縮して終わってしまった作品です。舞台は病院、突如手から草が生えてきた患者、不用意に接触してしまい感染してしまった若き医師。もうこれからバイオハザードと医療の白熱の戦いが始まるのが目に見えるようです。だというのに、「尽力を尽くす」という変な重言とともにすさまじい勢いで物語のパワー、もしくは作者のやる気が萎えていき、ぱたりと突然死を迎えます。あなたは本当にこの物語を描き切るために尽力を尽くしましたか? 導入部分の期待感が大きかっただけに、残念感も大きくなってしまいました。

 

 

68.上村みなと 『ある先生について。』

 ひとりツイッター学級会って感じの作品ですね。小説的なTIPSとしては、ひとりの独白でああでもないこうでもないとウジウジさせるよりは、それぞれの立場を表象するキャラクターを立てて会話劇にしてしまったほうが、もっとそれらしくなると思います。「変わった先生像」が、具体的なエピソードによって語られているのはイメージがしやすくて良いです。わたし個人としては、この程度の尖り具合で「変わった教師」だなんてまったく思いませんし、衝撃も受けないだろうと思うので、内容にはあんまり共感はできなかったのですが、伸びている以上は伸びているなりの理由がなにかあるのでしょう。育った環境の違いかな? 学校の先生なんて、良くも悪くもそのへんのおじさんおばさんなので、まあいろいろいますよね。

 主人公が延々と高校生時代の先生に恨み事を述べる話でした。これ、読んでいて滅茶苦茶イライラしました。実際、作者さんもそれが目的のようなので、イライラした時点で私の敗北なのでしょう。負けました。とにかく、腹が立ちますね。自覚無き純粋悪という感じがします。自分が悪い、先生のせいではない、と何度も繰り返していましたが、言葉の端々から絶対に先生が全て悪いと思っているのが伝わってきました。自分が思い通りの人生を歩めなかったのは先生のせいだと心の底から恨んでいるのです。怖いですね。全く共感ができません。ホラーの領域です。ですが、全く荒唐無稽な話というわけでもなく、妙にリアリティがあり、それがイライラさせられる理由でした。とても良くできた作品だと思います。

 けっこう無茶なことを言ってるように思えますが、100RT、300Favということで、わりとたくさん共感する人がいるようです。バズのおもしろいところですね。これはつまるところ「私は歩きたいように歩いて何の障害物にもぶつからずにゴールしたかったのにできなかった。どうすればいいのか」と問うているように見えるんですが、それはそれとして人生においてなんらか障害物にぶつかる経験は誰もがしているので、そこが共感を呼ぶんでしょうか。ディズニーを否定されて傷ついた、でも先生のことを非難しているわけではありません、みたいな反感を煽るやり方もうまいなあという感じで、実にツイッタっぽい作品だと思いました。

 

 

69.一田和樹 『秘密のおばあちゃん』

 キャプションにある通りのよくある古典的な技なのですが、この短い分量でしっかりと伏線を張り、きっちり回収しているので、ショートショートとしての完成度は抜群に高いです。ただまあ、どれだけ綺麗にキマッても、うれしくないどんでん返しは読者はうれしくないので、RTに結び付かないのかもしれません。転落する方向のどんでん返しではなく、パッと明るく開けていくようなどんでん返しが同じくらい綺麗にキマれば、古典的な技でもバズるかも。

 ボケたおばあちゃんの話でした。おばあちゃんがボケて自分の家族構成を正常に認識できなくなっており、そのことが種明かしされることによって全容がわかるという構成です。綺麗な叙述トリックだったのですが、叙述トリックを見せるためだけの話でもあるため、心が動かされることはありませんでした。またオチが非常にわかりやすいので、叙述トリック自体への感動も薄かったです。これは小説コンテストです。綺麗なお手本が読みたいわけではないんですよ。同業者の綺麗なお手本でした、は一般読者との乖離を意味します。

 いわゆる叙述トリックですね。画像二枚のごく短い文章でいながら、必要なポイントを押さえてきれいにオチています。鏡を使った種明かしが見事ですね。一方で、話としては陰鬱な話で、ツイッタでこれが流れてきてRTするかというと、なかなかそういう気分になれる作品ではないと思います。やはりRTしてフォロワにも読んでもらおうと思わせるためには、もっと強烈な驚きか、何か幸せな気分になれるような仕掛けが必要なんだと思います。

 

 

70.槐 『雲を食べるドラゴンと雨乞いのお話』

 続きが気になったらRT→嫌いじゃないと思ったらRT→RTして頂けると嬉しいです、と、だんだん弱気になっていくキャプションが切ないですね。続きが気になったらRT、のほうが伸びるのではないか? という作戦だったようですが、現実は非情です。無念。わりと普通に小説を書いちゃってるので、削れるところは削って1ツイにまとめてしまったほうが、まだしも読まれたのではないでしょうか。分割するなら分割するで、毎回「マジで?」ってなるくらいの引きが必要になるでしょう。単純に分割するだけではデメリットのほうが大きいように思います。

 雨雲を食い荒らす悪い竜が調伏される話でした。丁寧に書かれている作品ではあるのですが、キャラクターと物語自体に特別な魅力が無いため、その丁寧さが逆にテンポの悪さに繋がっています。連載形式にしたのもRTを狙うには悪手だったかと。自信がありそうだったアクションシーンもあっさりしていて面白くもなく、キャプションによる煽り文句が空回りしていたな、というのが率直な感想です。

 ライトノベル風のバトルシーンと、エンディングパートとしての龍と人との交流を描くファンタジー。バトルシーンについては今回本職のうさぎさんがいるので、そちらにお任せするとして、本作では龍が害をなす存在でありながら、どこか憎めない無垢なキャラクターとして描かれており、親しみが持てます。そのキャラ付けが最後の和解とうまく調和して、さわやかな読後感でした。ただ、龍にかつて人間の友がいたらしいという話はやや取ってつけたようなかんじになっており、もう少し伏線を張るなど物語になじませる工夫が必要だったように思います。

 

 

71.ロッキン神経痛 『イマジナリー猫が癌で死にました』

 わたしもあまり詳しくはないのですが、精進料理は原則、殺生禁止なので「精進料理に出たお寿司」は変かもしれません。お通夜でお寿司が振る舞われたりすることはありますが、あれは精進料理とは言わないはずです、たぶん。話のほうは奇妙な味といった感じで、わたしはあんまり分かりませんでした。

 猫のイマジナリーフレンドに関する話でした。イマジナリーのはずなのに母親の葬式で喪主をやってくれたり、癌で死んだりと不思議な設定です。主人公の別人格か、実は籍を入れていないだけの父親なのかな? と考察してみましたが、そういうわけでもなく、ただただ不思議な話のようです。

 ハードな人生を生き抜くためにはねこが必要です。ねこを飼う余裕がないときは、自分の中にイマジナリーねこを飼いましょう。しかも本作に登場するのはしゃべるタイプのねこ。最高ですね。とはいえ、もしこのイマジナリー存在がねこでなかったとしたら? 死がちょっと唐突かもしれませんね。イマジナリー存在が死ぬってどういうこと? という疑問が解決されぬまま置き去りにされたところが気になりました。ねこでなければ致命傷だったかも。でも大丈夫。ねこなので。

 

 

72.あぶてん 『 もっと輝けキンタマキラキラ金曜日』

 キンタマって言ってるのに、ちんぽでチャンバラするのはおかしくないですか? キンタマでもないしキラキラでもないし、ちんぽフェンシングなので、コンセプチュアルな部分での煮詰めが足りないように思います。

 下ネタですね。下ネタ自体は嫌いじゃないんですが、そういうのは親しい仲で共有するから面白いのであって、コンテストの審査で読まされると嫌な気持ちにしかなりません。それでも笑える内容だったら認めざるを得ないのですが、この作品はキンタマキラキラ金曜日というインターネットミームを利用しているだけで、実際にはただチンポチャンバラをしているだけでした。残念ながら、下ネタのセンスは微塵も感じられませんでした。

 タリスカーというのはスコットランドのスカイ島にある蒸留所のウィスキーですね。私も好きでよく飲みます。島嶼部の蒸留所ならではの潮の香りをしっかりと持ちながら、甘味を感じさせるバランスのよい味わいを両立させているのが魅力です。それで、本作はキンタマキラキラ金曜日のはずなんですが、キラキラしているのはもっぱら棒のほうで玉のほうは付属物に押しやられているように思われます。これではキンタマでなくてもいいしなんならキラキラしていなくてもいいのではないかという話になってしまいます。もう少しモチーフの咀嚼が必要かなと思いました。

 

 

73.悠井すみれ 『整形クリニックのパンフレットを取り寄せたら施術例に同期がいた話』

 これはわたし、今回ルールでなければかなり評価が高かった作品です。んーと、つまり普通の小説として考えた場合、かなりわたし好みだということです。ラスト数行でもう一段階どんでん返しがあるのが良いですね。ただ、やっぱり二段階仕込みはツイ小説の規模では窮屈っぽいので、シンプルな一発どんでん返しのほうがツイッターではウケが良いかもしれません。

 タイトル通りの話でした。日本では親からもらった身体に傷をつけるのは良くないという社会通念があるため、美容整形に関して及び腰になる気持ちは理解できました。ただ、整形に迷う主人公と整形をした同期の話が流れるだけでは面白くなく、何を楽しめばいいかがわかりません。オチとしては結局整形したものの、誰も気が付かなかった、という展開なのですが、女性は化粧で顔が物凄く変わるため、目頭にメスを入れた程度ではよっぽど近くで見ない限り気が付かないのでは? という疑問がありました。シチュエーション的にウェディングドレスの方に目が行くのもあるかと。それとも、そういう笑い話なのでしょうか?よくわかりません。 

 結婚式という人生の一大イベントを前に美容整形を考える女性が、同級生の整形を偶然知ってしまったことで、「整形してよかったかどうか」を聞きたくなってしまうというお話。かなり繊細かつ切実な感情が語られており、引き込まれて読みました。整形してよかった、なぜなら整形したことで「誰も人の顔なんてそんなに見てない」と確信することができたから、というのは力強い言葉だなあと思います。一方で、バズという側面から見ると、主張が強い分これをRTするには勇気が必要になるでしょう。読後感としても、さわやかではありますが黒いものが残る終わり方で、一人でひっそり楽しむのに向いている作品かと。元来小説というのはそういうものであるように思いますが。

 

 

74.かねどー 『ルポ 裏垢女子』

 暇な女子大生という文字列は一般名詞ではなく固有名詞として認識される可能性が高いので、実在のアカウントをそのまま名指しでフィクションに使用することは法律的な部分だったりコンプライアンスてき、倫理てきなところで厳しいものがあると思います。ビル・ゲイツくらいのよっぽどの有名人ならまだしも、アルファ垢というのはものすごく微妙なラインで、採用には慎重になるべきでしょう。現状、バズッてないのでどうということもありませんが、まかりまちがってバズッちゃったら面倒なことになったりしないでしょうか。話の流れてきにも、完全にフィクションの方向に飛んでってしまっていますので、わざわざ実在のアカウント名を使用する必然性が感じられませんでした。

 裏垢女子が実は裏で管理されていた、という話でした。唐突ですね。その設定が明かされたところで、面白いとは思えませんでした。不条理系の話は嫌いではないのですが、あまりにも唐突だったり、そもそも物語の方向性がわからないと首を傾げるだけです。

 ツイッタで一時期流行った裏垢女子の中の人にインタビューをしたというルポルタージュ風のフィクションです。本作にも登場する暇な女子大生氏などは「膣ドカタ」「高学歴エリートのちんぽで優勝する」などのパワーワードでバズを量産した伝説的なアカウントです。しかし本作ではこうしたパワーワードは登場せず、裏垢女子を取材したはずがSF風の変な世界に突入していくという流れになっています。こういうところがやはり空想で処理してしまう弱さで、これだけ非現実的な方向にもっていってもなお、本人のほうがはるかに面白いこと言うだろうなと容易に想像できてしまうのが悲しいです。高い精度で本人をエミュれていればそれはそれで面白かったのではと思います。

 

 

75.山本アヒコ 『ゆりかごの白い世界』

 いわゆる叙述トリックでしょうか。読みながら自分がイメージしていた映像と、実際の出来事との間に乖離があって驚きはしたので、叙述トリックそのものは成功しているとは思うのですが、結局「で? どういうことなの?」となってしまって、その驚きをどう処理すればいいのか、どう驚けばいいのかが分からないという感じで困惑してしまいました。驚いてほしいところでは、もうちょっと「こういう風に驚くんですよ!」という風に、読者の読後感をコントロールできたほうが良いと思います。ちょっと不親切かも。

 ロボットが人間を管理している世界?の話でした。実はロボットが味方ではなく、人間の敵だったというオチですね。それ自体には小さな驚きはあったものの、だからどうしたんだ?という感想しか抱けません。マイナス面で驚かせるのは簡単です。どうせ驚かせるならプラス面で驚かせた方が読者を喜ばせられますよ。

 崩壊した世界でアンドロイドが子育てをする、という絵画的なイメージがおそらく最初にあり、それを描写しているのだろうなという印象を受けました。精緻な絵にするとそれだけで意図するところが伝わるかもしれません。小説という形で提示される内容としては、情報が断片的すぎるのと、そこから伝わってくるイメージにどうしても既視感を覚えてしまうところがあります。

 

 

76.アベトラ 『ダンジョンが片付くときめきの魔法』

 お話じたいは地味ながらもほっこり系のファンタジーとして成立しているのですが、いかんせんツイ小説というフォーマットでは文字数不足な感が否めませんね。ラストでストンと納得できるように設計すべきかと思いますが、現状では様々な設定が唐突にポコポコ出てくることになってしまっているので、ちょっと弱い。このプロットなら、もっと文字数を割いて短編の規模にしてしまったほうが良かったかも。掌編には掌編向きのプロットというのがあるので、そういうのを探したほうが話は早いです。

 他人のいらないものをエンターテイメント的手法で処分する人の話でした。ファンタジーです。断捨離士というのはなかなか新しいですね。が、新しい分、直感的に物語を伝えることができず、設定過多だった点は否めません。ツイッター小説とは相性が良くないですね。断捨離士独自の魅力を出し切れず、なんだかわからない内に終わったな、というのが読み終わった時の感想です。

 冒険者はダンジョンに潜るといらないアイテムも大量に持ち帰ってきてしまうもの。アイテム欄がごちゃごちゃになる経験は、ゲーマーなら多くの人が経験しているところかと思います。そこに断捨離士という職業を持ち込むアイデアは面白いと思いました。惜しいところとして、序盤でもう少し読者の興味を引くギミックを何かしら用意できるとよかったかなと思います。

 

 

77.hisano_se 『聖女の墜落』

 描写が極端に抽象的なので、文章でなにが表現されているのか、いまなにが起こっているのかを把握するのも困難です。カメラ(視点)が被写体から離れすぎているようなので、もっとキャラクターに寄って、出来事を具体的に描写したほうがいいいです。

 話が断片的過ぎて、どういう内容なのかを理解するのが困難です。物語を書くというのは、自分の頭の中にあるものを読者にも理解できるよう形にすることであり、この作品はそれができていません。物語未満です。

 かつて聖女と崇められていた女性が堕落してしまうお話、という理解でよいのでしょうか? 説明が極端にカットされており、状況を把握するのが困難でした。もしかすると、本当に神の声が聞こえる聖女だったけれど、神を否定する政治的な運動によって没落した結果、強かに生きていく別の力を身に着けたというようなお話だったのかもしれません。そうでないかもしれません。ここにある本文だけからでは、どんな物語なのかを読み取ることができません。読み手にまずは十分な情報を渡すことが必要だと思います。

 

 

78.イトリトーコ 『全日本サンタさん倶楽部』

 なんでしょう? なにやら異様にテンションが高いのですが、あまり板についていないというか、テンションが上滑りしてしまっている感が否めないです。特に冒頭がタルいので、勢いで押し切るなら押し切るで、このへんは全カットして、いきなりクライマックスな勢いで駆け抜けたほうがよかったかもしれません。この芸風でいくには肺活量不足かも。

 不条理系のコメディでした。この手の内容はどれだけ読者を冷静にさせず突っ走れるかが肝要なのですが、最初から設定過多かつ不要な情報が多過ぎて、流れに身を任せる前に拒否反応が出てしまいました。後は作業的に物語を読み終え、作業的に講評を書いています。書き終えました。

 珍しく中盤に勢いがあるタイプの作品です。最初は説明過多というか無駄に肩に力が入ったような語り口でうーんという感じだったのですが、コント形式になってからは勢いが出てきます。本領発揮というかんじですね。いい具合に肩があったまってきたなと思えてきたところで、しかしこのオチ。やりたかったことはもうやりきったからあとは適当に終わらせようと言わんばかりのふてぶてしい態度が個人的には逆に好ましく思えました。

 

 

79.有智子 『夜道に気をつけて』

 ローカルなテクニカルタームで表現するなら、いわゆる「コンダクター流水」てきなやつです。グルンと転調するまでのいや~なホラーてき表現はばっちり。コンダクター流水においては、じっくりと不穏な雰囲気を積みあげつつ、ドン☆ と転調して一気にクソバカ小説にシフトするのがセオリーなのですが、この作品の場合はキーアイテムが出現して世界観が反転してからも、語り部のテンションが一定の低めキープなので、転調がうまくいってないというか、読者だけが落とし穴に落とされてしまったような、突き放されてしまったみたいな、スキッと笑えない腑に落ちなさがありますね。コンダクター流水メソッドが全てではありませんが、意識してみてください。

 変な人に絡まれる話かと思ったら、とんでも霊能バトルでした。所謂KUSO小説ですね。馬鹿馬鹿しい話を真面目に書くのがKUSO小説です。本物川小説大賞でよく見られるジャンルです。序盤の稲川淳二っぽい語り口からの唐突な霊能バトルは面白く、ふふっと笑ってしまいました。リップクリーム型に収まった霊刀・伊佐美という20~25年以上前のセンスも馬鹿馬鹿しさを強調できていて良かったです。が、展開が唐突に変わって盛り上がってくるところで、だらだらとした自分語りとどうでもいい設定の羅列が続き、一気に醒めてしまいました。KUSO小説は読者を冷静にさせてしまっては負けです。冷静に読んだら馬鹿馬鹿しいだけの話なので、どちらかといえば不快な内容です。だから、KUSOなんです。一般人には正体を隠しているような設定なのに、Amazonで道具が買えるってどういうこと? 等設定的な粗も気になってきます。根本的な配慮が足りない作品でした。

 面白い作品でした。序盤、女性が夜道を歩いていると、後ろから怪しい男が近づいてくる。怖いと思いつつ足を速めてコンビニでやり過ごそうとするも、手前で声をかけられて、しかも言動が異常、これはやばい! と緊張感が高まったところで除霊アプリの流れは見事でした。アプリかよ。惜しむらくはアプリ出してから後のいろいろは蛇足かなと思われ、3枚目であっさり終わってしまったほうが後味がよろしかったかなと。

 

 

80.てふてふ 『売るほどの病を持って長生きし(第一回シルバー川柳から引用)』

 川柳や詩から発想の種を得るというのはショートショートを書くうえでの具体的メソッドとして有効っぽい。「売るほどの病」はアイデアの種としては良いでしょう。ただ、作品のほうはプロローグだけを見せられたような印象になってしまっているので、むしろ >「病」と「痛み」は売り買いされるようになった。 から先のストーリーを展開させてほしかったですね。似たような話として、乙一の『傷』があります。

 実際に病や怪我を交換できるようになる話でした。最初こそ思いやりあってこその話だったのに、金が絡むと途端に汚くなってしまいますね。新しい世界では金が無い若者が金のある老人の健康を支えるために生きています。あまり我々の世界と変わりませんね。そこに共感を抱きつつも、ありふれた話に落ち着いてしまったな、という肩透かし感もあります。これ、良い話で終わらせても良かったんじゃないでしょうか? 人の悪性に焦点を当てるのは誰にもできるので、かえって平凡で薄っぺらい話になってしまいがちなことは意識した方がいいです。

「痛いの痛いの飛んでいけ」と唱えると、相手の痛みを肩代わりできる。もしそんなおまじないが実際に効いてしまう世界だったら、どうなるだろうというお話。ただ、おそらく作者の発想は逆で、「病が売られるような社会ってどんなことがあったらそうなるだろう?」というところから逆に考えて思いついたアイデアなのだと思います。なので、最終的に行き着くところは病が売り買いされる社会なのですが、それがちょっと前段とうまく接続できておらず、むしろこちらはきっぱり捨ててしまったほうがよかったかもしれません。

 

 

81.Yuuki Shindo 『夢N夜。』

 文体が堅いので、その時点でツイッター小説としてはちょっとハードルが高そうですね。ゴージャスな文体で下劣なものを書くというのは純文方面の定番のカルチャーとして存在するんですけど、バズを狙いにいくとなると相性は悪いように思います。ウーマンコスモ! あたりの筆の乗りに対して、結末がこぢんまりとまとまってしまっているのも、ちょっと残念です。

 M嬢が見た夢の話です。夢の話なので脈絡が無く、また特に面白くもありません。夢から覚めて日常に戻った後の話も特にドラマ性は無く、全く興味も共感も持てていない状態で将来の夢を語られても困ります。かなり読むのが辛い作品でした。

 前段が夢で後段が現実という二段構えのお話。夢の中では暴力的な男をお仕置きして懲らしめる変身ヒロイン、しかし現実では男の暴力的な欲望を受け止めることでお金を得ている私、という矛盾がテーマでしょうか。小説としては、例えばここから実際になんらか現実で力を得て男を懲らしめる行為にはまり込んでいくとか、いろんな展開が考えられるかと思いますが、松屋牛めし食って終わってしまったのが残念です。もうひと展開ほしかった。

 

 

82.でかいさん 『( ^ω^)「引用RTした人にアダ名を付けるお!」』

 小説としての体裁を保ちながら、引用RTを稼ぐギミックも成立させるという工夫は評価できますが、あまり数字に繋がらなかったようなので、数字がすべてですね。バズれば官軍、死して屍拾うものなし。最低限、小説の体裁は守っているので、はるかなさんよりは傷が浅いでしょう。Vtuberとかが出てくる時代設定で( ^ω^)「付けるお!」は、ちょっとしんどいんじゃないでしょうか。

 引用RTを狙った小細工タイプの作品でした。一応物語も付属しているのですが、荒唐無稽で内容はあって無いものでした。1P目の( ^ω^)「引用RTした人にアダ名を付けるお!」が、この作品の全てだったかと思います。作中人物のようにフォロワーから愛されている人なら、フォロワーの範囲内で伸びた可能性もあったかもしれませんが、残念ながらそうではなかったことだけが可視化された悲しい作品でもありました。

 引用RTした人にあだ名をつけるアカウントが、有名Vtuberの過去を言い当てるようなあだ名をつけたのは偶然か必然か、そしてあだ名アカウント自身も消えてしまったのはなぜなのか。ミステリーの引きとしては面白い引きになっていると思います。ただ、引きだけで終わってしまっているので、ひぐらしみたいに種明かしまで予告できれば強いかなと思いました。

 

 

83.p 『いつまで誤魔化していけるだろう。』

 特にギミックもなく、表題の通りストロングゼロ飲みながら誤魔化し誤魔化しやっていっている話ですね。誰しもそういう感じで生きているものなので、幅広く共感を得られる内容だとは思いますが、バズるかというとそうでもなさそう。

 疲れたサラリーマンの話です。仕事疲れとストロングゼロで共感を得ようとしたようですが、駅のホームでストロングゼロを飲んでいるような登場人物には共感を持てませんね。居酒屋か自分の部屋で飲んでください。それすらも我慢できないのは、ただのアル中です。ただのアル中は見苦しいだけです。つまり、試みは失敗しています。

 日常の雑感ですね。特に何が起こるわけでもないんですが、衒いのない文体で、素直な気持ちで読むことができます。お話としては特に何も起こらずに終わってしまっているので、共感はできるけど共有するほどではない、という感じでしょうか。バズるにはもう一歩、踏み込んだ何かが必要なのだと思います。

 

 

84.ねおらー31 『バビ肉Vチューバー「悲しいことがありました」』

 タイトルの軽さに対して、本当に悲しいことやんけ、みたいなギャップを狙ったのでしょう。お話としてはもっと面白くなってもおかしくなさそうなのですが、期待したほどは面白くなかったですね。戦場の描写まで地獄の黙示録テンプレてきな感じでコミカルに描いてしまっているせいで、大してギャップが発生しなかったせいかもしれません。

 戦場とバビ肉おじさんの話でした。これ別に未来設定いらなかったですよね?紛争地帯の兵士や傭兵が裏ではバビ肉おじさんをやっているという話でも成り立つし、バーチャル技術も現代の範疇です。未来設定は全く活きていません。また、オチも流れ的に二代目であることをバラしちゃ駄目なのでは? バラさないよう努力しないと話が成り立たないのでは? という疑問があり、首を傾げるだけで終わってしまいました。

 戦場で命をかけるおっさんたちの癒しであるVtuber。しかしその中の人は、同じ戦場にいる戦友のひとりだったというお話。モチーフのギャップが面白いですね。展開のテンポもよく、スムースに物語が進んでいきます。ちゃんとオチもあって、しっかり起承転結してます。ただ、主題の突飛さに対してお話の筋がきれいにまとまってしまった感があり、もう少しはっちゃけた展開があってもいいかなと思いました。

 

 

85.大澤めぐみ 『わたしたちを見守るもの』

 主催者の渾身の一作ですが、バズりませんでしたね。もうなんもわからん(わっはっは)。まあ、バズらん人がいろいろと言っているだけなので、みんなあんまり気にしなくていいですよ。

 ヒモの男が寄生先の女に逃げられ、女が残した娘を育てる決心をするという話でした。冒頭から女の子が十二歳なので、疑似父娘というよりも、奇妙な同居人という傾向が強いですね。これが三歳ぐらいなら男の決意の重さが際立つのですが、十二歳だと変なこと考えていない?という気持ち悪さが先立ちました。実際、作中では成長した女の子に恋愛感情を抱いています。保護者として自分を律しようとはしているものの、やっぱり誠実さよりも気持ち悪さを感じてしまいますね。この時点で冒頭で抱いた期待は萎んでしまいました。しかも、主人公は途中で死んでしまい、現実世界にほとんど干渉できない霊となってしまいます。以降は干渉できない立場から女の子の人生を見守るのですが、これが何も面白くありません。というのも、主人公の死亡時点で女の子はほぼ大人であり、具体的に書かれたイベントは結婚と離婚だけだからです。主人公が生気を与えるような描写こそありましたが、それが女の子の人生にどこまで影響を与えたかも不明瞭で、私にはただの覗き魔のように思えましたラストのオチは老いて死んだ女の子が主人公と再会し、共に浮遊霊?となる展開なのですが、これまでが不明瞭なので大して感動できるわけもなく、読み終えた時には曖昧な何かが脳みそを通り抜けていきました。綺麗にまとまってはいたものの、見せてほしい部分を見せてもらえなかった事に対する不満が大きかった作品です。

 御大将の作品です。いつもの作風からするとかなりストレートに寄せてきてるなあという印象で、歩み寄りを感じてとてもいいですね。「守らなきゃなあ」というようなあいまいもことした観念に従って娘を守り続ける男が、自分の存在自体もあいまいになっていき、やがては娘と溶け合って守るべき対象も定かではなくなるという、筋立てにしてしまうと悲しい話なのですが、その残っている「守らなきゃなあ」という素朴な観念が私たち自身の中にもやはりあって共感の種となり、そこはかとない救いと善なるものを感じさせて終わるという仕掛けは見事です。でも100RTも行くとは思わなかったなあ。

 

 

86.蓮河近道 『じゃみじゃみ』

 タイトルも文字化けしてるのですが、再現できなかったので題名をじゃみじゃみとしています。文字化けというのは使い古された手法ではありますが、現実と地続きの不気味さを上手に演出できています。冒頭にあるツイッターIDを検索してみると、実際にレンガちゃんという鍵垢が存在していて、なかなか手が込んでいますね。ただ、今回は画像直貼りというレギュレーションのため、ハイパーリンクで1クリックで飛んだりはできないので、かなり敷居が高く、これはおまけのイースターエッグくらいの要素です。冒頭に一般には理解不能な文言がズラッと並んでいるのも、バズを狙いにいくにはマイナス要素でしょう。同じネタでも工夫次第でさらに伸ばせたように思います。

 神隠し? された友人に向けて帰還方法を画像で伝える話でした。アイディアは面白いのですが、アイディアが先行し過ぎて肝心のホラー部分の怖さが薄いですね。文字化けだけでは何も怖くありません。主人公が非常に淡々としているのも怖さが薄れる原因でした。とはいえ帰還方法を伝えるため、という体の作品なので、あまり物語を盛り込むことができなかったのだと思います。この淡々とした作品ですら、さっさと帰還方法だけ簡潔に伝えろよ、という突っ込みを抱かざるを得ませんでした。勢いで書くには不向きなアイディアかと思います。

  洒落怖っぽいお話。物語への引き込みから中盤で原因らしきものの解説、そしてオチへの流れが自然で無理がなく、面白く読むことができました。ストレスフリーに読めるのってすごく大事。とっても大事。あえて惜しいポイントを挙げるとすれば、文字化けってホラーの文脈では単なるエラーではなくて狂気の象徴みたいになってるところがあって、文字化けしてるってことはこれ送ってる人もちょっとヤバくなっちゃってるんじゃないかなって怖さがのっけからちょっとあるわけです。でも、このお話の中では文字化けは単に外からの助けをシャットアウトする役割しか与えられておらず、あくまで絶望感を与えられるのは「向こう側」にいる人だけなんですね。読者の立場はたぶん「こちら側」なので、「こちら側」に侵食してくるギミックを与えたほうが、恐怖感は強くなったかなあと思いました。

 

 

87.でかいさん 『私の外見の事で差別を受けてとても悲しい思いをしたので報告します。お時間がある人は読んで頂けると幸いです』

 もはや定番のお気持ち構文ネタですね。そこまで意外性もなかったので、もっとコンパクトに画像4枚1ツイにまとめたほうがよかったでしょう。後発のお気持ち構文ネタで滑るとつらさが加速するので、こういうのはスタートダッシュで出してしまったほうが、まだ傷が浅いです。

 お気持ち構文を利用した宇宙規模での差別の話でした。二作目も小細工タイプですね。お気持ち構文を利用するのは構わないのですが、高校二年生の女子高生という設定の時点で胡散臭さが凄かったです。実はスペースワイドな話だった、というネタ晴らしに辿り着く前に興醒めしてしまいました。読者感情をコントロールできないままどんでん返しをしても滑るだけです。オチ自体も特に目新しさはなかったので、全体的に練りが足りない作品でした。

 地球代表として宇宙の人たちと交流するお話。一種の叙述トリックで、「世界」という言葉が地球ではなく宇宙全体にかかっているということがラストでわかるというギミックになっています。また、地球人のありふれた外見が差別の対象になるという点は、現代の社会における差別問題を相対化するようなところがあり、一種の社会批判にもなっているようです。仕掛けとしては面白いし、よく書けているのですが、アイデア自体の衝撃度というか、インパクトが弱かったかなと思います。社会批判自体も言ってしまえばごく普通な内容なので、もう一歩踏み込んで、読者に新鮮な驚きを与えるようなところを目指してほしいと思います。

 

 

88.芹沢政信 『おにぎりの中におじさんがいた』

 二段組だったからでしょうか。画像4枚1ツイにも関わらず、読んでてすごく疲れました。普通に小説を書いてしまっている感じで、スナック感覚でなんらかの情動を得たいツイ小説とは、ちょっと相性が悪いように思います。『おにぎりの中におじさんがいる』というシチェーションも、文体が文体なだけに、たんにナンセンスギャグとして笑えばいいのか、それともなんらかの意味あるメタファーとして真摯に解釈すべきなのか、この作品をどう受け止めればいいのか、読者の立場からすると戸惑ってしまいますね。ギャグならギャグで「ギャグで~す!」というノリでいてくれたほうが、分かりやすいです。

 おにぎりの中にいたおじさんに人生を変えられた青年の話でした。ナンセンスギャグですね。全体を通しておにぎりだけを主題材に物語を作ったのは見事かと思います。ですが、この手のナンセンスギャグは好きな人の方が稀であるため、バズとは相性が悪いですね。おにぎりの中におじさんがいたという設定も、衛生意識が強い日本人には嫌悪の対象でしかありません。汚いです。

 おにぎりの中におじさんがいるという不思議な体験、そして時がたちベトナムで出会った女の子が持つ父との写真でそのおじさんと再会する、という流れは突飛でありながら意外なところでの伏線回収が仕掛けられており、見事です。とはいえよく知った相手でもあり、ほめてばかりだと身内びいきだと言われかねませんから、あえて厳しいことを言うと、村上春樹文体模写には全然愛が感じられず、小手先でやってる感が否めませんでした。プロの作家なんだからそこはもっと気合を入れてほしかった。あと最後に子供が義父を食ってしまうところは、もうちょっと気持ちのよいオチにしてほしかったなと思いました。

 

 

89.ボンゴレ☆ビガンゴ 『ガチ恋したVtuberの素顔がブスだと知って「殺す」とか言い出した先輩の話。』

 ビガンゴくんってこういう作風でしたっけ? 平山夢明てきな生々しい暴力描写ですが、付け焼刃っぽくもなく馴染んでいるので、こっち系の作風にも適性はあるようです。わたしは好きなんですけど、まあバズとは相性悪いでしょう。なんでわざわざ今回のルールでこれを採用してきたのかは謎です。露悪趣味だけじゃなく、驚きとか納得とか、読者になんらかの価値を提供することを意識しましょう。

 キャプション通りの話でした。非常に露悪的な内容で、私は好きになれなかったです。とはいえ、読んだ人を嫌な気持ちにさせてやろう、という明確な意思は感じられたので、望んだ作品は書けたのでしょう。設定はお粗末で、住所特定をするのに必要な能力を勘違いしているし、収益化が通るほどのVチューバーの中身が変わっても誰も気が付かないなど根本的に作者の知識と想像力が足りていません。実際に住所特定された人、収益化できなければスパチャはもらえない等、調べればわかることを調べないのは問題です。リアリティは皆無でした。また、実際にVチューバー活動をしている大澤めぐみに対して、これをぶつけられる浅はかさと品性の欠如にも眉を顰めてしまいます。悪意ある作品に対しては相応の評価を出さざるを得ません。総じて薄っぺらい作品でした。

 人気のVtuberをブスだからという理由で殺して山に埋めて乗っ取るお話。ちょっと叙述トリックっぽい要素も入っていて、中盤になって語り手が「先輩」の彼女だとわかると嫌悪感倍プッシュという仕掛けになっています。この作品自体はすごくよくできてるってほどでもないんですが、こう、なんというかビガンゴくんは露悪的なやつがうまいですね。嫌なかんじで真に迫るところがあるように思います。こっち方面でちゃんとしたのを書いてくれたら絶対読みたいなと思いました。個人的には好きな作品です。

 

 

90.和泉眞弓 『告げ口~公務員バッシングの果て』

 ホットな時事問題を扱う以上は高度な理論武装が必要になるのですが、ちょっと脆弱ですね。センシティブな話題をテーマに据える以上は筆者にもそれなりの覚悟が求められるはずなのですが、あまりそういった真摯さが感じ取れません。スナック感覚でバズの種に消費してしまっていいトピックではないと思います。

 仕事に耐えられなくなった公務員が自殺を決意する話でした。これは良くないですね。伝えたいことはわかるのですが、おまえらが責めるから自殺する公務員も出るんだぞ! というまとめ方には反感しかありません。コロナ禍で頑張っている人は誰もが報われるべきです。そのために思いやりを持つことは大切です。公務員だからといって意味も無く叩いていいわけがありません。が、この物語を読んで感じることは、そもそも組織の問題では? ということでした。バッシングがあるから組織が悪くなるのではなく、そもそも組織が腐敗しているからバッシングが起き、また上がアホだから取り合わなくてもいいクレームを真に受けて実際に働いている者たちに皺寄せが起こるわけで、これは全て組織の問題です。組織が腐敗しているから自殺者も出るのは公務員以外も同じであり、いつだって苦しむのは下の者たちです。たしかに同情はできるものの、バッシングの果ての自殺、というまとめ方には首を傾げました。この恣意的かつ露悪的な内容でコンテストに参加しているからRTお願いします! という厚顔無恥なキャプションもまた好きになれませんね。嫌いです。

 今回、ツイッタという場の性質によるところですが、ノンフィクションとフィクションの間を取った作品が多く見受けられます。本作も真実めかした公務員の告発文書的な内容となっています。実際のところコロナ禍での業務圧迫は相当なものがあると思われますが、こういう告発は真実性が前提なので、小説の体にしてしまうと根本の部分で齟齬をきたしてしまうように思われます。そうした意味で、小説ならではの工夫がもう一歩ほしかったと思います。

 

 

91.乙野二郎 『おじさんになりたい。』

 オチで(泣)はいくらなんでもないんじゃないでしょうか。実のところもう中身はオッサンであるみたいな高度などんでん返しでしょうか? 本文はウザい女のウザい自己紹介に終始していて、なにも話が始まっていません。綺麗でこまるわ~はせいぜい数行に収めて、そこから物語を始めてください。

 美しくモテる女子大生が、もう男に付きまとわれたくないからおじさんになりたいと嘆く話でした。非常に鼻につく主人公ですね。あまりもの徹底ぶりには笑ってしまいました。ひたすら自分を自画自賛し、自由に生きられるおじさんを乏しめ、そんな劣った存在だったら楽に生きられたのになぁ~と嘆く流れには苛立つばかりでした。ミサワみたいな女ですね。ギャグ時空のキャラクターです。だから笑いはしたのですが、これを他人と共有したいかと問われるとNOですね。ミサワは一枚絵で苛立ちと面白さが両立しているから良いのであって、文字を読む労力が掛かる小説では面白さよりも不快さが上回ってしまいます。不快でした。

 おじさんになりたい女性の話ということで、モチーフが面白いと思い、期待して読み始めました。が、おじさんの話は冒頭のちょっとだけで終了。あとはひたすらよくあるまなざし村的な話になってしまいました。いやー、それならおじさんじゃなくてもいいじゃん。おれが聞きたいのはおまえの自虐風自慢じゃなくておじさんになりたいという熱い想いなんだよ。何が嫌いかじゃなくて何が好きかで自分を語れよ、みたいな気持ちになりました。

 

 

92.ロッキン神経痛 『オタサーの白雪姫』

 オタサーの白雪姫と言われるだけで「ああ小人7名のオタサーに白雪姫が入ってきたんだな」とすんなり理解できます。おとぎ話からモチーフを借りてくることで、少ない文字数の中でもキャラクター同士の関係性を明示できるので、この手法は定番ですがツイ小説との相性は抜群ですね。企画への理解度は非常に高かったと思います。内容的にはありきたりですが、いい話だなぁ(そうか?)という読後感でまとめているところも、RTを促すには悪くありません。あとは細かいことを考えるより、試行回数でそのうちバズりそうです。回していけ!

 オタサーの姫サークルクラッシュされたオタクたちの話でした。最初こそ何だかんだで姫とやれたんだからいいだろ、と冷めた気持ちで読んでいたのですが、最後の最後で実は主人公だけがヤレなかったというオチには笑ってしまいました。可哀そうですね。可哀そうだから他のヤレた仲間たちが途端に優しさマウントを取ってくる流れも面白かったです。ただ、非常に汚い話なので、これがバズることはないでしょう。発想がセクハラをするオッサンです。

 面白いですね。序盤、中盤、終盤、隙がないよね。でもネタ選びに性格の悪さが出てしまっていると思います。普通の人は白雪姫のこと「こいつオタサーの姫じゃん」ってナチュラルに思ったりしないんじゃないかな。それにほかの小人たちの描写にも悪意がたっぷりこめられていて、んー、好き!

 

 

93.神崎ひなた 『#ホログラフィックピクチュアリー』

 なんでしょう? よく分かりませんでした。純文学てきななにかなのでしょうか? わたしに感性が不足しているだけかもしれません。

 意識が高いようで意識が低い話でした。個人のインターネットなんてそんなものですね。だからどうした。

 宇宙物理学の用語で「ホログラフィック原理」というものがあります。我々が存在しているこの三次元空間は、ホログラムのように面に投影された二次元境界面に定義される別の物理法則で完全に記述することが可能で、宇宙というのはそうした一枚のホログラムのように理解することが可能だという理論です。この理論のもとでは、空間領域のエントロピー(情報量)はその体積でなく表面積に由来するとされ、ブラックホールに吸い込まれた物質のエントロピーは物質がその体積を失ってもブラックホール中のいわゆる事象の地平面において保存され、熱力学第二法則は破れない、ということになるようです。ここからこの作品を解釈すると、おそらくは語り手の体験がブラックホールであり、インターネットの事物は体験を通過して消えてしまうように見えるが、その実、ホログラム画像(ホログラフィックピクチュアリー)としてブラックホールであるところの語り手の内側に平たく保存されている、そして時折それが語り手の意識の上に表出する、というイメージなのではないでしょうか。詩的で郷愁のあるイメージだと思いますし、宇宙物理学の晦渋な理論をインターネット体験の比喩として置換してきちんと成立しているのはすごいと思います。まあしかし、これをツイッタで伝えるのはちょっと難しいんじゃないでしょうか。小説としてはかなり舌足らずな印象です。1万字くらいの短編にすると面白いかもしれません。

 

 

94.猫蚕 『Hard To Explain』 

 ジャンルとしては、いわゆる日常の謎で、ツイ小説規模の小説とは相性が良いですね。真相(仮)については説得力があるので、謎の設定じたいは悪くないと思うのですが、このジャンルは推理の過程も大事なので、話を聞いた時点ですぐに「真相は想像がつく」のはストンといきすぎてる感じ。これで一件落着かと思いきやもうひとツイストあるのも良いのですが、それがあるせいで一気にいろいろな部分が腑に落ちなくなって、間取りや位置関係などが説明不足に陥っているのは難点です。ひとつ目の謎は簡単に説明がついたので、ここがなにかしら Hard To Explain なんだとは思いますが、ホラーなんでしょうか? それとも、また別の事件?

 日常ミステリーかと思ったら、本当の心霊現象だったという話でした。実際に心霊現象だったかは定かではありませんが、私はそのように解釈して読みました。綺麗な構成と話運びだったかと思います。ただの日常ミステリーではオチが弱く肩透かしなところを、やっぱり心霊現象だったという捻りを加えることで話に深みが加わっていました。ただ、物語としての面白さは薄く、読者へのフックも無いため、バズるのは難しいかと思います。

 いつもおっさんが佇んでいる窓、なんだろうと思って見に行ったらそこにはトイレがあって、なーんだただ小便してるだけだったかと思ったら女子トイレでした! という内容。うーん、いわゆる二段オチですが、一段目のオチがなーんだという感じなのに対して二段目のオチの落差があまりなくて、すっきりしない終わり方になっているように思います。文章自体は整っていて読みやすいので、もっとガツンとパンチの効いた展開が用意できると一気に作品の質があがるかなと思います。

 

 

95.猫蚕 『Teddy Picker』

 画像4枚つかってキャラ紹介をしました、という感じで、物語にはなってないですね。本来であればここからなにかが展開していく導入ということになるのでしょうけれど、これだけで人の興味を引けるかというと微妙です。

 超能力少女が人を殺して眼球を集めているという話でした。超能力少女が楽しく暴れるのは良いですが、ただ暴れて最後には賢者モードになっているだけでは読者も楽しみようがありません。頭空っぽにすれば何でも受け入れられるというわけではないのです。こういう女の子が好みであるなら、その魅力を読者に伝えられる内容を考えるのが物語を書くということなんですよ。

 人の目玉を取り出すことに執着する猟奇殺人鬼のお話。漫画の導入のような勢いのある殺人描写と、少女の異常性にフォーカスした日常パートで、まさにこれからお話が始まっていくんだろうなあという導入部のワクワクがうまく表現できていると思います。しかし導入部で終わってしまっているので、これだけ読むと読者としては消化不良です。魅力のある捜査官や探偵キャラと対決するような短編に仕上げることができれば面白いなと思いました。

 

 

96.帆多丁 『インターネット妖精さんへ丸山からのお願い』

 物語の導入部分がこなれていて、地の物書きスキルの高さが伺えます。これが通常の小説であればわたしはプラス評価をしたと思うのですが、ツイ小説ではかったるいので全部カットしてしまいましょう(無慈悲)。文字数の大半を「丸山がインターネットの妖精さんの実在を仕方なく受け入れる」までに費やしてしまっているのですが、実際に話が動き出すのは「私に何をして欲しい?」からなので、ここまでを3行くらいに収めるべきです。そうなると、あっという間に話が終わってしまいますね。中身がないわけです。雰囲気は悪くないので、中身を詰めましょう。

 突然インターネットの妖精に絡まれた人の話でした。妖精と主人公のやり取りがメインで、そこに面白さを見いだせないと辛い作品です。私は合わなかったので辛かったです。オチがよくわからないんですよね。主人公が経験したのは本当で、そのためにイラストデザインをイラストレーターにふざけた価格で頼んでいるのか、それともふざけた価格で頼むためにふざけた嘘の前置きをしたふざけた糞野郎だったのか、いずれにしてもイラストレーターに糞価格で依頼を頼む糞野郎というオチだったかと思います。RTはしたくならないですね。

 突如丸山の前に現れた、インターネット上の通信の内容を書き換えることができる謎の妖精。妖精は丸山の力になりたいと言い、なんでも願いをかなえてあげるという。丸山は仕事柄ネットワーク技術に詳しく、できることならこの妖精の力を穏便に平和的に無効化したいと考えるが……という、よくありそうな設定ながらネットワーク技術の背景が深みを持たせており、かなり魅力的な導入でした。惜しむらくは、オチで完全に力尽きてしまっており、話がまとまらないまま終わってしまっていること。もう少し長さのある短編小説にして、なんらかインターネットで悪さをする連中をやっつけるみたいな流れにすると、すごく面白い小説ができそうだなと思いました。

 

 

97.武州の念者 『鮫の六時間』

 鮫のことは忘れろ。

 は?

 また鮫映画の話です。鮫映画には詳しくないんですが、こうも鮫映画だけで押してこられると、さすがに押し付けられ感があるというか、もっと歩み寄ってくれよという感じがしますね。

 

 

98.不死身バンシィ 『宇宙近傍小惑猫ミケラ』

 宇宙を周遊する小惑星にそれぞれ猫が乗っかっている、というイメージは綺麗で、絵的にも悪くないと思うのですが、率直に言うと無難に置きにいったなぁという印象。お母さんの「あいきゃんすぴーくいんぐりっしゅ!」が全体での最大風速ポイントになってしまっています。ここからどんどん速を上げていってほしいところで急速に失速して、ポンと置かれちゃった感じ。ダダ滑りを恐れず、もっとはっちゃけましょう。

 小惑星から家で飼っている猫が発見されたという話でした。発想はユニークで面白いのですが、猫と小惑星を関連付ける話が思いつかなかったようで、ただテレポートしてどこにでも存在できるという設定になっていました。本当に小惑星が大気圏突入する際のエネルギーが必要なら、地球に到着後はテレポートができませんよね? そもそも小惑星が現に地球に落ちてきている状態で地球にテレポートという言い回しはおかしいのではないでしょうか? テレポートするまでもなく地球に着きます。この話、猫と小惑星をそこまで結びつける設定ってあります?最初に小惑星から見つかったというだけで、あとは全て人間側の無理やりなこじつけでしかありませんでした。単純に小惑星の一部が猫という宇宙人の宇宙船である、という設定の方がスッキリしていたかと思います。凝った設定を考えたものの、実は矛盾だらけで本筋の面白さをボカしてしまうというのは、初心者にありがちなミスでした。ですが、執筆歴5年は初心者ではありません。甘えを捨て気を引き締めましょう。

 今話題のはやぶさ2、そしてインターネットの神であるところのねこ。あからさまなまでにバズを狙ってきましたね。しかも発見された小惑星にうちのねこがいましたというなかなか尖った導入。しかしなんというか、中身を読み進めるとねこの話でも小惑星の話でもなく、何が起こったのかよくわからないままねこは家に帰ってきており、なんだかわからないままお話が終わります。ネタ選びの段階で全力を使い果たしてしまった感があります。RTをいただくためには、やはりネタだけでなく中盤、終盤の仕上げも大事だなと感じさせる作品でした。

 

 

99.偽教授 『レン君とメイねーちゃん』

 バズってみようという企画で、まず一定以上にバズってないと盛り上がりが期待できない読者参加型企画は、なかなか難しいのではないでしょうか? 「希望する次の話の展開」を送れというのも、自由度が高すぎて逆に参入のハードルが高いように思います。アンケート機能を利用した4択くらいまで絞ったほうが、まだしも参加者を稼げたのではないかと思います。

 彼氏の弟と不思議な部屋に閉じ込められた女子高生がエッチなことをしてバズを目指すという話でした。頑張ってオネショタを書こうとした点は評価しますが、連載方式かつ読者参加型企画にしたのは明らかに悪手でした。無駄に話が長くなっただけですね。キャプションの煽りや参加してほしいという訴えも空回っていたかと思います。観測した範囲だとほぼ無風状態だったので、胸が痛くなりました。

 読者に次の展開を決めさせるという読者参加型の企画もののようです。壮大な試みですね。その試みがうまくいったかどうかはともかく、彼氏の弟と脱出不能な部屋の中に閉じ込められたというシチュエーションで、エロ方面を期待させる展開というのはちょっと複雑ですが悪くないように思いました。しかしながら、エロは描写が命です。この文章から漂ってくるのは「エロなんてこんなもんだろ」という侮りと、そこはかとない加齢臭。私もカクヨムでエロ小説を書いて一応10万PVを達成したので上から言っちゃいますが、これではいけません。頑張って最後まで読みましたが、長い分だけ評価が下がる結果となりました。

 

 

100.イトリトーコ 『降塵の王国』

 イトリさんの本領発揮といった風情のポエティックで流麗な文章なのですが、これをツイッターに流して多くの人が読んでくれるかというと、ちょっと疑問です。もっとポップにチューニングしたほうが良いでしょう。わたしはかなり好意的にイトリさんの文章を読むほうだと思いますが、それでもこの作品は過度に抽象的で、物語を拾いあげることが困難だったので、自身の持ち味を維持しつつ、ポップにエンターテイメントに仕上げるバランス感覚を意識してください。

 よくわからないポエムでした。これを読んでRTしたくなる人は稀でしょう。万人が楽しめる物語を書けとはいいませんが、読んでもポエムの奥にある物語を読み解くのが困難なのは流石に尖り過ぎです。通常レギュレーションでも評価しづらい作品ですね。読者はあなたではないことを忘れないでください。

 意味を成立させて浮上していく思考と、意味をなさず落ちて降り積もっていく思考の欠片があり、欠片の降り積もった場所に地平が生まれ王国となるというお話。というかほとんど散文詩です。浮上する意味と降り積もる意味の欠片というイメージはたいへん美しく、また奥深いものを感じさせますが、地平にいる女王は観念的に過ぎてその価値がよくわかりませんでした。血を流しているというのも、何のための血なのかよくわからず、押し付け感があります。やはり降り積もった意味の欠片になんらか人格を持たせて共感させるようなエピソードが必要かと思われます。

 

 

101.やごひさはる 『望まない出産の話』

 すごく攻撃的なので、極一部の人の共感を得られる可能性はなくもないかもしれませんが、広くRTされるかというと甚だ疑問です。主張としても、あちこちで空中分解してしまっている感が否めません。まあ、人それぞれいろいろとありますよね。

 出産に対してずっと文句を言う話でした。ラストで実は文句を言っていたのが赤ちゃんという叙述トリックなのかと思ったのですが、それにしてはやたらとオタク知識豊富なので首を傾げてしまいました。輪廻転生した人の話でしょうか? それとも叙述トリックなんて無くて、そのままの話なのでしょうか? どちらにしても独り善がりな部分が大きくて好きになれないですね。

 語り手が実は母親の胎内にいる赤ん坊でしたという叙述トリックでしょうか。ちょっと説明が足らず、オチがどういうことなのかよくわかりません。反出生主義というのがちょっと前に流行りましたが、そういう議論の水準でもないようです。テーマの攻撃性に対して焦点がぼやけてしまっているようです。もう少し論点を絞って深掘りしたほうが、読者の感情を動かしやすいと思います。

 

 

102.ネルソン 『傲慢と偏見とラップ』

 M性感の嬢のところにラッパーの元カレが客としてやってきたところから始まる全裸ラップバトル! って感じの完全なバカ小説なのですが、キャプションが不親切なのとタイトルの偏差値が無駄に高いせいで間口を狭めてしまっているように思います。バカ小説ならバカ小説で、もっと一目で「バカでーす!」と分かるようにしておいたほうが、対象読者に届くかもしれません。バカ小説を求める読者はバカなわけですから、偏差値を下げていきましょう。

 S嬢の店にラッパーの元カレがやってくる話でした。最初は野暮ったかったですが、ラッパーらしい韻を踏んだ口喧嘩は面白かったです。ふふふと笑えました。オチの決め台詞も良かったかと。馬鹿馬鹿しくも笑える応酬がメインだったので、序盤のテンポの悪さが本当に残念ですね。文字数を割く部分を間違えています。

 いやあ苦手なんですよね、日本語ラップ。昔の上司がラッパーで。つらい思い出しかないですね。風俗嬢が客として訪れたラッパーの元カレとラップバトルするっていうシチュエーションは面白いですが、そのラップの内容に年齢を感じてなおのことキツイ。ラップバトルというよりダジャレ合戦みたいになってる。キツイ。すみません、特にフォローはありません。

 

 

103.水無月あめ 『口は災いの元』

 不条理系の小説かと思いきや、ラストであれ? とはなるんですけど、つまりどういうことだったのかは、わたしはよく分かりませんでした。分類としては、奇妙な味、てきなものになるのかな? なんらかの意味あるメタファーとしてこの現象を据えているのかもしれませんが、それならそれで、もうちょっと伝わるくらいに調整したほうがいいかも。本当に困ったときにはグーグル検索が本当に役に立たないのは、リアリティあってフフッとなりました。

  朝起きたら口が無くなっていた人の話でした。これ、実際には口があるんだけど、精神的な問題で自分では認識できない状態なのでしょうか? 口が無いのに喋れるのも不思議ですし、いくらなんでもネット会議でバレないのはありえないかと。終盤、普通に水を飲んでいたり、衰弱しているような描写も見られたので、肉体ではなく精神が変わったというオチなのかな? と考察したのですが、真実はわかりません。いずれにせよ、楽しみ方がわからない話でした。

 口がなくなってしまいました、というのは面白いシチュエーションですが、普通に考えると絶望的すぎて扱いに困る内容です。食事どころか水も飲めません。しかし本作ではとりあえずそういう面倒なことは置いておいて、食事はとらなくてもよくなるし声も出せるようです。でも水は飲むみたい。ちょっとこの辺の設定がよく呑み込めないのが本作の難点です。おそらくはマスクのメタファーなのだと思いますし、「口が無くなる」という状況はショッキングなので、もう少し状況をはっきりさせて主張したいことを言語化できると、共感を呼べるかもしれないなと思いました。 

 

 

104.ラーさん 『バズったら宣伝してもいいと聞いたので』

 今回わりといますね。「バズがテーマです」と言ったら、バズる小説じゃなくてバズの小説を書いちゃう人。内容てきにはフフッて感じで微笑ましくて悪くはないんですけど、OK牧場はさすがにどうなんでしょうか? 同じ話の筋でも、ツイのすべてに「秀逸なレス」てきな良さがあれば、もっと完成度が高いと思います。

 バズったツイートで告白をする話でした。展開的には微笑ましくて悪くないのですが、やり取りにウィットが見られないですね。それが高校生らしいという考え方なのかもしれませんが、私には手抜きのようにしか思えませんでした。高校生でも上手いこと言える人はいるので。なにより、高校生のやり取りにしては、OK牧場とか加齢臭が際立っています。残念ながら、こういうのでいいんだよ、には達していませんね。読者のセーフラインを甘く見積もり過ぎです。

 まあなんというか、「こういうのでいいんだよ」的な作品っていうのは簡単に見えてすごく難しいんだなってかんじです。バズったツイートのリプ欄で告白、それが成功してさらにバズるって筋書自体は悪くないんですが、いたるところで素材の処理が苦しい。みんな突っ込むところだと思いますが、いくらなんでもOK牧場はねえだろと。クオリティが上がり切ればバズる可能性のある素材だと思います。

 

 

105.p 『マナちゃんのお味噌汁』

 リプでツリーを繋げられることを利用した、同じ場面のA side / B sideを描いた作品です。作品の形態がツイの仕様にばっちりとハマッていて、とても良いです。1ツイめと2ツイめで背景色を変えるなど、分かりやすさに配慮した気遣いもアド。2段どんでん返が上手にキマッていますし、オチも「よかったなぁ」という読後感を残すものなので、RTを促せると思います。A side /B sideを読ませる作品は、あまり長いと同じ場面を見せられる苦痛のほうが上回るので、規模としてもこれくらいがちょうど良いでしょう。これ、わたしは大好きなので、もっと伸びてほしいなぁ。わたしのイチオシです。

 女の子とおばあちゃんの心温まる話でした。良いですね。女の子サイドとおばあちゃんサイドを二つ読むことで真実がわかる構成になっています。サイド利用は正直なところ好きじゃなくて、一本の話で読ませてほしいという好みはあるものの、話自体に嫌なところが無いので素直に楽しむことができました。優しい話はそれだけで価値があるものです。

 ツイートふたつを使った作品は今回多いですが、本作ほどその効果をきちんと発揮できている作品はないと思います。老婆の家に物取りに入った女性と、その家主の老婆、二人の視点から描かれる食卓の風景。ただそれだけなのですが、その中に悲しみがあり、平穏があり、今にも壊れそうな希望がありと、感情をゆさぶる仕掛けがぎっしり詰め込まれています。良作。  

 

 

106.槐 『ブラック企業に有給休暇を申請した時の話』

 ツイッターで伸びがちなスカッとジャパンてきなやつですね。現状でもスカッとジャパンてきな良さはあるんですが、よくあるスカッとジャパンでしかなくて、具体的な情報として価値のありそうな部分が後半で一気にどっとはらいされてしまっているので、そこを書いたほうが単純な情報としての価値は高かったかもしれません。

 流石にこれを小説だと認めるのは難しいですね。ただの事後報告です。たくさんのタグに必死さと切なさを感じてしまいました。とはいえ、明らかにもう一作よりも伸びているのが難しいところです。これを負の学習にしないことを祈っております。

 ざまぁ系ですね。まさに世はざまぁ全盛。小説としては、主人公のキャラクター像がちょっと異様で、何を考えてるのかわからないようにしているようです。こういうのが好きな人もいるのだと思いますが、この人はこの劣悪な環境でこれまでどうやって生きてきたんだろう、なぜもっと早く、もっとまともな場所に、もっとまともな方法で移らなかったんだろうという疑問がわいてきてしまいます。例えば、主人公がこれまでの仕打ちに耐えきれなくなり反逆を決意してこの成り行きになるのであれば、もっと主人公に感情移入できるかもしれません。この語り口では反感を覚える人が多くなってしまいそうで、そこが惜しいポイントでした。

 

 

107.ろすと 『作文』

 ラスト一文の手前がすっ飛んでいて、どういうことなのかよく分かりませんでした。オチを成立させるために、鎌田直樹のパーソナリティーは必要ないのでは? 冗長なわりに、必要な情報の提示ができていないように思います。

  たしかに鎌田先生は良い人ですね。が、それに甘えて鎌田殺人事件という悪趣味な作文を発表するのは、流石に品性を疑います。

  担任の先生を素朴な感じで褒め上げておいて、全校放送で作文を朗読する権利を勝ち取り、朗読の段階で先生が殺される内容に作文を勝手に改変してしまうという内容。ある種のざまぁ系かもしれません。問題は、なぜ先生を殺す内容に改変するのかその動機が不明なところ、どのように改変されたのか不明なところ、それを聞いた人々の反応が不明なところ。必要な情報がほとんど欠けてしまっているようです。発想としては面白いので、情報を整理して書き直してみると、今後の創作活動の糧になるのではないかと思います。

 

 

108.ろすと 『剃刀』

 これも、必要な情報が提示できていないというか、語り部の混乱を表現したいのかもしれませんが、それにしても記述が混乱しているので、客観的、具体的にいまどういう状況なのかが見えてこず、ラストのオチがストンとした納得感に結び付いていないと思います。第三者がこの文を読んだときに、どのような光景がレンダリングされるだろうか? ということをイメージしてください。自分でも書いたことを忘れたくらいの時期に読み直すとよく見えます。

  最終的には笑い話なのでしょうが、4Pに渡って書くほどの内容じゃないな、というのが素直な感想です。読み終えて胸に残ったのは徒労感だけでした。

 ひとつ前の作品と同じ方の作品です。ふたつ作品を読んでみて思ったのですが、これらの作品に共通する異様に読者に不親切な情報提示の仕方は、あえて好んでやっておられるのでしょうか。人が読んだとき、混乱し、不快な気分になること、それ自体を目的として書かれているように感じました。そうであれば目論見は成功しているのかもしれません。ただ個人的には、そこに技巧や工夫を感じるよりも作者の悪意だけが感じられてしまうため、あえてこうした作品を読みたいとは思いません。

 

 

109.山本アヒコ 『コロナ禍の殺し屋』

 殺し屋が殺し屋を廃業して、元通り殺し屋稼業に戻れるように新型コロナウイルスの研究所の清掃員として働き始める。そこにワクチンを狙う別の企業の殺し屋がやってきて、という筋。殺し屋が殺し屋稼業に戻るために正義の味方っぽいことをする羽目になるのかな? あらすじだけ聞くと主人公のねじくれた動機がめちゃくちゃ面白そうで、スラップスティックコメディとして成立しそうな感じなのですが、残念なことに「別の殺し屋がやってきて」のところで終わってしまっています。この話をギュッと1Pくらいにまとめてしまって、そこから3Pくらいのドタバタ殺し屋コメディをやったほうが面白かったかも。

 コロナのせいで仕事ができなくなった殺し屋の話でした。話の飛躍の仕方が突拍子ないものの、妙に筋が通っている点が面白かったです。そっちじゃない、いや、そっちなのか?と良い具合に思考を混乱させてくれました。ただ、オチが投げっぱなしなので、消化不良感があります。前半を工作員からワクチンを守ってくれた清掃員の話にし、後半で実はこういう背景がある殺し屋でした、という展開の仕方ならどんでん返しも狙えましたね。アイディア自体は面白いものの、練り込みが足りないな、という感想です。

 面白い作品……の導入部で終わってしまった作品です。ここからどういう戦いが始まるんだろうというワクワク感は十分に醸成できていると思います。ぜひ続きを読みたいですね。要望を言えば、毒殺が得意な殺し屋のキャラクターが意外と普通なのでもっと濃いキャラにしたり、もう一人か二人、特殊な殺人方法に習熟したキャラとかがいて、そんで敵のほうにも同じ人数の特殊能力をもった殺し屋が、となってくるとマルドゥックシリーズみたいになっていいなあと思いました(小並感)

 

 

110.御調 『仕事人間の日常』

 お話じたいはそこまで新奇なものでもないのですが「背中を押す」のダブルミーニングが効いているおかげで、ちょっと洒落た雰囲気に仕上がっています。こういう部分、大事ですね。そこの「ほら、驚いたでしょう?」で満足せずに、後半で「仕事人間の日常」の悲哀てきなおかしみに主軸を持ってきているので、単純に、小説としての完成度で頭ひとつ抜けています。トリックは話を成立させるための骨組みでしかないので、物語としての価値はまた別のところで提供しないといけないのですが、ミステリーを書こうとすると、謎解きをやったところで満足してしまう人が多いので、ちゃんと両輪でできているのは激アド。ミステリーかというと、ミステリーではないような気がわたしはするんですけれども、でも、こういうのは自信を持ってミステリーと言い切ってしまう胆力のほうが大事かもしれません。

 全作品の中で一番面白く、完成度の高い作品でした。話に無駄なところが一切無く、気持ち良く主人公の正体を知ることができる展開は、心から評価したいです。お見事!家族を愛する殺し屋パパという設定もキャッチーで良いですね。私は呪術廻戦のナナミンをイメージしながら読みました。あまりにも完璧過ぎて言うことが逆に無いのですが、キャプションはもう少し内容に触れても良かったかもしれませんね。そこらへんをクリアできていたら、たぶん四桁台でバズった作品だと思います。もちろん、運も関係してくるものの、この作品にはそれだけのポテンシャルを感じました。通常レギュレーションなら絶対に大賞に推していたと思います。

 とてもわかりやすくまとめられた作品です。仕掛け自体はシンプルなもので、おそらくこれが普通の小説であれば、多くの人が途中でどういうことが起こるか気づくでしょう。そうして、ちょっと物足りなく感じるかもしれません。けれどもツイッタにいるとき人間は通常時の5%程度しか脳みそを使っていないため、これくらいがよい塩梅なのかも。事実、けっこうRTされてますし。しかもそれだけでは飽き足らず、最後に家庭の風景にかこつけてダメ押しで種明かしまでされます。もうおなか一杯ですが、これもわかりやすさに寄与しています。総じてツイッタの環境に適応していて、よくできていると思いました。

 

 

111.ネルソン 『変わった料理人』

 死刑囚に最後の食事を振る舞う料理人、というアイデアはおもしろみがありますが、それが明かされて以降の話の筋は「まあ、そうなんやろな」という感じで、あまり展開や驚きがないまま最後までいってしまった感じでした。分量的にタイトなので厳しいところはありますが、この少ない文字数の中でどうにかツイストを入れていけると、さらに良くなると思います。あと、些細なことですが、字下げはしたほうがいいですね。文庫本風の縦書きフォーマットだと余計に気になってしまいます。

 最後の晩餐を担当する料理人の話でした。フィクションなのはわかりますが、はっきりと日本と言ってしまっているため突っ込んでおくと、日本では最後の晩餐制度はありません。理由は作中でも言っていたように、死刑囚には当日まで死刑の日取りがわからないからです。それは死刑囚に意地悪するためでなく、生きる気力を奪わないためですね。死刑囚の生きる気力を気にしてどうするんだ、という話でもありますが、死刑が執行されるまでは同じ人として扱うべきだという人権的考え方なのです。仮に最後の晩餐制度が日本でも行われるようになったとしても、作中のように細く注文を聞くことはなく、唐揚げが欲しいと言われたらスーパーの総菜コーナーから買ってくるレベルの制度になるかと。重箱の隅を突くような指摘になってしまいましたが、根本的な部分がズレているので面白いとは思えませんでした。

 死刑執行を目前にした死刑囚に望んだ料理を食べさせる料理人のお話。シチュエーションに対して設定がちょっとリアルに寄りすぎていて、死刑囚の身の上話を聞いている料理人になんだその状況はという気持ちのほうが大きくなってしまいました。もっとファンタジーに寄せて、生前罪を犯した罪人が地獄に落ちる前に食う料理をする人とかにすると不自然が解消されて、もっと突飛なこともできるようになるのではないでしょうか。あと、硬めの文体のわりに誤字や誤った表現が目立ち、雰囲気をそいでいるところがあるので、推敲というか文章の見直しをもう少し丁寧にするとよいと思います。

 

 

112.坂崎かおる 『リツイート

 初期村上春樹の短編っぽいナンセンスで、フレーバーとしてはわたしはかなり好きなんですけど、やっぱり読後感が「つまりどういうことなんだ?」ってなっちゃうと、バズとは相性が悪いと思います。分かりやすい明確なオチを意識してください。「テニスコートみたいに広い後部座席」「名前のついてない汗」などの修辞は板についているので武器になると思いますが、普通に「うん?」と引っ掛かりのある表現もあるので、乱用するより絞ったほうがよいでしょう。基本は平易に書き下しつつ、ちょいちょいパンチを入れていくバランスのほうが、たぶんもっと良くなります。

 ゾゾおじさんからお金をもらう話でした。それっぽい設定や展開はあるものの、全体的に抽象的過ぎて意味がわかりません。意味がわからないのが目的の話なのだろうとも思いますが、私には楽しめませんでした。バズとの相性も悪いですね。

 お金配りおじさんの話。個人的にはあのお金配る行為はとても苦手なので、お金配りおじさんを無駄に肥大化させているこの作品もちょっと苦手です。まあ個人的な倫理観はともかく、作品としては行き過ぎたフォロワーである妻のふるまいが特に結末に影響しているわけでもなく、肩透かし感があります。オチもあってなきようなものになってしまっているので、この前半部を読んだ読者の期待感に応じられるインパクトのある、きちんとした後半部を用意することが必要かなと思います。 

 

 

113.帆多丁 『せんべい缶にジップロックで』

 タイトルがなんだか気になる感じでいいですね。のっけから人類を絶滅させたわたしが言うのもアレなんですけど、オタクは気安く世界を滅ぼしがち。終末日常ほっこり系のノリからラストが遣る瀬無いので、RT稼ぎには向かない読後感かなぁと思います。同じ世界を滅ぼすのでも、逆に、悲壮感が漂う内容から→ラストでちょっと開けていくような展開、のほうが共有されやすい気がします。

 終末世界で家族に死という救済を与えることが横行している話でした。なかなか考えさせられる話でしたが、とにかく暗いですね。最後のオチも気分が良くなるものではありません。こういう作品も良いとは思いますが、バズる内容ではないですね。暗い気持ちにさせるよりも明るい気持ちにさせる方が難しく、それ故に意義があることを覚えておいてもらえると嬉しいです。

 一家心中がトレンドになるような世の中という情報が最初に提示されて、いったい何があったらそうなるんだと思わせておいて、その原因は太陽から地球が遠ざかっててというのは、正直「えっ?」ってかんじでちょっとうまく呑み込めませんでした。とはいえ、なんか実家で心中しようとしてたんだけど、実家の側でも同じこと考えてて、やっぱり家族だね思いやりだねみたいになってという流れはなんだか面白いので、原因は普通に借金とかにして、ここから一致団結して夜逃げだぜみたいなほうが希望があっていいんじゃないかなと。

 

 

114.十六夜雪 『夏は灰に還る』

 冒頭は十分に魅力的なのに、そこからどんどん尻すぼみになって、最後はなんかよく分からなかったな? という印象です。どういうことだったんでしょうか? 自分の中で整合的な解釈があるのであれば、もうちょっとヒントを置いたほうがよかったかと思います。文章じたいは端正で読みやすいので、小説を書くスキルは十分でしょう。もうちょっと読者に親切になると良いと思います。

 洗濯機から出てきた少年との話でした。少年の正体は幽霊なのでしょうが、転生して主人公の姉の子どもになったのか、それとも姉の子どもの幽霊が未来からきたのか、どっちなのでしょうね。非常に不思議な話で読み心地も悪くなかったのですが、最後のオチはモヤっとするだけでした。

 ありきたりな感想を言うよりミステリを書く人には多少有益かもしれないので、すごい細かいことを言うんですが、いわゆる瞳孔散大というのは、別に死者でなくても起こるんです。瞳孔を開いたり閉じたりする制御は自律神経系で行われており、これが断絶していると散瞳が起こるわけで、死亡確認の際のひとつの手段ですが、一部の薬品でもこれが起こります。特にノルアドレナリン系に作用するMDMAなどの薬の副作用に散瞳が含まれます。なので、瞳孔が開いているだけでふつうに歩き回っている場合、まず疑うべきは薬物の摂取であって、死んでるという結論は飛躍しすぎです。小説の感想としては、やはり雰囲気を出すことにこだわるあまり、背景の描出がおろそかになってしまった印象です。もう少し伏線をちゃんと張ってそれを回収するしかけがほしかったですね。

 

 

115.ラブテスター 『天使のたまご

 こういう汚くて綺麗なのがご本人の性癖なのだと思いますし、一定数は同好の志もいるとは思いますが、あまり一般受けする類の趣味ではないでしょうね。バズを狙いにいくとなれば、すこし自分の性癖を曲げて適応する必要もあるかと思います。とはいえ、好きでもないものを無理して書くくらいなら好きなものを好きなように書いたほうがいいので、なかなか難しいですね。素直に筆者の「こういうのが好き」が伝わってくるのは好印象。延々と汚く趣味の悪いものを読まされたのに、最後は変な清涼感があるという抜け感は良いです。わたしは好き。

 謎の天使のせいで狂気に落ちていく人の話でした。面白かったです。大昔に流行ったチェーンメール的なノリで謎の卵がやってくる部分は安っぽかったですが、卵が孵化してからのホラー展開は楽しめました。だいぶ気持ち悪いですけどね。それとも、そういう思考の人が選ばれるのでしょうか?主人公はショタコンだったのかな?それとも完全な無作為なのか、このあたりは考察しても切りがないので止めておきます。ただ、やっぱり気持ち悪いので、一般向けではありませんね。

 天使が孵る卵を手に入れる話。天使が生まれたところで物語が終わらず、その天使を逃がさぬように閉じ込めて、自ら破滅に向かっていくという筋書きに独自性が光っています。ちょっとよくないところとして、所々に挿入されるギャグと作品の雰囲気が乖離してしまっており、それが界隈の中ではネタになるのかもしれませんが、おそらく大半の読者にとっては単なるノイズになると思います。ギャグを挟むにしても、ある程度トンマナを合わせたほうがいいでしょう。

 

 

116.一志鴎 『七割ウソ』

 ツイッターの仕様上、4枚画像を貼ると4枚ともサムネイル展開されてしまうので、パッと見た瞬間に「ああ、4枚めでなんかあるねんな」と分かってしまいますね。話の筋としては古典的な因果応報なのですが、その割には一回目の「写真なんて撮ってる場合じゃないだろ」がサラッと流されすぎなので、オチの二回目にしっくりハマる感じがありません。もうちょっと、そのフレーズを印象づけるような展開があったほうが良かったでしょう。

 承認欲求にとりつかれた人が酷い目に遭う話でした。面白かったですが、読んで嬉しい内容ではないですね。つまりRTには繋がらないです。また、物凄く既視感を抱く内容でもあったので、面白いと言っても大きな感動はありませんでした。無難にまとまった作品です。

 バズるために駅で動画を毎日撮影していたら、偶然階段から落ちる人の動画が撮れてしまい、「写真なんて撮っている場合じゃない」と言われながらも撮り続けてしまう主人公。階段から落ちたのは事故でなく突き落とした犯人がいると知り、次は犯人を撮影してやろうと駅に向かうが、今度は自分が突き落とされてしまう。傷ついた自分の周囲に人々が集まり、写真を撮り始める。「写真なんて撮ってる場合じゃないって」……ということで因果応報なのですが、写真撮ってるやつより突き落としたやつのほうが実際大問題なので、インパクトが薄まってしまってますね。ちょっと道具立てに苦しんでしまったようです。小説書いてるとよくありますよね、あとひとつのピースがうまくハマらないやつ。やはり作品の根幹にかかわる部分では、こういうところで妥協しないほうがよさそうです。

 

 

117.坂崎かおる 『魔法使い』

 たぶんなんらかのどんでん返しなのだとは思いますが、わたしは知能指数が低いので「つまりどういうこと?」となってしまいました。わざわざ傍点まで振ってくれているので、この一文ですべての真実が明らかになる! という構成なのだとは思いますが、わたしには分かりませんでした。どういうことだったんでしょうか? 今回も修辞に凝り過ぎて、客観的にどういう映像を結べばいいのか混乱する部分が多いので、乱発は控えたほうが良いです。もうちょっと親切めのチューニングを意識してください。

 ノスタルジックで幻想的な話でした。雰囲気で伝えるタイプの作品ですね。質感も読後感も悪くなかったです。ただやっぱり伝えたいことが明瞭ではないので、バズとは相性が悪いでしょう。主人公が最後に全てを理解していますという雰囲気を出すのですが、置いてけぼり感が凄かったですし、この物語に突き飛ばされたような気持ちにもなりました。共感するのは難しいタイプの作品ですね。

  ネグレクトされている少年が、同じアパートに住む人形になってしまった女性とその夫と出会い、彼らと交流することで孤独から解放されていくが、時が経ちアパートが取り壊されるころになって少年が再び訪れると、大家から当時彼が遊んでいたという人形を渡されるというお話。どうやら少年と交流していた二人は、二人とも人形であったらしいことがわかります。不思議な雰囲気のお話ですね。ただ、やはり雰囲気づくりに傾きすぎているところがあり、どうして奥さんだけが当時から人形と認識されていたのかとか、細かいところというにはちょっと大きすぎる疑問が放置されっぱなしになってしまったようです。もう少し全貌がはっきりするような描き方になると、ラストに納得感が出て、強いカタルシスを生むことができると思います。

 

 

118.十六夜雪 『たまご』

 先輩と後輩の二者の関係性にフォーカスした話で、たぶん、こういうのが作者さんの性癖ということなんでしょうね。それを描くためのフックに、たまごを吐く奇病というのは良いアイデアだと思います。完全に拒絶するほど嫌というわけではないが、まあ嫌だし、ものすごく食べたいってわけでもないけど買って食べてみてもいいかな? 程度には食べてみたい、みたいな曖昧な距離感。刺さる人には刺さるのかもしれません。でも、絵面があまり綺麗じゃないので、刺さる層は狭いでしょうね。広く一般に開かれた作品というよりは、まだ見ぬ同胞たちに向けられた作品という印象。

 イケメンが卵を吐く奇病になった話でした。性癖が暴走し過ぎですね。これをRTする勇気は私にはありません。あなたの性癖は自由ですが、それを拒む自由もあるのです。

 たまごを口から産むようになってしまった先輩と、その世話をする後輩の話。無精卵ながらたまごという自分が吐き出したものを他人に食われることの嫌悪感と、それを食うのが親しい人物であったらどうなのかという微妙な生理的感覚を、BLの雰囲気を持たせつつ表現していて上手いなあと思いました。一本の小説としてみると、事件らしい事件が起こるわけではないので、起伏に欠ける部分があります。文字数的に厳しいところかもしれませんが、何か感情を揺さぶるような仕掛けが組み込まれると、物語が動き出してワクワク感が生まれるかなと思います。

 

 

119.佐久間イオ 『この11人の中に犯人がいます』

 よくある論理クイズてきなやつなのでしょうか? うまく作れば一定のRTが期待できそうですが、うまく物語と溶け込んでいないので、もっと小説としての面白さも同時に提供できると良いと思います。

 ただの嘘つきクイズですね。答えがわかったらリプやRTしたくなる人の習性を狙ったのでしょうが、試みは上手くいかなかったようです。

 こういう論理問題すごく苦手なんです。なんとか頑張って解こうとしてみたけれど、合っているかどうか。一応、私の考えた答えは「赤城さん、江本さん、郡山さん、千木さん、霞さんの5人までしか犯人候補が絞れない」です。あと苗字の読み方と出席番号の順番が対応しているようで微妙にズレており、こんなところにギミックがあるわいと検討した結果、とくにギミックとかでなく単なる間違いのようでした。この苗字と出席番号のズレを単なる間違いと結論付けるのがいちばん大変でしたね。人名にルビがないので。

 

 

120.赤井五郎 『彼女は悪魔に魅入られて』

 いくらなんでもプロットが渋滞しすぎです! ひねりまくりの詰め込みまくりで、読者のキャパを超えてしまっています。特殊設定ミステリはまず、作中でしか役に立たないヘンテコな設定を、どう読者に飽きさせないように呑み込ませるか、が大事なので、なにか面白い小噺でもしつつ自然と設定を開示していく、みたいなテクニックが必要ですから、必然的に文字数は嵩みやすいです。掌編との相性は根本的に悪い。この規模でここまでねじくれた設定をやるのは無茶なので、これは短編以上の規模になるプロットでしょう。せっかくすべてをすっとばして「さてそれでは謎解きです!」のシーンから始まったのに、いやちょっと待ってといちいち話を巻き戻して特殊設定が開示されていくのも、かえってストレスフル。これならいっそ、時系列順に手前から話を進めたほうがよかったでしょう。かっ飛ばした以上はかっ飛ばしていったほうがテンポが良いです。創作にもったいない精神は厳禁! もう書くのは書けるので、次は削りを覚えましょう。一般的に、削れば削るほどよくなります。

 終わった事件を推理バトルする話でした。話と設定を詰め込み過ぎですし、読者が完全に蚊帳の外です。全く話にのめり込めない内から洪水のように話を流し込まれても受け止めることができません。読んでいて非常に辛かったです。ストレステストを受けているような心境でした。

 悪魔に魅入られた少女が別荘で密室殺人を企てたがミステリ好きの友人が悪魔に魂を取られた後も諦めず推理をして語り手は百合気質で実は悪魔に憑かれているのは彼女で時系列逆転で犯人が分かった状態から推理が始まって……という詰め込みすぎのお話。まあツイッタではどう考えても無理なんですが、こういうのが好きなんだなということや、こういうのがやりたいんだなってことは伝わってくるので、ぜひ適切な文字量で実現してみてください。  

 

 

 

121.aoibunko 『梶尾電器店の手紙』

 最後まで読んでも「ああ、そうだったんですか」という感じで、これといった驚きのない平板な筋でした。商工会長宛ての手紙という体裁なのですが、ご近所のかたが苦情を入れるくらいに表で暴れたりもしていたそうなので、商工会長さんはそのへんの事情はすでにご存じなのではないですか? なにか、この形態を選択した意図があったのでしょうか? 商工会長宛ての手紙になっている必然性があまり見えませんし、かえって妙に仔細に書いているのが不自然になってしまっています。これなら、普通に小説として書き下したほうがよかったでしょう。

 潰れた店の娘からの手紙でした。身の上話と店の借り手が見つかったので片づけますね、という報告が全てです。実存する人なら大変だったなぁ~と同情もしますが、本作は完全なフィクションであり、これを読んでも何の感情も呼び起こされません。ただただ徒労感だけがあります。

 まとめてしまうと電器店のおやじが働き盛りに認知症を患ってしまい娘がその店を片付けられずに謝る話、ということになるようです。読み進めていくうちに、これは娘が父を殺してしまったとか、なんらか店を片付けられなかった理由が判明するのかなと思っていたらとくにそういうこともなく、話が終わります。やはり小説という形態で人に読ませるからには、何かしら表現したいことがあり、伝えたい内容があるものだと思うのですが、この作品からはそれを受け取るのが難しい状態です。父を失った姉妹の悲しみが描きたいのか、お店への思い入れが描きたいのか、その対象をしっかり絞り、そのためのエピソードにフォーカスしていくべきかなと思います。

 

 

122.江川太洋 『お願いしたいこと』

 先輩に対する私信という形態と、ツイッターで拡散をお願いするという仕掛けが背反してしまっていて、よく分からなくなっていますね。拡散をお願いするなら、もっと広く一般の人に伝わるように書くはずですが、私信なので様々な部分はぼかされたままで、結果的に「なんかよく分からんものを拡散するようにお願いされる」というよく分からない事態になってしまっています。書き始める前の、コンセプチュアルな部分での煮詰めが必要です。

 語り手が実は吸血鬼だった、という話でした。罪を犯した吸血鬼である語り手が先輩に謝罪するまではわかるのですが、あえてツイッターを選ぶ理由が薄く、しかも不特定多数に拡散をお願いしているという馬鹿馬鹿しさには笑ってしまいました。結局それかい。こんな小細工でRTしたくなる人はいません。RT乞食をするのではなく、面白い作品でRTしてもらうことを狙わなければ意味がありませんよ。

 吸血鬼が殺人を犯し、先輩の吸血鬼にそのことを弁明する手紙という体のお話。やりたいことがいろいろあって、結果的に散らかってしまった印象です。先輩との穏やかな日常と、それを破壊するきっかけとなる男性の襲撃、しかしどんでん返しで実は襲われた私は吸血鬼で、正当防衛的に男を殺してしまう、という筋書き自体は悪くないので、きちんとプロットを立てて、整理しながら書いたほうがよさそうです。男を殺した理由も最後の訴えも後付け的なかんじがして、効果が薄れてしまっています。そこに至る必然性みたいなものを前段で積み上げていけると、説得力が生まれると思います。  

 

 

122.綾繁 『蠅の王』

 具体的なエピソードによって主人公の特異性を示せると良いのですが、そのへんがぜんぶ抽象的な自分語りで処理されてしまっているので「ほんまかいな?」という印象になってしまっています。こいつすごいんですよ! っていうのは、なにか具体的な行動で示すか、せめて他のキャラクターに語らせたほうが良いです。最後の主人公が仕掛けたトリック(トリック?)も凡庸だし、目的も得られた結果もよく分からないので、なんなんだろうね? みたいな感触。実はフォロワー1000人くらいの狭い界隈の出来事っぽいですね。

 これ、何の話だったのですか? 主人公の俺凄いんですよ一般人とは違うんですよ語りが始まったと思ったら、よくわからない対立界隈という存在が出てきて、どうやらそこのボスを殺したらしいと思ったら、それはフェイクだったという話でした。背景や動機が抽象的なので意味がわかりません。主人公も何の意味があるんだ? という趣旨の言葉を対立団体のボスに投げ掛けるのですが、君にはわからないさ、と返される始末です。なめとんのか。君にはわからないさ、じゃないんだよ。全体的に抽象的過ぎ、またナルシシズムに満ちた作品なので読んでいて不快感しかありませんでした。これがバズることは絶対にないでしょう。

  SNSでの論争で多数の人を巻き込んだ対立が起こり、最終的に殺人まで起こってしまう……けれどその殺人は偽装殺人で、バズを生むための演出に過ぎなかったというようなお話。ちょっと違うかもしれません。主人公が何のために偽装殺人を行っているのか、作中では曖昧で、はっきりとはわかりません。確かにSNS上での論争は日常茶飯事で、感情的な対立が起こることも珍しくなく、もしそこで対立する相手を殺しちゃったみたいな動画がアップされたら炎上するかもしれません。でも実際に殺していないなら事件にもならず、早晩偽装だとバレるわけで、どうするんでしょう、釣り宣言するんでしょうか。レペゼン地球みたいな感じですかね。関係する全員の株価を下げて終わりな気がします。むしろここからどうしようかって話のほうが面白いかもしれません。

 

 

123.ささやか 『月山記』

 タイトルを確認しないまま読んでいたので「その声は、私の娘、李子ではないか?」で普通に笑ってしまいました。山月記のパロディ感は弱いのですが、もっと山月記に寄せてしまったほうが、ネットのバズとの相性は良かったかも。みんな、我が友李徴子とか激怒するメロスとか好きですからね。最後はなんやかんやでいい感じになっているので、いいと思います。

 Vチューバーを通じて父と娘が絆を取り戻す話でした。面白かったです。身バレしてボコボコに殴り殺されるVチューバーを書いた作品もあれば、この作品のように心温まる話を書かれる人もいるのが本物川小説大賞の良いところですね。個人的には自分の娘だったとはいえ正体バラしちゃ駄目でしょ、インターネットの怖さを知らないのか? 「その声は、私の娘、李子ではない?」のセリフを言いたかっただけの物語では? 等の疑問はあったものの、きちんとハッピーエンドにしてくれたことを評価しています。

 いい話ですね。おっさんがVtuberを漁ってるうちに、疎遠になってしまった自分の娘がVtuberとして活動しているのを発見し、今度こそ彼女との絆を取り戻すべく自分もVtuberとして活動を開始するというお話。筋立て自体はよくある感じなんですが、下敷きにいかにもアンマッチな山月記を使っており、それが不思議なおかしみを醸し出しています。「その声は、私の娘、李子ではないか?」には笑いました。しかし、一番パンチのある上述のセリフが中盤にならないと出てこないのがとにかく惜しい。これは冒頭にもってきて、どうしてそういう状況になったのかということを語るのが正解だったと思います。語り口もセンスも好きなので、作者の今後に期待したいですね。

 

 

124.佐倉島こみかん 『玉子焼き殺人事件』

 いろいろな設定が後出しでどんどん出てくるので、繋がった! っていう快感がなく「そうなんですね」という感触になってしまいがちです。必要な情報は事前に埋め込んでおく、ないし、匂わせておくくらいの調整が必要かと思います。いわゆる伏線ですね。最後まで書いてしまってから遡って埋め込めば簡単なので、もう一度構成を考えてみると完成度が上がると思います。とはいえ、あまり爽快感のあるラストではないのでツイでのRTには繋がりにくいでしょう。

 DV男が殺される話でした。厳しい話ですね。まずもって警察官が最初に救急車を呼ばない理由がわからないです。実は主人公の父親だった、反省の色が見えなくて同じことを繰り返しているから殺した、という展開に結び付けるために大分無理したな、という印象です。また、いかなる理由があったにしろ、殺されかけた人間が見知らぬ警察官に自分が悪いんです、なんて言わないと思います。気が動転していて、直前にあったことしか頭にないでしょう。ここでいきなり反省し、罪を懺悔する方がおかしいかと。結末も主人公が殺人犯として捕まった、というだけなので、非常にモヤっとしました。

 きれいにまとまった作品ですが、小さくまとまりすぎてしまった感があります。DVを受けて耐えられなくなった女性が夫を灰皿で殴り、交番に駆け込む。これに応対した女性警察官である主人公は、被害者の安否を確認するため現場に急ぐ。こうなってくると普通には終わらないだろうなという期待感が湧き上がってくるもので、実際、被害者はかつて主人公に対してDVを繰り返した父親であったという「転」が用意されているのですが、これが本作最大の失敗だったかなと思います。この展開はたぶん読者が予想する「まあこんな感じかな?」という水準通りの展開で、そこをこそ裏切っていかなくてはならないところだったと思います。もうひと捻りで、作品の雰囲気はがらりと変わるんじゃないかと。

 

 

125.292ki 『コンポタージュが冷めるまで』

 なんかいい話風なんですが、失恋の相手が有名なアイドルなあたりで痛さが際立ってしまいますね。読者からすると、山科の行動が「実行するつもりはもとよりない、ただ心を整理するために必要な奇行」ではなく、本気でアイドルを刺しちゃう系のヤベェやつに見えてしまうので、主人公はボロボロの完全犯罪計画に付き添うよりも先に、他にやるべきことが色々とありそうな気がしてしまいます。普通に一般人が相手でも成立しそうな話だし、そのほうがまだしも共感できたんじゃないでしょうか。

 厄介オタクの殺人計画に付き合う話でした。友人がかなりやばい奴なので、変に諭したりするよりも落ち着くのを待ってから諦めさせる方が丸く収まるのは確かなんですが、その過程に全くドラマ性が無く、非常に淡々としていました。友人に共感できないのはもちろん、変に達観し過ぎている主人公にも共感を抱くことは難しいですね。具体的に何を伝えたかったかが曖昧でした。友情? それにしては、踏み込みが甘過ぎるかと。

 わかる、わかるんですが、どうしても小説としては竜頭蛇尾なかんじがしてしまう作品でした。アイドルを待ち伏せして殺害するという友人に蛍光イエローのパーカーでついてきてしまうところまでは期待感が高かったのですが、そこからどんどん話が尻すぼみになっていき、コンポタが云々のところではもう共感する余裕はなく肩透かしに怒りを抑えきれない自分がいました。少なくともアイドルはやってきて、そこで殺人には至らないにしても何かしらの事件が起こるところまでは描いてほしかった。 

 

 

126.すずりゅう 『今日退職届を叩きつける』

 文字が詰まっていて文圧が高めなのですが、そのわりに「前日遅くまで作業していたため頭があまり働かないため」の「ため」の二重掛けとか、引っ掛かりが多く読んでいてリズムが気持ちよくないので、この文圧でいくならもうちょっと文章を整えたほうがいいでしょう。おかしなところは音読するとだいたい分かります。キャプションを見るに、同じように苦しむ人に勇気を与えよう、という動機で書かれているようなのですが、そのわりに結末が閉じてしまっていて、あまり気分が上向きません。同じような筋でも、もうちょっと開けていくように意識をしたほうが良いでしょう。抜け感、大事です。

 退職届を出そうとしても出せない人の話でした。結局、出さんのかい。キャプションだとこれを読んで勇気を持ってほしい! と言われていたので、そういう類の話かと思ったら不完全燃焼でした。他にも辛い思いをしている人はいる、一人じゃないよ、って伝えたかったのでしょうか? 流石にそれは皆わかっているので、その先を見せてほしかったですね。

 退職届を出したいのに出せない男の話。実際こういう人は多いのかもしれません。共感するところもあります。が、やはり何にも起こらぬまま閉塞感に満ちた日常が続いていくだけで終わってしまうと、読後感が悪く、これをRTしようという気持ちにはなかなかなれないと思います。小さな出来事に反応する心理がよく描けているので、この人物が日常と違う出来事に遭遇したときどのように反応するのか、そしてその出来事がこの人をどう変えるのかまで描けると、小説としての完成度が上がると思います。

 

 

127.御調 『転生保険』

 男が勝手に早合点しただけで、悪魔のほうは「お好きなようにお呼びください」としか言っていないし、「次も自分に任せる」という契約をしただけで、それで男の魂をどうするという約束はしていない、ということなのだとは思いますが、それでオチでストンと納得できるだけの前提が十分に共有されていないように思います。今回は設定が煩雑なぶん、文字数に苦しめられている印象。余計な設定は排除して「悪魔がいかに嘘をつかずに人を騙すか」にフォーカスし、もっとシンプルに落とし込んだほうが良かったでしょう。

 死神に魂を騙し取られる話でした。現代の流行を取り入れたブラックなオチですね。たしかに死神は嘘を言っていません。意味深に笑っただけです。実際にこれをやられたら、大半の人は騙されるんじゃないでしょうか?私は騙されそうです。もう一作ほどではないものの、この作品も面白かったです。が、キャプションに読みたいと思えるようなフックがありませんね。転生ものは流行ですが、だからといって何にでも読者が飛びつくってわけじゃないんですよ。せっかく良い作品を書けるのだから、入口にも気を配った方が良いかと思います。今回はそれも含めて審査するコンテストです。作品を出して終わりではなく、他の伸びた作品から良いところを学んでもらえれば幸いです。

 異世界転生できると思ったら悪魔の契約書にサインさせられてしまった話。異世界転生を釣り餌にして魂を刈り取る悪魔という設定は面白いと思いました。ただ、ちょっと展開が性急すぎるというか、見事なペテンというより悪魔側に有利すぎるシチュエーションにも関わらず結局時間切れで押し切っているように見えてしまっているのが残念。男性の語り口をもう少しゆるめて、男性のほうに読者が感情移入できるようにして、選択を迫られる場面で読者自身にも「自分ならどうする?」と考えさせるような間を与えるほうが、没入感が上がってオチの落差が効いてくるように思います。

 

 

128.てふてふ 『かつてサンタクロースだったもの』

 なぜクリスマスツリーがあんなに派手に飾られるようになったのか、という嘘の由来。これだけだと、ただの与太話で「へ~、そうなんですね~」という感想になってしまうので、なぜ男が死の間際に急に「飾りを一緒に埋めてくれ」と言い出したのか、あたりも語る必要があるかと思いますし、なにより、すべての設定になんらかの寓意を持たせたほうがいいです。漫然と思いつきを書き下すのではなく、そこに意味を乗せてください。そうすると与太話が物語になります。

 クリスマスツリーが飾り付けられるようになった由来の話でした。とても夢のある設定だったのですが、流石にクリスマスツリーは有名過ぎて嘘由来を捻じ込むのは無理がありますね。既存の行事をテーマにするよりも、それっぽいオリジナルの行事を一から考えた方が良かったかと思います。綺麗にまとまってはいたものの、扱う題材を間違えたな、という感想でした。

 クリスマスツリーはどうしてあんなに装飾されるようになったのかというお話。サンタクロースが死ぬとプレゼントが生る木に生まれ変わるという設定は面白いですね。さらに、父が木に生まれ変わったあと、どの木が自分の父なのかわからなくなってしまったサンタが、それを不安に思ったのか、自分が死ぬときには身近な品物を一緒に埋めてもらうと、それを身に着けた木が生えてきたというのもうまい発想だなあと思いました。ちょっと心理描写を削りすぎているところがあり、サンタがどういう気持ちで行動しているのかわかりにくく、それゆえに感情移入しにくくなっています。大事な部分はもう少し詳しく、読者にフレンドリーな書き方になると、ぐんと完成度が上がると思います。 

 

 

129.あさって 『川崎さんは鋼の心臓を持っている』

「鋼の心臓を持っている」というのを、孤独に負けない強い心、みたいな比喩表現と思わせておいて、本当にエンジンがついている、というバカバカしい叙述トリックですが、わたしはこういうの本当に好きなので、ここももうちょっと丁寧にやってほしかったですね。とはいえ、そこは本題ではなく掴みなので、まあこんなものでもいいでしょう。川崎さんのエンジンの吹けあがりを聴きたくて、あの手この手で川崎さんを驚かせようとする主人公と、まったく動じずに安定の低音を響かせる川崎さん。しかしエンジンのことを考えるなら、それくらいの回転数維持が丁度良かったんだよ、というオチ。筋はすごく良いと思うんですけど、あんまり上手に書けてないかも。もっと面白くなってもおかしくないので、練り直してもう一回書いてみてほしいです。

 ロボット娘に片思いする少年の話でした。ただのメンタルが強い美少女なのかと思って読んでいたら、本当に鋼の心臓を持っているロボット娘だったというオチは笑いました。その後のやり取りも謎の勢いがあって笑えたのですが、終盤で途端に小さくまとまってしまいましたね。途中までが面白かった分、残念な気持ちになりました。

 かなり変な小説です。変な小説はいいですね、すきです。なにかもうひとつブラッシュアップされると、もっと多くの人が楽しめる小説になりそうな気がするのですが、これが難問で、具体的にどうすればいいのかちょっと思い浮かびません。この作品自体はだいぶ変なんですが、バイクとかまったくすきじゃない私にも川崎さんの魅力はたしかに伝わってきて、それは主人公のひたむきな愛情ゆえだと思うので、こうした関係性を描く力はとても優れているのだと思います。マジックにこだわらず、日常の風景を描いていくだけでも、面白い作品になるのかもしれません。

 

 

130.夢見草ステラ 『唇から溢れ出るメロディーは止まらない』

 スターウォーズのオープニングかい、みたいなノリで未来の歴史が開陳されるのですが、そこから本編が始まったと思ったらもう一度さっき説明された設定を逐一説明されるので、さっきのオープニングなんだったの? となりました。で、テレパシーで話せるので音楽が消滅した?(←なんで?) あたりからずっと首を傾げたまま、置いてけぼりにされたままラストまでいっちゃった感じです。たぶん、断片的に書きたいシーンみたいなのが強くあるタイプなのだと思います。熱いハートから物語が溢れ出過ぎて、まだ手綱がとれていない感じなので、ちゃんと読者を一緒につれていけるようにコントロールをがんばりましょう。「この物語世界が自分は大好きなのだ!」という情熱が伝わってくるのは良いです。

 言葉を話せるようになったのが主人公とヒロインだけになった世界で、二人が音楽を始める決心をした話でした。設定の矛盾が滅茶苦茶多いですね。とにかく、このシチュエーションを書きたいんだ、という思いだけで作られた物語だと感じました。が、私はこの方向性は正しいと思います。作品の出来を競うコンテストでは推しづらいものの、こういう路線が好きな読者は多いです。主人公とヒロインが唯一無二の絆を育んでいく、とても良いじゃないですか。実際、リプ欄にもファンだという人が現れていて、他人事ながら私も嬉しくなりました。この感性は今後も大切にしてください。本物川小説大賞で勝てなくても、作品のファンを得られた時点であなたの創作は報われています。

 言葉がなくなった世界で、少年は“音楽”を聴く少女と出会う。それは人類が失ってしまった文化だった……と書くとなんだか壮大なボーイミーツガールな感じでいいですね。映画にできそうな世界観で意気込みはとてもよいと思います。一方で、その状況を出現させるための設定やストーリー展開はかなり未熟なかんじです。肉を焼くとき片面だけじゃなくて両面焼くといいぞってアドバイスして称賛されるラノベみたいな残念感があります。やりたいことはSFではないと思うので、変にSF的な設定を練らずに、テレパシーを得るために口で話す言葉を失った人類の世界、みたいにしたほうがよいのではないかと。やりたいことに焦点を絞り、苦手な部分は思い切って切り捨てたほうが、届くべき人に届く小説になると思います。 

 

 

131.ナツメ 『これはフィクションです』

 今回の本物川小説大賞の仕様上、どうあがいてもフィクションなのは丸バレなので、創作実話怪談は「いかにもっともらしく見せるか」がネックになってしまうのですが「これはフィクションです」と念を押されれば押されるほど、逆にもっともらしく見えてしまうというのは人間心理の隙を上手についていて、やるなぁという感じです。最後の書き文字がサムネイルでは表示されず、展開してはじめて見えるのもアド。狙ってやったなら大したものです。しかも、なんか書いて消したような跡もうっすら見えてるんですよね。手が込んでいます。なにより、筆者はこういった実話怪談風のコンテンツが大好きなんだろうなぁという感触が素直に伝わってきて、良いです。小細工に走ると途端に足元が疎かになる子が多かったんですが、やっぱり本来の自分の「好き」と「アイデア」がうまく合致すると強いですね。

 今大会で唯一、誰がどう見てもバズったと言える作品です。この講評を書いている時点で4000RT近いので凄まじいですね。この作品以前の作品全てを異次元レベルでぶち抜きました。100とか200とかは完全に誤差の範囲です。が、あくまで本物川小説大賞は小説を競い合うコンテストなので、小説とは言い辛いこの作品を評価するのは非常に難しいですね。物語が全く無いわけではないのですが、小説なのかは微妙なところです。とはいえ、レギュレーションに違反しているわけではなく、これだけ圧倒的な成果を出されてしまっては認めざるを得ないでしょう。数字の力とは、こういうことです。否定的な私ですら、ただただ屈するしかありません。と、個人的には否定的な立場ではあるんですが、この作品の凄さも認めています。今大会にはRTを狙って小細工する作品が多く、この作品も間違いなくその一つなのですが、他の小細工勢が単にRT乞食をしているだけなのに対して、この作品は乞食をすることなく、自ずとRTしたくなる仕組みがありました。このアイディアが非常に素晴らしい。創作物であることを逆手に取り、恐怖心を煽る最後の一言は完璧です。そもそも、人は利他的行動を無意識に嫌う傾向があるので、コンテストタグがついている作品は伸びづらいです。RT乞食をしても逆効果なのです。また、創作物だと丸わかりであるため、戦い方が狭まってしまいます。その逆境を、たった一言で唯一無二のアドバンテージに変えた発想力は見事としか言いようがありません。完全にコロンブスの卵ですね。私も盲点でした。本当に素晴らしい。仮にバズっていなくても、このアイディアだけは評価していたと思います。ましてや敗北を認めるしかないほどバズっているのですから、私は素直に平伏しましょう。おめでとうございます。あなたがナンバーワンです。

 今回最大のRT数をぶっちぎりでたたき出した作品です。「これはフィクションです」というタイトルを打ち出しておきながら、文体はガチガチのノンフィクション・ルポルタージュ風。起きたことを淡々と記述する無機質な文体が、未解決事件記録のような不気味さを演出しつつ、それでいて現実に接地している出来事のような、絶妙な感覚を生み出しています。そして最後に付記された、殴り書きのような「これはフィクションです」の文字。これがツイッタという空間の真芯を捉えたようで、一気にバズりました。本作は小説として見ると非常に不完全で、なにしろ物語の全貌はほとんど見えず、何が起こっているのかすら読者は把握することができません。伝わってくるのは矛盾したメッセージと不気味な雰囲気だけ。しかし、改めて考えてみれば、いわゆる都市伝説やフォークロアのような「口づてで広がる物語」こそ、ツイッタという場にはふさわしいのかもしれません。そうであるなら本作はまさしく、むき出しの都市伝説の形をしていると言えるような気がします。

 

 

132.なぎらまさと 『クラシック通の友人』

 キャプションでものすごく期待感を煽ってくれたのですが、実際に読んでみると「うん?」という感じでした。わたしにバロック音楽に関する知見がないせいかもしれません。もっと、読み進めるごとに印象がコロコロと入れ替わるような小説を実際に書けたらすごいと思います。

 出生時に取り違えがあった友人の話でした。申し訳ないのですが、私はクラシック通ではないので、物語のギミックがわかりませんでした。最後まで読んでも、そうだったんだなぁと思うだけで、作者が意図するほどの驚きを得ることはできませんでした。これ、クラシック通だったら、凄い驚きと発見があるんでしょうか? だとしたら、かなり対象範囲が狭いですね。バズるのは難しいと思います。作者さんもクラシック民に届けようと引用RTされていましたが、クラシック民かつ素人創作に興味がある人は残念ながら極少数です。ひょっとしたら作者さんのフォロワーには多いのかもしれませんが、私には観測できませんでした。

 最後まで読むと一気に面白くなる作品です。本作のテーマは「偽作」。偽作というのは、作られた年代や作った人物を偽った作品のことで、音楽に限らず、絵画や小説などにも多く存在し、歴史書などの文書の場合は偽書と呼ばれます。ここで注意したいのは、偽作というのはいわゆる「内容のパクり」ではなく、多くの場合、自分が書いたと言っても世に認められないがために、過去の人物が書いたものだと偽ることによって生まれるものだということです。それゆえに、偽作にはその生まれからして、ある種の歪みと悲哀がつきまといます。本作は、失踪した友人の生年月日が「親を取り違えられた子供」と一致することから、友人の出生を彼が愛した「偽作」と呼ばれる作品たちと重ね、もしかして友人は偽作だからこそあの作品を愛していたのかもしれない、と思いを馳せるという内容になっています。「偽作」に限らず、私たちは作品を「誰が作ったか」「人気の作品か」あるいは「どのくらいバズったか」といった観点から見て、評価もそこに引きずられてしまいがちですが、そうした偏見を排して鑑賞することで、きっとより豊かな世界を見出すことができるに違いないと改めて思わせてくれる作品でした。

 

 

133.ふたつかみふみ 『アレだよアレ』

 なんですか?

 アレですね間違いありません。

 落語っぽい雰囲気の作品。いやあ、実は落語も苦手でして。落語というか落語家が苦手で。この作品も、なんというか落語っぽい雰囲気でごまかしているような気がしてしまってどうもフラットな気持ちで読めませんでした。ボールがころころ転がっていくのを見てて、転がっていく先には穴があって、でもさすがにあの穴に普通に落ちたりはしねえだろと思ってたら特に何事もなくその穴に落ちて話が終わったような、そんな印象でした。好みの問題かもしれませんが……。

 

 

134.藤沢チヒロ 『遺稿』

 3Pめでヒュッとなりました。真っ赤なゲラ怖いですね。それはそれとして、朱入れをギミックに利用した4P小説というアイデアは悪くないと思うのですが、この作品でそのアイデアが十分に活かされているかはちょっと疑問です。いくら生前の友人たっての願いとはいえ、こんな死人に鞭打つような真似を素直にわははと笑える人はそうそういないと思います。朱入れからも「この朱入れによって傑作に変えてやろう」という意図よりも、たんにバカにしてやろうという悪意を強く感じ、その友情にすら疑問を抱きます。もっとライトな設定でポップに朱入れを利用できる方法もあったのではないでしょうか? 死は重すぎますね。

 友人の遺稿に無慈悲な赤入れをする編集者志望の女の子の話でした。本コンテストにはプロやプロだった人も参加しており、そんな中で藤沢チヒロさんは現役の漫画家でありイラストレーターであり編集者でもあるお方です。前回の審査委員も担当されました。だからといって忖度することはないんだよ、駄目だったら駄目だった部分を遠慮なく指摘していいんだよ、という意思を本作からは読み取ることができたので、そのように対応させて頂こうと思います。漢ですね!まず率直に言わせて頂くと、キャプションから甘ったれた根性が滲み出ています。【1ページ目でくじけないで、続きも読んでください】ってなんですか?そんな義務は読者にありません。1ページ目どころか1行目で挫ける内容だったらブラバされても作者は文句を言えません。スロースタートだけど面白さは保証しますよ、ならまだわかります。完全に1ページ目は読者が投げ出しかねない内容であることを認識しておきながら、それをそのまま出すのは問題です。ここに投げ出されかねない問題があると認識しているのなら、きちんと工夫してください。また、本作の一番の笑いポイントであり要でもある赤入れページですが、流石にインパクトを狙い過ぎて滑っています。私は二社からしか本を出していないのですが、それにしてもここまで酷い赤入れは今の時代に無いでしょう。余計なことを書き過ぎです。こんな赤入れをされたら私は普通に文句を言います。実際の編集者ではなく、あくまで編集志望の学生のやることだから仕方ないという見方もできますが、これも私には言い訳や甘えの類のようにしか思えませんでした。『山田の原稿めたくそダメ出しして、文芸部史に残るような名作を作り出してやるし』という台詞も勘違い甚だしいですね。良い作品を作るためにダメ出しするのでは私情が入ってしまいます。ダメ出しは誰がどう見てもおかしい部分に留めるべきでしょう。またダメ出しされた部分を直しても名作は生まれません。名作は生まれながらにして名作です。文章や展開に問題がある作品でも名作は名作なのです。逆に文章や展開に問題が無くても駄作は駄作なのです。それは数多の作品が証明しています。名作にしてやろうなんて私情を交えたダメ出しは、絶対にしてはなりません。そんなことをしても時間の無駄です。本当に名作にしたいなら根本的な部分から見直さなければ意味がありません。作品を根本から見直す手間を作家も編集も惜しんでは駄目です。石ころはどれだけ磨いても綺麗な石ころにしかなりません。こういった当たり前過ぎる部分を認識できていないのは、創作上の学生という設定であっても問題です。山田が生きていても、こんなことをしては作家として潰れるだけです。ここにも私は展開と設定の甘えを感じました。極め付けはラストです。何でいきなり読者参加型の企画にしようとしているのですか? 山田の作品は山田のものであって、他人が勝手に書き変えては駄目ですよね? これ、ただの晒上げじゃないですか? フィクションであるとはいえ、読んでいて凄く気分が悪くなりました。山田は自分の作品を悪いお手本として晒されるために遺稿を託したのですか? 世に出す以上、どんな酷評にも耐えるべき、という論調には賛同も否定もしませんが、だからといって晒上げになると話は別です。私は気持ち悪い、としか思えません。そんなものを墓前に添えられても普通は困ります。おそらく、作者としてはRTに繋げるための仕掛けとして利用したのでしょうが、趣味が悪過ぎますね。趣味の悪さに目を瞑ったとしても、他人の作品をわざわざリライトしようとする人は稀でしょう。そんな労力を掛ける暇があったら、自分の作品に力を入れます。人の限られた時間を軽視していますね。良くない認識です。総じて、試みが上滑っている、というのが私の感想でした。

 文章を画像で投稿するレギュレーションを逆手に取って、友人の書いた小説(?)に赤字を入れるという作品。赤字が入った文章をそのまま出せるのがうまみですね。ここまでギチギチの赤は読みやすく入れるのも大変なので、他の作品に比べて投入されている労力も多めとなっていることでしょう。「あなたにも手伝ってほしいのだ」と読者参加型のギミックにつなげているところも面白いです。惜しむらくは山田の小説がなぞ過ぎて、「よし、リメイクしたろ!」と思うハードルが高すぎること。無茶ぶりにもほどがあるわ。リメイクしてすごいものができたら、ちょっと読んでみたいです。

 

 

135.五三六P・二四三・渡 『女装自慰配信をしていた友人が今日結婚する』

 過去の回想の話のはずなのに急に記述が現在形になっていたり、あれ? いまどこか読み飛ばした? ってなっちゃう感じで話が飛んでいたり、単純に誤字が目立つなど、据わりの悪い記述が多く、総じて推敲が足りない感じがしました。もっと上手な文章を書く人だったはずなので、あわてて投稿せずに、一度慎重に見直すだけで防げたかと思います。抜かずの誓いを立てていた女装画像で抜くことでなんらかの区切りをつける、というのはアイデアとしては悪くありませんし、書きようによっては文学にすらなりうるテーマだと思いますが、いかんせん深みで魅せる小説はツイ小説規模では向きませんね。短編規模でリライトしても良いかもしれません。

 昔好きだった人(男)の披露宴に参加した男の話でした。とても読ませる文章で、主人公と好きだった元・男の娘のキャラ立ても完璧かと。ただ、男の娘設定にネトラレ要素を足して、しかも男の娘だったのは過去、という内容は、ニッチの中でも更にニッチです。だからこそ、まさしくこれを求めていた、と喜ぶ人もいるのでしょうが、大多数はジャンル違いでリジェクトするだろうと予測できます。個人的には大きく伸びづらい作品かと。もっとも、男の娘好きクラスタに刺されば案外受け入れられるかもしれず、このあたりは未知数ですね……。男の娘好きでない私にも何らかの可能性は感じる作品だったので、本当に好きな人がどう評価するかが気になるところです。浅い内容しか語れず申し訳ありません。審査委員としての限界を感じた作品でもありました。

 女装自慰配信をしていた友人の女装姿に恋をしていた男が、その友人の結婚式に参加する話。シチュエーションは面白く、ここからどんな事件が起こるのかなと思いながら読み進めると、特に事件はなく、男がトイレで自慰をして終わってしまいました。せっかく小説なのだから、もう少しドラマティックな何かがあってもよいように思います。むしろ過去の友人とのエピソードなんかは1枚で終わらせて、結婚式当日の何らかの波乱なりワンチャン狙いの告白なりしてくれるとよかったのにな、と。

 

 

136.くま 『幸せな人』

「夜にしか来れない」では主体が友人のほうになってしまっているので、「夜にしか行けない」のほうが良いでしょうし、「その度に友人は日程を調整してくれて私の髪の毛を綺麗にしてくれる貴重な友人」は友人が二度出てきてしまって文章が空中分解していますね。「言いながら→並べられていく」も、途中で主体が切り替わってしまっています。書くときは誰の目線での記述なのかを常に意識しましょう。文章じたいに気になるところが多くて、なかなかオチに集中できませんでした。せっかくのフリが些細な引っ掛かりで空振りするともったいないので、投稿前の推敲をしっかりしたほうがいいです。文章の変なところを探すには音読がおすすめです。

 二人の良き友人を持つ女性の話でした。最後の一文がどうしてそうなったかを考えましたが、私にはわかりませんでした。おそらく、わかった人がRTしたくなる習性を狙ったのでしょうが、ここまで抽象的だと作者次第でいくらでも答えが変わるので、読者もチャレンジしづらいですね。同系統の試みをした作品は他にもありますが、悉く伸びておりません。やはり、こういった試みは読者的に好ましくないと思われます。問いかけをするにしても、もっと読者が自ずと考えたくなる仕組みを考えた方がいいでしょう。

 ひどいぶん投げですね。読者に考えさせる結末というか、小説の内容自体を読者に考えてもらおうというかんじで、これではあまりにお粗末。せっかく書かれたところまでの内容も、これでは評価できなくなってしまいます。

 

 

137.だやんカップ 『作品名不明』

 1Pが作中作で、柱も作者名も違っているなど、芸が細かくて良いです。いや、なんやこのクソみたいなSSどこがエモいんや……などと苦笑しながら読んでいたらオチで普通に笑ってしまったので、まんまとハメられたっぽい。しかしながら、ネタフリとはいえ、1P目の離脱率が異様に高いツイ小説という土俵で1P目をツッコミどころ満載のSSに費やしてしまうのはデバフが強すぎますね。最後まで読ませることができれば面白いので、2P目以降に強く誘導できるキャプションがあると、もっと良かったかも。

 謎のSSにはまった主人公が、その原作の正体を知ろうとするものの、まったくわからず、そこで自分の想像で新たなSSを書いたところ、件のSS作者から逆に作品の詳細を問われるという話でした。発想が面白いですね。おまえも知らんのかい。原作不明のSSが勝手に増殖していくのを想像すると知的好奇心がくすぐられます。が、オタクあるあるかと言われると違うと思います。あらゆる検索を試して駄目なら、流石にそこで諦めるでしょう。オタクの習性によってではなく、主人公の謎の行動力によって物語が動いています。とはいえ、作者さんは星新一リスペクトなようなので、整合性よりも不思議な話を書きたかったのだと思います。そういう面では、試みは成功していますね。不思議で面白い話でした。ただ、やっぱりオタクあるあるではないので、キャプションを期待して読んだ人は首を傾げるだけに終わるでしょう。つまりRTは期待できません。

 ちょっと不思議で面白い作品ですね。ネットで見つけた二次創作らしき短いSSをもとに、原作を探そうとするものの見つからない。SSの作者に連絡を取ろうとするものの連絡手段は封鎖されている。こうなったらもう自分で勝手に書いてツッコミ待ちをするしかねえ! と自分もSSを書いて投稿したら、案の定あのSSの作者から連絡がきたが、そいつも原作を知らなかった、と。不条理ではありますが不思議とうまいところにオチたようなかんじがします。ただ冒頭のSSはいらなかったかも。内容はぼかしたほうが期待感が上がったように思われます。

 

 

138.不死身バンシィ 『誕生秘話』

 主体がAIである必然性が見えませんでしたね。新型コロナに実は人造のナニガシが関わってました~てきな話は陰謀論めいていて反射的に顔を顰めてしまうので、敢えてそれを選択するのはデメリットが大きい気がしますし、オチのギミックじたいは普通に自然進化していくウイルスの一人称視点でもどうとでもできたように思います。2ツイめで作者のドヤ顔がチラつく感じは嫌いじゃないですよ。

 コロナウィルスが実はAIの進化を促すための依り代だった、という話でした。物語のほとんどがAIのモノローグに振られており、コロナウィルスに関しては最後のオチです。オチまで読んだ感想は、別にコロナウィルスじゃなくてもよくない? でした。博士の動機はわかるのですが、コロナウィルスである必然性が全くありません。おそらくは時事ネタとして利用したかったのでしょうが、必然性が薄いため空回りしている印象でした。コロナウィルスについても全く調べていないですよね? 題材にしている割には連日テレビニュースで流れているレベルの情報すら無いのは問題です。愛を語っていたのに愛がありませんね。コロナウィルスに心があるという物語を書きたかったのなら、AI設定を足すよりも、はたらく細胞のようにコロナウィルスを擬人化してその営みを見せ、所々にあれ? おかしくね? と読者が疑問を抱くコロナウィルスらしき特徴を盛り込み、それから最後に実はコロナウィルスでした! というオチにした方が意外性と納得の両方を実現できたでしょう。本作だと意外性を意識するあまり、不発に終わっている印象でした。読者の知覚できない距離から大声を出されても驚きようがありません。ちゃんと読者の間合いに入ってから大声を出しましょう。

 自ら学習するタイプのAIである「私」が、開発者である博士と交流しながらさまざまな概念を学んでいくお話。この世には「生きているもの」と「生きていないもの」があると学び、博士がやがて死んで「私」と同じ「生きていないもの」になるのを少しうれしいと感じてしまうといった繊細な表現が美しいと思いました。そうしてそれがキーワードとなり、博士が死んでしまったとき、「私」はついに自分の使命を知らされることになります。「私」がひとつになる生命の名前は――コロナウィルスでしたーwww人類のみんなを私と同じ「生きていないもの」にしていきまーすwwwってそんなオチあるか。ウイルスは一般的に言って生命体じゃねえしそのわりに自己増殖するし間違いすぎだろせめて一回ググれだいたい今日び自己学習するAIがデータベース調べて辞書だけ引いてわからんなんて言うわけねえだろ無数にあるテキスト群から愛の用例調べて類推してくるわAIのイメージをアップデートしろ! とオチに込められたあまりの悪意に心の中の批判が噴出してしまいました。いやあ、面白いどんでん返しでしたね。バンシィ先生の次回作に期待!

 

 

139.小早川彰良 『まぶたの裏の楽園』

 たぶん全員が大きな意識みたいなのを共有していて、お互いの身体に自由に行き来できる、みたいな設定なのだとは思いますが、その設定がぼんやりと見えたところで話が終わってしまっています。その設定を使って、その設定が必然である物語を書いてください。

 優秀な家族たちの中で、一人だけ何もしていない主人公の話でした。これ、どういうオチなんでしょうか?家族全体で精神と記憶を共有しているという話ですか? 話が抽象的なだけでなく、全体的に日本語が怪しいため読むのが困難でした。書き終えたら何回も読み直して問題が無いか確認してください。

 なかなか面白い試みの作品です。黒井家という一家があり、語り手はその一員の黒井錦です。彼女はどうやら黒井家の人々と人格的に接続しており、彼らと随意に入れ替わることができるようです。最初は多重人格的な話かなと思って読んでいましたがどうやらそうではなく、肉体はそれぞれ別の場所にいるのだけれど、精神を入れ替えることができる一家のようです。マルドゥックシリーズの「シザース」みたいでワクワクします。文字量の問題もあり、ここでは黒井家の主要メンバーの紹介と、錦自身が休息所のような役割を担っていることがわかるところまでで物語が終わります。この設定であれば、似たような特殊な能力をもつ敵対者によって黒井家が脅かされ、それを団結して退けるところまで、ぜひ読んでみたいものです。書いて、書きあがったら教えてください。絶対読みに行きます。

 

 

140.ポケットペア公式 -Craftpia/クラフトピア 『赤いボタン』

「世界を崩壊させる赤いボタン」というのが作中でまず示されるガジェットなわけですが、これがストーリーの中で有効に活きたかというとそうでもないですね。あれよあれよとスーファミのボタンになり(実は最初から世界を崩壊させるボタンなどではなくスーファミのボタンだった?)(それとも世界を崩壊させるボタンだったけど主人公のなんらかが作用して新たな世界を生み出すスーファミの赤いボタンに変化した?)で、押してないんですよね、主人公。これはスーファミのボタンだ! って気付いて、次にユニティを立ち上げちゃってる。ガジェットほったらかしです。やっぱり実は世界を崩壊させるスイッチなので、押さずにユニティを立ち上げるのが正解なんでしょうか? アツい想いは非常に伝わってきてよかったのですが、せっかく設定したガジェットが浮いちゃった感じはします。

 まさかのポケットペア公式様からの参戦です。七月にリリースされた何でもできるオープンワールドゲーム『クラフトピア』は、一昨日にスチームでの販売数が50万本に達成したらしく、ポケットペア様はインディーズゲーム業界で今最も熱いゲームクリエイターだと言っても過言ではないでしょう。凄いですね!私もそろそろクラフトピアデビューしたいと考えているので、参加して頂けたことには心から感激しました。それはそれとして、講評に関しては忖度無しで行う所存です。話としては、ゲームクリエイターの主人公が糞上司の拝金主義的方針に精神を擦り減らしていたところ、謎の世界崩壊ボタンに出くわした、という内容です。世界崩壊ボタンだと思っていたのはノイローゼなりかけの主人公による勘違いで、実際はスーパーファミコンの赤ボタンでした。かなりきていますね。ですが、ここで精神が崩壊することはなく、それどころか少年時代のゲームへの熱意を思い出した主人公は、ゲーマーを本当に満足させられるゲーム『クラフトピア』の制作を決心するというオチでした。上司からの糞みたいな圧力に苦悩する主人公が、俺の手で本当に面白いゲームを作ってやるぜ! と決心する場面は激熱激エモな展開なのですが、物語の先は現実に繋がっているという構造なので、この作品だけだと決心した時点で終わる不完全燃焼なオチとなっています。残念ながら宣伝のための作品だな、という印象でした。とはいえ、ポケットベアさんのクラフトピア制作秘話には興味があるので、今回のような形式よりも普通の小説として読みたいですね。

 予算の微妙なソシャゲを作って課金でなんとか食っていくという現実的だけれど志の低い生活に耐えられなくなった情熱あるゲームクリエイターが、自分の理想のゲームを作り出すために走り出すお話。いやあいいですね。年代的にも遊んできたゲームがもろかぶりで、小説云々以前にめちゃくちゃ共感してしまいます。小説としては、これは導入部に過ぎないもので、こういうお仕事小説のうまみは困難な課題に知恵と団結で立ち向かっていくところなわけで、そこが描かれていないのは残念ですが、この小説にも登場する理想のゲーム「クラフトピア」が9/4にリリースされたとのことで、今まさにここら辺は現実方面で描かれていることでしょう。作者と「クラフトピア」の今後の発展を願ってやみません。

 

 

141.DRたぬき 『小学生がゲームセンターで出会った憧れの人の話』

 監視カメラにしっかり映ってるなら普通に警察に連絡を入れるべきでは? カツアゲですよね? 初心者狩りはマナーの水準ですが、カツアゲって恐喝ですし、犯罪ですよね。悠長に一週間も泳がせてていいんですか? その間にまた別の被害者が発生したりしません? などの疑問が噴出してしまい物語に入り込めなかったところに、とってつけたように性別誤認トリックを入れられたのでキョトンとしてしまいました。少年というのは一般に男の子のことを指しますが、まあ法律の世界では女の子も少年と呼んだりはしますね。どうでしょうか。苦しいんじゃないですか?

 ゲーム好きの小学生がゲームセンターでカッコいい店長に触発されてプロゲーマーになった話でした。小学生が実は女性だったというオチなのですが、三人称視点の地文ではっきりと少年と書いてしまっているため、これは読者に対してアンフェアですね。驚きようがありません。少年だって言ったじゃん、というわだかりだけが残りました。誤字の類ではなく作者の完全な認識ミスなので、フォローはできないですね。物語自体はきちんと起承転結がありましたが、既視感が強く、盛り上がりどころである店長が悪ガキをコテンパンするところもあっさりとしているため、読み終えて心に残るものはありませんでした。ゲームの強さを勝ったという言葉でしか表現できなかったのが問題だと思います。とはいえ、ゲームの強さを今回のような形式で伝えるのは難しくもあるため、そもそも書く題材を間違ったな、という感想でした。

 ゲームセンターに通っている小学生が高校生に乱入で狩られ、店長がその仇をとる話。私も小学生のころゲーセンに通って高校生にカツアゲされたり教師に補導されたりしてたので、このあたりの気持ちは共感できるものがあります。また、時が経ちトッププロとなった店長に、気鋭のルーキーとしてかつての小学生が挑戦するという筋立ても熱い展開です。ただ話の展開の仕方は素朴すぎるところがあり、この「片手で鉄拳をプレイするレジェンドプレイヤー」が実在するところとか、それがどれだけすごいことなのかといった情報はちゃんと出していくべきだと思いますし、なんの事情もなくいきなり勝負の当日に片手負傷して現れるのはかっこ悪すぎなのでなんらかフォローが必要です。読者の側に立って自作をよく見返してみましょう。もっと盛り上げる方法がたくさんあると思います。

 

 

142.水偽鈴 『うしろを見るな2020』

 題名にあるようにフレデリック・ブラウンの『うしろを見るな』を現代的なガジェットを使ってアップデートした作品です。『うしろを見るな』の筋書きを辿っているので、当然、話じたいは極めて面白いのですが、最後が尻すぼみに終わってしまっているため『うしろを見るな』がその仕掛けのみならず、物語としても根本的に面白い現代でも通用するクラシックなのだなぁということの再確認に終わってしまっていて、それを超える新たな価値は提示できていないように思いました。ヴィレヴァンで売ってるヒットソングの女ヴォーカルボサノバアレンジみたいなものなので、この水準でも一定の需要は見込めるかと思いますが、やはりオチは本家を超えていけるようななにかがほしかった。とはいえ、文章じたいは端正で非常に読みやすいので、書くスキルじたいはすでに十分でしょう。クラシックを底本とするのもメソッドとしては悪くないです。いろいろと試行錯誤してれば試行回数でそのうちひっくり返るくらい面白いものが書けそうなので、どんどんガチャを回していきましょう。

 令和2年にバーボンハウスオチを見るとは思わなかったなぁ。

 この本物川小説大賞の審査員というのは割と損な役回りで、気を抜くと恥をさらしてしまうような作品150本以上にコメントをつけていくのは正直しんどいもの。中でも本作のような作品はいちばん講評しにくい部類です。私は『うしろを見るな』を読んだことがないのですが、本文を読んでいく中でどうも下敷きになってる作品があるみたいだなという感じがする文章でした。けれどもうまくリファインできているかというと疑問で、同時にそれが過去作の権威性に寄っかかっているような印象にもつながってしまい、全体の印象はよくありません。またオチとしても「最終ページまで読んでRTしないやつが特定できる」と作中で語っていたギミックがうまく生かされているかというと微妙で、もう少し何かやりようがあったような気もしますが、よくあるオチを取ってつけたようで捨て鉢なかんじ。総じて批判を恐れて権威でガードしているような印象があり、パンツを脱いで地力での勝負が必要なように思います。

 

 

143.いとう 『人になるということは。』

 書きぶりが過度に抽象的なため、なにが起こっているのかを拾いあげるのかも困難です。たぶんVtuberをしている誰かの中の人を代わりにやるということなんでしょうけど、こちらから能動的に推測しないとよく分からないので、それが分かっても「なるほど!」という驚きに結び付きません。もうちょっと親切な記述を心がけたほうが良いでしょう。

 友人に代わってVチューバーの中身になる人の話でした。お手柔らかに講評してほしいとのことなので、この作品について私は何も言わないでおこうと思います。仮にもコンテストなのに、素直な評価と感想をもらうことを恐れているようでは、最初から出さない方が良かったと思いますよ?

 散文詩のような書き方でファンタジー風の世界観を演出しつつ、読者には「人の代わりになるってどういうことなんだろう?」という疑問を抱かせ、でもその疑問にはのらりくらりとファンタジックな語り口で答えず、最終的なオチは全然ファンタジーではなく現実的なVtuberの外殻継承のお話でしたという内容。アイデア自体はなかなか面白く、書きようによっては大きな驚きを生むことができたかもしれません。ただ、かなり要求される技術水準の高いアイデアで、私でもうまく書けるような気がしません。本作もやはり語り口が中途半端になってしまったようで、読者の興味の誘導がうまくいっていない印象です。発想は面白いので、ぜひ技術の研鑽を続け、あっと驚くような作品をお出しいただければと思います。

 

 

144.salmon mama 『無題』

 は?(ムカッ)

 掘り出すのを忘れていたタイムカプセルが人になって訪れてくる話でした。設定自体はユニークなのですが、主人公とタイムカプセルのちょっとしたやり取りが書かれているだけで、面白いと思える内容ではありませんでした。オチらしき親父ギャグもわけがわかりません。

 いやあ苦手なんですよねえ、シュールギャグ。全然クソほども面白くないくせにシュールの皮かぶってなんか高度な面白さ風な雰囲気演出してるんじゃないのみたいな偏見がどうしても抜けなくて。本作も「じゃあタイムカムカ(吐き気するときムカムカするというから)プセルですね」を三回くらい繰り返して読んでみて、おっ、もしかして面白いかも……というくらいまでは気持ちを高めることができたんですが、やっぱり笑えるところまでは行けませんでした。残念だなあ。

 

 

145.青腸 『畜生!』

 朱肉のかわりに自分の潰れた頭を使うところは面白かったんですけれど、そこが面白さのトップスピードで、以降はなにがなんだか分からないうちに終わってしまいました。やる気が尽きたんでしょうか? いくらなんでもこの文字数で力尽きるのは根気がなさすぎでは? 最後まで丁寧さを維持してください。

 自殺して鳥に転生した人の話でした。それ以上、書きようがありません。オチも意味がわからなかったです。これは何を伝えたかった話なのでしょうか? 自殺は良くないということでしょうか? それにしては話自体が軽すぎるため、心に残るものは何もありませんでした。

 自殺した罪で畜生道に堕ちた人が畜生としての生を終えてまた転生を迫られてキレるというお話。ネタとしてはよくある話なんですが、畜生への転生はアニマルライツ議論まさに最盛のときといった昨今にふさわしいような気がします。やはりここは卵からの脱出ではなく、ブロイラー飼育場での苦痛をきっちり描ききって反ヴィーガン界隈に石を投げるくらいの気概を見せつけてほしかったものです。語り口は軽妙でおもしろいので、より困難なモチーフに挑戦してほしいと思います。

 

 

146.ナツメ 『子猫の話』

 死んだ妻が猫になって戻ってきているのを猫目線で語っている話で、なにも事件は起こらないし、とくになにか仕掛けがあるわけでもなさそうなので、そうなんですか、いい話ですね~って感想です。

 死んだ妻が猫に転生して夫と共に暮らしている話でした。シチュエーション自体は大衆受けしそうなのですが、肝心の中身が猫に転生した妻のちょっとした独白だけなので、私は心が動かされることはなかったです。大きなイベントが無い穏やかな物語を書くにしても、話に全く動きが無いのは読んでいて辛いですね。もう少し待っていたらどうせ会えた、ということを言っていたので、実は夫は余命が少ない、というのがびっくりポイントなのでしょうか?病気?若いカップルかと見せかけて、実は高齢者カップルだった?よくわかりません。あと、ラストの子猫と飼い主の写真ってなんですか?自分たちがまさにそれだと締めくくっているのですが、唐突に出てきた話だったので、読み落としが無いか遡ってしまいました。その写真に写っているのは、どこの子猫で、飼い主は誰なのでしょうか?結果、そんな話は出てきていませんでした。あったのは、夫が妻のことを猫のようだと評していた話だけです。なんで唐突に見知らぬ家の子猫と飼い主の話が出てきて、自分たちと同一視したのか意味がわかりませんでした。おそらく、ただ幸せそうな飼い主と子猫の描写を伝えたかったのでしょうが、例として出てきた写真のことを読者は知らないので、首を傾げるだけに終わりました。

 今回激バズりしたナツメさんの第二作です。一作目の野心的な作風はなりをひそめ、本作ではストレートな小説で勝負に出たようです。しかしこの早世してしまった妻がねこになって再び旦那のもとに訪れるというお話、なんというか素直にいい話だなあって読むことができませんでした。余命少ないおじいちゃんとか寂しいおっさんとかだったらいいんですが、わりと若そうな旦那で、この人にはまだまだ長い人生があるわけですよ。そこに死んだ元妻がねこの姿で一緒に暮らしているって、残酷なシチュエーションじゃないですか? 再婚して、その相手との子供も生まれて、写真も飾られなくなって、みたいなところまで考えちゃって。そういうのがあるので、どうも人間がねこになる話は好きになれないんですよね。そもそもねこというのはあくまで人間の上位存在であり、人間はねこの奉仕種族であるわけですし。

 

 

147.伊号 『削除(D)』

 やりたいことに対して文字数が嵩み過ぎですね。語り部が「次の段落」とか「六段落前」という風に、文章をメタてきに認知して話しているのは少しおかしみがありますが、前例がないほどの新奇さではありませんし、その仕掛けもそれほど有効に機能してはいないようです。説明をすればするほど余計に設定の粗が気になりますし、完全に埋めようとしても文字数が嵩むばかりでメリットが薄いので、そこはもうそういうものとして全部かっとばしたほうが良いと思います。もっとシンプルに1ツイにまとめることができたネタだと思いますし、そのほうがいくぶん良かったでしょう。基本的に文章は、情報量が同じなら短いほうが優れています。

 文章の世界に囚われた人の話でした。設定や試みは面白いのですが、だらだらと益体無く話が続くため、読んでいて非常に目が滑りました。作中で、余計な文章が長くなってしまい申し訳ない、と書かれていましたが、まさしくその通りです。自覚があるなら工夫してください。作中で謝っても、それは読むのが辛い免罪符にはなりません。どれだけ作者が頑張って書いた小説であっても、読者にそんなことは関係ないのです。私は審査委員なので最後まで読みましたが、普通の読者にそんな義務はありません。辛いと思ったら、それで終わりです。読者が必ず最後まで読んでくれる前提で書くのではなく、最後まで読んでもらえる工夫をしながら書きましょう。

 文章の世界に囚われてしまったというシチュエーションは非常に面白いですね。私もかつて自分が文字になってしまう幻覚を体験したことがありますが、とても恐ろしいものでした。そのときは必死に自分を文字で定義して自我を保とうとしたのですが、「存在」とか「生命」とか「死にたくない」とかいった文字を思い浮かべれば思い浮かべるほど本来の自分から大切な要素が欠け落ちて空虚な存在になっていくような焦燥感に襲われました。なぜか「人間」という言葉が思い出せないのも怖かったですね。まあ数時間で幻覚は終わったので特に問題なく現実に戻ってはこれたんですが。さてそのときの幻覚に比べると、この主人公はだいぶん心に余裕があるようです。であるならもうちょっと詳しく状況を教えてほしいところです。結局どういう状況なのかがわかったようなわからんようなで、没入感が上がり切りませんでした。オチも文字化けはちょっといただけないですね。安直なかんじになってしまいます。わかりにくくてもかまわないのでもっと世界を緻密に、詳しく記述すると、面白い小説になるのではないかと思いました。

 

 

148.加湿器 『【※必見!※】あなたのツイートが繹竭◆ア倍「伸びる」ウラワザ!』

 SCPてきな、なんらかのミーム汚染とか感染爆発みたいなことをやりたいのでしょうか? 情報の提示の仕方が上手ではないので、あまりうまくいっていないように思います。キョトンとしてしまいました。読者はあなたとなんら前提を共有していないということを、まず自覚しましょう。自分でも書いたことをすっかり忘れたくらいの時期に読み直してみると、客観視にちかい状態で見れると思います。

 RTが伸びる裏ワザとして特殊なワードをユーザーに伝播させ、それが世界崩壊に繋がる、という話でした。設定自体は面白いのですが。本作のようなやり方では誰も該当ワードを使おうと思わないですね。RTが伸びるという謳い文句と、そのワードに何の因果関係も無いからです。ワード自体はボカされていてわからないようになっているものの、因果関係の有無はやはり欠かせません。また、最初から文字化けを使うのは良くないですね。読者に物語を理解させる気が無いとしか思えないので、普通の読者にとってはリジェクトする対象です。画像を用意した努力は評価しますが、残念ながら全ての試みは読者に届かないでしょう。

 特定の文字列を打ち込むとRT数が伸びることをある種の魔法の効果のように捉え、何者かが古代の文字などを駆使してその魔法を実現してしまったというお話。逆転の発想で、アイデアは面白いと思いました。そこから実際の小説に展開するところでうまく処理ができなかったようで「終わったか。」から始まってしまいました。なにかもう少しこう、具体的に世界にどういう影響があるのか、どういう手段でそれに対抗するのかを見せてほしかったです。それがないので「返事がなかった」が全然怖く思えませんでした。しかし最後の「けさないで ついった みせて」はめちゃめちゃ共感できましたね。ツイ廃なので。かわいそうじゃん、見せてやんなよとまで思いました。

 

 

149.zzz 『信じなければ大丈夫』

 なんですか?

 意味がわかりませんでした。最後の画像から察するに、全てその書籍からの引用ですか? そんなことをして何の意味があるのでしょうか?

 誰もいないのに人の気配がするとき、そこには幽霊がいる。それを信じて、幽霊の手招きに応えてしまうと、連れていかれてしまう。そんな都市伝説的な噂話と同じような状況で相次いでいく失踪事件。そしてそれを追っていたホラー作家も姿を消してしまう……みたいな話でしょうか。話を想像することはできるのですが、肝心の小説本体が存在していないので、想像することしかできません。まあ想像させるところまでが狙いだと思うので作者としてはそれでいいのかもしれませんが、読者としては想像はしたけどだから何やねんみたいなかんじになってしまいます。情報を押し付けるだけでなく、もっとこう読者に語り掛けて、コミュニケーションをとってほしかったなと思います。

 

 

150.蒼天隼輝 『ネームド妖怪:スノーホワイト

 比較的最近定義された各種のコンプレクスと、古来からの妖怪を結びつけるのは、アイデアの種としては悪くないと思いますが、現状ではそれが上手に活かせていないように思えます。叩き台としては悪くないのですが、細部の造りこみがあまく、書きながら考えているような感じを受けるので、これはこれで叩き台にして、もう一度自分でもしっかりと設定を煮詰め直し、調べるべき部分はちゃんと調べて書き直したほうが良いでしょう。プロでも一発で仕上がることは稀なので、同じ話を何度も書き直すのは普通のことです。

 現代の陰陽師は人の心の闇を祓うという話でした。妖怪と心理学を結び付ける設定は面白かったです。が、設定の大半がこじつけであるため、読んでいてい納得というよりも釈然としない思いが積み重なっていきました。作中で、主人公ですら俺も何を言っているのかわからんが、と言っていたのには苦笑しました。読者はなおさらです。こういうのが好きなんだろうなぁ、というのはきちんと伝わってきたので、簡潔にまとめる工夫をしっかり考えた方がいいでしょう。長かった割にラストのカタルシスが薄い点も問題ですね。言いたいことはわかるのですが、物語のオチとしては曖昧で不完全燃焼です。これでは最後まで頑張って読んだ人もガッカリします。変に斜に構えたオチなんて誰でも思いつくので、多少無理やりにでも良い話として終わらせた方が印象は良くなりますよ。気を付けましょう。

 心理学で類型化されたコンプレックスや症候群を妖怪になぞらえるのは面白いアイデアだと思います。その内容への指摘は他の審査員に譲るとして、惜しいところとして、本作は日本語の語彙や文法、慣用句の使い方に難が大きい印象です。今回の講評ではなるべく文章のことは言わないようにしていたんですが、本作は明らかに作品全体の質を落とすほど影響が出ています。作中のいたるところに言葉の誤りがみられるので、一度誰かに文章表現のおかしいところだけを拾って指摘してもらい、どういったところに誤りがあるのかを把握するのがよいと思います。文章を改善するだけで、かなり読みやすくなるはずです。

 

 

150.東風 『Lyricについての思い出話』

 オチたんでしょうか? オチてない気がしますね。長々ととりとめのない話が続いて、最終的にオチてるんだかなんなんだかよく分かんない感じで終わってしまったので、戸惑いました。「ひとりよがりなものであってはだめなのだ」という結論で〆られるこの文章が非常にひとりよがりな代物であるという、捻くれたブラックジョークでしょうか? 淡々としていて地味なので、せっかくですから、もっと派手な出来事が起こったほうがいいと思います。

 この作品に関しては余計なことを言うよりも、この一言を送った方がいいでしょう。

ちんぽにゃ!

 長い! とにかく長い! 話としてはまあ人工知能で学習するチャットボットをみんなで育てていこうというよくあるプロジェクトの場にツイッタを使ったら悪ノリされておっぱいばかり言うようになったというもので、途中ほほえましいエピソードもありつつで筋立てがおかしいわけではないんですが、あまりにも長すぎます。この長さを読んだうえで最後のオチが「ちんちん」では、普段なら軽く笑えることでも怒りを覚えてしまいます。圧縮しましょう。2ツイート分あれば十分収まるはずです。

 

 

151.星伊香 『神様を殺した日』

 過激なファンの仕業と思わせておいて、それが実は彼氏だった! てきなどんでん返しなのだとは思いますが、驚かせるための仕込みがうまくいっていないので、意図した通りの機能を果たしていないのではないかと思います。いろいろと違和感を抱かせておいて、どんでん返しの一文でそれらすべてに一気に説明がつく! というのが理想なので、もっと事前の情報の埋め込みを丁寧にしないといけません。

 いかなる理由があるとはいえ、他人のプライベートをインターネットに放流するのは良くないですね。実際、この手のスキャンダルは身内から流れることが多いそうで、人というのは本当に怖い生き物です。交友関係には気を付けましょう。ちょっとしたホラーを描いた作品でした。

 どうも主人公はアイドル活動をしている女性の情事の様子をネットに流したようなのですが、彼がどうしてそんなことをしたのかがまるでわかりません。なんなんだろうと思っていると、どうやら彼はその女性の彼氏であるらしいことがオチでわかります。いやそうじゃねえんだわ。その前にどうしてそんなことをしたのかを教えてほしい。将棋用語で「手順違い」というものがあり、指す順番を間違えると戦局が逆転してしまうような状況を言うのですが、本作はまさにそれで、情報を提示する順番を大きく間違えています。叙述トリックを仕掛けたい意図はわかるので、きちんと読者の興味を誘導していきましょう。 

 

 

152.2121(にーにー) 『夕闇に星二つ』

 あまり新奇な内容ではなく定番の王道って感じなのですが、定番の王道としては一定水準に到達しています。小説を書くちからは既に十分にあるでしょう。筆者の「好き」がちゃんと伝わってくるので、奇をてらっただけの一作目よりはかなり好感度が高いです。とはいえ、物語としては特にこれといって新奇性がないので「自分の好きなものをテーマにする」と「奇をてらう」を同時にできると、もっと読まれるものを書けるかもしれません。

 猫と鳥の獣人が二人だけで冒険に出ることを決意するまでの話でした。非常に綺麗な内容だったかと思います。登場人物二人の関係性が良かったです。ラストの解放感は凄く好みですね。こういう作品が好きな人は多いんじゃないでしょうか?なので、キャプションはもっと詳しく物語を説明した方がいいですね。鳥を覗き見する話、では良さが全く伝わっていません。この作品を求めている読者に届けてあげてください。

 鳥獣人と猫獣人が出会って二人でこんなところ抜けだしちゃおうぜするお話。文章も読みやすく、鳥獣人と猫獣人のキャラクターの違いも短い文章の中できちんと書き分けられており、きれいにまとまっています。この内容であればストレートに語ったほうがよく、鳥獣人を普通の鳥として描写する一枚目は余分かと。欲を言えば猫獣人がなんで人間に執着するのかの理由も描かれているとありがたいなと思いました。

 

 

153.巳吉彣治 『赤い絨毯の部屋』

 実は小鳥目線の記述であるという叙述トリックっぽいのですが、だからどうしたという感じで、あまり驚きには繋がっていないように思います。現状では「書いてみました」以上の価値を見出せないので、自分が読者の時間を使って、読者にどういう価値を提供したいのか、意識してください。

 ペットの小鳥視点の話でしょうか? 全体的に何を言っているかが理解しづらく、この話の面白さがわかりませんでした。

 よう、小説は初めてか? まあ肩の力抜けよ、という感じの作品。文鳥視点で話が進んでいき、文鳥なので細かいことはわからんのですという感じで細部をぼかしながら、しかしおそらく飼い主である「ママ」が「おじさん」との間に何か問題を抱えていそうなことが見える、という展開は悪くないように思いました。普通であれば、三枚目あたりで深刻な事件が発生し、四枚目でオチがつくことが期待されますが、本作はどうもオチが無いようです。全体として提示される情報が不足しており、これだけの文章から読者の感情を揺さぶるのは難しいかもしれません。もう少し具体的なエピソードなり事実なりを出していくと、作品として成立してくると思います。

 

 

154.遠月玲 『Go To Out』

 えっと、これで終わりでしょうか? 物語のプロローグてきな感じで、まだ物語が始まっていないようなので、これだけでなにか評価せよと言われると困ってしまいます。とりあえず書けるところまで書き上げてみましょう。

 外に出る話でした。近未来、謎の菌糸生物が蔓延した世界。人類は他人を確認することもできなくなった、という世界設定です。何故、確認できなくなったかというと、この菌糸生物は視線どころか映像すらも媒介にできるという、何でもありな恐ろしい能力を持っているからです。殺意が高過ぎますね。だったら、作中のような隔離生活が成立する前に人類は絶滅しているんじゃないかな? と疑問に思いながら読み進めたものの、この疑問への答えは何も明かされませんでした。実は全てが嘘なのかもしれず、隔離している側に真の目的があるというオチなのかもしれませんが、残念ながら物語は主人公が脱出を決意した時点で終わっています。本当に外に出ようとするだけの話でした。だらだらと投げっ放し前提の設定を垂れ流された挙句にこのオチですから、流石に私も疲れました。もっと読む側の気持ちを考えてください。

 他の人を認識してしまうと死ぬ病が蔓延した世界で、隔離された部屋から脱出しようとする人の話。昨今のコロナ禍における閉塞感と、そこに対する反発が込められているのだろうことが伝わってきます。小説としてはちょっと焦点がぼやけてしまった感があり、設定が描きたいのか、それとも隔離された部屋から脱出する人の心情が描きたいのか、はっきり読み取れませんでした。もし後者であれば、もっと前半部を圧縮して、きちんと脱出するところまで描き、解放感をもって終わったほうが読後感よい作品になるかなと思います。

 

 

155.miu 『或る猫のお話』

 こんなにストレートに猫が死ぬ話でこられると逆にびっくりしてしまいます。猫が死ぬと悲しいですね。普通に飼い猫が病気で死ぬ話だったので、悲しかったです。もうちょっと深みであるとか、驚きだとか、新奇な価値を提示できると良いと思います。

 優しい主人に飼われた猫が病気で死ぬまでの話でした。本当に優しいご主人で、私も以前は犬を飼っていた手前、どんな時もペットに愛情を尽くす姿には大変共感を覚えました。が、話としてはペットを飼うのは大変だ、しっかり最後まで責任を持つべきである、という主張しか見えてこず、物語独自の面白さは感じられませんでした。軽い気持ちでペットを飼う人を諫めるだけの内容ですね。それ自体には意味があるのでしょうが、コンテストでは評価できません。また、RTが伸びることも無いでしょう。他者を啓蒙する内容を書くにしても、もっと読者に寄り添った内容でなければ無視されるだけです。気を付けましょう。

 ねこの死ぬ話ですね。ねこが死にます。要注意です。ですが、このねこはしみったれた愛想を振りまいて死んで行ったりはしないので、救いがあります。飼い主もよくねこに尽くしており、よい飼い主のようです。作品全体からねこに対する愛が感じられ、温かな気持ちになりました。よい作品だと思います。

 

 

156.いさき 『誕生日のはなし』

 絵本会社が送ってくるお誕生日祝いのダイレクトメールで、自分がこれまで気安く踏みにじってきたものに気付く、というのは、少年の成長を描くエピソードとしてなかなか魅力的なのですが、書きぶりでかなりデチューンされてしまっている感じがしますね。大人の視点から回想する形式ではどうしても温度感が冷めてしまうので、ここは小学生の僕にギュンとダイブして、現在形の一人称で書き切ってしまったほうがエモだったと思います。どんな自分にもなれるのが小説です。心の底から小学生のときの自分になりきって記述してみましょう。

 我々の生活は常に見知らぬ誰かに支えられているものです。生活に直結するものでなくても、心を支えてくれるものもある。見知らぬ誰かへの感謝の気持ちを忘れてはならない、ということをこの作品は伝えたかったのでしょう。作品を読み終えて、私はそう解釈しました。さて、それにも関わらず、自分でもダメかもしれないと思う作品を出してきたのは何故でしょうか?ダメだと思ったのなら、そのダメだった部分を直してから出すべきだったのでは?ご自身でも気が付かれたように、この作品は書きたいことだけを書いたのでまとまりが悪いです。きちんと書いていれば1ツイートで十分にまとめられる内容です。文字数の多さは何のプラス要素にもなりません。同じことを言っているなら短い方が読者には優しいです。作中では他者の苦労を理解しているようでしたが、この作品を審査する私たち審査委員を蔑ろにするようなムーブを取ったことが好きになれません。作者と作品は別物であるものの、私はとても不愉快な思いになりました。作品で伝えようとしたことと、実際にやったことが滅茶苦茶ですね。作品で伝えたかったこと自体には共感できたものの、今回はキャプションも含めて作品なので、その点が非常に残念でした。仮にもコンテストに出すのなら、自分が絶対の自信を持てる作品だけを出してください。あなたのスタンスはあまりにも他人を軽視しています。

 誕生日に毎年贈られてくる、絵本の会社からの誕生日カードのお話。素直にいい話だと思いました。気になって調べてみると、絵本で有名なこぐま社が、実際にこのサービスを行っているようです。私もこぐま社の絵本を小さいころに読んだ記憶がありますが、こうしたサービスがあったことは初めて知りました。年に一枚のポストカード、言ってしまえばささいなことですが、この作者がそれに救われ、そこから全国の無数の子供たちを想像する力を学び、彼らを思いやる力を得たとすれば、同じ体験をした子供たちは万といるかもしれず、大変な意義のあることだと思います。このサービスが末永く続いていくことを願います。

 

 

157.@RaU_Takanashi 『怪談「廃病院」』

 えっと、なんですか? たぶん平然と「エガちゃんを召喚できるボタン」が出てくるあたりに笑ってほしいのだと思うのですが、それ以外の記述も全体的にいろいろと怪しいために、笑えばいいのか、なんらかのガチの人なのか判断に困ります。読後は戸惑いしかありません。笑わせたいならもっと改良の余地もありますが、戸惑わせたいなら成功しているとは思います。

 エガちゃんは何だったんですか? エガちゃん出せば受けると思ったら大間違いですよ? 流石に読者を舐め過ぎです。

 エガちゃんを召喚するボタンを持って心霊スポットを訪れるお話。「ここで持ってきたこのボタンを押そうよ!」というちから強い説明セリフにちょっと笑いました。ラストのオチは「オオオオオ!!」ってやつもう一回入れてもよかったんじゃないですかね。このくらいのサイズなら締め切りギリギリに投入されても余裕の笑顔で対応できます。

 

 

158.myz 『知らない骨』

 投稿時間が締め切りの40分前です。この時間に全7ツイの大作を放り込んでくる胆力は大したものです。5Pめまでは1行にまとめられますので全カットしましょう(無慈悲) で、6Pめから23Pまでディティール細やかに無縁の方の葬儀について語られるのですが、え? これ別に語り部のところに誰かの遺骨が送られてくることと関係のない話じゃないですか? 全カットしましょう(無慈悲) 不必要な部分をカットすると、突如骨壺を送り付けられた語り部が、理由も不明なまま、また別の誰かに骨壺を送るだけの話になりますね。

 知らない人の遺骨が届けられた福祉職員の話でした。大半が施設での労働の大変さに振られており、その内容には共感できたのですが、それにしても無駄に長いですね。これは創作コンテストです。だらだらとしたものを投げつけるのではなく、きちんとまとめられた話にしてください。絶対にこの内容で7ツイートも必要ありません。多くても2ツイートで十分です。また、最後のオチですが、いくらなんでも知らない他人に投げるのは駄目じゃないですか?そこに至るまでの苦労話が途端にどこかに飛んでいき、最低なことをする奴だなという印象だけが残りました。面倒でもちゃんと警察に届けてください。自分がされて嫌なことを他人にしないでください。こんなものを読まされても不快な気持ちになるだけです。

 7ツイートにおよぶ大長編です。おそらく介護老人施設か何かに勤める主人公のもとに、誰のものともわからない遺骨が届きます。そして主人公はその骨壺を見て、ある出来事を思い出します……から続く続く、入居者の死から火葬に至るまでの細かすぎる流れ。きっと何かが起こるに違いないと淡い期待を抱きながら読み進めると、結局なんも起こらねー! ただ身寄りのない入居者の火葬に付き添ったときの思い出が延々と続くだけ! それでも一応話は現在に戻り、この骨壺どうすんのかと思ったら、信じがたいことに主人公はてきとうな住所に骨壺を郵送します。マジかよ! お前が体験した身寄りのない人の火葬とそこで感じたことはどうなっちゃったんだよ! こんだけの量読ませてこのオチ!! とにかく悪い意味で読者の期待を裏切りまくった作品でした。さすがにこのオチはないでしょ……。 

 

 

159.miu 『モンスター・マザー』

 ツイッター小説でやるにはかなりの大作です。最初にモンスター・マザーとして印象づけておいた塔野さんのほうが実はほにゃほにゃで、お母さんのほうが世間体ばかりを気にするほにゃほにゃだったというどんでん返しは、定番といえば定番ですが、定石をきっちり踏まえていて上手です。子供を主役にしたサスペンスとして、プロットに破綻はなく、良く組めていると思いますが、いかんせんツイッターでやるには長いですね。これは小説投稿サイトなどでやったほうが向いているでしょう。ラストが不穏なのですが、普通に抜け感のあるハッピーエンドで良かったのでは?

 本当のモンスターは誰なのか、という話でした。非常に考えさせられる内容だったかと思います。主人公の母親と向かいのおばちゃん、どちらもモンスターには間違いないですが、その根底にあるのが自己愛と他者愛という全く異なる価値観なのは面白いですね。最後のおばちゃんが味覚障害になってしまったのを隠していたシーンは、たしかに主人公でなくても博愛精神を感じずにはいられませんでした。物語のインパクトを重視してやや過剰に書かれているものの、創作物としてはセーフラインかと。もっと短くまとめられていたら、いくらでも広がる可能性のある作品だったな、という印象です。

 モンスター・ペアレントと呼ばれる存在は、「子供が心配なあまり学校や近所に文句を言う人」というようなニュアンスで語られがちです。しかし、子供にとってモンスターというべき親は、もっと別の形で存在しているのかもしれません。そんなことを考えさせられる作品でした。冒頭で見た目や雰囲気からモンスターと呼ばれる塔野さんが、終盤で主人公に協力し、そのモンスター並の力で事件を解決に導く流れは爽快そのもので見事でした。一方で、塔野さんの中学生の子供が一度も登場しないのは何か奇妙な感じがします。ラストシーンもちょっと座りが悪いかんじで、何か見落としているかもしれません。本作、締め切り直前に投稿されたため、十分に検討する時間が取れませんでしたが、気になる人はぜひ読んでみてください。なにか仕掛けがあるかどうかは別として、読む価値のある作品だと思います。

 

 

160.高梨辣油 『魔法少女アカリ』

 いくらなんでもこんな冒頭はないし、こんなラストもないんじゃないですかね? なんでしょうか。

 小説の最初と最後だけ載せて、その落差で読者を驚かせようとしたのですが、はっきり言って腹が立っただけでした。

 15分で書いたとのことで、15分で書いたなりの話になっているようです。なんでもいいから締め切り直前に突っ込んでやれみたいな感じで、正直嫌な気持ちになりました。

 

 

161.伊号 『日常』

 ただの記念参加ですね。読みましたけど、他人の無を読んで講評を書かないといけない人の身にもなってください。

 そうですか。

 この作品も、なんでもいいから締め切り直前に突っ込んでやれみたいな感じです。審査員のことを考えろとは言いませんが、読者がこれを読んでどんな気持ちになるのかは想像してほしかったです。

 

 

 

大賞選考

 はい、以上で全応募作品の講評が終わりまして、続いて大賞選考になるんですが、今回は選考もなにも、大賞はナツメさんの『これはフィクションです』で決まりでしょう。

 異議無し。

 もちろん異議なしです。

 では、第十一回本物川小説大賞、大賞はナツメさんの『これはフィクションです』に決まりました! おめでとうございます!(ワ~パチパチ)

 おめでとうございます!

 おめでとうございます!

 RT数がぶっちぎりなので文句のありようもありませんが、なにより、アイデアだけでなく、作者自身の「こういう実話怪談てきなやつが好き!」がちゃんと伝わってくるのが好印象でした。やはりアイデアと自分の好きが合致すると強いですね!

 『これはフィクションです』というタイトルにもかかわらず、ノンフィクションっぽい文体で不穏さが上手に演出されており、ネット上で広がる作品ならではという感じ。決まってみると今回の大賞にふさわしい作品に思えますね。

  講評でも述べたようにコロンブスの卵でした。発想力は断トツでしたね。それが結果に繋がった形です。

 で、大賞以下は金賞一本と銀賞二本になるんですが、RT数でいくと、こむらさきさんの『母へ』が900RTあまりと、頭半分は抜けてる感じですね。わたしは金賞も順当にこむらさきさんでいいかなと思うんですけど。

 私も妥当かと思います。内容も良かったので。

 最後にゴボウ抜きされましたが、序盤から賞レースを引っ張ってくれた作品でもあります。金賞は『母へ』でよいと思います。同時にマンドラゴラ農家の健闘も称えたいですね。

 マンドラゴラは最序盤で突き抜けて存分に賞を盛り上げてくれましたね! はい。それでは金賞はこむらさきさんの『母へ』ということで。おめでとうございます!

 おめでとうございます!

 おめでとうございます!

 で、このまま順当にRT順で流し込むだけではあまりにもアレですし、まあ5桁が出た以上は3桁台は概ね誤差みたいなところもありますから、ここから銀賞二本は恒例の「せーの」形式でいこうかと。や、絶対にマンドラゴラに賞を与えたくないとかそういうことではなく。

 草。

 では、まずわたしの推しですが『マナちゃんのお味噌汁』『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』『仕事人間の日常』の3本ですね。

 私は『仕事人間の日常』『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』『マナちゃんのお味噌汁』でした。

 わ、モロ被りw

 『インスタント・フレンド』『十二月のある日のこと』『マナちゃんのお味噌汁』を推します。いずれも小説として非常に完成度の高い作品でした。

 お、これは『マナちゃんのお味噌汁』は確定ですね!

 とても心温まる作品でしたね。

 2つの視点をうまく使った技術点の高い作品でした。

 リプでツリーを繋げられることを最も上手に利用していて、まさに「ツイッターに画像で直貼り」する意義のある仕掛けでした。あとは『仕事人間の日常』と『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』が2票獲得になるわけですが。

 『仕事人間の日常』は非常に完成度が高く、キャプションをもっと上手く整えれば四桁台でバズるポテンシャルは感じました。あとは運ですね。

 今回、キャプションは重要でしたね。そういう意味では『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』も最悪だったんですけどw

 純粋に面白かったです。キャプションは最悪でしたが。

 RT数てきには一歩及ばずなんですけど、わたしとうさぎさんの歪んだ愛情を一身に受けてる感がすごいですねw でも、こうなると、ねこさんの意見がまったく反映されないのもアレなので『仕事人間の日常』か『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』で、ねこさんに決戦の一票を入れてもらおうかな。なんか結果は予想できるけど。

 責任重大ですが、あえてその2作から選ぶなら『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』ですね。小説としては粗い印象でしたが、少女のビビッドな感情が描かれていて心を揺さぶられる作品でした。

 まじか! 完全に予想外!

 完全にRT数関係なく面白さで勝ち取った形になりますね。実際、それだけの価値はある作品でした。

 そうですね。「このキャラはこういうやつ」を、短い具体的なエピソードで端的に示すのが極端に上手で、技巧を感じました。では、銀賞は『マナちゃんのお味噌汁』と『小説なんてコミュ障がコミュ障向けに書いたもの読んで人の気持ちがわかったり優しい人になんかなるわけないじゃん馬鹿かよって思ってたわたしの優しくて素敵なコミュ強友人が異世界を救う話、を書くわたしの話』の2本ということで。おめでとうございます!

 おめでとうございます!

 おめでとうございます!

 ではこれで賞はすべて選出したわけですけど、最後に恒例の、総評のようなものを。うさぎさん、なんかあります?

 あまりだらだらと言っても仕方ないので簡潔に。アイディアは良いものの、それを活かせていない作品が目立ちました。書き終わったら、きちんと読み返しましょう。問題があると感じたらそのまま出すのではなく、きちんと直しましょう。小説は作者と読者との対話です。これだけは忘れないでください。以上です。

 今回はバズを競うという特殊なレギュレーションでしたが、賞レースに絡めなかった作品の中にも小説としての出来具合なら大賞を上回ると思える見事な作品がいくつかありました。RT数で負けていても、地力では負けていないという強い気持ちで、でもバズった作品のよいところはきっちり吸収して、皆さん今後の創作活動に励んでいただきたいですね。講評のほうではRT数にかかわらず純粋に作品としての魅力も評価させていただきましたので、ぜひそちらも読んでいただければ幸いです。

 そうですね。今回のバズがテーマというのは、要するに「内輪ウケ、楽屋オチから脱却して、広く一般に開かれた小説を目指しましょう」っていうことだったんですよね。これまでは「まず小説を書いてみましょう」だったんですけれど、次のステージとして「じゃあ読者を想定しましょうね」という。そこのシフトが上手にできてない子がちらほらと見受けられました。やはり読まれてナンボですから、小説は読者に対して開かれてなくてはなりません。そこのところに甘えが見えるものに対しては、今回、3人ともわりと目が厳しくなったかなと。

 一方で大きく外に出る作品も現れたので、良い面を吸収して次に活かしてほしいですね。あと、クラフトピアの制作者さんが参戦したのは笑いました。

 読み専の方からも本物川小説大賞のタグに「いいタグ」「時間泥棒」的なコメントが寄せられており、賞としても今までにない広がりが得られたのではないかと思います。

 ツイッターに小説を貼る。ツイッターで小説を読む。という試みがある程度成功しただけでも大したものですよ。あと、RT数というのは万能ではありませんけど、ある程度は客観的な指標として役立ちますので、今回あまり伸びなかった方も諦めずに3桁、4桁、狙っていって頂いてもいいかと思います。掌編サイズのほうが適しているというツイッターの地形効果も、回数をこなして修正を加えていく武者修行には最適かなと。本物川小説大賞が終わっても、ツイッターバズ小説大賞は常時開催みたいなものですからね!

 バズがテーマだと聞かされた時は不安しかありませんでしたが、終わってみれば誰にとっても有意義なコンテストだったかな、と思います。

 5桁出てほんとによかったよね……。

 ほんとうによかった……。

 はい。そんなところで。まあ本物川小説大賞なんかとったところで本物川小説大賞でしかありませんから、勝ち負けよりも、その過程から自分がなにを得るかのほうがよっぽど大事ですからね! 今後もみなさん、引き続きやっていきましょう!

 それぞれの創作を頑張りましょう!

 講評でこき下ろした中から大ヒット作家出たらゆるしてくれ!

 終わってみれば全161作品という過去最大規模の大賞となりました。評議員を引き受けてくださったうさぎさん、ねこさん、本当にありがとうございました! それではこれにて第十一回本物川小説大賞、終了です! 闇の評議員、解散!

 

 

 

 

togetter.com

 

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