第1回本物川小説大賞はDRtanukiさんのTrue/Falseに決定!
平成27年6月下旬頃からTL上で曖昧に始まり8月9日に締切をむかえた第1回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞1本、金賞1本、銀賞2本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。
選考委員 籠原スナヲさんの選評
これがいちばん面白いと思いました。たっぷりとある分量のなかで語れる王道のSF風エンターテインメントであり、さらにそれが内輪ネタの固有名がしっかり決まっています。すなわち、本物川さんを「虚構の存在であるスカーレット」「生身の少女である大澤めぐみ」に区別した上でそれを邂逅させる結末は、閉ざされた人工的空間から広大な砂漠へ旅立つ物語と見事に重なり合っている。よって本作を大賞に選びました。あ、でもビックリマークはあんまり使われすぎると作品を安っぽくしてしまうので注意が必要かもしれません。
評論家 山川賢一さんの寸評
SFでホラー。僕の好きなものしかない作品で、大変楽しく読ませていただきました。どこを切ってもフキツな予感しかしない状況がサイコーですね。登場人物たちがユーモラスなやりとりを続けるあいだも、いつ来るか、いつ来るかとハラハラしておりましたが、ラストは意外にもさわやかでした。
受賞者のコメント
まさか自分が大賞になるとか本当に考えてなかったので素直に嬉しいです。イラストまで付けていただけるとか有難い事この上ないです。本当に有り難うございます。
大賞を受賞したDRtanukiさんには副賞として大賞主催の本物川が描いた表紙絵が授与されます。自由に使っていただいて結構ですのでなんとか自力で出版して下さい。
選考委員 籠原スナヲさんの選評
ある種の傑作だと思います。ちなみに元ネタがぜんぜん分からなかったのでいちいち調べてしまいました。本物川さんを内輪ネタとして二次創作するだけではなく、彼女を「二次創作の悪夢」とも呼ぶべき地獄に放りこんでしまう、この容赦なさだけでグイグイ読ませます。あと私が僕っ娘として登場したのが少しだけ嬉しかったです。投げっぱなしのようなエンドもむしろ作品のムードに合っていると感じました。
選考委員 籠原スナヲさんの選評
とても面白かったです。内輪ネタを超能力バトルものに昇華した作品には『春原さんごめんなさい』もありますが、こちらの作品は、ちゃんと敵が強いのでバトル自体にスリルがあるというところが優れています。完結していないのかもしれませんが、本物川さんを取り巻く人間的ドラマは斬撃編でいったん終わっていますし、ひとつの作品として楽しく読めました。
選考委員 籠原スナヲさんの選評
とても面白かったです。内輪ネタとして本物川さんを出してみる小説はたくさんありましたが、大量の本物川さんを出した上で殺し合わせる、という過剰さは本作以外にはほとんどありませんでしたね。この意味では『本物川と26人の本物川』はアイデア勝利です。ただし、そのアイデアをさらに盛り上げる要素がひとひねりふたひねり加えられていれば、小説としての完成度はさらに増したと思います。
というわけで真夏の素人黒歴史小説甲子園 本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのはDRtanukiさんのTrue/Falseでした。おめでとうございます!
以下、籠原スナヲさんによる全エントリー作品寸評です。
◇ピンフスキー
『文豪』
文豪が最初の書き出しに苦悩するというギャグテイストの作品ですが、基本的に夏目漱石のパロネタしかないところに弱さを感じてしまいました。
『リードファイト!ビブリオバトル!』
内輪ウケの固有名を出してみたものの、それが作品の笑いどころとは特に何の関係もないのが辛いなと思いました。
『オバケバスターズ』
登場人物の関係性を掘り下げるとさらに面白くなるかもしれませんが、彼らの仕事がオバケ退治屋であることに必然性を感じられませんでした。オバケ退治屋じゃなくてもこの話って成り立つよなあといいますか。
◇karedo
『ヴンダーカンマー 妄想浅学虚言博物館』
本物川さんと少年にボーイミーツガールをさせてみた小説ですね。
◇起爆装置
『恋に落ちる落ちる落ちる』
思い込みの激しい人間を主人公にすると文体をドライブさせやすいのですが、それだけで終わってしまいがちになるのもまた辛いところですね。
『小指、恋人、薬指』
前作もそうなのですが、あるていど文章が上手いと何でも「とりあえず勢いよく」書けてしまうぶん、結果として作品に勢いしか残らないということには注意が必要だと思います。
『バナナの皮では滑れない』『アイヘイトクライムチャウダー』『既読のグルメ』
このあたりぜんぶ未完ですね。
◇既読
『内臓の告白』
未完ですね(ここで言う未完とは「話としてオチていない」という意味です)。
◇DRtanuki
『夏の川の記憶』
本物川さんと少年にボーイミーツガールをさせてみた小説ですね。
『死神さゆりの懐中時計』
本物川さんの固有名を出しており、そこに「時計」というアイテムがあるぶん必然性を感じられる小説です。時計というところから死を司る神が連想されているのは工夫が感じられます。
◇三日月明
『俺の脳みそがこんなにどろどろの訳がない』
ゾンビにも陰性と陽性があるというアイデアは面白いかもしれませんが、設定を出したところで小説が終わってしまっていると思います。
◇さっきぃ☆竹田
『本物川とチクタクマン』
内輪ネタの固有名を出しており、そこに「時計技師」という設定があるぶん必然性を感じられる小説です。しかし登場人物の設定を提示したところで小説を終えられたのは残念ですね。
『猫が眼からビームを出す日』
タイトルが面白いと思いました。ただこれも登場人物の設定を提示したところで小説を終えられたのが残念です。また内輪ネタの固有名を出していますが、今作には特にその意味がありません。
◇ここの
『青い恋人』『溟海の底に』『でもOK!』
ここのさんの小説は、おおよそ一対一の神秘的な関係を描き出すと同時に、その幻想が第三者の社会的視点によってあっさり崩れてしまう、というスタイルが採用されていると思います(『でもOK!』の場合には、その幻想性を打ち砕くのは第三者ではなく当の相手でだったように見えます)。この儚げな物語に説得力を持たせている文体は個人的には好みですね。おそらくある程度のクオリティを持った掌編は余裕で書ける人だと思うので、次は長めの作品にチャレンジしてみてください。
◇大村中
『R.P.S』
登場人物がゲームで遊んでいただけでした。そういえば私が小さいころ勉強したときはロックじゃなくてストーンでした(イギリスの一部ではそういう言いかたになるみたいですね)。
◇higa_idsuru
『本物川殺人事件』
本物川さんが概念だという内輪ネタをミステリの形式に落とし込んでいますが、概念であるという以上の工夫が見られませんでした。
◇ど
『戦いのあとに』
実は本物川さんはロボットでしたという小説ですね。
◇胡紫
『血と銀と狂気の樹木』
現実に対立している人間関係を単に空想世界の戦争に置きかえるのは少し安直というか、実際どのような対立なのかを掘り下げることができていないと思います。たとえばミ・サン・ドリーというのはネット等でフキアガッテいる「自称フェミニズム」のことであるわけですが、本作がその諷刺や寓意として成立しているようには見えない、ということですね。
『飢えた男』
彼がどういう状況で、どうして飢えているのかがいまいち分かりません。
◇オルフェウス009
『Honmonokawa’s Doll Cafe』
ラストの一文が少しだけクスリと笑えました。
『アンドロギュヌスの夢』
これは未完ですね。種親、胎親といった呼称は面白いと思いましたが、そういう設定であるという以上の広がりを作品に見出すことはできませんでした。
◇不死身探偵
『遠くに在りて』
初めての執筆のようですが、にもかかわらず、王道の青春小説として手堅くまとまっている印象を受けました。単なる1対1の関係ではなく、常に過去の関係性と対比されるなかで描かれる現在の関係性……という形で、作品そのものに時間的な奥行きを与えていると思います。
◇槐
『現の庭の本物川』
本物川さんを男性に設定しているのは他の小説には見られない特徴で、それだけでも少し面白いかもしれないと感じました。とはいえ特に性別が逆転している以外の工夫はなく、他の「出会わせてみました系」と変わらなかったのは残念です。
◇弥生
『紡ぐ針先、通す糸の目、きらり』
本作は小説ではなくエッセイであると明言されていますが、赤裸々に語られる個人史は作者さんの作品群のなかで最も娯楽性に溢れており、不謹慎かもしれませんが楽しく読むことができました。惜しむらくは、もう少し赤裸々レベルを上げて曝け出してほしいということです。
『偽物側』『本物側』
どちらも本物川さんが頭のおかしい人たちに絡まれて迷惑するという話でした。迷惑して……それ以上の何かがあるようには感じられませんでした。
『ドラゴンの姫はクラッシャー』
本作のような小説を私はファンタジー小説というよりRPG小説と呼んでいます。多くのRPGで採用されている設定やノリが暗黙の前提とされており、RPGをプレイしたことのない人にはチンプンカンプンになるアレです。たぶん『紡ぐ針先、通す糸の目、きらり』を読む限り作者さんはRPGが好きな人なのだなと思いました。いっそ「これはそういうオンラインゲームでの話である」という話にしたら設定を説明しやすくなり、また現実世界と虚構世界の対比を描いて面白くしたりと、いろいろ便利だと思うのですがいかがでしょう?
『ここはつくりも』
突拍子もない設定を呑み込みはじめたころには小説が終わっていました。
◇leimonZ
『本物川小説』
他の小説についても書いたのですが、現実に対立している人間関係を単に空想世界の戦争に置きかえるのは少し安直というか、実際どのような対立なのかを掘り下げることができていないと思います。
◇平野淳
『本物川はいかが?』
「本物川という固有名をマクガフィンとして用いていますが、『本物』というワードを取り出す他の工夫は見られませんでした。しかし文章はこなれており最後まで楽しく読めました」
◇イカロス
『なんでもいかす魔女』
いかすというのはそういう意味なのですね……。しかし中世の時代において、男尊女卑を改めたいという近代的すぎる願いを、どうしてこの魔女ルルは抱くことができたのでしょうか。そこらへんの描き込みがもっと欲しいなと思いました。
◇永世射精名人
『悪意の海』
タイトルや結末の文章が言うほどには、別に悪意が渦巻いているようには見えないというのが辛いところですね。ただのイライラみたいな。
◇TAKAKO★マッドネス
『そんな人もいたねえ、と』
面白いと思いました。ただし主人公が転落する理由が「禿げたから」というのは少しだけ不満です。「※ただしイケメンに限る」などとのたまう主人公が戒められる物語なのに、マジで容姿のせいで不幸になっているようにも見えるんですよね。
◇りっく
『ホンモノカワ』
本物川さんが概念だという内輪ネタをホラーの形式に落とし込んでいますが、概念であるという以上の工夫が見られませんでした。
◇不動
『ごぼ天とりそぼろうどん』
ごぼ天とりそぼろうどんという料理を食べているだけでした。でも美味しそうだなと思える巧みな描写だったと思います。
◇yono
『本物川さん』『本物川さん2』『本物川さん3』
私が登場人物として出ていたので楽しく読みました。ただお話として完結しているようには感じられないので、4や5も希望です。
◇激しく
『さらば! 本物川!』
ワンシーンのみ(おそらくはラストシーンのみ?)提示されたところで小説を終えられていたのが残念です。
◇しふぉん
『やさしい世界』
元ネタが分からなかったので調べてしまいました。世の中にはこういう出来事もあるのかと勉強になりましたね。それとは別に、少し怖い掌編としてもまとまっているのではないでしょうか。
◇はん
『誘蛾灯』
ただ擬音で畳みかけられても小説では怖くならない、と私は思います。
◇たくあん
『川に桜が降ったとき』
オチがちょっとよく分からなかったです。
『本物川探偵』
某人物を絵画泥棒に設定したのはクスリと笑えました。なるほど山川さんが警備員であるのも物語にハマりますね。ただ探偵である本物川さんのキャラクターが少し弱いかなと思います。
『アルコールオナニーレポート』
もしタイトル部門があるなら今作が受賞していたと思います。しかしタイトル以上に面白い語彙が本編には登場せず、お話も特に盛り上がらないまま終えられていたのが残念でした。
『本物川と金のなる木』
すみません全作品を通じてこれがいちばん笑えました。ただこの笑いは小説の面白さと言えるのだろうかとも感じてしまいましたね。
『流水少女』『レモネード』
起承転結ではなく起!即!結!だなあと思いました。間のエピソードがあればもう少しキャラクターに感情移入できるかもしれません。
◇青識亜論
『春原さんごめんなさい』
面白いと思いました。小説は「漢字にルビを当てるだけで」ある程度の雰囲気を醸し出せるものですが、それを効果的に使いこなしています。また内輪ネタをSFバトルに格好よく落とし込んでいますよね。惜しむらくは短いこと、物語が完結しているようには見えないことですね。
◇たいらん
『大学生活の苦難について』
タイトルで全て説明されちゃっていますよねこれ。でも苦難というわりには勉強ができないというだけで、どう大変なのかよく分からないのが辛いところです(ヤバい大学生活はもっとヤバいものです!)。
『勉強会での友人Sとの会話記録』
これもタイトルで全て説明されちゃっていますよね。会話そのものが物語を生み出すのかといえばそんなことはなく、本当にただ会話が続くだけでした。
◇りひにー
『シュバルツシルトの畔』
物語の舞台を提示したところで小説を終えられているのが残念です。
『起爆装置大爆発! ぶっちぎりバトルテロリスト』
登場人物の設定を提示したところで小説を終えられたのが残念です。内輪ネタの固有名を出していますが、出しただけという印象を受けます。
◇うむうむ
『進捗』
未完です。
◇ネーポン
『概念陸軍シリーズ 本物中隊物語 灰の川(1)』
完結しているのかなあこれと思いました。現実に対立している人間関係を単に戦争に置きかえるのは少し安直というか、実際どのような対立なのかを掘り下げることができていないと思います。
◇為瀬雄
『未成年・本物川新が出会ういくつかのお酒』
完結しているのかなあこれと思いました。私自身がお酒好きなので、もう少し掘り下げてほしいと感じてしまいましたね。
『語彙をあまり知らない本物川の、よく言えば自分語り、悪く言えば懺悔のようなもの』
タイトルで全て説明されちゃっていますよねこれ。少しに気になるのですが、懺悔はむしろ良い意味の言葉で、自分語りのほうが悪い意味の言葉なのではないかと思います(もしかしてそう思うのは私だけなのでしょうか)。
◇こうちゃん
『みどりの町、本物川』
本物川という固有名を町に設定するのは斬新で面白いと思いましたが、町を出しただけで小説を終えられたのは残念です。
◇厚揚げ屋
『間奏曲』
ワンシーンのみ提示されたところで小説を終えられていたのが残念です。
◇赤外松
最後に、赤外松さんの小説
本物川という固有名を川に設定するのは、たとえば町に設定するのと比べるとヒネリが少ない気がしました。あと夢オチ・嘘オチの類はアレです。
以上!
各自、今後の励みや創作の参考にしたりふてくされたりそれを乗り越えて人間として一段階大きくなってみたり頑張ってください。
それではまた次回ほにゃらら小説大賞でお会いしましょう!さようなら!
大賞主催 大澤めぐみ
選考委員 籠原スナヲ
批評家 山川賢一