本山らの Presents 第八回 本山川小説大賞 大賞は水瀬さんの「CQ」に決定!

 

 

 平成30年7月25日から9月9日にかけて開催されました第八回本山川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞三本、特別賞として本山らの賞一本、有智子賞一本が、以下のように決定しましたので報告いたします。

 

 

大賞 水瀬 「CQ

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受賞者のコメント

まずは闇の評議員の皆様、またレビューや⭐︎を頂きました読者の皆様、ありがとうございます。
いつ結果出るのかなーみたいなこと言う度に大澤先生から「勝ち確気取りでイキりやがって」(意訳)みたいな牽制を受けまくっていたので正直ここ数日は結果気にしないようにしてたんですけどもらえるならありがたく頂きます大賞やったぜうれしー。
僕が現役でバリバリ小説書いてたのはもう十年近く前ですし、今更参入するのもどうなんだろう? みたいな気持ちはあったんですけど、色々タイミングも良くて勢いもあってCQ書いたら書けました。すごいですね。多分次はないです。
あと今一番心配なのは副賞のイラストのことで、自分で言うのも何ですけど魚のヒロインってどうやって描くんでしょうね? 大変そう。頑張ってほしい。
そんな感じです。
ありがとうございました

 

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 大賞を受賞した水瀬さんには、副賞としてeryuさんによる表紙イラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。(検閲済)これは本大賞とはまったく関係のないイラストですが、かっこいいですね!

 

 

金賞 神崎赤珊瑚 「サンライズ・コーストライン」

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銀賞 Veilchen 「女王と将軍と名もない娼婦」

 

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 金賞を受賞したVeilchenさんには、副賞としてソーヤさんによる表紙イラストが贈呈されます。(大人の事情により検閲済み)これは本大賞とはまったく関係のないソーヤさんが描いたイラストですが、かっこいいですね!

 

 

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銀賞 和泉真弓 「サッちゃん」 

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銀賞 君足巳足 「壱百日詣とプロポーズ」

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特別賞 

 

本山らの賞 紺野天龍 「八月のファーストペンギン」

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有智子賞 あさって 「海の底から愛を込めて」

 

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 というわけで、平成最後の夏を締めくくる伝統と格式のKUSO創作甲子園、第八回本山川小説大賞、本大賞史上最大最高レベルの大激戦を制したのは、水瀬さんの「CQ」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名による、全参加作品への講評と大賞選考過程のログです。

 

 

全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。素人KUSO創作甲子園の看板をかかげて始まったモモモ大賞も今回で八回目となりました。やはりなんであれ続けていると偉いもので、前回くらいからプロ作家であったり、筆力のあるアマチュア作家さんなんかも参加してくれるようになってきていて、投稿作品の平均レベルが上がりつづけています。継続は力なり。しかし、そこはモモモ大賞。KUSO創作勢による下克上こそが醍醐味ですので、そういった展開にも大いに期待したいところです。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回もまたメンバーを刷新して、謎の狐娘さんと、謎のサブカルクソ眼鏡さんにご協力いただいております。

 謎の狐娘です。よろしくお願いします。

 謎のサブカルクソ眼鏡です。よろしくお願いします。

 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めさせていただきます。よろしくお願いします。

 謎の狐娘さんは新進気鋭のラノベ読みVtuberてきななにか、謎のサブカルクソ眼鏡さんは主に少女向けレーベルで本を出しておられるプロの作家さん、議長の謎の概念もいちおうは商業作家の端くれと、KUSO創作大賞の講評員にしてはなかなかの豪華メンバーとなっております。今回は女子力高めですね!(?)

 それぞれ独自に講評をつけた三人の評議員の合議で大賞を選定し、その過程もすべて公開しますので、ある程度の中立性と妥当性は担保できるものと思います。

 それでは、ひとまずエントリー作品を順番にご紹介していきましょう。

 

1. こむらさき 「液晶画面にご用心」

 モノホン大賞安定の一番槍、突撃隊長のこむらさきさんです。今回も一万字以上という下限制限もあるなかで、しっかり即日仕上げてきていて、まずはその圧倒的な進捗力が素晴らしい。ダメな部分をさらけ出して共感を呼ぶのってわりと難しくて、すこし配分を間違えるだけで不快感に変わりますし、情緒不安定な語り部って読むほうも不安になりやすいのですが、この作品はそのへんのバランス感覚がとても優れていて気持ちの良い没入感があります。こういう嗅覚というのは練習して身に付く類のものではありませんから、代替し難い非常に強力な武器です。ただ、本作品に限って言えばプロットじたいはひねりのないストレートなものなのでちょっと弱い。文章力と進捗力はもう充分。つぎは、しっかりとプロットや構成に取り組んでみましょう。これからの成長がますます楽しみな書き手です。

 一番槍! 早いですね……! 浮気かな? 浮気じゃないよ、プロポーズ! すれ違い・勘違いからの期待を裏切らないハッピーエンド。大人の恋愛のリアルな煩悶が描かれていて良かったです。しいて言うならもう少しひねった告白やプロポーズのお言葉が聞きたいかも…? ベタなのも良いですが! もう少し貴教さんのキャラが立つとより良いのではないでしょうか。しかし、総じてよくまとまってらしたと思います!

 読み切りのレディコミ! あるいは単発のテレビドラマ! という感じの、年下の彼氏の不審なふるまいが積み重なって疑念を呼んでいくラブストーリー。シンプルな話ですが、生きのいい文章で、興味を持って一気に読ませます。主人公の行動や心情に生々しいリアリティがあり、これ、出そうと思ってもなかなか出せない。実体験なのかもしれないけど、体験したことを誰でも、露悪的にならず、可笑しく表現できるわけではありません。そのあたりの勘がいいのだな。悪くいえば、勢い余って雑なところを残したままの文章でもある。試しに、推敲のときに「この長めの一文、ふたつに分けたほうが読みやすいのでは」ということを考えてみたらどうだろうか。結果「やっぱ分けなくていいや」となってもいいので。このドライブ感を残したまま文章の細部を研ぎ澄ませていけたら、ますますよい書き手になりましょう。

 

 

2. 大澤めぐみ 「空の底」

 結局だれからも指摘されなかったんですが、気付いていた人はいたんでしょうか? えっと、この作品は縛りプレイをしていて、本文中に語り部の「わたし」「俺」「僕」みたいな一人称が一切ないんですね。本文だけでは語り部の性別が確定しないようになっています。本大賞のレギュレーションが「女性一人称縛り」となっているので、モノホン大賞前提で読んでいる人はわりと素直に「なるほど、レズ不倫だな?」と認識していたようですが、そのレギュレーションは飽くまで作品そのものではない外部情報だから、通りすがりの方が本作を独立したテキストとして読んだ場合には、また解釈や見える風景が変わってくるんじゃないだろうかという試みです。

 さすがのクオリティとスピード! あと朗読者に対するちょっぴりの悪意……! すごい……読んでいて私も小説世界にぶくぶくと沈んでいく心持ちがしました。爽やかで、ほんのり苦くて、すっと溶けていくような読み口が心地よかったです。日常生活のディテールを緻密に描く手腕が光りますね。そして、レギュレーションがあることを生かして、物語を構築していくという試み、面白いですね。ハイコンテクスト小説!

「【重要】!!!!! 今回は女性一人称記述縛りです !!!!!」っつってんのに、主語が一度も出てこないまま16,000字を静謐な雰囲気のまま駆け抜ける話をドスンと投稿してくる肝の太さ、さすが異能のプロ作家である。まず、ひとつの季節の終わりを描いた青春小説として素晴らしい。細かいエピソードやふるまいから、詩織の「あまりがんばらなくても心地よく生きていける女のひと」という雰囲気が見事に立ちあがってきます。そして、主人公の性別がわかる描写が最後までないところがすごい。女子だと思って(そりゃそう思うよね)読んだひと、男子だと思って再読してみてください。コーヘイやカエの印象もがらりと変わるはずです。「ルールに合わせて女性だと思ってくれてありがとう、あなたがルールを守らせてくれました」と、小説が読者に微笑んでいる。きれいで、こわい微笑みだよ。野心的な企みが結実した作品です。

 

 

3. 海野しぃる 「こわいはなしの作り方」

 三番手は邪神任侠のしぃるくんです。進捗パワーは素晴らしいですが、なんていうか、アレですね。もうあらすじを読んだ時点で頭が痛いというかなんというか、本当にこれ読まなきゃダメ? みたいな気分になりました。なんでしょう? 闇の評議会を狙った荒手の精神攻撃かなにかでしょうか? 本山をモデルにした語り部がしぃるくんをモデルにしたキャラクターのところに創作のアドバイスを求めにいくという地獄のような開幕スタートダッシュでトリプルリーチ!!!! といった感じです。せんぱぁい、じゃあないんだよ。ただオーソドックスな物語としての起承転結はうまいことまとまっていて一定の水準以上ではあり、これを短時間で書き上げる地力はたしかなもの。けれど、裏を返せば作品としての独自性をパロディキャラだけに頼っているということでもあるので、そこを抜いて評価すれば良くも悪くも「うまいことまとまっている」に留まります。

 プロによる全力夢小説……ずるくないです!? それでいてしっかりとホラー小説でもありKUSO小説としての勢いのあるオチもあり、読んでいて楽しかったです。きいろ先輩好き→のらちゃんかわいいよのらちゃん→う、裏切りやがって~~~→背筋の凍る展開→エクスカリバー!! と展開の緩急に実力を感じました。よし! 書こうかな! という気分にさせられる読後感でした!

 ライトノベルの布教に努めるバーチャルユーチューバー・本山らのさんを登場人物のモチーフにした「らのノベル」ですね。作者ご自身をモデルにしたキャラクタを一番かっこよく書くという正直さにビビりました。他にも実在の人物をいろいろネタにしており、それがわからなくても読めるようには書かれていますが、やはり楽屋落ち感は強い。それならいっそ、淡々と実話怪談風に進めていったら恐怖感がより増すと思うし、この作者の筆力なら十分に可能なはずです。だから、あえてこう書いたのだよね。小説としての完成度より、本山川小説大賞というお祭りを盛り上げる爆竹を放りこむことを選んだのだと、私は受け取りました。

 

 

4. 紅哉朱 「スクールガールデンプシーロール

 開幕スタートダッシュが気持ちいい、勢いのある作品です。タイトルの語感もなんかいいですね。ポップなんだけど軽薄ではない文体のバランスがとてもよくて、文章力じたいは非常に高いです。軽快な会話劇でポンポンと進んだ直後にダッと設定の説明に相当する地の文が続いてしまうので、ここは適宜会話などに分散しながら世界観を提示していけたほうが高度だったかな? 自作の別作品の外伝ということなので、そちらを読んでいると感想がまた違うのかもしれませんが、この作品単体で読むとちょっと展開が早すぎてポカーンとしてしまいました。それと単純に、文字数に対して取り回す規模が大きい。二万字までって本当にタイトなので、物語を区切って特定のイベントのフォーカスしたほうが短編としてのまとまりはよかったでしょう。

 スライム娘との夏の思い出。綺麗な色に染まる森山さんが目に浮かびました。高校最後の夏休み、二人だけの秘密。好きですね。また、特に喧嘩シーンのテンポ感が良かったと感じました。魔法少女や少し「ずれ」た世界であるという設定がもっと物語に深く関わってくるとより良いのではないでしょうか。

 謎の災害「ずれ」により、人外の魔物との共生が日常となった現代日本が舞台の青春小説。こういう「ここを異界にする」設定、好きです。かったるい日々に倦んだ少女のセキララな述懐を饒舌な一人称で描いていくスタイルは、多くのひとがやりたがる定番ではあるのですが、文章はかなり気を配って引き締めているし、ロー・ファンタジー的な世界観をかぶせることで独特の味わいを増しています。森山のビジュアル、美しいね。「リリカルマジカルキルゼムオール」という作品の外伝ということで、独立作として楽しめるように留意されてはいますが、主人公の鬱屈の種や、エンディングに篭められた想いは、やはり本篇を読んでいないと充分に受け取れないところはある。シリーズの一部である作品をコンテストで扱う難しさを感じています。

 

 

5. 賤駄木さんbot 「Paint it Blue.」

 んっと、これもなにか別のコンテンツからの派生なんでしょうか? ひょっとするとわたしのほうに必要な情報がないだけかもしれませんが、正直よく分かりませんでした。「世界が青く見える」という独特な症例が設定として登場するのですが、特にそれがプロットてきに生きている感じでもなくて、たんに「気が狂っている」の一形態っぽく留まっているのがすこし残念です。いわゆるチェーホフの銃。物語に登場した独自の要素は、後半でちゃんと機能してほしい。あと、単純に文章表現としてところどころ引っかかりを感じるので、もうすこし滑らかなほうがいいですね。音読しながら推敲すると良いですよ。

 世界が青く見えてしまう男の子に恋をした女の子の話。詩的な雰囲気が感じられる作品でした。佐久間が私に抱いている感情の流れや思考など、もう少しわかりやすく描写したり掘り下げたり、もう少し二人の関係性にフォーカスしてみてはいかがでしょうか。

「世界が青く見える」という少年・佐久間に惹かれて過ごした高校時代を、主人公の女性が回想するというスタイルの青春小説。佐久間のことを理解したいと願い、内側に少し入り込めたと思ったら、また新たな謎が立ち塞がる……そんな、気にかかる相手に近づいても近づき切れないもどかしさが、ていねいに描かれています。実直な文章は好ましくはありますが、この内容なら、気障なくらいのフレーズがもう少し欲しい気もしました。鮮烈な場面も、わりと淡々と流れてしまう感じがある……。ボカロ曲「青く塗れ」のノベライズ的な作品とのことで、この歌への「ラブレター」としては、もらったボカロPが嬉しくなるようなよいものでありましょう。単独の小説としては、作者がオリジナルの展開をもっと加えて、作品の強度を高める余地が残されていると思います。

 

 

6. 海野しぃる 「鬼女の泪」

 しぃるくんの二作目です。一作目がKUSOオブKUSOって感じでしたが、こちらは真面目に取り組んでくれたようでなにより。本人も言っている通り京極堂を意識した感じのミステリーホラーですね。実は依頼人が自ら望んで霊障を引き起こしていたのだ! というフリップはアイデアとしてとても良い。男装の麗人と女装少年の助手という組み合わせもバディとして魅力的なので、このふたりの掛け合いでぐいぐい牽引しながら同時に必要な情報を提示していけると、もっと楽しいと思います。ただの掛け合いで終わらせず、軽い会話の中で事件に関する重要な情報を提示していくみたいな。まだ文字数にも余裕がありますから、単純にもうちょっと書き込んでもよかったかな。すこし駆け足な印象。

 タイトルや概要のおどろおどろしさに反してコミカルな掛け合いも楽しいミステリ作品でした。男装女子な探偵さんと男の娘の助手ちゃんという組み合わせは最強……! ただ、重厚な設定が見え隠れする割には軽く物語が閉じられてしまった感じもあり、少し拍子抜けでした。もう少しお得意なホラー要素なども入れてみたりして、物語を深めていただくと良いのではないでしょうか。

 古本屋を営む男装の麗人と、その助手の「男の娘」が、死んだ恋人の霊に悩まされている男の悩みを解決する伝奇ミステリです。多くない文字数で、二転三転する事件の真相を展開しつつ、探偵コンビの突飛なキャラクタ性も鮮やかに印象づけている。作者の本来の筆力が発揮された好篇です。こういうのを待っていました。安心安心。京極夏彦百鬼夜行シリーズ」の影響を台詞や設定にあえて露骨に出しているのは、好みが分かれるところではないでしょうか。このようなコンテストでパスティーシュ作品には高いハードルを課さざるを得ず、そこを超えたかというと……。これほどの完成度なのだから、独自の内容を拓いた作品として仕上げてほしかった気持ちもあります。

 

 

7. 偽教授 「トライアングル・ジェミニ

 前回から参加の偽教授さん。今回はゴシックな西洋風の舞台設定ですが、やはりこういう時代がかった堅い文体のほうが馴染みます。この虚飾といっていいほどの盛り盛りに荘厳でゴージャスな文章は余人がそうそうに真似できるものではなく、たしかな才能でありましょう。序盤から中盤のグイグイと引き込んでいく展開も悪くないのですが、後半にかけてちょっと性急かな。惜しい。もったいない。やはり、次の課題はちゃんとしたプロットづくりと計画的な執筆でしょうか。いちど読者に歩み寄ったエンタメてきな起承転結やオチというのがしっかりとあるものを書くと、わりと簡単にポンとバズッたりするんじゃないですかね? 器用なタイプなので、それができるだけの力はすでに持っている方だと思います。

 耽美な文体が光る作品でした。感情を共有する双子の美少女という設定も良いですね。改稿後のエンディングはより幻想的でエロティックになっており良かったです。強いて言うなれば、もう少し物語に起伏、緩急があるとよりエンタメ的に皆を楽しませる作品になるのではないでしょうか。退廃的なムードの描写のクオリティは高いので……!

 吸血鬼とその花嫁候補である双子……感覚共有能力を有する姉妹の複雑な三角関係に、吸血鬼の過去の三角関係がしだいに絡んでくる(だからこの題名なのだね)パラノーマル・ロマンス小説です。この分量で、長篇も支えられる複雑なプロットをテンポよくさばいていく手つきがすばらしい。生硬なところがある文章も、異世界の種々を説明するうえで、ムードが高まるよいほうに作用していると思います。こういう題材ですと、もっと描写に淫し、自分で自分の考えたシチュエーションに酔いしれるくらいの熱気があるほうが好みという方もいらっしゃるでしょうが、このスピーディさは、逆に得がたい個性だ。好みです。まだ文字数も余裕があるので、単純に挿話を増やして、キャラクタの魅力をより高める余地はあったかもしれない。

 

 

8. 豆崎豆太 「ガールズ・ミーツ!」

 ずいぶんと長いことゴリラ界を彷徨っていた豆崎さんですが、ようやく現世に戻ってきたようです。題材がナウくていいですね。メッセージ性も現代的で、まっすぐな主張にも納得できます。それだけに、ほぼなんの寄り道もなく真っ直ぐスーンと一気にオチまで走ってしまったのは勿体ない。ミニマルで完成しているとも言えますが、まだまだ文字数に余裕がありますし、もうちょっとエピソードを挟み込んでもいいでしょう。句読点が異常に少ない序盤の石版芸は意図したものではあるのでしょうけれど、途中でちょいちょい素に戻りがちで息が続いていないし、現状では特に効用もないので無理してやることもないかもしれません。普通に読みづらいというデメリットのほうが目立っています。やるのであればなんとなくではなく、前のめりでガーッ!! っといきがちで視野狭窄的だった主人公が、よつばちゃんとの交流でだんだん視界が開けていくごとに句読点が正常化していくとか、そういう変化をつけて意図を乗せていったほうが効果的です。

 私の好み狙い撃ちですね……! メガネで白衣で年上のバ美肉おじさん……好きです! ストーリーもきれいにまとまっていて、素敵な読後感でした。強いていうなら、もう少し「エモさ」が欲しいかもしれません。ディティールに凝る、例えばただ甘いジュースとだけ描写するのではなく、具体的に名前を挙げてみるなどすると、実在感が増すのかもしれないな、と思いました。

 体育会系少女と美少女バーチャルユーチューバー(中身は保健室の冴えない男性教諭)のなんでもないような、でも心にちょっと灯がともるような交流を描いた青春小説。読了してまず「この作品、手触りがいいな」と思いました。少し考えて、文字数とお話の規模がかっちりと釣り合っているからだ、と気づいた。今回の「1万字以上2万字以下」という条件って、意外と難しいと思っています。数千字で終わりそうになってつぎ足したり、3万字も余裕で行きそうになって詰めこんだりしたひと、複数いらっしゃるのでは。とんがった饒舌体だけど、作品が伝えるメッセージは健やかです。「かわいいものが好きということに、男も女もない、似合うも似合わないもない、好きならいいのだ」という現代的な正しさを、主人公ふたりがお互いに認め合う。読者の心にも灯がともる、いい短篇です。

 

 

9. たかた ちひろ 「五感恋愛」

 第六回の大賞受賞者、たかたちひろさんです。さすがに大賞受賞者だけあって、根本的な文章力が非常に高く、つっかかりなくするすると読み進められ、ライオンズファンだったりインスタントのしじみ汁だったり、ほんのちょっとしたところでのキャラクター付けもかわいらしくて、なんだか親しみが持てます。ただ、五感で恋愛する女、というのがメインの設定なのですが、意外と普通というか、え? わりとみんなそんなもんじゃね? みたいな感じでそれほど突飛でもない。五感のうちのどれかひとつで毎回やられてしまうのだとちょっと考えものなんですけど、恋愛の始まりって突き詰めればわりとそういうインスピレーションだよな~みたいな。もうちょっと吹っ切ったキャラ設定にしてしまってもよかったかも。

 やばい……かなり好きでした! 大人の恋愛の煩悶がリアリティ溢れる筆致で描かれており、大変楽しませていただきました! ラストの恋に落ちた高揚感がありありと伝わってきて、良かったです……! 文章力が高く、登場人物も生き生きとしていて全体的に完成度が高い作品だったように感じました。

 声、匂い、手触り……五感のひとつが刺激されたら、あっという間に恋におちてしまう主人公。そのせいで「だめんず」とも果敢に付き合っては終わってしまうので、今度こそ長続きする恋人を作りたいと願うが…… 軽妙でビターなラブストーリーです。登場人物のリアリティが圧巻。「リアリティ出すぞ、これが人間のリアルだ!」と力んだ感じでなく、落ち着いた科白の端々に、その人物ならではの息遣いがにじんでいる。「五感の好さが先行してしまう」という主人公の特徴が、行動の軸となり、劇中でのガールズトークのトピックとなり、強いサスペンスを盛りこまなくても「じゃあ、最後はどうなるんだろう」という読者の興味を惹き続ける。この大げさすぎないひと匙が、物語の味を格段に引き締めるのです。

 

 

10. ボンゴレ☆ビガンゴ 「【ファイアドラム】〜異世界古道具屋のドロップダウンストーリー〜」

 落語ですね。こういう風に雛形をヨソから持ってきて要素をジャカジャカと入れ替えてドンと別の作品にしてしまうというのは創作法としては大いにアリです。ただ、本当に原型の固有名詞をジャカジャカ入れ替えただけで終わってしまっているところがあるので、どうせならここからさらにもうひとつ、この作品に固有のユニークな価値を提示できるとよかったでしょう。同じような試みとしては、第五回で既読さんが出してきた「ヤスデ人間」などが参考になると思います。あちらは「変身」と同じところから始まって、まったく別の希望を提示するという離れ業をやっていましたね。古典を今風にアレンジするというのもそれはそれで需要はあると思うのですが、良くも悪くも古典のアレンジに留まってしまっています。

 リズムの良い文章で、楽しく読むことができました。主人公のセリフ回しが好きですね。掛け合いもコミカルで楽しかったです。ただ、ストーリー展開には少し改善の余地があるかと思います。(なんとなくですが、絵本的なオチのつけ方だな、と思いました。)もう一捻りあると良いのではないかと思います。

 へっぽこな古道具ショップが薄汚れた謎の小太鼓を仕入れたことから騒動が巻き起こるさまを描いた、コミカルなファンタジー作品です。一人称の口語体、科白中心の描写、ドンドンという擬音のリフレイン……副賞の朗読をあからさまに見据えている。狙いを隠さないだけのことはあり、音読したときの滑らかさを大事にした筆致は巧みです。タグを見ると「火焔太鼓」という落語の翻案らしいので、試聴してみましたが……これって、ファンタジーの要素を剥がせば、わりとそのままの内容じゃありませんか。何か精妙な仕掛けがあるのかもしれませんが、落語の素養がない私にはわからなかった。すいません。たぶん、読者の何割かもわからないと思う。わかるように書くか、わからないひとはわからなくていいと思い定めるかは、作者の志向によりましょう。

 

 

11. 姫百合しふぉん 「Silene」

 石版です。麗しく妖しい盛り盛りスーパーハイカロリーないつもの安定のしふぉんくん。わたしはもういい加減しふぉんくんのこの石版芸には慣れ親しんでいるので、これだけでは別に驚きもしないのですけれど、相対的な話にはなりますが、今回わりと物語してますね。ただゴージャスな文を並べているだけではなく、ちゃんと展開があって、本人なりのそこそこの歩み寄りが見てとれます。飽くまでそこそこですけれど。たぶん言っても変わらないんですけどいちおう言っておくと、この作品においてはリーダビリティを敢えて犠牲にする石版芸はマイナス方向の作用のほうが強そうなので、単純に改行なりなんなりで読みやすくしたほうがいいんじゃないかなと思いました。これまでのしふぉんくんの作品の中ではかなり好きなほう。

 文章の奔流がすごい作品……。光るところのある描写も散見されるので、もう少し厳選・凝縮したらより良くなるのでは、と考えましたが、そういった読者への配慮度外視で好きなものを書くという姿勢もこういった場では一つの正解なのかな、とも思いますので難しいところですね……。ともかく、表現の美しさは素晴らしかったです。

 このラブストーリー、すごい。ページを開いて「うおっ」と声が出ました。改行がなく、句点も少なく、歌うように紡がれ続ける美麗で淫靡な言葉の連なり。この作者は、感想は求めているかもしれないけど、長所や短所の指摘は必要としていないのではないだろうか。だって、リーダビリティを増そうと思えば増せるはずです。熱に浮かされて垂れ流したのではなく、暴れ馬を乗りこなすような技前がうかがえるし、後半には社会とのかかわりや活劇の場面も出てきて、物語り、それを届けようという意志は感じる。でも、こう書くのだよね。「これ」を「このまま」で貫いてほしいとも思うけど……やはり、せっかくなのでもう少し入り込みやすい書き方をしてみてほしい。それでなくなる個性ではないはずです。

 

 

12. 阿瀬みち 「君の名前を借りました。」

 まずめちゃくちゃ文章がうまいですね。単純な文章力だけで言えば、すでに商業レベルだと思います。ただ、それだけになんだかつらつらとした内容で終わってしまったのが実に惜しい。どうなるのかな、どうなるのかなと先が気になって読み進めていったら、最後までとくになにもなかったみたいな。ストーリーラインで分かりやすい鼻先のニンジンがあるわけでもないのに、先が気になってどんどん読み進めてしまうというのは、これはもう単純な文章の感触だけのものですから、その点ではものすごい才能があると思います。あとは、ちゃんとエンタメてきなオチが用意されていれば100点満点です。

 登場人物の息遣いを感じられる良い作品でした。こういった女性一人称が好きなんですよね! キャラクターと文章は非常に良いので、あとはもう少しストーリー展開にスパイスを入れたら更に良くなると思います。物語が終わっても登場人物達の日常は続いていくんだろうな……と感じさせられる良作だと感じました。

 若くしてベストセラー作家になったものの、中年になった現在は引退状態のくうちゃんと、その幼馴染みの紗栄子。ふたりのつかず離れずの交流を描いた小説です。劇的なことは何も起こりません。くうちゃんの作品が映画化されるとか、紗栄子に刺激されて新たに筆を執るとか、ストーリーはあるんだけど、なんというか……それも含めた「生活」を追う筆致が落ち着いている。この作品は、地味なお話でも、魅力があれば「無」ではないという好例です。魅力というのは、文章力だけの問題ではなく……人間を、世界を、どう見つめ、どう触れているかということになりましょう。くうちゃんと紗栄子の感じること、話すことに、型どおりではない息遣いを感じるのは、ひとつひとつの感情やふるまいの善し悪しを、作者が自分の手で確かめてから言葉に起こしているからだと思います。

 

 

13. @dekai3 「魔法少女ブックマウンテンらの」

 すっかり常連さんですね。モノホン大賞が誇るKUSO小説枠です。あいかわらずのアイキャッチてきに挟まる半角擬音に味があって、それだけで癖になります。話の筋じたいは特にひねりのないどこかで見たことあるよ~な感じなんですが、ツイッターの話題を盛り込んだ設定や台詞まわしや、限界ラノベワナビ、ストーカーおじさんなどの強烈なキャラクター、なんだかんだいってわりと性格がアレな主人公、ここぞというときに放り込んでくる大きいおっぱいは正義など、全体にひどくて細かいクスクスわらいを稼がされてしまいます。肩のちからを抜いて気楽に読んでクスクスできる、お手本のようなKUSO小説でした。あと作中に大澤の小説も出てきたのでプラス1点です。

 本物川小説大賞らしいKUSO小説……! 勢いがあって楽しいですね。らのちゃんがんばえー! ハイコンテクストなギャグも多く、なかなか万人ウケは狙えない感じですが、わかる人にとっては楽しい作品なのではないでしょうか。序盤の情報量が多く、ややとっちらかった印象もあり、その辺りを丁寧に構成するとより良くなるかと思います。最終話の王道展開は好きでした!

 ラノベ大好き少女・本山らのが「魔本少女」に変身し、心が歪んだ小説読者のなれの果て「アンチ獣」を退治する! プリキュア仮面ライダーのような変身ヒーロー・ヒロインもののパロディ要素が詰まった「らのノベル」です。それこそテレビ番組の1話と7話と13話(最終話)を繋いだような大胆な構成ですが、見せ場の繋ぎ方が巧みであり、またコメディ要素が強いので「そーゆーもの」として違和感なく読みました。簡潔な文章も、作品が要請するノリに合わせた、意図的なものでありましょう。ただ、やはり……あらすじと設定だけの、未完成の「骨」という感じは拭えない。これをもとに「肉」をつけた完全版を読んでみたい気持ちがあります。

 

 

14. 芦花公園 「私をお空に連れてって」

 ジェネレーションX風味の人間無理系ホラー。なんと小説書き始めて三週間目(当時)だそうで、これは大変な才能だと思います。人間無理描写のディティールが素晴らしく、根本的な筆力も非常に高いですね。大まかに言うと「彼は狂っていた」エンドで、これはそもそも夢オチと並んでかなり読者の反感を買いやすいプロットなのですが(なぜ初心者ほどやりたがるのか)かなりうまくやれているほうでしょう。この手の話はいきなりどんでん返しに持っていくのではなく、読者に少し違和感を抱かせ何かはあるのだろうと身構えさせつつ、その予想を上回るどんでん返しを仕掛ける必要があるので、偽の真相に読者をミスリードするような引っかかりを仕込んでおくともっと高まるかも。最後は認識の狂っている人間の主観記述でなのでちょっと分かりにくいですね。4話のラストでバツンと切っちゃって真相に含みを残すのも手です。今後の成長が非常に楽しみな作者。

 インパクトのある冒頭一文からぐいぐい引き込まれていきました。そしてどんでん返し。少し情報の提示が唐突で(私の読解力不足もあるのですが)理解するために読み返して一度確認する必要があった点は少し残念でしたが、腑に落ちてからは仕掛けの見事さに驚嘆しました。細かい描写にもアメリカのスクールカーストのリアリティがあり、上手いな、と思いました。

 学園のマドンナ、アメリアが死んだ。心の友を「強要」されていた冴えない主人公は、決して彼女を愛していたわけではないが……それでも、アメリアを悼むためにある行動を開始する。洋画のようなサスペンス・スリラーです。淡々となされる人物描写がたいへん巧い。アメリアの趣味や行為について語ることで、そう語る主人公の人格や価値観、ひいては彼女たちを取り巻くスクールカースト的な環境も、自然と読者の頭に入ってきます。ギスギスした不穏な空気が途切れない、センスのある文章です。一方で、筋運びやどんでん返しの仕掛け方には、小説を書き慣れていないひとのような不親切さもあって、不思議な作者だね。すごい伸びしろを感じる。

 

 

15. ピクルスジンジャー 「焼肉とタバコと魔法少女と。」

 えっと、ちょっとよく分かりませんでした。なんか淡々とした叙述の中でポーンポーンと知らない話が飛び込んでくるので、えっ? えっ? となってしまって、驚けばいいのか、そういうものだと納得すればいいのかも判断に苦しみます。読み進めていけば分かるのかなと思っていたのですが、最後までなんだかよく分からないままに終わってしまいました。背後に膨大な設定があるっぽいのですが、ひとつの短編として必要のない部分はまるっと削ってしまってもよかったのではないでしょうか。とくにどこにも辿り着かない背後関係みたいなのが続くと混乱してしまいます。

 この作品の女性一人称の感じ、私は好きでした。キャラクターの語りであるという意識がしっかりあったのが好印象です。粗暴な言葉の選び方に反して常体ではなく敬体で記述するところが好きです。キャラの魅力を引き出す地の文だと感じました。ただ、世界観の説明不足なきらいがあり、肝心のストーリーラインにも集中できなかったのが残念です。単体の物語としての構成を考えていただけるとより良いと思います。 

 妖精の王国の女王が、かつて「魔法少女」だったころの厭わしくも懐かしい思い出を、やさぐれた口ぶりで回顧するという構成のお話です。職業としての魔法少女を描くお話は、流行を超えてもう定番なのだね。このコンテストにも複数、投稿されています。こちらの魔法少女は、地下アイドルや夜のお仕事のダーティな部分を煮詰めたような「賤業」という感じで、暴力と策謀にまみれた設定はおもしろく感じました。ただ、他シリーズの外伝という色合いがあまりにも濃く、これはさすがに、単体では評価しがたいところがある。せっかく初見の方々に自作をアピールする機会でもありますし、もう少し、いちから語り直すような親切さがあったらよかったと思います。

 

 

16. 鍋島 「さそり座の夜、あの屋上で」

 お、世界観先行型だな? という印象。広大な九龍城てきスラム建築空間を舞台にしたサイバーパンクSFてきなレズ。作者の性癖が丸出しの情景描写は良いです。序盤の引き込みかたとか、文字が現れては消えていてそれがヒントになっているなど、ガジェット単位でみるとものすごくワクワクする描写がいっぱいあるんですけれど、まだ完全にはカチッとハマッてないかも。うん? ってなって何度か読み直してしまいました。書いている人間はなにしろ自分で書いているのですべてを把握していますから、必要なフラグのうち、なにを説明してなにを説明してないかみたいなのを忘れがちで、読者を置いていってしまうことが稀によくあります。自分でもすっかり忘れたぐらいの頃合いで一度読み返してみると、自然と加筆修正箇所が見えてくるかもしれません。あと一歩で大化けしそうなので、ここで終わらせずにもうちょっと追求してほしい。

 この舞台設定とエンディング、好きです! 情景描写も良いですし、構成も的確だと思います。強いて言うなら、一つ目のObserver Lの部分などの世界観設定がややすんなり入ってこなかった感じがありましたので、短編ですからどうしても情報の密度を上げなければならないのは仕方ありませんが、そのあたりを丁寧に構成してみてはいかがでしょうか。ポエティックな描写が素敵でした! 

 アジアン・サイバーパンクだ! 九龍城めいたスラム街に咲く、記憶喪失のスパイとの運命の恋を描いた、ロマンティックなSFアクションです。個人的に好みの設定なので、評価が甘くなったり厳しくなったりしないように気を引き締めて拝読しました。とてもゴージャスな内容です。このジャンルに期待するものがあらかた盛り込まれている。スラム街の秘密が早くから明かされるのはもったいないような気もしますが、この分量であまり引っぱると、後半がキッチキチになるという判断でしょうか。そういった構成もよく考えられていて、この内容をこの分量に収めた作者の手腕が光ります。だから、この作品が物足りないという意味ではなく、さらによい形……2万字の制約を取り払った形で、この舞台のお話を読んでみたいと思いました。

 

17. 矢久勝基 「七度目の逢瀬」

 勢いのある一人称の勢いのままに、冒頭からドーン! ドーン! と唐突なイベントが連発するのでタイムスリップくらいは「まあ勢いでそれくらいはあるかもな」と素直に納得させられてしまいます。この勢いはなかなかのもの。で、行った先が700年前なんですが、ハハァンさてはお前ここを書きたかっただけだな? という感じでいきなり質感が高くなります。うん、書きたいものを書きたいがために物語の外枠を作るというのは創作メソッドとしては大いにアリ。ただ、現代編だと主人公の勢いを平然と押し返してくる勢いあるキャラばかりでバランスがとれていたんですけれど過去編ではなんだかみなさん大人しくてで、ちょっと主人公の勢いばかりが目立つかな? 過去編にも強めのキャラがいるともっとバランスがよかったかもしれません。勢いのままに走り抜けた感じの投げっぱなしのオチも悪くないです。

 パワフルな主人公が魅力的な作品でした! この元気の良さは嫌いじゃないです。そしてまさかの歴史物語……! かっちりと過去の人物の語り口が描写されており、主人公の語り口との対比が際立っていて良いと思いました! ストーリーについては、やはり、オチが気になりました。続きが気になってしまいます。タイムスリップものの定番、過去での行動が現代に影響を及ぼしているところを見たかったかな、と思いました。 

 平凡な少女に降って湧いた結婚話。わけもわからず状況に流されるうちに、少女は中世日本にタイムスリップしてしまう……という、スラップスティック・コメディです。長音と感嘆符を重ねたこの感じーーーーーっ!!!! 懐かしさを感じる文体だーーーーーっ!!!! 物語の雰囲気には合っていますが、もう少し控えて、ここ一番の場面で用いたほうが効果的かと思います。あと完全に連載の「第1話」であり、フレーバーではない解かれるべき謎が残ったまま唐突に終わってしまっているのが、コンテスト作品としてはマイナス点です。実質「未完」である。いちど主人公を現在に帰して、お話にひと区切りつけてほしかった。

 

 

18. ZAP 「ファミマのメロディの魔法の少女」

 これはKUSO創作ですね。そうそう、こういうのでいいんだよモノホン大賞っていうのは。基本的にはコメディタッチの勧善懲悪ものっていう感じでストーリーラインには特に捻りはないのですが、小道具がすべてファミリーマート絡みになっています。テンポも軽快で読みやすいですし、なにより、このKUSOみたいなワンアイデアで16000字をやりきる馬力はなかなかのもの。さらさらっと読んでわははと笑って、あとにはなにも残らないみたいな完全なKUSO創作で、これはこれでひとつのありようとして大好きなんですが、あともうひとつなにか「おっ!」と目を引くような展開なり台詞なりがあればさらに評価は高かったでしょう。

 わーい! ZAP先生の久々の供給だー! ご参加ありがとうございます……! 勢いとテンポが良く、明るく楽しくにこにこ拝読させていただきました! さすがです! 好きでした! 今後の活動も応援しております!(ただのファン)(ちなみに「ざるそば(かわいい)」は本物川的なインパクトと楽しさのある作品なのでおすすめです。)

 ファミマ。なぜファミマ。作者は心の底からファミマが好きなのか。あるいはトリッキーな題材として選んだだけなのか。余談ですが「お母さん食堂」のスープカレーはおいしいです。異世界に忽然と出現するファミマ。主人公の少女はそのファミマの店長。ちゃんとした支店で商品も適宜入荷する(どうやって?) さまざまなファミマのトリビアを織り交ぜながら、物語はあくまでも正調のライト・ファンタジーとして進んでいきます。違和を違和として強調せず、軽快かつ端整な筆さばきで、当たり前のこととして描いていくのが逆におかしい。こういうセンス、好みです。これは、なんというか……これ以上の意見を必要としない。これを完成形として、おいしく楽しく味わう小説だと思いました。

 

 

19. 修一 「わたしの砂糖少女」

 退廃的で背徳的でお耽美な雰囲気のアレ。やりたいことは分かりますし、かなりの程度まで成功しているとは思うのですが、まだすこし読者を置き去りにしてしまっているかな? ちゃんと読者を一緒に連れていけるともっと強いでしょう。その先は読者とのマッチングの問題なので、さらに深化していくか、もうちょっと間口を広げて一般ウケを狙うかはどちらが正解とも言いづらい。マッチングさえうまくいけば、このままでも好きな人は好きだと思います。個人的にはちょっとだけ挟まるSFっぽい説明的な部分はなしにして、完全に雰囲気だけで乗り切っちゃってもよかったかなぁという気はします。

 メルヘンでファンタジックな設定が冒頭部分で提示され、まず引き込まれました! 耽美な百合とこの上なくマッチした設定でとても良いと思いました。背徳的でデカダンスな関係性の描写に光るところがあると思うので、二人の対話をもっと読みたい! その辺りにより重点を置かれたりすると、個人的には良いのではないかと思いました。 

 研究者の父が作った「砂糖少女」のリリィを愛玩し、蹂躙するサラ。しかし本当に相手を支配しているのはリリィのほうであり…… 少女たちのいびつで甘い愛情を描く、耽美な奇譚です。とくに前半は、リリィとサラの関係性がねじれてゆくさまが淡々とした文章で描かれ、緊密なエロスが香り立っていて素敵でした。後半の探索行は、文章のちからで緊張感を持って読ませてはくれますが、物語の長くない分量を考えると冗長な感があります。それならば、リリィの真実が明らかになって破滅へと向かうラストにたっぷりと官能的な筆を割いてくれたほうが、この作品にはふさわしいのではないかと思いました。

 

 

20. ものほし晴 「高校ぐらい出ないとダメだよ」

 爽やかでちょっと甘痛い系のYA文芸できなノリですね。しっかりものの少年とぼんわりとしたお姉さんの組み合わせ。書きすぎないところに魅力がある作者で、これは希少な才能です。個別のシーンでは非常に描写力の光るところがある。でも、全体的なテーマ性はまだ作者自身の中でも煮詰められていないような印象を受けました。こう、一般常識的なところと自分自身の考えみたいなのがまだせめぎ合ったままで、結論は導出できていないみたいな。そのへんがぼんわりとしたままなんとなく妥当な道を選ぶのがこの年代のリアリティと言えて難しいところなんですけれど、もうちょっとシャキッとしたほうがエンタメかな? せっかくだからふたりの関係性のフリップも、もうちょっとくっきりとしたほうがいいかも。短編だと多少はキャラクターをカリカチャライズしてもっと強烈にしちゃってもいい気もします。全体的な読み心地は大変に気持ちよく、雰囲気加点でプラス1点です。

 はちゃめちゃに好きでした!! 物語全体の雰囲気がとっても良いですね! 私の心の弱いところを的確に突いてきます……オチとしては手垢のついたものですが、時を経て再会するエンディングがやっぱり好きなんです……ちょっとした冒険みたいなのも好きで……。文章の読み心地も申し分なく、優馬くんも魅力的! そして、大人と子供の中間である中学生の頃の心の揺らぎが見事に描写されていて、感服です。

 小説で「なんとなく」という動機に説得力を与えるのはなかなか難しいんですけど、この作品は、学校や家に「なんとなく」違和感をおぼえ、どこかに行きたいと思った女子中学生の窮屈な心持ちがきちんと伝わってきます。あまり内面のモノローグに頼らず、家出の旅のようすを客観的に描写し、深刻なテーマをあくまでも登場人物の体感の中で表現する、抑制された筆さばき……これは、物語ること、伝えることについて習熟したひとのものです。作者はとあるマンガ家の別名義であり、そのことが作品の評価に影響はしませんが、個人的な述懐として……構成や科白がすぐれているのはあの作者なら当然といえば当然ですけど、文章の緩急も小説をメインにやっているひとに引けを取らない出来栄えで、すごいと思いました。

 

 

21. いかろす 「とけあうふたり」

 お、なんかいい感じの青春ものっぽいじゃ~んって読んでいたら、いきなりパカッと変形して羽根が生えて「おおっ?」と戸惑っているうちにボーッ!! とジェット噴射で大気圏を突破してそのまま宇宙の果てまで飛んでいったみたいな急展開でしたね。そして最後はやっぱり愛だよ、愛(投げやり)。びっくりしました。まあ、この唐突さはこれはこれでアリなんじゃないでしょうか。わたし個人としては中盤くらいまでのすこし不思議レベルで踏ん張ってくれたほうが好みでした。

 うんうん、この甘酸っぱい青春の感じ、好きだなぁ……! と、にこにこ読んでいたら急転直下! 驚きましたが、個性的でそれもまた良し! 最終的にはまたラブストーリーとして着地するところも、上手いなあと思いました。SF的なスパイスのあるラブコメとして纏まっていたら、私のストライクゾーンど真ん中だったのですが、このトンデモ展開はやはり商業とかでは読めないと思うので、これはこれで場に適していて良いのかもしれませんね。 

 王道の爽やかな百合ラブストーリーと思いきや、そこに少し奇妙な要素が加わり、どうなるのかと読み進めていけば、中盤から「少し」どころではないSFへ変貌。それがただ「鬼面人を威す」ためのものではないところがいいですね。本格的な異能バトルが繰り広げられ、最後はちゃんとラブストーリー……宇宙的な愛の物語に帰着する。読み手の予想を半歩だけ裏切る、心地いい大転回を味わいました。小説を書き慣れた感じがある。ただ、この「半歩」を、読み手を置いてけぼりにしない長所と取るか。それとも、さらに踏み込んだサプライズを求めるか。迷うところです。迷う時点で、少し後者なのかもしれない。実力者であるがゆえの理不尽な期待、していいですか。

 

 

22. @sophia_aeon 「白と赤。青とカーテンの庭。」

 ウーン分かります厨二病、みたいな感じの要素が昇天ペガサスMIX盛りですね。こういった厨二病てきな要素って誰でも少なからず持っているもので嫌いな人ってあんまりいないと思うんですけれど、ここまで全部盛りでこられると少し食傷気味かも。エモで押し切るのは創作法としては全然アリなんですけれども、最初から全開でど派手にエモくこられると、ついていけずにポカーンとしてしまいます。物語としても出来事を抜き出すと本当に「最後にポッと自分の正体に気付き、外に出る」だけなので、たとえば自分の正体に気付くのを偶然のポッとにせずに、過程をちゃんとフラグ管理してそこに収束させていくなどすれば、もっと高まるかなぁ。

 幻想的な雰囲気が印象的な作品でした。やや描写がごてごてしているかな…と感じる部分もあり、語りすぎず、取捨選択することも大事なのではないかな、と思います。世界観に関しては、序盤で引き込むようなフックのようなポイントを加えることが出来れば更に良いのではないでしょうか。あと、すこし「――」が濫用されている傾向がある点が気になりました。 

 陽光すら毒となる虚弱体質のせいでカーテンを閉めた病室から出られない少女が、外を観たいと渇望し、部屋からの脱出を試みた顛末をつづる、幻想的なサスペンスです。主人公のささいな(しかし彼女にとっては大仕事である)行動をひとつひとつ描くことで、緊張感のある物語を構築しようとする意欲はよいと思います。大仰な比喩による絶望や自虐の嘆きに、ちょっと唐突な印象が。作者が描きたいであろう感情の極まった状態をいきなり提示されて、面食らってしまうところがありました。あと、少女が本当に吸血鬼だったというオチなのであれば、この病院は主人公をどうしたいのか(保護しているのか、生体実験などのために軟禁しているのか、など)がもう少し説明されると、設定にさらに深みが出てよかったです。

 

 

23. 水瀬 「CQ

 すごかった。すごいですね、これは。めちゃくちゃ面白いです。具体的にどういうビジュアルなのか説明がまったくなく、自分の想像力の限界を試されるような不親切な文章がひたすら続き、そのまま何も分からないままに終わるんですが、読み終わったあとでちゃんと納得感のようなものがある。普通だったら物語の焦点になりそうな大きな出来事がまったく無視されて、わたしと彼女、わたしの彼女への気持ちといったものすごくミクロなところに終始焦点が合っていて、それが一度もブレることがないのが気持ちいい。こういうのっけからの不条理系というのはネタだけで飛んでいって読者が置いてけぼりにされてしまいやすいのですが、これは設定とお話と文体のバランスがよく、不親切なのになぜか読者に対して世界が開かれているのがいいですね。暴れ馬をきっちりと抑え込む地力がものすごく高い。間違いなく大賞候補の一角ですが、これに表紙イラストをつけるのは大変そうだな。

「試験対策で彼女が魚になった」という書き出しに、疑問符がたくさん浮かぶも、ぐいぐい読ませてくる巧みな筆力……! 面白かったです!! 上手い……となってしまって講評を書くのに大変悩みました…曖昧なままでも物語を進行させられるという、文字表現だからこそ成立する良さがあると思います(どうやって水族館とか行ってるんだろう……?)。ぶっ飛んだ設定とそれを作品として落とし込む手腕、数々のキラーフレーズ、関係性の描写の丁寧さ……全体的にクオリティが高いと思いました!

 人間が別のモノになる「試験」を受けることになった……そうなっている世界で、魚になった恋人・たまこと、まだ何になるか決まっていない主人公・CQとの半年間を、抑制のきいたリリカルな筆致で綴っています。純文学的なマジック・リアリズムが炸裂した内容なのに、どうしてこんなに風通しがよく、読むひとをするりと受けいれてくれる小説なんだろう。寓話と呼ぶには地に足のついた生活感があり、SFと呼ぶには理にこだわらない静かな勢いがある。その絶妙なバランスに唸りました。いろいろな比喩や風刺を見いだして語ることは可能ですが、別にしたくないので、しません。講評の放棄でしょうか。ただ読んで、この不思議で健やかな世界に浸ってほしいというのも、賛辞のかたちだと強弁しよう。

 

 

24. 平山卓 「ガール・ミーツ・ガール!出会ってはいけなかった二人」

 なんてことのない日常系かと思わせておいて実は、みたいなやつ。やりたいことは分かるんですけれども、まだあんまり上手くはいっていないかな。意外な展開! っていうのはいきなりスポーン! と飛び出してしまえばいいわけではなく、事前に情報を提示しておかないといけないので、二回目に読んだときに「あ~! これ伏線だったのか~!!」ってなるようなフラグをちゃんと埋め込むようにしましょう。奥歯にモノが詰まったみたいな微妙な表現でドンと正解を置いちゃっていいです。構成ももうちょっと考えたほうがいいかな? 本来なら、そこは話のオチになる部分ではなくて起点になる部分なので、始まる前に終わってしまったという感じ。もうちょっと練り直してみてください。

 実は殺し屋な女の子達の物語。キャラクターは魅力的でしたのが、ストーリーの焦点がちょっと定まりかねているような印象も受けました。二人の関係性にか、それとも組織や父親との対立軸に焦点を当てるのか、もう少し練ってみるとより良いのではないでしょうか。女の子への愛が溢れ出す一人称には思わずふふっとなりました!

 元気いっぱいの主人公は同級生のミステリアスな柳瀬さんに激萌え&ガチ恋の真っ最中。ハイテンションな語り口で綴られる青春模様は、しかし、ふたりが抱える出自の秘密によって急転します。終盤で炸裂するサプライズの数々はビシッと決まっており、エンタテイメントの短篇を読む愉しみを味わわせていただきました。ただ物語が、そのサプライズの「従」であり、サプライズの「内側」におさまってしまっているような感じもある。ネタがわかったあともまた読みたくなる――このキャラクタたちにまた会いたくなるような、さらなる魅力の演出があるといいと思います。

 

 

25. 木船田ヒロマル 「つないだ手、のぼる朝日」

 ジャンルは現代ドラマになっていますが、お話のつくりとしてはミステリーてきですね。正直な感想を言うと、う~ん、イマイチでした。謎があり、その謎を解くという形式なんですけど、まず真相がイマイチ。普通にありそうな話で秘密にしなければならない理由も希薄ですし(専門のカウンセリングを受けろ)、その為の仕掛けにしては大がかりすぎます。前回の手品探偵でもそうでしたが、犯人(と便宜的に呼びます)の行動がどうにもコスパ悪すぎて、納得感に欠ける。真相と動機とトリックのバランスが悪い。かつ、意外な犯人も意外ではあるのですが、それがが明らかになることによって余計に気持ち悪さが増すかたちになり、オチでの主人公の反応にんん~~?? となってしまいます。仕掛けを動かすために物語を用意したけれど、うまく整合しきらなかったという印象が拭えません。多少の無茶があっても、もっとぶっ飛んだ真相があったほうが、まだしもチャーミングな仕上がりになったでしょう。

 謎のバイトをすることになった女子大生のお話。文章も読みやすく、いったいどうなるんだろうとどきどきしながら楽しく拝読いたしました!ただ、そういった基礎的なクオリティが高い分自分の中で勝手にハードルが上がっていたのか、オチの付け方はちょっぴり拍子抜けだったかな……という気がして惜しいな、とも思いました。 

 女子大生が「顔も名前もわからない状態で、依頼人と手を繋いで眠る」という不思議なアルバイトに挑む展開にわくわくさせられました。つかみはオッケー。でも明かされた謎の真相がちょっと平凡か。この理由で、これほどの財力と権力がある依頼者なら、普通に口が堅くて目隠しなどを受けいれてくれる相手を探せばいいのでは……と思ってしまう。例えば「手以外は愛せない」とか(吉良吉影だ)とんでもない理由のほうがいい。あと、この内容で1万字を支えるには、登場人物の日常を描き、内面を掘り下げる、リリカルな膨らみがもう少しあってほしい。そうでないのなら、3,000字くらいのショートショートで一気にサプライズを叩きつけるタイプのお話でありましょう。

 

 

26. 七条ミル 「独り身少女の高校生活」

 うーん、なんでしょう? ちょっと全体的にぼんわりとしていて、どこに注目して読めばいいのかがあまり分かりませんでした。なんか出来事はいろいろと起こっているんですけれども、全部フーンってなってしまうというか。もうちょっとエモくするかなんかして読者を話の先へと牽引していかないと厳しいかな。主人公がそういうキャラなのだとしても、ちょっと淡々とし過ぎていて起伏が感じられないです。同じ筋書きでも、書きかたを工夫するだけでもっと起伏は作れると思います。

 等身大の高校生達の日常。文章自体はひっかかるところもなくすっと入ってくるので、後はエンタメ的な強度をもっと増していくことができればさらに良くなると思います。キャラクターの書き分け(特に男子キャラ)であったり物語の緩急などに気を付けていければ良いのではないでしょうか。応援してますよ。

 文芸部のおとなしい少女が、部活仲間の少年に恋をする。だからっていきなり世界が輝くわけでもなく、小さな事件をはらみつつも淡々と流れてゆく少女の日常を綴ったお話です。「陽キャ」とか「陰キャ」とか、胸の大小とかをとても気にするあたりに、少年向けライトノベルの香りが漂います。そういうことが重要な季節というのはあるよね。基本的に坂本という「ザ・悪役モブ」のような人物の雑な茶々によって物語が動いていくところは、物足りなさを覚えました。わりと明快な色分けをしている文芸部員たちなので、もっと陽キャ陽キャっぽく、陰キャ陰キャっぽく、よくしゃべったり動いたりしたほうが、この物語の輝きが増すと思います。

 

 

27. 偽教授 「我、帝国を滅ぼせり」

 またすごいところからネタを引っ張ってきましたね。史実ものでもヨーロッパとか中国はちょいちょい見ますけれども中米は珍しい。まず、こういうところからネタを引っ張ってこれる引き出しの多さは単純に強みです。ただ、これはちょっと2万字までの規模じゃなかったかな? という感じ。現状では、かなりザザッとしたダイジェスト感がある。生涯を描くんじゃなくて、もっとどこか一か所にフォーカスしてディティールを詰めるか、逆に長編にしてしまったほうがいいかも。どっちかっていうと後者かな。たぶん、本来は普通に10万字以上の規模になるものだと思います。

 アステカ帝国が舞台の作品! エキゾチックな雰囲気を感じされられる作品で、新鮮な気持ちで拝読させていただきました。歴史物語ということで、やや仕方ない面もあるとは思うのですが、やや説明的であったり、馴染みのない固有名詞の連続するところがあったりする点は、エンタメとして考えた際にはマイナス要因にはなるかな、とも考えましたが、様々なジャンルに挑戦する試みは良いと思いました! 

 南米のアステカ帝国を征服したスペインの冒険家・コルテスの生涯を、彼に付き従い協力したアステカの娘・マリンチェの視点から描いた歴史小説。コルテスもマリンチェも史実の人物です。興味深く拝読しましたが、正直に申し上げて、考証や解釈をジャッジできる素養は私にありません。アステカ小説、まちがいなく生まれて初めて見た。おそらく私のような読者が大半であり、そのような人々にも「読み物」でなく「小説」として届けようとするなら、重要ないくつかの場面をピックアップして、マリンチェが参謀としてコルテスを支えるようすを描出し、キャラクタをより魅力的に立てるのがいいでしょう……ということは言える。あとはもう、作者の志向でありましょう。

 

 

28. ロッカー・斎藤 「婚約者は夏ドラゴン」

 終始いちゃいちゃしたままで終わってしまいました。近頃の乙女小説方面では、こういう一切危機がなく終始問答無用に愛されっぱなしのパターンのほうが流行っているという話は聞いたことがあるのですが、う~ん、微笑ましくはあるし、まあ需要もありそうなんですけれど一本調子な感じは否めません。やはり小説ですから、なんらかの事件があって解決するとか、山があって谷があるとか、そういうものも多少はあったほうが印象に残るのではないかなと思いました。わたしの感性が古いだけかもしれません。

 銀髪ロリBBAがとにかくかわいいーー!! そんな異類婚姻譚でした。いちゃこら。かわいいキャラクター造形と、それを成立させるためのファンタジックな世界観は素敵だな、と思いました。間に挟まれる回想シーンなどがやや流れをぶった切っているようにも見受けられたので、ストーリーとして一本何らかの芯を通すとより良いのではないでしょうか。

 少女とドラゴン(人間体は美幼女)の、人外×婚約×溺愛もの。割とシリアスな背景を感じさせつつ、ひたすら主人公カップルのいちゃいちゃの糖度を高めることに注力した内容は、少女向けライトノベルのトレンドでありましょう。かわいい。現代の日本だけど、ドラゴンに守られている……そのワンダーを日常として受け入れている町という設定は好みです。説明されるビジュアルが楽しく華やかで、きっとマンガやアニメで見てみたら心地いいだろうなと思い……そんな思いが浮かぶのは、プラスの意味ばかりではないのかも、というところもある。小説としては、もっとフェティッシュな描写を増やすか、ふたりの絆が深まる具体的なエピソードを足すかして、さらなる「圧」を望みたいです。

 

 

29. 山本アヒコ 「勇者にふさわしいあなた」

 すごく面白かったです。異世界転生召喚ものというテンプレに乗っかってツイストを決める芸はいろいろなパターンを見てきましたけれども、これはかなりうまくできています。召喚の魔法陣から一歩たりともカメラが動かないのも演劇的で、短編として上手にまとめるのに寄与していますね。最後までケロッとしている神官のナチュラルな倫理観や常識のズレ具合もブラックで風刺が効いていてとてもよい。ほとんど欠点はないんですけれど、全体のバランスで見ると冒頭がちょっと重くて後半が駆け足になっているかな? ひょっとすると全体の文字数じたいをもうちょっと削ってコンパクトに納めたほうが、もっと切れ味があがるかも。個人的には頭ひとつ抜けた高評価です。

 捻りの効いた異世界転生もの。短編コメディとして完成度が高いと感じました! 特に終盤にかけてはアイデアも良く、テンポ良く進行していき面白い。オチも心に爪痕を残していきました。強いて言うなら勇者さまが出てくるまでが若干冗長かな…と思いました。冒頭から「何かが違うぞ!?」と思わせられるともっともっと強くなると思います。面白かったです!

 魔王の脅威に対抗すべく異世界から召喚した勇者は、平凡だけど自信過剰で下卑ていて、なんだかとっても心配だけど、彼に頼るしか道はなく…… 「現代日本でダメな青年が、異世界や過去世界なら役に立つというものなのだろうか」という、転生ファンタジータイムリープもののツッコミどころをグッと掘り下げた作品です。同種のアプローチを試みた作品はすでにたくさんあるのかもしれませんが、この作品は思い付きのパロディに留まらず、「異世界転生もの」のお約束を踏まえなくてもSFとして楽しめる普遍性を備えていて、頼もしさを感じました。後半の展開もいい。呪いのようでいて、やはりこれは、うだつのあがらない青年にとって祝福だったのかもしれない……そんな余韻を残します。

 

 

30. 有原ハリアー 「隠す手札、明かす役」

 分かりませんでした。小説かくあるべしみたいなつまらない話をするつもりはありませんし、文字で表現されているものならばなんでも小説にはなり得るとは思うのですが、なんでしょう? こう、物語が読みたいですね。

 いきなり箇条書きの登場人物紹介から始まってしまうと、少々面食らってしまいます……。ルール説明なども物語として落とし込んでほしいかな、と。やりたいことは分からなくはないので、ただ進行を叙述するのではなく、もう少しエンタメとして昇華させられるよう再構成してみては、と思います。 

 恋人同士である王女と騎士のポーカー対決を描いた小説で、別シリーズの番外篇だと思われます。それ自体はまったく構わないのですが、単品としての完成度をここまで放棄されると困ってしまうというのが、コンテスト担当者としての辛辣な本音です。こういうゲーム対決を物語として成立させるには、ぶっとんだ特殊ルールだったり、登場人物の狂気だったり、エキサイティングな要素を入れるサービス精神がもっと要るのではないか。淡々と勝負の経過を説明するだけでは、エピローグの萌えるオチも響いてこない。あらかじめ、このキャラクタたちに愛着があるひと向けの作品でありましょう。

 

 

31. 双葉屋ほいる 「鮎子ちゃんとながいともだち」

 ながいともだちが掛け言葉になっていて、こういうタイトルにひとひねりあるのはすごく好きです。素早いロケットスタートから、そのままの勢いでポンポンポンと軽快にテンポよく読めて、ほどほどに笑いがあって事件もあって、爽快な解決とちょっとした伏線の収束と友情もあって、ボリュームに対してのまとまり感が非常によく、意外とやっていることのレベルが高い作品です。文章がこういうノリとテンションだと、話のうえでのちょっとした粗も「まあそういうもんか」と気にならないし、全体的にチャーミングな印象。あともうひとつ、なにか強く印象に残るポイントがあればさらに強そう。KUSO勢の中では頭ひとつ抜けた高評価。

 読んでいて楽しい作品でした! 独創的な設定や物語の緩急、キャラクターも生き生きとしていてよかったです!髪の毛かわいい。コミカルな語り口も好きでした。おトイレや変態さんの描写が……ちょっと読むのが憚られるので選べませんが(作品としてはとても楽しめるポイントだったのですけれど!!)本山らの賞を獲れるポテンシャルはありました。惜しかった……けれど面白かったです!

 謎のヘアスプレーで髪が意志を持っちゃった! 謎だけど起こっちゃったことは仕方がない! とりあえず学校行かなきゃ! という割り切った前提が、このスピード感あふれるコメディにはよいほうに作用していると思いました。とにかく、1,000字程度の短い章ごとに、かならず脱力ものの笑える出来事と、次の章への気になる引きがある。これは私の小説観なのですが、遺漏のない文章できちんと描けていても、その場面が「無」なのは好ましくありません。動きがない淡々とした内容でもいいんです。でも、読者の感情を揺さぶるとか、作品世界の匂いを伝えるとか、何かをもたらさなければ。この作品は、そのあたりがバッチリ。笑いとサスペンスをもたらし続ける、サービス精神を感じる作品でした。 

 

 

32. 左安倍虎 「魔王のいない朝がくる」

 童話カテゴリーになっていますが、質感としては王道のハイファンタジーという感触です。ん~、短編にしてはちょっと盛り過ぎた感じ。最終的には「正義も悪も曖昧な灰色の時代がくる」みたいなふんわりとした教訓めいたところに落ち着くのが童話ということかもしれませんが、そのふんわり具合に対して「今日を繰り返している」という設定は、ちょっと強すぎる。物語の中での位置づけは完全に「魔王を倒してじゃあ明日からどうするの?」という現実にみんなが向き合うためのきっかけに過ぎず全然主題ではないので、肩透かし感があるかも。もうすこし童話っぽく文体を調整できれば、強めの要素も「そういうもんか」とあまり気にならなかったかもしれませんが、文体がソリッドなぶん、大仰な設定がそのまま大仰に響いてしまうというのもありますね。普通にたき火を囲んでお喋りしているだけでも、自然とそういう話にはなりそうな気がするので、「今日を繰り返している」は、いっそなくても良かったかも。

 児童文学的な雰囲気も感じられるファンタジー作品。漢字の開き方などにもこだわりを感じられる丁寧な文章が好印象でした。それぞれのキャラクターも立っていて良かったと思います。強いて言うなら……最後のエピソード「灰色の聖女」で世界観の広がりを描写しつつもそこで終わってしまうのがもったいない、というか個人的にはその辺りも読んでみたかったと思いました。 

 ひとの願いを聞き入れるマジックアイテムが作動して「今日」がループしていることに、5人の冒険者は気づく。なぜ魔王を討伐した勇者たちは、自分たちでもたらした平和な「明日」を喜んで迎えられないのか……。ミステリ風味で展開される、静かなサスペンス・ファンタジーです。読み手に必要な情報――設定だったり、キャラクタの抱える鬱屈だったり――を的確なタイミングでもたらしてくれる過不足のない文章が素晴らしいですね。ひらがなと漢字のバランスにも味があり、ファンタジー世界のムードを表記のレベルからしっかりと支えています。完全にプロのレベルだと思う。意外な真相の「意外さ」は、ストーリーを根底から覆すようなすさまじいものではないのですが、私はそれもこの小説のほんわかと温かい美点とみなしました。

 

 

33. 逢咲あるすとろ 「造られた完璧少女の日常」

 うーん、なんでしょう? なんかこう、いろいろなものを置き去りにしたままハッピーエンドしちゃった感じがして「それでええんかい」みたいな印象は抱きました。無から創造した完全な人造人間ではなく、わざわざ「死体から造られた」という独自の設定を用意しているのに、最後までその必然性がなかったような気がします。せっかくそういう設定にしたのであれば、死体を流用しているが故の社会的なコンフリクトなども組み込んだほうが話に深みが出た気がしますし、たんに日常系萌えに走るのであれば、わざわざ読者にひっかかりを与えるような設定にすることもなかったのでは? みたいな。

 人造人間とその造物主の交流を描いたハートフルなストーリー。ヘタレなマスターも個人的に好みで、全体的に上手くまとまっているのですが、逆に言えば優等生的すぎてやや個性に欠けるところもあるかな、とも思ったので、もう少し尖らせても良いのではないでしょうか。 

 人造人間の少女(ツン)と創造主の青年(ヘタレ)の穏やかな日常を描くハートフルなラブコメディです。こういうお話で「読みたい萌え」というのは確実にあり、期待通りの「意外な真相」というのもある。そこをきちんと押さえられているのは美点ですが、悪くいえば「そこ」だけで、膨らみに欠ける。作者のオリジナリティ(流行りの言葉でいえば『性癖』)は大筋より細部にあらわれるタイプの内容なので、あまりにも当たり前すぎる印象が残ってしまいました。もっといっぱい少女と創造主のやりとりを重ねて、このふたりだけの個性を演出してほしいと思います。

 

 

34. 木船田ヒロマル 「サエコの審判」

 本当にビートルギアという遊びについて解説をしているだけで、特に物語と言えるようなものがないように感じました。面白そうではあるんですけれど、へ~、面白そうだな~で終わりみたいな。もうちょっとなにか、そこに絡めて物語のほうを駆動させてください。

「ビートルギア」というおもちゃの大会の観戦記。こういった玩具を売るための男児向けアニメ、テレ東の夕方とかによくやってますよね。今回女性一人称縛りがあったこともあり審判視点で描かれていますが、やはりこういったものの定番である参加者視点で描いた方が、大会のドキドキ感などをより印象付けられるかと存じます。 

 持ち主がカスタムして戦わせる昆虫型ロボット「ビートルギア」が流行している世界。ビートルギアには無知な女性が、大会を進行する羽目になった一日の様子を「ゲームセンターあらし」や「遊戯王」のようなホビーマンガのノリで描いたお話です。サエコの一人称で話を進めることで、ビートルギアに関する知識の足並みを読者とそろえるのは順当な選択ですが、そうなると、試合の様子を伝える言葉ももっとふわふわでなけれならないというジレンマが生じる。大会をめぐる人間模様と、迫力のバトルの双方を描くには、複数の視点ともっと長い分量が必要かと感じました。

 

 

35. バチカ 「どんぶり一杯の霊峰」

 無敵のおばあちゃんがひたすらラーメンに挑むだけの話です。なんか本当にひたすらラーメンに挑んでいるだけだったので、ちょっと肩透かし感はありました。お話においては基本的におばあちゃんが主人公だというのはいいのですが、語り部がただ出来事を観測しているだけになっていて、物語に特になんのコミットもしていないのが単調な原因かなぁ。語り部がこの出来事をどういう風に受け止めたのかとか、たとえば、これがきっかけでなにか考えかたを変えたとか、そういうのがないと、ただこういう出来事がありましたよ~というだけの話になってしまって、読んだほうもこのお話をどう受け止めればいいのか困惑してしまいます。

 おばあちゃん VS 山盛りラーメン! パワフルなおばあちゃんのキャラクターが好きでした! 出来事としてはただただおばあちゃんがラーメンとバトルしているだけではありますが、キャラクターの力でぐいぐい読まされました。良かったね……おばあちゃん……! 食欲をそそるラーメンの描写も二重丸です!

 どんな屈強な男も腕力で打ち負かす火の玉のようなおばあちゃんだけど、流行りの激盛ラーメンは食べきれなかった。年齢を考えれば当然。しかし、そういう「負け」もおばあちゃんは自分に決して許さない。ラーメンを完食するべく、おばあちゃんは周囲を巻き込む地獄のような訓練を開始するというスラップスティック・コメディなのですが……あの、すごいね、これ。ウェットな人間ドラマはいっさいなし。「グラップラー刃牙」に出てきそうなおばあちゃんの起こす騒動だけで17,000字を一気に読ませる筆力に脱帽です。「二郎系」ラーメンの描写に執念を感じるところがよい。お腹空いてきた。ひたすらおいしく、読んで「ごちそうさまでした」と手を合わせたくなる、そんな痛快作です。

 

 

36. すこやかな狸 「花魂」

 書きたいテーマみたいなのは伺えるのですけれど、まだちょっと、書く技術が追い付いていない印象。このテーマ設定でこの話の筋で強度のある小説にしようと思うと、もう小手先の工夫などではなく圧倒的な文章の地力でブン殴るしかなくなるので、ひたすら言葉の切れ味を研ぎ澄ますしかない修羅の道です。単純に文字数が少ないというのもある。丁寧にエピソードを積み重ねた結果として同じエンディングに到達するのであればまた印象も違うと思いますが、1万字ではさすがにちょっと駆け足で充分に共感できる下地が作れません。2万字でも厳しいかな? いきなり大テーマに取り組むのではなく、自分が持っている小テーマのうちのひとつにフォーカスして、ボリューム帯に合った短編を書いてみたほうがいいかも。

 ”私”の見ている世界とほんとうの世界について。はっきりとしたストーリーラインが見えづらく、ちょっと読者を置いてけぼりにしているような感覚を覚えました。しかし、こういう口語的な一人称や素朴な雰囲気は私の好みなので、今後に期待したいと思います。 

 草花が好きな女子が、ちょっと「人生の休暇」を過ごしている時期のことを描いたお話。書きたい感情や事柄があり、自分の中にあるそれらをできるだけ正確にあらわす、お仕着せでない言葉を探している姿勢がうかがえて好ましいです。ただ、未整理で、乱暴に放り出したような個所も目立つ。カッコ書きの科白を地の文に続けたり、改行して分けたりするタイミングが謎めいています。まだ小説を書き慣れていない感じがある。この作品を読んだ限りでは、わかられなくてもいい混沌を追究するというよりは、言語化しにくい違和感をわかり合えることを望んでいる作者なんじゃないかと思います。もしそうならば、洗練は要る。好きな作家はいらっしゃいますか。自分の小説とどう違うのか意識しながら読むと、ぐんぐん吸収できるものがあると思います。

 

 

37. 神崎ひなた 「平成最後の夏、私は最強の屍と出会った。」

 厨二病昇天ペガサス盛りシリーズです。やっぱみんな好きですよね、死。回想を除けばワンシーンで終わってしまうので、もうちょっとお話に動きがあったほうがよかったかなぁ。誰が屍だったのか? というところをタイトルで回収する仕掛けだと思うので、そこはなるべくクリアに決めたほうがいいですから、関係のない要素は削いだほうがよかったでしょう。平成最後の夏のことです。タイトルがもっと綺麗にハマッてたら加点がついていました。

「最強の屍」という言葉から連想されるような俺TUEEEバトルもの的要素は無く、どちらかといえば死生観にまつわる哲学的なストーリー。厨二心がくすぐられる言い回しが印象的でした。ただやはり、「最強の屍」という言葉の厨二力が高すぎて、やや浮いていたかな、とも感じました。全体的にロマンチックさを上乗せしていければさらに良いかもです。 

 急死した想い人を蘇生させることを願う主人公の前に、本当に蘇生術を使えるという謎の少女が現れる。死ぬとは何か、生き返るとは何か、生きるとは何か――哲学的な思索に彩られた幻想譚です。世界なんてくだらない、くだらなくないのは「くだらない」という思いを共有出来るあなただけ……という、青くさくも切実な想い。青春文学ですね。いろいろ唐突な展開で、書きたい科白を性急に繋いでしまったようなところがある。結果、題名にある「平成最後の夏」「最強の屍」という強いキーワードが、劇中であまり機能していないように感じました。コミカルな冒険譚を連想させるタイトルでもある。内容に合った、静謐な題名のほうがいいでしょう。

 

 

38. 鍋島 「GHOST & SIMPLEX」

 鍋島さんは二作品めですね。王道の邪道っていう感じの学園異能力もの。まず安定して圧つよめの文がいいのと、序盤の設定の見せていきかたが上手いです。主人公ふたりのキャラと関係性も良い。犯人と対峙してからのシーンもとてもアツいので、あとは犯人を突き止めていく過程にもわくわくがあると100点満点でしょう。真ん中がちょっと説明を読まされている感はある。終わりかたも、これでキッチリ終わる短編というよりは連載の第一話っていう感じなので、ご本人てきに思い入れがあるようなら、ちょっと修正してこのまま続けていってもいいんじゃないかなと思います。一作目もそうでしたが2万字制限がかなり息苦しそうなので、伸び伸びと長編を書いてしまいましょう。それだけの地力はすでに十分にあると思います。

 異能を持った教師と生徒のミステリ風味なバディもの。話を広げていくのに適しているような世界観を考えるのがお得意なのでしょうね。連作短編とかにも仕立てられるような設定だと思いました。謎解きパートは若干目が滑ってしまったので、もう少しコンパクトにまとめてみても良いのではないでしょうか。

 殺人犯の記憶や感情を追体験できる能力「鬼の目」を持った主人公の女子高生が、殺された者の霊を祓う「鬼切り」の青年教師をサポートして、事件の真相に迫る伝奇ミステリです。サスペンスを盛り上げる手つきに唸りました。この手の話の「どういうところ」をみんながおもしろがり、続きを気にして読み進めるのか、作者はきちんと把握して書いておられると思います。情報が提示される順番と速度が適切なのだ。よいテレビのクイズ番組を観ていて、もし答えがわかったとしても、CMをはさんだ解答編は観たくなるじゃありませんか。そういう巧さがある。おもしろかったです。 

 

 

39. アイオイ アクト 「境界列車」

 むうんぷりんせす……。エンデっぽい感じの、ちょっと不思議で寓意のある児童文学みたいな路線です。ものがなしいんだけれどカラッとしている、独特の空気感がいいですね。これは絵がついたら素敵だと思います。雰囲気加点でプラス1点。いちおうどんでん返し型のプロットではあるんですけれども、そこまでカチッとした造りではなくて、でもリアリティレベルの調整がうまくいっているから、あまり細かいところが気にならない。そこはせめて星ではなく月なのでは……? みたいな引っかかりをわざと作ってスルーしちゃうのもキャラクター描写として高度で良い。あまり尖ったところはないのですが、総合力は高いです。

 幻想的な列車の旅路。すこしふしぎな世界観は好みでした。掴みも上手く、文章力も十分。ショートショートとしてのまとまりがあって良かったと思います。さばさばした主人公のセリフにもくすっと笑える点が多々ありました。派手さはないですが、じんわりと染み込んでくるような作品でした。

 就職活動に心が折れた主人公は、人助けをして電車に撥ねられ――死後の世界を走る列車の中に飛ばされる。羊頭の謎の車掌に誘われ、主人公はその列車で働くことになります。さまざまな想いを抱えた乗客との交流を描くハートフルなエンタテイメントには進まず、主人公が自分の半生と客観的に向き合っていくお話です。最後まで読んで「ああ、こういうテーマだったのか」と得心しました。そうなると、前半の吉田とのコミカルなかけあいの場面が少し長く、このオチ――列車はナコのインナースペースであった――へと向かうための伏線がもう少し散りばめられていてほしい。ユニークなアイディアを提示していくなめらかさを増す余地があると思います。

 

 

40. @muuko 「パセリ」

 こちらも青春の葛藤と成長てきなYA文芸ノリですね。全体的に巧いです。ボリュームに対する収まり感がとてもよくて、書き慣れているなという印象を受けました。パセリがメタファーとして何度となく登場してきて、普遍的であるが故にある意味凡庸な青春の物語に一本の芯を与えていてそれは大変にいいと思うのですが、肝心のぱせりくんが「あれ? 意外といなくても話が成立するんじゃね?」っていう感じで、それほど物語にコミットしていないのが気になりました。せっかくだから、もっとぱせりくんも絡めたほうが納得感が高まると思います。

 こういった青春ストーリーは私のどストライクです! 主人公の心の機微やつかず離れずな段階のぱせりくんとの関係性など、丁寧かつ繊細に描かれていて好感が持てます。あとはやはり、その名の通りそっと寄り添ってくれるようなぱせりくんのキャラをもう少し掘り下げた描写が欲しいかな……と思いました。 

 ふつうの女子高生の、いいことも嫌なこともそんなに起こらないけど、それなりに気を遣って学校生活をサバイブしている様子をていねいに辿る、この感じ……ヤングアダルト小説の王道である。短いお話の中で、人間関係や各人物の心境にきちんと「変化」があるのがいいですね。いいひとだけど特別な存在感はない、名前の通り「つけあわせ」みたいな存在の同級生がキーパーソンになるのですが、その肝心のぱせりの魅力が少し弱い気がしました。へんに濃い感情で結びつかない、微妙な関係のすがすがしさを狙ったのだとは思いますが……「この料理(物語)、パセリがなくても成立してしまう」という印象もある。もう少しだけ、彼を魅力的で、不可欠な存在として言及してほしいと思いました。

 

 

41. 三文士 「超同棲時代」

 え、怖いなにこれ。男が最初から最後まで延々とクソなだけでまったく好感が持てませんし、そんなまったく見所のない男と同棲を続けている主人公にも一切共感できずに、なんだか気味が悪くて怖いです。ひょっとすると主人公にとって重要なのは名前だけってことなのかもしれないですけれど、仮にそうだとしても更にその理由が分からないので謎が深まり怖いです。狙ってやっているのだとしたら大したものですが、ウーン?

 クソ男と同棲し続ける主人公との会話劇主体の物語。正直なところ……この関係性やキャラクター、異文化すぎて怖かったんですけど、逆に言えば私を怯えさせるくらい良く描けているということで長所なのかも……とも……クソ男こわい……。オチが急展開だったように感じたので、どうして「カズヤ」に惹かれてしまうのかの説得力が欲しいと思います。

 ぶっちぎりのバカ男であるカズヤとの、頭蓋骨にひびが入りそうな日々をスケッチした掌篇連作です。ウザいな……カズヤ……スゴいな……カズヤよ……でも現実ってわりとこういうものではある……。おもしろいかそうでないかと訊かれれば、初期の戸梶圭太さんみたいなおもしろさがあるんですけど、やはり、まだ一人前の小説にはなっていなくて、地の文章に洗練の余地が大いに残されているという感想になってしまう。勢いのある会話を書く力はあり、叙述によるサプライズを仕掛けるサービス精神も持っている。それらを活かして、今後よい書き手になっていってほしいと思います。

 

 

42. 吉野茉莉 「私たちは、何に怯えているのか?」

 わたしは皆川博子さんを連想したのですが、ご本人てきには吉屋信子だそうで、でも分かりますね。時代考証が可能な記述全然ないんですけれど、イメージてきにはちょっと昔の閉鎖的なミッションスクールって感じで、このカテゴリーは根強い人気があります。倒立する塔の殺人とか、青年のための読書クラブとか、笑う大天使とかああいうやつ。その中でもちょっと鬱々としたほうの系統。たぶん書きたい雰囲気が先にあって、書きたかったことは完全に書けていると思うのですが、完璧な額縁だけがあって中身がないという印象。フレーバーテキストとしては100点なので、あとは中身を入れるだけです。一番困難な部分は既に達成しているので、たぶん、改修はむしろ簡単な部類でしょう。中身って意外となんでもいいんです。

 影のある美しさを感じられる雰囲気が素敵な作品でした。文章に色香があって幻惑的ですね。登場人物も魅力的で、敬体での叙述も作品の雰囲気を高めることに上手く寄与していて作品の雰囲気にのめり込むことができました。ラストのモノローグがとても好きです。

 女学生の寄宿舎で、月光の夜、飛び降り自殺が発生する。その最期を目撃した語り手の少女は、月の光に中てられたように事件の真相を追い求め、やがて犯人とおぼしき相手を追いつめるが…… 硬質な叙情が張りつめる、ミステリ風味の物語です。匿名性がすごいのが異質です。固有名詞がぜんぜん出てこない。登場人物の名前すら可能な限り廃され、出てもカタカナで表記され、この小説の主役は個々の人間ではなく、彼女らが醸し出す耽美なムードそのものであると謳っているかのようです。ミステリ「風味」でなく、ミステリとして書くこともできたでしょう。でも、その要素も「従」なのだよね。ふしぎな美意識が貫かれた異色作。好きです。

 

 

43. 犬子蓮木 「眩しい環の外側で」

 設定はすごいグッときました。これはあんまり思いつかないんじゃないかなって気がします。ひょっとして、実際にそういう症例があるのかな? でも、お話としては本当に生きづらさを感じながらも少しずつ生きているという感じで、地味さは否めない。主人公の異常さの描写はけっこうシンクロ率が高くて、本当にそんな人が居そうなしっかりとした質感があって、そこはとてもいいんですけれども、語りが淡々としているのでお話も淡々としがちで、ウーン。コンセプトてきにも、そんなに派手にドラマチックである必要はないとは思うのですが、やっぱり語り部が最後までひたすら受動的なのがアレかな。なにかは行動してほしかった。

 着眼点・キャラクター造形がとても良いと思います。私、歪んだ愛の物語が好きなんですよね。淡々とした描写ではありますが、だからこそリアルな質感を感じられるようで、私は好きでした。プロローグとエピローグの一文に伏線が忍ばせられていたら、ぐっと作品としてまとまりが出ると思います。読解力不足でしたらすみません。

 彼氏にどうしても恋愛感情を抱けない主人公。近所のお姉さんが結婚で引っ越すのを見送るとき、彼女は自分が愛せる対象の正体に思い至る。それは、同性……という展開と思わせるミスリードに、私は見事に引っかかり、提示された真相に驚きました。人間が嫌い、人間が怖い。安心して愛せるのは、うつくしい意志の結晶の象徴である「結婚指輪」だけという主人公の半生を、端正な文章で追う短篇です。固有名詞を排したことで寓話性が高まり、テーマの輪郭が太いところがよい。最初から最後まで主人公がじっと孤独に耐えているだけなのは、小説として寂しい気もしたけれど、そういう読者はお呼びでないのでしょう。届くべきひとに届いたらいいと思う。

 

 

44. 紺野天龍 「八月のファーストペンギン」

 始まりかたと終わりかたが非常に技巧的で書き慣れているなぁという感じを受けました。ボリューム感もとても適切で、2万字以内で終わらせるのにちょうどよいお話をちゃんと2万字以内で終わらせています。今回のモノンホホ大賞ではわりと盛って1万字以上にした人と削って2万字に収めた人に二極化していて、この適切なボリューム感というのは意外と高等スキルなのだなぁと思いました。寄り道しているようで、わりとすべての要素がお話を前に進ませるようになっているので、無駄がなくて読んでいて気持ちがいいです。技巧点でプラス1点。ただ、いい感じでまとまってしまっているというところはあるので、もうちょっとふたりのキャラとかで、なにか尖ったところを出せたらさらに良いかなぁ。

 好きです!!! 三十路のお姉さんの初恋! お相手はイケメン……の女の子! この2人の初々しい関係性がもうどストライクで、めちゃくちゃときめきました。作品としてのクオリティも高く、読後感も心地よかったです。地の文で描かれるはづきさんの心の揺れ動きや夏姫さんが心情を吐露するところなどなど、登場人物が生き生きと描かれていて演じてみたくなりました!

 売れない作家のはづきは、行きつけのカフェの店員に恋をした。しかし「普通でない」自分にとって、普通の感情を抱き、それを発露することは「普通でない」ことで……。みずみずしいラブストーリーです。一読して「なんて読みやすい小説だろう」と思いました。書きたいことを誰にでもわかりやすく伝えることに、しっかりと気を配った筆致です。それは「わかりやすいことを書く」というのとは、似ているようで違っているのだ。小説ならではのサプライズも仕掛けられ、なんで主人公はこんなに「普通」にこだわる性格なんだろう……? という疑問にも、きちんと解答が与えられます。はづきと同じく作者も、祈るように小説を書いていらっしゃるのでしょう。気持ちよくおもてなししてもらいました。

 

 

45. 今村広樹 「フラグメントとモラトリアム」

 いつものをやっても仕方がないので、小説のなりそこないではなく小説を書いてください。1万字を越えたのは偉いですね。

 二人の少女がサナトリウムで過ごした日々について綴られています。正直小説としての体を成していないかな…と思いました。「鳩羽つぐ」ちゃんみたいな映像作品として出力したらこの不思議な空気感が映えるかもしれませんよ。 

 猫と人間のハーフである短命な種族「白短種」の少女といっしょに、サナトリウムで主人公が過ごした日々のお話です。お菓子を作ったり、クイズを出したりという交流が描かれているのですが、その記述がキャラクタの個性を演出しない。どんなクイズを出し、どの問題に正解したり誤答したりするのかというところで起伏をつけ、彼女らのこれまでの人生や人となりを感じさせるようにしてほしい。冒頭に「僕がこれから書こうとするのは、小説になりそこねた断片にすぎない。高尚ななにかを求めてもらっても困る」とありますが、ほんとうにその通りではこちらも困るというのが率直な思いです。

 

 

46. 水偽鈴 「コスプレ探偵椎名ばべるの事件簿 多くの名前を持つお菓子」

 うーん、なんかちょっととっちらかっちゃっているかな。こういうのは事件の謎を追っていく過程で主人公のキャラクター性が明らかになってくるのが理想なんですが、いろいろな属性モリモリの主人公をご紹介するパートと、日常の謎を解くパートとが完全に分離してしまっていて融合していない。まず主人公のご紹介があって、とってつけたみたいに謎解きが入るという構造になってしまっていますし、主人公の盛り盛りの属性もとくに謎解きに必要な要素にはなっていないので、ふたつの要素をしっかりより合わせてほしい。

 日常のちょっとした謎を解決するコスプレ探偵さんの物語。探偵ものとして評価させていただくと、せっかくのコスプレ設定などが生かされていないように見受けられたり、謎解きそのものもトリックがやや淡泊な印象を受けたりしました。でも、このちょっとめんどくさい感じの主人公ちゃんの考え方などは好きですね。 

 学生モデルの椎名ばべるはアニメやコスプレが大好き。映画撮影の待機時にちょっとしたトラブルが起き、本当は芸能人でなく探偵になるのが夢だったばべるが、推理を働かせて揉め事を解決するお話です。文章の厭世的なけだるいムードがいいですね。ばべるの人となりが伝わってきます。肝心の「コスプレ探偵」の部分がおまけっぽくなってしまっているところは気になりました。「日常の謎」そのものはささいな規模でいいのですが、それが物語の中心にあり、登場人物にとってはけっこうな大ごとでなくては。お菓子に関する誤解が、もっと俳優やスタッフの士気や関係性に波紋を起こすような展開だと、よりおもしろい。

 

47. 逢咲あるすとろ 「物理少女フィジカル☆アリサ」

 バカっぽいワンアイデアの馬力で乗り切っていくタイプのお話で2万字はやっぱりしんどいですね……。二話目の途中くらいまでは「わはは」って感じだったんですけれども、最後までずっとこの調子だとさすがに胃もたれしてしまうので、どこかの段階でお話が旋回してほしかったかな。ちょっと一本調子かも。時事に対する社会風刺てきな欲求ももうすこし抑えて読者を楽しませることを考えましょう。個別の要素では光るところがあるだけに、惜しいです。

 悪と戦う少女の物語に社会風刺的なスパイスを盛り込んだ作品。熱さは十分! ただ、この展開なら魔法少女でもストーリーが成立するような……といった感じも受けたので、勢いに任せて書くだけではなく、構成や緩急にも気を遣っていただけると、更に良くなるのではないでしょうか。 

 主人公が謎の生物に任命されたのは、きらびやかな「魔法少女」ではなく、メリケンサックで悪党を撲殺する「物理少女」!? コレジャナイと思いつつ、少女は世間を騒がせる旬な巨悪に立ち向かう。直近のスキャンダラスなネタを果敢にぶちこんで風刺する、勢いあふれる魔法少女パロディものです。東京オリンピックに対する批判や改善策が多く盛り込まれ、これは作者の思いが生のまま反映されているのかと思います。そちらに比重が寄りすぎて、物理少女という設定ならではのおもしろさは提示しきれなかった感触がありました。そこも含めて、ナンセンスな一発ギャグとして受け止めればいいのかな。

 

 

48. 海野ハル 「竜の啼く季節」

 硬質な王道のハイファンタジーです。すごい密度があって、最後にちゃんとどんでん返しもあって、頭からおしりまで身がギッチリのスニッカーズのような2万字です。なんだ、やれば真面目なのも書けるんじゃないかと思ったんですけれど、よく読んだら意外とそうでもありませんでした。これたぶんわたしと、あとせいぜい数人くらいしか分からない、ものすごい射程の狭い身内ネタが仕込まれていて、わたしはすごいウケましたが、事情をなにも知らない人にとっては普通に良質なファンタジーでしかないでしょう。事情をなにも知らない人にとっても普通に良質なファンタジーとして成立しているのがすごいです。せいぜい数人程度を苦笑いさせるだけのネタを粉飾するために全力でこのガワを作る、このコスパの悪さは最高にモンホホ大賞って感じで嫌いではない。特に解説はしません。やっぱり、特定の誰かに向けた嫌がらせというのは最高の進捗エンジンですね。

 重厚感のあるハイ・ファンタジー。巧な文章力で、物語世界へと引き込まれました。一つ気になった点を言うと、キャラクター達の名前が風変わりで少し違和感を感じたのですが、きっと何かのもじりなのでしょうね…私には理解できない深遠なメタファーが隠されているのでしょう…しかし、普通に楽しむことができました。

 己の生き方を父である国王に認めさせるため、竜狩りに赴いた姫騎士。初冬の山で偏屈な案内人の狩人と語らいながら、彼女は己と向き合うことを余儀なくされる……という、正調のハイ・ファンタジーです。翻訳ファンタシイ(この表記を使いたくなるね)のような重厚さを出しつつ、読みやすさを失わない文章は貫禄たっぷり。話運びも、もたつかず、急ぎ過ぎず、巧みです。完成度はコンテスト参加作のなかでも屈指の高さでありましょう。だから、あとはもう……100点の作品をそのまま満点と評価するか、それとも70点の至らなさもあれば120点の凄みもある作品をチャーミングと思うか、というところ。文句なしがゆえに評価に迷うという、贅沢な悩みを味わっています。

 

 

49. こむらさき 「Special Bouncy Ball」

 こむらさきさん二作目。こむらさきさんは完全にモモモ大賞生まれモモモ大賞育ちなんですけれども、かなり普通に小説している小説を書くようになってきていて感慨深いです。そろそろ、こむらさきさんのレベルアップに合わせて講評の要求水準も上げていきますね。まず亀入さんのエピソードはそれ単体ではものすごい質感が高くて胃にギリギリくる感じでとても良いのですが、それとユリノとのロマンスがほぼ完全に別のエピソードで二本立てになってしまっているので、できれば一連の出来事として自然とふたつのエピソードが絡み合ったほうが一本の短編としての強度はさらに上がるでしょう。あと、せっかくスーパーボールをタイトルに据えて重要なキーアイテムにもなっているので、作品全体を貫く縦糸のように、メタファーとして各所で活用できるとさらに加点がつきます。そろそろ本当に大賞も狙える水準になってきていますので、最強短編を書いて狙っていきましょう。

 夏のボーイミーツガール。恋愛ものとしてもきゅんきゅんさせられましたが、途中の亀入さんのキャラクターが強烈で印象的でした。怖かった……そういった描写の筆力が非常に高いですね……! 二人の性別に関して一捻りあるのも良いですし、ユリノもイケメンでした……。また、本筋とは若干ずれますが、カクヨムって絵文字も使えるんですね。Web媒体ならではの表現という感じで本山的にポイント高いです。 

 シャイな主人公が「海の家」で働き、さまざまなひとと知り合って成長するひと夏の様子を描いた青春小説。「液晶画面にご用心」がレディコミなら、こちらは少女マンガですね。亀入さんという少女を生々しく描くことで「人間、嫌われるほうにも原因がある」というデリケートな内容に果敢に挑み、誠実な結論を出していると思いました。そっちに迫力がありすぎて、本筋のユタカとユリノの物語がかすんでしまったところはありますが、強いシュートがゴールバーに当たって外側に飛んでいってしまったような、前向きな欠点だと思います。たぶん「勢いでKUSOを投げるんじゃ~ウオアアッ!」という段階は、もう超越した作者である。今後は、ひとつの作品をもっと削ったりつけ足したりして、さらなる完成度の高さに挑んでほしい。 

 

 

50. @isako 「「文化」とは私たちの生活であり、営為であり、存在である。」

 めちゃくちゃ質感の高いディストピアものです。従来のフォーマットを刷新するような新奇性などはなく、どこかで見たような設定、物語ではあるのですが、それでもガツンとくる圧倒的な筆力。本当に筆力一本で圧してきている感じ。本大賞のために取得した新規アカウントのようで、作者の情報が一切ないのですが、怖いですね。ひょっとすると中身はどこかのプロかもしれない。女性一人称っぽさはないんですけれども、それさえもなにか狙った意図のようなものが隠されていそうな気がして、下手に講評するのが怖くなってしまいます。え? なにもないよね、罠とか。

 2万字きっかりにぎっしりと詰め込まれたディストピア小説。圧倒されました。この作品については特に私みたいな小娘がごちゃごちゃ考察したり講評したりするのは無粋なのではないかと感じます…ともかく、創作の力をこの上なく感じるような、心に爪痕を残す一作でした。

 厳しく思想や生活が統制された国で、主人公は黙々と工場で働き続けている。何を作らされているのかはよくわからないが、それは「文化」だと教えられている…… この物語で描かれている世界は比喩でなくいずれ来たる(もう来ているかもしれない)現実であろうし「これの何がいけないのか」と思っているひとも実は多いのではないか、そんな思いを抱きつつ息を詰めて読みました。指の傷という象徴を据え、小説として駆動させようという意志は篭められていますが、叶うならもっと起伏を……という講評は、あんまり意味がないかも。高密度の文体で叩きつけられた、平成最後のプロレタリア文学です。

 

 

51. Veilchen 「女王と将軍と名もない娼婦」

 なろうのほうで「雪の女王は戦馬と駆ける」という作品を書いている作者さんなんですけど、めっちゃ読んでました~ファンです。クソみたいな境遇で、あらゆる絡め手を利用して強かに生き抜く女性を描くのがものすごく上手な方で、本作にもその魅力が如何なく発揮されています。完全に副賞の朗読を狙いにきた女性の一人称語りオンリーの1万字で、まずこの縛りで1万字をきっちり牽引していく力が素晴らしい。驚くような仕掛けやどんでん返しがあるわけではありませんがグイグイと読ませてキャラも魅力的で読後のカタルシスも強い。めちゃくちゃ面白かったです。しかし、これを朗読するとなるとものすごく高い技巧が要求されますね……がんばれらのちゃん!

 一人称語りオンリーで妖艶な娼婦を生き生きと描いた作品でした。全体的にクオリティも高く、巧みな文章力でキャラクターの魅力を上手く引き出しているなあと感じました。文章に色気があって良いですね。二面性のある彼女を演じてみたくなりました……! 高い演技力が求められる気がしてなりませんが……。

 国を喪って落ち延びた女王は贋者ではないかという噂が臣下の間に広まっている。その真相は、そして彼女に去来する思いとは……。女王のひとり語りで綴られる謎に満ちた物語は、誰が善いとか悪いとかではなく、ただ平らかに、人間の浅ましさ、逞しさ、愚かさ、切なさ――さまざまな業を浮き彫りにします。濃厚な内容が1万字と少しでビッとまとまっている。このスタイルだと多少の説明くささは避けえないのですが、女王が将軍を言葉で弄るという状況で不自然さを感じさせない。朗読を見据えた「ひとり二役」の設定が物語の文学性と密接に絡み合っている。どこをとっても作者の実力が伺える、じつに巧みな筆さばきです。これは確かに、音声で聞きたい。

 

 

52. 和泉真弓 「サッちゃん」

 総合的な感触はとても良くて、巧い作者だと思います。雰囲気加点でプラス1点。系統てきにもわたしが好きなタイプの話だし、テーマ性もはっきりしていて終わりかたも納得のいく感じではあったのですが、なにか軽微なひっかかりを覚えていて、でもそれがなんなのか上手く言語化できなくてとても困っています。今回の応募作の中で一番講評に悩んだかも。ちょっと曖昧なアドバイスになってしまって非常に申し訳ないのですが、もちろん現状でも完成度は充分に高いのですけれども、感覚的にはなにか軽微な修正を加えるだけでもっとズドーン! と良くなる匂いがするんですよ。なにをどうすればいいんでしょうね? わたしも悩んでいます。

「はんぶんこ」をテーマとしてとある姉妹の関係性を描写する物語。私の好みでした。(ドロドロの三角関係になるかと思ってひやひやしたんですけど真っ直ぐなお話でした……よかった……)心の機微が丁寧に描かれており、現代的な装置の取り入れ方なんかもお上手で、全体を貫くテーマによって纏まりも出ている、良い作品だったと思います。各話タイトルも粋で良いですね。

 生まれつき難病を抱えた美貌の姉・サッちゃんはカルチャーへの感度が高く、冴子の「水先案内人」となっている。姉妹はお互いを替え難い己の半身と思っていたが、冴子に「サブカル男子」の恋人ができることで、その関係に転機が訪れるというお話です。ヴィレヴァンTwitterFacebook……これらの小道具って、使い方次第では作者本人の「闇」や「イキリ」みたいなものが透けて見えすぎて、物語の風味を損ねてしまう恐れがありますが、この作品の場合は冴子という人物の生活の実感に根差した扱い方で、厭味がない。人間の抱える屈託を平明な気持ちで見据え、品のある言葉でできるだけ正確にかたどろうとしている小説であり、多くの読者の心を打つのではないかと思います。よかったです。

 

 

53. アリクイ 「カラフルポップクレイジィランド」

 KUSO創作です。うーん、正直に言うと13000も費やすほどのネタではないと思います。筆者のほうも順当な笑いではなく苦笑いを狙いにいっているのだろうし、実際に苦笑いをしてしまったので狙い通りの効果を発揮してはいるのでしょうけれど、苦笑いさせてどうするのか? といった根本的な部分はちゃんと見つめ直したほうがいいでしょう。単純に、これ単独で成立するオチではなく前作を読んでいる必要があるというのも射程を短くしてしまっている要員なので減点対象です。しかしなんにせよ、これでなにかを書き上げるという経験は積めたわけですし、心配しなくてもアリクイさんにはもう書き上げるちからはあるわけですから、書き上げることそのものを目標にする段階はもう終わりです。次はその書き上げる力をつかって、どんなテーマの物語を書きたいか、ということをじっくりと考えてみましょう。

 導入は普通に良いと思ったのですが終盤にかけて加速度的にKUSO濃度が上昇していき、エンディングは「なるほど、わからん。」という感じでした……。えっと、まぁ好き放題やるのもまた創作の一つの楽しみ方ですよね。

 トラックに撥ねられて転生した異世界は、キッチュでビザールな「ドリィムランド」。元の世界に還るべく、主人公はドリィムランドを旅して女王様に会いに行くが……という前半の物語を一生懸命読んでいたのが虚しくなる、後半の超展開にすべてを懸けたギャグ作品です。これ、チンパンチって言いたいだけでしょ。その脱力感を狙ったのだと思いますし、狙い通りに脱力していますが、どうもそこに「してやられた」という幸福感がないんだよね(笑) 前半から細かくギャグを散りばめていくか、いきなり後半のテンションから始めるか、どちらかが望ましい。なんか、ふつうの講評ですいません。

 

 

54. 水瀬 「リバーズ・エッジ

 水瀬さんの二作目。やはり面白くて根本的な地力の高さが伺えます。ただ、CQと比較してしまうとやっぱCQかな? エモとトレードオフの関係にある概念をどういう語で指示すればいいか分からないんですけれど、まあ仮に「理屈」という語で指示するとして、そのエモ↔理屈のバランスでちょっと理屈のほうに寄ってしまったかも。基本的にはカチっと理屈を組んで納得させるというよりも、エモさでうやむやに乗り切っていくタイプの話だと思うので、もっとエモで押し通したほうがたぶんバランスは適正です。ちょっと崩れるともっとちゃんと理屈がほしくなってしまうんですけれども、そこは「そういうもんなんだな?」って納得させる必要があり、この作風は本当にここのバランスが命っていう感じがしますね。最後は唐突に読後感を狙いにきているところもあって、読後感いいんですけれども「読後感狙ってきたな……」みたいに冷静になっちゃうところがあるので、同じところに着地するにしても、もっと丁寧に導いてほしい気もします(強欲)

 夏の川縁での魔女との邂逅を描く物語。やはりこの文章の質感、好きですね…また、こちらは比較的エンタメノベル寄りな仕上がりだったように感じました。キャラクター造形も角が取れた感じで万人受けはしそうです。魔女さん好き。(単に本山さんがボクっ娘好きなだけかも)もう充分に筆力をお持ちであると考えますので、読者層のターゲットに合わせて作品テイストを使い分けなさると宜しいのではないでしょうか。2作とも楽しませていただきました。

 特によい結果も残せず部活を引退した少女。ふいに心を大きな不安と虚無がむしばむ最中、彼女は「台風を喚んでいる」という「魔女」と出会います。「CQ」もそうでしたけど、わからないことをわからないまま書いて、でも何がよくわからなくて怖かったりドキドキしたりするのかはちゃんとわかりながら読めるという、この文章の心地よさね。この魔女が何だったのか、彼女が言うことは真実だったのかどうか、すべては謎のまま終わっていきます。でも、投げっぱなしにされた気持ちにはならない。このような作品をポコポコと量産できるのなら、すごい書き手が隠れていたものだ……。余談ですが、サブカルクソ眼鏡としては、各章のこういう題名のつけ方、キュンと来ます。実は私も「ある証明」という章題をつけたことがある。 

 

 

55. 狼狽 騒 「OKちゃんとNG君」

 この話の主人公が誰だったのか、というのが二段オチになっているのはうまいなと思いました。けれど正直、暗号じたいは手垢のついたもので1万字を牽引できるほどのネタではないですから、出題→謎解き、の一本道では厳しいですね。そこに絡めてもっとお話を転がして、キャラクターの関係性などを掘り下げていってください。オチのために主人公がブランクの箱みたいになってしまうのは必然なんですけれど、美樹くんはもうちょっと描ける余地がありますし、探偵役も本当に探偵役として登場してそのままスーンと消えてしまったので、まだもっとなんとかできそう。

 非常にテクニカルな「らののべる」でしたね……!このギミックには感心しました。せっかくの美少女探偵先輩や美樹くんとの関係性をもっと掘り下げたものが見たいと思いました。また、傍点を濫用しすぎるとやや読みづらいので、ここぞというところだけに使うと良いかと思います。

 ラブレター(?)は暗号文。片想いの男子から仕掛けられた謎解きに奔走する少女を描いた学園ミステリです。まさか、こんなかたちで「らのノベル」が来るとはね……。本山川小説大賞ならではのユニークな作品ですが、この暗号のワンアイデアだけで1万字を転がすのは、やはり厳しいと感じました。主人公が右往左往する場面の多くが、とくにキャラクタを立てる要素も、謎解きの新たなヒントもない「無」になってしまっていて、このままでは半分の分量で書ける内容でありましょう。キャラクタの背景や、日常の愉快なやりとりを増やして、お話を華やかにするのが、内容を濃くする近道でしょうか。

 

 

56. あきよし全一 「眼鏡先輩へ愛をこめて」

 ライトでポップなノリからはじまって、会話にも軽妙さがあり、そこから一転して重いエピソードがあって、それを乗り越えてハッピーエンドっていう、理想的なライトノベルの型を踏襲していて、かなり完成度は高いです。キャラクター造形がわりとステロタイプなんですけれども、それすらも漫画の影響でステロタイプに振る舞っているというメタ構造で説明をつけていて隙がない。技巧点でプラス1点。全体にちょっとお上品にうまくまとまっちゃっている感じはあるので、もっとはっちゃけてもいいかなとは思うのですが、ここはこうしたほうがいいみたいな目立った欠陥はないです。あとは書けば書いただけ伸びると思うので、この調子で書いていきましょう。

 3人の女の子達が織りなす学園コメディ。適度に物語の緩急もあり、登場人物達の掛け合いもコミカル、エンディングもふんわりとした百合風味が私好みで、全体的によくまとまっているな、と思いました。あとは何か読者を惹きつけるようなフックとなるものを入れ込めればより印象深い作品となるかも……と思います。難しいですね……。

 美術部の実冬、彼女に突っかかってくる後輩の綾乃、綾乃が恋焦がれる部長の由香里、三人の少女が織りなす学園コメディです。コミカルな前半と、綾乃のぶっとんだ行動にもきちんと理由がつく後半のコントラストはよく利いています。ちゃんと緩急をつけたストーリーで、どこが悪いというところはないのですが……「ちゃんとすること」に精いっぱいであったような感触はある。各キャラクタの個性が光るエピソードをもう少し厚くすると、シリアスな種明かしの感動が増す。もっと書き慣れていけば、そういうところに気を配る余裕が生まれましょう。 

 

 

57. 起爆装置 「私の色」

 大澤めぐみの「清潔なしろい骨」のパクリですね。わたしがなにか仕掛けを見落としているだけの可能性もありますが、現状では「清潔なしろい骨」を超える価値をなにか提供できているとは思えませんし、様式てきに言ってもパロディでもオマージュでもパスティーシュでもなく、ただのパクリで終わってしまっています。パクるときはストーリーではなく構成とかエッセンスをパクるようにしましょう。換骨奪胎です。しかし、これを大澤めぐみが主催する小説大賞に放り込んでくる胆力はすごいですよね。なにを考えているんでしょうか? いやまあ、別にいいんですけれど、どうせなら起爆装置さんは佐藤友哉とかそのへんからパクってきたほうが相性はいいでしょう。

 どこかで拝読したようなストーリーライン……。歯に衣着せぬ物言いをさせていただくと「清潔なしろい骨」の下位互換でしかないかな、と感じてしまいました。読点を多用した独特の語り口で描かれていましたが、文章としての美しさも(私の主観ではありますが)上回ることは出来ていないかと思いました。(別作品を引き合いに出しての批評はしない主義なのですが、その禁を破ってしまった……)

 少女が男子に性的に蹂躙され続けて絶命し、そのあとも少女の視点で物語が続いて、世俗から隔絶した奇妙な安寧を得るという内容が、前回のコンテストに投稿されている「清潔なしろい骨」に酷似しています。あの作品に欠けていたものを埋めるものや、さらに盛って強化されたものも、特にないような気がする。習作ということなのでしょうか……? 仮に模倣ではなかったとしましょう。それでも、前半が気になる。凄惨な暴行の執拗な描写は、文章の迫力で読ませはしますが、それが象徴するべきもの(男女の業とか、人間の理不尽な心情とか)は薄く、ただの悪趣味に堕しかねないと思いました。 

 

 

58. 神崎ひなた 「魔王軍に一人残った参謀の私が勇者一行をまとめてDIE~どんな魔王城も私がDIY~」

 見下ろし型の2Dロールプレイングゲームのフォーマットということなんでしょうか。いろいろとメタなネタが突っ込まれているっぽくて、笑いを共有するには前提となる知識が必要っぽい。別の人が読むとまたまったく違った評価になるのかもしれませんが、わたしはそのへんのネタはちょっと分かりませんでした。表示に攻めたところがあるんですけれども、最初スマッホンで読んでいたのでまったく意味が分からなくてそのへんも難しいところですね。お話としては魔王とネチッコイの会話でほぼ進行しますので、もうちょっとふたりのパーソナリティを掘り下げたほうが全体的に質感が向上しそうです。

 魔王とその側近の会話劇主体の作品。メタ発言を多用するギャグやリズミカルな掛け合いをサクッと楽しむことができました。6歳魔王かわいい。二人がかばい合うところ好きです。今後のアドバイスとしては、ギャグのセンスや発想力をどんどん磨いていって欲しいです。あとこれ朗読不可能ですよね!?

 幼女の魔王を支える陰険な参謀がでたらめに強い勇者一行をあの手この手で倒そうとする、少し昔のテレビゲームの「ステージエディット」や「バグ現象」をネタにしたギャグ作品です。こういうパロディって、変に気遣ってメジャーなネタを持ってきてもわからないひとはわからないし、逆にどんなマニアックなネタでも誰かはわかるのですよね。優れたパロディは、元ネタがわからなくても「パロディの気配」だけで笑えて、進んで元ネタを調べたくなるものです。遠慮はいらないんだ。この作品は、手加減を感じました。もっと思い切りやったほうがいい。ぜったい誰かがついてきてくれますから。

 

 

59. 千羽 稲穂 「ニーナに欠けたもの」

 ちょっと分かりませんでした。言葉では伝えられないものを伝えるためにこそ物語があるので、分からないものをなんとか描き出そうとするその試みじたいはまさに物語の正道とも言えるのですが、まだあんまりうまくいっていないかな? 読者の理解を得るには大抵の読者がすでに持っている普遍的な経験にリーチして共感させるか、語り部に寄り添わせて経緯を追体験させることで同じところに到達させるかで、このお話の場合は後者のメソッドになるかと思いますが、その場合は読者を一緒に連れていってあげなければなりません。振り切ってどんどん前を走られると、結局なにも分からないままポカーンとしてしまうので、読後、なんとも言えない虚無を感じてしまいます。ひょっとすると虚無を与えるのが目的なのかもしれませんが、その場合も「なんのために?」という部分は自問するべきでしょう。

 エモさで押し切っていくような、詩的な文章の感触は悪くなかったのですが、小説としては、読者に対していささか不親切な作品だったな、という印象を受けました。演出の裏には何らかの思惑が隠されているのかもしれませんが、私にはちょっと読み取ることが難しかったです。しかし、映像の断片が浮かんでくるような情景描写は良かったと思います。 

 お気に入りのキーホルダー「ニーナ」と、どこかバランスを欠いた同級生の少年、紗綾。主人公の心を占めるふたつのモティーフを軸に展開される物語は、断片的で、不親切で、それは、わからないものをわからないまま書きつけようとしているからでありましょう。紗綾という少年の、理に落ちない奇妙な存在感は出ています。でも、文章にちぐはぐな部分が多々あって、不必要なところで内容を理解しにくくしている。わかったほうがいいところは、わかるように書いたほうがいいと思うのです。そのほうが、わからないままでいいところの印象が強まるので。

 

 

60. 刀を先に抜いたのは 君の方 「このひと頭おかしい」

 そうだね×1

 ひえっ……このひと頭おかしい……。あかんくなってらっしゃる。

 新垣結衣さんといえば堺雅人さんとダブル主演の「リーガルハイ」というテレビドラマがありましてその中で田口淳之介さんの演じる「草の者」というキャラクタが好きだったんですけど彼はジャニーズ事務所を辞めてソロミュージシャンに専念しているようだからもしドラマの第3シーズンがあってもこれまでと変わらず出演してくれるのかどうか……えっ講評。ああ講評ね。はい。怪文書ですね。オモシロカッタデス。以上です。

 

 

61. 枯堂 「ESCへようこそ」

 エクストリーム! ESCという新しいスポーツをテーマにしたスポ根もの! のはずなんですけれども、エクストリーム! するのが遅すぎです。エクストリーム! してからの筆致はものすごくいい反面、そこに至るまでの前半部分が冗長なうえに作者もウンウン悩みながら書いているのが伝わってきて、ちょっとかったるい。冒頭に出てくる飛ぶ女の子の描写がものすごく丁寧なのに、作中で果たしている役割は「真の天才」というただのシンボルなので、そこはもっとステロタイプを借りて流してもいいし、逆に主要人物であるはずのESCのメンバーは十把一絡げに「オタク」で描写が終わっていて、そういうバランスの悪さが目立ちます。作者が苦しんで書いているところって、やっぱり読者も読んでて楽しくないので意外と得るものがなかったりしますから、もっと早々にエクストリーム! できるような構成を考えたほうが書くほうも読むほうも楽しいかも。苦しんだら真正面から取り組むのではなく、お話の構成じたいを組み替えてしまうのも手ですよ。エクストリーム!

 エクストリーム! 好きです! やってみたいと思わせるような架空競技のアイデアも良いですし、爽やかなスポ根ものとして楽しめました! タイトルや小説の概要で架空スポーツものということを明かしつつも、なかなかその正体がわからないところにちょっとやきもきしたので導入でバーンと試合シーンを出すなど構成を工夫してみると更に良いかもです。後半にかけてどんどん良くなっているように感じ、読後感も良かったです! 

 高校時代、バレーに打ち込んでいた――つもりだったけど、じつは気持ちがからっぽだった主人公は、退屈な大学生活を打破したいと願い……という感じで始まるこの小説、行きそうな展開に行きません。地味にとても驚かされる作品でした。私の勝手な予想ですけど、ESCというユニークな競技のアイデアだけがあって、細部は書きながら考えていったのでは。序盤の悔恨の話が少し重たく、ESCも物語のいちばん太い軸にはならない。そのアンバランスさは、客観的に見れば欠点なんです。でも、そのふわふわしたところこそ、この小説の独特の味とも思える。軽やかだけど大事なところは外さない、基本的な筆力の高さのなせる業です。

 

 

62. ろ~りんぐ 「ほんの時々の、空想よりも素敵な現実」

 気取ったところのないフレンドリーな文体が読みやすくていいですね。サラサラっとなんの引っ掛かりも抵抗もなく最後まで読み進められて、それは良いことだと思うのですが、なんでしょう? 最後まであまりにもなんの引っ掛かりもなかったかな? もうちょっと、どこがこの作品の一番の山場なのかということを意識して、そこに向けてテンポを調整したりリズムに緩急をつけたりしたほうがいいかもしれません。なんてことのない日常の中に潜むドラマチックさの演出! みたいなのはわりとレベルの高いスキルなので、わたしも「こうすればいいよ」とはなかなか言えないのですが、いろいろと試行錯誤をしてみてください。やっていきましょう。

 空想好きな少女とバレー部の少年の爽やかな青春ラブコメ。他人の空想パートを少し削って、主人公とカケルの関係性にフォーカスしてみるのも良いかもしれないと思います。青春してるなー! といった感じできゅんきゅんさせられました!

 幼馴染みの異性がかっこよくなっても昔と変わらず自分といっしょにいてくれるというのは、永遠のドリームですね。幼馴染み、私にはいません。同様のコンセプトの青春小説はこの本山川小説大賞にもいろいろ投稿されていますが、この作品は「空想好き」というテーマが据えられています。あまり突飛な空想ではなく、わりと「人間観察」くらいのレベルにとどまっているのは、読んでいて共感しやすい美点でもあり、もっとぶっ飛んだ空想をして「えっそれが真相なのっ」みたいなおもしろさを求めたくもあり。ともあれ、地味になりがちな「傍観」の態度に、能動的な要素が加えられているのがよかったです。

 

 

63. 菊川睡蓮 「それでも私は。」

 すこし前にめちゃくそ流行ったわりと定番のネタなんですが、ちょっとまだふわふわとしていますね。ぜんぶが抽象的すぎて、ぼんわりとしたイメージしか掴めません。これ系はただでさえ手垢のついたネタですから、びっくりさせようと思ったらそれなりにカッチリ組まないと機能しませんし、ふたりの関係性に関しても抽象的なぼんわりとした説明が続くので感情移入しづらい。もっと具体的なエピソードを挿入し、ディティールを高めて読者を引き込んでいく必要があります。全体的に、さらに解像度をあげて書き込んでいったほうがいいでしょう。

 愛する人が救われる運命を求めてタイムリープする恋愛もの。文章には引っかかるところもなく、するっと読めるのですが、読者に作品を印象づけられるようなインパクトが少し足りないかな、と感じました。まだ字数にも余裕があるみたいなので、もう少しディテールを書き込んでも良いと思います。

 年下の少年に恋をしている主人公。彼女の重大な秘密がもたらす二転、三転のサプライズを描く恋愛小説です。「君の名は。」や「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」のような感じで、SF 要素によって感情の交流をドラマティックに盛り上げていく狙いはわかるのですが、肝心の「少年の死を回避するためのアクションの成功/失敗」があまり描写されず、その「前」と「後」だけが書かれている印象があります。やはりこれは「過程」のサスペンスがもっと必要な物語かな、と思う。これを下敷きにあちこちふくらませると、より読み応えのある小説に仕上がると思います。

 

 

64. 大村あたる 「好きにして」

 第二回本物川小説大賞の大賞受賞者、大村(あ)さんです。この人はずっと歪な愛のかたちみたいなのをテーマにしていて、今回も甘酸っぱ青春小説のガワを被せたフリークスって感じなんですけれども、あとはバランス調整でしょうかね? 試みは分かりますし、とても意義のあるものだとは思うのですが、本質的に水と油を混ぜようとしているわけですから、そこには高い技量が要求されます。理性は拒絶するのに本能は共感してしまう、獲得した社会性は醜悪だと思うのに本能は美しいと訴えかけてくる、くらいのバランスが最高ですから、嫌悪感↔共感とか耽美↔醜悪の比重をもっとうまくとっていければ美しい作品が仕上がるでしょう。テーマは固まっているようなので、あとはひたすら試行錯誤と研鑽です。やっていきましょう。

 上手いですね! 細やかな描写が素敵で、なんといいますか、物語世界の解像度が高いように感じました。文章力が高く、絵が見えるようでした。キャラクター造形もしっかりとしていて、息遣いが感じられます。まっすぐな恋愛に少しのフェティッシュなスパイスを加えた良作だと思いました。

 学校というくだらない檻の中で疑問を持たずふつうに生きていける子たちがわかんなくて嫌いだ――そんな思いを抱えた者同士の、わかりあえるわけじゃないけどコツンと心の触れ合う音が立つ、そういう青春文学です。この作品は文章が端整で、「いきなり髪を切る」「吐しゃ物を愛する」というキャッチーなエグみがある行動ふたつに焦点が絞れていて、鬱屈を吐露するだけではない、プロフェッショナルな出来栄えでした。うまいがゆえに……鮮やかにいち場面を切り取った「スケッチ感」が、物足りなくもある。これは賞賛です。もっと書き込んだものを読んでみたいという、実力者に望むわがまま。

 

 

65. ぶいち 「とあるババアの黙示録」

 ちょっとバランスが悪いかもしれない。メタてきな視点を持っていて平気で読者にも喋りかけてくる飄々とした文体なのですが、三人称視点てきな部分と一人称視点てきな記述が混在していて没入感を妨げている感じがします。ちゃんとキャラの中に入って、このキャラの目から見た場合にどういう書きかたになるだろうかというのを意識したほうがいいでしょう。肝心の出来事のほうも、語り部はただの観光客みたいに見ているだけでなんのコミットもしていないので、こんなすごいことがあったんですよ~、という話をされてもフーンとなってしまいます。主人公ですから、もうすこしなにか主体的なアクションをさせたほうが主人公っぽさが出ますよ。

 不死っ娘ロリババア異世界にトリップさせられ終末まで見守るお話。ロリBBA一人称がキュートで、グロテスクな描写の上手さとのギャップも相まって良かったと思います。もう少し主人公の感情の動きやグンソウとの交流の間にドラマがあると更に良くなるかも! と思いました。

 心は老婆、身体は美少女という不死の魔女は、さまざまな異世界に転生してしまう体質の持ち主。今度の転生先は荒廃した砂の世界だった。必死に生き残ろうとする人類を、魔女がじっと観察する物語。「ロリババア」が幼女に転生するというのは、カレーライスの上にシチューをかけるような不思議さがありますが、これは何かのシリーズものの一篇なのかな。そういう感じの設定である。「マッドマックス」的な世界の雰囲気はよく出ていて魅力的ですが、この短篇でこういう話にするなら、あまり世界観の解説は加えず「よくわからない災厄が訪れて人類はわけもわからず死んだ」という感じのほうが怖くて余韻があるかもしれません。 

 

 

66. 藤本晶太 「青く滲んだ桜の下」

 よく分からないふたりがなんだかよく分からない話をしているのをよく分からないなりに読んでいたらなんか終わって、最後までなんの話だったのかがよく分かりませんでした。今のままではどこに焦点を合せて読めばいいのかが掴めないので、まずはこの話でなにを書くのかというテーマをひとつに絞ったほうがいいでしょう。短編なのでひとつです。ひとつに決めたらそれ以外の要素はすべて捨てて、かつ、それをかなり早い段階で提示したほうがいいです。最初に「わたしは今からこれの話をします」と宣言してから話しはじめたほうが、読者にかかるストレスは少ないです。

 甘苦い百合作品。良くも悪くもふわふわしているような印象を受けました。依存関係からの脱却が主軸であると読み取りましたが、それだけで引っ張っていくにはテーマとして若干弱いかも、と思います。また、主人公が離れていく理由、ここまできっぱり決別する必要性にも、もう少し説得力が欲しいです。

 幼馴染みのりーちゃんとシノはお互いが大好き、学校は嫌い、家も空っぽ、でもふたりでいればそれでいい……そんな甘い百合を書きたい、のろけた会話を書きたい、いちゃいちゃする場面を最後まで書きたいという作者の正直な欲望を突き通した小説として私は読みました。このコンテスト、お題は「女性一人称」というだけなんですけど、なぜか百合作品が多いですね。その中で、この作品は真っ正直すぎるかもしれません。後半、彼女たちにとっては切実な選択による別れがありますが、それは、愛しているならいっしょに立ち向かえる苦難なのでは……と思ってしまいました。

 

 

67. くすり 「抒情詩」

 第三回本物川小説大賞の大賞受賞者、くすりちゃんです。コンチェルト何合目ですの!?(発作) 圧高めの文体とカチッとした質感を伴った描写力は健在でさすがなのですが、ちょっとつらつらとしていますね。怨念をそのままお出しするといやがおうにも質感は高まりますが、そのままお出ししても物語にはなりませんので、多少の加工は必要でしょう。自己陶酔てきな部分はくすりちゃんさんの売りでもあるのでそれは別にいいとは思うのですが、ちゃんと読者を引き込めないままに作者のボルテージだけが上がっていくと、作者と読者の温度差でタイフーンが発生してしまうので、グッとダイブしていくのと同時に高い位置から俯瞰する視点も保持していないとダメです。

 密度ある感情の吐露とポエティックな語り。エンタメ的な起伏などは捨て置いて、あるがままに叩きつけてくる姿勢は嫌いじゃないです。石版でも読ませる筆力がありますね。これはこれで一つの完成形を成していると思います。レギュレーションの存在を前提としたメタ的な視座から投げかけられるこの書き出し、好きです。

 華麗で陶酔的な文章が紡ぎ出すのは、劇団の中で混線し破綻してゆく恋愛模様。登場人物がイニシャルで書かれ、事実と行動を訥々と追っていく、実録風の書きぶりです。もしかしたら、実体験がか非常に色濃く反映されているのかもしれません。小説としての完成度はどこか放棄し、エモーショナルな勢いで押し切ってゆくところがあります。この作品は、これでいい。作者にとって重要な――どうしても書くことが必要な作品というのはあるのだ。ただ、それが読者にとっても必要とは限らない。この筆力が本来のかたちで活かされた「次の作品」に期待したいというのが率直な感想です。

 

 

68. @Pz5 「犬が死んだ話」

 ちょっとメッセージ性が前面に出過ぎている感じがして、胃もたれしちゃいますね。せっかくの小説ですから、登場人物が出てきて喋るばかりでなく、なにかの物語が動いていく中で無理なくメッセージ性を混ぜ込めたほうがちゃんと読者の心にも届くのではないでしょうか。思索や主題をそのまま登場人物に台詞として喋らせるというのは、創作のセオリーてきな話をするならなるべく避けたほうが良いです。人間、お説教くさいものには反射的に反感を覚えるので、もうちょっと暗喩や隠喩などの絡め手も使っていかないとなかなか響かないと思います。テーマは自分が語るのではなく、読者に見つけさせることを意識してください。

 個人的な嗜好ではあるので話半分に聞いてほしいのですが、ダッシュを多用した文章が苦手なんですよね。傍点や二重鍵括弧、ダッシュといった記号はここぞというところで使ってほしいです。塩梅が大事だと思います。哲学的なお考えが沢山盛り込まれていて、自己陶酔的かなと感じざるをえなかったです。もし人に読ませることを考えるのならば、物語としての緩急などを考慮した再構成が必要かと思われます。

 愛犬が亡くなったショックで心身が弱り、入院した主人公が出会ったふたりの男が、自分の死生観を滔々と語りだします。序盤の「犬が死んだ話」に生々しい手触りがあるぶん、中盤以降の「中二病的」な思索が、ちょっと空回りしている感じがある。もし中盤以降が真に書きたいものであるなら、導入から浮世離れしたトーンのほうがいい。個人的には、地に足のついたトーンのほうが、この話にはふさわしいと思っています。目の前で失われていく生命や、会社での卑俗な日常は、妖精のような男たちの観念よりきっと重たい。 

 

 

69. @isako 「人間のあなたはいつか、人間の私を食べる」

 この方も二作目なのですが、ほんと何者なんでしょうか? めちゃくちゃ面白かったです。二作出してきて二作とも飛び抜けて面白いというのは、もうそれだけで安定した地力を証明しています。モモモ大賞とかに参加している場合じゃないのでさっさと公募とかに出して名のある賞を取ってきてください。ていうか、実はプロなんじゃないですか?(2回目) 2万字規模のエンタメ短編小説として満足のいくようなスコーンとしたオチがあるわけではなく、そこが不満と言えば不満なのですが、そういった部分を差し引いたとしても圧倒的な文章力と描写力だけで面白いので恐ろしいです。単純な小説の巧さという尺度なら、今回のそうそうたる顔ぶれの中でも間違いなくトップレベル。短編よりも長編向きの人かもしれません。このまま続きを書いてくれたら読みます。

 なんかすごいものを読まされた……! という感じがひしひしとしました。今回の大賞では百合作品が多く見られるのですが、このカップルは独創性もあり、上手く描かれているなと思いました。この二人の道行きをもっと読んでみたいです。しかしながら、YouTubeでこれを朗読するとBANされる恐れが……。

 故あって魔物とのハーフにされてしまったシラノと、彼女を慕って同行しているミーア。ふたりの厳しくも温かい冒険行を描いた物語ですが……いやはや、驚きました。「『文化』とは私たちの生活であり~」の作者は、こんなに悠々とした筆さばきのエンタテイメントも書けるのですね。いわゆる「人間×人外もの」の一種であり、その手の物語に求める「萌え」と「泣き」の要素をしっかり満たしつつ、「愛情とは何か」という思索が根底に流れて、ふたりの運命に大きく関わる事件は起こらないのに、小さなクエストひとつひとつに意味がある。堂々たるハイ・ファンタジーです。これは続きも、前日談も読みたいな。ふたりの出会いと、旅路の果てを見てみたい。ご検討ください。 

 

 

70. 一田和樹 「空飛ぶ人喰いタクアン黙示録」

 先生なにやってんすか!? わたしは一田先生というとサイバーミステリーと告白死の印象がつよくて、尖った美意識と幅広い引き出しの人ってイメージなんですが、本作はタイトルのまんま、大量の空飛ぶ人喰いタクアンが襲ってくるB級パニックホラームービーてきなやつです。こういうのもあるんですね。さすがというかなんというか、襲ってくるのがタクアンであることを除けば普通にめっちゃ面白いパニックホラー小説の冒頭部分という感じでレベルが高いんですけれども、タクアンなだけで他は徹底的にシリアスなホラーであまりワハハと笑っちゃうようなシーンなどはないです。本当に怪物を示す語がタクアンに置換されているだけって感じ。B級ホラー感を徹底するなら、もうちょっとタクアンであることの温度差とかをフィーチャーしたほうがパリッとしそうな気はします。

 パワーのあるパニックホラー小説! さすがの筆力で、巨大タクアンが襲ってくる映像が目に浮かぶようでした。でもどうしてタクアンを選んだんですかね……? 色がかわいいから? タクアンというワードがかっちりとしたSFホラーの中で良い意味で浮いていて、面白かったです。タクアン怖い!

 こちら、ITサスペンスのあの一田先生ですか。何をなさっているのですか(笑) サメとかトマトとか、モンスターもいろいろいますけど、この作品は題名どおりの怪物が全世界をパニックに陥れます。人間の暗部を抉りだす数々のエピソードが絶妙に抑制の利いた描写で、かえって重たい余韻が残ります。ダークな展開を書きたい方々の参考になりましょう。スケールを広げるだけ広げておいて「やーめた」と放り出すのも、達人の遊びという感じで、肩透かし感はない。うまさの裏返しで、せっかくのバカバカしいモティーフなのにまったく笑えないのは欠点ですが、その無駄遣いが狙いなら、もう何もいうことはありません。 

 

 

71. 柚木山不動 「聖リリアンヌ女学院高等部料理研究部(仮)」

 カギカッコが一切ない独特の記述なんですが、そのせいでリアルタイム感がなくて全部が過去の回想っぽい雰囲気になってしまいますね。ほんわりとした雰囲気を出すにはいいかもしれませんが、平板な印象になってしまうのは致しかたなしという感じで、ウーンこれはどうなんでしょう。わりと主人公が透明なタイプで周辺に変人奇人が配置されているので、本来はその周辺の人たちを生き生きと描かないといけないはずなのですが、主人公のモノローグへの変換というワンクッションが入るせいですべてが薄い膜に覆われ柔らかくなっていて、ちょっとお話の構造とは相性が悪いかも。もっと直接的にハイテンションな奇人変人を書いたほうが元気に動きそう。一行目でポンと話の主題を置いてくれるのは分かりやすくていいのですが、その肝心の料理勝負にあまりドラマがなくて肩透かしな感じもします。

 いわゆる”ナマモノ”小説ですね…!?ご飯描写にとっても食欲をそそられました。飯テロ!りゅうきゅう食べてみたいです!とり天もトキシラズも美味しそう……。まんがタイムき◯ら的なほのぼの百合……という感じで私は楽しめました。

 高校の料理研究部に所属する主人公の、夏休みの帰省の様子、そして夏休み明けの部員との料理対決を描いた、ほんわかしたストーリーです。文章で読む「日常系萌えアニメ」という感じで、ほんとうに何も起こらない。途中でひとつ大きめの事件は発生するんですけど、それが本筋に影響するわけでもなく……うーん……。ただ、退屈な作品ということはなく、数々の料理の描写はおいしそうで、さらさらと心地よく読まさった(北海道弁)のは、文章の温かみでありましょう。またアニメに喩えれば「絵がかわいい」という感じ。ごちそうさまです。 

 

 

72. ぶいち 「理想の子供」

 うーん、分かります。みんな好きですよね、死。特にアマチュアの文書きに多いのですが、みんな好きなんですよ、なんかこういう系統の話。個性的であろうとして没個性化する悲劇っていうか。書く人はめちゃくちゃ多いのに受け皿はそう多くはないので、はっきり言って激戦区です。激戦区なだけに、お話の見せていきかたであったり文体であったりどんでん返しであったりミステリーてきなトリックであったり、そういう部分でもっとなにか頭が抜けたところがないと厳しいでしょう。自分が読んでもらいたいものを書くのではなく、読者が読みたいものを書くことを意識してください。書くことが自己満足で終わってしまってはダメです。

 よくまとまっていらっしゃって、文章にもとくに引っかかるところは無かったです。幼い子の視点からの叙述がかわいらしく、お姉さんのキャラクターも良かったです。ここからさらに何か一つ、捻りを加えるか何かすれば、読者の心に爪痕を残していけるのではないかと思います。

 物心つく前から父親の苛烈なDVが吹き荒れる家に生まれ育った主人公の女児は「そういうものだ」と暴力を受け入れて暮らしていたが、やがて母が殺され、そして主人公も……しかし、物語はその後も主人公の視点で続きます。前半は鬱々とした――そして、こういう物語の定番の――内容が延々と続くので、読み進めるのがつらいところがあります。この作品以外にもいえることですが、殺伐とした場面を書きつけられる力って、誇りたくなるものです。わかる。でも、その力=おもしろさではないのだ。主人公の小学校卒業くらいまではもう少し圧縮して、父親の新しい恋人と主人公の交流が始まる後半の内容に筆を割いたほうがいいと思いました。ここからの展開は個性があってよいと思います。

 

 

73. 双葉屋ほいる 「ワンオペ勇者は救世うつのようです」

 双葉屋さんも二作品目。一作目とはうってかわっての鬱系ファンタジーです。持ち味である安定したするすると読めるフレンドリーな文体はとても良いのですが、仕掛けじたいは昨今ではもう珍しくもないものになってきていますから、それだけで物語を牽引していくのはちょっと厳しいかな。お話の筋でもうあとふたつみっつはフリップが必要でしょう。お説教臭いものに対しては読者は基本的に反感を覚えますので、スンとメッセージを届けるためにはすこし工夫が必要です。社会風刺てきな欲求がちょっとストレートすぎる印象。

 寓話的なファンタジー。リーダビリティが高い文章で、勇者さま…おいたわしや…といった気持ちで読んでいました。公開法廷以降のシーンの語りからは、まっすぐにメッセージが伝わってきましたが、逆に言うとまだ少しエンタメ小説への昇華が足りないかな、とも感じました。 

 民衆の身勝手な期待を背負わされて心身ともに疲弊しきった魔物退治の勇者が、おのれに課せられた恐るべき使命を語りはじめるこの小説、根幹はシリアスだとしても、全体的なトーンは「ドラクエ1」などの基本設定――なぜ軍隊などを出さず主人公の単独行で片をつけようとするのか――を「あり得ない」とパロディ化する、コミカルな内容であることを予期させる題名ですが……ちがった。最初から最後までずっと重かった。題名詐欺である。人間のあさましさを静かに弾劾する、アンチ・ヒロイック・ファンタジー。重くて、おもしろかったです。 

 

 

74. 卸忍辱 「あさみどり」

 ちょっとお話が一本道かも。ただでさえ主要な登場人物が両方とも淡々としているのに、お話まで淡々としていると起伏が感じられず退屈してしまいます。もうすこし話の筋で展開なり旋回なりさせるか、キャラをもっと立てるかして緩急をつけたほうがいいでしょう。このお話を通じて自分がなにを伝えたいのかという部分を見つめ直して、そこにしっかりとフォーカスを合わせてください。悪いことだと分かっていてもやらずにはおられない芸術家としての性なのか、それとも居場所を与えられたことの心地良さなのか、むしろ背徳的であるからこその快感なのか、焦点の合わせかたによってどのようにでもなる話だと思いますが、現状ではそこがちょっとボケている感じがするので、全体的にシャキッとさせたほうがいいかな。

 この作品全体の雰囲気やキャラクターの関係性はけっこう好みです。本筋から脱線するような部分が、キャラクターに厚みを持たせるために機能しているというよりは、単に水を差す感じになってしまっていたのが少しもったいないですね。もっとドラマチックに、話の緩急をつけられると更に良くなるかもしれません。この”彼”、わたし好きです。

 画家を志していた主人公は、本物と見紛うような贋作を描くことばかり上手であることに屈折した思いを抱いている。そんな彼女の恋人が、ある相談を持ちかけて……という、才能とは何かを巡る物語。個人的に、私がよく題材にする内容なので、興味深く読みました。書きたいテーマや、理想とする人間の関係性が、作者の中で定まっているのはいいですね。基本的な表記のセオリーが(段落のはじめは一文字下げるとか)揺れているのは気になりました。あと、これは寓話というより、エンタテイメント性のあるストーリーなので、キャラクタの名前や出自は設定して出したほうが、読者もより物語に入り込んでテーマを受け取れるようになると思います。

 

 

75. 小早川 「WIND BREAKER」

 え? なんでしょうか、分かりませんでした。行間を読めとか言われても分からなかったので分からないです。別の自作のスピンオフということなのですが、これだけでは単独の短編小説として成立してないかも。作者の頭の中だけにある情報は読者には伝わらないので、ちゃんと不足なく本文に盛り込む必要があります。作者はなにしろ作者なので書き漏れている情報もナチュラルに補完して読んでしまって、そういうところに気付きにくいものですから、自分でもすっかり忘れた頃に読み返してみるといいかも。

 消えたマスターを追っていき、世界の真実が明かされる、という展開に途中まではとても楽しく読めたのですが、肝心のオチというか"WIND BREAKER"が何なのかといったところがちょっとよくわからなかったです……。エンディングも色々と放りっぱなしな気が……。コッチはめちゃくちゃかわいかったです。 

 23世紀の未来、会社員のカザネは産業医に薦められ、リフレッシュのために北欧旅行に出かける。そこで拾ったウサギ型のペットロボットが彼の運命を変える……というSF作品です。どうも、作者の脳内で出来あがっている世界を、文字にして書き起こすのが性急すぎるところがあります。次から次と新しいキャラクタが登場し、場面が切り替わりますが、そこに流れているムードや感情を把握するのが難しい。どうやら他作品のSFパロディのようで、もともと出てくるキャラクタたちに親しんでいなければ楽しめない作品なのかもしれません。私は読者として不適格のようです。すいません。

 

 

76. 今村広樹 「がーるふれんどえくすぺりめんと」

 だらだら喋らず小説を書いてください。読者はあなたの個人的なエクスキューズなどには一切興味がありません。いちど他の人たちがどういったものを書いているのかを読んでみたほうがいいのでは?

 人に作品を読んでもらうということは、その人の時間をいただくことだ、ということを心にとめて誠意を持って創作をしてほしいな、と思います。

 既存の小説は冗長でくだらない、自分がやっているソリッドな試みを評価しない読者もくだらない――そんな作者の嘲りと嘆きを託した会話劇が続き、だらだらと1万字を書くのがバカらしくて苦労したということが伝わってきました。私は、知的な企みを読者にわかりやすく伝えるというのは、ますます表現を研ぎ澄ますことであって、読者をバカにして程度を下げるということではないと思っています。

 

 

77. 大澤めぐみ 「柚木さんの完璧な世界」

 温泉に行きたい。

 ぐわー!(ジェンダー論をくらう音)まだまだ若輩者で勉強不足なので、浅い読みしか出来ていないとは思うのですけれども、ポリティカルにコレクトたらんと要請されるようになっていっている社会においての歪みを描写した作品……です。ステレオタイプな女性像を自ら望んで演じることは、男女平等の名の下に否定されうるのか、など考えさせられました。(小学生の読書感想文か?)世の中、世知辛いのじゃ。しかしこれを最終的に倒錯した百合小説に落とし込む手腕! さすがです!

 柚木圭子は先進的な正しさを貫く有能で完璧な上司。その部下の「わたし」は圭子を尊敬しつつ、旧来の価値観で求められる「女子」を演じることでサバイブしている。「お仕事小説」として順調に滑り出した物語は、後半で急転します。正しいことは大切だ。でも、正しさで幸せになれないひともいる。では、不幸なら正しさを捨ててもいいのか。また、不幸になる正しさを他人に強いてもいいのか……。あなたはどの登場人物を憐れみ、どの登場人物を畏れるでしょうか。「何か小説を通して社会に訴えたいことがあるなら、このくらいの密度と人物造形が求められるのではないでしょうか。1万字ぴったりでもこれだけできるよ」という、手ごわい「模範解答」だと思います。

 

 

78. 山本謙星:櫻鬼P 「サイバー=クルーの古書堂」

 プリンちゃんかわいい! 序盤から真相の伏線がきっちり張られているのは、ちゃんと物語全体を構想してから書いているっぽくて好印象です。文章力も必要十分で読みやすくていいですね。ただ、物語の起承転結てきな話をすると、転がそのままオチになってしまっている感じがするので、真相が明らかになってからのさて「どうしよう?」というところでもうひとつドラマがあったほうが収まりがよかったかなぁという気はします。ちょっと解決が簡単ですね。

 ビバ・バ美肉! まず題材にトレンド感があってポイント高いです。構成も、しっかりとした土台を感じさせるもので、好感を持ちました。強いていうなら、鏡花本・仕掛け本のくだりは、描写は素敵だったのですが、話の本題からちょっと逸れてしまっているなという感覚も受けましたので短編としてのまとまりを意識されると良いかな、と。古書堂白鷺ワールド行きたくなりましたけれども! 星子ちゃんも出ていてにやりとさせられましたよ!

 いまから十数年後の近未来、VRによるSNS空間で、大学生の主人公は仮想の古書店に巡り合う。データとはいえ稀書の宝庫、しかも店主はイケメン(アバターだけど)である「古書堂白鷺」を巡って繰り広げられる人間模様を描いたSFです。前篇の「古書の物語世界にダイブする」という展開から、そういう伝奇的なほうに進むのかと思いきや、後篇は古書店主の正体にまつわるサイバーなSFへ。個人的には梯子を外された感じがありましたが、これはこれで、ときには「温かみがない」みたいな不信を持たれがちな最新の情報技術を健やかに描く、未来への希望あふれる内容でした。いいエンタテイメントです。シリーズ化もできそうですね。 

 

 

79. 現夢いつき 「アイと不思議の扉」

 行きて帰りし物語の型ですね。6話完結で童話的な感じという予告どおりに、ちゃんと型にまとまったキュートでチャーミングなお話に仕上がっていて、計画に則って執筆できているようです。ふんわりとした文章の肌ざわりも良いですし、メタファーとしての前髪とハサミもちゃんとテーマに絡んでいてテクニカル。雰囲気加点でプラス1点です。すでに十分な技量はあると思いますので、あとはいかに既存の型を脱却して個性を出していくかが課題でしょう。唐突にゴリラとか出すといいですよ(無責任)

 メルヘンチックでほっこりする素敵な童話でした。一話一話丁寧に積み重ね、主人公の成長をしっかりと描き切っているところが良いと思いました。文章もキュートな一人称で読みやすく、キャラクターも可愛らしい。児童文学としての完成度は一定レベルに達していると思います。 

 長い前髪をママに切られるのを嫌がって逃げたアイは、謎の扉をくぐって次々と不思議な世界へと迷いこみ、旅路の途中で出会った魔法使いや妖精に大切なことを教わって、少しずつ成長していきます。作者が読者に伝えたいメッセージというのは、読者に直接発信するのではなく、物語の中でキャラクタが別のキャラクタに対して向けるものです。読者はそこから(勝手に)自分への教訓を汲みとるのだ。この物語はそこができているのがよかったです。課題としては、わりと既存の「童話らしさ」の型に収まってしまっている感じがあるところ。もっと幻想的なイメージで満たすのか、キャラクタをもっとはっちゃけさせるのか……。どうするかは、作者の志向によりましょう。 

 

 

80. 長月 有樹 「鉄腕エミリーの隣のワタシ」

 独特の言い回しにときどき光る部分がありますが、くどく感じられるところもあるのでもうちょっと洗練は必要かな。読者をびっくりさせてやろうというサービス精神は感じますし、無よりはずっと良いのでそのスタンスじたいは大事ですが、とりあえずびっくりさせれば良いというものでもありません。ちゃんと読者の興味を牽引しながら、ここぞというところでびっくりさせていきましょう。伏線をしっかり張り巡らせて、びっくりするけれども納得はできるくらいのバランスに仕上げてください。次は勢いを維持したまま、もっと丁寧にやってみましょう。

 テンション高めなこの文体、私は好きです。このまま伸ばしていきましょう!ストーリー展開についてはスピード感重視であれよあれよという間に出来事が起こっていってしまう感じでしたので、もう少し読者のことも考えて丁寧に進行することも考えた方がいいかもです。良い塩梅を探っていかれると良いのではないでしょうか。

 ある日いきなりレーザービームを撃てる義腕を装着してきたエミリー。このちからで世界を救うと息巻くが、田舎町でそうそう大層な事件は起こらず、友だちの「私」は自分の恋に忙しい……。確かに題名は「隣のワタシ」がメインなんですけど、エミリーのサイボーグ設定は物語の中心にならず、主人公とエミリーが織りなす三角関係のほうに筆が割かれていくの、大胆な作劇である。最後は妙にピタッと物語が着地するところも、おそらくあまり小説を書き慣れていない作者ですが、勘どころはいいのだと思います。この勢いを失くさないまま、文章も、物語の構成も磨いていってほしい。 

 

 

81. 亀馬つむり 「レイチェルとサトー」

 うーん? これはなにかオチてるんでしょうか? なんの説明もなしにいきなり喋りはじめるのはわたしもよくやる手法なのですが、さすがにちょっと不親切というか、必要な情報がちゃんと提示されていないように思いました。クトゥルフ神話のタグもついているので、ひょっとするとそっち方面でなにかオチがついているのかなぁ? 分かりませんでした。

 AIと青年の交流が描かれている、ということはわかるのですが、物語の軸がちょっとよくわかりませんでした。バーチャルYouTuberになりたいっていう話は結局どこへ行ったの?という感じで。とりとめがなく散漫な印象を受けました。何を描きたいのかはっきりと読者にも伝わるような構成を心掛けていただけると良いと思います。

 語り手のレイチェルは何らかの実験体で、研究室の中で暮らしているらしい。研究員のサトーと喧嘩して、ベストフレンドのメグちゃんにどうしたらいいか相談して――という状況は、読み進めていくと少しずつ明かされてきて、その「いきなりボンッと始まって、じわじわと見えてくる感じ」のおもしろさがこの作品の企みだとは思うのですが、いくらなんでも情報を出し惜しみしすぎだと思いました。恥ずかしながら、よくわからなかった……。何かの番外篇なのでしょうか。最後に「アーカム」という地名が出てくるので、クトゥルー神話ものなのかな。でもクトゥルーも詳しくないので、やっぱりわからない……。すいません。 

 

 

82. 青月@Vtuber 「黒ペンキの剥がし方」

 気だるげな終末てき雰囲気がとても良いですね。キャラクターと世界観と文体がビッ! と一致していて雰囲気加点でプラス1点。物語としてはあまり大きなピンチや困難がなく、ちょっと起伏に乏しいので、この雰囲気をスポイルしてしまわない程度にもうちょっと派手にしたほうがいいかな? 基本的には、語り部である主人公が主体的になにか決断をして成長する物語にしてしまったほうがエンタメとしてまとまりやすいと思いますが、この気だるげな雰囲気とは背反しやすいので上手にブレンドできると良さそう。面白かったです。 

 世界観やキャラクターに独特の風合いがあって良いと思います。一行目からぎゅん! と物語世界に引き込んで、「黒い空」を軸にしてエンディングまで持っていく感じ、短編としてのボリューム感が適正で、よくまとまってらしたと思います。強いていうなら雲の魔女と葡萄酒の魔女のキャラクターの書き分けがもっと欲しかったかもです。 

 空が「黒」で覆われ、太陽も星も見えない世界。街灯を管理する「灯師」を生業とする魔女のもとを、高名な「雲の魔女」が訪れ……というファンタジー作品。散りばめられた設定や固有名詞がロマンティックで素敵ですね。前半はムーディな描写が重ねられていて惹きこまれたのですが、後半、魔女たちが会して実際に動き出すと、作者の頭の中だけで出来ているイメージが文章に表れ切っていないような感触があった。魔女たちの行動原理も、わりと「おもしろそうだから」という感じであり、もう少し、このファンタジー世界ならではの理由づけ(使命とか、宿命とか)がされていると、より物語に酔わされたと思います。全体的な雰囲気は好きです。

 

83. 綿貫むじな 「いとしのリノリウム

 定番のバディものスペースオペラって感じですね。ストーリーラインにもキャラ造形にもあまり尖ったところはないのですが、作品全体を貫く「リノリウムという謎の物質を探す」という素っ頓狂な目的がスパイスになっていて、そこはとてもいいです。いわゆる逆叙述トリック状態になっていて、読者はそれが大したものではないと知っているのだけれど、作中人物にはそれが分からないというギャップでおかしみを生み出せます。現状はもののついでくらいのライトな目的になってしまっていますけど、根幹の設定にしちゃってもいいくらい。もっと他にもその設定に使い道がないか、いろいろと考えてみてもいいでしょう。スペースオペラとしてはわりと型どおりなので、説明的な部分はもっと大胆にカットしちゃっても問題ないかも。そのぶん、紙の本に執着する主人公とか、そういう独自な部分のディティールを高めたほうが質感はさらに向上しそうです。

 好きです!! このゆるふわっとした女の子2人のバディものとそれに合った絶妙な塩梅のSF濃度! 愛しいです! 世界設定の魅力、キャラクターの魅力、物語の緩急、どれも申し分ないと私の中では思います。本の虫なアイカかわいい。関係性も好きです。ずっとこの二人の道行を見てみたいと思わせられた、キュートな作品でした! リノリウム、語感が良いですよね。

 おっ、スぺオペだ! アイカとミトは宇宙の廃棄物回収業者。謎の鉱物「リノリウム」を求めてコンビが銀河を駆けるSFアクションです。エンタテイメントのツボを心得た筆致は、ハードSFというほど難解ではなく、読みやすくっておもしろい。都市でくつろぐ様子はわりと現代のものに近くて、いざ宇宙で暮らすとなるとそれがリアルなのかもしれないけど、ここでもう少し「SF~~」というムードが出る小物などが散りばめられると、より雰囲気が出るかと思います。あと疑問なんですけど、リノリウムって、なんかこう、例えば「ドリル!」みたいな感じの、定番のネタ用語なのでしょうか? 私は何か根本的なところを理解していないのかもしれないという不安がある。 

 

 

 84. 紅哉朱 「拝啓、地獄より」

 はい。やっぱりみなさん好きですよね、死。最初に提示されている謎は「子供ではなく、女の子でもなく、人間でもなかった」のはずなのに、ではなんなのか? という謎が結局置き去りのまま一本道で話が進んで終わってしまうんですけれど、書いている途中で忘れてしまったんでしょうか? 物語る以上はなんらかのこの作品に固有の価値を提示するべきだと思います。少なくとも、その意志は持ってください。人に胸糞の悪い話を読ませてそれだけで悦に入っているなら小説の体裁を借りた傾聴ボランティアに過ぎませんし、読者はあなたのカウンセラーではないので、ちゃんと楽しませる工夫をしましょう。

 めちゃめちゃ胸糞悪い話ですね。でもテンポ良い文章ゆえか、嫌だ嫌だと思いつつも目を離すことができませんでした。作者さんが目論んでいるような効果は与えられていると思いますし、何を表現するかは自由ですが、エンタテインメントとしては失格だと思うのです。せっかく文章力は高いのですから、何だかもったいないような気がします。

 とある殺人鬼の独白は、彼女を取り調べる刑事も色を失くすような内容。ひとりの女性の幸せなことなど何ひとつなかった半生を陰惨に描いたサイコ・サスペンス……なのかな。「呪いの文書」というのが正確な呼称かもしれません。恨み、憎しみ、敵意、嘲笑……負の感情だけでできた1万字です。主人公は、生まれ育ちがこうだからこうなってしまったのか、それとも、こう生まれついてしまったのか。主人公に作者の感情はどれくらい投影されているのか。ここをこうしたらいいという講評を最初から拒否した作品だと思いましたので、最初から最後まで拝読しました、とだけお伝えします。

 

 

85. 白里りこ 「なにやら廃校にとらわれた」

 どんでん返しのアイデアは良いですね。既存の型を借りることで細かいところをすっ飛ばしちゃうのも創作メソッドとしては全然アリ。偽のクエストで真相から読者の目をミスリードするのもやりかたとして正解です。どんでん返しの伏線はもっと自信満々に露骨に張ってしまってもたぶん大丈夫でしょう。隠すのと匂わせるののバランス調整って本当に難しいんですけれど、作者が簡単すぎるかな? って思うくらいで意外とちょうどよかったりします。現状ではまだちょっと唐突な感じがあるので、あからさまな正解が序盤にドンと置いてあるのに読者はうっかり見落としてしまうみたいな設計にしたほうが、もっと鮮やかにきまると思います。方向性などは間違えていないので、このままさらに洗練させて高めていってください。面白かったです。

 ホラーテイストな作品。どんでん返しは良いですが、真相が分かってからの解決がちょっとあっけなかったかもしれません。まだ字数もありますし、もう少しハラハラドキドキさせる展開を引っ張ったり、不気味でホラーな描写を膨らませてみても良かったかと思います。

 同窓生の三人組の女子が、謎のきっかけで廃校となった母校の中に閉じ込められ、脱出行に挑むというホラーものです。定番の内容ではありますが、定番をきちんと押さえて読者を楽しませるというのは、できそうで案外できないものです。イベントの並べ方、出し方が巧みである。上質なノベルゲームのテキストのようだ……というのは、美点でもあり、小説としては物足りないという短所でもある。もし全篇に「絵」がつくなら、これで過不足ないのですが、文章だけで読ませるなら、ちょっとあっさりしすぎでありましょう。キャラクタを濃くしたり、怖い場面とそうでない場面に文章量で緩急をつけたりすると、もっとよくなると思います。

 

 

86. 白黒淡 「きっと私は世界の中心の隣に突っ立っている。」

 終始モノローグで牽引するには1万字はちょっと規模が大きいですね。お話としても、テーマがそうなのだから必然ではあるのですけれど、主人公がなんの行動もせずに喪失を抱えて突っ立っているだけなので、物語てきなカタルシスは弱いです。このテーマで読者になにかを残すには村上春樹級の技量が必要になるので、主体的に行動させて成長させてしまったほうがお手軽なのはお手軽ですよ。どうしてもこのテーマで書きたい場合は、もう愚直に文章の切れ味を突き詰めていくしかない修羅の道です。がんばりましょう。

 モノローグで綴られた失恋譚。ストーリーは非常にストレートなので、もう少しキャラクターの個性や文章の魅力などの、他と差別化できるような一工夫が必要かも、と思います。難しいですけどね……。がんばってください!

 幼馴染みの子分みたいな男の子が成長するにつれて逞しくなり、自分の世界を広げ、彼を侮っていた主人公の好意はどんどん宙ぶらりんになっていくという、王道の青春失恋小説です。題名どおり「突っ立ってる」だけのことを描くお話ですから、偉ぶって、強がって、でも自分からは何も動き出せない、かっこ悪い主人公になるのは作品の必然でありましょう。でもこの子はちょっと、上からものを見たまんまで、感情移入よりも反感が先に立ってしまうかな……。だからって、ポジティブでゴリッパな子にすればいいわけでもないし、このバランスは難しい。私も実作においてトライ・アンド・エラーの連続です。 

 

 

87. @dekai3 「モンスター娘BBA、人間の赤ん坊を拾ってママになる」

 KUSO創作勢筆頭の@dekai3の二作目ですが、これはなかなか馬鹿にできませんね。千年を2万文字に収めるすさまじいパワープレイで、普通なら雑なあらすじになってしまいそうなものなのですが、書き飛ばすところと書き込むところの緩急がちゃんとつかめていて意外と無理がないです。本文としてつけ足すと浮いてしまいそうな部分をキャプションに逃がすというのもカクヨムの仕様をうまく使っていてポイントが高い。KUSO創作っぽいタイトルはミスリードのつもりなのかもしれませんが、本文にはKUSOっぽさがほとんどないので、これは妥当にそれっぽいタイトルでもよかったかなぁという気はします。面白かったです。 

 感動しました! 読み進めていくうちに、どんどんカンザンさんが好きになっていき、エンディングは切なくも美しく、良い読後感を得られました! アルラウネを主人公にチョイスするセンスも良いですし、その設定をしっかりと物語に活かせていらっしゃるところもポイント高いです。読み応えがありました! 

 題名どおり、魔物が人間を育てていく物語なのですが、劇中で経る時間の長さがすごい。千年(!)に渡る生々流転を短篇で書くとなると、どうしてもただの「あらすじ」に堕してしまう危険性があるのですが、そう感じさせない読み応えがある。よく「小説は説明するな、暑いことを『暑い』と書かず『灼けつく陽射しが地面に濃い影を……』と描写せよ」などと言うじゃありませんか。一面の真理ではありますが、結局「暑い」ということしか情報がないなら、その描写は「無」だったりもする。私は「説明で済ませられるのが小説の長所である」とも思っています。この作品は、説明と描写の使い分けが的確です。「魔本少女」で垣間見せた構成と演出の妙が、その真価を発揮した感じがあります。おもしろかった。

 

 

88. 不死身バンシィ 「マジックLOVEアワー・クライシス」

 満を持して登場の前回大賞受賞者、不死身バンシィくんです。ほぼ全学の女子生徒がたったひとりの男子生徒に告白するためだけにバトルロイヤルを繰り広げる! というクソバカ設定を、超常的な要素を使わず飽くまで現実ベースで理屈づけしているのはよく考えられていていいですね。でも、この「飽くまで現実ベースで」というところで本人が振り回されてしまったというか、リアリティレベルの調整に苦しんでしまったように見受けられます。超人的な活躍であらゆる女子生徒と運命的な出会いをしてしまう男だとか、原付木刀で襲ってくるヤンキーという時点で、現実ベースではあるもののギャグマンガ時空に足を突っ込んでいますから、戦闘シーンはもっとギャグっぽく振ってしまってもよかったかも。わりとしっかり格闘戦をやっているんだけれども、そのシーンに物語上での役割はあまりないんですよね。この重めの戦闘シーンが構成を圧迫して後半が駆け足になってしまっているので、そこは圧縮して細かい笑いを稼ぎつつ、透子ちゃんの描写に割いたほうよかった気がします。もう一周する時間的な余裕があれば完成度も上がったと思うので、やはり計画的な執筆が大事ですね!

 めっちゃ楽しかったです!! 突飛で独創的な設定で掴みはバッチリ、個性あふれるキャラクター達がぐいぐい動きまわり飽きさせず、ドラマチックな告白シーンにきゅんきゅんするエンディング…! 面白かったです! 透子ちゃんかわいい!!(のでもう少し透子ちゃんとミヤちゃんのパートも読みたかったです) 文章のリズムも小気味良いいですね。好きです!

 学期中は恋愛禁止、ただし夏休みだけは黙認という奇妙な風習がある高校で、終業式が終わるのと同時に、150人の女子が完璧男子の生徒会長への告白タイムを奪い合う。興味を惹く出だしからどういう展開になるのかと思ったら、カポエラ、喧嘩殺法、レスリング、柔道、空手……格闘女子たちが鎬を削るバトルもの! このコンテストではありそうでなかった内容、とても新鮮で楽しめました。ギャグとシリアスのバランスもいい。序盤の雰囲気からぶっとんだリアリティラインなのかと思ったら、いざバトルが始まるとわりとリアル路線で、格闘描写そのものはアイディアが凝らされていて好きなのですけど、少し物語のスケールが縮んだ感じがあるのは惜しい。「男塾」レベルの超人対決に振り切ってもよかったかもしれません。 

 

 

89. 秋永真琴 「ROCKSTEADY」

 手堅くうまいですね。ツンケンとした突き放した語り部のわりには、文章の居心地はどことなく良くて、書き慣れています。物語の型としては喪失からの再生になると思うので、どちらもしっかり描いて振り幅を大きくしたほうがよりカタルシスに結びつくのですが、喪失は「なんとなくブルー」くらいの感じだし、再生も「ちょっとやる気でた」という程度で、あまり劇的ではない。じんわりと染みとおる系を狙っているのでしょうから、劇的であればいいというものでもないですが、ちょっと動きが少ないかなぁ。作品が「ノスタルジーに浸ってないで初心にかえる」みたいなテーマを描いているのに、作品そのものは手堅く仕上げられてしまっているのも、批評性が高すぎるかも。せっかくのモモモ大賞なので、もっと攻めの姿勢があってもよかったかなとは思います。まずゴリラを出す意気込みが大事。

 良いですね。文章の読み味が素敵なのは言うまでもなく、前向きな読後感がじんわりと沁みて好きでした。強いて言うなら”溜め”の部分の分量がちょっと多いのかな?とも。3話目の輝く彼女達とのコントラストが明確で良かったのですが。「でも、あたしは心をつかまれた~」からの切々と訴えかけるようなモノローグに心をわし掴みにされました。派手さは無いですが実直で良い作品だと思います。

 成功を修めたバンドが解散してから、なかなか次のステージに踏み出せないミュージシャンの、転機となるある1日を描いたお話です。作者がこれまでカクヨムで発表してきた作品の延長線上にある内容なので、違うジャンルの作品も書いてみてほしいところでした。はい。あと、つつましく暮らしているという設定ではありますが、一般人ではない主人公なので、もう少し彼女じゃないと行けない場所、会えないひとが出てくると、物語のムードが増すと思いました。はい。 

 

 

90. ロッキン神経痛 「マッスルガンアームエーコ

 カクヨムコン大賞受賞者のロッキン神経痛さんです。これも世界観ありきって感じで、お話としてのツイストはあまりないですね。好きなものを好きなように書いてやるぞ~っていう姿勢が文から伝わってきて、肩のちからが抜けた伸び伸びとした筆致はそれだけでも魅力があります。ただ短編小説としてうまく落とすには、もっと主人公の葛藤や主人公とフジミの関係性を丹念に描いたほうがよかったかな。ちょっと気持ちが先走りすぎて描写が分かりにくくなっているところもある。ロッキン神経痛さんは考えすぎると手が止まるし伸び伸びとやると雑になるという困った性質があるので、とにかく雑に書いて、後から丁寧に手直しを重ねるやりかたがコスパは悪いですけれど最終的には合っているのではないでしょうか。叩き台としてはこれで充分なので、ここから推敲を重ねれば良くなると思います。

 まず世界観や設定が格好いいですし、ところどころにセンスある描写も散りばめられており、面白かったです。強いて欠点を挙げるなら、一つ一つの場面自体は面白いのですが、場面転換に読者を置いてけぼりにしている感じが少しあるかもしれません。強い女の子って良いですよね! 

 地球全体でAIロボットと人間の全面戦争が続く時代、サイボーグ兵士のエーコはめざましい戦果を上げているが、人間サイドから畏怖と嫌悪を浴びている少女だ……という、土煙と血煙の匂いがするSFミリタリー・アクション。膨大な設定を背後に秘めているような気もするし、意外と書きながら考えていったのかもしれない。どちらにしても、作者のフェティッシュな情熱を感じつつ、ただ「萌え(燃え?)」に淫せず、この話ならこのテーマだろうというところをきちんと埋め込んでいる誠実さがいいですね。長篇化や連作化ができる内容ですが……これはこれで、単体の短篇として完結しても、余韻が深くていいような気もしています。

 

 

91. 棚尾 「キメラだって恋したい~伴侶が欲しいキャリーちゃん~」

 だいたい半分くらいはヒトだと言い切っても良い。なるほど、ちゃんとフェアな叙述トリックに仕上がっています。周囲の人の反応やヴィクターの見た目などで、嘘を書かずに読者をミスリードしていく手腕も鮮やかで細部まで隙がなく、ふむオヌシ分かっておるな(誰?)ってなりました。わたしも叙述トリックは大好きなのですが、この水準でうまくキメられる人はアマチュアではあまり見かけないので、非常に強力な武器になると思います。文章の手触りもいいので、あとはキャリーちゃん自身の成長譚てきな部分もしっかり描いていければ150点でしょう。やっていきましょう。面白かったです。

 見事な叙述トリック! こういった文字媒体だからこそできる演出は本山的にポイント高いですね。女性一人称とは言われたが、人間女性に限るとは言われてないぜ! という感じで捻りを利かせるのは良いと思います。キャリーちゃんもかわいらしく、ほっこりするようなエンディングも私は好きでした。

「私」はマッドサイエンティストのフラン博士に作られた合成生物。ヒトと変わらない知性を持つ私は、孤独を晴らしてくれるパートナーを求め、研究所の来客を見定め始めます。ですます調の丁寧な一人称で、主人公の行動を丹念に追いかけ、「このお話はどういう帰結を迎えるのだろう」という興味をわかせてくれます。剽軽な題名とは裏腹に、実直で温かみのある展開は、このままでいいような、もっとダイナミックに事件が起こってもいいような。そこは一長一短ですね。この設定ならでは――そして小説ならではのサプライズもいくつか仕掛けられ、きちんと決まっています。 

 

 

92. 山森ねこ 「BBB作戦」

 キャプションには初投稿とあるのですが、文じたいは書き慣れている感じでとても読みやすいですね。序盤~中盤にかけてスキル持ちのメンバーをひとりずつ紹介していくオーシャンズほにゃほにゃてきな雰囲気で進んでいくので、それぞれのスキルが噛み合うような、なにかカチッとした仕掛けがあるのかと思ったら、これもバッと翼が生えてビョーンと天高く飛び立っていってしまった感じでした。なんていうか、真顔で冗談を言われているみたいで反応に困っちゃいます。バカな話をする場合は最初からバカで~す! てきなノリできてもらったほうが心構えはしやすいかなぁ。このへんのちぐはぐさも含めてジョークということなのかもしれませんが、ちょっと上級者向けです。次はしっかりとプロットを組んでから書いてみましょう。

 このバカバカしい導入は好きです。作戦自体よりも登場人物紹介の方に分量が割かれており、短編小説として見た時のバランスは悪いかなと思いましたが、キャラクターの魅力は十分に伝わってきました。話のオチが不思議な感じでちょっとすっきりしなかったので、もう少し練ってみてはいかがでしょうか。ABEサークルという設定にはときめきました。

 世界中からウマとシカが消失するという奇怪な事態に、主人公が所属する謎の部活の面々がこれまた奇怪な解決策で立ち向かってゆく、奇妙な手触りの青春サスペンスです。前半、物語を停滞させるほどの分量でキャラクタの能力や性格がみっしりと説明されてゆくので、やや強引でも一応現実的な真相が用意されている布石なのかと思いましたが、解決編はかなり観念的でマジカルな内容でした。そのアイディア自体は個性的でおもしろいのですが、リアリティレベルの「飛躍」を楽しむというよりは、置いてけぼり感があったかも……。そこに至るまでの展開も、もっとマジカルでスピード感があると、小説としての完成度が高まると思います。

 

 

93. 真里谷 「トイレは宇宙なり」

 妹と兄のトイレの扉一枚を隔てた極限の攻防戦! と思いきや、最終的にとんでもないところまで話が飛んでいきました。そうか、トイレは宇宙だったのか。ブン投げと言えばブン投げなので、これをそのまま短編小説として評価するわけにもいきませんが、中身のない会話だけで読者に読ませるセンスと手腕は光っていますし、KUSO文としては非常に水準が高く、面白かったです。

 これぞKUSO小説。絶対に朗読したくない。文章自体のリズム感や言葉の選び方には光るところがあるようには感じましたが……これを18歳の女の子に読ませて楽しいですか!?(楽しそう)

 トイレを占領する妹、早く譲ってほしい兄、ドア越しに交わされるふたりの大仰で衒学的な会話が延々と続くコメディ作品です。文章の緊張感を失わず、1万字を最後まで駆け抜ける筆力――その筆力の無駄遣いが、この手の作品には必要です。そこがちゃんと満たされていると思いました。後半に待ち受けるオチも、脱力もののオチャラケには走らず(それはそれでビシッと決まればとてもおもしろいんですけど)喩えるなら、巨匠のSF作家が若いころに書いたユーモア作品といった趣きが感じられて、実直である。全力投球のギャグをありがとうございます。 

 

 

94. Enju 「ダンジョン・アタッカーズ!」

 異世界ファンタジーもの、というかゲームファンタジーって感じですね。平易な文でキャラ同士の掛け合いを中心にサクサクと展開していく話が小気味よいです。物語の筋は最初に示されたダンジョン攻略という目標をひたすらこなしていくだけなので、本当に人がプレイしているゲームでも見ている感じで、王道展開ということかもしれませんがちょっと一本調子ではあります。もうちょっとツイストはほしかったかも。

 ダンジョン攻略譚。ダンジョンやパーティなどについての設定が多く、下手したらただの設定の羅列ともなりかねないところを、関係性で味付けして読ませるところは良いと思いました。王道で綺麗にまとまっていましたが、個人的にはもう少し独創性もあったらより良いのにな、と感じました。

 魔王も滅び、財宝もあらかた発掘され、危険に満ちた迷宮探検(ダンジョンハック)がエクストリーム・スポーツとして確立しているという設定、「目的がなく、経過だけ書く」というところを作品の個性に転化していて、したたかな良さがあります。その他にも、ファンタジーを書く上では時として安易さにもつながってしまう「テレビゲームっぽさ」を、いろいろ理屈をつけてうまく作品世界に馴染ませている。キャラクタもかわいく優しく、文章も読みやすく、いい意味で「がんばらなくても読める」のは作者の心配り。練達のエンタテイメントです。 

 

 

95. @scoriac-pleci-tempitor 「家族☆☆☆彡」

 話があっちにいったりこっちにいったりする独特の叙述のしかたなんですが、たぶんわざとやっているのだとは思うんですけれど、やっぱり分かりにくいので、もうすこし整理したほうがいいかもしれないですね。わりと一般的ではない反応を示す主人公なので、読者の共感をよぶには全体的にもうちょっと丁寧に描写していく必要があるでしょう。父や母についての記述がまだ抽象的なので、そこのディティールをもっと具体的なエピソードの積み重ねで描いていったほうがいいと思います。しばらくクーリング期間を置いてから自分で読み直して加筆修正してみるとよいかもしれません。

 感動的な家族ものですね!? はい。実直な一人称の語り口で、共感しづらいはずのキャラクター造形なのにスルスル入ってきました。序盤の構成はもっと素直なものにしても良いかもです。タイトルをもっと作品の雰囲気に合わせたものにすれば、より多くの読者さんにリーチすると思います。悔しいですけど謎に感動しちゃいましたよ。

 マニアックな嗜好を持つ母と娘、そこに嫌悪感を抱く真面目な父。微妙なバランスの家族は、いまさら崩壊したりはしないけど、ある出来事によって、娘の父への感情はしだいに変化してゆきます。作品が「これは別にちゃんとした小説を書こうという文章ではない」というスタンスで始まること自体はいいのですが、それって、破壊的な魅力への期待がかえって高まるワードでもあり、本当にただの言い訳では困る。この作品は微妙なラインかな……。ブログの記事みたいな書きぶりは、実録風の雰囲気が出ていて一定の効果はあるけれど、やはり、正統の小説に昇華してほしいという思いは否めない。いいテーマだと思うので。 

 

 

96. ろじ 「終わりの街」

 世界観とキャラクターが先行しているのですが、なるほどこういう世界観でこういうキャラクターがいるんだな? と把握したところで話が終わってしまって、物語的にはとくになんの展開もないように感じました。短編小説ですからお話を転がすことをしっかり意識したほうがいいでしょう。キャラクターを描きたいということなのかもしれませんが、お話がないことにはどんなキャラクターの属性も上滑りしてしまって「そうなんだ~」で終わってしまいます。一万字程度の規模で視点人物がコロコロと変わるのもセオリーてきな話をするならあまり望ましくありません。ひとりの人物にカメラを固定したほうが、手軽に全体としてもまとまりもよくなると思います。

 殺し屋の少女達のお話。好きなものを好きなように書いてらっしゃるんだな、という感じがしました。世界観設定やキャラクター達はかっこいいと思います。ストーリーとして軸を定めて起承転結などを意識して構成してみると、よりエンタメ小説としての強度が増すのではないかと思います。

 幾多の勢力が鎬を削るスラム街で、少女ギャングの首領が圧倒的な暴力で街を支配し平和をもたらそうと動きだすというファンタジックなノワールです。私、こういうお話が大好きなので、わくわくして読みました。主人公の独白めいた一人称の語りは魅力的で、仲間たちの個性も短い枚数でよく出ている。ただ……その個性的な仲間たちが各々活躍するアクションものには、ちょっとミスマッチな文体なのかな、とも。もっと内省的な、主人公の首領としての苦悩などを描く方向性に適した文体でありましょう。あとこれ、もしかしたら、無理に1万字で終わらせようとしていませんか。ラストの性急さに驚いた。その意味でもやはり、掌篇に適したストーリーではないのだ。2万字いっぱい使ったバージョンが読みたくなりました。 

 

 

97. ラブテスター 「劇団 誑・曝(たぶら・さら)の憂鬱」

 ふだんはしつこいくらいのゴージャスな文体のラブテスターさんですが、今回は文体のバランスはちょうど良いように感じます。ちょっと古臭い雰囲気があって、文体だけで勝手に70~80年代くらいの話なんだろうなと思って読んでいたみたいで、普通にアイフォンとかラインとか出てきてちょっとビックリしました。特にそういう記述があったわけではないんですけれど、なんでだろう? 全体的に、寺山修司とかそのへんの感性っぽいですよね。話の内容は「フーンそうなんですかー」という感じで、あまり上手に読者を引き込めていないように思いました。おしゃれな作品を書きたいということなのかもしれませんが、とくにおしゃれな作品のようには感じませんでした。エンタメしましょう。

 大学生達の男女関係の機微を描いた作品。彼女らの生活を覗き見ているように感じさせるような、生々しい大学生の恋愛を現代的な舞台装置を用いて上手く描かれていたと思います。しかし、やや物語の盛り上がりには欠けるかな…とも。劇団のネーミングセンス好きです。朗読は……無理ですねこれ! 

 昭和じみたアングラ感が漂う学生劇団の日常。自意識と愛欲を持て余した面々の錯綜する人間模様をさらにかき混ぜる小道具は、ラインのスクリーンショット。このミスマッチ感、いいですね。あえて狙ったのか、この作者が書くと自然にこうなるのか。かなり露悪的な内容ですが、硬質で端整な文章と、ミステリ的な仕掛けを施すエンタテイメント性が、ただ泥をぶつけるような作品にはしていません。その後のキャラクタたちを書いたエピローグは、青春の蹉跌を過去に押し流す無常さを醸しだす効果はあるけれど、これをなくすと主人公と先輩の愚かしくも優しい関係性に余韻が増したかな……と思ったり。悩ましいところですが。 

 

 

98. 猫猫猫(ねこさん) 「夏の終わりに誘われて」

 型としてはある日少女が落ちてきててきなタイプ。このパターンはだいたい秘密を抱えた女の子と関わりを持ったことで主人公がトラブルに巻き込まれていくって感じで物語が牽引されていくのですが、当の女の子にトラブルが未然に防がれているせいであまりドラマチックではなく全体的に淡白になってしまってはいます。女の子の正体などの諸々の設定が明らかになるにつれてチープな印象になっていく部分もあるので、そのへんはあまり語りすぎずにすこし不思議テイストで流してしまってもよかったかも。設定は100作って20だけ書くくらいが意外とちょうどいいです。

 ガールミーツガールなお話し。ちょっとセリフの分量が多いように感じたので、情景描写をもっと膨らませても良いと思います。二人の他愛ない掛け合いを見ているのは微笑ましくもありますが、やや単調かもです。物語を転がすことをもっと意識してみると良いのではないでしょうか。

 疲れたOLの主人公は、休日に街で「自分は神様だ」と名乗る不思議な女子高生と遭遇する。このふたりのいちゃいちゃが書きたい! という一点突破の強い思いが、終盤のなんでもない日常の風景描写に割く分量からも伝わってきます。その熱意が先走りすぎて、ふたりが打ち解けるスピードが速すぎるね。もうちょっと式は舞を警戒して、でも舞がすごくいい子だから不審に思いつつも惹かれてしまう……という段取りが多いほうがよいでしょう。もどかしいですか? でも、その前振りにも「萌え」を篭められたら、より小説らしくなってきます。

 

 

99. ボンゴレ☆ビガンゴ 「【夏が散る】」

 不必要な部分をすべて削ぎ落とすと「ツイッターで炎上させたら逆恨みされて殺されました。完」だけなので、15000字を牽引できるネタではないと思いますね。消防車の模写であるとか、小説投稿サイトに小説を投稿している話だとかは、この物語の中でどういう役割を果たしているのでしょうか。短編ですから、必要のないものはなるべく削ぎ落として、すべての要素が物語を前に進める役割を果たしているようにしたほうがいいです。底の浅い安直な社会風刺もただ反感を買うだけなので避けたほうが無難なのではないでしょうか? 読者は作者の主張になんてまったく興味がありませんから、自分ではなく物語とキャラクターを描きましょう。

 二人の視点から描く構成があまり機能していないように感じました。序盤のお話が特に伏線になっているようにも感じられなかったので、考えつくままに書くのではなく、一度プロットをたてて執筆なさってみてはいかがでしょうか。文章自体はスルスル入ってくるようなもので良かったです。中学の卒業式のシーンは好きでした。 

 大学最後の夏休み、疎遠になっていた古い友だちの真衣と久しぶりに再会した優衣の身に、突然のできごとが。そして物語は真衣の視点へと切り替わり、物語の全貌があらわになる……という「藪の中」スタイルの青春小説です。そのスタイルに期待される、作品世界の大転回を充分に堪能させてもらいました。文章が流麗なので読ませはしますが、各々の出来事が単発という感じで(消防車の絵のエピソードは何だったんだ)主人公ふたりの個性や関係性を演出する効果が弱いのは気になる。「それもまた人生のリアル」という小説ではなく、パズルのようなおもしろさがウリだと思いますので、そこはもっと「不自然」なほど繋げていったほうがいいでしょう。

 

 

100. 隱 🐸蓮秾 「アッパラパーな珪素生命体が悪意無く現地民をぶっ殺したり交流したりするおはなし」

 アッパラパーな珪素生命体が悪意無く現地民をぶっ殺したり交流したりするおはなしでした。これはこれでなんかちょっとクセになる。面白かったです。

 未知との遭遇。異文化コミュニケーションは面白かったです。珪素生命体による知性体遺物食レポとか読みたいですね。SFの上にファンタジー要素も盛るのはちょっとやりすぎなようにも思いましたが、それがお好きなのでしたら貫かれると良いでしょう。読者に状況を把握させるのをもうちょっと早めた方が良いかもです。 

 ワーッ! 本当に題名どおりのお話だ! 珪素生命体(高次宇宙生物?)サイドから見た現地民(人間)の様子、現地民サイドから見た珪素生命体の様子を描いた、それだけのお話! 異種のコミュニケーションの絶望的なズレがもたらす悲喜劇を楽しむだけのお話です! だから退屈かというとそんなことはなく、おもしろく読めてしまう確かな筆力があるので、その筆力で、ぜひ今後はもっと物語性が豊かな小説も書いていただきたい。あと些末なところですが「後ろ編」という表記、なんか好きです。

 

 

101. 夏鎖芽羽 「貴方の体温を君の体温で上書きする」

 オ……オチ~~~!!!! え? なに? すごいいい感じで読み進めてたのに! オチ! オチ~~~~~!!!! 文章じたいはとても上手なので次はちゃんとやってください!(怒怒怒怒)

 いわゆる少女小説的な恋愛ものとして上手く書かれていましたし、オチにも笑わせられました。しかし、キャラクター造形が私の好みを狙い打ちすぎていて、あざといと感じるのも通りすぎてちょっと…イラッとしました。ただ眼鏡とか白衣出しときゃいいってもんじゃないんですよ!

 教師との秘めた恋が終わった女子高生。新しい恋人はいるが、いまだ失恋の痛みは止まず……という青春恋愛ものです。まーね、この「君」の書きぶり、何か仕掛けがあることはわかりますよ。「幽霊かな?」とか、「イマジナリーフレンドかな?」とか、予想しながら読んでいきますよ。それは別に空前絶後の真相でなくてもいいんですよ。そこに確かな人の想いがありさえすれば、その小説は美しいんですよ。これ以上の講評は止しましょう。オチについて何を言っても「ハイッ、サーセンwww」と返ってくる、そういう小説だと思うので。 

 

 

102. 東風 「最後のほたる」

 型どおりの児童向け文芸という感じ。文章も読みやすくフレンドリーで、テーマにちょうどハマッていていいと思います。でもまだ話の筋もキャラクターもステロタイプの枠を出ていないので、次はもうちょっと独自性を出していけるといいかな。ミッション達成のための障害があまりなく難易度が低いので、達成のためになにか困難があって、それを主人公が主体的に行動することで解決していくような展開があったほうが主人公の成長を具体的に描ける気がします。それほど大きなものでなくても、たとえば引っ込み事案な主人公にとっては「人に道を尋ねる」程度のことが大きな困難で、勇気を出して知らない人に道を訊くとか、そういうことでもいいです。書いていれば自然と上達していくと思いますので、やっていきましょう。

 まっすぐな青春小説、といった感じで好感を持ちました。ストーリーも叙述もストレートで、胸に迫ってくるものはありますが、一歩抜きんでるには何らかの飛躍、もしくは文章の洗練が必要かもしれません。(抽象的ですみません)基礎的な力はお持ちだと思いますので、頑張ってください!

 唯一の親友である蛍と、ホタルを見に行くことになっていた清乃。約束を果たすべく、清乃は山に向かう。独りで、蛍との思い出を回想しながら――というお話。誠実な筆致は好感が持てます。ここが作者のいちばん書きたかったことだったら申しわけないのですが……このお話の肝にするのは「死」ではなく、何か他の「仲違い」や「別れ」のほうが、私はいいと思いました。現実の死はとてもショッキングです。主人公にとっては重大事です。でも「小説」にとっては、それで話が硬直してしまうということがある。不条理な事故ではなく、蛍との関係性のなかで、清乃に試練を与えてほしいと思いました。 

 

 

103. 加湿器 「JK侍、東へ歩く」

 設定の説明がキャプションにあるのみで、本文中では特に触れられていないのは改善したほうがいいかもしれません。キャプションは飽くまでキャプションですから、読んでいなかったとしても本文だけでするりと設定を飲み込めるようになっていたほうがいいでしょう。内容のほうはわりと普通に時代小説してしまっていてぜんぜん大人しく、JK侍という独自の設定がそこまで生きていないように感じました。もっと忍殺レベルでトンチキな雰囲気にしてしまっても良かったかも。

「JK侍」というワードにまずわくわくしました……が、言い方は悪くも、普通の時代物になってしまっていたのがちょっと肩透かしで惜しいな……!と。セーラー服というより、袴のビジュアルが浮かんできてしまいました。この時代がかった文体が新鮮で好きでしたので、時代劇としては楽しく読ませていただきました。

 セーラー服のJK(女子剣生)が刀を振るう、サムライパンクな伝奇アクション! なのですが――地味。あまりにも地味です。バイクが出てくるくらいで、せっかくの特殊な世界なのに、そうじゃなきゃ描けないものが少なすぎる。「この文化レベルでこの機械が存在するはずがない」といったような「じゃがいも警察」的な遠慮は、この手の作品には無用だと思っています。もちろんカッコよく理屈がつけられるならそれに越したことはないのですが、エキゾチックでロマンティックなムードのほうが大事である。もっとごった煮的なガジェットをいろいろ出してほしい。そこに興味がないのでしたら、正統な時代伝奇を志向したほうがいいと思います。 

 

 

104. 作家志望Vtuber「僕話火乃酉」 「デッドマンズ・キッチン」

 型としては行きて帰りし物語ですね。型どおりではあるのですが、謎の提示の仕方と、そこから明らかにしていくやり方はとても上手いです。最後をふんわりといいお話で終わらせずにちょっとイヤ~な余韻を残しているのは好き嫌いが分かれそうですが、まあ好みの問題でしょう。現状では骨壺がすごく脇役なので、序盤からもうすこししっかり印象づけておいたほうが最後がどんでん返しとしてバチッとキマッたと思います。やっていきましょう。

 構成がお上手ですし、世界観設定も良かったと思います。もう少し地の文の描写の密度を上げて、ミステリアスな世界観やキャラクターの描写を細かくするとより良いのではないでしょうか。また、これは好みの問題ではあるかもしれませんが、もう少し改行少なめで文字を詰めると、この媒体でのリーダビリティが上がると思います。

 あの世に旅立つ死者に最後の晩餐をふるまうという、奇怪なシェフとウェイトレスが営むレストランに誘われた主人公。訝しく思いつつ、味は確かな料理を食べるごとに、大切な追憶が浮かんできて……。主人公の回想場面にもミスリードを誘う仕掛けがあり、最後にさらに大きなどんでんがえしが待ち受けている構成、お見事です。読みながら若干の違和感をおぼえていたのですが、それがパーッと晴れるカタルシスを味わいました。こういうサービス精神は大事です。それでシリアスなメッセージが薄まるわけではないのだから。いろいろなパターンのお話を盛り込める設定なので、シリーズ化もできそうですね。 

 

 

105. 一田和樹 「あたしが安全日を正確に計算するのは父が避妊をしないせいだ」

 タイトルとキャプションでモロにネタバレしているので、そういう意味ではあまりびっくりしませんね。テーマは極限まで歪みながらも、それでもなお成立してしまっている親子関係みたいなところにあるのでしょうか。こういう系、今回のモモモ大賞にとても多いんですけれど、さすがに描写が具体的でぼんわりしていないので、同系統の作品の中では頭ふたつみっつ抜けています。やるならこれくらいやらないと、読者に傷すら残せません。ただわたしは低能なので、個人的にはもう一歩、エンタメてきにわかりやすくびっくりできるようなツイストがほしかったですね。

 普段絶対に読まないタイプの作品で、すごくダメージを受けてしまいました……。それほどまでにグロテスクな関係性を緻密に描かれていて……間違いなく小説作品としてのレベルは高いのでしょうけれども。作品の良さをスポイルするかもしれませんが、私個人としては、エンタメ的な希釈が欲しいと思いました。

 凄い題名ですが、中身はさらに凄い。家庭が崩壊し、娘は成長して結婚し、それでも関係は止まない。狂気が濃いのはどちらか、支配しているのはどちらか、判然としないまま、父娘は禁忌の性愛を止めません。こういう陰惨な性描写にみっしりと取り組むと、作者が自身の筆に酔いしれてしまう場合があります。それはそれで屹立する凄惨美を味わえばよいのですが、この作品はゴアな描写の先に立ち上がる、感情の捻転、関係性の倒錯を見据えている感じがあり、なんというか――読んでいて受けた衝撃が体内に滞らずに貫通していくような、一種の爽快感がありました。ハッピーエンドなんだな、と思った。

 

 

106. @Uraniwa_Rion 「福寿草を摘んで」

 なんかこう、ベタベタの読み切り少女漫画みたいな展開だな~これも何かの前振りなのかな~なんてことを思いながら読んでいたら、そのままベタベタの読み切り少女漫画てきな勢いでスコーン! とゴールインしてしまいました。別に軽いのが悪いってこともないんですけれども、普通なんかもうちょっと葛藤とかあるんじゃないかな~っていう気もして、それでええんかいみたいな釈然としない気持ちが残ります。福寿草はどこにいったんでしょうか? う~ん、まあこれはこれでいいのかな? こういうものなのかも。

 かわいらしいラブストーリーなのですが、キイロちゃんが報われない……というかちょっと舞台装置になりさがり気味だと思ってしまいました。私とお兄さんの間を繋ぐだけ繋いで、「死んだ人のことの話なんてもう聞きたくない。」って言われてしまうのはちょっと可哀想では…!? 気持ちの整理がつくのも早すぎないか? と思ってしまったので数年スパンを開けてもいいと思います。ことりちゃんのお兄さんについてもそうですが、人の死を描くならば、相応の重みをもって描いてほしいです。

 中学生になったばかりのことりは図書館で年上の素敵な男子と出会う。彼はことりに、妹の友だちになってほしいとお願いしてきて……という、少女マンガテイストのお話。冒頭の「比喩」について得意げに語るくだりなど、文章がちゃんと「まだちょっと幼い少女」らしい雰囲気を出していて、一人称の大事なところを掴んでいるのはいいですね。改善点としては、スポーツ少女だったことりが小説のおもしろさを知ったことがきっかけで始まった物語なので、その趣味にまつわる出来事がもっとあってほしい。ことりとキイロに共通の好きな恋愛小説があって、それを参考にデートの作戦を立てるとか。

 

 

107. 夢見アリス 「9-9(ナインオール)」

 あ? え? 終わったの? みたいなところで話が終わってしまったのですが、これでちゃんと当初の予定どおりに終わったんでしょうか? 最初から最後まで、いけすかない主人公がダルいわ~って言っているだけで特に変化も成長もなく、話の途中で終わってしまったような感じを受けました。基本的には主人公を困難に直面させて、なにかの決断をさせて、主体的に行動することで問題を解決させ、変化と成長を描いたほうが気持ちのよい短編に仕上がりますよ。あと、単純な誤字などがけっこう多いので推敲はしたほうがいいです。

 スポーツものかつ「才能」についてのお話、というテーマは非常に好きなのですが、ちょっとカタルシスが弱いかと思います。本文で「世界で一番退屈な勝ちゲー」と描写されていた通り、全く波乱が起きないまま退屈なものとして終わってしまったのが残念でした。現実ではこういったこともままあるかもしれませんが、これは物語なので! どんでん返していきましょう。

 聡明すぎるがゆえに、プロになれるほどではないと自分の卓球の才能に見切りをつけてしまった悠羽。「こんな自分」にすら劣る卓球部の仲間も見下して距離を置くが、部長の咲奈だけは何かと悠羽をかまいたがり……。才能というものの残酷さをリアルに彫りつけようとする青春小説は好みですが、この物語はほんとうに寂しい。主人公は何も変わらないまま終わっていく。そのダウナーなところが個性だし、明朗で希望あふれる内容にしてほしいわけじゃないけど――ただ、悠羽と咲奈の心境や関係に、何か変化がほしいとは思います。さらにマイナスの変化でも。現実を提示するシビアな物語にも、動きはあったほうがいい。石のように動かない物語の、そのたたずまいだけで他人に感銘を与えるのは難しいのだ……。

 

 

 108. 修一 「女子高生に銃」

 勢い全開のロケットスタートが気持ちいいですね。細けえことはいいんだよって感じでいろいろな疑問を置き去りにしてスパーン! スパーン! と物事が進んでいくんですけれども、せっかくいい調子できてたのに最後に変に理屈づけをして夢オチにしてしまったのはもったいない気がします。そのままバカっぽく勢いで駆け抜けちゃってもかえって気持ちよかったかも。勢いで細かい部分を読者に意識させないという試みは成功していますが、夢オチは基本的には読者の反感を買いやすいので避けたほうがいいですよ。着地を考えるのは9割過ぎてからでいいので、飛べるところまで飛んでみましょう。

 ゾンビアクションかと思いきや、夢オチでしっとりめのエンディング。掴みはバッチリでしたよ。学校生活のパートやカミサマの恋愛のくだりなど、質感は好きなのですが後半とのテンションの差がみられ、繋がりに違和感があるかもしれません。計画的な執筆が大事ですね。スピード感ある文体は好きです。

 隣人がゾンビと化して襲ってくるのが日常となった世界で、女子高生のりんはサイボーグの「カミサマ」とともに、タフだけどそれなりにゆるい日常を送っていたが……という、いまどきのゾンビものです。なぜひとはゾンビものを愛するのか、そこに何が仮託されているのか、などと考えながら読み進めていき、最後にぽかんとなりました。夢オチが絶対だめということはありませんが、これは、それまでの物語の説得力をふいにする、よくないタイプだと思うのだ……。意図的にVR世界に封じられていたとか、何か作劇上での理屈がほしいところです。

 

 

109. 神崎赤珊瑚 「サンライズ・コーストライン」

 うお~めっちゃ面白かった~! 大筋ではボニー(女)とクライド(女)なんですけれども「わたしの銃は六発なんだ」とか、撃った回数をぜんぶカウントしているところとか、端的でありながらも細やかなディティールがぜんぶ最高で、そういう丹念な積み上げがあるからこそラストの展開がしっかりと活きています。愛情と崇拝と失望がないまぜになった複雑な感情に読者をきっちり引き込んで納得させる手腕が見事。たったの14000文字でここまでキャラクターをしっかり描けるのはすごいですよ。キャラを立てるのに必ずしも文字数は必要ではないというのがよく分かります。わりと曖昧に「レズにしときゃええやろ」みたいな感じでレズにしちゃってる人が多いんですけれど、このラストはレズじゃないと映えないので必然性のあるレズで、最高に崇高なレズでした。ありがとうございました。

 はちゃめちゃにキャラクターが魅力的でした!!! ひたすらにかっこいい! 映像が浮かぶような筆致、痺れるセリフ回しやキラーフレーズ、心躍る世界観設定、巧みな物語の緩急、そして何より関係性の尊さよ…! 一文一文に鋭さがあって、凝縮感のある作品だと感じました。面白かったです。

 強盗を生業にしている女子コンビがノーフューチャーな人生を懸命に、鮮やかに駆け抜けるさまを描いたハードボイルドなロード・ノベルですが……えーと、この作者はプロの別名義ではないのでしょうか? えっ違うの? 痩せているけどみっしりと筋肉が詰まったダンサーの肉体のような文章によって、きびきびと表現される人間の暗部、切実な思いに唸りました。「おれの銃は六発なんだ」という、抜き出せばなんでもない台詞の格好よさ。名台詞って、これでいいのです。その前後の状況が極まっていれば。最後も素晴らしいよね。絶望ってやつは希望ってやつと表裏一体で、どうしても書こうとすると片側だけになりがちなんですけど(それは私もそうで、いつも試行錯誤です)この作品のラストのように両方を感じさせると、くそったれの世界はそれでもこんなに美しいと思わせてくれる……。評議員の立場を忘れて没入した小説です。

 

 

110. 十一 「幽霊たち」

 いきなり不可解な状況をバーンと叩きつけて物語を牽引していくのはなかなか上手い。でも短編にしてはどうにも話の展開が遅くて、これどうやってオトすのかなぁと思いながら読み進めていったら、話の途中で文字数上限がきてあえなく終了といった感じ。肝心の幽霊もほったらかしのままなので、これたぶんまだ起承転結の起のところですよね。ここで終わらせてしまうのはもったいないので、このまま続きを書いていってもいいと思います。現状のままのこれをひとつの短編小説として評価するのは厳しいですが、長編の導入部分としては充分に面白かったです。やっていきましょう。

 序盤の服を脱いで全裸で校舎を歩いていき進退窮まってしまうパートはフェティッシュで背徳感があって面白かったです。怒涛の設定開陳の後のエンディングにはちょっと尻すぼみ感が……というか単なる字数不足でしょうか。見切り発車で短編に無理やり納めるのではなく、長編でのびのび描いた方が映える作品なのではないでしょうか。

 授業中、おもむろに服を脱ぎ、全裸でトイレに向かう女子高生のようすを、逐一みっしりと描写するところからこの小説は始まります。のちの展開を考えると、この場面の分量が多いんですけど、書きたかったのでしょう。その後も、全体的に「書きたかった」場面をあえてゴツン、ゴツンと接続することで、日常って意外とこういうもんであるというリアリティを出すことを企図しているのかな、と思いました。不意に壮大なスケールの話へと飛翔し、同じ速度でまた日常へ帰ってゆく。でもさすがに、ちょっと散漫で「未完」っぽさがあるかな……。これが連作の第1話で、やがて大きな流れに収束していくのなら、気にならないという感じです。

 

 

 111. こやま ことり 「花の魔女はかく語りき」

 わたしが言うのもたいがいアレなんですが、さすがに序盤のこの石版ぐあいはちょっとしんどいですね。もうすこしリーダビリティに配慮して改行なりなんなりはしたほうがいいかも。後半になるまでひたすらモノローグで進んでいくせいで肝心のスズランのキャラクターがあまり見えてこない部分もある。もうちょっと早めにスズランとキキョウを絡ませたほうが良かったのではないかなと思います。全体のうちで説明てきな部分が占める割合が高いので、序盤からスズランを登場させ、説明的な地の文を適宜スズランとの会話に散らしながら読者に呑み込ませていったほうが、石版も軽減できるしよいでしょう。

 まさに”百合”といった耽美さで、没入させられました。まず、暗殺者として育成される少年少女達、という設定から引き込まれましたし、文体も好みでした。救いの無いお話のはずなのに、どこかすっきりとした読後感で、キャラ立ちも申し分ない上手さ。強いていうなら、もう少し改行するなどして読む際の見栄えも意識なさるとより多くの読者に届くと思います。好きでした。

 孤児の少年少女を集めて育てる暗殺組織が運営する学校。年ごろの彼ら、彼女らの間に情や愛が芽生え始めるのは必然だが、他人を本気で愛する人間は暗殺者として不適格。組織が仕込んだ「処刑人」をそうと知らずに愛した者から粛清されていく環境で、暗殺者候補生たちの疑心暗鬼は深まってゆく……。ですます調による耽美な文章で、錯綜する人間関係が描かれます。この設定で、こういう方向に物語が進んでいくのは意外でした。前半が冗長とも取れますが――私は必要だと思った。浮世離れした壮大な設定を丹念に下に敷くことで、愛と死が隣り合わせの刹那的でドラマティックな内容に説得力を与えています。「鬱展開」をさらに大きな「鬱設定」で覆って重苦しさを緩和するという力業である。酔いしれました。

 

 

112. ささやか 「ありふれた日常」

 カフカてきと言うか安倍公房てきというか、なんかそういう系の不条理日常系で、たぶんコンセプトとしてはこの不条理な世界観こそが主役ということなんでしょうけれども、やっぱりそれだけだとエンタメとしてはちょっと物足りないかな。序盤の引き込みちからはものすごくあるので、せっかくだからこの世界観の中でもうすこしお話を転がすことを意識したほうがいいと思います。わたしは低能なのでエンタメてきな展開がないと、つまりどういうこと? ってなってしまう。

 私たちの住む世界とは異なった倫理が支配する世界の「ありふれた日常」を描く物語。段階的な情報の開示が気持ちよく、設定の妙は楽しめました。個人的には、飯尾さんの伴侶についての話よりも食べて応援するアイドルについての話の方が、この様々な生物が入り混じって生きる世界観が活きているように感じましたので、そういった人と人外との交流を掘り下げた方が面白いかな、と思います。

 人体損壊。カニバリズム。動物との恋愛、機械との結婚。私たちの「常識」では異端とされる嗜好が市民権を得ている世界を生きる女学生を描いた、バッドテイストあふれる青春小説です。こういう内容ですと、ほんとうに「ありふれた日常」として抑えた筆致で描くか、ゴーシャスな文章で耽美に描くか、どちらかになると思うのですが、ちょっと定めかねているような感触がある。あと、主人公自身はわりと傍観者っぽさがあるので(『畜ドル』のイベントに参加したりはするけれど、自分で手は下していない)その世界の「常識」に沿った――私たちの『常識』では異常な――行動をためらいなくとるエピソードが、もっと欲しいと思いました。

 

 

113. 既読 「ねこのきもち」

 モモモKUSO創作勢のジェイガン、既読さんです。モモモ大賞初期は圧倒的な強さを誇っていたんですけれど、周囲のレベルが上がってきてそろそろ余裕かましてはいられなくなってきたかもしれませんね。でも大丈夫です。ジェイガンも頑張れば最終戦まで現役でいけます。既読さんにしては珍しく、そこまで捻ったところのないわりとストレートな恋愛ものなんですが、人間になるのがちょっと遅いかも。もっとさっさと人間になって、代わりに人間状態でのデートパートを厚くしたほうがよかったかもしれない。今回これだけたくさんの短編を読んでみて改めて思ったんですけれど、短編は基本的に話が動き始めるところを1行目にもってくるのが正解っぽいです。1行目でもう人間になっていて2行目ではカイムくんと外に行くくらいでも丁度いいくらいかもしれない。とはいえ、やはり安定してレベルは高く、面白いです。

 とっても可愛いメルヘンでロマンティックなお話でした!! チコちゃんがかわいくて愛おしくて仕方ありません……! 起承転結がかっちりあるこの形が童話的で心地よく、ねこパートも溜めとして機能しているように私は感じました。強いていうなら、VRゲームの部分はちょっとこの物語のほのぼのした雰囲気にそぐわないかも、と思いました。好きです!!!

 あたしはチコ。飼い主の彼ぴが好きだけど、猫の身ではできることに限りがあってもどかしい。そんなあたしに鳥のカイムくんが「人間の姿にしてあげる」と言ってきて……。設定だけなら、小説を書こうとする人間なら一度は思いつくものですが、このレベルで成立させられるかどうかは別である。書きたい場面だけを並べず、しかし「無」の場面も作らず――簡潔な文体も物語に合わせて選択したものであることが伺え、匠の技を感じます。彼ぴの「文化系の疲れた会社員」の雰囲気がリアルで泣ける……。マジカルなできごとにも過不足なく理由がつくお話なので、ドラゴン退治のアトラクションについても、わかりやすい説明が付記されるといいと思いました。 

 

 

114. 長月 有樹 「ロストボーイフレンド」

 序盤の勢いと文体はすごい好きです。中盤までの展開もスピード感があってすごくいいんだけれど、オチに向けての展開はさすがに唐突でスピード感が逆に作用しちゃってるかな。そこに収束するように、もっとしっかり伏線があったほうが納得感はでると思うので、ちょっともったいないかも。まだ字数に余裕はあるので、単純にもうすこし書き込んだほうがいいと思います。これで終わるのも惜しいので、思い出した頃にでも読み直して加筆修正してみるといいかもしれません。

 前作と同じく、エッジの効いた文体は好きです。女装バレする展開は個人的な好みどストライクでした。後半の急展開は…勢いで押し切られてしまったな、という感じ。もう少し描写を膨らませ、洗練させていくと良いと思います。肝心なところ(「再開した」になっていました)で誤字があってもったいなさもありますが、結末のビターな感じは非常に好きです。

 彼氏とひどい別れ方をして荒れていた主人公は、ゴシック趣味の女子に助けられ、癒されていくが、彼女には秘密があって……というお話が、荒々しい文章で推進していきます。はちゃめちゃなんだけど、こちらも「鉄腕エミリー」と同様、ときおりキラリと光る表現があり、妙にストンと物語の必然とする地点に着地するところがある。放り出したようなラストの切なさ、好きです。つぎは、おとなしめの主人公で、語り口も「フツーの小説」っぽくて……もしよかったら、そういうのも書いてみてほしい。そうやって「普段使わない筋肉」を鍛えると、このゴキゲンな路線の作風も研ぎ澄まされます。

 

 

 

115. 君足巳足 「壱百日詣とプロポーズ」

 うわー面白い! 最初から最後まで君と私がただただいちゃいちゃしているだけで山も谷も大してなくて物語も転がってないし主人公もひたすらウザくて全然共感できないんだけどすっごく面白い。なんだろうこれ不思議~? なにが面白いんだろう? たぶん完全に文体だけのものだと思うんですけれど、ほんとすごいですね。突飛だし唐突だしうっとおしいんだけれど、なんだかずっと親しくてしょーがねーなーって苦笑いしちゃう感じ。ここまで色んな人に「大きく物語を取り回しましょう」とか「山と谷を作りましょう」とか言ってきたのに、概念壊れちゃいますよ。でもこれは本当に例外なので普通の人が真似したり参考にしたりするものじゃないと思います。才能だなぁ。面白かったです。

 あ、やばい。とてもきゅんとしました。この文体、最初はあんまり馴染めなかったのですが、だんだんと引き込まれていってしまいました! また、日常の質感がとても上手く描けていらっしゃると思います。登場人物の息づかいが感じられるようで、この二人の関係性も好きで、とってもチャーミングな作品でした!

 わたしは夫が大好きでまた結婚したいから離婚して、再びプロポーズするまでの百日間、近所のお寺の百日詣に通うことにした……。ひとりの女性の突拍子もない、でも誰にでもこのくらいの突拍子のなさはあって、それでも生活は続いていく――そんな日常が描かれています。感情の赴くままポンポンと雑駁に語ってゆく一人称というのは、難しそうで意外と書きやすく、なんとなくシャレオツな小説っぽくなるのですが、気分よく筆に任せているとどうでもいい「無」の描写に陥ります。ここまで奔放でアクロバティックで、でもとっ散らかった感じはなく、教訓めいてもいず、でも生きることのゆるくなさと素晴らしさが痛快に滲み出てくるレベルには、なかなか到達しないよ。すごいすごい。参りました。題名の二語がちゃんと物語の軸になっているのも、作者の体幹の強さを感じさせて頼もしい。大好きです。 

 

 

116. 八重藤 直虎 「黄色い西瓜」

 1万文字で小学生編から日本代表編までやっちゃうのはさすがに欲張り過ぎじゃないでしょうか。とくになんのエクスキューズもなく視点人物が変わっていたりもして、ちょっと混乱してしまいます。これは小説というよりはまだあらすじとかプロットの段階ですね。いきなり大きすぎる構想を描いてもなかなか厳しいので、まずはどこかひとつのエピソードに焦点を絞って書いてみたほうがいいと思います。

 文章自体には疾走感があるようなもので、スポーツものを描くのに適していて良かったのですが、如何せん視点がころころ移り変わってしまう構成が読みづらく、いまいち没入することができませんでした……。一つの出来事にフォーカスして群像劇的に描くか、一人の人間の成長譚として描くか、情報の取捨選択が必要かもしれません。試合シーンの緊迫感は強く感じられて良かったです。 

 練習中に出されるおやつの黄色い西瓜――それが目当てでサッカーを始めた少女が、日本代表のゴールキーパーになって活躍するまでを、さまざまな人物の視点から描き出す小説です。断片的な情報から主人公のデカさを炙り出そうという形式は好きです。でも、そのもくろみを達成するなら、ほんとうにすべての章を(プロローグすら)主人公以外の視点で描き、実際の試合の精緻な描写も捨てたほうがいいでしょう。そこも描きたいのなら、この分量では足りないと思います。あとキャラクタの名前……遊びで入れただけで深い意味はないのでしょうけど、せっかくの作品がパロディめいて軽くなっちゃう恐れがあるので、個人的にはお薦めしません。 

 

 

117. 威岡公平 「感情教育マーケット」

 最後まで説明に終始してしまったなという印象。設定に見所がないではないのですが、読みたいのは設定の説明ではなく物語なので、その世界観の中でどういう話を転がしていくのかを考えてみてください。物語という語をもっと具体的に言うと、二者間の関係性とその変化です。厳密に言うとぜんぜん違うのですが、まずは物語とは二者間の関係性とその変化を描くものなのだと思ってしまったほうが色々と話は早いです。現状では最初から最後まで主たる登場人物がひとりだけでモノローグで進行していますので、もうひとりしっかりと形を持った登場人物を足したほうがいいでしょう。モノローグではなくダイアログで進行したほうが説明っぽさは軽減されます。

 世界観設定は興味深く、着眼点が面白いな、と思いましたがそれが明かされるまでの展開が遅いかな、と思いました。世界観の魅力をスタートダッシュで魅せつける勢いで書いてほしいです。文章も硬めで、題材に適していると言うこともできますが、もう少し柔らかさを加えた方が叙述するキャラクターの人間味も増すと思います。 

 脳移植が容易となって、自分の記憶や経験を他人が「インストール」することも叶うようになった近未来。自分らしく生きるために、旧来の「女らしさ」を売る者も、それを買う者も存在する――という、哲学的な命題を含んだSF作品。現代的で興味深い題材なのですが、文章がかなり生硬な上に、物語の全容がなかなか明かされない構成なので、読み進めるのに苦労しました。私がバカすぎる? ふつうの中バカだと思うんだけど、どうだろう……。そんな私としては、メインのネタをもう少し早く明かし、その状況下で生きているふたりの様子を順次追いかけていってもいいのかな、と思いました。それで作品の雰囲気を損ねるということはない。 

 

 

118. 大村あたる 「境界歩きの千鳥足」

 はい、この時点で締め切り30分前です。これ以降の人は全員、次回から計画的な執筆を課題にしましょう。のっけから不可解な状況に不可解な状況をどんどん重ね掛けしていく手法でぐいっと読者を引き込んでいくのはとても上手いと思うのですが、これは短編小説と言うよりも長編小説の冒頭部分ですよね。これ単体で短編小説として評価することはできませんが、ものすごく面白いので普通に続きを書いちゃってもいいんじゃないでしょうか。大村さんは変に斜に構えた別の作品よりも、こういう素直なトンチキコメディっぽい路線のほうが適性に合っているかもしれませんよ。

 1話目からヒキが強く、徐々に設定が開示されていく展開に引き込まれました。コミカルな掛け合いも楽しく読むことができました。個人的な好みとしてはラバーズくんとの交流にもっと重きを置いた配分でも良かったのでは、と思いました。ライトなSFといった感じで、設定も色々と話を広げていけそうなものも多いので、続きも読んでみたいですね。

 酔った勢いで変なものを拾ってくる癖がある主人公。今度拾ってきた大きな卵は、ひと晩あたためるとメイドが孵ってきて……。非日常的なできごとを日常的なこととして淡々と綴るユーモラスなSFです。小出しにされる情報から、じつはふつうの現代世界ではなく、そして主人公がもっともぶっとんだ存在であることが、少しずつ明らかになっていく「勿体つけ方」が巧みです。ストレスがかからず、喉ごしのいいサプライズを味わえる。同種の作品を書かれる方々の参考になると思います。連作の「プロローグ」っぽい終わり方は、少し物足りないけど、未完成という感じはしない。よい短篇でした。

 

 

119. あさって 「海の底から愛を込めて」

 面白かった~。取り扱っているテーマじたいはとても重いはずなのに、ギャグのセンスがよくて細かい部分で笑いを稼いでいくのであまり重さを感じさせません。話を転がしながら読者に無理なく設定を呑み込ませていくのも上手ですし、APTなんとかとか受付嬢とかのキャラクターの立っていてとてもいいです。ついつい説明的になってしまいがちなSF勢には良いお手本になるでしょう。ラストはちょっと取ってつけた感がなきにしもあらずなので、もうすこし洗練の余地はあるかもしれませんが、総合力で頭ひとつ抜けた高評価です。

 ライトに読み進めさせつつ、徐々にシリアスな展開に読者を沈めていくような構成が巧みでした。コミカルな冒頭からは予想していなかったしっとりとしたエンディングに、色々と考えさせられるようなお話でした。キャラクターも個性的で生き生きとしていて良かったです。

 AIが最良のカウンセリングをしてくれる治療機関に通わされる主人公。「そんなもんいらない」とあの手この手の奇行で診察をひっかきまわすが、膨大な問診データを保有するAIにとってはどれも予測の範疇で――というコミカルなSF作品が、読み進めると変貌していきます。就職活動に苦心する主人公は、何に苛立っているのか。心とは何か、命とは何か。シリアスな問いかけを増しつつ、語り口は軽妙さを失わない。不思議な小説です。地味に、このコンテスト屈指の不思議さかもしれない。いきなり梯子を掛け替えられたような不快感がなく、物語が変転するたびに深いところに連れていかれるような心地よさに浸りました。 

 

 

120. あさぎり椋 「いつかライド・オン・シューティングスター」

 大枠で言うとETです。こういう、すこしふしぎ要素を絡めた少女の成長譚みたいなのはYA路線だとむしろ定番くらいのアレなんですが、まだちょっとバラけている感じはありますね。どこがどう、という話ではなく、すべてがもうすこしずつカチッとハマればかなりいい感じになりそうな気がします。叩き台としては充分に魅力的なので、しばらくクーリング期間を置いてからリライトしてみるとよいのではないでしょうか。文字数上限もかなり窮屈そうに見受けられるので、最終的には中篇くらいの規模になりそう。やっていきましょう。

 こういったひと夏の出会いと別れの物語、とても好みです。ハートフルな交流に癒されました。Vtuber要素があるのも楽しい。喋るカモノハシ、モカくんのセリフ回しやキャラクターも好きでした。これはもう2万字の枠を取っ払って伸び伸びお書きになられた方が良いのではないでしょうか。ちなみに、章タイトルのセンスも個人的に好みです。

「焼死」がモットーの熱血少女が出会ったしゃべるカモノハシは、古代に地球に漂着した宇宙人だった!? 彼が故郷へ還る宇宙船を探す、ひと夏の冒険が始まる……というこのお話は「ライトノベル」や「ヤングアダルト」というより「ジュヴナイル」の響きがよく似合う。ジュヴナイルSFだ。ブイチューバーをやっている親友との百合っぽい友情、心が離れてしまった家族の再生、そして流星群と宇宙船……このすべての要素を丁寧に語ろうとしたら、そりゃ2万字では収まらないでしょう。だから少しずつ舌足らずなんですけど、キュンキュンする要素が満載なのは好感が持てます。心が洗われました。 

 

 

121. 芥島こころ 「天才エルフ魔法使いエリリエちゃん」

 滑り込みの常連、どスケベ女装ボディのどネニキです。冒頭からラストまでひたすらバカのバカっぽい主観記述でバカっぽいから読みにくいのなんのってそれはもうものすごく読みにくいんだけどなんかこの読みにくさが逆にクセになるみたいなところがあるんだよね。ない? いやわりとあると思います。めっちゃつらつらとしていて物語の主軸というのがないんだけれどなにしろそもそもバカが適当に喋っているだけだから主軸なんてものがないのも致し方なしって感じで実験的手法としては可能性を感じるのであとはこれがちゃんと物語として成立すればものすごい加点がついていましたが現状ではバカのバカ喋りがなんとなくクセになる~っていうだけでそこまで評価するわけにもいきませんけれど実験的手法としては可能性を感じるのでもうちょっと突き詰めてみてください。面白かったです。

 密度ある一人称のこの語り、はちゃめちゃに読みづらいのですけれども、私は好きです。ツイートを積み重ねて小説にしました、みたいな感触もありますね。ただ、文章に気を取られてしまう感じもあってストーリーとしてはもう少し洗練してほしいかもです。ですが、読んでいて楽しい文章でした。

 ひさびさにエルフ族の隠れ里までやってきた人間たちが、なんか高性能なマジックアイテムを持ってんだけど。あれ、長年「鎖国」してたうちに、エルフって世界から遅れを取ってね? 危機感をおぼえた主人公が諸国漫遊の旅に出かけるファンタジー。こういう「石板」文体の投稿作が複数あるコンテストですが、正直いって、適当に改行したほうが文章の格調を損ねないままリーダビリティが増すのでは……? という場合もある。この作品の「石板」は、必然性がありますね。分けようがない。内容も、ハイ・ファンタジーとしてのアイディアがふんだんに盛り込まれ、とても楽しく拝読しました。 

 

 

122. 三角ともえ 「ヒガン探偵エル 『ウマのクビ事件』」

 締め切り5分前の滑り込みで今回のブービー賞です。まさかどネニキよりも後に滑り込んでくる人がいるとは思いませんでしたよ。タイトルに探偵ってついているんですけれども、あまりミステリー要素はないですね。児童向けドタバタコメディてきなノリ。仕掛けはわりとガバいんですけれども、全体的にそんなカチッとした雰囲気ではなく勢い重視のスラップスティックなノリなので、あまり気になりません。オチはバレバレなので別にびっくりしたりはしないのですが、バレバレなのも含めてそういうものっぽいので別にいいのかな。盛り盛りの厨二要素もかっこよさっていうよりは「どうだ? かっこいいだろう?」とドヤッている滑稽さとか可愛らしさが主題っぽいので、これはこういうものなのでしょう。

 クスッと笑えるような小ネタが随所に仕込まれたコミカルな作品でした。「ベーカリー街」というギャグから膨らませたのでしょうか…?強いていうなら、エル以外のキャラクター達にももう少し個性がほしいかな、と思いましたが、ポップに楽しめる作品でした。しかしながらこのオチ、朗読だと成立しないのではないでしょうか!?

 イギリスで探偵を営む主人公は、いかにも探偵らしくふるまおうとするが、いまいち決まらない微妙な感じの日々。しかしその能力は特殊なもので、人外の幽霊や魔物が人間に脅かされている事件を解決するのだ……。軽快なエンタテイメント活劇です。ライトノベルと児童向け文庫の中間くらいの感じで、ビジュアライズしたら映える場面が多く、読んでいてほっこりしました。ゆるくてやさしい雰囲気が個性ではありましょうが、この設定やギミックなら、もっとキンキンの人間(人外)関係や、大スケールのアクションも見てみたいとは思う。ちなみに作者の方は「はだかのパン屋さん」という著作をお持ちで、この作品もパンが重要な要素になっている。パン、お好きなのでしょうか。

 

 

 

大賞選考

 というわけで、以上で全作品の講評が終わりました。最終的に応募総数は127作品、内レギュレーションを満たして講評の対象となっているのが122作品となりました。おおかた前回の倍ですね。死ぬかと思いましたよ。

 さて、それでは次に大賞の選定にうつりたいと思います。いつも通り、まずは闇の評議員の三名からそれぞれが大賞に推す作品を三つ出してもらって、そこから先はなんとなく合議で決めていく感じです。

 じゃあまずは、わたしの推しですが「CQ」「サンライズ・コーストライン」「女王と将軍と名もない娼婦」です!

 私は「八月のファーストペンギン」「CQ」「壱百日詣とプロポーズ」です!

 私は「CQ」「サッちゃん」「サンライズ・コーストライン」です!

 わー! これは!!!!

 満場一致!

 圧勝ですね。

 大賞は「CQ」で! 満場一致で一撃確定です!!!!

 結構序盤の作品でしたが印象に残りましたからね……!

 早い段階のエントリーで、その後もよい作品はたくさんあったのですが、このオリジナリティの衝撃は薄れませんでした。類似の作品がないの。凄い。

 すごい。今回は本当に推しの三作に選ばれてもおかしくない作品が10も20もありましたから、この環境下での満場一致というのは、やはり頭ひとつ抜けた出来だったのだと考えていいでしょう! そして、二票獲得が「サンライズ・コーストライン」だけなので、これも自動的に金賞で確定です! おめでとうございます! わたしはこっちの大賞も十分にあり得ると思っていました。

 私もかなり迷ったのですが、中盤のちょっとしたグロ展開が若干好みではなく……グロ展開というかイジメの描写ですかね……物語の深みを増すことには確実に寄与していましたがYouTubeの規約的にも……(ごにょごにょ) しかし、かっこいい作品でしたよね……!

サンライズ・コーストライン」は、なんでもないような簡潔な一文に篭められた感情や状況の濃さが凄い。全体的に饒舌な作品が目立つ中(それはそれでよいのですが)この凝縮された文章のちからに唸りました。

 ハードボイルドだよね。女の子を主役に据えるとどうしてもヌルく走りがちなんですけれども、最後の最後まで硬質なハードボイルドで貫き通してくれたのが爽快でした。わりとこの感触はありそうでなかった気がしますね。そしてやはり、ラストの愛だよ。わたしは最終的には愛の話にめっぽう弱いので。

 関係性、尊かったです。

 愛ですね。表層的なハッピーエンドとかバッドエンドとかを超えた、これしかないという感じの。

 わたしは「壱百日詣とプロポーズ」も最後まで迷ったんですけれども、自分てきに三作品の偏りを意識して外してしまった。あれも大賞だったとしてもおかしくない水準でした。ほんと、あのへんの摩訶不思議なフォームから魔球投げてくる人たち怖いです。

「壱百日詣とプロポーズ」を選んだのは、あの文章を朗読してみるのも楽しそうだな、と思ったからです。朗読といえば、「女王と将軍と名もない娼婦」も上手く調理すればとてつもなく朗読との相乗効果が期待できそうな作品でしたね。素人なので…む、難しい……。

「女王と将軍と名もない娼婦」はらのちゃんがひとつなにかの限界を突破する意味でもチャレンジしてみるのアリだと思う。朗読劇として、あんな難しい台本ないよねw

「壱百日詣とプロポーズ」は「サッちゃん」と「現代小説枠」で最後まで競いました。「壱百日詣」の「感情の赴くままの一人称の文体」は、同様の指向の作品の中で頭一つ抜けていた印象です。基本的な運動神経が凄いという感じ。あとは「サンライズ・コーストライン」と「人間のあなたはいつか、人間の私を食べる」のどちらを推すかも、最後まで迷いました。こちらは「ファンタジック・ハードボイルド枠」みたいな。

「人間のあなたはいつか、人間の私を食べる」も最高に尊かったですよね……。isakoさんは二作品とも異常にレベルが高くて、ほんと正体不明で怖いです。単純な小説としての地力という話でなら、今回のそうそうたる顔ぶれの中でもトップレベルだと思います。

「人間のあなたはいつか、人間の私を食べる」も筆力が巧みでした……尊かった……。「文化とは私たちの生活であり、営為であり、存在である。」も、非常に密度の高いディストピアもので印象深いです。

 個人賞みたいなのがあるなら@isakoさんは候補筆頭ですね。「「文化」とは私たちの生活であり、営為であり、存在である」という内容も文体も非常にピーキーな作品のあとで、「人間のあなたは~」のような読みやすさとエンタテイメント性も備えた作品が出てくる。意識的に書き分けられるんだ……ヤダこわい……と思った。

 @isakoさんは小説の地力は抜きんでているんですけれども、やはり短編小説賞としては綺麗にオチがついているものを評価したい気持ちがあって外したんですよね。たぶん、中~長編向きの方だと思うので「人間のあなたはいつか、人間の私を食べる」のほうはこのまま続きを書いていってもらいたいです。すごく読みたい。

 私はやはり、ラノベ読みなので、純文学的な感触のものよりもハッピーな気持ちにさせてくれる作品が好みで、「高校くらい出ないとダメだよ」「いとしのリノリウム」「マジックLOVEアワークライシス」「ねこのきもち」なども好きでした。

 そのへんも安定して面白かったですね。どれも、前回までの本物川小説大賞であれば賞レースに絡んできておかしくない水準だったんですけれども、やっぱ今回はちょっとおかしいですよ。そこからさらに頭ふたつくらい抜けてこないと賞レースまで届かない。どんな権威ある小説賞なんですかこれ。

「横からトラックが突っ込んでくる」っていう比喩、ほんとうにそうだと思って。こんな書き手が何人もどこに隠れていたんだ、なんで出てこないんだ、どうして出てくる場所にこの賞を選んだんだ、という(笑) 

 ほんと、モモモ大賞とかやっている場合じゃないので、さっさともっと名のある賞をとってきてほしいです。

 あ、本山らの賞は「八月のファーストペンギン」にしたいと思います。綺麗にまとまっているので万人受けもしてエンタメコンテンツとして上手く仕立てられそうなので。「女王と将軍と名もない娼婦」は配信外でゆっくり録ってどこかで公開したさも……あります……。あと、幻の本山らの賞うさぎやすぽん 著「だった、ラムネのビー玉」(怒怒怒)

 やすぽんくんはお説教対象です(怒怒怒) わたしももう読んで講評までつけてたのに引っ込められちゃったら全部タダ働きですからね!!!(怒怒怒怒) まあ最初からタダ働きなんだけど!!!!

 いちど投稿した作品を消去したり、内容が変わるほど大幅に改稿したりするのはご遠慮いただきたいですね。学校のテストで時間前にできたと思って提出して、あとから「あっ先生やっぱ返して」といっても、本来は通りません。

「八月のファーストペンギン」は、読んでくれるひとをおもてなしすることを考え抜いた、とてもやさしい小説でしたね。私の好みでどうしても強烈なのを選んでしまうのですけど、こちらもまた、受賞にふさわしい作品だと思います。

 短編小説というくくりで考えると、本当に100点満点ですよね。どこをとっても無駄がないギッチリの2万字というのは、他は海野ハルさんの「竜の啼く季節」くらいかな。どうしてもモモモ大賞は奇襲奇策が勝つ傾向がありますけれども、商業だと文字数の縛りって本当に絶対的なので、そこはやっぱプロの手つきだなぁという感じでした。2万字という枠を提示されて、きっちり2万字で過不足なく仕上げてくるっていうのは、もう書いてナンボの嗅覚なので、ポッと出の素人がセンスだけでやれるものではないっぽい。

 1万字書くのが大変で必死に場面を増やしたであろうもの、2万字を軽くオーバーしそうであわてて圧縮したであろうもの…… あと単純に、1万字で体力的・時間的に力尽きてエンドマークを打っちゃったであろうもの…… いろいろありました。総文字数を作品数で割った平均が14,000字くらいで、このあたりを目掛けていくと、誤差が出ても規定に収まるのでいいのかな、と思いました。

 これはこの設定のまま2万字という枠組みにとらわれずに伸び伸び書いてほしいなぁ……という作品も散見されたように感じました。

「さそり座の夜、あの屋上で」や「マジックLOVEアワー・クライシス」など、もっと長いほうが絶対におもしろい作品、ありますね。「マジック~」は「グラップラー刃牙」みたいに何十人も格闘女子が出てきてえんえん戦ってほしい。
 あ、そう。鍋島さんもすごくレベル高くて、でもどちらの作品も2万字の上限キャップが苦しそうでしたよね。モモモ大賞が終わったら、文字数上限を気にせずにリライトしてみるのアリだと思います。あれは2万字で制限しちゃうのもったいない。

「GHOST & SIMPLEX」は連載の1話目みたいな感じで来週も楽しみだな~みたいな気持ちにさせられましたね。 

 リライトは、もしよかったら、ぜひやってみてください。「一度発表した作品はいじってはいけない」みたいに思っている方もいらっしゃるでしょうけど、ぜんぜんいいんです。いくらでも直して再掲載すればいい。

 もともとが「とにかく書いてみよう! なんでもいいから書いて終わらせよう!」という目標を掲げて始めたモモモ大賞ですし、なんであれ書き上げるという経験は絶対に無駄にはならないから、今回1万字で苦しんだ人も、これを切っ掛けにもっと大きめの物語を取り回していくようにしてもらいたいですね。一度できたんだから、次も絶対にできる。そうやって執筆上の体力が身についていくので。こむらさきさんは本当に顕著なんですけれども、第一回からずっと参加し続けてくれていてグングン伸びているので、書けば書いただけうまくなるというのは真理なのだと思います。ほんとね、第一回からの作品ぜんぶ読んでみるといいですよ。見違えるくらい小説を書くようになりましたから。

 あと「海の底から愛を込めて」と「トイレは宇宙なり」も、ぶっちゃけ後半戦も後半戦で、はんぶん寝てるみたいな状態で白目剥きながら読んだんですけれど、一瞬で目が覚めましたからね。やはり面白いものを読まされるとギュンッ! と目が覚めます。

「トイレは宇宙なり」は朗読者に対する悪意のエンタメ昇華力が強くて笑いました。

 全体的にはまだまだ発展途上なんだけど、会話文にセンスがあるとか、どんでん返しのある構成がバシッと決まっているとか、ひとつ長所がある作品は、やはり印象に残ります。

 あのへんの会話文にセンスが光っている人は非常に強いので、今後もバシバシ狙いにきてほしいです。

「連載1話め」とか「本篇のある作品の外伝」とか、そういう感じの作品で、評価に苦しんだものもありました。鍋島さんの2作品は問題なかったけど。単品で読めて、ちゃんと一応の完結感が出るようにするのも、難しいものなのだね。

 さすがに「スピンオフです!」とか言われても、そっちまで読んでられないですからね……。単体で成立していれば問題ないんですけれども、当該のエピソードに必要のない裏設定はバリッと削ってほしいし、逆に必要なものは本文中にちゃんと埋め込んでおいてもらわないと。それとこう、疲労の極限状態で最後まで読んで「え?」ってなると、普段よりも三倍増しでイライラするのでよくないです。エキノコックスのことです。

 さすが私以上に少女小説読んでらっしゃるだけある……と思って読んでいたのに……あのオチ……。エキノコックスのことです。

 ふだん読んで評論なさる側の方が、実作をあんなふうに放り出してはいけない。エキノコックスのことです。あとは「完全に朗読狙いです!よろしく!」というひとの作品に限って「出来不出来以前にこの内容を読んでくれるときみはほんとうに思っているのか」という。そこまで含めたコンテストのお祭り感は楽しいですけど。 

 しぃるくんの悪口はやめるんだ。

 夢小説、私は読んでて楽しかったですよww

 まあでも無よりはずっといいので、せめて一太刀の精神は大事だと思いますね。今回はもうなにを書いても地力だけで面白い! みたいなモンスターがゴロゴロしているので、その中で文章力だけで頭ひとつ抜けて魅せていくとかほぼ無理ですから。その点は「鮎子ちゃんとながいともだち」みたいにポーン! と突き抜けているとインパクトがあるので、KUSO創作勢はそこに一球入魂でいくしかないです。ないものはないんだから、手持ちのカードの組み合わせで突き抜けていけ!

「鮎子ちゃんとながいともだち」は、とにかくおもしろい出来事が起こり続ける。あのサービス精神は素晴らしいです。

 鮎子ちゃんみたいに、序盤からヒキが強いとそのままの勢いで没入することができます……!スタートダッシュは大事!

 今回、評議員になって実感したのが、「KUSOを投げろ」「せめて一太刀」というスローガンの解釈から、もうレースは始まっているのだな……と。「プロ級の作品の完成度と競おうと思わない、プロもやらないような一点突破のインパクトを狙おう」と思った結果……過剰なバッドテイストになる方の多さ。

 鬱鬱とした話と死の話はほんとみんな好きですよね。これだけの数を立て続けに読んでいくという、わたしの特殊なコンディションの影響もあるとは思うのですが、ぶっちゃけて言うと「またか、勘弁してくれよ」ってなっちゃうところがあって。これもう勢いで名指しで言っちゃうんですけれど、今回だとぶいちさんと、紅哉朱さんと、起爆装置さんあたりかな。あのへんの露悪的で鬱々とした作風の人たち、やるならやるで、その筋一本で一田先生の二作品目越えられそう? みたいなのは自問してほしいです。やるにしても、あの水準で決めてこないと読者に傷すら残すことはできません。

 エログロ、鬱なお話は……そうだな……グロテスクな見た目の動物だけどお肉は意外とおいしい、そういう感じが理想ですね。最終的には、お肉を差し出してほしい。「どうだ、グロテスクだろ!」と脅かされるだけでは悲しい。

 もちろん創作で何を語るも自由ですし、書きたいものを書けばいいとも思うのですが、誰かに届けたいと思うのでしたら、ある程度の読者への配慮は欲しいです。
 いま挙がった方々、文章力は高いのです。だから、書けることは書きたくなってしまうという気持ちはわかる。でも「描写ができている=読んでおもしろい」ではないのですよね。そういうことまで考えて書くレベルに達している方々だと思うので、言わせてもらっています。「サンライズ・コーストライン」も、そういう陰鬱な暴力場面がありましたけど、描写に抑制が利き、次にくるカタルシスの前振りとして機能している。

 あとは社会風刺てきな欲求が真っ直ぐに出過ぎているものも、ちょっと引っ込めたほうがいいですね。「物理少女フィジカル☆アリサ」とか、勢いと設定はよかったんだけれども、そういうイデオロギッシュなところで読者層を狭めかねないし、やっぱお説教てきなノリでこられると、わたしなんかは問答無用でムカついちゃうので。語りたいことや主張したいことがなにもないのも困りものなのですが、飽くまで読者を楽しませようという、そこンところの意識が大事です。

 そのあたり、柚木さんの完璧な世界はメッセージ性とエンタメ性の両立が巧みだな、と思いました。

 えへ~(照) でも、あれも特に主張があるわけではなくて、問いかけているだけですから。あの中で出てくる人は、どれもわたしの代弁者というわけではないんです。わたしはあの三人、全員嫌いです。

 私たちは、全体的に「もっとサービス精神を、エンタテイメント性を、物語に起伏を」ということを講評で言ってきたと思います。どうか、これを「尖ったところは丸めた、お涙頂戴、クスクス笑える、明朗な作品じゃないとダメなのですね」みたいに思わないでください。そうではないのだ。抽象的な言葉遊びみたいになっちゃうけど……「尖り」は細いほうが刺さるわけで。ここ一番というタイミングで刺したほうが印象的です。

 商業フィルターにかけたら濾過されてしまうような「尖り」出していって欲しいです!

 まあでも、なんだかんだいって「書いたら書いたぶん上手くなる」以外の真実なんかほとんどなにもないので、最終的な結論としては「みなさんやっていきましょう!」と「次回も参加しようね!」ってところに落ち着くんですけれども。ほんと、毎回きっちり参加してくれている人はみなさん着実に成長を重ねていますからね。進捗は大正義です。

 私は今回は残念ながら参加出来なかったのですけれど、次の大賞時には書く方にも挑戦してみたいです!(退路を断っていく)

 お?

 この議長はいちど取った言質はぜったいに忘れない。

 えっと、それで銀賞の選定なんですけれども、今回はこれ一人一票ずつで完全に割れてしまっていて、何度決戦投票をやったところで決められないから、もう銀賞三本ってことでいいかなと思って(諦め)

 母数も大きいですし仕方ないんじゃないでしょうか……!

 これから3人で殴り合うのかと思って憂鬱だったので、英断だと思います。賛成です。

 いえーい! じゃあ大賞は「CQ」金賞が「サンライズ・コーストライン」本山らの賞が「八月のファーストペンギン」銀賞が「女王と将軍と名もない娼婦」「壱百日詣とプロポーズ」「サっちゃん」の三本で決定です! 受賞されたみなさん、おめでとうございます!!

 おめでとうございます!!

 おめでとうございます!!

 ただの読者としての感想ですので、ぼんやりはにゃはにゃした点も多々ある講評だったかとは存じますが、評議員の末席を務めさせていただきました……! いつもの皆さまからバーチャルな方々、プロの方まで沢山の方に参加していただき、様々な作品を読むことが出来て良い経験になりました……! でもちょっと大変だったのでおひねりとしてチャンネル登録していってくださると嬉しいです!(直球宣伝)

 わたしも今回はめちゃくちゃ頑張ったから10/1に出る新刊「君は世界災厄の魔女、あるいはひとりぼっちの救世主」みんな買ってね。こういうのは初動が大事ですからね? 分かりますね? ほんと頼みますよ??

 朗読配信は22日21時から当チャンネルで行われますので良かったらご覧ください!(今決めた)

 はやい。

 即断即決! 朗読、楽しみにしています。

 というわけで、第八回本山川小説大賞、過去最大最高レベルの大激戦を見事制したのは水瀬はるかなさんの「CQ」でした! おめでとうございます!!!! はいじゃあ、これにて闇の評議会、解散! 撤収~~!!!!

 

 

↓↓↓今回の闇の評議会の三人へのおひねりはこちら↓↓↓

 

 

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行き先は特異点 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)

 

 

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