第五回本物川小説大賞 大賞は玻璃乃海(旧・中出幾三)さんの「カフカの翼」に決定!

 

 平成28年7月末頃から8月末日まで開催されました第五回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本、特別賞一本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

大賞 玻璃乃海(旧・中出幾三)「カフカの翼」 

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 受賞者のコメント

ドムドムドムドムドム!ドムドムドムドムドム!(勝利のドラミング)

 

 大賞を受賞した玻璃乃海(旧・中出幾三)さんには、副賞としてソーヤ+本物川によるイラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいんで自力で勝手に出版してください。

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金賞 既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」 

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銀賞 でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」

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銀賞 ゴム子「インダストリアル」

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特別賞 有智子賞 ラブテスター「午後王」

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 特別選考委員の有智子さんのコメント

午後王ちゃんかわいいよね。

 

 特別賞のラブテスターさんには副賞として有智子さんからイラストが贈呈されます。

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 というわけで、伝統と格式の真夏の素人黒歴史KUSO創作甲子園 第五回本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのは玻璃乃海(旧・中出幾三)さんの「カフカの翼」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログです。

 

 全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も無事に一周年を迎えまして、なんと今回で通算五回目となりました。意外と続いていますね。前回の第四回大会はいろいろとレギュレーションを設定した変則ルールでの開催となりましたが、今回は10,000字未満の短編縛りという以外には何もなしのバリトゥードルールでの開催となりました。やっぱりルール無用のデスファイトこそ本物川小説大賞という感じがしますね。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回はまたメンバーを入れ替えて、謎のパンダ🐼さんと謎の猿(?)さんにご協力頂いております。

 謎のパンダ🐼です。

 謎の猿(?)です。

 少なくとも猿ではないですよね? 本当に何なんでしょうか? 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めさせて頂きます。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 さて、それではひとまずエントリー作品を投稿された時系列順に紹介していきましょう。

 

こむらさき 「歳の差遠距離百合恋愛」

 胃壁がキュン。安定の一番槍、トップバッターはまたまたこむらさきです。

 「最初からコレかよ!」という感じでいきなり膝がグラつきますね。こういう「自分の肋骨から削り出した呪いの霊刀」みたいな作品は最初からフィクションとして書かれた作品とは全く違う妙味を醸し出しますのでそれだけで強いわけですが、評価基準もそれ用になってきますのでなかなか難しい。この手の作品はしばしば「個々の描写は重みがあるものの全体の構成としては今ひとつ形になっておらず、微妙にストーリーになってない」という事態に陥りますが、コレは序盤のフリがしっかりオチに来ており作品全体にピシッとした筋を通していて、基礎教養力、ポテンシャル的なものを感じます。『何故手を突っ込んだだけで見つかる指輪があの時見つからなかったのか』とか読者側で想像するとまた味わい深くなってきます。

 年の差、遠距離、百合。読む前と読み終えた後では、タイトルに含まれるこれらの単語に対する印象が変わってしまっていると思います。全部のダメな部分が組み合わさってすごいことになってますね。ミカさんの救いようのなさが魅力ですね。ミサキくんも相応にアレなのですが、ミサキくんを苦しめるミカさんのアレさのおかげで幾分かマイルドになっているので読む側としてはミカさんのアレさに集中できていい塩梅だったと思います。正直なところ何度も読みたい作品ではないです。噛めば噛むほど苦味しか出てこない、匠の技。フィクションであることが救いですね、ええ、救いのはずです。

 ノンフィクションをベースにしたほんのりフィクションのシリーズで、これが三作目かな? 同じ題材を扱い続けているだけに成長が如実に観察できて素晴らしいです。前二作に比べると飛躍的に上達しています。たぶんですけど、最後に指輪をゴミ箱に突っ込むところはフィクションだと思うのですが、このシーンがあるだけでかなり小説になっていて良いです。前二作に比べるとフォーカスがそこでギュッとくる感じがある。好きじゃない、嫌いじゃない、胃が痛い、これらの全てが無矛盾に同時に成立する人間の心理というのは普遍性があるものなので広く訴求力もあると思います。同じ題材のまま、もうひとつふたつ脱皮すると文学の領域にまで高まるのではないかなという期待もあるので、飽きずにこのシリーズも続けていってほしいですね。とはいえ、トルタ大会の鉢植え頭も非常に良かったので、まだ自分はこういう系統と縛る段階でもないと思います。好奇心を持ってモリモリやっていきましょう。

 

ヒロマル「盗読のレミュナレーション」

 前回のトルタ大会の覇者、ヒロマルです。

 「地盤がずっしりしている」というのはこういうことかと功夫の高さを伺わせます。お話自体は実に小市民的な、小規模なものですが「物語の起伏」というものはイベントそのものの大小ではなく、その事態に対する登場人物たちのリアクションの揺れ幅で決まるもの。「見知らぬ女性が破り捨てた手紙を盗み見る」という犯罪的ではあるが犯罪として立証するにはどうか、程度の小悪事に全身全霊を振り絞ってしまった彼は十分に「主人公」足り得ると言えるでしょう。まあキモいですけど(唐突な言葉のナイフ)客観的にはしょうもない一連の事態の中に、人が欲望を抱く一瞬やそれを実行に移す心の情動、予想外の事態が発生する現実の無慈悲さとストーリーに必要な要素がきっちり詰め込まれていて「物語」になっています。「ちうしっ」という擬音が脳内再生度が高くてよかったですね。

 僕も「ちうしっ」すき。

 キャッチコピーの「善人が罪を犯す」の通り、真面目、実直に過ごしてきた青年が、自らの好奇心がために少しだけ罪を犯すストーリー。講談調といいますか、非常にリズミカルに状況が進行します。状況描写というよりも状況の説明、パパンと扇子をたたく音が聞こえてきそうな、軽い調子。話の盛り上げ方、落とし方、締め方、どれも非常にシンプルで、過不足なく、ちょうどいい塩梅ですね。とんかつが食べたくなりました。

 善良な人間が罪を犯す、その瞬間の抗いがたい衝動にフォーカスした作品ですね。4000字未満という小規模ながら過不足のない感じで、ここまで綺麗にまとまっているのは素晴らしいです。導入もスムーズですんなり語り部に移入できるので、ああこの状況なら自分もやってしまうかもしれないなと感じられるヒヤッとするような質感があります。この時点で勝ちみたいなものなのですがオチも秀逸で、なにも言わないのに「その後、なんだかトンカツを食べた」の前の空行になんとも言えない色々なものが込められていて、ここは語らずに読者に「あ~あるある、そういうの」ってそれぞれに思わせるのが正解っぽい。こう……なんかありますよね。トンカツでも食うか、みたいなの。

 

大村あたる「火照る身体とカレーと二人」

 大村あたるさんは第二回の大賞受賞者ですね。勝手に自力で出版してくださいってイラストを投げつけたら本当に勝手に自力で出版してくださったようでなによりです(?)

 夏の盛りに開催された小説コンペに! 夏の夕暮れ時の舞台設定で! マンションの一室に! 男二人で! カレー! ホモ! 暑い! 暑苦しい!! その暑苦しさが夏って感じですよね(トーンダウン)あくまで「夏の夕暮れにルームシェアしている男二人が部屋でカレー食ってる」というワンシーンを切り取ったものなので、ストーリー性は特にありません。この場合は無くて良いのでしょう。この二人がここに至るまで、まあ色々あったのでしょうが、その部分は作品内でほぼ語られていません。そこはおそらく想像の余地というやつなんでしょうね。作品の中に示されるのでなく、読んだ人間の中に何かが立ち上ってくるタイプのアレです。そういう「匂わせる」作品には夏という舞台は丁度良いのかもしれない。なんか鼻の中が塩っぱくなってきました。梅干しか。
「紆余曲折あって男二人で住んでる」というホモソーシャルな状況が、関係性が示されることによってホモに切り替わるその瞬間は、その手の嗜好の人達にとって大変よろしいのでないでしょうか。

 ホモですね。ホモです。いいホモです。いいホモでした。ある夏の日に、同居する二人がカレーを食べる。本当にただそれだけの話なんですが二人の関係性がいいですね。さらっとだけ触れられてる二人の過去もいい具合にスパイスとなっています。いいホモです。なんかこう、ねちっこいセックスしそうですねこの二人は。いいホモすぎて特にいうことがないんですよね。

 ほんのりホモ。でもねちねちした感じがなくてサッパリしててとても爽やかです。ホモで停電ってこっちとしては雑念邪念しか浮かばないシチェーションなんですが、登場人物ふたりのほうはそんなこと一切気にしてない感じでただただアツアツのカレーを食うばかりで自分の魂のケガレに顔が火照ります。大村(あ)さんはぶっちゃけると第二回大賞の作品以降は重めの叙述とちょっと変にツイストした作品が多くて僕はあまり好みに合わなかったのですが、軽妙な語り口じたいに魅力のある人なのでこういうプロットだけ抜き出すとなんでもないようなストレートな物語でこそ魅力が光るのかなぁ、みたいな思いがなくもないです。捻らないストレートな恋愛ものでビーズログ文庫の大賞に攻め込みましょう?

 

左安倍虎「魂までは癒せない」

 易水非歌の左安倍虎さん。これは現代ドラマの一位にわりと居座りましたね。

 如何にもショートショートという感じの、5分位のミニドラマで見たいような作品です。こう感じられるのは作品全体のデザインが文字数に応じて適切になされている証拠なわけで、「丁度良いリーチ」というやつですね。帯に短し襷に良し。作品の構成そのものが中心で2つに折れるようになっており、さながら鏡合わせの構図です。構造フェチの自分としては中々堪りません。アニマルセラピーというものがあって、動物と触れ合うことで癒やされるという精神医療ですが、ここには権力勾配的な力関係が存在し、要するに「自分が安心できる相手と一緒にいる」ということ自体が癒やしにとって重要な要因な訳ですが、「精神科医」という存在になりきることはある意味で相手の上位に立ち己を安心させることに繋がるのかもしれません。まあ精神科医が患者の相手をするうちにストレスを貯めこんでいって自分も病んでしまうというのもよくある話なんですけど。作品の印象として惜しい所を上げると、彼女、既に若干正気な気がするんですよね。その辺の描写にもう少しだけリアリティがあるとバシッ!と決まったと思います。

 林先生案件。ちょっとずれた現実に暮らしている方のカウンセリングを受ける精神科医、という構図。ずれた現実サイドから視点が始まり、ずれの幅が大きくなり始めた頃にここでネタばらし。ずれた方がいかにしてずれてしまったかの背景が語られ、どうして今ここでこのような話をしているのかが読者に明かされます。ネタが明かされた後に読み直すと、随所にほのかな手掛かりが残されていることに気づき、作者の仕事の丁寧さがうかがえました。

 そうそう、いわゆる伏線ですが、意外な結末に落とし込むためには最初から罠を張らないといけないんですよね。これも4000字未満という短編というより掌編ぐらいの規模なのですが、バッチリ綺麗に落としてきています。虎さんはどう足掻いても堅めの文体って感じなんですが、今回は語り部の設定と堅めの文体が自然に合致していて丁度良い塩梅ですね。途中からある程度の予測を立てながら読むのですが、それがまんまとミスリーディングにハメられていて多段どんでん返しにもう一発やられる感じの上手い構成です。テーマ性もはっきりしていますし読者に考えさせるような感じで、ただ面白いで終らない深みもあって文句なしの良作。どうしても「意外な結末!」をやりたい人は参考にして下さい。

 

今村広樹「立ち寄ったカレー専門店で私は激辛カレーを食べた」

 そのままですね。立ち寄ったカレー専門店で激辛カレーを食べます。ほかは特にない感じ。前回までのように詩的な感じでもないのですけど、わざわざ同じ世界観だという注記もあり、ちょっと意図が分からないのでもうちょっと分量なり展開なりがあったほうがいいかな? と思います。

 えー…あー…ちょっと困りましたねコレ。内容が「激辛カレー頼んで期待通りの辛さだった」というだけなので、もうちょっとこう。いやそれ自体はアリですけど肝心の食事の描写が「期待通りの辛さだった!完食!」だけで終わられてはどうしたらいいのかと。これではグルメリポートとしても不十分です。昨今、料理漫画が何度目かのブームを起こしていますが、料理の描写において重要なのは、食べた人間のリアクションです。「カレーを食った」という事象を中心に書くならばそこを怠ってはいけない。元ネタ的に考えても。そこで舞わずにどうするかという話です。

 短いのでもう少し書いてください。

 

起爆装置「死んだ死んだマザーソウル」

 闇の評議会の寵愛を一身に受けております。本物川創作勢の問題児、起爆装置くんです。

 タイトル、キャッチコピー、書き出し全てが強い。最近の創作指南では「初っ端にパンチを入れろ」と教えるそうですが、バッチリ決まってますね。いきなりの異常事態、そしてそれに全く動じない主人公から始まり、そこから日常をベースに異常な世界観がどんどん打ち出されていく。この世界のインターネット、この事件に対してどんなことになってるんでしょう(ネット中毒者特有の病状)「殺されても何度でも生き返る存在」という設定自体は珍しく無いですが、それで蘇ってくるのが母であり、死のうが蘇ろうが何一つ変わらないまま日常を過ごそうとするという展開は「思いついた時点で勝っている」系のそれです。正常と異常のマーブルカラー、混ざり合うこと無くフラットに正常と異常が並列するその世界観は起爆装置くんの本領発揮といった次第。一話目の最後が揺蕩うようなオチで非常に薄気味悪く素晴らしいのですが、その下に表示されている第二話のタイトルで台無しになってる辺りタチが悪い。なんのかんの言いながらも書く度に前書いたものを踏み台にしながら着実にクオリティが上がっているので本当に先が楽しみな人です。

 タイトルの元ネタはリンダリンダラバーソウルです。二話三話は正直蛇足だと思います。

 勢いのある文体と、どうやったらそんな発想が降りてくるんだっていうような悪趣味な設定の併せ技で謎のドライブ感があります。なにかとブン投げがちな起爆くんですが今回はオチもわりあい綺麗につけている感じでその努力は認めてあげたい、のでーすーがー、さすがに駆け足すぎて描写がおろそかな感じは否めません。実は僕、これ語り部が女性であることに一話では気付かなかったんですよ。この手の一人称記述で読者を意識したような説明てきな文が入ると萎えるのも分かるのですが、かといって説明がないと混乱しますので、いかに自然と情報を提示するかというテクニックは必要かなと思います。文字数制限の問題もありますが、最終話に関してはなんとか思いついたオチに辿り着くために無呼吸で駆け抜けたみたいな速度域ですね。ドライブ感と丁寧さは両立できると思いますので意識してみて下さい。

 

中出幾三「とんがり頭のオッサン」

 PNが本当に終わっているのでいい加減どうにかして下さい。ケモノの王のうさぎさんです。

 タイトルから内容が全く想像できない。タイトルで作品のどの部分にフォーカスを当てるのかって性格でそうな気がしますね。そこから想定外の良い意味でも悪い意味でもすごい微妙な顔になる、オマージュと悪意と皮肉にまみれたウィットが怒涛の勢いで展開され、結構悲惨な事態なのにどこか悲壮感のないユーモラスなノリのまま、「そんなわけで樹海にやってきたのだ」みたいな軽さで物語は終焉の舞台に辿り着く。そこでもやはり悲喜劇めいた軽さで話が進み、そのまま終わるのかと思えば、最後に突然「楔」を投げ渡され、その一瞬で作品の構造がバチッと固まる離れ業。見事としか言いようが無い。ケモノの王もそうでしたが物凄いアクロバットセンスですね。

 よくできた話です。話の運びのうまさからか、落語を聞いた後のような、騙される良さのようなものがありました。タイトルになっているとんがり頭のおっさんのキャラクターがいいですね。あなたも、これですか、とジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとするかわいらしさがよいです。もう本当に、特にいうことがないです。気になるのは元嫁の宝くじの当選金額ですかね。五千万じゃそんなに、みたいな。本当にどうでもいい感想。

 どうしてもバトルもののイメージがありますが、前回のトルタ大会に引き続き短編だとまったく違う印象の作風ですね。「完璧な遺言書」というアイテムをキーにして、自殺志願者たちの奇妙なコミュニケーションが連鎖するという趣向。少し余韻と謎を残すオチのつけどころはバッチリですし、一万字未満というレギュレーションに対してキッチリ9999文字で上げてくる煽り魂も良いと思います。ただ、削って削って9999文字に仕上げたのではなく膨らまして9999文字に仕上げたのかなという感じがあって、これに関してはその拘りは捨ててもう少しダイエットしてもいいのかなと思えるようなシーンも少しありました。

 

姫百合しふぉん「天使」

 ブレない安定の美少年耽美小説一本勝負のしふぉんくんです。

 狂いながら整列する数奇な言語と音韻の羅列。卑俗な内容。しかし裏腹に語る言葉と心は歪に美しい、それは呪われた聖歌。

 (え……なにその突然のポエムは)←引き気味

 これも物凄いことをサラッとやってますね。何かの実験で「ひらがなだけの文章で微妙に文字列を入れ替えても脳が補正して読めてしまう」というのがありましたけど
それに近い感覚です。真っ当に「上手い文章」を目指すだけでは辿り着かない地点。これで何の違和感もなく流れるように読める文章が組めるのは言語、音感、語感の調律を感覚レベルで掴んでいるということです。これをそういうセンスが無い人間がやるとただ見苦しくなるだけでしょう。 シチュエーションだけでストーリー性がほぼありませんが、ここにストーリー性を持ち込むと一気に破綻する事は必定であり、その辺りまで見切られたギリギリにして絶妙の味付け。しかし、「何故このように文の接続が狂っている一人称なのか」という必然性は暗示されており、しふぉんさんらしい美学を感じます。

 本人が説明文に、不快になる方が多いテーマと書かれている通り、2000字とは思えないほどに濃く、良くも悪くもあくの強い短編です。文法、というか文章そのものが意図的に崩されているのですが、文体がそのまま内容に直結している、崩れた文章の底に眠っているものの姿を読む側に喚起させる、読む人を選ぶ趣向が凝らしてあります。しふぉんさんは過去にもいくつか似たような雰囲気の作品を書かれていますが、私が読んだ限りでは、読んだ後の後味の悪さはこれが最も強いのではないかと。タイトルにもあまり触れたくはないですね。

 僕が講評ですが真似して始めるので悪いのでだめです。今回は悪く言えば一発ネタですね。意図的な混乱した地の文で語り部の性質や状況を語らず類推させるという趣向。面白味はあるし好きなのは好きなんですけれども、やはり小説大賞での評価ということになるとこれ一本ではちょっとつらいかな。

 

マロン「僕はかわいい女の子になりたいって思っていたんだ」

 島風くん!(断定)

 「ノリで女装してみたら思ったより可愛くてハマって調子乗ってたら男友達に迫られてそのまま」というのが所謂「男の娘」モノにおける一つのテンプレですがそのまま本当に女の子になってしまうのはある意味で究極の理想と言えるでしょう。しかし別の意味では背信行為ですね(面倒くさいオタク)そういう性転換モノも既存のジャンル(TSF)であり、その場合は「女の子になってしまった自分と今までの世界とのギャップ」がポイントになってくるわけですがこれの場合、世界線と過去ごと書き換えられていて自己認識すら塗り潰されてしまった結果、違和感を感じるのが誰もいなくなったという点で最後に急にホラーになったような。折角の夏の小説コンペだし、僕の中でこれは怪談であると解釈することにしました。こわい。

 世のおのこのすなる女装コスなるものをわれもしてみんとてするなり。注文した衣装についていたペンダントが原因で性転換、自分の歴史ごと書き換えられてしまいますが、それでもいいかなって生活を始めるところで話が終わります。性転換ものでよくある面倒ごと(周囲の反応、対応、事務処理等)を設定で無力化しているので問題なく性転換できますしこのまま滞りなく恋が実っていくものと思われます。その設定のおかげで一応一万字に収まる形になっていますが、その設定のせいで話の起伏となるイベントを消してしまっているので性転換ものとしてのうまみがかなり薄まってしまっています(個人的に)

 出だしで「井上翔太は」と三人称記述っぽく始まっているのに、そこからすぐに「そう、僕たちは」と一人称の地の文になるので混乱しました。「いつの間にか自然に女の子になっていて謎に辻褄も合されていて最初からそうであったかのようになっている」という仕掛けだと思うのですが、それをすんなり機能させようとすると、そういった「あれ? なにがどうなったんだ?」という細かい混乱がわりと大きな障害になるようです。意図的に混乱させるつもりなら意図しない混乱の種はつぶしておいたほうが良いでしょう。もう少し推敲したほうが良いかもしれません。

 

久留米まひろ「光の剣」

 なんでしょう。ちょっと文字数と物語の規模が合致してない感じでよく分からないままに話が進んで最初から最後までポカーンみたいな感じですね。

 裏稼業で実力者だった主人公が、世界に異能力の概念が出現したことによってコンプレックスを抱えるようになるお話。職場にパソコンが導入されて急に仕事が出来なくなったおっさんみたいだぁ…(直喩) 感想として、これはギャグなのかシリアスなのか図りかねる所がありました。キャッチコピーに「ナンセンス現代アクション」とあるので恐らくギャグ寄りなのだと判断しますが、ちょっとバットの振りが弱いと思います。アーツという「個人によって様々な形で発現する異能力」はベタですがそれだけに使い道の多い要素ですので、その部分をもっと拡げられると良かったのではないでしょうか。

 三つほど言いたいことがあります。

 まず一つ目、展開を詰め込み過ぎです。今回の大賞は一万字以内の作品です。見事にオーバーしていますね。文字数がオーバーしてしまったことよりも、この内容を一万字で収めようとしたことが問題です。一万字は字面から受ける印象よりもずっと短いもので、ちょっと欲張るとオーバーしてしまう、そんな長さです。では光の剣はどうかというと、ちょっとどころではないです。欲張りすぎです。能力がない主人公の苦悩の日々、そんな日々から抜け出せるかもしれないという光明、同僚とのラブロマンス、手に入れた能力を失うことへの悲しみ。適当にいくつか抜き出してみましたが、この内容を一万字に収めようとすると、今回のようにすべてのイベントを駆け抜けていくことになります。駆け抜けるスピードが速すぎてすべてのイベントに対して何にも感じません。嘘です。うすら寒いものしか感じません。
 二つ目に、キャラクターが死んでいます。もう本当に誰もかれも死んでいます。生き生きしてるのは主人公くらいで、あとはイベントのフラグを回収するための人形と化しています。主人公は楽しそうに人形たちの中で遊んでいる道化です。とても幸せそうですね。みんな目が死んでいます。死ぬよこれは。みんな死ぬ。少なくとも私の心は死んだ。前述の、ダメなハイスピードイベントクリアと相まって、最悪ですね。口の中に次々と泥を放り込まれている感覚。のど越しが最悪。
 三つ目、メグ姉じゃねぇよ。いやもう、大澤の時点でアレですが、めぐみですか。そうですか。主人公は弟で姉は大澤めぐみですか、そうですか。そうですかしか言えませんよこんなの。なんだこれは。どうして出した。出したかったのか、そうか。

 ……はい。一万字というと本当に一発フックを仕込んだら終わってしまうぐらいの文字数なので前提となる設定などはあまり複雑にしないほうが良いでしょう。もうちょっと最初に想定する規模を縮小して一点にフォーカスしていったほうが良いと思います。あと文字数オーバーなのでゼロ点です(無慈悲)

 

蒼井奏羅「Q」

 安定して退廃的でゴシックな雰囲気のある作者さんです。

 じりじりと、本当に少しずつゆっくり進んでいく話で、真綿で首を絞められるような感覚に襲われる作品です。これもまた別の意味でレビューの難しい作品ですね。どこまで話していいものか悩みます。結末に関しては「そっちに振ったか」という感じで、ここは賛否両論別れるところだと思いますが、賛否が別れる時点で仕掛けとして成功しているといえるでしょう。もう一つ賛否が別れるであろう点として、タイトルとコピー。これはつまり「謎がありますよ」と最初に提示しているわけですが、個人的には敢えて言わずに進めていったほうがパワーが出た気もします。

 ある病気のせいで隔離され育てられた少年と彼を育てる何者かの話。BL要素はそれほど過激ではなかったですが、きちんと注意書きをされていらっしゃるのは良いことだと思います。この程度でも拒絶反応を示される方もいらっしゃいますからね。話運び、少年の悩み、独白から、話の結末が垣間見えるタイプの話です。

 なんかこう、黒背景に白抜き文字で読みたい感じでカクヨムのやたらめったら明るいUIとはちょっと雰囲気が合致しない感じがありますね、これは止むをえませんけど。仮に物理本にするとしたら紙質などに拘ってほしいタイプの文章です。カテゴリーとしてはミステリーになっていますがホラーのほうが近いかなと思いました。おまけに関してはおまけなので本編ではないのでしょうが、謎めいた陰鬱とした雰囲気が魅力なので謎は謎のまま放置しちゃって、なくても良かったかなという感じがしないでもないです。

 

seal「俺はどうやら拉致監禁されたみたいです」

 クトゥルフ系列のsealさん、今回は非クトゥルフです(よね?)。これも長らくミステリージャンルの一位に居ましたね。

 ミステリといえばソリッドシチュエーション、ソリッドシチュエーションといえばミステリ。絶海の孤島。人の訪れない洋館。ミステリという文脈にとって欠かせない黄金パターンですが、黄金パターン故に束縛も多く、斬新な要素を盛り込みにくいのが悩みの種。しかし、そこにSFという要素を加えることで劇的に可能性が広がるわけですね。一部の純ミステリファンにとっては「それが嫌なんだよ!」みたいな顔をされる話かもしれませんし、「SFを混ぜた時点でミステリじゃない」なんて声も聞こえてきそうですが、別にどうでもいいですねそんなことは。面白くなるならバンバンやっていくべきでしょう。可能性が広がった分、逆に収束させていくためのロジック構築が困難になるのがこのジャンル合成の難しい所ですが、7000字のそれも前半部分に必要な情報はちゃんと置いてあるのでこの辺りに経験を感じます。

 そうか、なるほど、なるほど、なるほど。ミステリーかな、ミステリーなのかな、SFじゃないかな、SFだと思う。そんな少し不思議な話。種明かしそのものよりもそのあとの時間を味わうのがこの作品の楽しみ方だと思います。本当につかの間の、朝露のしずくのような一時。幼子の趣味はありませんがかわいらしいキャラですね。

 のっけから監禁されています。そこから脱出するために謎を解くという趣向ですが、解決編がわりと中盤にあってそこからのエピローグこそ本編という感じでミステリーとしてはバランスてきにもうちょっと推理パートが充実していても良いのかなと思いました。正解までに紆余曲折や障壁がなくストレートに一発正解しているのでそこで手に汗握る感じがなくカッチョイイ。ここからなにかが始まるんだと期待させるような余韻を残す引きは個人的に大好物なので実に良いです。

 

豆崎豆太「死神様のお気に入り」

 (たぶん)ヒロマルさんのほうから来ました、ご新規さんです。

 「鬱屈した日常に突如舞い降りる異邦人」というパターンの始祖ってドラえもんなんでしょうか。もう少し遡れそうな気もしますが。

 1.どういう人間の所に 

 2.どういう異邦人がやってきて 

 3.どういう変化をもたらすのか 

 という3要素の組み合わせによって様々な形に変化するのが妙味のこのジャンルですが、この作品は「死にたがりの所に死神がやってきて現状維持を願う」という、見事に何も起きない組み合わせです。そして、そこがこの作品に込められた優しさでもあります。「変化をもたらす異邦人」というのは見方を変えれば理不尽な破壊者なわけで、本人の意志すら無視して強引に環境を書き換えるものですが、この作品の死神は何をするわけでもなく彼は死神であるにも関わらず「そのままでいてくれ」という言葉とともに、ただ側に居て認めてくれます。その在り方に救われる人も恐らく少なくないのではないでしょうか。凄く心休まる、独特の読後感でした。

 やさしい味のファンタジー作品。死にたいが口癖の女性のもとに、ある日死神がやってきて。内容としては、この女性のひたすらな自己嫌悪と卑下の連続なのですが、死神のフォロー(物理込み)もあってか、ほのかに明るく話が進行します。死にたいと口にしたことのある人に一度読んでいただきたい。読んだ後になんだか救われた気持ちになる、優しいお話です。まあ、救われた気がしても、何かが解決したわけではないんですけどね。そのあたり、物語力を感じますね。

 これ好き。キャラが良いですよね、コミカルで。ほぼ死神のキャラだけでストーリーを牽引していく感じですが、それだけの馬力がある立ちまくったキャラ造形で実に良いです。どうにも憎めない良いキャラをしていて人情系?っぽい感じなのですが、でもやっぱり死神だから人間と美的感覚などがズレているなどの死神っぽさもあって一筋縄ではいきません。序盤はあまり魅力的にも見えなかった語り部が、そんな死神の指摘で一転、なんだか応援してあげたくなるような人物像にフリップするところも仕掛けがきっちりキマっている感じで気持ち良いです。

 

大澤めぐみ「アッコとリサのお悩み相談室」

 あなたのお悩み募集中よ。

 オカマ。もうこの三文字で強いのずるいですよね。ゴリラと同じタイプの概念ですよ。ただそこにいるだけで面白いし喋り始めたらもっと面白いし、それが二人で掛け合い始めてもう一人のオカマの相談に乗るとかパワー何倍だって話です。ウォーズマンのベアークローです。あの計算式、ウォーズマン本体とベアークロー1本が等価なんですけどウォーズマン的にそれはいいんでしょうか。何の話でしたっけ。オカマの話ですね。本当にただオカマが話してるだけです。リアリティあるのか無いのかもよく分からないけど説得力はあるオカマトークでグイグイ引きこまれていきます。半分くらい「何言ってんだこいつ」みたいなムチャクチャな論法が展開されていますが「それがオカマなのよ」って最後に付けられると納得してしまいます。何気にタイトルにCase1とついており、作者は読者の投稿を募る形でシリーズ化させる気満々だったようですが現状続きはありません。読者の投稿がないので。世の中ままなりませんね。それでも強く逞しく、しかし可憐さも忘れずに、野に咲くタンポポのように生きていく、それがオカマなのよ。

 (え……なにその唐突なポエムは)←引き気味

 どこか懐かしさを感じるノリの作品。全編、セリフと注釈?によって構成されており
3人のオカマがカメラに向かって、相談室という名目で即興のコントを繰り広げていく。非常に読みやすく、空いた時間にサクッと読み終えることができ、題材のキャッチーさも相まって普段小説を読まない人にも進めやすい作品ではないかなと思います。私はあんまり楽しみ方がわかりませんでした。オカマ、苦手なんですよね。

 そう?

 面白かったです。

 そう。

 

蒼井奏羅「星に願いを」

 今大賞、二作品目の投稿ですね。

 「星に願いを」というタイトルと「ただ幸せになりたかっただけなのよ」というコピーの組み合わせで既に先が暗示されているこの作品。先ほどの「Q」と同じパターンですね。ジャンルとしては童話小説でしょうか。童話というのは訓話としての側面を持ち、その内容を通して読み手に何かを教えようとするもので、その要件はきっちり満たされていますがちょっと構成としてシンプル過ぎた気もしますね。もう少しアンとのやり取りの描写があっても良かったのではないでしょうか。結末に至るまでもう2つ3つエピソードが欲しかったところです。恐らく作者が書きたいのであろうテーマは書けていると思いますのであとは内容にウェイトを足していくだけでどんどん良くなっていくと思われます。

 幸せになりたかっただけの少女の物語。自分にだけ姿の見える友達が、みっつだけ願いを叶えてあげようと提案をして。計算された陰鬱さというか、一つ目の願いの顛末を読んだだけで読む手が少し止まりました。いやな予感しかしない。読み進めるとその嫌な予感は的中し、最後の願いがかなった後はもう。狙った後味の悪さがよく効いた作品ですね。

 変則的な猿の手ですね。お願いが出て来るたびに、それに対してどういう結果が出るのかをある程度予測しながら読むのですが、大オチに関してはこのオチはまだ見たことなかった気がするので、まだやりようはあるのだなという感じ。本家だとワンナウトダブルプレーって感じですが、これはハッピーエンドですね(主観的には)

 

既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」

 現代アクションでうさぎとしのぎを削っていた猫、ニャクザの既読さんです。

 もうザックリ言ってしまいますとカフカの「変身」現代版リメイクですね。それだけ言うと「あー、はい」みたいな感じになって、誰もが一回は思いつくことかもしれないですが実際にこのレベルでやられると何も言えねえなという。作者の博学、軽妙かつ適度に濃密な文体、パンチ力のある発想が一万字という枠内に綺麗に収まっており、その辺に関してはツッコミようがない。「展開として都合が良すぎるんじゃないか。実際に2m近い人語を喋るヤスデが出て来たらもっと…」と思われる方もいるかもしれませんが元ネタの「変身」からして「突如社会に巨大な虫が何食わぬ顔で現れたらどうなるか」という事態をシミュレートしたSF小説ではないので。「毒虫」が社会に所属しながら孤立した人間の隠喩という解釈は結構有名で、じゃあアレは社会風刺なのかというと当のカフカはギャグのつもりで書いてたらしく、要するにブラックジョークの類であり、「ヤスデ人間」においてもその辺りはしっかり織り込まれていますのでこれで良い訳です。むしろ原作より救いのあるオチになっている辺りに作者の優しさとか現代社会のなにがしかに対してのメッセージが読み取れるかもしれません。大変面白かったです。ヤスデって青酸分泌するのか……。

 淡々とそれでいてユーモラスにつづられるヤスデ人間の日々。人からヤスデになってしまった。その突然の変化によって起こる避けられない衝突の数々をこの世界はすべて優しく受け止めてくれる。登場する人物は、誰も彼もが聖人であるなんてことはなくて、どこにでも居そうな普通の人で、それでも得難い優しさをもってヤスデ人間に接してくれる。もしも自分がこの設定で書いたならば、カフカの変身のように後味の悪い終わり方にしたでしょう。原作にある、悪意ある道筋をなぞることなく、ヤスデ人間になってしまった現実をソフトに受け止めて話が終わる、とても素敵なお話です。(あとで検索してみましたけど、やすでって気持ち悪いですね。いやこれは、世界が優しすぎる。絶対殺す。絶対に殺す。家族が毒を盛る。家族がやらなくても商店街の誰かが殺す。小学生が石を投げる。死んだことに安堵する。万歳三唱する。そういう何かだと思う。)

 変身と同じ導入からここまで希望の感じられる結末を導出できることに驚きます。毒虫に変身してしまうというのは飽くまで突然の不条理な不可避の不幸のメタファーで、抽象化すればそういった出来事は誰の人生にも起こりうるものなのですが、人間というのはそんなたったひとつの不条理な出来事ていどのことでめげるようなものではない、というようなあっけらかんとした強さが見てとれて、しかもそれがあまりエモーショナルでない淡々とした文体で綴られていて押しつけがましいところがなく、かえって素直にメッセージ性を受け取れる感じ。この作者にしては珍しく素直に気持ちが前に出てきたなという感じもあって非常に良いですね。

 

不死身バンシィ「マルマーの呟き」

 コメディタッチの作風に抜群の力を見せる作者です。ミス・セブンブリッジの続き、楽しみに待っています。

 ……パンダの主食は笹と思われがちですが実は竹なんですよ。

 そうですか。

 好きですよこういうの。動物目線から見える人間の姿。SF設定でのひねりもちょうどいい塩梅に聞いていると思います。よく見られる野良猫たちの集会、行動に、うまい具合に意味づけされていて、読んだ後、猫を見るのがちょっと楽しくなる、そういう作品だと思います。最後のやるせなさというか、あーあって感じがいい。うわぁ、マジかよ人類って感じ。こたつ空間はいいですね。個人的にはサメがどういう形で集ってるのかが気になります。

 いちおーSFなので設定のほうもなかなか面白味があって素敵なのですが、設定を地の文の説明のみによって見せていくのはもうちょっと工夫があったらよかったかもしれませんね。そんなことよりもコタツスフィアなどのストーリーには直接関係のない細かいしょーもない描写でクスッとした笑いを稼がされてしまって、メインのストーリーよりもそっちが本体みたいな感じ。文字数てきにもまだ余裕もありますし、もっとそういったクスッとくるポイントをモリモリに盛っていくとさらに魅力的になるのかなぁと思いました。投げやりなオチも猫だから許される感じで悪くないです。

 

枯堂「Carnival」

 カーニバルダヨ! 幻想都市百景でようやくリズムを掴んだと思ったのですがエターナっていますね。大丈夫でしょうか。

 これはまた、ちょっと戸惑う変化球が飛んできたなという感じです。誰かが誰かをお祭りに誘おうとしている。人物や情景の描写は一切無し。ただ、誰かがはしゃぎながら一所懸命「お祭り」のプレゼンをしている。人はある程度歳を取ってしまうと中々お祭りに行こうとか思わなくなるものですが、彼はお祭りに興奮しきっています。じゃあこれは小学生くらいの子供なのか。いや久々に地元のお祭りに興奮してしまった初老の男性が妻を誘おうとしているのかもしれない。恐らく読む人によって幻灯機のように映し出されるイメージが変わる作品です。「童心」をエッセンスとして抽出してそれを幻に変えたような、不思議な作品でした。

 もうすぐ町に祭りがやってくる。その直前の熱気、はやる気持ち、ささやかな恋心。少年のこころと時代をそのままパッケージしたようなさわやかな作品。非常に短い作品なのですが、その短さの中に、祭りの前の楽しさがぎゅっと詰まっています。(短いですね。さらっと読めるだけに、すこしだけ物足りないというか、熱っぽく話してるところに爺さんばあさんからちゃちゃが入って話が中断される、みたいな変化があってもよかったかも。フレイバー程度ですけどね。)

 わりと仕掛けを仕込んでくる作者なのでこれもなにか仕掛けがあるのかと警戒しながら読んでいたのですが、そういうこともないみたいです。普通に長い詩みたいな感じの受け止めかたでいいのかな? たんに僕が分かっていないだけの可能性もあります。根本的な文章力はすでにある作者なので、こういうなんでもないような文でもそれなりに楽しく読めるのですが、やはり小説大賞なのでもうちょっと小説っぽく仕上げてほしさもありますし、元来の作風から言ってもただスランプでなにかお茶を濁したのかなぁみたいな気がしないでもない。わりと悩みやすい性質みたいですけど、ロッキンみたいな口から出まかせでっち上げ進捗スキルみたいなのも時には重要ですよ。

 

有智子「ブラザーサン・シスタームーン」

 トルタ大会で出してきたメディエーターの続編ですね。

 何らかの壮大な物語、の序章であろうお話。人物、関係性、特性、背景、今後の展望などが会話文とともにつらつらと連ねられるわけですがただそれだけでちょっと「雰囲気」が漂い始めており、なんとなく脳内にぼんやりとした絵と空気感まで想起されるのは結構凄いことです。作者が作品の世界観に対して、明確なイメージとこだわりを持っている証拠ですね。独特の清潔感と匂い立つような艶を感じます。もう人物全員美形しか浮かんでこない。エルフみたいなの。歩くだけでその後に香りの道ができるような。ただ、本当に序章で終わってしまっているので、続きが気になるところですね。

 続き物の一断片ですかね。長髪イケメンが何故メディエータ、エージェントになったのかについて位のエピソード。続きが非常に気になります。このエピソードだけでこの作品についての判断はしたくないですね(続きを読みたい) そう、本当に続きが読みたいので、できれば書いてください。全部。一エピソードで魅せることには成功していると思います。ですがこれだけを出されても、お預けを食らってるみたいでもどかしいです。

 ひとつの話として成立してはおらず、まだ導入部という感じですね。飽くまでワンシーンといったところ。文体になんとも言えない柔らかな魅力がありますし、わりとこういったシーンの断片は無限に思いつくようなので、それらをちゃんと書き留めておいて一つながりの大きなストーリーにまとめあげるという作業に一度本気で取り組んでみてはどうかなぁと思います。きっと面白いものが書けるはず。なによりちゃんと小説を完結させるというのは気持ちの良いものですよ☆

 

焼きりんご「少女」

 うーん、つらつらと書いているという印象で、どこにフォーカスして読めば良いのか悩む感じ。

 十七歳。恐らく人間の精神が最も揺れ動く時期。この辺の年齢って「己は己である」という自我だけは確立されつつあるものの、それを支える根拠は何一つない時期なんですよね。スポーツか何かで実績を上げているとそれを拠り所にするんでしょうけどそういう子は一般的ではないわけで。殆どの子は足があるのに浮いているような、自分でもどうしていいのか分からない状態でフワフワ浮きながらバタバタ藻掻いているわけです。そういう「思春期」はモチーフとしてもよく用いられますが、この作品では17歳の少女が感じる自己と社会との齟齬、周囲に対する苛立ち、嫌悪を描写することで間接的に少女のザワザワした未熟さを浮かび上がらせています。最後ではなにか吹っ切れたような行動を見せていますが、一体どちらの方向に吹っ切れたのか。曇り空のような不安を残したまま終わり、最後まで落ち着きません。この不安定さが「少女」というものなのでしょう。

 今もどこかにありそうな、苦くて痛い青春の一ページ。ここじゃないどこかへ行きたい。自分はもっと上に行ける。今はただ、レベルの低い友達に、付き合ってやってるだけ。家に帰っても面白くないし、お父さんは嫌いで、おばあちゃんはうっとうしくて。でも、あの子は違う、違う気がする。きっとそうだ。違うんだ。根拠のない直観と、どこまでも傲慢で妙に楽観的な自意識と、青春のあの頃にあったはずの向こう見ずさ。痛くて苦くて甘くて淡い、そんな作品。会話文が全部地続きなのはちょっと‌読みづらいので、できればそこ、鍵かっこ使ってくれると嬉しいです。

 なんでもない瞬間にふと死のうと思う、みたいな部分を書きたいのであろうから(たぶん)なんでもない日常をつらつらと書くのもそのためには必須であって、単純に一見意味のなさそうなシーンを削ればいいというものでもないのが難しいところ。ラストのなんか知らないけど「明日はAに話しかけてみよう」という気持ちになるという落としどころは良いと思うので、なにげないシーンもそういった「これを描きたい」というあるポイントに向けて収束させていくためのシーンなんだという意識を持つともうちょっと輪郭がシャープになるかも。

 

ロッキン神経痛「ケモノの楽園」

 最初に読んだ時は地下に潜った人類と地上で野生化した獣人との交流みたいな話だったはずなのに、講評書くために読み直したら加筆とか修正ってレベルじゃないまったくの別の話になっていました。闇の評議会を狙った卑劣な攻撃でしょうか? 許されません。

 前説明にもありますが、これは今回の本物川大賞参加者の一人でもある中出幾三さん(本当にキーボードで打って変換するの嫌だなこの名前)のカクヨム投稿作品「ケモノの王」の二次創作です。…普通これを大賞参加作品として持ってきますかね。作者の胆力と中出さんに対する愛を感じます。「じゃあ先にケモノの王読むか…ゲェッ25万字もある!おのれガンキャリバー!」となる方もおられるかもしれませんが、これ単体で読んでもちゃんと成立していますし描写の濃い絶望的なバトルアクション物として面白いのは流石です。怪物に対する切り札のアイディアと、それを選択した覚悟もカッコ良かった。けどケモノの王も面白いので読みましょう。そうしたらこの作品もグッと面白くなるでしょうし中出さんも喜びますし中に出されてる作者も悦ぶことでしょう。

 ……(←なにを言っているんだろうという顔)

 墜落から宇宙人出現、主人公の覚醒、油断、一か八かの賭け、逆転劇。一連の流れが非常にいいです。面白い。設定についても、必要な情報は随時さらりと挿入されて、読む上で不便を感じることはありませんでした。いいですね、ケモノ。ケモケモ。

 ケモノの王の二次創作ということですが、ケモノ世界の数百年後とかそれぐらい先の未来の話っぽい。超人バトルものです。僕は修正前と修正後の両方を読んでいるのでなんとなく把握しましたが、一部設定は修正前では語られていたけれども修正後にはその記述がなく、それなのにその前提で語り部が動いていたり、かと思えば獣人の設定がなんの説明もなく変更されていたりでなにを書きなにを書いていないのか混乱しているように見受けられます。修正後を単体で読んだ場合ポカーンとしてしまうかも。原理的に難しいところはありますが、一度自分自身で全ての記憶を忘れてまっさらの状態で読み直してみたほうが良いと思います。推敲大事。

 

既読「はこのなかにいる」

 既読も二作目の投稿です。

 どこかコミカルであった前作とは違い徹底したシリアスとソリッド。引き出しの幅を感じさせます。そして描写、構成は同様に見事でありパワーを感じます。アイディアとしてはSFでは割と既存のものですが、意外にこの「2つ」を組み合わせたものは無かった気もします。タイトルにある「はこ」とは何なのか。それに気付いた時にあっと言わせられる最後の一文のギミックも凄い。非常にハイレベルなSF短編でした。ただし文字数オーバーなので駄目です。

 一万字をオーバーしているのでアウトです。内容についてはなにもいうことがないです。完成されています。少なくとも私はこの手の話について何か言おうという気は起りません。SFですね。AIものです。嘘をつけるAIなのか否か。タイトルもいいですね。シンプルイズベストという感じで。ただ単純な話、これに絵をつける場合、どんな絵になったのでしょうね、そこだけが気になります。真黒な吐しゃ物?

 これすごく好き。意識のハードプロブレムや人工知能の自我などはSFや哲学好きにとっては大好物のトピックでしょう。ただ、キャッチコピーにある「この部屋から出るために必要なのは、なぜ自分が二人いるのか、の答え」に関しては、ぶっちゃけ謎解きではなく主催自身によるネタバレで明らかになってしまっていてキャッチコピー詐欺っぽさがあります。まあ、どういう経路でなら自ずから推理できたかと言われると想定できないのでやむを得ないのかもしれませんけど。とはいえ、ぶっちゃけエピソードの8割くらいまでが前説で、最後の最後にある人工知能との短い対話こそが本題という感じがありますから、そこまで重大な欠点でもないのかな。最低でも誰かの言明は真ではないはずなのですが、そこは明示されないままブツ切りで終わる感じで、「どの場合はどうなるのか」を語り合いたいがためについつい誰かに読ませたくなる構成になっています。あと文字数オーバーなのでゼロ点です。

 

一石楠耳「スタンダップコメディアンはチャイナドレスと話せない」

 剣脚商売でおなじみの美脚キチさん。

 最初から最後までガトリング砲のように繰り出され続けるアメリカンジョークの嵐。この手数の多さは凄いですね。よくこの短さにこれだけ詰め込んで回転させられるものだと驚嘆します。そしてただ手数が多いだけでなくきっちり起承転結、フリとオチが決まっている辺り何も考えずにノリだけでやっているというのでは明らかにない。こう見えて、結構几帳面な人なんじゃないでしょうか。ほら、脚フェチストッキングフェチって真面目な人間に多そうな気がしません?(偏見)恐らく下地にあるものはアメリカンコメディだと思いますが、作品から伝わる文脈の読み込みの深さに熱意が伺えます。

 いいコメディですね。喋りの内容の良しあしについてはよくわからないというのが正直なところですが、普段は饒舌な人間が好きな相手を前にして、ついでに麻酔が聞いてるせいで、うまく言葉が話せない。冒頭での虫歯が最後まで話にかかわってくるのところは、なんというか技術を感じました。熟練の技? どうなんでしょうね。チャイナドレスはやはりスリットがいい。

 なんというか、完成されていますね。いかにもスタンダップコメディアンな軽快な語り口といい、冒頭に仕込まれていた何気ないジョークが後半に効いてくる構成といい、完成度が高いです。特に言うことはないのですが、全てがあまりにも小粋に綺麗にキマりすぎていてサラサラと読んじゃって、面白かったなぁってなるんだけれども「どこが?」と言われるとココとは言えない感じがある。ここが面白い、じゃなくて、全体的に面白いという感じで尖ったところがないみたいな。剣脚さんと言えば「実にガーリー」などの謎の言霊ちからの宿ったコピーに抜群のキレがありますから、なにかそういう見せ場てきなのがあっても良かったのかな? なんて欲をかいてしまったり。とはいえ、総合力では頭ひとつ抜けた、お手本にしたいいぶし銀の良作。

 

はしかわ「潜水」

 ご新規さんですね。詩のアイデアをそのまま膨らませたという話なのであれこれ疑問に思ったり深読みしたりせずに素直に読めばいいのかな。

 これはもう読んだ時に「うわーすげえの来たな」と思いましたね。率直に申し上げましてツボです。「誌のアイディアを膨らませてそのまま小説にしました」とありますが
私、恥ずかしながら詩とか殆ど読んだことがなくて、きちんとこれを評価できるのか自信が無いんですけど、とにかくビリーッと来ましたね。「その時、電流走る」というアレ。街の中に孤立したような部屋と少女、部屋の床上には雨水が溜まっており少しずつ水位が上がっていく。少女はその水が部屋を満たすのをその部屋にいながら楽しみ待っている。もうこうやって書き出すだけでゾワゾワします。徹底した非現実的な描写、イメージを喚起させる個別の、そして全体の隠喩。まさに詩文。非常に危うい所に位置している作品だと思いますが、作者の技量によってギリギリの所でバランスが保たれている印象。これを思いついて最後まで完成させたことに敬意を表します。

 雰囲気がいいですね。退廃的で、詩的で、美しい滅びの風景。壁につけた傷で日数経過を残す、というのが個人的にとても好きです。いつもきまって左のリンゴだけを食べるというのもいい。随所にある登場人物のこだわり、私すごく好きです。

 雰囲気と描写はとても良いです。三人称視点ということになるんでしょうけれども、彼女は~というこの記述のしかたは珍しい感じしますね。慣れない奇妙な手触り。好き嫌いで言うととても好き。ただはっきりとしたストーリーというのがないので小説大賞での評価となるとこれも難しいところ。描写力がしっかりあるのでもう少しエンタメ要素のある小説も読んでみたいです。あとカクヨムの仕様てきに、各話タイトルはなにかしらでもつけておいてもらったほうが入り口の当たり判定大きくて良いです。

 

くすり。「ヴァイオレント・ヴァイオレンス」

 第三回大賞受賞者、コンチェルトのくすりちゃんです。

 傷付け傷付けられて傷で結ばれた共依存。無知と無邪気で行うならただの馴れ合い。しかし、ともに自覚しながら行うなら傷を分かち合う呪いと化す。この歪で病的な心情描写のラッシュで描かれる人間模様、まさにくすりさんという感じですね。人を傷付けるのは傷ではなく、その傷が付けられた理由であるという話。そこが違えば暴力もまた愛になろうというわけで、つまりこれはSMの真髄です。「SはSだがMはSも含んでいる」みたいなことがよく言われますが多分私が思うにSもMを含んでないと駄目なんですよね。そうして初めてSMという高度な関係性が完成する。そういう話を叩きつけるような熱情で書き上げたのがこの作品だと解釈しました。素晴らしい。

 かなりいびつで歪んでいてどうしようもない恋の話。なるほど暴力的ヒロイン、私は大嫌いですがこういうのもありうるのだなと思いました。本当に歪んでいて、この二人?はこの二人?じゃないといけないのだろうなと。殴って終わるっていうの、これはちょっとだけ‌ずるいなと思いましたが言葉の綾は大事ですものね。割とあっさりとした読後感。

 属性を盛りに盛りまくった感じですね。登場人物にはかならずなにかしらの重い過去を持たせなければならないみたいな使命感でもあるんでしょうか。ヒロインがあんまりにもあんまりで感情移入しづらく、かつ語り部もヒロインの言う通り大変に気持ち悪くてとても気持ち悪いです。たぶん気持ち悪いカップルを書こうという意図だと思いますので意図したとおりに機能してはいるのでしょうけれども、うーんなんというか、登場人物ふたりだけの小説でふたりとも同じボルテージだとあっさり大気圏外までカッ飛んでいってしまう感じでふたりで地球をエクソダスしてしまっているような、末永くふたりきりで幸せにどうぞみたいな。いわゆる突っ込み役が配置されていればもう少しバランスがよかったかも。

 

でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」

 こちらもご新規さん。もうそれだけで嬉しいですね。んふふ。

 まずページに飛んでみて「なんじゃこりゃー!」と驚く章分けの数。「どんだけ分量あるんだ、あれっでも一万字以内…」と思って開いてみると、「なるほど」と思わせられる仕組み。9103文字とリミットをほぼ使いきっている本作ですが、全く長さを感じずあっという間に読み終えました。所謂「世界シミュレーション」もので、SFとしても定番モチーフの一つであり正直オチは途中で読めましたし、細かい所をツッコむことは出来るのですが個人的にはそれをすることは野暮だと感じます。「このタイプの作品をこういう形式で書いてみせた」というのが本作の意義であり、見事にそれをやってのけたことを高く評価したいです。

 すごい面白いです。章の多さに面喰いましたが、なるほどメール形式。未来予測実験にかんして小出しにされる情報が少しずつ像を結んで行く。最後まで読んでから、もう一回読みたくなって読んで、確かにそうだと気付く。気持ちがいい。読んでいて気持ちが良かった。

 トータルで9000文字ちょいなのに全37話というちょっと変わった構成。ほぼ全編を通してメールのやりとりを中心に話が進行していって、メール一件につき一話を消費するのでこのような感じになっているのですが、各話タイトルが件名になっているのがUIと合致していて面白いですし、スクロールもせずにポチポチクリックして先に進めていく感じはテンポも良くゲームをプレイしているような雰囲気もあって楽しかったです。たぶんオチてきにはマトリョーシカエンドで、それだけだとSFとしてはとくに斬新でもないと思うんですけれど、ラストの一話だけ明らかに記述の形式に違和感があって、変なスペースが多用されていたりして、まだ僕の気付いていない仕掛けが隠れている可能性もおおいにあります。

 

宇差岷亭日斗那名「とある夏の日。」

 ウザいPNですね。どうにかならないのでしょうか。

 普段は死のうと思っても思うだけの主人公が、夏に浮かされてロープを買いにいってしまう話。一見ネガティブな動機による究極のネガティブ行動だとしても、行動に移した時点でそれは一定のポジティブを含むのだとかそういうことなんでしょう。一読して「随分トントン拍子に終わったな」と思ってしまったのですが、これは「地面に篭もり続けた後に夏に這い出てくる蝉」の隠喩なのだとあとから気付いて膝を叩きました。

 ……(←そうなの? という顔)

 死のうと思った。でも。引きこもりが死ぬために外に出て、それから。死にたくなる日もあるし、でもその気持ちも過ぎたらなんだか軽かったような気もするし出来ないなって思ってたこともやってみたら簡単でなんで出来なかったか不思議になる、そんな話。いい話ですね。

 良いですね。3000字ちょっとと非常に短いのですがテーマ設定がはっきりしているので無理なくちゃんとオチがついています。初回の参加作からずっと通底するテーマがある感じで、拗らせている雰囲気なのに何気なくスッと開けていくような爽やかなラストの清涼感が共通していますね。拗らせているだけの人は多いんですけれども、そこをなんというか、全然エモくなくスッと自然に乗り越えちゃう感じが「強さ」っていうほど張り切ってない人間の強さっぽくて、本当の強さとか言っちゃうとまた陳腐なんですけど、うーん乗り越えるでもないかな。乗り越えも立ち向かいもしていなくて気が付いたら風化して崩れてたみたいな、この感じはわりと珍しいんじゃないかと思います。地力のある作者だと思いますので是非一度、もう少し規模の大きな物語に取り組んでみてもらいたいですね。

 

ラブテスター「午後王」

 前後編構成でガラっと文体が変わります。

 一つの物語を、「吟遊詩人の語りを思わせる華美な文体で綴られた一国を支配する妖魔の伝承」と「怪しく狂った一人称で述べられる少女の心情」の二部構成で両面から描き出すという一作。これが発表された時騒然となったのを覚えてます。やはり最初に印象深いのは第一部のこれでもかと力が入りまくった修辞ですね。非常に高い精度で行われているそれにはまさしく脱帽です。そしてその後に妖魔として語られていた少女の一人称を第二部に持ってくることで、物語のマクロとミクロの対比を見事に表現しています。ただ、午後王ってタイトルはなんかユーモラスですね。割とここだけそのまんまというか。けど本文が凝っている分タイトルはこのくらいシンプルな方がバランス的に良いのかもしれません。

 二部制で作られた作品。一部と二部で文章の作りががらりと変わり、そのギャップが良い。若干ペダンティックな一部と、童話調の二部が良いハーモニーを奏でています。午後王と呼ばれるものとそれを取り巻く環境、午後王とは一体なんなのか。第四回本物川小説大賞に間に合えばよかったのにと思わずにはいられません。

 前半は虚飾とも思えるような大仰で荘厳な文体で、「聖油にぬれた大理石のようになまめかしくも清い肌」とかよく出て来るなと感心します。このゴシック感ムンムンの前半があってこその後半の文体との落差がまた生きてくる感じ。でも、個人的にはたんに「実はこうだったんですよ~」と開示するだけのオチはちょっと納得いかないので、前半でもう少し伏線というか、転生とか人外とかの設定というか、どういう世界の出来事なのかの情報を配置しておくともっとすんなり飲みこめたかなと思います。文体じたいの力はとても強くて、これはトレーニングしてもなかなか得られるものではありませんから既にアドバンテージがある。構成に工夫を入れて来るとさらに一皮むけそう。

 

大澤めぐみ「さきちゃんかわいいよね」

 どニキのパク…(ゲフン)二次創作。どニキがまたさきちゃんでギリギリに滑り込んでくるつもりみたいだったので出鼻を挫く嫌がらせですね。なお一万字以内と一万字未満を勘違いするという凡ミスのために文字数オーバーでゼロ点です。

 いつもの大澤節です。もうこれだけで点を入れそうになるくらい好きですね。思えばそれを最初に絶賛したのがすべての始まりなのだ。まあそれは置いといて、本当にただ読んでるだけで気持ちいいこれはいつ見ても良いですね。これどうやったら書けるようになるんでしょうか。このままだと普通にエコヒイキしそうになるので敢えて辛めの視点を交えますけど、ちょっとオチがそのまんまというか、「そうですよね」となってしまって意外性がまるで無かったのが逆にびっくりした。だからこれはもう本当にタイトルの内容だけを書きたいから書いたというやつなのでしょう。けどその割にはさきちゃんの描写があんまりなかったのでさきちゃん可愛いと言ってる「わたし」が可愛いという話なのかもしれない。SKILLとGONGを熱唱する女子高生ってレアなのかそうでもないのか。そういえばこの子名前無いですね。読んだ後に「キミヤくんがひたすら哀れだ」と言ったら「お前もそいつに感情移入するのか」的なことを言われたので何かを垣間見たような気になりました。

 己が幸せであるならばそれで満足してくれおすそ分けなぞいらん。でもさきちゃんと一緒に過ごすためにはやむなし、で始まる偽装カップル生活。青春のしぼり汁をジンジャエールで割った‌みたいな苦くてシュワシュワな感じ。キミヤくんはこんなやつを好きになってしまったんやな、本当に。趣味が悪い。でも男の子ってそういうところあるよね。本当に。最初から言ってるのに、最初に言ってたのに、その言葉を都合よく上書きしてしまったのだね。本当に。苦い。キミヤ君に幸あれ。

 

ポンチャックマスター後藤「アラップノフォビア」

 100万進捗馬力のポンマスさんです。どうもTLでの反応を見るに大澤さんのさきちゃんかわいいよねから着想して(?)書いたっぽいんですけれども、宣言してから完成して投稿までがマジで早くて進捗力にビビります。

 来たぞ! 我らがポンチャックマスターのエントリーだ! 君はもうその勇姿を見たか!? 僕はまだ見たことがないよ…両目を、抉られているからね…(オマージュ)

 ……(←ええ……なにそのノリ、という顔)
 ……というわけでポンチャックですが今回はどんなふうに暴れ狂ってくれるのかと思ったら、また意外な引き出しを開けてきましたね。百合を通り越して濃厚なレズですよこれは。蜘蛛の捕食行為をメタファーにした淫靡レズ表現は、百合という言葉には到底収まらないドス黒い淫蕩と背徳を思わせ身震いがします。最後の一文も傷口に残された蟲の棘を思わせて大変良かったです。

 いいですね。放課後の冒険。一歩踏み出した先の関係。膜を一枚隔てて絡み合う二人。とてもエロティック。一線は越えないというのもいい。先生に見つかるのいいですね、青春の過ち感がすごく出てる。家で一人ラップを触るのもいいですね。忘れられない経験になってるというのがしっかりと伝わってくる。気になったのは、なんで学校にサランラップ持ってきてんだってところと、蜘蛛の比喩の挿入具合ですね。蜘蛛が若干くどい。もうちょっとフレイバー程度でいいんじゃないですかね蜘蛛。エロいな、って盛り上がりを蜘蛛が邪魔してる感じはあります。

 ポンマスさんはピントの合うところがすごい近い感じで、ド近眼というかド接写というか、客観的な情景描写よりは人間の心の機微とか、舌やら指やらの細かい動作をねちっこく描写させたほうが強い感じがしますね。弱点を補おうとするよりは、自分の特性を最も生かせる題材を設定していったほうが良いものになる気がします。今回はバッチリ焦点距離が合ってる感じで良いです。

 

ラブテスター「腕喰い」

 ラブテスター、二作目の投稿はまたガラッと作風が変わりますね。

 殺人犯を追う刑事、と言われると「ミステリか」と思いがちですがこれはそうではなく、特に謎解きの要素もないまま犯人はあっさり捕まり、その犯行の動機も明らかになるのですが、中々これはおぞましい動機ですね。ここでどのくらい振り切れるかでパワーが決まってきますので、これは見事な一振りと言えるでしょう。ただ、タグと説明文から察するにどうも刑事と真島の関係性の方をメインに置きたかったように思えるのですが、正直その部分はちょっと弱いなと思いました。しかしこれで文字数9999文字なので致し方無しといった所で、文字数制限付きというのは本当に難しい縛りだなと実感します。

 刑事ものですね。大好きです。偏屈なベテラン刑事と新米刑事のコンビで追いかける奇妙な殺人事件。タイトルも味があっていい。事件の動機についての説明も、十分な理屈付けはできていると思います。好きですね。この感じ。

 ミステリージャンルで投稿されていますね。強いて言うなら動機に焦点を当てたワイダニットで監察医の長髪イケメンが探偵と言えるかもしれませんが、推理というよりは経験的な推測なのでミステリーとはちょっと違うかな。サイコスリラーとかそういうのかも。ただ明かされる(推測される?)動機はなかなか珍しく、かつ納得もいく感じで意外とストンときますし、これで解決かと思いきや理屈上はまだ残されている仕事があるはずだったりとか、そのへんの構成もとても上手くて良いです。もっとも、たぶん物語の中心は事件や謎ではなく主人公ふたり(?)の関係性の描写っぽいので、細かい話はまあいいや。ベテランと新人のコンビいいよね。

 

きのこづ「夏の夜に捧ぐ恋文」

 んっふふ。ご新規さんです。今回わりと多いですね。

 如何にもな、もどかしい青春夏模様がガーッと続いて、最後にゴキッと落とす。これもまた一つの黄金パターンですね。文章、描写は結構詰まっているにも関わらず大変読みやすく、かなり書き慣れておられるものとお見受けしますが、ちょっと全体構造が早急すぎるようにも思いました。構造が早急ってなんやねんという話ですが、はっきり2つのパーツで構成されているのでもうちょっと複雑さが欲しかったというか、途中で「気配」をチラッチラッと見せていけると俄然深みが増したように思います。この辺は好みの問題かもしれませんが。

 高校生の頃に好きだったあの子へ送る恋文。思いを伝えきれなかっただけかな、と思いきや。二人の関係が形成される過程を丁寧に追って書かれているので、余計に切なさが増しますね。頭がおかしくなって病院に放り込まれた、の部分いらない気がしますね。雑味。頭がおかしくなるというのはありうる話かもしれませんがフレイバーテキストで追加する必要があるのか、とは思います。あの頃の思い出を未だ引きずるってるっていうのと若干リンクしているんでしょうかね。頭のおかしさというか。病院に放り込まれた、の部分で全体の味が変わって、サイコ味が強くなっていますね。

 8割5分までいい感じにきて急転直下で落とす展開。前半部分は単純に恋愛小説として描写力が高いですね。ここでテンションを高めているからこそ急転直下でゴーンと来る構成なんでしょうけれど、やっぱりなんらかのヒントなり違和感なりを配置しておかないと横からトラックが突っ込んでくるようなもので唐突感があります。現実には不運や理不尽な出来事というのは唐突になんの脈絡もなくやってくるからこそ理不尽であるわけで、唐突なのがリアリティと言えなくもないかもしれませんが、語り部が完了した時制から過去を振り返っている叙述である以上は語り部はオチを知っているわけで、そこを踏まえて引っ掛かりを覚えさせる程度のなにかを事前に仕込んでおくと納得感が増すかもしれません。

 

ポージィ「宵之街」

 前回のトルタ大会では絵描きとして参加してくれていたポージィさん。今回は文での参加です。いいですね、こういう感じで「なんかやってるからなんか俺も書いてみるか」ってノリでどんどん軽率に参加してきてもらいたいです。しかも一回トップページまで躍り出ましたからねコレ。

 最初の二話の語り口調、単語の選出、改行、スペースの開け方で既に恐ろしさが演出されている一作。オチ自体は「まあ、そうなるな」という感じでしたがとにかく文章のセンスによる怪談としての雰囲気の演出が見事でした。普通に読んでて寒気がして怖かった。大体どうなるか途中で分かってるにも関わらず。怪談というものはその話の内容ではなく、語り部の口調、滑舌、声量、リズムなどによる演出がそのクオリティの差を分けるもの。その点においてこの作品は非常に短くシンプルながらも確実に「怖く」文字が置いてあり、作者の技量を感じました。

 過労の末に見た夢の景色は小さい頃遊んでいたあの場所で。夢の中で見知らぬ少女に出会い、遊ぶそんな話。少しずつ夢が現実に歩み寄りを始め、最後は夢に飲み込まれる。実話風怪談のお手本のような作品でした。

 ミステリーカテゴリになっていますが謎解きパートがあるわけではなく、これもどちらかというとホラーかなという印象。3000文字未満と短いのであまり凝った展開はありませんが、夢現で視界がザッピングするような演出などわりと文章としては難易度の高い表現を難なくこなしているので、こなれた感じがあります。推測ですがカナコについてもまだ自分の中で色々と設定がありそうですし、出してないものがたくさんありそうな感じなので、お試しで終らずにもうちょっと書いてみてほしいなと思います。

 

槐「ぼくの秘密の場所」

 絵本てきな語り口ですね。

 一読して「うん…うん?なるほど…?(分かってない)」となってから紹介ページに戻ってタグの「エッセイ・ノンフィクション」という文字を見つけ「えっ!?」となりました。これはつまり、ご自身のお子さんに当てられた文章ということなのでしょうか。時代は変わって街も変わったけど受け継いでいく物はあるというそういう話とお見受けしました。

 さみしさがいいですね。あの頃の自分が見ていた景色が消えていく感覚。小説でこの内容を書いてください。エッセイにしても短いです。

 以前の作品と同様に、これといって非凡でない、誰しもに共通しそうな射程の長いノスタルジックな雰囲気を描くのが上手いです。テーマ性や話の落とし方も一貫しているので綺麗にまとまっている感じはあります。ただ、いかんせん短いので小説大賞という土俵ではやはり不利かなと。すでに文体はお持ちのようですから、せっかくですし良い機会だと思って試しに同じ延長線上の作風でもう少し規模の大きなものにも取り組んでみてもらいたいですね。

 

宇差岷亭日斗那名「義妹と上手に話せない。」

 二作目です。この人は本当に拗らせてるんだか拗らせてないんだか意欲的なんだか意欲がないんだかよく分からないですね。

 これまた一つの王道ですね。「大抵の物語は報告・連絡・相談の不備によって発生するものだ」という話を聞いたことがありますが、お互いにすれ違いあったまま一歩踏み出せないでいる事によるもどかしさがこの手の話の肝であり、それが解消される瞬間がカタルシスだということです。ただ、折角の義妹モノなのでもう2、3シーン読みたかったですね。

 ラムネ菓子みたいな話ですね。さわやかだけど少し粘っこい感じ。のどに引っかかる感じ。好きですけどもね、こういうの。近親相姦的な臭いが薄いのもいいですね、うすいかな、薄いと思う。エロ漫画ならすぐふぁっくしてるもんこういうの。

 エンジンが掛かるのが遅いのでしょうか。計画的に執筆できるともうちょっと規模の大きなものもこなせるようになると思います。相変わらず文じたいは読みやすく雰囲気も悪くないですし、話も変にこじらずにストレートな感じで僕は好きなのですが、なにしろ文字数が少なく解像度が荒くてまだ型枠だけという感じ。フォーミュラロマンスは話の大枠で奇をてらわない以上はディティールと解像度の勝負になりますので、もっと丁寧にエピソードを積み上げていってほしいかな。

 

佐伯碧砂「夏の午後、風のサカナ。」

 ご新規さん。小学生オブザデッドてきななにか。

 ゾンビというのは日常に唐突に現れ理不尽に襲い掛かってくるもの。必然性やら科学考証にそこまで意味は無いのです、ゾンビものにおいては。その点においてこの作品は中々テンポよくゾンビものが始まり、ゾンビものとしては割と異例のスピードで犠牲者が出て行き、最後はどうなるのか? ということですが…こう来たか、という感じですね。今回の大賞ではこのタイプのオチが多かったような気がしますが、なんというか惹かれ合うものなんでしょうかねこういうのも。本当に全く予想外の所にオチるので、個人的にはもうちょっと伏線が欲しかったなーとも思いました。ですが恐らく意図的に切断されているのだろうとも思います。

 いいですね。ある夏の日、自分の家で友達とゲームをして過ごしていて、アイスを探しに行ってそこで。ジュブナイルプラスゾンビ。無力な僕たちの長い夏の一日。と、思いきや、何でしょう、ジュブナイルなまま終わってくれたらよかったなぁって思います。そこまでは好きなんですよ、すごい好き。でも最後がなぁ、何だろうなぁ。

 平易で一文が短く飲みこみやすい描写と、可読性や溜めの効果を意識した改行の使い方など、web小説としての読みやすさはとても良いですし、オブザデッドテンプレートに沿った徐々に追い詰められていく展開も普通に面白くてスルスル読めます。9999文字の上限いっぱいなので単純に文字数が足りなかったのかもしれませんけれど、オチに関してはこれもやはり唐突感があって、事前になにか違和感を抱かせるようなフラグを立てておいたほうが納得感が増したかなぁと思います。

 

宇差岷亭日斗那名「命日とハッピーバースデイ」

 三作目です。そしてさらに短いです。躁でしょうか。

 こういうワンシーンを切り取ったショートショートには、何か一つその作品の中心というか、結節点ともいうべきポイントが存在しているもので、この作品の場合は「線香の刺さったホールケーキ」ですね。恐らくこれを思いついてそこから発想を広げていった話なのだと思われます。確かに線香の刺さったホールケーキはビジュアルとして面白い。タイトルに対する象徴にもなっているのですね。その意味においてこの作品は生と死をシンメトリーに配置した太極図なのでしょう。

 これもいい話。人の優しさを感じられる話。でもケーキに線香はきついと思う。

 これも「とある夏の日」や、以前の「僕と彼女とコンビニと猫」と共通するようなテーマ性があって、一言で言うとリボーンですね。たぶんですけど本人の中では「救い」であるとか「癒し」であるとか、要約しちゃうと陳腐なんですけど「そういうことじゃあないんだよな~」みたいな、だから説明や要約じゃなくて小説じゃないとダメなんだみたいな、こういうものを書きたいという意欲は非常に強くあるんだと思います。思いついたものはなんにせよ書いてみたほうがいいのです書き散らすのも大いに結構なのですが、この大賞も、もはや粗製濫造で戦える水準でなくなってきていますので、そういった自分の書いた断片のようなものを一度集積して見直して、パーツを組み立てて細かいところを良い具合にアレして、もうひとまわり大きなものを組み立てられないか試してみてほしいですね。たぶん一度やってしまえば次からは自然と規模がひとまわり大きくなるのではないかと思います。

 

津島沙霧「今は、これだけ」

 うきゃ~! ラブいですね。うん、ラブですよ。

 ブコメですね。王道ド直球ど真ん中のラブコメです。ここまでど真ん中のものを本物川大賞で見かけることは珍しいのですが。熱量としてもほぼ一万字と中々の物を感じます。幼少の頃に唯一全てを投げ打って味方になってくれた人。そらまあ惚れますわね。展開としても基本をきっちり抑えている感じがあり、危なげなく着くべき地点に着地したという印象です。

 そうですね。こういうのをどう分類したらいいのかわからないのですが、いわゆるレディコミ系なのかな。生まれたときからそばにいる相手、親同然の相手にこの恋心を伝えていいものなのかどうか、自分の中にあるものをうまく処理できないでいる少女の面倒くささがいいですね。小さいころの約束とかね、こういう幼馴染ゆえの思い出とかね、もう本当にキュンキュンする。好き。

 設定やストーリーは既視感のある王道展開なのですが、些細なことでいちいち揺れ動く語り部の心理描写が解像度高くて若々しくてフレッシュで良いです。うん、恋愛小説ってのは変に奇をてらわなくて良いんだよ。これもほとんど文字数いっぱいなので足すとなると必然どこかを削る必要があり難しいところなのですが、当て馬の安野センパイがマジで当て馬なので、もうちょっと安野センパイのエピソードも充実していたりすると「もしや……?」みたいな雰囲気が出るんじゃないかな~って気もします。最終的に主人公ふたりが両想いなのは規定路線なのですけれど、分かっちゃいるけどピンチもあったほうが良いみたいな。

 

SPmodeman「ゴリ美」

 ぴゅっぴゅさんのSPmodemanさん。速と勢いとパワーで押し切った作品。

 タイトル打つだけで腰が砕けます。ゴリ美て。ここまでシンプルに顔面を殴ってこられると流石に困ります。さてこれの作者は本物川大賞きっての異端児にして問題児、SPmodeさんことどこもさんです。どこもさんといえばセックス、セックスといえばどこもさんですが、サイゼに行った次の行でもう妊娠していたのでやはりどこもさんです。展開が早いとかそんな次元じゃない。そしてセックスついでに日本列島の半分に喧嘩を売ってますが一体どうしたのでしょうか。全体通しての感想を言いますと、どこもさんにしてはオチの部分にパワー不足を感じましたね。あのどこもさんが。どこもさん基準でですけど。やはりハートマークがないのがいけないのではないでしょうか。至急工場に発注してきてください。最低ロットは一万からでお願いします。

 ……(←虚無顔)

 パワー。パワー。パワーのみ。力強さに力強さを加え力強さで味付けした力強い作品。おちとかどうでもよくなる。そこに至るまでのパワー、力強さ、西日本人。謎の地方ディス。本当に謎の地方ディス。あの地方ディスは何だったんだ。そしてあの落ちは。なんだったんだ。なんだったんだよ!そんな感じです。

 勢いあるパワー系は基本的に好きなんですけれど、ちょっとアクセル全開すぎて困惑しっぱなしというか、序盤はまだかろうじてついて行けていたんですがガリ男さんが出て来るあたりからちょっとどういう状況なのか飲みこめなくて何度か戻って読み直しながらになってしまいました。勢いを維持しつつ飲みこみやすい文章というのは意外とテクニカルなので、本当に勢いで行くんじゃなくて過度に説明的にならないように自然と情報を配置するなどの工夫が必要です。文体のせいで状況が分かりにくい上に、さらに島根やら西日本人やらの特殊な設定が説明もなくポンポン出て来るのでよく分からないまま話が進んだ上にまたよく分からないオチをつけられてもう分からないという感じ。推敲大事です。

 

綿貫むじな「ピースフル・ウォー」

 たぬきさんは第一回の大賞受賞者です。

 ゲームが代理戦争としての立場を獲得した世界の話。序章での「バグを付いて勝利した主人公とそれを認めた対戦相手」というエピソードに作者のゲーマー魂を感じます。割とゲーマー特有の思考回路なんですよねこれ。そしてオチの部分にもやはりゲーマー的思考回路が活かされている。何が掛かっていようが、相手が何であろうが、やる以上は絶対に勝ちたいしそれに挑むこと自体が楽しくて仕方ない。筋金入りのゲーマーほど
そういう戦闘民族みたいな価値観を持っています。そういう意味では、ゲーマーほどこのタイトルに相応しい存在は他にないのかもしれません。

 日朝系のホビーアニメを思わせる設定ですね。ただ本当に、アメリカ、ギーク等の横文字、並びに宇宙人の出現がとってつけたような感じがして違和感が強いです。それこそ日朝ホビーアニメ等の設定に沿った突き抜け方をしていれば違和感がなかったかなと思います。

 そうですね。カチっと組み上げれば面白そうなのですが、かなりソリッドな質感を求められるタイプの話なので現状ではまだまだチープさが気になる。もっと執拗に練り込むか、逆に質感が気にならないように世界設定をズラしたりテンションをシリアスな路線からもうちょっとコメディ / ギャグ寄りにするかなど、なにか対策が必要かも。馬鹿真面目にやろうとすると相当な労力になるだろうなと思います。

 

綿貫むじな「冴えない花火」

 二作目です。これも作風が全然変わりますね。

 重い。うめき声が出るような重さです。咲いては散り、また花開く花火をどれだけ観ても、果たされなかった想いはもう咲くことも散ることもない。この話は最後までカタルシスを与えてくれません。重荷をぽんと投げ渡し「じゃ。」みたいな顔で去って行きます。そしてそれもまた物語の一つの機能であり力です。物語は人に重荷を、爪痕を、ダメージを、何の謂れもなく、正当性もなく与えることが出来る。そうやって唐突に付けられた傷跡を、梅雨の雨音のように苦味を持って楽しむことが出来る。そういう読者になりたいですね。

 花火を見るたび思い出す、あの夏の日。好きだったあの子に好きだと言って、断られる予感はしたけどそれでも好きだといいたくて。告白が失敗して、帰りの電車で花火を見ながら、やっぱり好きだったと分かる。苦い思い出話、夏らしさのある短編小説です。

 つらつらとしていますね。たぶんテーマとしては「自分の受けた主観的なショックに対して、客観的な事実としてはありきたりすぎて大したことじゃない」「他人事なら大したことじゃないのに、自分の身に降りかかるとやっぱりショック」みたいな話だと思うのですが、ピントがボケているようで読み終わってもあまりなにも残らない感じ。書き始める前にまず自分の中で中心に据えたいテーマやコンセプトのようなものをしっかり持っておいたほうが良いと思います。逆に、テーマだけをしっかり持っていればわりとつらつらと書いてしまっても結果的には輪郭がシャープになったりもします。コンセプト大事。

 

ナツ・カウリスマキ8月32日

 きのこづさんの夏の夜に捧ぐ恋文のプロットを使って別の人が書いてみるという試み。こういうの面白いですね。

 そういうのもあるのか……今回、フリーダムな参加スタイルが多いですね。「夏の夜に捧ぐ恋文」とは違い、こちらでは最後まで語り口が変わらずどこか青春の青さと甘さを残したような描写で最後まで綴られます。しかし、どんな文体で綴られようが結末は変わらず、彼がどれだけ前を向いているように見えようとも、タイトルの一文が呪いのような影となって彼に覆いかぶさっています。一つの物語を別の作者が語り直すというのにも驚きましたが、こういう切り口の変え方があるのかと。目から鱗の思いですね。

 あちらでは恋文をつづるだけでしたが、こちらは墓参りまで踏み込んでいます。もう本当に思い出になってしまったんだな、というもの悲しさがいいですね。終わり方、後味はこちらの方が好み。自動車事故で、という部分と、引きずってはいるものの割り切ってる感じ。墓参りもしていますしね。向こうは未だ受け入れきれてない感じがサイコ味を増してますね。

 時制じたいが過去に飛ぶシーンがなくて、飽くまでも現在軸上から過去を思い返す構成になっています。これ、まさに僕が「もうすこしこうしたほうが良いのでは?」と指摘した部分を指摘するだけじゃなくて実際にやって見せていて素晴らしいですね。ただ単体の作品として見ると元が7500字のところを3000文字未満にまで圧縮していますので逆にストンとしすぎている感じ。飽くまで参考のために雛形を提示した、という感じなのでしょう。これを参考にきのこづさんのほうでさらにリライトを重ねると完全版夏の夜に捧ぐ恋文が完成すると思うのですが、いかがでしょうか?

 

中出幾三「カフカの翼」

 二作目。PNどうにかしろ。

 タイトルから分かる通り、恐らくこの作品もカフカの「変身」を意識したものだと思われます。しかし、前出のヤスデ人間とは全く別のアプローチでこの作品は「変身」に対して返句を返しています。「変身」において人間から毒虫と化したグレゴール・ザムザは最終的に家族によって排斥されました。では、既にいる動物が人語を喋るようになったら、動物が人間となったなら人はそれをどうするのか。恐ろしく痛烈な皮肉です。人間はその歴史においてその殆どを動物と共に歩み、時として友とすら呼んできました。そして同時に人間は多くの動物を絶滅させてきました。友と呼ぶことも、滅ぼしたことも、きっと言葉による意思疎通が出来ないからこそ成し得たことなのです。ではもし、動物が人間と意思疎通させて、同位の存在として肩を並べるようになったら? 恐らくその時、人は今まで動物に対して用いてきた虚飾を全て剥ぎ取られ、動物という人間以外の存在と、有史以来初めてほんとうの意味で向き合うことになるでしょう。その時、人間はどう応えるのか。この作品には、人間という種全体とある一人の女性、マクロとミクロの解答が示されています。貴方なら、どうしますか? 自由の象徴として飛び立った黒い翼に、そう問われた気がしました。

 ……(←なんらかのキャパを超えるとポエムスイッチが入るっぽいと分析している)

 もしも動物が言葉をしゃべれたのなら。そのワンアイディアから想定される展開を、一人の女性と、一羽のカラスに焦点を当てて描いていく作品。背景世界での動きが丁寧。ビリーバビリティというのでしょうか、なるほどこうなるだろうなという納得感がある。種族を超えた友情、亀裂、再生。きれいな物語ですね。

 ある日突然に全世界を巻き込む大規模な変革が起こり、そこから世界が変容していく。はずなんですけれども、語り部自身はそんな世界で起こっている変革そのものには興味がなくて、飽くまで自分とカフカの関係性のみにピントを合わせて物語が進行していきます。この奇妙な間合いの取りかたがちょっと特異だなと。実際に世界では色んな変革がどんどん起こっているようなのですが、それは語り部の叙述でサラっと触れられるだけで、通常SFではそういった現象にこそフォーカスしていくものだと思うのですが、あまり興味がなくただのBGMという感じ。気怠い終末てきな雰囲気と、それでいて希望を感じさせる読後感がまた奇妙で、不思議な作品です。

 

ゴム子「インダストリアル」

 タイトルは工場から出荷されたところ、みたいな意味なのかな? いまはまだ工場出荷状態のプレーンな素体。

 これは人生をやり直すための物語、いや、「新しく生まれ変わるための物語」なのでしょう。彼女は19歳になるまで母の中に閉じ込められ、この世に産まれていなかったのです。そしてようやく母から這い出て、別の母のような存在と出会いました。果たして彼女は、19年遅れの人生をこれからどのように生きるのでしょうか。そして、その後でどのように今までの19年を振り返るのでしょうか。或いは完全に忘れてしまうのかもしれませんが。名前が「海」というのはかなり直球の隠喩で、その率直さに作者のこの物語に対する思いと姿勢を見た気がしました。

 百合、百合でしょうか、百合ですね、多分そう。壊れてしまっていた家庭を壊していた母が壊れちゃった。家出するところは青春感じますね。終電のなくなった駅での出会いもよいですね。行為にまでは及ばない、そういうさじ加減もよいですね。母親殺して欲しかったなぁ(メフィスト脳)

 わりと重苦しい始まり方をするのですが、他人事のように淡々としていて、かつスキップするみたいに軽快な、語り部の妙に強かな語り口のおかげですんなりと読み進められます。描かれている客観的事実としてはじとっと湿気っぽい感じなのに、記述には湿気があんまりなくて乾いてサラサラとしている感じ。内田春菊あたりを連想しました。熱や湿度のない乾いた硬質な質感の語り部の叙述が、最後にほんのり熱を帯びる感じもあって、深層的な部分での心理の変化が伺えます。意図的にやっているならこれはすごい技術ですよ。説明でなく描写で感じさせてこその小説なので。個人的には頭ひとつ抜けた高評価。

 

芥島こころ「Linked.」

 どすけべメスボディ、ケツのどニキです。今回も滑り込みです。今回は滑り込みセーフです。

 武道の熟達者は構えただけで相手に力量を分からせるとか言います。また、優れたシェフはスープだけで数多の食材の旨さと奥行きを感じさせるとも言います。熟達者の技にはその片鱗一つにも力が宿るという話ですね。グラップラー刃牙にそういう話があったので間違いないです。で、それがこの作品にもあります。手馴れている。各所のメカニック描写の濃さ、それをさらさらとテンポよく重くなり過ぎないように流していく上手さ、これはかなりのSF者です。書き慣れているのか読み慣れているのかまでは分かりませんが、相当に好きモノと見えます。オチも、何かが始まりそうな期待感と悪いことが起きそうな不安感が混在しており、中々一筋縄ではいかせない。何より非常にスムーズに読めて素晴らしかった。ただ、ちょっと改行、スペースが所々おかしいように思うのですがこれは演出なのかどうなのか。

 ビジュアルがほしいというのが本音です。イラストありきの面白さ。多分短編漫画であれば非常にいいものになるのではないかと。多分文章だけだと時間経過、サバイバルに関して読者側に与えられる情報量が少なすぎる気がします。焼け焦げたコンセントのみではなくて、付近の壁の汚れだとか、床に積もった埃の具合だとか、なんかそういう、文章にするとくどさが出てくるディテールが必要なタイプの話だと思いました。

 大澤さんがさきちゃん潰しを行った結果、どニキが完全新作で滑り込んできました。と思ったけど、完全新作……? プロットとしては第一回で出してきた「戦いのあとに」をほぼ踏襲する感じになっていますね。ただの雰囲気ガジェットなのか本人の中では膨大な裏設定が(脳内では)存在しているのか分かりませんが、物語の要請としてリンクするAIである必然性などが説明しきれていないような気もします。たぶん、リンクするAIなので一機だけでもなんとか生き抜けばそこから仲間の復活の可能性もあるてきなアレで、この男ひとりの気まぐれ次第でなにかがここから起こるかもしれないんだという希望を感じさせる引きなのだと思いますが、他の姉妹に関する具体的なエピソードの提示がないせいか、あまり姉妹の復活が一大イベントなんだと認識されていないような。エンディングのわくわく感は戦いのあとにのほうが上、ガジェットに関する描写の質感はこちらのほうが上という感じ(ただしまだまだ執拗に高めてほしさはある)なので、本人的にもこだわりのあるプロットのようですし合体させてまた同一のプロットでこれこそはという完全版を書いてみてほしいなぁ。

 

こむらさき「メンヘラ牧場」

 一分遅刻でゼロ点です。安定のメンヘラ描写のリアリティとミサキくんのクズ具合が最低ですね。物語はまだ導入部という感じですし連載中みたいなので今後の推移を見守りたいと思います。ミサキくん刺されるなよ。

 こむらさきさんの胃壁をノミで削ってくるような残酷メンヘラ物語から幕を上げた第五回本物川大賞ですが、最後はこむらさきさんの無惨メンヘラ蟻地獄です。なんなんですか。なんで最初と最後が綺麗にコンビネーションワンツーアタックなんですか。タグのラブコメはどういうことなんだよ! まあでも今回は主人公のミサキくんもそれなりに自業自得な感じなので少しは胃に優しいですね。彼が今後どうなってもそれなりに彼の責任ですし。無限に積み上がり続ける未読メッセージは賽の河原の石ころか、はたまた天に裁かれるバベルの塔か。黄金の果実に手を出した先に、待ち受けるのは蛇の牙。
例え毒に蝕まれようと、人はその欲を止められない。その先に、悪夢の連鎖があろうとも。次回、直接訪問メンヘラ。来週もこむらさきと地獄に付き合ってもらう。ところで、これは誰か実在のモデルがいたりするんですかね…?(何かを疑うような目)

 おしいですね。でもアウトです。

 

 

大賞選考

 はい、それでは続きまして大賞の選定に行きたいと思います。いつも通り、それぞれに推しの三作品を選んでもらって、あとは合議で決めていくって感じですね。

 まず僕の推しとしては、ゴム子さんの「インダストリアル」 中出幾三さんの「カフカの翼」 既読さんの「ヤスデ人間」の三作品になります。

 同じく既読さんの「ヤスデ人間」 中出幾三さんの「カフカの翼」 それに ラブテスターさん「午後王」で。

 中出幾三さんの「カフカの翼」 でかいさんの「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」 ラブテスターさんの「腕食い」 です。

 これは……(笑)

 大賞は決まりですかね……?

 いいんじゃないッスかね。

 完成度だとヤスデかなと思ったんですけど。

 完成度ではヤスデのほうが強いんですけど、やっぱ読後の清涼感というかヴィジュアルイメージが良い。

 正直ヤスデの絵を見たくなかった。

 誰も幸せにならない……。

 題材の時点で負けていたのだ……! 

 カフカの翼、内容もそうなんですが、非常に絵になる。

 カラスと少女は絵になりますよね。では大賞は……?

 第五回本物川小説大賞、大賞は中出幾三さんの「カフカの翼」に決定です! おめでとうございます!! わーパチパチドンドンヒューヒュー。

 おめでとうございます🐼

 このタイミングで四股名みてぇな名前に変えやがって畜生。大賞発表後にしろってんだ。

 さて、じゃあ次に金賞ですけど、得票でいくと既読の「ヤスデ人間」になっちゃうのかな?

 順当かと。

 異議なし。

 あまりにもドラマ性のない金賞選定でしたね。正直、中出幾三さんと既読はもう小説としての完成度で頭ひとつ抜けている感じがあるので、本物川小説大賞とかやってないでとっとと次のステージに飛び立っていってほしいです。このままじゃ弱い者イジメになってしまう。

 さっさと賞取れよ、賞。 

 あとは ヒロマルさんの「盗読のシミュナレーション」 左安倍虎さんの「魂までは癒せない」 一石楠耳さんの「スタンダップコメディアンはチャイナドレスと話せない」 あたりも完成度で飛びぬけてますよね。文字数と規模の感じでどうしても大賞というとサイズの大きなものが印象に残ってしまいますけど。

 そうですね、輪郭があるというかやりたいことをちゃんとやれている感があります。「形」になっている。

 あの三つは本当に特にいうことなくてレビュー書きづらかった。

 ちょっとお手本的すぎ、綺麗にキマりすぎで、ウェブだともっと尖っていてもいいのかな? みたいな思いもあります。本物川小説大賞てきにはエッジの立ったものが評価されがちの傾向がありますしね。

 僕としては しふぉんさんの「天使」 くすり。さんの「ヴァイオレントヴァイオレンス」 はしかわさんの「潜水」 にもなにかあげたい所なんですけど。

 雰囲気ものに甘いパンダ。

 潜水、好きですよ。

 さて、銀賞二本の選定なんですけど、ここからは団子っぽいですね。得票ではラブテスターの「午後王」「腕喰い」 でかいさんの「箱庭的宇宙」 ゴム子の「インダストリアル」 が一票ずつ。

 ある意味ここが一番難しいですね。

 でかいさんの「箱庭的宇宙」はいいですよね。ウェブならではのUIをうまく使った構成で楽しさがある。こういうアイデアは本物川小説大賞てきには評価していきたさあります。

 ウェブでの小説大賞ですしね。

 基本的には横書きで小説読むの辛いんですけど、メールっていう形式だと横書きすごい読みやすいですよね。

 読みやすくて文字量を感じさせない。

 そうそう、結果的に10000文字ちかくを読まされてたという感じでした。では、銀賞一本はでかいさんの「箱庭的宇宙」でいいのかな?

 良いかと。

 異議なし。座布団あげたい感じですね。

 (座布団……?)

 ……さて、もう一本ですけど。銀賞三本になりませんかね?(知的怠慢)

 なりません。

 インダストリアルも凄いいいんですよね……書き出しとラスト一行も凄く綺麗に決まっている。

 綺麗にまとまってますよね。話としては序章っぽいんだけれど、ここで終わりで問題ないみたいな。

 どうして母親を殺さなかったんだろう。殺してたらなぁ。殺してくれてたらなぁ。

 メフィスト脳だ。

 僕は構成とか描写力とかの各項目で個別に点数つけて最後に合計で評価つけてるんですけど、実は合計点では全作品中でインダストリアルが一番だったんですよ。読んでるときにはそこまで飛びぬけて印象があったわけでもないのに数値化して合計してみたら一番だったので不思議な感じでした。そういう不思議さがなんかある。総合力てきな。

 そういえばリボーンというかリバースというか、そういうのが多かったですね今回。

 うさみんてい(みたいなウザい名前の人)も抽象的には全てリボーンがテーマですよね。なんかあるんでしょう。二十代中盤に二度目の思春期みたいなのが。

 夏だからかな?(適当)

 夏は腐る。

 季節感で言うと、きのこづさんの「夏の夜に捧ぐ恋文」と佐伯碧砂の「夏の午後、風のサカナ。」も非常に良かったのになぁ……。

 そう! 小学生オブザデッド! すごくよかった! その話がしたい! すごくよかったの! 最後まで! 直前まで!

 意外な結末!!!!

 やめろ!!!! やめろよ!!!!!

 もうほんとそこだけがね……。

 彼は気が狂っていたエンドは徐々に違和感が拡大していくジリジリとした描写が肝ですので、そこは左安倍虎さんの「魂までは癒せない」などを参考にしてほしいです。

 そこができたら、金銀くらいに入ってたかもしれない。

 私ぶっちぎりで大賞に推しますよ。

 「違和感を抱かせつつ先が気になるので深く考えずに引っかかりを覚えながらも読み進める」みたいな状況がどんでん返しをキメるための下地になりますので。下地作り大事。

 そういう意味ではラブテスターの「腕喰い」もすごく良いんですけど、事前にピアスやインプラントなどのモチーフが出てきているとスッと来る感じがあったかなって思うんです。動機の斬新さと、それでいてストンと納得できる感じはいいんですけど、やっぱりちょっと唐突なのと、それを類推するための材料が事前に提示されていない感じで、「ミステリー」と銘打たれるとちょっと違うなって感じ。

 ミステリー部分は正直どうでもいいのです! 新米とベテランの刑事コンビ! 性格の悪い探偵と助手の関係性に萌えてこそのミステリー! 謎?そんなもんは犬に食わせとけ!!!!

 商業ミステリーもだいたいミステリー部分はオマケですからね。まあ、このへんはまだまだポテンシャルを持ってそうという意味で僕のラブテスターに対する潜在的な評価が高いからこその不満なんでしょうけど。

 もっとやれたやろという。銀賞どうしましょうね。

(ごにょごにょごにょごにょ)

(ごにょごにょ)

(ごにょごにょごにょごにょごにょごにょ)

(ごにょごにょ) 

 では、最後の銀賞一本はゴム子さんの「インダストリアル」ということで。

 はい、おめでとうございます!

 おめでとうございます。じゃあ以上で解散ですかね?

 あ、ちょっと待って。ねえねえ有智子ちゃん。

 はい。

 前になんか副賞のイラスト描いてもいいよてきなことを言ってた気がするんだけど本当にやる? やってくれるなら有智子ちゃんが描きたいって思ったの一本選んでもらって特別賞ってことにしようと思うんだけど。

 あ、やります。えっと、じゃあ午後王で。

 オッケー、よろしくね。

 はい、というわけで第五回本物川小説大賞は、大賞 中出幾三「カフカの翼」 金賞 既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」 銀賞 でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」 ゴム子「インダストリアル」 特別賞 ラブテスター「午後王」 に決定しました! おめでとうございます!!

 これにて闇の評議会解散~! お疲れ様でした!

 お疲れ様でした。

 お疲れ様でした。

 撤収~~!

 

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