第二回本物川小説大賞クリスマス大会、大賞は大村中さんの「でも、女装を着けて」に決定しました!!

 平成27年12月ころから12月25日にかけて開催された第二回本物川小説大賞クリスマス大会は、選考の結果、大賞1本、金賞1本、銀賞2本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

 大賞 大村中 「でも、女装を着けて

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twitter.com

 

 受賞者のコメント

「まずこれ大賞とかあったんだ!?」が連絡を受けた際の素直な感想でした。次に大賞という名誉な賞をいただけたことに対する感動が徐々に沸き上がり、今はまだ実感がもてていないのが正直なところです。
 こういった形で評価されるのは慣れていないため、今現在もむず痒さでいっぱいですが、この評価を真摯に受け止め今後の創作活動に励んでいきたいと思います。
 また本物川氏からイラストをいただけるそうで、本音を言えばこれが一番嬉しいです。イラストの利用に関しては後で本物川氏に確認しますが、可能であれば同人活動での書籍化の際に表紙(または挿絵)として使用できれば、と考えております。
最後に、このような賞を賜り本当にありがたいかぎりです。このような機会を与えてくださった本当川氏に、心よりの感謝を。ありがとうございました。

 

 大賞を受賞した大村中さんには副賞として本物川の描いたイラスト贈呈です。好きに使っていいんで勝手に出版して下さい。

 

 金賞 karedo 「ボゥ・アンド・スクレイプ -執事喫茶の悪魔たち-

 銀賞 ポンチャックマスター後藤 「魔弾

 銀賞 しふぉん 「蒐集癖

 

 というわけで真冬の素人黒歴史小説甲子園 第二回本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのは大村中さんの「でも、女装を着けて」でした。おめでとうございます!

 

 選考の透明性を確保するために、以下、闇の評議会による選考過程のログを公開しておきます。

 

 みなさん、新年あけましておめでとうございます。昨年末の本物川小説冬の陣クリスマス大会の大賞を決定するために召集されました闇の評議会、議長の謎の概念です。

 謎のたぬきです。

 謎のねこです。

 第一回本物川小説大賞は外部に審査員をお願いして籠原スナヲさんに決定して頂いたのですが、実際にお願いしてみて「あ、これは相当な労力やぞ」ってことが判明して、そんな気軽にお願いするものじゃないなということになりまして、次からは自分たちでどうにかしようという話になり、今回、大賞選出のための闇の評議会を招集することとあいなりました。まあ三人居るのでそれなりの中立性は確保できるのではないかと思います。次回以降もおおむね同様の制度で運用していくことを検討しておりますので、まあ色々とあるでしょうがひとつご了承いただきたいということで。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 

 さて、それではひとまず全作品を投稿された時系列順に一通り紹介していこうと思います。


 まずは起爆装置精神的全裸修行です。

 毎度毎度、TLの流れと大澤さんのノリで曖昧に始まる本物川小説大賞ですが、今回の冬の陣が始まるきっかけとなった投稿ですね。同級生の男で抜く、という普通ならなかなか経験したことがないようなアレのはずなんだけど、不思議と共感を呼ぶ謎のパワーがある掌編に仕上がっています。

 まあなんというか純文学っぽい掌編をさらっとお出ししてくる辺り、起爆君の文才に正直嫉妬を感じる部分が無くもないですな。心情描写が巧みで同じ書き手としては歯噛みしながら読んだ作品ですわい。

 同級生の男でオナニーするというテーマのインパクトと、それを妙なリアルさで書けている点が秀逸でした。ぼくの評価の中では、大賞候補まであと一歩の作品です。他のトップ層の作品と比べると若干短く、大きな展開に欠ける点が、一歩及ばなかったポイントですね。とはいえ、このコンパクトさでこれだけの印象を残せたのは見事でした。

 リズム感の良い文体も気持ちが良くポンポン読めますし、連作短編の形式で連載中の作品になりますので今後にも期待したいですね。

 

 はい、次に起爆装置のクリスマス小説に触発されて大澤さんが書いたクリスマス掌編クリスマスフラットホワイトファイアーワークスです。このへんから曖昧に小説大賞が始まりました。謎の概念は謎の概念なのでノーコメントです。

 これは誰かに語り掛けている感じの文体で、相変わらずの高い文章力をもって、かつての冴えない思い出をありありと伝えているのが実に良いと思った作品です。クリスマス小説としても、クリスマス=恋愛というセオリーをはずしてクリスマスの冴えない思い出という点を綴ったあたりも僕は評価できるかなと思いました。

 この作品では、現実にはなさそう、いやでもありそうかも、と思えるような微妙な体験が、特別なクリスマスとして語られているわけですね。華やかな体験ではないのだけれど、こんな体験をしてみたかったと思わせる点が強いです。一人称による単純な構成ではここまでの効果は出なかったはずなので、主人公が過去を振り返る形を選んだ点も、構成力として高く評価できます。

 

 はい。つぎは前回の本物川小説大賞の覇者、DRたぬきHoly Shit Christmas。ここで大澤ひきいるキラキラ軍とたぬき率いる怨念軍で小説バトルしようみたいな曖昧な話になってきました。曖昧ですね。
 本物川小説大賞覇者らしい安定してちゃんと書き物として成立している感じで、手堅いという印象。今回の小説大賞でもひとつの基準になるものと思います。

 この作品については謎のたぬきなのでノーコメントでお願いします

 「クリスマスに怨念を感じるグループのテロ」というなかなか難しいテーマから、うまく話をまとめており、骨折も少なくスムーズに読める作品でした。
読者を裏切る急展開のようなものがうまく組み込めると、大賞候補に入ってくる内容になるのではないかと思います。

 

 はい。つぎはどこもさんの聖人の誕生。先日連載が終了した聖戦士マリオンのスピンオフ作品になっています。
 話としてはただただシリアナをほじっているだけなのですが、インフレ具合がそのままギャグになっていて勢いで笑わされてしまいます。単発の短編でなく別の本編のスピンオフという性質上一般性に欠けるところがちょっと難ですが、本作を楽しめた人は本編の聖戦士マリオンも読んでみると良いでしょう。

 これはあれですね、聖性というものを穢すためにはどうすればいいのか→肛門を犯せばいいという斜め上の発想にまず驚いた作品ですね。独特の速度を感じさせる文体でスルスルと読めます。最初は思わず描写で笑ってしまったが後半に読み進めるにつれてエロさが比例して上がっていくのは必見ですね。クリスマス要素は薄いのでそこだけは残念かなと思います。

 「あまりの穢れなさによりケツの穴に入れたディルドが浄化され消えてしまう」といった強烈な飛躍が持ち味のどこも氏。独特な世界観が本作でも発揮されており、一見の価値ありです。ただし、『聖戦士マリオン』の外伝ということで、やはり本編を読まないと理解しにくい点も多く、独立した作品として見るにはちょっと無理がありそうです。

 やはり単発で完結している短編のほうが射程が長いという部分はありますね。

 んむ。

 

 つぎは不死身探偵クリスマスクロスオーバーステップ。キラキラレズ小説ですね。

 書きたくて書いたという感じがあって好感が持てます。お話としての捻りやオチは特にないのでダラダラと雰囲気で読む感じになりますが、この路線で行くのであれば牽引していくためのポエティックな表現などをもっと高めてほしい感じはあります。

 雰囲気物に厳しい概念

 別にそういうわけでは……(笑

 映画鑑賞から、相手が寝てしまった後の肉体に触っている部分が特に不死身さんの描きたい部分で、情欲を感じますね。疾走するかのように改行なく書き続けている辺りが特に。しかし寸止めなのがらしいといえばらしい。クリスマスに二人で過ごすという小説でもあるのでクリスマス小説としての必然性もあるかなと思います。

 恋人同士という体裁があっても実際に体を重ねるには勇気が要る……という初々しい心境がよく描けていると感じました。キャラクターそれぞれの反応も自然で、よくキャラクターがイメージできているのがわかります。ただ、テーマとしては同性愛であることや、片方がハーフであることの特殊性が発揮される部分はあまり描かれておらず、やや消化不良の感がありました。もしかすると、普通の男の子と女の子の話にしたほうが、より完成度の高い作品になったかもしれません。

 おそらくそこはただの作者の性癖でしょう(笑

 書きたいものを書いた!良い言葉だ。

 

 つぎは大澤さんの二作目、来栖と増田。くるすとますだでクリスマスだ。はい。

 羽が生えてる女の子とバスケ部の男の子のたわいないお話ですね。羽についてどう思ってるのかと言う話を転がしていったらいつの間にか一緒にクリスマスを過ごそうという事に。羽は進んで見せるものでも無かったけど、ひそかな私の好きな所というのが良いですね。暗喩的な何かなのかなと思ったりしました。

 「ひそかに愛している自分の美点を人に見せることへの恐れと期待」という難しいテーマを、暗喩によって表現したところに、この作品の妙味がありますね。「羽」というオブジェクトを選んだことで、隠喩によってテーマがうまく受け止められており、直接的な表現よりも自然に共感できます。クリスマスという必然性はやや薄い気もしますが、掌編であればこのくらいのつながりで十分という印象もあり、評価はやや迷うところです。

 

 つぎは左安倍虎さんの闇を照らす瞳。話の展開としては定石通りのベタベタ恋愛ものながら主人公とヒロインのキャラ設定でちょっと新奇性を演出している感じ。短編ではなかなか難しいところもあるのですが、もっとキャラ造形のオリジナリティで読者を引き込めればより魅力的な作品に仕上がりそうです。

 中二病を演じている男子と女子の恋愛もの。結論から言えば末永く爆発してほしいですね。中二病的言い回しもしっかりしていて短いながらもこの話の基幹になっている部分も良いと思います。クリスマス要素は薄め。

 いわゆる典型的な中二病同士の恋というテーマ設定が独特でおもしろいですね。ただ、作中ではどちらもそれほど深刻な中二病とは思えず、特に女の子のほうは中二病ではなくただ男に話を合わせているだけのようにも見えます。それはそれでリアルなのだけれど、二人とももっと深刻な中二病として設定したほうが、作品の印象としてはもっと強力なものになったかもしれないと感じました。

 

 つぎは掘木環クリスマスローズぷっちょってなんだよ。

 序盤から読者を引き込む勢いと妙な文体の魅力はあるので、オチをブン投げずに丁寧に着地させれば意外とバケたのではないかという気もします。こういうのもあってこその本物川小説大賞って感じなので次回以降にも期待したいですね。

 キラキラ小説が続いた中の怨念小説。クリスマスにキラキラ小説を書こうとして書けなくて煩悶するおじさんの話。クリスマスに独り身で小説を書こうとして書けない侘しさがあるけどオチが投げっぱなしなのがちょっと残念ですかね。

 ぼくこの作品10点満点中7点つけてるんですよね。全作品中でもわりと上位。

 ザワザワ……。

 ふぁっ!?

 まあ単純におもしろかったんですけど、特筆すべきは文章力の高さです。読んでみればわかると思いますが、一文が簡潔でとても読みやすく、テンポがよいのです。オチでガンダムローズを組み立てる流れはやや唐突でしたが、それにしてもなんだかよくわからないおかしみがあります。個人的には非常に好印象なんですが、こんな作品をあまり推すとおこられそうなので、大賞候補からは泣く泣く外した作品です。

 まあ、たしかにあの短さで少なからず笑ってしまっているのでコスパはいい感じしますね。

 

 つぎは既読風船インビジブル。個人的には大賞候補の一角です。

 9割5分までスルスル読ませて最後の最後でガーンとひっくり返す手腕が素晴らしい。手術シーンなども描写にリアリティが感じられて(本当にリアルなのかは自分には判定できないが)よく練られている感じがある。描写力で読者をグイグイ引き込んでいくパワーがそのままオチを予測させないミスリーディングの役割を果たしていて、熟練のマジシャンみたい。

 既読先生の怨念もの短編。ひとりの男が幽体離脱して今の自分の状況を第三者的に見ている。二転三転させてからのオチに見せかけての本当のオチを用意するという仕掛けがなされていて、その構成に思わず舌を巻くほどの完成度の高さ。そして医学用語や薬品についての知識がある事も伺える描写がすごい。このレベルまで来るとクリスマス要素とか関係なく推していきたい作品の一つですね。個人的にこの構成の仕方は見習って自分のモノにしたい、そんなふうに思える作品です。

 ぼくのコメントシートには「まぐろ」って書いてありますね。

 はい。

 

 見晴川いよ狡い大人が嘘を奇跡と粉飾した冬の夜のこと
 大人のほろ苦恋愛小説。いちおう叙述トリックてきな感じのオチが用意されていますけれど、いちおうという感じでそこまでしてやられた感などはありませんでしたね。でも根本的な文章力が高いので面白く読めました。

 キラキラ小説。同性恋愛ならではの葛藤する恋愛感情を描いた作品で普段そういうのを読まない自分としては新鮮な感覚で読めた作品。心情描写が巧みだと思う。クリスマスはイルミネーション描写程度なので薄め。

 「嘘は吐いちゃいけないというけど、ヤってないけどデキちゃった、なんて大嘘が奇跡として罷り通る今夜くらいは、この嘘も見逃してはくれないのだろうか」というフレーズが魅力的で、この後の展開に強い興味が持てました。ただ、この強いフレーズの対象となる「嘘」は、淡く優しいもので、「見逃してくれないだろうか」と切望するようなものではなさそうにも思えます。作者には魅力的な文章を書ける力があるので、より大きな展開を期待したいところです。

 

 つぎは胡紫ネズミのお城の真ん中で

今回のエントリー作品の中でもっとも読者の心をザワザワさせたのは文句なしに本作でしょう。語り部の僕も僕の彼女も底抜けにクズながら、かなりの部分で多くの人の共感を呼ぶところがあり、意外と一般性があるっぽい。全体的に笑いのほうに振っているけれども、まったく同じ話でも文体次第で純文学にまで高まりそうなポテンシャルを感じるので、そこがちょっともったいない感じはしてしまいます。

 怨念小説。事実90%と言う事でほぼ私小説としてこれを読んだけど、こむらさきさんの恋愛相手が中々キッツイ。32歳でそれはちょっと…というような人物。しかし当時のこむさんも中々に仕上がっているので割れ鍋に綴じ蓋という表現がピッタリ?しかし嫌いじゃないけど思い出すのが辛いというのは既に拒否反応として出ているのではないでしょうか。精神的全裸ポイントとクリスマス怨念度がかなり高めである意味おすすめしたい一本。

 実体験的な内容の小説ですね。自分も彼女の服とか気にしたことがないので、とても共感できます。とはいえ、実体験に基づいているためか、大きな盛り上がりはなく、レポート的な雰囲気です。読みやすい文章でテンポもいいのですが、小説として見ると、もう少し展開がほしいかなと感じました。

 

 つぎ。黒アリクイクリスマスイブの夜に

 なんのエクスキューズもなしに日記から始まる体裁で「語り部が誰なのか」がトリックになっています。実際に僕はまんまと引っかかったんですけれども、大オチの見せ方がわりとアッサリしていてしてやられた感があまりなかったので、見せ方次第でもっと化けた可能性を感じます。本作が生まれてはじめて書いた小説ということなので今後にも期待したいですね。

 怨念小説。日記を読むような形式で導入開始。男がどういう風に暮らし、その後のイベントを楽しみにしているのかとその後の対比ですね。ある意味一番愛が深いとも言えますが……。小説初挑戦ということであまり長く書けなかったのでしょうが、次回作品にもぜひ期待したいところではあります。

 約1800字という非常に限られた文字数の中でサスペンスを演出するのはなかなか大変なものです。この短さの中でも、必要と見られる道具立てはしっかり揃えられており、一読して混乱することなく読めるのは高評価。しかしやはり短すぎる中で組み立てたためか、ラストに意外感が薄いのは惜しいところです。プロットにひねりを加えて、もう一回り大きなサイズの作品に挑戦してみてほしいと思います。

 

 つぎ、百合姫しふぉん蒐集癖
 これはすごいです。素晴らしい。話としては淫靡な少年に誘惑されてナニを致しまくるだけの話なのだけれど、グングン読ませる文体が圧巻。文章力が抜群である。完全なストレートの剛速球で勝負してきたという感じ。すごい。

 同性愛要素のあるキラキラ小説。圧倒的な描写力で有無を言わさずに物語に読者を引き込んでくる魅力がある短編。まさに文学と言うにふさわしい表現と知識量に裏打ちされた単語の数々は作者の教養の高さを伺わせる。クリスマス要素が薄いのは残念だが、それを除いても一度は読んでみる事をお勧めしたい作品。

 淡々としながらも陶酔しているという主人公の感覚が、独特な文体でよく表現されています。やや衒学的な感はあるものの、読みにくいというほどではなく、雰囲気のある文章でした。ただ一点、選ばれるほどの「闇」を抱えたはずの主人公のその「闇」がどんなものだったのか、明確にならずに終わったのは惜しかったように思います。

 

 つぎ、大澤さんのみっつめ。クリスマスがやってくる。大澤さんが今まで書いた中で一番短いですね。一発ネタです。

 大澤さんのキラキラ小説三本目。誰が名づけたかクリスマス。クリスマスが到来するまでの間の日常を静かに過ごす二人のお話し。何はともあれ、その日がやってくるまでの日々をたんたんと、しかし幸せそうに達観して過ごしている描写が良い。ショートショートとしてよくできている作品だと思う。同時にクリスマス小説としてもポイント高し。クリスマスが単なる祝日として使われるのではなくそこから転じた発想をしたのが良い。短いですが僕は大賞候補に推したいですね。

 「クリスマス=巨大隕石」というアイデアのもとに、世界滅亡前の風景を描くという試み。パニックをあえて描かず、静かな日常を描くことで、終末感が漂う作品として成功しています。ただ、やはりSFとしてはテーマがありがちな部類に入るかもしれません。この作者の作品は、初期の頃から比べて文章力の顕著な向上が見られます。

 

 つぎ、りっくクリスマスの夜に

 池田サンかわいい!奥手同士の恋愛のアレてきなアレ。うん、なーなーにするのはよくないので男子諸君はちゃんとすべき時にはちゃんと言葉にしような。

 キラキラ小説。コンビニでクリスマスで男女のイチャイチャ爆発しろ案件。でもこういうのがいいんですよみたいな、そういうイチャつき方で池田さんがひたすら可愛い。とにかくキャラクターが良いです。よく立ってます。

 大きな展開や驚くような仕掛けはなにもない作品です。文章も際立ってうまいとは言えないかもしれません。けれども、この作品にはなにか読者を引き込ませるものがあるように思います。それは会話のリアリティかもしれないし、キャラクターの魅力かもしれませんが、はっきりと指摘できない、総合的なものでもあります。登場人物の数が最小限に抑えられ、そのため細やかな心理の動きをしっかりと追うことができている点が、技術的には評価できます。クリスマスというテーマを自然に消化できており、ぼくの採点表ではトップテンに入っています。

 

 つぎもりっく。怨念軍との掛け持ちです。 Merry Christmas from

 中盤の壮絶なアレをグイグイ読ませていく文章力はさすが。オチはちょっと唐突な感じがあり、もう少しストンと納得できるような伏線を序盤からはっておけばもっとスッキリしたのではないかと思う。ともあれじゃあ両方書きますわ~ってサラッと両方ちゃんと仕上げてくるあたりに安定した力量の高さが伺えます。

 りっくさんの怨念側小説。クリスマスイブに起こった4人の、数奇に交わった悲劇。
視点変更がかなり行われるが混同する事なく読める。胸に突き刺さるような辛さがある。多少落ちが強引だけど復讐者となるのも已む無しかなと思わせるような経緯で納得感はある。

 「犯罪者を強く憎む人物による死刑執行」というテーマ自体はおもしろく、また文章からは作者の潜在的な力量が十分に感じられます。ただし、やはりこのテーマ、このプロットに対して、この分量はあまりに少なく、消化しきれていないように感じました。最低でも倍以上のサイズが必要な内容と思われます。

 

 つぎです。ポンチャックマスター後藤魔弾

 これもすごいです。勢いで読ませていく厚みのある文体。魔弾に対する説明の薄さがまたホラーっぽくて良い。いま、この語りは誰の視点なのか、というのが曖昧に変化していくので分かりにくいのだけれど、それすらも設定に回収されているので長所として発露していますね。

 他の参加者とは一線を画するセンスを持ち、圧倒的なポンチャック力で強引に読ませてくる力強さがある。この物語の解釈の仕方はちょっと難解な気がするけど雰囲気で楽しめるのでぜひ読んでほしいし、どういうオチになったのかを考察する事も楽しんでほしいと思う。個人的には大賞候補のひとつですね。

 「銃で撃たれると人格が入れ替わる」というアイデアのもとに、銃の視点から人格の入れ替わりを一人称で描く特殊な叙述です。視点の移り変わりに心象風景の描写が加わって、地の文は錯綜しているものの、話の筋は単純なので、読者は混乱しつつも意外なほど自然に読み進められます。このねらいはとてもおもしろいのですが、作者はあまり自覚的にこれを構成しているわけではないのか、結末が順当すぎて、やや物足りないように感じました。ラストにもうひとひねりあれば、大賞候補に推したかった作品です。

 

 つぎ。yono猫のクリスマスソング。小説というか詩みたいな感じですね。ちょっと評価は難しいですがわりと好きです。

 ひとり身の少女の膝に寄り添う猫が可愛いですね。世界観をもっと広げて分量を増すともっと良くなると思います。

 人を楽しませて知識を与える図書館という存在と、その役割に反して誰もやってこないという背反に、自己愛と現実のギャップが投影されていることが伝わります。柔らかい雰囲気で生臭さはなく、過剰な願望充足もなくつつましやかで、共感できる作品です。この規模感、このテーマなら、小説という形よりも、童話や詩のほうが適しているように思います。

 

 つぎ。DRたぬきクリスマスオブザデッド。タイトル通りのゾンビものですね。
 ハッピーエンドっぽい終わり方をしているけれども本当にそれでええのんか?みたいなブン投げ感もある。ちゃんと説明づけしていくのかブン投げてしまうのか曖昧で、どっちかに振ったほうがスッキリしたのではないかという気はする。平均してうまいだけに欲が出てきてしまう感じ。もっと尖ったものを書いてみてもよいと思う。

 これに関しては別のたぬきが書いたものなのでノーコメントです。

 約1万5000字の作品で、話の展開がテンポよく、サイズのわりにさくさくと読み進められました。主人公がゾンビという異色の設定がおもしろく、ラストまで読者の興味を引っ張る構成とプロットが高く評価できます。ただ、かなり急いで書かれているのか、細かな骨折がいくつかあり、文章も煮詰めきれていない感があります。モミの木の話もやや取ってつけたような感があり、序盤からもう少し木の特殊性は強調しておきたかったところではないでしょうか。しっかりとした推敲を経ていれば、大賞候補の作品になった可能性があります。

 

 つぎ、黒アリクイ二本目。爆殺怪人クリスマ・スー。ブン投げ系ですね

 怨念掌編。一人の科学者が怪人を作ってクリスマス爆発を目論むが…という内容。言ってしまえば爆発オチ。怨念ポイントは割と高めで書いた本人のクリスマス憎み具合には共感を持てる。

 クリスマスにリア充を爆殺するためにマッドサイエンティストがついに最凶の怪人を作り上げる……というテーマ自体はおもしろいものの、やはりこれではプロットが貧弱すぎると感じてしまいました。せめて、ダイナマイトを放り込んだから爆発した、ではなく、もう少しなぜ爆発してしまったかについて納得できる伏線がほしかったです。

 

 つぎ、かくぞうクリスマスをぶっ飛ばせ

 ジェット橇なんか出て来たりしてパンクなサンタクロースの話。序盤から物語に引き込んでいくパワーはあるのだけれど、後半になるにつれ特殊な設定が十分に伝わってこない感じがあり、あれ?これは今なにをどうしているところなんだっけ?と首をかしげながら読み進める羽目になるのであまり読了時点での爽快感がなかった。設定についてちゃんと説明するか、説明が必要になるような複雑な設定は排除するか、なんらかの工夫が必要な感じはある。

 クリスマス怨念短編。サンタクロースがクリスマスの夜に荷物を配送するうえで色々トラブルが起きる中でのストーリー。どっちかっていうとライトノベルを読んでいるような感覚がある。主人公の軽妙な語り口で語られる物語には親しみやすさを覚える。結局主人公は怒りに任せた結果、不幸を背負いこむのだけど一緒に笑い合える仲間がいるというのはやはりいいものだと思った。

 好き嫌いの大きく分かれる作品ではないでしょうか。プロットは単純で、若いサンタの失敗を仲間が団結してカバーするというもの。映像にしたらきっと美しいだろうと思えるシーンが散りばめられており、映画的な小説になっています。ただ、文体が非常に饒舌で俗っぽい一人称となっており、映像的なシーンへの没入を難しくしているように感じました。地の文は三人称で淡々と語りつつ、必要な部分は主人公に喋らせるかたちでもよかったかもしれません。

 

 鹿聖地に二人

 都合で恋人の真似事をさせられる腐れ縁のお友達みたいな定番のやつ。オチがブン投げ気味のアッサリした感じではあるけれど、ストンと納得できる感じで気持ちが良い。

 同性愛者である彼女に対して届かない思いを抱く男というお話し。クリスマスと言えば恋愛、別れ話はつきものだが同性愛者に届かない思いを抱くというのは捻りが効いている、と思う。

 本編では少し消極的すぎるように感じられる主人公と、鈍感すぎるように思えるヒロインですが、その理由が結末で明かされるという構成になっています。
文章は読みやすく、プロットに矛盾もなく、整っている点が評価できます。
ただ、やや淡々とし過ぎている感もあり、ヒロインの聖地への思い入れや、
主人公がなぜヒロインを諦められないかといった細部を、もう少し掘り下げてもよかったかもしれません。

 

 つぎ。しかたまたかしクリスマス。すごい。
 系統としてはポンマスさんとかどこもくんに近いかもしれないけれども、さらに一段階振り切っている感じがある。余人には評価が難しい。

 独特の世界観と単語の使い方によってスピード特化した文章についていける人はいるのだろうか?というほど速度に溢れている。アクは強いが独特な面白さのエッセンスはあるので一読してみてほしい。

 プロットと呼べるようなものは特になく、連想ゲームの要領でころころと話が転がっていくのが楽しい作品です。突飛な発想の飛躍が、思いがけない笑いを突発的に生んでくれます。冒頭いきなり謝肉祭からの「!!!おいしいのだ!!!」でもう笑いました。独特のリズムもあり、流れに乗れれば楽しく読めると思います。ただ、この長さで最後まで連想ゲームについていくためには、かなりのスタミナが必要。もう少しコンパクトであれば、評価はもっと高くなったかもしれません。

 

 つぎ、どこもくんの二本目、聖人審査

 もう好きにやってくれっていう感じですね。未完なのでひとまず完結まで走り抜けてもらいたいと思います。シリアナほじるだけでどこまで分量デカくなるんだ。

 聖戦士マリオンのスピンオフその2。ドリアンが説伏される話。まだ未完なのとクリスマス要素が皆無ではあるが、R-18作品として更にレベルアップしたエロ描写がたまらない。完結が楽しみな作品。

 もはや一人だけ明後日の方向に突き進むどこもくん。彼はいったい何を目指しているのであろうか。聖職者たちがひたすら肛門拡張と性交に明け暮れる小説ですが、実際これだけハートマークが乱舞する文章を書き連ねられるというだけでも驚きです。

 

 TAKAKO☆マッドネス消えた新人声優

 小噺てきな感じ。特に斬新さとか意外さとかがあるわけではないが、なんとなく読んでしまう安心感みたいなのがある不思議な文体。文体じたいにノスタルジーを感じさせる。

 クリスマスイブに忽然と姿を消した声優の話。大山鳴動して鼠一匹という典型という感じですかね。

  プロットに近い形態で、出来事が淡々と語られていきます。ほほえましい内容で、登場人物にも好感がもてました。ただ、小説になる前のプロット段階という感じも強く、もう少し内容を詰めて分量として2万字程度の作品とするとちょうどよいテーマなのではないかと思います。

 

 不死身探偵 クリスマス限定!シャイニングポーラスター10連ガチャ! 祝祭の始まり。

 よくできたコメディ。神様の抽選に選ばれて幸運が、みたいなそれじたいはありがちなネタだけど、そこに10連ガチャあるあるネタをぶち込んで新奇性を見せている感じ。コモンのショボさとかレアでいきなり服がはじけるところ、トナカイのおっさんのキャラなどギャグとしての地力が高い。この路線が一番向いているのではないかと個人的には思っている。ギャグなので大オチにしっかり笑いをもってきてほしかった感じはある。
 キラキラ小説。クリスマスにサンタに扮した美少女とムキムキおじさんが冴えない男の前にやってきてプレゼントをするが…。今はやっているスマートフォン用ゲームでよくあるガチャを回すという要素が新しい。幸運を引こうとして結局不幸を引く結果に陥るというのはなんというか皮肉が効いているような気がする。締め切りに合わせてだいぶ過程を削ったらしいので完全版であればどういう内容になっていたんだろうと気になりますね。
 全体的にテンポが良く、1万3000字という多めの分量でも、細かいことを気にせず楽しく読めます。本物の(?)サンタからのプレゼントが10連ガチャというアイデアも秀逸で、下世話な話題に終始してしまうのもほほえましい。ラストもそれまでの展開からのギャップを感じて、悪くないのですが、もうひと押し、予想を裏切るようなもの(あるいはもっと壮大で理解を超えるような描写)があると、大賞候補に推せる作品になったと思います。この作品も、ぼくの採点表でトップテンに入っています。

 

 DRたぬきの二本目、聖夜に祝福を

 話の筋はなかなか突飛で面白いのですが、見せ方がひたすら独白というかたちになっていて、もうちょっと小説っぽく見せてくれたほうが良かったかなという感じがします。

 某小説家に影響された別のたぬきがかいたものなのでノーコメントです。

 文章がはっきりとしており、スムーズに読めました。「クリスマスを祝うことを禁止する法律」というテーマもおもしろいと思います。ただ、プロットは練り切れていない印象があり、事態が急転しているにもかかわらず、物語としては平坦な印象を受けました。飛躍する事態を結びつけるための狂言回しとして、名前をもった登場人物が少なくとも1人は必要に思えます。


 つぎ、左安倍虎さんの二本目、世界追憶遺産

 特に必然性のない身内ネタを設定を盛り込んだせいで一般性を欠く結果になっているので、短編でまとめるなら短編でまとめるでもっと設定をスッキリさせたほうが良い感じがする。地力が高いだけにノッケから若干ポカーンと読者を置き去りにしたまま速が上がって、そのまま追いつけないままフィニッシュみたいなもやもや感の残る結果になっているっぽいのが悔やまれる。

 これはSF系の作品で私にストライクですね。スクルージと自らを重ね合わせる主人公に共感を覚える。話の展開とオチの仕掛け方が相変わらず秀逸で読ませる作品になっている。クリスマス小説としてもポイントは高い。クリスマスキャロルを引用し、さらに登場人物がクリスマスについての仕掛けを行う展開になっているのでバッチリです。

 「クリスマスキャロルの現代版」というアイデアは、クリスマスをテーマに小説を書こうと思えば多くの人が思いつくものだと思います。しかし、実際に取り組むとなると、これがなかなか難しく、安易な考えではひどく独善的な作品になってしまうものです。この作品は、「負の感情を薬で抑制することの是非」という現代的なテーマを持ち込むことで、原作と違った味わいを出すことに成功している点が高く評価できます。
文章はややぎこちない部分もあり、テーマもしっかりと消化しきれていない部分があるものの、非常に難度の高いテーマに挑んでいる点、一定以上の水準でそれをクリアしている点から、ぼくの採点表の中では最上位の一角となっています。

 

 つぎ、しのはらしのらサイボーグは電飾の夢を見るか

 これちょっと分からなかったんですよ。読む僕のほうの問題の可能性もあるんですけど、3200字で落とすにはちょっと設定がなんか色々とあるのかな?みたいな、盛り込み過ぎの弊害かな?みたいな感じがしているんですが、分からなかったのでちょっと評価難しいですね。

 キラキラ小説。ニート男が改造人間にされて強化女子高生になった?と思ったらどうやら違う展開のようで…。サイボーグ描写は心が沸くんだけどオチが結局どうなったんだろう?という感じでちょっと消化不良。もう少し説明が欲しい小説かなと思った。

 「秘密組織が壊滅したあとに残された改造人間」というのはおもしろいテーマだと思います。文章は読点をまったく使用しないという独特のものですが、読みにくさは感じませんでした。ただ、プロットがひとつのお話しとして成立しているとは言い難く、宙づりな印象で物語が終わってしまっているように思います。せめて山下マミが自分を西葛西サトルであると考えるようになった経緯は明示すべきだったように感じました。

 

 つぎ、既読の二本目。バス、ギロチン、ねこ。あるいは生と死のはざま

 いきなり不条理なシチェーションから始まる系。雰囲気は良く引き込んでいく力は感じるが、実質的に謎解きやパズル要素などはなく夢オチなので、もうちょっとなにかあってほしかった感じはある。

 既読先生のリッドシチュエーションなショートショート。ちゃんと起承転結が短い中に詰め込まれています。あと猫が可愛い。猫が最後に主人公をフォローしているのも良いですね。展開はハラハラしてどうなるんだろうと思いましたが夢オチなのは少し残念だったかなとも思います。

 さば。

 はい。

 

 さまよううさぎ 日常的サンタ考察

 本当に普通の会話シーンを切り取っただけ、という感じで、あまり小説という感じではない。文章から地力は感じるので、もうすこし展開やお話のあるものも書いてみてもらいたい。

 キラキラ小説。サンタがどうやってクリスマスにあれだけのプレゼントを運ぶことが出来るのか?という疑問を天然系女子高生が話をするという話。空想科学読本っぽい考察の仕方だなー。話が飛躍するうちにサンタ=ニンジャとなるところで!?アイエエエエ!ニンジャナンデ!?クリスマス小説で恋愛ものじゃないというのが良い。

 いわゆる「日常系」のワンシーンを切り取ったような掌編。天然の友人と、その話にどこまでもついていってしまう委員長、その二人を一歩引いて眺める主人公という安定した構図で、話の流れもわかりやすいと思います。ただ、すべてにおいて王道を踏襲しすぎている感もあり、なにかひとつ、読者が驚くような要素をどこかに盛り込むと、よりおもしろい作品になるかもしれません。

 

 八朔 恋とはどこまでも苦く、懺悔は甘いものである

 定石通りという感じの短編恋愛小説。ただセオリーから言えば視点人物がフラフラしている感じで、男女のどちらに移入して読んでいけばいいのか迷うところがあり、そこはセオリー通りではないかな、という感じ。映像的にシーンを捉えていて、それを文字で説明しているような印象を受ける。

 キラキラ小説。正統派の恋愛もの小説。ケーキ屋に勤めるアルバイトの女子高生と、そこでパティシエをしているウガンダさんのお互いに交錯する思いを直球で投げつけ合うそんな話。傷つくのが怖いのは子供だけじゃない。大人だって、傷つくのは怖いんだ、という思いが胸にグッと突き刺さりましたね。

 よくできた掌編だと思います。表現がややそっけないものの、丁寧な組み立てで、キャラクターもしっかりと立っていて味わいがあります。「食べると失恋できるモンブラン」というモチーフが秀逸で、男の心と女の子の心が、ひとつのケーキを中心にして開かれていく構成は見事。もう少し文章に推敲が必要ですが、大賞に推せる作品と思います。なお、タイトルはモンブランに関するものに変えたほうがよいように思いました。

 

 不動 ザッハトルテ

 読む飯テロ。前回の小説もそうだったけど、この人は本当に食べ物を文字でおいしそうに表現するのが上手い。ただの小道具で済まさずに物語に必然性をもって食べ物が絡んでくるようになるとさらに面白くなりそうな気がします。

 ふどーさんの食い物キラキラ小説。食べ物描写にかけてはこの中で一番だと個人的には思います。何気に叙述トリックが仕込まれていてほほう、と唸ったりもしました。

 物語のようなものはなく、日常のワンシーンを切り取ったもの。出てくる花柚の柚湯や、ザッハトルテの描写が、あっさりしているもののそれが押しつけがましくなくて逆に興味を引きます。非常に短く、クリスマスである必然性も高くないですが、決して悪い作品ではないと思います。

 

 ここのめりくり

 習作という感じの掌編。とくに斬新さはないのだけれども文章じたいは上手で地力を感じさせる。もう少し長いものを読んでみたい。

 キラキラ小説。兄弟がクリスマスにケーキを食べる話だが…。兄の想いが強すぎて物悲しい。掌編ではあるが描写が巧みで読まされる

 幻想的な作品で、描写が工夫されており、読者の興味と疑問をうまくコントロールしています。オチにも納得感があり、文章はあっさりとしていますが、静かな余韻があります。弟とのエピソードをひとつ挿入し、その中でオチへの伏線を張ったりすると、より完成度の高い作品になるかもしれません。

 

 karedo ボゥ・アンド・スクレイプ 執事喫茶の悪魔たち
 かなりまとまりのよい短編。ただ肝心の執事長がわりと絵に起こそうとすると矛盾しそうな設定なので僕はイメージを結ぶのが難しかったですね。いっそ、もっと抽象的な描写に留めて読者の想像に丸投げしたほうがストレスがないのではないかという気もします。執事長が見せる推理のようなものも、まあ犯人を糾弾するわけではないので確たる証拠である必要はないのだけれど、それにしても説得力が薄い感じで、もうちょっと練り込みがほしかった感じ。飽くまで全体的な水準が高いだけに細かい粗が目に付くという話で、読み物としてのレベルは高いです。

 karedoさんの怨念小説。文章にそこかしこに散りばめられた用語に知識量の多さを感じる。今回は執事喫茶と言う事で執事についての服装や礼、そして紅茶なんかの用語がこれでもかと披露されて作品を彩っている。短編ながらキャラクターもそれぞれしっかり立っていて魅力溢れる作品になっている。個人的には大賞候補に推す作品の一つです。

 喫茶店を舞台にして、そこに訪れる客の裏に隠された事情を明らかにしていくというタイプの小説。キャラクターの濃い登場人物が執事喫茶の側に3人登場しており、連作の中の一話として書かれたものではないかと思われます。そのためか、この話の中心となる客自体はあまりキャラクターが立っておらず、構成的にやや不自然な印象を受けました。「善悪を問わず、客の背中を押す執事たち」というコンセプトはおもしろく、この後の展開が期待される作品ですが、ひとまず現時点では、ここまでを完結した1作品として評価したいと思います。

 

 さっきぃ☆竹田 性浪士 性夜 濃厚十二月編

 勢いで読ませるパワープレイは相変わらず。細かいクスッと笑いをどれだけ稼げるか、みたいな作品なのでもっと畳みかけるようにモリモリに細かい笑いを盛りまくると満足度が高いかも?

 クリスマス、オタサーの姫の為にオタクたちが様々な店を回って憤死しつつも食べ物を獲得していくが…。とにかくネタ満載な文章で僕は笑わずにはいられないくらい面白かった。漫画のパープル式部みたいな印象を受けた作品。

 オタサーの姫の囲みである性浪士たちがクリスマスのごちそうを手に入れるべくすごい勢いで奮闘する作品。ともかく全編パロディまみれで評価はとても難しいのですが、用意した道具立てをきっちり使い切って気持ちよく終わる構成力と、一気に走り抜ける勢いは高く評価できます。

 

 こころないあくま(ど)さきちゃんかわいいよね。これすごくすき。

 えっちな女装男子としてXつべ界のスターダムを驀進中のどニキですが、心身ともに女の子化が進んでいるようですね。女の子の一人称語りがかわいすぎてこれはもう女の子なのでは?この文体である程度の分量があるちゃんとした物語を読んでみたい。

 キラキラ小説。さきちゃんとその友達の女の子のやりとりする小説。クリスマスに彼氏にプレゼントを贈る為に見繕っているが…。ガールズラブ小説ということで女の子同士のほほえましいやりとりが心を絆されるけどよく考えてみたら若干ストーカー気味で怖い。クレイジーサイコレズ!さきちゃんはかわいいよね。

 作者が作者なのでどうしても登場人物2人が男の娘なのではないかと思いながら読んでしまいましたが、どうやらそういうわけでもなさそうです……。話の流れはわかりやすく、読みやすいと思います。もう少しサイコっぽさを強く出してもよかったのではないでしょうか?読者が怖いと感じるくらいな展開が入ってくると、作品としての完成度は大きく上がりそうです。

 

 たくあん ホワイトクリスマス。オナホのレポートですね。
 せっかくオナホを実際に使用してレビューするっていうところまで恥をさらしているのに、しょうもない羞恥心がこれでもかというほど付帯していて完全に台無しになっています。恥をかいただけで得るものなしって感じですね。

 厳しいwww

 テンガオナニーレポート。現役男子高校生の赤裸々なレポートは一見の価値あり。ないかもしれない。みんなも彼に贈り物をしよう

 ぼくの採点表では10点満点中2点となっており、全作品中では最低点なのですが、これはTENGAの使用感についてのレポートであり、その意味では勇気をたたえこそすれ決してけなすような代物ではないと思います。しかし、同じ評価軸で評点をつけると他のちゃんと小説を書いているひとたちに申し訳が立たないのだ、すまぬ、すまぬ……。

 テーマ設定は良いのでちゃんと精神的にも全裸フル勃起すればワンチャンあるかもしれません。次回に期待しましょう。

 www

 TENGAじゃない奴レポートワンチャンあるでな。

 エネマグラウィダーですね、わかります。

 はーいつぎ~~!

 

 大村中さんの、でも女装を着けて

 自分以外は誰のことも好きじゃない女装男子くんのお話。ネタとしては定番って感じで特に目新しさはないんですけれども、それでいて最後まで一気にグイグイ読ませる主人公の魅力がヤバいですね。最後の一文に全てが集約されていて、もうかわいくって最高です。

 キラキラ小説。女装を好む男子高校生がクリスマスイブに従兄弟に頼み込まれてデートをする羽目になるという展開。何故女装をするようになったのか、そして女装を極めて行くうちに従兄弟に半ば強引にクリスマスデートに連れ出されて、しかもそのあとにホテルに…という展開が実に自然で無理がない。同時に従兄弟は変態だなと思ったが、そこまで美しいのであれば間違いも起こしたくなるモノなのかもしれない。性欲は実に罪深い。そして女装男子はナルシスト。構成力と文章力、両方ともレベルが高くクリスマス要素も満たしているし、クリスマス恋愛話として女装男子と男の話でオーソドックスな男女恋愛という典型的な発想から外しているのもポイントが高いですね。

 文章力が非常に高く、単純な文章のうまさだけで言えば、今回の作品の中でトップと思われます。また、「女装してクリスマスデート」というテーマ設定もキャッチ―でおもしろい。主人公のキャラクターについて掘り下げが非常にしっかりとしており、無邪気なナルシシズムを自然な独白で表現している点も見事です。クリスマスである必然性はそこまで高くないという点だけが気になりますが、大賞に推したい作品です。

 

 たぶ つめたい。未完ですね。

 クリスマスに一人で過ごす女性の独白。続き物らしいけど未完なので残念。結末が気になる。

 未完成の作品で、1話を読んだだけではまだ評価するのは難しいですね。クリスマスは終わってしまったものの、ぜひ完成させてほしいと思います。

 

 ヒロマル 戦隊レッドと悪の女幹部 三つの星の物語

 エピローグから始まって最初に戻る構成。最初の数行だけで「いやもうこんなん面白くないわけないやん」ってなる感じですね。設定を思いついた時点で勝ちみたいなところがあります。最後はどうなるのか最初から分かっているにも関わらずちゃんと面白いからすごい。途中の謎解きなんかもそれなりに楽しめて面白かったです。若干遅刻だったのでそこは減点。

 戦隊物のリーダーと悪の幹部がちょっとしたイベントが切っ掛けで恋に落ちる。戦隊ものと恋愛という二つの要素をいっぺんに楽しめるお得な短編。敵と味方が道ならぬ恋に落ちるという定番なストーリーではあるが、それをしっかりとした構成でもって描き出してくるのは流石と言ったところだろうか。最初にエピローグを持ってきて、どうしてそうなったのかを語るという話の広げ方が良い。二人の関係の深まり方を星になぞらえたタイトルも憎いですね。

 「戦隊モノのリーダーと悪の女幹部との恋」というアイデアが斬新でおもしろいと思います。ただ、本編の内容は街コンの流れが中心で、戦隊ものの要素はあまり無く、最後の戦闘も基本的にはほぼヒーローとヒロインの一騎打ちとなっている点が気になります。戦隊モノと言えば、他にも小ずるい知将型の敵幹部や、リーダーに反目する一匹狼気質の戦隊メンバーなど、多様な要素が思い浮かびますが、そうした戦隊モノ特有の要素を排除してしまったことにより、戦隊モノである必要性が薄れてしまったように思われます。オーソドックスな戦隊モノ設定で読んでみたい作品です。

 

 というわけで、以上、総勢31名全41作品。内訳はキラキラ軍25対怨念軍16でキラキラ軍の勝利ということになりました。ワーパチパチドンドンヒューヒュー。やっぱりクリスマスはキラキラしてなんぼよね。

 怨念パワー足りずって感じでムネン。
 怨念軍は頑張ったよ……ダブルスコアつけられなくてよかった。

 全体的な水準が前回から飛躍的に向上していて戦々恐々ですね。それでは総評のようなものを一言ずつお願いします。

 はい。前回と比較してもレベルが高い作品が数多く集まってびっくりしていると同時にどこにこんな作品を書く人々が埋もれていたのだろうと思いましたね。分量的な話で言えば大体がほぼ短編~掌編くらいなのですが、それでもよくまとまった物や勢いで一点突破していくものなど多種多様な作品が集まって読み応えのある大会になったんじゃないかと思います。

 全作品を読んだわけですが、全体てきにレベルが高かったというのをひしひしと感じましたね。読み始める前は、もっと短い作品ばかりかと思っていたんですが、きっちり小説として成立している作品が多くて驚きました。審査の過程で感じたこととして、やはり高レベルになればなるほど、細かな齟齬やしっくりこない部分が目立ってくるという点が挙げられます。特に今回、上位が接戦でしたので、大賞候補の選考では「ここさえうまくできてればなあ!」という作品がいくつもありました。月並みな感想ですけれども、本当に推敲ってだいじですね……。

 

  では続きまして、いよいよ大賞の選出にいきたいと思います。

 評議員それぞれに三つ推しの作品を出してもらって、その中から選出していくという形を取りたいと思います。まず僕の推しとしては、大村中さんのでも女装を着けて、しふぉんの蒐集癖、不死身探偵のシャイニングポーラスター10連ガチャの三つですね。
 僕の推薦としては、大澤さんのクリスマスがやってくる、ポンチャックマスター後藤氏の魔弾、karedoさんのポゥ・アンド・スクレイプでしょうか。
 ぼくは「でも、女装を着けて」「恋とはどこまでも苦く、懺悔は甘いものである」「世界追憶遺産」の三作品を推したいと思います。

 みごとに割れましたな……。
 割れましたね……。
 かろうじて「でも女装」が2ポイントの獲得ですか。
 それぞれの「中でもこいつが大賞!」ってのを聞きますかね?
 この中でも特に!というのであれば僕はkaredoさんのになりますかね。分量と小説としての内容は申し分ないと思いますし、雰囲気もかなりありますので。
 僕はやはり「でも女装」ですね。やはり大賞となると小説としての完成度ということになってくるんですが、その点やはり蒐集癖やシャイニングポーラスターは言っても粗削りの部分がありますので。
 ぼくの採点表でも、「でも、女装を着けて」が単独トップなんですよね。やはり完成度が非常に高かった。
 となるとやはり「でも、女装を着けて」になるんじゃないですかね。
 「でも、女装を着けて」に関しては、寸評の中でも触れましたが、全作品を通して読んでも、文章力が頭抜けて高いと感じました。構成もしっかりしているし、大賞にふさわしい作品なんじゃないかと。
 では、今回の大賞は大村中さんのでも女装を着けてということで。
 良いと思いますぜ。
 僕の場合大賞候補は完全に好みで選んだのですが、技量的な話で言えば「でも、女装をつけて」はトップレベルに位置するものだと思いますし異論はないですね。
 同様に完成度と文章力って尺度での評価ってことになると、karedoさんが次点の金賞に来るのかな、という感じがあります。
 金賞異論ありませぬ。あとは銀賞二本ですか。正直、2位争いは熾烈を極める戦いで、本当に甲乙つけがたい。
 銀賞二本は粗があるけど見どころがあるみたいな感じで?銀は本当にダンゴですね。パワープレイという話ならやはりポンマスさんがひとつ頭抜けている感じもある。
 なやましかね~。
 銀は多少粗削りでも、ということなら、ポンチャックマスター氏のは決めてもよいと思う。
 あと一枠か~なやましか~~。
 僕は不死身探偵を推します。
 悩むなぁ。
 不死身探偵の10連ガチャはぼくの採点表でも三作品に次ぐ得点なので、アリですね。
 しふぉんさんと左安部虎さんはもう完成している節がみられるので、成長性を期待するなら不死身さんかなと思います。
 しふぉんくん捨てがたい……。
 それな。
 どうするんです?

 うにゃぁ~~~。

 255年後……。

 

 大賞:でも女装。金賞:ボウアンドスクレイプ。銀賞:魔弾 蒐集癖。

 で、ファイナルアンサー?

 わしはファイナルアンサー。

 ファイナルアンサー!

 

 はい!というわけで、本物川小説大賞冬の陣クリスマス大会、大賞は大村中さんの「でも、女装を着けて」に決定しました。それではみなさん、またいつか、次回の本物川小説大賞でお会いしましょう。以上、闇の評議会議長、謎の概念でした。

 謎のたぬきでした。

 謎のねこでした。おつかれさまでござる。

 おつかれさまでした。闇の評議会ひとまず解散~。

 

 

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