第八回本山川小説大賞 中間ピックアップ5選

 

 さすがに開催期間が一か月以上ともなると中ダルみが発生するので、テコ入れです(素直)

 

 おかげさまで、現状で参加作品数が60以上とたくさんの方にご参加いただいているのですが、そのせいもあって、「なんか面白そうなことやってるな~、どれか読んでみようかな~?」って通りすがりの人がきてもズラッと並んだ作品を前に「何を読んだらいいのか分からない~」という状況になっているのではないかと推測します。もう自分のを書き終わってそろそろ他の参加者のを読んでみようかな~って余裕かましている人も増えてきた頃合いでしょう。

 わたしは8/17現在でステータスが「完結済」になっている作品はすべて読んで講評もつけ終わっていますので、そんな人たちのために、現状の「完結済」48作品の中から「みんな~! これ面白いから読んで~!!」ってなった、個人的なおすすめ作品をピックアップしようと思います。

 ちなみにこのピックアップは完全にわたしひとりの独断なのですが、大賞の選考は他ふたりの講評員を交えて合議しますので、ある程度は相関するとは思いますが、これがそのまま大賞の選考に影響することはないです。ではいってみましょ~。

 

 

 

水瀬「CQ

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「みんなで楽しくうんこ投げ合って遊んでいたら横からいきなりトラックが突っ込んできた」みたいな感じで理不尽も甚だしい。めちゃくちゃ面白いです。けれど、これぞモノホ……本山川小説大賞の醍醐味でもある。毎回、横からトラックが突っ込んでくるんですよ。

 

オーロラになれた人の気持ちを、わたしはまだ知らない。

 

 はい。単体の文章として強すぎます。すき。え? それって具体的にはどういう状態になっているの? という説明は一切なく、想像力の限界を試されるような描写がひたすら続く不親切さなんですけれども、それなのになぜか読者に対して世界が開かれていて、置いてけぼりにされない。なんか分かっちゃう。とびきりにリリカルでマジカルで、油断すると読者を置き去りにして成層圏の彼方に飛び立ってしまいそうな暴れ馬をきっちりと抑え込む地力がものすごく高くて、概念的には筋肉ムキムキのマッチョマンの変態がパワーですべてをねじ伏せているといった趣。わたし個人の評価ですが、今のところ頭ふたつ飛び抜けているので、後半組はこれをブチのめすつもりで気合い入れて作品を放り込んできてください。間違いなく、大賞候補の一角です。

 

 

 

山本アヒコ「勇者にふさわしいあなた」

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 こちらも初参加のご新規さんですね。異世界から勇者を召喚して世界を救ってもらおうっていうテンプレに乗っかったうえで、そこにひとつ設定を足してツイストを効かせた、ちょっとブラックなコメディ作品。

 

…………結果から言うと、召喚されたのはまたもアキラさまでした。

 

 ジャンルてきには異世界ファンタジーになるんでしょうけれども、テイストとしては星新一ショートショートとか、筒井康隆藤子不二雄てきな社会風刺系のSF短編に通じるものがあるので、そういうのが好きな人にはバッチリはまるんじゃないでしょうか。もう散々やり尽くされた感のある異世界召喚フォーマットですけれど、やりようによってはまだまだできることはあるのだなぁと感心しました。これも、個人的には大賞候補の一角。

 

 

 

紺野天龍「八月のファーストペンギン」

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 こちらもご新規さん。超常要素のない完全な現代ベースの恋愛ものですが、よ~し僕様ちゃん純文学しちゃうぞ~みたいな肩肘をはった感じではなく、手触りはちゃんとライトノベルしていて、ラノベと一般文芸の中間くらいの印象です。

 

――ペンギノン、という有機化合物があるらしい。

 

 

 お話のはじまりかたと畳みかたが非常に技巧的で、ものすごく書き慣れているなぁという印象を受けました。と思ったらこの人プロじゃないですか。そりゃ巧いはずだわ。ボリューム感がとても適切で、2万字以内で終わらせるのにちょうどよいお話を、ちゃんと2万字以内で畳んでいます。寄り道とか脇道に思える要素も、ぜんぶが緩く作品のテーマやモチーフに絡んでいて、お話を前に進める機能を担っていて無駄がない。お話そのものの面白さももちろんですが、「2万字小説かくあるべし」という感じで、参考として他の参加者さんにも読んでもらいたいと思える作品でした。

 

 

 

双葉屋ほいる「鮎子ちゃんとながいともだち」

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 こちらもたぶん初参加のご新規さんですよね? 今回はなんだか新規勢の強さが目立ちます。古参のモノホン勢も負けずに頑張ってほしい。肩の力を抜いて、ちょっとしたものを読みたい人向けの、わははと気楽に読めるフレンドリーな作品です。

 

毛の一本一本が生きてるようなハリとツヤに! って書いてあったっけ。生きてるみたいな、っていうか一本一本生き始めちゃったじゃん。

 

 素早いロケットスタートから、そのままの勢いでポンポンポンと軽快にテンポよく読めて、ほどほどに笑いがありつつ各話の最後に毎回ちゃんと引きがあって、事件と爽快な解決とちょっとした伏線の収束と友情もあって、ボリュームに対してのまとまり感が非常によく、意外とやっていることのレベルが高い作品です。web小説に求められる要素が過不足なく盛り込まれているので、これも、これからためしに小説を書いてみようと思っている人には参考にしてもらいたい良作です。
 

 


吉野茉莉 「私たちは、何に怯えているのか?」

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 こちらもご新規さん。創作系の中でもひとつの巨大ジャンルである厨二病要素昇天ペガサス盛り! みたいな系統の最終進化版みたいな作品です。みんな、わりと好きだよね。死。ポエティックな描写がキレてるなぁと思ったらこの人もプロじゃないですか。いったいどうなっているんだモトンホホ大賞。KUSO創作勢、めっちゃ頑張れ。

 

「彼女は、そうです。微笑んでいました」

 

 ちょっと昔の閉鎖的なミッションスクールてきな、陰鬱な空気と死の気配とレズ。小説としては始まって終わるっていう感じで、中身のない完璧な額縁という趣なんですが、あとは中身(事件)だけちゃんと入れてしまえば完成なので、仮に改修するとしても、面倒なだけで、作業はむしろ簡単な部類でしょう。中身って意外となんでもいいんです。おそらく、書きたい雰囲気が先にあって、書きたいものをもう書いちゃったから満足したのかな? 今回のモモモ大賞にも、死が好きそうな厨二病要素昇天ペガサス盛り勢がわりと多いんですけれど、そういった人たちにはものすごく参考になると思います。ポエティックな描写力でコーナーで差をつけろ!

 

 


 以上、5作品。とりあえず中間報告としてピックアップしてみました。

 

 通りすがりのROMの人や、もう自分の作品を出しちゃって他の参加者の作品をなにか読んでみよ~って人は、まずはこのへんを読んでもらえば満足度が高いと思いますし、まだこれから書いてブチ込んでやるぜ! という人は、このへんの作品を打倒するつもりでやっていって頂ければと思います。見ての通り、今回めちゃくちゃレベル高いです。がんばれKUSO創作勢。

 

 それでは、締め切りの9/9まで、後半戦も引き続きやっていきましょ~~!

 

 

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本山らのPresents 第八回本山川小説大賞 概要

 

 お前のケツに火をつける。みなさんお待ちかね、伝統と格式のKUSO創作甲子園、本山川小説大賞の時期がやってまいりました。 本物川? いえ、知らない子ですね……。

 

 ガチ創作勢もプロの商業作家も小説なんか生まれてこのかた一度も書いたことがないという完全な素人も、小説を得物にウキウキ元気に同じ土俵でボコスカと殴り合う大乱闘創作スマッシュブラザーズだよ。

 

審査員

 本山川小説大賞ではすべての応募作品に対して、三名の闇の評議員による講評がつきます。また、闇の評議員の合議により、大賞および金賞各一本、銀賞二本、そして本山らの賞一本、その他ノリ次第で特別賞などを選出します。今回の闇の評議員は以下の三名です。


・謎の概念(闇の評議会議長):「n番線になにかくる」みたいなやつ、発売中!
・謎の狐娘(Vtuber):第二回V-1 ナントカ賞受賞!
・謎のサブカルクソ眼鏡(少女小説家):「眠り王子と幻書のアレ」「年刊日本nn傑作選」とかいろいろ発売中!


副賞 

 今回はなにが「本山らのPresents」なのかと言うと、副賞として「本山らのの朗読配信」がつきます。(ワーパチパチドンドンヒューヒュー!)

 

・大賞:本山らのによる朗読配信

    eryuによる表紙イラスト

    (大賞は闇の評議員三名の合議で一本選出します)

 

・本山らの賞:本山らのによる朗読配信

       (こちらは本山らのが独断で一本選出します)

 
・その他特別賞:有智子賞、あいこ賞、ゴム子賞など。ノリ次第でわりと簡単に増えます。長髪イケメンを出したりキラキラ少女漫画脳だったり鬱でエロっぽいのを書いたりすると特定の賞が狙いやすいようです。

 


レギュレーション

 

 今回の大会レギュレーションは以下のとおりです。

 

新規書き下ろし限定

 これは本山川小説大賞開催の目的が進捗ケツバットにあるからです。新作を書くということに意義があるので過去作の投稿はダメです。今から書いてください。今すぐ書き始めてください。

 

文字数は1万字以上、2万字以下

 あまり少ないと進捗ケツバットの意義がないし、かといって30万字は大変なので、このくらいがよろしいのでは? というアレです。おのれガンキャリバー。文字数はカクヨムのカウントに準拠します。

 

【重要】!!!!! 今回は女性一人称記述縛りです !!!!!

 本山らのPresentsということで、今回は朗読が前提となっていますので、女性一人称がいいな~ってことみたいです。はい、多少は縛りがあったほうがゲームもテクニカルになって楽しいですね?

 

!!!追記!!!

投稿はひとりにつき2作品までに限ります

 読むのも講評つけるのもリソースを消費しますので……。KUSOはKUSOでも自分で「これこそは!」と思うKUSOの中のKUSOを厳選して投稿してください。よろしくお願いします。

 

 

参加方法

「1万字以上、2万字以下」「女性一人称記述」の小説を今から新たに書き下ろしてカクヨムに投稿し、「自主企画」の項で「本山らのPresents 第八回本山川小説大賞」を選択してください。

 

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期間

 なう~9/9(日)深夜0時

 

結果発表

 締め切り後、なるべく早く。(平均的に締め切りから一週間程度で発表してますが、いろいろな塩梅次第なので保証するものではありません)

 


 初見のかたは以下のリンクを参考に過去の大賞の雰囲気を把握してください。基本的にはKUSOとKUSOのぬるぬるパンツレスリングです。

 

kinky12x08.hatenablog.com

 


 それではスタート~。

ロッキン神経痛 Presents 第七回 本物川小説大賞 大賞は不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」に決定!

 

 

 平成29年11月中旬からクリスマスイブにかけて開催されました第七回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本、特別賞として有智子賞一本、あいこ賞一本、ゴム子賞一本が以下のように決定しましたので報告いたします。

 

大賞 不死身バンシィ 「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」

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twitter.com

 

受賞者のコメント

 
えー、現在の心境を包み隠さず申し上げますと、「ついにやったぜ」という達成感と「本当に僕でいいのか」という困惑がごちゃ混ぜになっていて、一言にまとめると「マジで?」って感じです。本物川大賞もこれで七度目で、第一回から参加している身としては感無量です。思い返せばあの第一回本物川大賞は良くも悪くも本当にハチャメチャで「ゴリラ放し飼い動物園」みたいな様相を呈していました。しかしそこから回を重ねる毎に平均レベルが上っていき、常連参加者から商業デビュー者まで出て、その結果プロの方がプロを投げ込んでくるほどのイベントに成長しました。ゴリラは未だに放し飼いのままですが。そういうプロとベテランゴリラがハイクオリティ作品をどんどこぶん投げてくる場所で大賞を取れたのは本当に嬉しいし、ここまで続けていて良かったと心の底から思います。ありがとうございました!

 

 大賞を受賞した不死身バンシィさんには、副賞としてeryuさん画の表紙イラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。(検閲済) こちらは本大賞とはなんら関係のないなんらかのイラストです。かっこいいですね。

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金賞 偽教授 「針一筋」

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 金賞を受賞した偽教授さんには、副賞としてソーヤさんのイラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。(検閲済) ↓ こちらは本賞とは特に関係ありませんがなんらかのイラストです。かっこいいですね!

 

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銀賞 左安倍虎 「井陘落日賦」

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銀賞 ロッキン神経痛 「このイカれた世界の片隅に」

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有智子賞 こむらさき 「日呂朱音と怪奇な日常」

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あいこ賞 秋永真琴 「森島章子は人を撮らない」

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ゴム子賞 田中非凡 「君は太陽

 

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 というわけで、2017年を締めくくる伝統と格式の素人KUSO創作甲子園、第七回本物川小説大賞、モノホン大賞史上最高レベルの大激戦を制したのは、不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログとなります。

 

 

全作品講評

 

 みなさん、あけましておめでとうございます。素人黒歴史KUSO創作甲子園の看板をかかげて始めた本物川小説大賞も七回目を数えまして、本物川小説大賞からプロ作家が排出されたりプロ作家が平然と参加してきたりと、ここにきて様相が変わってまいりました。まあ素人の看板は下げることになりそうですが、KUSO創作甲子園という本来のコンセプトは見失わないように、今後も矜持を持ってやってまいりたい所存でございます。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回はまたメンバーを入れ替えまして、謎のしいたけさんと、謎のバリ4さんにご協力いただいております。謎のしいたけさん、謎のバリ4さん、よろしくお願いします。

 謎のしいたけです。よろしくお願いします。

 謎のバリ4です。よろしくお願いします。

 謎のしいたけさんはnn文庫新人賞てきななにかを受賞したプロのラノベ作家てきななにか、謎のバリ4さんもnnインディーズコンテストで受賞して電書デビューを果たした作家さん、議長を務めますわたくし、謎の概念もn番線にアレが来るてきな本などを出している商業作家の端くれということで、肩書きだけ見るとかつてない豪華メンバーになってますね。

 ラノベ、ミステリー、文芸系と、それぞれの作風や趣味も大きく異なる三人による合議で進めてまいりますので、選考においてもある程度の公平性は担保できるものと思います。

 それでは、ひとまずエントリー作品を順番にご紹介していきましょう。

 

@otaku 「烙印」

 一番槍はご新規さんですね。「人工的な天才」というちょっとSFてきな設定の話です。設定に面白味はあるのですが、特に人工的な天才という設定が必要となるような物語上の要請はないように思いました。オチになる事件も「人工的な天才」が存在するゆえのものではなく、普遍的にいつの時代でもありそうな人間の感情なので、現代の大学組織を舞台にしても同じテーマ性の物語は書けそうです。せっかくの設定なので、その設定に固有の物語を取り回すことを意識してほしい。

 約五千字の短編。近未来の短寿命な半人工天才の日常を切り取ったお話。物語は会話主体に比較的淡々と進んである事件が起きた所で終わっています。余韻を残すラストは意図した演出だとは思いますが字数にまだゆとりもありますしそこからもう一転がし欲しかったです。物語の導入としては好きな雰囲気です。

 知能指数を向上させる手術に適正があるか否かで天才と凡人にわけられ、生後三日にして将来的な地位が明確にわけられてしまうという設定のディストピア系SF。内容としてはよくまとまっているものの、あらすじから想定される範囲であるため驚きは少なく、正直なところあまり印象に残らなかったです。イメージしたものをしっかりと書ける技量はお持ちのようですから、既存作品から着想を得て書くのならそこに新たな切り口を加えて、自分ならではの物語を作りあげてください。

 

うさぎやすぽん 「クリームソーダ理論と革命」

 二番手はなんと!(なななんと!!) スニーカー大賞特別賞受賞のうさぎやすぽん先生! ということで、いきなりプロ作家の登場です。死にたがりビバップ好評発売中! みんな買おうね。こんなところでKUSOの投げ合いに参加している場合なんでしょうか? 文字数に対する物語の収まり具合がとても良く、書き慣れているなという感じで、そのへんのバランス感覚はさすがプロ。ある種の成長譚なので、物語の要請として語り部 / 主人公の男の子が終盤まで独りよがりなタイプであるのは必然なんですけれども、ちょっと鼻につきすぎるところがあって、もうちょっと「鼻にはつくんだけれど共感してしまう。応援したくなる」くらいの調整ができると、もっと気持ちよく読めるのかなぁとかは思いました。

  文字通り物理学の天才少年の恋を書いた爽やかな短編。書きたいことが書きたいサイズ感できちんと書けている印象で、うさぎやすぽんさんの実力が伺えます。終わり方も個人的には好きですが、ヒロインが主人公に惹かれる動機にもう少し裏付けというかエピソードがあるとさらにスッキリした読後感が出たかも知れません。困った時の「○○理論」と「✖️✖️粒子」みたいなやり方はSF好きにはニヤリとさせられます。

 クリームソーダから爆弾を作る、というトンデモ科学理論からはじまるラブストーリー。『ぼくはヤクルトのカップで世界を変えることを決意した』という書きだしとそこから展開される主人公の饒舌な語りがとても魅力的で、序盤から物語に引きこまれます。作品全体に漂うシニカルでユーモラスな雰囲気と、中盤から後半にかけて展開されるヒロインとの甘酸っぱいドラマは個人的に好みでした。ラストもクリームソーダさながらに爽やかで読後感がよかったです。ただ「これクリームソーダ爆弾じゃなくても同じような作品を書けるよね?」という印象がぬぐえず、着想は面白いだけにストーリーに活かしきれていないのが残念でした。

 厳しいw 

 読ませる作品を書くというのはプロとしては最低限越えるべきラインで、目標のハードルは「やっぱプロは違うな……」と羨望のまなざしを浴びる、くらいのところにあります。その水準でみるとやや物足りない印象でした。

 まあ、闇の評議会、わりと平然とプロは逆差別する傾向がありますからね。すぽんくん懲りずにまた遊びにきてね!

 

ものほし晴 「木曜日に待ってる」

 ご新規参加のものほし晴さん。ものほし晴さんとは別人なので全然関係ないんですけどcomicoで藤のよう先生の 「せんせいのお人形」 が好評連載中です! みんな読もうね! すぽんくんに引き続き、いったいどうしたことでしょうか。KUSO創作甲子園の概念が乱れます。さて、内容としては最後にどんでん返しするプロットなのですが、アイデアや見せ方に特に斬新なところはなく、まあそれぐらいは思いつくよねって感じで意外性はそこまででもないです。でも、この物語のダイナミズムのエッセンスはそんなところに焦点があるわけではなく、自分を殺した相手のことを「すべて許した。今となっては愚カワイイ。好き」になる、そこの心理なんですね。どんでん返しなんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのです。小説の完成度という点ではまだまだ粗は見えますが、自分が物語で描きたいこと、描くべきことにピントが合っている感じで、ストーリーテラーとしてのポテンシャルを感じます。

 叙述トリックの手法は色々ありますが、特に読者の印象に残るのは「やられた!」という感覚が生じた時だと考えます。その為には結末に至るまでに真相を匂わせるヒントの仕込みが有効です。「実はこうだよ」という最後のオチに繋がるヒントの伏線が沢山で大胆であればある程、オチを突き付けられた時の「やられた!」感が増すのですが、それは当然中途バレのリスクと背中合わせで、作者の腕の見せ所です。アイデアや挑戦は良いと思うので、次回同系統の作品にチャレンジする際は、如何にフェアな情報開示をしながら読者を騙すかみたいな面も意識してみてはどうでしょうか。

 『クラスメイトのキッタさんが私(主人公)を殺した』という黒板のイタズラ書きを発見するところからはじまるホラー調のミステリ。『木曜日に待ってる』というタイトルと全体に漂う雰囲気は好みなのですが、物語の軸となる仕掛けがあまりにも安直で、正直なところ冒頭だけで七割から八割くらいの読者がオチを読めてしまうのでは。仕掛けが読まれやすいことを逆に利用して、それをミスリードにしてもう一ひねり。意外なラストでアッと驚かせる……くらいまで考えられると小説として面白くなると思います。

 はい、偉い人には分からんのです。次いきましょう。

 

偽教授 「クロスステッチメトロノーム

 本物川さんの永遠のライバル【要出典】偽教授さんの参戦です。今度は創作にフィールドを移しての再戦ということで、感慨深いものがありますね。本作は小説というよりはプロットに多少肉付けしてもう走らせちゃったみたいなボリューム感。そのぶん疾走感があってグイグイ読めるし、粗さはあるもののところどころでオッと思うような表現も見られて、作者の根本的な筆力の高さが伺えます。それだけに、本気で取り組めばもっと面白くなるのではないかなという欲は出てしまいますね。

 思い切りのいいループもの。この「思い切り」は結構重要で、各所の思い切りの良さが気持ちよく、スルスル読み進めることができます。描写の量や設定の深さ浅さ全体的にお話の設計において良いバランス感覚だと思います。トリックが特殊な小道具頼みなところがやや残念に思いますが、作品のサイズを考えると妥当な線だと思いますし、やや強引な結末も個人的にハッピーエンド好きなのでアリです。調べたら小道具に使われてる弾丸は本当にほぼ無音で勉強になりました。

 クリスマスイブに何者かによって殺された主人公。しかしなぜか前日にループし、パソコンの画面に現れた謎めいた存在から『犯人を見つけて殺せ』と指令を与えられる。ただし巻き戻るたびに五感のうちひとつが削られていくペナルティがつく。失敗するたびに身体的ハンデを抱えてしまう主人公は、はたして死のループを抜けだすことができるのか?あらすじはめちゃくちゃ面白そう。ただ実際の内容はそんなでもない感じでした。セカイ系っぽいヒロインとの関係性や設定面の説明が不十分なためとっつきにくく、タイムリープや巻き戻るたびにハンデがつくとか、そういったギミックが展開にあまり活かされていないのが原因かと思います。思いついたからなんとなく書いて終わりというのではなく、タイムリープものの面白さを研究したうえで、ドラマをどう展開したら面白くなるかを考えつつ書いてみてください。

風祭繍 「畑の呼び声」

 いろいろと説明を差し置いていきなり話し始めるというのはわたしもよく使う手法なんですが、んーと、ちょっと設定を飲み込むのが難しかったというか、不親切かなという印象です。説明をしてないというよりは、説明されればされるほど謎が深まるばかりというか。もうすこしそのへんのバランス調整が必要かなと思います。

 小話の短編集。主題のお話はいいアイデアだとは思います。その他のお話はタイトルがオチだし元ネタを知らない層にはなんのことか分からないので、そこはもうそういうものと割り切ってらっしゃるのだとは思いますが大胆だなと感じます。台風の時の「畑の様子」はハウス栽培の作物や添え木で植わっている作物、また落実する性質の作物で生計を立てている農家さんに取っては死活問題ですし、「田んぼの様子」は持ち回りの水利責任者であったり、隣り合った田が他人の田んぼだった場合に畝が切れると流れ込んだ水で他人の作物をダメにする恐れがある為、見に行かざるを得ない立場の事もあるようです。魔術・錬金術工房の設定は必要だったんでしょうか。

 小説というよりプロットもしくはアイディアの断片に近い内容です。ラヴクラフト系の怪奇小説が好きそうなことは伝わるものの、そのうわべだけをなぞって満足しているような印象を受けました。全体的に及び腰というか、作品の中であえて茶化すことで「いや、本気でやってるんじゃないんですよ」的な逃げ道を用意しているようにも見受けられます。「畑が呼んでいる……」という着想そのものは魅力的なので、厨二病的な恥を捨てて全力で創作に打ちこんでみてください。

 

偽教授 「針一筋」

 今回のモノホン大賞にめっちゃ数をブチ込んできてる偽教授さんですが、その中ではやっぱりこれが一番かな。時代ものだし、それに合わせて文体もかなり堅めなんですけれども、不思議とスルスルと読める。一文が短くて、簡潔で硬質な文を重ねていくスタイルはわたしとは真逆で、そこもまた個人的にはアツい。やや淡白な感じもするラストも、全体の雰囲気とはマッチしていてむしろアリです。ほぼ文句のつけどころはないのですが、せっかく文字数に余裕があるのでもうちょっと書いてほしかった。

 文体の好みはあると思いますが唸るしかない見事な作品。きちんと規定の字数の中で類い稀な天才の物語を書き、主人公が天才であるが故の結末は冷たいようでどこか優しく、なんとも言えない余韻が残ります。個人的に欲を言えば、字数にゆとりもあることですし、後半クライマックスには敵の忍との知恵比べ技比べのバトルなどがあっても良かったかなと感じましたか、作者さんの出したい雰囲気とは相反するのかもしれません。個人的には白戸三平さんの短編集に収録されてそうな、商業レベルの掌編だと思います。

 天賦の才を持つ忍び。その武器はただの針でしかなかった。規格外の腕前を持ちながらも、それがあまりにも特殊な技能であるがゆえに、結局のところ己はなにも成しえないのではないか、という不安と葛藤を抱える主人公。時代小説風の文体で語られる物語は導入こそ古めかしい印象を与えるものの、その中には現代に通じる普遍的なテーマが内包されており、最後に提示される『救い』の美しさにハッとさせられました。どこに出しても恥ずかしくない完成度で、この出来映えであれば思わず唸る読者も多いことでしょう。個人的には大賞候補の一角です。

 

今村弘樹 「適当」

 本気でやってください。こっちは本気でやっています。

 ご本人も「適当」と書いてらっしゃるのですが、その通りだなと感じました。

 残念ながら心血を注いで書いている作品には思えませんでした。どうせ参加するなら本気でやったほうが得るものは多いですよ。

 

ヒロマル 「ぱかぱかさんが通る 〜マジシャン探偵 清水一角〜」

  モノホン大賞常連で、先日BWインディーズコンテストで受賞して電書デビューを果たしたヒロマルさんです。この調子でモノホン大賞からじゃかじゃか作家デビューしろ! ものほし晴さんのところでも少し触れたんですが、わたしは物語における仕掛けやトリックというのはオマケみたいなものだと思っていて、それを使っていかにキャラクターを描くか、というのが物語の本質だと思っているのですが(異論は認める)、その点で言うと本作は仕掛けのほうにばかり目がいってしまっているようなバランスの悪さを感じます。ミステリー小説というのはクイズではないので、問いがあり、答えがあればそれで成立するというものではありません。それを解き明かすまでの過程で語り部と探偵役とで絡みがあったり、衝突や差異があったり、人間的な成長や関係性の変化があったりといった部分こそが本質なので、そこがちょっとおざなりかなという印象を受けました。

 あー。

 ん? どうしたんですか謎のバリ3さん。

 いえ。えっと、実にスタンダードな学園ミステリ。ただそれだけに、どこかで見たような、ミステリのために書いたミステリのような印象は否めません。主役二人の関係性にもう少し焦点を当てるか、あるいは主人公が作中で何か変わる、成長するなどが盛り込めると、もっと血の通った印象深いお話にできると感じます。

  手品を題材にしつつお得意のオカルト要素も盛りこみ、学園ミステリとして手堅くまとめられています。自身の持ち味をフル動員しているため水準こそ満たしているものの、短編スタイルに慣れていないのか若干ごちゃっとした印象です。そのほかにもキャラクターが薄味であったり、トンデモなトリックもパワー不足というように、改善すべき点もまた浮き彫りになったかもしれません。どちらかというとトリック偏重型、逆にいえばキャラクターや人間ドラマに意識が向いていないようなので、今後はそういったところも研究して自分の武器を増やしてください。

 あー、はい。

 主人公にあまり役割が与えられてませんよね。探偵が登場して以降はわりとノリノリで勝手にやってくれるので、わたしだったら彼はもうすこしノリ気でないキャラにして、主人公に「探偵役を事件にコミットさせる」という役割を振るかなぁ。「同好の志に多少のアドバイスをするのはやぶさかではない」みたいな提案は、むしろ彼女のほうからさせる。理論派の探偵と、その探偵からも時に屁理屈で一本取るじゃじゃ馬気質、というのはバディものとしてもバランスが良くなると思います。

 なるほど。

 一見つれない態度を取りながらも、手品仲間ができるのはまんざらでもないみたいなデレが出てくると探偵のキャラももっと立つかも。

 

大澤めぐみ 「清潔なしろい骨」

 やや変則的ですが、基本型は「いつか王子様が」ですね。ただ不遇に耐えていたら、ある日王子様が現れて救われるというシンデレラストーリー。話の筋じたいで奇をてらわなくても、道具立てをちょっとズラすだけで新しい物語はできるわけです。

 世にも奇妙な物語的な展開の独特な雰囲気のお話。淡々と冷たく進むどこか無機的な主人公のお話の中で、死後の遺体の腐敗から生じる温もりがやけに生々しくピントが合ってとても印象に残ったのですが、実はこのシーンは主人公がここからまた無機的な存在になって行くターニングポイントで、お話の構造の設計にセンスを感じます。出来事だけを捉えると酷い目にしかあってない主人公ですが、結末がハッピーエンドに感じられる持って行きかたも巧みだと思いました。

 ネオメフィストポストゼロ年代めぐみ。薄幸の少女の耐えがたい日常が淡々と綴られたあと、一転して凄惨な事件が起こり、救いようのない結末がハッピーエンドとして語られる。作者の得意技でもある『ゲージをためて超必で仕留める』形式の短編で、名のあるプロでもなかなかこのレベルは書けないであろう水準。あえて重箱の隅をつつくなら序盤の展開がやはり冗長気味なので、後半のカタルシスが損なわれない程度に圧縮できるとより完成度があがると思います。本来であれば大賞に推すべき作品ではありますが、主催者みずから受賞となると茶番感がひどいので個人的にはナシです。殿堂入りという枠でも用意して大澤家の神棚にあげとけ。

 

 こむらさき 「Unbreakable~獣の呪いと不死の魔法使い~」

 もう好き。最初のセリフで勝ち確、ただし丸パクり! みたいな超絶卑怯な掴みかたなんですが、所詮は素人KUSO創作大賞なのでこういうのでいいのだ。自分が好きなもの、書きたいものだけを書いているっていう感じで、そのぶんピントの合っていない背景であるとか世界観、設定なんかはふわっとしているんですけれども、そんな粗もぜんぶ吹き飛ばす作者の「俺はこういうのが好きなんだよぉお!!!!」が最高です。今後も、粗を潰すよりは熱量で突き抜けていってほしい作者です。

 細かい技術的なことを言えば世界設定、例えば文明レベルがやや不明瞭な点(社会体制的には中世っぽいけど一般家庭に本が普及してる?)や、用語の使い方が一部独特で(「使い魔」が美少女妖精なのは最初に説明が欲しい)引っかかる点がないではないですが、作者さんが楽しんで書いているのが伝わって来て、その辺は突き抜けてこちらも楽しく読めました。自分の書くキャラクターが好き、そのキャラが巻き起こすシチュエーションが好きって言うのは書き手としては単純に強いな、と感じます。キャラクターを書く、ストーリーを書くは出来ているので、あとは想定した世界設定の掘り下げや自然な状況説明の技術に厚みが出るとすぐワンランクもツーランクもレベルアップする潜在能力を感じました。

 美女と野獣テイストの恋愛ファンタジー。最近だと『魔法使いの嫁』あたりが雰囲気的に近いかと思います。ファンタジーを書くうえで必要な表現力、恋愛ものを書くうえで必要なキャラクターの魅力と関係性の妙、エンタメ小説を書くうえで必要な構成力と、求められている要素をすべて満たしているため、作品の完成度が非常に高いです。とくに後半のどんでん返しが効果的に機能しており、短編ながら読み終わったあとに長編さながらのカタルシスが得られます。正直なところ普通にお金を取れるレベルなので、今後もこういった作品を書いていただけることを期待しています。惜しむらくはオリジナリティに乏しいこと。王道は王道で需要があるのでこのままでもいいのですが、既存の作品と明確に差別化できるような要素があったほうが好みです。たとえば世界観をアラビア風にしてみるとか、単純にそういったガワの部分を変えるだけでもよいので、なにかしらのスパイスを混ぜてみると新鮮な読み味になるかもしれません。

 

偽教授 「 No-Life-No-Smoking」

 ショートショートくらいの規模。たぶん本来的な文体がわりと堅いんだと思うのですが、堅い文体で頓狂なことを書くことで奇妙なおかしみが成立していて良いと思います。すごく笑ったりすごく面白いってやつじゃないんですけど、フフッと笑っちゃうくらいの英国式ジョークみたいなそういう趣。

 世界史における軍事力が力士だったら、という設定で一点突破した掌編。内容としては歴史の教科書のように淡々と相撲による覇権争いの説明が続くので抑揚に欠けるように思います。例えばこの作品がプロローグで、イラク戦争夏場所に参加する一力士の話になるとか、世界大戦の一番を仕切った行司の述懐が始まるとか、一歩先の展開も見て見たかったと思います。

 相撲SF。なぜかカクヨムはスモウネタが多い。架空歴史物めいた要素もあり、オチも風刺が効いていてよかったです。ただ如何せん小品というか、掌編くらいのスケールなのでインパクトに欠けます。ちょっと思いついたから書いてみたという感じなので、ここから物語をふくらませても面白いかもしれません。

 

アリクイ 「EMけんきゅうじょにようこそ!」

 そうそう、こういうのでいいんだよモノホン大賞ってのは。すぽんくんはこれでも読んで正気に戻ってください。ここは肥溜めの底よ。お前それがやりたかっただけやろ! 感が溢れる本作、やりたかったことはやりきったと思うので、きっと本人も悔いはないでしょう。おもしろかったです。

 さる計画によって生まれた天才モンキーたちの覇権争いの物語。クライマックスの必殺技の名前に全てが集約されてる印象です。本賞の性質を考えると、本来これくらいの軽いノリで書かれたお話がもっと並んでもいいかな? という気がします。面白かったです。

 星新一ショートショートめいたシニカルなユーモアと、読者の苦笑いを誘うクソみたいなオチ(褒めてます)の塩梅が絶妙で、これぞ本物川小説というべき内容。真面目に審査するような場ではなかなか評価されにくいとは思いますが、素人創作と割り切ってしまえばこれが正解。実際のところ短編としてよくまとまっています。このタイプの作品は「ワロスwww」くらいの反応が最大の賛辞になるでしょう。というわけでワロスwww

 

くさかべかさく 「あなたの心に直接」

 えっと、なんでしょうか。分かりませんでした。

 イデアは悪くないと思いますが、読ませ方はもう少し整理した方がいいんじゃないかと感じました。笑いのツボは人それぞれなので勿論これが面白い方もいるとは思いますが、バカらしい掛け合いの勢いイコール笑いではない、というのが僕の感覚です。ボケとツッコミがテンポよく連続する、そのこと自体は正だとしても、その内容とテンションが一様ならば緩急のないガナリのようになってしまいます。上げて落とす、ふと冷静になる、全く関係ない話を一度ぶち込むなど、現実の芸人の方々は複雑化のために実に計算された手続きを踏んでらっしゃいます。その上辺だけを真似しても思ったような効果が出ない場合もあるので、もう一度少し冷淡な目で自作を推敲なさってみてはいかがでしょうか。

  はじめて小説を書いた人なのでしょうか。実験的なことをやって終わり、というのではなく、きちんと物語に昇華したものを仕上げてください。身内であれば唐突な一発ギャグでも笑って許してくれるのかもしれませんが、面識のない相手にいきなりカマすとただのコミュ障になってしまいます。出版経験のない参加者がレベルの高い作品を投げてくる中、プロの肩書きを背負っている人間がド底辺のクオリティをぶちこんでくるというのは、なかなかツラいものがあります。

 

偽教授 「デウスエクス少女マキナちゃん」

 偽教授さんの他の作品に比べるとちょっとイマイチでした。着想のユニークネスと、それをでっち上げてしまう基本的な筆力、進捗力は大きな武器ですが、あとは腰を据えてもうひとツイスト入れる根気でしょうか。着想→進捗→ブン投げまでがシームレスに一直線すぎるので、もうひと頑張りお願いします。

 所謂メタ的な展開ですが、小説やシナリオを書く人向けに調整された作品。「デウスエクスマキナ」という用語自体はその語感から割と色んな作品の色んな用語として使われているのを見受けますが、本作ほど原義に忠実は使われ方は初めて見ました。「メアリー・スー」は物書きでもトレッキーでもない一般の方には知名度が少し低いでしょうが、本賞の性格を考えるとアリだと思います。作中作の途絶した小説の内、冒頭のさらっと書いたっぽい時代劇風小説のクオリティが他の二編に比べ頭一つ高く、作者さんの本来のフィールドを垣間見ました。

 エタった小説を供養するための作品というか没のリサイクルというか。表現したいことはなんとなく伝わるものの、作者本人にしか面白さが伝わらなさそうなネタばかりで読んでいてけっこうキツかったです。針一筋がよかっただけに残念。

 

田中非凡 「君は太陽

 好みはいろいろとあるでしょうが、本人が書きたいものをちゃんと書けているという印象を受けます。そういう意味ではすでに完成されているので、あまり言うべきこともないですね。筆力、構成力ともに非常に技量の高い作者です。あとは本人のスタンス次第ですが、ちょっと一般向けを意識するとバッとバズったりするんじゃないでしょうか。

 生き物を殺すことに魅了された中学生とその中学生に魅了された中学生の倒錯した愛の物語。思春期の、生命や死を徒らに強く意識してしまう気持ちが瑞々しく書かれており、事象としては異常な状況が書かれていても、登場人物視点からは自然なこととして読めるように描写されていて技術の高さを感じます。結末は好みが分かれるかも知れませんが、この結末のために書かれたお話だと思うので今の形以外はありえないでしょう。

 狂気の中に美しさを見いだしていくような百合小説。テーマは残酷な少女性、といったところでしょうか。個人的にはまったく共感できなかったものの、作者自身がイメージした物語をしっかりと書きあげられていますし、好きな人はとことん好きだろうな、というのも伝わります。ただもうちょっと緩急をつけるというか、女の子たちのほのぼのとした一面を描いてから、カウンターのようにゾッとする展開にもっていけると、より効果的に作品の魅力を演出できるのではないかと思います。最初から最後まで狂っていると次第に慣れてしまうので、油断しているときに猫の死体とかぶつけてきてほしいところ。

 

豆崎豆太 「うちのゴリラ知りませんか?」

 とにかく冒頭の掴みが強くて良いです。この作者の普段の作風を知っていると、このいい感じの抜け感にはすこし面食らうのではないでしょうか。とりあえずゴリラを出してみる、という創作メソッドがプラスの方向に作用した事例でしょう。今回の事例を受けて、適度な抜け感で次以降の創作にも生かしてもらえたらなと思います。ゴリラを出せば良いということではありませんので、エッセンスを拾ってください。

 最愛のゴリラに掛かった殺人容疑を晴らす為に奮闘する女子高生が主人公のライトなミステリ。ネタに走った出オチ小説と見せかけて事件の捜査自体の描写などはしっかりとした手順と妥当性で書かれていて、その地に足の着いた部分と、「親ゴリラ」「ゴリラテレパシー」などの突飛な用語やクライマックスのフィクションならではの熱い展開との振れ幅が、独特な魅力となっています。レビューにも書かれていましたが、主人公の、作者さんのゴリラ愛は読む側にも伝播し、読み終えた時にゴリラのローラが大好きになっていました。

 さも現代日本では一般的にゴリラを飼育していますよ、という雰囲気で語られるため、うっかりすると納得してしまいそうになりますが、どう考えてもおかしいです。そのうえ大まじめに推理がはじまるので、もしかすると地方によってはゴリラを飼育している学校があるのかな? と思いますが、やはりどう考えてもおかしいのであります。ラストになるとゴリラが普通に喋りはじめるので、まあそういうこともあるのかなという気分になってきて、些細なことはあまり気にならなくなってきます。美咲~!!! じゃねえよ!!!!! 誰かツッコミ入れろや!!!無駄にゴリラのうんちくが散りばめられているのもポイント高いですね。

 

@otaku虚数解の殺人」

 楽屋オチってやつ。うーん、ちょっとあんまり、面白くなかったかな。本作で一番の注目点はタイトルでしょう。虚数解の殺人っタイトルでモルグ街の殺人をモチーフにするというのは使い捨てにするには惜しい着想だと思います。

 小説への取り組み方や書きたい内容は人それぞれで、悪ふざけの方向性も千差万別あっていいのですが、個人的にはこのお話の方向性にはイマイチ馴染めませんでした。最後のメタネタでは落ちてないと思います。

 本格ミステリなのかな? と期待してしまうタイトルですが、冒頭から楽屋ネタで面食らいます。内容もチャットの文面を抜き出しただけの代物で、たいしたオチもなく終わってしまいます。審査する側としては「この作品にはなにかあるのかな」と探しながら読むわけで、とくになんもなかったりすると、単純にがっかりします。読み終わったあと数秒で忘れてしまうようなものを書いて満足してはいけません。どうせ参加するなら、なにか爪痕を残してやろうと考えましょう。

 

平山卓 「ステルス魔法少女ミキ」

 どうやら、これが人生初小説っぽい感じの作者さんなんですが、意外と悪くないです。文体じたいは好き。たぶんまだ気恥ずかしさがあってKUSO創作というのをエクスキューズにしてしまっているところがあるように思うのですが、KUSO創作は生き様だ舐めるんじゃねぇ。一度本気で思い切って本当に自分が書きたい小説を書いてみましょう。ひとつの作品を書ききれるだけのポテンシャルは充分にあると思いました。

 他の小説賞に参加されてる方や、所謂一般文芸的な作風で書いてる方には理解されづらいとは思うのですが、これくらいの奔放で荒削りな作品が「本物川小説賞らしい」という感覚があります。主人公の内観で突っ走るスタイルはどこか見慣れた親近感があります。ただやはり魔法少女というパワーある題材を活かしきれてないように見える点は少し残念なのと、テンション高めの女子中学生の内観なのに難しめの熟語がまあまあ出てくる点はやや気になりました。しかし全体にコミカルな空気感の醸成には成功してると思うので、次回作では読ませることを意識してもう少し時間を掛けて推敲するような書き方にもチャレンジして欲しいです。

 ちょっと変わった能力を持つ魔法少女もの。主人公の語り口が可愛い。本物川大賞の参加作品の中では珍しくラノベテイストで、事件そのものはしょうもないのですが、全体的にほほえましいお話で好印象。なんというかキャラクターの魅力的な描き方を『わかっている』感じで、もしかするとそれなりに書いている人なのかな? と当初は思ったのですが、プロフィールとか見るかぎりではそうでもなさそうな感じですね。素のポテンシャルが高いのかも。クソ創作よりも真っ当なラノベを書いたほうが伸びそうではあります。

 

語彙 「メソポタミアすごい。」

 そうだね×1

 メソポタミアのすごさは伝わりました。

 有名なコピペの改変ですね。次からは小説も書いてみましょう。

 

風祭繍 「Repl(a)y for…」

 畑の呼び声と同じで、まず読者との前提の共有がうまくいってないかなという感じで、正直よく分かりませんでした。

 会話形式と非人間の何かの独白?で構成されたお話なのですが、もう一つ何がやりたいのか伝わって来ません。全体に説明不足じゃないでしょうか。勿論全てを説明しつくす必要はなく、読者の想像に委ねる面があってもいいのですが、分からな過ぎては不親切ですし、不親切な相手の話に笑うほど読者は見ず知らずの作者さんに親切ではありません。

  日記はチラシの裏に書きましょう。それっぽいタイトルをつけて、小説を書いた気にならないでください。

 

ゴム子「女神と色男の狂想曲」

 いつも締め切り直前にRTAで駆け込んでくるゴム子さん、今回はちゃんと締め切りに余裕をもって仕上げてきてくれました。偉いですね。さて、もともと締め切り直前に駆け込んでくるせいで粗が目立つけれども、根本的な筆力は高いのだろうなぁとは思っていたのですが、実際その通りだったみたいです。今回のはかなり良いです。余裕のある進捗と推敲だいじ。話の筋じたいには目新しさは見られませんが、とにかく演奏シーンの筆力、文圧は圧巻です。時間に余裕を持ちさえすれば長編を書ききれる実力はすでに備わっていると思いますので、ぜひとも一度、計画的な執筆を。

 主人公に感情移入しやすいかどうかは読者さんの倫理観に左右される面があるかと思いますがその後の演奏や音楽の描写は貞操観念にうるさい人にも読んで欲しいです。残念ながら僕は音楽関係には疎いですが、それでも読中の心象には主人公によって奏でられるチェロの様子がありありと浮かびました。チェロの精の登場は物語の根幹を成す部分なのでその由来や設定にもう少し取材に基づいた裏付けがあると、物語が更に格調高くなると思います。アイルランドのリャナンシーを想起したのは私だけではないでしょう。主人公とヒロインの劇中の関係性の中で、主人公がきちんと変わってる、という部分も評価したいところ。面白かったです。

 チェロ奏者と楽器に宿った女神が織りなす恋愛ファンタジー。ラブコメ的な要素もありつつ、官能的な描写もありつつで、全体としてみるとややアダルティな内容。シナリオ単位で抜き出すとこれといって目新しい要素はないのですが、演奏パートがとにかくエロティックで、作品全体に独特の雰囲気を与えています。根幹のテーマが『セックスよりもきもちいいこと=演奏』なので、物語の描き方としてはこれで正解だと思います。ただラブコメパートが演奏パートに力負けしています。ライトな雰囲気を出して間口を広げようという狙いもわかりますが、この作品にかぎっては最初から全力でアダルティな方向に振り切ったほうが、持ち味を活かせたのではないかと。

 

ロッキン神経痛 「このイカれた世界の片隅に」

 いえ~いカクヨムコン大賞受賞おめでとう! ロッキン神経痛はモノホン大賞が育てた! 「限界集落オブ・ザ・デッド」絶賛発売中みんな読めよな!! そんなロッキン神経痛が、自分の好きなものをこれでもかとギュウギュウに詰め込んだっていう感じのスーパーハイカロリーな本作、徹底的に足し算の創作で、一般的に推奨されるようなメソッドではないのですが、それでいて破綻させずにラストシーンまで一気に走り抜けるそのギリギリのバランス感覚がすごい。最後の最後で「ここからやっと始まるんだ」みたいな含みのあるラストは個人的に大好きなのでもう最高でした。

 終末に向かいつつある世界の中でダラダラと日常を過ごしたいと願いつつもタガの外れてしまった世界で起きる事件に次々と巻き込まれる高校生二人の物語。冒頭、主人公のモノローグからなる世界観の説明は言葉選びの的確さもあってリアルで、一気に作品世界に引き込まれる感覚があります。そこからの荒唐無稽な出来事の数々という落として上げるお話の構造が、独特なトリップ感を生んでいて、作者さんの試みは成功していると思います。こうしたお話構造全体で意図した演出が意図しただろう効果を上げている作品は評価したいです。

 さすがにプロデビューを果たしただけあり、文章力は群を抜いています。冒頭を読んだだけでセンスがあるのがわかりますし、そのうえでほどよく肩の力も抜けているため、語り口に嫌みがありません。(この二つを両立するのは意外と難しいです)ただ内容としては書きたい場面をつぎはぎにした印象で、全体的に粗さが目立ちます。終末世界で日常系をやるというのがコンセプトで、難しい内容に挑戦していることも承知しているのですけど、ただ勢いに任せて書くのではなく、もうちょっと構成にも意識を向けてください。連続するエピソードに一貫性がないため、読了後の感想が「なんかすごいな」だけで終わってしまいます。すでにそういったハードルは越えている以上、目標とすべきは力任せに殴ることではなく、己の武器を極限まで磨きあげることです。インパクト勝負を続けているだけでは、いずれ淘汰されてしまいます。出版業界というイカれた世界の片隅にいるだけで満足せず、より大きなステージに立つためになにが必要なのかを考えてみましょう。

 

ボンゴレ☆ビガンゴ 「私が将来の夢を見つけるまでの些細な出来事の顛末と親友ができた話」

 うーん、ちょっと毎回ビガンゴ先生には辛辣になってしまいがちなの、好みの問題なのかもしれませんけど、なんていうか、思いついたアイデアをそのままお出ししてきてしまう傾向がありますよね。そこで一度踏みとどまって、もうすこしツイストの余地がないかって煮詰めてほしさがあります。あと、あまり素早いコール&レスポンスの流れの中で力を発揮するタイプではなさそうなので、あまり周囲に惑わされず自分の創作をしたほうがよいかもしれません。後半よりも、むしろ前半のなんてことのない丁寧な描写のほうが好きです。

 後半のトリッキーな展開に目を奪われがちですが、前半から中盤に文章や台詞がしっかり書けていてまともに小説してるからこそ、トリッキーが光っているように感じました。作者さんの書きたい内容が読者の読みたい内容とリンクした時、大きな力を発揮する作風かと思います。読んで行く先で期待を裏切って欲しい気持ちはありますが、多くの読者が期待する裏切り方までを裏切ってしまうと、作品へ込めた力の割に評価の手ごたえが付いてこないような状況もあるかも知れません。地力は見て取れますのでもう少し読者に向き合う勇気が加われば、色々噛み合って上手く回り出す面もあると思います。

 冒頭からスルスルと読めて「お?」と思うものの、最後のオチがいつものビガンコくんで肩すかしを食らいました。コンスタントに書き続けているだけあって文章力は着実に身についているのですが、同時に深く考えて書いていないことも伝わってきていろんな意味で惜しいです。この作品にかぎっていうと「ゴリラでなくても似たような話を書ける」の一言で終わります。流行にのって書くこと自体は悪くないのですが、そうであるのならゴリラである必然性を用意してください。そろそろステップアップしましょう。

 

語彙 「ナイチンゲール 1914型」

 わりと文体に個性があるというか、この簡潔な一文の積み重ねで素早く物語をドライブさせていくのはあまり見ない気がします。自分の個性を分析して武器に高められれば強いかも。作品としては、ちょっと規模も小さいし、もうちょっとかなって感じ。単純に、もう少し長いものを書いてみましょう。

 世にも奇妙な物語的な、戦場の医療アンドロイドのお話。二次大戦の西部戦線の雰囲気に医療アンドロイドを持ち込むのは面白い試みだとは思います。文章も設定も書きたいだろう内容を表現に昇華できているとは思いますが、オチがちょっと弱いかな、という気はしました。

  兵士の回想録の中で語られる、天使のようなアンドロイド。ところが視点が切り替わり、アンドロイド側の独白になると……というブラックSF。アイディア自体は目新しいものではないのですが、とにかく演出が巧いですね。一言で評すならスタイリッシュ。わずか2569文字の短編とは思えない満足度でした。

 

ユリ子 「茜より紅く」

 いきなり不可解な状況を提示して読者を引き込んでいく手腕とか、思春期に特有のねじくれた心理の描写など、非常に高い技量の断片が伺えるのですが、作品全体の完成度ではもう一歩かなという印象。とても好きな作風なので、ぜひ一度、腰を据えてある程度の長さの物語に取り組んでもらえたらなと思います。

 思春期特有の生命や死についての倒錯した興味関心をストレートに書いた作品。ただ、それがストレートに過ぎてもう一捻り欲しいかなという印象です。変わった幽霊のアイデアは面白いですが、人が死ぬそのこと自体をオチとしてインパクトを出すなら文章や展開にもう一工夫あって欲しいところです。

 幽霊ネタを絡めた学園ミステリ。伝統的ともいえる内容。こういう雰囲気の作品が好き、というのは伝わってきますし、イメージしたものを書くこともできているとは思いますが、独創性や新鮮さには欠ける印象です。これは単に物語の展開や軸となるギミックの良し悪しだけの話ではなく、キャラクターの台詞回しであるとか、地の文の描写においても言えることです。目指している作品の完成度をより高めるためには、キャラクターの息づかいであるとか、情景の臨場感が出てくるような描写を研究してみるといいかもしれません。拝読した印象としては、設定の独創性や驚きのあるトリックを考えていくより、表現力や台詞回しを磨いて、今ある持ち味を尖らせていったほうがよくなりそうです。

 

ポージィ 「微レ存」

 やりやがったなてめぇ! という気持ちでいっぱいです。うんやんのスピンオフみたいな作品。前半の流麗な文体が流麗であればあるほどオチのひどさが際立つ作品。そのぶん「ですます調」と「である調」の混在みたいな、文体の統一感でところどころ引っかかりを感じるところはありました。生成りでない文体を選択した場合は普段よりも推敲を慎重にしたほうがいいかもしれません。

 勿体ない! 終盤までの神話っぽいお話好きでした。アスタリスクで嫌な予感はしたんですが。勿体ない……!

 無駄に文章力の高いクソSF。荘厳な世界観からのクソみたいなオチ。読者に苦笑いさせるためだけにひねりだしたであろうことから、ある意味において本物川大賞の理念を体現する作品でもあるかと思います。ただちょっと力技すぎるというか、一発芸による単発攻撃なので、多段ヒットを狙ってくる海千山千のクソ創作マイスターたちに比べるとコンボ数で負けています。

 

田中非凡 「少女主義者」

 ウーン、同じ作者の「君は太陽」に比べるとちょっとイマイチ。描きたいテーマ性みたいなのが垣間見えないこともないのですが、物語としてはちょっと弱いですね。あと、細かいところですが三人称記述とはいえ視点を交替しながら進むので、「男③」において唐突に「玲美」という固有名詞が出てくると驚きます。距離感がバグるというか、男と玲美が既知の間柄であるような印象になってしまう。わたしが見落としているのでなければ男は彼女の名前を知らないはずなので、男のほうに視点が寄り添っている章では男が知らない情報はたとえ三人称記述であっても避けたほうが自然かな。

 えーと……これで終わりでしょうか。物語の冒頭部分としては良く書けていると思いますが、これで終わりなら尻切れトンボと言わざるを得ないです。

  既存作品のうわべをなぞっている感じで、ディティールが浅いですね。ガチのロリコンはもっとヤバいのでフィクションなのにリアルに負けている。いや、そういうテーマの作品じゃないとは思いますけど。

 

ユリ子 「Voodoo murder」

  なにかどこかに仕掛けがありそうな構成だったので何度か読み返してみたのですけれど、正直よく分かりませんでした。これまでいくつか読ませて頂いていて、筆者の中で書きたいモチーフやテーマはある程度固まっているのかなという印象。そして、それを書き上げる筆力はすでに十分に持っていると思います。ぜひ、中編~長編の規模にも取り組んでみてもらいたいです。

 シュールな歌のPVみたいな表現、と捉えたらいいのかな。個人的には起承転結のあるストーリーを読みたかったです。文章や表現はしっかりしていて読み応えがありました。

 ウーン、執拗に語るだけの文章力は充分ですが、斬新な切り口みたいなのには欠けますね。悪趣味なだけなのをインパクトだとか、オリジナリティ、リアリティみたいに勘違いするとあまり良くないです。

 

偽教授 「後宮絵師 」

 かなりゴージャスな文体と世界観で、作風てきにはライトに寄せたものよりもこれぐらいのもののほうがむしろ伸び伸びと書けているのかなという印象。偽教授さんは今回、かなりいろんな方向性で数を出してきてくれていて、どういうことができるのかっていう見本市みたいな感じなんですが、そういう観点で見ると、この後宮絵師、ないし針一筋みたいな方向性できちっと腰を据えた創作を見てみたいかなって思います。ステロタイプになりがちな非凡なキャラクターにも生々しさみたいなのがちゃんとあって、血を通わせるのが上手いですね。

 歴史ものを書く文体というかスタイルが確立されている感があります。架空の帝、架空の後宮だろうとは思いますが、官吏の役職の名前を始め状況説明にぽんぽん出てくる当時の用語の数々が歴史書を読んでいるような説得力を醸し出しています。その知識の厚みには敬意を表したいです。「天才」というテーマを扱うにあたりギラギラした俺様的なキャラクターでなく、どこかのんびりとした浮世離れした天才を選択しそれをきちんと書ききる実力には確かな研鑽の積み重なりを感じます。個人的に読点が多く感じたので、読点だけもう少し吟味して減らして貰えると更に読みやすかったです。

 現代ものだとそんなでもないのに、時代小説系の作品になるとやたら強い偽教授さん。絵画という一芸のみで認められ、天下人と対等の立場で語り合うに至る遊女。傍観者である宦官がなぜ最後に涙を流すのか、その理由をあえて語らないことで作品に深みを与えています。ていうかマジでそっち系の賞に出してみたらええねん。わりと書き手が不足しているのでおすすめですよ。

 

田中非凡 「ゴゴゴリラ」

 わりとワンアイデアでそのまま書ききってしまったという印象でツイスト不足の感じはありますが、ワンアイデアで20000文字完走できる体力は素晴らしいです。書くことじたいは得意なようなので、書きはじめるまでの工程に力を注ぐと良いものができそうですね。

 不条理な世界でゴリラと主人公の交流とその顛末を描いたお話。設定を一旦飲み込めば、筆力に下支えされた「僕」と「ゴリラ」との距離の縮まりが丁寧に書かれていて、気付けばゴリラに愛情を抱く「僕」に感情移入しています。悲しい結末なのはお話の要請上やむを得ない面もあると思いますが、似たような着想ならより難易度の高いハッピーエンドにもチャレンジして欲しいです。

 ゴリラが流行ってるみたいだからなんか書いてみよう……という発想のもと、手癖だけで書いたような短編。コメディなのかシリアスなのか、そのあたりのバランスがよくないためにどう読むべきかわからないうえに、やたらと長いのでけっこうしんどかったです。こういった作品でグロ描写が出てくると普通に引きますし、安直な感じがして苦手です。

 

ポージィ「天才と凡才」

 またやりやがったなこの野郎! またしてもまたしてもうんやんのスピンオフ!! KUSO小説とはそういうことではない……そういうことではないのだ……。記述のしかたが章によって一人称だったり三人称だったりでちょっと統一感がないかな。もちろん、章を切り替えているので問題ないといえば問題ないのですが、あまり文字数があるものでもないので、細かく切り替えるよりはあるていど統一感のある叙述で進めたほうがいい気がします。

 一見すると天才と凡才の非対称な友情物語に見えて、内実では逆転があり実は対等か逆向きに非対称であるというお話。二人の関係性を説明しただけで終わってしまっている印象で、ここからもう一転がしして欲しいです。

 ほぼ私小説。現代における天才の立場と凡才の立場をうまく風刺していて、短編としてのまとまりがあります。オチは内輪ネタすぎてアレでした。

 

偽教授「邪剣」

 キャプションにある通り、あるワンシーンだけを抜き出した習作ですね。ちょっと、他の作品に比べると句読点の打ちかたなどで読みにくかったかな。習作にしても推敲はしたほうがより得られるものが多いと思います。

 巌流島の決闘を武蔵視点で書いた短編。この時代の武蔵が次々と現れる挑戦者に対し奇策を重ねて倒していたことは様々なメディアで指摘されているので有名だとは思いますが、実は佐々木小次郎側も奇剣を用いる怪剣士だった、というアプローチは斬新で面白いです。読点が少し多く感じたので、音読してみて不要な点を整理してはいかがでしょうか。

  これはなんとか針一筋の中に混ぜて一本にしたほうが、より高まったんじゃないでしょうか。数を出すよりは精査してほしいです。

 

木賀触太「昼休みの幽霊」

 事件があって、それを解決するという基本的なミステリーのフォーマットなんですが、ものすごい勢いで要件こなしていくので見知らぬノベルゲーのRTA動画でも見ているようで、正直ポカーンとしてしまいます。ヒロマルさんのところでも言いましたが、ミステリーだからといって謎と解決を用意すればいいわけではなく、その過程でキャラクターを描いてもらいたいわけで、まだちょっと物語にまでは高まっていないかなという印象。これは一般にプロットとか呼ばれるようなものだと思います。単純に、もうちょっと文字数を費やしてみましょう。

 この字数できちんとミステリに挑戦したその意気は買います。ただ動機とトリックが今一つ。お話を書き、完結させるという字書きに取って一番大事な力はすでにあるので、アイデアの推敲、取材、短い文章で的確に言いたいことを言う説明力を意識して書き続けてもらいたいです。

 オーソドックスな学園ミステリ。ただ内容としては薄味でした。一番の問題は事件発覚から解決までが早すぎて、ダイジェスト感があることでしょう。ミステリの魅力は単にトリックや犯人当てを楽しむだけではなく、捜査の過程で容疑者や周囲の状況が二転三転と変化したり、キャラクターの心理を掘り下げることでドラマを生みだすことも含まれます。本物川大賞の二万文字はミステリを書く場合かなり短めの制限です。なのにこの作品は5288文字しかありません。内容を考えればもっと肉付けできたはずです。ドラマを展開させましょう。

 

語彙 「終末は君と二人で図書館で」

 ん~、やりたいことは分からないのではないのですが、まだ「こういう設定を思いつきました」という着想段階で、小説にはなっていないと思います。設定ではなく物語を見せていきましょう。

 世にも奇妙な物語がCMに入る時のアイキャッチのような掌編。書きたい内容は書きたいサイズで書けているようには見受けますが、その書きたい内容にパワー不足を感じます。逆にこの内容で読ませるなら、更に描写やキャラクター、状況の作り込みに工夫した方がより多くの読者に受け入れられやすいと思います。

 一場面だけを切り取ったような掌編。雰囲気はわりと好きなんだけど、断片的すぎるのでもうちょっと物語を膨らませてみては? と思いました。この短さであれば、よほど強烈なビジョンを見せてくれないと印象に残りづらいです。

 

バチカ 「光と影の兄弟」

 冒頭の戦闘シーンの描き方は上手いと思います。ただ、2話で急にいろんなことの説明がバーッと続くので、そこで折角掴んだ読者の心が若干離れちゃうかも。あまり説明的にならないように、なにかしら場面に動きを出しながら必要な情報を紛れ込ませて提示していけると良いかもしれません。

 血の繋がらない兄弟の活躍を描いたラノベらしいラノベ。ステータス振りとしてストーリーの魅力よりはキャラクター重視のお話かと思うので主役二人の描写……見た目の特徴や性格や癖など……をもう少し掘り下げると強みが増すんじゃないでしょうか。作者さんが楽しんで書いている感じが伝わって来て気持ちよく読めました。

 魔物を倒しつつ事件を解決していくタイプの小説で、世界観やキャラクターの描き方が丁寧でよかったです。こういうものが書きたい!という意思が伝わってくるのも好印象。しかし文章面に難があり、ぎこちない一人称や臨場感に欠けるバトルシーンなど、表現したい物語に筆力が追いついていないような印象を受けました。具体的に指摘するとキリがないのですが……例をあげると『あれ、それ、これ』『あの、その』と多用しすぎでわかりづらいです。とくに『あいつ』と書いた直後に『奴』と書いてしまうと、それが同じものを指しているのか、あるいは別のものを指しているのかと、いちいち考えてしまいます。細かいところではありますが、そういったところを改善するだけでも物語のテンポがよくなり、読んだあとの印象も変わってくるかと思います。

 

大澤めぐみ 「賢い犬ジェイク・シュナイダー」

 ジェイク頑張れ。ジェイク、頑張れ。

 良くある感動動物ものかと思いきや斜め前にジャンプする変わった読後感の作品。ゴールデンレトリバー寄りの雑種という設定が巧妙で、「ジェイク」の様々な目撃情報がまざまざと脳裏に再生されます。ジェイクはいずれ地球を飛び出し、時間すら超越して神話の世界すらニヒルな笑みで通り過ぎて行くのだろうな、とこちらの想像の翼をも拡がります。

 鬼スケの中で二作も書いてくる主催者の意地。ただ『清潔なしろい骨』と比べるとだいぶ力を抜いているようで、思いついたアイディアはさらっと仕上げたような感じ。ジェイクの活躍がどんどんエスカレートしていく様子はカモメのジョナサン的で面白いのですが、ラストはいまいち突き抜けられなかった印象。パリダカールラリー走破→グレートレースに参戦だとあまり変化が感じられないので、いっそ宇宙船で火星を目指すとか、それくらいぶっとんだ方向にジェイクを走らせたほうがクソ創作らしかったかもしれません。めぐみ頑張れ。めぐみ、頑張れ。

 

梧桐 彰「てっけん!」

 ご新規さんですね。女子空手部が舞台の日常もの。わりと文字数があるんですけどスルスルと読んでいたら読み終わっていて、読み終わってから「あっ、そんなに文字数あったんだ」っていう感じでした。掛け合いが軽快でとても読みやすい。内容としてはキャプションにあるとおり、本当になにも巻き起こさないので、あ、終わったなみたいな肩透かし感はあります。日常ものというジャンルがあることはわたしも承知してはいるのですが、せっかくなので日常の背後でもう少し規模の大きな出来事も動いてたりするともっと好みです。

 少し足りない空手部員と主将の会話主体に進むお話。会話のセリフやユーモアのセンスが卓越していて、その軽妙さは素直に上手いと思います。日常系だからと諦めてしまわずに彼女たちを主人公とした起伏のあるストーリーも読んで見たかったです。

  空手女子のほのぼの部活もの。真面目に空手をやるというよりは「クマを倒せ!」的なおバカ系のノリで、きらら系四コマの雰囲気に近いかも。基本的に会話劇がメインで、テンポよく進むため読みやすかったです。そこそこ楽しんで読めたものの爆発力はなく、後半になるとギャグも単調になってくるのでもうちょっと工夫が欲しかったです。空手を題材にしているわりに扱いが軽めというか、他の格闘技でも代入できそうなレベルだったのも個人的には大きなマイナス。四コマ漫画なら可愛いイラストの付加価値でカバーできるのですが、小説だとディティール面の浅さはけっこう気になります。特定のものを題材にするなら愛がビンビンに感じられるような作品にしてほしいところ。

 

語彙 「恋人脳」

 うーん、これもまだ着想っていう感じかな。客観的な視点からの記述だけなので、ふ~んってなってしまってあまり没入感がないです。同じネタでも見せ方を工夫すれば小説になるでしょう。

 哲学の分野で度々取り沙汰される「水槽の脳」を題材にした取り返しのつかない嫌がらせのお話。皮肉や残酷さを読み取ればいいのかも知れませんが、淡々とした描写はなんとなくそういったものも想起されづらく、あまり感想の残らない読後感でした。

 これまた一場面だけを切り取ったような掌編。同一の世界観のオムニバスにしたうえで投げてきていたら評価も変わってきたかな、と思います。形式というのは大事。

 

ナハト 「罠にバナナは使わない 」

 話の大筋としては(ハッピーエンドまで含めて)ナチュラルボーンキラーなんですけれど、ミッキーとマロリーはそのようになる必然性みたいなのがそこそこあったのに比べると、彼女たちは特になにもなく軽ーいノリでやっていて、そこがかえって現代的な感じでわたしはよかったです。モチーフになっているバナナがちゃんと回収されるのも、構成として◎。たぶん地力がけっこうあるので中編~長編を書いてみましょう。

 思春期特有の生命と死に対する異常な関心を百合テイストで仕上げたどこかポップな印象のお話。女子高生が大した理由もなく人を殺すお話は良く見かけますが、ブービートラップピタゴラスイッチ的に虐殺する、という点は新しいと感じます。折角なら全部とは言わないまでももう少しその具体的な手順について触れて欲しかったです。

 不幸な偶然の積み重ねを利用した、ピタゴラスイッチ的な暗殺計画。天才であるわたしは見事に全校生徒を殺害したはずだったが、実は一人だけ生き残っていて……という筋書きは独創的で面白かったです。キャラクターもいい具合に狂っていますし、バナナアレルギーの伏線も上手に回収しています。短編としてのまとまりもよく熟れた印象の作品。

 

藤原埼玉 「桃色遊戯ツイスター」

 キョン!AVを撮るわよ! に代表されるエロ同人誌1P導入てきな入りは話が早いですね。書きたかったものを書いたのだろうという感じなので、よろしいのではないでしょうか。

 古き良きエロゲのワンシーンのような作品。個人的には、女性読者視点を潔く切り捨ててエロに全振りした侠気は嫌いではないです。ただやはり需要としてはニッチなジャンルになってしまいますし、一線を超えない主人公の弱腰ぶりも評価の分かれるところでしょう。僕が同じシチュに陥ったら自己処理はトイレでします。

 その情報必要ですか?

 え?

 スケベなおっさんの妄想が炸裂!! 実用的なエロというよりは思わず笑ってしまう感じですね。作者のアホな欲望がビンビンに伝わってきてよかったです。ところどころ残念なセンス(褒めてます)も感じられるので、今後ものびのびと妄想を育んでいってほしいところ。ただし事案だけは発生させないように。しかし女の子に股間を握られて「ふぐりぃぃいっ!!」て叫ぶのほんとバカだな。バカだなあ……。

 

dekai3 「本物山小説大賞殺人事件」

 天地天命に誓って、てんどんは三回まで。これぞKUSO創作という感じでもう大好き。ツッコミ不在でひたすらにボケ倒すてんどん芸。終盤になってようやく語り部が冷静になってきて「ゴリラが多すぎる」とか、控えめなツッコミをしはじめるんですけど時すでに遅し、そしてあえなく規定文字数に到達といったフィニッシュ。なにがすごいって、このテンションを20000字もひたすら維持できるその体力ですよ。書くのって読むのに比べれば圧倒的に体力が必要なので、作者と読者で体力勝負して作者が勝つっていうのは、もうそれだけでもすごいことなのです。

 楽屋ネタからの叙述トリック。不思議な世界観でお話としてはユニークですが、未完というか、プロローグ部分だけを読んだような読後感です。字数制限ギリギリだから仕方ないと言えば仕方ないのですが、やはり起承転結があるお話を期待してしまうので食い足りない感じがします。沢山出てきたゴリラの種類にはゴリラに対する情熱を感じました。

 タイトルの時点で出オチ。お、内輪ネタで笑わせにきてんな? 闇の評議会はそんなに甘くはねえぞ? でもクソすぎて笑った。サブリミナルゴリラというべきか、主人公がモノローグで回想を語る中、ガヤで延々と様々なタイプのゴリラが受賞コメントを述べているため、そっちが気になってまったく話に集中できません。読者の心理をうまくコントロールした手法は見事の一言です。このサブリミナルゴリラだけで大賞級の貫禄があるものの、ラストでなにもなく終わってしまったのがとにかく惜しい。期待値が高かっただけにせめてもう一発くらいパワーのあるクソネタをぶつけてほしかったです。やはり手数が少ないと、歴戦のクソ創作マイスターにはなかなか勝てません。とくに今回はハイレベルなコンテストになっているため、メインのクソネタのほかに隠し球のクソネタが用意できていたら、大賞に推していたと思います。

 

畑の蝸牛 「才能は、使ってこその才能です!」

 えっと、未完でしょうか。ちょっとあっちにいったりこっちにいったりで、まだ話が動き出してもいないという感じで、2万字までの規模ではないかなという印象を受けます。2万字という制限はわりと寄り道をしている余裕はないので一点突破でズドンといきましょう。

 全編一人称で進んで行くお話。笑いのツボや面白いと思うことの方向性は人それぞれなので他の方の捉え方はまた違うと思いますが、個人的には正直全体的に少しくどく感じました。どこがか、と言えば出鼻で「教室がうるさいから放課後応接室にいる主人公」って部分で「うーん?」ってなってしまい、一度そうなるとそこから先は主人公の悪ふざけ思考→セルフツッコミの流れのほとんどをくどく感じました。相性の問題だとは思うのでこの講評はあまり気になさらず、他の方の意見を重視してください。

 他人の才能が見える、という才能をもつ高校生の話。設定の着想こそひねりが効いていて悪くないのですが、残念ながら内容の半分は駄文です。饒舌な語り口でライトノベル的な雰囲気を出そうという意図は伝わるものの、無理をしているのか空回り気味。総じて駄々滑りしています。そのうえ『正直にぶっちゃけて』というように意味が重複している文章があったり、物語の展開がごちゃついていたりと全体的に雑です。クソ創作とはいえ推敲はしましょう。

 

アリクイ 「聖夜なんてクソ喰らえ!」

 ひどいですね(褒め言葉でない)。わりと本文のテンションが高めなのですが、そこに読者を引き込みきれずに本文と読者の温度差というか、距離が開いてしまっているというか、ポカーンとしてしまいます。あとがきのあたりで苦笑いを通り越して頭を抱えました。まったくひどいKUSO創作だと思いますが、まあなんにせよ進捗することじたいは尊いのではないでしょうか。

 ちょっと間抜けた悪の科学者がヒーロー戦隊を敵に回したり味方に付けたりしながら、クリスマスを台無しにしようと奮闘するお話。軽妙な語り口でスルスル読めました。ツッコミどころはないではないですが、物語の力がそれを上回って最後まで読ませてくれます。だからこそ逆に最後の最後がいわゆる「くぅ〜つかコピペ」なのが若干残念です。作者さんの照れ隠しかな? より多くの方にネタとしてきちんと伝わることを祈るばかりです。

 悪の組織視点のヒーローもの。天才科学者の主人公がクリスマスをぶちこわしにする怪人を製作する、という設定そのものはありがちなんですが……まさか『大量のうんこをひねりだす怪人』を作って町を汚染しようとするとは思いませんでした。知能レベルが恐ろしく低い(褒めてます。リアルに想像するとこれほど悪質な嫌がらせがあるかよという謎の納得もあり、まさにクソ創作と呼ぶにふさわしい内容でした。クソだけに。いい歳こいた大人がこんなものを書いてくるというのがもう地獄というか、お仕事でストレスを抱えてるのかな? とか心配になってきます。ほとんど寝てないかお酒が入っているときに読んだらゲラゲラ笑えそうです。

 

綿貫むじな 「兄と僕のことについて」

 第一回からずっと参加してくれている作者さん。文章はかなりこなれてきていて、成長が見えます。継続は力なり。ただ、今回はお話としてちょっと地味ですね。お前の無自覚な邪悪を暴き出す! みたいなところはエモくてアツかったのですが、そこがピークになってしまっていて、それ以降最後まで結局カタルシスがなく、バランスとして頭が重くて尻すぼみなので、あまり良くない。たぶん、語り部がただ出来事に遭遇するだけの観測者になってしまっていて、なんら主体的な行動を起こしていないからではないでしょうか。出来事を受けて、語り部になにかの決断と行動をさせ、人間の変化や成長を描くと高まると思います。

 良くある才凡兄弟の話かと思いきや一捻り半してあって面白く怖く読めました。シーンの切り取りが上手いな、と思わせる描写が幾つかあったのですが、平凡な弟が天才選手の兄の甲子園での活躍を電器店に沢山並ぶテレビで観るシーンは特に印象に残りました。表現したい登場人物の対比を、言葉や台詞でなくシチュエーションで上手に表現できるのは強みだと思います。因果応報で主人公が酷い目に合うお話なのに、どこか淡々としたカラッとした文体が陰惨な感じを軽くしていて読みやすかったです。

 スポーツをやればなんでも活躍できる天才の兄と、凡人であるがゆえに比較され続けた弟。しかし交通事故によって兄が挫折したことで、二人の関係は大きく変わることになる。内容としては兄と弟(天才と凡人)の確執によって発生した復讐劇といったところ。中盤で明かされる弟の隠れた『才能』はなかなか皮肉が効いていてよかったと思います。ただ構成面に少々難があるというか、殴られて意識を失う→場面が変わるという演出を多用したせいで展開が単調になっていたり、物語のラストに仕掛けが用意されていないため、中盤以降になると変化が乏しく淡泊な終わり方になってしまっています。綿貫さんの作品は風景の描写や心の動きについてはよく意識されているものの、シナリオ面がおろそかになりがちです。読者を飽きさせないようなドラマ作りであったり、この作品を読んでよかったと思わせるようなカタルシスの作り方を研究してみてください。

 

いかろす 「何が彼女らに起こったか?」

 いきなり不可解な状況からバーン! とはじまって、つぎつぎと極端でゴージャスな属性のキャラがバーン! バーン! と出てきますが、こうまで飽和すると「そういうもんか」とすんなり受け入れてしまいます。完全に足し算の創作法で、比較的うまくいっている事例じゃないでしょうか。オチの抜け感も、まあこれくらいの規模ならこういう感じかなという納得もあり、嫌いではないです。同じ創作メソッドで長編いけそうですね。

 学園ミステリらしい学園ミステリ、と言ったらいいんでしょうか。ただこれは作者さんも分かってるとは思いますが学園ミステリの型枠をなぞり過ぎかな、とは思います。折角一本お話を書くのだからもっといかろすさんならではの味というか、ほかの学園ミステリに埋もれない何かを説得力ある形で盛り込めるようになると、グッと入賞などに近づきやすくなるんじゃないかと思います。

  書こうとしている内容こそなんとなく伝わるものの、全体的にとっちらかっているため、かなり読みにくかったです。文章そのものを抜きだした場合は問題がないので、説明すべき情報を提示する順番が整理しきれていないのだと思います。作者には全体像がわかっていても、読者はそうではありません。頭の中にあるイメージをどういう順番で、どう表現したらわかりやすく伝わるのかを、考えつつ書いてみてください。ミステリはとくに難しいジャンルですから、他の書きやすいジャンルで慣らして経験値を貯めてから、再挑戦してみるのもいいかもしれません。

 

アイオイ アクト 「W・ダブル」

 三角関係なんですけれども、ある情報を意図的にシールしたまま進行していきます。それゆえ、読む人によって解釈がわかれるだろうという、そういう仕掛けの作品。20000字という制限の中で作中作を盛り込むのはちょっとギチギチかなという感じはします。作中作のところでスピードダウンしてしまう感じがあるし、具体的に描くことで具体的に描かれてしまうという弱点もあるので、作中作のウェイトを絞ってでも本編のほうを厚くしたほうが読み心地はよかったかも。

 某特撮変身ヒーローがストーリー上大事なポジションで扱われていて、それの作品は僕も大好きなので親近感を覚えました。お話には実験的な試みがされていて、作者さんの着想の柔らかさには感心します。あまり具体的すぎると年代が特定できてしまい、物語自体が古く感じるデメリットはありますが、そこは折り込み済みなのでしょう。読む側からすると作中人物のビジュアルを想像しにくいのは読み進めて行く上で作品世界への没入に不便かなと感じました。また作中の演劇シーンが丸々収録されているのは少し冗長かも知れません。僕は元演劇部で、演劇部ネタは好意的に受け止めたいのですが、世の中には「演劇」というジャンル自体に対して受容体を沢山もつ方とそうでない方といます。舞台上の演劇シーンはさらっと触れるか大事なシーンのダイジェストとかの方が、より多くの人に取って読みやすくなるかも知れないな、と感じました。ただ、何となくありふれた杓子定規なお話を書くのではなく、何か新しいものを、今までにない読書体験を、と挑戦的に探って行く姿勢はキャリアを問わず我々物書きに共通して大切なことだと考えるので、その在り方は今後とも大事にしてほしいと思います。

 演劇部を舞台にした青春小説。脚本家の主人公、演出家のヒロイン、監督の先輩……の三角関係と演目の内容がシンクロし、切なくも甘酸っぱいラストに繋がっていきます。この空気感はいいですね。書きたいものをイメージしたように書けていて、確かな実力がうかがえます。オリジナリティやインパクトという面では若干の弱さがあるものの、そっち方面を伸ばしていくよりは地に足ついた作品を書き続けてほしいところ。こういう作風の場合、キャラの可愛さ(今作はやや個性に乏しいです)であるとか、読者の記憶に突き刺さるような心情描写を磨いていくと、さらに強くなると思います。

 

 ボンゴレ☆ビガンゴ 「【短編】蝉の声」

 ビガンゴくんも最後の一行で全てをひっくり返す技をとうとう覚えたか、という感じなんですが、なんていうかこう、そっち方向に発揮したかという感じで非常に神妙な顔になりますね。意図した効果は発揮していると思いますので、成功か失敗で言うと成功なんでしょうけれど、読後感はわりと最悪です。おそらく、作者が意図した通りに。

 ストーリーラインの練り方が優れていると感じました。特に最後のセリフでさくっと心を刺す感じは意地悪であり、巧みでもあります。似たモチーフのお話に比して、主人公視点のモノローグ形式が非常に活きており、またその主人公の辿る事件の顛末のシチュエーションが特異でありながら自然に展開されて行って、作者さんの設計の上手さを感じました。全編に通奏低音のように流れる物哀しい空気感は好きです。

 ……え? これをビガンコくんが書いたの? マジで? というのが率直な感想。ちゃんと考えて書けやお前! と別の作品で講評をつけたのに実はちゃんと考えた作品も出していた事実が判明してわりと困っています。終盤で判明する真相は意外性があり、そのうえ作品のテーマが同時に提示されるため納得度が高いです。ラストの台詞も切れ味があっていいですね。闇オブ闇という感じ。ていうかほんとにこれビガンコくんが書いたの? ぱおーん!とか言いながら? なにそれこわい。

 

こむらさき 「日呂朱音と怪奇な日常」

 あ~、いいですね! 好き! この作者さんにしては珍しい現代が舞台の怪奇もの。やはり文に現代的なセンスがあるタイプなので異世界ものよりは現代ベースのほうがしっくりハマる気がします。今までの作品の中では一番好き。オリジナリティには乏しいですが、そのぶん煩雑な説明などを回避して簡潔に済ませれるし、キャラクター造形も話の運びも一定の水準は超えていて、これはひとつなにかの壁を突破した感じがあります。基本の型に沿って物語を完結させる力は充分に備わっているので、あとは自分なりの個性をもっと強く出していけるとさらによくなるんじゃないでしょうか。今回の話でも多少片りんはありますけど、こむらさきさんは人間の暗部を描くのが本当に上手いので、つまり、胃壁がキュンシリーズとのハイブリッドですよ(ろくろを回す)。連載にも耐える設定なので、アレならこのまま続きを書いていってしまうのもいいんじゃないでしょうか。

 学園ミステリの導入から始まり怪奇ロマンな感じに着地するお話。怪異に対していわゆるチートな能力で圧倒するのではなく、三つの手掛かりがないと倒せない、というのはいいアイデアですね。オバケが出た→倒したという一本道じゃなくて物語に起伏やバリエーションが作れるし、例えばそこにヒロインなど他の人物を絡めて仕事をさせられる。またストレートに見た目がカッコいい主役を登場させているのも有効に働いていると思います。一つだけ、主人公が日常から怪異に踏み込む時、話の信じ方がスムーズ過ぎる気がするので一つ小さな怪異の証拠を挟むと日常から非日常への場面転換がシーンの一つとして活きるかなと思いました。

 冒頭で違和感なく設定が説明されているうえに、物語に引き込むことにも成功しています。こういうスタートが切れる作品はある程度の完成度が保証されるので、安心して読み進めることができました。とはいえ一定のまとまりこそあるものの、どことなく既視感を覚える読み味で期待していたほどの面白さではなかったです。これはこれで需要があるとは思いますが、クセのあるスパイスを混ぜたほうがより完成度の高い作品になるかもしれまん。地力はあると思いますので、今後は個性を磨いてみてはいかがでしょうか。

 

葛城 秋「K/冬の屍体」

 んー、ミステリーっぽいフォーマットではあるんですけれど、謎解きの要素はあまりないですね。強いて言うならフォーカスはワイダニットに合っているとは思うのですが、動機も極端ではあるものの「そうきたか」と思わされるような目新しさがあるわけでもなく、まだちょっとバラけている印象。現代風のガジェットを盛り込みつつ陰惨な事件をミステリーして青春小説として着地させる、という試みは本質的に水と油を混ぜようとしているわけで難易度は高いです。難易度が高いことに挑むなら覚悟を決めて腰を据えてやるしかないし、手に余るならもう少し手をつけられる題材からやっていったほうがいいかも。

 異常連続殺人の顛末をコンパクトにまとめたお話。字数に対してプロットが窮屈だったかな、という印象。殺人は件数を絞って、真相への伏線や犯人の異常さを丁寧に書いた方が一つ上のクオリティを目指せたのではないでしょうか。異常な犯人の書き方は色々な手法がありますが、安易なヒャハハ系に走らずに異常な人間の描写をもう一工夫すると更に印象深いお話になると思います。

 行方不明になったK。彼と関係のあった少女たちは次々と惨殺され、その身体にはKの肉体の一部が埋め込まれている。そして新たに容疑者として浮上するX……。最初のほうはかなり面白そうな雰囲気だったのですが、物語が進むにつれてシナリオが粗くなり、同時に文章も荒れていきます。後半になるとファンタジー設定まで飛びだすので、冒頭の期待値からすると消化不良感が残りました。やはりラストがよくないと評価も上がりづらいです。とはいえ全体的な質感であるとか、読者に興味を引かせるような導入はよかったので、伸びしろはまだまだありそうな印象。数をこなして完成度を上げていってください。

 

 姫百合しふぉん 「ブラックダイアモンド」

 安定のいつものしふぉんくん。ゴージャスで耽美な文体のちからは相変わらずで、非常に筆力の高い作者です。もうちょっと一般ウケも狙ってみては? みたいなことはずっと言っているのですが粛々と進捗し続けているのでたぶん言ってもダメなんでしょう。このままどこまでも突き進んでほしいと思います。

 文章を書く能力が高いのは一目見て分かりましたが、この技法は好みの分かれるところかと思います。食べる量の好みに似て、これくらいガツンとした文面が読み応えがあると感じる方もいれば、ちょっと胃に持たれるなぁと感じる方もいるのでは。それから比喩表現に少し力か入り過ぎかな、と感じたのですが、僕は一話目で主人公がソナタを弾いているのか、音楽を聴きながら絵を描いているのか本気で混乱しました。勿論これは僕の読解力に寄るところもありますが、読んで貰ってこその小説という面もあるので、読み易さを意識して文章や比喩の演出をもう一工夫すると、読み手の敷居は下がり、読み手の幅がグッと広がるかと思います。

 ザ・耽美。詩的であり官能的であり、文字の洪水のような語り口。そこから紡ぎ出される、身を焦がすような愛と憎悪。文体としてはかなりくどいものの、目指そうとしている作品に適した表現手法なのでこれはこれで正解だと思います。とはいえ最後まで同じリズムで進むため、やや単調になっています。だーっと長い文章が続いたあと、短い台詞をぽんと置いて止めるとか、なにかしらの変化がつけられるとなおよいのではないかと思いました。演奏もずっと音が続かせるわけではなく、『無音』の瞬間をアクセントとして使ったりします。そんなふうに行の余白をうまく利用してみると、面白い効果が得られるかもしれません。

 

不動 「先達」

 時代ものですね。歴史に詳しくないし、予備知識なく漫然と読んだので史実に忠実なのかどうなのかとかは分からないんですが、たぶん史実通りなのかな? なので、そんなに派手なことが起こるわけではないんですけど、ちゃんとキャラクターの成長も描いていて、面白かった~! っていう感じじゃないんですけど、読んで良かったなって思うような、そんな佳作です。中盤以降、現代風の言い回しが出てくるのは、わたしみたいな層には読みやすくて良いのですが、小童なみの感想、とかそういうのはどうなんだろう? バランス感覚が重要かも。

 今回講評をさせて頂くにあたり「学園ミステリとは」「天才とは」「笑える話とは」を考えさせられるお話は幾つがありましたが、「ラノベとは」を考えさせられた本格歴史小説にパラメータをほぼ全振りしたお話。所々に現代風の表現も散見されますが、ガチ過ぎて敷居が高いのは否めません。ただ、「俺の生き様を見よ」と言わんばかりの作風は、男気しか感じず、嫌いではないです。変に学園ハーレムとかにぶれずにこのまま突き進んで欲しいです。あ、でも逆に歴史美少女ハーレムものとかを書いて見たら持ち味と需要が噛み合ったりするかも知れないです。

 時代小説風の書きだしではじまったかと思いきや、次第に雲行きがあやしくなり、気がついたらラノベ風に文体が変わっている歴史絵巻。たぶん書いている途中で時代小説風の文体がしんどくなったのか面倒になったのか、とにかく最後までこらえられなかった作者の心情がビンビンに伝わってきます。内容自体はわりと好みだったので、ラノベ調の文体でないと速度が出ないなら改稿してそっちに統一するか、あるいは時代小説風とラノベ風の文体が入れ替わる前提で(そういった演出が活きてくるような)仕掛けを作ってみると面白いかもしれません。

 

warst 「木梨雄介はオカルトを信じない」

 ミステリーの皮を被せたラブコメ。トリックなんて飾りです! ってつねづねわたしが言っているのはこういうことですよヒロマルくん。人が死なない、いわゆるコージーミステリーで、解き明かされる謎じたいは「ああ~、そういうのあるある~」って拍子抜けしてしまうようなチープさなんですが、そこは主題ではないので、むしろ「ああ~、そういうのあるある~」であるほうが良いわけです。一話完結じゃなくて、複数話を使って徐々にもどかしい関係性を進展させていってほしいですね。

 ちょっとしたオカルティックな謎とその解明に絡めた実は割とストレートなラブコメ。主人公の合理主義者の朴念仁視点で物語は進んで行きますが、そんな彼に読者がヤキモキするという構造は視点人物の体たらくだけにより濃くヤキモキを感じることができます。個人的にはヒロインの描写にもう少し力を入れて、読者がよりヒロインを好きになれるとヤキモキの濃さも結末の痛快さも際立つかな、と感じました。

 オカルトを否定するためにオカルト研究部に所属している、というヒネくれた主人公の日常系ミステリ。ガチの怪奇現象もしくは事件解明系ではなく、実際にありそうなちょっとした不思議を解決していくタイプの作品。謎の規模や仕掛けは概ねスケールが小さめで、高校生の男女がわいわい探偵ごっこをしているような感じでニヤニヤできます。とくに相手役の女の子が魅力的で、かなりあざとい感じで主人公に好き好きアピールをしてきます。乾ききったおじさんの心と股間に響きました(最低の感想) Warstさんは女の子というか可愛い生きものを書くのが巧いので、今後もこんな感じでほんわかするような物語を書いていくとよいのではないでしょうか。

 

ひどく背徳的ななにか 「弑するニンフォマニア

 堅めの文体ですが読みやすく、文じたいがかなり上手いです。極端な属性を与えられているにも関わらず、人物にも生々しさがあって、ここも上手い。津村は悪の教典の蓮見を連想させる真性のサイコパスで、こういうキャラは安っぽさが垣間見えると一気に台無しなので扱いが難しいんですが、成功していると言えるでしょう。単純に、紙幅の都合でダイジェスト感があるので、中編~長編として再構成してみてもいいと思います。

 倒錯したヒロインと倒錯した同級生が犯す殺人の物語。主人公に変わった身体的特徴を持たせるのは勇気ある決断だと思いますが、この作品ではそれは成功していると思います。個人的にはどの人物にも感情移入し辛く、お話全体としても後味の悪さを感じましたが、そのあたりは作者さんの計算通りかと思います。文章も人物造形も上手なので、もう少し明るいモチーフの作品も読んでみたいです。

 男に触られただけで性的興奮を覚えてしまう女子高生。彼女はクラスメイトのサイコパスレイプ野郎に父親殺しの計画をもちかける。ニンフォマニアのわたしとゲスの極みボーイのおれの一人称が交互に入れ替わり、強姦、自殺、虐待、近親相姦と、闇系のイベントをこれでもかと見せつけつつ、意外性のあるラストを迎えます。このタイプの小説はいわゆるファッション感というか、『俺こういうの好きなんだぜえ狂ってるやろ、お?』みたいなドヤ顔と思慮の浅さが見え隠れして辟易することが多いのですが、この作品は地に足ついた闇系でよかったと思います。ただラストで描かれるサイコパス津村の動機であるとか、娘に暴行を働く父親のキャラクターはややベタな印象を受けました。読者を本気でゾッとさせる異質感というか、こいつマジでヤバいな……と感じさせるくらいの狂気を描ければなおよかったと思います。

 

海野ハル 「【新】わくわく☆ドリームランド R-15」

 手間の掛かったKUSO創作ですね。すべての漢字とカタカナに振られているルビ、唐突にブチ込まれるアスキーアート、登場キャラがすべてゲスな上に人間関係もドロドロという、もう本当にひどいKUSO創作です。この場合、KUSO創作とは褒め言葉です。最後まで苦笑いのまま駆け抜けました。なによりもこのテンションを最後までやりきった体力が素晴らしい。よくできました、偉いね~。

 一見するとネタに走ったおふざけ小説ですが、その実ミステリの作法をきちんと踏まえたおふざけ小説。作中の推理が進む中で容疑者が二転三転する展開のテンポの良さは気持ちよかったですし、作者さんのお話の設計の確かさが見て取れます。小説に書かされているのではなく、書きたい小説を計画通りきちんと書けている、パフォーマンスに再現性のある実力を感じました。

  あ、そうそう。再現性というのはプロを目指すなら重要な要素ですね。ノリでやっているように見せかけて、実はちゃんとプロトコルがある。

 児童文学風の文体で猟奇ミステリを書く、というクソみたいな発想で書かれた短編。ロケットスタートは切れたかなという感じはあるものの、後半はややごちゃっとしてしまった感じ。インパクトを重視する場合、シナリオはもうちょいシンプルにしたほうが面白くなったかも。評判をみるにクソめんどくさいルビ振りをやっただけの効果は得られたようですが、本物川大賞の上位に来そうな作品と比べるとスピード感で負けています。こういうものを計算で書いていると、思い切りよくぶっこまれるナチュラルクソ小説に勝てません。

 海野先生は根本的に生真面目だからね。

 テクニカルであるぶん、オミットされてしまうスピード感をどうカバーしていくか。それが今後の課題だと思います。 

 

5Aさん 「粗チン童貞と変態処女だけが世界を救う術を知る。」

 ひどいタイトルですね。しかし、非常にラノベてきなアプローチで、ラノベてきに上手に仕上がっていて、なんていうか意外に悪くないんですよ。文も詰まるところはないし、小まめにクスクス笑えるし、なんだかんだで最後まで一気に読んじゃったしで、たぶん普通に上手いのだと思います。でも、なにしろ話が話なので素直に褒めづらくて苦笑いするしかないみたいな。KUSO創作のお手本のようなKUSO創作でした。

 今回の並み居る実力派の作品の中で、「俺のラノベ」のど真ん中に投球している数少ない作品と感じました。エロ要素、バカバカし目の設定、そして秒速で出てくるメインヒロイン。個人的な物差しですが実にラノベらしいラノベとして書けていると思います。実はこれって結構重要なんじゃないかと僕は思っていて。テーマやお題に対して裏を搔こう裏を搔こうとする人もいますが発注に対して正しい出力ができる、と言うのは商業を意識するなら必要な能力だと考えるからです。勿論それだけじゃなく、正しい発注内容で出力した上でプラスアルファは必要ですが。下ネタ寄りですが変にやらしくなくて爽やかに読めたのは作者さんの持ち味だと思うので、今後もこの方向性を大切に頑張ってください。

 ザ・クソラノベ。クラスメイトの美少女に「ちんこみせろ」と強要される主人公。実は主人公のちんこは約束されし勝利のちんこ『えくすカリバー』であり、世界を滅ぼす存在である悪魔を倒すために伝説のちんこパワーを覚醒させなくてならなかったのだ……というクソみたいな内容。ただ悔しいことにあまりにもくだらなさすぎて笑ってしまうというか、語り口の軽妙さであったり、主人公どころかその母親までナチュラルに狂っていたりで、ただ「クソラノベを書いてみたよわあい」だけでは終わらない芯の通ったキマりかたをしています。正月になって病院が閉まる前に念のため頭の検査をしてみることをおすすめしますが、これはこれで本物川大賞らしい作品といえるでしょう。おじさんは好きだよ、こういうの。

 
左安倍虎 「井陘落日賦 」

 左安倍虎さんの得意な中国の歴史ものですね。安定して上手い作者です。こういうものとして読んだ場合、もう完成されているので特に言うべきことはないので、あとは本人の意向として、どこを主戦場にしていくのかとか、そういう話になってくると思います。ラノベ領域に食い込んでいこうとするなら調整が必要でしょうけれど、広義の文筆業はむしろ「安定して上手い」が求められる領域のほうが広いと思うので、うまく入り口を見つけてマッチングさえ上手くいけば、このままでも商業のお仕事ができそうです。

 ラノベの軍師・策士は上から目線のすごい知略を説明してる口調で、ひどく安易な伏兵や設置型の罠の説明をしたりするイメージがありますが、この作品の軍略家達の戦いは鎬を削る「人の心」の読み合いであり、お話を読み終えた後に一つ賢くなったような得したような読後感があります。作中キャラクターも実在の武人をモデルにしつつアレンジが施されていて、結末も血みどろの合戦の時代のお話の割には驚くほど優しく牧歌的で、作者さんの人柄が滲んでいるように感じます。個人的にはタイトルやあらすじ……勿論お話の内容に対し的確なタイトルやあらすじなのですが……で損をしてるかなと言う気が。難しい漢字の羅列になるのは仕方ないにしてももう少し敷居が低い感じにできたらな、みたいな。こう言う良くできたお話を今の若い方たちにもっと読んで貰いたいので、その辺りを一工夫すると急にPVが回り出したりしないかな。面白かったしサイズの中で良く書けているいいお話を読ませて頂きました。

 かの有名な『背水の陣』の、裏話的なエピソードを描いた短編。持ち前の知識を存分に発揮した本格派の時代小説でありながら、キャラクターの台詞回しにケレン味があり、万人に通じる面白さを備えています。なんでこんな格調高い作品がクソ創作コンテストに……という困惑すら抱く出来で、明らかにハイレベルであることは伝わるものの、こちらの勉強不足ゆえに評価しきれない側面もあり、審査する側としては心苦しいところ。やはりこの手の歴史絵巻のほうが持ち味が活かせると思うので、なんかそっち系の賞(よく知らない)にチャレンジしてみてもいいのではないでしょうか。

 
クロロニー 「人の嫌い方」

 この人もご新規さんですが、上手いですね。そして、新規の上手い勢がのきなみこの手の暗い話を書いてくるので、なにか共通の傾向でもあるのではないかといった別の興味が立ち上がってきます。主人公の体質は普通なら無関係の事件に主人公がコミットしていく理由付けなどに使われそうですが、これは逆で主人公の性質ゆえに成立した事件になってますし、「人を嫌う」というのが一種の成長として描かれているあたりもツイストがきいていて良いですね。これも中編~長編の規模で読みたいかな。

 連鎖する悪意が引き起こす不気味な出来事とそれが原因の殺人のお話。冷静に考えるとツッコミ所はあるはずなのに、文章や読ませ方の巧みさで「実際にありそうだな」と思わせる作者さんの技量には唸ります。個人的に僕自身が作中で「悪意」を扱うのが苦手で、そこが上手なのは羨ましいです。作中の出来事を通じて主人公に変化が起きた上での痛烈なラストにプロット段階のセンスの良さを感じます。後味悪い題材を扱いながら小気味良い文章と展開のテンポで気持ち良く読めました。

 人の死に引き寄せられる兄と、表情を失った妹。登校拒否、妊娠、赤子の遺棄、惨殺死体と、けっこう容赦のない展開。ダークな雰囲気をうまく表現していますし、全体的な完成度は高かったと思います。妹の話とクラスメイトの話が最後に交わるのですが、その繋ぎ方がけっこう強引な感じ。物語として破綻している、というレベルではないので文庫本一冊程度であれば気にならないかもしれませんが、短編の場合はクッションとなるエピソードがないため違和感が出てしまいます。二万字程度の分量であれば、どちらかのエピソードに絞ったほうがスマートだったかも。

 
有智子 「北斎の梯子」

 すっごい好き。なんだけど、わたしのこの評価は初見の人にはあまり共有されないかな? 種明かしをすると、実はこれ有智子ちゃんが書いてるメディエーターってシリーズの外伝に相当してるんですね。森博嗣とか上遠野浩平とかがよくやる、別シリーズと見せかけておいて実はクロスオーバーでした~ってやつなんです。実は加部谷でした~とか、実は練無くんでした~とか、実は睦子おばさんでした~とか。で、そういうのを抜きにしてコレ単品で考えると、ちょっとオチが唐突なのかなぁって感じはします。でもメディエーター読んでる前提だとほんとアレなので読もうね。

 冒頭から情感たっぷりにモノローグが綴られ、失踪した天才画家という謎を軸にした物語に引き込まれます。しかし肝心の真相が明かされる場面になって、唐突にファンタジー設定が出てくるので面食らってしまいました。これは本当にもったいなかったです。プロット単位で抜き出すと意外性もあって悪くないシナリオなのですが、如何せん料理の仕方を間違えた印象。この内容であれば、序盤から「ファンタジー的な要素もあるよ」ということを匂わせるべきです。たとえば主人公が『人には見えないものが見える』力をもっている設定を入れてみるとか、幽霊や怪異を交えた短いエピソードを加えてみるとか、結末にいたるまでの準備を前もって仕込んでおきましょう。そうすればぐっと読者に親切な設計になり、目指そうとした作品により近づくはずです。

 ああ、そう。なんの前提もないとそういう評価になるよね。メディエーターを先に読んでると「境界」という語が出てきた時点で「あっ! あ~~っ!!」ってなるんですけど、初見の人に対してはまったく機能しないので、これ単体で評価すると辛くならざるを得ない。

 最後まで読んで「そうかぁー、そっちかぁー」と真夜中に声を上げてしまいました。まず特筆したいのは作者さん自身の感覚の鋭敏さと、それを的確に言語化できる能力の高さ。それが文章に生き生きとした色彩で描かれていて、なんでもない地の文に感動する自分に気付いて敗北感があります。作中の「天才」の造形や描写も見事で、恐らくですがモデルにした実際の芸術家の方の数人分のエピソードで構成したのかな?とお見受けしました。「それなら誰にでも書けるじゃん」と思ったあなたは是非実施してください。確かな取材に基づいた人物造形を元に描かれたキャラクターの存在感や言動に血が通った感じは、頭で考えただけのそれとはやはり芯の通り方が違って見えます。そのやり方の編集というか匙加減がこの作者さんはとても上手い。だから、だから個人的には最後が。素敵なんですけど、最後の主人公と天才の対話とか分かるんですけど、個人的には最後まで人間ドラマで読ませて欲しかったと感じました。読書量と取材力、そして瑞々しい柔らかな感覚を合わせ持つ作者さんに素直に嫉妬する良作です。

 

Enju 「輝け!光線ガール!」

 前回の大賞では「コナード魔法具店にようこそ」で銀賞をとったEnjuさん。今回も短く、ライトで、スルスル読める、の三拍子が揃ったチャーミングな規模の物語です。序盤の掴みは最高ですが、中盤以降ひたすら肩透かしの連続なので、もうちょっと変化球もほしかったかな。何気にビームにもちゃんと理由付けがあったりして、このへんのアレをコレしてみたいな設定をうまくかみ合わせるのは上手っぽいので、さらに複雑なプロットにもチャレンジしてみてほしいです。

 お話を書く時には作品ごとに無意識にであれ意識的にであれリアルとエンタメのプライオリティのバランス調整が施されるものだと思うのですが、かなり思い切りエンタメ側にハンドルを切った作品。文章よりも映像……短編アニメなんかになると真価が発揮される作品かなと思いました。変に意外な展開を目指さずに、熱い王道クライマックスでも良かった気がします。後半繰り返し肩透かしされるのは一抹の寂しさがありました。

 胸からビームを撃てる女の子が地球を救うためにがんばる、ほのぼの日常もの。アイディアだけ抜き出すと高確率でスベりそうな雰囲気ですが、読んでみるとけっこう面白かったです。これは単純に作者にユーモアのセンスがあるからでしょう。ただ自分のセンスをうまくコントロールしきれていないというか、計算で笑わせるには今一歩足りていない印象も受けました。この辺りは書き慣れてくれば、自然と技量が上がってくるのではないかと思います。光るものがありそうなので、今後とも深く考えすぎず変なノリを突き詰めてみては。

 
@neora30 「異世界転生実況者」

 ん~、ロケットスタートは素晴らしかったのですが、話を膨らませる前から話をどう畳むのかに気を取られて体力が続かなかったような印象。物語というのは自分で100コントロールするよりも自走させつつギリギリ制動は保つくらいがドライブ感あって最高なので、まずは膨らませられるだけ膨らませてみましょう。

 着眼点はいいと思うんですが、アイデアを作品に昇華するに当たる手続きが充分に出来てないように感じます。米、ルー、牛肉じゃがいもニンジン玉ねぎがどんないい素材でも、生煮えで出されては美味しく頂けないように、アイデアという素材の味が最大限に活きるお話の構成を考えるのが我々物書きの腕の見せ所です。いい素材のパワーで押し切る方も中にはいますが、それは素材自体によっぽどのポテンシャルがないと使えないやり方なので、次回は設定やアイデアの魅せ方、活かし方を意識して書いてみてはどうでしょうか。

 アイディアは面白いのですが、それだけで終わっている印象。SF的な設定についてもどこかで見たような感じ(スピリットサークルあたり?)なので、オチも含めややパンチに欠けます。ユーチューバー的な実況形式を交えてなんかやろう、という心意気はよかったと思います。もう一回か二回お話を転がしてみるか、ラストに斬新な切り口を用意できていれば評価は変わったかもしれません。

 
ラブテスター 「空が帰って来た日」

 冒頭の世界滅亡のシーンは、この筆者が得意とするゴージャスな文体と合致していて非常に良いのですが、残念ながらそこが物語全体のピークになってしまっていて、それ以降、そこを超えるカタルシスがないように思いました。バランスが超絶竜頭蛇尾になってしまっている印象。描写において、花火のシーンが世界滅亡のシーンを超えている必要があるでしょう。また、「花火をあげる」→「空が帰ってくる」は即座にイコールで結ばれるものではなく、そのように考え得るロジックの提示が必要で、それが物語によって十分に成されていないように感じます。「花火をあげる」というミッションに対し、語り部が完全にただの観測者でこれといってコミットしておらず、また過程に障害もなにもないのも印象が薄い原因でしょうか。同じ設定で、行動に制約の多い少年少女を主人公に、空を取り戻すために花火をあげようとする物語だったら、冒険活劇に仕上げることもできたでしょう。

 終末に向かう閉塞した世界で、たった一人子供みたいな理屈の発明品を作る教授とその教え子の主人公のお話。このお話好きなんですけど、タイトルは違う方が良かったかも知れません。このタイトルなら、最後は暗雲を切り裂いて抜けるような青空がパッと広がって欲しかったし、多くの方がどこかでそう期待しながら読み進めるんじゃないでしょうか。想像の中の空が実際の空より美しい、という演出だとは思うのですが、小説という媒体を選んだ時点で劇中の風景は全て読者の想像の賜物になるわけで、素直に青空回復エンドか、花火に焦点を当てたタイトルかで良かったかも知れません。冒頭の神話のような終末描写は言葉選びが巧みでカッコ良かったし、全体に小説の作法にしっかり則っていて読みやすかったです。

 閉塞的な地下世界で生きる少年と、若者に希望を与えたいと願う老人の話。物語全体が一本の筋のようになっていて、すべてはラストの情景に向かって収束していく作りになっています。世界観もよく練られており「こういう設定であるのならこういうふうになるはずだ」というような描写が随所にみられ、物語に臨場感を出すために工夫しようという意識がうかがえました。とくによかったのは物語の鍵となるガジェットの選択でしょう。空への憧れ、閉塞感の打破、未来の希望、という作品テーマをうまく象徴していたと思います。あえて重箱の隅をつつくなら、冒頭の説明はなくてもよかったのではないでしょうか。読者に「ここはこういう世界なんだよ」と最初に提示しておくのは親切ではあるものの、この作品にかぎっては予備知識なしでぽんと放りだしたほうが効果的だった気がします。

 
@scoriac-pleci-tempitor 「バベルの天使」

 んーと、単純に短編のボリュームで収まる話ではないかなという印象。長編のプロットを見せられたような感じです。20000字はアレもコレもやるのには短すぎる制限なので、ちょっと詰め込み過ぎかな。文章を書く力じたいは高そうなので、もうちょっと一点突破型のプロットを組んで、そのぶん丁寧に描写を掘り下げると良いのではないかと思います。

 荒廃した近未来の現実と過去の現実、そして主人公の心象風景の鏡像である所の幻覚がおりなす不思議な雰囲気のお話。なんとなく読んでいて「沙耶の唄」を思い出しました。オチの真相に対するミスリードをもう少し工夫すると更に結末にインパクトが出たかもなと思います。文章自体は安定していて読みやすかったです。

 終末世界を舞台にした学園ミステリ。周囲が汚染され、幻覚作用のある薬を打たなければ死んでしまう環境の中にいてなお、平和だったころに犯した罪に縛られ続けている主人公の姿は哀愁を誘います。シナリオ単位でみると目新しさこそないものの、フォールアウト的な世界観でそれをやったことで不思議な読後感を生んでいます。薬の影響で現実と幻覚の境目が曖昧になっているのがとくによかったです。ただこの雰囲気であれば、物語の鍵となる天使が実在するのか、あるいは主人公が作り出した幻なのか、というところは最後まで語らないほうが情緒はあったと思います。

 

秋永真琴 「森島章子は人を撮らない」

 秋永さんは商業のほうでは主に少女向けを書いておられるのですが、webではもうすこし一般文芸寄りの作風ですね。別の短編「フォトジェニック」ともクロスオーバーしていて、そういうところもニヤっとします。もうわたしは秋永さんの文が好きすぎて小説として妥当に評価できない自信があるんですが、それくらい文じたいの居心地がよくてなんだかボーッと読んでいたくなるんですね。単純な文章力では間違いなくトップレベルでしょう。ただモノホン大賞においては文章の地力よりも、奇想天外な奇襲奇策不意討ち騙し討ちが評価される傾向にあるので、その点では厳しいかな。わりと「短編小説かくあるべし」みたいなフォーミュラにはまっている感じもあって、たぶん染みついた癖のようなものでしょうね、妙にお行儀がよいし、テーマ性もキャラクターの口から台詞として語られてしまっているので、すこしストレート過ぎる気もする。もっとはっちゃけたものも読んでみたいです。

 小説を書くに当たり大事なものは、という議論は掃いて捨てるほどあるわけですが取り分け「目」、世間や人や歴史や、ゼムクリップ一個でも、それらを見る「目」の感覚を蔑ろにする向きはないかと思います。このお話の主役の写真家少女からはその確かな目を持ち、鋭敏な感覚で持ってその見た事物を二次元に焼き付ける天才なわけですが、その才に小説家志望の主人公が嫉妬して打ちのめされるという物語の構造は、我々物書きには実感として真に迫る感覚があります。これは想像ですが、作者さんはこのお話に近い経験を実際になさっているのではないでしょうか。主役の二人をちょっと年の差のある女性二人にしたのも変に恋愛要素をねじ込まなかったのも正解で、すっきりした後味の清涼飲料水のように読み切ることができました。このお話好きです。

 冒頭だけで「ああ、この人はプロだな」とわかる文章力。うだつのあがらない女流小説家がアマチュアカメラマンの女子大生と出会い、若い才能に感化されて前向きに頑張ろうとする、てな感じの内容。若干の百合テイストを交えつつも、表現者として成長できない歯がゆさであるとか、若い才能に追い抜かれていく不安であるとか、プロとして生きるがゆえの苦悩や葛藤が情感たっぷりに描かれています。森島さんのキャラクターが『人当たりがよさそうなわりにけっこうズバズバ言ってくる』女の子なのが同時代性があってよかったです。最近の若い子はほんまこんな感じ。怖い。そのほか、コヅカくんの写真が代わり映えしないところに『表現者として停滞してしまう恐怖』が隠喩されていたりと、細部にいたるまで計算されています。ただ『一定の実力を備えたプロが磨きあげた武器を使って斬りつけてきた』というか、このレベルの人ならこれくらいの水準は当然のように越えてくるだろうなという感じで、思いのほか驚きは大きくありませんでした。今回はこれはこれで楽しませていただきましたが、個人的にはもっとチャレンジブルな作品も書いてほしいです。秋永先生のクソ創作が読みたいよお。大澤めぐみ農場を使って核実験しましょう、核実験。

 

不死身バンシィ 「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」

 最高でした……。もうなんかね、源次郎よかったな、ハナコよかったな、ってなってマジで若干泣きました。わたしももう闇の評議会やって長いですけど、KUSO創作で本当に涙ぐんだのコレがはじめてですよ。タイトルがコミック枠っぽい雰囲気で油断していたところで不意打ちで泣かされると評価にバリバリ加点がつきますね。完全に使い捨てのネタだろうと思ってた源次郎が最後まで持ってくなんて思わないじゃないですか。そんなんでこっこが取り出せるか! っていうのが、本当に封じ込めた魂の奥底からのぼってくる感じで謎に感動的なんですよ。とても良かったです。

 「シネマ競馬」をファンタジー異世界でやる、というアイデアの勝利。実況と解説の二人の軽妙な掛け合いも面白く、特に実況の名調子には作者さんのセンスが光ります。登場キャラクターもどれも突き抜けて個性的で、おふざけネタ小説かと思いきや全ての伏線を回収しての意外な大団円に感動している自分に気付き、リアルで「くっそwwwこんなのでwww」といい意味で思わされてしまいました。こんな瞬間に立ち会えるとは、この仕事をやっていて本当に良かった!

  一言でいえば異世界モンスター競馬実況。モンスターたちが入り乱れてレースを行うという内容は、ファンタジー好きにも広く受け入れられそうですが、本物川大賞の理念であるクソ創作としての完成度も高かったです。ユニコーンケンタウロス、ドラゴン、アースワーム、そして田崎源次郎。クソ創作に慣れたマイスターであれば、ただのおっさんである源治郎が物語の鍵になることは容易に予想できるはずですが……レースの終盤、思いもよらない展開で源次郎は活躍します。予想していたのに、横っ面を思いっきり殴られる感覚。これはなかなか味わえるものではありません。そのうえ源次郎を中心としたドラマは感動的ですらあり、まごうことなくクソ創作であるにもかかわらず、読者の涙を誘います。正直なところ「負けた……」と思いました。それくらい完成度が高かったです。文句なしの大賞候補。

 
大村あたる 「魔女泣かせの魔法」

 第二回本物川小説大賞受賞者。以前から「ユニークで偏執的な愛のかたち」みたいなのを一貫してテーマにしているっぽさがあって、今回のもそのユニークさがあるにはあったんですけれど、正直、それ単品で勝負できるほどの独創性があるというわけではないので、もう少しプラスアルファの加点がほしい。複雑なプロットや大仕掛けなどよりも、細やかな描写に光るところのある作者さんなのですが、今回は単純にあまり時間を掛けられなかったのかなという印象。

 突如不条理に幽霊になってしまった「僕」と変わり者のオカ研の女先輩のお話。ラノベっぽい一捻りラブコメの体で進んでオチがいきなり重かったので、どこでフラグ立て間違えたかな?と思ってしまいました。この感じで進むなら、個人的には甘酸っぱいハッピーエンドでほっこりしたかったです。シチュエーション造形的に脱出ゲームみたいなアプローチでも面白かったかも知れませんね。

 幽霊になった後輩と、黒魔術にハマっている霊感少女『魔女先輩』の話。冒頭から中盤まではファンタジー要素ありの学園ミステリなのかな? と思いながら読んでいたのですが、後半になると物語が急展開し、バッドエンド的なラストが綴られます。しかし唐突感が否めないというか、中盤までの雰囲気と結末がまったくマッチしておらず、別の作品をつなぎ合わせたような印象でした。明るいテイストから一転、バッドエンド……という展開で意外性をもたせたかったのかもしれませんが、よほど丁寧にやらないと読者を裏切るだけで終わってしまいます。

 

myz 「エメラルドギロチン」

 異世界ファンタジーベースなんですけれど、お話の展開のしていきかたはなんとなくミステリーのフォーマットに則っている感じ。それでいて、最後に明かされる真相がそこまで驚くようなものでもないのは、諸々の前提の共有が読者とうまくいっていないからでしょうか。魔法のある世界でミステリーをやるなら、なにができてなにができないなどの諸々のルールの提示をして、まず読者に「不可解だ」と思わせる必要があると思います。

 変わった殺害方法の職業殺し屋魔法使いのお話。主役たる魔法使いがとてもユニークな造形なので、このキャラクターの活躍をもっと見たかったと感じました。具体的には傭兵団か巡視官かどちらかと一当てワンアクションあって欲しかったかな。個性的でありなおかつ魅力的なキャラクターを想起できるのは大切な能力なので、自らの書いたキャラクターに自信を持ってもっと堂々と推して書いていいと思いますよ。

 魔法が存在する世界が舞台のミステリ。たとえるなら異世界必殺仕事人みたいな。硬派かつ堅実な文体で、序盤から終盤にかけての雰囲気はかなりよかったです。ただ肝心のラストに肩すかし感があり、悪い意味で予想を裏切られたような印象です。物語の軸となるトリックを補強する設定が、ネタばらしと同時に出てくるのがいけなかったのだと思います。この展開であれば『この世界には結界が存在する』『魔法のパワーを決めるのは想像力』の二つは前半で入念に語っておかないと読者は置いてけぼりになってしまいます。エピソードの中で伏線となる情報を提示するイメージで、構成を見直してみましょう。それだけで完成度は劇的に上がると思います。

 

 

 大賞選考

 

 さて、じゃあ大賞の選考に移りましょう。いつもどおり、闇の評議員三名がそれぞれ三つの作品を推薦して、そこから先はなんとなく合議で決めていく感じです。

 では、まずわたしから。「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」「君は太陽」「このイカれた世界の片隅に」の三つを推薦します。

 いろいろ迷いましたが「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」「針一筋」「井陘落日賦」で。

 俺は「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」「針一筋」「清潔なしろい骨」。

 オッ!

 これは……。

 大賞は文句なしで「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」に決まりなんじゃないでしょうか!

 まあ、アレ出されたらもうね。

 パワーがあり、設計も巧みで、何より単純に面白かったです。正しく本物川小説大賞らしい作品と言える気がします。

 決して小説書きとしての地力で他のプロ勢に匹敵するってわけではないんですけれど、自分の武器を最大限に活かせる設定、構成、文体を選択してきていて「今あるものでどうにかしよう」の理想形だと思います。

 斬新な切り口のファンタジー、クソ創作、ラノベ(コメディ)、すべての要素を満たしたうえで完成度も高い。ポテンシャル的には冗談抜きで俺ラノ受賞すらあり得る。

 読者の誘導も上手で、如何にも「思いつきのネタ小説ですよ」みたいなノリでスタートしてレースが進むに連れて伏線が張られゴール間際でそれが怒涛のように回収されるという痛快さにはヤラレタ! という感じでした。

 じゃあ第七回本物川小説大賞、大賞は不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」ということで! おめでとうございます!!

 おめでとう!

 ぱちぱちぱちぱち!!!

 次点は針になるのかな。

 そうですね。二票獲得は針一筋だけかな。じゃあ金賞は針一筋で決まりですね。

 天才に対する執着というか羨望や美学みたいなのが感じられて、テーマをよく描いていた。偽教授さんは現代物だとアレなのに時代小説系になると急に凄くなる。落差がすごい、あとは根気だけ。

 針一筋は逆に、文章書きとしての地力だけで押し込まれた感じありますよね。不死身さんとは対照的w

 コンパクトな分量の中に丁度いい配分で描写とストーリー展開が納まっていて、「天才」の描写の角度もありきたりより一つ上の切り口で、その満たされ方がまた一味にくい演出で、上手いなぁ!という感じでした。

 なにげに後宮絵師も好き。

 後宮絵師もよかったよね。このふたつが抜きんでていて、他はわりと苦笑いなのもあったので、もうこの路線で邁進するのが正解なのでは? とは思いました。

 良かったですね。あの女絵師の浮世離れ感。世話役の役人がただ泣いて終わるラスト。偽教授さんの作者としての知識や表現の貯蓄に厚みを感じました。

 偽教授さんは語りすぎないところに情緒があっていい。逆にクロノステッチだとそういうところが不親切で弱点になってる。

 さて、ここからが難しいんですけど。

 ですねw

  あと銀賞二本を選出しないといけなくて、得票一票は「君は太陽」「このイカれた世界の片隅に」「井陘落日賦」「清潔なしろい骨」かな。

 単純に俺は幻獣と針に並ぶ出来なのがしろい骨しかなかったから選んだ。次点は「空が帰ってきた日」と「Unbreakable~獣の呪いと不死の魔法使い~」と「蝉の声」かな。ビガンゴくんは最後まで選ぼうか迷ったけどしろい骨が邪魔をした。

 実はわたしも次点に針がいて、でもちょっと短いかな? というところで、評点シートで同点の「君は太陽」が抜けてきた。

 「森島章子は人を撮らない」もよかったんですけど。

 プロはマイナス査定からスタートするので、想定される完成度を超えてこないと選ばない。

 文章の地力は間違いなくトップレベルなんですけど、ちょっと喋り過ぎているかなって感じがしました。丁寧すぎるというか、ストレートすぎるみたいな。わたしは小説は伝えるものっていうよりも問うものだと思っていて、そういう意味ではちょっとくらい不親切でもいいんですよね。ポンと読者を放り出すような勇気があってもいいと思う。もちろん、秋永さんの水準なので求めてしまうことで素人が気安く手を出していい領域の話ではないですけど。

 クリームソーダは結構好きなんだけど、プロだからって理由でめっちゃディスってるみたいになる。

 まあ、まだ若いっぽいので、すぽんくんはこれからいろいろなことでヘコみながら逞しく育っていってほしいですね。まだまだ伸びしろに期待。あとはわたしの評点シートだと日呂朱音と怪奇な日常が僅差で次点にいる。

 あれもシリーズものの第一話としては良く書けてましたね。主人公の怪異への順応ぶりだけ気になりましたけど。

 たしかに、オリジナリティはまだいまひとつなんだけど、まずは型どおりのものを書けるってのが最初の一歩なので。しいたけさんは初見だからそうでもないと思うんですけど、こむらさきはもともと創作勢ってわけでもなくて、完全なモノホン大賞育ちなんですよね。わたしは最初から全部見てるので「とうとうここまで書けるようになったか」みたいな感慨もあります。

君は太陽」はなんというか登場人物も小説自体もその……昔の自分を見ているようで……なんかあるじゃないですかこういう時期。ないです?ニッチあるある?

 今回思ったんですけど「清潔なしろい骨」「君は太陽」「K /冬の屍体」「弑するニンフォマニア」「人の嫌い方」「木曜日に待ってる」「茜より朱く」「蝉の声」あたりの、ちょっとダークな作風。はっきりいって激戦区なので、かなり強く個性を主張していかないと、頭ひとつ抜けるのは難しいです。

 わかるー。

 そうなんですよ。倒錯した愛とその先の死は、創作畑ではいつか来た道でー。

 で、そのへんのカテゴリーから一本抜くなら「君は太陽」かなって感じだったんですけど、どっちみちその路線でいくならまだまだそれだけでは戦えませんよというのはありますね。さらなるツイストは必要だと思います。

 陰惨さやグロはインパクトありそうでないから独自の切り口がないと弱い。ビガンゴくんはいい線いってた。足りないのは情緒。

 「蝉」はストーリーテリングが上手でしたね。場面の移りかわりが読んでて楽しかった。

 で、そろそろ本当に銀賞二本を選ばないと。えっと、じゃあ「君は太陽」「このイカれた世界の片隅に」「井陘落日賦」「清潔なしろい骨」から各々一本を選んでもらって、せーの! で言う感じで。

 おk。

 了解です。

 じゃあ、せーの! 「このイカれた世界の片隅に」!

 「井陘落日賦」

 「井陘落日賦」

 おお~! というわけで、銀賞一本は「井陘落日賦」で決まりですね!! おめでとうございます!!

 ぱちぱちぱちぱち!!!

  議長、どんだけロッキン好きなの。

 えーだってわたしは本当にアレはギリギリで成立してる天才的なバランス感覚だと信じてるの。破綻してるっていう人もいるだろうってのは分かるけど、わたしはアレを評価したいの。

 ロッキンさんその辺の匙加減独特ですよね。

 ロッキンは天然の強さみたいなのがあって、型も基礎もなくてめちゃくちゃなのに、読める水準には仕上がっているっていう、それが不思議なんですよ。

 そうそう。自然体でさらっとセオリーにない動きをする。で、最後まで読めちゃう。なんなんでしょうww

 議長は粗さに優しいよね。

 粗を潰すよりは魅力を伸ばす方針。

 俺は粗さをカバーするために弱点を補強せよ、というスタンスなので評価軸が真逆。

 まあ、そのほうが公平な感じがしていいじゃないですか。あ、でもあと一枠だから自動的に銀賞二本目はロッキンで決まりだよ! やったね!

 あ、そうなるのか。

 議長の依怙贔屓の大勝利だ!

 ひどすぎる。

君は太陽」にも奨励賞とかあげたいなぁ。

君は太陽」は同じ方向性でいいと思うけど、さらに頭ふたつ抜けて次は大賞を狙いにきてほしいってことで、また次回がんばってね! 待ってるよ~~!! 

 じゃあそんなわけで! 第七回 本物川小説大賞 大賞は不死身バンシィさんの「幻獣レース クリプテッド・スタリオン 第100回アルバトゥルス王国杯」でした~~!! 闇の評議会これにて撤収! 解散!!

 おつかれさまでした~。

 おつかれさま~。

 

 あ、そうだ!(唐突) 今回の評議員は全員なにかしらの課金方法があるので、ロハで頑張ってくれた闇の評議員になにかおひねりしたいって人は遠慮せずにジャカジャカ課金していってね!!

 ↓↓入り口↓↓

 

 

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【非営利】ロッキン・非営利・神経痛 Presents 第七回 非営利川小説大賞【営利目的ダメ絶対】

 

 お前のケツに非営利目的で火をつける。みなさんお待ちかね、闇の素人KUSO創作甲子園、本物川小説大賞(非営利)をまたまた開催します(思い付きで)(非営利目的で)。

 

 ガチ創作勢も商業作家も小説なんか生まれてこのかた一度も書いたことがないという完全な素人も同じ土俵で小説で殴り合う創作バトルロイヤル(非営利)だよ。

 

審査員

 本物川小説大賞ではすべての応募作品に対して、非営利目的の三名の闇の評議員による講評がつきます。また、闇の評議員の合議により、非営利目的の大賞及び非営利目的の金賞、非営利目的の銀賞二本、その他ノリ次第で非営利目的の特別賞などを選出します。今回の非営利目的の闇の評議員は以下の三名です。

 

 謎の概念(非営利):「n番線に春がくる」みたいななにか、発売中!
 謎の羊(非営利):「nn文庫新人賞」みたいななにか、優秀賞受賞!
 謎のバリ3(非営利):「nnインディーズコンテスト」てきななにか、佳作受賞!

 

 


 初見のかたは以下のリンクを参考に本物川小説大賞(非営利)の雰囲気を把握してください。基本的には非営利目的のうんこ投げ合いパーティーです。

 

kinky12x08.hatenablog.com


 

 

概要

 今回は「スニーカー文庫《俺のラノベ》コンテスト」に(勝手に)(非営利目的で)便乗するかたちで開催しようと思います。レギュレーションが(相対的に言えば)多少複雑になりますので、ちゃんとこのエントリーを読んでしっかりと内容を理解してから非営利目的で参加して下さい。

 

 「スニーカー文庫《俺のラノベ》コンテスト」に関しては以下のリンク先を参照し内容を把握してください。

 

kakuyomu.jp


 

 俺のラノベコンテストは字数制限もなく公開済みの作品でも参加できますが、本物川小説大賞(非営利)としては字数2万字以下の未発表書き下ろし作品に限定させてもらいますので、こちらの三種類のテーマのうちいずれかを満たした2万字以下の作品を新たに書いて非営利目的で応募してください。


 本物川小説大賞(非営利)で三人の非営利目的の闇の評議員に読んでもらって非営利目的の講評をしてもらい、もののついででプロの編集者にも読んでもらってあわよくばなんか受賞してなんか起これみたいな非営利目的のアレです。

 俺のラノベコンテストには勝手に便乗しにいきますので、くれぐれも先方にご迷惑をお掛けすることのないように注意してください。

 

参加方法

1.「スニーカー文庫《俺のラノベ》コンテスト」の三種類のテーマのうちいずれかを満たした2万字以下の非営利目的の新作を書いてください。

2.カクヨムの作品編集画面の「コンテスト」の項で「スニーカー文庫《俺のラノベ》コンテスト」を選択してください。

3.その下の「自主企画」の項で「【非営利】ロッキン・非営利・神経痛 Presents 第七回 非営利川小説大賞【営利目的ダメ絶対】」を選択してください。

4.「学園青春ミステリー」への応募は「編集W」、「天才の話」への応募は「編集O」、「笑える話」への応募は「編集S」とタグ付けしてください。

 

期間

 なう~12/24

 

 

 それでは非営利目的でスタート~~~!!!

 

※諸般の事情により企画ページが吹き飛びましたのでお手数ですが参加者の方は再度「非営利】ロッキン・非営利・神経痛 Presents 第七回 非営利川小説大賞【営利目的ダメ絶対】」への登録をお願いします。

 

カクヨムの営利目的での利用はカクヨム利用規約 第12条(営利目的利用の禁止)に抵触します。営利目的ダメ絶対。

 

利用規約 第13条(禁止事項)1.14 により、メールアドレス・電話番号を公開及び交換する行為は禁止されています。インターネットの人と出会ってはいけません。メールアドレスや電話番号などを聞かれても絶対に教えないようにしましょう。

 

 

 

第六回本物川小説大賞 大賞はたかたちひろさんの「明太子プロパガンダ」に決定!

 

 平成28年11月中旬から年末にかけて開催されました第六回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本が以下のように決定しましたので報告いたします。

 

大賞 たかたちひろ「明太子プロパガンダ  

 

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kakuyomu.jp

twitter.com

 

 受賞者のコメント

 たかたです。たぶん、これがいわゆる明太子パワー、一粒でもピリリと辛いです。ありがとうございましたー!

 

 大賞を受賞したたかたちひろさんには、副賞としてeryuさんのイラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。

 

 

金賞 ボンゴレ☆ビガンゴ「世界が終わるその夜に」

kakuyomu.jp

 

 

銀賞 ポージィ「うんやん」

kakuyomu.jp

 

 

銀賞 enju「コナード魔法具店へようこそ」

 

kakuyomu.jp

 

 

 というわけで、2016年を締めくくる伝統と格式の素人KUSO創作甲子園 第六回本物川小説大賞、地味な大激戦を制したのはたかたちひろさんの「明太子プロパガンダ」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログとなります。

 

 

全作品講評 

 みなさん、あけましておめでとうございます。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も通算で第六回目となりました。前回は10,000字未満の短編縛りという設定でしたが、やはりちょっと窮屈に感じる方のほうが多いようだったので、今回は上限を20,000字まで拡大しての開催となりました。多少余裕ができたとはいえ、言っても短編の規模ですから、ひとつの主題にギュンとフォーカスして掘り下げていったほうがカチッとした質感に仕上がったのではないかと思います。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回はまたメンバーを入れ替えまして、謎のゾンビさんと謎のモッフル卿さんにご協力いただいております。おふたりとも、よろしくお願いします。

 謎のゾンビです、よろしくお願いします。

 謎のモッフル卿です、よろしくお願いします。

 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めさせて頂きます。さて、それではひとまずエントリー作品を順にご紹介していきましょう。

 

蒼井奏羅 「ハッピーエンドのそのあとに」

 蒼井奏羅さんはわりと毎回、雰囲気のあるゴシックな印象の文体であることが多いのですが、今回は語り部が子供なだけあって、スルスルとした文章が非常に読みやすくていいですね。形式としては一応ドンデン返し型のプロットで成立しているとは思うのですが、それにしては全部を丁寧に説明してしまっている感じで予想は容易なので、あまりドンデン返しの衝撃というのはないです。ドンデン返しを決めるには説明し過ぎてもダメだし、唐突すぎてもダメで、この塩梅というのはなかなか難しいものです。情報をもう少し絞るか、あるいは一人称でありながら比較的客観性の際立つ叙述になってしまっているので、語り部の主観にもっとダイブして認識自体を歪ませる、信頼できない語り部にするなどの工夫が必要かもしれません。もしくは、読者が容易に予測できることを囮にしてさらなる多段ドンデン返しを仕込む、なども有効かと思います。あとこれは個人的な印象なのですが、蒼井奏羅さんは文体と雰囲気にこそ魅力のある方だと思いますので、変に「お話」や「オチ」を意識せずに自由に書いてしまったほうが逆に良かったりするのではないか、みたいな予測もあります。もうちょっと純文っぽいというか文学っぽいというか、そういう系のも読んでみたいです。

 主人公視点で不安定な子供の感情を描き、怪しいオジサンが読者にとってもヒーローに見えてくる。善悪の価値基準の定まらない子供ならではの揺らぎに着目した作品です。主人公の心情風景の描写が上手く、読者にも社会悪とも言えるオジサンの行為を善であるように感じさせます。ただ、タイトルにもあるように最終話でそんな主人公と同化していた読者の気持ちをひっくり返す場面があるのですが、そこを乱暴に投げてしまった感があり惜しいと感じました。例えばもう一話オジサン視点の話をして、彼にとっての真実はこう、みたいなもう一捻りのどんでん返しがあるとか。もしくは、読者が「しぃ君、それ完全騙されてるよそれ!逃げて~~!」みたいな気持ちになる、ねっとりとしたオジサンの気持ち悪い描写を露骨に入れていくと化けると思います。 

 同じ作者さんのハローグッバイを読んだ後にこちらを読んだんですが、 こちらの方が断然いい。 たしかにオチ自体は、1話を読んだ次点でたぶんそうなるだろうなと思いましたが、そんな事がまったく気にならないのは、やっぱりきっちりラストがあるから。そしてその上で、グロテスクな真実があって、そちらはきっちり隠しているというのが良い。ああ、ハンバーグってそういう、と立ち戻ると、さらに最悪の読後感が味わえる。でも文字数が短いからさらりと読める。これはハローグッバイよりしっかり噛み合った感じがしました。 

 

蒼井奏羅 「ハロー、グッバイ」
 続けて蒼井奏羅さんです。こちらもプロットとしては成立しているのですが、かなり駆け足の印象が否めず、すごい速度であっという間にエンディングまで行ってしまうので喜劇的な印象が強くて、意図としてはたぶん悲劇であるはずのラストもわー思いっきりいいなーみたいな感想になってしまいました。単純に、もうちょっと全体の分量を増やして細部を描写して、読者を語り部にしっかり移入させたほうがいいのかなと思います。入りの数行は毎回すごく雰囲気いいので、課題はその雰囲気を維持しながら長距離を走れる体力と集中力でしょうか。同じプロットでも描写の解像度と文体の鮮やかさだけで魅せていくことは充分に可能なので、次に紹介する百合姫しふぉんさんの文章などはとても参考になるのではないかなと思います。

 同作者の応募作品「ハッピーエンドのそのあとに」と同じく、社会悪とされる人物の内面を被害者の立場から描き、それに読者を同調させていくという仕掛けがされてます。作者の文体は読みやすく、スラスラと筋書きが頭に入ってきます。ただ、書きたい事だけを流れるように並べてしまい、没入感がいまひとつ得られないまま終わってしまう点がもったいないので、加害者と被害者である二人の関係性が深まっていく描写をもっと足すなどして、女装がバレたら人生終わりっていう主人公の焦りの理由をもっと細かく描写すると、加害者が理解してくれた事への彼の幸福感も数倍増しでブワッと伝わってくるはずです。個人的には、今回応募された二つの作品の主人公を同一にして一つの作品にまとめるなどすると、ああもうこれたまんねぇなって感じになると思います。あと女装って良いものですよね(鼻息) 

 6300字で終わりまでもっていったのは素晴らしい。限界までそぎ落とした感じがあって、個人的にはすごく好き。正直、つけた点数以上に他の人達の作品よりよいと思っているんですが、その理由は、やっぱりラストがちゃんと描けている、これが終わりだよと読者に対して提示している(唐突でも)からだと思います。ただし、やっぱりラストの唐突さは否めないというか、もうちょっとエピソードがあってもいい。最終話の前に1話、唐突にさせない仕掛け(伏線?)が500字でも1000字でもあったら、僕は構成にかなり高い点入れてました。

 

 姫百合しふぉん 「星々」
 姫百合しふぉんさんもゴシックで重厚な雰囲気のある文体に定評があります。前回はちょっと捻りの効いた変化球でしたが、今回はまた原点回帰というか、従来通りの横暴な美少年に堕ちていく男の話です。騎士道などではゴシックな文体はそのままに絵的なコメディ要素が異物のように混入していて、なんとも言えない違和感を含んだおかしみがあったのですが、今回はそういった奇妙な異物感などもなくプレーンな美少年小説。賢者と王という設定のため、姫百合しふぉんさんがこれまでしつこいぐらいに描いてきた美が持つ理屈に対する優位性みたいなものをそのまま登場人物が議論するので、メッセージ性がかなり素直に出てきています。分かりやすくはあるのですが、個人的な好みとしては登場人物たちの議論によってそこが語られるよりは、蒐集癖の見せかたのほうが含みがあって好きかなぁ。

 美しくそれでいて流れるように読み進められる不思議な作品でした。賢者の一人称で進む固めの文体プラス作者の卓越した描写力によって一気に物語の世界観に引き込まれます。一見すると何も語られていないに等しいはずの国政に関する部分が、とにかく王によって成り立っているのだという謎の説得力は、作者の描写力のなせる賜物でしょう。一度作品世界に没入すれば、話はもう流れるように美しくも残酷な王によって、真面目な賢者である彼がどこまで変わっていくのか、二人の行く末を想像しつつワクワクしたまま読み進められます。文体と表現の幅の広さだけで既に勝っている作品です。ただ、一つの小説として冷静に見ると構造が単調に感じられたので、彼ら二人の関係の背後にもうワンフックでも仕掛けがあれば、ワンパン失神KOが狙える作品になると思います。 

 賢者の独白で始まるストーリー。自分の仕える王をもとめ出会ったのが凶王だった、戸惑いながらもその凶暴さの魅力から離れることができず、やがて……と言う話。王様のキャラクターは好み。王と賢者のみに肉薄したお話にしている構成もポイント高い。同性愛部分は苦手だけど、生々しい部分は好きな人にはたまらないと思う。文章の長い後半は賢者の独白、心理描写に偏りすぎているきらいがあると思う。個人的に同性愛セックスは苦手だけれど、その辺あと2000字~3000字くらい使って愛し合う部分をきっちり描いて振り切っちゃってもよかったのでは。(この辺はもう好みの世界なので、そうした意図や別の理由があれば申し訳ない)

 

 

大澤めぐみ 「ふわッチュ!」
 「ふわッチュ!」は芳文社まんがタイムオリジナルで連載中の漫画「部屋にマッチョの霊がいます」の1話の1コマ目に登場する架空の主人公の推しアニメです。漫画では作中作として主人公のセリフの中でちょいちょい登場するぐらいなのですが、せっかく絵があるのでどうせならなにか話を書いてみようみたいな企画。瓢箪から駒がどんどん出てくる。

 目に襲いかかる濁流、ぎっしりとした文字の嵐。もはや作者の名刺代わりになったこの作風が、本作でも上手く効いています。読者に考察の隙を与えずに、ダダダダとマシンガンのように脳直で打ち込まれる文字の弾丸。その為、読後に押し寄せる余韻の波の高さは相当なもので、今回も読んでいてブワワッと肌が粟立たされました。是非この技術は積極的に盗んでいきたいですね。人間無理部という、一見変わった部活動に所属する女の子三人。彼女らのふわふわ日常ものかな?という導入部を裏切るように、非日常がすんなり登場する急展開、そして彼女達にとっての日常光景が、テンポよくある意外性に向かってノンストップで進んでいき、読者の脳を気持ちよく揺らした所で突然、目の前であっさり終わってしまう物語の締めも美しかったです。個人的には、この話を導入とした彼らの日常ものとか読みたいなぁって思いました。むりぶっ! 

 濃い。相変わらずの濃密な文体。大澤文学の骨頂みたいなものを感じます。脂ののった安定した書きぶりには唸ることしきりですし、その反面、ストーリーもキャラクターもアッサリ目に作ってるのが、こうスープは豚骨コッテリだけどするっといける細麺とネギいっぱいが嬉しいっていうラーメンを食べてる感じがしました。ただ、これはそうだよと言われてしまえばその通りでしかなく、個人の好みの問題だけど、ぽんぽん謎の設定が飛び出していって、これは何だって思わせる暇も無くハイスピードで進めていくことの面白さは、何かの拍子で噛み合わなくなると「うん?」ってなって止まってしまう。つまり読み止めると何もかもが分からなくなる危うさがあって、実のところぼくは何度も何度も脱落して、そのたびに長い段落の最初から読み進める事を繰り返してしまい、そのたびにかなりのしんどさを伴うことになってしまいました。たとえば、キッチュなものが大好きなふわり、というところにフォーカスするのなら、どこの何がキッチュなのか、1段落使って語らせてもいいと思うんです。そういう所で段落を分けてほしいというか、おいしいラーメンなんだからちゃんと素材の紹介をしてほしい、「なるほどふわりはこういう女の子なんだ」という余裕を読者にくれるとスープや麺それぞれの味わいを自分のペースで噛みしめる事ができるんじゃないかと思いました。 

 

こむらさき 「お気持ち爆弾」

 胃壁がキュン! でおなじみのこむらさきさんです。今回も例の14歳年上の同性の彼女を持つミサキくんの話。「責任を取らないといけない」というミサキくんの呪縛に対して「責任取る必要なんかない」という気付きが与えられる、というところが今回の進展。その遅々とした進展(?)を除けば毎度のテンプレ展開ではあるので毎度毎度よく飽きないな……という感じになってしまいますが、実際飽きないというか懲りない人なんだろうな……。思うんですけど、このシリーズ一回エピソードを全部書き出してまとめて把握して中~長編としてイチから再構成したらかなり強度のあるものに仕上がるんじゃないかと。文体も当初に比べると格段にこなれていて小説らしくなってきているので、一度「初見の人でもコレだけ読めば全て分かる!」というような独立した小説に仕上げてみてはいかがでしょうか。テーマとしては文学にまで昇華しうるポテンシャルを持っている非常に強い作品だと思いますし、お気持ち爆弾という語も非常に力強く、ミサキくんの中にある爆弾の描写などをモチーフとしてフィーチャしていくと面白味がさらに出るのでは。ネタ枠といういつの間にか気付いてた自分らしさの檻をそろそろ壊すタイミングじゃないですかね。

  ミーくんとミカさんの胃痛爆弾物語です。ミサキくんの心情の描写は、まるで実際に体験してきたかのようなリアリティが溢れていますね(白目)。 彼の心の葛藤と苦悩がメインに描かれているので、読者はミサキくんと同化して苦しむ事だろうと思います。この後の二人の展開が大変気になる所です。どうか二人が無事着地点を見つけて、ハッピーエンドを迎えて欲しいものですが……。 一点気になる部分を挙げるとすれば、これは物語の性質上なのかもしれませんが、小説というよりはミサキくんの独白録の形式になっているので、例えば視点をミカさん視点に変えたりするなどして、二人に見えている別々の世界のギャップを見せつける等したら、小説として更に面白くなるかもしれません。過去の思い出の昇華だけでなく、そこから新しい何かを掘り出すなどして、作者自身の胃にも、思いもしなかった穴を開ける勢いで書いていくと、確実に面白くなると思います。それ以上は無理っていう展開をぶち込んで、読者の胃を穴だらけのザルにしてやりましょう。 

 こむさんの私小説、個人的には大好きだし、文章力もあってイメージしやすくて、キャラクターの濃さがあるんですが、リアルな人を登場させてどうしたいのか、というのは、根本としてある気がしています。お気持ちを爆発させるおかしな人がいる。その「おかしな人がいるよ!」という呼び込みのあと、読んでる人をどういう風に面白がらせたいのか、そういうコントロールをしてくれると、読者としても嬉しいです。踏み込んで言えば、これはこむさんというパーソナリティを知ってるからこそ面白いのであって、一見さんがフラっと読んだ時に「へー」っていう感想しか出て来ないんじゃ無いのかとおもう。そう考えたら、キャラクターはもっとデフォルメされていいと思うし、「実際にいた人」という前提を取っ払ったっていいと思いました。

 

 蒼井奏羅 「バブルガム」

 また蒼井奏羅さん。えっと、未完でしょうか。ちょっと現状ではまだなんとも言えない感じです。

 

 久留米まひろ 「そんな、わたしがしたいのは恋愛ファンタジーなのに・・・!」

 いったん投稿したものを気分次第で出したり引っ込めたりしないでください。闇の評議会はそれぞれに自分の作品の進捗も抱えている中で限られたリソースから捻出してあなたの作品を読み真摯に講評をつけています。人のリソースを無益に割く非常に不誠実な行為だと思います。以降の本物川小説大賞では一度投稿したものを取り下げることを禁止する条項を明記しようと思います。以上です。

 

 ヒロマル 「彼女が誰かと問われても彼は、サンタである彼女の本当の名前を知らない」

 不測の事故で撃墜してしまったのが実はサンタの女の子だったという定番ボーイミーツガール。以前の戦隊レッドの時もそうだったのですが、三連ミッション形式が好きですね。週間連載っぽさのある体裁。ただ、戦隊レッドの時は最初はぎこちなかったふたりの距離感が三連ミッションをこなすうちにだんだん近づいていく、という演出だったのに比べ、本作においては最初の時点でふたりの間にある程度の信頼関係が構築されており、本当にただ三連ミッションをこなしただけみたいな感じもあって、必然性みたいなのが弱いかなぁと思いました。今回は謎解き要素もありませんし、そういった点でも比較すると戦隊レッドのほうに軍配が上がる。ラストの「だ~れだ?」なども、もうちょっとサンタの女の子が世間知らずでマニュアルで対応してるんだよみたいな仕込みがあればさらに活きた気がします。充分完成度は高いのですが、作者の他の作品を知っているぶん、もっとできるだろうと欲が出てしまう感じ。起爆装置さんみたいなワンアイデアのエッジで勝負するタイプだと多少粗削りでもカバーできてしまうのですが、ヒロマルさんの場合はあまり尖ったプロットではないので完成度で勝負していく感じになってしまいますね。

 過去に本物川小説大賞の受賞経験もある、ヒロマルさんの作品です。完成度が高く、クリスマスを題材としてサンタクロースと主人公の心の交流を主軸に、プレゼントを各家に届ける彼らサンタクロースとしての任務が一話ずつ描かれています。ひとつずつの話を積み重ね、最後に二人の間に生まれた絆がどうなるのか、という構造です。何のストレスもひっかかりも無く読ませる軽妙な語り口は、流石に熟練のそれを感じさせます。ただ、読みやすいがゆえに更なる欲が出てくるのが読み手の心情というもの。取り扱う題材が分かりやすい為、読んでいてひっかかりがなく、綺麗にまとまりすぎている感があります。しかし逆に言えば、その一点さえ突破してしまえば、高い文筆力と相まって誰も追いつかない高みにスイスイ飛んでいく予感もします。そう、まるでサンタクロースのようにね。 

 ……(驚いたような顔でゾンビをじっと見る)

 作品として読みやすくて、しかも読後感が爽やか、という、短編小説としては本当にきっちり収まる所に収まった感じの作品でした。でもそれだけに、もっと読んでいたい、ミッションが過酷になるほど、寝てる子供との絡みとか、そういうエピソードが生きるだろうな……読んでみたいな……とか思いました。 

 

 ポージィ 「うんやん」

 うんこです。比喩や罵倒ではなく普通にうんこ。それも非常に高い知性と教養から繰り出される極めて画素数の高いうんこです。なんなんでしょうかコレは。一発ネタかと思いきや意外と世界観がしっかりしているし語り口も軽妙でヴィジュアルてきに不快であることを除けば読みやすいし正しい医学的知見もあるしで謎に筆者の学識の高さを感じさせます。でも本当に不快でしたね。なんでしょうか、これも闇の評議会を狙った新手の攻撃でしょうか。できれば本当に大賞取ったりとかはしてほしくないんですけど、ねえほんと、お願いしますよ。

 聞いて、これ凄い。何が凄いって、まず臭い。文字なのに、くっさい。あと汚い、文字なのに汚い。しかも喋る、臭くて汚い大便が喋る。もうこれだけで強い、全てにおいて圧倒的な強さを持ってる。最初のアイデアが既に狂っている。まずはアイデア勝利。しかし、これは大便の擬人化というだけのワンアイデア勝負ではないのだ。彼、主人公うんやんは、人間から排出された大便でありながら、自我を持ち、そして六道輪廻を繰り返している。更にその全てが大便に転生という運命にありながら、それを当たり前のものとして受け入れている。いや、楽しんでさえいるのだ。そのどうしようもなく絶望的な彼の境遇を独特の口調であっさりと描き、その終わらない大便としての無限の生を描く、作品の圧倒的なスケール感にまず脱帽だ。そして何よりも特筆すべきは、その描写力の高さ。一話のピーナッツの下りでは、僕の胃の中の麻婆丼を逆流させかける程の地獄のような光景が、丁寧に丁寧に、それは事細かに描かれており、心の底から作者の正気を疑った。うわ、今思い出しても鳥肌が立ってきた。あ^~本当最高。最高にクレイジー。輪廻転生する大便、その仕掛けを使った物語自体も、綺麗に一本道ならぬ一本糞にまとまっており、爆笑しながら読み終えました。皆さん、これぞ糞の投げ合いで世間を賑わす本物川KUSO創作界隈を象徴する作品ではないでしょうか。違いますか、そうですか。一旦トイレ行って、頭冷やしてきますね。 あ^~ 。 

 大賞です。

 勝手に決めないでください(激怒)

 本物川小説大賞の「KUSO小説」っていうのは、正直こんなクソみたいなっていうかまんまクソをクソ小説って言ってるわけじゃなくて、周りにはクソみたいなものかもしれないけど、自分にとっては最高だから読んでねという意味なのですが、ここまでクソというものをがっちりと構えて垂れ流したというこの作品の受け止め方がわかりませんでした。輪廻という謎な壮大さと、巡り巡ってみんなのウンコになるっていう下世話な話を謎の広島弁で語られていくストーリーは、喩えるなら、「最初の30秒読んで脳天をナタか何かでかち割られた後、もう自分としては死んでる、やめてくれと言ってもさらに獲物を求めて彷徨う全裸のおっさん」に出会ったとでも言うか、モリモリの設定なのに何も嫌味っぽくないしうんこくさくないこの筆力に思わず衝撃を受けました。正直、この感想を書いてるのが2017年のはじめての仕事だというのもかなりつらいのですが、これは衝撃でした。 

 

 左安倍虎 「黄昏の騎士」

 重厚で骨太な王道ハイファンタジーですね。魔法の興隆によって騎士による戦いが過去の遺物となった世界での騎士道の話。左安倍虎さんもヒロマルさんと同じで、あまりプロットてきに尖ったところはないので完成度で勝負していく感じになってしまうのですが、確かに完成度は高いんですけど、う~んみたいな。だいたい毎回、王道ファンタジー世界にひとつフックを入れてくる感じで、本作では魔法(呪法)のほうが優位の世界っていうのが特徴でしょうか。でも易水非歌の羽声や聖紋の花姫の調香に比べると画的にはちょっと地味かもしれないですね。聖紋の花姫はイラストの効果もあるのでしょうけど、画的な華やかさがあってよかったんですけど。言ってみればミサイル開発初期の戦闘機不要論みたいな話で、そこに旧来の戦闘スタイルにもまだ必要性があることを主張していく、みたいなのがメインのプロットかと思ったのですが、戦術論をマニアックに詰めるという感じではなく騎士の生き様みたいなところに回収されてしまったので、多少の延命がなされただけでこのままだとやっぱり騎士道じたいは先細りなのかなぁみたいな、モニョッとしちゃう。

 しっかりと練り込まれたファンタジーの世界。時代遅れの騎士団と、それに代わって台頭してくるイヤミな呪法使い達。彼らの微妙なパワーバランスを見せる所から始まる今作。物語の強度が非常に高く、出て来るキャラクターの個性もひとつひとつ立っており、登場人物達の普段の生活、立場や苦悩がひしひしと伝わってきます。騎士達が呪法使いをやっつける単なる勧善懲悪ものではなく、軽視されながらも、その名誉の為に最善を尽くし、自らの名誉も命も犠牲にして忠誠を誓う、高潔で尊い騎士道精神を物語の根幹として描いています。その主題を演出するのが、仲間の裏切りと攻城戦のくだりですが、二万字という制限を全く感じさせない濃密なもので驚きました。ここまでの世界観で、どの場面の解像度も落とさずに描ききる基礎力の高さは見事としかいいようがありません。物語を引き立てるサブキャラクター、二百番目の騎士の使い方も上手く、読後に良い作品を読んだという確かな満足感がありました。不安定な部分もなく、最後まで安心して読める良作です。 

 軽いめの話が続いたところで、硬派なファンタジー小説が来たので「おおっ」と前のめりになりました。左安倍さんの作風が光る感じ。やっぱり何度も読んでるひとの作品って違う内容でも分かるもんだなぁと。ストーリーも非常に楽しめました。ただやっぱり硬いというか、どこかでダレでも入れる入り口が欲しいとも思いました。たとえばビジュアルに訴えかけるシーンがあって欲しい。呪法のシーンももっと派手にやっても良かったかも。たぶん自分の評価では、20点台後半の人達って、もう実力としては十分にあって、あとは好みの問題だと思うんですが、そこから先、僕が気持ちとして評価するとしたら、これを誰かに読んで貰いたい、という気持ちにさせるところだと思うんです。画が浮かび上がるよとか、ワクワクするとか、泣いたとか。この「黄昏の騎士」も、そういうポテンシャルはまだまだいっぱいある。そういう心を動かすものがあって欲しいと思いました。

 

 ロッキン神経痛 「さきちゃんマジで神。」

 掴みの一文はすごく強いですね。ダラダラ喋る感じの思考垂れ流し系一人称は個人的に好みなのでそれだけで評価高いです。でももっとダイブできるよ。自分の自我を完全に解脱してもっとわたしになりきろう。ちょっと文字数に対してスケールが大きすぎた感じは否めず、それでいて前半の日常パートで結構な文字数を消費してしまっているのでさらに後半はバタバタしています。なんとか最後はしっかりと話を畳んではいるんですけれども、最後だけ視点がさきちゃんに移るのはちょっと唐突な感じが否めないかも。もうちょっと構成に工夫というか、単純に計画性があるとなお良いのかなと思います。プロット大事。でもラストの絵はかっちょよさがあっていいですね。ロッキン神経痛さんは本当にこういうところがあるんですけれど、ちょっとした欠陥もラストの華々しさで挽回しちゃうみたいな。右手のペンと左手のアップルをンン~ッ!ってアッポーペンするのが上手い感じ(伝われ)

 まず二万文字の規定に対して、物語が大きすぎます。思いついた世界観の一部を切り取って見せるならまだしも、強欲にも広い範囲を全部書こうとしているのでしょうか。完全にキャパシティオーバーで、後半の展開と場面の転換が粗く、駆け足感が目立っていました。ただ、さきちゃんという既存の作品概念に、ちょっと奇抜なアイデアを付け足して別物にする発想自体は面白かったので、これを一つの材料として、懲りずに次の作品に活かして頑張っていって欲しいと思いますね。はい、頑張っていきます。 

 作者を変えたさきちゃんシリーズ?なんですかね。1話の前半部分からグイグイ引っ張られる感じで、読み進める楽しさがあります。さきちゃんはさきちゃんだった~と比べると、ファンタジーの面白さの方に倒した上で怖い部分が圧倒的に薄れていて、ライトで好感の持てる作りという、なるほど似たような素材でも作者によって全然違うんだなという気持ちにさせてくれました。ハピネスでカプリコを選ぶシーンはたぶんこの作品の中でも一番印象に残りましたが、この手の改行せずにモリモリと書いていくスタイル、実は読みづらくて苦手なんですが、これはすっと読めた。この辺はやっぱり描写の妙味なんでしょうか。

 

 くすり。 「ちるちるみーちる」

 あ、つらい。コンチェルトどうなっているんでしょうか。ちるちゃんとみーちゃんの会話だけで構成された会話劇。特にこれといった展開もオチもなく、終始掛け合いだけで進んでいきます。なんていうか、はい、本当にそれだけです。僕はただただ悲しい。

 「何だこれは、これが名誉ある本物川大賞受賞者による作品だと言うのか。」ホンマタ・ノムワ三世(西暦一世紀前半~没年不明)

 まず、くすりちゃんさんは、文才が脳みそからところ天状にはみ出してそのまま農協に顔写真付きで出荷出来るくらいあるんですから、この作品を提出した事をちょっと反省してください。僕が言うまでもないとは思いますけど、糞創作の糞というのは一種の揶揄であって、肛門からひり出したそのまんまのホカホカの糞を「はい、糞を召し上がれ♪」って満面の笑みでお皿の上に盛ってこられてもですね、おおこれはこれは……糞でござるなヌホホ!としか言いようがないですよ。次回、ちゃんと講評できる糞創作、待ってます。 

 会話文でのスキット、寸劇を中心にした作品でのガールズトークくすりちゃんの得意分野なのかなーと思いながら読んでいましたが、ねっとりした描写をばっさり切り取り、会話で読ませる作りにしている。ただ、掛け合いのテンポはもっと気をつけた方がいいんじゃないのかなと思いました。敢えて言えば、ちょっと白々しい、上滑りな部分がどうしてもひっかかる。こういう軽い話を2000字ちょっとで終わらせるのって難しいけど、最初から滑ってしまった感がある。正直、惜しい。もっとやれたはずだろうに……とかも思っています。次出してもらえるのなら、是非期待したい。 

 

 黒アリクイ 「成長痛」

 親元から独り立ちした社会人が帰省するかどうかで悩む話。なんていうか、つらつらとしていてちょっとボケてしまっている感じはありますね。自分がそのテーマでどこにフォーカスしたいのかという意識をもう少し強く持つとクッキリとするのかも。こういった文芸的な題材はエンタメよりもさらに素の文章力や描写力というのが求められるので、単純に文字数が少ないといった問題もあります。もっと丁寧に語り部の心理に寄り添って描写していかないと、たんにこういうことがあったんだよねで終わってしまいます。

 帰省を題材にした、主人公の葛藤のお話。全体的に味付けが淡白で、小説というより日記に近いように感じました。描写力はあるので、起承転結の部分に思い切った調味料をごっそり入れて、読む人の舌にピリリと響く味付けをしていくと良いと思います。思い切り突飛な設定をねじ込んでみて、それをどうコントロールしていくか、など試行してみると、思いもしない金脈にぶち当たるかもしれません。今後に期待です。

 何気ない日常、何もない世界を「ものがたる」というとき、過剰に山や谷を付け足して、日常でなくしてしまうこと、あるいは作品よりも淡々とした雰囲気や、自分の頭の中に浮かんだ話でまとめてしまおうとすることで、作品としての転がし方に失敗して、日常を淡々と語るのではなく、平板にしてしまう、何の面白みもないものにしてしまうことはままあると思います。黒アリクイさんの「成長通」は、面白くする素材はいくらでもあると思う。帰省するかしないかを友人と友人の姉の二人に代弁させ、揺れ動く心と、その決断と顛末というアイデアはいいけど、もっと「主人公の決断」に対する心理の掘り下げ方があったんじゃないかなと思います。主人公がコイントスで決める事への決断があってもいいと思う。二人に言われた後にコイントスで決めたシーンがあっさりすぎるのはとても勿体ないと思う。もっと、エイヤで決める事への心理の移ろいみたいなものがあっても良かったと思います。 

 

 不動 「弓と鉄砲」

 立花宗茂黒田長政による弓と鉄砲での勝負の話を、昔話として立花宗茂が秀忠に話して聞かせているという体裁。実際の歴史的逸話をベースとしているのでコレといったエンタメ要素はないのですが、やさしい感じの語り口が軽妙で魅力的ですね。不動さんはだいたい毎回異常なまでの質感を持ったメシ描写で読むメシテロをブチ込んでくるのですが、今回はメシがないのでその加点がないです。習作としてはこういうのも良いと思うのですが、もうちょっと「ココを見せたいんだ!」ってところがクッキリしてるとよかったかも。

 弓と鉄砲の使い手同士の腕比べを描いた作品。かなり固めの文体ですが、その文筆力の高さもあり、映画を見ているかのように語り手と実際の腕比べの場面が交互に浮かびあがりました。ただ、物語の語り手が何度か交代する演出が見られるのですが、そこにあまり必然性が感じられず、ちょっとした違和感程度で終わってしまっています。話者を交代させるのであれば、彼らに関する描写(この物語を何故語り継いでいるのか等)があると更に良くなると思います。一連の話は結末も綺麗に収まっていたので、面白く読ませていただきました。  

 実際にあった立花宗茂黒田長政の弓と鉄砲の腕比べを換骨奪胎して、戦国武将達にその出来事を語らせる、という試みは大変面白かったと思います。文章もすっきりしてて読みやすい。構成と文体にリソースを割いておられたなら、まさに勝利だと思います。ちょっと惜しいなって思ったのは、1話と2話ではちゃんと語らせる戦国武将のキャラクター付けがあったんですが、3話からは語り口調を変えた程度に感じられて、もっとその辺は工夫できたというか、たとえば各キャラクターの気持ちや見方が分かるような「脱線」を入れても良かったのではないかと思います。(各武将は弓と鉄砲、どっち派だったか、とか) 

 

 たかた 「明太子プロパガンダ

 ご新規さんです。タイトルの語感がまずいいですね、明太子プロパガンダ。なにかあると思わせておいて明太子プロパガンダじたいは特に絡まないんですけど、なんか良い感じ。基礎的な文章力が非常に高いです。お話としては特にこれといったことはなく明太子売りの日常を綴っていっている感じで、いちおう職場の嫌な感じの上司が実は……みたいな展開もあるんですけれども、実は~が判明してもやっぱり普通に嫌なヤツなんですよね。別にそれで心象が良くなったりはしない。これだけの分量を割いて変化といえるのは「なんか分からんけど主人公が今の自分自身に対してちょっと肯定的になった」という半歩程度の緩やかなものなのですが、これぞ文芸という感じです。なにがきっかけで、などの明確な一対一の関係性で成り立っているものではないので、結局はそれを見せようと思うとこれだけの分量を使わざるを得ないのですね。黒アリクイさんのところでもうちょっと丁寧に分量多く、みたいな話をしましたが、それをきちんとやるとコレになります。じわっと来るようないぶし銀の良作。

 主人公の心情が丁寧に描かれ、彼女の抱える悩みとモヤモヤがそのままダイレクトに伝わってきます。何て事はない日常生活の中で起きた、ちょっとした事件とそれによる変化。彼女の視点になって読んでいると、自分の中にもある、もしくは必ず一度はあっただろう、自分とは何かという恒久的な問いを呼び起こさせられました。作中、イヤミで浅はかな人物として描かれる寺島さんというキャラクターの根幹を、全くブレさせる事無く別人のように感じさせる演出は、作者が高い技量を持っているからこそのもの。作品の解像度が高く、地力があると小さな日常をテーマにした作品も、こんな重厚なものになるんだなぁと感心させられました。奇をてらわない、真っ向勝負の良作です。  

 実は「日常系」、それも現実離れしたものをフックにしないものって、書くのがとても難しいと思っていますが、ちょっとおかしみのある文体で、とはいえ淡々と日常を描いていく中、明太子売りの女性の日々を描いて、最後までつっかかりもなく読み進めた上で、ちょっと面白さがあって、それでいて変に訴えるところがない。これがめちゃくちゃむずかしい。ちょっとすると変なテーマを入れたり、あるいはテンポ作りに失敗したり、山と谷を作るために妙にラッキーを作ったり主人公を無理に陥れたりする。そういうのをせず、ひたすら平板なのに、お酒を飲んだり、一人でさめざめ泣くだけの食品売り場のお姉ちゃんの日々を読むだけなのにどうしてこんなに面白いのか。それを実現されているたかたさんの作品は非常に文章力が高いと思っています。個人的に大好きな部類です。これはつらつら読んでいきたい。

 

 ボンゴレ☆ビガンゴ 「世界が終わるその夜に」

 ご新規さんのビガンゴ先生です。ネタとしては去年に大澤が書いた「クリスマスがやってくる」と完全にカブッていて真正面からのガチンコファイヤーボール対決に。同じネタとはいえ見せていきかたに違いがあるので、両者を比較してみるのも面白いのではないでしょうか。ビガンゴ先生は他の小説だとラノベを意識しているのか高校生ぐらいの年代を主人公にしたものが多い気がするのですが、こういった大人の恋愛を描かせたほうが上手くハマる感じがしますね。ツイーター上での芸風もピエロそのものですが、普通にオシャレな感性を持っているので自分では気障すぎるかなって思うくらいにカッコイイものを書いちゃっても全然大丈夫なんじゃないかと思います。上中下の三話構成で特に下に入ってからの語り部へのダイブ感がすごくて普通に心が揺さぶられました。ただ、あまりソリッドな質感を出すと色々と気になってしまうタイプの設定だと思うので、中の説明的な部分がちょっと余計だったかなと思わないでもない。語り部の性質的にもそのへんは曖昧にかっとばして終始もっと主観にダイブしていってもよかったかも。いずれにせよ間違いなく大賞候補の一角です。さすがビガンゴ先生!

 個人的に好きな終末世界を描いた作品の上、イキの良いジジイが出てくるので、なるべく冷静を心がけて評価したいと思います。まず、終末世界にありがちな、略奪・殺し・自殺などの、いわゆる闇の部分を描かないのが、作品にとても良い効果を出していると思います。少し関係の冷めた恋人同士、世界の終わりまで通常営業を続けるマスター、誰も居なくなった水族館で一人働くおじさん。どの登場人物も、何らかの葛藤が終わった後のさっぱりとした悟りの中にあり、絶望の中で絶望していません。だからこそ、舞台装置としての終末が存分に活きているのだと思いました。もしもこの中に、葛藤のまま終わりを迎えようとする人物が一人でも居たら、きっとこの作品の持つ空気は壊れてしまうことでしょう。だからこそ目立つのが、「中」でのとってつけたような世界観の説明の荒さです。恐らく、既に終末を受け入れ終わった、ある意味達観したキャラ達を動かして、台詞の一端で匂わすだけで、読者はその背後にあるものを汲み取ってくれるのではないかと思いました。あの説明をしている感が、作品にある終末の心地よい空気感をチープなものとしてしまっている点が、他が大変良いだけに気になりました。結末に至る部分は、その点を補って余りあるほど良かったです。あえてその後を書かないのも、美しい余韻となっていました。  

 実はボンゴレさんのは前もっていくつか読んでいたんですが、正直いって、どんなジャンルでも展開が淡々としてて、会話文も「読めなくはないけどただ続く」という印象が強くて、山や谷がない、「おっ?」と思わせるフックがない、話としては平板だなという印象でした。 ボンゴレさんは、「物語が予期しない方向へ転がしていくことを抑える」事がクセとしてあるんじゃ無いかと思ってました(僕も言っててなんですが、予期しない方に行くとお話が簡単に破綻してしまうから危険ではありますが)。それを前提にした上で、今回の「世界が終わる」という設定は、ボンゴレさんの文体とすごく合ってた。世界が終わる、という設定を最初に持って来たので、まず読者としては「本当に終わるのか?」「ハッピーエンドで終わらないのか? まさかハッピーエンドか?」という予想を立てながら読む、裏切られないかという緊張感が出る。だから一文ずつ集中し、その都度想像していく。没入感が出てくる。こうなると、文章が平坦でも、それが失ってしまう日常への寂寥やいとおしさみたいなものへと感じられてしまう。これはもう設定の完全勝利だと思います。ただ、敢えて言えば、今回の設定が意図したものであったとしても、平坦な文章をどう変えていくのか、という部分において、文章の地の力としては課題があると思ってます。 

 

 不死身バンシィ 「ホホホ銀行SF」

 みずほ銀行の勘定系新システムがいつまでたっても終わる見込みもなくて現代のピラミッド化している、というところから着想したSF小説横浜駅SFてきなレトロサイバーパンクな世界観なのかと思ったら完全に世紀末救世主のほうでちょっと戸惑いました。いちおう話の筋としてはパンクな世界の中で、世界がそのようになってしまった原因に行きつくという、それ自体はオーソドックスな形式なのですが、そもそもタイトルとあらすじ欄で銀行の合併のゴタゴタが原因で世界はこうなったっていうことは明かされているので、そこに帰納していく筋だと作中の登場人物にとっては意外な真相なのかもしれませんが、読者にとっては「お、そうだな」で終わってしまうところがあります。そこは演繹的な筋のほうが良かったんじゃないかなと。細やかなバカバカしいコメディ描写には定評のある作者なので今回も途中途中で細かく笑っちゃうところはあるのですが、物語の大枠の組み方をちょっと間違えたのかな? みたいな感じがあります。

 タイトルから、某メガバンクを連想させるSF作品です。三話で構成されており、荒廃しきった世界をそれぞれ別視点から描いています。独自設定のAIを持った戦うATMというアイデアが光っており、彼らと戦い地域を制圧、取り戻そうする傭兵達のキャラも良く、息をつく間もなく読み進められました。全てを犠牲にしながらも戦い続ける彼らの熱さが伝わり、とても良かったです。そして二話三話では、ホホホ公国について、この終末的状況に至るまでの経緯が語られるのですが、一話の世界の被支配者側から支配者側の視点に切り替わる為、作品の空気感が一転します。二万字の文字数内では、このテンションの上下が激しく感じてしまい、没入感の低下に繋がっていると思います。ただ、本気で書こうとすると短いですよね二万字って。対策としては、この際書きたい事は我慢して、地の文で世界観をサラリと説明しつつ、戦闘を濃密に描く等すると綺麗にまとまるかなと思います。 

 この作品は本当に読むのが難しかったです。たぶん不死身さんも迷ったんじゃないかなと思います。某駅のSFと某青い銀行のトラブルという素材を使ってパロディに行くのか、シリアスで行くのかの判断、その上での文章の量……そういうものを悩みながら進めて行くうち、オチに着地できずに終わってしまったという感じです。個人的に不死身さんはふだんから長い話をかける力量があると思ってますが、ここではむしろ、なまじ長い話なぶん、話がくどくて悪い方に作用してしまった感じ。パロディなら勢いだけにして短いお話ですっぱり切った方がよかったかもしれません。 

 

 今村広樹 「good-bye wonderland」

 えっと、ちょっと分かりませんでした。かなり特殊な叙述の仕方がなされているので、これによってなにか作者が狙っていることがあるのかもしれませんが、少なくとも僕には伝わってないです。僕が分かってないだけでなにかあるのかもしれませんから、それで即ち失敗とは言いませんけれども、なんなんでしょうか。

 全体的によく分かりません。単なるプロットの書きなぐりメモじゃなくて、人に見せる意識を持って書くと、やっと小説になると思います。身近な人に冷静な目で読んでもらうか、自分で音読してみて下さい(怒) 

 これもオムニバス形式で何かのテーマが浮かび上がってくる感じですが正直何を書きたいのか全然わかりませんでした……断片が断片過ぎて……。理解でなく感覚でつかんだ感想をするなら、ここまで文章を削ってもキャラクターが浮かんでくるというのは今村さんの潜在的なポテンシャルは高いとおもいます。何かの雰囲気をイメージとして浮かばせる事に成功した、次はストーリーを作って、ぜひ、このイメージの流れを作ってくれると嬉しいと思います。

 

 芥島こころ 「さきちゃんはさきちゃんだったって話」

 またさきちゃんです。さきちゃんがどんどん謎の象徴化していきますね。どんどんやっていきましょう(?)。体裁としては不思議の国のアリスてきな行きて戻りし物語で特筆すべきことのないプロットなんですが、さきちゃんシリーズのお約束みたいになっている不親切な女の子の完全主観一人称叙述で、ただでさえ不思議の国なのがさらに不思議度マシマシで不思議な感触です。特にどうという話でもなく変則的な一種の夢オチのようなものなので、お話として評価しようとすると難しいところもあるのですが、想像力の限界を試されているようななんとも言えない良さがあります。

 いつの間にか始まったさきちゃん二次創作シリーズの親、元祖さきちゃんの作者による新作さきちゃんです。前作のさきちゃんの続きだと思われます。突然神隠し的に、ファンタジーワールドに巻き込まれてしまう主人公が、妖精と一緒に現実世界に帰ろうと励むお話です。さきちゃんが直接出てくるのは、ほんの一部分だけなんですが、色々な所でさきちゃんを匂わせる演出がされていて、夢の中を泳ぐような独特の世界観に華を添えています。あと、さきちゃんの事で頭がいっぱいな主人公はサラッと受け入れていますが、迷子になってしまった彼女に妖精が提示する時間単位が500年だったりと、ゾクゾクさせられるホラーな展開が続きます。それでも安心しながら読めるのは、これもさきちゃんという概念が闇夜の灯台のように作品中に光っているからでしょう。作者の持つ特有の世界観を味わい尽くす、何とも不思議な冒険譚でした。 

 主人公がさきちゃんを探すストーリーが、なんていうかおとぎ話のようなんですが、ところが主人公がやたらサイコっぽいのでものすごい危険に思えてくる。いやホラーではなくてファンタジーなんですが、なんていうか、最初はメルヘンで可愛い話が、だんだん不条理で底の見えない話に変わって行くけれど、最後はやっぱりメルヘンで終わる、というのがあって、それがさきちゃんを探す「ゆきて帰りし物語」の中でアクセントになってて、本当にうまいなと感じるところでした。 

 

 宇差岷亭日斗那名 「今日も空は青かった。」

 基礎的な文章力は非常に高いのですが体力と集中力に難のある作者です。本作は典型的なラブコメてき設定から始まって急転直下でなんかよく分からない展開に。従来の作品よりも話に展開があるのでそこは良いと思いますし、やろうとしている足し算が成功すればかなり面白いものになりそうな予感はあるのですが、単純に分量と解像度が足りないかな。もう少し丁寧にやらないと読者がついていけずにポカーンとなっちゃうかも。一般には理解しがたいような屈折した感情の揺らぎのようなものを描こうとするのであれば、やはりそれなりに筋道を整えていかないと難しいと思います。うさみんていさんにもたかたさんの明太子プロパガンダが参考になるかもしれません。

 まず、面白かったです。宇差岷亭(読めない)さんが、前回応募された作品も拝見していましたが、回を重ねる毎にメキメキバリバリパワーを上げていると思います。流れるように、しかし丁寧に描写がされており、読んでいて何の抵抗も無く物語の世界に引き込まれました。そしてストーリーに没入したところで、突然オラシャ!ビッターン!と作者にグーパンで地面に叩きつけられる展開が待っています。その構造のひねくれっぷり、ジェットコースターのような急下降が面白く、同時に勝手にシンパシーを感じました。ただ、その急展開の部分については少々説明不足で意外性が空回りしている感も否めないので、彼等が突如その領域にいたるまでの必然性を物語の途中に隠しておけば、読者をショック死させられる程面白い作品になると思います。ただ好き同士だったという事以上の何かが欲しいところです。個人的には、是非その意外性の念能力を鍛えて、最強のトリックスターになって欲しいと思います。  

 内容的に好みだっただけに、結末の直前でよくわからない展開になっていたことが残念でした。「暴力を塗り替える暴力」を頭から否定しているわけではないのですが、でも、普通は「暴力を塗り替える暴力」は、ありえないはずです。だったら、主人公がヒロインの首に手をかけたときの「暴力」と、それを受け容れた時のヒロインのシーンで読者はそんなことがあるのかと疑念に思っているということをきっちり意識して欲しい。文章力もキャラクターの良さもあったのに、構成として、「暴力を塗り替える暴力」を彼女が受け容れてしまったのかがあっさりすぎた。そこは読者としては普通なら「なぜ」が生まれるところで、これをテーマにした以上は作者としてきっちり描ききって欲しい部分でした。ここからは勝手な想像ですが、いつもの彼女でない事を察した主人公が、彼女を殺す事で彼女を「いつもの彼女」に再生させようという思いがあった。しかしそれに主人公自身が気づき、その身勝手な行為に恐怖したとき、むしろ彼女が、自分を否定し再生させるためにそれを望んだ……という展開をとりたかったのかなと思いましたが、それならもっともっとこの点は掘り下げて欲しかった。主人公やヒロインの前フリとしての会話に、そうした再生を予感させる伏線なんかがあっても良かったでしょう。首に手をかけるシーンはもっと深くあってもよかったのではないかと思います。 

 

 綿貫むじな 「師走に死者は黄泉返る」

 死者の黄泉返りを主題にした作品。ホラージャンルになっていますが、あまりホラーな展開はないです。ホラー作品として見せようとするには説明が丁寧すぎるかなと思います。恐怖というのは基本的によく分からないもの、理屈のつかないものに対して感じるものなので、ここまで丁寧に説明してしまうとただの出来事になってしまいます。そこまで突飛な設定というわけでもないのでもっと出す情報を絞っても大丈夫でしょう。現状ではホラーというよりは死神のほうの子を主人公にした連載少年漫画の一話みたいな印象が強いですが、でもそれならそれで、ちょっと見せ方が中途半端というか、どちらを主役に据えたいのかが曖昧になっている感じ。もうすこしプロットを整理したほうがいいかもしれません。あと単純に「時々休日の度に」などの(?)となってしまう表現などがあったので推敲をもう少し重ねましょう。

 タイトルから想像していたのはゾンビものでしたが、作品に登場するのは単なるゾンビではなく、あの世の手違いによって蘇った死者であり、不本意にも生者の熱を奪わなければ消滅してしまう哀れな存在である、という工夫がされています。ゾンビの発生には理由や原因が明示されない事が多いのですが、この場合確かな加害者があの世にいる訳で、モンスターであるゾンビ達にも同情が出来る点が味となっていました。腐った死体ではない故に、蘇った故人と対話するというのも新しい。死神少女との今後も想像させる引きも、短編の締めとしては綺麗にまとまっていました。ただ、故人が蘇ったという衝撃の出来事に対して、主人公含む登場人物の反応がやけに淡白に感じ、そこで没入感が剥離してしまったので、彼らの感情の起伏をより激しく描くと更に良くなると思いました。 

 作品としてまとまりがあって、お話として完結しているのはあるので、楽しんで読めました。いくつか気になるというか、ぼく個人の好みなんでしょうが、やっぱり死、蘇りというテーマを扱うのなら、そこをもっと掘り下げて欲しいなと思わなくも無いです。むじなさんの作品は、アイデアが良くて、描写もそつないのがすごく好きなんですが、絶対もっとポテンシャルがあるという気がしています。抽象的な物言いで申し訳ないんですが、もっともっとキャラクターの心の奥深くを考えていって欲しい、作者本人が、作者の作り出した世界や人でもっと遊んで欲しいと言えばいいのか……そういうところで、もっと違う何かを取り出してくると嬉しいと思います。……何かというのが明確な言葉による心理描写なのか、別のものなのかは分からないけれど、きっとお話に深みが出てくるんじゃないかと思いました。 

 

 久留米まひろ 「時の祝福」

 色々と難がある作者なのですが、いちおう毎回なにかしらを出してくれていて、そして回数を重ねるごとにふつうに文章がうまくなってきていることがウケますね。やはり誰であれ書き続けていけば上達はするというのは当たり前の真理ではあるようです。ただ文章そのものは上達していますが相変わらず小説の体にはなっていませんし普通に気持ち悪いので困ったものですね。今回のは話の筋は飲み込めましたが、これでは結局たんに冒頭部分だけであってただの未完作品だと思います。2万字までの小説を出せという規定なので規定内の分量でちゃんと物語を畳んでください。いまの自分に取り回せない規模の物語を描こうとしても無理です。とりあえず上達はしてきているので引き続き頑張ってください。

 唐突に息子に謎の薬を飲ませようとする謎の父親に、黙ってそれを飲む主人公。目覚めると部屋にモデルガン風の実銃を持った謎の男が入ってきて、そこで主人公は謎の能力に目覚めて……。粗が目立ちますが、前回応募作である光の剣に比べると、確実に描写力は上がっていると感じました。後は作品中の違和感となる「なぜ」「どうして」という描写を客観的に分析していけば、違和感なく読める小説になると思います。あと、作者の何らかの性癖や嗜好が出てくるのもKUSO創作の大変面白いところなんですが、あまりそれを剥き出しにし過ぎるのは、その、どうかしてると思いますよ、はは。 

 厳しい言い方なのですが、正直、破天荒すぎて何が何やらわからないというのが正直な感想です……。序盤の薬を飲むシーンは違和感でしかないし、いきなり銃撃されるのも分からない。謎の薬、謎のナノマシン、謎の大澤めぐみ……。これがギャグだと言ってくれるならかなり難解なギャグだなと思うんですが、どうも読み進めていくとギャグじゃないらしいという事が分かって来て、さらにわけがわからなくなる……。「何故そんなことに」「何故そうなる」と思わず何度も口に出してしまいました。プロットを練って、誰かに読んで貰って、何か違和感がないかをまず考えてみるべきだと思います。文章がおかしいというわけでもないし、小説のお作法から大きく外れているわけでもないのに、話がよくわからない(不自然な)方向へ転がる、そしてちゃんと終わらせられないというのは、明らかに頭の中にある物語を持て余しているからだと思います。この辺はもっと誰かに話してみて、纏めるようにした方がよい。

 

 ラブテスター 「忘れな歌」

 文字数オーバーのためゼロ点です。読んでみた感じ、とてもではないが2500文字を削ることは不可能だ、とは思わなかったので単純に努力が足りません。仕様というのは決して曲がらない絶対的なものなので、たとえKUSO創作大賞と言えども2万字までという規定がある以上は2万字までです。実際に、もうすこしスマートにしたほうがもっと澄んだ読み味になると思います。現状ではちょっと主題があっちこっちにバラけていて、たくさんの登場人物が無駄に豪華な書割りという風情で厚みがなく、どこにフォーカスしたいのかが自分の中でも整理がついてなさそうな印象。狙いは分かりますし文体とホラーの相性は良さそうなので、ちゃんと狙い通りの効果を引き出せたら良いものになりそうなのですが、現状ではうまく機能しているとは言えないと思います。自分の中では意味があるのかもしれませんが、読者に伝わらない意味深なだけの意味のない演出というのは総合的に見るとマイナス点のほうが大きいと思います。傍点のことです。

 残念ながら文字数オーバーです。規定を守って楽しくデュエル! ガードレールから聞こえる不思議な歌をキーとして、様々な物語が進行していくお話です。以前の応募作でもある腕食いでもそうですが、作者の紡ぐ言葉の丁寧さと装飾の美しさには目を見張る物があります。ただ、今作においてはその文体の美しさが、聞こえる歌の謎、いわばオチに向かうまでの期待のハードルをかなり上げている印象があり、その期待に対して明かされる真実が弱いと感じました。その為、読後に物語の中心が結局何だったのかが掴みにくくなっています。あとは牽引力のある主軸さえあれば、最強です。 

 オムニバスな展開から、歌というテーマを浮かび上がらせようとするのは、とてもレベルの高い内容だと思うので、そこにチャレンジしたのは素直に賞賛するけど、読者にそれぞれのキャラクターを追っていかせるにはどうしたらいいか、という考え方をもっと強化して欲しかったです(好みもあると思うんですが……)。たとえば2話、高校生のT井の「ひどくさみしい」という言葉で表現できる心理があっさり終わっているのがとても惜しい。 父を亡くした高校生の男の子の心理にしては気恥ずかしいかもしれない。前段でていねいに情景を書いていたはずが、一番大事なキャラクターの気持ちのうつろいを「さみしい気持ちになっていた」で片付けてしまったのは、ぼくはすごく惜しいと思う。自分の将来に悶々としていた時、さみしいと思った時、そういうときの目に見える色んなものの見方は、ふだんとは変わるかもしれない。変わらないかもしれない。そういう心理状態のうつろいから見える情景描写が、僕は好きです(心の動きで1話ごとの起承転結にメリハリも生まれるし、テーマがくっきり浮かび上がると思うし) 

 

 綿貫むじな 「DJマオウ」

 この作者にしては珍しい100パーセントギャグ作品。たぶん、元ネタはDJラオウ(なつかしい)でしょう。魔王がDJの深夜ラジオという設定。設定じたいにおかしみがありますし、文体も軽妙で非常に読みすすめやすかったのですが、本当にクスクスとちょっと笑ってそれでおしまいという感じでもったいない感じがしますね。軽い設定とライトな読み味を絡め手にして、もっとすごいところまで話を展開させたりもできそうな気がします。本作単品で高く評価することは難しいですが、もうひとつふたつ足し算して上手く融合できたら大化けしそうなポテンシャルを感じます。クソネタとして使い捨てにせずにアイデアは心の隅にとっておいたほうがいいでしょう。

 まず言わせて下さい。この手があったか、と。本作はDJマオウによるラジオ形式の作品です。一体魔王はどうやって放送を発信してるんですかね、やっぱり魔界全土に発信される魔界アンテナがあるんでしょうか、もしくは子供の頃なら誰もが(?)やっただろう、一人DJごっこ……?なんとも夢が膨らむところです。また、ラジオ大好きっ子には堪らないのが、要所要所で挟まれるカギカッコの注釈。(トランペットを主旋律としたBGM)とか最高です。まさにwebならではの表現ですね。基本的に登場人物もマイクの前に座っているだけなので、余計な描写も不要でぎっしりと情報を詰め込める。面白い手法だと思います。  

 こういうテンプレファンタジーの枠を使いながら、枠を壊していく内容、すごく好きです。魔王がDJやってお葉書紹介やトークをやるっていう作りはアイデア勝利ですね。1話はグイグイ引き込まれる感じで最高でした。もっともっとアホな話やラジオあるあるで盛っていって欲しい。恋愛相談、渋滞情報(ダンジョン混雑情報?)、スジャータ時報、妙なジングル、放送作家、ありがとう浜村淳、深夜のリスナーポエムで感動して泣き出す(嘘泣き)声優……。そういうパロディやメタネタを盛り込めるなって思うと、まだまだ引き出し、ポテンシャルのある内容だと思います。

 

 鈴龍 「年末」

 うーんと、たぶん特に引っかけは仕込まれてないですよね? 普通につらつらとした日記調の文章です。柿の木を見たらなんかおじいちゃんを思い出して仏壇に手を合わせた。本当にそれだけの話。たぶん本人の中ではそれはあるていど意味のある大事な感情なのでしょうけれど、この分量でそれを伝えるのは難しいのではないかと思います。単純に、もっと文字数を使って解像度を上げていきましょう。

 ほのぼのとした、田舎の生活と思い出を描いた作品。個人的には、ジジイとババアが出てくるとそれだけで弱いです。泣ける。基本的に思い出を振り返りつつの日記風のお話になっており、読みやすいです。後は視点人物である”僕”の感情の起伏がなく、エピソードの割に味が淡白に感じられたので彼の心情風景をたっぷり見せるなどして、合間合間に思い出話を挟んでいくと、切なくて泣ける良い話になると思いました。 

 年末、帰省した実家で、ふと昔の出来事を思い出す……という話を膨らませていったお話。自分にもそういう事もあったな、と思えて、しかも心がほっとする、良い作品だったと思います。散策をしながら実家の身の回りのものを見つめ、そこから過去を思い出していく作りですが、私小説の体裁をとっているぶん、散文的な内容でもすっきりしている感じがします。(たぶんこれに描写を加えると、途端に作り話めいたものになるんでしょう)小さな話だとは思いますが、こういう小さな話があると、本当に心が安まります。 

 

 不死身バンシィ 「ベルリア魔鉱山採掘者ペイジの手記」

 17000文字未満という文字数なのに全17話というかなり小刻みなちょっと変わった構成。前回のでかいさんの箱庭的宇宙を彷彿とさせる体裁です。あちらはメールのやりとりでしたが、こちらは手帳に残されていた手記という設定。でかいさんの時もそうでしたが、この体裁は物語の隙間を細かくキングクリムゾン(ぶち飛ばす)できるので、少ない文字数でもかなり大きな物語を取り回すことができます。加えて、本作では短く端的な表現で文章に情報量を詰め込むことをかなり意識しているっぽくて、文字数あたりの情報量がほんとうに多く、読み終えてみると「これでたった17000文字なのか」とびっくりします。実質的なオチは蛇の月六日のたったの7文字でしょう。最後は爆発オチという感じなので微妙なのですが、この体裁はまだまだ可能性があると思うので、これも使い捨てにせずにいつか再構成してもらいたいですね。これで全体に張り巡らされていた謎がラストにギュッとくるような構成になっていたら満点でした。

 これ、世界観フェチにはたまらない一作です。設定は元から用意されていたのか、今回即興で作り上げたのか分かりませんが、当然顔で現れる現実感のあるファンタジー世界は、大変魅力溢れるものになっています。ホホホ銀行SFといい、作者の想像力に底知れぬ物を感じますね。実際の文字数の数倍以上にも感じられる読後感は、手記という形式による効果を最大に活かした結果でしょうか。どの場面転換にも違和感がありませんでした。一つ挙げるとするなら、最後の事件を具体的に予想させる伏線づくりがあると尚良かったと思います。読み返しても、想像の余地が随所に残されていて、読者の想像を掻き立てる、良い作品です。  

 ほほう、こう来たか……というのが正直な感想です。何気ない手記から始まり、これはどう終わらせるんだ? と思ったら、手記でオチをつけるのではなく日報として終わらせるのはすごくうまい。自分でもこの手の手記もの書いてますが、不死身さんの作品を読んで思うのは、「読者である自分が作者からの手がかりを得て想像する」楽しみ方ができるんですよね。手記だから、断片的でも読み飛ばしていけばいい(≒読み飛ばすしかない)部分もあるけど、だから伏線を張るのも楽しいし、あれこれの仕掛けが作れる。そして読者もまたもう一度読み直して、あっここ伏線だったんだなと思えてくる。あまり「書いた人しか知らない・分からない事」を盛り込みすぎると、これは自分が読むものではないと読者がわざわざ手記を書いた人間の中に入ろうと思えなくなるので、そこのくすぐりというか、多くの人が読みたくなる仕掛けがあってもいいと思います。大変面白く読ませて頂きました。 

 

 既読 「ビタミンC」

 本物川文芸勢で間違いなく最強の一角だと思うのですが、未だに無冠の既読さんです。この作者は限りなく研ぎ澄ませた一文に非常に強い力を持たせてくるのが上手い、居合抜きの達人のような技術を持っているのですが、本作においても「感情は完全にコントロールされている」という、それだけだとなんでもないような一文が主題として繰り返し提示され、読後にはこの一文がどれだけ研ぎ澄まされたものであったのかが分かるという感じがします。ミステリーということで、エンタメ的な謎は他にちゃんとあるのですが、僕はこの「感情は完全にコントロールされている」という一文の意味というか、重みのようなものが読んだ前と後で全然異なって感じられるこの効果こそがミステリーだなと。既に完成されている作者なので、僕から言えるようなことはなにもないです。

 上手い、上手いわー。いつも中長編で圧倒的戦闘力を見せつけていく既読さん。短編ならなんとかケチをつけられるだろうと思い、偏見の目をギラつかせつつ読んだんですけど特にこれと言った欠点は見当たりませんでした。とても悔しいです。ビタミンCという聞き慣れたワードや、合間合間に挟まれる「感情はコントロール出来ている。」というかっちょいい台詞は、しっかり読後感に紐付けされて、この作品の印象を強くしていると思います。描写表現は勿論の事、作者はマーケティング力にも優れていますね。是非そのやり方は盗んでいきたいです。  

 非常に安定している。なんていうか文章に風格があるというか、プロのような味わいを感じました。序盤のストーリーからビタミンCという単語をフックにしたまま、結末まで持っていく力に感心することしきりでした。なにより、結末。まさかこうなるとは思わなかったんですが、その思わない話へと持っていく力がある。今回、ぼくの評価軸に「キャラクター」を入れているんですが、これはキャラクターの個々の味付けがなくてもしっかり楽しめる作品なので、ちょっと後悔しています。正直、文句の付けようのない作品でした。 

 

 enju 「コナード魔法具店へようこそ」

 これは完全なダークホースでした。めっちゃいいです。好き。全7話で10000字程度と、かなり文字数は少ないのですが、ライトな読み味のわりに詰まってる情報量が多いというか、繰り出されるロジックが設定厨もニッコリの納得の出来でめっちゃコスパいいです。あ~ライトな感じなのねってサクサク読んでいたらウオオオンと唸らされてしまう感じ。読み味がライトなので人にもオススメしやすいですね。連載作品としてまったりと続いてくれたらうれしいかも。個人的には大賞候補の一角です。

 様々な魔法グッズを扱うお店のお話です。一風変わった魔法グッズの紹介を続けていくのかと思いきや、道具と共に物語の世界観を感じさせる情報を散りばめていき、徐々に彼らの関係性や物語の世界観を理解させていく仕組みがガッチリはまっています。また、説明臭さが全くないまま、読者を作品世界に引き込むその手腕は見事です。キャラも明るく魅力的で、提示された世界観の魅力には、今後の無限の可能性を感じました。

 Web小説っていうのは、媒体を選ばないものだと思っています。スマホタブレットなんかのモバイル、パソコン、あるいはテキストをコピーして印刷する。そうしたものの中では、「コナード魔法具店~」は、正しくモバイル向けの作品なんだな、と思いました。長ったらしい導入や描写や説明を排除して、短い話をテンポ良く進めて行く。実はこれ読んだ時に長い作品をいくつか読んでたのもあると思いますが、1話が数百~千ほどもいかない小さな話を、無理なくスイスイと読ませてくれたのは、正直な話、かなりほっとしました。けっこう好感が持てました。

 

 ゴム子 「おとぎ話のようになんて生きられない」

 ひとり小説RTA大賞やめなさい。大晦日に駆け込んできた安定の滑り込み組ゴム子さんです。もうちょっと計画性を持ってください。非常に高い文章力と独特なゴージャスな世界観をもった、個人的には非常に好きな作者なのですが、安定した執筆力に欠けるのが難点ですね。やはり計画性と安定した体力と集中力が大事。過集中状態でのキャラクターに対するダイブ能力が優れているのか、本作でも人物の描写の質感が非常に高いのですが、やはりプロットとしては導入の1エピソードという感じで、ピアッシングを一種の性的なメタファーと捉えるのもそこまで目新しいアイデアではありませんし、これ単体で出してこられてもなかなか厳しいものがある。締め切り直前のタイムアタックばかりでなく、一度、ちゃんとしたプロットを組んで腰を据えた作品の執筆に挑戦してもらいたいと思います。

 えっちな物書かせたら界隈No.1(当社比)のゴム子さんによる作品です。今回もまあ中々にえっちでした。とあるきっかけで拉致された芋OLと美人メンヘラの共依存関係。いいですよね~。とてもいいです。ゴム子さんのねっとりぐっしょりした描写にはもう何の文句もないのですが……強いて言うならもっと先が読みたかったですかね。是非次回は、コツコツ計画的に書いて、素晴らしくえっちな小説を見せて下さい。待ってます。  

 作品としての好みというのがあるので何とも言いづらいのですが、ちょっと苦手でした。たぶんこれは女性的な霊をイタコして読めばめちゃくちゃ面白いんだろうなと思うのですが、いかんせんイタコできないぼくが悪いんですが……正直、女性が読むとまた感想が変わるんだろうなと思う。ゴム子さんは文章力もあると思うんですけれど、全体にある危ない魅惑、エロチシズムというか、そういうものが自分とは違うんだな、という感じがしすぎて、どうしても最後まで乗りきれなかった。 

 

 兎渡幾海 「だ・かーぽ」

 前回の大賞受賞者のうさぎさんです。またなんか名前が変わってますがもうどんな名前になったところでうさぎさんで通します。こちらも既に作家としてほぼ完成されてしまっているので僕が言うことはほとんどなにもないですね。面白かったです。タイトルの意味てきにはこれもリボーンなのかな。象徴的に何度でも死んで生まれ直す。そういう前向きな精神的自殺の話。主人公と婚約者とのその後は語られないままですが、また死んで生まれ直した主人公のことですので、きっとなんとかしていくんだろうなというポジティブさが読み取れます。明確な言明なしにそれを感じさせる手腕はほんとうに見事。やや変則的でありながらも王道青春ロードムービーです。いちおうなにか言わないとカッコがつかないので言っておくと、形式的にはカギカッコの行頭はスペース入れないのが一般的なルールだと思います。

 最初から最後まで、本当に綺麗な作品でした。前回の大会覇者であるうさぎさんが、今回もその地力を十分に見せつけていった形になります。彼は作品の骨組みをしっかりバッチリ作ってくるので、読む側も常に安心して脳を空っぽにして任せる事が出来ますね。衝撃的な事件を起こす主人公と、訳ありの美容師。二人の登場人物の背景にある旅の動機も、月日が経ってからのあのラストに繋がる事で物語に何とも言えない説得力をもたらしています。やはり大賞受賞者は見せつけてくれますね!  あ、そうだ。くすりちゃーん!うふふ、呼んでみただけ^^  

 親を殺してしまった主人公と、ワケありの女性が二人、宗谷岬へ逃避行をするという話。導入からグイグイと引っ張るような展開で、1話の引っ張り方は最高。「よくある構成の仕方をきっちり描くテクニック」があることは本当に強い。うなることしきりといった感じでした。ただ、結末までの後半部分があきらかに急ぎ足で、最初ほど練り込まれてない。終わりかたも唐突だし、ロードムービーというか、逃亡劇の面白さが描けてない気がする。なにより、明らかに2万字という文字数では全然足りてない感じを受けました。序盤のハイスピードな展開が面白かっただけに、惜しくて惜しくて仕方ない。1話と同じくらいに練り込んだら、たぶん文句なしに大賞に推してました。

 

 でかいさん 「シン・ネン」

 ズモーン!!!!! これぞクソ小説。そうそう、こういうのでいいんだよ本物川小説大賞っていうのは。こんなクソ小説企画にそんなマジになっちゃってどうするの? しかしこれはクソ小説とはいえケツアナからエエイ!!!! とひり出された一本クソではなく、クソを丁寧に捏ねて作られた見事な美しい三段クソです。冒頭の勢いを出すことは迷いを振り切ってしまいさえすればそれほど難しいことではありませんが、17000文字以上もこのクソバカテンションを維持したまま走り抜けることは並大抵のことではありません。もう大好き。まさにクソ小説界に燦然と輝くマイルストーン。合間合間に挿入される半角の擬音がなんとも言えない独特のおかしみと共にアイキャッチの効果も兼ねていて、ダレることなくラストまで読み進めさせられてしまいます。個人的には頭ひとつ抜けた高評価。

  ペタタタタタタタタタンペタタタタタタタタタンバッバッバッバッバッバッバッバッバ!ギュイーーーーーーーーーン ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!

 要所要所挟まれる擬音がたまらない。作中に現れるのは違法改造されたペッパーくん。町中に溢れる餅、餅、餅。それに立ち向かう人々の希望は……やたらバイトの経験が豊富な主人公、いっぴーくん。戦え!餅と!そして新年、あけましておめでとうございます!何だこれは、何だこれは、と思っている内に物語に飲み込まれていく不思議な作品。そうか、これが僕達の原点なんだ。創作って、自由なんだね!僕分かった、分かったよ、いっぴー君。脳みそと口を繋いでみたら、こんなものが出来ちゃいましたー!みたいな文章で綴られる物語は無条件で笑顔になれるので、お仕事に疲れたサラリーマンにおすすめです。 

 お餅特撮。話の筋はいわゆるシンゴジを踏まえながら進んでいくので目立った部分はないけれど、おかげでいろんなものを身構えて読まなくていいというか、さらさらっと読んで、ふふっと笑って、それでいて物語としてちゃんと完結していて後腐れが無く読後感が良い。大好きです。お正月にぼけーっとしながら読むには確かに丁度良いくらいのまとまり感でした。 

 

 大村あたる 「押しかけミニスカサンタクロース」

 こちらも安定した高い筆力を持った作者です。なんかこう、分かりやすいテンプレラブコメを書いてやろうという意志はひしひしと伝わってくるのですが、ほらこういうのを書けばいいんだろう? ほらほら、みたいな上から目線をそこはかとなく感じてしまって(被害妄想)なんとなく入り込めませんでした。自分は好きでコレを書いているんだというような熱いパッションがないぶん、逆に実用的にはできているのでしょうし、スラスラと読めてしまうところは根本的に文章が上手いんだろうけど、う~ん。中くらいのところに一番良いバランスがあるはずなので、そのへんを探っていってもらいたいですね。

 クリスマスにミニスカサンタがやってくるという少年漫画を思わせる展開。あえてベタな題材に挑戦したと思われる今作。描写も相変わらず上手く、綺麗にまとまっており、作者の狙い通りのものが出来ているのではないでしょうか。あとは、基本理由なく結ばれていいのがラブコメなのですが、マッハで恋に落ちる彼女にもうちょい説得力のある理由か、面白いオチがあればいいかなと思いました。 

 いわゆる「男の主人公が何故か女の子と同居する」みたいな、古くはうる星やつら、ああっ女神様っ!とかの系譜だと思うんですが、この辺のやつは、僕個人の好みも大いにありますが「欲望に素直な奴が勝利」だと思うのです。そういう意味では、大村さんの作品は、サンタさんが女の子で、その女の子に奉仕的に言い寄られるわけですが、大村さんの好きなシチュエーションをもっともっと全開でも良かったのではないかとか思うわけです。たとえばサンタさんにもフェチっぽいシーン(18禁レベルかは置いとくとして)を入れるとか。 

 

 豆崎豆太 「病」

 う~ん、なんでしょう。文章そのものにちょっとした個性が光っていて、非常に高い筆力のある作者だと思うのですが、歩み寄りの姿勢が見られないというか、言いたいことを一方的に言われただけみたいな感じがあって腹が立ちますね。この手の物語にある種のうっとおしさとか鼻につく感じがつきまとうのは仕方ない部分があるのですが、もうちょっと調整のしようがあるように思います。描きたいことの主題ははっきりしているようですので、それを一方向から照らすのではなく双方向てきカンバセーションによって明らかにしていってほしいなと。なんか小説というよりは長ったらしい演説を読まされた気分で、今回は僕としてはあまり評価は高くないです。たんに僕が萩野きらいなだけかも。

 恋愛を書けない自称作家の恋のお話。登場人物の書き分けも風景描写も上手く、それぞれの場面が頭にしっかりと浮かびました。ただ、短編としては何ら進展のないまま終わってしまった感が強く、僕として心残りな印象です。せっかく魅力的なキャラクターが配置されているのに、このまま終わってしまうとなると、ウジウジとした男がただウジウジとしただけって話になっってしまうので、もう少し展開が欲しいところです。  

 今回というか、自分もそうだった時がありますが、寸劇というか、何かのワンシーンを抜き出したものを見かけます。出来事をならべて、何か始まったのか終わったのかよくわからないまま唐突に途切れる、そうした作品。それが絶対に悪いわけではないですが、やっぱり2万字というボリュームを使うならもっとあれこれ出来ると思うし、短いなら、短いなりの読者への楽しませ方みたいなものがあってもいいのでは……と思ったりもしていました。だからこそ、そういう中で、ちゃんと話があって、終わりまで描いて、余韻が残る小説というのは、読んでいて満足感がある。そういう意味では豆崎さんの「病」は、ちゃんとお話があって、結末がある小説で、しっかり満足できました。個人的にはストーリーとしてもうひと転がしあっても面白いな、と思いもしましたが、それはつまり、先行きがある終わりかただということで、これもまた読者としては印象に残ったということでしょう。このキャラクターたちで(秋元さん含め)、次回また機会があれば読ませて欲しいなと思える作品でした。 

 

 maple circle 「人の角」

 詩、童話、その他、というカテゴリで投稿されているので、なにかそういう類のものなのでしょう。なんらかの寓意のありそうな話なのですが、はっきりとは分かりませんでした。たぶん、もわんとそういうものなんだなと解釈すればいいのだと思いますけど。文章としてはとても読みやすく、また読み進めさせるための鼻先にぶら下げるニンジンというのか、インセンティブ設計もしっかりしているので上手な方なのだと思います。オチについては、エンタメてきなすっきりするものではありませんので、そこのところの評価は難しいですね。本物川小説大賞の趣旨的にマッチする類のものではありませんが、良さがあります。

 人の頭に生える角、主人公だけに見えるそれが一体何であるのか、いくつか何か匂わす描写がありますが、今一歩踏み込めていない印象を受けました。ただ、設定は面白いのでもったいないです。是非もう一度練ってみて下さい。角が霊的な何かなのか、ファンタジー的な何かなのか、どんな風にでも展開出来る、面白いアイデアだと思います。  

 第1話、と銘打っていて、第2話が出ないということは、未完であり、評価しづらいというか……物語として終わっているのか? というのは、正直なところ、ちゃんと明示して欲しいと思いました。イメージできるものがあって、話が面白いし、これから色々転がっていくんじゃないかと思ったところでぷつっと切れているのは、非常に惜しいと思います。

 たぶん第1話になっているのはカクヨムの仕様に不慣れなだけであって、これはこれで完結しているのでは? 新規作成画面を開くとタイトルが自動的に第1話ってなるんですけど、あれを消せることに気付くのに僕もだいぶ時間が掛かりました。

 

 起爆装置 「ビガンゴ☆王」

 さて、大トリは本物川創作勢いちばんの問題児、起爆装置さんです。今回もやってくれました。えっと、ちょっと裏話を明かすんですけど、これ起爆装置さんに「なにかお題を出してくれ」と言われて僕が「お財布を無くしたことに気が付いたのはタクシーを降りようとしたときのことだった」から始まる小説っていうお題を出したんですよ。わかります? この身近に起こり得そうでありながらもそこからいくらでも人間ドラマが拡がりそうな極限状況てき絶妙なお題(自画自賛)。そこからデュエル始まるとか普通思わないじゃないですか? なに食って生きてたらこういう発想に至るんでしょうね? これこそまさにケツからエエイ!!! とひりだした一本グソですよ。特にコメントはないです。やっていってください。ドン☆

 ドン☆  文脈の分かる人には堪らない一作。ほとんどが台詞で構成されていますが、遊◯王の骨組みを借りているせいで、すんなりと作品世界に入っていけます。文体も読みやすく、あまりカードゲーム及び遊◯王の知識の無い僕でも十分に楽しめました。また作者のボンゴレ☆ビガンゴ愛と大澤めぎぃみ(誤字)愛が十二分に伝わってきますね。これぞ本物川KUSO創作の原点といったところでしょうか。この世で数人に伝われば良し、という潔い作品です

 小説で読むカードゲーム……なんですが、ビガンゴ先生のキャラクターで全部押し切った感じ。とにかく速度(勢い)で書き上げた感があって、粗さが目立つので作品としては出来の善し悪しで言えばまだまだだと思うけれど身内のネタ、楽屋ネタでしかないんですが、ビガンゴ先生や大澤めぐみさんを知ってれば思わずクスクス笑いたくなる展開。無茶な話なのに読んで突っかからせない、するすると読める展開はやっぱり起爆くんらしいというか、安心感があると思います。ストーリーとしては何の決着もしてないし、バトルして終わり、という展開なので、多くを望んではいけないのでしょうけれど、小さく纏まっていて読みやすく感じられました。 

 

 大賞選考

 さて、続きまして大賞の選定に移りたいと思います。いつもと同じように闇の評議員三名からそれぞれ推し作品を三つ出してもらって、そこから先はなんとなく合議で決めていく感じです。

 まず僕の推しですが「コナード魔法具店へようこそ」「シン・ネン」「世界が終わるその夜に」の三作品になります。

  僕は「うんやん」「明太子プロパガンダ」「世界が終わるその夜に」の三作品です。

 僕は「明太子プロパガンダ」「うんやん」「だ・かーぽ」の三つ。 

 割れましたね……w

 割れたねぇ……。

 えっと、「明太子プロパガンダ」と「うんやん」「世界が終わるその夜に」がそれぞれ2ポイント。「コナード魔法具店へようこそ」「シン・ネン」「だ・かーぽ」がそれぞれ1ポイントですね。大賞は2ポイントの三作品の中から選ぶ感じかな。

 じゃあ僕は敢えてここでコナードを持ってくる。

 や、そういうのをやり始めると本当に決まらないので。最初に推しを三作品出す時点でどうしても運の要素はあるんですけれども、運も実力のうちってことでそこはひとつご了承していってもらわないと。大賞は2ポイントの中から選びます。

 不死身バンシィさんの「ベルリア魔鉱山採掘者ペイジの手記」が好きでしたね、三本に入れようか最後まで迷った。

 良かったですよね。急あつらえなので構造的な強度はまだイマイチですが、ポテンシャルは感じました。あれは続編というよりも、同じアイデアでもう一度練り直してみてほしいなという感じです。

 新しい鉱脈を発掘した成果は大きい。

 DJマオウも同じですね。切り口はいい。でもまだアイデア段階なので、作品としての強度を高める感じで、もう一度イチから取り組んでほしい。

 二人ならきっとできるできる。

 とくに綿貫むじなさんは、わりと自分で丁寧にギャップをならしてしまって、手間をかけて作品を平凡にしてしまうようなところがあって、上手いんだけどウーン……みたいな部分が少なからずあったんですけど、今回はひとつなんらかの突破口になり得るのじゃないかなという予感がありました。そこ、もうちょっと掘ってみてほしいです。

 大賞は……エッジが効いてるのはうんやんだけど、作品の完成度っていうところで言うとやっぱり明太子かなぁ。

 うん、明太子は完成度が高かった。そういう意味では、うんやんはやっぱり個人的には……がついちゃう。

 前回みたいにイラスト化したときの見栄えみたいな話をすると、明太子はどうやっても地味なのでそこは世界が終わるその夜になんですが、やはり講評でも指摘があったように(中)での急に説明的なところがどうしても気になってしまう。

 あれ、勿体ないですよねぇ……。

 ビガンゴ先生は正直ここで取るんじゃなくてここから次どうなるか見てみたい。

 なんていうか、こう言ってはナンなんですけど、今回のビガンゴ先生のかなりラッキーパンチ感はあるんですよね。安定して出せるようになってもらいたいのもあって、これを教訓に次でガッチシ大賞を狙いにきてほしいなっていう。

 そうそう。指摘を反映した次の作品をすごく見てみたい。

 ということはやはり大賞はうんやんか……!

 隙あらばねじ込もうとしないでください(激怒)

 僕としてはここで明太子が大賞を持っていってしまうと、また前回に引き続き「普通に完成度が高い」ものが勝ってしまうことになるので、KUSO小説大賞のアイデンティティてきに「シン・ネン」みたいなのを推していきたいなというのがあって。でも明太子はやはり次点には入っていたし強いので、明太子なら大賞異存なしです。

 シンネンも面白かったけど、途中途中、振り落とされて真顔になっちゃった。ロデオマシーンみたいな作品。

 シンネンはまさに本物川小説!っていう、「速とパワー」っていう感じがあふれてるんだけど、正直、速とパワーだけでいうなら、うんやんで完全に脳天割られちゃった。

 読者と作者で体力勝負して作者が勝っちゃうってすごいことだと思うんですよシンネン。

 明太子はとにかくなんていうか、切実な気持ちみたいなのがしんみり伝わるんすよ。女性の気持ちなのに。

 では、第六回本物川小説大賞、大賞はたかたさんの明太子プロパガンダということでFA?

 ファイナルアンサー。

 ファイナルアンサーです。

 わー! というわけで、第六回本物川小説大賞はたかたさんの「明太子プロパガンダ」で決まりです! おめでとうございます!! パチパチドンドンヒューヒュー!!!!(ブオオオオオオオーーーーーン!!!!)←ブブゼラ

 おめでとうございます!

 おめでとうございます~!

 じゃあ、あとは世界とうんやん、どっちかが金賞でどっちかが銀賞なんですけど。

 うんやんか……!

 勝手に決めないでください(激怒)

 僕はビガンゴ先生。

 僕はうんやんかな。

 僕もうんやんは回避したいのでビガンゴ先生ですね……。では2対1で金賞はボンゴレ☆ビガンゴさんの「世界が終わるその夜に」ということで。

 パチパチパチパチ~

 パチパチ! おめでとうございます!

 そして自動的に銀賞一本はポージィさんの「うんやん」に決まりました。おのれバルタザールにカスパール。

 いえーーい!!(?)

 惜しくも最後で漏れちゃったか……。

 ……。(じっと見る)

 すみませんすみませんすみません。

 あと残り一本の銀賞を選定していくわけですが、僕としては「コナード魔法具店へようこそ」が本当に良かったなと思っていて。意外とこれまでの本物川小説大賞になかったタイプだと思うんですよね。すごく気楽に読めてサクサクしてて、でもちゃんと一定の満足感がある。これぞweb小説って感じで、すごくコスパいいんですよ。

 「入り口が重い戸になってない作り」というか、ウェルカムしてくれる作品。

 そうそう。やっぱ他人の創作を読むのって、ある程度その人の庭の中に入っていくみたいな感じがあって、それなりに心構えと言うか、覚悟みたいなのは求められるじゃないですか? そういうのが一切なくて、なんかすごく優しいんですよね。

 優しい、分かります。読みやすくてキャラクターもみんな嫌味がない。

 本物川小説大賞ってどんなのかな? って、書いたこと無い人が読んだ時、文学性の高さで困るわけでもなく、結末が難しくて首捻るわけでもなく、あっこういうのなら俺も書けそう、っていうのがあるとすごくいいと思う。もちろん槐さんのコナードは実はあれ書いてみれば分かるけど、めちゃくちゃ高度な事やってると思うけど、入り口でウェルカムしてくれる。

 そう、やろうと思うとめちゃくちゃ難しいんですけど、でもなんか、自分も書いてみたいなって思わせるようなそういう効果もありますよね。肩肘はらずに、一緒に遊ぼうよ? って誘われているようなフレンドリーな空気感がとてもいいです。明太子プロパガンダはなんだかんだいってムキムキのマッチョがいきなり殴りかかってきたみたいなところありますからね……。あとは筆力で言うと既読さんのビタミンCもムキムキマッチョマンなんですけど、なんか当たり前のように強すぎて逆差別みたいになってるところありますよね……。

 うさぎさんの「だ・かーぽ」とかもそうっすね。

 あげるタイミングを逃し続けているというか、ここまで来るともう既読さんにはこの水準ではあげられないみたいな。正直、あのふたりはもうレベルが違うのでそろそろ出禁ですよ。

 出禁!?

 えっと……卒業?

 ビタミンCもだ・かーぽも、最初の1話は文句なしの最の高だったけど、逆に完全にハードル上がって、ラストでこれならもうちょっとやれたじゃないか……とか無茶な気持ちになってしまったし。

 普通に売ってる小説を読む気分で読んじゃってますよね。だかーぽすごく良かった。移動の暇つぶしに適当に買った短編アンソロジーなんかにアレが載ってたら絶対得した気分になる(伝われ)

 あとは常連勢に関しては、書くことに慣れてると、どうにも本大会を舐めてかかってしまう事があるので気をつけたいところ。もっと本気でぶつかってこいと言いたい。

 それ。いくらクソ小説とはいえね。ほらきばりんさいや!

 ゴム子さんとかこむらさきさんも、本気で腰を据えて取り組めばものすごいポテンシャルを持っているとは思うんですが、まあお二人とも創作アカウントというわけでもないですし、投入できるリソースも人それぞれあるでしょうから、自分の生活を優先してマイペースにやっていってもらえばいいのかなと。こむらさきさんは確実に前進はし続けていて停滞や後退はしていないので、地味にでも続けていけば必ずなにかに到達すると思うんですよ。まずそれを自分で信じてほしい。自分自身でネタ枠みたいなところに自分を規定することをしないでほしいです。

 自分の癒し、楽しいな~っていうところじゃなくて、主人公の気持ちに仮託して「だからぼくはこれでいい」みたいな気持ちで書くことからそろそろ次のステージに挑戦してほしいって人がたくさんいました。

 うさみん(読めない)さんも他人には出せない味や思いつかないアイデアを絶対に持っていると思うので、何とかそれを昇華させて欲しいという思いでいっぱいになりました。

 今回はかなり野心的なプロットだったんですけど、やっぱちょっと体力不足かな。まだ大賞はあげられないけれど、確実に良くはなり続けている。

 あの人は面白くなる。化ける。

 しふぉんさんも、僕は実はBL表現ってめっちゃ苦手なんだけど、これは結構なるほどと思っちゃって。

 しふぉんさんは初登場時点でムキムキマッチョだったんですけど、やっぱ見慣れちゃうというのはあるので、もうちょっと違ったプロットに取り組んでほしさなどはあります。

 とても綺麗で文句の付け所がないんだけど、次のステップにいけるんじゃないかとおもう。

 前回の「天使」はそういう意味では野心的だったんですけど、ワンアイデア止まりなので、なんかこう、渾身の一撃を見たいというか(ふわふわ)

 超個人的な好みとしては、やっぱちゃんと完結してほしい。作品として自分はもっといけるって思ってるなら、ぜひ一回くらい、落ちというか、「これで終わりです」っていうところをきっちりつけてくれるとうれしい。誰かにこれ面白いよとか言いやすくなる。

 もう少しエンタメ方向に歩み寄ってみて、みたいな。

 お話って、作者ですら困惑するような爆弾放り込んだあと、どうやってこれを爆発させないまま処理するか、あるいは爆発させちゃうのか、っていうの全力の戦いみたいなのがあって、それが物語の緊張感を生む。ちょっと安定させるとすぐ守りに入ったオチや、よくわからない結末でぼやかしてしまって、読者としてもそれはけっこうひしひしと伝わるんですよね。

 その点ビタミンCは爆弾をうまくまとめてましたね。

 それが爆弾だったことに後で気付かされるパターン。感情は完全にコントロールされている。

 忘れな歌も、大きな爆弾が一つあればきっと化けてたと思う。

 この場合の完成度っていうのは、あえて言えば、「作者がコントロールできると思ってるくらいのまとまり感」でしかなくて、実は読者が許せるまとまり感って、まだまだ広いんだから、突拍子もないことや、腹の立つこと、汚いもので、あっと驚かして欲しいのはある。「弓と鉄砲」とか「黄昏の騎士」とか、ジャンルとしてはなかなかない所なので応援してるし、好きな人が絶対いるから紹介できるんですけど、やっぱそういう意味では爆弾がない。えっどうなるのこれ、みたいなのがない。

 うんやん、シンネン、DJマオウみたいに、尖ったワンアイデアでぶん殴るっていう作品は、今後も読みたいし評価していきたい。尖ったアイデアが出せるっていうのは、もうその時点で一歩抜きん出てると思うから。完成度を高めるっていうのはゆっくりやれば皆出来る。

 あとビガンゴ☆王も。

 彼は天才なんですけど才能を無駄遣いしかしないんですよ。

 さて、そろそろ銀賞一本の選定なんですが、わりと横並びなのでもうせーの!でそれぞれ言ってみる感じにしませんか?

 はーい!

 はい。

 じゃあいいですか? 決まりましたね? いきますよ……せーの!

 コナード魔法具店へようこそ!

 コナード魔法具店へようこそ!

 コナード魔法具店へようこそ!

 わ~!! 満場一致!!!!

 おめでとうございますー!

 おめでとうございますううううう

 というわけで、2016年最後の素人KUSO小説甲子園、第六回本物川小説大賞、大賞はたかたちひろさんの「明太子プロパガンダ」、金賞はボンゴレ☆ビガンゴさんの「世界が終わるその夜に」、銀賞はポージィさんの「うんやん」と、enjuさんの「コナード魔法具店へようこそ」に決まりました!!!!

 

 

 宣伝

 

 あと、せっかくなので最後にちょっと宣伝させてもらいたいんですけど。

 ほお。

 いまカクヨムで第二回webコンテストが開催中なんですが、枯れ木も廃村の賑わいといった感じでしてね……。

 ああ……。

 本物川女装創作団からも今のところ三人が出ているので、ちょっとその紹介をさせてください……。ずっと1位に居るんですけど、本当にPVが回らなくて……。

 まずは本物川女装創作団主席概念、大澤めぐみの「でも助走をつけて」1/2現在で恋愛部門の第一位にいます。いちおー第一部が完結済みで、続きは二月頃に更新の予定です。

 

kakuyomu.jp

 

 次に、ロッキン神経痛さんの限界集落オブ・ザ・デッド【長編】」。これも現在ホラー部門1位。すでに完結済みの旧作のリライト版になります。旧版はもう本当にめちゃくちゃ面白くて、これも当然、絶対に面白くなるはずなので応援していきましょう。

 

kakuyomu.jp

 よろしくお願いしまーす、星ください!

 あと、本物川女装創作団のジェイガン。ムキムキマッチョマンの既読先生の「ニャクザ ~RISING~」。こちらはやや層の厚い現代ファンタジー部門なので現在5位。既に二部まで完結済みの東京ニャクザ興亡禄の第三章になります。こちらも展開が早くて面白いのでオススメです。

 

kakuyomu.jp

 外部からお客さんを呼んでこないとランキングの1位に居ても一切恩恵ないから頼むよほんと。

 コンテストだしてないけど僕の小説も読んで! お願い!

 モッフル卿はまずコンスタントな更新をがんばっていこうね……。

 はい……(しおしお)

 

 はい! というわけで2016年を締めくくる素人KUSO創作甲子園、第六回本物川小説大賞、大賞はたかたさんの「明太子プロパガンダ」でした! それではみなさん、またいつか次の本物川小説大賞でお会いしましょう! 以上、闇の評議会議長、謎の概念でした!

 楽しかったです~、規定は守ろうな~!

 ルールを守って楽しくデュエル!

 おつかれさまでした~!

 おつかれさま~! 闇の評議会解散!! 撤収!!!!

 あと彼女! 彼女募集中です!!!!

 ……?

 ……?

 

 

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第六回 本物川小説大賞 概要

 貴様のケツに火をつける、またまた本物川小説大賞の時期がやってまいりました(思い付きで)。

 

 ガチランカー勢もウンコ投げ勢も商業作家もまったく小説なんか書いたことがない初めての人も、ルール無用で小説で殴り合う概念的全裸レスリング大会だよ。今回も前回同様テーマ自由の字数制限のみというシンプルルールでいきましょう。おのれガンキャリバー。

 

期間 なう~12月末日まで。

 

レギュレーション

カクヨムに投稿すること。

②「第六回本物川小説大賞」とタグ付けすること。表記ゆれに注意。

③2万文字以下の短編。以下です。カクヨムのカウントで2万字ちょっきりまでセーフ。こう言うと毎回マジで2万字ちょっきりで仕上げて来るマンが必ずいますが、君がいい感じに文字数を調整できるスキルがあるのはもう分かったから気にするな。実際のラインとしては10000~15000くらいを狙っていくと丁度気持ちいいのではないでしょうか。

 【重要】追記

⑤運営さまがぉこなので小説情報の編集画面から以下の「ユーザー企画用コンテスト」に応募して下さい。(既に投稿してしまっている人も修正してください)。なおこの操作によって通常ランキングには反映されなくなるのでそれが嫌な人はそもそも本物川小説大賞に参加しないように。

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副賞

大賞一本になんらかのイラストが授与されます。好きに使っていいので勝手に自力で出版してください。

 

参加賞

すべての参加作品に三名からなる闇の評議員の講評がつきます。闇の評議員には特になんらかの権威や実績があるわけではありませんが、とりあえず確実に三名は読みますので、各自励みにしたり参考にしたりしてください。

 

特別賞

その時々のノリでなんらかの特別賞が出たり出なかったりします。

 

 

はい、じゃあスタ~ト~!

 

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第五回本物川小説大賞 大賞は玻璃乃海(旧・中出幾三)さんの「カフカの翼」に決定!

 

 平成28年7月末頃から8月末日まで開催されました第五回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本、特別賞一本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

大賞 玻璃乃海(旧・中出幾三)「カフカの翼」 

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twitter.com

 

 受賞者のコメント

ドムドムドムドムドム!ドムドムドムドムドム!(勝利のドラミング)

 

 大賞を受賞した玻璃乃海(旧・中出幾三)さんには、副賞としてソーヤ+本物川によるイラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいんで自力で勝手に出版してください。

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金賞 既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」 

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銀賞 でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」

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銀賞 ゴム子「インダストリアル」

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特別賞 有智子賞 ラブテスター「午後王」

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 特別選考委員の有智子さんのコメント

午後王ちゃんかわいいよね。

 

 特別賞のラブテスターさんには副賞として有智子さんからイラストが贈呈されます。

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 というわけで、伝統と格式の真夏の素人黒歴史KUSO創作甲子園 第五回本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのは玻璃乃海(旧・中出幾三)さんの「カフカの翼」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログです。

 

 全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も無事に一周年を迎えまして、なんと今回で通算五回目となりました。意外と続いていますね。前回の第四回大会はいろいろとレギュレーションを設定した変則ルールでの開催となりましたが、今回は10,000字未満の短編縛りという以外には何もなしのバリトゥードルールでの開催となりました。やっぱりルール無用のデスファイトこそ本物川小説大賞という感じがしますね。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回はまたメンバーを入れ替えて、謎のパンダ🐼さんと謎の猿(?)さんにご協力頂いております。

 謎のパンダ🐼です。

 謎の猿(?)です。

 少なくとも猿ではないですよね? 本当に何なんでしょうか? 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めさせて頂きます。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 さて、それではひとまずエントリー作品を投稿された時系列順に紹介していきましょう。

 

こむらさき 「歳の差遠距離百合恋愛」

 胃壁がキュン。安定の一番槍、トップバッターはまたまたこむらさきです。

 「最初からコレかよ!」という感じでいきなり膝がグラつきますね。こういう「自分の肋骨から削り出した呪いの霊刀」みたいな作品は最初からフィクションとして書かれた作品とは全く違う妙味を醸し出しますのでそれだけで強いわけですが、評価基準もそれ用になってきますのでなかなか難しい。この手の作品はしばしば「個々の描写は重みがあるものの全体の構成としては今ひとつ形になっておらず、微妙にストーリーになってない」という事態に陥りますが、コレは序盤のフリがしっかりオチに来ており作品全体にピシッとした筋を通していて、基礎教養力、ポテンシャル的なものを感じます。『何故手を突っ込んだだけで見つかる指輪があの時見つからなかったのか』とか読者側で想像するとまた味わい深くなってきます。

 年の差、遠距離、百合。読む前と読み終えた後では、タイトルに含まれるこれらの単語に対する印象が変わってしまっていると思います。全部のダメな部分が組み合わさってすごいことになってますね。ミカさんの救いようのなさが魅力ですね。ミサキくんも相応にアレなのですが、ミサキくんを苦しめるミカさんのアレさのおかげで幾分かマイルドになっているので読む側としてはミカさんのアレさに集中できていい塩梅だったと思います。正直なところ何度も読みたい作品ではないです。噛めば噛むほど苦味しか出てこない、匠の技。フィクションであることが救いですね、ええ、救いのはずです。

 ノンフィクションをベースにしたほんのりフィクションのシリーズで、これが三作目かな? 同じ題材を扱い続けているだけに成長が如実に観察できて素晴らしいです。前二作に比べると飛躍的に上達しています。たぶんですけど、最後に指輪をゴミ箱に突っ込むところはフィクションだと思うのですが、このシーンがあるだけでかなり小説になっていて良いです。前二作に比べるとフォーカスがそこでギュッとくる感じがある。好きじゃない、嫌いじゃない、胃が痛い、これらの全てが無矛盾に同時に成立する人間の心理というのは普遍性があるものなので広く訴求力もあると思います。同じ題材のまま、もうひとつふたつ脱皮すると文学の領域にまで高まるのではないかなという期待もあるので、飽きずにこのシリーズも続けていってほしいですね。とはいえ、トルタ大会の鉢植え頭も非常に良かったので、まだ自分はこういう系統と縛る段階でもないと思います。好奇心を持ってモリモリやっていきましょう。

 

ヒロマル「盗読のレミュナレーション」

 前回のトルタ大会の覇者、ヒロマルです。

 「地盤がずっしりしている」というのはこういうことかと功夫の高さを伺わせます。お話自体は実に小市民的な、小規模なものですが「物語の起伏」というものはイベントそのものの大小ではなく、その事態に対する登場人物たちのリアクションの揺れ幅で決まるもの。「見知らぬ女性が破り捨てた手紙を盗み見る」という犯罪的ではあるが犯罪として立証するにはどうか、程度の小悪事に全身全霊を振り絞ってしまった彼は十分に「主人公」足り得ると言えるでしょう。まあキモいですけど(唐突な言葉のナイフ)客観的にはしょうもない一連の事態の中に、人が欲望を抱く一瞬やそれを実行に移す心の情動、予想外の事態が発生する現実の無慈悲さとストーリーに必要な要素がきっちり詰め込まれていて「物語」になっています。「ちうしっ」という擬音が脳内再生度が高くてよかったですね。

 僕も「ちうしっ」すき。

 キャッチコピーの「善人が罪を犯す」の通り、真面目、実直に過ごしてきた青年が、自らの好奇心がために少しだけ罪を犯すストーリー。講談調といいますか、非常にリズミカルに状況が進行します。状況描写というよりも状況の説明、パパンと扇子をたたく音が聞こえてきそうな、軽い調子。話の盛り上げ方、落とし方、締め方、どれも非常にシンプルで、過不足なく、ちょうどいい塩梅ですね。とんかつが食べたくなりました。

 善良な人間が罪を犯す、その瞬間の抗いがたい衝動にフォーカスした作品ですね。4000字未満という小規模ながら過不足のない感じで、ここまで綺麗にまとまっているのは素晴らしいです。導入もスムーズですんなり語り部に移入できるので、ああこの状況なら自分もやってしまうかもしれないなと感じられるヒヤッとするような質感があります。この時点で勝ちみたいなものなのですがオチも秀逸で、なにも言わないのに「その後、なんだかトンカツを食べた」の前の空行になんとも言えない色々なものが込められていて、ここは語らずに読者に「あ~あるある、そういうの」ってそれぞれに思わせるのが正解っぽい。こう……なんかありますよね。トンカツでも食うか、みたいなの。

 

大村あたる「火照る身体とカレーと二人」

 大村あたるさんは第二回の大賞受賞者ですね。勝手に自力で出版してくださいってイラストを投げつけたら本当に勝手に自力で出版してくださったようでなによりです(?)

 夏の盛りに開催された小説コンペに! 夏の夕暮れ時の舞台設定で! マンションの一室に! 男二人で! カレー! ホモ! 暑い! 暑苦しい!! その暑苦しさが夏って感じですよね(トーンダウン)あくまで「夏の夕暮れにルームシェアしている男二人が部屋でカレー食ってる」というワンシーンを切り取ったものなので、ストーリー性は特にありません。この場合は無くて良いのでしょう。この二人がここに至るまで、まあ色々あったのでしょうが、その部分は作品内でほぼ語られていません。そこはおそらく想像の余地というやつなんでしょうね。作品の中に示されるのでなく、読んだ人間の中に何かが立ち上ってくるタイプのアレです。そういう「匂わせる」作品には夏という舞台は丁度良いのかもしれない。なんか鼻の中が塩っぱくなってきました。梅干しか。
「紆余曲折あって男二人で住んでる」というホモソーシャルな状況が、関係性が示されることによってホモに切り替わるその瞬間は、その手の嗜好の人達にとって大変よろしいのでないでしょうか。

 ホモですね。ホモです。いいホモです。いいホモでした。ある夏の日に、同居する二人がカレーを食べる。本当にただそれだけの話なんですが二人の関係性がいいですね。さらっとだけ触れられてる二人の過去もいい具合にスパイスとなっています。いいホモです。なんかこう、ねちっこいセックスしそうですねこの二人は。いいホモすぎて特にいうことがないんですよね。

 ほんのりホモ。でもねちねちした感じがなくてサッパリしててとても爽やかです。ホモで停電ってこっちとしては雑念邪念しか浮かばないシチェーションなんですが、登場人物ふたりのほうはそんなこと一切気にしてない感じでただただアツアツのカレーを食うばかりで自分の魂のケガレに顔が火照ります。大村(あ)さんはぶっちゃけると第二回大賞の作品以降は重めの叙述とちょっと変にツイストした作品が多くて僕はあまり好みに合わなかったのですが、軽妙な語り口じたいに魅力のある人なのでこういうプロットだけ抜き出すとなんでもないようなストレートな物語でこそ魅力が光るのかなぁ、みたいな思いがなくもないです。捻らないストレートな恋愛ものでビーズログ文庫の大賞に攻め込みましょう?

 

左安倍虎「魂までは癒せない」

 易水非歌の左安倍虎さん。これは現代ドラマの一位にわりと居座りましたね。

 如何にもショートショートという感じの、5分位のミニドラマで見たいような作品です。こう感じられるのは作品全体のデザインが文字数に応じて適切になされている証拠なわけで、「丁度良いリーチ」というやつですね。帯に短し襷に良し。作品の構成そのものが中心で2つに折れるようになっており、さながら鏡合わせの構図です。構造フェチの自分としては中々堪りません。アニマルセラピーというものがあって、動物と触れ合うことで癒やされるという精神医療ですが、ここには権力勾配的な力関係が存在し、要するに「自分が安心できる相手と一緒にいる」ということ自体が癒やしにとって重要な要因な訳ですが、「精神科医」という存在になりきることはある意味で相手の上位に立ち己を安心させることに繋がるのかもしれません。まあ精神科医が患者の相手をするうちにストレスを貯めこんでいって自分も病んでしまうというのもよくある話なんですけど。作品の印象として惜しい所を上げると、彼女、既に若干正気な気がするんですよね。その辺の描写にもう少しだけリアリティがあるとバシッ!と決まったと思います。

 林先生案件。ちょっとずれた現実に暮らしている方のカウンセリングを受ける精神科医、という構図。ずれた現実サイドから視点が始まり、ずれの幅が大きくなり始めた頃にここでネタばらし。ずれた方がいかにしてずれてしまったかの背景が語られ、どうして今ここでこのような話をしているのかが読者に明かされます。ネタが明かされた後に読み直すと、随所にほのかな手掛かりが残されていることに気づき、作者の仕事の丁寧さがうかがえました。

 そうそう、いわゆる伏線ですが、意外な結末に落とし込むためには最初から罠を張らないといけないんですよね。これも4000字未満という短編というより掌編ぐらいの規模なのですが、バッチリ綺麗に落としてきています。虎さんはどう足掻いても堅めの文体って感じなんですが、今回は語り部の設定と堅めの文体が自然に合致していて丁度良い塩梅ですね。途中からある程度の予測を立てながら読むのですが、それがまんまとミスリーディングにハメられていて多段どんでん返しにもう一発やられる感じの上手い構成です。テーマ性もはっきりしていますし読者に考えさせるような感じで、ただ面白いで終らない深みもあって文句なしの良作。どうしても「意外な結末!」をやりたい人は参考にして下さい。

 

今村広樹「立ち寄ったカレー専門店で私は激辛カレーを食べた」

 そのままですね。立ち寄ったカレー専門店で激辛カレーを食べます。ほかは特にない感じ。前回までのように詩的な感じでもないのですけど、わざわざ同じ世界観だという注記もあり、ちょっと意図が分からないのでもうちょっと分量なり展開なりがあったほうがいいかな? と思います。

 えー…あー…ちょっと困りましたねコレ。内容が「激辛カレー頼んで期待通りの辛さだった」というだけなので、もうちょっとこう。いやそれ自体はアリですけど肝心の食事の描写が「期待通りの辛さだった!完食!」だけで終わられてはどうしたらいいのかと。これではグルメリポートとしても不十分です。昨今、料理漫画が何度目かのブームを起こしていますが、料理の描写において重要なのは、食べた人間のリアクションです。「カレーを食った」という事象を中心に書くならばそこを怠ってはいけない。元ネタ的に考えても。そこで舞わずにどうするかという話です。

 短いのでもう少し書いてください。

 

起爆装置「死んだ死んだマザーソウル」

 闇の評議会の寵愛を一身に受けております。本物川創作勢の問題児、起爆装置くんです。

 タイトル、キャッチコピー、書き出し全てが強い。最近の創作指南では「初っ端にパンチを入れろ」と教えるそうですが、バッチリ決まってますね。いきなりの異常事態、そしてそれに全く動じない主人公から始まり、そこから日常をベースに異常な世界観がどんどん打ち出されていく。この世界のインターネット、この事件に対してどんなことになってるんでしょう(ネット中毒者特有の病状)「殺されても何度でも生き返る存在」という設定自体は珍しく無いですが、それで蘇ってくるのが母であり、死のうが蘇ろうが何一つ変わらないまま日常を過ごそうとするという展開は「思いついた時点で勝っている」系のそれです。正常と異常のマーブルカラー、混ざり合うこと無くフラットに正常と異常が並列するその世界観は起爆装置くんの本領発揮といった次第。一話目の最後が揺蕩うようなオチで非常に薄気味悪く素晴らしいのですが、その下に表示されている第二話のタイトルで台無しになってる辺りタチが悪い。なんのかんの言いながらも書く度に前書いたものを踏み台にしながら着実にクオリティが上がっているので本当に先が楽しみな人です。

 タイトルの元ネタはリンダリンダラバーソウルです。二話三話は正直蛇足だと思います。

 勢いのある文体と、どうやったらそんな発想が降りてくるんだっていうような悪趣味な設定の併せ技で謎のドライブ感があります。なにかとブン投げがちな起爆くんですが今回はオチもわりあい綺麗につけている感じでその努力は認めてあげたい、のでーすーがー、さすがに駆け足すぎて描写がおろそかな感じは否めません。実は僕、これ語り部が女性であることに一話では気付かなかったんですよ。この手の一人称記述で読者を意識したような説明てきな文が入ると萎えるのも分かるのですが、かといって説明がないと混乱しますので、いかに自然と情報を提示するかというテクニックは必要かなと思います。文字数制限の問題もありますが、最終話に関してはなんとか思いついたオチに辿り着くために無呼吸で駆け抜けたみたいな速度域ですね。ドライブ感と丁寧さは両立できると思いますので意識してみて下さい。

 

中出幾三「とんがり頭のオッサン」

 PNが本当に終わっているのでいい加減どうにかして下さい。ケモノの王のうさぎさんです。

 タイトルから内容が全く想像できない。タイトルで作品のどの部分にフォーカスを当てるのかって性格でそうな気がしますね。そこから想定外の良い意味でも悪い意味でもすごい微妙な顔になる、オマージュと悪意と皮肉にまみれたウィットが怒涛の勢いで展開され、結構悲惨な事態なのにどこか悲壮感のないユーモラスなノリのまま、「そんなわけで樹海にやってきたのだ」みたいな軽さで物語は終焉の舞台に辿り着く。そこでもやはり悲喜劇めいた軽さで話が進み、そのまま終わるのかと思えば、最後に突然「楔」を投げ渡され、その一瞬で作品の構造がバチッと固まる離れ業。見事としか言いようが無い。ケモノの王もそうでしたが物凄いアクロバットセンスですね。

 よくできた話です。話の運びのうまさからか、落語を聞いた後のような、騙される良さのようなものがありました。タイトルになっているとんがり頭のおっさんのキャラクターがいいですね。あなたも、これですか、とジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとするかわいらしさがよいです。もう本当に、特にいうことがないです。気になるのは元嫁の宝くじの当選金額ですかね。五千万じゃそんなに、みたいな。本当にどうでもいい感想。

 どうしてもバトルもののイメージがありますが、前回のトルタ大会に引き続き短編だとまったく違う印象の作風ですね。「完璧な遺言書」というアイテムをキーにして、自殺志願者たちの奇妙なコミュニケーションが連鎖するという趣向。少し余韻と謎を残すオチのつけどころはバッチリですし、一万字未満というレギュレーションに対してキッチリ9999文字で上げてくる煽り魂も良いと思います。ただ、削って削って9999文字に仕上げたのではなく膨らまして9999文字に仕上げたのかなという感じがあって、これに関してはその拘りは捨ててもう少しダイエットしてもいいのかなと思えるようなシーンも少しありました。

 

姫百合しふぉん「天使」

 ブレない安定の美少年耽美小説一本勝負のしふぉんくんです。

 狂いながら整列する数奇な言語と音韻の羅列。卑俗な内容。しかし裏腹に語る言葉と心は歪に美しい、それは呪われた聖歌。

 (え……なにその突然のポエムは)←引き気味

 これも物凄いことをサラッとやってますね。何かの実験で「ひらがなだけの文章で微妙に文字列を入れ替えても脳が補正して読めてしまう」というのがありましたけど
それに近い感覚です。真っ当に「上手い文章」を目指すだけでは辿り着かない地点。これで何の違和感もなく流れるように読める文章が組めるのは言語、音感、語感の調律を感覚レベルで掴んでいるということです。これをそういうセンスが無い人間がやるとただ見苦しくなるだけでしょう。 シチュエーションだけでストーリー性がほぼありませんが、ここにストーリー性を持ち込むと一気に破綻する事は必定であり、その辺りまで見切られたギリギリにして絶妙の味付け。しかし、「何故このように文の接続が狂っている一人称なのか」という必然性は暗示されており、しふぉんさんらしい美学を感じます。

 本人が説明文に、不快になる方が多いテーマと書かれている通り、2000字とは思えないほどに濃く、良くも悪くもあくの強い短編です。文法、というか文章そのものが意図的に崩されているのですが、文体がそのまま内容に直結している、崩れた文章の底に眠っているものの姿を読む側に喚起させる、読む人を選ぶ趣向が凝らしてあります。しふぉんさんは過去にもいくつか似たような雰囲気の作品を書かれていますが、私が読んだ限りでは、読んだ後の後味の悪さはこれが最も強いのではないかと。タイトルにもあまり触れたくはないですね。

 僕が講評ですが真似して始めるので悪いのでだめです。今回は悪く言えば一発ネタですね。意図的な混乱した地の文で語り部の性質や状況を語らず類推させるという趣向。面白味はあるし好きなのは好きなんですけれども、やはり小説大賞での評価ということになるとこれ一本ではちょっとつらいかな。

 

マロン「僕はかわいい女の子になりたいって思っていたんだ」

 島風くん!(断定)

 「ノリで女装してみたら思ったより可愛くてハマって調子乗ってたら男友達に迫られてそのまま」というのが所謂「男の娘」モノにおける一つのテンプレですがそのまま本当に女の子になってしまうのはある意味で究極の理想と言えるでしょう。しかし別の意味では背信行為ですね(面倒くさいオタク)そういう性転換モノも既存のジャンル(TSF)であり、その場合は「女の子になってしまった自分と今までの世界とのギャップ」がポイントになってくるわけですがこれの場合、世界線と過去ごと書き換えられていて自己認識すら塗り潰されてしまった結果、違和感を感じるのが誰もいなくなったという点で最後に急にホラーになったような。折角の夏の小説コンペだし、僕の中でこれは怪談であると解釈することにしました。こわい。

 世のおのこのすなる女装コスなるものをわれもしてみんとてするなり。注文した衣装についていたペンダントが原因で性転換、自分の歴史ごと書き換えられてしまいますが、それでもいいかなって生活を始めるところで話が終わります。性転換ものでよくある面倒ごと(周囲の反応、対応、事務処理等)を設定で無力化しているので問題なく性転換できますしこのまま滞りなく恋が実っていくものと思われます。その設定のおかげで一応一万字に収まる形になっていますが、その設定のせいで話の起伏となるイベントを消してしまっているので性転換ものとしてのうまみがかなり薄まってしまっています(個人的に)

 出だしで「井上翔太は」と三人称記述っぽく始まっているのに、そこからすぐに「そう、僕たちは」と一人称の地の文になるので混乱しました。「いつの間にか自然に女の子になっていて謎に辻褄も合されていて最初からそうであったかのようになっている」という仕掛けだと思うのですが、それをすんなり機能させようとすると、そういった「あれ? なにがどうなったんだ?」という細かい混乱がわりと大きな障害になるようです。意図的に混乱させるつもりなら意図しない混乱の種はつぶしておいたほうが良いでしょう。もう少し推敲したほうが良いかもしれません。

 

久留米まひろ「光の剣」

 なんでしょう。ちょっと文字数と物語の規模が合致してない感じでよく分からないままに話が進んで最初から最後までポカーンみたいな感じですね。

 裏稼業で実力者だった主人公が、世界に異能力の概念が出現したことによってコンプレックスを抱えるようになるお話。職場にパソコンが導入されて急に仕事が出来なくなったおっさんみたいだぁ…(直喩) 感想として、これはギャグなのかシリアスなのか図りかねる所がありました。キャッチコピーに「ナンセンス現代アクション」とあるので恐らくギャグ寄りなのだと判断しますが、ちょっとバットの振りが弱いと思います。アーツという「個人によって様々な形で発現する異能力」はベタですがそれだけに使い道の多い要素ですので、その部分をもっと拡げられると良かったのではないでしょうか。

 三つほど言いたいことがあります。

 まず一つ目、展開を詰め込み過ぎです。今回の大賞は一万字以内の作品です。見事にオーバーしていますね。文字数がオーバーしてしまったことよりも、この内容を一万字で収めようとしたことが問題です。一万字は字面から受ける印象よりもずっと短いもので、ちょっと欲張るとオーバーしてしまう、そんな長さです。では光の剣はどうかというと、ちょっとどころではないです。欲張りすぎです。能力がない主人公の苦悩の日々、そんな日々から抜け出せるかもしれないという光明、同僚とのラブロマンス、手に入れた能力を失うことへの悲しみ。適当にいくつか抜き出してみましたが、この内容を一万字に収めようとすると、今回のようにすべてのイベントを駆け抜けていくことになります。駆け抜けるスピードが速すぎてすべてのイベントに対して何にも感じません。嘘です。うすら寒いものしか感じません。
 二つ目に、キャラクターが死んでいます。もう本当に誰もかれも死んでいます。生き生きしてるのは主人公くらいで、あとはイベントのフラグを回収するための人形と化しています。主人公は楽しそうに人形たちの中で遊んでいる道化です。とても幸せそうですね。みんな目が死んでいます。死ぬよこれは。みんな死ぬ。少なくとも私の心は死んだ。前述の、ダメなハイスピードイベントクリアと相まって、最悪ですね。口の中に次々と泥を放り込まれている感覚。のど越しが最悪。
 三つ目、メグ姉じゃねぇよ。いやもう、大澤の時点でアレですが、めぐみですか。そうですか。主人公は弟で姉は大澤めぐみですか、そうですか。そうですかしか言えませんよこんなの。なんだこれは。どうして出した。出したかったのか、そうか。

 ……はい。一万字というと本当に一発フックを仕込んだら終わってしまうぐらいの文字数なので前提となる設定などはあまり複雑にしないほうが良いでしょう。もうちょっと最初に想定する規模を縮小して一点にフォーカスしていったほうが良いと思います。あと文字数オーバーなのでゼロ点です(無慈悲)

 

蒼井奏羅「Q」

 安定して退廃的でゴシックな雰囲気のある作者さんです。

 じりじりと、本当に少しずつゆっくり進んでいく話で、真綿で首を絞められるような感覚に襲われる作品です。これもまた別の意味でレビューの難しい作品ですね。どこまで話していいものか悩みます。結末に関しては「そっちに振ったか」という感じで、ここは賛否両論別れるところだと思いますが、賛否が別れる時点で仕掛けとして成功しているといえるでしょう。もう一つ賛否が別れるであろう点として、タイトルとコピー。これはつまり「謎がありますよ」と最初に提示しているわけですが、個人的には敢えて言わずに進めていったほうがパワーが出た気もします。

 ある病気のせいで隔離され育てられた少年と彼を育てる何者かの話。BL要素はそれほど過激ではなかったですが、きちんと注意書きをされていらっしゃるのは良いことだと思います。この程度でも拒絶反応を示される方もいらっしゃいますからね。話運び、少年の悩み、独白から、話の結末が垣間見えるタイプの話です。

 なんかこう、黒背景に白抜き文字で読みたい感じでカクヨムのやたらめったら明るいUIとはちょっと雰囲気が合致しない感じがありますね、これは止むをえませんけど。仮に物理本にするとしたら紙質などに拘ってほしいタイプの文章です。カテゴリーとしてはミステリーになっていますがホラーのほうが近いかなと思いました。おまけに関してはおまけなので本編ではないのでしょうが、謎めいた陰鬱とした雰囲気が魅力なので謎は謎のまま放置しちゃって、なくても良かったかなという感じがしないでもないです。

 

seal「俺はどうやら拉致監禁されたみたいです」

 クトゥルフ系列のsealさん、今回は非クトゥルフです(よね?)。これも長らくミステリージャンルの一位に居ましたね。

 ミステリといえばソリッドシチュエーション、ソリッドシチュエーションといえばミステリ。絶海の孤島。人の訪れない洋館。ミステリという文脈にとって欠かせない黄金パターンですが、黄金パターン故に束縛も多く、斬新な要素を盛り込みにくいのが悩みの種。しかし、そこにSFという要素を加えることで劇的に可能性が広がるわけですね。一部の純ミステリファンにとっては「それが嫌なんだよ!」みたいな顔をされる話かもしれませんし、「SFを混ぜた時点でミステリじゃない」なんて声も聞こえてきそうですが、別にどうでもいいですねそんなことは。面白くなるならバンバンやっていくべきでしょう。可能性が広がった分、逆に収束させていくためのロジック構築が困難になるのがこのジャンル合成の難しい所ですが、7000字のそれも前半部分に必要な情報はちゃんと置いてあるのでこの辺りに経験を感じます。

 そうか、なるほど、なるほど、なるほど。ミステリーかな、ミステリーなのかな、SFじゃないかな、SFだと思う。そんな少し不思議な話。種明かしそのものよりもそのあとの時間を味わうのがこの作品の楽しみ方だと思います。本当につかの間の、朝露のしずくのような一時。幼子の趣味はありませんがかわいらしいキャラですね。

 のっけから監禁されています。そこから脱出するために謎を解くという趣向ですが、解決編がわりと中盤にあってそこからのエピローグこそ本編という感じでミステリーとしてはバランスてきにもうちょっと推理パートが充実していても良いのかなと思いました。正解までに紆余曲折や障壁がなくストレートに一発正解しているのでそこで手に汗握る感じがなくカッチョイイ。ここからなにかが始まるんだと期待させるような余韻を残す引きは個人的に大好物なので実に良いです。

 

豆崎豆太「死神様のお気に入り」

 (たぶん)ヒロマルさんのほうから来ました、ご新規さんです。

 「鬱屈した日常に突如舞い降りる異邦人」というパターンの始祖ってドラえもんなんでしょうか。もう少し遡れそうな気もしますが。

 1.どういう人間の所に 

 2.どういう異邦人がやってきて 

 3.どういう変化をもたらすのか 

 という3要素の組み合わせによって様々な形に変化するのが妙味のこのジャンルですが、この作品は「死にたがりの所に死神がやってきて現状維持を願う」という、見事に何も起きない組み合わせです。そして、そこがこの作品に込められた優しさでもあります。「変化をもたらす異邦人」というのは見方を変えれば理不尽な破壊者なわけで、本人の意志すら無視して強引に環境を書き換えるものですが、この作品の死神は何をするわけでもなく彼は死神であるにも関わらず「そのままでいてくれ」という言葉とともに、ただ側に居て認めてくれます。その在り方に救われる人も恐らく少なくないのではないでしょうか。凄く心休まる、独特の読後感でした。

 やさしい味のファンタジー作品。死にたいが口癖の女性のもとに、ある日死神がやってきて。内容としては、この女性のひたすらな自己嫌悪と卑下の連続なのですが、死神のフォロー(物理込み)もあってか、ほのかに明るく話が進行します。死にたいと口にしたことのある人に一度読んでいただきたい。読んだ後になんだか救われた気持ちになる、優しいお話です。まあ、救われた気がしても、何かが解決したわけではないんですけどね。そのあたり、物語力を感じますね。

 これ好き。キャラが良いですよね、コミカルで。ほぼ死神のキャラだけでストーリーを牽引していく感じですが、それだけの馬力がある立ちまくったキャラ造形で実に良いです。どうにも憎めない良いキャラをしていて人情系?っぽい感じなのですが、でもやっぱり死神だから人間と美的感覚などがズレているなどの死神っぽさもあって一筋縄ではいきません。序盤はあまり魅力的にも見えなかった語り部が、そんな死神の指摘で一転、なんだか応援してあげたくなるような人物像にフリップするところも仕掛けがきっちりキマっている感じで気持ち良いです。

 

大澤めぐみ「アッコとリサのお悩み相談室」

 あなたのお悩み募集中よ。

 オカマ。もうこの三文字で強いのずるいですよね。ゴリラと同じタイプの概念ですよ。ただそこにいるだけで面白いし喋り始めたらもっと面白いし、それが二人で掛け合い始めてもう一人のオカマの相談に乗るとかパワー何倍だって話です。ウォーズマンのベアークローです。あの計算式、ウォーズマン本体とベアークロー1本が等価なんですけどウォーズマン的にそれはいいんでしょうか。何の話でしたっけ。オカマの話ですね。本当にただオカマが話してるだけです。リアリティあるのか無いのかもよく分からないけど説得力はあるオカマトークでグイグイ引きこまれていきます。半分くらい「何言ってんだこいつ」みたいなムチャクチャな論法が展開されていますが「それがオカマなのよ」って最後に付けられると納得してしまいます。何気にタイトルにCase1とついており、作者は読者の投稿を募る形でシリーズ化させる気満々だったようですが現状続きはありません。読者の投稿がないので。世の中ままなりませんね。それでも強く逞しく、しかし可憐さも忘れずに、野に咲くタンポポのように生きていく、それがオカマなのよ。

 (え……なにその唐突なポエムは)←引き気味

 どこか懐かしさを感じるノリの作品。全編、セリフと注釈?によって構成されており
3人のオカマがカメラに向かって、相談室という名目で即興のコントを繰り広げていく。非常に読みやすく、空いた時間にサクッと読み終えることができ、題材のキャッチーさも相まって普段小説を読まない人にも進めやすい作品ではないかなと思います。私はあんまり楽しみ方がわかりませんでした。オカマ、苦手なんですよね。

 そう?

 面白かったです。

 そう。

 

蒼井奏羅「星に願いを」

 今大賞、二作品目の投稿ですね。

 「星に願いを」というタイトルと「ただ幸せになりたかっただけなのよ」というコピーの組み合わせで既に先が暗示されているこの作品。先ほどの「Q」と同じパターンですね。ジャンルとしては童話小説でしょうか。童話というのは訓話としての側面を持ち、その内容を通して読み手に何かを教えようとするもので、その要件はきっちり満たされていますがちょっと構成としてシンプル過ぎた気もしますね。もう少しアンとのやり取りの描写があっても良かったのではないでしょうか。結末に至るまでもう2つ3つエピソードが欲しかったところです。恐らく作者が書きたいのであろうテーマは書けていると思いますのであとは内容にウェイトを足していくだけでどんどん良くなっていくと思われます。

 幸せになりたかっただけの少女の物語。自分にだけ姿の見える友達が、みっつだけ願いを叶えてあげようと提案をして。計算された陰鬱さというか、一つ目の願いの顛末を読んだだけで読む手が少し止まりました。いやな予感しかしない。読み進めるとその嫌な予感は的中し、最後の願いがかなった後はもう。狙った後味の悪さがよく効いた作品ですね。

 変則的な猿の手ですね。お願いが出て来るたびに、それに対してどういう結果が出るのかをある程度予測しながら読むのですが、大オチに関してはこのオチはまだ見たことなかった気がするので、まだやりようはあるのだなという感じ。本家だとワンナウトダブルプレーって感じですが、これはハッピーエンドですね(主観的には)

 

既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」

 現代アクションでうさぎとしのぎを削っていた猫、ニャクザの既読さんです。

 もうザックリ言ってしまいますとカフカの「変身」現代版リメイクですね。それだけ言うと「あー、はい」みたいな感じになって、誰もが一回は思いつくことかもしれないですが実際にこのレベルでやられると何も言えねえなという。作者の博学、軽妙かつ適度に濃密な文体、パンチ力のある発想が一万字という枠内に綺麗に収まっており、その辺に関してはツッコミようがない。「展開として都合が良すぎるんじゃないか。実際に2m近い人語を喋るヤスデが出て来たらもっと…」と思われる方もいるかもしれませんが元ネタの「変身」からして「突如社会に巨大な虫が何食わぬ顔で現れたらどうなるか」という事態をシミュレートしたSF小説ではないので。「毒虫」が社会に所属しながら孤立した人間の隠喩という解釈は結構有名で、じゃあアレは社会風刺なのかというと当のカフカはギャグのつもりで書いてたらしく、要するにブラックジョークの類であり、「ヤスデ人間」においてもその辺りはしっかり織り込まれていますのでこれで良い訳です。むしろ原作より救いのあるオチになっている辺りに作者の優しさとか現代社会のなにがしかに対してのメッセージが読み取れるかもしれません。大変面白かったです。ヤスデって青酸分泌するのか……。

 淡々とそれでいてユーモラスにつづられるヤスデ人間の日々。人からヤスデになってしまった。その突然の変化によって起こる避けられない衝突の数々をこの世界はすべて優しく受け止めてくれる。登場する人物は、誰も彼もが聖人であるなんてことはなくて、どこにでも居そうな普通の人で、それでも得難い優しさをもってヤスデ人間に接してくれる。もしも自分がこの設定で書いたならば、カフカの変身のように後味の悪い終わり方にしたでしょう。原作にある、悪意ある道筋をなぞることなく、ヤスデ人間になってしまった現実をソフトに受け止めて話が終わる、とても素敵なお話です。(あとで検索してみましたけど、やすでって気持ち悪いですね。いやこれは、世界が優しすぎる。絶対殺す。絶対に殺す。家族が毒を盛る。家族がやらなくても商店街の誰かが殺す。小学生が石を投げる。死んだことに安堵する。万歳三唱する。そういう何かだと思う。)

 変身と同じ導入からここまで希望の感じられる結末を導出できることに驚きます。毒虫に変身してしまうというのは飽くまで突然の不条理な不可避の不幸のメタファーで、抽象化すればそういった出来事は誰の人生にも起こりうるものなのですが、人間というのはそんなたったひとつの不条理な出来事ていどのことでめげるようなものではない、というようなあっけらかんとした強さが見てとれて、しかもそれがあまりエモーショナルでない淡々とした文体で綴られていて押しつけがましいところがなく、かえって素直にメッセージ性を受け取れる感じ。この作者にしては珍しく素直に気持ちが前に出てきたなという感じもあって非常に良いですね。

 

不死身バンシィ「マルマーの呟き」

 コメディタッチの作風に抜群の力を見せる作者です。ミス・セブンブリッジの続き、楽しみに待っています。

 ……パンダの主食は笹と思われがちですが実は竹なんですよ。

 そうですか。

 好きですよこういうの。動物目線から見える人間の姿。SF設定でのひねりもちょうどいい塩梅に聞いていると思います。よく見られる野良猫たちの集会、行動に、うまい具合に意味づけされていて、読んだ後、猫を見るのがちょっと楽しくなる、そういう作品だと思います。最後のやるせなさというか、あーあって感じがいい。うわぁ、マジかよ人類って感じ。こたつ空間はいいですね。個人的にはサメがどういう形で集ってるのかが気になります。

 いちおーSFなので設定のほうもなかなか面白味があって素敵なのですが、設定を地の文の説明のみによって見せていくのはもうちょっと工夫があったらよかったかもしれませんね。そんなことよりもコタツスフィアなどのストーリーには直接関係のない細かいしょーもない描写でクスッとした笑いを稼がされてしまって、メインのストーリーよりもそっちが本体みたいな感じ。文字数てきにもまだ余裕もありますし、もっとそういったクスッとくるポイントをモリモリに盛っていくとさらに魅力的になるのかなぁと思いました。投げやりなオチも猫だから許される感じで悪くないです。

 

枯堂「Carnival」

 カーニバルダヨ! 幻想都市百景でようやくリズムを掴んだと思ったのですがエターナっていますね。大丈夫でしょうか。

 これはまた、ちょっと戸惑う変化球が飛んできたなという感じです。誰かが誰かをお祭りに誘おうとしている。人物や情景の描写は一切無し。ただ、誰かがはしゃぎながら一所懸命「お祭り」のプレゼンをしている。人はある程度歳を取ってしまうと中々お祭りに行こうとか思わなくなるものですが、彼はお祭りに興奮しきっています。じゃあこれは小学生くらいの子供なのか。いや久々に地元のお祭りに興奮してしまった初老の男性が妻を誘おうとしているのかもしれない。恐らく読む人によって幻灯機のように映し出されるイメージが変わる作品です。「童心」をエッセンスとして抽出してそれを幻に変えたような、不思議な作品でした。

 もうすぐ町に祭りがやってくる。その直前の熱気、はやる気持ち、ささやかな恋心。少年のこころと時代をそのままパッケージしたようなさわやかな作品。非常に短い作品なのですが、その短さの中に、祭りの前の楽しさがぎゅっと詰まっています。(短いですね。さらっと読めるだけに、すこしだけ物足りないというか、熱っぽく話してるところに爺さんばあさんからちゃちゃが入って話が中断される、みたいな変化があってもよかったかも。フレイバー程度ですけどね。)

 わりと仕掛けを仕込んでくる作者なのでこれもなにか仕掛けがあるのかと警戒しながら読んでいたのですが、そういうこともないみたいです。普通に長い詩みたいな感じの受け止めかたでいいのかな? たんに僕が分かっていないだけの可能性もあります。根本的な文章力はすでにある作者なので、こういうなんでもないような文でもそれなりに楽しく読めるのですが、やはり小説大賞なのでもうちょっと小説っぽく仕上げてほしさもありますし、元来の作風から言ってもただスランプでなにかお茶を濁したのかなぁみたいな気がしないでもない。わりと悩みやすい性質みたいですけど、ロッキンみたいな口から出まかせでっち上げ進捗スキルみたいなのも時には重要ですよ。

 

有智子「ブラザーサン・シスタームーン」

 トルタ大会で出してきたメディエーターの続編ですね。

 何らかの壮大な物語、の序章であろうお話。人物、関係性、特性、背景、今後の展望などが会話文とともにつらつらと連ねられるわけですがただそれだけでちょっと「雰囲気」が漂い始めており、なんとなく脳内にぼんやりとした絵と空気感まで想起されるのは結構凄いことです。作者が作品の世界観に対して、明確なイメージとこだわりを持っている証拠ですね。独特の清潔感と匂い立つような艶を感じます。もう人物全員美形しか浮かんでこない。エルフみたいなの。歩くだけでその後に香りの道ができるような。ただ、本当に序章で終わってしまっているので、続きが気になるところですね。

 続き物の一断片ですかね。長髪イケメンが何故メディエータ、エージェントになったのかについて位のエピソード。続きが非常に気になります。このエピソードだけでこの作品についての判断はしたくないですね(続きを読みたい) そう、本当に続きが読みたいので、できれば書いてください。全部。一エピソードで魅せることには成功していると思います。ですがこれだけを出されても、お預けを食らってるみたいでもどかしいです。

 ひとつの話として成立してはおらず、まだ導入部という感じですね。飽くまでワンシーンといったところ。文体になんとも言えない柔らかな魅力がありますし、わりとこういったシーンの断片は無限に思いつくようなので、それらをちゃんと書き留めておいて一つながりの大きなストーリーにまとめあげるという作業に一度本気で取り組んでみてはどうかなぁと思います。きっと面白いものが書けるはず。なによりちゃんと小説を完結させるというのは気持ちの良いものですよ☆

 

焼きりんご「少女」

 うーん、つらつらと書いているという印象で、どこにフォーカスして読めば良いのか悩む感じ。

 十七歳。恐らく人間の精神が最も揺れ動く時期。この辺の年齢って「己は己である」という自我だけは確立されつつあるものの、それを支える根拠は何一つない時期なんですよね。スポーツか何かで実績を上げているとそれを拠り所にするんでしょうけどそういう子は一般的ではないわけで。殆どの子は足があるのに浮いているような、自分でもどうしていいのか分からない状態でフワフワ浮きながらバタバタ藻掻いているわけです。そういう「思春期」はモチーフとしてもよく用いられますが、この作品では17歳の少女が感じる自己と社会との齟齬、周囲に対する苛立ち、嫌悪を描写することで間接的に少女のザワザワした未熟さを浮かび上がらせています。最後ではなにか吹っ切れたような行動を見せていますが、一体どちらの方向に吹っ切れたのか。曇り空のような不安を残したまま終わり、最後まで落ち着きません。この不安定さが「少女」というものなのでしょう。

 今もどこかにありそうな、苦くて痛い青春の一ページ。ここじゃないどこかへ行きたい。自分はもっと上に行ける。今はただ、レベルの低い友達に、付き合ってやってるだけ。家に帰っても面白くないし、お父さんは嫌いで、おばあちゃんはうっとうしくて。でも、あの子は違う、違う気がする。きっとそうだ。違うんだ。根拠のない直観と、どこまでも傲慢で妙に楽観的な自意識と、青春のあの頃にあったはずの向こう見ずさ。痛くて苦くて甘くて淡い、そんな作品。会話文が全部地続きなのはちょっと‌読みづらいので、できればそこ、鍵かっこ使ってくれると嬉しいです。

 なんでもない瞬間にふと死のうと思う、みたいな部分を書きたいのであろうから(たぶん)なんでもない日常をつらつらと書くのもそのためには必須であって、単純に一見意味のなさそうなシーンを削ればいいというものでもないのが難しいところ。ラストのなんか知らないけど「明日はAに話しかけてみよう」という気持ちになるという落としどころは良いと思うので、なにげないシーンもそういった「これを描きたい」というあるポイントに向けて収束させていくためのシーンなんだという意識を持つともうちょっと輪郭がシャープになるかも。

 

ロッキン神経痛「ケモノの楽園」

 最初に読んだ時は地下に潜った人類と地上で野生化した獣人との交流みたいな話だったはずなのに、講評書くために読み直したら加筆とか修正ってレベルじゃないまったくの別の話になっていました。闇の評議会を狙った卑劣な攻撃でしょうか? 許されません。

 前説明にもありますが、これは今回の本物川大賞参加者の一人でもある中出幾三さん(本当にキーボードで打って変換するの嫌だなこの名前)のカクヨム投稿作品「ケモノの王」の二次創作です。…普通これを大賞参加作品として持ってきますかね。作者の胆力と中出さんに対する愛を感じます。「じゃあ先にケモノの王読むか…ゲェッ25万字もある!おのれガンキャリバー!」となる方もおられるかもしれませんが、これ単体で読んでもちゃんと成立していますし描写の濃い絶望的なバトルアクション物として面白いのは流石です。怪物に対する切り札のアイディアと、それを選択した覚悟もカッコ良かった。けどケモノの王も面白いので読みましょう。そうしたらこの作品もグッと面白くなるでしょうし中出さんも喜びますし中に出されてる作者も悦ぶことでしょう。

 ……(←なにを言っているんだろうという顔)

 墜落から宇宙人出現、主人公の覚醒、油断、一か八かの賭け、逆転劇。一連の流れが非常にいいです。面白い。設定についても、必要な情報は随時さらりと挿入されて、読む上で不便を感じることはありませんでした。いいですね、ケモノ。ケモケモ。

 ケモノの王の二次創作ということですが、ケモノ世界の数百年後とかそれぐらい先の未来の話っぽい。超人バトルものです。僕は修正前と修正後の両方を読んでいるのでなんとなく把握しましたが、一部設定は修正前では語られていたけれども修正後にはその記述がなく、それなのにその前提で語り部が動いていたり、かと思えば獣人の設定がなんの説明もなく変更されていたりでなにを書きなにを書いていないのか混乱しているように見受けられます。修正後を単体で読んだ場合ポカーンとしてしまうかも。原理的に難しいところはありますが、一度自分自身で全ての記憶を忘れてまっさらの状態で読み直してみたほうが良いと思います。推敲大事。

 

既読「はこのなかにいる」

 既読も二作目の投稿です。

 どこかコミカルであった前作とは違い徹底したシリアスとソリッド。引き出しの幅を感じさせます。そして描写、構成は同様に見事でありパワーを感じます。アイディアとしてはSFでは割と既存のものですが、意外にこの「2つ」を組み合わせたものは無かった気もします。タイトルにある「はこ」とは何なのか。それに気付いた時にあっと言わせられる最後の一文のギミックも凄い。非常にハイレベルなSF短編でした。ただし文字数オーバーなので駄目です。

 一万字をオーバーしているのでアウトです。内容についてはなにもいうことがないです。完成されています。少なくとも私はこの手の話について何か言おうという気は起りません。SFですね。AIものです。嘘をつけるAIなのか否か。タイトルもいいですね。シンプルイズベストという感じで。ただ単純な話、これに絵をつける場合、どんな絵になったのでしょうね、そこだけが気になります。真黒な吐しゃ物?

 これすごく好き。意識のハードプロブレムや人工知能の自我などはSFや哲学好きにとっては大好物のトピックでしょう。ただ、キャッチコピーにある「この部屋から出るために必要なのは、なぜ自分が二人いるのか、の答え」に関しては、ぶっちゃけ謎解きではなく主催自身によるネタバレで明らかになってしまっていてキャッチコピー詐欺っぽさがあります。まあ、どういう経路でなら自ずから推理できたかと言われると想定できないのでやむを得ないのかもしれませんけど。とはいえ、ぶっちゃけエピソードの8割くらいまでが前説で、最後の最後にある人工知能との短い対話こそが本題という感じがありますから、そこまで重大な欠点でもないのかな。最低でも誰かの言明は真ではないはずなのですが、そこは明示されないままブツ切りで終わる感じで、「どの場合はどうなるのか」を語り合いたいがためについつい誰かに読ませたくなる構成になっています。あと文字数オーバーなのでゼロ点です。

 

一石楠耳「スタンダップコメディアンはチャイナドレスと話せない」

 剣脚商売でおなじみの美脚キチさん。

 最初から最後までガトリング砲のように繰り出され続けるアメリカンジョークの嵐。この手数の多さは凄いですね。よくこの短さにこれだけ詰め込んで回転させられるものだと驚嘆します。そしてただ手数が多いだけでなくきっちり起承転結、フリとオチが決まっている辺り何も考えずにノリだけでやっているというのでは明らかにない。こう見えて、結構几帳面な人なんじゃないでしょうか。ほら、脚フェチストッキングフェチって真面目な人間に多そうな気がしません?(偏見)恐らく下地にあるものはアメリカンコメディだと思いますが、作品から伝わる文脈の読み込みの深さに熱意が伺えます。

 いいコメディですね。喋りの内容の良しあしについてはよくわからないというのが正直なところですが、普段は饒舌な人間が好きな相手を前にして、ついでに麻酔が聞いてるせいで、うまく言葉が話せない。冒頭での虫歯が最後まで話にかかわってくるのところは、なんというか技術を感じました。熟練の技? どうなんでしょうね。チャイナドレスはやはりスリットがいい。

 なんというか、完成されていますね。いかにもスタンダップコメディアンな軽快な語り口といい、冒頭に仕込まれていた何気ないジョークが後半に効いてくる構成といい、完成度が高いです。特に言うことはないのですが、全てがあまりにも小粋に綺麗にキマりすぎていてサラサラと読んじゃって、面白かったなぁってなるんだけれども「どこが?」と言われるとココとは言えない感じがある。ここが面白い、じゃなくて、全体的に面白いという感じで尖ったところがないみたいな。剣脚さんと言えば「実にガーリー」などの謎の言霊ちからの宿ったコピーに抜群のキレがありますから、なにかそういう見せ場てきなのがあっても良かったのかな? なんて欲をかいてしまったり。とはいえ、総合力では頭ひとつ抜けた、お手本にしたいいぶし銀の良作。

 

はしかわ「潜水」

 ご新規さんですね。詩のアイデアをそのまま膨らませたという話なのであれこれ疑問に思ったり深読みしたりせずに素直に読めばいいのかな。

 これはもう読んだ時に「うわーすげえの来たな」と思いましたね。率直に申し上げましてツボです。「誌のアイディアを膨らませてそのまま小説にしました」とありますが
私、恥ずかしながら詩とか殆ど読んだことがなくて、きちんとこれを評価できるのか自信が無いんですけど、とにかくビリーッと来ましたね。「その時、電流走る」というアレ。街の中に孤立したような部屋と少女、部屋の床上には雨水が溜まっており少しずつ水位が上がっていく。少女はその水が部屋を満たすのをその部屋にいながら楽しみ待っている。もうこうやって書き出すだけでゾワゾワします。徹底した非現実的な描写、イメージを喚起させる個別の、そして全体の隠喩。まさに詩文。非常に危うい所に位置している作品だと思いますが、作者の技量によってギリギリの所でバランスが保たれている印象。これを思いついて最後まで完成させたことに敬意を表します。

 雰囲気がいいですね。退廃的で、詩的で、美しい滅びの風景。壁につけた傷で日数経過を残す、というのが個人的にとても好きです。いつもきまって左のリンゴだけを食べるというのもいい。随所にある登場人物のこだわり、私すごく好きです。

 雰囲気と描写はとても良いです。三人称視点ということになるんでしょうけれども、彼女は~というこの記述のしかたは珍しい感じしますね。慣れない奇妙な手触り。好き嫌いで言うととても好き。ただはっきりとしたストーリーというのがないので小説大賞での評価となるとこれも難しいところ。描写力がしっかりあるのでもう少しエンタメ要素のある小説も読んでみたいです。あとカクヨムの仕様てきに、各話タイトルはなにかしらでもつけておいてもらったほうが入り口の当たり判定大きくて良いです。

 

くすり。「ヴァイオレント・ヴァイオレンス」

 第三回大賞受賞者、コンチェルトのくすりちゃんです。

 傷付け傷付けられて傷で結ばれた共依存。無知と無邪気で行うならただの馴れ合い。しかし、ともに自覚しながら行うなら傷を分かち合う呪いと化す。この歪で病的な心情描写のラッシュで描かれる人間模様、まさにくすりさんという感じですね。人を傷付けるのは傷ではなく、その傷が付けられた理由であるという話。そこが違えば暴力もまた愛になろうというわけで、つまりこれはSMの真髄です。「SはSだがMはSも含んでいる」みたいなことがよく言われますが多分私が思うにSもMを含んでないと駄目なんですよね。そうして初めてSMという高度な関係性が完成する。そういう話を叩きつけるような熱情で書き上げたのがこの作品だと解釈しました。素晴らしい。

 かなりいびつで歪んでいてどうしようもない恋の話。なるほど暴力的ヒロイン、私は大嫌いですがこういうのもありうるのだなと思いました。本当に歪んでいて、この二人?はこの二人?じゃないといけないのだろうなと。殴って終わるっていうの、これはちょっとだけ‌ずるいなと思いましたが言葉の綾は大事ですものね。割とあっさりとした読後感。

 属性を盛りに盛りまくった感じですね。登場人物にはかならずなにかしらの重い過去を持たせなければならないみたいな使命感でもあるんでしょうか。ヒロインがあんまりにもあんまりで感情移入しづらく、かつ語り部もヒロインの言う通り大変に気持ち悪くてとても気持ち悪いです。たぶん気持ち悪いカップルを書こうという意図だと思いますので意図したとおりに機能してはいるのでしょうけれども、うーんなんというか、登場人物ふたりだけの小説でふたりとも同じボルテージだとあっさり大気圏外までカッ飛んでいってしまう感じでふたりで地球をエクソダスしてしまっているような、末永くふたりきりで幸せにどうぞみたいな。いわゆる突っ込み役が配置されていればもう少しバランスがよかったかも。

 

でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」

 こちらもご新規さん。もうそれだけで嬉しいですね。んふふ。

 まずページに飛んでみて「なんじゃこりゃー!」と驚く章分けの数。「どんだけ分量あるんだ、あれっでも一万字以内…」と思って開いてみると、「なるほど」と思わせられる仕組み。9103文字とリミットをほぼ使いきっている本作ですが、全く長さを感じずあっという間に読み終えました。所謂「世界シミュレーション」もので、SFとしても定番モチーフの一つであり正直オチは途中で読めましたし、細かい所をツッコむことは出来るのですが個人的にはそれをすることは野暮だと感じます。「このタイプの作品をこういう形式で書いてみせた」というのが本作の意義であり、見事にそれをやってのけたことを高く評価したいです。

 すごい面白いです。章の多さに面喰いましたが、なるほどメール形式。未来予測実験にかんして小出しにされる情報が少しずつ像を結んで行く。最後まで読んでから、もう一回読みたくなって読んで、確かにそうだと気付く。気持ちがいい。読んでいて気持ちが良かった。

 トータルで9000文字ちょいなのに全37話というちょっと変わった構成。ほぼ全編を通してメールのやりとりを中心に話が進行していって、メール一件につき一話を消費するのでこのような感じになっているのですが、各話タイトルが件名になっているのがUIと合致していて面白いですし、スクロールもせずにポチポチクリックして先に進めていく感じはテンポも良くゲームをプレイしているような雰囲気もあって楽しかったです。たぶんオチてきにはマトリョーシカエンドで、それだけだとSFとしてはとくに斬新でもないと思うんですけれど、ラストの一話だけ明らかに記述の形式に違和感があって、変なスペースが多用されていたりして、まだ僕の気付いていない仕掛けが隠れている可能性もおおいにあります。

 

宇差岷亭日斗那名「とある夏の日。」

 ウザいPNですね。どうにかならないのでしょうか。

 普段は死のうと思っても思うだけの主人公が、夏に浮かされてロープを買いにいってしまう話。一見ネガティブな動機による究極のネガティブ行動だとしても、行動に移した時点でそれは一定のポジティブを含むのだとかそういうことなんでしょう。一読して「随分トントン拍子に終わったな」と思ってしまったのですが、これは「地面に篭もり続けた後に夏に這い出てくる蝉」の隠喩なのだとあとから気付いて膝を叩きました。

 ……(←そうなの? という顔)

 死のうと思った。でも。引きこもりが死ぬために外に出て、それから。死にたくなる日もあるし、でもその気持ちも過ぎたらなんだか軽かったような気もするし出来ないなって思ってたこともやってみたら簡単でなんで出来なかったか不思議になる、そんな話。いい話ですね。

 良いですね。3000字ちょっとと非常に短いのですがテーマ設定がはっきりしているので無理なくちゃんとオチがついています。初回の参加作からずっと通底するテーマがある感じで、拗らせている雰囲気なのに何気なくスッと開けていくような爽やかなラストの清涼感が共通していますね。拗らせているだけの人は多いんですけれども、そこをなんというか、全然エモくなくスッと自然に乗り越えちゃう感じが「強さ」っていうほど張り切ってない人間の強さっぽくて、本当の強さとか言っちゃうとまた陳腐なんですけど、うーん乗り越えるでもないかな。乗り越えも立ち向かいもしていなくて気が付いたら風化して崩れてたみたいな、この感じはわりと珍しいんじゃないかと思います。地力のある作者だと思いますので是非一度、もう少し規模の大きな物語に取り組んでみてもらいたいですね。

 

ラブテスター「午後王」

 前後編構成でガラっと文体が変わります。

 一つの物語を、「吟遊詩人の語りを思わせる華美な文体で綴られた一国を支配する妖魔の伝承」と「怪しく狂った一人称で述べられる少女の心情」の二部構成で両面から描き出すという一作。これが発表された時騒然となったのを覚えてます。やはり最初に印象深いのは第一部のこれでもかと力が入りまくった修辞ですね。非常に高い精度で行われているそれにはまさしく脱帽です。そしてその後に妖魔として語られていた少女の一人称を第二部に持ってくることで、物語のマクロとミクロの対比を見事に表現しています。ただ、午後王ってタイトルはなんかユーモラスですね。割とここだけそのまんまというか。けど本文が凝っている分タイトルはこのくらいシンプルな方がバランス的に良いのかもしれません。

 二部制で作られた作品。一部と二部で文章の作りががらりと変わり、そのギャップが良い。若干ペダンティックな一部と、童話調の二部が良いハーモニーを奏でています。午後王と呼ばれるものとそれを取り巻く環境、午後王とは一体なんなのか。第四回本物川小説大賞に間に合えばよかったのにと思わずにはいられません。

 前半は虚飾とも思えるような大仰で荘厳な文体で、「聖油にぬれた大理石のようになまめかしくも清い肌」とかよく出て来るなと感心します。このゴシック感ムンムンの前半があってこその後半の文体との落差がまた生きてくる感じ。でも、個人的にはたんに「実はこうだったんですよ~」と開示するだけのオチはちょっと納得いかないので、前半でもう少し伏線というか、転生とか人外とかの設定というか、どういう世界の出来事なのかの情報を配置しておくともっとすんなり飲みこめたかなと思います。文体じたいの力はとても強くて、これはトレーニングしてもなかなか得られるものではありませんから既にアドバンテージがある。構成に工夫を入れて来るとさらに一皮むけそう。

 

大澤めぐみ「さきちゃんかわいいよね」

 どニキのパク…(ゲフン)二次創作。どニキがまたさきちゃんでギリギリに滑り込んでくるつもりみたいだったので出鼻を挫く嫌がらせですね。なお一万字以内と一万字未満を勘違いするという凡ミスのために文字数オーバーでゼロ点です。

 いつもの大澤節です。もうこれだけで点を入れそうになるくらい好きですね。思えばそれを最初に絶賛したのがすべての始まりなのだ。まあそれは置いといて、本当にただ読んでるだけで気持ちいいこれはいつ見ても良いですね。これどうやったら書けるようになるんでしょうか。このままだと普通にエコヒイキしそうになるので敢えて辛めの視点を交えますけど、ちょっとオチがそのまんまというか、「そうですよね」となってしまって意外性がまるで無かったのが逆にびっくりした。だからこれはもう本当にタイトルの内容だけを書きたいから書いたというやつなのでしょう。けどその割にはさきちゃんの描写があんまりなかったのでさきちゃん可愛いと言ってる「わたし」が可愛いという話なのかもしれない。SKILLとGONGを熱唱する女子高生ってレアなのかそうでもないのか。そういえばこの子名前無いですね。読んだ後に「キミヤくんがひたすら哀れだ」と言ったら「お前もそいつに感情移入するのか」的なことを言われたので何かを垣間見たような気になりました。

 己が幸せであるならばそれで満足してくれおすそ分けなぞいらん。でもさきちゃんと一緒に過ごすためにはやむなし、で始まる偽装カップル生活。青春のしぼり汁をジンジャエールで割った‌みたいな苦くてシュワシュワな感じ。キミヤくんはこんなやつを好きになってしまったんやな、本当に。趣味が悪い。でも男の子ってそういうところあるよね。本当に。最初から言ってるのに、最初に言ってたのに、その言葉を都合よく上書きしてしまったのだね。本当に。苦い。キミヤ君に幸あれ。

 

ポンチャックマスター後藤「アラップノフォビア」

 100万進捗馬力のポンマスさんです。どうもTLでの反応を見るに大澤さんのさきちゃんかわいいよねから着想して(?)書いたっぽいんですけれども、宣言してから完成して投稿までがマジで早くて進捗力にビビります。

 来たぞ! 我らがポンチャックマスターのエントリーだ! 君はもうその勇姿を見たか!? 僕はまだ見たことがないよ…両目を、抉られているからね…(オマージュ)

 ……(←ええ……なにそのノリ、という顔)
 ……というわけでポンチャックですが今回はどんなふうに暴れ狂ってくれるのかと思ったら、また意外な引き出しを開けてきましたね。百合を通り越して濃厚なレズですよこれは。蜘蛛の捕食行為をメタファーにした淫靡レズ表現は、百合という言葉には到底収まらないドス黒い淫蕩と背徳を思わせ身震いがします。最後の一文も傷口に残された蟲の棘を思わせて大変良かったです。

 いいですね。放課後の冒険。一歩踏み出した先の関係。膜を一枚隔てて絡み合う二人。とてもエロティック。一線は越えないというのもいい。先生に見つかるのいいですね、青春の過ち感がすごく出てる。家で一人ラップを触るのもいいですね。忘れられない経験になってるというのがしっかりと伝わってくる。気になったのは、なんで学校にサランラップ持ってきてんだってところと、蜘蛛の比喩の挿入具合ですね。蜘蛛が若干くどい。もうちょっとフレイバー程度でいいんじゃないですかね蜘蛛。エロいな、って盛り上がりを蜘蛛が邪魔してる感じはあります。

 ポンマスさんはピントの合うところがすごい近い感じで、ド近眼というかド接写というか、客観的な情景描写よりは人間の心の機微とか、舌やら指やらの細かい動作をねちっこく描写させたほうが強い感じがしますね。弱点を補おうとするよりは、自分の特性を最も生かせる題材を設定していったほうが良いものになる気がします。今回はバッチリ焦点距離が合ってる感じで良いです。

 

ラブテスター「腕喰い」

 ラブテスター、二作目の投稿はまたガラッと作風が変わりますね。

 殺人犯を追う刑事、と言われると「ミステリか」と思いがちですがこれはそうではなく、特に謎解きの要素もないまま犯人はあっさり捕まり、その犯行の動機も明らかになるのですが、中々これはおぞましい動機ですね。ここでどのくらい振り切れるかでパワーが決まってきますので、これは見事な一振りと言えるでしょう。ただ、タグと説明文から察するにどうも刑事と真島の関係性の方をメインに置きたかったように思えるのですが、正直その部分はちょっと弱いなと思いました。しかしこれで文字数9999文字なので致し方無しといった所で、文字数制限付きというのは本当に難しい縛りだなと実感します。

 刑事ものですね。大好きです。偏屈なベテラン刑事と新米刑事のコンビで追いかける奇妙な殺人事件。タイトルも味があっていい。事件の動機についての説明も、十分な理屈付けはできていると思います。好きですね。この感じ。

 ミステリージャンルで投稿されていますね。強いて言うなら動機に焦点を当てたワイダニットで監察医の長髪イケメンが探偵と言えるかもしれませんが、推理というよりは経験的な推測なのでミステリーとはちょっと違うかな。サイコスリラーとかそういうのかも。ただ明かされる(推測される?)動機はなかなか珍しく、かつ納得もいく感じで意外とストンときますし、これで解決かと思いきや理屈上はまだ残されている仕事があるはずだったりとか、そのへんの構成もとても上手くて良いです。もっとも、たぶん物語の中心は事件や謎ではなく主人公ふたり(?)の関係性の描写っぽいので、細かい話はまあいいや。ベテランと新人のコンビいいよね。

 

きのこづ「夏の夜に捧ぐ恋文」

 んっふふ。ご新規さんです。今回わりと多いですね。

 如何にもな、もどかしい青春夏模様がガーッと続いて、最後にゴキッと落とす。これもまた一つの黄金パターンですね。文章、描写は結構詰まっているにも関わらず大変読みやすく、かなり書き慣れておられるものとお見受けしますが、ちょっと全体構造が早急すぎるようにも思いました。構造が早急ってなんやねんという話ですが、はっきり2つのパーツで構成されているのでもうちょっと複雑さが欲しかったというか、途中で「気配」をチラッチラッと見せていけると俄然深みが増したように思います。この辺は好みの問題かもしれませんが。

 高校生の頃に好きだったあの子へ送る恋文。思いを伝えきれなかっただけかな、と思いきや。二人の関係が形成される過程を丁寧に追って書かれているので、余計に切なさが増しますね。頭がおかしくなって病院に放り込まれた、の部分いらない気がしますね。雑味。頭がおかしくなるというのはありうる話かもしれませんがフレイバーテキストで追加する必要があるのか、とは思います。あの頃の思い出を未だ引きずるってるっていうのと若干リンクしているんでしょうかね。頭のおかしさというか。病院に放り込まれた、の部分で全体の味が変わって、サイコ味が強くなっていますね。

 8割5分までいい感じにきて急転直下で落とす展開。前半部分は単純に恋愛小説として描写力が高いですね。ここでテンションを高めているからこそ急転直下でゴーンと来る構成なんでしょうけれど、やっぱりなんらかのヒントなり違和感なりを配置しておかないと横からトラックが突っ込んでくるようなもので唐突感があります。現実には不運や理不尽な出来事というのは唐突になんの脈絡もなくやってくるからこそ理不尽であるわけで、唐突なのがリアリティと言えなくもないかもしれませんが、語り部が完了した時制から過去を振り返っている叙述である以上は語り部はオチを知っているわけで、そこを踏まえて引っ掛かりを覚えさせる程度のなにかを事前に仕込んでおくと納得感が増すかもしれません。

 

ポージィ「宵之街」

 前回のトルタ大会では絵描きとして参加してくれていたポージィさん。今回は文での参加です。いいですね、こういう感じで「なんかやってるからなんか俺も書いてみるか」ってノリでどんどん軽率に参加してきてもらいたいです。しかも一回トップページまで躍り出ましたからねコレ。

 最初の二話の語り口調、単語の選出、改行、スペースの開け方で既に恐ろしさが演出されている一作。オチ自体は「まあ、そうなるな」という感じでしたがとにかく文章のセンスによる怪談としての雰囲気の演出が見事でした。普通に読んでて寒気がして怖かった。大体どうなるか途中で分かってるにも関わらず。怪談というものはその話の内容ではなく、語り部の口調、滑舌、声量、リズムなどによる演出がそのクオリティの差を分けるもの。その点においてこの作品は非常に短くシンプルながらも確実に「怖く」文字が置いてあり、作者の技量を感じました。

 過労の末に見た夢の景色は小さい頃遊んでいたあの場所で。夢の中で見知らぬ少女に出会い、遊ぶそんな話。少しずつ夢が現実に歩み寄りを始め、最後は夢に飲み込まれる。実話風怪談のお手本のような作品でした。

 ミステリーカテゴリになっていますが謎解きパートがあるわけではなく、これもどちらかというとホラーかなという印象。3000文字未満と短いのであまり凝った展開はありませんが、夢現で視界がザッピングするような演出などわりと文章としては難易度の高い表現を難なくこなしているので、こなれた感じがあります。推測ですがカナコについてもまだ自分の中で色々と設定がありそうですし、出してないものがたくさんありそうな感じなので、お試しで終らずにもうちょっと書いてみてほしいなと思います。

 

槐「ぼくの秘密の場所」

 絵本てきな語り口ですね。

 一読して「うん…うん?なるほど…?(分かってない)」となってから紹介ページに戻ってタグの「エッセイ・ノンフィクション」という文字を見つけ「えっ!?」となりました。これはつまり、ご自身のお子さんに当てられた文章ということなのでしょうか。時代は変わって街も変わったけど受け継いでいく物はあるというそういう話とお見受けしました。

 さみしさがいいですね。あの頃の自分が見ていた景色が消えていく感覚。小説でこの内容を書いてください。エッセイにしても短いです。

 以前の作品と同様に、これといって非凡でない、誰しもに共通しそうな射程の長いノスタルジックな雰囲気を描くのが上手いです。テーマ性や話の落とし方も一貫しているので綺麗にまとまっている感じはあります。ただ、いかんせん短いので小説大賞という土俵ではやはり不利かなと。すでに文体はお持ちのようですから、せっかくですし良い機会だと思って試しに同じ延長線上の作風でもう少し規模の大きなものにも取り組んでみてもらいたいですね。

 

宇差岷亭日斗那名「義妹と上手に話せない。」

 二作目です。この人は本当に拗らせてるんだか拗らせてないんだか意欲的なんだか意欲がないんだかよく分からないですね。

 これまた一つの王道ですね。「大抵の物語は報告・連絡・相談の不備によって発生するものだ」という話を聞いたことがありますが、お互いにすれ違いあったまま一歩踏み出せないでいる事によるもどかしさがこの手の話の肝であり、それが解消される瞬間がカタルシスだということです。ただ、折角の義妹モノなのでもう2、3シーン読みたかったですね。

 ラムネ菓子みたいな話ですね。さわやかだけど少し粘っこい感じ。のどに引っかかる感じ。好きですけどもね、こういうの。近親相姦的な臭いが薄いのもいいですね、うすいかな、薄いと思う。エロ漫画ならすぐふぁっくしてるもんこういうの。

 エンジンが掛かるのが遅いのでしょうか。計画的に執筆できるともうちょっと規模の大きなものもこなせるようになると思います。相変わらず文じたいは読みやすく雰囲気も悪くないですし、話も変にこじらずにストレートな感じで僕は好きなのですが、なにしろ文字数が少なく解像度が荒くてまだ型枠だけという感じ。フォーミュラロマンスは話の大枠で奇をてらわない以上はディティールと解像度の勝負になりますので、もっと丁寧にエピソードを積み上げていってほしいかな。

 

佐伯碧砂「夏の午後、風のサカナ。」

 ご新規さん。小学生オブザデッドてきななにか。

 ゾンビというのは日常に唐突に現れ理不尽に襲い掛かってくるもの。必然性やら科学考証にそこまで意味は無いのです、ゾンビものにおいては。その点においてこの作品は中々テンポよくゾンビものが始まり、ゾンビものとしては割と異例のスピードで犠牲者が出て行き、最後はどうなるのか? ということですが…こう来たか、という感じですね。今回の大賞ではこのタイプのオチが多かったような気がしますが、なんというか惹かれ合うものなんでしょうかねこういうのも。本当に全く予想外の所にオチるので、個人的にはもうちょっと伏線が欲しかったなーとも思いました。ですが恐らく意図的に切断されているのだろうとも思います。

 いいですね。ある夏の日、自分の家で友達とゲームをして過ごしていて、アイスを探しに行ってそこで。ジュブナイルプラスゾンビ。無力な僕たちの長い夏の一日。と、思いきや、何でしょう、ジュブナイルなまま終わってくれたらよかったなぁって思います。そこまでは好きなんですよ、すごい好き。でも最後がなぁ、何だろうなぁ。

 平易で一文が短く飲みこみやすい描写と、可読性や溜めの効果を意識した改行の使い方など、web小説としての読みやすさはとても良いですし、オブザデッドテンプレートに沿った徐々に追い詰められていく展開も普通に面白くてスルスル読めます。9999文字の上限いっぱいなので単純に文字数が足りなかったのかもしれませんけれど、オチに関してはこれもやはり唐突感があって、事前になにか違和感を抱かせるようなフラグを立てておいたほうが納得感が増したかなぁと思います。

 

宇差岷亭日斗那名「命日とハッピーバースデイ」

 三作目です。そしてさらに短いです。躁でしょうか。

 こういうワンシーンを切り取ったショートショートには、何か一つその作品の中心というか、結節点ともいうべきポイントが存在しているもので、この作品の場合は「線香の刺さったホールケーキ」ですね。恐らくこれを思いついてそこから発想を広げていった話なのだと思われます。確かに線香の刺さったホールケーキはビジュアルとして面白い。タイトルに対する象徴にもなっているのですね。その意味においてこの作品は生と死をシンメトリーに配置した太極図なのでしょう。

 これもいい話。人の優しさを感じられる話。でもケーキに線香はきついと思う。

 これも「とある夏の日」や、以前の「僕と彼女とコンビニと猫」と共通するようなテーマ性があって、一言で言うとリボーンですね。たぶんですけど本人の中では「救い」であるとか「癒し」であるとか、要約しちゃうと陳腐なんですけど「そういうことじゃあないんだよな~」みたいな、だから説明や要約じゃなくて小説じゃないとダメなんだみたいな、こういうものを書きたいという意欲は非常に強くあるんだと思います。思いついたものはなんにせよ書いてみたほうがいいのです書き散らすのも大いに結構なのですが、この大賞も、もはや粗製濫造で戦える水準でなくなってきていますので、そういった自分の書いた断片のようなものを一度集積して見直して、パーツを組み立てて細かいところを良い具合にアレして、もうひとまわり大きなものを組み立てられないか試してみてほしいですね。たぶん一度やってしまえば次からは自然と規模がひとまわり大きくなるのではないかと思います。

 

津島沙霧「今は、これだけ」

 うきゃ~! ラブいですね。うん、ラブですよ。

 ブコメですね。王道ド直球ど真ん中のラブコメです。ここまでど真ん中のものを本物川大賞で見かけることは珍しいのですが。熱量としてもほぼ一万字と中々の物を感じます。幼少の頃に唯一全てを投げ打って味方になってくれた人。そらまあ惚れますわね。展開としても基本をきっちり抑えている感じがあり、危なげなく着くべき地点に着地したという印象です。

 そうですね。こういうのをどう分類したらいいのかわからないのですが、いわゆるレディコミ系なのかな。生まれたときからそばにいる相手、親同然の相手にこの恋心を伝えていいものなのかどうか、自分の中にあるものをうまく処理できないでいる少女の面倒くささがいいですね。小さいころの約束とかね、こういう幼馴染ゆえの思い出とかね、もう本当にキュンキュンする。好き。

 設定やストーリーは既視感のある王道展開なのですが、些細なことでいちいち揺れ動く語り部の心理描写が解像度高くて若々しくてフレッシュで良いです。うん、恋愛小説ってのは変に奇をてらわなくて良いんだよ。これもほとんど文字数いっぱいなので足すとなると必然どこかを削る必要があり難しいところなのですが、当て馬の安野センパイがマジで当て馬なので、もうちょっと安野センパイのエピソードも充実していたりすると「もしや……?」みたいな雰囲気が出るんじゃないかな~って気もします。最終的に主人公ふたりが両想いなのは規定路線なのですけれど、分かっちゃいるけどピンチもあったほうが良いみたいな。

 

SPmodeman「ゴリ美」

 ぴゅっぴゅさんのSPmodemanさん。速と勢いとパワーで押し切った作品。

 タイトル打つだけで腰が砕けます。ゴリ美て。ここまでシンプルに顔面を殴ってこられると流石に困ります。さてこれの作者は本物川大賞きっての異端児にして問題児、SPmodeさんことどこもさんです。どこもさんといえばセックス、セックスといえばどこもさんですが、サイゼに行った次の行でもう妊娠していたのでやはりどこもさんです。展開が早いとかそんな次元じゃない。そしてセックスついでに日本列島の半分に喧嘩を売ってますが一体どうしたのでしょうか。全体通しての感想を言いますと、どこもさんにしてはオチの部分にパワー不足を感じましたね。あのどこもさんが。どこもさん基準でですけど。やはりハートマークがないのがいけないのではないでしょうか。至急工場に発注してきてください。最低ロットは一万からでお願いします。

 ……(←虚無顔)

 パワー。パワー。パワーのみ。力強さに力強さを加え力強さで味付けした力強い作品。おちとかどうでもよくなる。そこに至るまでのパワー、力強さ、西日本人。謎の地方ディス。本当に謎の地方ディス。あの地方ディスは何だったんだ。そしてあの落ちは。なんだったんだ。なんだったんだよ!そんな感じです。

 勢いあるパワー系は基本的に好きなんですけれど、ちょっとアクセル全開すぎて困惑しっぱなしというか、序盤はまだかろうじてついて行けていたんですがガリ男さんが出て来るあたりからちょっとどういう状況なのか飲みこめなくて何度か戻って読み直しながらになってしまいました。勢いを維持しつつ飲みこみやすい文章というのは意外とテクニカルなので、本当に勢いで行くんじゃなくて過度に説明的にならないように自然と情報を配置するなどの工夫が必要です。文体のせいで状況が分かりにくい上に、さらに島根やら西日本人やらの特殊な設定が説明もなくポンポン出て来るのでよく分からないまま話が進んだ上にまたよく分からないオチをつけられてもう分からないという感じ。推敲大事です。

 

綿貫むじな「ピースフル・ウォー」

 たぬきさんは第一回の大賞受賞者です。

 ゲームが代理戦争としての立場を獲得した世界の話。序章での「バグを付いて勝利した主人公とそれを認めた対戦相手」というエピソードに作者のゲーマー魂を感じます。割とゲーマー特有の思考回路なんですよねこれ。そしてオチの部分にもやはりゲーマー的思考回路が活かされている。何が掛かっていようが、相手が何であろうが、やる以上は絶対に勝ちたいしそれに挑むこと自体が楽しくて仕方ない。筋金入りのゲーマーほど
そういう戦闘民族みたいな価値観を持っています。そういう意味では、ゲーマーほどこのタイトルに相応しい存在は他にないのかもしれません。

 日朝系のホビーアニメを思わせる設定ですね。ただ本当に、アメリカ、ギーク等の横文字、並びに宇宙人の出現がとってつけたような感じがして違和感が強いです。それこそ日朝ホビーアニメ等の設定に沿った突き抜け方をしていれば違和感がなかったかなと思います。

 そうですね。カチっと組み上げれば面白そうなのですが、かなりソリッドな質感を求められるタイプの話なので現状ではまだまだチープさが気になる。もっと執拗に練り込むか、逆に質感が気にならないように世界設定をズラしたりテンションをシリアスな路線からもうちょっとコメディ / ギャグ寄りにするかなど、なにか対策が必要かも。馬鹿真面目にやろうとすると相当な労力になるだろうなと思います。

 

綿貫むじな「冴えない花火」

 二作目です。これも作風が全然変わりますね。

 重い。うめき声が出るような重さです。咲いては散り、また花開く花火をどれだけ観ても、果たされなかった想いはもう咲くことも散ることもない。この話は最後までカタルシスを与えてくれません。重荷をぽんと投げ渡し「じゃ。」みたいな顔で去って行きます。そしてそれもまた物語の一つの機能であり力です。物語は人に重荷を、爪痕を、ダメージを、何の謂れもなく、正当性もなく与えることが出来る。そうやって唐突に付けられた傷跡を、梅雨の雨音のように苦味を持って楽しむことが出来る。そういう読者になりたいですね。

 花火を見るたび思い出す、あの夏の日。好きだったあの子に好きだと言って、断られる予感はしたけどそれでも好きだといいたくて。告白が失敗して、帰りの電車で花火を見ながら、やっぱり好きだったと分かる。苦い思い出話、夏らしさのある短編小説です。

 つらつらとしていますね。たぶんテーマとしては「自分の受けた主観的なショックに対して、客観的な事実としてはありきたりすぎて大したことじゃない」「他人事なら大したことじゃないのに、自分の身に降りかかるとやっぱりショック」みたいな話だと思うのですが、ピントがボケているようで読み終わってもあまりなにも残らない感じ。書き始める前にまず自分の中で中心に据えたいテーマやコンセプトのようなものをしっかり持っておいたほうが良いと思います。逆に、テーマだけをしっかり持っていればわりとつらつらと書いてしまっても結果的には輪郭がシャープになったりもします。コンセプト大事。

 

ナツ・カウリスマキ8月32日

 きのこづさんの夏の夜に捧ぐ恋文のプロットを使って別の人が書いてみるという試み。こういうの面白いですね。

 そういうのもあるのか……今回、フリーダムな参加スタイルが多いですね。「夏の夜に捧ぐ恋文」とは違い、こちらでは最後まで語り口が変わらずどこか青春の青さと甘さを残したような描写で最後まで綴られます。しかし、どんな文体で綴られようが結末は変わらず、彼がどれだけ前を向いているように見えようとも、タイトルの一文が呪いのような影となって彼に覆いかぶさっています。一つの物語を別の作者が語り直すというのにも驚きましたが、こういう切り口の変え方があるのかと。目から鱗の思いですね。

 あちらでは恋文をつづるだけでしたが、こちらは墓参りまで踏み込んでいます。もう本当に思い出になってしまったんだな、というもの悲しさがいいですね。終わり方、後味はこちらの方が好み。自動車事故で、という部分と、引きずってはいるものの割り切ってる感じ。墓参りもしていますしね。向こうは未だ受け入れきれてない感じがサイコ味を増してますね。

 時制じたいが過去に飛ぶシーンがなくて、飽くまでも現在軸上から過去を思い返す構成になっています。これ、まさに僕が「もうすこしこうしたほうが良いのでは?」と指摘した部分を指摘するだけじゃなくて実際にやって見せていて素晴らしいですね。ただ単体の作品として見ると元が7500字のところを3000文字未満にまで圧縮していますので逆にストンとしすぎている感じ。飽くまで参考のために雛形を提示した、という感じなのでしょう。これを参考にきのこづさんのほうでさらにリライトを重ねると完全版夏の夜に捧ぐ恋文が完成すると思うのですが、いかがでしょうか?

 

中出幾三「カフカの翼」

 二作目。PNどうにかしろ。

 タイトルから分かる通り、恐らくこの作品もカフカの「変身」を意識したものだと思われます。しかし、前出のヤスデ人間とは全く別のアプローチでこの作品は「変身」に対して返句を返しています。「変身」において人間から毒虫と化したグレゴール・ザムザは最終的に家族によって排斥されました。では、既にいる動物が人語を喋るようになったら、動物が人間となったなら人はそれをどうするのか。恐ろしく痛烈な皮肉です。人間はその歴史においてその殆どを動物と共に歩み、時として友とすら呼んできました。そして同時に人間は多くの動物を絶滅させてきました。友と呼ぶことも、滅ぼしたことも、きっと言葉による意思疎通が出来ないからこそ成し得たことなのです。ではもし、動物が人間と意思疎通させて、同位の存在として肩を並べるようになったら? 恐らくその時、人は今まで動物に対して用いてきた虚飾を全て剥ぎ取られ、動物という人間以外の存在と、有史以来初めてほんとうの意味で向き合うことになるでしょう。その時、人間はどう応えるのか。この作品には、人間という種全体とある一人の女性、マクロとミクロの解答が示されています。貴方なら、どうしますか? 自由の象徴として飛び立った黒い翼に、そう問われた気がしました。

 ……(←なんらかのキャパを超えるとポエムスイッチが入るっぽいと分析している)

 もしも動物が言葉をしゃべれたのなら。そのワンアイディアから想定される展開を、一人の女性と、一羽のカラスに焦点を当てて描いていく作品。背景世界での動きが丁寧。ビリーバビリティというのでしょうか、なるほどこうなるだろうなという納得感がある。種族を超えた友情、亀裂、再生。きれいな物語ですね。

 ある日突然に全世界を巻き込む大規模な変革が起こり、そこから世界が変容していく。はずなんですけれども、語り部自身はそんな世界で起こっている変革そのものには興味がなくて、飽くまで自分とカフカの関係性のみにピントを合わせて物語が進行していきます。この奇妙な間合いの取りかたがちょっと特異だなと。実際に世界では色んな変革がどんどん起こっているようなのですが、それは語り部の叙述でサラっと触れられるだけで、通常SFではそういった現象にこそフォーカスしていくものだと思うのですが、あまり興味がなくただのBGMという感じ。気怠い終末てきな雰囲気と、それでいて希望を感じさせる読後感がまた奇妙で、不思議な作品です。

 

ゴム子「インダストリアル」

 タイトルは工場から出荷されたところ、みたいな意味なのかな? いまはまだ工場出荷状態のプレーンな素体。

 これは人生をやり直すための物語、いや、「新しく生まれ変わるための物語」なのでしょう。彼女は19歳になるまで母の中に閉じ込められ、この世に産まれていなかったのです。そしてようやく母から這い出て、別の母のような存在と出会いました。果たして彼女は、19年遅れの人生をこれからどのように生きるのでしょうか。そして、その後でどのように今までの19年を振り返るのでしょうか。或いは完全に忘れてしまうのかもしれませんが。名前が「海」というのはかなり直球の隠喩で、その率直さに作者のこの物語に対する思いと姿勢を見た気がしました。

 百合、百合でしょうか、百合ですね、多分そう。壊れてしまっていた家庭を壊していた母が壊れちゃった。家出するところは青春感じますね。終電のなくなった駅での出会いもよいですね。行為にまでは及ばない、そういうさじ加減もよいですね。母親殺して欲しかったなぁ(メフィスト脳)

 わりと重苦しい始まり方をするのですが、他人事のように淡々としていて、かつスキップするみたいに軽快な、語り部の妙に強かな語り口のおかげですんなりと読み進められます。描かれている客観的事実としてはじとっと湿気っぽい感じなのに、記述には湿気があんまりなくて乾いてサラサラとしている感じ。内田春菊あたりを連想しました。熱や湿度のない乾いた硬質な質感の語り部の叙述が、最後にほんのり熱を帯びる感じもあって、深層的な部分での心理の変化が伺えます。意図的にやっているならこれはすごい技術ですよ。説明でなく描写で感じさせてこその小説なので。個人的には頭ひとつ抜けた高評価。

 

芥島こころ「Linked.」

 どすけべメスボディ、ケツのどニキです。今回も滑り込みです。今回は滑り込みセーフです。

 武道の熟達者は構えただけで相手に力量を分からせるとか言います。また、優れたシェフはスープだけで数多の食材の旨さと奥行きを感じさせるとも言います。熟達者の技にはその片鱗一つにも力が宿るという話ですね。グラップラー刃牙にそういう話があったので間違いないです。で、それがこの作品にもあります。手馴れている。各所のメカニック描写の濃さ、それをさらさらとテンポよく重くなり過ぎないように流していく上手さ、これはかなりのSF者です。書き慣れているのか読み慣れているのかまでは分かりませんが、相当に好きモノと見えます。オチも、何かが始まりそうな期待感と悪いことが起きそうな不安感が混在しており、中々一筋縄ではいかせない。何より非常にスムーズに読めて素晴らしかった。ただ、ちょっと改行、スペースが所々おかしいように思うのですがこれは演出なのかどうなのか。

 ビジュアルがほしいというのが本音です。イラストありきの面白さ。多分短編漫画であれば非常にいいものになるのではないかと。多分文章だけだと時間経過、サバイバルに関して読者側に与えられる情報量が少なすぎる気がします。焼け焦げたコンセントのみではなくて、付近の壁の汚れだとか、床に積もった埃の具合だとか、なんかそういう、文章にするとくどさが出てくるディテールが必要なタイプの話だと思いました。

 大澤さんがさきちゃん潰しを行った結果、どニキが完全新作で滑り込んできました。と思ったけど、完全新作……? プロットとしては第一回で出してきた「戦いのあとに」をほぼ踏襲する感じになっていますね。ただの雰囲気ガジェットなのか本人の中では膨大な裏設定が(脳内では)存在しているのか分かりませんが、物語の要請としてリンクするAIである必然性などが説明しきれていないような気もします。たぶん、リンクするAIなので一機だけでもなんとか生き抜けばそこから仲間の復活の可能性もあるてきなアレで、この男ひとりの気まぐれ次第でなにかがここから起こるかもしれないんだという希望を感じさせる引きなのだと思いますが、他の姉妹に関する具体的なエピソードの提示がないせいか、あまり姉妹の復活が一大イベントなんだと認識されていないような。エンディングのわくわく感は戦いのあとにのほうが上、ガジェットに関する描写の質感はこちらのほうが上という感じ(ただしまだまだ執拗に高めてほしさはある)なので、本人的にもこだわりのあるプロットのようですし合体させてまた同一のプロットでこれこそはという完全版を書いてみてほしいなぁ。

 

こむらさき「メンヘラ牧場」

 一分遅刻でゼロ点です。安定のメンヘラ描写のリアリティとミサキくんのクズ具合が最低ですね。物語はまだ導入部という感じですし連載中みたいなので今後の推移を見守りたいと思います。ミサキくん刺されるなよ。

 こむらさきさんの胃壁をノミで削ってくるような残酷メンヘラ物語から幕を上げた第五回本物川大賞ですが、最後はこむらさきさんの無惨メンヘラ蟻地獄です。なんなんですか。なんで最初と最後が綺麗にコンビネーションワンツーアタックなんですか。タグのラブコメはどういうことなんだよ! まあでも今回は主人公のミサキくんもそれなりに自業自得な感じなので少しは胃に優しいですね。彼が今後どうなってもそれなりに彼の責任ですし。無限に積み上がり続ける未読メッセージは賽の河原の石ころか、はたまた天に裁かれるバベルの塔か。黄金の果実に手を出した先に、待ち受けるのは蛇の牙。
例え毒に蝕まれようと、人はその欲を止められない。その先に、悪夢の連鎖があろうとも。次回、直接訪問メンヘラ。来週もこむらさきと地獄に付き合ってもらう。ところで、これは誰か実在のモデルがいたりするんですかね…?(何かを疑うような目)

 おしいですね。でもアウトです。

 

 

大賞選考

 はい、それでは続きまして大賞の選定に行きたいと思います。いつも通り、それぞれに推しの三作品を選んでもらって、あとは合議で決めていくって感じですね。

 まず僕の推しとしては、ゴム子さんの「インダストリアル」 中出幾三さんの「カフカの翼」 既読さんの「ヤスデ人間」の三作品になります。

 同じく既読さんの「ヤスデ人間」 中出幾三さんの「カフカの翼」 それに ラブテスターさん「午後王」で。

 中出幾三さんの「カフカの翼」 でかいさんの「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」 ラブテスターさんの「腕食い」 です。

 これは……(笑)

 大賞は決まりですかね……?

 いいんじゃないッスかね。

 完成度だとヤスデかなと思ったんですけど。

 完成度ではヤスデのほうが強いんですけど、やっぱ読後の清涼感というかヴィジュアルイメージが良い。

 正直ヤスデの絵を見たくなかった。

 誰も幸せにならない……。

 題材の時点で負けていたのだ……! 

 カフカの翼、内容もそうなんですが、非常に絵になる。

 カラスと少女は絵になりますよね。では大賞は……?

 第五回本物川小説大賞、大賞は中出幾三さんの「カフカの翼」に決定です! おめでとうございます!! わーパチパチドンドンヒューヒュー。

 おめでとうございます🐼

 このタイミングで四股名みてぇな名前に変えやがって畜生。大賞発表後にしろってんだ。

 さて、じゃあ次に金賞ですけど、得票でいくと既読の「ヤスデ人間」になっちゃうのかな?

 順当かと。

 異議なし。

 あまりにもドラマ性のない金賞選定でしたね。正直、中出幾三さんと既読はもう小説としての完成度で頭ひとつ抜けている感じがあるので、本物川小説大賞とかやってないでとっとと次のステージに飛び立っていってほしいです。このままじゃ弱い者イジメになってしまう。

 さっさと賞取れよ、賞。 

 あとは ヒロマルさんの「盗読のシミュナレーション」 左安倍虎さんの「魂までは癒せない」 一石楠耳さんの「スタンダップコメディアンはチャイナドレスと話せない」 あたりも完成度で飛びぬけてますよね。文字数と規模の感じでどうしても大賞というとサイズの大きなものが印象に残ってしまいますけど。

 そうですね、輪郭があるというかやりたいことをちゃんとやれている感があります。「形」になっている。

 あの三つは本当に特にいうことなくてレビュー書きづらかった。

 ちょっとお手本的すぎ、綺麗にキマりすぎで、ウェブだともっと尖っていてもいいのかな? みたいな思いもあります。本物川小説大賞てきにはエッジの立ったものが評価されがちの傾向がありますしね。

 僕としては しふぉんさんの「天使」 くすり。さんの「ヴァイオレントヴァイオレンス」 はしかわさんの「潜水」 にもなにかあげたい所なんですけど。

 雰囲気ものに甘いパンダ。

 潜水、好きですよ。

 さて、銀賞二本の選定なんですけど、ここからは団子っぽいですね。得票ではラブテスターの「午後王」「腕喰い」 でかいさんの「箱庭的宇宙」 ゴム子の「インダストリアル」 が一票ずつ。

 ある意味ここが一番難しいですね。

 でかいさんの「箱庭的宇宙」はいいですよね。ウェブならではのUIをうまく使った構成で楽しさがある。こういうアイデアは本物川小説大賞てきには評価していきたさあります。

 ウェブでの小説大賞ですしね。

 基本的には横書きで小説読むの辛いんですけど、メールっていう形式だと横書きすごい読みやすいですよね。

 読みやすくて文字量を感じさせない。

 そうそう、結果的に10000文字ちかくを読まされてたという感じでした。では、銀賞一本はでかいさんの「箱庭的宇宙」でいいのかな?

 良いかと。

 異議なし。座布団あげたい感じですね。

 (座布団……?)

 ……さて、もう一本ですけど。銀賞三本になりませんかね?(知的怠慢)

 なりません。

 インダストリアルも凄いいいんですよね……書き出しとラスト一行も凄く綺麗に決まっている。

 綺麗にまとまってますよね。話としては序章っぽいんだけれど、ここで終わりで問題ないみたいな。

 どうして母親を殺さなかったんだろう。殺してたらなぁ。殺してくれてたらなぁ。

 メフィスト脳だ。

 僕は構成とか描写力とかの各項目で個別に点数つけて最後に合計で評価つけてるんですけど、実は合計点では全作品中でインダストリアルが一番だったんですよ。読んでるときにはそこまで飛びぬけて印象があったわけでもないのに数値化して合計してみたら一番だったので不思議な感じでした。そういう不思議さがなんかある。総合力てきな。

 そういえばリボーンというかリバースというか、そういうのが多かったですね今回。

 うさみんてい(みたいなウザい名前の人)も抽象的には全てリボーンがテーマですよね。なんかあるんでしょう。二十代中盤に二度目の思春期みたいなのが。

 夏だからかな?(適当)

 夏は腐る。

 季節感で言うと、きのこづさんの「夏の夜に捧ぐ恋文」と佐伯碧砂の「夏の午後、風のサカナ。」も非常に良かったのになぁ……。

 そう! 小学生オブザデッド! すごくよかった! その話がしたい! すごくよかったの! 最後まで! 直前まで!

 意外な結末!!!!

 やめろ!!!! やめろよ!!!!!

 もうほんとそこだけがね……。

 彼は気が狂っていたエンドは徐々に違和感が拡大していくジリジリとした描写が肝ですので、そこは左安倍虎さんの「魂までは癒せない」などを参考にしてほしいです。

 そこができたら、金銀くらいに入ってたかもしれない。

 私ぶっちぎりで大賞に推しますよ。

 「違和感を抱かせつつ先が気になるので深く考えずに引っかかりを覚えながらも読み進める」みたいな状況がどんでん返しをキメるための下地になりますので。下地作り大事。

 そういう意味ではラブテスターの「腕喰い」もすごく良いんですけど、事前にピアスやインプラントなどのモチーフが出てきているとスッと来る感じがあったかなって思うんです。動機の斬新さと、それでいてストンと納得できる感じはいいんですけど、やっぱりちょっと唐突なのと、それを類推するための材料が事前に提示されていない感じで、「ミステリー」と銘打たれるとちょっと違うなって感じ。

 ミステリー部分は正直どうでもいいのです! 新米とベテランの刑事コンビ! 性格の悪い探偵と助手の関係性に萌えてこそのミステリー! 謎?そんなもんは犬に食わせとけ!!!!

 商業ミステリーもだいたいミステリー部分はオマケですからね。まあ、このへんはまだまだポテンシャルを持ってそうという意味で僕のラブテスターに対する潜在的な評価が高いからこその不満なんでしょうけど。

 もっとやれたやろという。銀賞どうしましょうね。

(ごにょごにょごにょごにょ)

(ごにょごにょ)

(ごにょごにょごにょごにょごにょごにょ)

(ごにょごにょ) 

 では、最後の銀賞一本はゴム子さんの「インダストリアル」ということで。

 はい、おめでとうございます!

 おめでとうございます。じゃあ以上で解散ですかね?

 あ、ちょっと待って。ねえねえ有智子ちゃん。

 はい。

 前になんか副賞のイラスト描いてもいいよてきなことを言ってた気がするんだけど本当にやる? やってくれるなら有智子ちゃんが描きたいって思ったの一本選んでもらって特別賞ってことにしようと思うんだけど。

 あ、やります。えっと、じゃあ午後王で。

 オッケー、よろしくね。

 はい、というわけで第五回本物川小説大賞は、大賞 中出幾三「カフカの翼」 金賞 既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」 銀賞 でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」 ゴム子「インダストリアル」 特別賞 ラブテスター「午後王」 に決定しました! おめでとうございます!!

 これにて闇の評議会解散~! お疲れ様でした!

 お疲れ様でした。

 お疲れ様でした。

 撤収~~!

 

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