第六回本物川小説大賞 大賞はたかたちひろさんの「明太子プロパガンダ」に決定!

 

 平成28年11月中旬から年末にかけて開催されました第六回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本が以下のように決定しましたので報告いたします。

 

大賞 たかたちひろ「明太子プロパガンダ  

 

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 受賞者のコメント

 たかたです。たぶん、これがいわゆる明太子パワー、一粒でもピリリと辛いです。ありがとうございましたー!

 

 大賞を受賞したたかたちひろさんには、副賞としてeryuさんのイラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいので勝手に出版してください。

 

 

金賞 ボンゴレ☆ビガンゴ「世界が終わるその夜に」

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銀賞 ポージィ「うんやん」

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銀賞 enju「コナード魔法具店へようこそ」

 

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 というわけで、2016年を締めくくる伝統と格式の素人KUSO創作甲子園 第六回本物川小説大賞、地味な大激戦を制したのはたかたちひろさんの「明太子プロパガンダ」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログとなります。

 

 

全作品講評 

 みなさん、あけましておめでとうございます。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も通算で第六回目となりました。前回は10,000字未満の短編縛りという設定でしたが、やはりちょっと窮屈に感じる方のほうが多いようだったので、今回は上限を20,000字まで拡大しての開催となりました。多少余裕ができたとはいえ、言っても短編の規模ですから、ひとつの主題にギュンとフォーカスして掘り下げていったほうがカチッとした質感に仕上がったのではないかと思います。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回はまたメンバーを入れ替えまして、謎のゾンビさんと謎のモッフル卿さんにご協力いただいております。おふたりとも、よろしくお願いします。

 謎のゾンビです、よろしくお願いします。

 謎のモッフル卿です、よろしくお願いします。

 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めさせて頂きます。さて、それではひとまずエントリー作品を順にご紹介していきましょう。

 

蒼井奏羅 「ハッピーエンドのそのあとに」

 蒼井奏羅さんはわりと毎回、雰囲気のあるゴシックな印象の文体であることが多いのですが、今回は語り部が子供なだけあって、スルスルとした文章が非常に読みやすくていいですね。形式としては一応ドンデン返し型のプロットで成立しているとは思うのですが、それにしては全部を丁寧に説明してしまっている感じで予想は容易なので、あまりドンデン返しの衝撃というのはないです。ドンデン返しを決めるには説明し過ぎてもダメだし、唐突すぎてもダメで、この塩梅というのはなかなか難しいものです。情報をもう少し絞るか、あるいは一人称でありながら比較的客観性の際立つ叙述になってしまっているので、語り部の主観にもっとダイブして認識自体を歪ませる、信頼できない語り部にするなどの工夫が必要かもしれません。もしくは、読者が容易に予測できることを囮にしてさらなる多段ドンデン返しを仕込む、なども有効かと思います。あとこれは個人的な印象なのですが、蒼井奏羅さんは文体と雰囲気にこそ魅力のある方だと思いますので、変に「お話」や「オチ」を意識せずに自由に書いてしまったほうが逆に良かったりするのではないか、みたいな予測もあります。もうちょっと純文っぽいというか文学っぽいというか、そういう系のも読んでみたいです。

 主人公視点で不安定な子供の感情を描き、怪しいオジサンが読者にとってもヒーローに見えてくる。善悪の価値基準の定まらない子供ならではの揺らぎに着目した作品です。主人公の心情風景の描写が上手く、読者にも社会悪とも言えるオジサンの行為を善であるように感じさせます。ただ、タイトルにもあるように最終話でそんな主人公と同化していた読者の気持ちをひっくり返す場面があるのですが、そこを乱暴に投げてしまった感があり惜しいと感じました。例えばもう一話オジサン視点の話をして、彼にとっての真実はこう、みたいなもう一捻りのどんでん返しがあるとか。もしくは、読者が「しぃ君、それ完全騙されてるよそれ!逃げて~~!」みたいな気持ちになる、ねっとりとしたオジサンの気持ち悪い描写を露骨に入れていくと化けると思います。 

 同じ作者さんのハローグッバイを読んだ後にこちらを読んだんですが、 こちらの方が断然いい。 たしかにオチ自体は、1話を読んだ次点でたぶんそうなるだろうなと思いましたが、そんな事がまったく気にならないのは、やっぱりきっちりラストがあるから。そしてその上で、グロテスクな真実があって、そちらはきっちり隠しているというのが良い。ああ、ハンバーグってそういう、と立ち戻ると、さらに最悪の読後感が味わえる。でも文字数が短いからさらりと読める。これはハローグッバイよりしっかり噛み合った感じがしました。 

 

蒼井奏羅 「ハロー、グッバイ」
 続けて蒼井奏羅さんです。こちらもプロットとしては成立しているのですが、かなり駆け足の印象が否めず、すごい速度であっという間にエンディングまで行ってしまうので喜劇的な印象が強くて、意図としてはたぶん悲劇であるはずのラストもわー思いっきりいいなーみたいな感想になってしまいました。単純に、もうちょっと全体の分量を増やして細部を描写して、読者を語り部にしっかり移入させたほうがいいのかなと思います。入りの数行は毎回すごく雰囲気いいので、課題はその雰囲気を維持しながら長距離を走れる体力と集中力でしょうか。同じプロットでも描写の解像度と文体の鮮やかさだけで魅せていくことは充分に可能なので、次に紹介する百合姫しふぉんさんの文章などはとても参考になるのではないかなと思います。

 同作者の応募作品「ハッピーエンドのそのあとに」と同じく、社会悪とされる人物の内面を被害者の立場から描き、それに読者を同調させていくという仕掛けがされてます。作者の文体は読みやすく、スラスラと筋書きが頭に入ってきます。ただ、書きたい事だけを流れるように並べてしまい、没入感がいまひとつ得られないまま終わってしまう点がもったいないので、加害者と被害者である二人の関係性が深まっていく描写をもっと足すなどして、女装がバレたら人生終わりっていう主人公の焦りの理由をもっと細かく描写すると、加害者が理解してくれた事への彼の幸福感も数倍増しでブワッと伝わってくるはずです。個人的には、今回応募された二つの作品の主人公を同一にして一つの作品にまとめるなどすると、ああもうこれたまんねぇなって感じになると思います。あと女装って良いものですよね(鼻息) 

 6300字で終わりまでもっていったのは素晴らしい。限界までそぎ落とした感じがあって、個人的にはすごく好き。正直、つけた点数以上に他の人達の作品よりよいと思っているんですが、その理由は、やっぱりラストがちゃんと描けている、これが終わりだよと読者に対して提示している(唐突でも)からだと思います。ただし、やっぱりラストの唐突さは否めないというか、もうちょっとエピソードがあってもいい。最終話の前に1話、唐突にさせない仕掛け(伏線?)が500字でも1000字でもあったら、僕は構成にかなり高い点入れてました。

 

 姫百合しふぉん 「星々」
 姫百合しふぉんさんもゴシックで重厚な雰囲気のある文体に定評があります。前回はちょっと捻りの効いた変化球でしたが、今回はまた原点回帰というか、従来通りの横暴な美少年に堕ちていく男の話です。騎士道などではゴシックな文体はそのままに絵的なコメディ要素が異物のように混入していて、なんとも言えない違和感を含んだおかしみがあったのですが、今回はそういった奇妙な異物感などもなくプレーンな美少年小説。賢者と王という設定のため、姫百合しふぉんさんがこれまでしつこいぐらいに描いてきた美が持つ理屈に対する優位性みたいなものをそのまま登場人物が議論するので、メッセージ性がかなり素直に出てきています。分かりやすくはあるのですが、個人的な好みとしては登場人物たちの議論によってそこが語られるよりは、蒐集癖の見せかたのほうが含みがあって好きかなぁ。

 美しくそれでいて流れるように読み進められる不思議な作品でした。賢者の一人称で進む固めの文体プラス作者の卓越した描写力によって一気に物語の世界観に引き込まれます。一見すると何も語られていないに等しいはずの国政に関する部分が、とにかく王によって成り立っているのだという謎の説得力は、作者の描写力のなせる賜物でしょう。一度作品世界に没入すれば、話はもう流れるように美しくも残酷な王によって、真面目な賢者である彼がどこまで変わっていくのか、二人の行く末を想像しつつワクワクしたまま読み進められます。文体と表現の幅の広さだけで既に勝っている作品です。ただ、一つの小説として冷静に見ると構造が単調に感じられたので、彼ら二人の関係の背後にもうワンフックでも仕掛けがあれば、ワンパン失神KOが狙える作品になると思います。 

 賢者の独白で始まるストーリー。自分の仕える王をもとめ出会ったのが凶王だった、戸惑いながらもその凶暴さの魅力から離れることができず、やがて……と言う話。王様のキャラクターは好み。王と賢者のみに肉薄したお話にしている構成もポイント高い。同性愛部分は苦手だけど、生々しい部分は好きな人にはたまらないと思う。文章の長い後半は賢者の独白、心理描写に偏りすぎているきらいがあると思う。個人的に同性愛セックスは苦手だけれど、その辺あと2000字~3000字くらい使って愛し合う部分をきっちり描いて振り切っちゃってもよかったのでは。(この辺はもう好みの世界なので、そうした意図や別の理由があれば申し訳ない)

 

 

大澤めぐみ 「ふわッチュ!」
 「ふわッチュ!」は芳文社まんがタイムオリジナルで連載中の漫画「部屋にマッチョの霊がいます」の1話の1コマ目に登場する架空の主人公の推しアニメです。漫画では作中作として主人公のセリフの中でちょいちょい登場するぐらいなのですが、せっかく絵があるのでどうせならなにか話を書いてみようみたいな企画。瓢箪から駒がどんどん出てくる。

 目に襲いかかる濁流、ぎっしりとした文字の嵐。もはや作者の名刺代わりになったこの作風が、本作でも上手く効いています。読者に考察の隙を与えずに、ダダダダとマシンガンのように脳直で打ち込まれる文字の弾丸。その為、読後に押し寄せる余韻の波の高さは相当なもので、今回も読んでいてブワワッと肌が粟立たされました。是非この技術は積極的に盗んでいきたいですね。人間無理部という、一見変わった部活動に所属する女の子三人。彼女らのふわふわ日常ものかな?という導入部を裏切るように、非日常がすんなり登場する急展開、そして彼女達にとっての日常光景が、テンポよくある意外性に向かってノンストップで進んでいき、読者の脳を気持ちよく揺らした所で突然、目の前であっさり終わってしまう物語の締めも美しかったです。個人的には、この話を導入とした彼らの日常ものとか読みたいなぁって思いました。むりぶっ! 

 濃い。相変わらずの濃密な文体。大澤文学の骨頂みたいなものを感じます。脂ののった安定した書きぶりには唸ることしきりですし、その反面、ストーリーもキャラクターもアッサリ目に作ってるのが、こうスープは豚骨コッテリだけどするっといける細麺とネギいっぱいが嬉しいっていうラーメンを食べてる感じがしました。ただ、これはそうだよと言われてしまえばその通りでしかなく、個人の好みの問題だけど、ぽんぽん謎の設定が飛び出していって、これは何だって思わせる暇も無くハイスピードで進めていくことの面白さは、何かの拍子で噛み合わなくなると「うん?」ってなって止まってしまう。つまり読み止めると何もかもが分からなくなる危うさがあって、実のところぼくは何度も何度も脱落して、そのたびに長い段落の最初から読み進める事を繰り返してしまい、そのたびにかなりのしんどさを伴うことになってしまいました。たとえば、キッチュなものが大好きなふわり、というところにフォーカスするのなら、どこの何がキッチュなのか、1段落使って語らせてもいいと思うんです。そういう所で段落を分けてほしいというか、おいしいラーメンなんだからちゃんと素材の紹介をしてほしい、「なるほどふわりはこういう女の子なんだ」という余裕を読者にくれるとスープや麺それぞれの味わいを自分のペースで噛みしめる事ができるんじゃないかと思いました。 

 

こむらさき 「お気持ち爆弾」

 胃壁がキュン! でおなじみのこむらさきさんです。今回も例の14歳年上の同性の彼女を持つミサキくんの話。「責任を取らないといけない」というミサキくんの呪縛に対して「責任取る必要なんかない」という気付きが与えられる、というところが今回の進展。その遅々とした進展(?)を除けば毎度のテンプレ展開ではあるので毎度毎度よく飽きないな……という感じになってしまいますが、実際飽きないというか懲りない人なんだろうな……。思うんですけど、このシリーズ一回エピソードを全部書き出してまとめて把握して中~長編としてイチから再構成したらかなり強度のあるものに仕上がるんじゃないかと。文体も当初に比べると格段にこなれていて小説らしくなってきているので、一度「初見の人でもコレだけ読めば全て分かる!」というような独立した小説に仕上げてみてはいかがでしょうか。テーマとしては文学にまで昇華しうるポテンシャルを持っている非常に強い作品だと思いますし、お気持ち爆弾という語も非常に力強く、ミサキくんの中にある爆弾の描写などをモチーフとしてフィーチャしていくと面白味がさらに出るのでは。ネタ枠といういつの間にか気付いてた自分らしさの檻をそろそろ壊すタイミングじゃないですかね。

  ミーくんとミカさんの胃痛爆弾物語です。ミサキくんの心情の描写は、まるで実際に体験してきたかのようなリアリティが溢れていますね(白目)。 彼の心の葛藤と苦悩がメインに描かれているので、読者はミサキくんと同化して苦しむ事だろうと思います。この後の二人の展開が大変気になる所です。どうか二人が無事着地点を見つけて、ハッピーエンドを迎えて欲しいものですが……。 一点気になる部分を挙げるとすれば、これは物語の性質上なのかもしれませんが、小説というよりはミサキくんの独白録の形式になっているので、例えば視点をミカさん視点に変えたりするなどして、二人に見えている別々の世界のギャップを見せつける等したら、小説として更に面白くなるかもしれません。過去の思い出の昇華だけでなく、そこから新しい何かを掘り出すなどして、作者自身の胃にも、思いもしなかった穴を開ける勢いで書いていくと、確実に面白くなると思います。それ以上は無理っていう展開をぶち込んで、読者の胃を穴だらけのザルにしてやりましょう。 

 こむさんの私小説、個人的には大好きだし、文章力もあってイメージしやすくて、キャラクターの濃さがあるんですが、リアルな人を登場させてどうしたいのか、というのは、根本としてある気がしています。お気持ちを爆発させるおかしな人がいる。その「おかしな人がいるよ!」という呼び込みのあと、読んでる人をどういう風に面白がらせたいのか、そういうコントロールをしてくれると、読者としても嬉しいです。踏み込んで言えば、これはこむさんというパーソナリティを知ってるからこそ面白いのであって、一見さんがフラっと読んだ時に「へー」っていう感想しか出て来ないんじゃ無いのかとおもう。そう考えたら、キャラクターはもっとデフォルメされていいと思うし、「実際にいた人」という前提を取っ払ったっていいと思いました。

 

 蒼井奏羅 「バブルガム」

 また蒼井奏羅さん。えっと、未完でしょうか。ちょっと現状ではまだなんとも言えない感じです。

 

 久留米まひろ 「そんな、わたしがしたいのは恋愛ファンタジーなのに・・・!」

 いったん投稿したものを気分次第で出したり引っ込めたりしないでください。闇の評議会はそれぞれに自分の作品の進捗も抱えている中で限られたリソースから捻出してあなたの作品を読み真摯に講評をつけています。人のリソースを無益に割く非常に不誠実な行為だと思います。以降の本物川小説大賞では一度投稿したものを取り下げることを禁止する条項を明記しようと思います。以上です。

 

 ヒロマル 「彼女が誰かと問われても彼は、サンタである彼女の本当の名前を知らない」

 不測の事故で撃墜してしまったのが実はサンタの女の子だったという定番ボーイミーツガール。以前の戦隊レッドの時もそうだったのですが、三連ミッション形式が好きですね。週間連載っぽさのある体裁。ただ、戦隊レッドの時は最初はぎこちなかったふたりの距離感が三連ミッションをこなすうちにだんだん近づいていく、という演出だったのに比べ、本作においては最初の時点でふたりの間にある程度の信頼関係が構築されており、本当にただ三連ミッションをこなしただけみたいな感じもあって、必然性みたいなのが弱いかなぁと思いました。今回は謎解き要素もありませんし、そういった点でも比較すると戦隊レッドのほうに軍配が上がる。ラストの「だ~れだ?」なども、もうちょっとサンタの女の子が世間知らずでマニュアルで対応してるんだよみたいな仕込みがあればさらに活きた気がします。充分完成度は高いのですが、作者の他の作品を知っているぶん、もっとできるだろうと欲が出てしまう感じ。起爆装置さんみたいなワンアイデアのエッジで勝負するタイプだと多少粗削りでもカバーできてしまうのですが、ヒロマルさんの場合はあまり尖ったプロットではないので完成度で勝負していく感じになってしまいますね。

 過去に本物川小説大賞の受賞経験もある、ヒロマルさんの作品です。完成度が高く、クリスマスを題材としてサンタクロースと主人公の心の交流を主軸に、プレゼントを各家に届ける彼らサンタクロースとしての任務が一話ずつ描かれています。ひとつずつの話を積み重ね、最後に二人の間に生まれた絆がどうなるのか、という構造です。何のストレスもひっかかりも無く読ませる軽妙な語り口は、流石に熟練のそれを感じさせます。ただ、読みやすいがゆえに更なる欲が出てくるのが読み手の心情というもの。取り扱う題材が分かりやすい為、読んでいてひっかかりがなく、綺麗にまとまりすぎている感があります。しかし逆に言えば、その一点さえ突破してしまえば、高い文筆力と相まって誰も追いつかない高みにスイスイ飛んでいく予感もします。そう、まるでサンタクロースのようにね。 

 ……(驚いたような顔でゾンビをじっと見る)

 作品として読みやすくて、しかも読後感が爽やか、という、短編小説としては本当にきっちり収まる所に収まった感じの作品でした。でもそれだけに、もっと読んでいたい、ミッションが過酷になるほど、寝てる子供との絡みとか、そういうエピソードが生きるだろうな……読んでみたいな……とか思いました。 

 

 ポージィ 「うんやん」

 うんこです。比喩や罵倒ではなく普通にうんこ。それも非常に高い知性と教養から繰り出される極めて画素数の高いうんこです。なんなんでしょうかコレは。一発ネタかと思いきや意外と世界観がしっかりしているし語り口も軽妙でヴィジュアルてきに不快であることを除けば読みやすいし正しい医学的知見もあるしで謎に筆者の学識の高さを感じさせます。でも本当に不快でしたね。なんでしょうか、これも闇の評議会を狙った新手の攻撃でしょうか。できれば本当に大賞取ったりとかはしてほしくないんですけど、ねえほんと、お願いしますよ。

 聞いて、これ凄い。何が凄いって、まず臭い。文字なのに、くっさい。あと汚い、文字なのに汚い。しかも喋る、臭くて汚い大便が喋る。もうこれだけで強い、全てにおいて圧倒的な強さを持ってる。最初のアイデアが既に狂っている。まずはアイデア勝利。しかし、これは大便の擬人化というだけのワンアイデア勝負ではないのだ。彼、主人公うんやんは、人間から排出された大便でありながら、自我を持ち、そして六道輪廻を繰り返している。更にその全てが大便に転生という運命にありながら、それを当たり前のものとして受け入れている。いや、楽しんでさえいるのだ。そのどうしようもなく絶望的な彼の境遇を独特の口調であっさりと描き、その終わらない大便としての無限の生を描く、作品の圧倒的なスケール感にまず脱帽だ。そして何よりも特筆すべきは、その描写力の高さ。一話のピーナッツの下りでは、僕の胃の中の麻婆丼を逆流させかける程の地獄のような光景が、丁寧に丁寧に、それは事細かに描かれており、心の底から作者の正気を疑った。うわ、今思い出しても鳥肌が立ってきた。あ^~本当最高。最高にクレイジー。輪廻転生する大便、その仕掛けを使った物語自体も、綺麗に一本道ならぬ一本糞にまとまっており、爆笑しながら読み終えました。皆さん、これぞ糞の投げ合いで世間を賑わす本物川KUSO創作界隈を象徴する作品ではないでしょうか。違いますか、そうですか。一旦トイレ行って、頭冷やしてきますね。 あ^~ 。 

 大賞です。

 勝手に決めないでください(激怒)

 本物川小説大賞の「KUSO小説」っていうのは、正直こんなクソみたいなっていうかまんまクソをクソ小説って言ってるわけじゃなくて、周りにはクソみたいなものかもしれないけど、自分にとっては最高だから読んでねという意味なのですが、ここまでクソというものをがっちりと構えて垂れ流したというこの作品の受け止め方がわかりませんでした。輪廻という謎な壮大さと、巡り巡ってみんなのウンコになるっていう下世話な話を謎の広島弁で語られていくストーリーは、喩えるなら、「最初の30秒読んで脳天をナタか何かでかち割られた後、もう自分としては死んでる、やめてくれと言ってもさらに獲物を求めて彷徨う全裸のおっさん」に出会ったとでも言うか、モリモリの設定なのに何も嫌味っぽくないしうんこくさくないこの筆力に思わず衝撃を受けました。正直、この感想を書いてるのが2017年のはじめての仕事だというのもかなりつらいのですが、これは衝撃でした。 

 

 左安倍虎 「黄昏の騎士」

 重厚で骨太な王道ハイファンタジーですね。魔法の興隆によって騎士による戦いが過去の遺物となった世界での騎士道の話。左安倍虎さんもヒロマルさんと同じで、あまりプロットてきに尖ったところはないので完成度で勝負していく感じになってしまうのですが、確かに完成度は高いんですけど、う~んみたいな。だいたい毎回、王道ファンタジー世界にひとつフックを入れてくる感じで、本作では魔法(呪法)のほうが優位の世界っていうのが特徴でしょうか。でも易水非歌の羽声や聖紋の花姫の調香に比べると画的にはちょっと地味かもしれないですね。聖紋の花姫はイラストの効果もあるのでしょうけど、画的な華やかさがあってよかったんですけど。言ってみればミサイル開発初期の戦闘機不要論みたいな話で、そこに旧来の戦闘スタイルにもまだ必要性があることを主張していく、みたいなのがメインのプロットかと思ったのですが、戦術論をマニアックに詰めるという感じではなく騎士の生き様みたいなところに回収されてしまったので、多少の延命がなされただけでこのままだとやっぱり騎士道じたいは先細りなのかなぁみたいな、モニョッとしちゃう。

 しっかりと練り込まれたファンタジーの世界。時代遅れの騎士団と、それに代わって台頭してくるイヤミな呪法使い達。彼らの微妙なパワーバランスを見せる所から始まる今作。物語の強度が非常に高く、出て来るキャラクターの個性もひとつひとつ立っており、登場人物達の普段の生活、立場や苦悩がひしひしと伝わってきます。騎士達が呪法使いをやっつける単なる勧善懲悪ものではなく、軽視されながらも、その名誉の為に最善を尽くし、自らの名誉も命も犠牲にして忠誠を誓う、高潔で尊い騎士道精神を物語の根幹として描いています。その主題を演出するのが、仲間の裏切りと攻城戦のくだりですが、二万字という制限を全く感じさせない濃密なもので驚きました。ここまでの世界観で、どの場面の解像度も落とさずに描ききる基礎力の高さは見事としかいいようがありません。物語を引き立てるサブキャラクター、二百番目の騎士の使い方も上手く、読後に良い作品を読んだという確かな満足感がありました。不安定な部分もなく、最後まで安心して読める良作です。 

 軽いめの話が続いたところで、硬派なファンタジー小説が来たので「おおっ」と前のめりになりました。左安倍さんの作風が光る感じ。やっぱり何度も読んでるひとの作品って違う内容でも分かるもんだなぁと。ストーリーも非常に楽しめました。ただやっぱり硬いというか、どこかでダレでも入れる入り口が欲しいとも思いました。たとえばビジュアルに訴えかけるシーンがあって欲しい。呪法のシーンももっと派手にやっても良かったかも。たぶん自分の評価では、20点台後半の人達って、もう実力としては十分にあって、あとは好みの問題だと思うんですが、そこから先、僕が気持ちとして評価するとしたら、これを誰かに読んで貰いたい、という気持ちにさせるところだと思うんです。画が浮かび上がるよとか、ワクワクするとか、泣いたとか。この「黄昏の騎士」も、そういうポテンシャルはまだまだいっぱいある。そういう心を動かすものがあって欲しいと思いました。

 

 ロッキン神経痛 「さきちゃんマジで神。」

 掴みの一文はすごく強いですね。ダラダラ喋る感じの思考垂れ流し系一人称は個人的に好みなのでそれだけで評価高いです。でももっとダイブできるよ。自分の自我を完全に解脱してもっとわたしになりきろう。ちょっと文字数に対してスケールが大きすぎた感じは否めず、それでいて前半の日常パートで結構な文字数を消費してしまっているのでさらに後半はバタバタしています。なんとか最後はしっかりと話を畳んではいるんですけれども、最後だけ視点がさきちゃんに移るのはちょっと唐突な感じが否めないかも。もうちょっと構成に工夫というか、単純に計画性があるとなお良いのかなと思います。プロット大事。でもラストの絵はかっちょよさがあっていいですね。ロッキン神経痛さんは本当にこういうところがあるんですけれど、ちょっとした欠陥もラストの華々しさで挽回しちゃうみたいな。右手のペンと左手のアップルをンン~ッ!ってアッポーペンするのが上手い感じ(伝われ)

 まず二万文字の規定に対して、物語が大きすぎます。思いついた世界観の一部を切り取って見せるならまだしも、強欲にも広い範囲を全部書こうとしているのでしょうか。完全にキャパシティオーバーで、後半の展開と場面の転換が粗く、駆け足感が目立っていました。ただ、さきちゃんという既存の作品概念に、ちょっと奇抜なアイデアを付け足して別物にする発想自体は面白かったので、これを一つの材料として、懲りずに次の作品に活かして頑張っていって欲しいと思いますね。はい、頑張っていきます。 

 作者を変えたさきちゃんシリーズ?なんですかね。1話の前半部分からグイグイ引っ張られる感じで、読み進める楽しさがあります。さきちゃんはさきちゃんだった~と比べると、ファンタジーの面白さの方に倒した上で怖い部分が圧倒的に薄れていて、ライトで好感の持てる作りという、なるほど似たような素材でも作者によって全然違うんだなという気持ちにさせてくれました。ハピネスでカプリコを選ぶシーンはたぶんこの作品の中でも一番印象に残りましたが、この手の改行せずにモリモリと書いていくスタイル、実は読みづらくて苦手なんですが、これはすっと読めた。この辺はやっぱり描写の妙味なんでしょうか。

 

 くすり。 「ちるちるみーちる」

 あ、つらい。コンチェルトどうなっているんでしょうか。ちるちゃんとみーちゃんの会話だけで構成された会話劇。特にこれといった展開もオチもなく、終始掛け合いだけで進んでいきます。なんていうか、はい、本当にそれだけです。僕はただただ悲しい。

 「何だこれは、これが名誉ある本物川大賞受賞者による作品だと言うのか。」ホンマタ・ノムワ三世(西暦一世紀前半~没年不明)

 まず、くすりちゃんさんは、文才が脳みそからところ天状にはみ出してそのまま農協に顔写真付きで出荷出来るくらいあるんですから、この作品を提出した事をちょっと反省してください。僕が言うまでもないとは思いますけど、糞創作の糞というのは一種の揶揄であって、肛門からひり出したそのまんまのホカホカの糞を「はい、糞を召し上がれ♪」って満面の笑みでお皿の上に盛ってこられてもですね、おおこれはこれは……糞でござるなヌホホ!としか言いようがないですよ。次回、ちゃんと講評できる糞創作、待ってます。 

 会話文でのスキット、寸劇を中心にした作品でのガールズトークくすりちゃんの得意分野なのかなーと思いながら読んでいましたが、ねっとりした描写をばっさり切り取り、会話で読ませる作りにしている。ただ、掛け合いのテンポはもっと気をつけた方がいいんじゃないのかなと思いました。敢えて言えば、ちょっと白々しい、上滑りな部分がどうしてもひっかかる。こういう軽い話を2000字ちょっとで終わらせるのって難しいけど、最初から滑ってしまった感がある。正直、惜しい。もっとやれたはずだろうに……とかも思っています。次出してもらえるのなら、是非期待したい。 

 

 黒アリクイ 「成長痛」

 親元から独り立ちした社会人が帰省するかどうかで悩む話。なんていうか、つらつらとしていてちょっとボケてしまっている感じはありますね。自分がそのテーマでどこにフォーカスしたいのかという意識をもう少し強く持つとクッキリとするのかも。こういった文芸的な題材はエンタメよりもさらに素の文章力や描写力というのが求められるので、単純に文字数が少ないといった問題もあります。もっと丁寧に語り部の心理に寄り添って描写していかないと、たんにこういうことがあったんだよねで終わってしまいます。

 帰省を題材にした、主人公の葛藤のお話。全体的に味付けが淡白で、小説というより日記に近いように感じました。描写力はあるので、起承転結の部分に思い切った調味料をごっそり入れて、読む人の舌にピリリと響く味付けをしていくと良いと思います。思い切り突飛な設定をねじ込んでみて、それをどうコントロールしていくか、など試行してみると、思いもしない金脈にぶち当たるかもしれません。今後に期待です。

 何気ない日常、何もない世界を「ものがたる」というとき、過剰に山や谷を付け足して、日常でなくしてしまうこと、あるいは作品よりも淡々とした雰囲気や、自分の頭の中に浮かんだ話でまとめてしまおうとすることで、作品としての転がし方に失敗して、日常を淡々と語るのではなく、平板にしてしまう、何の面白みもないものにしてしまうことはままあると思います。黒アリクイさんの「成長通」は、面白くする素材はいくらでもあると思う。帰省するかしないかを友人と友人の姉の二人に代弁させ、揺れ動く心と、その決断と顛末というアイデアはいいけど、もっと「主人公の決断」に対する心理の掘り下げ方があったんじゃないかなと思います。主人公がコイントスで決める事への決断があってもいいと思う。二人に言われた後にコイントスで決めたシーンがあっさりすぎるのはとても勿体ないと思う。もっと、エイヤで決める事への心理の移ろいみたいなものがあっても良かったと思います。 

 

 不動 「弓と鉄砲」

 立花宗茂黒田長政による弓と鉄砲での勝負の話を、昔話として立花宗茂が秀忠に話して聞かせているという体裁。実際の歴史的逸話をベースとしているのでコレといったエンタメ要素はないのですが、やさしい感じの語り口が軽妙で魅力的ですね。不動さんはだいたい毎回異常なまでの質感を持ったメシ描写で読むメシテロをブチ込んでくるのですが、今回はメシがないのでその加点がないです。習作としてはこういうのも良いと思うのですが、もうちょっと「ココを見せたいんだ!」ってところがクッキリしてるとよかったかも。

 弓と鉄砲の使い手同士の腕比べを描いた作品。かなり固めの文体ですが、その文筆力の高さもあり、映画を見ているかのように語り手と実際の腕比べの場面が交互に浮かびあがりました。ただ、物語の語り手が何度か交代する演出が見られるのですが、そこにあまり必然性が感じられず、ちょっとした違和感程度で終わってしまっています。話者を交代させるのであれば、彼らに関する描写(この物語を何故語り継いでいるのか等)があると更に良くなると思います。一連の話は結末も綺麗に収まっていたので、面白く読ませていただきました。  

 実際にあった立花宗茂黒田長政の弓と鉄砲の腕比べを換骨奪胎して、戦国武将達にその出来事を語らせる、という試みは大変面白かったと思います。文章もすっきりしてて読みやすい。構成と文体にリソースを割いておられたなら、まさに勝利だと思います。ちょっと惜しいなって思ったのは、1話と2話ではちゃんと語らせる戦国武将のキャラクター付けがあったんですが、3話からは語り口調を変えた程度に感じられて、もっとその辺は工夫できたというか、たとえば各キャラクターの気持ちや見方が分かるような「脱線」を入れても良かったのではないかと思います。(各武将は弓と鉄砲、どっち派だったか、とか) 

 

 たかた 「明太子プロパガンダ

 ご新規さんです。タイトルの語感がまずいいですね、明太子プロパガンダ。なにかあると思わせておいて明太子プロパガンダじたいは特に絡まないんですけど、なんか良い感じ。基礎的な文章力が非常に高いです。お話としては特にこれといったことはなく明太子売りの日常を綴っていっている感じで、いちおう職場の嫌な感じの上司が実は……みたいな展開もあるんですけれども、実は~が判明してもやっぱり普通に嫌なヤツなんですよね。別にそれで心象が良くなったりはしない。これだけの分量を割いて変化といえるのは「なんか分からんけど主人公が今の自分自身に対してちょっと肯定的になった」という半歩程度の緩やかなものなのですが、これぞ文芸という感じです。なにがきっかけで、などの明確な一対一の関係性で成り立っているものではないので、結局はそれを見せようと思うとこれだけの分量を使わざるを得ないのですね。黒アリクイさんのところでもうちょっと丁寧に分量多く、みたいな話をしましたが、それをきちんとやるとコレになります。じわっと来るようないぶし銀の良作。

 主人公の心情が丁寧に描かれ、彼女の抱える悩みとモヤモヤがそのままダイレクトに伝わってきます。何て事はない日常生活の中で起きた、ちょっとした事件とそれによる変化。彼女の視点になって読んでいると、自分の中にもある、もしくは必ず一度はあっただろう、自分とは何かという恒久的な問いを呼び起こさせられました。作中、イヤミで浅はかな人物として描かれる寺島さんというキャラクターの根幹を、全くブレさせる事無く別人のように感じさせる演出は、作者が高い技量を持っているからこそのもの。作品の解像度が高く、地力があると小さな日常をテーマにした作品も、こんな重厚なものになるんだなぁと感心させられました。奇をてらわない、真っ向勝負の良作です。  

 実は「日常系」、それも現実離れしたものをフックにしないものって、書くのがとても難しいと思っていますが、ちょっとおかしみのある文体で、とはいえ淡々と日常を描いていく中、明太子売りの女性の日々を描いて、最後までつっかかりもなく読み進めた上で、ちょっと面白さがあって、それでいて変に訴えるところがない。これがめちゃくちゃむずかしい。ちょっとすると変なテーマを入れたり、あるいはテンポ作りに失敗したり、山と谷を作るために妙にラッキーを作ったり主人公を無理に陥れたりする。そういうのをせず、ひたすら平板なのに、お酒を飲んだり、一人でさめざめ泣くだけの食品売り場のお姉ちゃんの日々を読むだけなのにどうしてこんなに面白いのか。それを実現されているたかたさんの作品は非常に文章力が高いと思っています。個人的に大好きな部類です。これはつらつら読んでいきたい。

 

 ボンゴレ☆ビガンゴ 「世界が終わるその夜に」

 ご新規さんのビガンゴ先生です。ネタとしては去年に大澤が書いた「クリスマスがやってくる」と完全にカブッていて真正面からのガチンコファイヤーボール対決に。同じネタとはいえ見せていきかたに違いがあるので、両者を比較してみるのも面白いのではないでしょうか。ビガンゴ先生は他の小説だとラノベを意識しているのか高校生ぐらいの年代を主人公にしたものが多い気がするのですが、こういった大人の恋愛を描かせたほうが上手くハマる感じがしますね。ツイーター上での芸風もピエロそのものですが、普通にオシャレな感性を持っているので自分では気障すぎるかなって思うくらいにカッコイイものを書いちゃっても全然大丈夫なんじゃないかと思います。上中下の三話構成で特に下に入ってからの語り部へのダイブ感がすごくて普通に心が揺さぶられました。ただ、あまりソリッドな質感を出すと色々と気になってしまうタイプの設定だと思うので、中の説明的な部分がちょっと余計だったかなと思わないでもない。語り部の性質的にもそのへんは曖昧にかっとばして終始もっと主観にダイブしていってもよかったかも。いずれにせよ間違いなく大賞候補の一角です。さすがビガンゴ先生!

 個人的に好きな終末世界を描いた作品の上、イキの良いジジイが出てくるので、なるべく冷静を心がけて評価したいと思います。まず、終末世界にありがちな、略奪・殺し・自殺などの、いわゆる闇の部分を描かないのが、作品にとても良い効果を出していると思います。少し関係の冷めた恋人同士、世界の終わりまで通常営業を続けるマスター、誰も居なくなった水族館で一人働くおじさん。どの登場人物も、何らかの葛藤が終わった後のさっぱりとした悟りの中にあり、絶望の中で絶望していません。だからこそ、舞台装置としての終末が存分に活きているのだと思いました。もしもこの中に、葛藤のまま終わりを迎えようとする人物が一人でも居たら、きっとこの作品の持つ空気は壊れてしまうことでしょう。だからこそ目立つのが、「中」でのとってつけたような世界観の説明の荒さです。恐らく、既に終末を受け入れ終わった、ある意味達観したキャラ達を動かして、台詞の一端で匂わすだけで、読者はその背後にあるものを汲み取ってくれるのではないかと思いました。あの説明をしている感が、作品にある終末の心地よい空気感をチープなものとしてしまっている点が、他が大変良いだけに気になりました。結末に至る部分は、その点を補って余りあるほど良かったです。あえてその後を書かないのも、美しい余韻となっていました。  

 実はボンゴレさんのは前もっていくつか読んでいたんですが、正直いって、どんなジャンルでも展開が淡々としてて、会話文も「読めなくはないけどただ続く」という印象が強くて、山や谷がない、「おっ?」と思わせるフックがない、話としては平板だなという印象でした。 ボンゴレさんは、「物語が予期しない方向へ転がしていくことを抑える」事がクセとしてあるんじゃ無いかと思ってました(僕も言っててなんですが、予期しない方に行くとお話が簡単に破綻してしまうから危険ではありますが)。それを前提にした上で、今回の「世界が終わる」という設定は、ボンゴレさんの文体とすごく合ってた。世界が終わる、という設定を最初に持って来たので、まず読者としては「本当に終わるのか?」「ハッピーエンドで終わらないのか? まさかハッピーエンドか?」という予想を立てながら読む、裏切られないかという緊張感が出る。だから一文ずつ集中し、その都度想像していく。没入感が出てくる。こうなると、文章が平坦でも、それが失ってしまう日常への寂寥やいとおしさみたいなものへと感じられてしまう。これはもう設定の完全勝利だと思います。ただ、敢えて言えば、今回の設定が意図したものであったとしても、平坦な文章をどう変えていくのか、という部分において、文章の地の力としては課題があると思ってます。 

 

 不死身バンシィ 「ホホホ銀行SF」

 みずほ銀行の勘定系新システムがいつまでたっても終わる見込みもなくて現代のピラミッド化している、というところから着想したSF小説横浜駅SFてきなレトロサイバーパンクな世界観なのかと思ったら完全に世紀末救世主のほうでちょっと戸惑いました。いちおう話の筋としてはパンクな世界の中で、世界がそのようになってしまった原因に行きつくという、それ自体はオーソドックスな形式なのですが、そもそもタイトルとあらすじ欄で銀行の合併のゴタゴタが原因で世界はこうなったっていうことは明かされているので、そこに帰納していく筋だと作中の登場人物にとっては意外な真相なのかもしれませんが、読者にとっては「お、そうだな」で終わってしまうところがあります。そこは演繹的な筋のほうが良かったんじゃないかなと。細やかなバカバカしいコメディ描写には定評のある作者なので今回も途中途中で細かく笑っちゃうところはあるのですが、物語の大枠の組み方をちょっと間違えたのかな? みたいな感じがあります。

 タイトルから、某メガバンクを連想させるSF作品です。三話で構成されており、荒廃しきった世界をそれぞれ別視点から描いています。独自設定のAIを持った戦うATMというアイデアが光っており、彼らと戦い地域を制圧、取り戻そうする傭兵達のキャラも良く、息をつく間もなく読み進められました。全てを犠牲にしながらも戦い続ける彼らの熱さが伝わり、とても良かったです。そして二話三話では、ホホホ公国について、この終末的状況に至るまでの経緯が語られるのですが、一話の世界の被支配者側から支配者側の視点に切り替わる為、作品の空気感が一転します。二万字の文字数内では、このテンションの上下が激しく感じてしまい、没入感の低下に繋がっていると思います。ただ、本気で書こうとすると短いですよね二万字って。対策としては、この際書きたい事は我慢して、地の文で世界観をサラリと説明しつつ、戦闘を濃密に描く等すると綺麗にまとまるかなと思います。 

 この作品は本当に読むのが難しかったです。たぶん不死身さんも迷ったんじゃないかなと思います。某駅のSFと某青い銀行のトラブルという素材を使ってパロディに行くのか、シリアスで行くのかの判断、その上での文章の量……そういうものを悩みながら進めて行くうち、オチに着地できずに終わってしまったという感じです。個人的に不死身さんはふだんから長い話をかける力量があると思ってますが、ここではむしろ、なまじ長い話なぶん、話がくどくて悪い方に作用してしまった感じ。パロディなら勢いだけにして短いお話ですっぱり切った方がよかったかもしれません。 

 

 今村広樹 「good-bye wonderland」

 えっと、ちょっと分かりませんでした。かなり特殊な叙述の仕方がなされているので、これによってなにか作者が狙っていることがあるのかもしれませんが、少なくとも僕には伝わってないです。僕が分かってないだけでなにかあるのかもしれませんから、それで即ち失敗とは言いませんけれども、なんなんでしょうか。

 全体的によく分かりません。単なるプロットの書きなぐりメモじゃなくて、人に見せる意識を持って書くと、やっと小説になると思います。身近な人に冷静な目で読んでもらうか、自分で音読してみて下さい(怒) 

 これもオムニバス形式で何かのテーマが浮かび上がってくる感じですが正直何を書きたいのか全然わかりませんでした……断片が断片過ぎて……。理解でなく感覚でつかんだ感想をするなら、ここまで文章を削ってもキャラクターが浮かんでくるというのは今村さんの潜在的なポテンシャルは高いとおもいます。何かの雰囲気をイメージとして浮かばせる事に成功した、次はストーリーを作って、ぜひ、このイメージの流れを作ってくれると嬉しいと思います。

 

 芥島こころ 「さきちゃんはさきちゃんだったって話」

 またさきちゃんです。さきちゃんがどんどん謎の象徴化していきますね。どんどんやっていきましょう(?)。体裁としては不思議の国のアリスてきな行きて戻りし物語で特筆すべきことのないプロットなんですが、さきちゃんシリーズのお約束みたいになっている不親切な女の子の完全主観一人称叙述で、ただでさえ不思議の国なのがさらに不思議度マシマシで不思議な感触です。特にどうという話でもなく変則的な一種の夢オチのようなものなので、お話として評価しようとすると難しいところもあるのですが、想像力の限界を試されているようななんとも言えない良さがあります。

 いつの間にか始まったさきちゃん二次創作シリーズの親、元祖さきちゃんの作者による新作さきちゃんです。前作のさきちゃんの続きだと思われます。突然神隠し的に、ファンタジーワールドに巻き込まれてしまう主人公が、妖精と一緒に現実世界に帰ろうと励むお話です。さきちゃんが直接出てくるのは、ほんの一部分だけなんですが、色々な所でさきちゃんを匂わせる演出がされていて、夢の中を泳ぐような独特の世界観に華を添えています。あと、さきちゃんの事で頭がいっぱいな主人公はサラッと受け入れていますが、迷子になってしまった彼女に妖精が提示する時間単位が500年だったりと、ゾクゾクさせられるホラーな展開が続きます。それでも安心しながら読めるのは、これもさきちゃんという概念が闇夜の灯台のように作品中に光っているからでしょう。作者の持つ特有の世界観を味わい尽くす、何とも不思議な冒険譚でした。 

 主人公がさきちゃんを探すストーリーが、なんていうかおとぎ話のようなんですが、ところが主人公がやたらサイコっぽいのでものすごい危険に思えてくる。いやホラーではなくてファンタジーなんですが、なんていうか、最初はメルヘンで可愛い話が、だんだん不条理で底の見えない話に変わって行くけれど、最後はやっぱりメルヘンで終わる、というのがあって、それがさきちゃんを探す「ゆきて帰りし物語」の中でアクセントになってて、本当にうまいなと感じるところでした。 

 

 宇差岷亭日斗那名 「今日も空は青かった。」

 基礎的な文章力は非常に高いのですが体力と集中力に難のある作者です。本作は典型的なラブコメてき設定から始まって急転直下でなんかよく分からない展開に。従来の作品よりも話に展開があるのでそこは良いと思いますし、やろうとしている足し算が成功すればかなり面白いものになりそうな予感はあるのですが、単純に分量と解像度が足りないかな。もう少し丁寧にやらないと読者がついていけずにポカーンとなっちゃうかも。一般には理解しがたいような屈折した感情の揺らぎのようなものを描こうとするのであれば、やはりそれなりに筋道を整えていかないと難しいと思います。うさみんていさんにもたかたさんの明太子プロパガンダが参考になるかもしれません。

 まず、面白かったです。宇差岷亭(読めない)さんが、前回応募された作品も拝見していましたが、回を重ねる毎にメキメキバリバリパワーを上げていると思います。流れるように、しかし丁寧に描写がされており、読んでいて何の抵抗も無く物語の世界に引き込まれました。そしてストーリーに没入したところで、突然オラシャ!ビッターン!と作者にグーパンで地面に叩きつけられる展開が待っています。その構造のひねくれっぷり、ジェットコースターのような急下降が面白く、同時に勝手にシンパシーを感じました。ただ、その急展開の部分については少々説明不足で意外性が空回りしている感も否めないので、彼等が突如その領域にいたるまでの必然性を物語の途中に隠しておけば、読者をショック死させられる程面白い作品になると思います。ただ好き同士だったという事以上の何かが欲しいところです。個人的には、是非その意外性の念能力を鍛えて、最強のトリックスターになって欲しいと思います。  

 内容的に好みだっただけに、結末の直前でよくわからない展開になっていたことが残念でした。「暴力を塗り替える暴力」を頭から否定しているわけではないのですが、でも、普通は「暴力を塗り替える暴力」は、ありえないはずです。だったら、主人公がヒロインの首に手をかけたときの「暴力」と、それを受け容れた時のヒロインのシーンで読者はそんなことがあるのかと疑念に思っているということをきっちり意識して欲しい。文章力もキャラクターの良さもあったのに、構成として、「暴力を塗り替える暴力」を彼女が受け容れてしまったのかがあっさりすぎた。そこは読者としては普通なら「なぜ」が生まれるところで、これをテーマにした以上は作者としてきっちり描ききって欲しい部分でした。ここからは勝手な想像ですが、いつもの彼女でない事を察した主人公が、彼女を殺す事で彼女を「いつもの彼女」に再生させようという思いがあった。しかしそれに主人公自身が気づき、その身勝手な行為に恐怖したとき、むしろ彼女が、自分を否定し再生させるためにそれを望んだ……という展開をとりたかったのかなと思いましたが、それならもっともっとこの点は掘り下げて欲しかった。主人公やヒロインの前フリとしての会話に、そうした再生を予感させる伏線なんかがあっても良かったでしょう。首に手をかけるシーンはもっと深くあってもよかったのではないかと思います。 

 

 綿貫むじな 「師走に死者は黄泉返る」

 死者の黄泉返りを主題にした作品。ホラージャンルになっていますが、あまりホラーな展開はないです。ホラー作品として見せようとするには説明が丁寧すぎるかなと思います。恐怖というのは基本的によく分からないもの、理屈のつかないものに対して感じるものなので、ここまで丁寧に説明してしまうとただの出来事になってしまいます。そこまで突飛な設定というわけでもないのでもっと出す情報を絞っても大丈夫でしょう。現状ではホラーというよりは死神のほうの子を主人公にした連載少年漫画の一話みたいな印象が強いですが、でもそれならそれで、ちょっと見せ方が中途半端というか、どちらを主役に据えたいのかが曖昧になっている感じ。もうすこしプロットを整理したほうがいいかもしれません。あと単純に「時々休日の度に」などの(?)となってしまう表現などがあったので推敲をもう少し重ねましょう。

 タイトルから想像していたのはゾンビものでしたが、作品に登場するのは単なるゾンビではなく、あの世の手違いによって蘇った死者であり、不本意にも生者の熱を奪わなければ消滅してしまう哀れな存在である、という工夫がされています。ゾンビの発生には理由や原因が明示されない事が多いのですが、この場合確かな加害者があの世にいる訳で、モンスターであるゾンビ達にも同情が出来る点が味となっていました。腐った死体ではない故に、蘇った故人と対話するというのも新しい。死神少女との今後も想像させる引きも、短編の締めとしては綺麗にまとまっていました。ただ、故人が蘇ったという衝撃の出来事に対して、主人公含む登場人物の反応がやけに淡白に感じ、そこで没入感が剥離してしまったので、彼らの感情の起伏をより激しく描くと更に良くなると思いました。 

 作品としてまとまりがあって、お話として完結しているのはあるので、楽しんで読めました。いくつか気になるというか、ぼく個人の好みなんでしょうが、やっぱり死、蘇りというテーマを扱うのなら、そこをもっと掘り下げて欲しいなと思わなくも無いです。むじなさんの作品は、アイデアが良くて、描写もそつないのがすごく好きなんですが、絶対もっとポテンシャルがあるという気がしています。抽象的な物言いで申し訳ないんですが、もっともっとキャラクターの心の奥深くを考えていって欲しい、作者本人が、作者の作り出した世界や人でもっと遊んで欲しいと言えばいいのか……そういうところで、もっと違う何かを取り出してくると嬉しいと思います。……何かというのが明確な言葉による心理描写なのか、別のものなのかは分からないけれど、きっとお話に深みが出てくるんじゃないかと思いました。 

 

 久留米まひろ 「時の祝福」

 色々と難がある作者なのですが、いちおう毎回なにかしらを出してくれていて、そして回数を重ねるごとにふつうに文章がうまくなってきていることがウケますね。やはり誰であれ書き続けていけば上達はするというのは当たり前の真理ではあるようです。ただ文章そのものは上達していますが相変わらず小説の体にはなっていませんし普通に気持ち悪いので困ったものですね。今回のは話の筋は飲み込めましたが、これでは結局たんに冒頭部分だけであってただの未完作品だと思います。2万字までの小説を出せという規定なので規定内の分量でちゃんと物語を畳んでください。いまの自分に取り回せない規模の物語を描こうとしても無理です。とりあえず上達はしてきているので引き続き頑張ってください。

 唐突に息子に謎の薬を飲ませようとする謎の父親に、黙ってそれを飲む主人公。目覚めると部屋にモデルガン風の実銃を持った謎の男が入ってきて、そこで主人公は謎の能力に目覚めて……。粗が目立ちますが、前回応募作である光の剣に比べると、確実に描写力は上がっていると感じました。後は作品中の違和感となる「なぜ」「どうして」という描写を客観的に分析していけば、違和感なく読める小説になると思います。あと、作者の何らかの性癖や嗜好が出てくるのもKUSO創作の大変面白いところなんですが、あまりそれを剥き出しにし過ぎるのは、その、どうかしてると思いますよ、はは。 

 厳しい言い方なのですが、正直、破天荒すぎて何が何やらわからないというのが正直な感想です……。序盤の薬を飲むシーンは違和感でしかないし、いきなり銃撃されるのも分からない。謎の薬、謎のナノマシン、謎の大澤めぐみ……。これがギャグだと言ってくれるならかなり難解なギャグだなと思うんですが、どうも読み進めていくとギャグじゃないらしいという事が分かって来て、さらにわけがわからなくなる……。「何故そんなことに」「何故そうなる」と思わず何度も口に出してしまいました。プロットを練って、誰かに読んで貰って、何か違和感がないかをまず考えてみるべきだと思います。文章がおかしいというわけでもないし、小説のお作法から大きく外れているわけでもないのに、話がよくわからない(不自然な)方向へ転がる、そしてちゃんと終わらせられないというのは、明らかに頭の中にある物語を持て余しているからだと思います。この辺はもっと誰かに話してみて、纏めるようにした方がよい。

 

 ラブテスター 「忘れな歌」

 文字数オーバーのためゼロ点です。読んでみた感じ、とてもではないが2500文字を削ることは不可能だ、とは思わなかったので単純に努力が足りません。仕様というのは決して曲がらない絶対的なものなので、たとえKUSO創作大賞と言えども2万字までという規定がある以上は2万字までです。実際に、もうすこしスマートにしたほうがもっと澄んだ読み味になると思います。現状ではちょっと主題があっちこっちにバラけていて、たくさんの登場人物が無駄に豪華な書割りという風情で厚みがなく、どこにフォーカスしたいのかが自分の中でも整理がついてなさそうな印象。狙いは分かりますし文体とホラーの相性は良さそうなので、ちゃんと狙い通りの効果を引き出せたら良いものになりそうなのですが、現状ではうまく機能しているとは言えないと思います。自分の中では意味があるのかもしれませんが、読者に伝わらない意味深なだけの意味のない演出というのは総合的に見るとマイナス点のほうが大きいと思います。傍点のことです。

 残念ながら文字数オーバーです。規定を守って楽しくデュエル! ガードレールから聞こえる不思議な歌をキーとして、様々な物語が進行していくお話です。以前の応募作でもある腕食いでもそうですが、作者の紡ぐ言葉の丁寧さと装飾の美しさには目を見張る物があります。ただ、今作においてはその文体の美しさが、聞こえる歌の謎、いわばオチに向かうまでの期待のハードルをかなり上げている印象があり、その期待に対して明かされる真実が弱いと感じました。その為、読後に物語の中心が結局何だったのかが掴みにくくなっています。あとは牽引力のある主軸さえあれば、最強です。 

 オムニバスな展開から、歌というテーマを浮かび上がらせようとするのは、とてもレベルの高い内容だと思うので、そこにチャレンジしたのは素直に賞賛するけど、読者にそれぞれのキャラクターを追っていかせるにはどうしたらいいか、という考え方をもっと強化して欲しかったです(好みもあると思うんですが……)。たとえば2話、高校生のT井の「ひどくさみしい」という言葉で表現できる心理があっさり終わっているのがとても惜しい。 父を亡くした高校生の男の子の心理にしては気恥ずかしいかもしれない。前段でていねいに情景を書いていたはずが、一番大事なキャラクターの気持ちのうつろいを「さみしい気持ちになっていた」で片付けてしまったのは、ぼくはすごく惜しいと思う。自分の将来に悶々としていた時、さみしいと思った時、そういうときの目に見える色んなものの見方は、ふだんとは変わるかもしれない。変わらないかもしれない。そういう心理状態のうつろいから見える情景描写が、僕は好きです(心の動きで1話ごとの起承転結にメリハリも生まれるし、テーマがくっきり浮かび上がると思うし) 

 

 綿貫むじな 「DJマオウ」

 この作者にしては珍しい100パーセントギャグ作品。たぶん、元ネタはDJラオウ(なつかしい)でしょう。魔王がDJの深夜ラジオという設定。設定じたいにおかしみがありますし、文体も軽妙で非常に読みすすめやすかったのですが、本当にクスクスとちょっと笑ってそれでおしまいという感じでもったいない感じがしますね。軽い設定とライトな読み味を絡め手にして、もっとすごいところまで話を展開させたりもできそうな気がします。本作単品で高く評価することは難しいですが、もうひとつふたつ足し算して上手く融合できたら大化けしそうなポテンシャルを感じます。クソネタとして使い捨てにせずにアイデアは心の隅にとっておいたほうがいいでしょう。

 まず言わせて下さい。この手があったか、と。本作はDJマオウによるラジオ形式の作品です。一体魔王はどうやって放送を発信してるんですかね、やっぱり魔界全土に発信される魔界アンテナがあるんでしょうか、もしくは子供の頃なら誰もが(?)やっただろう、一人DJごっこ……?なんとも夢が膨らむところです。また、ラジオ大好きっ子には堪らないのが、要所要所で挟まれるカギカッコの注釈。(トランペットを主旋律としたBGM)とか最高です。まさにwebならではの表現ですね。基本的に登場人物もマイクの前に座っているだけなので、余計な描写も不要でぎっしりと情報を詰め込める。面白い手法だと思います。  

 こういうテンプレファンタジーの枠を使いながら、枠を壊していく内容、すごく好きです。魔王がDJやってお葉書紹介やトークをやるっていう作りはアイデア勝利ですね。1話はグイグイ引き込まれる感じで最高でした。もっともっとアホな話やラジオあるあるで盛っていって欲しい。恋愛相談、渋滞情報(ダンジョン混雑情報?)、スジャータ時報、妙なジングル、放送作家、ありがとう浜村淳、深夜のリスナーポエムで感動して泣き出す(嘘泣き)声優……。そういうパロディやメタネタを盛り込めるなって思うと、まだまだ引き出し、ポテンシャルのある内容だと思います。

 

 鈴龍 「年末」

 うーんと、たぶん特に引っかけは仕込まれてないですよね? 普通につらつらとした日記調の文章です。柿の木を見たらなんかおじいちゃんを思い出して仏壇に手を合わせた。本当にそれだけの話。たぶん本人の中ではそれはあるていど意味のある大事な感情なのでしょうけれど、この分量でそれを伝えるのは難しいのではないかと思います。単純に、もっと文字数を使って解像度を上げていきましょう。

 ほのぼのとした、田舎の生活と思い出を描いた作品。個人的には、ジジイとババアが出てくるとそれだけで弱いです。泣ける。基本的に思い出を振り返りつつの日記風のお話になっており、読みやすいです。後は視点人物である”僕”の感情の起伏がなく、エピソードの割に味が淡白に感じられたので彼の心情風景をたっぷり見せるなどして、合間合間に思い出話を挟んでいくと、切なくて泣ける良い話になると思いました。 

 年末、帰省した実家で、ふと昔の出来事を思い出す……という話を膨らませていったお話。自分にもそういう事もあったな、と思えて、しかも心がほっとする、良い作品だったと思います。散策をしながら実家の身の回りのものを見つめ、そこから過去を思い出していく作りですが、私小説の体裁をとっているぶん、散文的な内容でもすっきりしている感じがします。(たぶんこれに描写を加えると、途端に作り話めいたものになるんでしょう)小さな話だとは思いますが、こういう小さな話があると、本当に心が安まります。 

 

 不死身バンシィ 「ベルリア魔鉱山採掘者ペイジの手記」

 17000文字未満という文字数なのに全17話というかなり小刻みなちょっと変わった構成。前回のでかいさんの箱庭的宇宙を彷彿とさせる体裁です。あちらはメールのやりとりでしたが、こちらは手帳に残されていた手記という設定。でかいさんの時もそうでしたが、この体裁は物語の隙間を細かくキングクリムゾン(ぶち飛ばす)できるので、少ない文字数でもかなり大きな物語を取り回すことができます。加えて、本作では短く端的な表現で文章に情報量を詰め込むことをかなり意識しているっぽくて、文字数あたりの情報量がほんとうに多く、読み終えてみると「これでたった17000文字なのか」とびっくりします。実質的なオチは蛇の月六日のたったの7文字でしょう。最後は爆発オチという感じなので微妙なのですが、この体裁はまだまだ可能性があると思うので、これも使い捨てにせずにいつか再構成してもらいたいですね。これで全体に張り巡らされていた謎がラストにギュッとくるような構成になっていたら満点でした。

 これ、世界観フェチにはたまらない一作です。設定は元から用意されていたのか、今回即興で作り上げたのか分かりませんが、当然顔で現れる現実感のあるファンタジー世界は、大変魅力溢れるものになっています。ホホホ銀行SFといい、作者の想像力に底知れぬ物を感じますね。実際の文字数の数倍以上にも感じられる読後感は、手記という形式による効果を最大に活かした結果でしょうか。どの場面転換にも違和感がありませんでした。一つ挙げるとするなら、最後の事件を具体的に予想させる伏線づくりがあると尚良かったと思います。読み返しても、想像の余地が随所に残されていて、読者の想像を掻き立てる、良い作品です。  

 ほほう、こう来たか……というのが正直な感想です。何気ない手記から始まり、これはどう終わらせるんだ? と思ったら、手記でオチをつけるのではなく日報として終わらせるのはすごくうまい。自分でもこの手の手記もの書いてますが、不死身さんの作品を読んで思うのは、「読者である自分が作者からの手がかりを得て想像する」楽しみ方ができるんですよね。手記だから、断片的でも読み飛ばしていけばいい(≒読み飛ばすしかない)部分もあるけど、だから伏線を張るのも楽しいし、あれこれの仕掛けが作れる。そして読者もまたもう一度読み直して、あっここ伏線だったんだなと思えてくる。あまり「書いた人しか知らない・分からない事」を盛り込みすぎると、これは自分が読むものではないと読者がわざわざ手記を書いた人間の中に入ろうと思えなくなるので、そこのくすぐりというか、多くの人が読みたくなる仕掛けがあってもいいと思います。大変面白く読ませて頂きました。 

 

 既読 「ビタミンC」

 本物川文芸勢で間違いなく最強の一角だと思うのですが、未だに無冠の既読さんです。この作者は限りなく研ぎ澄ませた一文に非常に強い力を持たせてくるのが上手い、居合抜きの達人のような技術を持っているのですが、本作においても「感情は完全にコントロールされている」という、それだけだとなんでもないような一文が主題として繰り返し提示され、読後にはこの一文がどれだけ研ぎ澄まされたものであったのかが分かるという感じがします。ミステリーということで、エンタメ的な謎は他にちゃんとあるのですが、僕はこの「感情は完全にコントロールされている」という一文の意味というか、重みのようなものが読んだ前と後で全然異なって感じられるこの効果こそがミステリーだなと。既に完成されている作者なので、僕から言えるようなことはなにもないです。

 上手い、上手いわー。いつも中長編で圧倒的戦闘力を見せつけていく既読さん。短編ならなんとかケチをつけられるだろうと思い、偏見の目をギラつかせつつ読んだんですけど特にこれと言った欠点は見当たりませんでした。とても悔しいです。ビタミンCという聞き慣れたワードや、合間合間に挟まれる「感情はコントロール出来ている。」というかっちょいい台詞は、しっかり読後感に紐付けされて、この作品の印象を強くしていると思います。描写表現は勿論の事、作者はマーケティング力にも優れていますね。是非そのやり方は盗んでいきたいです。  

 非常に安定している。なんていうか文章に風格があるというか、プロのような味わいを感じました。序盤のストーリーからビタミンCという単語をフックにしたまま、結末まで持っていく力に感心することしきりでした。なにより、結末。まさかこうなるとは思わなかったんですが、その思わない話へと持っていく力がある。今回、ぼくの評価軸に「キャラクター」を入れているんですが、これはキャラクターの個々の味付けがなくてもしっかり楽しめる作品なので、ちょっと後悔しています。正直、文句の付けようのない作品でした。 

 

 enju 「コナード魔法具店へようこそ」

 これは完全なダークホースでした。めっちゃいいです。好き。全7話で10000字程度と、かなり文字数は少ないのですが、ライトな読み味のわりに詰まってる情報量が多いというか、繰り出されるロジックが設定厨もニッコリの納得の出来でめっちゃコスパいいです。あ~ライトな感じなのねってサクサク読んでいたらウオオオンと唸らされてしまう感じ。読み味がライトなので人にもオススメしやすいですね。連載作品としてまったりと続いてくれたらうれしいかも。個人的には大賞候補の一角です。

 様々な魔法グッズを扱うお店のお話です。一風変わった魔法グッズの紹介を続けていくのかと思いきや、道具と共に物語の世界観を感じさせる情報を散りばめていき、徐々に彼らの関係性や物語の世界観を理解させていく仕組みがガッチリはまっています。また、説明臭さが全くないまま、読者を作品世界に引き込むその手腕は見事です。キャラも明るく魅力的で、提示された世界観の魅力には、今後の無限の可能性を感じました。

 Web小説っていうのは、媒体を選ばないものだと思っています。スマホタブレットなんかのモバイル、パソコン、あるいはテキストをコピーして印刷する。そうしたものの中では、「コナード魔法具店~」は、正しくモバイル向けの作品なんだな、と思いました。長ったらしい導入や描写や説明を排除して、短い話をテンポ良く進めて行く。実はこれ読んだ時に長い作品をいくつか読んでたのもあると思いますが、1話が数百~千ほどもいかない小さな話を、無理なくスイスイと読ませてくれたのは、正直な話、かなりほっとしました。けっこう好感が持てました。

 

 ゴム子 「おとぎ話のようになんて生きられない」

 ひとり小説RTA大賞やめなさい。大晦日に駆け込んできた安定の滑り込み組ゴム子さんです。もうちょっと計画性を持ってください。非常に高い文章力と独特なゴージャスな世界観をもった、個人的には非常に好きな作者なのですが、安定した執筆力に欠けるのが難点ですね。やはり計画性と安定した体力と集中力が大事。過集中状態でのキャラクターに対するダイブ能力が優れているのか、本作でも人物の描写の質感が非常に高いのですが、やはりプロットとしては導入の1エピソードという感じで、ピアッシングを一種の性的なメタファーと捉えるのもそこまで目新しいアイデアではありませんし、これ単体で出してこられてもなかなか厳しいものがある。締め切り直前のタイムアタックばかりでなく、一度、ちゃんとしたプロットを組んで腰を据えた作品の執筆に挑戦してもらいたいと思います。

 えっちな物書かせたら界隈No.1(当社比)のゴム子さんによる作品です。今回もまあ中々にえっちでした。とあるきっかけで拉致された芋OLと美人メンヘラの共依存関係。いいですよね~。とてもいいです。ゴム子さんのねっとりぐっしょりした描写にはもう何の文句もないのですが……強いて言うならもっと先が読みたかったですかね。是非次回は、コツコツ計画的に書いて、素晴らしくえっちな小説を見せて下さい。待ってます。  

 作品としての好みというのがあるので何とも言いづらいのですが、ちょっと苦手でした。たぶんこれは女性的な霊をイタコして読めばめちゃくちゃ面白いんだろうなと思うのですが、いかんせんイタコできないぼくが悪いんですが……正直、女性が読むとまた感想が変わるんだろうなと思う。ゴム子さんは文章力もあると思うんですけれど、全体にある危ない魅惑、エロチシズムというか、そういうものが自分とは違うんだな、という感じがしすぎて、どうしても最後まで乗りきれなかった。 

 

 兎渡幾海 「だ・かーぽ」

 前回の大賞受賞者のうさぎさんです。またなんか名前が変わってますがもうどんな名前になったところでうさぎさんで通します。こちらも既に作家としてほぼ完成されてしまっているので僕が言うことはほとんどなにもないですね。面白かったです。タイトルの意味てきにはこれもリボーンなのかな。象徴的に何度でも死んで生まれ直す。そういう前向きな精神的自殺の話。主人公と婚約者とのその後は語られないままですが、また死んで生まれ直した主人公のことですので、きっとなんとかしていくんだろうなというポジティブさが読み取れます。明確な言明なしにそれを感じさせる手腕はほんとうに見事。やや変則的でありながらも王道青春ロードムービーです。いちおうなにか言わないとカッコがつかないので言っておくと、形式的にはカギカッコの行頭はスペース入れないのが一般的なルールだと思います。

 最初から最後まで、本当に綺麗な作品でした。前回の大会覇者であるうさぎさんが、今回もその地力を十分に見せつけていった形になります。彼は作品の骨組みをしっかりバッチリ作ってくるので、読む側も常に安心して脳を空っぽにして任せる事が出来ますね。衝撃的な事件を起こす主人公と、訳ありの美容師。二人の登場人物の背景にある旅の動機も、月日が経ってからのあのラストに繋がる事で物語に何とも言えない説得力をもたらしています。やはり大賞受賞者は見せつけてくれますね!  あ、そうだ。くすりちゃーん!うふふ、呼んでみただけ^^  

 親を殺してしまった主人公と、ワケありの女性が二人、宗谷岬へ逃避行をするという話。導入からグイグイと引っ張るような展開で、1話の引っ張り方は最高。「よくある構成の仕方をきっちり描くテクニック」があることは本当に強い。うなることしきりといった感じでした。ただ、結末までの後半部分があきらかに急ぎ足で、最初ほど練り込まれてない。終わりかたも唐突だし、ロードムービーというか、逃亡劇の面白さが描けてない気がする。なにより、明らかに2万字という文字数では全然足りてない感じを受けました。序盤のハイスピードな展開が面白かっただけに、惜しくて惜しくて仕方ない。1話と同じくらいに練り込んだら、たぶん文句なしに大賞に推してました。

 

 でかいさん 「シン・ネン」

 ズモーン!!!!! これぞクソ小説。そうそう、こういうのでいいんだよ本物川小説大賞っていうのは。こんなクソ小説企画にそんなマジになっちゃってどうするの? しかしこれはクソ小説とはいえケツアナからエエイ!!!! とひり出された一本クソではなく、クソを丁寧に捏ねて作られた見事な美しい三段クソです。冒頭の勢いを出すことは迷いを振り切ってしまいさえすればそれほど難しいことではありませんが、17000文字以上もこのクソバカテンションを維持したまま走り抜けることは並大抵のことではありません。もう大好き。まさにクソ小説界に燦然と輝くマイルストーン。合間合間に挿入される半角の擬音がなんとも言えない独特のおかしみと共にアイキャッチの効果も兼ねていて、ダレることなくラストまで読み進めさせられてしまいます。個人的には頭ひとつ抜けた高評価。

  ペタタタタタタタタタンペタタタタタタタタタンバッバッバッバッバッバッバッバッバ!ギュイーーーーーーーーーン ヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!

 要所要所挟まれる擬音がたまらない。作中に現れるのは違法改造されたペッパーくん。町中に溢れる餅、餅、餅。それに立ち向かう人々の希望は……やたらバイトの経験が豊富な主人公、いっぴーくん。戦え!餅と!そして新年、あけましておめでとうございます!何だこれは、何だこれは、と思っている内に物語に飲み込まれていく不思議な作品。そうか、これが僕達の原点なんだ。創作って、自由なんだね!僕分かった、分かったよ、いっぴー君。脳みそと口を繋いでみたら、こんなものが出来ちゃいましたー!みたいな文章で綴られる物語は無条件で笑顔になれるので、お仕事に疲れたサラリーマンにおすすめです。 

 お餅特撮。話の筋はいわゆるシンゴジを踏まえながら進んでいくので目立った部分はないけれど、おかげでいろんなものを身構えて読まなくていいというか、さらさらっと読んで、ふふっと笑って、それでいて物語としてちゃんと完結していて後腐れが無く読後感が良い。大好きです。お正月にぼけーっとしながら読むには確かに丁度良いくらいのまとまり感でした。 

 

 大村あたる 「押しかけミニスカサンタクロース」

 こちらも安定した高い筆力を持った作者です。なんかこう、分かりやすいテンプレラブコメを書いてやろうという意志はひしひしと伝わってくるのですが、ほらこういうのを書けばいいんだろう? ほらほら、みたいな上から目線をそこはかとなく感じてしまって(被害妄想)なんとなく入り込めませんでした。自分は好きでコレを書いているんだというような熱いパッションがないぶん、逆に実用的にはできているのでしょうし、スラスラと読めてしまうところは根本的に文章が上手いんだろうけど、う~ん。中くらいのところに一番良いバランスがあるはずなので、そのへんを探っていってもらいたいですね。

 クリスマスにミニスカサンタがやってくるという少年漫画を思わせる展開。あえてベタな題材に挑戦したと思われる今作。描写も相変わらず上手く、綺麗にまとまっており、作者の狙い通りのものが出来ているのではないでしょうか。あとは、基本理由なく結ばれていいのがラブコメなのですが、マッハで恋に落ちる彼女にもうちょい説得力のある理由か、面白いオチがあればいいかなと思いました。 

 いわゆる「男の主人公が何故か女の子と同居する」みたいな、古くはうる星やつら、ああっ女神様っ!とかの系譜だと思うんですが、この辺のやつは、僕個人の好みも大いにありますが「欲望に素直な奴が勝利」だと思うのです。そういう意味では、大村さんの作品は、サンタさんが女の子で、その女の子に奉仕的に言い寄られるわけですが、大村さんの好きなシチュエーションをもっともっと全開でも良かったのではないかとか思うわけです。たとえばサンタさんにもフェチっぽいシーン(18禁レベルかは置いとくとして)を入れるとか。 

 

 豆崎豆太 「病」

 う~ん、なんでしょう。文章そのものにちょっとした個性が光っていて、非常に高い筆力のある作者だと思うのですが、歩み寄りの姿勢が見られないというか、言いたいことを一方的に言われただけみたいな感じがあって腹が立ちますね。この手の物語にある種のうっとおしさとか鼻につく感じがつきまとうのは仕方ない部分があるのですが、もうちょっと調整のしようがあるように思います。描きたいことの主題ははっきりしているようですので、それを一方向から照らすのではなく双方向てきカンバセーションによって明らかにしていってほしいなと。なんか小説というよりは長ったらしい演説を読まされた気分で、今回は僕としてはあまり評価は高くないです。たんに僕が萩野きらいなだけかも。

 恋愛を書けない自称作家の恋のお話。登場人物の書き分けも風景描写も上手く、それぞれの場面が頭にしっかりと浮かびました。ただ、短編としては何ら進展のないまま終わってしまった感が強く、僕として心残りな印象です。せっかく魅力的なキャラクターが配置されているのに、このまま終わってしまうとなると、ウジウジとした男がただウジウジとしただけって話になっってしまうので、もう少し展開が欲しいところです。  

 今回というか、自分もそうだった時がありますが、寸劇というか、何かのワンシーンを抜き出したものを見かけます。出来事をならべて、何か始まったのか終わったのかよくわからないまま唐突に途切れる、そうした作品。それが絶対に悪いわけではないですが、やっぱり2万字というボリュームを使うならもっとあれこれ出来ると思うし、短いなら、短いなりの読者への楽しませ方みたいなものがあってもいいのでは……と思ったりもしていました。だからこそ、そういう中で、ちゃんと話があって、終わりまで描いて、余韻が残る小説というのは、読んでいて満足感がある。そういう意味では豆崎さんの「病」は、ちゃんとお話があって、結末がある小説で、しっかり満足できました。個人的にはストーリーとしてもうひと転がしあっても面白いな、と思いもしましたが、それはつまり、先行きがある終わりかただということで、これもまた読者としては印象に残ったということでしょう。このキャラクターたちで(秋元さん含め)、次回また機会があれば読ませて欲しいなと思える作品でした。 

 

 maple circle 「人の角」

 詩、童話、その他、というカテゴリで投稿されているので、なにかそういう類のものなのでしょう。なんらかの寓意のありそうな話なのですが、はっきりとは分かりませんでした。たぶん、もわんとそういうものなんだなと解釈すればいいのだと思いますけど。文章としてはとても読みやすく、また読み進めさせるための鼻先にぶら下げるニンジンというのか、インセンティブ設計もしっかりしているので上手な方なのだと思います。オチについては、エンタメてきなすっきりするものではありませんので、そこのところの評価は難しいですね。本物川小説大賞の趣旨的にマッチする類のものではありませんが、良さがあります。

 人の頭に生える角、主人公だけに見えるそれが一体何であるのか、いくつか何か匂わす描写がありますが、今一歩踏み込めていない印象を受けました。ただ、設定は面白いのでもったいないです。是非もう一度練ってみて下さい。角が霊的な何かなのか、ファンタジー的な何かなのか、どんな風にでも展開出来る、面白いアイデアだと思います。  

 第1話、と銘打っていて、第2話が出ないということは、未完であり、評価しづらいというか……物語として終わっているのか? というのは、正直なところ、ちゃんと明示して欲しいと思いました。イメージできるものがあって、話が面白いし、これから色々転がっていくんじゃないかと思ったところでぷつっと切れているのは、非常に惜しいと思います。

 たぶん第1話になっているのはカクヨムの仕様に不慣れなだけであって、これはこれで完結しているのでは? 新規作成画面を開くとタイトルが自動的に第1話ってなるんですけど、あれを消せることに気付くのに僕もだいぶ時間が掛かりました。

 

 起爆装置 「ビガンゴ☆王」

 さて、大トリは本物川創作勢いちばんの問題児、起爆装置さんです。今回もやってくれました。えっと、ちょっと裏話を明かすんですけど、これ起爆装置さんに「なにかお題を出してくれ」と言われて僕が「お財布を無くしたことに気が付いたのはタクシーを降りようとしたときのことだった」から始まる小説っていうお題を出したんですよ。わかります? この身近に起こり得そうでありながらもそこからいくらでも人間ドラマが拡がりそうな極限状況てき絶妙なお題(自画自賛)。そこからデュエル始まるとか普通思わないじゃないですか? なに食って生きてたらこういう発想に至るんでしょうね? これこそまさにケツからエエイ!!! とひりだした一本グソですよ。特にコメントはないです。やっていってください。ドン☆

 ドン☆  文脈の分かる人には堪らない一作。ほとんどが台詞で構成されていますが、遊◯王の骨組みを借りているせいで、すんなりと作品世界に入っていけます。文体も読みやすく、あまりカードゲーム及び遊◯王の知識の無い僕でも十分に楽しめました。また作者のボンゴレ☆ビガンゴ愛と大澤めぎぃみ(誤字)愛が十二分に伝わってきますね。これぞ本物川KUSO創作の原点といったところでしょうか。この世で数人に伝われば良し、という潔い作品です

 小説で読むカードゲーム……なんですが、ビガンゴ先生のキャラクターで全部押し切った感じ。とにかく速度(勢い)で書き上げた感があって、粗さが目立つので作品としては出来の善し悪しで言えばまだまだだと思うけれど身内のネタ、楽屋ネタでしかないんですが、ビガンゴ先生や大澤めぐみさんを知ってれば思わずクスクス笑いたくなる展開。無茶な話なのに読んで突っかからせない、するすると読める展開はやっぱり起爆くんらしいというか、安心感があると思います。ストーリーとしては何の決着もしてないし、バトルして終わり、という展開なので、多くを望んではいけないのでしょうけれど、小さく纏まっていて読みやすく感じられました。 

 

 大賞選考

 さて、続きまして大賞の選定に移りたいと思います。いつもと同じように闇の評議員三名からそれぞれ推し作品を三つ出してもらって、そこから先はなんとなく合議で決めていく感じです。

 まず僕の推しですが「コナード魔法具店へようこそ」「シン・ネン」「世界が終わるその夜に」の三作品になります。

  僕は「うんやん」「明太子プロパガンダ」「世界が終わるその夜に」の三作品です。

 僕は「明太子プロパガンダ」「うんやん」「だ・かーぽ」の三つ。 

 割れましたね……w

 割れたねぇ……。

 えっと、「明太子プロパガンダ」と「うんやん」「世界が終わるその夜に」がそれぞれ2ポイント。「コナード魔法具店へようこそ」「シン・ネン」「だ・かーぽ」がそれぞれ1ポイントですね。大賞は2ポイントの三作品の中から選ぶ感じかな。

 じゃあ僕は敢えてここでコナードを持ってくる。

 や、そういうのをやり始めると本当に決まらないので。最初に推しを三作品出す時点でどうしても運の要素はあるんですけれども、運も実力のうちってことでそこはひとつご了承していってもらわないと。大賞は2ポイントの中から選びます。

 不死身バンシィさんの「ベルリア魔鉱山採掘者ペイジの手記」が好きでしたね、三本に入れようか最後まで迷った。

 良かったですよね。急あつらえなので構造的な強度はまだイマイチですが、ポテンシャルは感じました。あれは続編というよりも、同じアイデアでもう一度練り直してみてほしいなという感じです。

 新しい鉱脈を発掘した成果は大きい。

 DJマオウも同じですね。切り口はいい。でもまだアイデア段階なので、作品としての強度を高める感じで、もう一度イチから取り組んでほしい。

 二人ならきっとできるできる。

 とくに綿貫むじなさんは、わりと自分で丁寧にギャップをならしてしまって、手間をかけて作品を平凡にしてしまうようなところがあって、上手いんだけどウーン……みたいな部分が少なからずあったんですけど、今回はひとつなんらかの突破口になり得るのじゃないかなという予感がありました。そこ、もうちょっと掘ってみてほしいです。

 大賞は……エッジが効いてるのはうんやんだけど、作品の完成度っていうところで言うとやっぱり明太子かなぁ。

 うん、明太子は完成度が高かった。そういう意味では、うんやんはやっぱり個人的には……がついちゃう。

 前回みたいにイラスト化したときの見栄えみたいな話をすると、明太子はどうやっても地味なのでそこは世界が終わるその夜になんですが、やはり講評でも指摘があったように(中)での急に説明的なところがどうしても気になってしまう。

 あれ、勿体ないですよねぇ……。

 ビガンゴ先生は正直ここで取るんじゃなくてここから次どうなるか見てみたい。

 なんていうか、こう言ってはナンなんですけど、今回のビガンゴ先生のかなりラッキーパンチ感はあるんですよね。安定して出せるようになってもらいたいのもあって、これを教訓に次でガッチシ大賞を狙いにきてほしいなっていう。

 そうそう。指摘を反映した次の作品をすごく見てみたい。

 ということはやはり大賞はうんやんか……!

 隙あらばねじ込もうとしないでください(激怒)

 僕としてはここで明太子が大賞を持っていってしまうと、また前回に引き続き「普通に完成度が高い」ものが勝ってしまうことになるので、KUSO小説大賞のアイデンティティてきに「シン・ネン」みたいなのを推していきたいなというのがあって。でも明太子はやはり次点には入っていたし強いので、明太子なら大賞異存なしです。

 シンネンも面白かったけど、途中途中、振り落とされて真顔になっちゃった。ロデオマシーンみたいな作品。

 シンネンはまさに本物川小説!っていう、「速とパワー」っていう感じがあふれてるんだけど、正直、速とパワーだけでいうなら、うんやんで完全に脳天割られちゃった。

 読者と作者で体力勝負して作者が勝っちゃうってすごいことだと思うんですよシンネン。

 明太子はとにかくなんていうか、切実な気持ちみたいなのがしんみり伝わるんすよ。女性の気持ちなのに。

 では、第六回本物川小説大賞、大賞はたかたさんの明太子プロパガンダということでFA?

 ファイナルアンサー。

 ファイナルアンサーです。

 わー! というわけで、第六回本物川小説大賞はたかたさんの「明太子プロパガンダ」で決まりです! おめでとうございます!! パチパチドンドンヒューヒュー!!!!(ブオオオオオオオーーーーーン!!!!)←ブブゼラ

 おめでとうございます!

 おめでとうございます~!

 じゃあ、あとは世界とうんやん、どっちかが金賞でどっちかが銀賞なんですけど。

 うんやんか……!

 勝手に決めないでください(激怒)

 僕はビガンゴ先生。

 僕はうんやんかな。

 僕もうんやんは回避したいのでビガンゴ先生ですね……。では2対1で金賞はボンゴレ☆ビガンゴさんの「世界が終わるその夜に」ということで。

 パチパチパチパチ~

 パチパチ! おめでとうございます!

 そして自動的に銀賞一本はポージィさんの「うんやん」に決まりました。おのれバルタザールにカスパール。

 いえーーい!!(?)

 惜しくも最後で漏れちゃったか……。

 ……。(じっと見る)

 すみませんすみませんすみません。

 あと残り一本の銀賞を選定していくわけですが、僕としては「コナード魔法具店へようこそ」が本当に良かったなと思っていて。意外とこれまでの本物川小説大賞になかったタイプだと思うんですよね。すごく気楽に読めてサクサクしてて、でもちゃんと一定の満足感がある。これぞweb小説って感じで、すごくコスパいいんですよ。

 「入り口が重い戸になってない作り」というか、ウェルカムしてくれる作品。

 そうそう。やっぱ他人の創作を読むのって、ある程度その人の庭の中に入っていくみたいな感じがあって、それなりに心構えと言うか、覚悟みたいなのは求められるじゃないですか? そういうのが一切なくて、なんかすごく優しいんですよね。

 優しい、分かります。読みやすくてキャラクターもみんな嫌味がない。

 本物川小説大賞ってどんなのかな? って、書いたこと無い人が読んだ時、文学性の高さで困るわけでもなく、結末が難しくて首捻るわけでもなく、あっこういうのなら俺も書けそう、っていうのがあるとすごくいいと思う。もちろん槐さんのコナードは実はあれ書いてみれば分かるけど、めちゃくちゃ高度な事やってると思うけど、入り口でウェルカムしてくれる。

 そう、やろうと思うとめちゃくちゃ難しいんですけど、でもなんか、自分も書いてみたいなって思わせるようなそういう効果もありますよね。肩肘はらずに、一緒に遊ぼうよ? って誘われているようなフレンドリーな空気感がとてもいいです。明太子プロパガンダはなんだかんだいってムキムキのマッチョがいきなり殴りかかってきたみたいなところありますからね……。あとは筆力で言うと既読さんのビタミンCもムキムキマッチョマンなんですけど、なんか当たり前のように強すぎて逆差別みたいになってるところありますよね……。

 うさぎさんの「だ・かーぽ」とかもそうっすね。

 あげるタイミングを逃し続けているというか、ここまで来るともう既読さんにはこの水準ではあげられないみたいな。正直、あのふたりはもうレベルが違うのでそろそろ出禁ですよ。

 出禁!?

 えっと……卒業?

 ビタミンCもだ・かーぽも、最初の1話は文句なしの最の高だったけど、逆に完全にハードル上がって、ラストでこれならもうちょっとやれたじゃないか……とか無茶な気持ちになってしまったし。

 普通に売ってる小説を読む気分で読んじゃってますよね。だかーぽすごく良かった。移動の暇つぶしに適当に買った短編アンソロジーなんかにアレが載ってたら絶対得した気分になる(伝われ)

 あとは常連勢に関しては、書くことに慣れてると、どうにも本大会を舐めてかかってしまう事があるので気をつけたいところ。もっと本気でぶつかってこいと言いたい。

 それ。いくらクソ小説とはいえね。ほらきばりんさいや!

 ゴム子さんとかこむらさきさんも、本気で腰を据えて取り組めばものすごいポテンシャルを持っているとは思うんですが、まあお二人とも創作アカウントというわけでもないですし、投入できるリソースも人それぞれあるでしょうから、自分の生活を優先してマイペースにやっていってもらえばいいのかなと。こむらさきさんは確実に前進はし続けていて停滞や後退はしていないので、地味にでも続けていけば必ずなにかに到達すると思うんですよ。まずそれを自分で信じてほしい。自分自身でネタ枠みたいなところに自分を規定することをしないでほしいです。

 自分の癒し、楽しいな~っていうところじゃなくて、主人公の気持ちに仮託して「だからぼくはこれでいい」みたいな気持ちで書くことからそろそろ次のステージに挑戦してほしいって人がたくさんいました。

 うさみん(読めない)さんも他人には出せない味や思いつかないアイデアを絶対に持っていると思うので、何とかそれを昇華させて欲しいという思いでいっぱいになりました。

 今回はかなり野心的なプロットだったんですけど、やっぱちょっと体力不足かな。まだ大賞はあげられないけれど、確実に良くはなり続けている。

 あの人は面白くなる。化ける。

 しふぉんさんも、僕は実はBL表現ってめっちゃ苦手なんだけど、これは結構なるほどと思っちゃって。

 しふぉんさんは初登場時点でムキムキマッチョだったんですけど、やっぱ見慣れちゃうというのはあるので、もうちょっと違ったプロットに取り組んでほしさなどはあります。

 とても綺麗で文句の付け所がないんだけど、次のステップにいけるんじゃないかとおもう。

 前回の「天使」はそういう意味では野心的だったんですけど、ワンアイデア止まりなので、なんかこう、渾身の一撃を見たいというか(ふわふわ)

 超個人的な好みとしては、やっぱちゃんと完結してほしい。作品として自分はもっといけるって思ってるなら、ぜひ一回くらい、落ちというか、「これで終わりです」っていうところをきっちりつけてくれるとうれしい。誰かにこれ面白いよとか言いやすくなる。

 もう少しエンタメ方向に歩み寄ってみて、みたいな。

 お話って、作者ですら困惑するような爆弾放り込んだあと、どうやってこれを爆発させないまま処理するか、あるいは爆発させちゃうのか、っていうの全力の戦いみたいなのがあって、それが物語の緊張感を生む。ちょっと安定させるとすぐ守りに入ったオチや、よくわからない結末でぼやかしてしまって、読者としてもそれはけっこうひしひしと伝わるんですよね。

 その点ビタミンCは爆弾をうまくまとめてましたね。

 それが爆弾だったことに後で気付かされるパターン。感情は完全にコントロールされている。

 忘れな歌も、大きな爆弾が一つあればきっと化けてたと思う。

 この場合の完成度っていうのは、あえて言えば、「作者がコントロールできると思ってるくらいのまとまり感」でしかなくて、実は読者が許せるまとまり感って、まだまだ広いんだから、突拍子もないことや、腹の立つこと、汚いもので、あっと驚かして欲しいのはある。「弓と鉄砲」とか「黄昏の騎士」とか、ジャンルとしてはなかなかない所なので応援してるし、好きな人が絶対いるから紹介できるんですけど、やっぱそういう意味では爆弾がない。えっどうなるのこれ、みたいなのがない。

 うんやん、シンネン、DJマオウみたいに、尖ったワンアイデアでぶん殴るっていう作品は、今後も読みたいし評価していきたい。尖ったアイデアが出せるっていうのは、もうその時点で一歩抜きん出てると思うから。完成度を高めるっていうのはゆっくりやれば皆出来る。

 あとビガンゴ☆王も。

 彼は天才なんですけど才能を無駄遣いしかしないんですよ。

 さて、そろそろ銀賞一本の選定なんですが、わりと横並びなのでもうせーの!でそれぞれ言ってみる感じにしませんか?

 はーい!

 はい。

 じゃあいいですか? 決まりましたね? いきますよ……せーの!

 コナード魔法具店へようこそ!

 コナード魔法具店へようこそ!

 コナード魔法具店へようこそ!

 わ~!! 満場一致!!!!

 おめでとうございますー!

 おめでとうございますううううう

 というわけで、2016年最後の素人KUSO小説甲子園、第六回本物川小説大賞、大賞はたかたちひろさんの「明太子プロパガンダ」、金賞はボンゴレ☆ビガンゴさんの「世界が終わるその夜に」、銀賞はポージィさんの「うんやん」と、enjuさんの「コナード魔法具店へようこそ」に決まりました!!!!

 

 

 宣伝

 

 あと、せっかくなので最後にちょっと宣伝させてもらいたいんですけど。

 ほお。

 いまカクヨムで第二回webコンテストが開催中なんですが、枯れ木も廃村の賑わいといった感じでしてね……。

 ああ……。

 本物川女装創作団からも今のところ三人が出ているので、ちょっとその紹介をさせてください……。ずっと1位に居るんですけど、本当にPVが回らなくて……。

 まずは本物川女装創作団主席概念、大澤めぐみの「でも助走をつけて」1/2現在で恋愛部門の第一位にいます。いちおー第一部が完結済みで、続きは二月頃に更新の予定です。

 

kakuyomu.jp

 

 次に、ロッキン神経痛さんの限界集落オブ・ザ・デッド【長編】」。これも現在ホラー部門1位。すでに完結済みの旧作のリライト版になります。旧版はもう本当にめちゃくちゃ面白くて、これも当然、絶対に面白くなるはずなので応援していきましょう。

 

kakuyomu.jp

 よろしくお願いしまーす、星ください!

 あと、本物川女装創作団のジェイガン。ムキムキマッチョマンの既読先生の「ニャクザ ~RISING~」。こちらはやや層の厚い現代ファンタジー部門なので現在5位。既に二部まで完結済みの東京ニャクザ興亡禄の第三章になります。こちらも展開が早くて面白いのでオススメです。

 

kakuyomu.jp

 外部からお客さんを呼んでこないとランキングの1位に居ても一切恩恵ないから頼むよほんと。

 コンテストだしてないけど僕の小説も読んで! お願い!

 モッフル卿はまずコンスタントな更新をがんばっていこうね……。

 はい……(しおしお)

 

 はい! というわけで2016年を締めくくる素人KUSO創作甲子園、第六回本物川小説大賞、大賞はたかたさんの「明太子プロパガンダ」でした! それではみなさん、またいつか次の本物川小説大賞でお会いしましょう! 以上、闇の評議会議長、謎の概念でした!

 楽しかったです~、規定は守ろうな~!

 ルールを守って楽しくデュエル!

 おつかれさまでした~!

 おつかれさま~! 闇の評議会解散!! 撤収!!!!

 あと彼女! 彼女募集中です!!!!

 ……?

 ……?

 

 

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第六回 本物川小説大賞 概要

 貴様のケツに火をつける、またまた本物川小説大賞の時期がやってまいりました(思い付きで)。

 

 ガチランカー勢もウンコ投げ勢も商業作家もまったく小説なんか書いたことがない初めての人も、ルール無用で小説で殴り合う概念的全裸レスリング大会だよ。今回も前回同様テーマ自由の字数制限のみというシンプルルールでいきましょう。おのれガンキャリバー。

 

期間 なう~12月末日まで。

 

レギュレーション

カクヨムに投稿すること。

②「第六回本物川小説大賞」とタグ付けすること。表記ゆれに注意。

③2万文字以下の短編。以下です。カクヨムのカウントで2万字ちょっきりまでセーフ。こう言うと毎回マジで2万字ちょっきりで仕上げて来るマンが必ずいますが、君がいい感じに文字数を調整できるスキルがあるのはもう分かったから気にするな。実際のラインとしては10000~15000くらいを狙っていくと丁度気持ちいいのではないでしょうか。

 【重要】追記

⑤運営さまがぉこなので小説情報の編集画面から以下の「ユーザー企画用コンテスト」に応募して下さい。(既に投稿してしまっている人も修正してください)。なおこの操作によって通常ランキングには反映されなくなるのでそれが嫌な人はそもそも本物川小説大賞に参加しないように。

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副賞

大賞一本になんらかのイラストが授与されます。好きに使っていいので勝手に自力で出版してください。

 

参加賞

すべての参加作品に三名からなる闇の評議員の講評がつきます。闇の評議員には特になんらかの権威や実績があるわけではありませんが、とりあえず確実に三名は読みますので、各自励みにしたり参考にしたりしてください。

 

特別賞

その時々のノリでなんらかの特別賞が出たり出なかったりします。

 

 

はい、じゃあスタ~ト~!

 

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第五回本物川小説大賞 大賞は玻璃乃海(旧・中出幾三)さんの「カフカの翼」に決定!

 

 平成28年7月末頃から8月末日まで開催されました第五回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本、特別賞一本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

大賞 玻璃乃海(旧・中出幾三)「カフカの翼」 

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twitter.com

 

 受賞者のコメント

ドムドムドムドムドム!ドムドムドムドムドム!(勝利のドラミング)

 

 大賞を受賞した玻璃乃海(旧・中出幾三)さんには、副賞としてソーヤ+本物川によるイラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいんで自力で勝手に出版してください。

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金賞 既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」 

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銀賞 でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」

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銀賞 ゴム子「インダストリアル」

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特別賞 有智子賞 ラブテスター「午後王」

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 特別選考委員の有智子さんのコメント

午後王ちゃんかわいいよね。

 

 特別賞のラブテスターさんには副賞として有智子さんからイラストが贈呈されます。

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 というわけで、伝統と格式の真夏の素人黒歴史KUSO創作甲子園 第五回本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのは玻璃乃海(旧・中出幾三)さんの「カフカの翼」でした。おめでとうございます!

 

 

 以下、恒例の闇の評議会三名によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログです。

 

 全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も無事に一周年を迎えまして、なんと今回で通算五回目となりました。意外と続いていますね。前回の第四回大会はいろいろとレギュレーションを設定した変則ルールでの開催となりましたが、今回は10,000字未満の短編縛りという以外には何もなしのバリトゥードルールでの開催となりました。やっぱりルール無用のデスファイトこそ本物川小説大賞という感じがしますね。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回はまたメンバーを入れ替えて、謎のパンダ🐼さんと謎の猿(?)さんにご協力頂いております。

 謎のパンダ🐼です。

 謎の猿(?)です。

 少なくとも猿ではないですよね? 本当に何なんでしょうか? 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めさせて頂きます。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 さて、それではひとまずエントリー作品を投稿された時系列順に紹介していきましょう。

 

こむらさき 「歳の差遠距離百合恋愛」

 胃壁がキュン。安定の一番槍、トップバッターはまたまたこむらさきです。

 「最初からコレかよ!」という感じでいきなり膝がグラつきますね。こういう「自分の肋骨から削り出した呪いの霊刀」みたいな作品は最初からフィクションとして書かれた作品とは全く違う妙味を醸し出しますのでそれだけで強いわけですが、評価基準もそれ用になってきますのでなかなか難しい。この手の作品はしばしば「個々の描写は重みがあるものの全体の構成としては今ひとつ形になっておらず、微妙にストーリーになってない」という事態に陥りますが、コレは序盤のフリがしっかりオチに来ており作品全体にピシッとした筋を通していて、基礎教養力、ポテンシャル的なものを感じます。『何故手を突っ込んだだけで見つかる指輪があの時見つからなかったのか』とか読者側で想像するとまた味わい深くなってきます。

 年の差、遠距離、百合。読む前と読み終えた後では、タイトルに含まれるこれらの単語に対する印象が変わってしまっていると思います。全部のダメな部分が組み合わさってすごいことになってますね。ミカさんの救いようのなさが魅力ですね。ミサキくんも相応にアレなのですが、ミサキくんを苦しめるミカさんのアレさのおかげで幾分かマイルドになっているので読む側としてはミカさんのアレさに集中できていい塩梅だったと思います。正直なところ何度も読みたい作品ではないです。噛めば噛むほど苦味しか出てこない、匠の技。フィクションであることが救いですね、ええ、救いのはずです。

 ノンフィクションをベースにしたほんのりフィクションのシリーズで、これが三作目かな? 同じ題材を扱い続けているだけに成長が如実に観察できて素晴らしいです。前二作に比べると飛躍的に上達しています。たぶんですけど、最後に指輪をゴミ箱に突っ込むところはフィクションだと思うのですが、このシーンがあるだけでかなり小説になっていて良いです。前二作に比べるとフォーカスがそこでギュッとくる感じがある。好きじゃない、嫌いじゃない、胃が痛い、これらの全てが無矛盾に同時に成立する人間の心理というのは普遍性があるものなので広く訴求力もあると思います。同じ題材のまま、もうひとつふたつ脱皮すると文学の領域にまで高まるのではないかなという期待もあるので、飽きずにこのシリーズも続けていってほしいですね。とはいえ、トルタ大会の鉢植え頭も非常に良かったので、まだ自分はこういう系統と縛る段階でもないと思います。好奇心を持ってモリモリやっていきましょう。

 

ヒロマル「盗読のレミュナレーション」

 前回のトルタ大会の覇者、ヒロマルです。

 「地盤がずっしりしている」というのはこういうことかと功夫の高さを伺わせます。お話自体は実に小市民的な、小規模なものですが「物語の起伏」というものはイベントそのものの大小ではなく、その事態に対する登場人物たちのリアクションの揺れ幅で決まるもの。「見知らぬ女性が破り捨てた手紙を盗み見る」という犯罪的ではあるが犯罪として立証するにはどうか、程度の小悪事に全身全霊を振り絞ってしまった彼は十分に「主人公」足り得ると言えるでしょう。まあキモいですけど(唐突な言葉のナイフ)客観的にはしょうもない一連の事態の中に、人が欲望を抱く一瞬やそれを実行に移す心の情動、予想外の事態が発生する現実の無慈悲さとストーリーに必要な要素がきっちり詰め込まれていて「物語」になっています。「ちうしっ」という擬音が脳内再生度が高くてよかったですね。

 僕も「ちうしっ」すき。

 キャッチコピーの「善人が罪を犯す」の通り、真面目、実直に過ごしてきた青年が、自らの好奇心がために少しだけ罪を犯すストーリー。講談調といいますか、非常にリズミカルに状況が進行します。状況描写というよりも状況の説明、パパンと扇子をたたく音が聞こえてきそうな、軽い調子。話の盛り上げ方、落とし方、締め方、どれも非常にシンプルで、過不足なく、ちょうどいい塩梅ですね。とんかつが食べたくなりました。

 善良な人間が罪を犯す、その瞬間の抗いがたい衝動にフォーカスした作品ですね。4000字未満という小規模ながら過不足のない感じで、ここまで綺麗にまとまっているのは素晴らしいです。導入もスムーズですんなり語り部に移入できるので、ああこの状況なら自分もやってしまうかもしれないなと感じられるヒヤッとするような質感があります。この時点で勝ちみたいなものなのですがオチも秀逸で、なにも言わないのに「その後、なんだかトンカツを食べた」の前の空行になんとも言えない色々なものが込められていて、ここは語らずに読者に「あ~あるある、そういうの」ってそれぞれに思わせるのが正解っぽい。こう……なんかありますよね。トンカツでも食うか、みたいなの。

 

大村あたる「火照る身体とカレーと二人」

 大村あたるさんは第二回の大賞受賞者ですね。勝手に自力で出版してくださいってイラストを投げつけたら本当に勝手に自力で出版してくださったようでなによりです(?)

 夏の盛りに開催された小説コンペに! 夏の夕暮れ時の舞台設定で! マンションの一室に! 男二人で! カレー! ホモ! 暑い! 暑苦しい!! その暑苦しさが夏って感じですよね(トーンダウン)あくまで「夏の夕暮れにルームシェアしている男二人が部屋でカレー食ってる」というワンシーンを切り取ったものなので、ストーリー性は特にありません。この場合は無くて良いのでしょう。この二人がここに至るまで、まあ色々あったのでしょうが、その部分は作品内でほぼ語られていません。そこはおそらく想像の余地というやつなんでしょうね。作品の中に示されるのでなく、読んだ人間の中に何かが立ち上ってくるタイプのアレです。そういう「匂わせる」作品には夏という舞台は丁度良いのかもしれない。なんか鼻の中が塩っぱくなってきました。梅干しか。
「紆余曲折あって男二人で住んでる」というホモソーシャルな状況が、関係性が示されることによってホモに切り替わるその瞬間は、その手の嗜好の人達にとって大変よろしいのでないでしょうか。

 ホモですね。ホモです。いいホモです。いいホモでした。ある夏の日に、同居する二人がカレーを食べる。本当にただそれだけの話なんですが二人の関係性がいいですね。さらっとだけ触れられてる二人の過去もいい具合にスパイスとなっています。いいホモです。なんかこう、ねちっこいセックスしそうですねこの二人は。いいホモすぎて特にいうことがないんですよね。

 ほんのりホモ。でもねちねちした感じがなくてサッパリしててとても爽やかです。ホモで停電ってこっちとしては雑念邪念しか浮かばないシチェーションなんですが、登場人物ふたりのほうはそんなこと一切気にしてない感じでただただアツアツのカレーを食うばかりで自分の魂のケガレに顔が火照ります。大村(あ)さんはぶっちゃけると第二回大賞の作品以降は重めの叙述とちょっと変にツイストした作品が多くて僕はあまり好みに合わなかったのですが、軽妙な語り口じたいに魅力のある人なのでこういうプロットだけ抜き出すとなんでもないようなストレートな物語でこそ魅力が光るのかなぁ、みたいな思いがなくもないです。捻らないストレートな恋愛ものでビーズログ文庫の大賞に攻め込みましょう?

 

左安倍虎「魂までは癒せない」

 易水非歌の左安倍虎さん。これは現代ドラマの一位にわりと居座りましたね。

 如何にもショートショートという感じの、5分位のミニドラマで見たいような作品です。こう感じられるのは作品全体のデザインが文字数に応じて適切になされている証拠なわけで、「丁度良いリーチ」というやつですね。帯に短し襷に良し。作品の構成そのものが中心で2つに折れるようになっており、さながら鏡合わせの構図です。構造フェチの自分としては中々堪りません。アニマルセラピーというものがあって、動物と触れ合うことで癒やされるという精神医療ですが、ここには権力勾配的な力関係が存在し、要するに「自分が安心できる相手と一緒にいる」ということ自体が癒やしにとって重要な要因な訳ですが、「精神科医」という存在になりきることはある意味で相手の上位に立ち己を安心させることに繋がるのかもしれません。まあ精神科医が患者の相手をするうちにストレスを貯めこんでいって自分も病んでしまうというのもよくある話なんですけど。作品の印象として惜しい所を上げると、彼女、既に若干正気な気がするんですよね。その辺の描写にもう少しだけリアリティがあるとバシッ!と決まったと思います。

 林先生案件。ちょっとずれた現実に暮らしている方のカウンセリングを受ける精神科医、という構図。ずれた現実サイドから視点が始まり、ずれの幅が大きくなり始めた頃にここでネタばらし。ずれた方がいかにしてずれてしまったかの背景が語られ、どうして今ここでこのような話をしているのかが読者に明かされます。ネタが明かされた後に読み直すと、随所にほのかな手掛かりが残されていることに気づき、作者の仕事の丁寧さがうかがえました。

 そうそう、いわゆる伏線ですが、意外な結末に落とし込むためには最初から罠を張らないといけないんですよね。これも4000字未満という短編というより掌編ぐらいの規模なのですが、バッチリ綺麗に落としてきています。虎さんはどう足掻いても堅めの文体って感じなんですが、今回は語り部の設定と堅めの文体が自然に合致していて丁度良い塩梅ですね。途中からある程度の予測を立てながら読むのですが、それがまんまとミスリーディングにハメられていて多段どんでん返しにもう一発やられる感じの上手い構成です。テーマ性もはっきりしていますし読者に考えさせるような感じで、ただ面白いで終らない深みもあって文句なしの良作。どうしても「意外な結末!」をやりたい人は参考にして下さい。

 

今村広樹「立ち寄ったカレー専門店で私は激辛カレーを食べた」

 そのままですね。立ち寄ったカレー専門店で激辛カレーを食べます。ほかは特にない感じ。前回までのように詩的な感じでもないのですけど、わざわざ同じ世界観だという注記もあり、ちょっと意図が分からないのでもうちょっと分量なり展開なりがあったほうがいいかな? と思います。

 えー…あー…ちょっと困りましたねコレ。内容が「激辛カレー頼んで期待通りの辛さだった」というだけなので、もうちょっとこう。いやそれ自体はアリですけど肝心の食事の描写が「期待通りの辛さだった!完食!」だけで終わられてはどうしたらいいのかと。これではグルメリポートとしても不十分です。昨今、料理漫画が何度目かのブームを起こしていますが、料理の描写において重要なのは、食べた人間のリアクションです。「カレーを食った」という事象を中心に書くならばそこを怠ってはいけない。元ネタ的に考えても。そこで舞わずにどうするかという話です。

 短いのでもう少し書いてください。

 

起爆装置「死んだ死んだマザーソウル」

 闇の評議会の寵愛を一身に受けております。本物川創作勢の問題児、起爆装置くんです。

 タイトル、キャッチコピー、書き出し全てが強い。最近の創作指南では「初っ端にパンチを入れろ」と教えるそうですが、バッチリ決まってますね。いきなりの異常事態、そしてそれに全く動じない主人公から始まり、そこから日常をベースに異常な世界観がどんどん打ち出されていく。この世界のインターネット、この事件に対してどんなことになってるんでしょう(ネット中毒者特有の病状)「殺されても何度でも生き返る存在」という設定自体は珍しく無いですが、それで蘇ってくるのが母であり、死のうが蘇ろうが何一つ変わらないまま日常を過ごそうとするという展開は「思いついた時点で勝っている」系のそれです。正常と異常のマーブルカラー、混ざり合うこと無くフラットに正常と異常が並列するその世界観は起爆装置くんの本領発揮といった次第。一話目の最後が揺蕩うようなオチで非常に薄気味悪く素晴らしいのですが、その下に表示されている第二話のタイトルで台無しになってる辺りタチが悪い。なんのかんの言いながらも書く度に前書いたものを踏み台にしながら着実にクオリティが上がっているので本当に先が楽しみな人です。

 タイトルの元ネタはリンダリンダラバーソウルです。二話三話は正直蛇足だと思います。

 勢いのある文体と、どうやったらそんな発想が降りてくるんだっていうような悪趣味な設定の併せ技で謎のドライブ感があります。なにかとブン投げがちな起爆くんですが今回はオチもわりあい綺麗につけている感じでその努力は認めてあげたい、のでーすーがー、さすがに駆け足すぎて描写がおろそかな感じは否めません。実は僕、これ語り部が女性であることに一話では気付かなかったんですよ。この手の一人称記述で読者を意識したような説明てきな文が入ると萎えるのも分かるのですが、かといって説明がないと混乱しますので、いかに自然と情報を提示するかというテクニックは必要かなと思います。文字数制限の問題もありますが、最終話に関してはなんとか思いついたオチに辿り着くために無呼吸で駆け抜けたみたいな速度域ですね。ドライブ感と丁寧さは両立できると思いますので意識してみて下さい。

 

中出幾三「とんがり頭のオッサン」

 PNが本当に終わっているのでいい加減どうにかして下さい。ケモノの王のうさぎさんです。

 タイトルから内容が全く想像できない。タイトルで作品のどの部分にフォーカスを当てるのかって性格でそうな気がしますね。そこから想定外の良い意味でも悪い意味でもすごい微妙な顔になる、オマージュと悪意と皮肉にまみれたウィットが怒涛の勢いで展開され、結構悲惨な事態なのにどこか悲壮感のないユーモラスなノリのまま、「そんなわけで樹海にやってきたのだ」みたいな軽さで物語は終焉の舞台に辿り着く。そこでもやはり悲喜劇めいた軽さで話が進み、そのまま終わるのかと思えば、最後に突然「楔」を投げ渡され、その一瞬で作品の構造がバチッと固まる離れ業。見事としか言いようが無い。ケモノの王もそうでしたが物凄いアクロバットセンスですね。

 よくできた話です。話の運びのうまさからか、落語を聞いた後のような、騙される良さのようなものがありました。タイトルになっているとんがり頭のおっさんのキャラクターがいいですね。あなたも、これですか、とジェスチャーでコミュニケーションを取ろうとするかわいらしさがよいです。もう本当に、特にいうことがないです。気になるのは元嫁の宝くじの当選金額ですかね。五千万じゃそんなに、みたいな。本当にどうでもいい感想。

 どうしてもバトルもののイメージがありますが、前回のトルタ大会に引き続き短編だとまったく違う印象の作風ですね。「完璧な遺言書」というアイテムをキーにして、自殺志願者たちの奇妙なコミュニケーションが連鎖するという趣向。少し余韻と謎を残すオチのつけどころはバッチリですし、一万字未満というレギュレーションに対してキッチリ9999文字で上げてくる煽り魂も良いと思います。ただ、削って削って9999文字に仕上げたのではなく膨らまして9999文字に仕上げたのかなという感じがあって、これに関してはその拘りは捨ててもう少しダイエットしてもいいのかなと思えるようなシーンも少しありました。

 

姫百合しふぉん「天使」

 ブレない安定の美少年耽美小説一本勝負のしふぉんくんです。

 狂いながら整列する数奇な言語と音韻の羅列。卑俗な内容。しかし裏腹に語る言葉と心は歪に美しい、それは呪われた聖歌。

 (え……なにその突然のポエムは)←引き気味

 これも物凄いことをサラッとやってますね。何かの実験で「ひらがなだけの文章で微妙に文字列を入れ替えても脳が補正して読めてしまう」というのがありましたけど
それに近い感覚です。真っ当に「上手い文章」を目指すだけでは辿り着かない地点。これで何の違和感もなく流れるように読める文章が組めるのは言語、音感、語感の調律を感覚レベルで掴んでいるということです。これをそういうセンスが無い人間がやるとただ見苦しくなるだけでしょう。 シチュエーションだけでストーリー性がほぼありませんが、ここにストーリー性を持ち込むと一気に破綻する事は必定であり、その辺りまで見切られたギリギリにして絶妙の味付け。しかし、「何故このように文の接続が狂っている一人称なのか」という必然性は暗示されており、しふぉんさんらしい美学を感じます。

 本人が説明文に、不快になる方が多いテーマと書かれている通り、2000字とは思えないほどに濃く、良くも悪くもあくの強い短編です。文法、というか文章そのものが意図的に崩されているのですが、文体がそのまま内容に直結している、崩れた文章の底に眠っているものの姿を読む側に喚起させる、読む人を選ぶ趣向が凝らしてあります。しふぉんさんは過去にもいくつか似たような雰囲気の作品を書かれていますが、私が読んだ限りでは、読んだ後の後味の悪さはこれが最も強いのではないかと。タイトルにもあまり触れたくはないですね。

 僕が講評ですが真似して始めるので悪いのでだめです。今回は悪く言えば一発ネタですね。意図的な混乱した地の文で語り部の性質や状況を語らず類推させるという趣向。面白味はあるし好きなのは好きなんですけれども、やはり小説大賞での評価ということになるとこれ一本ではちょっとつらいかな。

 

マロン「僕はかわいい女の子になりたいって思っていたんだ」

 島風くん!(断定)

 「ノリで女装してみたら思ったより可愛くてハマって調子乗ってたら男友達に迫られてそのまま」というのが所謂「男の娘」モノにおける一つのテンプレですがそのまま本当に女の子になってしまうのはある意味で究極の理想と言えるでしょう。しかし別の意味では背信行為ですね(面倒くさいオタク)そういう性転換モノも既存のジャンル(TSF)であり、その場合は「女の子になってしまった自分と今までの世界とのギャップ」がポイントになってくるわけですがこれの場合、世界線と過去ごと書き換えられていて自己認識すら塗り潰されてしまった結果、違和感を感じるのが誰もいなくなったという点で最後に急にホラーになったような。折角の夏の小説コンペだし、僕の中でこれは怪談であると解釈することにしました。こわい。

 世のおのこのすなる女装コスなるものをわれもしてみんとてするなり。注文した衣装についていたペンダントが原因で性転換、自分の歴史ごと書き換えられてしまいますが、それでもいいかなって生活を始めるところで話が終わります。性転換ものでよくある面倒ごと(周囲の反応、対応、事務処理等)を設定で無力化しているので問題なく性転換できますしこのまま滞りなく恋が実っていくものと思われます。その設定のおかげで一応一万字に収まる形になっていますが、その設定のせいで話の起伏となるイベントを消してしまっているので性転換ものとしてのうまみがかなり薄まってしまっています(個人的に)

 出だしで「井上翔太は」と三人称記述っぽく始まっているのに、そこからすぐに「そう、僕たちは」と一人称の地の文になるので混乱しました。「いつの間にか自然に女の子になっていて謎に辻褄も合されていて最初からそうであったかのようになっている」という仕掛けだと思うのですが、それをすんなり機能させようとすると、そういった「あれ? なにがどうなったんだ?」という細かい混乱がわりと大きな障害になるようです。意図的に混乱させるつもりなら意図しない混乱の種はつぶしておいたほうが良いでしょう。もう少し推敲したほうが良いかもしれません。

 

久留米まひろ「光の剣」

 なんでしょう。ちょっと文字数と物語の規模が合致してない感じでよく分からないままに話が進んで最初から最後までポカーンみたいな感じですね。

 裏稼業で実力者だった主人公が、世界に異能力の概念が出現したことによってコンプレックスを抱えるようになるお話。職場にパソコンが導入されて急に仕事が出来なくなったおっさんみたいだぁ…(直喩) 感想として、これはギャグなのかシリアスなのか図りかねる所がありました。キャッチコピーに「ナンセンス現代アクション」とあるので恐らくギャグ寄りなのだと判断しますが、ちょっとバットの振りが弱いと思います。アーツという「個人によって様々な形で発現する異能力」はベタですがそれだけに使い道の多い要素ですので、その部分をもっと拡げられると良かったのではないでしょうか。

 三つほど言いたいことがあります。

 まず一つ目、展開を詰め込み過ぎです。今回の大賞は一万字以内の作品です。見事にオーバーしていますね。文字数がオーバーしてしまったことよりも、この内容を一万字で収めようとしたことが問題です。一万字は字面から受ける印象よりもずっと短いもので、ちょっと欲張るとオーバーしてしまう、そんな長さです。では光の剣はどうかというと、ちょっとどころではないです。欲張りすぎです。能力がない主人公の苦悩の日々、そんな日々から抜け出せるかもしれないという光明、同僚とのラブロマンス、手に入れた能力を失うことへの悲しみ。適当にいくつか抜き出してみましたが、この内容を一万字に収めようとすると、今回のようにすべてのイベントを駆け抜けていくことになります。駆け抜けるスピードが速すぎてすべてのイベントに対して何にも感じません。嘘です。うすら寒いものしか感じません。
 二つ目に、キャラクターが死んでいます。もう本当に誰もかれも死んでいます。生き生きしてるのは主人公くらいで、あとはイベントのフラグを回収するための人形と化しています。主人公は楽しそうに人形たちの中で遊んでいる道化です。とても幸せそうですね。みんな目が死んでいます。死ぬよこれは。みんな死ぬ。少なくとも私の心は死んだ。前述の、ダメなハイスピードイベントクリアと相まって、最悪ですね。口の中に次々と泥を放り込まれている感覚。のど越しが最悪。
 三つ目、メグ姉じゃねぇよ。いやもう、大澤の時点でアレですが、めぐみですか。そうですか。主人公は弟で姉は大澤めぐみですか、そうですか。そうですかしか言えませんよこんなの。なんだこれは。どうして出した。出したかったのか、そうか。

 ……はい。一万字というと本当に一発フックを仕込んだら終わってしまうぐらいの文字数なので前提となる設定などはあまり複雑にしないほうが良いでしょう。もうちょっと最初に想定する規模を縮小して一点にフォーカスしていったほうが良いと思います。あと文字数オーバーなのでゼロ点です(無慈悲)

 

蒼井奏羅「Q」

 安定して退廃的でゴシックな雰囲気のある作者さんです。

 じりじりと、本当に少しずつゆっくり進んでいく話で、真綿で首を絞められるような感覚に襲われる作品です。これもまた別の意味でレビューの難しい作品ですね。どこまで話していいものか悩みます。結末に関しては「そっちに振ったか」という感じで、ここは賛否両論別れるところだと思いますが、賛否が別れる時点で仕掛けとして成功しているといえるでしょう。もう一つ賛否が別れるであろう点として、タイトルとコピー。これはつまり「謎がありますよ」と最初に提示しているわけですが、個人的には敢えて言わずに進めていったほうがパワーが出た気もします。

 ある病気のせいで隔離され育てられた少年と彼を育てる何者かの話。BL要素はそれほど過激ではなかったですが、きちんと注意書きをされていらっしゃるのは良いことだと思います。この程度でも拒絶反応を示される方もいらっしゃいますからね。話運び、少年の悩み、独白から、話の結末が垣間見えるタイプの話です。

 なんかこう、黒背景に白抜き文字で読みたい感じでカクヨムのやたらめったら明るいUIとはちょっと雰囲気が合致しない感じがありますね、これは止むをえませんけど。仮に物理本にするとしたら紙質などに拘ってほしいタイプの文章です。カテゴリーとしてはミステリーになっていますがホラーのほうが近いかなと思いました。おまけに関してはおまけなので本編ではないのでしょうが、謎めいた陰鬱とした雰囲気が魅力なので謎は謎のまま放置しちゃって、なくても良かったかなという感じがしないでもないです。

 

seal「俺はどうやら拉致監禁されたみたいです」

 クトゥルフ系列のsealさん、今回は非クトゥルフです(よね?)。これも長らくミステリージャンルの一位に居ましたね。

 ミステリといえばソリッドシチュエーション、ソリッドシチュエーションといえばミステリ。絶海の孤島。人の訪れない洋館。ミステリという文脈にとって欠かせない黄金パターンですが、黄金パターン故に束縛も多く、斬新な要素を盛り込みにくいのが悩みの種。しかし、そこにSFという要素を加えることで劇的に可能性が広がるわけですね。一部の純ミステリファンにとっては「それが嫌なんだよ!」みたいな顔をされる話かもしれませんし、「SFを混ぜた時点でミステリじゃない」なんて声も聞こえてきそうですが、別にどうでもいいですねそんなことは。面白くなるならバンバンやっていくべきでしょう。可能性が広がった分、逆に収束させていくためのロジック構築が困難になるのがこのジャンル合成の難しい所ですが、7000字のそれも前半部分に必要な情報はちゃんと置いてあるのでこの辺りに経験を感じます。

 そうか、なるほど、なるほど、なるほど。ミステリーかな、ミステリーなのかな、SFじゃないかな、SFだと思う。そんな少し不思議な話。種明かしそのものよりもそのあとの時間を味わうのがこの作品の楽しみ方だと思います。本当につかの間の、朝露のしずくのような一時。幼子の趣味はありませんがかわいらしいキャラですね。

 のっけから監禁されています。そこから脱出するために謎を解くという趣向ですが、解決編がわりと中盤にあってそこからのエピローグこそ本編という感じでミステリーとしてはバランスてきにもうちょっと推理パートが充実していても良いのかなと思いました。正解までに紆余曲折や障壁がなくストレートに一発正解しているのでそこで手に汗握る感じがなくカッチョイイ。ここからなにかが始まるんだと期待させるような余韻を残す引きは個人的に大好物なので実に良いです。

 

豆崎豆太「死神様のお気に入り」

 (たぶん)ヒロマルさんのほうから来ました、ご新規さんです。

 「鬱屈した日常に突如舞い降りる異邦人」というパターンの始祖ってドラえもんなんでしょうか。もう少し遡れそうな気もしますが。

 1.どういう人間の所に 

 2.どういう異邦人がやってきて 

 3.どういう変化をもたらすのか 

 という3要素の組み合わせによって様々な形に変化するのが妙味のこのジャンルですが、この作品は「死にたがりの所に死神がやってきて現状維持を願う」という、見事に何も起きない組み合わせです。そして、そこがこの作品に込められた優しさでもあります。「変化をもたらす異邦人」というのは見方を変えれば理不尽な破壊者なわけで、本人の意志すら無視して強引に環境を書き換えるものですが、この作品の死神は何をするわけでもなく彼は死神であるにも関わらず「そのままでいてくれ」という言葉とともに、ただ側に居て認めてくれます。その在り方に救われる人も恐らく少なくないのではないでしょうか。凄く心休まる、独特の読後感でした。

 やさしい味のファンタジー作品。死にたいが口癖の女性のもとに、ある日死神がやってきて。内容としては、この女性のひたすらな自己嫌悪と卑下の連続なのですが、死神のフォロー(物理込み)もあってか、ほのかに明るく話が進行します。死にたいと口にしたことのある人に一度読んでいただきたい。読んだ後になんだか救われた気持ちになる、優しいお話です。まあ、救われた気がしても、何かが解決したわけではないんですけどね。そのあたり、物語力を感じますね。

 これ好き。キャラが良いですよね、コミカルで。ほぼ死神のキャラだけでストーリーを牽引していく感じですが、それだけの馬力がある立ちまくったキャラ造形で実に良いです。どうにも憎めない良いキャラをしていて人情系?っぽい感じなのですが、でもやっぱり死神だから人間と美的感覚などがズレているなどの死神っぽさもあって一筋縄ではいきません。序盤はあまり魅力的にも見えなかった語り部が、そんな死神の指摘で一転、なんだか応援してあげたくなるような人物像にフリップするところも仕掛けがきっちりキマっている感じで気持ち良いです。

 

大澤めぐみ「アッコとリサのお悩み相談室」

 あなたのお悩み募集中よ。

 オカマ。もうこの三文字で強いのずるいですよね。ゴリラと同じタイプの概念ですよ。ただそこにいるだけで面白いし喋り始めたらもっと面白いし、それが二人で掛け合い始めてもう一人のオカマの相談に乗るとかパワー何倍だって話です。ウォーズマンのベアークローです。あの計算式、ウォーズマン本体とベアークロー1本が等価なんですけどウォーズマン的にそれはいいんでしょうか。何の話でしたっけ。オカマの話ですね。本当にただオカマが話してるだけです。リアリティあるのか無いのかもよく分からないけど説得力はあるオカマトークでグイグイ引きこまれていきます。半分くらい「何言ってんだこいつ」みたいなムチャクチャな論法が展開されていますが「それがオカマなのよ」って最後に付けられると納得してしまいます。何気にタイトルにCase1とついており、作者は読者の投稿を募る形でシリーズ化させる気満々だったようですが現状続きはありません。読者の投稿がないので。世の中ままなりませんね。それでも強く逞しく、しかし可憐さも忘れずに、野に咲くタンポポのように生きていく、それがオカマなのよ。

 (え……なにその唐突なポエムは)←引き気味

 どこか懐かしさを感じるノリの作品。全編、セリフと注釈?によって構成されており
3人のオカマがカメラに向かって、相談室という名目で即興のコントを繰り広げていく。非常に読みやすく、空いた時間にサクッと読み終えることができ、題材のキャッチーさも相まって普段小説を読まない人にも進めやすい作品ではないかなと思います。私はあんまり楽しみ方がわかりませんでした。オカマ、苦手なんですよね。

 そう?

 面白かったです。

 そう。

 

蒼井奏羅「星に願いを」

 今大賞、二作品目の投稿ですね。

 「星に願いを」というタイトルと「ただ幸せになりたかっただけなのよ」というコピーの組み合わせで既に先が暗示されているこの作品。先ほどの「Q」と同じパターンですね。ジャンルとしては童話小説でしょうか。童話というのは訓話としての側面を持ち、その内容を通して読み手に何かを教えようとするもので、その要件はきっちり満たされていますがちょっと構成としてシンプル過ぎた気もしますね。もう少しアンとのやり取りの描写があっても良かったのではないでしょうか。結末に至るまでもう2つ3つエピソードが欲しかったところです。恐らく作者が書きたいのであろうテーマは書けていると思いますのであとは内容にウェイトを足していくだけでどんどん良くなっていくと思われます。

 幸せになりたかっただけの少女の物語。自分にだけ姿の見える友達が、みっつだけ願いを叶えてあげようと提案をして。計算された陰鬱さというか、一つ目の願いの顛末を読んだだけで読む手が少し止まりました。いやな予感しかしない。読み進めるとその嫌な予感は的中し、最後の願いがかなった後はもう。狙った後味の悪さがよく効いた作品ですね。

 変則的な猿の手ですね。お願いが出て来るたびに、それに対してどういう結果が出るのかをある程度予測しながら読むのですが、大オチに関してはこのオチはまだ見たことなかった気がするので、まだやりようはあるのだなという感じ。本家だとワンナウトダブルプレーって感じですが、これはハッピーエンドですね(主観的には)

 

既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」

 現代アクションでうさぎとしのぎを削っていた猫、ニャクザの既読さんです。

 もうザックリ言ってしまいますとカフカの「変身」現代版リメイクですね。それだけ言うと「あー、はい」みたいな感じになって、誰もが一回は思いつくことかもしれないですが実際にこのレベルでやられると何も言えねえなという。作者の博学、軽妙かつ適度に濃密な文体、パンチ力のある発想が一万字という枠内に綺麗に収まっており、その辺に関してはツッコミようがない。「展開として都合が良すぎるんじゃないか。実際に2m近い人語を喋るヤスデが出て来たらもっと…」と思われる方もいるかもしれませんが元ネタの「変身」からして「突如社会に巨大な虫が何食わぬ顔で現れたらどうなるか」という事態をシミュレートしたSF小説ではないので。「毒虫」が社会に所属しながら孤立した人間の隠喩という解釈は結構有名で、じゃあアレは社会風刺なのかというと当のカフカはギャグのつもりで書いてたらしく、要するにブラックジョークの類であり、「ヤスデ人間」においてもその辺りはしっかり織り込まれていますのでこれで良い訳です。むしろ原作より救いのあるオチになっている辺りに作者の優しさとか現代社会のなにがしかに対してのメッセージが読み取れるかもしれません。大変面白かったです。ヤスデって青酸分泌するのか……。

 淡々とそれでいてユーモラスにつづられるヤスデ人間の日々。人からヤスデになってしまった。その突然の変化によって起こる避けられない衝突の数々をこの世界はすべて優しく受け止めてくれる。登場する人物は、誰も彼もが聖人であるなんてことはなくて、どこにでも居そうな普通の人で、それでも得難い優しさをもってヤスデ人間に接してくれる。もしも自分がこの設定で書いたならば、カフカの変身のように後味の悪い終わり方にしたでしょう。原作にある、悪意ある道筋をなぞることなく、ヤスデ人間になってしまった現実をソフトに受け止めて話が終わる、とても素敵なお話です。(あとで検索してみましたけど、やすでって気持ち悪いですね。いやこれは、世界が優しすぎる。絶対殺す。絶対に殺す。家族が毒を盛る。家族がやらなくても商店街の誰かが殺す。小学生が石を投げる。死んだことに安堵する。万歳三唱する。そういう何かだと思う。)

 変身と同じ導入からここまで希望の感じられる結末を導出できることに驚きます。毒虫に変身してしまうというのは飽くまで突然の不条理な不可避の不幸のメタファーで、抽象化すればそういった出来事は誰の人生にも起こりうるものなのですが、人間というのはそんなたったひとつの不条理な出来事ていどのことでめげるようなものではない、というようなあっけらかんとした強さが見てとれて、しかもそれがあまりエモーショナルでない淡々とした文体で綴られていて押しつけがましいところがなく、かえって素直にメッセージ性を受け取れる感じ。この作者にしては珍しく素直に気持ちが前に出てきたなという感じもあって非常に良いですね。

 

不死身バンシィ「マルマーの呟き」

 コメディタッチの作風に抜群の力を見せる作者です。ミス・セブンブリッジの続き、楽しみに待っています。

 ……パンダの主食は笹と思われがちですが実は竹なんですよ。

 そうですか。

 好きですよこういうの。動物目線から見える人間の姿。SF設定でのひねりもちょうどいい塩梅に聞いていると思います。よく見られる野良猫たちの集会、行動に、うまい具合に意味づけされていて、読んだ後、猫を見るのがちょっと楽しくなる、そういう作品だと思います。最後のやるせなさというか、あーあって感じがいい。うわぁ、マジかよ人類って感じ。こたつ空間はいいですね。個人的にはサメがどういう形で集ってるのかが気になります。

 いちおーSFなので設定のほうもなかなか面白味があって素敵なのですが、設定を地の文の説明のみによって見せていくのはもうちょっと工夫があったらよかったかもしれませんね。そんなことよりもコタツスフィアなどのストーリーには直接関係のない細かいしょーもない描写でクスッとした笑いを稼がされてしまって、メインのストーリーよりもそっちが本体みたいな感じ。文字数てきにもまだ余裕もありますし、もっとそういったクスッとくるポイントをモリモリに盛っていくとさらに魅力的になるのかなぁと思いました。投げやりなオチも猫だから許される感じで悪くないです。

 

枯堂「Carnival」

 カーニバルダヨ! 幻想都市百景でようやくリズムを掴んだと思ったのですがエターナっていますね。大丈夫でしょうか。

 これはまた、ちょっと戸惑う変化球が飛んできたなという感じです。誰かが誰かをお祭りに誘おうとしている。人物や情景の描写は一切無し。ただ、誰かがはしゃぎながら一所懸命「お祭り」のプレゼンをしている。人はある程度歳を取ってしまうと中々お祭りに行こうとか思わなくなるものですが、彼はお祭りに興奮しきっています。じゃあこれは小学生くらいの子供なのか。いや久々に地元のお祭りに興奮してしまった初老の男性が妻を誘おうとしているのかもしれない。恐らく読む人によって幻灯機のように映し出されるイメージが変わる作品です。「童心」をエッセンスとして抽出してそれを幻に変えたような、不思議な作品でした。

 もうすぐ町に祭りがやってくる。その直前の熱気、はやる気持ち、ささやかな恋心。少年のこころと時代をそのままパッケージしたようなさわやかな作品。非常に短い作品なのですが、その短さの中に、祭りの前の楽しさがぎゅっと詰まっています。(短いですね。さらっと読めるだけに、すこしだけ物足りないというか、熱っぽく話してるところに爺さんばあさんからちゃちゃが入って話が中断される、みたいな変化があってもよかったかも。フレイバー程度ですけどね。)

 わりと仕掛けを仕込んでくる作者なのでこれもなにか仕掛けがあるのかと警戒しながら読んでいたのですが、そういうこともないみたいです。普通に長い詩みたいな感じの受け止めかたでいいのかな? たんに僕が分かっていないだけの可能性もあります。根本的な文章力はすでにある作者なので、こういうなんでもないような文でもそれなりに楽しく読めるのですが、やはり小説大賞なのでもうちょっと小説っぽく仕上げてほしさもありますし、元来の作風から言ってもただスランプでなにかお茶を濁したのかなぁみたいな気がしないでもない。わりと悩みやすい性質みたいですけど、ロッキンみたいな口から出まかせでっち上げ進捗スキルみたいなのも時には重要ですよ。

 

有智子「ブラザーサン・シスタームーン」

 トルタ大会で出してきたメディエーターの続編ですね。

 何らかの壮大な物語、の序章であろうお話。人物、関係性、特性、背景、今後の展望などが会話文とともにつらつらと連ねられるわけですがただそれだけでちょっと「雰囲気」が漂い始めており、なんとなく脳内にぼんやりとした絵と空気感まで想起されるのは結構凄いことです。作者が作品の世界観に対して、明確なイメージとこだわりを持っている証拠ですね。独特の清潔感と匂い立つような艶を感じます。もう人物全員美形しか浮かんでこない。エルフみたいなの。歩くだけでその後に香りの道ができるような。ただ、本当に序章で終わってしまっているので、続きが気になるところですね。

 続き物の一断片ですかね。長髪イケメンが何故メディエータ、エージェントになったのかについて位のエピソード。続きが非常に気になります。このエピソードだけでこの作品についての判断はしたくないですね(続きを読みたい) そう、本当に続きが読みたいので、できれば書いてください。全部。一エピソードで魅せることには成功していると思います。ですがこれだけを出されても、お預けを食らってるみたいでもどかしいです。

 ひとつの話として成立してはおらず、まだ導入部という感じですね。飽くまでワンシーンといったところ。文体になんとも言えない柔らかな魅力がありますし、わりとこういったシーンの断片は無限に思いつくようなので、それらをちゃんと書き留めておいて一つながりの大きなストーリーにまとめあげるという作業に一度本気で取り組んでみてはどうかなぁと思います。きっと面白いものが書けるはず。なによりちゃんと小説を完結させるというのは気持ちの良いものですよ☆

 

焼きりんご「少女」

 うーん、つらつらと書いているという印象で、どこにフォーカスして読めば良いのか悩む感じ。

 十七歳。恐らく人間の精神が最も揺れ動く時期。この辺の年齢って「己は己である」という自我だけは確立されつつあるものの、それを支える根拠は何一つない時期なんですよね。スポーツか何かで実績を上げているとそれを拠り所にするんでしょうけどそういう子は一般的ではないわけで。殆どの子は足があるのに浮いているような、自分でもどうしていいのか分からない状態でフワフワ浮きながらバタバタ藻掻いているわけです。そういう「思春期」はモチーフとしてもよく用いられますが、この作品では17歳の少女が感じる自己と社会との齟齬、周囲に対する苛立ち、嫌悪を描写することで間接的に少女のザワザワした未熟さを浮かび上がらせています。最後ではなにか吹っ切れたような行動を見せていますが、一体どちらの方向に吹っ切れたのか。曇り空のような不安を残したまま終わり、最後まで落ち着きません。この不安定さが「少女」というものなのでしょう。

 今もどこかにありそうな、苦くて痛い青春の一ページ。ここじゃないどこかへ行きたい。自分はもっと上に行ける。今はただ、レベルの低い友達に、付き合ってやってるだけ。家に帰っても面白くないし、お父さんは嫌いで、おばあちゃんはうっとうしくて。でも、あの子は違う、違う気がする。きっとそうだ。違うんだ。根拠のない直観と、どこまでも傲慢で妙に楽観的な自意識と、青春のあの頃にあったはずの向こう見ずさ。痛くて苦くて甘くて淡い、そんな作品。会話文が全部地続きなのはちょっと‌読みづらいので、できればそこ、鍵かっこ使ってくれると嬉しいです。

 なんでもない瞬間にふと死のうと思う、みたいな部分を書きたいのであろうから(たぶん)なんでもない日常をつらつらと書くのもそのためには必須であって、単純に一見意味のなさそうなシーンを削ればいいというものでもないのが難しいところ。ラストのなんか知らないけど「明日はAに話しかけてみよう」という気持ちになるという落としどころは良いと思うので、なにげないシーンもそういった「これを描きたい」というあるポイントに向けて収束させていくためのシーンなんだという意識を持つともうちょっと輪郭がシャープになるかも。

 

ロッキン神経痛「ケモノの楽園」

 最初に読んだ時は地下に潜った人類と地上で野生化した獣人との交流みたいな話だったはずなのに、講評書くために読み直したら加筆とか修正ってレベルじゃないまったくの別の話になっていました。闇の評議会を狙った卑劣な攻撃でしょうか? 許されません。

 前説明にもありますが、これは今回の本物川大賞参加者の一人でもある中出幾三さん(本当にキーボードで打って変換するの嫌だなこの名前)のカクヨム投稿作品「ケモノの王」の二次創作です。…普通これを大賞参加作品として持ってきますかね。作者の胆力と中出さんに対する愛を感じます。「じゃあ先にケモノの王読むか…ゲェッ25万字もある!おのれガンキャリバー!」となる方もおられるかもしれませんが、これ単体で読んでもちゃんと成立していますし描写の濃い絶望的なバトルアクション物として面白いのは流石です。怪物に対する切り札のアイディアと、それを選択した覚悟もカッコ良かった。けどケモノの王も面白いので読みましょう。そうしたらこの作品もグッと面白くなるでしょうし中出さんも喜びますし中に出されてる作者も悦ぶことでしょう。

 ……(←なにを言っているんだろうという顔)

 墜落から宇宙人出現、主人公の覚醒、油断、一か八かの賭け、逆転劇。一連の流れが非常にいいです。面白い。設定についても、必要な情報は随時さらりと挿入されて、読む上で不便を感じることはありませんでした。いいですね、ケモノ。ケモケモ。

 ケモノの王の二次創作ということですが、ケモノ世界の数百年後とかそれぐらい先の未来の話っぽい。超人バトルものです。僕は修正前と修正後の両方を読んでいるのでなんとなく把握しましたが、一部設定は修正前では語られていたけれども修正後にはその記述がなく、それなのにその前提で語り部が動いていたり、かと思えば獣人の設定がなんの説明もなく変更されていたりでなにを書きなにを書いていないのか混乱しているように見受けられます。修正後を単体で読んだ場合ポカーンとしてしまうかも。原理的に難しいところはありますが、一度自分自身で全ての記憶を忘れてまっさらの状態で読み直してみたほうが良いと思います。推敲大事。

 

既読「はこのなかにいる」

 既読も二作目の投稿です。

 どこかコミカルであった前作とは違い徹底したシリアスとソリッド。引き出しの幅を感じさせます。そして描写、構成は同様に見事でありパワーを感じます。アイディアとしてはSFでは割と既存のものですが、意外にこの「2つ」を組み合わせたものは無かった気もします。タイトルにある「はこ」とは何なのか。それに気付いた時にあっと言わせられる最後の一文のギミックも凄い。非常にハイレベルなSF短編でした。ただし文字数オーバーなので駄目です。

 一万字をオーバーしているのでアウトです。内容についてはなにもいうことがないです。完成されています。少なくとも私はこの手の話について何か言おうという気は起りません。SFですね。AIものです。嘘をつけるAIなのか否か。タイトルもいいですね。シンプルイズベストという感じで。ただ単純な話、これに絵をつける場合、どんな絵になったのでしょうね、そこだけが気になります。真黒な吐しゃ物?

 これすごく好き。意識のハードプロブレムや人工知能の自我などはSFや哲学好きにとっては大好物のトピックでしょう。ただ、キャッチコピーにある「この部屋から出るために必要なのは、なぜ自分が二人いるのか、の答え」に関しては、ぶっちゃけ謎解きではなく主催自身によるネタバレで明らかになってしまっていてキャッチコピー詐欺っぽさがあります。まあ、どういう経路でなら自ずから推理できたかと言われると想定できないのでやむを得ないのかもしれませんけど。とはいえ、ぶっちゃけエピソードの8割くらいまでが前説で、最後の最後にある人工知能との短い対話こそが本題という感じがありますから、そこまで重大な欠点でもないのかな。最低でも誰かの言明は真ではないはずなのですが、そこは明示されないままブツ切りで終わる感じで、「どの場合はどうなるのか」を語り合いたいがためについつい誰かに読ませたくなる構成になっています。あと文字数オーバーなのでゼロ点です。

 

一石楠耳「スタンダップコメディアンはチャイナドレスと話せない」

 剣脚商売でおなじみの美脚キチさん。

 最初から最後までガトリング砲のように繰り出され続けるアメリカンジョークの嵐。この手数の多さは凄いですね。よくこの短さにこれだけ詰め込んで回転させられるものだと驚嘆します。そしてただ手数が多いだけでなくきっちり起承転結、フリとオチが決まっている辺り何も考えずにノリだけでやっているというのでは明らかにない。こう見えて、結構几帳面な人なんじゃないでしょうか。ほら、脚フェチストッキングフェチって真面目な人間に多そうな気がしません?(偏見)恐らく下地にあるものはアメリカンコメディだと思いますが、作品から伝わる文脈の読み込みの深さに熱意が伺えます。

 いいコメディですね。喋りの内容の良しあしについてはよくわからないというのが正直なところですが、普段は饒舌な人間が好きな相手を前にして、ついでに麻酔が聞いてるせいで、うまく言葉が話せない。冒頭での虫歯が最後まで話にかかわってくるのところは、なんというか技術を感じました。熟練の技? どうなんでしょうね。チャイナドレスはやはりスリットがいい。

 なんというか、完成されていますね。いかにもスタンダップコメディアンな軽快な語り口といい、冒頭に仕込まれていた何気ないジョークが後半に効いてくる構成といい、完成度が高いです。特に言うことはないのですが、全てがあまりにも小粋に綺麗にキマりすぎていてサラサラと読んじゃって、面白かったなぁってなるんだけれども「どこが?」と言われるとココとは言えない感じがある。ここが面白い、じゃなくて、全体的に面白いという感じで尖ったところがないみたいな。剣脚さんと言えば「実にガーリー」などの謎の言霊ちからの宿ったコピーに抜群のキレがありますから、なにかそういう見せ場てきなのがあっても良かったのかな? なんて欲をかいてしまったり。とはいえ、総合力では頭ひとつ抜けた、お手本にしたいいぶし銀の良作。

 

はしかわ「潜水」

 ご新規さんですね。詩のアイデアをそのまま膨らませたという話なのであれこれ疑問に思ったり深読みしたりせずに素直に読めばいいのかな。

 これはもう読んだ時に「うわーすげえの来たな」と思いましたね。率直に申し上げましてツボです。「誌のアイディアを膨らませてそのまま小説にしました」とありますが
私、恥ずかしながら詩とか殆ど読んだことがなくて、きちんとこれを評価できるのか自信が無いんですけど、とにかくビリーッと来ましたね。「その時、電流走る」というアレ。街の中に孤立したような部屋と少女、部屋の床上には雨水が溜まっており少しずつ水位が上がっていく。少女はその水が部屋を満たすのをその部屋にいながら楽しみ待っている。もうこうやって書き出すだけでゾワゾワします。徹底した非現実的な描写、イメージを喚起させる個別の、そして全体の隠喩。まさに詩文。非常に危うい所に位置している作品だと思いますが、作者の技量によってギリギリの所でバランスが保たれている印象。これを思いついて最後まで完成させたことに敬意を表します。

 雰囲気がいいですね。退廃的で、詩的で、美しい滅びの風景。壁につけた傷で日数経過を残す、というのが個人的にとても好きです。いつもきまって左のリンゴだけを食べるというのもいい。随所にある登場人物のこだわり、私すごく好きです。

 雰囲気と描写はとても良いです。三人称視点ということになるんでしょうけれども、彼女は~というこの記述のしかたは珍しい感じしますね。慣れない奇妙な手触り。好き嫌いで言うととても好き。ただはっきりとしたストーリーというのがないので小説大賞での評価となるとこれも難しいところ。描写力がしっかりあるのでもう少しエンタメ要素のある小説も読んでみたいです。あとカクヨムの仕様てきに、各話タイトルはなにかしらでもつけておいてもらったほうが入り口の当たり判定大きくて良いです。

 

くすり。「ヴァイオレント・ヴァイオレンス」

 第三回大賞受賞者、コンチェルトのくすりちゃんです。

 傷付け傷付けられて傷で結ばれた共依存。無知と無邪気で行うならただの馴れ合い。しかし、ともに自覚しながら行うなら傷を分かち合う呪いと化す。この歪で病的な心情描写のラッシュで描かれる人間模様、まさにくすりさんという感じですね。人を傷付けるのは傷ではなく、その傷が付けられた理由であるという話。そこが違えば暴力もまた愛になろうというわけで、つまりこれはSMの真髄です。「SはSだがMはSも含んでいる」みたいなことがよく言われますが多分私が思うにSもMを含んでないと駄目なんですよね。そうして初めてSMという高度な関係性が完成する。そういう話を叩きつけるような熱情で書き上げたのがこの作品だと解釈しました。素晴らしい。

 かなりいびつで歪んでいてどうしようもない恋の話。なるほど暴力的ヒロイン、私は大嫌いですがこういうのもありうるのだなと思いました。本当に歪んでいて、この二人?はこの二人?じゃないといけないのだろうなと。殴って終わるっていうの、これはちょっとだけ‌ずるいなと思いましたが言葉の綾は大事ですものね。割とあっさりとした読後感。

 属性を盛りに盛りまくった感じですね。登場人物にはかならずなにかしらの重い過去を持たせなければならないみたいな使命感でもあるんでしょうか。ヒロインがあんまりにもあんまりで感情移入しづらく、かつ語り部もヒロインの言う通り大変に気持ち悪くてとても気持ち悪いです。たぶん気持ち悪いカップルを書こうという意図だと思いますので意図したとおりに機能してはいるのでしょうけれども、うーんなんというか、登場人物ふたりだけの小説でふたりとも同じボルテージだとあっさり大気圏外までカッ飛んでいってしまう感じでふたりで地球をエクソダスしてしまっているような、末永くふたりきりで幸せにどうぞみたいな。いわゆる突っ込み役が配置されていればもう少しバランスがよかったかも。

 

でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」

 こちらもご新規さん。もうそれだけで嬉しいですね。んふふ。

 まずページに飛んでみて「なんじゃこりゃー!」と驚く章分けの数。「どんだけ分量あるんだ、あれっでも一万字以内…」と思って開いてみると、「なるほど」と思わせられる仕組み。9103文字とリミットをほぼ使いきっている本作ですが、全く長さを感じずあっという間に読み終えました。所謂「世界シミュレーション」もので、SFとしても定番モチーフの一つであり正直オチは途中で読めましたし、細かい所をツッコむことは出来るのですが個人的にはそれをすることは野暮だと感じます。「このタイプの作品をこういう形式で書いてみせた」というのが本作の意義であり、見事にそれをやってのけたことを高く評価したいです。

 すごい面白いです。章の多さに面喰いましたが、なるほどメール形式。未来予測実験にかんして小出しにされる情報が少しずつ像を結んで行く。最後まで読んでから、もう一回読みたくなって読んで、確かにそうだと気付く。気持ちがいい。読んでいて気持ちが良かった。

 トータルで9000文字ちょいなのに全37話というちょっと変わった構成。ほぼ全編を通してメールのやりとりを中心に話が進行していって、メール一件につき一話を消費するのでこのような感じになっているのですが、各話タイトルが件名になっているのがUIと合致していて面白いですし、スクロールもせずにポチポチクリックして先に進めていく感じはテンポも良くゲームをプレイしているような雰囲気もあって楽しかったです。たぶんオチてきにはマトリョーシカエンドで、それだけだとSFとしてはとくに斬新でもないと思うんですけれど、ラストの一話だけ明らかに記述の形式に違和感があって、変なスペースが多用されていたりして、まだ僕の気付いていない仕掛けが隠れている可能性もおおいにあります。

 

宇差岷亭日斗那名「とある夏の日。」

 ウザいPNですね。どうにかならないのでしょうか。

 普段は死のうと思っても思うだけの主人公が、夏に浮かされてロープを買いにいってしまう話。一見ネガティブな動機による究極のネガティブ行動だとしても、行動に移した時点でそれは一定のポジティブを含むのだとかそういうことなんでしょう。一読して「随分トントン拍子に終わったな」と思ってしまったのですが、これは「地面に篭もり続けた後に夏に這い出てくる蝉」の隠喩なのだとあとから気付いて膝を叩きました。

 ……(←そうなの? という顔)

 死のうと思った。でも。引きこもりが死ぬために外に出て、それから。死にたくなる日もあるし、でもその気持ちも過ぎたらなんだか軽かったような気もするし出来ないなって思ってたこともやってみたら簡単でなんで出来なかったか不思議になる、そんな話。いい話ですね。

 良いですね。3000字ちょっとと非常に短いのですがテーマ設定がはっきりしているので無理なくちゃんとオチがついています。初回の参加作からずっと通底するテーマがある感じで、拗らせている雰囲気なのに何気なくスッと開けていくような爽やかなラストの清涼感が共通していますね。拗らせているだけの人は多いんですけれども、そこをなんというか、全然エモくなくスッと自然に乗り越えちゃう感じが「強さ」っていうほど張り切ってない人間の強さっぽくて、本当の強さとか言っちゃうとまた陳腐なんですけど、うーん乗り越えるでもないかな。乗り越えも立ち向かいもしていなくて気が付いたら風化して崩れてたみたいな、この感じはわりと珍しいんじゃないかと思います。地力のある作者だと思いますので是非一度、もう少し規模の大きな物語に取り組んでみてもらいたいですね。

 

ラブテスター「午後王」

 前後編構成でガラっと文体が変わります。

 一つの物語を、「吟遊詩人の語りを思わせる華美な文体で綴られた一国を支配する妖魔の伝承」と「怪しく狂った一人称で述べられる少女の心情」の二部構成で両面から描き出すという一作。これが発表された時騒然となったのを覚えてます。やはり最初に印象深いのは第一部のこれでもかと力が入りまくった修辞ですね。非常に高い精度で行われているそれにはまさしく脱帽です。そしてその後に妖魔として語られていた少女の一人称を第二部に持ってくることで、物語のマクロとミクロの対比を見事に表現しています。ただ、午後王ってタイトルはなんかユーモラスですね。割とここだけそのまんまというか。けど本文が凝っている分タイトルはこのくらいシンプルな方がバランス的に良いのかもしれません。

 二部制で作られた作品。一部と二部で文章の作りががらりと変わり、そのギャップが良い。若干ペダンティックな一部と、童話調の二部が良いハーモニーを奏でています。午後王と呼ばれるものとそれを取り巻く環境、午後王とは一体なんなのか。第四回本物川小説大賞に間に合えばよかったのにと思わずにはいられません。

 前半は虚飾とも思えるような大仰で荘厳な文体で、「聖油にぬれた大理石のようになまめかしくも清い肌」とかよく出て来るなと感心します。このゴシック感ムンムンの前半があってこその後半の文体との落差がまた生きてくる感じ。でも、個人的にはたんに「実はこうだったんですよ~」と開示するだけのオチはちょっと納得いかないので、前半でもう少し伏線というか、転生とか人外とかの設定というか、どういう世界の出来事なのかの情報を配置しておくともっとすんなり飲みこめたかなと思います。文体じたいの力はとても強くて、これはトレーニングしてもなかなか得られるものではありませんから既にアドバンテージがある。構成に工夫を入れて来るとさらに一皮むけそう。

 

大澤めぐみ「さきちゃんかわいいよね」

 どニキのパク…(ゲフン)二次創作。どニキがまたさきちゃんでギリギリに滑り込んでくるつもりみたいだったので出鼻を挫く嫌がらせですね。なお一万字以内と一万字未満を勘違いするという凡ミスのために文字数オーバーでゼロ点です。

 いつもの大澤節です。もうこれだけで点を入れそうになるくらい好きですね。思えばそれを最初に絶賛したのがすべての始まりなのだ。まあそれは置いといて、本当にただ読んでるだけで気持ちいいこれはいつ見ても良いですね。これどうやったら書けるようになるんでしょうか。このままだと普通にエコヒイキしそうになるので敢えて辛めの視点を交えますけど、ちょっとオチがそのまんまというか、「そうですよね」となってしまって意外性がまるで無かったのが逆にびっくりした。だからこれはもう本当にタイトルの内容だけを書きたいから書いたというやつなのでしょう。けどその割にはさきちゃんの描写があんまりなかったのでさきちゃん可愛いと言ってる「わたし」が可愛いという話なのかもしれない。SKILLとGONGを熱唱する女子高生ってレアなのかそうでもないのか。そういえばこの子名前無いですね。読んだ後に「キミヤくんがひたすら哀れだ」と言ったら「お前もそいつに感情移入するのか」的なことを言われたので何かを垣間見たような気になりました。

 己が幸せであるならばそれで満足してくれおすそ分けなぞいらん。でもさきちゃんと一緒に過ごすためにはやむなし、で始まる偽装カップル生活。青春のしぼり汁をジンジャエールで割った‌みたいな苦くてシュワシュワな感じ。キミヤくんはこんなやつを好きになってしまったんやな、本当に。趣味が悪い。でも男の子ってそういうところあるよね。本当に。最初から言ってるのに、最初に言ってたのに、その言葉を都合よく上書きしてしまったのだね。本当に。苦い。キミヤ君に幸あれ。

 

ポンチャックマスター後藤「アラップノフォビア」

 100万進捗馬力のポンマスさんです。どうもTLでの反応を見るに大澤さんのさきちゃんかわいいよねから着想して(?)書いたっぽいんですけれども、宣言してから完成して投稿までがマジで早くて進捗力にビビります。

 来たぞ! 我らがポンチャックマスターのエントリーだ! 君はもうその勇姿を見たか!? 僕はまだ見たことがないよ…両目を、抉られているからね…(オマージュ)

 ……(←ええ……なにそのノリ、という顔)
 ……というわけでポンチャックですが今回はどんなふうに暴れ狂ってくれるのかと思ったら、また意外な引き出しを開けてきましたね。百合を通り越して濃厚なレズですよこれは。蜘蛛の捕食行為をメタファーにした淫靡レズ表現は、百合という言葉には到底収まらないドス黒い淫蕩と背徳を思わせ身震いがします。最後の一文も傷口に残された蟲の棘を思わせて大変良かったです。

 いいですね。放課後の冒険。一歩踏み出した先の関係。膜を一枚隔てて絡み合う二人。とてもエロティック。一線は越えないというのもいい。先生に見つかるのいいですね、青春の過ち感がすごく出てる。家で一人ラップを触るのもいいですね。忘れられない経験になってるというのがしっかりと伝わってくる。気になったのは、なんで学校にサランラップ持ってきてんだってところと、蜘蛛の比喩の挿入具合ですね。蜘蛛が若干くどい。もうちょっとフレイバー程度でいいんじゃないですかね蜘蛛。エロいな、って盛り上がりを蜘蛛が邪魔してる感じはあります。

 ポンマスさんはピントの合うところがすごい近い感じで、ド近眼というかド接写というか、客観的な情景描写よりは人間の心の機微とか、舌やら指やらの細かい動作をねちっこく描写させたほうが強い感じがしますね。弱点を補おうとするよりは、自分の特性を最も生かせる題材を設定していったほうが良いものになる気がします。今回はバッチリ焦点距離が合ってる感じで良いです。

 

ラブテスター「腕喰い」

 ラブテスター、二作目の投稿はまたガラッと作風が変わりますね。

 殺人犯を追う刑事、と言われると「ミステリか」と思いがちですがこれはそうではなく、特に謎解きの要素もないまま犯人はあっさり捕まり、その犯行の動機も明らかになるのですが、中々これはおぞましい動機ですね。ここでどのくらい振り切れるかでパワーが決まってきますので、これは見事な一振りと言えるでしょう。ただ、タグと説明文から察するにどうも刑事と真島の関係性の方をメインに置きたかったように思えるのですが、正直その部分はちょっと弱いなと思いました。しかしこれで文字数9999文字なので致し方無しといった所で、文字数制限付きというのは本当に難しい縛りだなと実感します。

 刑事ものですね。大好きです。偏屈なベテラン刑事と新米刑事のコンビで追いかける奇妙な殺人事件。タイトルも味があっていい。事件の動機についての説明も、十分な理屈付けはできていると思います。好きですね。この感じ。

 ミステリージャンルで投稿されていますね。強いて言うなら動機に焦点を当てたワイダニットで監察医の長髪イケメンが探偵と言えるかもしれませんが、推理というよりは経験的な推測なのでミステリーとはちょっと違うかな。サイコスリラーとかそういうのかも。ただ明かされる(推測される?)動機はなかなか珍しく、かつ納得もいく感じで意外とストンときますし、これで解決かと思いきや理屈上はまだ残されている仕事があるはずだったりとか、そのへんの構成もとても上手くて良いです。もっとも、たぶん物語の中心は事件や謎ではなく主人公ふたり(?)の関係性の描写っぽいので、細かい話はまあいいや。ベテランと新人のコンビいいよね。

 

きのこづ「夏の夜に捧ぐ恋文」

 んっふふ。ご新規さんです。今回わりと多いですね。

 如何にもな、もどかしい青春夏模様がガーッと続いて、最後にゴキッと落とす。これもまた一つの黄金パターンですね。文章、描写は結構詰まっているにも関わらず大変読みやすく、かなり書き慣れておられるものとお見受けしますが、ちょっと全体構造が早急すぎるようにも思いました。構造が早急ってなんやねんという話ですが、はっきり2つのパーツで構成されているのでもうちょっと複雑さが欲しかったというか、途中で「気配」をチラッチラッと見せていけると俄然深みが増したように思います。この辺は好みの問題かもしれませんが。

 高校生の頃に好きだったあの子へ送る恋文。思いを伝えきれなかっただけかな、と思いきや。二人の関係が形成される過程を丁寧に追って書かれているので、余計に切なさが増しますね。頭がおかしくなって病院に放り込まれた、の部分いらない気がしますね。雑味。頭がおかしくなるというのはありうる話かもしれませんがフレイバーテキストで追加する必要があるのか、とは思います。あの頃の思い出を未だ引きずるってるっていうのと若干リンクしているんでしょうかね。頭のおかしさというか。病院に放り込まれた、の部分で全体の味が変わって、サイコ味が強くなっていますね。

 8割5分までいい感じにきて急転直下で落とす展開。前半部分は単純に恋愛小説として描写力が高いですね。ここでテンションを高めているからこそ急転直下でゴーンと来る構成なんでしょうけれど、やっぱりなんらかのヒントなり違和感なりを配置しておかないと横からトラックが突っ込んでくるようなもので唐突感があります。現実には不運や理不尽な出来事というのは唐突になんの脈絡もなくやってくるからこそ理不尽であるわけで、唐突なのがリアリティと言えなくもないかもしれませんが、語り部が完了した時制から過去を振り返っている叙述である以上は語り部はオチを知っているわけで、そこを踏まえて引っ掛かりを覚えさせる程度のなにかを事前に仕込んでおくと納得感が増すかもしれません。

 

ポージィ「宵之街」

 前回のトルタ大会では絵描きとして参加してくれていたポージィさん。今回は文での参加です。いいですね、こういう感じで「なんかやってるからなんか俺も書いてみるか」ってノリでどんどん軽率に参加してきてもらいたいです。しかも一回トップページまで躍り出ましたからねコレ。

 最初の二話の語り口調、単語の選出、改行、スペースの開け方で既に恐ろしさが演出されている一作。オチ自体は「まあ、そうなるな」という感じでしたがとにかく文章のセンスによる怪談としての雰囲気の演出が見事でした。普通に読んでて寒気がして怖かった。大体どうなるか途中で分かってるにも関わらず。怪談というものはその話の内容ではなく、語り部の口調、滑舌、声量、リズムなどによる演出がそのクオリティの差を分けるもの。その点においてこの作品は非常に短くシンプルながらも確実に「怖く」文字が置いてあり、作者の技量を感じました。

 過労の末に見た夢の景色は小さい頃遊んでいたあの場所で。夢の中で見知らぬ少女に出会い、遊ぶそんな話。少しずつ夢が現実に歩み寄りを始め、最後は夢に飲み込まれる。実話風怪談のお手本のような作品でした。

 ミステリーカテゴリになっていますが謎解きパートがあるわけではなく、これもどちらかというとホラーかなという印象。3000文字未満と短いのであまり凝った展開はありませんが、夢現で視界がザッピングするような演出などわりと文章としては難易度の高い表現を難なくこなしているので、こなれた感じがあります。推測ですがカナコについてもまだ自分の中で色々と設定がありそうですし、出してないものがたくさんありそうな感じなので、お試しで終らずにもうちょっと書いてみてほしいなと思います。

 

槐「ぼくの秘密の場所」

 絵本てきな語り口ですね。

 一読して「うん…うん?なるほど…?(分かってない)」となってから紹介ページに戻ってタグの「エッセイ・ノンフィクション」という文字を見つけ「えっ!?」となりました。これはつまり、ご自身のお子さんに当てられた文章ということなのでしょうか。時代は変わって街も変わったけど受け継いでいく物はあるというそういう話とお見受けしました。

 さみしさがいいですね。あの頃の自分が見ていた景色が消えていく感覚。小説でこの内容を書いてください。エッセイにしても短いです。

 以前の作品と同様に、これといって非凡でない、誰しもに共通しそうな射程の長いノスタルジックな雰囲気を描くのが上手いです。テーマ性や話の落とし方も一貫しているので綺麗にまとまっている感じはあります。ただ、いかんせん短いので小説大賞という土俵ではやはり不利かなと。すでに文体はお持ちのようですから、せっかくですし良い機会だと思って試しに同じ延長線上の作風でもう少し規模の大きなものにも取り組んでみてもらいたいですね。

 

宇差岷亭日斗那名「義妹と上手に話せない。」

 二作目です。この人は本当に拗らせてるんだか拗らせてないんだか意欲的なんだか意欲がないんだかよく分からないですね。

 これまた一つの王道ですね。「大抵の物語は報告・連絡・相談の不備によって発生するものだ」という話を聞いたことがありますが、お互いにすれ違いあったまま一歩踏み出せないでいる事によるもどかしさがこの手の話の肝であり、それが解消される瞬間がカタルシスだということです。ただ、折角の義妹モノなのでもう2、3シーン読みたかったですね。

 ラムネ菓子みたいな話ですね。さわやかだけど少し粘っこい感じ。のどに引っかかる感じ。好きですけどもね、こういうの。近親相姦的な臭いが薄いのもいいですね、うすいかな、薄いと思う。エロ漫画ならすぐふぁっくしてるもんこういうの。

 エンジンが掛かるのが遅いのでしょうか。計画的に執筆できるともうちょっと規模の大きなものもこなせるようになると思います。相変わらず文じたいは読みやすく雰囲気も悪くないですし、話も変にこじらずにストレートな感じで僕は好きなのですが、なにしろ文字数が少なく解像度が荒くてまだ型枠だけという感じ。フォーミュラロマンスは話の大枠で奇をてらわない以上はディティールと解像度の勝負になりますので、もっと丁寧にエピソードを積み上げていってほしいかな。

 

佐伯碧砂「夏の午後、風のサカナ。」

 ご新規さん。小学生オブザデッドてきななにか。

 ゾンビというのは日常に唐突に現れ理不尽に襲い掛かってくるもの。必然性やら科学考証にそこまで意味は無いのです、ゾンビものにおいては。その点においてこの作品は中々テンポよくゾンビものが始まり、ゾンビものとしては割と異例のスピードで犠牲者が出て行き、最後はどうなるのか? ということですが…こう来たか、という感じですね。今回の大賞ではこのタイプのオチが多かったような気がしますが、なんというか惹かれ合うものなんでしょうかねこういうのも。本当に全く予想外の所にオチるので、個人的にはもうちょっと伏線が欲しかったなーとも思いました。ですが恐らく意図的に切断されているのだろうとも思います。

 いいですね。ある夏の日、自分の家で友達とゲームをして過ごしていて、アイスを探しに行ってそこで。ジュブナイルプラスゾンビ。無力な僕たちの長い夏の一日。と、思いきや、何でしょう、ジュブナイルなまま終わってくれたらよかったなぁって思います。そこまでは好きなんですよ、すごい好き。でも最後がなぁ、何だろうなぁ。

 平易で一文が短く飲みこみやすい描写と、可読性や溜めの効果を意識した改行の使い方など、web小説としての読みやすさはとても良いですし、オブザデッドテンプレートに沿った徐々に追い詰められていく展開も普通に面白くてスルスル読めます。9999文字の上限いっぱいなので単純に文字数が足りなかったのかもしれませんけれど、オチに関してはこれもやはり唐突感があって、事前になにか違和感を抱かせるようなフラグを立てておいたほうが納得感が増したかなぁと思います。

 

宇差岷亭日斗那名「命日とハッピーバースデイ」

 三作目です。そしてさらに短いです。躁でしょうか。

 こういうワンシーンを切り取ったショートショートには、何か一つその作品の中心というか、結節点ともいうべきポイントが存在しているもので、この作品の場合は「線香の刺さったホールケーキ」ですね。恐らくこれを思いついてそこから発想を広げていった話なのだと思われます。確かに線香の刺さったホールケーキはビジュアルとして面白い。タイトルに対する象徴にもなっているのですね。その意味においてこの作品は生と死をシンメトリーに配置した太極図なのでしょう。

 これもいい話。人の優しさを感じられる話。でもケーキに線香はきついと思う。

 これも「とある夏の日」や、以前の「僕と彼女とコンビニと猫」と共通するようなテーマ性があって、一言で言うとリボーンですね。たぶんですけど本人の中では「救い」であるとか「癒し」であるとか、要約しちゃうと陳腐なんですけど「そういうことじゃあないんだよな~」みたいな、だから説明や要約じゃなくて小説じゃないとダメなんだみたいな、こういうものを書きたいという意欲は非常に強くあるんだと思います。思いついたものはなんにせよ書いてみたほうがいいのです書き散らすのも大いに結構なのですが、この大賞も、もはや粗製濫造で戦える水準でなくなってきていますので、そういった自分の書いた断片のようなものを一度集積して見直して、パーツを組み立てて細かいところを良い具合にアレして、もうひとまわり大きなものを組み立てられないか試してみてほしいですね。たぶん一度やってしまえば次からは自然と規模がひとまわり大きくなるのではないかと思います。

 

津島沙霧「今は、これだけ」

 うきゃ~! ラブいですね。うん、ラブですよ。

 ブコメですね。王道ド直球ど真ん中のラブコメです。ここまでど真ん中のものを本物川大賞で見かけることは珍しいのですが。熱量としてもほぼ一万字と中々の物を感じます。幼少の頃に唯一全てを投げ打って味方になってくれた人。そらまあ惚れますわね。展開としても基本をきっちり抑えている感じがあり、危なげなく着くべき地点に着地したという印象です。

 そうですね。こういうのをどう分類したらいいのかわからないのですが、いわゆるレディコミ系なのかな。生まれたときからそばにいる相手、親同然の相手にこの恋心を伝えていいものなのかどうか、自分の中にあるものをうまく処理できないでいる少女の面倒くささがいいですね。小さいころの約束とかね、こういう幼馴染ゆえの思い出とかね、もう本当にキュンキュンする。好き。

 設定やストーリーは既視感のある王道展開なのですが、些細なことでいちいち揺れ動く語り部の心理描写が解像度高くて若々しくてフレッシュで良いです。うん、恋愛小説ってのは変に奇をてらわなくて良いんだよ。これもほとんど文字数いっぱいなので足すとなると必然どこかを削る必要があり難しいところなのですが、当て馬の安野センパイがマジで当て馬なので、もうちょっと安野センパイのエピソードも充実していたりすると「もしや……?」みたいな雰囲気が出るんじゃないかな~って気もします。最終的に主人公ふたりが両想いなのは規定路線なのですけれど、分かっちゃいるけどピンチもあったほうが良いみたいな。

 

SPmodeman「ゴリ美」

 ぴゅっぴゅさんのSPmodemanさん。速と勢いとパワーで押し切った作品。

 タイトル打つだけで腰が砕けます。ゴリ美て。ここまでシンプルに顔面を殴ってこられると流石に困ります。さてこれの作者は本物川大賞きっての異端児にして問題児、SPmodeさんことどこもさんです。どこもさんといえばセックス、セックスといえばどこもさんですが、サイゼに行った次の行でもう妊娠していたのでやはりどこもさんです。展開が早いとかそんな次元じゃない。そしてセックスついでに日本列島の半分に喧嘩を売ってますが一体どうしたのでしょうか。全体通しての感想を言いますと、どこもさんにしてはオチの部分にパワー不足を感じましたね。あのどこもさんが。どこもさん基準でですけど。やはりハートマークがないのがいけないのではないでしょうか。至急工場に発注してきてください。最低ロットは一万からでお願いします。

 ……(←虚無顔)

 パワー。パワー。パワーのみ。力強さに力強さを加え力強さで味付けした力強い作品。おちとかどうでもよくなる。そこに至るまでのパワー、力強さ、西日本人。謎の地方ディス。本当に謎の地方ディス。あの地方ディスは何だったんだ。そしてあの落ちは。なんだったんだ。なんだったんだよ!そんな感じです。

 勢いあるパワー系は基本的に好きなんですけれど、ちょっとアクセル全開すぎて困惑しっぱなしというか、序盤はまだかろうじてついて行けていたんですがガリ男さんが出て来るあたりからちょっとどういう状況なのか飲みこめなくて何度か戻って読み直しながらになってしまいました。勢いを維持しつつ飲みこみやすい文章というのは意外とテクニカルなので、本当に勢いで行くんじゃなくて過度に説明的にならないように自然と情報を配置するなどの工夫が必要です。文体のせいで状況が分かりにくい上に、さらに島根やら西日本人やらの特殊な設定が説明もなくポンポン出て来るのでよく分からないまま話が進んだ上にまたよく分からないオチをつけられてもう分からないという感じ。推敲大事です。

 

綿貫むじな「ピースフル・ウォー」

 たぬきさんは第一回の大賞受賞者です。

 ゲームが代理戦争としての立場を獲得した世界の話。序章での「バグを付いて勝利した主人公とそれを認めた対戦相手」というエピソードに作者のゲーマー魂を感じます。割とゲーマー特有の思考回路なんですよねこれ。そしてオチの部分にもやはりゲーマー的思考回路が活かされている。何が掛かっていようが、相手が何であろうが、やる以上は絶対に勝ちたいしそれに挑むこと自体が楽しくて仕方ない。筋金入りのゲーマーほど
そういう戦闘民族みたいな価値観を持っています。そういう意味では、ゲーマーほどこのタイトルに相応しい存在は他にないのかもしれません。

 日朝系のホビーアニメを思わせる設定ですね。ただ本当に、アメリカ、ギーク等の横文字、並びに宇宙人の出現がとってつけたような感じがして違和感が強いです。それこそ日朝ホビーアニメ等の設定に沿った突き抜け方をしていれば違和感がなかったかなと思います。

 そうですね。カチっと組み上げれば面白そうなのですが、かなりソリッドな質感を求められるタイプの話なので現状ではまだまだチープさが気になる。もっと執拗に練り込むか、逆に質感が気にならないように世界設定をズラしたりテンションをシリアスな路線からもうちょっとコメディ / ギャグ寄りにするかなど、なにか対策が必要かも。馬鹿真面目にやろうとすると相当な労力になるだろうなと思います。

 

綿貫むじな「冴えない花火」

 二作目です。これも作風が全然変わりますね。

 重い。うめき声が出るような重さです。咲いては散り、また花開く花火をどれだけ観ても、果たされなかった想いはもう咲くことも散ることもない。この話は最後までカタルシスを与えてくれません。重荷をぽんと投げ渡し「じゃ。」みたいな顔で去って行きます。そしてそれもまた物語の一つの機能であり力です。物語は人に重荷を、爪痕を、ダメージを、何の謂れもなく、正当性もなく与えることが出来る。そうやって唐突に付けられた傷跡を、梅雨の雨音のように苦味を持って楽しむことが出来る。そういう読者になりたいですね。

 花火を見るたび思い出す、あの夏の日。好きだったあの子に好きだと言って、断られる予感はしたけどそれでも好きだといいたくて。告白が失敗して、帰りの電車で花火を見ながら、やっぱり好きだったと分かる。苦い思い出話、夏らしさのある短編小説です。

 つらつらとしていますね。たぶんテーマとしては「自分の受けた主観的なショックに対して、客観的な事実としてはありきたりすぎて大したことじゃない」「他人事なら大したことじゃないのに、自分の身に降りかかるとやっぱりショック」みたいな話だと思うのですが、ピントがボケているようで読み終わってもあまりなにも残らない感じ。書き始める前にまず自分の中で中心に据えたいテーマやコンセプトのようなものをしっかり持っておいたほうが良いと思います。逆に、テーマだけをしっかり持っていればわりとつらつらと書いてしまっても結果的には輪郭がシャープになったりもします。コンセプト大事。

 

ナツ・カウリスマキ8月32日

 きのこづさんの夏の夜に捧ぐ恋文のプロットを使って別の人が書いてみるという試み。こういうの面白いですね。

 そういうのもあるのか……今回、フリーダムな参加スタイルが多いですね。「夏の夜に捧ぐ恋文」とは違い、こちらでは最後まで語り口が変わらずどこか青春の青さと甘さを残したような描写で最後まで綴られます。しかし、どんな文体で綴られようが結末は変わらず、彼がどれだけ前を向いているように見えようとも、タイトルの一文が呪いのような影となって彼に覆いかぶさっています。一つの物語を別の作者が語り直すというのにも驚きましたが、こういう切り口の変え方があるのかと。目から鱗の思いですね。

 あちらでは恋文をつづるだけでしたが、こちらは墓参りまで踏み込んでいます。もう本当に思い出になってしまったんだな、というもの悲しさがいいですね。終わり方、後味はこちらの方が好み。自動車事故で、という部分と、引きずってはいるものの割り切ってる感じ。墓参りもしていますしね。向こうは未だ受け入れきれてない感じがサイコ味を増してますね。

 時制じたいが過去に飛ぶシーンがなくて、飽くまでも現在軸上から過去を思い返す構成になっています。これ、まさに僕が「もうすこしこうしたほうが良いのでは?」と指摘した部分を指摘するだけじゃなくて実際にやって見せていて素晴らしいですね。ただ単体の作品として見ると元が7500字のところを3000文字未満にまで圧縮していますので逆にストンとしすぎている感じ。飽くまで参考のために雛形を提示した、という感じなのでしょう。これを参考にきのこづさんのほうでさらにリライトを重ねると完全版夏の夜に捧ぐ恋文が完成すると思うのですが、いかがでしょうか?

 

中出幾三「カフカの翼」

 二作目。PNどうにかしろ。

 タイトルから分かる通り、恐らくこの作品もカフカの「変身」を意識したものだと思われます。しかし、前出のヤスデ人間とは全く別のアプローチでこの作品は「変身」に対して返句を返しています。「変身」において人間から毒虫と化したグレゴール・ザムザは最終的に家族によって排斥されました。では、既にいる動物が人語を喋るようになったら、動物が人間となったなら人はそれをどうするのか。恐ろしく痛烈な皮肉です。人間はその歴史においてその殆どを動物と共に歩み、時として友とすら呼んできました。そして同時に人間は多くの動物を絶滅させてきました。友と呼ぶことも、滅ぼしたことも、きっと言葉による意思疎通が出来ないからこそ成し得たことなのです。ではもし、動物が人間と意思疎通させて、同位の存在として肩を並べるようになったら? 恐らくその時、人は今まで動物に対して用いてきた虚飾を全て剥ぎ取られ、動物という人間以外の存在と、有史以来初めてほんとうの意味で向き合うことになるでしょう。その時、人間はどう応えるのか。この作品には、人間という種全体とある一人の女性、マクロとミクロの解答が示されています。貴方なら、どうしますか? 自由の象徴として飛び立った黒い翼に、そう問われた気がしました。

 ……(←なんらかのキャパを超えるとポエムスイッチが入るっぽいと分析している)

 もしも動物が言葉をしゃべれたのなら。そのワンアイディアから想定される展開を、一人の女性と、一羽のカラスに焦点を当てて描いていく作品。背景世界での動きが丁寧。ビリーバビリティというのでしょうか、なるほどこうなるだろうなという納得感がある。種族を超えた友情、亀裂、再生。きれいな物語ですね。

 ある日突然に全世界を巻き込む大規模な変革が起こり、そこから世界が変容していく。はずなんですけれども、語り部自身はそんな世界で起こっている変革そのものには興味がなくて、飽くまで自分とカフカの関係性のみにピントを合わせて物語が進行していきます。この奇妙な間合いの取りかたがちょっと特異だなと。実際に世界では色んな変革がどんどん起こっているようなのですが、それは語り部の叙述でサラっと触れられるだけで、通常SFではそういった現象にこそフォーカスしていくものだと思うのですが、あまり興味がなくただのBGMという感じ。気怠い終末てきな雰囲気と、それでいて希望を感じさせる読後感がまた奇妙で、不思議な作品です。

 

ゴム子「インダストリアル」

 タイトルは工場から出荷されたところ、みたいな意味なのかな? いまはまだ工場出荷状態のプレーンな素体。

 これは人生をやり直すための物語、いや、「新しく生まれ変わるための物語」なのでしょう。彼女は19歳になるまで母の中に閉じ込められ、この世に産まれていなかったのです。そしてようやく母から這い出て、別の母のような存在と出会いました。果たして彼女は、19年遅れの人生をこれからどのように生きるのでしょうか。そして、その後でどのように今までの19年を振り返るのでしょうか。或いは完全に忘れてしまうのかもしれませんが。名前が「海」というのはかなり直球の隠喩で、その率直さに作者のこの物語に対する思いと姿勢を見た気がしました。

 百合、百合でしょうか、百合ですね、多分そう。壊れてしまっていた家庭を壊していた母が壊れちゃった。家出するところは青春感じますね。終電のなくなった駅での出会いもよいですね。行為にまでは及ばない、そういうさじ加減もよいですね。母親殺して欲しかったなぁ(メフィスト脳)

 わりと重苦しい始まり方をするのですが、他人事のように淡々としていて、かつスキップするみたいに軽快な、語り部の妙に強かな語り口のおかげですんなりと読み進められます。描かれている客観的事実としてはじとっと湿気っぽい感じなのに、記述には湿気があんまりなくて乾いてサラサラとしている感じ。内田春菊あたりを連想しました。熱や湿度のない乾いた硬質な質感の語り部の叙述が、最後にほんのり熱を帯びる感じもあって、深層的な部分での心理の変化が伺えます。意図的にやっているならこれはすごい技術ですよ。説明でなく描写で感じさせてこその小説なので。個人的には頭ひとつ抜けた高評価。

 

芥島こころ「Linked.」

 どすけべメスボディ、ケツのどニキです。今回も滑り込みです。今回は滑り込みセーフです。

 武道の熟達者は構えただけで相手に力量を分からせるとか言います。また、優れたシェフはスープだけで数多の食材の旨さと奥行きを感じさせるとも言います。熟達者の技にはその片鱗一つにも力が宿るという話ですね。グラップラー刃牙にそういう話があったので間違いないです。で、それがこの作品にもあります。手馴れている。各所のメカニック描写の濃さ、それをさらさらとテンポよく重くなり過ぎないように流していく上手さ、これはかなりのSF者です。書き慣れているのか読み慣れているのかまでは分かりませんが、相当に好きモノと見えます。オチも、何かが始まりそうな期待感と悪いことが起きそうな不安感が混在しており、中々一筋縄ではいかせない。何より非常にスムーズに読めて素晴らしかった。ただ、ちょっと改行、スペースが所々おかしいように思うのですがこれは演出なのかどうなのか。

 ビジュアルがほしいというのが本音です。イラストありきの面白さ。多分短編漫画であれば非常にいいものになるのではないかと。多分文章だけだと時間経過、サバイバルに関して読者側に与えられる情報量が少なすぎる気がします。焼け焦げたコンセントのみではなくて、付近の壁の汚れだとか、床に積もった埃の具合だとか、なんかそういう、文章にするとくどさが出てくるディテールが必要なタイプの話だと思いました。

 大澤さんがさきちゃん潰しを行った結果、どニキが完全新作で滑り込んできました。と思ったけど、完全新作……? プロットとしては第一回で出してきた「戦いのあとに」をほぼ踏襲する感じになっていますね。ただの雰囲気ガジェットなのか本人の中では膨大な裏設定が(脳内では)存在しているのか分かりませんが、物語の要請としてリンクするAIである必然性などが説明しきれていないような気もします。たぶん、リンクするAIなので一機だけでもなんとか生き抜けばそこから仲間の復活の可能性もあるてきなアレで、この男ひとりの気まぐれ次第でなにかがここから起こるかもしれないんだという希望を感じさせる引きなのだと思いますが、他の姉妹に関する具体的なエピソードの提示がないせいか、あまり姉妹の復活が一大イベントなんだと認識されていないような。エンディングのわくわく感は戦いのあとにのほうが上、ガジェットに関する描写の質感はこちらのほうが上という感じ(ただしまだまだ執拗に高めてほしさはある)なので、本人的にもこだわりのあるプロットのようですし合体させてまた同一のプロットでこれこそはという完全版を書いてみてほしいなぁ。

 

こむらさき「メンヘラ牧場」

 一分遅刻でゼロ点です。安定のメンヘラ描写のリアリティとミサキくんのクズ具合が最低ですね。物語はまだ導入部という感じですし連載中みたいなので今後の推移を見守りたいと思います。ミサキくん刺されるなよ。

 こむらさきさんの胃壁をノミで削ってくるような残酷メンヘラ物語から幕を上げた第五回本物川大賞ですが、最後はこむらさきさんの無惨メンヘラ蟻地獄です。なんなんですか。なんで最初と最後が綺麗にコンビネーションワンツーアタックなんですか。タグのラブコメはどういうことなんだよ! まあでも今回は主人公のミサキくんもそれなりに自業自得な感じなので少しは胃に優しいですね。彼が今後どうなってもそれなりに彼の責任ですし。無限に積み上がり続ける未読メッセージは賽の河原の石ころか、はたまた天に裁かれるバベルの塔か。黄金の果実に手を出した先に、待ち受けるのは蛇の牙。
例え毒に蝕まれようと、人はその欲を止められない。その先に、悪夢の連鎖があろうとも。次回、直接訪問メンヘラ。来週もこむらさきと地獄に付き合ってもらう。ところで、これは誰か実在のモデルがいたりするんですかね…?(何かを疑うような目)

 おしいですね。でもアウトです。

 

 

大賞選考

 はい、それでは続きまして大賞の選定に行きたいと思います。いつも通り、それぞれに推しの三作品を選んでもらって、あとは合議で決めていくって感じですね。

 まず僕の推しとしては、ゴム子さんの「インダストリアル」 中出幾三さんの「カフカの翼」 既読さんの「ヤスデ人間」の三作品になります。

 同じく既読さんの「ヤスデ人間」 中出幾三さんの「カフカの翼」 それに ラブテスターさん「午後王」で。

 中出幾三さんの「カフカの翼」 でかいさんの「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」 ラブテスターさんの「腕食い」 です。

 これは……(笑)

 大賞は決まりですかね……?

 いいんじゃないッスかね。

 完成度だとヤスデかなと思ったんですけど。

 完成度ではヤスデのほうが強いんですけど、やっぱ読後の清涼感というかヴィジュアルイメージが良い。

 正直ヤスデの絵を見たくなかった。

 誰も幸せにならない……。

 題材の時点で負けていたのだ……! 

 カフカの翼、内容もそうなんですが、非常に絵になる。

 カラスと少女は絵になりますよね。では大賞は……?

 第五回本物川小説大賞、大賞は中出幾三さんの「カフカの翼」に決定です! おめでとうございます!! わーパチパチドンドンヒューヒュー。

 おめでとうございます🐼

 このタイミングで四股名みてぇな名前に変えやがって畜生。大賞発表後にしろってんだ。

 さて、じゃあ次に金賞ですけど、得票でいくと既読の「ヤスデ人間」になっちゃうのかな?

 順当かと。

 異議なし。

 あまりにもドラマ性のない金賞選定でしたね。正直、中出幾三さんと既読はもう小説としての完成度で頭ひとつ抜けている感じがあるので、本物川小説大賞とかやってないでとっとと次のステージに飛び立っていってほしいです。このままじゃ弱い者イジメになってしまう。

 さっさと賞取れよ、賞。 

 あとは ヒロマルさんの「盗読のシミュナレーション」 左安倍虎さんの「魂までは癒せない」 一石楠耳さんの「スタンダップコメディアンはチャイナドレスと話せない」 あたりも完成度で飛びぬけてますよね。文字数と規模の感じでどうしても大賞というとサイズの大きなものが印象に残ってしまいますけど。

 そうですね、輪郭があるというかやりたいことをちゃんとやれている感があります。「形」になっている。

 あの三つは本当に特にいうことなくてレビュー書きづらかった。

 ちょっとお手本的すぎ、綺麗にキマりすぎで、ウェブだともっと尖っていてもいいのかな? みたいな思いもあります。本物川小説大賞てきにはエッジの立ったものが評価されがちの傾向がありますしね。

 僕としては しふぉんさんの「天使」 くすり。さんの「ヴァイオレントヴァイオレンス」 はしかわさんの「潜水」 にもなにかあげたい所なんですけど。

 雰囲気ものに甘いパンダ。

 潜水、好きですよ。

 さて、銀賞二本の選定なんですけど、ここからは団子っぽいですね。得票ではラブテスターの「午後王」「腕喰い」 でかいさんの「箱庭的宇宙」 ゴム子の「インダストリアル」 が一票ずつ。

 ある意味ここが一番難しいですね。

 でかいさんの「箱庭的宇宙」はいいですよね。ウェブならではのUIをうまく使った構成で楽しさがある。こういうアイデアは本物川小説大賞てきには評価していきたさあります。

 ウェブでの小説大賞ですしね。

 基本的には横書きで小説読むの辛いんですけど、メールっていう形式だと横書きすごい読みやすいですよね。

 読みやすくて文字量を感じさせない。

 そうそう、結果的に10000文字ちかくを読まされてたという感じでした。では、銀賞一本はでかいさんの「箱庭的宇宙」でいいのかな?

 良いかと。

 異議なし。座布団あげたい感じですね。

 (座布団……?)

 ……さて、もう一本ですけど。銀賞三本になりませんかね?(知的怠慢)

 なりません。

 インダストリアルも凄いいいんですよね……書き出しとラスト一行も凄く綺麗に決まっている。

 綺麗にまとまってますよね。話としては序章っぽいんだけれど、ここで終わりで問題ないみたいな。

 どうして母親を殺さなかったんだろう。殺してたらなぁ。殺してくれてたらなぁ。

 メフィスト脳だ。

 僕は構成とか描写力とかの各項目で個別に点数つけて最後に合計で評価つけてるんですけど、実は合計点では全作品中でインダストリアルが一番だったんですよ。読んでるときにはそこまで飛びぬけて印象があったわけでもないのに数値化して合計してみたら一番だったので不思議な感じでした。そういう不思議さがなんかある。総合力てきな。

 そういえばリボーンというかリバースというか、そういうのが多かったですね今回。

 うさみんてい(みたいなウザい名前の人)も抽象的には全てリボーンがテーマですよね。なんかあるんでしょう。二十代中盤に二度目の思春期みたいなのが。

 夏だからかな?(適当)

 夏は腐る。

 季節感で言うと、きのこづさんの「夏の夜に捧ぐ恋文」と佐伯碧砂の「夏の午後、風のサカナ。」も非常に良かったのになぁ……。

 そう! 小学生オブザデッド! すごくよかった! その話がしたい! すごくよかったの! 最後まで! 直前まで!

 意外な結末!!!!

 やめろ!!!! やめろよ!!!!!

 もうほんとそこだけがね……。

 彼は気が狂っていたエンドは徐々に違和感が拡大していくジリジリとした描写が肝ですので、そこは左安倍虎さんの「魂までは癒せない」などを参考にしてほしいです。

 そこができたら、金銀くらいに入ってたかもしれない。

 私ぶっちぎりで大賞に推しますよ。

 「違和感を抱かせつつ先が気になるので深く考えずに引っかかりを覚えながらも読み進める」みたいな状況がどんでん返しをキメるための下地になりますので。下地作り大事。

 そういう意味ではラブテスターの「腕喰い」もすごく良いんですけど、事前にピアスやインプラントなどのモチーフが出てきているとスッと来る感じがあったかなって思うんです。動機の斬新さと、それでいてストンと納得できる感じはいいんですけど、やっぱりちょっと唐突なのと、それを類推するための材料が事前に提示されていない感じで、「ミステリー」と銘打たれるとちょっと違うなって感じ。

 ミステリー部分は正直どうでもいいのです! 新米とベテランの刑事コンビ! 性格の悪い探偵と助手の関係性に萌えてこそのミステリー! 謎?そんなもんは犬に食わせとけ!!!!

 商業ミステリーもだいたいミステリー部分はオマケですからね。まあ、このへんはまだまだポテンシャルを持ってそうという意味で僕のラブテスターに対する潜在的な評価が高いからこその不満なんでしょうけど。

 もっとやれたやろという。銀賞どうしましょうね。

(ごにょごにょごにょごにょ)

(ごにょごにょ)

(ごにょごにょごにょごにょごにょごにょ)

(ごにょごにょ) 

 では、最後の銀賞一本はゴム子さんの「インダストリアル」ということで。

 はい、おめでとうございます!

 おめでとうございます。じゃあ以上で解散ですかね?

 あ、ちょっと待って。ねえねえ有智子ちゃん。

 はい。

 前になんか副賞のイラスト描いてもいいよてきなことを言ってた気がするんだけど本当にやる? やってくれるなら有智子ちゃんが描きたいって思ったの一本選んでもらって特別賞ってことにしようと思うんだけど。

 あ、やります。えっと、じゃあ午後王で。

 オッケー、よろしくね。

 はい、というわけで第五回本物川小説大賞は、大賞 中出幾三「カフカの翼」 金賞 既読「ヤスデ人間――あるいは人の価値に関するいくつかの不安――」 銀賞 でかいさん「箱庭的宇宙再現装置による未来予測実験について」 ゴム子「インダストリアル」 特別賞 ラブテスター「午後王」 に決定しました! おめでとうございます!!

 これにて闇の評議会解散~! お疲れ様でした!

 お疲れ様でした。

 お疲れ様でした。

 撤収~~!

 

kakuyomu.jp

第五回 本物川小説大賞 概要

 もう第五回目なんですね。驚きました。

 

 さて前回の第四回大会が変則ルールだったので、今回はシンプルにいきます。

 

①一万字未満の短編。

カクヨムに投稿する。

③「第五回本物川小説大賞」とタグ付けをする(表記ゆれに注意)

④締め切りは8月末。

 

 以上!はいスタート~~

第四回 本物川小説大賞 -第一次トルタ侵攻- 大賞はヒロマルさんの「雨と巡査とバス停と」に決定!

 女子中高生向けケータイ小説サイト トルタのオープンにあわせて、平成28年4月23日から5月末日まで開催されました第四回 本物川小説大賞 -第一次トルタ侵攻- は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

 大賞 ヒロマル 「雨と巡査とバス停と

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 イラスト:まっする(仮)

twitter.com

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 受賞者のコメント

今回はカクヨムに続き、新規の小説サイトへの投稿企画で、順位や「きゅん」においては並み居る参加者の皆さんの後塵を拝しておりましたので驚きで動転しております。今回の作は絵をお貸しして頂いたまっする(仮)さんのイラストの物語性のある空気感と確かな筆力に引っ張られた形ですので、改めて御礼申し上げたいです。まっする(仮)さん! やりましたよ! 本当にありがとうございます!!

 

 大賞を受賞したヒロマルさんには、副賞として闇の評議会三人による合作イラストが贈呈されます。好きに使ってもらっていいんで自力で勝手に出版してください。

 

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  金賞 karedo 「I see your face before me (あなたの面影)

 

  銀賞 ユリ子 「リコリス

  銀賞 空色あまね 「毒薬とハーブティー

 

 というわけで、初夏の素人黒歴史KUSO創作甲子園 第四回本物川小説大賞、キュンキュンな大激戦を制したのはヒロマルさんの「雨と巡査とバス停と」でした。おめでとうございます。

 

 以下、恒例の闇の評議会によるエントリー作 全作品講評、および大賞選考過程のログです。

 

 全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も第四回を迎えまして、これまでのルール無用の無差別級バリトゥードから一転、今回は一定のレギュレーションを設けた変則ルールでの開催となりました。なかなかゲーム性が高くて、参加するほうも読むほうも、それなりに楽しめたのではないでしょうか(自画自賛) なによりも2万字未満の短編しばりというのが、講評するほうとしても気楽でちょうど良かったですね。おのれガンキャリバー。

 さて、大賞選考のための闇の評議会ですが、今回は評議員もガラッと変えまして、キュンのマイスター、謎の長髪イケメン教教祖さんと、謎のあいこさんにご協力を頂いています。

 謎の長髪イケメン教教祖です。

 謎のあいこです。

 謎とは。(?) 議長は引き続き、わたくし謎の概念が務めさせて頂きます。これまでは公平性を重視して、趣味嗜好のわりと異なる三人という条件で評議員を招集していたのですが、今回はキュンキュン重視のレギュレーションということで、評議員全員恋愛脳という偏ったメンバーで進めていきたいと思います。よろしくお願いします。

 恋愛脳です。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 さて、それではひとまずエントリー作品を投稿された時系列順に紹介していきましょう。

 

 こむらさき 「マヨナカデンワ遠恋ノススメ」

 ノリと勢いの本物川小説大賞、全体の流れを決定づけがちな重要ポジションであるトップバッターですが、今回はキュンキュン勝負だって言っているのに胃がキュンキュンする話をブッ込んできやがりましたね。

 全然遠恋ススメられないのでは!?!? こう…キュンというかこう…胃がシクシクする!!内臓にクる!!というお話でした。ミサキくんがミサキくんとしてあり続けなければならないみたいな精神面の描写とかほんとウッ…クる…て調子で面白かったんですが、三十路越えの彼女の状況下でミサキくんに甘え続けていていいのか? なんてところも考えてしまったりして読んでいる中で妙なリアリティちからに引っ張られた感じでした。キャラ描写などもう少し物語に没頭できる要素が欲しかったかも。

 女の子なんだけどオトコノコをやってる主人公の一人称掌編。さらっとした読み心地のわりにズンズン胃にくるキュンでした。誕生日には一番にメッセージがほしいみたいな、中高生ならかわいいけどアラサーでそれはちょっとねみたいなイタさとかがリアル。掌編といった趣でさくっと読んでしまえる反面、短さの面もあってなかなか残りにくいかなと思ったので(胃には来る)、題材的にはまだまだ膨らます余地があるのかなと。

 前回のネズミー同様(ていうか同一人物だよね)年上のくせにクソガキな彼女のノーヒントクイズの話。同じ系統の話としてはネズミーのほうがお財布も部屋の鍵も彼女に握られているなどのシチェーションてきな絶望度が高かったので、比較するとちょっと小粒だなという感じ。小噺としては面白味もありますけど、小説にするにはもうひとつふたつ、なにか道具立てやツイストがほしいところ。 

 

 大澤めぐみ 「ケダモノの女王」

 ケモノの王要素はありません。

 全編きっちりファンタジーでまとめられた、ファンタジー好きにはたまらん作品でした。ブラコンシスコンとか旅とか寄生する蜂とかモディファイアとか食いつき要素モリモリ。シスコン弟アーロンから語られる唯一絶対正義の姉・アニーの描写とか本当美しいんだろうなって感じでいいですよね(語彙がない)。終盤でアーロンのネタバレが起こるあたり、アニーの理論派潔癖性のキャラ設定がこう…アーロンに限り崩壊するところとかほんとこう…よく活かされていてさすがだ〜! となるばかりです。キュン。ただ物語の内容的にはどちらかというとメリーバッドエンドてきな要素が強いかなというところで、ハピエン厨てきにはそうであるならばもうちょっと2人がラブい要素をくれ!!!!って欲しがっちゃう感じですね。

 一種のディストピア小説かなと思いました。現代もの多めの大澤さんにめずらしくこれまでにないかっちりファンタジーした世界観のお話なのですが、長さのわりにするっと読み込ませてくれます。美しく世界最強の魔方師のアニーと、その信者たる弟のアーロン。二人のやりとりが密やかでどこか甘やかな感じでキュンです。読み進めていくうちにふたりの在り方のいびつさというか、ぶっとび具合が明らかになってきて、アニーの天才故の合理的思考回路にゾっとするところもありました。弟の一人称ですすんでいく故に後々明らかになってくる二人の関係性のギミックとか、はたまたわかる人にはわかるちょっとしたパロディ要素もあったりして、自分の得意とする文体で小説という構造そのものをトリックにしてくるところがさすが大澤節というか、こなれてる感じがあります。 個人的には弟くんが長髪イケメンでこう実にグッド。 

 

 seal 「失恋童話」

 アンデルセンを主人公にした、自身の創作物である人魚姫との悲恋(?) ちょっと物語の構造的な規模に対して文字数が少なかったかな、という感じで、説明しきれていないところがあるような印象。僕に前提とされる知識が足りていないだけかもしれませんが、ところどころ唐突でポカーンとさせられてしまうところがありました。でも、最終的にポカーンとさせられて終わるのはクトゥルフのフォーマットっぽいところもあるので、ひょっとするとそういうものなのかもしれません。

 アンデルセン×クトゥルフのお話!…でしたがすみません、クトゥルフが全然わかりませんで…しかしクトゥルフがわからずとも大変面白く読むことができました。なんていうんでしょう、メタい設定のキャラとか語っているはずの人間が実は物語の渦中の人物だったみたいな、入れ子人形ぽい構成が個人的に大好きなので面白かったです。読後感もよさ…イラストの静謐さとも合致した雰囲気の中流れていく物語でした。キュン要素はよわめ。 

 実はクトゥルフというものを寡聞にして存じ上げなくてですね……なのですが、このお話、とっても面白く読めました。デュマがトリックスターというかちょっとメタなポジションにいて、夢と現実の境目があやふやになる。実在の人物や実在の物語を踏襲しつつクトゥルフ要素を盛り込んで、かつ、イラストのちょっと影のある雰囲気とあいまって、綺麗にまとまってるなという印象でした。ただちょっと身構えちゃうので、読者の門戸は狭いかもしれないなど。悲恋のイメージが強くてキュンは弱めでした。

 

 ロッキン神経痛 「空を泳ぐ鳥」

 トルタ、見て。

 「トルタ。見て!」で話題をかっさらった空を泳ぐ鳥、すごく面白かったです。ジュブナイルというのか、真正面からヤングアダルトものとして書いてきていて、すごく爽快でした。キュン。いずれ失われることがすでにわかっている飛行船の生活や人々のあきらめみたいなものと、そこから飛び立っていくことを選んだボーイミーツガールのこの熱量差みたいなものがちょっとセンチメンタルでもあり、また作りこまれた世界観がすごくよかったです。一話二話の時点でどういった終わりになるのか全然読めなかったんですが、その意味でもスカッと裏切られました。

 すっごく良かったです〜〜!!イラストが正に物語の一場面を切り取ったような相互性があって凄くいい… 。 今の地方都市が抱えてる過疎ったり衰退したりな要素も孕んでいてファンタジー世界だけれどそれにとどまらないようなお話作りで胸に刺さりました。ギンザ通りの描写とかわかりまくる〜〜フジさんいつまでも元気でいてくれ〜〜!
個人的には盛り上がってきたところで了になってしまったのがもったいないなという感じでした。ドキワクもっと感じたい!風を感じたい! 

 これはソーヤさんのカバーイラストのちからが非常に強いですね。文字だけだったらこの世界観をスッと呑みこませるのは難しかったでしょう。とても面白いのですが、飛び立つ目的や動機付けとか、逆に船の体制側(?)は何故それを止めようとするのかなど、各ポジションのキャラのスタンスが見えてこないところがあって、ちょっと歯抜けな印象も受けます。でも、目の前に広がる無限の大空があり、そこに飛行機があれば、少年と少女が飛び立とうとするのは必然という感じもあって、多くは語らないほうが逆に良いのかな、という気も。意図的に冷静に読まなければそんなに気にならないかもしれません。ただ、全体的にはきゅんきゅんというよりはワクワク路線かな?

 

 ゼータめぐきち 「ディストピア / ユートピア

 マトリックスや楽園追放におけるディーヴァてきな世界でしょうか。文章それじたいにはこなれた感じがありますが、物語として見るとちょっと物足りないなという感じがあります。もうちょっと主人公が能動的になるような動機付けなどがほしいかも。あと、今回のレギュレーションてきには表紙絵との整合性などでもあまり加点がつかないかな。 

 物語がムクムクきたかってところで終わってしまった感があるので、もっと盛り上がりがほしかったかも。データと実体、舞台の星と別の星。諸々の設定が開示され切っていないのがもったいなかったとも思います。 

 設定が細かなSFライトノベルの趣で、面白く読めました。文章もサクサク~としていてとっかかりなく読めます。が、ほんのすこし入り口に足を踏み入れた、といったところでお話が終わっていて、また、メタ的な視線と物語の主人公の視線が結構クロスしてしまうので、読者としては、説明された部分と説明されなかった部分とがいまいちうまくつながらないのかなと思ったりしました。 

 

 起爆装置 「決戦兵器クロイン」

 キュキュキューンギュギュギュギューン♪ じゃあないんだよ。トルタという語を含めてツイートすれば、だいたいなんでもRTしてくれる懐の深いトルタ公式くんにも頑なに無視されている、今大会での一番の問題作。かくぞうの超硬派なカバーイラストからこの物語を生み出す脳の回路が心配になります。でも、無心で読むとクロインが先輩にボゥウウウウウウンしてしまうポイントなんかもちゃんと共感できて侮りがたい。

 ボゥオオオオオオオオオオン!!キュキュキュギュィーーン!!!
 物理のちからでキュンをゲット!決戦兵器クロインちゃん強い実に強い。突拍子のないような設定なんですが構わず読ませる大いなるフォースが凄かった……。ゲラゲラ笑って読みました。1話完結かと思いきやライバル出現の2話、全てが明らかになる3話の三部構成なのがまた予想外で笑いました。最後まで勢いが落ちることなく読了感も爽快です。

 三話で浮浪者の首チョンパとかも説明づけしていますけれど、僕は個人的にはそういうのはなくてもよかったかなぁって感じがしないでもないんです。どっちみち苦しいなら下手に説明づけせずに勢いでいってもよかったかな、と。でも、ラストシーンは画的に爽快感があってとてもいいです。

 キュキュキューンンギュギュギュギューン投稿された瞬間のざわ……感が忘れられないんですが、個人的にはブラックジョークというかナンセンスものって大好きなのですっっっごく面白く読みました。浮浪者の首を刎ねまくる恋する決戦兵器クロインちゃんの先輩の互換性をいぶし銀と評するところとか最高にクールボゥオオオオオオオオオオオオオオオオン
 キュンのつけどころはかなりはっきりしていてすごくいいですよね。

 

 有智子 「メディエーター」

 一筆きゅん。イラストでも文でも参加のハイブリッドファイターです。アダムくんもさることながら、クロエの描写もいいですね。お話としては連載ものの第一話って感じで綺麗にまとまっています。メディエータ(仲介者)という設定が良くて、超常のものたちが倒すべき敵ではなく、飽くまで交渉相手であり、倒すべき敵はまた別に居る、というところに面白味があります。<境界>と特殊捜査課との関係性とか、先の展開のイメージが膨らみますね。続きを書いてもらいたい作品。 

 長髪イケメン!  <境界>に属する長髪イケメン能力者アダム (待ってくれ、この肩書きだけで強すぎではないか?) とその助手クロエが依頼を受けて問題を解決!というストーリーなんですが凄くいい〜〜!  アダムが本当にイキイキしていていいですね。情景描写も綺麗にまとまっていて、イメージ連想するのに難くないというか…イラストちからもプラスされて本当に情景が目に浮かぶよう。物語としてもきちんと完結していて爽快や〜〜最後にちらっとスパイスとしてキュンが投入されていたのもポイントが高いです。キャラが魅力的なので<境界>に属する人々のバックグラウンドがもっと知りたいですね。続編を期待しちゃいます。

 長髪イケメンはいいぞ。

 はい。

 

 姫百合しふぉん 「0.9999999999999999999999999」

 今回はホモじゃなくてレズです。タイトルの読み方は「いちよりすこしちいさいかず」 だそう(うろ覚え)

 百合! 思春期特有の情動が感じて取れてムズムズキュンキュンしました。確かな確信がないと言えない、信頼している相手に拒絶されたら耐えられない……というの、誰もが一回は体験しているものなのではないかな〜となんとなく自身の経験を重ね合わせてしまうというか、感情移入せずにはいられない作品でキュンキュンしました。作品としてきちんと完結していてなおかつイラストの要素回収度も高くてよさがあります。
  綺麗な百合ものとして完成度が高いと感じました。かぎりなく一に近いけれど、一でないと意味がない女の子たちの話。繊細な心情描写と高い文章力もさることながら、イラストを元に小説を組み立てるという大賞規定をしっかりクリアしてるなと思いました。楽譜のくだりは多少強引かなと思いましたが、そこまで違和感を感じさせないストーリー展開です。

 淡々として簡素ながらも耽美な独特の文体の魅力は相変わらず。お二方からもありましたが、本作で最も特筆すべきは、カバーイラストの要素の再現性でしょう。一見して「なんだこのシチェーション?」という表紙絵の状況に無理なく話を運んでいるのは追い込み漁といった趣で、高い技量を感じさせます。回収し忘れている要素は腕章ぐらいかな?きゅんきゅんちからも高め。 

 

 時帰呼 「鳥の記憶」

 小説というよりは詩に近いような感じもあります。全体的に文章じたいは綺麗で上手くて、電話を切る間際のやりとりなど、細かい部分でのきゅんポイントはなかなか高めですが、いかんせん短く、展開もあまりないので、小説という尺度ではちょっと不利かも。あと、僕はカバーイラストのイメージが完全にファンタジー世界だったので、普通に現代が舞台っぽいのは意外な感じがしました。

 こういうの弱いんで本当に…彼女……。最後の描写で彼女が追憶の中にいることが判明するんですが、場面転換(時間の経過?)に若干ついていけなかった感がありました。判明した後にタイトルの意味が付加価値を持ってストンと落ちてくるのは良かったです。

 多分今はもういない彼女との思い出の話で、全体的にキュン度高めでした。後半のモノローグでネタバレというか、ああ恋人はおそらくもういないんだなということを読者ににおわせてくれるんですが、一曲分の歌の詞のようというか、ダイジェストっぽさはあります。もっと行間をかきこんでみてもいいのかも。

 

 起爆装置 「どうか呪いよ解けないで」

 クロインでおいおい起爆装置と思っていたら、こういう正統派なものもブチ込んでくるから油断なりません。こちらも小説というよりは詩に近いような感じですが、イラストの再現性が高く、長めのフレーバーテキストといった感じ。今回の大賞の趣旨に合致していますね。

  異種間同士の夜の密会。良質な詩を読んでいるような感覚でした。ページの裏側を読ませるのではなく物語の中、静かに止まった時間を楽しむよがこの2人の幸せなのだと言い切る物語描写がいいなあと思いました。

 こちらのカバーイラストからこういった異種間恋愛ものに発展するとは思わず意外でした。これ以上進みようのない閉塞感みたいなものが、絵とマッチして綺麗な情景に綴られているのがよかったです。会話が地続きなのがすこし伝わりにくいと感じました。ロマンティックな空気感がいいですね。

 

 左安倍虎 「モーフィアスの告白」

 根本的な文章力が高いです。他の創作がメインのストーリーに絡んでくるという形式は、虎ニキの別シリーズであるファンタジー警察にも通じるものがあって、なにかこの形式に思い入れがあるのかなぁという感じもする。ただ、やはり構造的に冗長になりやすいので、説明をどこまでするかというバランス感覚は難しそう。あと、メタファーとしてもモーフィアスはビジュアルが強すぎてどうなのかという感じは若干あります。どうやってもその後のビジュアルイメージがムキムキハゲ親父になってしまうので。

 京子〜〜ウワーン!!  映画で京子を感動させようという序盤の流れからまさかああいうラストになるとは…ほろりと泣いてしまった……。サト君いい奴だし全体的にみんないい奴ですよね。ひとつ言うとすれば、物語後半で希美の実体が明らかになりますが、おそらくそうなると京子の無色透明でありたいという思惑とはかけ離れた挙動を物語中でしていることになると思うんですがそれでいて京子を振り向かせよう! という趣旨で映画を選び続ける男子たちの構図がちょっとウーン……。京子の一人称視点なのでもしかしたら噂からDVDから全部狭山君演出なのかもしれませんが、なんとなくそこらへんが気になってしまったのがちょっとだけ残念だったかなて思います。

 淡々とした文体なのですが、きっちり話の組み立てがあって、クライマックスが設定されているという短編でありながら様式美を感じる一品でした。伏線もあり、ミステリ仕立てで、カタルシスが得られる終わり方です。マトリックスを視ていたらもうちょっとしっかり楽しめたのかもしれない……。途中からどうしても状況の説明や、理屈で納得させてしまうというか、作者側による終息地点への誘導がちらっと見えてしまって、難しいところではありますが、もっと自然な形で京子の気持ちの決着がついたらよかったのではないかなと思いました。

 あと、これは完全に僕の個人的な事情で申し訳ないのですが「自分には心臓の病気があるから、自分と付き合っても相手を幸せにできない」あたりで、某超合金さんがフラッシュしてしまってダメでした。

 

 karedo 「I see your face before me (あなたの面影)」

 三世代(四世代?)にわたる女の子たちの恋の物語。若干のミステリテイストで最後に謎解きに相当するシーンがありますが、ミステリとうたうにはそこまで推理はカッチリはしていないです。飽くまでそういった推測も可能である、という程度。

 これすごくよかったです。三世代にわたるひとつの恋愛を扱ってるんですが、とにかく描写が細かくて美しく、筆力があります。関西弁や時代背景なんかも違和感なく。話もちょっとしたミステリー仕立てで、張られた伏線もうまくて続きをぐいぐい読ませてくる。ラストの締め方まですっきりしていて総合的にレベルの高い作品だなと思いました。

 泣いてしまった〜〜ウワーン!  すごく良かったです……。三世代それぞれのそれぞれが収束していく構成、無理のない物語運びで見事の一言です。あと女の子たちが可愛い。何度も言いますがハピエン厨なのでひいお婆ちゃんの恋が…この…こんなことって…とちょっと持ってかれすぎたところがあります。ひいお婆ちゃん…ウッウワーン!!

 あいさん落ち着いて。出てくる女の子たちはどの子もみんなかわいらしさがあって、非常にポイント高いのですが、個人的には本村がイケメンとまではいかないまでももうちょっと気持ち悪くなかったらなぁと思ってしまいました。かわいい女の子は描けてもかっこいい男の子は描けないというか、かっこよく描きたがらないのは、なにかしらの気恥ずかしさがまだ残っているのではないでしょうか。歯が浮くぐらいにかっこよく描いてしまっても意外となにも言われませんよ♪

 

 咲花ぴよこ 「栽培彼女」

 栽培してつくる彼氏のはずが、娘とか言い出す。でこれが不思議なことに、妙に生き続ける、といったファンタジーミックスの現代もの。キャラクタたちは個性があってかわいらしいのですが、終着点を見失ってしまった感じはあります。ちょっとラストはわかりにくいかなと思いました。イラストを元にしたら、桜の花びらをふりかけたんだなっていうのはわかるんですが、どうしてそうなってしまったのかといったことは読者の想像に任されてしまって、ちょっと投げてる感じが否めないかなと思いました。

 流行りに乗ってわたしも欲しい、みたいなのって必ずありますよね。なんというか行動は間違いなく12歳のそれなんですがそれにしては地の文が大人っぽすぎて、でも栽培された彼女には子どもっぽいなんて言われていてそこがちょっと個人的に受け入れるのに時間がかかりました。全体としてはサクッと読めて良かったのですが期限が切れたことについてもう少し言及しても良かったのかなと思います。

 全体的に駆け足な印象ですね。どれかひとつ、フォーカスをあててもう少し掘り下げるエピソードがあったらよかったかもしれません。物語てきな山場としては家出のシーンあたりになりそうかな。そのへんで、なにかしら主人公に心境の変化があるだとか、ふたりの関係性に変化があるだとか、そういう変化を見せるともっと物語っぽくなるのではないかと。

 

 ヒロマル 「雨と巡査とバス停と」

 雨の夜にだけバス停にやってくる女の子と、その真正面の交番の新人巡査の交流の話。随所に散らされたメタファーが最後にギュッと収束するお話の構造は気持ちが良いです。テーマ性もはっきりしていますし、理不尽も飲みこんで生きていくしかないみたいな前向きな力強さも清々しいです。上手にまとまったティーンズ向け文芸という感じで、今回のいちおうのレギュレーションである中高生向けという点でもばっちりです。

  タイトルからは想像だにしない歳の差キュンストーリーでした……めっっっちゃ良かったです…… 。歳の差最高! 若くて強い警官最高! 可愛くて危うい、何かを抱え込んでいっぱいいっぱいになる思春期の女の子最高! 話の盛り上がりや2人の心境の変化により関係性が徐々に詰まっていくところとかクライマックスの盛り上がりとエピローグまで本当たまらんです。キュンキュン!  ハア…ハア…良かったです……。語彙とは……。

 これめっちゃ面白かったです~~~~~!!!! なんじゃこれ!!! めっちゃおもしろいやんけ~~!! どうなることかと思いきや!! ほどよい分量と設定の活き方がいい。サヤカの謎、抱えてるもの、巡査の人となり、事件といった要素が綺麗にまとまっているし、非常に読みやすく、良かったです。九州訛りがネイティブなのもポイント高い。強いて言うならタイトルがもうすこし読みたくなる感じだともっと読者の敷居が低くなるのではないかなと思いました。

 

 こむらさき 「不思議な頭のお隣さん」

 これはすごいですね。これまで胃がきゅんきゅんな話を連発してきてくれていたこむらさきが、とうとう真正面からの正統派きゅんで攻めてきてくれました。登場人物がたったふたりと最小で、たったふたりしか居ないのにふたりとも常軌を逸してネガティブだから単純な話が何十年もかかってしまいます。

 妖精のことを良き隣人として、そのまま作中でも「お隣さん」と表現していたのがなんかめちゃ可愛くてなんだこれ可愛い! 可愛いな〜〜〜! 一貫して優しい童話やおとぎ話の世界のような時間の中で物語が進行していてとても穏やかな気持ちで読了することができました。遠恋ノススメでのシクシク具合が嘘のよう……ウッ……。 ハピエン厨てきにも2人が結ばれて素直に幸せだな〜と感じられるラストでした。 

 最終的にハッピーエンドになってよかったです~~こちらも異種間恋愛です。ファンタジーではありますがそこまで非日常でもなく、ご本人がまほよめっぽいものを目指していたと仰っていた通り、かなり長い期間のお話になっているのが、異種間恋愛の醍醐味たる寿命の差を生かしていていいなと思いました。すっきりした読後感やイラストとマッチした文章内の描写もよかったです。 

 おわりのほうはちょっと蛇足感がなくもなくて、「最期の告白」で終ってしまってもお話としては綺麗でよかったかもしれませんが、綺麗じゃなくても一緒に生きていく、みたいなテーマ性とリンクしていて綺麗にまとまってないところが逆に良い、みたいなところがあります。

 

 yono 「何かを忘れた話」

 恋愛SSらしいのですが、ちょっと短すぎて、さすがにどう解釈するのが正解なのか情報が足りない感じ。まあ、好きに解釈すれば良いということなのでしょう。ほんわかとした文体なのに、なんだかゾッとさせるような引き、というのは面白味があるので、同じコンセプトでもう少し長めの話も書けるかな、と思いました。

 文体は軽いのに薄ら暗い顛末のお話。カジュアルにダークで、サンホラめいた雰囲気を感じ取りました。 絵から想像できない調子のお話だったので、いい意味で裏切られた感があります。キュン要素はよわめ。

 ちょっとなぞかけというか、マザーグースみたいな寓話的なお話。ちょっぴり不気味さもあるんですが、何度も読み直してしまいました。恋愛SSとのことでしたが、キュンポイントはちょっと薄かったかなと思います。

 

 Enju 「Self to me」

 水鉄砲要素とセーラー服要素はどこに飛んでいったのでしょうか。表紙絵の要素回収という意味ではちょっと投げやりな感じがしないでもないですが、お話としては勢いがあってなかなか楽しいです。特に旅立ってから飛騨の山中でロストテクノロジーに出会うところは展開がミハイルシューマッハかよってぐらいに速くて逆に気持ちがいい。

 冒頭でドッペルゲンガーとのアツくて強いバトルものか!?と思ったらボケとツッコミのお話でした。 大和くんとの掛け合いがテンポ良くて仲良さそうで実に良いです。仲良しのままでいてほしい。1話で全く触れられなかったボケツッコミの要素が話の主軸となるので、初見でそれに少々面食らうところはあったかも。 

 結構とんでもない設定からはじまるんですけどまあそれはそれとして(右から左に置く)就活中に山に登りにいったら、ロストテクノロジーによる自分と対決する羽目になり、走馬燈の中で自分の人生を振り返る、自分との対決・自分探しの話。完全な現代設定と非日常的な出来事とのミックスが、個人的には九井諒子てきな面白さがあってよかったです。キュンキュンという感じではなかったのですがヤマトくんは間違いなくイケメン。

 

 蒼井奏羅 「IF」

 これちょっとよく分からなかったんですよね。たぶん、視点切り替えによって真相が見えてくるみたいな仕掛けだと思うんですけど、僕の読解力の問題なのか、そもそも情報がちゃんと提示されていないのかは不明です。なので、ちょっと評価が難しい。ライトな感じでつっかえずにサラサラと読めるので、文じたいは上手だと思います。

 多重人格の1人の少女が自己統一して前に進んでいくお話…だと思うんですがいかんせん読解ちからが足りませんでした…。2人いる描写が為されていたが実は最終話で1人であったと判明するギミック(と読んだ)自体は面白いなと思いました。

 きっちりとした説明はされないまま終わっているので推測になっちゃいますが、多人数視点なんですけど、女の子の中に複数人格があって、それが飛び降りることで統合されてしまうのかなと。詩的な雰囲気で、リストカットオーバードーズなど、題材は結構一時期はやった自暴自棄系なのであたらしさはないんですが、そうした様式美への陶酔というか、オマージュを感じました。

 

 蒼井奏羅 「僕と君と夏の雨」

 雰囲気がとても良いですね。謎を置き去りにしたままズンズン進んで行く感じ。世界観は全然違うんだけど、ICOとかワンダと巨像みたいな印象を受けました。ただ、やっぱりラストがちょっと唐突かなという感じがあって、伏線の張り方などをもっとしっかりやると読者フレンドリーになるのではないかなと思いました。エンタメとしてはちょっと読者を突き放しすぎかも。

 真夏の昼寝についてくる背中がちょっと寒くなる夢……のような印象を受けました。夏の季節設定やラムネなど何となく前作と通ずるところが……なかった!  じわじわと広がっていく冷気というか、主たるところが見えなくてちょっと居心地が悪いというかお尻の位置を定められないというか、モゾモゾした気持ちにさせられました。もう少し明確な答えっぽいものがほしいと思ってしまうのは欲張りでしょうか。 
 「IF」のほうと雰囲気似ているので、関連性があるのかも…?と思いながら読んでたんですがそんなことはなかったぜ! 随所にちりばめられた夏らしいモチーフと、ちょっと猟奇的な展開で締められるのが白昼夢というか、夏っぽいホラーみを感じます。

 

 綿貫むじな 「眼鏡のお姉さんと私」

 レズですね。色々と出来事は起こるのですが、それぞれの出来事がなにを象徴しているのか、物語の中でどのような役割を果たしているのか、みたいな構造的な部分を見るとちょっと弱くて、つらつらと書き連ねているという印象があります。現実には出来事がなにかを象徴していたり、なにかの役割を果たしているということはなく、出来事というのはただ起こるだけなので、そういうのがないことがリアリティと言えなくもないのですが、掌編~短編しばりですから、それぞれに意味づけをしてコンパクトにまとめていったほうが物語としては濃密になるのではないかなぁという気がします。

 美人で色々知っていて、でも男っ気はそんなになさそう〜な眼鏡のお姉さんとデート! おいしいシチュですよこれは!!  何でも知ってる美人なお姉さんに憧れてドキドキしちゃってあれ?私何言ってんの? 何でデートしてんの? てこときっとあると思います。時系列通り物語が進行していく印象があって、分かりやすくもありやや単調かも…とも思いました。

 眼鏡のお姉さんは……いいぞ!! という意気込みを強く感じました。スタイルがよくてクールそうだけど感受性豊かで頭がよくてコーヒーのおいしい喫茶店の常連さんな眼鏡のお姉さん、ちょっとした疑似恋愛シミュレーション感があります。あるいはそういう意図で書かれているのかもしれないですね。 

 

 不死身バンシィ 「アザラシとライバル」

 ぶっちゃけ少年アシベですね。表紙絵のアザラシのディフォルメされた印象から「いやそれナマモノなのかよ!」というところでまず笑ってしまいます。この表紙絵の印象でリアリティレベルの設定がうまくいっているところがあって、中身は完全に知的生命体なのですが、まあこのアザラシならこれぐらいのことはやるやろなぁと雑に納得させられてしまいます。

 あざらし。

 ただのアホギャグ路線かと思いきや、最後のほうではシリアスに向き合うところもあって、全体的にコメディとしてお話の水準が高かったです。

 エリオットかわいい〜〜!タイトル通りアザラシと主人公が意中の相手を取り合って戦うお話。ん?タイトルからいくと主人公はアザラシ?? 個人的に幕間表現があざらしなのめっちゃツボで笑っちゃいます。

 あざらし。

 きちんと考えるといやいやこれはねーよww ってなると思うんですがポンポン読ませられてしまいました。アザラシちからに押し負けた感があります。

 これすごく楽しかったです~! わりと最初から最後までノンストップ畳みかけボケツッコミみたいな感じで、休まらない。整合性とか終わりのシリアスエピソードとかは単体で見ると弱いかなと思うのですが、すべてを勢いが牽引する華麗なるエンタメ小説でした。

 あざらし。

 リュウタの黒王子感が光っててよかったです。エリオットはかわいい。アザラシ……かわいい……。

 

 不二式 「ストロベリータルトの季節」

 小説というほどお話としての展開はなくて、物語の中からワンシーンだけを切り出したという感じ。絵の要素というか、雰囲気はよく再現できていると思います。短いのですが、そのわりにちょっと冗長に感じられる部分もあって、この規模だと逆にもっと余分な情報はそぎ落としたほうがソリッドな感じに仕上がるかなぁとも思いました。

 イラストに即したすんごい可愛いカップルのとあるワンシーンという感じでした。冒頭と最後の悟くんの描写がこう…彼女目線の彼氏!って感じですごくいいですね…キュン。

 彼氏という絶対的イケメンをあますところなく描写していて、文章なのに少女漫画っぽく思えました。事実すっげーイケメンなのがひしひしと伝わってくる、キュン純度がかなり高くて実によいです。イラストとも合っていて、お話自体はごく短めなのですが、余韻があります。

 

 kakuzou 「僕の仮面がとれた時」

 こちらもイラストでも文でも参加のハイブリッドファイター2。文字数てきにはわりと長いですが、お話の筋としては至ってシンプル。まあ恋愛ものなので、筋でツイストしてもあまり良い意外性は生まないのが常ですから、そこで仮面という道具立てを導入して差別化を図ろうという試みかな? お話としてはうまくまとまっていますが、仮面のくだりを全部抜いても成立してしまうので、もっと効果的な使い方もあったのではないかなという気もします。あと、単純に文章が読みにくい箇所がところどころあるので、そういった基礎力はもうちょっと訓練が必要かも。

 誰しもが対人関係においていつの間にか素の自分ではないよね〜人間と人間の社会を円滑に進めるためにはね〜。というリアルな題材ですよね。中高生の頃って正にそういう猫をかぶるというか仮面を身につけることを覚え始める時期だと思うので題材設定てきにも食いついちゃうな〜と思いました。ただ物語的には仮面要素が絡みきっていないような印象も受けたので、もうちょっとあざとく仮面要素を振りかざしても良かったかもと思います。 

 ティーン向けというよりはしっかり現代文学の文章で、つくりもしっかりしていて、面白かったです。仮面というのが物理的なものではなく社会通用上のペルソナであって、でも話の筋にかかわるほどの大きなメインテーマにはならなかったのはちょっと残念ですが、八重との最後のやりとりではそのへん活きてきて、よかったです。イラストが結構抽象的だったのでどう作ってくるのだろうと思っていたのですが、そのへん上手だなあと思いました。 

 

 宇差岷亭日斗那名 「終わった世界、花の海」

 非常に雰囲気のある文体で、ナツメのイラストの気だるい終末感に似合っています。文章じたいは上手いし、まあイラストの雰囲気はよく再現できてるかもなぁ、くらいの侮った感じで読み進めていたのですが、これ、ラストの三行があるだけで物語が一気に拡がりを見せていて、評価がグンと上がりましたね。迎えにきたのはどちらだったのかとか、どっちだったとしてどう思うのかとか、色々と余韻を残す引きでとても良いです。僕が単純にハッピーエンド脳だっていうのもあるかもですが、ラスト三行のおかげで全体の印象が格段に良くなっています。

 めちゃ好きなんですよね〜〜〜〜こちらのお話ね〜〜〜〜良い〜〜〜〜 。割とタイトルをまんま表したようなお話で、退廃的な世界にぽつんと存在する部屋と彼女の構図が陰鬱ぽいんですけど温かくもあって良かったです。終わり方もめちゃ好きですね。すごく印象に残る〜〜〜〜あんた一体どっちなんだ〜〜〜〜! 

 退廃的な舞台設定とアンドロイドの女の子というのが、イラストと合っていて素敵でした。ちょっと前の電撃文庫ライトノベル感があってその辺がキュンキュンくすぐられる~!個人的にはもっと長めの文章でぜひ読みたいと思ったお話です。

 あと、物語には直接関係ないのですが、フォントサイズがやたらと小さくなってしまっているのはたぶんなにかの事故では?

 

 左安倍虎 「聖紋の花姫」

 易水非歌でもそうでしたけど、虎ニキはオーソドックスな世界観にひとつだけフックをぶち込んで独自の設定を引き立てるのが得意っぽいですね。今回は調香師が非常に高い地位と信頼性を持つ独特の世界設定ですが、途中から調香というよりは単純に薬学の知識にスライドしているので、そこまで設定が生かせていないかもなぁ、という感じもしました。花がわりと重要なモチーフになっていて頻出するので、全体的な印象が鮮やかで画面的な華やかさがあって、表紙イラストの雰囲気にも実にマッチしています。

 王道ハピエン厨なので大変良い結末でした……良かったです……。 ファンタジーなところとか花の名前がポンポン出てくるところとかラザロの実直なところとかセリムカルナの自己犠牲を厭わないところとか薬師長の小者なところとかそれに躍らされる国王とかね!!! まさに王道!!! 王道ファンタジー!!! ラザロが古文書の謎を確かめるためにカルナを人柱にしたとかセリムが冒頭でよくあることだと派手にぶっ倒れたのでまたばったばったとぶっ倒れるかと思ったらただの杞憂だったとか細かなところで気になるところはあったんですがそれでもめちゃ楽しく読みました。キュン。 

 がっつりファンタジー小説で、世界観がすごくいいです。同作者の作風の特徴である骨子がしっかりした話づくりは安定していて、まとまりがよく完成度が高い。短編ということでたぶん心もちスリムにされたんだと思うんですが、スピード感があってよかったと思います。実に個人的な感想ですが長髪イケメン王子、最高にグッド。

 

 大村あたる 「腹の底で眠る」

 これもちょっと分からなかったので、評価が難しいです。僕が理解できていないだけの可能性はある。明らかにファンタジーな表紙イラストに対して現代日本が舞台っぽい話というギャップは狙っているのかどうなのか。出来事はなんらかの比喩なのか本当に事実なのか、なにをどのように解釈すれば良いのか、という部分でヒントが少なすぎて、ちょっとこれは描き切れていないのではないかなぁという印象。ポカーンとしてしまいます。

 少し寂しいんですが温かさがあるお話でした。印象としては、多少強引に「イラスト」と「恋」に結びつけすぎなのかなあと思いました。 竜なのか実は本当に機械なのか、恋と形容するよりどちらかというと情動の方では…とか。とか。

 なんだかびっくりするくらい硬派なお話だったので見入ってしまいました。雪深い町の描写や語り口は丁寧で、落ち着いていて、ずっしりしています。この謎の竜の機械とか、それのある場所とか、ちょっと異世界感があるんですが、結構地の文章が現代的なもので、突飛な印象が強く出てしまったかもしれない。永遠に失われてしまう前に原点回帰するというのはちょっとしたロマンというか一種の美学なのかもと思ったりしました。

 

 ユリ子 「リコリス

 これ強かったです。頭が良くて尊大で自信過剰で、でも馬鹿で傷つきやすくて弱くて脆い女の子たちの話。自分も書きたかったような話を先に書かれてしまったみたいな悔しさがあります。

 今更気づいたんですけどタイトルまんま話の根幹ですね! アア〜〜! すごく好きなお話でした。制服を武器と鎧にしてキラキラを纏う女子とか武器にホイホイ引っかかるロリコンとか頭がいい・悪いの意味するところとか思春期にありまくる自分の気持ちをぶつけまくっちゃうところとか アア〜〜!! 読んでいる間じゅうぼんやりした2人にやきもきしておりましたがリスちゃんをぼやけさせる意図があまり汲み取れなかったのが読解ちからに無念を感じるところでした。

 思春期特有のドロドロした思考回路みたいなものががっちり描写されていて、甘酸っぱいキュンみがありました。が、個人的には学生に臆面もなく告白しちゃうこの先生が結構いい味出していて好きですね。ちょっと山田詠美っぽいかんじ。

 短編にしてはすこし焦点がボケている感じがあるので、もうちょっとスッキリさせるか、逆に中編ぐらいまで全体をもっとボリュームアップしてもいいかな、という感じはします。役割を果たしていない道具立ては、たぶん語りきれていないだけなんじゃないかなぁという感じがするから、やるならボリュームアップのほうかな? すごく好きな路線なので、もっと他の作品も読んでみたいなと思いました。

 

 くすり。 「らくがき」

 うーん、この系統、佐藤ここのとかと同じ路線ではあるのですが、わりと危ういラインの上を全力で駆け抜けるギリギリのバランス感覚が要求されるので難しいものですね。この路線をやるならそれはそれで、なにかしらのトレーニングをする必要はありそうです。ただ、どういうトレーニングをすれば勘が身に着くのかは想像を絶しますね。頑張ってください。  

 勢いでまくし立てる系のお話嫌いじゃないです。しかし、くすり。さんから勢いでゴリ押しが繰り出されるとは。 レズっ気溢れるお話でとりあえず女の子たちが可愛いんだろうな、という感覚はあるのですが、ハピエン厨なのでオトすところまでゴリ押ししてほしかった気も。

 くすり。さんはコンチェルトのイメージが強かったので、一人称のまくしたてる型小説というのはちょっと新鮮でした。とはいえ、もともとの文章力の高さがあって、勢いでバリバリ書いていくのは落語の口上みたいで面白く読めました。明日香様とのやりとりがかわいくて好きです。 

 

 空色あまね 「毒薬とハーブティー

 上手いですね。ちょっとミステリ仕立て。死体安置所から死体を持ち出すなどのことを特に説明づけもなくホイホイやってのけているので、ミステリと呼べるほどカッチリとはしていませんが、動機に焦点を当てている感じなので、そこはそれほど致命的ではないでしょう。いわゆるワイダニット。ミス・スカーレットとサー・メルキオールの掛け合いがオシャレでとても気持ちが良いです。

 好きな作品です〜〜〜〜魔女の描写がすごく好き。違うんですけど西の魔女が死んだを思い出しました。はじめはサー・メルキオールが死神か何かか? なんて見当違いもいいとこな読みで読みました。ミステリ当たった試しがない。それまでは明快な進行だったからか、ネタバレシーンで一気にわかったようなわからなかったような調子になってしまったのがちょっと残念でした。もっと大胆に分かりやすいバレ表現でも良かったのかもしれません。

 このメルヘンな世界観すごく好きでした。王道少女小説っぽさがある……。すごく読みやすい文章で、題材もなんだかロマンチックでイラストにぴったりでした。筋立てはわりとざっくりしたファンタジーミステリなんですが、ラストが少々ぼかしすぎたかもと思ったのでしっかり書いちゃってもいいかもしれません。サー・メルキオールが長髪イケメンだと思う人は挙手をお願いします。 

 

 佐藤ここの 「先生はキャベツ畑生まれコウノトリ育ちって本当ですか?」

 勢い全力疾走スタイルの本家、佐藤ここの。今回も勢いで全力疾走してますが、謎にスルスルと読めてしまう不思議な文体の魅力は健在。ただ、毎度のことながらラストがブン投げ気味なところがあるので、物語としての丁寧な着地というか、もうちょっと読者に対する歩み寄りがあってもよいのでは? という気も。

 先生である「私」から語られる地の文がもう本当よくネタにされる女オタクかよってくらいテンションが高くて笑っていいのかわからないんですが笑いました。なんかもうやばい可愛い尊い〜〜!(←こういう感じ) ラスト畳み掛けの勢い240%!! 完!!! は嫌いじゃないんですがもうちょっとだけ手順踏んだ行程が見たいです。 

 一人称でぐいぐい読ませてくるタイプの小説ですが、最後綺麗にオチがついていてそこが非常にいいなと思いました。年の離れた義理の妹が教え子っていう、萌えシチュエーションですよね。百合はいいぞ!というつよい気持ちを感じました。

 

 ラブテスター 「引きこもりの恋」

 これすごくよかったです。ほぼ全編が膝にできた人面瘡との会話だけなので、話の構造としてはとても単純なのですが、それぞれのシーンに鬼気迫る描写力があってグッときます。先生が続々とやってくるシーンとか、個人的な経験もあって背筋がゾワゾワしました。非常に高い描写力と構成力を持っているようなので、もうひとまわり大きめの規模の物語にも挑戦してみてもらいたいです。 

 こちらのお話もね〜〜〜〜不気味さがいいアク出てて好きです。膝にできた人面瘡が自分を想っているなんてこと言って、もうなんかそれだけでめっちゃ気持ち悪くて怖いんですけどその瘡を巡って先生生徒たちが奇異の対象として自分を見る描写とか人間のそういうところ〜〜! 気持ち悪いアアアア〜〜!! という感じ。思春期だったり閉塞的な建物の中にいる人たちが一瞬で敵に変わる時の恐怖とかすごくリアルに描写されていて胃がドロドロかき混ぜられるような感覚になりました。……となったのにラストはなんとも小気味よく中高生向けの爽やかな了の仕方であるなあと感じました。不安はあれど未来に期待できる良い結末でした。

 人面瘡っていう言葉のもつちょっと尻込みするような印象とは別にして、お話はするする~とよくまとまっていて、読みやすかったです。人面瘡っていうのはひとつのメタファーで、思春期らしい混沌とした絶望感とか、世界との距離感とか、そういうものも描いてるのかなと思いました。部屋をでていくラストが特にすごくよくて、好きです!イラストにも合ってますし、実にティーン向けだなと思います。

 あとこれ、読後にカバーイラストを見ると膝にくちづけているようなポーズがなにか象徴的で、そこもまた想像を掻き立てられますね。

 

 千景 「小さな耳の小さな人形」

 童話風のほんわかとした文体がイラストの印象ととてもマッチしていて良いです。これはこれで完結なのかな? まだ連載中なのかな? 雰囲気小説っぽさはあるのでこれはこれでおしまいですよーと言われても納得できなくはないですが、ティルミーの作者の謎とかありますし、アレだったら続きも書いていってほしいなぁという感じ。

 ティルミーの語り口調で綴られていくのが大変いいですね。イラストとの相乗効果で絵本のような童話のような優しい雰囲気です。プレデアとケオルのやり取りをはじめてのおつかいを見るような心持ちでソワソワワクワクしながら読みました。物語の主軸はしかしどこになるのだろうと、少しぼけてしまっているのかなとも思いました。

 描写がこまやかでかわいらしいです。召使のお人形から見た日常という感じなのですがほのぼのしていて、一話完結型というか読み物としてはさらっとまとまっているのですが、まだまだ続きが読みたいです~。

 

 なかいでいくみ 「バタフライパンチ!」

 カクヨム現代アクションの雄(独自認定) ウサギ野郎の恋愛小説です。こういうのも書けるんだなぁと感心しました。やはり物語としての構成力に抜きんでたところがありますね。半面、このジャンルでの描写力とか表現力という点では、もうちょっと改善の余地というか、高められるところはまだありそう。とはいえ、苦手っぽいのははなから承知で真正面から挑んで来てくれたその心意気が素晴らしい。こういった経験も、きっとアクション小説を書く上で良いフィードバックがあることでしょう。リク君は、まあ普通にクズだと思うのでそこのところはどうなんでしょうか(?)

 面白かったです〜〜誰もが思うこの精神のまま過去をやり直したらもっとうまくやれるのに!をやってくださった!求めていたものがここに!!くらいの嬉しさがあります。やり直したい。 ハピエン厨の主人公に肩入れするマンなのでリク君の向こう見ずニート発言にちょっとパンチ入れたい感があります。

 過去に戻ってやりなおせたらと誰しも一度は思うもの、というお話で、現代異能バトル!というイメージからの新天地てきライトな恋愛ものなんですが、うさぎさんらしい軽妙な語り口とか妙にリアルなアラサーの価値観みたいなのの書き込みとかが気持ちよく、納得のボリュームです。というかボリュームある分しっかり作りこまれているといった方が正しいのかもしれない。ストレートに文句なく面白かったです!

 

 佐都はじめ 「幸せのベリーベリーショート」

 カクヨムファンタジーの超合金(独自認定) 佐都センセの恋愛小説です。イラストによくマッチした、ほんわかファンタジーな世界観と文体で、これもまた、こういう引き出しもあるんだなぁという新鮮な驚き。とは言っても、やはり設定厨の片鱗はあって、転生を繰り返しているから姉妹の年齢が入れ替わることもあるという独特な設定も。読んでから改めて表紙イラストを見ると、たしかに小さな子のほうがお姉さんっぽい表情で、大きい子のほうがヤンチャな印象なんですよね。なるほど、上手にイラストからイメージを膨らませてきたなあという感じ。

 いつまでも続く姉妹の時間の中で起こるひとつの大事件……。転生を繰り返すためある時は姉と妹の出生が入れ替わる、というのが面白いし、それがうまく作用して物語が進んでいくのがまた見事だなあと思いました。キュン要素で見ると、で!? 結局どうなっちゃったの!!? て求めちゃうところでしょうか。

 一見すると、閉鎖的な姉妹関係という若干メリーバッドエンドな要素もあるのですが、ちょっと童話っぽいテイストに仕上がっていて、あんまり悲壮な感じはないですね。ざっくりそぎ落とした感じなので、もっと肉付きがよくてもよかったのかな~とか思いました。

 

 津島沙霧 「戀の成り立ち」

 こいのなりたち、かな? わりとオーソドックスな恋のお話。戀という字は知らなかったんですけれど、なかなか面白い字面ですね。糸と糸の間に言が挟まっていて、こんがらがって絡まっているような印象。まだ全然、試しに書いてみた習作という感じなので、頑張ってもうすこし長さと分量のあるものも完結させてみてもらいたいです。

 気づかぬうちに好きになっちゃったりそれで関係こじれたりなんだりって本当に思春期特有のアレだよね〜〜!! という感想です。友達が語るキラキラした像の事を聞く内に自分もそのキラキラした像を好きになっちゃうとかもティーンエイジャーの心理そのものだと思うし、そこでハルカを押すエナは大人だなぁ。タイトルも秀逸でいいですね。 

 戀という字は、いとしいいとしいと言う心、とどこぞで見かけたことがありますが、この学生時代特有の複雑な関係性って名前のつけようがなく、したがって証明・認識のしようがない、みたいなところがあって、それこそキュンなんだと思うんですけど、そういうちょっとほろにがさも感じさせてくれました。欲をいうともっと長めの文章でも全然よかったのかな~と思います。具体的にカナタくんとエナちゃんのエピソードなども入っていると重みが増すかなと思いました。 

 

 あいこ 「ホワイトアウト

 「アザラシとライバル」のイラストも女の子はあいこ作なので、いちおうイラストと文の両方で参戦のハイブリッドファイターですね。ハイブリッドファイター3。うん、なんにせよ挑戦することは良いことだと思います。みんながワイワイやってるとついつい混じりたくなってしまうそのお祭り気質は良いですよ。どんどん気楽に軽薄にKUSO創作をしていこうな。とはいえ、もう少し時間的な余裕を持って行動するようにしたほうがいいです(辛辣)

 セミロングお姉さんとの妄想かと思ったらコーチか~~~~い!! 思春期特有の先生のことちょっと特別な目でみちゃうアレですよね。キュン!!! キュンキュン!!!! 話としてはまだまだ起の部分なので、いくらでも膨らます余地はあるかなっていうところどまり。

 目がくらむぞ!

 次いきます。

 

 ど 「あくまでも女の子」

 どスケベメスボディのどニキです。なんでしょうね、前のさきちゃんのシリーズでもそうでしたが、なんてことのない話なのに、なんだか読んでしまう不思議な魅力のある文体ではあります。単純に、このままのノリで物量で攻める作戦でも、それはそれでなにかしらの中毒性がありそう。とはいえ、いちおう小説大賞なので、オーソドックスな小説に要求される起承転結みたいなものを意識した物語にもそろそろ一度挑戦してもらいたい感じがあります。あと遅刻なのでゼロ点です。

 あーちゃんかわいい。かんわいいな〜あーちゃん! もうそれだけでいい感じがありますね。楽しいな〜〜! 魂も楽しさもゲットだぜ〜〜!! みたいな。なんですかね。底抜けに陽気な気分になりますね。良かったです。

 突然転がり込んできたあくまの女の子なんですがとにかく描写がかわいくて仕方がない。ほっぺたつんつんさせてほしい! させてほしい!! 内容としてはしょっぱなからバリバリウーマンが膝蹴りをくらわしたりして一筋縄ではいかないぞ~って感じなんだけど結構ゆるゆるに魂に王手かけられちゃったりして、文体とあいまってジェットコースター感のある、それでいて嫌な感じのないさらっとしたお話でした。描写が良いですよね。まあ…いっか~~! ていうのがわりとストンと落ちてくるのがすごい。あとほっぺたつんつんさせてほしいです。

 

 ゴム子 「美しい人」

 ええ……これ本当に40分クオリティなの……?世の中には強い人がいくらでも居るなぁという感じで謙虚にならなければならないと気持ちを新たにしたところ。

 面白かったです……この作品が40分で……!? 女性で美しい容姿であるということが通常ならば武器となるはずが呪いとして作用している女の子の話。母の死により一層強力になったプレッシャーを、叔父さんがゆるゆると解す描写がまた良かったです。歳の差〜〜〜〜!!! おじさん〜〜〜〜!!! 

 面白かったです。世界で一番美しい女である母が、死ぬことで完成させた呪いのような、それに縛られている主人公。引用で恐縮ですが、恩田陸の小説(麦の海に沈む果実)に「綺麗な女の子」に言及した一節がありまして、「僕の持論なんだけど、本当に綺麗な女の子って傷ついてると思うな」この言葉ぴったりだなあと思いました。書かれていないことではありますが、身内の叔父にとっては、美しくなければいけないという彼女の強迫観念は、それこそ姉の自縄自縛と同一のものとして、既に見えていたのかもしれませんね。

 とはいえ遅刻なのでゼロ点です(無慈悲)

 

大賞選考

 

 では続きまして、いよいよ大賞の選出にいきたいと思います。

 クロインは無視するとして、後は前回までと同様に、評議員それぞれに三つ推しの作品を出してもらって、その中から選出していくという形を取りたいと思います。

 まず僕の推し……なんですけど、実はまだ全然悩んでいて……。今回ほんとうに強い作品が多くて、三つを選ぶのすら難しい。

 わかる。

 わかる。クロインは無視するとして、正直、五つくらいでぐるんぐるんしてるのが現状です。

 僕の評点シートだと横並びになっているのが六人居るんですよね。なので、最終的にはほぼその場のフィーリングで選ぶ感じになってしまうんですけど。

 僕の推しは karedoさんの「I see your face before me (あなたの面影)」 と、空色あまねさんの「毒薬とハーブティー」、ユリ子さんの「リコリス」の三つでいきたいと思います。

 わたしこそまさに好みとフィーリングで申し訳ないんですが。

 ヒロマルさんの「雨と巡査とバス停と」、ユリ子さん「リコリス」、宇差岷亭日斗那名さん「終わった世界、花の海」、こちらの三つでお願いします。

 ウワ~~~めっちゃ迷いました。クロインは無視するとして。

 私はkaredoさん 「I see your face before me (あなたの面影)」、ヒロマルさん「雨と巡査とバス停と」、左安倍虎さん「聖紋の花姫」です。

 割れましたね~。

 得票ではkaredoさん、ヒロマルさん、ユリ子さんがそれぞれ二票で一歩リードという感じですが、僕の評点シートだと、他にラブテスターさんの「引きこもりの恋」、なかいでいくみさんの「バタフライパンチ」、こむらさきさんの「不思議な頭のお隣さん」」も並んでいるんですよね。

 karedoさんの「I see your face before me」についてはほんとに迷って、ただわたしがひいおばあちゃんの生き方に引っ張られすぎて選べなかっただけなので票については異論ない感じですね。他迷ったのは「引きこもりの恋」です。

 引きこもりの恋とバタフライパンチに関してはわたしも横並びで推しでした。ケダモノの女王と空を泳ぐ鳥も個人的にはすごく推したかった……。

 ラブテスターさんとこむらさきさんは、やっぱりまだ経験が浅いのか粗削りな部分があって、競ると完成度の部分で一歩差が出てしまう感じがあるのですが、エモさでは全然負けてないので、これからに期待したいですね。

 私の推し三つも、完成度という点でまとまってるものを選んでいる気がします。

 わたしはメディエータ推しだ……。

 メディエータよかったですよね。ぜひ続編も書いて次回モノホン大賞を狙って頂きたい。

 イケメン〜〜〜〜きちんと作中で絵の回収もしていてほんとによい よかった…続きが読みたい……。

 この流れだと、大賞はkaredoさんかヒロマルさんって感じかな。

 ですね~。このふたつめっちゃ迷うな……。

 わかる…迷う……。

 二作品に対して評議員三人だから投票すれば決まるね。

 投票いいと思います。

 心を決めてせーので投票しましょう。いいですか? せーの!

 karedoさん!

 ヒロマルさん!

 ヒロマルさん!

 わー!

 おお~~~~~。

 決まり……ですかね?

 というわけで、第四回本物川小説大賞 第一次トルタ侵攻、大賞はヒロマルさんの「雨と巡査とバス停と」に決定しました! おめでとうございます!!

 ぱちぱち! おめでとうございます!

 おめでとうございます!

 あと金賞一本、銀賞二本なんですけど、これは流れてきには金賞がkaredoさん、銀賞がユリ子さんは決まりですかね?

 異論ないですね。

 異議なしです!

 じゃあ、あと銀賞一本を決める感じなんですけど、得票一票ずつが「毒薬とハーブティー」「聖紋の歌姫」「終わった世界、花の海」の三つ。

 (次点で名前が挙がっているのも含めると、一応「引きこもりの恋」が三票、「バタフライパンチ」が二票ありますけど)←ヒソヒソ

 (収拾つかなくなるので、選考はこの中からやりません?)←ヒソヒソ

 (かしこまり)←ヒソヒソ

 (運要素が強くなってしまうのはそうなんだけど、運要素でいかないとなかなか決めるの難しいから、ぶっちゃけ運ですね)←ヒソヒソ

 (承知した)←ヒソヒソ

 (となるとハーブティーか花の海になるかな)←ヒソヒソ

 (でも完成度って話では聖紋の花姫が一歩抜けてるよね。ただ、その完成度が足かせになって、逆にエモさでひと押し足りない感じもあって)←ヒソヒソ

 (わかります)(わかる)

 (わかる~~)

 (この三つなら毒薬とハーブティーを推したい。リリカルでかわいい(?))

 (毒薬とハーブティーは読後の綺麗サッパリ感ではちょっと弱くて、うん? って気になっちゃうところもあるんだけれど、それを差し引いても小粋でオシャレ)

 (エモさ観点で言うとア~~~~~迷うけど花の海推したい)

 (たしかに毒薬とハーブティーもそんなにエモくはないですね)

 (花の海、ラストがいいよね~~)

 (僕も花の海のラストすごい好き。あの最後がなければわりと凡庸だったと思うんだけど、あのたった三行でこんなに物語の印象って変わるのかっていう驚きがある)

 (そうなんですよね~~ただラストだけと言っちゃうとアレだけど、どこを推すかと言えばラストなので)

 (毒薬とハーブティーは、なんていうか、大人っぽくて、でも本当に大人向けっていうよりは、ティーンが憧れる大人っぽさみたいな……)←虚空を手で探る

 (わかる)(毒薬とハーブティーの世界観の構築の仕方とか望みすぎず〜な感じとかめちゃ美しくて好き)

 (投票しますか。花の海か毒薬かで)

 (しましょうか)

 ンン~~~~!はい!

 せーの!

 毒薬とハーブティー

 毒薬とハーブティー

 終わった世界、花の海……。

 わー!

 わー!! 決まった!! おめでとうございます!!

 パチパチ! おめでとうございます!! 大接戦でした……。

 うーん、これまで以上に大混戦。全体的なレベルの高まりを感じました。

 あと、副賞の件なんですけど、これまでは本物川さんひとりがイラストを描いていたのですが、せっかくの機会なので今回は闇の評議会三名による合作イラストにしようかと思っていまして。

 (闇とは……謎とは……)はい。

 イエーイ! たのしそう。

 雨と巡査とバス停は、メインの登場人物が堀田巡査とサヤカちゃんのふたりなので、どう分担しましょうかね。

 バケツ描きます。

 笑う。

 バケツかぁ……。

 

 (ヒソヒソ話)

 

 じゃあそんな段取りで、だいたい7月上旬をメドに完成させたいと思いますのでよろしくお願いします。

 かしこまりました とりあえずラフができしだいあいさんに投げるね!

 あいこもおそらく大丈夫です。

 それでは闇の評議会、これにて解散です! おつかれさまでした~! 撤収!!

 てっしゅー! おつかれさまです!

 おつかれさまでした~~~!!

 

 

第四回本物川小説大賞 -第一次トルタ侵攻計画- 参加表明用まとめ - Togetterまとめ

第四回本物川小説大賞 -第一次トルタ侵攻計画- 企画要項

  • みなさん、こんにちは。大澤めぐみです。

 

 さて、通算で第四回目となります本物川小説大賞ですが、今回はちょっと趣向を変えて、いくつかレギュレーションを設けて開催したいと思っています。

 

 今回のバトルフィールドは女子中高生向けケータイ小説投稿サイト トルタです。

 

 携帯小説 トルタ|恋愛小説が全て無料!

 

 トップページを見ればすぐにお分かり頂けるかと思いますが、トルタでは投稿した小説にカバーイラストをつけられるのが特徴です。

 投稿時に既存のテンプレート数種類からカバーイラストを選ぶこともできるのですが、まだオープンして間もないこともあってかそんなに多くありませんし、それに、どうせならオンリーワンなオリジナルのカバーイラストをつけたいよね?

 でも、自分で描ける人はまだいいけど描けない人も居るし、かといって、素人KUSO創作のためにわざわざ絵描きさんに新規でイラストを描いてもらうのも気が引けるじゃない?

 あ! じゃあ、既にある既存のオリジナルイラストに合わせて小説を書いて、それを表紙として使わせてもらえれば、わざわざ描いてもらわなくても既存絵の使用許可を貰うだけで済むんじゃね?

 

 思い立ったが吉日、何人かの絵描きさんたちに声をかけてみたところ、快く承諾して頂けました。こんな感じだドン↓↓

f:id:kinky12x08:20160423220157p:plain

みんなありがとー!

 

 

 というわけで!

 ※スーパー重要事項!!

 今回の企画では既に数人の絵描きさんたちに無償でご協力頂いています。つまり、この企画に参加する以上は、すべてにおいてあなた一人の問題ではなく無関係の善意の他人も巻き込むことになるということです。ワイワイ楽しくやりたいので、あんまり細かいことまでヤイヤイ言うつもりはありませんが、その点はよぉく肝に銘じて、以下のルールとレギュレーションを熟読してから参加する人は参加して下さい。特にナチュラル煽り癖のある起爆装置くんはよく熟読するように。

 

ルールその1. 使用する元イラストへの導線を決して切らないこと!

 この企画、うまくいけば協力してくれた絵描きさんたちにとってもよい宣伝の機会となって、絵描きと文書きのあいだでwin-winの良好な関係を築ける可能性もあります。その為には、絶対に使用する元イラストへの導線を切らないようにしてください。早い話が、投稿時や宣伝ツイート時には元イラストのURLや絵描きさんのIDなどを必ず明記して下さいということです。

 

ルールその2.基本的にエログロ禁止!

 そもそのトルタがエログロ禁止ですが、それ以上に、まず他人の描いたイラストをお借りするのですから、元イラストのイメージから甚だ乖離した話を書くのはやめて下さい逆に言うと、元からちょっぴりえっちな絵の場合などは、トルタで許容されそうなぐらいのちょっぴりえっちとかはセーフかと思います。ケースバイケースです。絵描きさんたちは基本的に「好きに使ってくれていいですよ」と快諾して下さっておりますが、何事にも限度というのはあります。なんかあった場合には、こわいこわい謎の概念が完全に独断でゴリゴリしていきますので覚悟するように。

 

ルールその3.その他いかなる事情であろうとも絵描きさんの神経を逆撫でるような真似は禁止!

 具体的にどういった行為が該当するのか、事前に全てを列挙するのは難しいですが、いかなる場合であっても絵描きさんが怒った時点で問答無用で文書きのほうの不手際と見做します。諦めてゴリゴリされて下さい。

 

 つぎ、コンテストのレギュレーションです。

 

  まずは使用可能なオリジナルイラストの一覧です↓

 

p.twipple.jp

 

 聞いて驚け、なんとその数400枚以上!! 

 しかもポップンキュートなのから優しい水彩からケモから変態糞厚塗りまでバリエーションも豊か!

 今回はこれらのイラストをお借りして、以下のルールで小説バトルをします。

 

 その1.既存のオリジナル一枚絵からイメージを拡げて小説を書こう!

 既に自分が持っているアイデアに使えそうなイラストを探しに行く、という姿勢ではなく、イラストからインスピレーションを得て小説を書くように心掛けてみて下さい。この辺はアウトプットから判断することは難しいですが、単純な小説としての面白さだけでなく、元イラストに寄り添うような物語になっているかどうかも評価対象とします

 

 その2.今回は短編勝負!上限は20000文字!

 いちおー、それなりの物語も余裕を持って取り回せるように上限は20000文字に設定しましたが、これは本当に本当の上限です。トルタのUIはケータイ小説投稿サイトであることもあって、あまり長すぎる話を読むのには適していません。10000字前後が実際の勝負域になるかな? 適度にライトで、でもピリリと辛い、山椒のような短編を目指しましょう。

 

 その3.トルタは女子中高生向け!空気を読もう!

 事前にこういう方針で、とあまり縛ってしまうのも自由な発想を阻害するとは思いますので細かいことは言いませんが、空気は読みましょう

 

 その4.イラスト被りはダメ!早いもの勝ち!

 なるべくトルタのトップページをいろんなイラストで埋め尽くしたいので、今回は同一のイラストの使用はNGとします。なので、参加者はこのイラストを使って書きたい! というのが決まった時点でついっぷるフォトのコメント欄にその旨を書き込んで絵を予約して下さい。他の人のコメントが既についているイラストは今回は使用不可ということです。そのかわり、先に押さえた人は精一杯がんばって良いものを書きあげましょう。(ついっぷるフォトが不慣れでどこに書き込めばいいのかよく分からん、とかいう人は気軽に大澤めぐみにリプライを飛ばしてください)

 

  その5.締め切りは5月末日!

 今回は短編しばりかつ短期決戦です。開催期間は約一か月。しかも、まずイラストありきのルールなので全員が真っ白の状態からヨーイドンで書き始める形式。総合的な小説ちからよりも瞬発力と発想力で勝負です。なかなかゲーム性があるのではないでしょうか。

 

 参加の手引き

 

 その1.参加表明をしよう!

 こちらのtogetterまとめのコメント欄にて参加表明をして下さい。

 

togetter.com

 

 その2.イラストを探して予約しよう!

 ついっぷるフォトの使用可能なイラストからお気に入りの一枚を探そう。タグも設定してあるので絵描きごとのソートなどもできるようになっています。うまいこと使ってください。使いたいイラストが決まったら、ついっぷるフォトのほうにその旨コメントを残してください。早いもの勝ちなので、先に他の人のコメントがついている場合には今回は使用不可です。

 

 その3.イラストからイメージを拡げて小説を書こう!

 上限は20,000文字。それ以外は特に縛りはありません。顰蹙を買わない程度に空気を読んで自由な発想で書きましょう。短編勝負なのでアイデアとどんでん返しがキモになると思います。

 

 その4.カバーイラストをつけてトルタに投稿しよう!

 ついっぷるフォトに置いてあるイラストは全てトルタに最適のサイズ(750×422)にトリミングされています。ダウンロードしてそのままアップロードし直すだけでオーケイ。

 

 その5.絵描きさんの宣伝にもなるよう導線を確保しよう!

 今回の企画をうまいこと相互にメリットがあるように回すことができれば、今後とも継続してなにかいいことがあるかもしれません。使わせて頂いたイラストの宣伝にもなるように色々と心がけましょう。トルタのほうにはあらすじ欄ぐらいにしか書き込めるところがないので、ひとまずそこに絵描きさんの名前を明記してもらいたいのですが、ツイッター上で宣伝ツイートする時などにもなるべく絵描きさんのツイッターアカウントやピクシブアカウントなどへの誘導をするようにして下さい。

 

 その6.きゅんきゅんしよう!

 カクヨムの☆は3つまでしかありませんが、トルタのきゅんは無限です。画面をタップしまくりましょう。

 

 以上かな?

 

 とりあえずこんな感じです。なにぶん、初回の企画なので不備もあることでしょう。おいおい追記するかもしれません。

 

 他のコミュニティも巻き込むことなので細々と色々と言いましたが、常識的に考えてちゃんとお行儀よくしていればだいたいのことは大丈夫だと思います。なんとか問題なく盛り上がって成功させたいなあ。

 

 あと、万が一この企画に興味を持って下さったオリジナル一次創作勢の絵描きさんがいらっしゃいましたら、お気軽に大澤めぐみまでお知らせくださいませ!!!!

 

 ↓大澤めぐみのツイッターアカウントです↓

 

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今回、協力して頂いた絵描きさんの一覧です

 

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第三回 本物川小説大賞 カクヨム入植大会 大賞はくすり。さんの「コンチェルト」に決定!

 

 新小説投稿サイト カクヨムのオープンにあわせて、平成28年3月ころから4月15日までの約1か月半にわたって開催されました第三回本物川小説大賞カクヨム植大会は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

 大賞 くすり。「コンチェルト

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くすり。 (@ksrsrsr) | Twitter

 

 受賞者のコメント

 名誉ある本物川大賞をいただくことができて大変嬉しいです!これからも大澤めぐみをキュン師と仰ぎつつ、グレートかわいい小説を書いていきたいと思います!本当にありがとうございました!!

 

 大賞を受賞したくすり。さんには、副賞として本物川の描いたイラストが授与されます。好きに使ってもらっていいんで勝手に出版して下さい。

 

 金賞 左安倍虎 「易水悲歌

 

 銀賞 ロッキン神経痛 「限界集落 オブ・ザ・デッド

 銀賞 起爆装置 「恋人同士な僕たち

 

 というわけで春の素人黒歴史小説甲子園 第三回本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのはくすり。さんの「コンチェルト」でした。おめでとうございます!

 

 以下、闇の評議会による講評と大賞の選考過程のログです。

 

 全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も第三回となりました。闇の評議会、議長は前回に引き続き、わたくし謎の概念が担当させていただきます。また、評議員は前回から引き続き謎のねこさんと、もう一名は新たに謎の相槌さんを迎えまして、合計三名の評議員の合議により大賞を決定していこうと思います。

 謎の相槌です。
 謎のねこです。

 それぞれ得意とするジャンルや好みの異なる三名による合議ですから、それなりに中立性、公平性は確保できるのではないかと思います。なにしろ元手ゼロの素人KUSO創作大賞ですから、現実的に、これ以上の公平性の担保は実現が難しいところがありますので、まあ色々あるかもしれませんがひとつご了承いただきたいということで。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

  さて、それではひとまずエントリー作品を概ね投稿された時系列順に一通り紹介していこうと思います。


 まずは不二式さんの狼少女と羊のプリンス。飢えた少女たちの花園、超能力者女学園へ無理矢理転入させられた石油王の女装美少年を中心としたドタバタラブコメディてきな掌編です。5000字未満というコンパクトなボリュームですが、テンプレ展開や桃色や青色の髪などのアニメ的なインスタント描き分けを上手に使って、少ない文字数の中でそれなりに各キャラを描き分けて起承転結をつけているのはなかなかテクニカルですね。ひとむかし前はよく見られた16p読み切り漫画みたいな感じ。

 気軽に読める作品、と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、気軽に読めるようリアリティ・ラインを巧みに設定・提示するというのは、これは意外となかなかできることではないのではなかろうかと思いました。今作『狼少女と羊のプリンス』では、冒頭でえがかれる主要人物のさまざまなヘアカラーに代表される容姿ですとか中盤以降で明かされる転校生の正体などにより、よい意味でマンガ的な世界が提示されて、書かれたことをありのまま楽しむ態度を読み手に取らせるような導入・展開がなされていて、そこがすごい。

 超能力があることで、話がサクサク進みます。しかも石油王だから無条件で女の子にモテる。実に話が早い。こまけぇこたぁいいんだよの精神です。描写も冗長過ぎず適切で、読みやすく、さらりと最後まで読めてしまいます。ただ、ラストはちょっとありきたり過ぎるのでは? オチにもうひとひねりあれば、ワンランク上が狙える作品だと思います。


 つぎは、まくるめさんのジャガファン ジャガイモ以外全部全滅。昨今の異世界転生ブームに一石を投じる意欲作。なのかな? ただ単に好きで書いてるだけな気もします。どこかで見たような聞いたようなテンプレ場面が次々と出てきますが、徹底的に主人公に都合良くはいかず斜め上の展開になり、でも一周回って結局ラッキースケベ! みたいな感じ。ただ昨今の異世界転生モノに不満を垂れるのではなく、それを実際に異世界転生モノという枠組みの中でやってしまって作品でツッコミを入れていく、そのうえ面白いのだからかっこいいですね。文句があるなら自分で書いたほうが話が早いの好例。まだ序盤でジャガイモの謎も明らかになっていないので、これからの展開に期待したいところ。

 永らく差別されてきた種族柄なにかにつけ「差別か?」と詰めるコボルトの召喚士ですとか、学者さんのウッドエルフが解剖時に勢いよく出る血をたぶん瀟洒な公園にある噴水とたとえたりするところですとか、各人各種族の価値観がなかなか面白いなあと思いました。着眼点に感心することしきりで、どつきあい漫才のなかで種族間の寿命の違いにより旧支配種族と元奴隷種族とであることなどが会話の中で出てきたりと、こうしたコミュニティや種族間のギャップがクローズアップされたりするのでしょうか。続きが気になりますね。

 異世界転生ものにソフトエロを加えたコメディ。ひたすらくだらない与太話みたいなものが続いていくのですが、そこがこの作者の強みなのでしょう、一つひとつの話が笑えるものになっており、するすると読み進めていくことができます。しかしながら、展開の遅さはかなり気になるところ。8万文字でまだまだ序盤も序盤、話の全体像はまるで見えていません。Webの異世界転生ものはこういうものなのかもしれませんが、個人的にはもっと展開がほしいと感じました。


 第一回本物川小説大賞、大賞受賞者のDRたぬき遺伝子ファッショナブル。遺伝子操作が誰でも安価で手軽にできて当たり前になった未来の話。受賞経験者だけあって、さすがに安定した文章力と描写力、なにより連載は現在二章の後半で総文字数が12万字超えと、素人KUSO創作に一番大事な安定して書き続けられる体力が素晴らしい。次は見せ方というか、話の構成力を身につけていってもらいたいところ。本作も「遺伝子操作がカジュアルにファッション感覚になった未来のお話ですよ」というのを冒頭の地の文でまず説明してしまっているので、しょっぱなから掴んでいく求心力などの面ではちょっと弱いかなという気がします。たとえばですが、まず何の説明もなしに一章最後の戦闘シーンから始まり、そこから冒頭に戻って世界設定説明、みたいな感じで多少構成をいじるだけでもかなり見え方が変わってくるのではないかなと思います。

 一話一話、アクションだったり初々しい青春模様だったりが盛り込まれてボリュームがあります。町の何気ない一風景を拾い上げて、それがしっかり世界観をひろげたりドラマを前進させたりする小道具になっているところは、『感傷的な季節の日々』での経験が活きているように思われますし、獣の特性や職種を活かしたアクションは、色々なメカや武器の登場する『True/False』のバリエーション豊かな各バトルでも見られた良さです。といえども、一章に限って読むと、各話をまたいで貫くような縦糸が少しよわいのかなというような思いがあります。各バトルはバリエーションがあれど独立しているきらいがあるように思えました。

 かなり長期にわたって連載されている、たぬきくんの作品。それだけに、書かれたのが一年近くさかのぼる第一章は、かなり粗削りな印象が強いようです。一人称で主体となる人物ががめまぐるしく入れ替わる書き方は、夢枕獏が『餓狼伝』で使っている手法で、心理戦でもある格闘シーンを多角的に描くことを可能にするものですが、相当使い方を限定しないと奇妙な印象が出てしまいがち。視点を入れ替える必要性が強くないところでは使わないようにしたほうが、効果がありそうです。

 

 つぎ、ポンチャックマスター後藤さんのばあれすく~声優の生まれ方~ポンチャック文と自ら称する独特のリズムと力強さと、なによりも速力を売りにしているポンマスさんですが、本作はわりと真正面からのちょっとイケてない青春小説のフォーマットを踏襲していて、従来のポンマスさんの芸風に慣れ親しんだ人には逆に意外な感じがあるのではないかと思います。おそらく、自らの経験に根差しているからでしょう。描写にリアルな質感があって、イケてなさやダメっぷりを客観視しながらも、嫌いにはなれない。そんな主人公の愛着や愛情みたいなものにも素直に共感ができます。webで爆発的に大人気! となるタイプではありませんが、いぶし銀の名作。

 傍目のパッケージに反して、扱われる中身は結構に重たく、先行き見えない専門学校生の駄サイクルについて。なかなか大変な話で、とても面白く読めました。ショービジネスのプロ志望者によるお話ということで、自分の表出する場面が要所要所にあり、それが学年初めの自己紹介から印象的なかたちで描かれています。自己紹介シーンは単体でも面白いですが、それが内輪から外へグレードアップするショーをつうじて形を変えつつ登場し、ラストに至るまで一本幹のあるしっかりしたストーリーが構築されているなあと思いました。様々いる個性豊なキャラクタの個性はそのままに、一つの作品を完成させようと協力して歯車が噛み合って大団円へと進みゆく流れはとても感動的です。

 軽快な文章で各所に読者を楽しませる工夫が凝らされている作品です。随所に、いやいやありえないでしょう、でももしかしたらこれって実体験? と思わせるエピソードが盛り込まれています。ただ、特に序盤のストーリー展開が起伏に乏しく、「声優専門学校の生活ってどんなものだろう?」という興味だけで読者の興味を引っ張り続けるのは、いささか厳しいように思います。リアルさと奇妙さの中間で、破天荒な作者の発想が殺されてしまっているように感じました。

 

 つぎもポンマスさん、インタビューインテグラ。大丈夫? コーヒーでも飲む? これぞまさにポンチャック文! これはね、すごいです。とある事件の関係者に順番にインタビューしてまわる、飽くまでそのインタビュー記録である、という体裁なので、作品世界内の彼らにとっては「あの事件」は既知のことであり、読者に対してそれをわざわざ説明することはありません。作品世界内の彼らにとっては誰だって知っている「あの事件」について、読者はインタビューを読み進めることでうかがい知って行くという趣向。しかし、なによりもすごいのは「あちら側」の人たちの台詞まわしの息づかいまで聞こえてきそうなあまりのリアリティでしょう。二人目まで読み進めればガッチリ引き込まれ、三人目で完全にノックアウトされてしまい、ただ文字を読んでいるだけなのにこちらまで変な動悸がしてくるくらいです。惜しむらくは、ミステリーと銘打っているわりには読者がスッキリと「ああそういうことだったのか」と納得できる綺麗な解決編が用意されているわけではないので、カテゴリエラーかな? というところ。サスペンスかな?

 老若男女さまざまな語りが面白かったです。当事者として踏み込むか、踏み込まず外野にいるか……そういうアクションは『ばあれすく』でも特徴的なかたちで出てましたが、こちらは踏み込んだ先が底なしの泥沼なので、何ともひどい事態になっていきます。

 殺人者の周辺の人間に同級生がインタビューして回るという構想は、それ自体刺激的でおもしろいものです。同時に、非常にハードルの高いテーマ設定でもあります。殺人という禁忌に対して、その是非を正面から問いに行くことになるわけですから、作者の倫理観はもちろん、その哲学や、どこまで深く物事を考えられるかといった根本的なことが、如実に表れてしまいます。そうした意味で、この作品は序盤、読者の期待に十二分に答えてくれます。特に3人目の不良は非常によく描けており、真に迫るものがありました。ただ、この一話が際立ってよく描けていたのに対し、ここから先は登場人物がかなり類型化されてきて、現実味が失われているように思えました。森の母親との関係は、プロットとしては成立していると思いますが、この作品の序盤のリアリティを考えると、荒唐無稽な印象が否めません。必ずしも主人公を殺人の因果と絡める必要はなかったようにも思います。作者の力は本物だと思いますので、あまり表面的なエンタメ性を追わず、大きなテーマにガチンコで取り組めば、さらに一回りも二回りもパワーのある作品が書けるように思います。

 


 Bobomind愛の傘下。えっと、読みましたけど、小説大賞なので小説というフォーマットを踏襲してもらいたいと思います。自分語りではなく物語を。

 ツイッターでたまにお見かけするbobomindさんのイメージは、頭部をアルミホイルで守って日々陰謀と戦っている御方で、今作はその劇場版という感があります。140字ではどうしても断片的にならざるをえなかったところが、文字数制限のない長文となったことで緩和されたところがあり、なるほどなあという感じでした。自身について、客観視をまじえた理路だった確認がなされ、時折あるあると頷く素描や、時折なるほどと思う考察や比喩が覗きます。一方で、二三段踏み飛ばしたような「?」となるところも幾らかありますが、書店にならぶものでない文章ならこの程度の飛ばし方はあるだろうというようなものです。

 提示される知識やアイデアの断片は、それぞれがおもしろくなりそうな予感を感じさせるのですが、まだ本編が始まらないような印象です。

 

 しふぉん美少年掌編小説集。蒐集癖は前回の本物川小説大賞で銀賞を受賞した短編。同様のコンセプトを踏襲した短編を集めた短編集というパッケージングで、敗北、パズルのピース、暴君、の三つのエピソードが追加されています。相変わらずの幻想的で耽美な圧倒的筆力。すべてに共通しているのは美しさと力強さを兼ね備えていながらも、常に死や破滅といった雰囲気を纏っているという部分。危ういバランスの上に奇跡的に成立しているものこそ美しさなのだ、みたいな拘りが感じられますね。自分の信じる美しさというものを様々な角度から描いてみようという意気込みが見てとれます。

 お偉い男性が蠱惑的な少年に掌で転がされる話を、キャラや場所や時代を変えてつづっていく連作集です。新作のうち二作は第一作とおなじく現代劇なのにまったく別物に仕上がっており、面白く読めました。『敗北』は、独特の競技の勝敗などの大きなところに変化があるハッキリとした転落劇で、これが一番おもしろく読めました。『パズルのピース』ではそうした大きなところの変化がない中で、小道具によりうまくコントラストを作っています。反芻すると味わいぶかくなるタイプの作品。『暴君』ではそれまでの3作と違い少年側の視点から描かれていて、ハイソサエティな気品がある前3作にたいして『暴君』の彼の"王国"は出会い系SNSをつうじて知り合った人とそこらのラブホテルで作られるもの。これまた幅が出てきたなあと面白く読みました。

 この作者の美少年小説はじつに実用的にできていて、特に「暴君」の少年は魅力的。少年が犯される側でありながら高圧的で、快感を貪欲に求めるタイプのストーリーの場合、最終的に少年が犯す側の男に屈服してしまうことが多いですが、この作者の場合はむしろ犯す側の男を支配してしまうパターンとなっており、好みの問題もありますが、こだわりが感じられ非常に好印象。敗北は、シリーズの中ではややコメディ色の強い作品です。古典調の文体も意外と相性がよく、うまく成立している感じ。ただ、コメディ色の影響もあり、第一作に感じられたような迫力には及ばないようです。今回は短編集での参戦で、第一作ほどの迫力には及ばないものの、安定して高い質を維持しています。次回はぜひ、一作入魂の大作を読みたいと思います。


 左安倍虎弥勒的な彼女。第一回大賞ではよく見られたなつかしの本物川小説フォーマット。川子はヴォル子さん世界の脇役なので本物川小説でもないけれど、なんというか、コメントに困りますね。ツッコミ不在の全員ボケで話が進んでいってしまうので、ポカーン感がちょっとある。ツッコミ役をひとり用意しておくと親切かもしれません。

 題名にもなってる仏教ネタで導入から中盤から幕引きまでしっかり固めて、これはエレガントだったと思います。ヒロインを仏像趣味と設定してノートラップでダイレクトシュート。もともとが誕生日プレゼント小説という私的なものなので、よそから見ると解説が必要だろう謎の教団やらが短編としてはなかなか困りものです。再投稿時にカットして独り立ちさせてしまってもよかったかもしれません。

  懐かしいにおいのする本物川小説です。第一回は本当にこういうのがたくさんあったのです。学校がカルト教団化しているというシチュエーションはなかなかおもしろそうですが、そうした意味では本作は未完成も未完成。掌編としてももう一歩踏み込みがほしいところです。

 

 どこもくん、ホットチョコレート。デデーン(効果音) 死亡確認! まあこら垢BANもやむなしやろなぁといったところ。1BANされてからが本番です。頑張りましょう。

 ちょっとカクヨムの垢BANは闇すぎるんでなんとも言えないアレですが、どこもくんはこれで垢BANのラインを見切ることにより、のちのぴゅっぴゅさんを生み出したと考えると、いわば伝承法でソウルスティールの見切りを受け継がせたレオンみたいなもので、本作の意義は大きいといえますね。

 愛がアップ!(クルクルピコーン!)

 第一回から参加の歴戦のかたですから、これでへこたれることなくBANBAN新作を投稿して下さることでしょう。

 はい、次いきます。


 既読東京ニャクザ興亡禄。猫たちのヤクザ社会を舞台とした極道もの。中身は完全にハードな骨太任侠ストラテジーなのですが、なにしろ猫なのでところどころでクスリと笑わされてしまって、普通だったらシリアス一辺倒になりがちなストーリーを上手にライトに仕上げています。特に一章の終わりの「にゃーん」は秀逸ですね。猫だということをすっかり忘れてストーリーに入れ込みきっているところで冷や水を浴びせかけるようにやっぱり猫。たぶん、意図的なものでしょう。場面描写というのがほとんどなくて、全てが読者の想像力に委ねられているので、読者によって猫たちはリアル猫だったり、じゃりん子チエみたいな二足歩行の猫だったり、犬のホームズみたいにほぼ人型で服まで着ていたりと、描画に幅があるのではないでしょうか。童話などでよくある「北風が太陽に言いました」みたいなやつ。いや、それどういう状況だよ、みたいなの。ついつい自分の想定する場面を説明してしまいがちですが、敢えて説明しない。そのため、結果的にストーリーが物凄いスピードで展開していくことになり、この文字数にしてはかなりの規模の物語を見事に取りまわしています。

 とにかく端的な言葉と物語でぐんぐん展開していき、第一部だけでもとても巨大な時空間を形成していると思います。すでに描いた場面でも別角度から照射し直されたりして物語は複線的。情報提示がまた秀逸で、イタリア系から中国系まで幅広いニャクザ社会を描いて「ああ猫の話なんだな」と読者にフレーミングさせ、バトルについても腕に覚えある猫らのタイマンに始まって中国系の一幕で「相性や奇襲はあれども基本的にはどちらが身体的に優れているか、力比べだな」とフレーミングさせたところで、突如として力比べでどうこうなるものでない事態が引き起こされたりして、巧みなストーリーテリングに転がされっぱなしとなります。猫社会に広がるマタタビ汚染というアイデアを、効用はどんなものか・どういった利用があるか・扱うキャラの流れから何から何までしっかり考えたうえで、バトルや縄張り争いやドラマなど物語の中に様々なかたちで盛り込んでいって、更にどれをどの段階で表にするかといった所まで考えたうえで制御している感があり、なんとも凄い。バトルはキャラの一長一短の特徴やその場の地形効果を活かしたもので単体で面白く、他とあわせて見ると更により凄くなり、その戦いかたにはキャラクタの性格・バックグラウンドなどが乗って来ます。

 まぐろ。

 はい。


 ヒロマル 妖怪彼女~べっぴん毛玉セミロング~ 人と妖怪の恋愛もの。細かいほんわかエピソードの積み重ねなので、エピソード集みたいな体裁であまり小説という感じではありません。後半のひとつ大きなエピソードに関しては通常の小説っぽいかな? webだとこれくらいのパッケージのほうが逆にいい、みたいなところはあるかもしれませんね。小粒ながら、じんわりと温かい気持ちになれる良作。

 かわいらしい連作掌編集。一つ一つオチがついて読みやすく、人間と妖怪の生きている歳月の違いなど様々なトピックが盛り込まれて面白かったです。今作はもともとツイッターに投稿されていたものということもあって端的。ほんわかとした会話劇が主体のところで、終盤のこわい展開では無言で闇が広がっていくさまが描かれて、そうしたコントラストも素敵ですね。

 日記のように短い文章で日常のシーンを切り取りつつ、うまく物語を構成しています。とても読みやすく、最低限の要素で無駄なく構成されており、作者の高い技量が読み取れます。惜しむらくは、あまりにもきれいにまとまっており、意外性が薄いこと。もうひとつ大展開があれば、上位に食い込める作品です。


 大澤めぐみ ひとくいマンイーターカクヨムの大賞のほうに出したおにぎりスタッバーが全然ランキングに当たりも掠りもしないので慌てて書いたおにスタの追加エピソード。書きあがっていない状態から、毎日書いたはしからアップロードしていく連載というのは生まれて初めてだったのですが、なんとか書き上げられて良かった。変な脳汁が出ますね。

 面白かったですがいかんせん追加コンテンツです。個人的には最低でも『おにぎりスタッバー』シリーズのおにぎりスタッバーは読んでおかないと、面白味が減じるところがあると思います。また、この0話で明かされたバックグラウンドを読むことで、本編1~5話の行動がより味わい深くなったりします。それはそれとして、『ひとくいマンイーター』単体でも面白く、事件記事調の堅い文体が登場したりと工夫があります。また、作者がハマっている戦車ゲームがしっかり物語にからんで重要なピースとなったりする辺り、大澤さんのMOTTAINAI精神が表れていて感心します。すごい。

 おにスタシリーズは、一作品の内でさまざまなジャンルの要素が詰め込まれた作品。処女作には作家のすべてが詰まっていると言いますが、この作品も作者にとってのそうした作品になるのではないでしょうか。これからの活躍に期待。


 karedo 哲ちゃん死ね。前回、金賞受賞のkaredoさんの恋愛掌編。ああ、こういうのも書けるんだっていう感じで、作風の幅に驚きます。甘くもないしほろ苦くもないし、なんとも言えないこの気持ち。やはり一番近いのは「死ね」でしょうね。哲ちゃん死ね。

 カタコトになってしまう異常事態に始まって、カタコトがふつうのさかしまな世界へ辿りつく、何気ない単語が伏線になっていくところが巧いですね。はじめ、階段機知やイメトレなどを多分にする主人公による一人称語りのなかで、外部の事実描写や内心の感想もそこから飛躍した回想や空想も一緒くたに出来る地の文の性質をいかしたうまいネタが仕込まれているなあと思いました

 この作者には珍しい恋愛小説。女の子の微妙な距離感を、ちょっと変な日常風景から、軽めの文体で描いています。コンパクトなサイズで複雑な心理を描いているところは見事。哲ちゃんの魅力をもう少し別の角度から描けると、説得力が増すように思いました。


 kurosawa516 ~カワノムコウガワ~ んーと、なんでしょう。いちおう一話が完結している体裁になっているのですが、全然プロローグというところで、これで物語として出してこられてもよく分からない。自分の取り回しきれる物語の規模感の把握が必要な感じがします。まずはもう少し規模の小さい物語を起承転結つけて完結まで持っていく訓練を積むべきでしょう。

 第一回開催時のかおりがある懐かしい作品ですね。お話としては「妖しい少女が実は……」というヒネリもあって、なかなか面白かったです。河から戻ってきたあとのホラー描写はうすら寒くて素敵です。不在を伝える機械アナウンスの無機質さ。ただ、その前のアクションを交えたシーンについては、せっかく出してきた小道具がどこかに行ってしまうのが気になりました。闇の色濃いところと明示がありそれが物語にも絡んでくる川・川向こうで、懐中電灯を持ってきた大山君が大変なことになってしまうわけですが、電灯については最初に触れたきり以後、記述がなくなります。光が消えることは盛り込んで闇に呑まれた状態をつたえると、ピンチに閃光と爆音を伴ってあらわれる金の剣の金髪の少女の輝かしさがより際立つのではなかろうかと思いました。

 突如現れる化け物、それを撃退する謎の女性、死んでしまったはずの親友が翌朝何事もなかったように・と、ホラーとファンタジーの間で揺れながら今後の展開に期待をもたせる流れなのですが、残念なことにここで終わっています。うまくラストを描ければ、大化けする可能性のある作品です。


 想詩拓 嫁が決して捨てないたった一つのもの。こなれた感じのある恋愛掌編です。文は書き慣れているのでしょう、文章力は文句なし。3000字というコンパクトさにしてはちゃんとオチますし話の大枠も綺麗で良いのですが、見せ方にもうちょっと工夫はできるかな、という気もします。あと、これは完全に個人的な好みの問題になってしまうのですが、恋愛掌編は完全に全てに説明をつけてしまうよりも、すこし余韻を残すような終わり方のほうが好きで、ちょっと後半は説明過多かな? という印象を受けました。主人公が嫁をどれだけ愛おしく想っているか、という部分を、主人公の一人称語りでそのまま「可愛いなあ~」と言わせてしまうのは僕てきには減点。そこを別の方法で表現してこその恋愛掌編ですヨ。

 しっかりオチがついたお話ですね。成人男性による落ち着いた堅めの文体から、歌声のところで顔文字がでてきて、中間字幕みたいな使い方かな、ギャップが面白いと思っていると、地の文でも顔文字や矢印が出てきて「なるほどwebで文章を書いてるていの一人称語りなんだな」と、「発表媒体から目を背けないかただな」と思いました。

 2chのスレを読んでいるような気分にさせる文章です。文章が下手というのではなく、むしろ2ch的な読みやすさをしっかり保持しながら、整った文章で書かれています。作者の技量の高さがうかがわれる作品ですが、2ch的な文章を小説で読むことにどんな価値があるかというと、なかなか難しいところ……。技術点は高得点ですが、もう一歩なにか、こうした「実話風」で書かれることの必然性がほしいところです。驚きのラストが仕組めそうな感じがしつつ、普通に終わってしまった印象です。

 

 らすね クラスの可愛くてオタクの事なんて嫌いそうなあの子を催眠メス奴隷人形にしたい君のために。未完ですね。

 「私――任意のフルネーム」といった語り口を排しているのが凄いですね。催眠にかかって別人になりきり、友人を忘れてしまった被催眠者に自己紹介するていで語り手のフルネームを出したりする……物語の流れにそった情報提示がうまいです。

 残念ながらプロローグで終わっています。催眠術が実際に使える(?)先輩に催眠術を教わってクラスの女の子を・というテーマはうまくまとめられればおもしろいかもしれません。文章自体はやや奇妙な流れがあるものの読みやすく、完結作品を期待したいところです。


 yono 世界の終わりの図書。ちょっとどうなんでしょうね。小説なんでしょうか。詩とかそういうのに近いものと思います。

 雰囲気がよいです。記事のていで描かれた2話も、インタビューに答えるキャラの語尾が「にゃ」だったりと、柔らかですね。こうした良い意味でのとぼけた感じは、なかなか出せるものではなさそうに思います。現時点でも少女と郵便屋さんやその友人の関係などなど、余白のだいぶ残された断片的な構成ですが、あれやこれやの余白が埋められていくにせよ、埋めるつもりがないにせよ、何にしても量があってなんぼだと思うので、どんどん書き伸ばしていっていただきたいなと思います。

 不思議な図書館に住む猫と少女。美しく、想像が膨らむモチーフではありますが、いかんせんまだ何もお話が始まっていません。ぜひ続きを書き続けてください。


 ここの 性欲が強い。美少女→女生徒→男性教師 の三角関係、に一切関係しない女の子が主人公の話。とにかく馬力と速力があります。物語の中心を張れそうな三角関係に主人公はまったく関与せずに、単に巻き込まれてひとりで色々と考えて(客観的には)静かにストレスを溜めるだけ、というプロットの骨子はなかなか個性的で面白いのですが、惜しいのは、自分の気持ちよりも人間関係における義理などのほうを優先して物事を考えてしまいがちな主人公が、自分の気持ちというのを発見して回復していく(のであろう)後半の過程が、息切れして描ききれていないところですね。速力を維持しつつ、心の機微を丁寧に拾い上げることができると良いと思います。

 つらつら並べられた文章を読んでるだけで面白いです。「シルバニアファミリーみたいだな」とか比喩がいちいちすごい。同校のひとびとの三角関係の仲介人板挟み状態も変化があって、ボコボコにできる不細工な彼もいて、同校のひとびとの内心がめくられていって、彼以外のひとにも暴力をふるうようになり、主人公のライフスタイルも崩れていくわけですが、この追い詰められ方がすてきです。はじめは観覧車という遠いどこかの密室で行われていたのが、だんだんと人の目もある生活圏で行なわれていき、それに伴い内内で処理できていたものが外部で問題として対処せざるを得なくなるダイナミズムが凄い。

 もともと非常に高い文章力をもった作者の新境地。リアルな女子高生の日常に、パワーの強い言葉をゴリッと紛れ込ませてくる手法で、何気ない日常を読んでいるはずなのになぜかスリリングで、引っ張られるように読み進めてしまいます。ただ改行はもっと使っても良かったのでは? 読点なしはともかく、改行なしはかえってスピードを損ねてしまっている印象。文体には改良の余地がありそうです。ラストが秀逸で、こんなわずかな描写だけで読後感をここまでさわやかにできるのかと驚かされます。


 不二式 誘拐犯物語 誘拐犯が誘拐した女の子を成り行きで引き取ることになる話。関係性としては面白いのですが、人物描写がまだステロタイプの範囲内に収まってしまっている感じ。もっと一段掘り下げてキャラクターを描いていけるとグッとよくなると思います。

 犯罪者のうえ変態らしい誘拐犯と、誘拐された虐待児童の交流です。あざだらけで擦り傷もある体をスポンジで洗われるとき児童は痛がるそぶりも見せずおとなしくしているようなので、もう一工夫欲しかったです。でなければあまり変態性は出さなくてよかったと思います。それはそれとして、これが「警察」にて活用されるのは面白いところだと思います。「勇気」で見せた管理職ひいては会社にたいする契約社員(主人公)の内なる怒りが、「対峙」の富豪の父と主人公でぶつけられたりして、前述のアザの再活用といい、続き物らしい面白味があります。そうしたところから「いずれ何かしら解決を見るのでは」という思いがありますが、現時点ではエゴイスティックな人物造形が気になります。

 読みやすい文章で、物語も適度なスピードで展開していくため、すっきりと最後まで読めました。ただ、プロットには瑕が多く、例えば、なぜ虐待をネタに金持ちを強請らないのか、5才であれば小学校への入学を考えなければならず、警察の対応があまりに粗雑であるなど、疑問点が多く存在しています。プロット段階の推敲を入念に行うことで、さらにレベルの高い作品が書けると思います。


 いかろす 魔法少女マキナ☆サクヤ 未完ですね。ノッケからインフレマックスの速度感はよいので、是非完結を目指して書き続けてみてください。

 定型に、劇中独自設定をのせることで、主人公のメカに強い人物像を描いていき、そしてぶつかったところで定型から外れるところが気持ちよいですね。しかもこの外し方が、この物語にとっては「この設定ならそりゃそうなるよね」と納得いく自然なものでうまい。百合タグがあるので、今後は主人公とヒロインの交流が描かれていくこととなるのでしょう。いかろすさんの他作『フラジールキャット』も百合でしたが、こちらでは既に付き合ってから結構な時間や経験を重ねた後の二人の様子だったので、ゼロないしマイナスの状態から関係を構築していくだろう今作は新たな挑戦ですね。期待のふくらむ幕引きで、つづきが気になります。

 魔法と科学の融合・というテーマなのか? まだ物語が始まっておらず、コンセプトも見えません。やり方次第でおもしろくなりそうではありますが……。


 左安倍虎 幼馴染はファンタジー警察。いわゆるジャガイモ警察な彼女と創作が趣味の男の子の不定期連作恋愛短編。ホワイトデー式ストーリーテリングが今回の新規エピソード。現実の人間関係の問題に創作で応えていく、という趣向は面白味がありますし、その枠組みのために物語を無矛盾に用意する手腕も大したものなのですが、やはり枠組みのために用意したストーリーという感じが否めないところも。あと、構造の要請でどうしてもある程度の分量の作中作が含まれることになってしまうので、やや冗長なきらいがあります。作中作そのものもそれはそれで楽しめるような工夫があるといいかもしれません。

 二話三話とどんどんヒネリが加わって、右肩上がりに面白くなっていったと思います。恋敵キャラが、主人公や彼女の創作内外の態度について的確なツッコミを入れていってとても広がりが出ました。締めなど、読者と作者とが双方向にかかわりが持てるSNSの投稿サイトらしい要素が活かされていて、そこも素敵ですね。

 じゃがいも警察というのは中世にじゃがいもが出てきたことを怒っているわけではなく、そもそもアイルランドで麦に代わりじゃがいもが主要な農作物になったのは徴税制度の問題で……とつい突っ込みたくなるのをがまんしながら読みました。主人公はWeb小説投稿サイトの人気作家で、リアルの人間関係がその作品の展開に反映されながら、またその作品の展開がリアルの人間関係に影響を及ぼす、という構図は非常におもしろいと思います。ただ、これをうまくかみ合わせるのは非常に綿密なプロットが必要と思われ、現段階ではまだ歯車がかっちりとかみ合っていないように思われます。今後の展開に期待したい作品です。

 

 ロッキン神経痛限界集落 オブ・ザ・デッド。今回のダークホース筆頭です。自己申告によるとこれが処女作らしいのですが、基礎的な文章力、読者を引き込んでいく設定の巧さと構成力、そしてある程度の規模の物語を短期間に書き上げることのできる体力と、全てが一定の水準以上です。オブザデッドというタイトルの時点で読者が「ああ、なるほどゾンビものなのね」という前提で読み進めてしまうところを逆手にとって、ところどころで「あれ?」っと思わせながら、独特な世界設定に引き込んでいくところが非常にテクニカル。リアルタイム連載だったので期日までに完結できるかどうかが勝負の分かれ目でしたが、第一部を見事に綺麗に完結させて、文句なしに大賞候補の一角でしょう。

 冒頭のいぶし銀な恐山さんの仕事ぶりはもちろんのこと、「あぽかりぷすじゃ……」など、ぐっと引き込む話術がよいです。村らしい諸要素の活かしかたも素敵でしたし、劇中独自設定である並外れた膂力をもつ"送り人"の転がし方もまた素敵です。いぶし銀な恐山さんとその家族がまた良いで、都会で失敗した孫が村でほだされ、そこで若さや能力ゆえに危険な所へ飛び込んでしまうなどの村や"送り人"の良い面が裏目に出てしまったりする展開も多々あって容赦がありません。視点人物が複数いて一話一話交代するようにそれぞれの人生を語るような群像劇・ドキュメンタリ的な体裁と、物語に集中させるハードな展開と語り口のおかげで、読んでる評者は階段機知的な雑念をほとんど抱きませんでした。ひと段落ついて離れ離れになった人々が再会したり何だりして、そこで継承と成長の物語として立ち現れてくるラストが、なんとも切ないですね。

 現代日本、人の少ない中山間地域の山村。ゾンビと戦うことを生業とする家系。ありそうで無かったシチュエーションが、緊迫感に満ちた筆致で描かれています。山村が舞台と言っても、閉鎖的な村社会のいやらしさはなく、人と人のつながりの中で生きる人々の強さが際立って描かれており、パニックホラーを基本としながらも、感動的なシーンが随所に挿入され、ドラマとしても楽しめる構成。処女作ということで、用語や表現に粗さが目立つものの、それを補って余りあるパワーをもった作品です。大賞候補の一角。

 

 ヒロマル ブンボーグ009 ~決戦!ブラックボード要塞!~ サイボーグと文房具で韻を踏んだ特撮系小説。奇をてらったところのない、王道のストーリー展開。物語の起点をラストバトル直前にして、それ以前のストーリーは回想や台詞の中で軽く触れられるだけになっているので、webに適したスピード感も出せています。ただ、ブンボーグネタがただの言葉遊びやダジャレの水準に留まっていて、物語そのものにはブンボーグである必然性が薄いのが惜しい。

 特殊技能をゆうしたキャラたちによるハイテクSFアクションで、二万字に届かない分量でしっかりと特異な世界設定やキャラの背景を説明してキャラの対立軸も打ち立てクライマックスに向けて盛り上げてオチもつける、ヒロマルさんの筆力はさすがだなあと思います。今作の目玉は文房具だと思います。主人公とライバルそして黒幕……彼らの特徴はよく出ていたと思うんですが、ほかはどうなのかなというところがありました。たとえば飛行型ブンボーグが輪ゴムということで、「おお輪ゴムな~飛ばして遊んだ遊んだ」と思っていると、ジェットエンジンやら翼やらといった言葉が出てきて「?」となります。エンジンがダメになった後にゴムの張力で最後のひとがんばりするとか、そういう展開もありません。各キャラの思想と演説などとても熱く素晴らしく、作品としても面白かったんですが、自分が思い描くキャラクタの特徴と本編での実際おがめる活躍のギャップと、ヒロマルさんならもっともっと各自の色を出せるよなあという印象とが相乗効果で、作品の出来に反してちょっと乗り切れませんでした。

 四話で00ナンバーズが出てくるあたりから一気にエンジンがかかり、怒涛の勢いで石ノ森ワールドが展開されます。そのトレースっぷりは見事なもので、読み進めるうちに石ノ森絵でシーンが脳内再生余裕でした。ただ、どこまでも石ノ森ワールドなのがこの作品の美点であり欠点でもあるようです。キャラが文房具である必要は、結局のところあまり感じられず、サイボーグ009と違う部分、独自の路線となる点を示しきれていないように思えました。

 

 不死身バンシィ ミス・セブンブリッジ かっこつけなのにどこか冴えない、でも憎めない妙齢の女が主人公のハードボイルド風コメディ。シティハンターみたいなカテゴリかな? 第一話の時点で既に、依頼人は変態、ピンチに陥るも複数居る元カレの誰かの置き土産のおかげで命拾いする、元カレも結局変態、みたいなテンプレが完成していて、三話までお約束通りのテンプレを踏襲しつつ綺麗にオチているので水戸黄門みたいな安心感があります。前回大賞では辛くも入賞を逃したシャイニングポーラスター10連ガチャでしたが、この路線で伸ばしていくともっと面白くなるよっていう課題をきちんとこなしてきた感じですね。続きが楽しみな一作。

 一話について、暴力の起こしづらい状況でどう暴力を起こすか・どう凶器を持ち込むか。この問題に関心のある身としては、劇中独自要素をもちいて解決した今作は面白かったですね。敵群が2種類の凶器を用い、その持ち込み方もそれぞれ別種なのも嬉しいところ。バトルの流れは、「さあバトルだ」と依頼人と護衛が一斉に得物を手に取ります。依頼人は戦前から存在は明らかなれども本来的には武器でないキテレツな商品を即興的に得物とし、護衛がベテランの主人公さえ悟れなかったキテレツな隠し場から暗器を取り出し得物とします。すぱっと端的なダイナミズム、主人公を強く印象づける活躍。顔見世の初回にふさわしい展開だなアと勉強になりました。

 キャッツアイや峰不二子のような美貌の女泥棒・と思わせつつ、依頼主はド変態ばかりで、入手を依頼される品も変態じみたものばかり、という一風変わったコメディ・アクション。手に入れたばかりの依頼品を使って攻撃してくるキャラにはさすがに笑いました。審査時点で3つの事件が公開されており、それぞれうまくまとまっていますが、大きなストーリーはこれから動き出すかどうかというところ。かつての仕事仲間など、おもしろい要素がこれから出てくるようなので、今後が期待できる作品です。

 

 大村あたる 偽愛 恋愛短編集ですが王道ではなくそれぞれにちょっと倒錯しています。前回大賞受賞者らしい高い筆力。幻想的で耽美な作風はしふぉんにも通じるところがありますが、こちらは最後の一行でストンと落ちるオチを用意してくれていて、さらにエンターテイメントにも寄せている感じ。ただ、やはりそのせいか文芸てきな人物の内面描写が大味になってしまっていて、作者の強みをスポイルしてしまっているようにも感じられました。

 ひとびとのバリエーション豊かな趣味嗜好が描かれていて、そのうえ各話に驚きの展開も用意されていてえらいなと思いました。ただ「てことはアレはそういうことだったの!」というような伏線ががっつり利いてくるタイプのものというよりは、「こういう人だったの!」と知らされてびっくりする方向性かなあ。煉瓦を積み上げていく話が好きなのでそうした点から言うと『形愛』がよかったですね。また愛や執着が、見る/見られる関係性のなかで表されることが少なくないなかで、『喰愛』の彼は面白かったです。

 十分な筆力のある作者の作品で、評価すべき点は多くあるのですが、前回大賞受賞者ということで、今回評点が低い理由を詳しく述べたいと思います。まず、今回の作品は、前回作品のリアリティに比べて、ビザールな雰囲気を過度に強調し過ぎているように見えます。登場人物たちはなんらかの異常な嗜癖や性質をもつ人々ですが、各人の内面に踏み込んだ部分は少なく、どちらかというと見世物的な興味が先行しているようです。前回の「でも、女装を着けて」は、女装をする少年の内面が、ごく普通の少年の心のあり方から考えても十分理解できるよう、生き生きと描かれている点がすばらしかったのですが、今回の作品ではそれがうまく生かされておらず、表層的な印象。作者のフリークスへのシンパシーは感じるのですが、もっと一つの人物に的を絞って、深く踏み込んだ方が、強い作品が書けるのではないかと思います。非常に高いレベルの作品が書ける力をもっている作者で、今後の活躍に期待しています。


 ポンチャックマスター後藤コアラヌンチャク地獄拳。もうタイトルで全てです。コアラ!ヌンチャク!そして地獄拳!とびきりの馬鹿をパワーと速だけで押し切って行く剛腕ポンチャックスタイル。乱打されるエクスクラメーションマーク。文字からはみ出しまくりのルビ。理解されるつもりがさらさらなく説明もなくポンポン投入される単語。勢いとパワーだけで完結までの4万字を牽引していくのは流石です。他の人にはなかなかできないパワープレイ。

 どこもさんの小説がハートマークだらけでびっくりしましたが、こちらはビックリマーク連打です。それに加えて、馬鹿ながいルビが振られたりとすごい勢いです。すごい数字も並びますしコマンド入力もあります。次回予告も作者の現況報告的なものもあって、よくわかりませんがパワーがあります。ぐつぐつ煮えた鍋が好きなかたはおすすめできる一作ですね。

 かなり自由な文体によって書かれた小説です。書きなぐられたと言ったほうがふさわしいかもしれません。勢いがあって非常に元気のよい文章ですが、元気がありあまりすぎていて、読むほうにも元気が必要になります。正直、あまり元気じゃない状態で読んだぼくにはけっこう厳しかった……すまぬ……すまぬ……。なんかこう、具体的にどこがどうとか言うのは野暮なので、忍殺と格ゲーが好きな人はぜひ読んでみてほしいと思います。ハマる人はハマるはず。いや、たぶんね?


 DRたぬき 感傷的な季節の日々 不定期連載の短編連作? それぞれのエピソードにはそんなに通底するテーマとかもないので、習作集という感じでしょうか。今回の新規エピソードは深夜、片手にコーヒーを持って、天井を見つめる、花の風物詩の三つ。これといった物語的展開などはないのですが、自らの経験に根差しているのか、描写の質感が遺伝子ファッショナブルよりも全体的に高い感じ。この質感を他の作品のほうにも導入できるようになるとさらに一段階強くなるのではないでしょうか。

 夜に設定されることの多い、個人の静かな内省と風景の素描をおこなっていくような短編集のなかで『花の風物詩』は桜の美しさがきわだちコミカルな会話もある明るい一作です。梶井の有名な一節を思い出して「好奇心が旺盛で時間がたくさんあった若い頃なら試してみてもよかったが」と疲れた様子の語り手が、ベンチで寝る人を見つけたことで、枝でつついてみたりとすこし若返る話で、なかなか面白かったです。

 文体を模索し、迷いながら書いているような印象です。高いポテンシャルをもった作者ですが、どうも自分の得意とする作風を定めきれていないように思われます。一度、じっくりと時間をかけて構想を練り、楽しみながら書けるようなテーマを探してみるのがよいかもしれません。参加者の中でも、今後の作品に最も期待している作者の一人です。時間はかかっても、ぜひ傑作を書いていただきたいと思います。


 宇差岷亭日斗那名 僕と彼女とコンビニと猫 わりとダークホース。タイトルのとおり、僕と彼女(おそらくパン屋の)とコンビニ(の店員)と猫の話です。淡々と出来事を記述していくような文体なのに、不思議な温かさがあって読ませます。最少手数で一通りの道具立てを過不足なく揃えた、朝定食みたいな短編。

 一話、初めの二段落400文字くらいがよく行くコンビニの店員さんのことでつぎの二段落が語り手であるぼくのことで1200文字くらいで、この比率差は何かなと思っていると、「そんなことを彼女の~、食べ物を(動詞)しながら思っていた」で結ばれた言葉の類似に見られるように対称的な二話がきて、リズミカルな語りにつられてするすると最終話まで読んでいき、一話でかんじた疑問が解消されて物語の構造が明らかにされるミニマルな構成が凄いと思いました。

 短編として、とてもきれいにまとまった作品です。ナイーブな主人公の柔らかな語り口から、登場人物たちの優しさが伝わってきて、「優しい世界」を描けている点が見事。主人公と二人の女性の今後にも想像を巡らせる書き方で、続きが読みたくなります。文章を書く力が非常に高い作者だと思いますので、今後もぜひ小説を書き続けていただきたいと思います。次回作の楽しみな作者です。


 コフチェレン 消波小編。ごく一部では消波ブロックキチとして知られているコフチェレンの消波ブロック神話みたいなの。物語そのものを記述するのではなく、それを記述した嘘聖典から世界観を類推させるというのは試みとしては面白いかもしれません。でも、やっぱり小説ではないかな。

 教祖を自称しテトラポットについて啓蒙をしているかたなだけあって、それらしいものが出来上がってます。三編ともそれぞれ文体も工夫していて偉いと思います。外典『テトラポッド誕生の謎』はうさん臭さが増して好きです。是非この外典のような方向性を掘り下げてもらって、テトラポットのおもしろ実話とそのあいだを縫った創作という具合のものを書き連ねていってほしいところです。

 宇宙のすべてが、うん……わかってきたにゃ……そうか、空間と時間と既読との関係は、すごく簡単なことなんだにゃ。ははは……どうして地球にこんな生命があふれたのかも……。すべては、消波ブロックのおかげだったんだ……!


 どこもぴゅっぴゅさん。天才でしょう。ホットチョコレートでBANを食らったどこもくんですが、今度こそ文句なしの全年齢向けで見事現代ドラマ第一位まで登りつめました。これぞ奇襲奇策飛び道具上等の本物川KUSO創作団といった感じ。最近ポンマスさんによるぴゅっぴゅさんの朗読があって、さらにその可能性の拡がりの一端を見せられました。もうさすがに天井だろうと思っていたのにまだまだ進化する。これからも自分で自分自身を規定してしまうことなくどんどん進化し続けていってほしいと思います。

 かわいらしいですね。どこもさんの最近の作品はどこか上品な感じがあって、すごいです。

 まったくけしからん、本当にけしからん、こんなものを書いてしまって、ほんとうにきみはなんというアレなんだね、「カクヨムといえばぴゅっぴゅさん」などという印象がついてしまったらどうしてくれるんだね、まったく、こんなもので人を惑わして、きみは淫魔かなにかなのかね、ええ!? ともかく、どこもくんの次の長編に期待しています。ぼくなんかが評価するのもおこがましい話で、きっとこの人はほうっておいても大物になると思いますが、どこもくんを知らない人のために一言つけくわえておくと、彼の他の作品もぜひ読んでみてください。きっとその異常な才能に驚くと思います。


 佐都一 降魔戦記 ガチランカー勢のトップバッターです。褒められ慣れているでしょうから、辛めにいきます。このご時世に奇をてらわない王道ファンタジーを真正面から、その心意気が素晴らしいですね。昨今の異世界ファンタジーブームというのは世界設定を暗に借りてこられるので省エネ化が可能っていう部分が強いと個人的には思っているんですが、降魔戦記は借りものでないオリジナル世界の地理や風土風習などの設定も作者の中で出来上がっているようで、その練り込みの労力はさすがという感じ。ただ、小説作法として見ると気になるところもいくつかあって、一番気になるのはやはり視点のフラつき。二人の人物が対峙しているシーンで、そのどちらの心理状態も地の文で描かれてしまっている。これはどちらかと言うと漫画的な手法なんです。作者の頭の中にある漫画を文字で説明しているような感じ。小説には小説なりの強みがあって、決して漫画化やアニメ化のための設計図ではありませんから、小説というフォーマットの独自の強みを身につけていくと、もっとグッと良くなると思います。

  一瞬一瞬刻々と変化対応する剣劇から町一つを使って手勢を動かしながら相手の思惑を読みあう集団戦、時間を稼ぎつつ戦い神話の世界さながらのド派手な召喚バトルまで、さまざまな模様が描かれていて凄いですね。強い主人公ら、彼らを知恵や能力で上回りもする敵……白熱するバトルを、盛り上げ上手な地の文がさらに白熱させています。第一章のバトル模様は顔見世的な町での一騎打ち編と、集団戦となる聖なる谷編とがあるわけですが、主人公である王ダラルードとクラッサスとの料理屋で遭遇・名乗りを上げての決闘の顛末からして、それぞれ独自の考えをもって動いています。迫力の戦闘模様だけでなく、ウィットも所々挿し込まれています。ダラルードとクラッサスの果し合いの顛末も面白いですし、聖なる谷のひと幕では、生活を感じさせるウィットが所々出てきてよろしいですね。第4話で、王宮で自分たちの敬愛する王がしゃがみこんだ時に、臣下がそのさらに下の腰を落とそうとする辺りのところが好きです。自身のバックグラウンドを包み隠さず話すクラッサスとなんとなく秘密主義なルカが、危急の事態に即席でコンビを組んだとき飲食物の調理法のことで互いを知り、中断をはさんでもう一戦したときにさきほどの会話から出たセリフを合言葉に以心伝心する関係となっている……この辺の展開が素敵ですね。

 なんとも不思議な魅力をもった作品です。いわゆる中世風ファンタジーの小説として、大きく変わったところはないのだけれど、世界観がしっかりと作り込まれており、これが物語への強い吸引力を発揮しています。読んでいるうちに、だんだん自分もファンタジーを書いてみたいと思わせる魅力をもっていて、断片的に語られる設定から、どんどん想像が膨らんでいきます。ファンタジーの、特に作り込まれた設定が好きな人にぜひ読んでいただきたい作品です。

 

 齋藤希有介 スリーピングマジェスティ 辛めにいきたいところですが、これはなかなか強敵ですね。同じくファンタジーランカーの降魔戦記に比べると、キャラ設定もテンポも世界設定も全体的にライトな印象で、架空のゲームのノベライズてきな部分はありますが、それは作者も敢えてやっていることでしょうから難癖つけてみてもただの好みの違いという話になりそうですし、構成もwebというフォーマットに最適化されていて文字数あたりの物語の取り回しもいい感じです。書籍で読むとかなり駆け足な印象になりそうですが、webだとこれくらいのほうがいいのかな? 兵站や政治に関してもやはり数字のやり取りにすぎなくて質感が薄いというかゲームてきで、好きじゃない人は気に食わなそうですけど、そうか、お前は好きじゃないかって話で終っちゃいそう。ストーリーのほうも飽くまでヴラマンクに寄り添うかたちになっていて、過度に複雑でなくスッと読めます。凝っていたり重厚だったり複雑だったりするほうが偉い、みたいな価値基準に対するカウンターパンチとして成立している感じで、色々気に食わないんだけど評価せざるを得ないってところ。web小説を続けていく上では非常に学びがある内容でした。

 のどかなコメディから始まって、たびたび訪れる眠りによって容赦なく期限の迫るサスペンスを経て、怒濤の戦争模様となっていくのが凄いですね。web小説はわりあい途中で息切れしてしまうか、でなければやたらと長くなる傾向にありますが、カクヨムコンテスト作品ということで一般書籍の一巻本になったときのことを意識されているようなしっかりした起承転結があり、このペース配分に感心しました。構成上はじめは流血沙汰の派手な見せ場がないわけですが、それでもしっかり読ませる面白さがあります。書き出しも印象的で素敵だし、そこから長期間の眠りによる時代変化・意識変化による主人公とのギャップによるコメディ部分もそれ単体で面白かったです。大小さまざまな物事にかかわる長きの休戦と眠り続ける王を抱えた国の動きがほのぼのとした調子で描かれて、こういったディテールだけでも十二分に読ませます。「新たなる騎士たち」で明かされるヴラマンク全盛期の血で血を争う過去もなかなかに凄惨ですごいですし、そこで紹介された逸話の一つである切っても倒れず戦いを挑み続ける家族の姿が、現代のデグレによる猛追のフックとなるあたりもうまい。そうしたディテールが、きちんとドラマのなかで活かされているのがまたよろしいですね。

 10代前半の読者を想定してか、平易で読みやすい文章にするための丁寧な工夫が施されています。話の内容は、国の衰えた兵力を回復させ、外敵の侵攻から守るというもので、内政パートも目的がはっきりしており、違和感なく読み進めることができました。騎士に異能をもたせる華印の設定は、花の名前が騎士のイメージを形作る役割ももっており、限られた紙幅の中でキャラクターの個性を効果的に引き出しています。全体として、非常によくまとまった作品。完成度が高いため、文句のつけどころがあまりないのですが、あえて言えば、よくも悪くもきれいにまとまった作品であり、驚くような斬新さがありません。それでも多くの読者から高い評価を受けられるのは、作者の基本的な技量が高いことと、多くの人に受け容れられるような内容にしようという工夫の成果でしょう。個人的には極めて高評価ですが、本物川小説大賞においては、瑕疵があっても突破力の高い作品をより高く評価したいところで、本作はやや不利かもしれません。

 

 同じく、齋藤希有介 3Pーっす!! もうタイトルからしてひどい。ややお下品路線のコメディ。本文のほうはタイトルに見合うほどの飛び抜けたお下品さはなく、むしろどんどん壮大に展開していきます。スリマジェを読んだ後だったので、ああこういうのも書けるんだっていう芸風の幅に感心しました。作者自身もあまり拘らずに気楽に書いているのか、スリマジェに比べるとwebフォーマットへの最適化もそこまで丁寧にやっていない雰囲気です。作者曰く出落ち作品ということですが、結果的には9万文字の大ボリュームに。書けてしまう人に多い、普通に書くとモリモリ文字数が嵩んじゃうタイプの人なのかな?という感じで、ちょっと冗長かも。翻って、やはりスリマジェはかなり意識してダイエットしてライトに仕上げてきたということなのでしょう。

 あけすけに下品な冒頭からはじまって、タイトルからは想像できない所へ行くので驚きました。作劇も掛け合い漫才するような具合で『スリーピング・マジェスティ』とはだいぶ違うなあと、齋藤さんの引き出しに驚きました。

 同じ作者の「スリーピング・マジェスティ」とはうってかわって、こちらは異能バトルもの。本作でも安定して高い文章力と構成力が発揮されていますが、徒手の格闘描写は本分でないのか、スリーピング・マジェスティの戦闘描写に比べるとかなり大雑把な印象を受けます。全体的にも軽いノリの作品でもあり、作者も肩の力を抜いて書いているのだと思いますが、やはりスリーピング・マジェスティと並べて読んでみると、やや迫力に欠けるのは否めませんでした。


 仁後律人 撃鋼戦輝ガンキャリバーR とにかく長い。現時点で30万字超という人を殺しかねない大ボリューム。やはり長いぶんかなりのスロースタートで盛り上がってくるまでに時間がかかります。しかし、ひとたびイグニッション!するやいなや怒涛の熱い展開。正義とはなにか、というのは初代ライダーから連綿と続く特撮ヒーローものの王道のテーマで、人物の心理描写に特化した小説というフォーマットは意外と特撮ヒーローをやるのにも向いていたのだなという気付きがありました。

 覆面がたやすく剥がれてさっくり身バレしてしまうので大変だなあと思っていると、怪人の存在は生活圏に根差していて、双方の正体がわかったうえでバトル外で変身を解いた怪人と話してみたり、これぞ本物という正義の味方もいたり、そのなかで自分はどうすればよいかという話にもなり、どんどん入り組んでいきます。

 個人的に大好きな作品です。ストーリーは昭和ライダーを思わせるようなやや陰りを帯びた変身ヒーローもの。これを現代のライトノベルがもつ軽くて早い文体で、駆け抜けるように描写していくのですが、この組み合わせがなかなか絶妙。なぞのグルーブ感を覚えながら読み進めていくうちに出てくる「イグニッション!」のキメ台詞が激熱です。仮面ライダーとか好きな人はぜひ読んでみてほしい作品。ちょっと古いんだけど、そこがまたカッコいい。キマイラに対する独特な形容も見所です。

 

 奈名瀬朋也 あさひ色TOPIC オムライス小説。あさひちゃんの成長に焦点を合わせているので作中の時間経過が何年にも及ぶのですが、語られるエピソードは夏に限定されているのが特徴的です。一本のラインではなく、夏だけが断続的に語られる。青い空に入道雲、庭に面した大きな開口部のある日本家屋。日本人なら不思議と持っている「夏休みに帰省する田舎」の心象風景。そういったノスタルジーへの強いこだわりが感じられます。ただ、やはりそういった優しいノスタルジーを描くために過度に濾過されているところがあって、かなりの文字数を割いているにも関わらず表層の綺麗なところしか描かれていないような、個人的な好みの話になってしまうかもしれませんが、僕としてはもうちょっと踏み込んで描いても良いのではないかな、みたいな印象も持ちました。もっと精神的に全裸になるべき。

 小学生の女の子と一つ屋根の下……ということなんですが、本作のヒロインあさひちゃんは大学生であるトキの言うことを何だって笑顔で聞きいれてくれる天使ではなく、小説の外に目を向ければそこらじゅうで見かけられそうな普通の子――つまり嫌なことは嫌だと態度で示すし、その理由は教えてくれないし、そもそも機嫌がよかろうとわるかろうとそんなに口を利かなかったり口を開いてもすぐ嫌味が出てきてしまう、そんな嫌な面も多分に抱えた子。微妙に下手をうってしまったりもするトキと合わせて、等身大の人々のコミュニケーションという感じで、とても良いですね。ただ、そのようなところは小学生編の終盤までの話で、心境を吐露し和解したあとは、あさひちゃんはまじめで素直な良い子へと成長し、そこに明るくまじめで素直な良い子の同級生ほのかちゃんや引っ込み事案でまじめで素直な良い子の年下小学生あさぎちゃんが加わっていきます。小学生編にあったような、ちょっとそこに居合わせたくないような気まずい空気というのがほぼ後退してしまいます。中高生編も良いし、それまでの積み重ねが活かされる展開も用意されて面白いんですが、小学生編が好きなぼくとしては、ちょっと好みから外れてしまいます。

 薄味派のぼくから言わせていただけば、コロッケにソースとか勝手にかけられたら怒りますよ、それもコロッケが大好きならなおさら……。と、なんだか個人的な嗜好でいきなり共感できた作品です。恋愛ジャンルの作品ですが、いきなり運命じみた劇的な恋愛が始まるわけではなく、人と人との基本的なつながり方が丁寧に描かれており、好印象です。今回は小学生編だけに絞った評価ですが、本作の特徴は、出会った時点で小学5年生と大学1年生という大きな年の差だった二人が、8年の歳月を経て、19歳と27歳という恋の成立し得る年齢に至るまでを描いている点。このコンセプトもおもしろく、高く評価できる点です。


 噴上裕也 ケモノの王 これすごい好きです。単純な文章による表現力ではランカー勢の中でもダントツじゃないでしょうか。同じ現代アクションカテゴリでしのぎを削ったニャクザが描写を排しているのとは対照的に、非常に映像的な場面描写で読者の頭の中に強制的に映像をレンダリングさせていくような力強い文章。登場人物もかなり多いにも関わらず、それぞれの書き分けもしっかりしていて深みもあります。場面描写、心理描写、戦闘パートに日常パート、全てが高い水準で、なにがすごいという話ではなく全部がすごい。

 単純にめっちゃ面白かったですね。色々なキャラが現れて次第に点と線が結ばれていくようす、後になって「これはこういうことか」とポンと手をつくような布石の数々。異なる陣営が同じ場につくバトルや対談模様はあれやこれやの権謀術数がうずまいてどろどろとして読んでいるこちらも手に汗握ったり汗が出たりします。場面つなぎも面白く、「ジェヴォーダンの獣-2」に出てきた戦闘準備としての消臭というモチーフがつづく「シャドウゲーム」の幕引きとなったら、次の「勝手にしやがれ」回は、きれいな和室のきれいな顔立ちのキャラを乱すための悪臭で始まります。気心の知れた兄妹の大家族ホームコメディのための一モチーフということで、こうした大きなコントラストも魅力的です。「勝手にしやがれ-1」で「兄弟のうち一人だけ拾われ子だ」などとウソついて喧嘩になるようなどたばたホームコメディが終わると、「2」ではそのウソついた秀徳くんが新入生へ自己紹介を兼ねた自身の名前が大家族のなかでいかに異質かを伝えるギャグなどが場をなごます学園コメディになります。開発地へのデートと、心温まる展開がつづいて急転直下のどシリアスに。先の読めないジェットコースター展開が楽しい。

 ぼく、うさぎにはごめんなさいしないといけないね。審査が始まるまで、実は「ケモノの王」、読んでなかったんだ。でも、読んでみて思った。ニャクザで太刀打ちできる作品じゃなかったって。こんなにしっかり作られてると思ってなかったんだ。いろいろ具体的に挙げてほめたいところはたくさんあるけど、ここではやめておくよ。実際、現代アクション部門で1位とる作品として、納得の出来でした。カクヨムの現代アクション部門は、手前味噌な話だけどかなりしっかり作られてる作品が多いと思います。その中でもこの「ケモノの王」は出色の作品。アクションものが好きな人は、ぜひ読んでみてください。まさしくトップランカーの作品です。


 一石楠耳 剣脚商売 ~現代美脚ストッキング剣豪譚~ 実にガーリー。これはもうタイトルとキャッチコピーが秀逸すぎましたね。ともすれば一発ギャグで終ってしまいそうなネタをひたすら引っ張って10万字以上を牽引してしまう馬力は大したもの。これもどちらかというとニャクザと同じ系統で、描写はわりとアッサリとしていて、主に台詞回し(特に地の文の台詞回し)と丁々発止の掛け合いでもりもりプロットを消費しながら超スピードで物語が展開していく感じ。キャッチコピーでついつい笑って軽い気持ちで読みはじめたら、すごいところまで話が拡がったもんだなぁとしみじみしてしまうような類です。

 序盤は一話にひとり敵キャラが出てきて戦うといったような一話完結的なところから始まって、お話はどんどんと大きくなり、それでいて序盤に出てきたキャラやらがしっかりと終盤まで出張り掘り下げられ長編としての厚味が出てていって凄いですね。

 ほとんど出オチのようなとんでもない基本設定なのに、そのまま突き進んで10万字読ませるという異様な作品です。剣脚商売というタイトルではあるものの、剣客ものというよりは忍者……いや超人プロレス……のような、かなりド派手な戦闘が繰り返され、1話につき1回戦闘がある展開なので、ダレずに読み進められます。ともかくどんどん敵が出てきては退場していき、贅沢にキャラクターが使わていくので、大筋のプロットよりもずっと濃密な内容を読んでいる感覚。アクセス数を見ると1話離脱率がやや高めですが、1話で笑って読むのを止めてしまうのはもったいない。ぜひ2話以降の怒涛の展開も楽しんでいただきたい作品です。


 鈴龍 嫉妬ほど美しいものは無い 三話まで進んでいますが、ようやくプロローグのとっかかりぐらいの感じ。まずは完結を目指して地道に書き進めて下さい。

 句読点の使いかた等に個性のある面白い文章で、読んでいて楽しいです。概ね饒舌な文章です。ただ、ほんの時折なんですが評者にはこれが饒舌というよりも、堰を切った余裕の無い調子として読めるときもあり、突然なにやら空気が張りつめて感じられたりします。異形がでてきたところ(画面を埋め尽くすダッの連打や、ニクイの連呼)は素直にこわかったです。

 残念ながら、序盤で止まっている作品です。人の負の感情(あるいは嫉妬だけ?)が集まってできた思念体がおり、それを除霊(?)する力をもった少女がクラスメートで・というアイデア自体は、うまくストーリーをつくればおもしろくなりそうな感じがします。作品自体も、もう少し進めばおもしろさが出てきそうなのですが。


 槐 すずめの神社 小説ではなくエッセイですね。小学校のころに実際にあった、すずめの神社に関するエピソード。エッセイなので特にすっきりするようなオチもありませんが、なんとなく気になる感じはあるので小説の種みたいな。こういった実体験に立脚して物語を創造すると良い質感が出るのでぜひ小説にも挑戦してみてもらいたいですね。

 学校によくすずめが落ちてくるので土にかえす話です。町によく人が落ちてくるのでバットで打ちかえす、とかそういう話ではありません。文芸誌掲載作品(07年文學界新人賞受賞作)でもそのくらいキテレツで派手なことが起こるので、こういう地味に珍しい体験談が拝める機会というのは草の根インターネットならではやも。抑えた調子で「こういうことがあったのでああいう風にしました。おしまい」という具合の素朴な話にしていて素敵です。だからといって素っ気ないというわけでもない、やわらかくて良いあんばいです。

 小説として完成している作品ではありませんが、何かとても惹きつけられるもののある文章です。「すずめの神社」というモチーフ自体は、それほど特異なものでもない感じなのですが、なんでしょう、ここからすごい物語が湧きだしてきそうなこの雰囲気は。文章自体もこなれており、とても読みやすく、味わいがあります。ぜひプロットをつくり、小説を書いていただきたいと思います。


 ヒロマル 概念戦士・本物川 第一回本物川小説大賞にもエントリーしていた本物川小説。第四話、三十体の偽非概念が今回の新規エピソード。今までは一体ずつ襲いかかってきていた偽非概念が三十体まとめて襲い掛かって来るという打ち切り直前展開。考えなしに四十二とか言うからもー。襲い掛かって来る偽非概念を次々と倒し、倒すや否やその偽非概念の能力を使って次の偽非概念を倒して行くという趣向。ラストの━━スーパー本物川だ!で笑ってしまいました。まだ残り十体程度残っていますがちゃんと完結まで書きあげられるのでしょうか。

 「三十体の似非概念」編からは、それまでに登場した先輩や同級生などなどが絡んだ格段の出来です。バトル前のコミカルな誤解ネタの応酬に感心していると、こんどはシリアスな誤解の悲劇の両面撃ち、追い打ちをかけるように概念バトルでも劣勢に立たされる展開が見事です。ここまで異文化理解・誤解ネタを重ねた末に、ついにシンクロするふたり、そしてまた異文化交流ネタで締める最後がまたにくい。

 うん、そうだよ、こういうのでいいんだよ、本物川小説大賞っていうのはさ……。第三回を迎える本物川小説大賞ですが、第一回のころはこういう本物川が出てくる小説が主体だったのです。第二回からはレベルがかなり上がって、上位層にはかなり本格的な小説が見られますが、本物川小説大賞は、初めて小説を書く人でも気軽に投稿できるイベント。いきなり自分のキャラを活躍させるのはどこか気恥ずかしいという人は、本物川というモチーフを使ってもOK。この作品のように、発想力次第では十分楽しめる小説が生まれるのです。次回本物川小説大賞への参加をお考えの方は、本作を読み、参考としてみてください。

 

 不二式 この世でもっとも恐ろしいもの ファンタジー世界ベースの異種族間恋愛もの、になるのかな? 全体的に暗くて悲壮感漂う世界観で、たぶん悲恋になりそうな予感ですが、まだ途中なのでよく分かりません。ひとまず完結に向けて頑張ってほしいところですが、誘拐犯物語と違って異世界ファンタジーですから、景色の描写などをもっと丹念にする必要があるように感じました。想像してみても背景が真っ白になってしって、場面があまり思い浮かばない感じ。不二式さんは既存のイメージを流用して描写を省略していくのを得意にしているようなのですが、その共通イメージを読者が持てないと一気に真っ白になってしまうところがあって、こういった完全にオリジナルの世界設定をする場合はもっと丹念な描写を心がけるか、いっそ独特な世界設定は避けるか、なにか工夫が必要かも。

 なんとも容赦のない展開が続いて、欝々としてきますね。かわいそうな女の子が閉所に連れていかれて世話をされる……という点では同じく不二式さんによる『誘拐犯物語』と共通するところがあるかもしれません。視点は女の子に重きが置かれ、竜は全容の知れない恐ろしい存在として登場しているところが違いかな。また、階級差種族差からくると思しき軽蔑の眼差しが女の子以外のあちらこちらに注がれて、その辺がまた鬱々とした調子を強めます。これからあれこれ動き出すのかな? という感じで、まだ何とも言えません。

 完結しないと評価の難しい作品です。主題である「この世でもっとも恐ろしいもの」がなんなのか、現時点ではまだなにもわからない状態で、ストーリーについてはほとんど論じることができません。文章は読みやすく、適度なペースで進んでいると思います。細かい点ですが、三点リーダ(…)は2つ並べて使うのが普通です。こうした点は、読者に不要な違和感と、何か意味があるのかなという疑問を抱かせてしまうおそれがあるので、特に意味がなければ、なるべく一般的な形を使うのがよいでしょう。


 大澤めぐみ パーフェクトワールド どら焼き。

 天皇皇后両陛下のたとえとか、思いもよらない凄いところが引っ張りだしてくる語り口が素敵です。何気ない日常的な風景が、しっかりドラマに貢献している。冒頭のお昼の弁当から水飲み場での友達の元カレとの会話そして終盤のカフェと、会話の舞台に飲食物がある所で大体まとめられているのがよいです。語り手の記憶の中のさわやかな春の陽気の桜の下でフリスビーをするズンズンと、現在の語り手が偶然みかけた陽の落ちかけたケヤキ並木で見られる湿気っぽい彼女の対比。元カレと会話の場が前述の通り水飲み場なのは、その子が部活動してる子なので自然な設定ですが、そこに「湿気っぽい」と表される現在の友達の嫌な感じや自己嫌悪する語り手が抱く「残尿感」、二度目の水飲み場で出てくる冷や水を浴びせられるといった慣用句や涙するといった直接的なアクションなど、湿気に連なる言葉が重ねられているところ、そしてオチのどら焼きの挿話を読むに、これも意図的なものなのではないかと思わせるところがあります。自分が完璧と思う世界に出くわすと心のカメラのシャッターを切る語り手に対して、友達の思い出話のなかにあるちょっとした一言「いっぱい写メも撮られたよ」も主客の対比。出してきたモチーフをしっかりドラマに活かす、というところが大澤さんは巧いですね。

 きれいにまとまった短編です。パーフェクトワールド、完璧な世界というタイトルは、逆説的な意味で本作のモチーフとなっており、未熟ゆえの居心地のよさ、そこから抜け出たくない幼さが、女子高生の視点を通じて通奏低音のように描かれます。人は一人で成長するのではなく、周囲の人々の変化に追い立てられるようにして成長していくもの。その残酷さと、そうした現実の中で前を向いて進んでいく女の子の姿が胸を打ちます。この作者の特徴でもあるラストの不思議なさわやかさが、この作品では特に際立って感じられます。


 karedo 幻想都市百景 これはすごいです。描写とはつまりこういうことだ、という感じ。大枠のデッサンだけで物語をブン回していくニャクザとは完全に対局の偏執的な細密画。ぜんぶ嘘のでっち上げなのに、読んだ後にはまるでなにかの知識を得たかのような気分になります。ファンタジーガチランカーのふたりにぶつける本物川KUSO創作団からの対抗馬としては文句なし。物語の進行は遅々としていて、大部分がひたすらに描写が続くだけの幻想世界ブラタモリ、ファンタジー民俗学。三話を過ぎてようやくレギュラー?キャラクターも出はじめたので、そろそろ物語が動くのかな?みたいなところで続きに期待です。佐都一さんと斎藤希有介さんにはぜひ読んでもらいたいですね。きっとKUSO創作勢あなどりがたしとなることでしょう。

 商人らしい目配りがよいです。1話では商品や商品の生産過程や市場の様子が、五感をもちいて描写されます。3話からはバトルも入りますが、商品と機転で戦って、戦後にまた商品の作り方を伝授したりと商談つけとく辺りのちゃっかりした商人らしいキャラの動きが素敵。まるで本当に見てきたかのような細かなディテールが凄い訳ですが、それを抜きにしても語り口・ストーリーテリングが巧いと思います。1話の手をもむほど寒い安宿から、新調したなめらかな手帖の手触りをつうじてその生産地の鮮やかな獣と人の牧歌的な暮らしがつづられ、いざ現地に行くと冒頭以上に手が荒れ放題となる作業風景がお目見えする、各場で"手"のようすを出すところとか。3話の恋人の手⇒短刀の柄を"握る"アクションで繋げたモンタージュなどに見られる、視線誘導の巧みさや繋ぎのなめらかさ。ストーリーの面白さという点では、3話は、旅のガイドのことや彼が賊に転じうる旅自体の危うさ・人間関係やケモノの恐さをシッカリ書いたうえで、実際にバトるのは更にこわい、瞳が星と見紛うような超自然的な魔物って辺りのヒネリが入れられてます。

 都市を渡る商人の視点から、一つひとつの地域を描いてゆくことで、異世界の姿を浮かび上がらせようという作品。作者の安定した文章力が、幻想の街に確かな実在性を感じさせ、作品としての強い可能性を感じさせます。現時点ではまだこれからの作品という印象ですが、基本的な構造は完成されており、コンセプトは成功を収めているように思います。純粋に読者として、これからの展開を楽しみに待てる作品です。もっと話数が進んでいれば、大賞候補となっていた可能性が大。


 左安倍虎 易水悲歌 始皇帝暗殺といえば、小説も映画もこれまでに何度となく作られている主題ですが、本作は「刺客列伝」にも記された荊軻の歌の才にフォーカスし、それを一種の異能のように見立て再編した物語です。本作においても始皇帝暗殺が最も大きな山場のシーンとなりますが、飽くまでフォーカスは歌に合わされていて、言ってみれば史実によって最初からバッドエンドが定められている物語に独自の拡がりと希望を見せています。歴史物という定められた枠組みの中で、新たな物語を紡ぐという真正面からの取り組み。ラストシーンの儚さと美しさがヤバい。

 こういった史劇は、Web小説ではなかなかお目にかかれないのでは。史劇をつづるにふさわしい硬質な文章で、そこに異能を挿し込んでいて楽しいです。史実を知らない評者でも、陰謀と密談やバトルの数々、その間で育まれる師弟愛やら恋愛やらにより面白く読めました。冒頭のどちらが剣を抜いて先に攻撃を仕掛けるかというバトル模様からして良いですし、クライマックスでは主人公vs秦王の対決を扱いつつも周囲に立つ人にコラテラルダメージを与えることで異能の凄さやそれを真っ向から受けるボスの凄さを伝えます。

 『キングダム』や『達人伝』といった、春秋戦国時代を扱った漫画作品が人気になったことから、始皇帝の時代の武将や政治家の名前を知っている人も多くなっていると思います。しかし、史記の中でも特に有名な荊軻に対するイメージは、日本だとまだ暗殺者という暗いイメージが中心。本作は、そうした荊軻のイメージとは離れた、史記に描かれるような、音楽を愛し、士人と交わる風流人としての荊軻の姿をもとにしつつ、「羽声」という不思議な声の力を軸に、歌と最後の暗殺劇とを結びつけ、荊軻の新たな人物像を描き出しています。基本的な文章の力や、史実上の人物を適度に配置する構成の妙に加えて、こうした新規性は高く評価したいところ。大賞候補作品の一つとして推したい作品です。


 DRたぬき 朝霧の廃人、そして猫 適当に出された三つのお題を無理矢理にでも組み込んで即興でお話をつくる、三題噺っていう小説書きの遊びというかトレーニングみたいな、そういうので書いたそうですが、それにしてはなかなかのスケール感です。序盤から中盤にかけて、わけも分からないままに読者を引き込んでいく謎の吸引力がありますが、やはり即興ゆえか後半までそれを維持しきれていない感じはあります。

 1万字程度をさくさく描ける安定した筆力です。謎が謎をよぶ序盤の展開でぐっと引き込まれました。

 序盤、主人公の正体がわからない状態で描かれる、断片的な記憶と廃倉庫での自堕落な生活には、強い興味をひかれました。ただ、中盤ちょっと息切れをしてしまったのか、話の展開を急ぎ過ぎているきらいがあります。主人公の正体については、隠したまま山場まで引っ張ることもできるはず。現在の形では、敵の登場もかなり唐突な感じ。もっと丁寧に進めていけば、上位に食い込める作品だと思います。

 起爆装置 恋人同士な僕たち ボーイミーツボーイ。いわゆるBL。でもすごい綺麗な感じでとても良いです。ねとねとしてなくてサラリとしてて、でもアッサリじゃなくて深みがある。気の向くままに自由に書いているのか、視点人物もコロコロ変わるし、話もあっち行ったりこっち行ったりで僕個人としてはハラハラしながら連載を見守っている感じだったのですが、最後の最後はタイトルまで回収するすごく綺麗な落とし方で、これ本当に天然でやってんのかよってビックリします。つらつらと書いているわりになんとなく連なっている感じがするのは、雑踏京という街への視点が作品に通底しているからで、諦めのような愛着のような、そういう愛憎半ばみたいな地方都市の閉そく感に対する思い入れが感じられます。

 学校の狭さがすごくよいです。行動範囲や交友範囲の狭さ。とにかく人の目が多く、レジャーは乏しく、外食も定番化している。少し時間がずれただけで知った顔が現れるだろう危うさ。カップルの情報は即日知れ渡りアダルトショップでさえいつ行って何買ったかがバレてしまう。それでいて、有名な事柄をニアミス的に知れてなかったり、友達の友達は友達ではなかったりする。各話、多数の人が複数の時空間をめまぐるしく入れ替わり立ち代わり現れるなかで、なじみの顔がなじみのお店で待ち合わせしてなじみでない連れ合い同士がなじみになって、外を気にせず視界に身内だけを入れて話し始める……さわやかで落ち着きあるラストがたまらなく素晴らしいですね。

 非常にむらっけの強かった起爆くんがついにやってくれました。雑踏京という地方都市を舞台に、街とそこで暮らす高校生の様子が、さらりとした軽妙な文体で描かれています。よくある地方都市の風景、そしてちょっと変わった一組の恋人たちと、その周囲の人々。一つひとつの話題は、つながりがあるのかないのか、大きな事件が起こるわけでもなく、ゆるやかな流れの中で話が進んでいきます。


 大澤めぐみ ある日のあいこさん ファンキー。

 すこし不思議なやつですね。ブックオフで本漁りするところでのファンキーな地の文が、途中からスッキリするのが良いですね。面白いじゃない。

 掌編としての完成度が非常に高い作品です。名前が先行してしまいがちな作者ですが、この作者の作品を読むなら、まずこの作品から、ぜひ虚心で読んでみていただきたい。非常に優れた構成力と、軽くてスピード感のある独特な文体をもっています。本作の特徴でもありますが、テーマとしてはかなり感傷的な内容を扱っているにも関わらず、読後感が異様にさわやかなのが、この文体の魅力。今回の応募作の中で、1万字以下の作品に限って言えば、最上位の作品だと思います。


 くすり。 コンチェルト ジャック・ルーシェがプレイ・バッハでジャズとクラシックの融合を見事に成し遂げてから半世紀ほどが経ちましたが、今でもジャズとクラシックの違いと対立、メロディとリズム、楽譜と即興、水と油のようなそれらを融合させる試みはホットなトピックであり続けています。本作は、めんどくさい音楽オタクがめんどくさいオタク特有のめんどくさいオタク語りをすれば、冗長で退屈で衒学的になりがちなこのトピックを、それぞれの音楽をそれぞれの少女たちに代表させ、その人間関係によって描き出すことで、非常にとっつきやすいものに仕上げています。ジャズの天才とクラシックの天才の王道の対立構造。そして、その双方の良さ、素晴らしさを素直に受け止めることのできる「元・現代クラシックの申し子」が、どのような演奏を成し遂げていくのか。続きがとても気になる作品です。

 音楽ものです。いままでの大賞であったかな、題材も珍しいと思いますし、ディテールも面白いです。幼年編序盤の半生ついての描写は事実列挙的なところで極めて抑えたかたちで描かれ、合間合間にはさまれる高校生編は官能的ながら事の前だったり後だったり最中のところを描かない倚音で、それが読んでいるこちらも熱くノせられてしまう、終盤の爆発するような演奏シーンの数々で解決されます。だからといって幼年編序盤がつまらないかというとそんなことはなく、厳しい練習風景、ピアノをやめたあとの医務室図書室の静けさとそれでもふつふつと感情があふれだすように漏れ出る音楽たち、トラウマについても面白いヒネリが用意されています。

 圧倒的な文章力です。ピアノをテーマとした作品ですが、その様相は、音楽と音楽がぶつかり闘うバトルもの。短い文章の中に恐ろしいほどの熱量がこめられており、背筋が震えるほどの驚きを覚えました。登場人物の配役も絶妙で、ライバルたちの造形は極めて魅力的。クラッシックをよく知らない人も、ひとまずよくわからない部分は読み飛ばしつつ、3話まで読んでみてください。序盤はややアクの強い表現が目につきますが、3話まで読み切れば、きっとこの作品の魅力を感じられるはず。掛け値なしに言って、金を払っていいレベルの作品だと思います。頭一つ抜けた大賞候補作品です。

 

 大村あたる ラブアリスのヴォイド いちおうSFでしょうか。ただ、これといって物語てきな展開はなく、一直線にヴォイドまでただ出来事が進行していくだけですし、ラブアリスの内面に描写についてもそこまで真に迫る内容ではない。こういった設定を考えました、というところで終わってしまっている感が否めないので、もうひとつ小説としてのツイストがほしいところ。

 これはかなり面白く読めました。自身にとってどうにもならない天分と、そこで悩む個人の内面が面白く、他者に自分にと発せられる「きもちわるい」が語りにリズムを作っていきます。視覚・触覚など五感を刺激するちょっとした性のふれあいから、無味乾燥な個人情報を取り出す近未来描写も素敵です。幕開けの男の乾ききった唇やじっとりと湿った手汗、おどろおどろしいピンク色の部屋にむかうルーチンワークから、口を開けた湿度ゼロの橙色の世界へ抜け出す幕引きといったコントラストも美しい。

 攻殻機動隊SAC#3「ささやな反乱」を思い出させるストーリーです。アンドロイドの自我を扱った短編小説ですが、SFとしてはやや踏み込みが甘い印象。なぜこの個体に自我が生まれたのか、なぜ気持ち悪いと感じるのか、この辺りを偶然で片付けてしまうのは作劇上もだいぶもったいない感じがします。もうひとひねりでぐっと深い作品になる余地がありそうです。

 

 芥島こころ(ど)さきちゃんと修学旅行に行った話。どスケベメスボディ女装男子のどニキが書く、すこしクレイジーでちょっとサイコなレズ高校生の主観視点。スタイルとしては大澤や佐藤ここのにも近いものがありますが、徹底的に場面描写を排除して主観に凝り固まった語り口。そのせいで、客観的になにが起こっているのか情景を想像しにくいという弊害がありますが、そこを逆手に取って実はこうでしたー、ってやる仕掛けかな? ちょっと不発かも。もうすこし上手なやりようはあると思います。あと、せっかく余裕を持って締め切りを設定しているので余裕を持った進捗を。推敲は大事ですヨ。

 語り手の知略が光る旅行前にたいして、旅行当日の布団にダイブして痛い目を見る浅はかさ、浮かれポンチ具合のコントラストが良いです。主人公のさきちゃん愛、さきちゃん以外のキャラ読書家さんの面白さが光りますが、さきちゃん自体のキャラは(にこにこ笑ってる子だというのは伝わりますが)具体的に描写されていなくてよく分からないなと思っていると、一夜明けて彼女の頭のなかを明かされる展開がきて、こういう子だったのかと分かる展開が良いですね。

 さきちゃん意外とクレイジーな夢見ますね……。語り手のキャラクターがなんとなく不安を感じさせるのですが、軽いノリで読みやすく、なんとなくさらりと読めてしまいます。なんだか中毒性のある文章で、連載されたら読み続けてしまいそう。定期的に更新されたらいいなと思える作品です。

 

 

大賞選考

 

 では続きまして、いよいよ大賞の選出にいきたいと思います。

 前回同様に、評議員それぞれに三つ推しの作品を出してもらって、その中から選出していくという形を取りたいと思います。が。

 が?

 大賞の趣旨てきに、やはり埋もれた原石を発掘していきたいという思いがありますので、今回、同時期に開催されていたカクヨムweb小説コンテストで読者選考を通過した作品については、そっちのほうでまた頑張って頂きたいということで、後出しになってしまって申し訳ないのですが、大賞からは除外しようかなと。ご了承のほど、よろしくお願いします。

 あ、そういえばどれが読者選考通過したか、確認してなかったわ。

 えっと、インイン、おにスタ、降魔戦記、スリマジェ、ガンキャリバー、あさひ色TOPIC、ケモノの王、剣脚商売。

 個人的には、ガンキャリバーは大好きな作品。剣脚も、あんだけ突飛な設定なのに十分読ませるし、本当に有望な作品が残ったと思います。

 僕はこの条件がなければケモノの王とインタビューインテグラは大賞に推したいところでした。特にケモノの王のほうは単純に小説としての完成度が高く、誰にでもオススメできます。インインはちょっとエッジの効いた作品を求めているクソサブカル向きかな?

 ぼくもケモノの王すごかったです。スリマジェはほのぼのコメディからの戦記物への転調が気持ち良かったですね。

 まあ、このへんの既にある程度評価されているものは、僕たちがなにもしなくても勝手に伸びていくでしょうから、それぞれで頑張って頂くということでw

 うさぎめ……いつか潰す!

 はい~、じゃあそれ以外の作品からそれぞれに推しを三つずつね。

 読者選考通過作品外すと、かなり絞られるな。

 僕の推しは、コンチェルト、易水悲歌、恋人同士な僕たち、の三作品。

 ぼくは、コンチェルト、易水悲歌、ばあれすく、です。

 ぼくは、コンチェルト、易水悲歌、限界集落オブ・ザ・デッドの三作を推します。

 これは……w

 三人とも推しているのがコンチェルトと易水悲歌ですが……並びてきにもコンチェルトで確定かな?

 コンチェルトはね、ちょっと頭一個分抜けてる感じあったね。

 またどこかの馬骨に横から張り倒される展開w

 ぼく、実は審査の前にちょっとだけ読んでて、1話のさわりを読んだ時点では、そこまですごいと思わなかったんですよ。

 冒頭はちょっとしつこさがありますね。

 ルビとかね。ちょっとアクが強い。でも、3話~4話はそういうの通り越して、他の作品とは一段レベルの違う描写ちからを感じたね。あ、これすごいわ、持ってかれたわって感じ。

 演奏の皮を被った異能力バトルでラノベてきな面白さもある。マニアを納得させながら一般にも訴えかけるバランスを両立させています。

 序盤の低速感というのはやっぱり語り手が弾いたり聞いたりしている音楽・演奏に関して具体的にどう、というのがあまり無いからなのかな、という所にあると思います。語り手自身が音楽のよさをうまく言語化できてない感じがあり、それが終盤の目覚めとして現れるんじゃないか、世界が開けた感じがすごいなと思うんですよ。

 一人称小説だから連動しているんですね。訳も分からず視野狭窄的に頑張っていた幼少期があって、本当に音楽に目覚めて視野が爆発的に広がる瞬間。溜めて、爆発。

 ぶっちゃけると、いちばん最初のレズシーンがなければ、だいぶハードル下がると思うんだよね。

 そこは作者の性癖なのでやむなしw

 キャラのイメージなんもないとこでいきなりは、ちょっと敷居が高いね。4話くらいになるともう大丈夫なんだけど、もうちょっと取っておいてって感じがw

 

 さて、それでは次に金賞と銀賞の選定ですが。

 金賞は、この流れだと易水悲歌ですか。

 異論ありません。

 易水悲歌はよかったね。前回から、虎ニキはうまいなあと思ってたけど、まさか歴史もので爆発するとは。

 まずカクヨムの現状を見て歴史ジャンルに的を絞ってきた戦略と、それを実際にやってのける地力が素晴らしい。もともと歴史には強かったんだろうけど、たぶんwebだったりラノベだったりでそれをやっていいって発想があまりなかったのでしょうね。以前から、素はわりと固めの文体なのに、無理してライトに仕上げている印象が少なからずあったのですが、易水悲歌でようやく全てがカチっとハマった感じがあって爽快です。

 易水悲歌やコンチェルトなどは、他の人がやっていない分野に挑戦していて、しかも世界観がしっかり構築出来ているところが凄いです。

 歴史ものって、わりとメジャーどこはやりつくされてる感じあるじゃないですか。たくさん調べなきゃいけないし、やろうと思っても先行作品の劣化版になりがちで。そういう意味で、易水悲歌のおもしろいところは、荊軻っていう名前はメジャーだけどなんかちょっと変なイメージもたれてる人物に焦点を当てたとこにあると思うんですよ。

 刺客・荊軻ではなく、ひとりの人間としての荊軻を描けていますよね。

 荊軻って始皇帝の暗殺に失敗した人ってイメージだけど、別に生粋の暗殺者じゃないし、剣術がすごいわけでもないんですよね。そういう史記の記述を逆手にとって、声で闘う人っていうキャラクターをつくったのは、お見事という感じ。

 

 銀賞一本は限界集落かな。僕はどうせ他も推してくるだろうと思って外してたんですけど。既に運営砲でカチ飛んでいるし。わざわざ僕が推すまでもなく君は充分でしょ、みたいなw

 正直、恋人同士と迷った。

 独自の世界をつくってる、という点で、ばあれすく、限界集落オブ・ザ・デッド、ニャクザ、恋人同士な僕たち、幻想都市百景あたりの中でどれを選ぼうか、と悩んだんですけど、限界集落は初小説ということなのに申し訳ないんですけどゲスな話PV数とびぬけてるので、他のところに光を当てたほうがよいのかなと。

 幻想都市もいいんだけど、ちょっとまだ序盤すぎる感がね。

 僕も幻想都市と、あとミスセブンブリッジも悩んだのですが、完結させて次回大賞を目指してほしいなってことで今回は先送りです。

 銀賞一本、限界集落で異論ないです。

 うむ。

 もう各所で褒められまくってて充分だとは思いますが、ゾンビものっていう散々やりつくされている枠組みの中で独特なドラマを生み出した発想は見事なもの。小説としての完成度はやはりまだまだ荒削りなところもありますので、今後も上を目指して頑張って頂きたいという思いを込めて、銀賞ですね。

 寿命間近のじいさんばあさんが名もなき人まで印象的で活き活きしてましたね。

 もし漫画化とか映像化されたら絵面ひどいことになりそうだけどw

 ケイは美形であってほしいなー、一服の清涼剤。

 ほんとそれ。

 

 あと銀賞一本、僕はどうしても恋人同士な僕たちを推したいんですよ。起爆くんに関しては、ちょっと自分でもフェアに見れてない可能性はあると思うのですが、それを差し引いても良いものを書き上げたなと。

 よろしいかと。第一回のと比べてみたらいちばん成長してるんじゃないですかね、彼は。

 一言に閉塞感ある地方といっても限界集落と恋人同士でまったく別物に仕上がっていて面白いですね。異論ありません。

 書いてる気配があまりないのになんで成長するんですかね……?彼の場合は周辺に影響されやすいので、周りのレベルが上がってくると自然とレベルが上がるみたいなところがあるのかな。

 なにそのSAGA方式。

 小説らしきものを書き始めたのが約1年前の第一回本物川小説大賞で、そこから今、こんだけのものを書けるようになってるわけで、この賞を象徴するような作者。

 趣味の創作小説を続けていく上では、自分のモチベーションを維持したりお互いに影響しあって高めあっていける環境を整えることも重要になってきますから、本物川小説大賞としては今後とも、こういう子をどんどん拾い上げてジャカジャカ輩出していけるような賞でありたいですね。

 

 予告編……?

 

 ちょっと、予告編というか、今後の本物川小説大賞についてなんですが。

 お、なんかあるんですか?

 さすがにレベルが上がりすぎていて本来の素人KUSO創作甲子園という色合いが薄れてきてしまっていて、一度原点回帰したいなという思いが個人的にはあります。

 原点回帰。

 「小説とか書いたことないけど、なんかやってるから書いてみるわ」と思ってもらえる賞でありたいよね。

 まさに。なので、小説を書く基礎力や総合力よりも、もっと素人でも発想一発でワンチャンあるで!みたいな感じにしたくて、とりあえず次回は10000文字未満しばりなどのレギュレーションをいくつか導入してやってみようかなと、ふんわり考えています。

 次回、乞うご期待、と。

 まあ、詳細は追ってということで。ひとまず、第三回本物川小説大賞は、大賞 コンチェルト、金賞 易水悲歌、銀賞 限界集落 オブ・ザ・デッド と 恋人同士な僕たち、に決まりました!評議員のお二方ありがとうございました!

 ありがとうございました。参加作どれもそれぞれ個性があって、面白く拝読しました。

 お疲れさまです。

 以上、闇の評議会、議長の謎の概念でした。

 謎の相槌でした。

 謎のねこでした。

 これにて闇の評議会、解散!撤収~~~!!

 

 本物川小説大賞 新天地編 カクヨム入植大会 - Togetterまとめ