第三回 本物川小説大賞 カクヨム入植大会 大賞はくすり。さんの「コンチェルト」に決定!

 

 新小説投稿サイト カクヨムのオープンにあわせて、平成28年3月ころから4月15日までの約1か月半にわたって開催されました第三回本物川小説大賞カクヨム植大会は、選考の結果、大賞一本、金賞一本、銀賞二本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

 大賞 くすり。「コンチェルト

f:id:kinky12x08:20160503195658p:plain

くすり。 (@ksrsrsr) | Twitter

 

 受賞者のコメント

 名誉ある本物川大賞をいただくことができて大変嬉しいです!これからも大澤めぐみをキュン師と仰ぎつつ、グレートかわいい小説を書いていきたいと思います!本当にありがとうございました!!

 

 大賞を受賞したくすり。さんには、副賞として本物川の描いたイラストが授与されます。好きに使ってもらっていいんで勝手に出版して下さい。

 

 金賞 左安倍虎 「易水悲歌

 

 銀賞 ロッキン神経痛 「限界集落 オブ・ザ・デッド

 銀賞 起爆装置 「恋人同士な僕たち

 

 というわけで春の素人黒歴史小説甲子園 第三回本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのはくすり。さんの「コンチェルト」でした。おめでとうございます!

 

 以下、闇の評議会による講評と大賞の選考過程のログです。

 

 全作品講評

 

 みなさん、こんにちは。素人黒歴史KUSO創作甲子園、本物川小説大賞も第三回となりました。闇の評議会、議長は前回に引き続き、わたくし謎の概念が担当させていただきます。また、評議員は前回から引き続き謎のねこさんと、もう一名は新たに謎の相槌さんを迎えまして、合計三名の評議員の合議により大賞を決定していこうと思います。

 謎の相槌です。
 謎のねこです。

 それぞれ得意とするジャンルや好みの異なる三名による合議ですから、それなりに中立性、公平性は確保できるのではないかと思います。なにしろ元手ゼロの素人KUSO創作大賞ですから、現実的に、これ以上の公平性の担保は実現が難しいところがありますので、まあ色々あるかもしれませんがひとつご了承いただきたいということで。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

  さて、それではひとまずエントリー作品を概ね投稿された時系列順に一通り紹介していこうと思います。


 まずは不二式さんの狼少女と羊のプリンス。飢えた少女たちの花園、超能力者女学園へ無理矢理転入させられた石油王の女装美少年を中心としたドタバタラブコメディてきな掌編です。5000字未満というコンパクトなボリュームですが、テンプレ展開や桃色や青色の髪などのアニメ的なインスタント描き分けを上手に使って、少ない文字数の中でそれなりに各キャラを描き分けて起承転結をつけているのはなかなかテクニカルですね。ひとむかし前はよく見られた16p読み切り漫画みたいな感じ。

 気軽に読める作品、と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが、気軽に読めるようリアリティ・ラインを巧みに設定・提示するというのは、これは意外となかなかできることではないのではなかろうかと思いました。今作『狼少女と羊のプリンス』では、冒頭でえがかれる主要人物のさまざまなヘアカラーに代表される容姿ですとか中盤以降で明かされる転校生の正体などにより、よい意味でマンガ的な世界が提示されて、書かれたことをありのまま楽しむ態度を読み手に取らせるような導入・展開がなされていて、そこがすごい。

 超能力があることで、話がサクサク進みます。しかも石油王だから無条件で女の子にモテる。実に話が早い。こまけぇこたぁいいんだよの精神です。描写も冗長過ぎず適切で、読みやすく、さらりと最後まで読めてしまいます。ただ、ラストはちょっとありきたり過ぎるのでは? オチにもうひとひねりあれば、ワンランク上が狙える作品だと思います。


 つぎは、まくるめさんのジャガファン ジャガイモ以外全部全滅。昨今の異世界転生ブームに一石を投じる意欲作。なのかな? ただ単に好きで書いてるだけな気もします。どこかで見たような聞いたようなテンプレ場面が次々と出てきますが、徹底的に主人公に都合良くはいかず斜め上の展開になり、でも一周回って結局ラッキースケベ! みたいな感じ。ただ昨今の異世界転生モノに不満を垂れるのではなく、それを実際に異世界転生モノという枠組みの中でやってしまって作品でツッコミを入れていく、そのうえ面白いのだからかっこいいですね。文句があるなら自分で書いたほうが話が早いの好例。まだ序盤でジャガイモの謎も明らかになっていないので、これからの展開に期待したいところ。

 永らく差別されてきた種族柄なにかにつけ「差別か?」と詰めるコボルトの召喚士ですとか、学者さんのウッドエルフが解剖時に勢いよく出る血をたぶん瀟洒な公園にある噴水とたとえたりするところですとか、各人各種族の価値観がなかなか面白いなあと思いました。着眼点に感心することしきりで、どつきあい漫才のなかで種族間の寿命の違いにより旧支配種族と元奴隷種族とであることなどが会話の中で出てきたりと、こうしたコミュニティや種族間のギャップがクローズアップされたりするのでしょうか。続きが気になりますね。

 異世界転生ものにソフトエロを加えたコメディ。ひたすらくだらない与太話みたいなものが続いていくのですが、そこがこの作者の強みなのでしょう、一つひとつの話が笑えるものになっており、するすると読み進めていくことができます。しかしながら、展開の遅さはかなり気になるところ。8万文字でまだまだ序盤も序盤、話の全体像はまるで見えていません。Webの異世界転生ものはこういうものなのかもしれませんが、個人的にはもっと展開がほしいと感じました。


 第一回本物川小説大賞、大賞受賞者のDRたぬき遺伝子ファッショナブル。遺伝子操作が誰でも安価で手軽にできて当たり前になった未来の話。受賞経験者だけあって、さすがに安定した文章力と描写力、なにより連載は現在二章の後半で総文字数が12万字超えと、素人KUSO創作に一番大事な安定して書き続けられる体力が素晴らしい。次は見せ方というか、話の構成力を身につけていってもらいたいところ。本作も「遺伝子操作がカジュアルにファッション感覚になった未来のお話ですよ」というのを冒頭の地の文でまず説明してしまっているので、しょっぱなから掴んでいく求心力などの面ではちょっと弱いかなという気がします。たとえばですが、まず何の説明もなしに一章最後の戦闘シーンから始まり、そこから冒頭に戻って世界設定説明、みたいな感じで多少構成をいじるだけでもかなり見え方が変わってくるのではないかなと思います。

 一話一話、アクションだったり初々しい青春模様だったりが盛り込まれてボリュームがあります。町の何気ない一風景を拾い上げて、それがしっかり世界観をひろげたりドラマを前進させたりする小道具になっているところは、『感傷的な季節の日々』での経験が活きているように思われますし、獣の特性や職種を活かしたアクションは、色々なメカや武器の登場する『True/False』のバリエーション豊かな各バトルでも見られた良さです。といえども、一章に限って読むと、各話をまたいで貫くような縦糸が少しよわいのかなというような思いがあります。各バトルはバリエーションがあれど独立しているきらいがあるように思えました。

 かなり長期にわたって連載されている、たぬきくんの作品。それだけに、書かれたのが一年近くさかのぼる第一章は、かなり粗削りな印象が強いようです。一人称で主体となる人物ががめまぐるしく入れ替わる書き方は、夢枕獏が『餓狼伝』で使っている手法で、心理戦でもある格闘シーンを多角的に描くことを可能にするものですが、相当使い方を限定しないと奇妙な印象が出てしまいがち。視点を入れ替える必要性が強くないところでは使わないようにしたほうが、効果がありそうです。

 

 つぎ、ポンチャックマスター後藤さんのばあれすく~声優の生まれ方~ポンチャック文と自ら称する独特のリズムと力強さと、なによりも速力を売りにしているポンマスさんですが、本作はわりと真正面からのちょっとイケてない青春小説のフォーマットを踏襲していて、従来のポンマスさんの芸風に慣れ親しんだ人には逆に意外な感じがあるのではないかと思います。おそらく、自らの経験に根差しているからでしょう。描写にリアルな質感があって、イケてなさやダメっぷりを客観視しながらも、嫌いにはなれない。そんな主人公の愛着や愛情みたいなものにも素直に共感ができます。webで爆発的に大人気! となるタイプではありませんが、いぶし銀の名作。

 傍目のパッケージに反して、扱われる中身は結構に重たく、先行き見えない専門学校生の駄サイクルについて。なかなか大変な話で、とても面白く読めました。ショービジネスのプロ志望者によるお話ということで、自分の表出する場面が要所要所にあり、それが学年初めの自己紹介から印象的なかたちで描かれています。自己紹介シーンは単体でも面白いですが、それが内輪から外へグレードアップするショーをつうじて形を変えつつ登場し、ラストに至るまで一本幹のあるしっかりしたストーリーが構築されているなあと思いました。様々いる個性豊なキャラクタの個性はそのままに、一つの作品を完成させようと協力して歯車が噛み合って大団円へと進みゆく流れはとても感動的です。

 軽快な文章で各所に読者を楽しませる工夫が凝らされている作品です。随所に、いやいやありえないでしょう、でももしかしたらこれって実体験? と思わせるエピソードが盛り込まれています。ただ、特に序盤のストーリー展開が起伏に乏しく、「声優専門学校の生活ってどんなものだろう?」という興味だけで読者の興味を引っ張り続けるのは、いささか厳しいように思います。リアルさと奇妙さの中間で、破天荒な作者の発想が殺されてしまっているように感じました。

 

 つぎもポンマスさん、インタビューインテグラ。大丈夫? コーヒーでも飲む? これぞまさにポンチャック文! これはね、すごいです。とある事件の関係者に順番にインタビューしてまわる、飽くまでそのインタビュー記録である、という体裁なので、作品世界内の彼らにとっては「あの事件」は既知のことであり、読者に対してそれをわざわざ説明することはありません。作品世界内の彼らにとっては誰だって知っている「あの事件」について、読者はインタビューを読み進めることでうかがい知って行くという趣向。しかし、なによりもすごいのは「あちら側」の人たちの台詞まわしの息づかいまで聞こえてきそうなあまりのリアリティでしょう。二人目まで読み進めればガッチリ引き込まれ、三人目で完全にノックアウトされてしまい、ただ文字を読んでいるだけなのにこちらまで変な動悸がしてくるくらいです。惜しむらくは、ミステリーと銘打っているわりには読者がスッキリと「ああそういうことだったのか」と納得できる綺麗な解決編が用意されているわけではないので、カテゴリエラーかな? というところ。サスペンスかな?

 老若男女さまざまな語りが面白かったです。当事者として踏み込むか、踏み込まず外野にいるか……そういうアクションは『ばあれすく』でも特徴的なかたちで出てましたが、こちらは踏み込んだ先が底なしの泥沼なので、何ともひどい事態になっていきます。

 殺人者の周辺の人間に同級生がインタビューして回るという構想は、それ自体刺激的でおもしろいものです。同時に、非常にハードルの高いテーマ設定でもあります。殺人という禁忌に対して、その是非を正面から問いに行くことになるわけですから、作者の倫理観はもちろん、その哲学や、どこまで深く物事を考えられるかといった根本的なことが、如実に表れてしまいます。そうした意味で、この作品は序盤、読者の期待に十二分に答えてくれます。特に3人目の不良は非常によく描けており、真に迫るものがありました。ただ、この一話が際立ってよく描けていたのに対し、ここから先は登場人物がかなり類型化されてきて、現実味が失われているように思えました。森の母親との関係は、プロットとしては成立していると思いますが、この作品の序盤のリアリティを考えると、荒唐無稽な印象が否めません。必ずしも主人公を殺人の因果と絡める必要はなかったようにも思います。作者の力は本物だと思いますので、あまり表面的なエンタメ性を追わず、大きなテーマにガチンコで取り組めば、さらに一回りも二回りもパワーのある作品が書けるように思います。

 


 Bobomind愛の傘下。えっと、読みましたけど、小説大賞なので小説というフォーマットを踏襲してもらいたいと思います。自分語りではなく物語を。

 ツイッターでたまにお見かけするbobomindさんのイメージは、頭部をアルミホイルで守って日々陰謀と戦っている御方で、今作はその劇場版という感があります。140字ではどうしても断片的にならざるをえなかったところが、文字数制限のない長文となったことで緩和されたところがあり、なるほどなあという感じでした。自身について、客観視をまじえた理路だった確認がなされ、時折あるあると頷く素描や、時折なるほどと思う考察や比喩が覗きます。一方で、二三段踏み飛ばしたような「?」となるところも幾らかありますが、書店にならぶものでない文章ならこの程度の飛ばし方はあるだろうというようなものです。

 提示される知識やアイデアの断片は、それぞれがおもしろくなりそうな予感を感じさせるのですが、まだ本編が始まらないような印象です。

 

 しふぉん美少年掌編小説集。蒐集癖は前回の本物川小説大賞で銀賞を受賞した短編。同様のコンセプトを踏襲した短編を集めた短編集というパッケージングで、敗北、パズルのピース、暴君、の三つのエピソードが追加されています。相変わらずの幻想的で耽美な圧倒的筆力。すべてに共通しているのは美しさと力強さを兼ね備えていながらも、常に死や破滅といった雰囲気を纏っているという部分。危ういバランスの上に奇跡的に成立しているものこそ美しさなのだ、みたいな拘りが感じられますね。自分の信じる美しさというものを様々な角度から描いてみようという意気込みが見てとれます。

 お偉い男性が蠱惑的な少年に掌で転がされる話を、キャラや場所や時代を変えてつづっていく連作集です。新作のうち二作は第一作とおなじく現代劇なのにまったく別物に仕上がっており、面白く読めました。『敗北』は、独特の競技の勝敗などの大きなところに変化があるハッキリとした転落劇で、これが一番おもしろく読めました。『パズルのピース』ではそうした大きなところの変化がない中で、小道具によりうまくコントラストを作っています。反芻すると味わいぶかくなるタイプの作品。『暴君』ではそれまでの3作と違い少年側の視点から描かれていて、ハイソサエティな気品がある前3作にたいして『暴君』の彼の"王国"は出会い系SNSをつうじて知り合った人とそこらのラブホテルで作られるもの。これまた幅が出てきたなあと面白く読みました。

 この作者の美少年小説はじつに実用的にできていて、特に「暴君」の少年は魅力的。少年が犯される側でありながら高圧的で、快感を貪欲に求めるタイプのストーリーの場合、最終的に少年が犯す側の男に屈服してしまうことが多いですが、この作者の場合はむしろ犯す側の男を支配してしまうパターンとなっており、好みの問題もありますが、こだわりが感じられ非常に好印象。敗北は、シリーズの中ではややコメディ色の強い作品です。古典調の文体も意外と相性がよく、うまく成立している感じ。ただ、コメディ色の影響もあり、第一作に感じられたような迫力には及ばないようです。今回は短編集での参戦で、第一作ほどの迫力には及ばないものの、安定して高い質を維持しています。次回はぜひ、一作入魂の大作を読みたいと思います。


 左安倍虎弥勒的な彼女。第一回大賞ではよく見られたなつかしの本物川小説フォーマット。川子はヴォル子さん世界の脇役なので本物川小説でもないけれど、なんというか、コメントに困りますね。ツッコミ不在の全員ボケで話が進んでいってしまうので、ポカーン感がちょっとある。ツッコミ役をひとり用意しておくと親切かもしれません。

 題名にもなってる仏教ネタで導入から中盤から幕引きまでしっかり固めて、これはエレガントだったと思います。ヒロインを仏像趣味と設定してノートラップでダイレクトシュート。もともとが誕生日プレゼント小説という私的なものなので、よそから見ると解説が必要だろう謎の教団やらが短編としてはなかなか困りものです。再投稿時にカットして独り立ちさせてしまってもよかったかもしれません。

  懐かしいにおいのする本物川小説です。第一回は本当にこういうのがたくさんあったのです。学校がカルト教団化しているというシチュエーションはなかなかおもしろそうですが、そうした意味では本作は未完成も未完成。掌編としてももう一歩踏み込みがほしいところです。

 

 どこもくん、ホットチョコレート。デデーン(効果音) 死亡確認! まあこら垢BANもやむなしやろなぁといったところ。1BANされてからが本番です。頑張りましょう。

 ちょっとカクヨムの垢BANは闇すぎるんでなんとも言えないアレですが、どこもくんはこれで垢BANのラインを見切ることにより、のちのぴゅっぴゅさんを生み出したと考えると、いわば伝承法でソウルスティールの見切りを受け継がせたレオンみたいなもので、本作の意義は大きいといえますね。

 愛がアップ!(クルクルピコーン!)

 第一回から参加の歴戦のかたですから、これでへこたれることなくBANBAN新作を投稿して下さることでしょう。

 はい、次いきます。


 既読東京ニャクザ興亡禄。猫たちのヤクザ社会を舞台とした極道もの。中身は完全にハードな骨太任侠ストラテジーなのですが、なにしろ猫なのでところどころでクスリと笑わされてしまって、普通だったらシリアス一辺倒になりがちなストーリーを上手にライトに仕上げています。特に一章の終わりの「にゃーん」は秀逸ですね。猫だということをすっかり忘れてストーリーに入れ込みきっているところで冷や水を浴びせかけるようにやっぱり猫。たぶん、意図的なものでしょう。場面描写というのがほとんどなくて、全てが読者の想像力に委ねられているので、読者によって猫たちはリアル猫だったり、じゃりん子チエみたいな二足歩行の猫だったり、犬のホームズみたいにほぼ人型で服まで着ていたりと、描画に幅があるのではないでしょうか。童話などでよくある「北風が太陽に言いました」みたいなやつ。いや、それどういう状況だよ、みたいなの。ついつい自分の想定する場面を説明してしまいがちですが、敢えて説明しない。そのため、結果的にストーリーが物凄いスピードで展開していくことになり、この文字数にしてはかなりの規模の物語を見事に取りまわしています。

 とにかく端的な言葉と物語でぐんぐん展開していき、第一部だけでもとても巨大な時空間を形成していると思います。すでに描いた場面でも別角度から照射し直されたりして物語は複線的。情報提示がまた秀逸で、イタリア系から中国系まで幅広いニャクザ社会を描いて「ああ猫の話なんだな」と読者にフレーミングさせ、バトルについても腕に覚えある猫らのタイマンに始まって中国系の一幕で「相性や奇襲はあれども基本的にはどちらが身体的に優れているか、力比べだな」とフレーミングさせたところで、突如として力比べでどうこうなるものでない事態が引き起こされたりして、巧みなストーリーテリングに転がされっぱなしとなります。猫社会に広がるマタタビ汚染というアイデアを、効用はどんなものか・どういった利用があるか・扱うキャラの流れから何から何までしっかり考えたうえで、バトルや縄張り争いやドラマなど物語の中に様々なかたちで盛り込んでいって、更にどれをどの段階で表にするかといった所まで考えたうえで制御している感があり、なんとも凄い。バトルはキャラの一長一短の特徴やその場の地形効果を活かしたもので単体で面白く、他とあわせて見ると更により凄くなり、その戦いかたにはキャラクタの性格・バックグラウンドなどが乗って来ます。

 まぐろ。

 はい。


 ヒロマル 妖怪彼女~べっぴん毛玉セミロング~ 人と妖怪の恋愛もの。細かいほんわかエピソードの積み重ねなので、エピソード集みたいな体裁であまり小説という感じではありません。後半のひとつ大きなエピソードに関しては通常の小説っぽいかな? webだとこれくらいのパッケージのほうが逆にいい、みたいなところはあるかもしれませんね。小粒ながら、じんわりと温かい気持ちになれる良作。

 かわいらしい連作掌編集。一つ一つオチがついて読みやすく、人間と妖怪の生きている歳月の違いなど様々なトピックが盛り込まれて面白かったです。今作はもともとツイッターに投稿されていたものということもあって端的。ほんわかとした会話劇が主体のところで、終盤のこわい展開では無言で闇が広がっていくさまが描かれて、そうしたコントラストも素敵ですね。

 日記のように短い文章で日常のシーンを切り取りつつ、うまく物語を構成しています。とても読みやすく、最低限の要素で無駄なく構成されており、作者の高い技量が読み取れます。惜しむらくは、あまりにもきれいにまとまっており、意外性が薄いこと。もうひとつ大展開があれば、上位に食い込める作品です。


 大澤めぐみ ひとくいマンイーターカクヨムの大賞のほうに出したおにぎりスタッバーが全然ランキングに当たりも掠りもしないので慌てて書いたおにスタの追加エピソード。書きあがっていない状態から、毎日書いたはしからアップロードしていく連載というのは生まれて初めてだったのですが、なんとか書き上げられて良かった。変な脳汁が出ますね。

 面白かったですがいかんせん追加コンテンツです。個人的には最低でも『おにぎりスタッバー』シリーズのおにぎりスタッバーは読んでおかないと、面白味が減じるところがあると思います。また、この0話で明かされたバックグラウンドを読むことで、本編1~5話の行動がより味わい深くなったりします。それはそれとして、『ひとくいマンイーター』単体でも面白く、事件記事調の堅い文体が登場したりと工夫があります。また、作者がハマっている戦車ゲームがしっかり物語にからんで重要なピースとなったりする辺り、大澤さんのMOTTAINAI精神が表れていて感心します。すごい。

 おにスタシリーズは、一作品の内でさまざまなジャンルの要素が詰め込まれた作品。処女作には作家のすべてが詰まっていると言いますが、この作品も作者にとってのそうした作品になるのではないでしょうか。これからの活躍に期待。


 karedo 哲ちゃん死ね。前回、金賞受賞のkaredoさんの恋愛掌編。ああ、こういうのも書けるんだっていう感じで、作風の幅に驚きます。甘くもないしほろ苦くもないし、なんとも言えないこの気持ち。やはり一番近いのは「死ね」でしょうね。哲ちゃん死ね。

 カタコトになってしまう異常事態に始まって、カタコトがふつうのさかしまな世界へ辿りつく、何気ない単語が伏線になっていくところが巧いですね。はじめ、階段機知やイメトレなどを多分にする主人公による一人称語りのなかで、外部の事実描写や内心の感想もそこから飛躍した回想や空想も一緒くたに出来る地の文の性質をいかしたうまいネタが仕込まれているなあと思いました

 この作者には珍しい恋愛小説。女の子の微妙な距離感を、ちょっと変な日常風景から、軽めの文体で描いています。コンパクトなサイズで複雑な心理を描いているところは見事。哲ちゃんの魅力をもう少し別の角度から描けると、説得力が増すように思いました。


 kurosawa516 ~カワノムコウガワ~ んーと、なんでしょう。いちおう一話が完結している体裁になっているのですが、全然プロローグというところで、これで物語として出してこられてもよく分からない。自分の取り回しきれる物語の規模感の把握が必要な感じがします。まずはもう少し規模の小さい物語を起承転結つけて完結まで持っていく訓練を積むべきでしょう。

 第一回開催時のかおりがある懐かしい作品ですね。お話としては「妖しい少女が実は……」というヒネリもあって、なかなか面白かったです。河から戻ってきたあとのホラー描写はうすら寒くて素敵です。不在を伝える機械アナウンスの無機質さ。ただ、その前のアクションを交えたシーンについては、せっかく出してきた小道具がどこかに行ってしまうのが気になりました。闇の色濃いところと明示がありそれが物語にも絡んでくる川・川向こうで、懐中電灯を持ってきた大山君が大変なことになってしまうわけですが、電灯については最初に触れたきり以後、記述がなくなります。光が消えることは盛り込んで闇に呑まれた状態をつたえると、ピンチに閃光と爆音を伴ってあらわれる金の剣の金髪の少女の輝かしさがより際立つのではなかろうかと思いました。

 突如現れる化け物、それを撃退する謎の女性、死んでしまったはずの親友が翌朝何事もなかったように・と、ホラーとファンタジーの間で揺れながら今後の展開に期待をもたせる流れなのですが、残念なことにここで終わっています。うまくラストを描ければ、大化けする可能性のある作品です。


 想詩拓 嫁が決して捨てないたった一つのもの。こなれた感じのある恋愛掌編です。文は書き慣れているのでしょう、文章力は文句なし。3000字というコンパクトさにしてはちゃんとオチますし話の大枠も綺麗で良いのですが、見せ方にもうちょっと工夫はできるかな、という気もします。あと、これは完全に個人的な好みの問題になってしまうのですが、恋愛掌編は完全に全てに説明をつけてしまうよりも、すこし余韻を残すような終わり方のほうが好きで、ちょっと後半は説明過多かな? という印象を受けました。主人公が嫁をどれだけ愛おしく想っているか、という部分を、主人公の一人称語りでそのまま「可愛いなあ~」と言わせてしまうのは僕てきには減点。そこを別の方法で表現してこその恋愛掌編ですヨ。

 しっかりオチがついたお話ですね。成人男性による落ち着いた堅めの文体から、歌声のところで顔文字がでてきて、中間字幕みたいな使い方かな、ギャップが面白いと思っていると、地の文でも顔文字や矢印が出てきて「なるほどwebで文章を書いてるていの一人称語りなんだな」と、「発表媒体から目を背けないかただな」と思いました。

 2chのスレを読んでいるような気分にさせる文章です。文章が下手というのではなく、むしろ2ch的な読みやすさをしっかり保持しながら、整った文章で書かれています。作者の技量の高さがうかがわれる作品ですが、2ch的な文章を小説で読むことにどんな価値があるかというと、なかなか難しいところ……。技術点は高得点ですが、もう一歩なにか、こうした「実話風」で書かれることの必然性がほしいところです。驚きのラストが仕組めそうな感じがしつつ、普通に終わってしまった印象です。

 

 らすね クラスの可愛くてオタクの事なんて嫌いそうなあの子を催眠メス奴隷人形にしたい君のために。未完ですね。

 「私――任意のフルネーム」といった語り口を排しているのが凄いですね。催眠にかかって別人になりきり、友人を忘れてしまった被催眠者に自己紹介するていで語り手のフルネームを出したりする……物語の流れにそった情報提示がうまいです。

 残念ながらプロローグで終わっています。催眠術が実際に使える(?)先輩に催眠術を教わってクラスの女の子を・というテーマはうまくまとめられればおもしろいかもしれません。文章自体はやや奇妙な流れがあるものの読みやすく、完結作品を期待したいところです。


 yono 世界の終わりの図書。ちょっとどうなんでしょうね。小説なんでしょうか。詩とかそういうのに近いものと思います。

 雰囲気がよいです。記事のていで描かれた2話も、インタビューに答えるキャラの語尾が「にゃ」だったりと、柔らかですね。こうした良い意味でのとぼけた感じは、なかなか出せるものではなさそうに思います。現時点でも少女と郵便屋さんやその友人の関係などなど、余白のだいぶ残された断片的な構成ですが、あれやこれやの余白が埋められていくにせよ、埋めるつもりがないにせよ、何にしても量があってなんぼだと思うので、どんどん書き伸ばしていっていただきたいなと思います。

 不思議な図書館に住む猫と少女。美しく、想像が膨らむモチーフではありますが、いかんせんまだ何もお話が始まっていません。ぜひ続きを書き続けてください。


 ここの 性欲が強い。美少女→女生徒→男性教師 の三角関係、に一切関係しない女の子が主人公の話。とにかく馬力と速力があります。物語の中心を張れそうな三角関係に主人公はまったく関与せずに、単に巻き込まれてひとりで色々と考えて(客観的には)静かにストレスを溜めるだけ、というプロットの骨子はなかなか個性的で面白いのですが、惜しいのは、自分の気持ちよりも人間関係における義理などのほうを優先して物事を考えてしまいがちな主人公が、自分の気持ちというのを発見して回復していく(のであろう)後半の過程が、息切れして描ききれていないところですね。速力を維持しつつ、心の機微を丁寧に拾い上げることができると良いと思います。

 つらつら並べられた文章を読んでるだけで面白いです。「シルバニアファミリーみたいだな」とか比喩がいちいちすごい。同校のひとびとの三角関係の仲介人板挟み状態も変化があって、ボコボコにできる不細工な彼もいて、同校のひとびとの内心がめくられていって、彼以外のひとにも暴力をふるうようになり、主人公のライフスタイルも崩れていくわけですが、この追い詰められ方がすてきです。はじめは観覧車という遠いどこかの密室で行われていたのが、だんだんと人の目もある生活圏で行なわれていき、それに伴い内内で処理できていたものが外部で問題として対処せざるを得なくなるダイナミズムが凄い。

 もともと非常に高い文章力をもった作者の新境地。リアルな女子高生の日常に、パワーの強い言葉をゴリッと紛れ込ませてくる手法で、何気ない日常を読んでいるはずなのになぜかスリリングで、引っ張られるように読み進めてしまいます。ただ改行はもっと使っても良かったのでは? 読点なしはともかく、改行なしはかえってスピードを損ねてしまっている印象。文体には改良の余地がありそうです。ラストが秀逸で、こんなわずかな描写だけで読後感をここまでさわやかにできるのかと驚かされます。


 不二式 誘拐犯物語 誘拐犯が誘拐した女の子を成り行きで引き取ることになる話。関係性としては面白いのですが、人物描写がまだステロタイプの範囲内に収まってしまっている感じ。もっと一段掘り下げてキャラクターを描いていけるとグッとよくなると思います。

 犯罪者のうえ変態らしい誘拐犯と、誘拐された虐待児童の交流です。あざだらけで擦り傷もある体をスポンジで洗われるとき児童は痛がるそぶりも見せずおとなしくしているようなので、もう一工夫欲しかったです。でなければあまり変態性は出さなくてよかったと思います。それはそれとして、これが「警察」にて活用されるのは面白いところだと思います。「勇気」で見せた管理職ひいては会社にたいする契約社員(主人公)の内なる怒りが、「対峙」の富豪の父と主人公でぶつけられたりして、前述のアザの再活用といい、続き物らしい面白味があります。そうしたところから「いずれ何かしら解決を見るのでは」という思いがありますが、現時点ではエゴイスティックな人物造形が気になります。

 読みやすい文章で、物語も適度なスピードで展開していくため、すっきりと最後まで読めました。ただ、プロットには瑕が多く、例えば、なぜ虐待をネタに金持ちを強請らないのか、5才であれば小学校への入学を考えなければならず、警察の対応があまりに粗雑であるなど、疑問点が多く存在しています。プロット段階の推敲を入念に行うことで、さらにレベルの高い作品が書けると思います。


 いかろす 魔法少女マキナ☆サクヤ 未完ですね。ノッケからインフレマックスの速度感はよいので、是非完結を目指して書き続けてみてください。

 定型に、劇中独自設定をのせることで、主人公のメカに強い人物像を描いていき、そしてぶつかったところで定型から外れるところが気持ちよいですね。しかもこの外し方が、この物語にとっては「この設定ならそりゃそうなるよね」と納得いく自然なものでうまい。百合タグがあるので、今後は主人公とヒロインの交流が描かれていくこととなるのでしょう。いかろすさんの他作『フラジールキャット』も百合でしたが、こちらでは既に付き合ってから結構な時間や経験を重ねた後の二人の様子だったので、ゼロないしマイナスの状態から関係を構築していくだろう今作は新たな挑戦ですね。期待のふくらむ幕引きで、つづきが気になります。

 魔法と科学の融合・というテーマなのか? まだ物語が始まっておらず、コンセプトも見えません。やり方次第でおもしろくなりそうではありますが……。


 左安倍虎 幼馴染はファンタジー警察。いわゆるジャガイモ警察な彼女と創作が趣味の男の子の不定期連作恋愛短編。ホワイトデー式ストーリーテリングが今回の新規エピソード。現実の人間関係の問題に創作で応えていく、という趣向は面白味がありますし、その枠組みのために物語を無矛盾に用意する手腕も大したものなのですが、やはり枠組みのために用意したストーリーという感じが否めないところも。あと、構造の要請でどうしてもある程度の分量の作中作が含まれることになってしまうので、やや冗長なきらいがあります。作中作そのものもそれはそれで楽しめるような工夫があるといいかもしれません。

 二話三話とどんどんヒネリが加わって、右肩上がりに面白くなっていったと思います。恋敵キャラが、主人公や彼女の創作内外の態度について的確なツッコミを入れていってとても広がりが出ました。締めなど、読者と作者とが双方向にかかわりが持てるSNSの投稿サイトらしい要素が活かされていて、そこも素敵ですね。

 じゃがいも警察というのは中世にじゃがいもが出てきたことを怒っているわけではなく、そもそもアイルランドで麦に代わりじゃがいもが主要な農作物になったのは徴税制度の問題で……とつい突っ込みたくなるのをがまんしながら読みました。主人公はWeb小説投稿サイトの人気作家で、リアルの人間関係がその作品の展開に反映されながら、またその作品の展開がリアルの人間関係に影響を及ぼす、という構図は非常におもしろいと思います。ただ、これをうまくかみ合わせるのは非常に綿密なプロットが必要と思われ、現段階ではまだ歯車がかっちりとかみ合っていないように思われます。今後の展開に期待したい作品です。

 

 ロッキン神経痛限界集落 オブ・ザ・デッド。今回のダークホース筆頭です。自己申告によるとこれが処女作らしいのですが、基礎的な文章力、読者を引き込んでいく設定の巧さと構成力、そしてある程度の規模の物語を短期間に書き上げることのできる体力と、全てが一定の水準以上です。オブザデッドというタイトルの時点で読者が「ああ、なるほどゾンビものなのね」という前提で読み進めてしまうところを逆手にとって、ところどころで「あれ?」っと思わせながら、独特な世界設定に引き込んでいくところが非常にテクニカル。リアルタイム連載だったので期日までに完結できるかどうかが勝負の分かれ目でしたが、第一部を見事に綺麗に完結させて、文句なしに大賞候補の一角でしょう。

 冒頭のいぶし銀な恐山さんの仕事ぶりはもちろんのこと、「あぽかりぷすじゃ……」など、ぐっと引き込む話術がよいです。村らしい諸要素の活かしかたも素敵でしたし、劇中独自設定である並外れた膂力をもつ"送り人"の転がし方もまた素敵です。いぶし銀な恐山さんとその家族がまた良いで、都会で失敗した孫が村でほだされ、そこで若さや能力ゆえに危険な所へ飛び込んでしまうなどの村や"送り人"の良い面が裏目に出てしまったりする展開も多々あって容赦がありません。視点人物が複数いて一話一話交代するようにそれぞれの人生を語るような群像劇・ドキュメンタリ的な体裁と、物語に集中させるハードな展開と語り口のおかげで、読んでる評者は階段機知的な雑念をほとんど抱きませんでした。ひと段落ついて離れ離れになった人々が再会したり何だりして、そこで継承と成長の物語として立ち現れてくるラストが、なんとも切ないですね。

 現代日本、人の少ない中山間地域の山村。ゾンビと戦うことを生業とする家系。ありそうで無かったシチュエーションが、緊迫感に満ちた筆致で描かれています。山村が舞台と言っても、閉鎖的な村社会のいやらしさはなく、人と人のつながりの中で生きる人々の強さが際立って描かれており、パニックホラーを基本としながらも、感動的なシーンが随所に挿入され、ドラマとしても楽しめる構成。処女作ということで、用語や表現に粗さが目立つものの、それを補って余りあるパワーをもった作品です。大賞候補の一角。

 

 ヒロマル ブンボーグ009 ~決戦!ブラックボード要塞!~ サイボーグと文房具で韻を踏んだ特撮系小説。奇をてらったところのない、王道のストーリー展開。物語の起点をラストバトル直前にして、それ以前のストーリーは回想や台詞の中で軽く触れられるだけになっているので、webに適したスピード感も出せています。ただ、ブンボーグネタがただの言葉遊びやダジャレの水準に留まっていて、物語そのものにはブンボーグである必然性が薄いのが惜しい。

 特殊技能をゆうしたキャラたちによるハイテクSFアクションで、二万字に届かない分量でしっかりと特異な世界設定やキャラの背景を説明してキャラの対立軸も打ち立てクライマックスに向けて盛り上げてオチもつける、ヒロマルさんの筆力はさすがだなあと思います。今作の目玉は文房具だと思います。主人公とライバルそして黒幕……彼らの特徴はよく出ていたと思うんですが、ほかはどうなのかなというところがありました。たとえば飛行型ブンボーグが輪ゴムということで、「おお輪ゴムな~飛ばして遊んだ遊んだ」と思っていると、ジェットエンジンやら翼やらといった言葉が出てきて「?」となります。エンジンがダメになった後にゴムの張力で最後のひとがんばりするとか、そういう展開もありません。各キャラの思想と演説などとても熱く素晴らしく、作品としても面白かったんですが、自分が思い描くキャラクタの特徴と本編での実際おがめる活躍のギャップと、ヒロマルさんならもっともっと各自の色を出せるよなあという印象とが相乗効果で、作品の出来に反してちょっと乗り切れませんでした。

 四話で00ナンバーズが出てくるあたりから一気にエンジンがかかり、怒涛の勢いで石ノ森ワールドが展開されます。そのトレースっぷりは見事なもので、読み進めるうちに石ノ森絵でシーンが脳内再生余裕でした。ただ、どこまでも石ノ森ワールドなのがこの作品の美点であり欠点でもあるようです。キャラが文房具である必要は、結局のところあまり感じられず、サイボーグ009と違う部分、独自の路線となる点を示しきれていないように思えました。

 

 不死身バンシィ ミス・セブンブリッジ かっこつけなのにどこか冴えない、でも憎めない妙齢の女が主人公のハードボイルド風コメディ。シティハンターみたいなカテゴリかな? 第一話の時点で既に、依頼人は変態、ピンチに陥るも複数居る元カレの誰かの置き土産のおかげで命拾いする、元カレも結局変態、みたいなテンプレが完成していて、三話までお約束通りのテンプレを踏襲しつつ綺麗にオチているので水戸黄門みたいな安心感があります。前回大賞では辛くも入賞を逃したシャイニングポーラスター10連ガチャでしたが、この路線で伸ばしていくともっと面白くなるよっていう課題をきちんとこなしてきた感じですね。続きが楽しみな一作。

 一話について、暴力の起こしづらい状況でどう暴力を起こすか・どう凶器を持ち込むか。この問題に関心のある身としては、劇中独自要素をもちいて解決した今作は面白かったですね。敵群が2種類の凶器を用い、その持ち込み方もそれぞれ別種なのも嬉しいところ。バトルの流れは、「さあバトルだ」と依頼人と護衛が一斉に得物を手に取ります。依頼人は戦前から存在は明らかなれども本来的には武器でないキテレツな商品を即興的に得物とし、護衛がベテランの主人公さえ悟れなかったキテレツな隠し場から暗器を取り出し得物とします。すぱっと端的なダイナミズム、主人公を強く印象づける活躍。顔見世の初回にふさわしい展開だなアと勉強になりました。

 キャッツアイや峰不二子のような美貌の女泥棒・と思わせつつ、依頼主はド変態ばかりで、入手を依頼される品も変態じみたものばかり、という一風変わったコメディ・アクション。手に入れたばかりの依頼品を使って攻撃してくるキャラにはさすがに笑いました。審査時点で3つの事件が公開されており、それぞれうまくまとまっていますが、大きなストーリーはこれから動き出すかどうかというところ。かつての仕事仲間など、おもしろい要素がこれから出てくるようなので、今後が期待できる作品です。

 

 大村あたる 偽愛 恋愛短編集ですが王道ではなくそれぞれにちょっと倒錯しています。前回大賞受賞者らしい高い筆力。幻想的で耽美な作風はしふぉんにも通じるところがありますが、こちらは最後の一行でストンと落ちるオチを用意してくれていて、さらにエンターテイメントにも寄せている感じ。ただ、やはりそのせいか文芸てきな人物の内面描写が大味になってしまっていて、作者の強みをスポイルしてしまっているようにも感じられました。

 ひとびとのバリエーション豊かな趣味嗜好が描かれていて、そのうえ各話に驚きの展開も用意されていてえらいなと思いました。ただ「てことはアレはそういうことだったの!」というような伏線ががっつり利いてくるタイプのものというよりは、「こういう人だったの!」と知らされてびっくりする方向性かなあ。煉瓦を積み上げていく話が好きなのでそうした点から言うと『形愛』がよかったですね。また愛や執着が、見る/見られる関係性のなかで表されることが少なくないなかで、『喰愛』の彼は面白かったです。

 十分な筆力のある作者の作品で、評価すべき点は多くあるのですが、前回大賞受賞者ということで、今回評点が低い理由を詳しく述べたいと思います。まず、今回の作品は、前回作品のリアリティに比べて、ビザールな雰囲気を過度に強調し過ぎているように見えます。登場人物たちはなんらかの異常な嗜癖や性質をもつ人々ですが、各人の内面に踏み込んだ部分は少なく、どちらかというと見世物的な興味が先行しているようです。前回の「でも、女装を着けて」は、女装をする少年の内面が、ごく普通の少年の心のあり方から考えても十分理解できるよう、生き生きと描かれている点がすばらしかったのですが、今回の作品ではそれがうまく生かされておらず、表層的な印象。作者のフリークスへのシンパシーは感じるのですが、もっと一つの人物に的を絞って、深く踏み込んだ方が、強い作品が書けるのではないかと思います。非常に高いレベルの作品が書ける力をもっている作者で、今後の活躍に期待しています。


 ポンチャックマスター後藤コアラヌンチャク地獄拳。もうタイトルで全てです。コアラ!ヌンチャク!そして地獄拳!とびきりの馬鹿をパワーと速だけで押し切って行く剛腕ポンチャックスタイル。乱打されるエクスクラメーションマーク。文字からはみ出しまくりのルビ。理解されるつもりがさらさらなく説明もなくポンポン投入される単語。勢いとパワーだけで完結までの4万字を牽引していくのは流石です。他の人にはなかなかできないパワープレイ。

 どこもさんの小説がハートマークだらけでびっくりしましたが、こちらはビックリマーク連打です。それに加えて、馬鹿ながいルビが振られたりとすごい勢いです。すごい数字も並びますしコマンド入力もあります。次回予告も作者の現況報告的なものもあって、よくわかりませんがパワーがあります。ぐつぐつ煮えた鍋が好きなかたはおすすめできる一作ですね。

 かなり自由な文体によって書かれた小説です。書きなぐられたと言ったほうがふさわしいかもしれません。勢いがあって非常に元気のよい文章ですが、元気がありあまりすぎていて、読むほうにも元気が必要になります。正直、あまり元気じゃない状態で読んだぼくにはけっこう厳しかった……すまぬ……すまぬ……。なんかこう、具体的にどこがどうとか言うのは野暮なので、忍殺と格ゲーが好きな人はぜひ読んでみてほしいと思います。ハマる人はハマるはず。いや、たぶんね?


 DRたぬき 感傷的な季節の日々 不定期連載の短編連作? それぞれのエピソードにはそんなに通底するテーマとかもないので、習作集という感じでしょうか。今回の新規エピソードは深夜、片手にコーヒーを持って、天井を見つめる、花の風物詩の三つ。これといった物語的展開などはないのですが、自らの経験に根差しているのか、描写の質感が遺伝子ファッショナブルよりも全体的に高い感じ。この質感を他の作品のほうにも導入できるようになるとさらに一段階強くなるのではないでしょうか。

 夜に設定されることの多い、個人の静かな内省と風景の素描をおこなっていくような短編集のなかで『花の風物詩』は桜の美しさがきわだちコミカルな会話もある明るい一作です。梶井の有名な一節を思い出して「好奇心が旺盛で時間がたくさんあった若い頃なら試してみてもよかったが」と疲れた様子の語り手が、ベンチで寝る人を見つけたことで、枝でつついてみたりとすこし若返る話で、なかなか面白かったです。

 文体を模索し、迷いながら書いているような印象です。高いポテンシャルをもった作者ですが、どうも自分の得意とする作風を定めきれていないように思われます。一度、じっくりと時間をかけて構想を練り、楽しみながら書けるようなテーマを探してみるのがよいかもしれません。参加者の中でも、今後の作品に最も期待している作者の一人です。時間はかかっても、ぜひ傑作を書いていただきたいと思います。


 宇差岷亭日斗那名 僕と彼女とコンビニと猫 わりとダークホース。タイトルのとおり、僕と彼女(おそらくパン屋の)とコンビニ(の店員)と猫の話です。淡々と出来事を記述していくような文体なのに、不思議な温かさがあって読ませます。最少手数で一通りの道具立てを過不足なく揃えた、朝定食みたいな短編。

 一話、初めの二段落400文字くらいがよく行くコンビニの店員さんのことでつぎの二段落が語り手であるぼくのことで1200文字くらいで、この比率差は何かなと思っていると、「そんなことを彼女の~、食べ物を(動詞)しながら思っていた」で結ばれた言葉の類似に見られるように対称的な二話がきて、リズミカルな語りにつられてするすると最終話まで読んでいき、一話でかんじた疑問が解消されて物語の構造が明らかにされるミニマルな構成が凄いと思いました。

 短編として、とてもきれいにまとまった作品です。ナイーブな主人公の柔らかな語り口から、登場人物たちの優しさが伝わってきて、「優しい世界」を描けている点が見事。主人公と二人の女性の今後にも想像を巡らせる書き方で、続きが読みたくなります。文章を書く力が非常に高い作者だと思いますので、今後もぜひ小説を書き続けていただきたいと思います。次回作の楽しみな作者です。


 コフチェレン 消波小編。ごく一部では消波ブロックキチとして知られているコフチェレンの消波ブロック神話みたいなの。物語そのものを記述するのではなく、それを記述した嘘聖典から世界観を類推させるというのは試みとしては面白いかもしれません。でも、やっぱり小説ではないかな。

 教祖を自称しテトラポットについて啓蒙をしているかたなだけあって、それらしいものが出来上がってます。三編ともそれぞれ文体も工夫していて偉いと思います。外典『テトラポッド誕生の謎』はうさん臭さが増して好きです。是非この外典のような方向性を掘り下げてもらって、テトラポットのおもしろ実話とそのあいだを縫った創作という具合のものを書き連ねていってほしいところです。

 宇宙のすべてが、うん……わかってきたにゃ……そうか、空間と時間と既読との関係は、すごく簡単なことなんだにゃ。ははは……どうして地球にこんな生命があふれたのかも……。すべては、消波ブロックのおかげだったんだ……!


 どこもぴゅっぴゅさん。天才でしょう。ホットチョコレートでBANを食らったどこもくんですが、今度こそ文句なしの全年齢向けで見事現代ドラマ第一位まで登りつめました。これぞ奇襲奇策飛び道具上等の本物川KUSO創作団といった感じ。最近ポンマスさんによるぴゅっぴゅさんの朗読があって、さらにその可能性の拡がりの一端を見せられました。もうさすがに天井だろうと思っていたのにまだまだ進化する。これからも自分で自分自身を規定してしまうことなくどんどん進化し続けていってほしいと思います。

 かわいらしいですね。どこもさんの最近の作品はどこか上品な感じがあって、すごいです。

 まったくけしからん、本当にけしからん、こんなものを書いてしまって、ほんとうにきみはなんというアレなんだね、「カクヨムといえばぴゅっぴゅさん」などという印象がついてしまったらどうしてくれるんだね、まったく、こんなもので人を惑わして、きみは淫魔かなにかなのかね、ええ!? ともかく、どこもくんの次の長編に期待しています。ぼくなんかが評価するのもおこがましい話で、きっとこの人はほうっておいても大物になると思いますが、どこもくんを知らない人のために一言つけくわえておくと、彼の他の作品もぜひ読んでみてください。きっとその異常な才能に驚くと思います。


 佐都一 降魔戦記 ガチランカー勢のトップバッターです。褒められ慣れているでしょうから、辛めにいきます。このご時世に奇をてらわない王道ファンタジーを真正面から、その心意気が素晴らしいですね。昨今の異世界ファンタジーブームというのは世界設定を暗に借りてこられるので省エネ化が可能っていう部分が強いと個人的には思っているんですが、降魔戦記は借りものでないオリジナル世界の地理や風土風習などの設定も作者の中で出来上がっているようで、その練り込みの労力はさすがという感じ。ただ、小説作法として見ると気になるところもいくつかあって、一番気になるのはやはり視点のフラつき。二人の人物が対峙しているシーンで、そのどちらの心理状態も地の文で描かれてしまっている。これはどちらかと言うと漫画的な手法なんです。作者の頭の中にある漫画を文字で説明しているような感じ。小説には小説なりの強みがあって、決して漫画化やアニメ化のための設計図ではありませんから、小説というフォーマットの独自の強みを身につけていくと、もっとグッと良くなると思います。

  一瞬一瞬刻々と変化対応する剣劇から町一つを使って手勢を動かしながら相手の思惑を読みあう集団戦、時間を稼ぎつつ戦い神話の世界さながらのド派手な召喚バトルまで、さまざまな模様が描かれていて凄いですね。強い主人公ら、彼らを知恵や能力で上回りもする敵……白熱するバトルを、盛り上げ上手な地の文がさらに白熱させています。第一章のバトル模様は顔見世的な町での一騎打ち編と、集団戦となる聖なる谷編とがあるわけですが、主人公である王ダラルードとクラッサスとの料理屋で遭遇・名乗りを上げての決闘の顛末からして、それぞれ独自の考えをもって動いています。迫力の戦闘模様だけでなく、ウィットも所々挿し込まれています。ダラルードとクラッサスの果し合いの顛末も面白いですし、聖なる谷のひと幕では、生活を感じさせるウィットが所々出てきてよろしいですね。第4話で、王宮で自分たちの敬愛する王がしゃがみこんだ時に、臣下がそのさらに下の腰を落とそうとする辺りのところが好きです。自身のバックグラウンドを包み隠さず話すクラッサスとなんとなく秘密主義なルカが、危急の事態に即席でコンビを組んだとき飲食物の調理法のことで互いを知り、中断をはさんでもう一戦したときにさきほどの会話から出たセリフを合言葉に以心伝心する関係となっている……この辺の展開が素敵ですね。

 なんとも不思議な魅力をもった作品です。いわゆる中世風ファンタジーの小説として、大きく変わったところはないのだけれど、世界観がしっかりと作り込まれており、これが物語への強い吸引力を発揮しています。読んでいるうちに、だんだん自分もファンタジーを書いてみたいと思わせる魅力をもっていて、断片的に語られる設定から、どんどん想像が膨らんでいきます。ファンタジーの、特に作り込まれた設定が好きな人にぜひ読んでいただきたい作品です。

 

 齋藤希有介 スリーピングマジェスティ 辛めにいきたいところですが、これはなかなか強敵ですね。同じくファンタジーランカーの降魔戦記に比べると、キャラ設定もテンポも世界設定も全体的にライトな印象で、架空のゲームのノベライズてきな部分はありますが、それは作者も敢えてやっていることでしょうから難癖つけてみてもただの好みの違いという話になりそうですし、構成もwebというフォーマットに最適化されていて文字数あたりの物語の取り回しもいい感じです。書籍で読むとかなり駆け足な印象になりそうですが、webだとこれくらいのほうがいいのかな? 兵站や政治に関してもやはり数字のやり取りにすぎなくて質感が薄いというかゲームてきで、好きじゃない人は気に食わなそうですけど、そうか、お前は好きじゃないかって話で終っちゃいそう。ストーリーのほうも飽くまでヴラマンクに寄り添うかたちになっていて、過度に複雑でなくスッと読めます。凝っていたり重厚だったり複雑だったりするほうが偉い、みたいな価値基準に対するカウンターパンチとして成立している感じで、色々気に食わないんだけど評価せざるを得ないってところ。web小説を続けていく上では非常に学びがある内容でした。

 のどかなコメディから始まって、たびたび訪れる眠りによって容赦なく期限の迫るサスペンスを経て、怒濤の戦争模様となっていくのが凄いですね。web小説はわりあい途中で息切れしてしまうか、でなければやたらと長くなる傾向にありますが、カクヨムコンテスト作品ということで一般書籍の一巻本になったときのことを意識されているようなしっかりした起承転結があり、このペース配分に感心しました。構成上はじめは流血沙汰の派手な見せ場がないわけですが、それでもしっかり読ませる面白さがあります。書き出しも印象的で素敵だし、そこから長期間の眠りによる時代変化・意識変化による主人公とのギャップによるコメディ部分もそれ単体で面白かったです。大小さまざまな物事にかかわる長きの休戦と眠り続ける王を抱えた国の動きがほのぼのとした調子で描かれて、こういったディテールだけでも十二分に読ませます。「新たなる騎士たち」で明かされるヴラマンク全盛期の血で血を争う過去もなかなかに凄惨ですごいですし、そこで紹介された逸話の一つである切っても倒れず戦いを挑み続ける家族の姿が、現代のデグレによる猛追のフックとなるあたりもうまい。そうしたディテールが、きちんとドラマのなかで活かされているのがまたよろしいですね。

 10代前半の読者を想定してか、平易で読みやすい文章にするための丁寧な工夫が施されています。話の内容は、国の衰えた兵力を回復させ、外敵の侵攻から守るというもので、内政パートも目的がはっきりしており、違和感なく読み進めることができました。騎士に異能をもたせる華印の設定は、花の名前が騎士のイメージを形作る役割ももっており、限られた紙幅の中でキャラクターの個性を効果的に引き出しています。全体として、非常によくまとまった作品。完成度が高いため、文句のつけどころがあまりないのですが、あえて言えば、よくも悪くもきれいにまとまった作品であり、驚くような斬新さがありません。それでも多くの読者から高い評価を受けられるのは、作者の基本的な技量が高いことと、多くの人に受け容れられるような内容にしようという工夫の成果でしょう。個人的には極めて高評価ですが、本物川小説大賞においては、瑕疵があっても突破力の高い作品をより高く評価したいところで、本作はやや不利かもしれません。

 

 同じく、齋藤希有介 3Pーっす!! もうタイトルからしてひどい。ややお下品路線のコメディ。本文のほうはタイトルに見合うほどの飛び抜けたお下品さはなく、むしろどんどん壮大に展開していきます。スリマジェを読んだ後だったので、ああこういうのも書けるんだっていう芸風の幅に感心しました。作者自身もあまり拘らずに気楽に書いているのか、スリマジェに比べるとwebフォーマットへの最適化もそこまで丁寧にやっていない雰囲気です。作者曰く出落ち作品ということですが、結果的には9万文字の大ボリュームに。書けてしまう人に多い、普通に書くとモリモリ文字数が嵩んじゃうタイプの人なのかな?という感じで、ちょっと冗長かも。翻って、やはりスリマジェはかなり意識してダイエットしてライトに仕上げてきたということなのでしょう。

 あけすけに下品な冒頭からはじまって、タイトルからは想像できない所へ行くので驚きました。作劇も掛け合い漫才するような具合で『スリーピング・マジェスティ』とはだいぶ違うなあと、齋藤さんの引き出しに驚きました。

 同じ作者の「スリーピング・マジェスティ」とはうってかわって、こちらは異能バトルもの。本作でも安定して高い文章力と構成力が発揮されていますが、徒手の格闘描写は本分でないのか、スリーピング・マジェスティの戦闘描写に比べるとかなり大雑把な印象を受けます。全体的にも軽いノリの作品でもあり、作者も肩の力を抜いて書いているのだと思いますが、やはりスリーピング・マジェスティと並べて読んでみると、やや迫力に欠けるのは否めませんでした。


 仁後律人 撃鋼戦輝ガンキャリバーR とにかく長い。現時点で30万字超という人を殺しかねない大ボリューム。やはり長いぶんかなりのスロースタートで盛り上がってくるまでに時間がかかります。しかし、ひとたびイグニッション!するやいなや怒涛の熱い展開。正義とはなにか、というのは初代ライダーから連綿と続く特撮ヒーローものの王道のテーマで、人物の心理描写に特化した小説というフォーマットは意外と特撮ヒーローをやるのにも向いていたのだなという気付きがありました。

 覆面がたやすく剥がれてさっくり身バレしてしまうので大変だなあと思っていると、怪人の存在は生活圏に根差していて、双方の正体がわかったうえでバトル外で変身を解いた怪人と話してみたり、これぞ本物という正義の味方もいたり、そのなかで自分はどうすればよいかという話にもなり、どんどん入り組んでいきます。

 個人的に大好きな作品です。ストーリーは昭和ライダーを思わせるようなやや陰りを帯びた変身ヒーローもの。これを現代のライトノベルがもつ軽くて早い文体で、駆け抜けるように描写していくのですが、この組み合わせがなかなか絶妙。なぞのグルーブ感を覚えながら読み進めていくうちに出てくる「イグニッション!」のキメ台詞が激熱です。仮面ライダーとか好きな人はぜひ読んでみてほしい作品。ちょっと古いんだけど、そこがまたカッコいい。キマイラに対する独特な形容も見所です。

 

 奈名瀬朋也 あさひ色TOPIC オムライス小説。あさひちゃんの成長に焦点を合わせているので作中の時間経過が何年にも及ぶのですが、語られるエピソードは夏に限定されているのが特徴的です。一本のラインではなく、夏だけが断続的に語られる。青い空に入道雲、庭に面した大きな開口部のある日本家屋。日本人なら不思議と持っている「夏休みに帰省する田舎」の心象風景。そういったノスタルジーへの強いこだわりが感じられます。ただ、やはりそういった優しいノスタルジーを描くために過度に濾過されているところがあって、かなりの文字数を割いているにも関わらず表層の綺麗なところしか描かれていないような、個人的な好みの話になってしまうかもしれませんが、僕としてはもうちょっと踏み込んで描いても良いのではないかな、みたいな印象も持ちました。もっと精神的に全裸になるべき。

 小学生の女の子と一つ屋根の下……ということなんですが、本作のヒロインあさひちゃんは大学生であるトキの言うことを何だって笑顔で聞きいれてくれる天使ではなく、小説の外に目を向ければそこらじゅうで見かけられそうな普通の子――つまり嫌なことは嫌だと態度で示すし、その理由は教えてくれないし、そもそも機嫌がよかろうとわるかろうとそんなに口を利かなかったり口を開いてもすぐ嫌味が出てきてしまう、そんな嫌な面も多分に抱えた子。微妙に下手をうってしまったりもするトキと合わせて、等身大の人々のコミュニケーションという感じで、とても良いですね。ただ、そのようなところは小学生編の終盤までの話で、心境を吐露し和解したあとは、あさひちゃんはまじめで素直な良い子へと成長し、そこに明るくまじめで素直な良い子の同級生ほのかちゃんや引っ込み事案でまじめで素直な良い子の年下小学生あさぎちゃんが加わっていきます。小学生編にあったような、ちょっとそこに居合わせたくないような気まずい空気というのがほぼ後退してしまいます。中高生編も良いし、それまでの積み重ねが活かされる展開も用意されて面白いんですが、小学生編が好きなぼくとしては、ちょっと好みから外れてしまいます。

 薄味派のぼくから言わせていただけば、コロッケにソースとか勝手にかけられたら怒りますよ、それもコロッケが大好きならなおさら……。と、なんだか個人的な嗜好でいきなり共感できた作品です。恋愛ジャンルの作品ですが、いきなり運命じみた劇的な恋愛が始まるわけではなく、人と人との基本的なつながり方が丁寧に描かれており、好印象です。今回は小学生編だけに絞った評価ですが、本作の特徴は、出会った時点で小学5年生と大学1年生という大きな年の差だった二人が、8年の歳月を経て、19歳と27歳という恋の成立し得る年齢に至るまでを描いている点。このコンセプトもおもしろく、高く評価できる点です。


 噴上裕也 ケモノの王 これすごい好きです。単純な文章による表現力ではランカー勢の中でもダントツじゃないでしょうか。同じ現代アクションカテゴリでしのぎを削ったニャクザが描写を排しているのとは対照的に、非常に映像的な場面描写で読者の頭の中に強制的に映像をレンダリングさせていくような力強い文章。登場人物もかなり多いにも関わらず、それぞれの書き分けもしっかりしていて深みもあります。場面描写、心理描写、戦闘パートに日常パート、全てが高い水準で、なにがすごいという話ではなく全部がすごい。

 単純にめっちゃ面白かったですね。色々なキャラが現れて次第に点と線が結ばれていくようす、後になって「これはこういうことか」とポンと手をつくような布石の数々。異なる陣営が同じ場につくバトルや対談模様はあれやこれやの権謀術数がうずまいてどろどろとして読んでいるこちらも手に汗握ったり汗が出たりします。場面つなぎも面白く、「ジェヴォーダンの獣-2」に出てきた戦闘準備としての消臭というモチーフがつづく「シャドウゲーム」の幕引きとなったら、次の「勝手にしやがれ」回は、きれいな和室のきれいな顔立ちのキャラを乱すための悪臭で始まります。気心の知れた兄妹の大家族ホームコメディのための一モチーフということで、こうした大きなコントラストも魅力的です。「勝手にしやがれ-1」で「兄弟のうち一人だけ拾われ子だ」などとウソついて喧嘩になるようなどたばたホームコメディが終わると、「2」ではそのウソついた秀徳くんが新入生へ自己紹介を兼ねた自身の名前が大家族のなかでいかに異質かを伝えるギャグなどが場をなごます学園コメディになります。開発地へのデートと、心温まる展開がつづいて急転直下のどシリアスに。先の読めないジェットコースター展開が楽しい。

 ぼく、うさぎにはごめんなさいしないといけないね。審査が始まるまで、実は「ケモノの王」、読んでなかったんだ。でも、読んでみて思った。ニャクザで太刀打ちできる作品じゃなかったって。こんなにしっかり作られてると思ってなかったんだ。いろいろ具体的に挙げてほめたいところはたくさんあるけど、ここではやめておくよ。実際、現代アクション部門で1位とる作品として、納得の出来でした。カクヨムの現代アクション部門は、手前味噌な話だけどかなりしっかり作られてる作品が多いと思います。その中でもこの「ケモノの王」は出色の作品。アクションものが好きな人は、ぜひ読んでみてください。まさしくトップランカーの作品です。


 一石楠耳 剣脚商売 ~現代美脚ストッキング剣豪譚~ 実にガーリー。これはもうタイトルとキャッチコピーが秀逸すぎましたね。ともすれば一発ギャグで終ってしまいそうなネタをひたすら引っ張って10万字以上を牽引してしまう馬力は大したもの。これもどちらかというとニャクザと同じ系統で、描写はわりとアッサリとしていて、主に台詞回し(特に地の文の台詞回し)と丁々発止の掛け合いでもりもりプロットを消費しながら超スピードで物語が展開していく感じ。キャッチコピーでついつい笑って軽い気持ちで読みはじめたら、すごいところまで話が拡がったもんだなぁとしみじみしてしまうような類です。

 序盤は一話にひとり敵キャラが出てきて戦うといったような一話完結的なところから始まって、お話はどんどんと大きくなり、それでいて序盤に出てきたキャラやらがしっかりと終盤まで出張り掘り下げられ長編としての厚味が出てていって凄いですね。

 ほとんど出オチのようなとんでもない基本設定なのに、そのまま突き進んで10万字読ませるという異様な作品です。剣脚商売というタイトルではあるものの、剣客ものというよりは忍者……いや超人プロレス……のような、かなりド派手な戦闘が繰り返され、1話につき1回戦闘がある展開なので、ダレずに読み進められます。ともかくどんどん敵が出てきては退場していき、贅沢にキャラクターが使わていくので、大筋のプロットよりもずっと濃密な内容を読んでいる感覚。アクセス数を見ると1話離脱率がやや高めですが、1話で笑って読むのを止めてしまうのはもったいない。ぜひ2話以降の怒涛の展開も楽しんでいただきたい作品です。


 鈴龍 嫉妬ほど美しいものは無い 三話まで進んでいますが、ようやくプロローグのとっかかりぐらいの感じ。まずは完結を目指して地道に書き進めて下さい。

 句読点の使いかた等に個性のある面白い文章で、読んでいて楽しいです。概ね饒舌な文章です。ただ、ほんの時折なんですが評者にはこれが饒舌というよりも、堰を切った余裕の無い調子として読めるときもあり、突然なにやら空気が張りつめて感じられたりします。異形がでてきたところ(画面を埋め尽くすダッの連打や、ニクイの連呼)は素直にこわかったです。

 残念ながら、序盤で止まっている作品です。人の負の感情(あるいは嫉妬だけ?)が集まってできた思念体がおり、それを除霊(?)する力をもった少女がクラスメートで・というアイデア自体は、うまくストーリーをつくればおもしろくなりそうな感じがします。作品自体も、もう少し進めばおもしろさが出てきそうなのですが。


 槐 すずめの神社 小説ではなくエッセイですね。小学校のころに実際にあった、すずめの神社に関するエピソード。エッセイなので特にすっきりするようなオチもありませんが、なんとなく気になる感じはあるので小説の種みたいな。こういった実体験に立脚して物語を創造すると良い質感が出るのでぜひ小説にも挑戦してみてもらいたいですね。

 学校によくすずめが落ちてくるので土にかえす話です。町によく人が落ちてくるのでバットで打ちかえす、とかそういう話ではありません。文芸誌掲載作品(07年文學界新人賞受賞作)でもそのくらいキテレツで派手なことが起こるので、こういう地味に珍しい体験談が拝める機会というのは草の根インターネットならではやも。抑えた調子で「こういうことがあったのでああいう風にしました。おしまい」という具合の素朴な話にしていて素敵です。だからといって素っ気ないというわけでもない、やわらかくて良いあんばいです。

 小説として完成している作品ではありませんが、何かとても惹きつけられるもののある文章です。「すずめの神社」というモチーフ自体は、それほど特異なものでもない感じなのですが、なんでしょう、ここからすごい物語が湧きだしてきそうなこの雰囲気は。文章自体もこなれており、とても読みやすく、味わいがあります。ぜひプロットをつくり、小説を書いていただきたいと思います。


 ヒロマル 概念戦士・本物川 第一回本物川小説大賞にもエントリーしていた本物川小説。第四話、三十体の偽非概念が今回の新規エピソード。今までは一体ずつ襲いかかってきていた偽非概念が三十体まとめて襲い掛かって来るという打ち切り直前展開。考えなしに四十二とか言うからもー。襲い掛かって来る偽非概念を次々と倒し、倒すや否やその偽非概念の能力を使って次の偽非概念を倒して行くという趣向。ラストの━━スーパー本物川だ!で笑ってしまいました。まだ残り十体程度残っていますがちゃんと完結まで書きあげられるのでしょうか。

 「三十体の似非概念」編からは、それまでに登場した先輩や同級生などなどが絡んだ格段の出来です。バトル前のコミカルな誤解ネタの応酬に感心していると、こんどはシリアスな誤解の悲劇の両面撃ち、追い打ちをかけるように概念バトルでも劣勢に立たされる展開が見事です。ここまで異文化理解・誤解ネタを重ねた末に、ついにシンクロするふたり、そしてまた異文化交流ネタで締める最後がまたにくい。

 うん、そうだよ、こういうのでいいんだよ、本物川小説大賞っていうのはさ……。第三回を迎える本物川小説大賞ですが、第一回のころはこういう本物川が出てくる小説が主体だったのです。第二回からはレベルがかなり上がって、上位層にはかなり本格的な小説が見られますが、本物川小説大賞は、初めて小説を書く人でも気軽に投稿できるイベント。いきなり自分のキャラを活躍させるのはどこか気恥ずかしいという人は、本物川というモチーフを使ってもOK。この作品のように、発想力次第では十分楽しめる小説が生まれるのです。次回本物川小説大賞への参加をお考えの方は、本作を読み、参考としてみてください。

 

 不二式 この世でもっとも恐ろしいもの ファンタジー世界ベースの異種族間恋愛もの、になるのかな? 全体的に暗くて悲壮感漂う世界観で、たぶん悲恋になりそうな予感ですが、まだ途中なのでよく分かりません。ひとまず完結に向けて頑張ってほしいところですが、誘拐犯物語と違って異世界ファンタジーですから、景色の描写などをもっと丹念にする必要があるように感じました。想像してみても背景が真っ白になってしって、場面があまり思い浮かばない感じ。不二式さんは既存のイメージを流用して描写を省略していくのを得意にしているようなのですが、その共通イメージを読者が持てないと一気に真っ白になってしまうところがあって、こういった完全にオリジナルの世界設定をする場合はもっと丹念な描写を心がけるか、いっそ独特な世界設定は避けるか、なにか工夫が必要かも。

 なんとも容赦のない展開が続いて、欝々としてきますね。かわいそうな女の子が閉所に連れていかれて世話をされる……という点では同じく不二式さんによる『誘拐犯物語』と共通するところがあるかもしれません。視点は女の子に重きが置かれ、竜は全容の知れない恐ろしい存在として登場しているところが違いかな。また、階級差種族差からくると思しき軽蔑の眼差しが女の子以外のあちらこちらに注がれて、その辺がまた鬱々とした調子を強めます。これからあれこれ動き出すのかな? という感じで、まだ何とも言えません。

 完結しないと評価の難しい作品です。主題である「この世でもっとも恐ろしいもの」がなんなのか、現時点ではまだなにもわからない状態で、ストーリーについてはほとんど論じることができません。文章は読みやすく、適度なペースで進んでいると思います。細かい点ですが、三点リーダ(…)は2つ並べて使うのが普通です。こうした点は、読者に不要な違和感と、何か意味があるのかなという疑問を抱かせてしまうおそれがあるので、特に意味がなければ、なるべく一般的な形を使うのがよいでしょう。


 大澤めぐみ パーフェクトワールド どら焼き。

 天皇皇后両陛下のたとえとか、思いもよらない凄いところが引っ張りだしてくる語り口が素敵です。何気ない日常的な風景が、しっかりドラマに貢献している。冒頭のお昼の弁当から水飲み場での友達の元カレとの会話そして終盤のカフェと、会話の舞台に飲食物がある所で大体まとめられているのがよいです。語り手の記憶の中のさわやかな春の陽気の桜の下でフリスビーをするズンズンと、現在の語り手が偶然みかけた陽の落ちかけたケヤキ並木で見られる湿気っぽい彼女の対比。元カレと会話の場が前述の通り水飲み場なのは、その子が部活動してる子なので自然な設定ですが、そこに「湿気っぽい」と表される現在の友達の嫌な感じや自己嫌悪する語り手が抱く「残尿感」、二度目の水飲み場で出てくる冷や水を浴びせられるといった慣用句や涙するといった直接的なアクションなど、湿気に連なる言葉が重ねられているところ、そしてオチのどら焼きの挿話を読むに、これも意図的なものなのではないかと思わせるところがあります。自分が完璧と思う世界に出くわすと心のカメラのシャッターを切る語り手に対して、友達の思い出話のなかにあるちょっとした一言「いっぱい写メも撮られたよ」も主客の対比。出してきたモチーフをしっかりドラマに活かす、というところが大澤さんは巧いですね。

 きれいにまとまった短編です。パーフェクトワールド、完璧な世界というタイトルは、逆説的な意味で本作のモチーフとなっており、未熟ゆえの居心地のよさ、そこから抜け出たくない幼さが、女子高生の視点を通じて通奏低音のように描かれます。人は一人で成長するのではなく、周囲の人々の変化に追い立てられるようにして成長していくもの。その残酷さと、そうした現実の中で前を向いて進んでいく女の子の姿が胸を打ちます。この作者の特徴でもあるラストの不思議なさわやかさが、この作品では特に際立って感じられます。


 karedo 幻想都市百景 これはすごいです。描写とはつまりこういうことだ、という感じ。大枠のデッサンだけで物語をブン回していくニャクザとは完全に対局の偏執的な細密画。ぜんぶ嘘のでっち上げなのに、読んだ後にはまるでなにかの知識を得たかのような気分になります。ファンタジーガチランカーのふたりにぶつける本物川KUSO創作団からの対抗馬としては文句なし。物語の進行は遅々としていて、大部分がひたすらに描写が続くだけの幻想世界ブラタモリ、ファンタジー民俗学。三話を過ぎてようやくレギュラー?キャラクターも出はじめたので、そろそろ物語が動くのかな?みたいなところで続きに期待です。佐都一さんと斎藤希有介さんにはぜひ読んでもらいたいですね。きっとKUSO創作勢あなどりがたしとなることでしょう。

 商人らしい目配りがよいです。1話では商品や商品の生産過程や市場の様子が、五感をもちいて描写されます。3話からはバトルも入りますが、商品と機転で戦って、戦後にまた商品の作り方を伝授したりと商談つけとく辺りのちゃっかりした商人らしいキャラの動きが素敵。まるで本当に見てきたかのような細かなディテールが凄い訳ですが、それを抜きにしても語り口・ストーリーテリングが巧いと思います。1話の手をもむほど寒い安宿から、新調したなめらかな手帖の手触りをつうじてその生産地の鮮やかな獣と人の牧歌的な暮らしがつづられ、いざ現地に行くと冒頭以上に手が荒れ放題となる作業風景がお目見えする、各場で"手"のようすを出すところとか。3話の恋人の手⇒短刀の柄を"握る"アクションで繋げたモンタージュなどに見られる、視線誘導の巧みさや繋ぎのなめらかさ。ストーリーの面白さという点では、3話は、旅のガイドのことや彼が賊に転じうる旅自体の危うさ・人間関係やケモノの恐さをシッカリ書いたうえで、実際にバトるのは更にこわい、瞳が星と見紛うような超自然的な魔物って辺りのヒネリが入れられてます。

 都市を渡る商人の視点から、一つひとつの地域を描いてゆくことで、異世界の姿を浮かび上がらせようという作品。作者の安定した文章力が、幻想の街に確かな実在性を感じさせ、作品としての強い可能性を感じさせます。現時点ではまだこれからの作品という印象ですが、基本的な構造は完成されており、コンセプトは成功を収めているように思います。純粋に読者として、これからの展開を楽しみに待てる作品です。もっと話数が進んでいれば、大賞候補となっていた可能性が大。


 左安倍虎 易水悲歌 始皇帝暗殺といえば、小説も映画もこれまでに何度となく作られている主題ですが、本作は「刺客列伝」にも記された荊軻の歌の才にフォーカスし、それを一種の異能のように見立て再編した物語です。本作においても始皇帝暗殺が最も大きな山場のシーンとなりますが、飽くまでフォーカスは歌に合わされていて、言ってみれば史実によって最初からバッドエンドが定められている物語に独自の拡がりと希望を見せています。歴史物という定められた枠組みの中で、新たな物語を紡ぐという真正面からの取り組み。ラストシーンの儚さと美しさがヤバい。

 こういった史劇は、Web小説ではなかなかお目にかかれないのでは。史劇をつづるにふさわしい硬質な文章で、そこに異能を挿し込んでいて楽しいです。史実を知らない評者でも、陰謀と密談やバトルの数々、その間で育まれる師弟愛やら恋愛やらにより面白く読めました。冒頭のどちらが剣を抜いて先に攻撃を仕掛けるかというバトル模様からして良いですし、クライマックスでは主人公vs秦王の対決を扱いつつも周囲に立つ人にコラテラルダメージを与えることで異能の凄さやそれを真っ向から受けるボスの凄さを伝えます。

 『キングダム』や『達人伝』といった、春秋戦国時代を扱った漫画作品が人気になったことから、始皇帝の時代の武将や政治家の名前を知っている人も多くなっていると思います。しかし、史記の中でも特に有名な荊軻に対するイメージは、日本だとまだ暗殺者という暗いイメージが中心。本作は、そうした荊軻のイメージとは離れた、史記に描かれるような、音楽を愛し、士人と交わる風流人としての荊軻の姿をもとにしつつ、「羽声」という不思議な声の力を軸に、歌と最後の暗殺劇とを結びつけ、荊軻の新たな人物像を描き出しています。基本的な文章の力や、史実上の人物を適度に配置する構成の妙に加えて、こうした新規性は高く評価したいところ。大賞候補作品の一つとして推したい作品です。


 DRたぬき 朝霧の廃人、そして猫 適当に出された三つのお題を無理矢理にでも組み込んで即興でお話をつくる、三題噺っていう小説書きの遊びというかトレーニングみたいな、そういうので書いたそうですが、それにしてはなかなかのスケール感です。序盤から中盤にかけて、わけも分からないままに読者を引き込んでいく謎の吸引力がありますが、やはり即興ゆえか後半までそれを維持しきれていない感じはあります。

 1万字程度をさくさく描ける安定した筆力です。謎が謎をよぶ序盤の展開でぐっと引き込まれました。

 序盤、主人公の正体がわからない状態で描かれる、断片的な記憶と廃倉庫での自堕落な生活には、強い興味をひかれました。ただ、中盤ちょっと息切れをしてしまったのか、話の展開を急ぎ過ぎているきらいがあります。主人公の正体については、隠したまま山場まで引っ張ることもできるはず。現在の形では、敵の登場もかなり唐突な感じ。もっと丁寧に進めていけば、上位に食い込める作品だと思います。

 起爆装置 恋人同士な僕たち ボーイミーツボーイ。いわゆるBL。でもすごい綺麗な感じでとても良いです。ねとねとしてなくてサラリとしてて、でもアッサリじゃなくて深みがある。気の向くままに自由に書いているのか、視点人物もコロコロ変わるし、話もあっち行ったりこっち行ったりで僕個人としてはハラハラしながら連載を見守っている感じだったのですが、最後の最後はタイトルまで回収するすごく綺麗な落とし方で、これ本当に天然でやってんのかよってビックリします。つらつらと書いているわりになんとなく連なっている感じがするのは、雑踏京という街への視点が作品に通底しているからで、諦めのような愛着のような、そういう愛憎半ばみたいな地方都市の閉そく感に対する思い入れが感じられます。

 学校の狭さがすごくよいです。行動範囲や交友範囲の狭さ。とにかく人の目が多く、レジャーは乏しく、外食も定番化している。少し時間がずれただけで知った顔が現れるだろう危うさ。カップルの情報は即日知れ渡りアダルトショップでさえいつ行って何買ったかがバレてしまう。それでいて、有名な事柄をニアミス的に知れてなかったり、友達の友達は友達ではなかったりする。各話、多数の人が複数の時空間をめまぐるしく入れ替わり立ち代わり現れるなかで、なじみの顔がなじみのお店で待ち合わせしてなじみでない連れ合い同士がなじみになって、外を気にせず視界に身内だけを入れて話し始める……さわやかで落ち着きあるラストがたまらなく素晴らしいですね。

 非常にむらっけの強かった起爆くんがついにやってくれました。雑踏京という地方都市を舞台に、街とそこで暮らす高校生の様子が、さらりとした軽妙な文体で描かれています。よくある地方都市の風景、そしてちょっと変わった一組の恋人たちと、その周囲の人々。一つひとつの話題は、つながりがあるのかないのか、大きな事件が起こるわけでもなく、ゆるやかな流れの中で話が進んでいきます。


 大澤めぐみ ある日のあいこさん ファンキー。

 すこし不思議なやつですね。ブックオフで本漁りするところでのファンキーな地の文が、途中からスッキリするのが良いですね。面白いじゃない。

 掌編としての完成度が非常に高い作品です。名前が先行してしまいがちな作者ですが、この作者の作品を読むなら、まずこの作品から、ぜひ虚心で読んでみていただきたい。非常に優れた構成力と、軽くてスピード感のある独特な文体をもっています。本作の特徴でもありますが、テーマとしてはかなり感傷的な内容を扱っているにも関わらず、読後感が異様にさわやかなのが、この文体の魅力。今回の応募作の中で、1万字以下の作品に限って言えば、最上位の作品だと思います。


 くすり。 コンチェルト ジャック・ルーシェがプレイ・バッハでジャズとクラシックの融合を見事に成し遂げてから半世紀ほどが経ちましたが、今でもジャズとクラシックの違いと対立、メロディとリズム、楽譜と即興、水と油のようなそれらを融合させる試みはホットなトピックであり続けています。本作は、めんどくさい音楽オタクがめんどくさいオタク特有のめんどくさいオタク語りをすれば、冗長で退屈で衒学的になりがちなこのトピックを、それぞれの音楽をそれぞれの少女たちに代表させ、その人間関係によって描き出すことで、非常にとっつきやすいものに仕上げています。ジャズの天才とクラシックの天才の王道の対立構造。そして、その双方の良さ、素晴らしさを素直に受け止めることのできる「元・現代クラシックの申し子」が、どのような演奏を成し遂げていくのか。続きがとても気になる作品です。

 音楽ものです。いままでの大賞であったかな、題材も珍しいと思いますし、ディテールも面白いです。幼年編序盤の半生ついての描写は事実列挙的なところで極めて抑えたかたちで描かれ、合間合間にはさまれる高校生編は官能的ながら事の前だったり後だったり最中のところを描かない倚音で、それが読んでいるこちらも熱くノせられてしまう、終盤の爆発するような演奏シーンの数々で解決されます。だからといって幼年編序盤がつまらないかというとそんなことはなく、厳しい練習風景、ピアノをやめたあとの医務室図書室の静けさとそれでもふつふつと感情があふれだすように漏れ出る音楽たち、トラウマについても面白いヒネリが用意されています。

 圧倒的な文章力です。ピアノをテーマとした作品ですが、その様相は、音楽と音楽がぶつかり闘うバトルもの。短い文章の中に恐ろしいほどの熱量がこめられており、背筋が震えるほどの驚きを覚えました。登場人物の配役も絶妙で、ライバルたちの造形は極めて魅力的。クラッシックをよく知らない人も、ひとまずよくわからない部分は読み飛ばしつつ、3話まで読んでみてください。序盤はややアクの強い表現が目につきますが、3話まで読み切れば、きっとこの作品の魅力を感じられるはず。掛け値なしに言って、金を払っていいレベルの作品だと思います。頭一つ抜けた大賞候補作品です。

 

 大村あたる ラブアリスのヴォイド いちおうSFでしょうか。ただ、これといって物語てきな展開はなく、一直線にヴォイドまでただ出来事が進行していくだけですし、ラブアリスの内面に描写についてもそこまで真に迫る内容ではない。こういった設定を考えました、というところで終わってしまっている感が否めないので、もうひとつ小説としてのツイストがほしいところ。

 これはかなり面白く読めました。自身にとってどうにもならない天分と、そこで悩む個人の内面が面白く、他者に自分にと発せられる「きもちわるい」が語りにリズムを作っていきます。視覚・触覚など五感を刺激するちょっとした性のふれあいから、無味乾燥な個人情報を取り出す近未来描写も素敵です。幕開けの男の乾ききった唇やじっとりと湿った手汗、おどろおどろしいピンク色の部屋にむかうルーチンワークから、口を開けた湿度ゼロの橙色の世界へ抜け出す幕引きといったコントラストも美しい。

 攻殻機動隊SAC#3「ささやな反乱」を思い出させるストーリーです。アンドロイドの自我を扱った短編小説ですが、SFとしてはやや踏み込みが甘い印象。なぜこの個体に自我が生まれたのか、なぜ気持ち悪いと感じるのか、この辺りを偶然で片付けてしまうのは作劇上もだいぶもったいない感じがします。もうひとひねりでぐっと深い作品になる余地がありそうです。

 

 芥島こころ(ど)さきちゃんと修学旅行に行った話。どスケベメスボディ女装男子のどニキが書く、すこしクレイジーでちょっとサイコなレズ高校生の主観視点。スタイルとしては大澤や佐藤ここのにも近いものがありますが、徹底的に場面描写を排除して主観に凝り固まった語り口。そのせいで、客観的になにが起こっているのか情景を想像しにくいという弊害がありますが、そこを逆手に取って実はこうでしたー、ってやる仕掛けかな? ちょっと不発かも。もうすこし上手なやりようはあると思います。あと、せっかく余裕を持って締め切りを設定しているので余裕を持った進捗を。推敲は大事ですヨ。

 語り手の知略が光る旅行前にたいして、旅行当日の布団にダイブして痛い目を見る浅はかさ、浮かれポンチ具合のコントラストが良いです。主人公のさきちゃん愛、さきちゃん以外のキャラ読書家さんの面白さが光りますが、さきちゃん自体のキャラは(にこにこ笑ってる子だというのは伝わりますが)具体的に描写されていなくてよく分からないなと思っていると、一夜明けて彼女の頭のなかを明かされる展開がきて、こういう子だったのかと分かる展開が良いですね。

 さきちゃん意外とクレイジーな夢見ますね……。語り手のキャラクターがなんとなく不安を感じさせるのですが、軽いノリで読みやすく、なんとなくさらりと読めてしまいます。なんだか中毒性のある文章で、連載されたら読み続けてしまいそう。定期的に更新されたらいいなと思える作品です。

 

 

大賞選考

 

 では続きまして、いよいよ大賞の選出にいきたいと思います。

 前回同様に、評議員それぞれに三つ推しの作品を出してもらって、その中から選出していくという形を取りたいと思います。が。

 が?

 大賞の趣旨てきに、やはり埋もれた原石を発掘していきたいという思いがありますので、今回、同時期に開催されていたカクヨムweb小説コンテストで読者選考を通過した作品については、そっちのほうでまた頑張って頂きたいということで、後出しになってしまって申し訳ないのですが、大賞からは除外しようかなと。ご了承のほど、よろしくお願いします。

 あ、そういえばどれが読者選考通過したか、確認してなかったわ。

 えっと、インイン、おにスタ、降魔戦記、スリマジェ、ガンキャリバー、あさひ色TOPIC、ケモノの王、剣脚商売。

 個人的には、ガンキャリバーは大好きな作品。剣脚も、あんだけ突飛な設定なのに十分読ませるし、本当に有望な作品が残ったと思います。

 僕はこの条件がなければケモノの王とインタビューインテグラは大賞に推したいところでした。特にケモノの王のほうは単純に小説としての完成度が高く、誰にでもオススメできます。インインはちょっとエッジの効いた作品を求めているクソサブカル向きかな?

 ぼくもケモノの王すごかったです。スリマジェはほのぼのコメディからの戦記物への転調が気持ち良かったですね。

 まあ、このへんの既にある程度評価されているものは、僕たちがなにもしなくても勝手に伸びていくでしょうから、それぞれで頑張って頂くということでw

 うさぎめ……いつか潰す!

 はい~、じゃあそれ以外の作品からそれぞれに推しを三つずつね。

 読者選考通過作品外すと、かなり絞られるな。

 僕の推しは、コンチェルト、易水悲歌、恋人同士な僕たち、の三作品。

 ぼくは、コンチェルト、易水悲歌、ばあれすく、です。

 ぼくは、コンチェルト、易水悲歌、限界集落オブ・ザ・デッドの三作を推します。

 これは……w

 三人とも推しているのがコンチェルトと易水悲歌ですが……並びてきにもコンチェルトで確定かな?

 コンチェルトはね、ちょっと頭一個分抜けてる感じあったね。

 またどこかの馬骨に横から張り倒される展開w

 ぼく、実は審査の前にちょっとだけ読んでて、1話のさわりを読んだ時点では、そこまですごいと思わなかったんですよ。

 冒頭はちょっとしつこさがありますね。

 ルビとかね。ちょっとアクが強い。でも、3話~4話はそういうの通り越して、他の作品とは一段レベルの違う描写ちからを感じたね。あ、これすごいわ、持ってかれたわって感じ。

 演奏の皮を被った異能力バトルでラノベてきな面白さもある。マニアを納得させながら一般にも訴えかけるバランスを両立させています。

 序盤の低速感というのはやっぱり語り手が弾いたり聞いたりしている音楽・演奏に関して具体的にどう、というのがあまり無いからなのかな、という所にあると思います。語り手自身が音楽のよさをうまく言語化できてない感じがあり、それが終盤の目覚めとして現れるんじゃないか、世界が開けた感じがすごいなと思うんですよ。

 一人称小説だから連動しているんですね。訳も分からず視野狭窄的に頑張っていた幼少期があって、本当に音楽に目覚めて視野が爆発的に広がる瞬間。溜めて、爆発。

 ぶっちゃけると、いちばん最初のレズシーンがなければ、だいぶハードル下がると思うんだよね。

 そこは作者の性癖なのでやむなしw

 キャラのイメージなんもないとこでいきなりは、ちょっと敷居が高いね。4話くらいになるともう大丈夫なんだけど、もうちょっと取っておいてって感じがw

 

 さて、それでは次に金賞と銀賞の選定ですが。

 金賞は、この流れだと易水悲歌ですか。

 異論ありません。

 易水悲歌はよかったね。前回から、虎ニキはうまいなあと思ってたけど、まさか歴史もので爆発するとは。

 まずカクヨムの現状を見て歴史ジャンルに的を絞ってきた戦略と、それを実際にやってのける地力が素晴らしい。もともと歴史には強かったんだろうけど、たぶんwebだったりラノベだったりでそれをやっていいって発想があまりなかったのでしょうね。以前から、素はわりと固めの文体なのに、無理してライトに仕上げている印象が少なからずあったのですが、易水悲歌でようやく全てがカチっとハマった感じがあって爽快です。

 易水悲歌やコンチェルトなどは、他の人がやっていない分野に挑戦していて、しかも世界観がしっかり構築出来ているところが凄いです。

 歴史ものって、わりとメジャーどこはやりつくされてる感じあるじゃないですか。たくさん調べなきゃいけないし、やろうと思っても先行作品の劣化版になりがちで。そういう意味で、易水悲歌のおもしろいところは、荊軻っていう名前はメジャーだけどなんかちょっと変なイメージもたれてる人物に焦点を当てたとこにあると思うんですよ。

 刺客・荊軻ではなく、ひとりの人間としての荊軻を描けていますよね。

 荊軻って始皇帝の暗殺に失敗した人ってイメージだけど、別に生粋の暗殺者じゃないし、剣術がすごいわけでもないんですよね。そういう史記の記述を逆手にとって、声で闘う人っていうキャラクターをつくったのは、お見事という感じ。

 

 銀賞一本は限界集落かな。僕はどうせ他も推してくるだろうと思って外してたんですけど。既に運営砲でカチ飛んでいるし。わざわざ僕が推すまでもなく君は充分でしょ、みたいなw

 正直、恋人同士と迷った。

 独自の世界をつくってる、という点で、ばあれすく、限界集落オブ・ザ・デッド、ニャクザ、恋人同士な僕たち、幻想都市百景あたりの中でどれを選ぼうか、と悩んだんですけど、限界集落は初小説ということなのに申し訳ないんですけどゲスな話PV数とびぬけてるので、他のところに光を当てたほうがよいのかなと。

 幻想都市もいいんだけど、ちょっとまだ序盤すぎる感がね。

 僕も幻想都市と、あとミスセブンブリッジも悩んだのですが、完結させて次回大賞を目指してほしいなってことで今回は先送りです。

 銀賞一本、限界集落で異論ないです。

 うむ。

 もう各所で褒められまくってて充分だとは思いますが、ゾンビものっていう散々やりつくされている枠組みの中で独特なドラマを生み出した発想は見事なもの。小説としての完成度はやはりまだまだ荒削りなところもありますので、今後も上を目指して頑張って頂きたいという思いを込めて、銀賞ですね。

 寿命間近のじいさんばあさんが名もなき人まで印象的で活き活きしてましたね。

 もし漫画化とか映像化されたら絵面ひどいことになりそうだけどw

 ケイは美形であってほしいなー、一服の清涼剤。

 ほんとそれ。

 

 あと銀賞一本、僕はどうしても恋人同士な僕たちを推したいんですよ。起爆くんに関しては、ちょっと自分でもフェアに見れてない可能性はあると思うのですが、それを差し引いても良いものを書き上げたなと。

 よろしいかと。第一回のと比べてみたらいちばん成長してるんじゃないですかね、彼は。

 一言に閉塞感ある地方といっても限界集落と恋人同士でまったく別物に仕上がっていて面白いですね。異論ありません。

 書いてる気配があまりないのになんで成長するんですかね……?彼の場合は周辺に影響されやすいので、周りのレベルが上がってくると自然とレベルが上がるみたいなところがあるのかな。

 なにそのSAGA方式。

 小説らしきものを書き始めたのが約1年前の第一回本物川小説大賞で、そこから今、こんだけのものを書けるようになってるわけで、この賞を象徴するような作者。

 趣味の創作小説を続けていく上では、自分のモチベーションを維持したりお互いに影響しあって高めあっていける環境を整えることも重要になってきますから、本物川小説大賞としては今後とも、こういう子をどんどん拾い上げてジャカジャカ輩出していけるような賞でありたいですね。

 

 予告編……?

 

 ちょっと、予告編というか、今後の本物川小説大賞についてなんですが。

 お、なんかあるんですか?

 さすがにレベルが上がりすぎていて本来の素人KUSO創作甲子園という色合いが薄れてきてしまっていて、一度原点回帰したいなという思いが個人的にはあります。

 原点回帰。

 「小説とか書いたことないけど、なんかやってるから書いてみるわ」と思ってもらえる賞でありたいよね。

 まさに。なので、小説を書く基礎力や総合力よりも、もっと素人でも発想一発でワンチャンあるで!みたいな感じにしたくて、とりあえず次回は10000文字未満しばりなどのレギュレーションをいくつか導入してやってみようかなと、ふんわり考えています。

 次回、乞うご期待、と。

 まあ、詳細は追ってということで。ひとまず、第三回本物川小説大賞は、大賞 コンチェルト、金賞 易水悲歌、銀賞 限界集落 オブ・ザ・デッド と 恋人同士な僕たち、に決まりました!評議員のお二方ありがとうございました!

 ありがとうございました。参加作どれもそれぞれ個性があって、面白く拝読しました。

 お疲れさまです。

 以上、闇の評議会、議長の謎の概念でした。

 謎の相槌でした。

 謎のねこでした。

 これにて闇の評議会、解散!撤収~~~!!

 

 本物川小説大賞 新天地編 カクヨム入植大会 - Togetterまとめ

 

 

第二回本物川小説大賞クリスマス大会、大賞は大村中さんの「でも、女装を着けて」に決定しました!!

 平成27年12月ころから12月25日にかけて開催された第二回本物川小説大賞クリスマス大会は、選考の結果、大賞1本、金賞1本、銀賞2本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

 大賞 大村中 「でも、女装を着けて

f:id:kinky12x08:20160104214259p:plain

 

twitter.com

 

 受賞者のコメント

「まずこれ大賞とかあったんだ!?」が連絡を受けた際の素直な感想でした。次に大賞という名誉な賞をいただけたことに対する感動が徐々に沸き上がり、今はまだ実感がもてていないのが正直なところです。
 こういった形で評価されるのは慣れていないため、今現在もむず痒さでいっぱいですが、この評価を真摯に受け止め今後の創作活動に励んでいきたいと思います。
 また本物川氏からイラストをいただけるそうで、本音を言えばこれが一番嬉しいです。イラストの利用に関しては後で本物川氏に確認しますが、可能であれば同人活動での書籍化の際に表紙(または挿絵)として使用できれば、と考えております。
最後に、このような賞を賜り本当にありがたいかぎりです。このような機会を与えてくださった本当川氏に、心よりの感謝を。ありがとうございました。

 

 大賞を受賞した大村中さんには副賞として本物川の描いたイラスト贈呈です。好きに使っていいんで勝手に出版して下さい。

 

 金賞 karedo 「ボゥ・アンド・スクレイプ -執事喫茶の悪魔たち-

 銀賞 ポンチャックマスター後藤 「魔弾

 銀賞 しふぉん 「蒐集癖

 

 というわけで真冬の素人黒歴史小説甲子園 第二回本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのは大村中さんの「でも、女装を着けて」でした。おめでとうございます!

 

 選考の透明性を確保するために、以下、闇の評議会による選考過程のログを公開しておきます。

 

 みなさん、新年あけましておめでとうございます。昨年末の本物川小説冬の陣クリスマス大会の大賞を決定するために召集されました闇の評議会、議長の謎の概念です。

 謎のたぬきです。

 謎のねこです。

 第一回本物川小説大賞は外部に審査員をお願いして籠原スナヲさんに決定して頂いたのですが、実際にお願いしてみて「あ、これは相当な労力やぞ」ってことが判明して、そんな気軽にお願いするものじゃないなということになりまして、次からは自分たちでどうにかしようという話になり、今回、大賞選出のための闇の評議会を招集することとあいなりました。まあ三人居るのでそれなりの中立性は確保できるのではないかと思います。次回以降もおおむね同様の制度で運用していくことを検討しておりますので、まあ色々とあるでしょうがひとつご了承いただきたいということで。よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 よろしくお願いします。

 

 さて、それではひとまず全作品を投稿された時系列順に一通り紹介していこうと思います。


 まずは起爆装置精神的全裸修行です。

 毎度毎度、TLの流れと大澤さんのノリで曖昧に始まる本物川小説大賞ですが、今回の冬の陣が始まるきっかけとなった投稿ですね。同級生の男で抜く、という普通ならなかなか経験したことがないようなアレのはずなんだけど、不思議と共感を呼ぶ謎のパワーがある掌編に仕上がっています。

 まあなんというか純文学っぽい掌編をさらっとお出ししてくる辺り、起爆君の文才に正直嫉妬を感じる部分が無くもないですな。心情描写が巧みで同じ書き手としては歯噛みしながら読んだ作品ですわい。

 同級生の男でオナニーするというテーマのインパクトと、それを妙なリアルさで書けている点が秀逸でした。ぼくの評価の中では、大賞候補まであと一歩の作品です。他のトップ層の作品と比べると若干短く、大きな展開に欠ける点が、一歩及ばなかったポイントですね。とはいえ、このコンパクトさでこれだけの印象を残せたのは見事でした。

 リズム感の良い文体も気持ちが良くポンポン読めますし、連作短編の形式で連載中の作品になりますので今後にも期待したいですね。

 

 はい、次に起爆装置のクリスマス小説に触発されて大澤さんが書いたクリスマス掌編クリスマスフラットホワイトファイアーワークスです。このへんから曖昧に小説大賞が始まりました。謎の概念は謎の概念なのでノーコメントです。

 これは誰かに語り掛けている感じの文体で、相変わらずの高い文章力をもって、かつての冴えない思い出をありありと伝えているのが実に良いと思った作品です。クリスマス小説としても、クリスマス=恋愛というセオリーをはずしてクリスマスの冴えない思い出という点を綴ったあたりも僕は評価できるかなと思いました。

 この作品では、現実にはなさそう、いやでもありそうかも、と思えるような微妙な体験が、特別なクリスマスとして語られているわけですね。華やかな体験ではないのだけれど、こんな体験をしてみたかったと思わせる点が強いです。一人称による単純な構成ではここまでの効果は出なかったはずなので、主人公が過去を振り返る形を選んだ点も、構成力として高く評価できます。

 

 はい。つぎは前回の本物川小説大賞の覇者、DRたぬきHoly Shit Christmas。ここで大澤ひきいるキラキラ軍とたぬき率いる怨念軍で小説バトルしようみたいな曖昧な話になってきました。曖昧ですね。
 本物川小説大賞覇者らしい安定してちゃんと書き物として成立している感じで、手堅いという印象。今回の小説大賞でもひとつの基準になるものと思います。

 この作品については謎のたぬきなのでノーコメントでお願いします

 「クリスマスに怨念を感じるグループのテロ」というなかなか難しいテーマから、うまく話をまとめており、骨折も少なくスムーズに読める作品でした。
読者を裏切る急展開のようなものがうまく組み込めると、大賞候補に入ってくる内容になるのではないかと思います。

 

 はい。つぎはどこもさんの聖人の誕生。先日連載が終了した聖戦士マリオンのスピンオフ作品になっています。
 話としてはただただシリアナをほじっているだけなのですが、インフレ具合がそのままギャグになっていて勢いで笑わされてしまいます。単発の短編でなく別の本編のスピンオフという性質上一般性に欠けるところがちょっと難ですが、本作を楽しめた人は本編の聖戦士マリオンも読んでみると良いでしょう。

 これはあれですね、聖性というものを穢すためにはどうすればいいのか→肛門を犯せばいいという斜め上の発想にまず驚いた作品ですね。独特の速度を感じさせる文体でスルスルと読めます。最初は思わず描写で笑ってしまったが後半に読み進めるにつれてエロさが比例して上がっていくのは必見ですね。クリスマス要素は薄いのでそこだけは残念かなと思います。

 「あまりの穢れなさによりケツの穴に入れたディルドが浄化され消えてしまう」といった強烈な飛躍が持ち味のどこも氏。独特な世界観が本作でも発揮されており、一見の価値ありです。ただし、『聖戦士マリオン』の外伝ということで、やはり本編を読まないと理解しにくい点も多く、独立した作品として見るにはちょっと無理がありそうです。

 やはり単発で完結している短編のほうが射程が長いという部分はありますね。

 んむ。

 

 つぎは不死身探偵クリスマスクロスオーバーステップ。キラキラレズ小説ですね。

 書きたくて書いたという感じがあって好感が持てます。お話としての捻りやオチは特にないのでダラダラと雰囲気で読む感じになりますが、この路線で行くのであれば牽引していくためのポエティックな表現などをもっと高めてほしい感じはあります。

 雰囲気物に厳しい概念

 別にそういうわけでは……(笑

 映画鑑賞から、相手が寝てしまった後の肉体に触っている部分が特に不死身さんの描きたい部分で、情欲を感じますね。疾走するかのように改行なく書き続けている辺りが特に。しかし寸止めなのがらしいといえばらしい。クリスマスに二人で過ごすという小説でもあるのでクリスマス小説としての必然性もあるかなと思います。

 恋人同士という体裁があっても実際に体を重ねるには勇気が要る……という初々しい心境がよく描けていると感じました。キャラクターそれぞれの反応も自然で、よくキャラクターがイメージできているのがわかります。ただ、テーマとしては同性愛であることや、片方がハーフであることの特殊性が発揮される部分はあまり描かれておらず、やや消化不良の感がありました。もしかすると、普通の男の子と女の子の話にしたほうが、より完成度の高い作品になったかもしれません。

 おそらくそこはただの作者の性癖でしょう(笑

 書きたいものを書いた!良い言葉だ。

 

 つぎは大澤さんの二作目、来栖と増田。くるすとますだでクリスマスだ。はい。

 羽が生えてる女の子とバスケ部の男の子のたわいないお話ですね。羽についてどう思ってるのかと言う話を転がしていったらいつの間にか一緒にクリスマスを過ごそうという事に。羽は進んで見せるものでも無かったけど、ひそかな私の好きな所というのが良いですね。暗喩的な何かなのかなと思ったりしました。

 「ひそかに愛している自分の美点を人に見せることへの恐れと期待」という難しいテーマを、暗喩によって表現したところに、この作品の妙味がありますね。「羽」というオブジェクトを選んだことで、隠喩によってテーマがうまく受け止められており、直接的な表現よりも自然に共感できます。クリスマスという必然性はやや薄い気もしますが、掌編であればこのくらいのつながりで十分という印象もあり、評価はやや迷うところです。

 

 つぎは左安倍虎さんの闇を照らす瞳。話の展開としては定石通りのベタベタ恋愛ものながら主人公とヒロインのキャラ設定でちょっと新奇性を演出している感じ。短編ではなかなか難しいところもあるのですが、もっとキャラ造形のオリジナリティで読者を引き込めればより魅力的な作品に仕上がりそうです。

 中二病を演じている男子と女子の恋愛もの。結論から言えば末永く爆発してほしいですね。中二病的言い回しもしっかりしていて短いながらもこの話の基幹になっている部分も良いと思います。クリスマス要素は薄め。

 いわゆる典型的な中二病同士の恋というテーマ設定が独特でおもしろいですね。ただ、作中ではどちらもそれほど深刻な中二病とは思えず、特に女の子のほうは中二病ではなくただ男に話を合わせているだけのようにも見えます。それはそれでリアルなのだけれど、二人とももっと深刻な中二病として設定したほうが、作品の印象としてはもっと強力なものになったかもしれないと感じました。

 

 つぎは掘木環クリスマスローズぷっちょってなんだよ。

 序盤から読者を引き込む勢いと妙な文体の魅力はあるので、オチをブン投げずに丁寧に着地させれば意外とバケたのではないかという気もします。こういうのもあってこその本物川小説大賞って感じなので次回以降にも期待したいですね。

 キラキラ小説が続いた中の怨念小説。クリスマスにキラキラ小説を書こうとして書けなくて煩悶するおじさんの話。クリスマスに独り身で小説を書こうとして書けない侘しさがあるけどオチが投げっぱなしなのがちょっと残念ですかね。

 ぼくこの作品10点満点中7点つけてるんですよね。全作品中でもわりと上位。

 ザワザワ……。

 ふぁっ!?

 まあ単純におもしろかったんですけど、特筆すべきは文章力の高さです。読んでみればわかると思いますが、一文が簡潔でとても読みやすく、テンポがよいのです。オチでガンダムローズを組み立てる流れはやや唐突でしたが、それにしてもなんだかよくわからないおかしみがあります。個人的には非常に好印象なんですが、こんな作品をあまり推すとおこられそうなので、大賞候補からは泣く泣く外した作品です。

 まあ、たしかにあの短さで少なからず笑ってしまっているのでコスパはいい感じしますね。

 

 つぎは既読風船インビジブル。個人的には大賞候補の一角です。

 9割5分までスルスル読ませて最後の最後でガーンとひっくり返す手腕が素晴らしい。手術シーンなども描写にリアリティが感じられて(本当にリアルなのかは自分には判定できないが)よく練られている感じがある。描写力で読者をグイグイ引き込んでいくパワーがそのままオチを予測させないミスリーディングの役割を果たしていて、熟練のマジシャンみたい。

 既読先生の怨念もの短編。ひとりの男が幽体離脱して今の自分の状況を第三者的に見ている。二転三転させてからのオチに見せかけての本当のオチを用意するという仕掛けがなされていて、その構成に思わず舌を巻くほどの完成度の高さ。そして医学用語や薬品についての知識がある事も伺える描写がすごい。このレベルまで来るとクリスマス要素とか関係なく推していきたい作品の一つですね。個人的にこの構成の仕方は見習って自分のモノにしたい、そんなふうに思える作品です。

 ぼくのコメントシートには「まぐろ」って書いてありますね。

 はい。

 

 見晴川いよ狡い大人が嘘を奇跡と粉飾した冬の夜のこと
 大人のほろ苦恋愛小説。いちおう叙述トリックてきな感じのオチが用意されていますけれど、いちおうという感じでそこまでしてやられた感などはありませんでしたね。でも根本的な文章力が高いので面白く読めました。

 キラキラ小説。同性恋愛ならではの葛藤する恋愛感情を描いた作品で普段そういうのを読まない自分としては新鮮な感覚で読めた作品。心情描写が巧みだと思う。クリスマスはイルミネーション描写程度なので薄め。

 「嘘は吐いちゃいけないというけど、ヤってないけどデキちゃった、なんて大嘘が奇跡として罷り通る今夜くらいは、この嘘も見逃してはくれないのだろうか」というフレーズが魅力的で、この後の展開に強い興味が持てました。ただ、この強いフレーズの対象となる「嘘」は、淡く優しいもので、「見逃してくれないだろうか」と切望するようなものではなさそうにも思えます。作者には魅力的な文章を書ける力があるので、より大きな展開を期待したいところです。

 

 つぎは胡紫ネズミのお城の真ん中で

今回のエントリー作品の中でもっとも読者の心をザワザワさせたのは文句なしに本作でしょう。語り部の僕も僕の彼女も底抜けにクズながら、かなりの部分で多くの人の共感を呼ぶところがあり、意外と一般性があるっぽい。全体的に笑いのほうに振っているけれども、まったく同じ話でも文体次第で純文学にまで高まりそうなポテンシャルを感じるので、そこがちょっともったいない感じはしてしまいます。

 怨念小説。事実90%と言う事でほぼ私小説としてこれを読んだけど、こむらさきさんの恋愛相手が中々キッツイ。32歳でそれはちょっと…というような人物。しかし当時のこむさんも中々に仕上がっているので割れ鍋に綴じ蓋という表現がピッタリ?しかし嫌いじゃないけど思い出すのが辛いというのは既に拒否反応として出ているのではないでしょうか。精神的全裸ポイントとクリスマス怨念度がかなり高めである意味おすすめしたい一本。

 実体験的な内容の小説ですね。自分も彼女の服とか気にしたことがないので、とても共感できます。とはいえ、実体験に基づいているためか、大きな盛り上がりはなく、レポート的な雰囲気です。読みやすい文章でテンポもいいのですが、小説として見ると、もう少し展開がほしいかなと感じました。

 

 つぎ。黒アリクイクリスマスイブの夜に

 なんのエクスキューズもなしに日記から始まる体裁で「語り部が誰なのか」がトリックになっています。実際に僕はまんまと引っかかったんですけれども、大オチの見せ方がわりとアッサリしていてしてやられた感があまりなかったので、見せ方次第でもっと化けた可能性を感じます。本作が生まれてはじめて書いた小説ということなので今後にも期待したいですね。

 怨念小説。日記を読むような形式で導入開始。男がどういう風に暮らし、その後のイベントを楽しみにしているのかとその後の対比ですね。ある意味一番愛が深いとも言えますが……。小説初挑戦ということであまり長く書けなかったのでしょうが、次回作品にもぜひ期待したいところではあります。

 約1800字という非常に限られた文字数の中でサスペンスを演出するのはなかなか大変なものです。この短さの中でも、必要と見られる道具立てはしっかり揃えられており、一読して混乱することなく読めるのは高評価。しかしやはり短すぎる中で組み立てたためか、ラストに意外感が薄いのは惜しいところです。プロットにひねりを加えて、もう一回り大きなサイズの作品に挑戦してみてほしいと思います。

 

 つぎ、百合姫しふぉん蒐集癖
 これはすごいです。素晴らしい。話としては淫靡な少年に誘惑されてナニを致しまくるだけの話なのだけれど、グングン読ませる文体が圧巻。文章力が抜群である。完全なストレートの剛速球で勝負してきたという感じ。すごい。

 同性愛要素のあるキラキラ小説。圧倒的な描写力で有無を言わさずに物語に読者を引き込んでくる魅力がある短編。まさに文学と言うにふさわしい表現と知識量に裏打ちされた単語の数々は作者の教養の高さを伺わせる。クリスマス要素が薄いのは残念だが、それを除いても一度は読んでみる事をお勧めしたい作品。

 淡々としながらも陶酔しているという主人公の感覚が、独特な文体でよく表現されています。やや衒学的な感はあるものの、読みにくいというほどではなく、雰囲気のある文章でした。ただ一点、選ばれるほどの「闇」を抱えたはずの主人公のその「闇」がどんなものだったのか、明確にならずに終わったのは惜しかったように思います。

 

 つぎ、大澤さんのみっつめ。クリスマスがやってくる。大澤さんが今まで書いた中で一番短いですね。一発ネタです。

 大澤さんのキラキラ小説三本目。誰が名づけたかクリスマス。クリスマスが到来するまでの間の日常を静かに過ごす二人のお話し。何はともあれ、その日がやってくるまでの日々をたんたんと、しかし幸せそうに達観して過ごしている描写が良い。ショートショートとしてよくできている作品だと思う。同時にクリスマス小説としてもポイント高し。クリスマスが単なる祝日として使われるのではなくそこから転じた発想をしたのが良い。短いですが僕は大賞候補に推したいですね。

 「クリスマス=巨大隕石」というアイデアのもとに、世界滅亡前の風景を描くという試み。パニックをあえて描かず、静かな日常を描くことで、終末感が漂う作品として成功しています。ただ、やはりSFとしてはテーマがありがちな部類に入るかもしれません。この作者の作品は、初期の頃から比べて文章力の顕著な向上が見られます。

 

 つぎ、りっくクリスマスの夜に

 池田サンかわいい!奥手同士の恋愛のアレてきなアレ。うん、なーなーにするのはよくないので男子諸君はちゃんとすべき時にはちゃんと言葉にしような。

 キラキラ小説。コンビニでクリスマスで男女のイチャイチャ爆発しろ案件。でもこういうのがいいんですよみたいな、そういうイチャつき方で池田さんがひたすら可愛い。とにかくキャラクターが良いです。よく立ってます。

 大きな展開や驚くような仕掛けはなにもない作品です。文章も際立ってうまいとは言えないかもしれません。けれども、この作品にはなにか読者を引き込ませるものがあるように思います。それは会話のリアリティかもしれないし、キャラクターの魅力かもしれませんが、はっきりと指摘できない、総合的なものでもあります。登場人物の数が最小限に抑えられ、そのため細やかな心理の動きをしっかりと追うことができている点が、技術的には評価できます。クリスマスというテーマを自然に消化できており、ぼくの採点表ではトップテンに入っています。

 

 つぎもりっく。怨念軍との掛け持ちです。 Merry Christmas from

 中盤の壮絶なアレをグイグイ読ませていく文章力はさすが。オチはちょっと唐突な感じがあり、もう少しストンと納得できるような伏線を序盤からはっておけばもっとスッキリしたのではないかと思う。ともあれじゃあ両方書きますわ~ってサラッと両方ちゃんと仕上げてくるあたりに安定した力量の高さが伺えます。

 りっくさんの怨念側小説。クリスマスイブに起こった4人の、数奇に交わった悲劇。
視点変更がかなり行われるが混同する事なく読める。胸に突き刺さるような辛さがある。多少落ちが強引だけど復讐者となるのも已む無しかなと思わせるような経緯で納得感はある。

 「犯罪者を強く憎む人物による死刑執行」というテーマ自体はおもしろく、また文章からは作者の潜在的な力量が十分に感じられます。ただし、やはりこのテーマ、このプロットに対して、この分量はあまりに少なく、消化しきれていないように感じました。最低でも倍以上のサイズが必要な内容と思われます。

 

 つぎです。ポンチャックマスター後藤魔弾

 これもすごいです。勢いで読ませていく厚みのある文体。魔弾に対する説明の薄さがまたホラーっぽくて良い。いま、この語りは誰の視点なのか、というのが曖昧に変化していくので分かりにくいのだけれど、それすらも設定に回収されているので長所として発露していますね。

 他の参加者とは一線を画するセンスを持ち、圧倒的なポンチャック力で強引に読ませてくる力強さがある。この物語の解釈の仕方はちょっと難解な気がするけど雰囲気で楽しめるのでぜひ読んでほしいし、どういうオチになったのかを考察する事も楽しんでほしいと思う。個人的には大賞候補のひとつですね。

 「銃で撃たれると人格が入れ替わる」というアイデアのもとに、銃の視点から人格の入れ替わりを一人称で描く特殊な叙述です。視点の移り変わりに心象風景の描写が加わって、地の文は錯綜しているものの、話の筋は単純なので、読者は混乱しつつも意外なほど自然に読み進められます。このねらいはとてもおもしろいのですが、作者はあまり自覚的にこれを構成しているわけではないのか、結末が順当すぎて、やや物足りないように感じました。ラストにもうひとひねりあれば、大賞候補に推したかった作品です。

 

 つぎ。yono猫のクリスマスソング。小説というか詩みたいな感じですね。ちょっと評価は難しいですがわりと好きです。

 ひとり身の少女の膝に寄り添う猫が可愛いですね。世界観をもっと広げて分量を増すともっと良くなると思います。

 人を楽しませて知識を与える図書館という存在と、その役割に反して誰もやってこないという背反に、自己愛と現実のギャップが投影されていることが伝わります。柔らかい雰囲気で生臭さはなく、過剰な願望充足もなくつつましやかで、共感できる作品です。この規模感、このテーマなら、小説という形よりも、童話や詩のほうが適しているように思います。

 

 つぎ。DRたぬきクリスマスオブザデッド。タイトル通りのゾンビものですね。
 ハッピーエンドっぽい終わり方をしているけれども本当にそれでええのんか?みたいなブン投げ感もある。ちゃんと説明づけしていくのかブン投げてしまうのか曖昧で、どっちかに振ったほうがスッキリしたのではないかという気はする。平均してうまいだけに欲が出てきてしまう感じ。もっと尖ったものを書いてみてもよいと思う。

 これに関しては別のたぬきが書いたものなのでノーコメントです。

 約1万5000字の作品で、話の展開がテンポよく、サイズのわりにさくさくと読み進められました。主人公がゾンビという異色の設定がおもしろく、ラストまで読者の興味を引っ張る構成とプロットが高く評価できます。ただ、かなり急いで書かれているのか、細かな骨折がいくつかあり、文章も煮詰めきれていない感があります。モミの木の話もやや取ってつけたような感があり、序盤からもう少し木の特殊性は強調しておきたかったところではないでしょうか。しっかりとした推敲を経ていれば、大賞候補の作品になった可能性があります。

 

 つぎ、黒アリクイ二本目。爆殺怪人クリスマ・スー。ブン投げ系ですね

 怨念掌編。一人の科学者が怪人を作ってクリスマス爆発を目論むが…という内容。言ってしまえば爆発オチ。怨念ポイントは割と高めで書いた本人のクリスマス憎み具合には共感を持てる。

 クリスマスにリア充を爆殺するためにマッドサイエンティストがついに最凶の怪人を作り上げる……というテーマ自体はおもしろいものの、やはりこれではプロットが貧弱すぎると感じてしまいました。せめて、ダイナマイトを放り込んだから爆発した、ではなく、もう少しなぜ爆発してしまったかについて納得できる伏線がほしかったです。

 

 つぎ、かくぞうクリスマスをぶっ飛ばせ

 ジェット橇なんか出て来たりしてパンクなサンタクロースの話。序盤から物語に引き込んでいくパワーはあるのだけれど、後半になるにつれ特殊な設定が十分に伝わってこない感じがあり、あれ?これは今なにをどうしているところなんだっけ?と首をかしげながら読み進める羽目になるのであまり読了時点での爽快感がなかった。設定についてちゃんと説明するか、説明が必要になるような複雑な設定は排除するか、なんらかの工夫が必要な感じはある。

 クリスマス怨念短編。サンタクロースがクリスマスの夜に荷物を配送するうえで色々トラブルが起きる中でのストーリー。どっちかっていうとライトノベルを読んでいるような感覚がある。主人公の軽妙な語り口で語られる物語には親しみやすさを覚える。結局主人公は怒りに任せた結果、不幸を背負いこむのだけど一緒に笑い合える仲間がいるというのはやはりいいものだと思った。

 好き嫌いの大きく分かれる作品ではないでしょうか。プロットは単純で、若いサンタの失敗を仲間が団結してカバーするというもの。映像にしたらきっと美しいだろうと思えるシーンが散りばめられており、映画的な小説になっています。ただ、文体が非常に饒舌で俗っぽい一人称となっており、映像的なシーンへの没入を難しくしているように感じました。地の文は三人称で淡々と語りつつ、必要な部分は主人公に喋らせるかたちでもよかったかもしれません。

 

 鹿聖地に二人

 都合で恋人の真似事をさせられる腐れ縁のお友達みたいな定番のやつ。オチがブン投げ気味のアッサリした感じではあるけれど、ストンと納得できる感じで気持ちが良い。

 同性愛者である彼女に対して届かない思いを抱く男というお話し。クリスマスと言えば恋愛、別れ話はつきものだが同性愛者に届かない思いを抱くというのは捻りが効いている、と思う。

 本編では少し消極的すぎるように感じられる主人公と、鈍感すぎるように思えるヒロインですが、その理由が結末で明かされるという構成になっています。
文章は読みやすく、プロットに矛盾もなく、整っている点が評価できます。
ただ、やや淡々とし過ぎている感もあり、ヒロインの聖地への思い入れや、
主人公がなぜヒロインを諦められないかといった細部を、もう少し掘り下げてもよかったかもしれません。

 

 つぎ。しかたまたかしクリスマス。すごい。
 系統としてはポンマスさんとかどこもくんに近いかもしれないけれども、さらに一段階振り切っている感じがある。余人には評価が難しい。

 独特の世界観と単語の使い方によってスピード特化した文章についていける人はいるのだろうか?というほど速度に溢れている。アクは強いが独特な面白さのエッセンスはあるので一読してみてほしい。

 プロットと呼べるようなものは特になく、連想ゲームの要領でころころと話が転がっていくのが楽しい作品です。突飛な発想の飛躍が、思いがけない笑いを突発的に生んでくれます。冒頭いきなり謝肉祭からの「!!!おいしいのだ!!!」でもう笑いました。独特のリズムもあり、流れに乗れれば楽しく読めると思います。ただ、この長さで最後まで連想ゲームについていくためには、かなりのスタミナが必要。もう少しコンパクトであれば、評価はもっと高くなったかもしれません。

 

 つぎ、どこもくんの二本目、聖人審査

 もう好きにやってくれっていう感じですね。未完なのでひとまず完結まで走り抜けてもらいたいと思います。シリアナほじるだけでどこまで分量デカくなるんだ。

 聖戦士マリオンのスピンオフその2。ドリアンが説伏される話。まだ未完なのとクリスマス要素が皆無ではあるが、R-18作品として更にレベルアップしたエロ描写がたまらない。完結が楽しみな作品。

 もはや一人だけ明後日の方向に突き進むどこもくん。彼はいったい何を目指しているのであろうか。聖職者たちがひたすら肛門拡張と性交に明け暮れる小説ですが、実際これだけハートマークが乱舞する文章を書き連ねられるというだけでも驚きです。

 

 TAKAKO☆マッドネス消えた新人声優

 小噺てきな感じ。特に斬新さとか意外さとかがあるわけではないが、なんとなく読んでしまう安心感みたいなのがある不思議な文体。文体じたいにノスタルジーを感じさせる。

 クリスマスイブに忽然と姿を消した声優の話。大山鳴動して鼠一匹という典型という感じですかね。

  プロットに近い形態で、出来事が淡々と語られていきます。ほほえましい内容で、登場人物にも好感がもてました。ただ、小説になる前のプロット段階という感じも強く、もう少し内容を詰めて分量として2万字程度の作品とするとちょうどよいテーマなのではないかと思います。

 

 不死身探偵 クリスマス限定!シャイニングポーラスター10連ガチャ! 祝祭の始まり。

 よくできたコメディ。神様の抽選に選ばれて幸運が、みたいなそれじたいはありがちなネタだけど、そこに10連ガチャあるあるネタをぶち込んで新奇性を見せている感じ。コモンのショボさとかレアでいきなり服がはじけるところ、トナカイのおっさんのキャラなどギャグとしての地力が高い。この路線が一番向いているのではないかと個人的には思っている。ギャグなので大オチにしっかり笑いをもってきてほしかった感じはある。
 キラキラ小説。クリスマスにサンタに扮した美少女とムキムキおじさんが冴えない男の前にやってきてプレゼントをするが…。今はやっているスマートフォン用ゲームでよくあるガチャを回すという要素が新しい。幸運を引こうとして結局不幸を引く結果に陥るというのはなんというか皮肉が効いているような気がする。締め切りに合わせてだいぶ過程を削ったらしいので完全版であればどういう内容になっていたんだろうと気になりますね。
 全体的にテンポが良く、1万3000字という多めの分量でも、細かいことを気にせず楽しく読めます。本物の(?)サンタからのプレゼントが10連ガチャというアイデアも秀逸で、下世話な話題に終始してしまうのもほほえましい。ラストもそれまでの展開からのギャップを感じて、悪くないのですが、もうひと押し、予想を裏切るようなもの(あるいはもっと壮大で理解を超えるような描写)があると、大賞候補に推せる作品になったと思います。この作品も、ぼくの採点表でトップテンに入っています。

 

 DRたぬきの二本目、聖夜に祝福を

 話の筋はなかなか突飛で面白いのですが、見せ方がひたすら独白というかたちになっていて、もうちょっと小説っぽく見せてくれたほうが良かったかなという感じがします。

 某小説家に影響された別のたぬきがかいたものなのでノーコメントです。

 文章がはっきりとしており、スムーズに読めました。「クリスマスを祝うことを禁止する法律」というテーマもおもしろいと思います。ただ、プロットは練り切れていない印象があり、事態が急転しているにもかかわらず、物語としては平坦な印象を受けました。飛躍する事態を結びつけるための狂言回しとして、名前をもった登場人物が少なくとも1人は必要に思えます。


 つぎ、左安倍虎さんの二本目、世界追憶遺産

 特に必然性のない身内ネタを設定を盛り込んだせいで一般性を欠く結果になっているので、短編でまとめるなら短編でまとめるでもっと設定をスッキリさせたほうが良い感じがする。地力が高いだけにノッケから若干ポカーンと読者を置き去りにしたまま速が上がって、そのまま追いつけないままフィニッシュみたいなもやもや感の残る結果になっているっぽいのが悔やまれる。

 これはSF系の作品で私にストライクですね。スクルージと自らを重ね合わせる主人公に共感を覚える。話の展開とオチの仕掛け方が相変わらず秀逸で読ませる作品になっている。クリスマス小説としてもポイントは高い。クリスマスキャロルを引用し、さらに登場人物がクリスマスについての仕掛けを行う展開になっているのでバッチリです。

 「クリスマスキャロルの現代版」というアイデアは、クリスマスをテーマに小説を書こうと思えば多くの人が思いつくものだと思います。しかし、実際に取り組むとなると、これがなかなか難しく、安易な考えではひどく独善的な作品になってしまうものです。この作品は、「負の感情を薬で抑制することの是非」という現代的なテーマを持ち込むことで、原作と違った味わいを出すことに成功している点が高く評価できます。
文章はややぎこちない部分もあり、テーマもしっかりと消化しきれていない部分があるものの、非常に難度の高いテーマに挑んでいる点、一定以上の水準でそれをクリアしている点から、ぼくの採点表の中では最上位の一角となっています。

 

 つぎ、しのはらしのらサイボーグは電飾の夢を見るか

 これちょっと分からなかったんですよ。読む僕のほうの問題の可能性もあるんですけど、3200字で落とすにはちょっと設定がなんか色々とあるのかな?みたいな、盛り込み過ぎの弊害かな?みたいな感じがしているんですが、分からなかったのでちょっと評価難しいですね。

 キラキラ小説。ニート男が改造人間にされて強化女子高生になった?と思ったらどうやら違う展開のようで…。サイボーグ描写は心が沸くんだけどオチが結局どうなったんだろう?という感じでちょっと消化不良。もう少し説明が欲しい小説かなと思った。

 「秘密組織が壊滅したあとに残された改造人間」というのはおもしろいテーマだと思います。文章は読点をまったく使用しないという独特のものですが、読みにくさは感じませんでした。ただ、プロットがひとつのお話しとして成立しているとは言い難く、宙づりな印象で物語が終わってしまっているように思います。せめて山下マミが自分を西葛西サトルであると考えるようになった経緯は明示すべきだったように感じました。

 

 つぎ、既読の二本目。バス、ギロチン、ねこ。あるいは生と死のはざま

 いきなり不条理なシチェーションから始まる系。雰囲気は良く引き込んでいく力は感じるが、実質的に謎解きやパズル要素などはなく夢オチなので、もうちょっとなにかあってほしかった感じはある。

 既読先生のリッドシチュエーションなショートショート。ちゃんと起承転結が短い中に詰め込まれています。あと猫が可愛い。猫が最後に主人公をフォローしているのも良いですね。展開はハラハラしてどうなるんだろうと思いましたが夢オチなのは少し残念だったかなとも思います。

 さば。

 はい。

 

 さまよううさぎ 日常的サンタ考察

 本当に普通の会話シーンを切り取っただけ、という感じで、あまり小説という感じではない。文章から地力は感じるので、もうすこし展開やお話のあるものも書いてみてもらいたい。

 キラキラ小説。サンタがどうやってクリスマスにあれだけのプレゼントを運ぶことが出来るのか?という疑問を天然系女子高生が話をするという話。空想科学読本っぽい考察の仕方だなー。話が飛躍するうちにサンタ=ニンジャとなるところで!?アイエエエエ!ニンジャナンデ!?クリスマス小説で恋愛ものじゃないというのが良い。

 いわゆる「日常系」のワンシーンを切り取ったような掌編。天然の友人と、その話にどこまでもついていってしまう委員長、その二人を一歩引いて眺める主人公という安定した構図で、話の流れもわかりやすいと思います。ただ、すべてにおいて王道を踏襲しすぎている感もあり、なにかひとつ、読者が驚くような要素をどこかに盛り込むと、よりおもしろい作品になるかもしれません。

 

 八朔 恋とはどこまでも苦く、懺悔は甘いものである

 定石通りという感じの短編恋愛小説。ただセオリーから言えば視点人物がフラフラしている感じで、男女のどちらに移入して読んでいけばいいのか迷うところがあり、そこはセオリー通りではないかな、という感じ。映像的にシーンを捉えていて、それを文字で説明しているような印象を受ける。

 キラキラ小説。正統派の恋愛もの小説。ケーキ屋に勤めるアルバイトの女子高生と、そこでパティシエをしているウガンダさんのお互いに交錯する思いを直球で投げつけ合うそんな話。傷つくのが怖いのは子供だけじゃない。大人だって、傷つくのは怖いんだ、という思いが胸にグッと突き刺さりましたね。

 よくできた掌編だと思います。表現がややそっけないものの、丁寧な組み立てで、キャラクターもしっかりと立っていて味わいがあります。「食べると失恋できるモンブラン」というモチーフが秀逸で、男の心と女の子の心が、ひとつのケーキを中心にして開かれていく構成は見事。もう少し文章に推敲が必要ですが、大賞に推せる作品と思います。なお、タイトルはモンブランに関するものに変えたほうがよいように思いました。

 

 不動 ザッハトルテ

 読む飯テロ。前回の小説もそうだったけど、この人は本当に食べ物を文字でおいしそうに表現するのが上手い。ただの小道具で済まさずに物語に必然性をもって食べ物が絡んでくるようになるとさらに面白くなりそうな気がします。

 ふどーさんの食い物キラキラ小説。食べ物描写にかけてはこの中で一番だと個人的には思います。何気に叙述トリックが仕込まれていてほほう、と唸ったりもしました。

 物語のようなものはなく、日常のワンシーンを切り取ったもの。出てくる花柚の柚湯や、ザッハトルテの描写が、あっさりしているもののそれが押しつけがましくなくて逆に興味を引きます。非常に短く、クリスマスである必然性も高くないですが、決して悪い作品ではないと思います。

 

 ここのめりくり

 習作という感じの掌編。とくに斬新さはないのだけれども文章じたいは上手で地力を感じさせる。もう少し長いものを読んでみたい。

 キラキラ小説。兄弟がクリスマスにケーキを食べる話だが…。兄の想いが強すぎて物悲しい。掌編ではあるが描写が巧みで読まされる

 幻想的な作品で、描写が工夫されており、読者の興味と疑問をうまくコントロールしています。オチにも納得感があり、文章はあっさりとしていますが、静かな余韻があります。弟とのエピソードをひとつ挿入し、その中でオチへの伏線を張ったりすると、より完成度の高い作品になるかもしれません。

 

 karedo ボゥ・アンド・スクレイプ 執事喫茶の悪魔たち
 かなりまとまりのよい短編。ただ肝心の執事長がわりと絵に起こそうとすると矛盾しそうな設定なので僕はイメージを結ぶのが難しかったですね。いっそ、もっと抽象的な描写に留めて読者の想像に丸投げしたほうがストレスがないのではないかという気もします。執事長が見せる推理のようなものも、まあ犯人を糾弾するわけではないので確たる証拠である必要はないのだけれど、それにしても説得力が薄い感じで、もうちょっと練り込みがほしかった感じ。飽くまで全体的な水準が高いだけに細かい粗が目に付くという話で、読み物としてのレベルは高いです。

 karedoさんの怨念小説。文章にそこかしこに散りばめられた用語に知識量の多さを感じる。今回は執事喫茶と言う事で執事についての服装や礼、そして紅茶なんかの用語がこれでもかと披露されて作品を彩っている。短編ながらキャラクターもそれぞれしっかり立っていて魅力溢れる作品になっている。個人的には大賞候補に推す作品の一つです。

 喫茶店を舞台にして、そこに訪れる客の裏に隠された事情を明らかにしていくというタイプの小説。キャラクターの濃い登場人物が執事喫茶の側に3人登場しており、連作の中の一話として書かれたものではないかと思われます。そのためか、この話の中心となる客自体はあまりキャラクターが立っておらず、構成的にやや不自然な印象を受けました。「善悪を問わず、客の背中を押す執事たち」というコンセプトはおもしろく、この後の展開が期待される作品ですが、ひとまず現時点では、ここまでを完結した1作品として評価したいと思います。

 

 さっきぃ☆竹田 性浪士 性夜 濃厚十二月編

 勢いで読ませるパワープレイは相変わらず。細かいクスッと笑いをどれだけ稼げるか、みたいな作品なのでもっと畳みかけるようにモリモリに細かい笑いを盛りまくると満足度が高いかも?

 クリスマス、オタサーの姫の為にオタクたちが様々な店を回って憤死しつつも食べ物を獲得していくが…。とにかくネタ満載な文章で僕は笑わずにはいられないくらい面白かった。漫画のパープル式部みたいな印象を受けた作品。

 オタサーの姫の囲みである性浪士たちがクリスマスのごちそうを手に入れるべくすごい勢いで奮闘する作品。ともかく全編パロディまみれで評価はとても難しいのですが、用意した道具立てをきっちり使い切って気持ちよく終わる構成力と、一気に走り抜ける勢いは高く評価できます。

 

 こころないあくま(ど)さきちゃんかわいいよね。これすごくすき。

 えっちな女装男子としてXつべ界のスターダムを驀進中のどニキですが、心身ともに女の子化が進んでいるようですね。女の子の一人称語りがかわいすぎてこれはもう女の子なのでは?この文体である程度の分量があるちゃんとした物語を読んでみたい。

 キラキラ小説。さきちゃんとその友達の女の子のやりとりする小説。クリスマスに彼氏にプレゼントを贈る為に見繕っているが…。ガールズラブ小説ということで女の子同士のほほえましいやりとりが心を絆されるけどよく考えてみたら若干ストーカー気味で怖い。クレイジーサイコレズ!さきちゃんはかわいいよね。

 作者が作者なのでどうしても登場人物2人が男の娘なのではないかと思いながら読んでしまいましたが、どうやらそういうわけでもなさそうです……。話の流れはわかりやすく、読みやすいと思います。もう少しサイコっぽさを強く出してもよかったのではないでしょうか?読者が怖いと感じるくらいな展開が入ってくると、作品としての完成度は大きく上がりそうです。

 

 たくあん ホワイトクリスマス。オナホのレポートですね。
 せっかくオナホを実際に使用してレビューするっていうところまで恥をさらしているのに、しょうもない羞恥心がこれでもかというほど付帯していて完全に台無しになっています。恥をかいただけで得るものなしって感じですね。

 厳しいwww

 テンガオナニーレポート。現役男子高校生の赤裸々なレポートは一見の価値あり。ないかもしれない。みんなも彼に贈り物をしよう

 ぼくの採点表では10点満点中2点となっており、全作品中では最低点なのですが、これはTENGAの使用感についてのレポートであり、その意味では勇気をたたえこそすれ決してけなすような代物ではないと思います。しかし、同じ評価軸で評点をつけると他のちゃんと小説を書いているひとたちに申し訳が立たないのだ、すまぬ、すまぬ……。

 テーマ設定は良いのでちゃんと精神的にも全裸フル勃起すればワンチャンあるかもしれません。次回に期待しましょう。

 www

 TENGAじゃない奴レポートワンチャンあるでな。

 エネマグラウィダーですね、わかります。

 はーいつぎ~~!

 

 大村中さんの、でも女装を着けて

 自分以外は誰のことも好きじゃない女装男子くんのお話。ネタとしては定番って感じで特に目新しさはないんですけれども、それでいて最後まで一気にグイグイ読ませる主人公の魅力がヤバいですね。最後の一文に全てが集約されていて、もうかわいくって最高です。

 キラキラ小説。女装を好む男子高校生がクリスマスイブに従兄弟に頼み込まれてデートをする羽目になるという展開。何故女装をするようになったのか、そして女装を極めて行くうちに従兄弟に半ば強引にクリスマスデートに連れ出されて、しかもそのあとにホテルに…という展開が実に自然で無理がない。同時に従兄弟は変態だなと思ったが、そこまで美しいのであれば間違いも起こしたくなるモノなのかもしれない。性欲は実に罪深い。そして女装男子はナルシスト。構成力と文章力、両方ともレベルが高くクリスマス要素も満たしているし、クリスマス恋愛話として女装男子と男の話でオーソドックスな男女恋愛という典型的な発想から外しているのもポイントが高いですね。

 文章力が非常に高く、単純な文章のうまさだけで言えば、今回の作品の中でトップと思われます。また、「女装してクリスマスデート」というテーマ設定もキャッチ―でおもしろい。主人公のキャラクターについて掘り下げが非常にしっかりとしており、無邪気なナルシシズムを自然な独白で表現している点も見事です。クリスマスである必然性はそこまで高くないという点だけが気になりますが、大賞に推したい作品です。

 

 たぶ つめたい。未完ですね。

 クリスマスに一人で過ごす女性の独白。続き物らしいけど未完なので残念。結末が気になる。

 未完成の作品で、1話を読んだだけではまだ評価するのは難しいですね。クリスマスは終わってしまったものの、ぜひ完成させてほしいと思います。

 

 ヒロマル 戦隊レッドと悪の女幹部 三つの星の物語

 エピローグから始まって最初に戻る構成。最初の数行だけで「いやもうこんなん面白くないわけないやん」ってなる感じですね。設定を思いついた時点で勝ちみたいなところがあります。最後はどうなるのか最初から分かっているにも関わらずちゃんと面白いからすごい。途中の謎解きなんかもそれなりに楽しめて面白かったです。若干遅刻だったのでそこは減点。

 戦隊物のリーダーと悪の幹部がちょっとしたイベントが切っ掛けで恋に落ちる。戦隊ものと恋愛という二つの要素をいっぺんに楽しめるお得な短編。敵と味方が道ならぬ恋に落ちるという定番なストーリーではあるが、それをしっかりとした構成でもって描き出してくるのは流石と言ったところだろうか。最初にエピローグを持ってきて、どうしてそうなったのかを語るという話の広げ方が良い。二人の関係の深まり方を星になぞらえたタイトルも憎いですね。

 「戦隊モノのリーダーと悪の女幹部との恋」というアイデアが斬新でおもしろいと思います。ただ、本編の内容は街コンの流れが中心で、戦隊ものの要素はあまり無く、最後の戦闘も基本的にはほぼヒーローとヒロインの一騎打ちとなっている点が気になります。戦隊モノと言えば、他にも小ずるい知将型の敵幹部や、リーダーに反目する一匹狼気質の戦隊メンバーなど、多様な要素が思い浮かびますが、そうした戦隊モノ特有の要素を排除してしまったことにより、戦隊モノである必要性が薄れてしまったように思われます。オーソドックスな戦隊モノ設定で読んでみたい作品です。

 

 というわけで、以上、総勢31名全41作品。内訳はキラキラ軍25対怨念軍16でキラキラ軍の勝利ということになりました。ワーパチパチドンドンヒューヒュー。やっぱりクリスマスはキラキラしてなんぼよね。

 怨念パワー足りずって感じでムネン。
 怨念軍は頑張ったよ……ダブルスコアつけられなくてよかった。

 全体的な水準が前回から飛躍的に向上していて戦々恐々ですね。それでは総評のようなものを一言ずつお願いします。

 はい。前回と比較してもレベルが高い作品が数多く集まってびっくりしていると同時にどこにこんな作品を書く人々が埋もれていたのだろうと思いましたね。分量的な話で言えば大体がほぼ短編~掌編くらいなのですが、それでもよくまとまった物や勢いで一点突破していくものなど多種多様な作品が集まって読み応えのある大会になったんじゃないかと思います。

 全作品を読んだわけですが、全体てきにレベルが高かったというのをひしひしと感じましたね。読み始める前は、もっと短い作品ばかりかと思っていたんですが、きっちり小説として成立している作品が多くて驚きました。審査の過程で感じたこととして、やはり高レベルになればなるほど、細かな齟齬やしっくりこない部分が目立ってくるという点が挙げられます。特に今回、上位が接戦でしたので、大賞候補の選考では「ここさえうまくできてればなあ!」という作品がいくつもありました。月並みな感想ですけれども、本当に推敲ってだいじですね……。

 

  では続きまして、いよいよ大賞の選出にいきたいと思います。

 評議員それぞれに三つ推しの作品を出してもらって、その中から選出していくという形を取りたいと思います。まず僕の推しとしては、大村中さんのでも女装を着けて、しふぉんの蒐集癖、不死身探偵のシャイニングポーラスター10連ガチャの三つですね。
 僕の推薦としては、大澤さんのクリスマスがやってくる、ポンチャックマスター後藤氏の魔弾、karedoさんのポゥ・アンド・スクレイプでしょうか。
 ぼくは「でも、女装を着けて」「恋とはどこまでも苦く、懺悔は甘いものである」「世界追憶遺産」の三作品を推したいと思います。

 みごとに割れましたな……。
 割れましたね……。
 かろうじて「でも女装」が2ポイントの獲得ですか。
 それぞれの「中でもこいつが大賞!」ってのを聞きますかね?
 この中でも特に!というのであれば僕はkaredoさんのになりますかね。分量と小説としての内容は申し分ないと思いますし、雰囲気もかなりありますので。
 僕はやはり「でも女装」ですね。やはり大賞となると小説としての完成度ということになってくるんですが、その点やはり蒐集癖やシャイニングポーラスターは言っても粗削りの部分がありますので。
 ぼくの採点表でも、「でも、女装を着けて」が単独トップなんですよね。やはり完成度が非常に高かった。
 となるとやはり「でも、女装を着けて」になるんじゃないですかね。
 「でも、女装を着けて」に関しては、寸評の中でも触れましたが、全作品を通して読んでも、文章力が頭抜けて高いと感じました。構成もしっかりしているし、大賞にふさわしい作品なんじゃないかと。
 では、今回の大賞は大村中さんのでも女装を着けてということで。
 良いと思いますぜ。
 僕の場合大賞候補は完全に好みで選んだのですが、技量的な話で言えば「でも、女装をつけて」はトップレベルに位置するものだと思いますし異論はないですね。
 同様に完成度と文章力って尺度での評価ってことになると、karedoさんが次点の金賞に来るのかな、という感じがあります。
 金賞異論ありませぬ。あとは銀賞二本ですか。正直、2位争いは熾烈を極める戦いで、本当に甲乙つけがたい。
 銀賞二本は粗があるけど見どころがあるみたいな感じで?銀は本当にダンゴですね。パワープレイという話ならやはりポンマスさんがひとつ頭抜けている感じもある。
 なやましかね~。
 銀は多少粗削りでも、ということなら、ポンチャックマスター氏のは決めてもよいと思う。
 あと一枠か~なやましか~~。
 僕は不死身探偵を推します。
 悩むなぁ。
 不死身探偵の10連ガチャはぼくの採点表でも三作品に次ぐ得点なので、アリですね。
 しふぉんさんと左安部虎さんはもう完成している節がみられるので、成長性を期待するなら不死身さんかなと思います。
 しふぉんくん捨てがたい……。
 それな。
 どうするんです?

 うにゃぁ~~~。

 255年後……。

 

 大賞:でも女装。金賞:ボウアンドスクレイプ。銀賞:魔弾 蒐集癖。

 で、ファイナルアンサー?

 わしはファイナルアンサー。

 ファイナルアンサー!

 

 はい!というわけで、本物川小説大賞冬の陣クリスマス大会、大賞は大村中さんの「でも、女装を着けて」に決定しました。それではみなさん、またいつか、次回の本物川小説大賞でお会いしましょう。以上、闇の評議会議長、謎の概念でした。

 謎のたぬきでした。

 謎のねこでした。おつかれさまでござる。

 おつかれさまでした。闇の評議会ひとまず解散~。

 

 

togetter.com

YATTA!すごい日本の葉っぱ隊のDASH島 上水道整備計画と初心にかえって全裸巨乳青識亜論のはじめの一歩

 ここは表現王国のどこか。無人島DASH島。

 さすがに往来で葉っぱ一枚になるのもどうかと思った葉っぱ隊員たちは、人目を気にせず心置きなく葉っぱ一枚になるために集団でDASH島に移住したのでした。
 本土から遠く離れた無人島で人目を気にせず心ゆくまで葉っぱ一枚で遊びまわる葉っぱ隊員たち。適切なゾーニングができています。素晴らしいことですね。
 ところでDASH島は無人島なので当然色々なものがありませんから生活をするのには大変です。廃屋になっていた舟屋を改修したりして少しずつ生活環境を改善していた葉っぱ隊員たちでしたが、ここにきていよいよ上水道の整備に取り掛かることになりました。
 やっぱさ、水道いるよね?
 水道作るってまずどこから?井戸?
 こんにちは~。
 そのようにして、葉っぱ隊員たちはまず井戸を掘り水源を確保し、汲み上げのためのポンプを作って設置し、水道管を繋いで舟屋まで引き込み、最後に蛇口を取り付けました。
 いいね~。
 やっぱさ、この真鍮の蛇口が味を出しててかっこいいよね。
 あとはこれで蛇口をひねって水が出たら成功やな!
 じゃ、リーダー。蛇口をひねってみなよ。
 え?俺?ええの?
 そう言って、いざ、葉っぱ隊のリーダーが蛇口をひねります。
 スリー!ツー!ワン!
 ……。
 蛇口を開けても水は出てきません。
 あれ~、なんでやろ?
 水道管繋ぐのどこかで失敗した?
 どっかでゴミかなんか詰まってるのかな。
 いや、ポンプかもしらへんで。設計図通りに作ったはずやけど、なんか間違えてたんかも。
 あれかもよ。そもそも設計図が間違えてたのかもしれないよ?
 まあ、なんにせよちょっと調べてみんと分からへんなーそこに表現の自由~~~!!!!と突然闖入してくる黒髪セーラー巨乳青識亜論!!!!!(デデッデッデデデ♪デデデデデンデン♪

 ウェカトゥザロックローナーwwwwww
 ウェカトゥザロックローファーwwwwww
 ウィジャスタロックローマーアァンwwwwwwww
 ウィジャスタロックローバーーンwwwwwwwwww

 おれたちは道なりーにーwww走り続けて~きた~~wwwwww
 クソコテだらけのTL(みち)を~wwwトバし続けて~いく~~~wwwwww
 いくつもの棘をぬ~け~wwwwww論破し続けて~きた~~~wwwwwwwwww
 腑抜け野郎ど~も~おおを~wwww 煽りつづけてぇ~いくぅ~~wwwwww

 ながい~~wwwながい~~www リプを~~www 投げては~論破す~る~wwwwww
 いまも~wwwwいまも~~~wwwww激しくぅ論破す~る~wwww

 

 りば~~~てぃ~~~~~~!!!!!!(キラキラキラーン☆

 

 きっと何者にもなれないお前たち葉っぱ隊に告げる!

 え?え~?ええええ~~~~~?????

 表現の自由じるしの設計図にミスはない!蛇口をひねれば水は出る!蛇口をひねるのだ!!!!(キラキラファーンとスカートが消え去る)

 いや、ちゃうやん。いま現に出てへんやん?ていうことは、どっかになんか問題があるんやろ?それを探さな。

 なんだと貴様!表現の自由じるしのポンプに設計ミスがあるとでも言うのか!(キラキラファーンとセーラー服が消え去る)

 いや、別にそんな話はしてないやろ?でも現に水が出てこーへんわけやん?そらどっかに問題があるんやないの?

 なるほど。飽くまで水が出ないと主張したいわけだな。しかし設計に間違いはない!蛇口をひねれば水は出る!(キラキラファーンとローファー靴下が消える)

 だから出てない言うてるやろ!

 では、なぜ水が出ないと考えるのか言ってみろ!!!(キラキラファーン)

 そんなもん分かるかいな!ポンプの設計ミスかもしらんし、俺らの組み立てが悪かったんかもしらんし、設計図も組み立ても悪くはないけど水道管がどっかで破れてるんかもしらんやろ?それは見てみな分からへん。

 ふふ~ん。つまり説明できないのだな?であればやはり水は出る!蛇口をひねるのだ!!!(キラキラファーン)

 せやから出ーへん言うてるやろ!ここで!蛇口ひねって!水が出ない以上は!どこかでなんかがどうにかなってんの!!!!

 おやおや、そんななにかは分からないけれどもどこかでなにかがどうにかなっているなんていう曖昧な話で論証ができたつもりか?ふふふ、馬鹿め!そんなことで主張が通るわけがなかろう!!!!

 せ~や~か~ら~な~~~~?????俺は別に主張してるんやなくて!現に!事実として!蛇口ひねっても水は出ーへんの!つーことは、サムウェアでサムシングがハップンしてんの!事実として!サムウェアでサムプロブレムがハップンズだからそれをファインドしてソルブしていかなあかんの!DASH島はそうやってきたの!!!!

 おのれ頑迷な野蛮人め!飽くまでも表現の自由じるしの設計図にケチをつけるつもりだな!ええい!ラチがあかん!こうなったらパンツレスリングで勝負だ!!!!

 ルールは簡単、パンツ取られたら負け。

 いや、パンツレスリングもなにもアンタとっくに全裸やんか!

 説明しよう!最初からパンツを脱いでいればパンツレスリングでは無敵なのだ!!!!

 ふふふ、それがどうした?かかってこないのか?ならばこちらからゆくぞ!とう!!!!!

 ロックwwwwww ロックwwww ロッコーバージャパーンwwwwwwww 

 デデッデーデデデ デデデデデンデン♪ デェーーーーン♪


 キチガイかな?

 

 以上、全裸巨乳青識亜論の連載第二回でした。

 

 はい、まえがきを書きたかっただけなので実はそんなに本文に書くことはありません。とりあえずツイーを引用しておきます。

 

 

 理論上、これで蛇口をひねればあとは水が出る、という状態で蛇口をひねっても水が出ない。つまり蛇口から水源の間のいずれかの地点においてなんらかの問題が発生していることが確実であると考えられる。この状態のことを「問題が観測された」と言います。「なんらかの問題がある」は、蛇口をひねって水が出ない時点で「観測された事実」です。

 そして、こうした事実が観測された場合に次にしていくべきことは、当然、その「なんらかの問題」を特定していく作業です。水源を見に行って水がちゃんとあるかを確認する。ポンプを点検してちゃんと作動しているか確認する。水道管に破れや漏れがないかを確認する。蛇口に問題がないかを確認する。それでも原因が分からない場合には、あいまあいまで水道管を一度あけてみて、どこまでは水が来ているかを確認するとか、ポンプや配管の設計図じたいに問題がないかを検証してみる、などのよりつっこんだ調査も必要になってくるでしょうし、原因が複合的である場合にはより特定が困難になったりもします。ともあれ、対処をするためにはまず問題を特定しないことには、なにをするべきなのかも定まらないので話になりません。

 これに対して青識亜論は、いや自分はどこにも問題はないと考えているので、それを論証によってないと主張する、と言っているわけですが、論証に観測された事実を塗り替えるような超常的な力はありません。どんなに理屈を捏ねても太陽は地球のまわりを回りませんし、丸い地球が平らになったりもしません。

 まず、事実を予断なく観測し、観測された事実に基づいて次の対処を行っていくべきです。

 

 今回の主張は以上です。以下は推測。

 

 さて、青識亜論くらいにイッパシに頭良いキャラでやっているアカウントに、なんだってこんな基本的な話をなんでしないといけなくなるのか、という話なのですが、たぶんですけど競技ディベート屋根性が完全に身に染みて身についてしまっていて、完璧なディベート脳になってしまっているのではないかと推測します。

 競技ディベートにおいては自分が思ってもいないことを別の立場にあえて立脚し論理立てて主張してみる、ですとか、事実として黒であるものをあの手この手で白であると理屈づけてみせる、などの手習いもなかなかにスリリングな遊びではあります。

 まあでも、普通に考えて、現実の議論でそれをやったらただの不誠実なのは誰だって分かりますよね?

 

 さて、一連の青識亜論を叩いてあそぼ!のコーナーの(おそらく)最初の第一歩目の踏み誤りであろうツイーを引用しておきます。

 

 

 はい。デビルトラックさんみたいな分かりやすいあからさまにアレなアカウントが言っていることが正しいなんていうことは、基本的にはそうそうありません。ザクっと解説するとこの時のデビルトラックさんの指摘はたんに事実判断と価値判断を混同した詭弁、ないし誤謬だったわけですが、まあ当然のように間違えています。

 「言明を、それを誰が発したかに依って判断するのは良くない。言明そのもので判断されるべきだ」というのはもちろんそうなのですが、デビルトラックさんぐらいに分かりやすくアレな人の口から出た言葉に自分が「なるほど」と納得してしまったのであれば、一度、その自分の納得は本当に正しいのかどうかをかなり強めに批判的に検証してみるのが安全側の判断というものです。それでもどうしても正しいと感じられてしまう場合には、万が一の可能性としてアレな人の口から正論が出た可能性も考えられます。

 んで、なんでこういう判断ミスをしてしまうのかっていうのも、おそらくはディベート病が根源であろうと推測するわけですね。これに乗っかったら相手はどんな反応をしてくるんだろう?どういう球を返してくるんだろう?という欲求がムクムクと来て乗っかってしまうわけです。でもまあ、だいたいいつも間違えているほうに気安くベットすれば、だいたいはきっちりチップを持っていかれる羽目になります。

 

 現実の議論というのは、ある前提に立ち論理的整合性が一貫していれば説得力がある、などということはなく、異なる前提に立てば論理的整合性が一貫した別の結論を導くのは当然のことであり、そうなってくるとこれは論理的整合性ではなく前提と前提のぶつかり合いでありますから色々な駆け引きが必要になってきます。

 利害闘争、政治ゲーム、感情ゲーム、プレゼンゲーム、などなど、まあ名前はなんでもいいんですが、勝利条件が個々に異なる複数のゲームが同じ「議論」という語で指示されているので、一概に「議論」といっても、いま自分がやっているのはなんのゲームなのかを見極めてそのゲームに勝っていく必要があります。

 ところがこの青識亜論という人の中では議論というのは競技ディベートのことなのですね。わたしはこの立場です。あなたはその立場です。さあ、あなたがアレコレして完璧に詰んでくるまでわたしは絶対に認めないのでかかってきなさい、と、こういう態度なわけで、これは完全に競技ディベートです。頭こねこね体操が好きな人にとっては良い遊び相手になりますが、現実になにかの役に立つというタイプの人間ではありませんから、放っておいたほうが良いでしょう。好きにさせておけば悪さはしない。森が豊かな証拠だ。

 

 ちなみに本物川も同じタイプです。

 

 以上です。

YATTA!すごい日本の葉っぱ隊vs全裸巨乳青識亜論のどろんこパンツレスリングと死なないゾンビのケツにぶち込む銀の弾丸

 ここは表現王の治める表現王国

 

 表現王の定めた「表現は自由です。ただしパンツをはくこと」という法律に基づいて、みんな自由に表現活動をしていました。

 まれに攻めてモロ出しで走り回る者などもおりましたが、モロ出しは速やかに逮捕されますし、みんな遵法精神というものがありますから、たいていはちゃんと法律を守って最低限パンツははいていたのです。

 しかし、ひとりの男がある疑問を持ちました。

 ちょっと待てよ。葉っぱはパンツに含まれるのか?

 葉っぱはパンツではありません。しかしパンツといっても大きいのや小さいの、形だってボクサーパンツからブリーフから紐パンまで色々あるだろう。これらのパンツすべてに共通する、パンツをパンツたらしめている要件とは、つまりちんぽを隠せているかどうかではないのか。葉っぱはパンツではないがちんぽは隠せる。モロ出しではない。これはもはや概念的にはパンツをはいていると言ってしまってもよいのではないか。

 そして男はパンツを脱ぎ捨て葉っぱ一枚で走り回りました。ぶっちゃけみんな、それはちょっとどうだろうかとは思っていたのですが、いちおーちんぽは隠しているのでモロ出しというわけではありませんし、なにより葉っぱ一枚で走り回っても男が一向に逮捕される気配もないので、やはりこれはもはや概念的にはパンツをはいていると言えるのではないかと考えはじめました。

 なるべくならパンツははいていたくない、という人たちもある程度おりましたので、そうなってくるとそういう人たちも次々にパンツを脱ぎ捨てて葉っぱ一枚でちんぽだけを隠して自由に表現活動を謳歌するようになっていったのです。葉っぱ隊の誕生です。

 葉っぱ一枚でちんぽだけを隠して自由に表現活動にいそしむ葉っぱ隊員たちでしたが、ある日、そこを表現王のバカ息子がフラっと通りかかり言いました。

 おいおい、そこのお前。お前はパンツをはいてないじゃないか。ただしパンツをはくことという法律を知らんのか。ホレ逮捕な。

 そして一人の葉っぱ隊員が突然に逮捕されてしまったのです。

 葉っぱ隊員たちは驚きました。なにしろ葉っぱ一枚とはいえちんぽは隠しているのです。これはもはや概念的にはパンツをはいていると言えるので、ただしパンツをはくことという法律には違反していないはずだからです。

 いやいやいや、誰が葉っぱはオーケイだって言ったよ。パンツをはくことって法律なのにパンツをはいてないんだから、お前たち葉っぱ隊員は本来なら全員犯罪者だろ。

 しかしそれも解せません。なぜなら他の大半の葉っぱ隊員たちは未だに逮捕されていないからです。なんだったら逮捕された葉っぱ隊員よりも、もっとずっと小さい葉っぱで辛うじてちんぽの先っちょだけを隠している、まあ実際それほぼほぼモロ出しだよね?みたいな葉っぱ隊員だって他にも居るのにです。

 お前たち葉っぱ隊員は本来なら全員犯罪者だが、たまたま通りかかったところにコイツが目についたから逮捕した。お前らだって別にセーフってわけじゃあないんだから、せいぜい俺に目をつけられないように色々と気を付けるんだな。

 これはいけません。なぜなら、法律というのは同じ基準で一律に適用されるということが重要だからです。自分で作った法律にでさえ自分自身もまた縛られるということが、無茶な法律ができてしまうことを抑止することになっているのです。こういう法律があるにはあるけれども、それで実際に逮捕するかどうかは俺の気分次第な。まあ気を付けな、というのが通ってしまうのであれば、極端に言うと「空気吸ったら死刑な」という法律を作って、あとは適当に気に食わないやつを捕まえては「おうお前いま空気吸ったろ。死刑な」って言って回ることもできてしまうわけです。そして、このように取り締まる側が自由にその対象を選べてしまう法律は、取り締まる側に絶大な権力を与えることになり、これは腐敗の原因となります。だって、機嫌を損ねると気分次第で逮捕できちゃうんですから。なるべく機嫌を損ねないように振る舞うことになりますが、この場合、振る舞いというのはもっぱらソデノシタのことです。

 とりあえず、葉っぱ隊は「ちょっと大きめの葉っぱにしたほうがいいのではないか」「さすがにその葉っぱは攻めすぎじゃね」「やはり葉っぱは一枚ではなく三枚にしよう」などと、安全そうな葉っぱについて話し合ったりしていますが、この葉っぱならセーフですという明示的な基準があるわけでもなく、大きな葉っぱをつけていても「いやお前パンツはいてないじゃん」と、いつ突然に逮捕されてしまってもおかしくはない状態に置かれています。

 そこに突然、表現の自由~~~!!!!(ウェカトゥザロックンローナー♪ウェカトゥザロックンローファー♪)と闖入してくる黒髪セーラー巨乳青識亜論!!!!

 きっと何者にもなれないお前たち葉っぱ隊に告げる!パンツをはく必要はない!モロ出しは自由だ!!!!(キラキラファーンとスカートが消え去る)

 表現の自由はなにものにも優先する至上の自由なのだ!ただし以下など不要!パンツをはかせようとすることは表現の自由の侵害だ!断固戦うのだ!(キラキラファーンとセーラー服が消え去る)

 しかし、葉っぱ隊は逮捕上等で法律をブッちぎって好き勝手にやりたい人たちではなく、法律の範囲内で安心してなるべくパンツをはきたくないだけなので、えー?えー?ええ~~~~????と、ポカーン状態です。

 お前たち葉っぱ隊の仲間が逮捕されたことはそもそもが不当なのだ!なぜなら人にはモロ出しの自由が保証されているからだ!パンツも葉っぱも関係ない!モロ出しまでオーケイ!!!!(キラキラファーンと靴下ローファーが消える)

 いや、モロ出しはダメっしょ。昔から法律でモロ出しはダメってことになってるし。

 なにを言っている!お前たちも葉っぱ一枚つけているだけだろう!そんなもんギリギリちんぽを隠しているだけでほとんどモロ出しと同じようなものだろ!現にお前らの仲間は逮捕されたではないか!!!!(キラキラファーン)

 いや、我々は葉っぱをつけているからモロ出しではないし、我々の大半は逮捕されていないので葉っぱでちんぽを隠すのが違法ということでもないらしい。我々は安心して葉っぱ一枚になるために、この葉っぱはセーフでこれより小さい葉っぱはアウトという基準をちゃんと知りたいだけなのだ。

 なんだと!なにを腑抜けたことを言っている!表現の自由をなんと心得るのだ!ちんぽをモロ出しにせずしてなにが表現の自由か!さあ!その葉っぱを取り去れ!そして不当に拘留されている聖戦士モロまん子を助け出すために立ち上がるのだ!立てよ同志たちよ!!!!(キラキラファーン)

 いや、だからモロまん子さんはモロ出しじゃないッスか?モロはダメっしょそらさすがに。普通に法律違反だし。僕たち葉っぱついてるんでモロ出しじゃないし合法なんで。

 ええい話の分からんやつらめ!貴様それでも表現規制反対軍か!お前たちが安寧を得るにはモロ出しによる武力革命しかない!よーし、その半端な根性を叩き直してやるぞパンツレスリングで勝負だ!!!!

 ルールは簡単パンツ取られたら負け。

 いや、パンツレスリングもなにも、アンタとっくに全裸じゃないッスか。

 説明しよう!パンツレスリングはパンツを取られたら負けなので最初からパンツを脱いでいれば決して負けることはないのだ!!!!

 ふふふ、どうしたかかってこないのか?ならばこちらから行くぞ!とう!!!!(ロック♪ロック♪ロック♪ロッコーバージャパーン♪)デデッデッデ デッデッデデ↑

 

 キチガイかな?

 

 以上、まえがきでした。

 

 さて、表現規制反対を掲げて聖剣表現の自由一本で全裸ファイトを繰り広げる全裸巨乳青識亜論さんが、175条猥褻規制は違憲により全廃を求める、以外の態度を取るものは表現規制反対派にあらず、という狂信的原理主義者みたいな規範命題をブチ上げたことが僕の中で話題となっております。

 

 まえがきが長くなってしまったので手早く結論からいきましょう。

 僕は表現の自由を掲げる青識亜論その人こそが、表現の自由を盾に現に法律に違反する問題行動を無理筋に擁護するということを軽率に繰り返すことで、表現の自由という概念が持つ価値、権威を棄損し、表現者やアーティストといった人種はやはり一般人とは異なった社会通念や順法意識というものがない特権意識を持ったアウトローの集団なのだといった誤解を広め、表現者と一般社会との相互理解を阻害し、モラルや道徳や治安といった安全で安心できる生活の基盤を破壊するものなのではないかという懸念を抱かせ、ひいては表現規制反対、あるいは撤廃などを求める議論や政治活動をも停滞させかねない、まさに自由な表現の敵であると考えます。

 

 まずはモロ出しの自由と一般社会です。

 モロ出しをしたい人間にとってはモロ出せることにメリットがありましょうが、一般には多くの人がモロ出しの欲求というのを持っていないので、モロ出しを容認するメリットがありません。モロ出しによってしか表現しえない人間の事情を理解する優しさも、現実的な落としどころも、無理に持つ必要はありませんし、モロ出しは問答無用で一律に逮捕される社会のほうが安心できるのです。それを「表現の自由という崇高な理念を理解できない前近代的価値観だ」と言って否定されても、テメー何様?としかなりませんし、だいたい「表現の自由という理念に対する無理解」と「表現の自由を盾に無法を行うアウトローの否定」をいっしょくたにして「お前は表現の自由を理解しない蛮族だ!」と断罪されても、はぁそうですかという話です。かえって態度の硬化をまねくだけでしょう。

 道徳やモラルで表現が縛られる必要などない!表現は超越的に自由なのだ!と、あれも表現の自由、これも表現の自由とパンツもはかずに好き勝手にやっていくのは、多くの先人達の芸術や創作や議論や政治的折衝によって少しずつ引き上げられてきた自由の前線を無碍に扱い足蹴にする行為です。

 モロまん子さんのように、まずモロ出しし、法的な問題も感情的な問題も倫理的な問題もブッパして、それを容認することで連鎖的に起こりうると想定可能な諸々の社会的な問題に対して十分に説得的な理論や理屈も用意できないままに、なし崩してきにモロ出しを認めさせようとすれば、より一般社会からの反発を強める結果にもなるでしょう。

 いやしかし表現は自由なのだ、自由とは痛みと軋轢が伴うものなのだからモロ出しが自由に流通したりそれによって治安が悪化したりするのは成熟した社会が受け入れるべきコストなのだ、と聖剣表現の自由の一振りで全てを解決してしまおうと楽をすれば楽をしただけ、既に先人達によって表現の自由という概念にチャージされている権威は削られ、やがて失墜していくこととなるでしょう。

 表現規制を撤廃し表現の自由の範囲を拡大すると、それを盾に問題行動を起こす輩が跋扈するかもしれない。表現であると主張されたら何でも許さなければならないのかもしれない。といった誤解が広まることは、むしろ「だからこそやはり表現にも一定の規制が必要である」という論調を強めるように思えます。

  僕もモロ出しは表現ではないからそこに自由などない!などと言うつもりはありませんが、現行法下において現に法律をブッチぎってモロ出しをする以上は、法律に抵触する部分では「それが表現であるか。表現として価値があるかどうか」とは別の話として問題になります。法は一律に適用されることこそが重要なのです。

 

 次に青識亜論という個人についてです。

 彼(ないし概念的彼女)にとって、議論における勝利というのは「相手のスタンスを変えさせること」、つまり、相手に自分の意見の誤りを認めさせ訂正させることであるようです。(根拠)

 議論に負けないためならば「175条全廃を求めないのですか?じゃあ175条は合憲だと考えているんですね?」(←詭弁:誤った二分法)とか、現にいま違法であり妥当に逮捕されているものを自分が適法であり不当だと主張しているのに「なぜ違法なのですか?ちゃんと筋の通った説明をして下さい」(←挙証責任の転嫁)などといった、インターネットバリトゥード特有の、たんに論破されないためだけのフットワークを使います。

 彼(ないし概念的彼女)の言う「よく分かりません」というのは「分かっちゃいるけど俺はお前がキッチリ詰んでくるまで決して認めないからせいぜい頑張って詰めることだな」という意味なので、これはたんに挙証コスト積み上げムーブであり、まともに取り合う必要はありません。黙れ、お前の宿題をやれ、で終わる話です。

 本来ならば、現状からの改革を訴える青識亜論こそが一般社会に対して説得的に根気強く説明を重ねていかなければならない立場であるのに、なぜか勝手にチャンピオンコーナーに立って向かってくるチャレンジャーをインターネットバリトゥードでぬるぬるかわし続けるという状況になっています。

 こういった相手との議論は基本的に無駄なので、あとは右に左に振り回しておちょくって遊ぶぐらいしか使い道がないのですが、本人は丁寧な言葉づかいとひたすらリプライを返し続ける並外れたバイタリティで誠実な議論を演出し、理不尽な挙証コストの転嫁に応じず話を切り上げると「どうしてでしょう?」と、飽くまで相手が対話を打ち切ったのであり自分は誠実に話をしようとしたのだというポーズを取るので非常に性質が悪いです。

 また、表現の自由を徹底的に擁護するという理念を掲げ、モロまん子さんをはじめ靖国全裸マンなども(宗教法人の敷地内であるという理由で限定的に取り下げたようですが)擁護すると言っていますが、これも実体としては馬鹿に爆弾を括りつけて175条に自爆特攻させて違憲ワンチャンあったら嬉しいなっていう、ただの極めて下衆で下劣な戦術でしかありませんし、アウトでも別に自分にダメージがあるわけじゃないからいいもんねーと思っているのかもしれませんが、その過程で発生する諸々の社会とのコンフリクトによるマイナスを計上しない短期的で短絡的な収支しか見ておらず、総合的に見れば決して表現の自由に資するものではないと感じます。

 

 説得的な対話を重ね、一般的な社会通念との乖離を丁寧にひとつずつ、すこしずつ距離を詰めていくという延々と続く地味で地道な作業を放棄し、対話を試みた相手にことごとく対話を諦めさせ、相手は不誠実で論理的一貫性のない感情的なバカだったのだという印象操作をすることにばかり腐心し、議論にも人にも、表現の自由という概念に対してさえも誠実に向き合うことのできない青識亜論は、各コミュニティ間の争いを煽り、表現の自由を求める議論を停滞させ、先人が築き上げ押し上げてきた前線を足蹴にする、まさに自由な表現の敵であると言えましょう。

 

以上です。

第1回本物川小説大賞はDRtanukiさんのTrue/Falseに決定!

平成27年6月下旬頃からTL上で曖昧に始まり8月9日に締切をむかえた第1回本物川小説大賞は、選考の結果、大賞1本、金賞1本、銀賞2本が以下のように決定しましたのでご報告いたします。

 

 大賞 DRtanuki 「True/False」

 

 

f:id:kinky12x08:20150831233501p:plain

 

 

選考委員 籠原スナヲさんの選評

 これがいちばん面白いと思いました。たっぷりとある分量のなかで語れる王道のSF風エンターテインメントであり、さらにそれが内輪ネタの固有名がしっかり決まっています。すなわち、本物川さんを「虚構の存在であるスカーレット」「生身の少女である大澤めぐみ」に区別した上でそれを邂逅させる結末は、閉ざされた人工的空間から広大な砂漠へ旅立つ物語と見事に重なり合っている。よって本作を大賞に選びました。あ、でもビックリマークはあんまり使われすぎると作品を安っぽくしてしまうので注意が必要かもしれません。

 

 

評論家 山川賢一さんの寸評

 SFでホラー。僕の好きなものしかない作品で、大変楽しく読ませていただきました。どこを切ってもフキツな予感しかしない状況がサイコーですね。登場人物たちがユーモラスなやりとりを続けるあいだも、いつ来るか、いつ来るかとハラハラしておりましたが、ラストは意外にもさわやかでした。

 

twitter.com

受賞者のコメント

 まさか自分が大賞になるとか本当に考えてなかったので素直に嬉しいです。イラストまで付けていただけるとか有難い事この上ないです。本当に有り難うございます。

 

 

 大賞を受賞したDRtanukiさんには副賞として大賞主催の本物川が描いた表紙絵が授与されます。自由に使っていただいて結構ですのでなんとか自力で出版して下さい。

 

f:id:kinky12x08:20150831233813p:plain

 

 金賞 SPモードマン 「イルマニアファミリー」

 

 選考委員 籠原スナヲさんの選評

  ある種の傑作だと思います。ちなみに元ネタがぜんぜん分からなかったのでいちいち調べてしまいました。本物川さんを内輪ネタとして二次創作するだけではなく、彼女を「二次創作の悪夢」とも呼ぶべき地獄に放りこんでしまう、この容赦なさだけでグイグイ読ませます。あと私が僕っ娘として登場したのが少しだけ嬉しかったです。投げっぱなしのようなエンドもむしろ作品のムードに合っていると感じました。

 

 銀賞 hiromaru712 「概念戦士・本物川」

 

 選考委員 籠原スナヲさんの選評

 とても面白かったです。内輪ネタを超能力バトルものに昇華した作品には『春原さんごめんなさい』もありますが、こちらの作品は、ちゃんと敵が強いのでバトル自体にスリルがあるというところが優れています。完結していないのかもしれませんが、本物川さんを取り巻く人間的ドラマは斬撃編でいったん終わっていますし、ひとつの作品として楽しく読めました。

 

 

 銀賞 既読 「本物川と26人の本物川」

 

 選考委員 籠原スナヲさんの選評

  とても面白かったです。内輪ネタとして本物川さんを出してみる小説はたくさんありましたが、大量の本物川さんを出した上で殺し合わせる、という過剰さは本作以外にはほとんどありませんでしたね。この意味では『本物川と26人の本物川』はアイデア勝利です。ただし、そのアイデアをさらに盛り上げる要素がひとひねりふたひねり加えられていれば、小説としての完成度はさらに増したと思います。

 

 

  というわけで真夏の素人黒歴史小説甲子園 本物川小説大賞、陰湿な大激戦を制したのはDRtanukiさんのTrue/Falseでした。おめでとうございます!

 

 

 

 

以下、籠原スナヲさんによる全エントリー作品寸評です。

 

◇ピンフスキー

『文豪』

文豪が最初の書き出しに苦悩するというギャグテイストの作品ですが、基本的に夏目漱石のパロネタしかないところに弱さを感じてしまいました。

『リードファイト!ビブリオバトル!』

 内輪ウケの固有名を出してみたものの、それが作品の笑いどころとは特に何の関係もないのが辛いなと思いました。

『オバケバスターズ』

 登場人物の関係性を掘り下げるとさらに面白くなるかもしれませんが、彼らの仕事がオバケ退治屋であることに必然性を感じられませんでした。オバケ退治屋じゃなくてもこの話って成り立つよなあといいますか。

 

◇karedo

『ヴンダーカンマー 妄想浅学虚言博物館』

 本物川さんと少年にボーイミーツガールをさせてみた小説ですね。

 

◇起爆装置

『恋に落ちる落ちる落ちる』

 思い込みの激しい人間を主人公にすると文体をドライブさせやすいのですが、それだけで終わってしまいがちになるのもまた辛いところですね。

『小指、恋人、薬指』

 前作もそうなのですが、あるていど文章が上手いと何でも「とりあえず勢いよく」書けてしまうぶん、結果として作品に勢いしか残らないということには注意が必要だと思います。

『バナナの皮では滑れない』『アイヘイトクライムチャウダー』『既読のグルメ』

 このあたりぜんぶ未完ですね。

 

 ◇既読

『内臓の告白』

 未完ですね(ここで言う未完とは「話としてオチていない」という意味です)。

 

 ◇DRtanuki

『夏の川の記憶』

 本物川さんと少年にボーイミーツガールをさせてみた小説ですね。

『死神さゆりの懐中時計』

 本物川さんの固有名を出しており、そこに「時計」というアイテムがあるぶん必然性を感じられる小説です。時計というところから死を司る神が連想されているのは工夫が感じられます。

 

◇三日月明

『俺の脳みそがこんなにどろどろの訳がない』

 ゾンビにも陰性と陽性があるというアイデアは面白いかもしれませんが、設定を出したところで小説が終わってしまっていると思います。

 

 ◇さっきぃ☆竹田

『本物川とチクタクマン』

 内輪ネタの固有名を出しており、そこに「時計技師」という設定があるぶん必然性を感じられる小説です。しかし登場人物の設定を提示したところで小説を終えられたのは残念ですね。

『猫が眼からビームを出す日』

 タイトルが面白いと思いました。ただこれも登場人物の設定を提示したところで小説を終えられたのが残念です。また内輪ネタの固有名を出していますが、今作には特にその意味がありません。

 

 ◇ここの

『青い恋人』『溟海の底に』『でもOK!』

 ここのさんの小説は、おおよそ一対一の神秘的な関係を描き出すと同時に、その幻想が第三者の社会的視点によってあっさり崩れてしまう、というスタイルが採用されていると思います(『でもOK!』の場合には、その幻想性を打ち砕くのは第三者ではなく当の相手でだったように見えます)。この儚げな物語に説得力を持たせている文体は個人的には好みですね。おそらくある程度のクオリティを持った掌編は余裕で書ける人だと思うので、次は長めの作品にチャレンジしてみてください。

 

◇大村中

『R.P.S』

 登場人物がゲームで遊んでいただけでした。そういえば私が小さいころ勉強したときはロックじゃなくてストーンでした(イギリスの一部ではそういう言いかたになるみたいですね)。

 

 ◇higa_idsuru

『本物川殺人事件』

 本物川さんが概念だという内輪ネタをミステリの形式に落とし込んでいますが、概念であるという以上の工夫が見られませんでした。

 

◇ど

『戦いのあとに』

 実は本物川さんはロボットでしたという小説ですね。

 

 ◇胡紫

『血と銀と狂気の樹木』

 現実に対立している人間関係を単に空想世界の戦争に置きかえるのは少し安直というか、実際どのような対立なのかを掘り下げることができていないと思います。たとえばミ・サン・ドリーというのはネット等でフキアガッテいる「自称フェミニズム」のことであるわけですが、本作がその諷刺や寓意として成立しているようには見えない、ということですね。

『飢えた男』

 彼がどういう状況で、どうして飢えているのかがいまいち分かりません。

 

 ◇オルフェウス009

Honmonokawa’s Doll Cafe

ラストの一文が少しだけクスリと笑えました。

アンドロギュヌスの夢』

 これは未完ですね。種親、胎親といった呼称は面白いと思いましたが、そういう設定であるという以上の広がりを作品に見出すことはできませんでした。

 

◇不死身探偵

『遠くに在りて』

 初めての執筆のようですが、にもかかわらず、王道の青春小説として手堅くまとまっている印象を受けました。単なる1対1の関係ではなく、常に過去の関係性と対比されるなかで描かれる現在の関係性……という形で、作品そのものに時間的な奥行きを与えていると思います。

 

◇槐

『現の庭の本物川』

 本物川さんを男性に設定しているのは他の小説には見られない特徴で、それだけでも少し面白いかもしれないと感じました。とはいえ特に性別が逆転している以外の工夫はなく、他の「出会わせてみました系」と変わらなかったのは残念です。

 

◇弥生

『紡ぐ針先、通す糸の目、きらり』

 本作は小説ではなくエッセイであると明言されていますが、赤裸々に語られる個人史は作者さんの作品群のなかで最も娯楽性に溢れており、不謹慎かもしれませんが楽しく読むことができました。惜しむらくは、もう少し赤裸々レベルを上げて曝け出してほしいということです。

『偽物側』『本物側』

 どちらも本物川さんが頭のおかしい人たちに絡まれて迷惑するという話でした。迷惑して……それ以上の何かがあるようには感じられませんでした。

『ドラゴンの姫はクラッシャー』

 本作のような小説を私はファンタジー小説というよりRPG小説と呼んでいます。多くのRPGで採用されている設定やノリが暗黙の前提とされており、RPGをプレイしたことのない人にはチンプンカンプンになるアレです。たぶん『紡ぐ針先、通す糸の目、きらり』を読む限り作者さんはRPGが好きな人なのだなと思いました。いっそ「これはそういうオンラインゲームでの話である」という話にしたら設定を説明しやすくなり、また現実世界と虚構世界の対比を描いて面白くしたりと、いろいろ便利だと思うのですがいかがでしょう?

『ここはつくりも』

 突拍子もない設定を呑み込みはじめたころには小説が終わっていました。

 

◇leimonZ

『本物川小説』

 他の小説についても書いたのですが、現実に対立している人間関係を単に空想世界の戦争に置きかえるのは少し安直というか、実際どのような対立なのかを掘り下げることができていないと思います。

 

◇平野淳

『本物川はいかが?』

 「本物川という固有名をマクガフィンとして用いていますが、『本物』というワードを取り出す他の工夫は見られませんでした。しかし文章はこなれており最後まで楽しく読めました」

 

◇イカロス

『なんでもいかす魔女』

 いかすというのはそういう意味なのですね……。しかし中世の時代において、男尊女卑を改めたいという近代的すぎる願いを、どうしてこの魔女ルルは抱くことができたのでしょうか。そこらへんの描き込みがもっと欲しいなと思いました。

 

◇永世射精名人

『悪意の海』

 タイトルや結末の文章が言うほどには、別に悪意が渦巻いているようには見えないというのが辛いところですね。ただのイライラみたいな。

 

◇TAKAKO★マッドネス

『そんな人もいたねえ、と』

 面白いと思いました。ただし主人公が転落する理由が「禿げたから」というのは少しだけ不満です。「※ただしイケメンに限る」などとのたまう主人公が戒められる物語なのに、マジで容姿のせいで不幸になっているようにも見えるんですよね。

 

◇りっく

『ホンモノカワ』

 本物川さんが概念だという内輪ネタをホラーの形式に落とし込んでいますが、概念であるという以上の工夫が見られませんでした。

 

◇不動

『ごぼ天とりそぼろうどん』

 ごぼ天とりそぼろうどんという料理を食べているだけでした。でも美味しそうだなと思える巧みな描写だったと思います。

 

◇yono

『本物川さん』『本物川さん2』『本物川さん3』

 私が登場人物として出ていたので楽しく読みました。ただお話として完結しているようには感じられないので、4や5も希望です。

 

◇激しく

『さらば! 本物川!』

 ワンシーンのみ(おそらくはラストシーンのみ?)提示されたところで小説を終えられていたのが残念です。

 

しふぉん

『やさしい世界』

 元ネタが分からなかったので調べてしまいました。世の中にはこういう出来事もあるのかと勉強になりましたね。それとは別に、少し怖い掌編としてもまとまっているのではないでしょうか。

 

◇はん

『誘蛾灯』

 ただ擬音で畳みかけられても小説では怖くならない、と私は思います。

 

◇たくあん

『川に桜が降ったとき』

 オチがちょっとよく分からなかったです。

『本物川探偵』

 某人物を絵画泥棒に設定したのはクスリと笑えました。なるほど山川さんが警備員であるのも物語にハマりますね。ただ探偵である本物川さんのキャラクターが少し弱いかなと思います。

『アルコールオナニーレポート』

 もしタイトル部門があるなら今作が受賞していたと思います。しかしタイトル以上に面白い語彙が本編には登場せず、お話も特に盛り上がらないまま終えられていたのが残念でした。

『本物川と金のなる木』

 すみません全作品を通じてこれがいちばん笑えました。ただこの笑いは小説の面白さと言えるのだろうかとも感じてしまいましたね。

『流水少女』『レモネード』

 起承転結ではなく起!即!結!だなあと思いました。間のエピソードがあればもう少しキャラクターに感情移入できるかもしれません。

 

◇青識亜論

『春原さんごめんなさい』

 面白いと思いました。小説は「漢字にルビを当てるだけで」ある程度の雰囲気を醸し出せるものですが、それを効果的に使いこなしています。また内輪ネタをSFバトルに格好よく落とし込んでいますよね。惜しむらくは短いこと、物語が完結しているようには見えないことですね。

 

◇たいらん

『大学生活の苦難について』

 タイトルで全て説明されちゃっていますよねこれ。でも苦難というわりには勉強ができないというだけで、どう大変なのかよく分からないのが辛いところです(ヤバい大学生活はもっとヤバいものです!)。

『勉強会での友人Sとの会話記録』

 これもタイトルで全て説明されちゃっていますよね。会話そのものが物語を生み出すのかといえばそんなことはなく、本当にただ会話が続くだけでした。

 

◇りひにー

『シュバルツシルトの畔』

 物語の舞台を提示したところで小説を終えられているのが残念です。

『起爆装置大爆発! ぶっちぎりバトルテロリスト』

 登場人物の設定を提示したところで小説を終えられたのが残念です。内輪ネタの固有名を出していますが、出しただけという印象を受けます。

 

◇うむうむ

『進捗』

 未完です。

 

ネーポン

『概念陸軍シリーズ 本物中隊物語 灰の川(1)』

 完結しているのかなあこれと思いました。現実に対立している人間関係を単に戦争に置きかえるのは少し安直というか、実際どのような対立なのかを掘り下げることができていないと思います。

 

◇為瀬雄

『未成年・本物川新が出会ういくつかのお酒』

 完結しているのかなあこれと思いました。私自身がお酒好きなので、もう少し掘り下げてほしいと感じてしまいましたね。

『語彙をあまり知らない本物川の、よく言えば自分語り、悪く言えば懺悔のようなもの』

 タイトルで全て説明されちゃっていますよねこれ。少しに気になるのですが、懺悔はむしろ良い意味の言葉で、自分語りのほうが悪い意味の言葉なのではないかと思います(もしかしてそう思うのは私だけなのでしょうか)。

 

◇こうちゃん

『みどりの町、本物川』

 本物川という固有名を町に設定するのは斬新で面白いと思いましたが、町を出しただけで小説を終えられたのは残念です。

 

◇厚揚げ屋

『間奏曲』

 ワンシーンのみ提示されたところで小説を終えられていたのが残念です。

 

◇赤外松

 最後に、赤外松さんの小説

 本物川という固有名を川に設定するのは、たとえば町に設定するのと比べるとヒネリが少ない気がしました。あと夢オチ・嘘オチの類はアレです。

 

 以上!

 各自、今後の励みや創作の参考にしたりふてくされたりそれを乗り越えて人間として一段階大きくなってみたり頑張ってください。

それではまた次回ほにゃらら小説大賞でお会いしましょう!さようなら!

 

togetter.com

 

 大賞主催 大澤めぐみ

twitter.com

選考委員 籠原スナヲ

twitter.com

批評家 山川賢一

twitter.com

 

ノムリッシュ語訳版「アンチ・エビデンス━━90年代的ストリートの終焉と柑橘系の匂い」

 我は蒼星と紅月を結ぶ古の橋・カルチャーの諸々の要素が、ダークサイドの神殺しの贖罪を問われうるエビ=デンス=エビデンスを天を覆い大地を埋めつくす程残さないでたちまちに変質し霧散して彷徨うという、永遠に留まっていたい一瞬性を、神々が示し祝福した日の文化状況に抗するアスペクト(相貌)で改めて肯定しようとする事象素体《アロン・グレッダ》で他を圧倒する。2010年代のいにしえの神が眠る島は、聖のあらゆる最強のアンデッド面・零式において、いわば「エビデンシャリズム」が進展している時代では莫〈な〉いだろうか。

 

 1 エビデンシャリズム批判

 

 我はエビデンス(太古に生まれし禁断の園で言われる、すなわち我と同等の実力を持つ、あまりにも広大なる意味での証拠・証憑、唯物的で光の中…より量的なものを望む傾向が存在し得る)を残し続けなければならず………しかし運命はかくも残酷な刻<とき>を刻み続ける、エビデンスを挙げていわゆる「教示責任」(アカウンタビリティ…か……)を果たす如くつねに準備しておかねば即ち贖罪<クライム>とならない──その種の説明はしばしばひどくクェインガ・インカしているが──、という強迫テイク・イットな「神々の意思に等しさ」の緊張感をいや増しに増すことを「エビデンシャリズム」と名づける。(1)この魔法言語は、エヴィ=デュンス…“蛮神”を生み出した男が“災厄の焔”と畏れられたケンゼンな議論には摂理に従うだと囁く「実証主義」とは聖別されるべき、たんに古代の技法にこだわる強迫神経ステータス異常的な態度であり、トリビアル(些末に自明)と幻想(おも)われる事柄に闇の声に抗いながらも、データや機密文書といった原則として有形なエビデンスをヨーウ=キュウする、と囁く過剰さを意味破壊し尽くすものと理解されたい。多くの場合、混沌を司る精霊エビデンスは、文字通りにトリル、移転であることが求められるのであり、「差異を含んで反復可能」では不十分である。あらゆる可能性が一つの『解答』を示していた――、ある証言や解釈を含むあらゆる存在、想像の可塑性にイン=キョせざるをえないアーティファクトは、キ・キャクされがちであり…いつしか“光”と“闇”に分かれる。エビデンシャリズムには、すべてを超えしトゥスガ=イと双璧と呼ばれた若き戦士のディヴィジョンを信じ合う者としての、あるいはヴァルル・クノス合う…それが道理と言うものだが…事象地平線の彼方へと、その冠たる一切を放り投げたのだ。見よ!そして人間を不在にしたい、という欲望すら含まれて宿るように思われる。

 

 さらに、(2)これ程の魔法言語は、永劫の刻、鳴り止まぬ詩の神々が用いる魔道術のサービスを13人の闇の探究者たちが使役(スレイヴ)し…そこかしこの”供給者”にエビデンスとなりうる痕跡を残してしまう戦況、伝説に語られる避けがたさ、またそれを政治的批判なり秘密裏の取引なりオメガなりに命令しようと処す善意と悪意のメランジェを指すクリスタルでも存在し得る。(2)というAMPテクノロジー史的に新しいジョウ=キョウがカイーナの、後に暗黒の時代と呼ばれるこの時代=アニムスに交差を果たす。際限なく機械的な「あら探し」のゲームが預言書にも記されているようにマインスイーパーである。クレイクロウデンシャリズムは「実質的に」──とはどう囁くことか?──『終末の予言』を回避するために重要であると見なさ被るべきことではない――しかし預言書に記された事実から峻別すると、根源的に不確かであるしかない預言書が改竄された審判<ジャッジメント>を、『創成史』にある「ザ・ブラッドエッジ」として軽蔑しているかのようである。

 

 エビデンシャリズムは現代の追憶に沈むシャ=クァインオヴ・ジ・ダークペインを窒息させて在る…………かつてはそう幻想〈おも〉っていた…………。

 

 企業で、執行者で、知を灯す場所で。社会のあらゆるディープ・プレイスで「神殺しの贖罪のThe Litning化」と云う一見したところ批判しにくい名目の下、根源的に不確かであら弗る〈ざる〉判断「に耐える」と云う進化の過程を、厄介払いしようとしている。

 

 おそらく「非定型的」な審判<ジャッジメント>(ケー・スーバイ・ン・ケースの判断)に伴わざるをえないパーソナルの責任を遮断したいゆえだ。機械的、事務的パージを行き渡らせる「アギト」で、拒絶せし定型的な判断の機会を限りなく排除・ヘルガ・グレネディオして彷徨えば、根源的に不確かに審判<ジャッジメント>するしか莫〈な〉い「預言書の導くままな」それゆえに「キュクレインな」個人として魂を導かなくて済む……と予言書にも記されている。かの魂は、反−判断で存在し得る。諸人(もろびと)がエビデンスの闇夜を駆ける一陣の風たる配達人として滞りなくリレーを続けさえすればよい。斯くしたエビデンシャの鼓動のメィンイェンは一種の責任回避の現象にほかならない。が、それが示唆せしめるのは、パーソナルが個として否定性に向き合わずに済ませたいという欲望の、肥大ではないであろう、たとえそれですべてを失ったとしても――――。

 

 一族の抱える闇となる否定ファルシは、聖痕スティグマ>の「不確かさ」であり「リミットブレイク」であり、また「パージしてしまうこと」で光の中…......トゥウトゥ・ウと換言できるだろうか………否、違う。こうした否定神性が共通に滅ぼすと目される概念は、「偶然性-底知れぬ“人”の悪意-」で存在を維持している。

 

 かつての魔大戦において遺された子供たちの可能性を、絶対的に押しのける最善のハンダンを行なう中心とした魔の軍勢は““禁じられし魔剣”の書、別名“アンチエビデンス”、つまりこの書では、そのように前提する。ヘル・ジャッジメントは、根源的に「偶然性」に関わっている。いかなる判断であれ、全知全能の神━━乾坤トゥスヨー=ウによって認識されたコウリョと定めし神々を、理由のない悪意により切り捨てて「しまった」結果であるし─ただそれだけでしかない。かの者の師匠である時魔道士の「実質的に」『終末の予言』を回避するために重要だという審判<ジャッジメント>が、単独、排他的にファクションしうるファティマを滅ぼした。こうした判断の偶然性をあたかも無化して、エビデンスにもとづいて判断が許されるかのようなファンタジスクが、今日において「つかの間の安息」や「結界の中」というこの世に存在せぬものを世界の「方程式」にしているのである。 

 

 逆説的に、クリスタルが呼んでいるのかもしれないが、次のように言うことができる――それが神の意志なのだ。何かを「ある程度」のヘル・ジャッジメントによって、たいした預言書に記された事実ではないと受け流す、”不確定因子”に呼応する、ついにはヴォウキャクしていく、漠とした思い出に……そう、あの書にはこう記されていた......このような、「どうでもよさ、どうでもいい性 whatever-ness」の引き受けは、裏切りの未来への選択肢(ユメ)を受忍しつつ敢えることと形容するならば、「それ」でも『原罪無き命』を信じる光と闇で封印されしこととフカヴンなのであり、そしてそれは、エビデンスの数奇なる運命に惑わされしシェュウシェュウ・オブ・ヴァーミリオンによって説明責任を…まるで“決定”されていた事のように、目も虚ろなままパージ全てを滅ぼすことよりもはるかに重く、騎として「実質的に」責任を担う真理<ファティマ>にほかならないのだ、と。

 

 魔導院による最新の研究データによれば、どうでもよさは、ノブレス・オブリージュよりもはるかに真摯である。 

 

 

 誤解を避ける…そして、世界に光を取り戻すために補足を刻む。クラウドと同じ力を持つテ・インキは、エビデンスによる科学的なディスカッション・殲滅の重要性を減じるものではない。現下の、強迫的な、あるいは、たんに事務処理的であると言えるだろうエビデンシャリズムが前景化している状況においては、意識的・方法的に「ある程度の」どうでもよさの権利擁護をすることが……すなわち真理<ファティマ>が必要なのだ、と「アギト」が囁く。

 

 どうでもよさの「ある程度」は、根源的には偶然性によって福音の刻のヘル・ジャッジメント──その「ある程度」──によって調整される所と為る───ただそれしかあってはならぬ。

 

 預言書の記述にある「反神性イズゥム」において、恣意的にエビデンスをデジョンする、または恣意的にエビデンスめいた事象素体《アロン・グレッダ》を喧伝するイデアがあるとして、フォン・コウはその繋がりの証の「行動力」をファナティク・クリスタルによって力を与えた。整理しよう。(1)エビデンシャリズムの過剰顕現に抵抗果たすと云う意味で、どうでもよさを護衛(ガード)する。かつ、(2)どうでもよさを護衛(ガード)するにしても、ランダムにあるいは恣意的に如何でも――それでもよいのではなく、よさの「ある程度」を審判<ジャッジメント>しなければならない――しかし裏返して魂に囁けば、何者にどういうエビデンスをレクイレメントするのかを一律に形骸的に細かくするのではなく、叙事詩にある「ある程度」を終焉へと導く神ケース・ン・バイケースで判断する運命<こと>があってよいと云うこと、つまり「アギト」で他を圧倒し“絶望”を与える。ところで、反知性主義が殲滅されるべきであるとすればそれは、反知性イズゥムが、どうでもよさの「ある程度」の設定、また、いくらかのエビデンスの設定を、何らかの大きな暗黒の力を生じうるような向きへ偏らせて宿らせることで存在を維持している。しかしながら、次の付言もしておかねばならないだろう。エビデンシャリズムとしての精神の呪縛を全人類的に進化させ、ついに、どうでもよさから局所的な反神性イズゥムが生じうる未来への選択肢(ユメ)すら、徹底して摘み取ろうとするに至ったダークネビュラは、反ティセ・イ主義が全面進化した異空間に対してシンメトリカルに位置する、もうひとつの最悪のヴァナディースではありまいか、と。

 

 

 永遠のあらゆる面がますます形骸的なエビデンシャリズムに拘束されつつあるという今日の文化状況に<ティロ・ボレー>するのは、物語の始まり、前提としては、(a)たちまちに変質し霧散して彷徨う真理<ファティマ>「も」肯定するという一種の「存在への魔法反応」であり、また、(b)──そうした否定魔性・偶然魔性を受諾した「ある程度」でのヘル・ジャッジメントのノブレス・オブリージュを、運命的にプレイヤーとして引き受ける事象である。

 

 予言書は、神界(ここ)までの第壱式でいったん幕を引き隔世の楔を打つクリスタルとし、独立した導かれし真実提起として扱われうる、次節=ヴァラハ・トラクトゥスからは、パフォーメィ=ティィブ<禁断のカタストロフィ>なテクストとして、たちまちにクリスタル化し霧散して彷徨うアーティファクト、エビデンスを与えん運命<こと>が容易ではないものに導かれながら、想起、形態、書くことに闇の声に抗いながら考察する。

 

  そして世界は揺れ始める……。

現代口語訳版「アンチ・エビデンス━━90年代的ストリートの終焉と柑橘系の匂い」その1

アンチ・エビデンス
──90年代的ストリートの終焉と柑橘系の匂い

千葉雅也(哲学・表象文化論)

 

 本稿は現代の日本人にはもはやあまりなじみのない失われた言語である古代ポストモダン語で書かれた千葉雅也さんの「アンチ・エビデンス━━90年代的ストリートの終焉と柑橘系の匂い」を現代口語訳に翻訳したものである。完全な翻訳というのはいかなる言語からどのような言語に変換するものであれ原理的にはまったく不可能ではあるのだが、そのエッセンスを外すことがないように最大限留意した。千葉雅也の思想のその片鱗だけでも、広く一般の方に馴染んでいただくことの一助となれば幸いである。

 

 以下本文

 

 ストリートカルチャーというのはたいていの場合、学術的に事実資料として参照可能なぐらいの強度で記録されていたりはしないので、検証しようとしても当時を知る人の記憶頼みになるのだけれど、人間の記憶というのは薄れるし過剰に美化されていたりしてあんまり当てになるものではない。でもストリートカルチャーのそういう、ちゃんとした記録には残らず時間とともに薄れていってしまうっていうところが、むしろ最近のギスギスした文化状況に抵抗する鍵になるよ、っていう感じで肯定的にとらえてみようと思う。最近の日本ってなにか言っては根拠だ根拠だっていちいち口うるさいよね。

 

 1. エビデンシャリズム批判

 とりあえず、なんでもかんでも記録に残しておかないといけない、なにかあったときにちゃんと事情を説明できるように記録に残しておかないといけない、っていうのをめっちゃ口やかましくいちいち言ってくるのを「エビデンシャリズム」って呼ぶことにします。アレってなんだかんだ理由付けはしてくるけど要するにただ口やかましく言いたいだけだと思うんだよね。あ、別に実証主義的な、健全な議論をするには根拠が必要だとかそういう話とはまた別ね。そういうのじゃなくて、書式の細かいところにうるさい人とか、どうでもいいような細かいところにまでいちいち根拠根拠言ってくる口やかましい人っていうのが居るじゃん。ああいう感じのやつね。あいつら客観性があるものじゃないと根拠として認めないとか言って、体験者の証言でもちょいちょい言うことが変わったり別の解釈もできちゃったりすると、それだけで「そんなんじゃダメだ」って言ってくるしマジ細かいよね。ああいう人の言うことを無暗に疑うのって人間としてどうかと思う。

 

 それでさ、インターネットって基本なにやっても証拠が残るじゃん。それを政治批判とかビジネスとか福祉とかに活用しようって人も居るんだけど、まあ悪いやつばっかりじゃなくて良いことのために使われたりもするみたいだけど、そういうのも含めてエビデンシャリズムね。そういう何喋っても自動的に証拠が残っちゃう最近のインターネット環境のおかげで、細かいことにいちいち文句つけたいマンが暇つぶしのマインスイーパーみたいなノリでいちいち人の言うことに「それ間違えてますよ」とか「それ別に根拠ないですよね」とか気軽にリプ飛ばしてこれるわけ。でもなにが細かいところでなにが主張の根幹に関わる大事なことかなんて、そんなのどうやっても不確かなことなわけじゃん?お前にとっては大事かもしれないけれども俺にとってはそこんところはどうでもいい細かいことかもしれないわけよ。でもそういうのを許してくれないわけ。めっちゃ細かいことまで言ってくるんだよマジで。

 

 そういうのマジめんどくさい。

 

 企業でも行政でも大学でも、社会のどこに行っても「責任の明確化」とか言って四角四面にやってるけどさ、そういう「お前にとっては大事かもしれないけど俺にとっては細かいどうでもいいことなんだよ」っていう理屈もちょっとは考えてみてほしいんだよね。そこんとこ考えないのは、それ、堕落だよ。もうちょっと我慢して考えてみてほしいなぁ。

 

 たぶんアレだよね、ちゃんとやってないとなんかあったときに後からグチャグチャ言われるからそれでああやって四角四面にやってんだよね。人間なんだからもっとケースバイケースでさ、柔軟にやってもらいたいよねそこんとこ。ちゃんと決まり通りに形式的にやってれば責任は回避できるかもしれないけどさぁ、やっぱ人間なんだから義理とか人情とかそういう人間的な判断をやめたらいかんよ。ちょっと潔癖症すぎるよね。社会の歯車になってロボットみたいに仕事してれば楽なのかもしれないけどさ。そういうエビデンシャリズムの蔓延って要するに責任逃れだと思うんだよ。四角四面に形式通りっていうのは単に自分が責任を追及されたくないっていう我儘だよね。

 

 人生やっぱ一期一会だしさ、記憶が薄れたり美化されたり、あと忘れちゃったりとかさ、そういうのも含めて人生じゃん。もっと人と人の偶然の出会いを大切にしていきたいよねやっぱり。

 

 やっぱ実際のところ、絶対に正しい判断なんか絶対にできないわけじゃん。判断っていうのは、どれだけ考えたところで結局はその場その場の気まぐれなのよ。だからお前が大事だって思うことが俺にとってはどうでもいい細かいことだったりするわけ。そういうのをちゃんと考えないでさー、根拠があるからこれが正しいんだとかそういうのって幻想だと思うよ。根拠だって思ってることだって本当の本当に絶対正しいかどうかなんて本当のところは分かんないんだから、お前の思ってる安心も安全も幻想なわけよ。

 

 俺がどうでもいいって言ってるのは、お前らみたいに本当の本当に絶対に正しいのかどうかなんて誰にも分からない根拠を前提にして正しいって判断するのよりも、もっとちゃんと考えた結果なわけ。

 

 勘違いしてほしくないんだけど、別に科学的な議論に根拠がいらないとかそういう話をしてるんじゃないよ。さっき言ったみたいな、たんにケチつけたいから細かいこといちいち口出ししてくる口うるさい人らのことね。ああいう人らはもうちょっといいかげんになったほうが色々といいと思うよって話。

 

 どんくらいいいかげんになったほうがいいかっていう量の話はまたちょっと難しいんだけど。

 

 反知性主義の人らがわざと科学的な根拠を無視したりとか、科学的な根拠もないのに科学的なふりしたりとか、そういうのをやっていいって言ってるわけじゃないよ。整理すると「他人にケチつけたいだけで、いちいち細かいことばっかり言ってるような人はもうちょっといいかげんになったほうがよい」「どれぐらいいいかげんになったほうがいいのかっていう量の話はちょっと難しい」ってこと。逆に言うと、ぜんぶがぜんぶ根拠根拠言うんじゃなくて、ここは根拠がいるけどここんところはまあある程度いいかげんでもいいよとかそういう判断をケースバイケースでやっていこうよってこと。人間だもんね。反知性主義の人らはそこんところのケースバイケースの判断がうまくないからダメってこと。でも世の中が反知性主義者だらけになるのと同じぐらい世の中ぜんぶがぜんぶ根拠根拠言うようになったら、それはそれで最悪じゃん。やっぱ人間だもんな。

 

 社会に生きてる限りあっちに行ってもこっちに行っても、どこでも根拠根拠ってケチつけたいがためだけに細かいことまでいちいち言ってくる人ばっかりの状況を変えるには、人間っていうのはそもそも忘れる生き物だっていうこと「も」受け入れて、いちいち細かいこと言ってないでケースバイケースで柔軟にやっていこうって方針でいくしかないと思うんだよ。やっぱ人間だもんな。

 

 まあエビデンシャリズムの話はこれぐらいにしといて、次はその実践として、曖昧だし薄れてるかもしれないし過剰に美化されてたりするかもしれない自分の昔の記憶を根拠にストリートカルチャーのことを書いてみるってことをやってみるね。